〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q10】 「比較雇用者給与等支給額に関する調整計算」 -(4)分割等が行われた場合の調整計算(分割承継法人等)- 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q10] (再掲) 平成30年度の税制改正によって、組織再編を行った場合の比較雇用者給与等支給額に関する調整計算はどのように変更されたのでしょうか。 [A10] (再掲) ◆新たに「基準日」という概念が設けられ、基準日から適用年度開始の日の前日までの期間が「調整対象年度」と定義されました。 ◆具体的な調整計算については大きな変更はありませんが、計算期間が「前年度」から「各調整対象年度」に変更されています。 【解説】 (4) 分割等が行われた場合の調整計算(分割承継法人等) ① 適用年度において分割等が行われた場合 適用年度に分割等が行われた場合、分割等の日の属する月以後、分割法人等から引き継いだ国内雇用者に対する給与等支給額が加味され、雇用者給与等支給額が大きく増加することとなる。 このとき、分割承継法人等の比較雇用者給与等支給額については、調整対象年度ごとに、分割法人等の各調整対象年度に係る移転給与等支給額のうち分割等の日の属する月から適用年度末までの月数に対応する金額を加算調整した金額に基づき計算することとされた。これにより適切な大小比較を可能とする(下図参照)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 比較雇用者給与等支給額の調整 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑨二イ)。 ここで「月別移転給与等支給額」とは、その分割等に係る分割法人等の当該分割等の日前に開始した各事業年度等に係る移転給与等支給額をそれぞれ当該各事業年度等の月数(分割等の日を含む事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間の月数)で除して計算した金額を当該各事業年度等に含まれる月(分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間に含まれる月)に係るものとみなしたものをいう(措令27の12の5⑩)。 すなわち月別移転給与等支給額は、分割法人等において算定された「移転給与等支給額」に基づくものであるが、その月別変動を平準化させるために、月平均額を算定しているものである(合併における月別給与等支給額と同趣旨)。 ② 基準日から適用年度開始日の前日までの期間において分割等が行われた場合 適用年度は年度を通じて全て分割等実施後の規模で給与等支給額が発生することとなるが、引き続き、前年度の給与等支給額について調整が必要となる(下図参照)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 比較雇用者給与等支給額の調整 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑨二ロ)。 (了)
海外移住者のための 資産管理・処分の税務Q&A 【第7回】 「金融資産④(移住後に非上場会社である内国法人の株式譲渡を行う場合)」 税理士・行政書士 島田 弘大 Question 私は来年、海外へ移住することを検討しています。現在、日本の非上場会社の株式を10年以上にわたり100%保有していますが、移住後にその株式を売却する可能性があります。 移住後に売却した場合の課税関係を教えて下さい。 Answer 1 はじめに 海外への移住を検討している日本の居住者(個人)が日本の非上場株式を保有しているケースは多くある。 【第6回】では移住後にその日本の非上場会社から配当を受け取った場合の課税関係について検討したが、今回は移住後にその非上場会社の株式を売却して譲渡所得を得た場合の課税関係を検討する。 2 非居住者が内国法人である非上場会社の株式を売却した場合の課税関係 【第6回】で検討した流れと同様に、まずは日本の所得税法(国内法)を確認し、さらに居住地国の所得税法を、最後に日本と居住地国との間の租税条約を確認して、各国における課税関係の結論を導き出す流れになる。 以下では検討の流れが分かりやすいように、具体的に移住先がシンガポールであった場合を例にとって説明したい。 なお、日本の所得税法の取扱いは、どの国に移住したとしても当然同じである。したがって、居住地国がシンガポール以外の国である場合には、その国の所得税法及び日本とその国との租税条約を確認すればよいため、ケースごとに応用していただきたい。 (1) 日本の所得税法 ① 非居住者の課税所得の範囲 日本の所得税法上、居住者は原則として、日本国内だけでなく国外も含めた全世界所得が課税対象とされるが、非居住者は日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされる(所法161)。 ② 国内源泉所得の範囲と課税方法 日本国内に恒久的施設を有するかどうかで課税方法は異なってくるが(所法164)、個人の場合、日本国内に恒久的施設を有しないケースが一般的である。 恒久的施設を有しない非居住者が株式等を譲渡した場合、次の(1)~(6)のいずれかに該当する所得については、課税対象になる(所令281、措法29の2)。言い換えると、(1)~(6)のいずれにも該当しない場合には、日本では課税されないことになる。 なお、(1)~(5)に該当する所得は申告分離課税、(6)に該当する所得は総合課税として、いずれも確定申告を行うことになる。 (2) 居住地国(シンガポール)の所得税法 次に、居住地であるシンガポールの所得税法を確認する。シンガポールではキャピタルゲインは非課税とされているため、キャピタルゲインに該当するかどうかが重要になる。 キャピタルゲインかどうかを判断するにあたっては、下記のような要素を考慮すべきとされている。 