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事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第76回】「外国子会社に多額の含み益がある場合」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第76回】 「外国子会社に多額の含み益がある場合」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳   相談内容 私は、P社の経理担当取締役Aです。当社は同族オーナーのB社長がすべての株式を保有しており、長男であるC専務に贈与又は相続で株式を承継することを予定しています。 つい先日、相続対策についてメインバンクに相談したところ、当社が10年前に設立したベトナム子会社S社の業績が好調で内部留保が急激に積みあがっている結果、次の2つの問題があることを指摘されました。 このことをB社長とC専務に報告したところ、P社が株式等保有特定会社に該当しても、事業承継税制(相続税の納税猶予)を使えば無税になるわけだから影響ないだろうと、お二人には真剣に取り合っていただけません。 P社が株式等保有特定会社に該当しても事業承継税制を適用すれば自社株式に関する相続税が猶予されるので、P社やS社の株価については気にしなくてもよいのでしょうか。それとも、S社株式の評価額を引き下げて、P社が株式等保有特定会社に該当しないように対処すべきでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 非上場会社が保有する外国法人株式の評価 P社が保有する国外財産であるS社株式についても他の資産と同様に財産評価基本通達に定める評価方法により評価することになりますが、外国法人の株式については類似業種比準価額を算定することが困難であることから、純資産価額方式に準じて評価を行うことになります(財産評価基本通達5-2)。 純資産価額方式により評価する場合、内部留保の蓄積が株式評価額の上昇に直結することになりますので、P社が株式等保有特定会社(※)に該当することがないように留意が必要です(下記〈図1〉参照)。 (※) 株式等保有特定会社:課税時期において評価会社の有する各資産を財産評価基本通達に定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める株式、出資及び新株予約権付社債の価額の合計額の割合(株式等保有割合)が50%以上である評価会社をいいます(財産評価基本通達189(2)、189-3)。 S社の純資産価額が上昇することを抑制するためには、S社からP社に対して配当を行うなど、S社の純資産価額を引き下げる対策が必要となります。 〈図1〉外国子会社が株式等保有割合に及ぼす影響 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。   [2] 外国子会社がある場合の事業承継税制 法人版事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予)は、雇用の確保・維持などを条件に日本国内の中小企業者の円滑な事業承継を支援することが目的の制度であるため、対象会社(P社)が外国子会社等(S社)を有している場合には、雇用確保の要件が通常よりも加重されると同時に、外国子会社等の価値相当が納税猶予額の計算から除外されることになります。 したがって、P社株式の評価額のうちS社株式の評価額に相当する部分については法人版事業承継税制を適用しても納税猶予の対象とはならず、C専務に贈与税又は相続税の負担が生じることになります。 (1) 対象会社の従業者数要件 法人版事業承継税制を適用するには、承継会社の常時使用従業員の数が1人以上であることが必要となりますが、対象会社(P社)の特別子会社(S社)が外国会社に該当する場合には、P社の常時使用従業員の数が5人以上であることが必要となります(措法70の7②一、70の7の2②一、70の7の4②一、70の7の5②一、70の7の6②一、70の7の8②二)。 (2) 納税猶予額の計算 対象会社(P社)が外国会社の株式等を有しているときは、納税猶予分の贈与税または相続税の計算の基となる当該特例受贈非上場株式等の価額は、P社がS社の株式等を有していなかったものとして計算した価額とされます(措法70の7②五、70の7の2②五、70の7の4②四、70の7の5②八、70の7の6②八、70の7の8②四)。   [3] 結論 P社株式について法人版事業承継税制を適用する場合でも、S社株式の評価額に相当する部分については納税猶予額の計算から除外されることになるため、S社株式の評価額を引き下げておく対策が必要です。 P社が保有するS社株式は、純資産価額方式に準じて評価を行うことになるため、たとえば、S社がP社に対して配当を行うことで、P社が保有する資産に占めるS社株式の割合(株式等保有割合)を引き下げることが可能となります(下記〈図2〉参照)。 P社が株式等保有特定会社に該当しなくなれば、「一般の評価会社」として類似業種比準価額と純資産価額方式の折衷法によることが可能になり、P社株式の相続税評価額を引き下げることができるでしょう。 〈図2〉S社からの配当による保有資産の組み替え ただし、P社がS社から配当金を受領することで、P社の類似業種比準価額における比準要素、具体的には「1株当たりの年利益金額」、「1株当たりの純資産価額」が増加し、P社の類似業種比準価額が上昇することが想定されますので、S社から配当を実行する前に配当実施後の相続税評価額への影響を分析したうえで実施することが必要です。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 681(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2026/08/13