実務的には判断が難しいところだが、2012年6月から「売却の前に少なくとも24ヶ月以上にわたって、20%以上の株式保有比率を有している」場合にはキャピタルゲインに該当する、という明確な判断基準が設けられている。 つまり、非上場会社の株式の全部を長年保有している場合などは、基本的にはキャピタルゲインに該当し、シンガポール国内法に基づくと、その譲渡所得は非課税になると考えられる。 なお、この「24ヶ月以上・20%以上保有」の基準に該当しないからといって直ちに課税対象になるというわけではなく、前述の要素をもとに総合的に判断されることとなる。 (3) 日本・シンガポール租税条約 最後に、日本・シンガポール租税条約の規定を確認する。譲渡所得については下記の通り規定されている。 上記の通り、日本・シンガポール租税条約では、不動産関連法人の株式の譲渡であれば日本でも課税できるとされている。また、それ以外の株式譲渡については、いわゆる「事業譲渡類似株式等の譲渡」に該当する場合には日本でも課税できる(逆に「事業譲渡類似株式等の譲渡」に該当しない場合には日本で課税できない)と規定されている。 (4) 結論 ① 日本側の課税関係 まずは日本の国内法であるが、非居住者である個人(日本国内に恒久的施設を有しない)が非上場会社である内国法人の株式を長年にわたって100%保有しており、その株式に係る譲渡所得が生じた場合には、当該株式の譲渡は「事業譲渡類似株式等の譲渡」に該当する可能性がある。 質問者の場合、長期的に100%保有しているため「所有株数要件」は満たしていると考えられる。もう1つの要件である「譲渡株数要件」も満たす場合には、日本の所得税法上、課税対象(申告分離課税)とされる。つまり、5%未満の譲渡であれば「事業譲渡類似株式等の譲渡」には該当しないため日本で課税されないが、5%以上の譲渡であれば課税対象になると考えられる。 次に、日本・シンガポール租税条約であるが、租税条約においても同様に「事業譲渡類似株式等の譲渡」の規定が設けられている。つまり、日本の所得税法と同様の内容が租税条約にも規定されているだけであり、租税条約による税率等の減免もない。したがって、質問のケースでは、5%以上の譲渡かどうかで日本側での課税関係が最終的に決まってくると考えられる。 ② シンガポール側の課税関係 質問のケースでは、10年以上にわたって100%を保有しているため、「売却の前に少なくとも24ヶ月以上にわたって、20%以上の株式保有比率を有している」という要件を満たしキャピタルゲインに該当する、つまりシンガポールでは非課税になると考えられる。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第63回】 「輸出免税物品購入記録票に貼付・割印するレシートの課否」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社はホテル業ですが、海外からの旅行客が多いことから、ホテル内の売店にて輸出物品販売場の許可を受けています。 非居住者(外国人旅行者等)のパスポートに添付する「輸出免税物品購入記録票」を作成する際に、購入される物品が多いなどの場合は品名、数量、単価及び販売価格の明細を記録票に記載する代わりにレシートの写しを貼り付けて割印を押して、パスポートに貼り付けることがあります。この場合、第17号の1文書(売上代金に係る金銭の受取書)に該当しますか。 輸出物品販売場を経営する事業者が購入者から金銭を受領した事実を証明するために作成されたものでないため、第17号の1文書には該当しない。 [検討] 金銭の受取書とは 金銭の受取書とは、金銭を受け取った者が、その受領事実を証明するために作成し、引渡者に交付する単なる証拠証書とされている。 したがって、事例の「輸出免税物品購入記録票」に記入する品名等の明細を記録票に記載する代わりにレシートの写しを使用するものは、金銭の受領事実を証明するために作成されたものではないため、金銭の受取書には該当しない。 ▷まとめ レシートの写しは、購入記録票に記載することとされている品名、数量、単価及び価格の明細を記載することに代えて貼付されるものであり、なお、購入記録票との間に割印がされることから購入記録票の一部とされ、印紙税法上における契約書には該当せず、第17号の1文書には該当しない。 (了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《税効果会計》編 【第1回】 「税効果会計の適用(1)」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 「中小企業会計指針」では、税効果会計の適用を省略できるのは、一時差異に重要性がない場合に限定しています。 今回は、税効果会計を適用する初年度の会計処理をご紹介し、税効果会計を適用する場合と適用しない場合の税引前当期純利益に対する法人税計上額の比率についても例示します。 【設例1】 (1) 当社(3月31日決算、資本金30,000,000円)の×1年3月期(当期)における課税所得は、次のとおりです。 (注1) 買換建物は完成・稼動時から、当該建物の減価償却費の計上に対応させて、積立金(×1年3月期:1,512,000円)を取り崩して益金の額に算入しました。 (注2) 特定資産の買換えの場合の圧縮記帳の特例を積立金方式にて適用しました。 (2) ×0年3月期末における繰延税金資産と繰延税金負債はないものとします。 (3) 実効税率は、{法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率}÷(1+事業税率)にて算定しますが、×1年3月期及びそれ以降の実効税率は簡便的に35%とします。 (4) 当期末貸借対照表の未払法人税等残高に未払事業税5,000,000円(簡便的に事業税率を10%とします)が含まれています。×0年3月期末における未払事業税はないものとします。 (5) 実効税率={法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率0.1}÷(1+事業税率0.1)より、×1年3月期の法人税等{=法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率0.1}は、簡便的に課税所得50,000,000円×35%×(1+0.1)=19,250,000円とします。 1 仕訳 ×1年3月期の期末における仕訳は、次のとおりです。 (ⅰ) 未払事業税 (ⅱ) 賞与引当金繰入額 (ⅲ) 退職給付引当金繰入額 (ⅳ) 建物圧縮積立金 (ⅴ) 繰延税金資産(固定)と繰延税金負債(固定)の相殺表示 会計上の利益と税務上の課税所得には差異があり、その差異原因は永久差異と一時差異に分けられます。永久差異には、会計上は費用でも税務上は損金不算入とされる一定の交際費・役員賞与等や、会計上は収益でも税務上は益金不算入とされる一定の受取配当金等があります。 また、一時差異には、会計上の費用計上期に税務上の課税所得に加算するものの、その後の期において課税所得から減算戻入する将来減算一時差異(未払事業税、賞与引当金、退職給付引当金等)と、会計上の収益計上期に税務上の課税所得から減算するものの、その後の期において課税所得に加算戻入する将来加算一時差異(建物圧縮積立金積立額等)があります。 これらの一時差異を多額に含む極端な本設例では、税効果会計を適用しない場合、会計上の税引前当期純利益が黒字であるにもかかわらず、法人税等を差し引いた税引後当期純利益がマイナスになっています(会計上の税引前当期純利益9,488,000円、法人税等19,250,000円、税引後当期純利益△9,762,000円)。 税効果会計は、一時差異がある場合、利益を課税標準とする法人税等の額を適切に期間配分することにより、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手段です(中小企業会計指針62)。 この設例では、税効果会計を適用した場合、法人税等調整額15,929,200円(益)が追加計上され、税引後当期純利益は6,167,200円のプラスに、「{法人税19,250,000円-法人税等調整額15,929,200円(益)}÷税引前当期純利益9,488,000円」は、35%と実効税率に等しく(この設例では永久差異がないため実効税率と一致し、例えば損金不算入の交際費等加算永久差異が減算永久差異より大きい場合には実効税率よりも高く)なります。 税効果会計における一時差異は、貸借対照表に計上される資産及び負債の金額(会計上の簿価)と課税所得計算上の資産及び負債の金額(税務上の簿価)との差額です。 この設例では、未払事業税、賞与引当金、退職給付引当金に将来減算一時差異が生じており、未払事業税に係る当期末一時差異5,000,000円に実効税率35%を乗じた1,750,000円を繰延税金資産に計上(相手勘定は法人税等調整額)し、賞与引当金、退職給付引当金についても同様に繰延税金資産を計上します。建物圧縮積立金には将来加算一時差異が生じており、その当期末一時差異54,488,000円に実効税率35%を乗じた19,070,800円を繰延税金負債に計上(相手勘定は法人税等調整額)します。 繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した貸借対照表上の資産・負債の分類に基づいて流動区分と固定区分に分けて表示します。また、同じ区分に属する繰延税金資産と繰延税金負債がある場合には、それぞれ相殺して表示します(中小企業会計指針65)。 当期における繰延税金資産及び繰延税金負債、並びに法人税等調整額は、次のとおりに集計されます。 2 決算書 決算書の金額は、次のとおりです。 ×1年3月期 〈貸借対照表〉 〈損益計算書〉 3 損益計算書の当期純利益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 損益計算書の当期純利益から法人税申告書の課税所得を算出する際の法人税申告書別表四において、法人税等調整額15,929,200円を減算・留保します。 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 当期末未払事業税5,000,000円の加算留保は記載省略しています。 ⑥の計=15,929,200円:法人税等調整額 ⑦の計=179,200円:繰延税金資産(固定) (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第143回】 企業結合会計⑪ 「逆取得」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 1 A社の個別財務諸表上の会計処理 (※2) 600(B社資本金)+1,300(B社繰越利益剰余金) 2 連結財務諸表上の会計処理 (※3) 取得原価の配分額:企業結合日におけるA社諸資産の時価1,300 (※4) のれん:取得原価1,600-取得原価の配分額1,300 (※5) 株式交換が逆取得となる場合の取得の対価となる財の時価は、A社株主が株式交換後のA社に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数のB社株式を、B社が交付したものとみなして算定します。 (※6) 1,300(A社諸資産の時価)+2,000(B社諸資産の帳簿価額) (※7) 株式交換完全子会社B社(取得企業)の株式交換日の前日の財務諸表の金額を計上するため、いったん、資本金600、繰越利益剰余金1,300、その他有価証券評価差額金100としますが、資本金については株式交換完全親会社A社(被取得企業)の資本金300とし、差額の300(=B社資本金600-A社資本金300)は資本剰余金へ振り替えます。 (※8) 増加すべき株主資本1,600+(B社資本金600-A社資本金300) 〈会計処理の解説〉 株式交換が行われた場合に、株式交換完全子会社が取得企業となり、株式交換完全親会社が被取得企業となるケースは逆取得に該当します。 本事例においては、上図の通りA社は株式交換完全親会社であるものの、株式交換を行った結果、議決権の過半数をB社(株式交換完全子会社)の旧株主であるX社に取得されています。 よって、B社が取得企業となり、A社が被取得企業となるため、当該株式交換は逆取得に該当します。 個別財務諸表上の会計処理において、A社が取得するB社株式の取得原価は、株式交換日の前日におけるB社の適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定します(事業分離等会計基準36項、結合分離適用指針118項)。 企業結合の対価として、A社は新株を発行しているため、払込資本(資本金又は資本剰余金)の増加として会計処理します。なお、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定します。また、増加すべき株主資本の額は、B社の取得原価に準じて算定します(結合分離適用指針117-2項、118項)。 連結財務諸表上の会計処理において、B社はA社を被取得企業としてパーチェス法を適用します。具体的には、株式交換日の前日におけるB社の個別財務諸表上の金額に、次の手順により算定された金額を加算します(結合分離適用指針119項)。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例7】 「空き家を『相続させる』旨の遺言と放棄の可否」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 父の遺品を整理していたところ、遺言書が見つかりました。遺言書には、長男である私に実家を相続させると記載されていました。父は、死亡するまでの数年間、施設で生活をしておりましたので、実家は空き家の状態となっていました。 父の相続人は私と弟ですが、私は遠方に居住しており、築年数も古い空き家を相続したくありません。弟も実家は要らないと以前言っているのを聞きました。私は、実家を除く現預金などの他の相続財産については相続したいのですが、どうすればよいでしょうか。 1 はじめに 相続が発生した場合、被相続人の遺言がなければ、共同相続人間で遺産分割協議をして、その帰属などを決めていくことになるが、被相続人が遺言を作成している場合は、基本的には、遺言に沿って相続手続を進めていくことになる。ただし、遺言の内容が相続人の希望に反する内容である場合には、相続発生後に、共同相続人間で争いになることが少なからずある。 そこで、今回は、実務上多用されている「相続させる」旨の遺言で空き家が指定された場合の問題について検討することとしたい。 2 特定の財産を「相続させる」旨の遺言について 特定の財産を「相続させる」旨の遺言の法的性質については、様々な見解が主張されていたが、現時点においては、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈と解するべき特段の事情ない限り、遺産分割方法の指定であると解されている(最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁。以下「平成3年判決」という)。 通常の遺産分割方法(現物分割、換価分割、代償分割など)の指定の場合、相続が開始されたとしても、それのみで権利の移転効は生じないため、当該相続財産の帰属を決めるためには、遺産分割協議を要する。これに対して、相続させる旨の遺言の場合は、相続による承継を当該受益相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要することなく、当該相続財産は、被相続人の死亡の時に直ちに受益相続人に相続により承継されることになる(平成3年判決参照)。 つまり、「相続させる」旨の遺言がある場合には、その対象となった財産は、遺産分割協議の対象から除外されることを意味する。 3 遺言の利益の放棄の可否 では、「相続させる」旨の遺言がある場合に、その対象となった財産の相続を希望しない相続人は、遺言の利益を放棄することができるだろうか。なお、ここでいう「遺言の利益の放棄」とは、遺言の対象となった相続財産を遺産分割協議の対象に戻すことを意味しており、初めから相続人とならなかったものとみなされる相続放棄とは異なることに留意されたい。 まず、平成3年判決の判示するように、「相続させる」旨の遺言に、相続による承継を当該受益相続人の意思表示にかからせた特段の事情がある場合には、当該受益相続人は、相続による承継をしない旨意思表示をして、当該財産を遺産分割協議の対象に含めることができる。この場合には、他の共同相続人にその旨の意思表示をすることが必要となる。 問題は、上記のような特段の事情がない場合である。この問題に関して、遺贈の場合には放棄(民法第986条)が認められていることや、権利の放棄は原則として自由であることなどを理由に、民法第986条に準じて遺言の利益を放棄することを認める見解もある。しかしながら、裁判例においては、遺言の利益の放棄を認めない旨判断されている。 この問題を取り扱った裁判例として、東京高判平成21年12月18日判タ1330-203がある。東京高判の事案は、遺産分割審判の審理中に、不動産を「相続させる」旨の遺言の受益相続人が遺言の利益を放棄する旨主張したというものであるが、東京高判は、遺言の利益を放棄する旨を主張するだけでは、当該不動産は遺産分割の対象となるものではない旨判断している。 このことは、相続させる旨の遺言の受益相続人が、対象となった相続財産の承継を希望しない場合には、たとえ他の相続財産の相続を希望していたとしても、これを諦めて相続放棄するか否かの選択を迫られることを意味する。 もっとも、相続させる旨の遺言がある場合であっても、共同相続人全員の合意で、遺言と異なる内容の遺産分割協議を行うことまで否定されてはいない。 