〔実務で差がつく!〕相続時精算課税制度Q&A 【第8回】「相続時精算課税適用財産の相続税での債務控除の取扱い」

〔実務で差がつく!〕 相続時精算課税制度Q&A 【第8回】 「相続時精算課税適用財産の相続税での債務控除の取扱い」   税理士 徳田 敏彦   【Q】 子Bは父Aから平成30年に土地3,500万円の贈与を受けた。子Bはその贈与について、相続時精算課税制度を選択した。 令和8年3月に父Aに相続が発生し、父Aの相続財産は現金1,000万円と借入金1,500万円だった。 父Aの相続税の債務控除は相続時精算課税適用財産の価額からも控除が可能か。 【A】 相続時精算課税適用財産から債務控除することが可能である。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ ◎債務控除について 相続税の計算における債務控除は、相続や遺贈によって取得した財産の価額から控除することができる。 ただし、相続開始前7年以内の贈与財産に対して相続税で純資産価額に加算される「暦年課税分の贈与財産価額」からは控除することができない。 一方で、相続時精算課税制度による贈与財産は相続財産の前渡しとしての性格を持つため、相続財産に持ち戻して相続財産と同様に課税が行われる。そのため相続税の課税価額に加算される「相続時精算課税適用財産の価額」からは債務控除することができる(相法21の15②、21の16①)。 相続時精算課税適用者が相続又は包括遺贈により財産を取得した場合には、その者が無制限納税義務者、制限納税義務者のいずれでも債務控除することができる(相基通13-9)。   (了)