この場合には、平成3年判決によれば、受益相続人は、相続開始と同時に対象財産の権利を取得することになることから、法的には、受益相続人が遺言によって一旦取得した対象財産を、他の共同相続人の取得すべき遺産と交換したり贈与したりして遺産分割協議を行ったものと評価することになると思われる(東京地判平成13年6月28日判タ1086-279など参照)。 4 対応方法 長男が、父親の相続を希望する一方で、空き家については相続をしたくないという希望を持っている場合には、まず相続させる旨の遺言に、①遺贈と解するべき記載がないかどうか、②記載がない場合でも、承継を長男の意思表示にかからせていると認められる記載がないかどうかを確認する必要がある。 いずれの記載も認められない場合は、弟と協議をして、空き家を遺産分割協議の対象に含める必要がある。弟も空き家の相続を希望していないとのことであるから、換価分割の方法を提案することなども必要になってくると思われる。 (了)
役員インセンティブ報酬の分析 【第10回】 「役員インセンティブ報酬をめぐる動向と株式交付信託の現状」 弁護士・公認会計士 中野 竹司 1 役員インセンティブ報酬制度をめぐる動き ここ数年、役員インセンティブ報酬制度、特に株式報酬を用いたインセンティブ制度の活用について様々な動きがあった。 具体的には、平成27年6月に適用開始されたコーポレートガバナンス・コードでは、原則4-2、及び同補充原則4-2①において、経営陣の報酬について、中長期的な会社の業績等を反映させたインセンティブ付けが行われるべきとされた。 そして、経済産業省が平成27年7月に公表した、「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書で、我が国において株式報酬を導入する際の手続きが整理された。また、平成28年6月には経済産業省から「「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬「いわゆる「リストリクテッド・ストック」の導入等の手引き~」が公表され、実務的な環境整備が進んだ。 税務面でも、平成28年度税制改正で役員報酬として損金算入が認められる譲渡制限付株式報酬の要件が明らかになり、実際に導入されるようになった。さらに、平成29年度税制改正では、定期同額給与、事前確定届出給与又は利益連動給与(改正後は業績連動給与)という損金算入可能な役員報酬の3類型は維持しつつ、退職給与や新株予約権も役員報酬の中に含めて損金算入の可否を考えることとなり、株価や業績に連動する条件が付されたインセンティブ報酬については、今後は利益連動型給与の要件を満たさない場合で損金算入が可能なケースはほとんどなくなったと考えられる。 その結果、平成29年度税制改正によって、従来は役員報酬として損金算入は認められないであろうと考えられていた、権利確定時発行型のパフォーマンス・シェアやファントムストックに損金算入の可能性が出てきた一方で、新株予約権やエクイティを利用した退職金の損金算入の可否に影響が出てくると考えられた。 以上のように、株式を用いたインセンティブ報酬の活用のための制度的な取組みは、かなり進んだといえよう。 2 改訂コーポレートガバナンス・コード 平成30年6月、3年ぶりにコーポレートガバナンス・コードが改訂された。改訂コーポレートガバナンス・コードでは、原則4-2①で、「取締役会が、客観性・透明性ある手続きに従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定するべきである」との一文が加わった。また、補充原則4-10①において、設置する任意の諮問委員会の具体例として報酬委員会が示された。 このように、適切な役員インセンティブ報酬の設計、導入について、改訂コーポレートガバナンス・コードでも重視しているといえ、今後、企業は自社の役員インセンティブ報酬制度の在り方について更なる取組みが求められるといえるであろう。 3 役員報酬のための株式交付信託の概要 (1) 株式交付信託の概要 このような状況の下、平成30年度における株式交付信託の状況についてまず見ていこう(この連載ではすでに【第2回】及び【第9回】において、株式交付信託について検討を行っている)。 ここで、株式交付信託(株式給付信託など様々な名称で呼ばれることがある)について簡単に復習すると、会社が信託銀行等と信託契約を結び信託を設定したうえで、委託者たる会社が受託者たる信託銀行等に金銭を交付し、受託者たる信託銀行が株式を取得し、受益者たる役員等が受託者から会社の株式の交付を受けるという制度である。 信託は、信託契約により様々な制度設計ができるが、株式交付信託の大まかな流れを図示すると、以下のようなものである。 4 税法上の視点 -平成29年度税制改正後の株式交付信託の税制- すでに述べたように、平成29年度税制改正では、定期同額給与、事前確定届出給与又は業績連動給与という損金算入可能な役員報酬の3類型は維持しつつ、退職給与や新株予約権も役員報酬の中に含めて損金算入の可否を考えることとなった。 そのため29年度改正後は、株式交付信託は交付時点が役員在任時か退任時かというのは従来に比して重要ではなくなり、「在任時交付型」は損金算入の可能性が出てきた一方、「退任時交付型」については若干使い勝手が悪くなった。 なお、株式交付信託により付与された株式の価値が不相当に高額である場合や、隠ぺい又は仮装経理によるものである場合にも、役員報酬として法人税法上損金算入できない点に留意が必要である。 5 経産省「役員報酬に関する手引」の改定 経済産業省による「「攻めの経営」を促す役員報酬 ~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引~」(以下「役員報酬に関する手引」という)では、株式交付信託に直接関する事項も含まれており、その主なものは以下の2つである。以前の連載の繰り返しではあるが、再確認しておく。 まず、Q2において、導入済みの株式交付信託に新任役員が加わった場合は、「選任の決議」の時にその給与の支給が決議されたものとして、損金算入の可否が決議されること、また既に導入済みの株式交付信託の中で、予め役員の地位の変動があった場合の支給額が定められている場合に、その地位の変更のあった役員に対する給与については、導入時の支給の決議をした時期によって適用関係を考えるという見解が示されている。 また、Q16において、株式交付信託について、株式を交付する時期に、株式を金銭に換えて、役員に株式と金銭を交付することが実務上行われているが、この場合でも、全体として株式を交付することが目的の給与であることが株主総会議案で明らかにされ、一定の割合の株式を源泉徴収等のために換金するものであることが役員報酬規程等で予め明らかにされて、株式の換金が受益権確定の時期に近接した時点で行われていれば、全体として確定した数の株式とされ損金に算入できるという見解が示されている。 6 導入状況 (1) 業績連動型インセンティブ報酬として人気 以上のような特徴を持つ株式交付信託であるが、平成30年度の株式を利用した業績連動型の役員インセンティブ報酬としての人気は高い。 株式を利用した役員インセンティブ報酬としては、①業績連動指標が解除条件に含まれるパフォーマンス・シェア型譲渡制限付株式(以下「業績連動型の譲渡制限付株式」)、②欧米で発行されているパフォーマンス・シェアに近い権利確定時発行型の業績連動型株式報酬(以下「パフォーマンス・シェア」)、③株式交付信託などが考えられる。 この中で、平成30年度に導入した企業数を見ると、業績連動型の譲渡制限付株式、パフォーマンス・シェアに比べて、株式交付信託の導入件数が圧倒的に多くなっている。 これは、株式交付信託においては、制度の設計・運用に信託銀行が関与していることが、制度運用の正確性や安定性の面でメリットがあると考えている企業が多いからなのではないだろうか。 (2) 導入企業事例 ここで、導入企業の事例をいくつか見ておこう。 まず、制度の導入目的としては、役員に対するインセンティブ付の他、株主との利害関係の一致といった点を挙げる企業が多かった。 例えば、 といった開示例がある。 また、株式交付信託の制度設計は多様であるが、業績連動報酬制を加味した株式交付信託の典型的な設計は次のようなものである。 すなわち、毎事業年度末に開催される任意の諮問委員会の決議に基づき、役員に対して事業年度ごとに株式報酬基準額に相当するポイントを付与し、原則としてポイントの付与から一定期間経過後に役員に対して役員報酬として付与されたポイントに相当する数の当社株式等の交付等を行う株式報酬制度として設計される。 そして、事業年度ごとに役位等に応じてポイントが付与され、それ以降変動しない「固定部分」と、事業年度ごとに役位等に応じてポイントが付与された後、業績条件の達成度に応じて変動する「業績連動部分」から構成され、いわゆるリストリクテッド・ストックとパフォーマンス・シェアの両者の性格を併せ持つものとして設計されることが多い。 7 まとめ 本稿執筆時点で、株式交付信託は、業績連動型の役員インセンティブ報酬制度を新規導入しようとする企業にとって人気が高いという状況になっている。 平成29年度税制改正時点では、自社株を利用した、パフォーマンス・シェアの活用が進んでいくかとも思われたが、株式交付信託ほど導入企業数は伸びない状況となっている(詳細は次回)。 このように株式交付信託の導入が多いのは、制度運用の安心感というものがあると思われるが、信託一般の特徴として設計の自由度が高いという特徴がある。したがって、株式交付信託をどのように企業が設計し運用しているか、その内容をよく見ていく必要があると思われる。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第13話】 「重加算税と延滞税」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「それで・・・納税者には修正申告を勧奨したの?」 中尾統括官は税務六法を手に取り、国税通則法74条の11第3項をみる。 「はい・・・納税者は『修正申告書を提出する』と言いましたが・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、困った表情をする。 「ただ、納税者からどれぐらいの税金を負担しなければならないのかと・・・具体的な金額を尋ねられまして・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「そんな計算・・・簡単にできるだろう?」 中尾統括官の言葉に、浅田調査官は苦笑いしながら、頭をかく。 「まあ、そうなんですが・・・納税者との話し合いで・・・修正申告に、重加算税を賦課することになりまして・・・」 浅田調査官はバツの悪い表情になる。 「話し合いって?・・・どういう意味だ??」 中尾統括官の声が高くなる。午後からは税務調査のため所得課税第三部門は皆出張していて、2人以外、誰もいない。 「国税通則法68条に・・・重加算税の賦課要件として、隠蔽・仮装があるだろう・・・納税者は、どういう内容の申告をしていたんだ?」 中尾統括官は、税務六法のページをめくりながら尋ねる。 「・・・経費の中に、個人的なものを故意に入れており・・・しかも、領収書を改ざんして、あたかも事業用の経費であるかのように装っていたので・・・」 浅田調査官の説明は、歯切れが悪い。 「納税者は・・・それで納得しているの?」 中尾統括官は、再び尋ねる。 「はい、それで納税者は了解しました・・・ただ、その代わりに、一部の経費については、事業用の必要経費として認めました・・・」 浅田調査官は照れ笑いをする。 「それは・・・君が納税者と交渉して、重加算税を無理矢理、取ってきたといった感じだな・・・」 中尾統括官は顔をしかめる。 「しかし、納税者は、それでかまわないと言っていまして・・・ただ、資金繰りが悪いので、税金の負担を少なくしてもらいたいと・・・」 浅田調査官は真面目な表情になって答える。 「所得税そのものは3年分で150万円なのですが・・・それに35%の重加算税を課すると200万円を超えてしまうのです・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の机の前に立ちながら説明する。 「確かにそうだが・・・ただ、それ以上に・・・延滞税もバカにならないだろう?」 中尾統括官が付け加える。 「延滞税・・・ですか?」 浅田調査官は、中尾統括官の顔をみる。 「延滞税の計算は・・・確か1年間という特例規定があったと思いますが・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の机の上に置いてある税務六法を開く。 「国税通則法61条1項1号では、延滞税はこのように、1年間で計算することになっています。」 浅田調査官は、条文を確認する。 「・・・それは通常の場合で・・・その条文のカッコ書きで、『偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた納税者が当該国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知して提出した当該申告書を除く』と書かれているだろう・・・そうすると、偽りその他不正の行為の場合には、計算を1年間に限定するという特例規定は適用されない。」 浅田調査官は、中尾統括官の示す箇所を見る。 「でも・・・これは『偽りその他不正の行為』であって、『隠蔽・仮装』ではないのですが・・・」 浅田調査官は抵抗する。 「延滞税については、「延滞税の計算期間の特例規定の取扱いについて」(直所1-18/昭和51年6月10日)という通達がある。・・・この通達では、①重加算税が課される場合、②通告処分若しくは告発がなされた場合には、特例規定は適用しないとしている。」 中尾統括官は、机の引き出しから通達集を取り出して、浅田調査官に見せる。 「ということは・・・国の解釈としては、条文上の表現は異なるけれど、『隠蔽・仮装=偽りその他不正の行為』と考えているんですね・・・そうすると、特例規定が適用できない場合、法定納期限の翌日から修正申告書の提出日までの期間が延滞税の計算対象となるので・・・延滞税の金額もバカになりませんね。」 そう言うと、浅田調査官は腕を組んで、思案顔になる。 (つづく)
《速報解説》 経済産業省、コーポレート・ガバナンス改革の深化に向け 「CGSガイドライン」を改訂 ~社長・CEOの指名及び後継者計画記載を全面見直し~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年9月28日、経済産業省は、「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)を改訂し公表した。 CGSガイドラインは、平成29年3月31日に公表されたものであるが、その後、平成30年5月18日に「CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)(第2期)中間整理」が公表され、その提言を受けて、今般、コーポレート・ガバナンス改革を形式から実質へと深化させていく上で重要と考えられる事項に関し、CGSガイドラインを改訂するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改訂内容 CGSガイドラインは、表紙を含め146ページに及ぶものであり、また、今回の改訂も多岐にわたっているので、以下では主な改訂内容について解説する。 1 社長・CEOの指名と後継者計画 社長・CEOは、優れた後継者に自社の経営を託すために、その重要な責務として、自らリーダーシップを発揮して後継者計画に取り組むことが期待されている。 そこで、社長・CEOは、就任したときから、自らの交代を見据えて後継者計画に着手することを検討すべきであると記載されている。 また、経営トップの交代と後継者の指名は、企業価値を大きく左右する重要な意思決定であることを踏まえて、優れた後継者に対して最適なタイミングでなされることを確保するため、十分な時間と資源をかけて後継者計画に取り組むことを検討すべきであると記載されている。 このように、社長・CEOの指名と後継者計画に関する記載を全面的に改訂し、その重要性や、客観性・透明性を確保する意義について改めて整理している。 新たに別紙4「社長・CEOの後継者計画の策定・運用の視点」が作成されており、次の7つのステップに分けて検討することが有益と考えられると記載されている。 2 取締役会議長 各社には取締役会の監督機能を強化することが求められている。 そこで、監督を受ける立場にある社長・CEO等が取締役会議長を兼ね、そのイニシアティブで議案の選定や議事進行を行うよりも、取締役会議長は監督を行う立場にある社外取締役などの非業務執行取締役が務め、執行側は業務執行に関する説明を行う役割に徹する方が、取締役会の監督機能の実効性を確保しやすいと考えられると記載されている。 他方、取締役会の意思決定機能も重視する企業では、社外取締役が取締役会議長を務める場合には、必ずしも社内の情報に精通しているわけではない社外取締役が適切に議案選定や議事進行を行うことを可能とするための環境整備が必要と考えられるとし、取締役会における決議事項・報告事項等を改めて整理することに加えて、取締役会議長を務める社外取締役の十分な時間を確保することなどが記載されている。 3 指名委員会・報酬委員会の活用 本年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、指名委員会・報酬委員会の設置が原則化したことを踏まえ、委員会の構成については、社外取締役が原則であることを明確化した上で、①社外役員が少なくとも過半数であるか、または、②社外役員とそれ以外の委員が同数であっても委員長が社外役員であることを検討すべき旨を記載している。 4 社外取締役の活用 社外取締役が実質的な役割・機能を果たす上では、必要な資質・背景を有していることに加えて、アベイラビリティ(社外取締役として必要な時間や労力を自社のために費やせること)や、責任感と覚悟(自社の企業価値向上への意思・意欲があること)も重要であると記載されている。 例えば、適格性の確認の一環として、社外取締役候補者の本業や兼職の状況を確認することや、あらかじめ社外取締役の兼職数の上限の目安を設けておくことなども検討に値すると記載されている。 また、社外取締役の再任基準を設けておくことを検討すべきであると記載されている。 5 相談役・顧問 平成30年1月1日、東京証券取引所により「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の様式及び記載要領の一部改訂が行われ、代表取締役社長等を退任した者の相談役や顧問などへの就任の有無の記載欄が新設された。 代表取締役社長等を退任した者が、引き続き、相談役や顧問などに就任している場合には、その氏名、役職・地位、業務内容等を記載することが望まれている。 企業においては、この欄を利用して積極的に情報発信を行うことが期待されている。 (了)
《速報解説》 消費税率の10%引上げまで1年を切る ~あらためて最新情報の確認を~ Profession Journal編集部 2019年10月1日の消費税率の10%への引上げ、及びそれに伴う8%の軽減税率導入まで、いよいよ1年を切った。日本商工会議所が9月28日付で公表した「中小企業における消費税の価格転嫁および軽減税率の準備状況等に関する実態調査 調査結果について」でも約8割の事業者が「(軽減税率制度については)準備に取り掛かっていない」と回答するなど、準備不足の企業が非常に多い現況が見て取れる。 一方で、税率引上げ前後の景気変動対策を除き、来年10月以降の新制度について、法令通達の改正による整備は完了したと言っていいだろう。国税庁が6月に公表したインボイスの取扱通達及びQ&A、8月に公表した3パターンによる「軽減税率制度に対応した申告書の作成手順」は新しい情報だが実際に関係する場面はまだ先で、当面は区分記載請求書等保存方式による対応となり、これらに関する情報の多くは既に2年ほど前に公表されているものだ。 この消費税率に係る改正への対応については、大きく「税率の引上げ」と「軽減税率の導入」に分けて考えたほうがよいだろう。 まず、軽減税率に関する情報は、国税庁HPにおける特設ページ(消費税の軽減税率制度について)においてまとめられており、上記の通達やQ&Aなどのパンフレットを確認することができる。 税率引上げに係る消費税法の改正当時は意識して情報を収集していたが、二度にわたる引上げ時期の延期もあって、その後公表された情報で未確認のものが存在する可能性もある。また、初めて公表されてから現在までの間に内容が改訂されている資料もあるため、上記特設ページに掲載された最新の情報について、(改訂の有無も含めて)あらためてチェックしておきたい。 さらに全国の税務署が主催する説明会も盛んに開催されており(国税庁HP「消費税軽減税率制度説明会の開催予定一覧」)、「消費税軽減税率電話相談センター(軽減コールセンター)」では電話による問い合わせを行っているため(電話代は自己負担)、上記資料の確認だけでは不安の残る場合、直接質問のできるこれらの機会も活用を検討したい。さらに飲食業など影響の大きい業界によっては、業界団体が統一的に対応を図っている場合も考えられる。広報誌などにセミナー等情報が掲載されていないか、今一度確認しておきたい。 また、中小事業者が軽減税率への対応としてレジや受発注システムの改修を行う際に受けられる軽減税率対策補助金については、昨年、補助事業の完了期限が「平成30年1月31日までに申請したもの」から「平成31年9月30日までに事業完了したもの」へ延長されたものの、冒頭のアンケート結果などから、今後、駆け込みの申請が急増することも十分想定される。 一方で中小企業庁からは、公募要領や申請の手引きなどをしっかりと読み込まずに申請して却下されるケースや、不適切と思われる申請案件が多くあるとの注意喚起がなされており、不正と疑われる案件については補助金の返還を求められることもあるとしているため、慎重かつ速やかな対応が望まれるところだ。 これら軽減税率をめぐっては、マスコミによる報道等の効果もあって比較的意識が向けられている面もあるが、来年10月から消費税の税率が2%引き上げられる(変更となる)ことへの実務上の対応については、二度の延期という経緯もあり、意識の薄れという印象も否めない。 この点について当面留意したいのが、8%の引上げ時にも問題となった「経過措置」、すなわち、税率引上げ後においても旧税率が適用される取引の存在だ。国税庁が公表した「消費税法改正のお知らせ(平成28年4月)(平成28年11月改訂)」には主な経過措置の内容が示されているため、自社にこれらに係る取引形態のものが存在する場合は、契約書の日付や更新時期、消費税の取扱いに関する条項などを確認しておきたい。なお、軽減税率が適用される取引については経過措置が適用されないケースもあるため、この点も留意しておきたい。 また、法令上求められる対応を前提として、実際に自社がどのような手順でどのような対応をとるべきかについては、2014年4月1日に5%から8%への税率引上げが行われた前後において、どのような対応を行ったか、またはどのような問題が起きたか、という点も参考となる。経理や法務、システム等の担当者が当時と異なる場合は、当時の担当者へのヒアリングや社内記録の確認などを行うことも有効といえよう。 ここで、前回の引上げと異なり、今回はその時期が10月1日であるという点も留意しておきたい。つまり3月決算法人の場合、事業年度途中に税率が変更されるということは、様々な準備を行う上で意識しておくべだろう(本件については11月に本誌で解説記事を掲載する予定です)。 なお、最新の情報がまとめられた次のDVDや書籍についても有効に活用し、社内研修等で従業員への周知を図っていただきたい。 (了)