#No. 681(掲載号)
#徳田 敏彦
2026/08/13

期中会計基準を学ぶ 【第3回】「原則的な会計処理、期中特有の会計処理など」

期中会計基準を学ぶ 【第3回】 「原則的な会計処理、期中特有の会計処理など」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 期中財務諸表の作成のために採用する会計方針は、原則として年度の財務諸表の作成にあたって採用する会計方針に準拠するが、期中特有の会計処理及び簡便的な会計処理も認められている(期中会計基準9項)。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 会計方針、会計方針の継続適用及び会計方針の変更 期中財務諸表の作成のために採用する会計方針は、期中特有の会計処理を除いて、原則として年度の財務諸表の作成にあたって採用する会計方針に準拠しなければならない(期中会計基準9項)。 ただし、期中財務諸表の開示対象期間に係る企業集団又は企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、簡便的な会計処理によることができるとされている(期中会計基準9項)。 期中財務諸表作成のための特有の会計処理は、原価差異の繰延処理及び税金費用の計算とされている(期中会計基準14項)。 次のことに注意する(期中会計基準10項~12項)。   Ⅲ 期中特有の会計処理 期中財務諸表作成のための特有の会計処理は、原価差異の繰延処理及び税金費用の計算である(期中会計基準14項~16項)。 項目 会計処理 原価差異の繰延処理 標準原価計算等を採用している場合において、原価差異が操業度等の季節的な変動に起因して発生したものであり、かつ、原価計算期間末までにほぼ解消が見込まれるときには、継続適用を条件として、当該原価差異を流動資産又は流動負債として繰り延べることができる(期中適用指針の「[設例1]原価差異の繰延処理」)。 税金費用の計算 ① 親会社及び連結子会社の法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金(以下「法人税等」という)については、期中会計期間を含む年度の法人税等の計算に適用される税率に基づいて、原則として年度決算と同様の方法により計算し、繰延税金資産及び繰延税金負債については、回収可能性等を検討した上で、期中貸借対照表に計上する(なお、期中適用指針において、「年度決算と同様の方法による税金費用の計算における簡便的な取扱い」、「繰延税金資産の回収可能性の判断における簡便的な取扱い」が規定されている(期中適用指針16項~18項))。 ② ただし、税金費用については、期中会計期間を含む年度の税引前当期純利益に対する税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積り、税引前期中純利益に当該見積実効税率を乗じて計算することができる(期中適用指針において、「税引前期中純利益に年間見積実効税率を乗じて計算する期中特有の会計処理」が規定されている(期中適用指針19項、20項))。 この場合には、期中貸借対照表計上額は未払法人税等その他適当な科目により流動負債として(又は繰延税金資産その他適当な科目により投資その他の資産として)表示し、前年度末の繰延税金資産及び繰延税金負債については、回収可能性等を検討した上で、期中貸借対照表に計上する。 (※) 期中適用指針では、「重要性が乏しい連結会社における簡便的な会計処理」、「期中連結財務諸表における法人税等の会計処理」なども規定されている(期中適用指針22項~25項)。   Ⅳ 一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理 期中適用指針は、期中会計期間末における一般債権に対する貸倒見積高は、次のように算定することができるとして、簡便的な会計処理を規定している(期中適用指針3項)。   Ⅴ 有価証券の減損処理 1 有価証券 期中会計期間末に計上した有価証券の減損処理に基づく評価損の戻入れについては、期中洗替え法によるとし、期中洗替え法によることを原則としている(期中適用指針4項、BC13項)。 従来、「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)では、有価証券の減損処理に係る方法として継続適用を条件に四半期切放し法と四半期洗替え法の選択適用を認めていたが、期中適用指針では、期中洗替え法を原則としている(期中適用指針BC11項)。 ただし、次のように、一定の条件のもとに、期中切放し法の適用も例外的に認められている(期中適用指針4項、BC16項)。 これは、従前から期中会計期間末に切放し法を適用していた企業においては、これまで会計方針の選択にあたり年度と同様の会計方針を採用していたものであり、期中洗替え法が原則となるとしても、これまでの会計方針の選択の判断が必ずしも否定されるものではないなどの理由による(期中適用指針BC14項、BC15項)。 2 市場価格のない株式等 市場価格のない株式等について、発行会社の財政状態の悪化により実質価額(通常は、1株当たりの純資産額に所有株式数を乗じることにより算定される)が著しく低下したときは相当の減額を行わなければならない(期中適用指針5項)。 財政状態が悪化しているかどうかの判断にあたっては、期中会計期間末までに入手し得る直近の財務諸表を使用し、その後の状況で財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明した場合には、直近の財務諸表に当該判明した事項を加味することが望ましいとされている(期中適用指針5項)。 3 「金融商品会計に関するQ&A」の改正 「金融商品会計に関するQ&A」(移管指針第12号)Q31には次の記載があったが、期中会計基準等の公表を反映し、削除されている。 4 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」の改正 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号)145-2項では、期中会計基準において「有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法」について洗替え法を原則とすることとしたが、固定資産の減損会計について洗替え法の採用を求めるものではないことが記載されている。 (了)

#No. 681(掲載号)
#阿部 光成
2026/08/13

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2026年7月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2026年7月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年7月1日から7月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 新会計基準関係 次のものが公表されている。 ◎ 改正企業会計基準第27号「法人税等に関する会計基準」等 (内容:法人税等に関する原則的な定めを置くこととし、具体的な税金を特定しない方法に見直すもの)   Ⅲ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 ◎ コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定 (内容:成長投資の促進、取締役会の機能強化、有報の定時株主総会前の開示等について記載している)   Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「品質管理レビュー基本方針(2026年度~2028年度)」及び「2026年度品質管理レビュー方針」 (内容:品質管理レビューの方針を示すもの) ② 「2025年度 品質管理レビュー事例解説集Ⅰ部・Ⅱ部」 (内容:繰延税金資産の回収可能性、棚卸資産の評価、収益認識などについての改善勧告事項について解説している) ③ 監査事務所検査結果事例集(令和8事務年度版) (内容:公認会計士・監査審査会による監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたもの) ④ 倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正 (内容:報酬依存度に関する会員からの相談が多く寄せられていることに対応するもの) (了)

#No. 681(掲載号)
#阿部 光成
2026/08/13

〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第33回】「申立て書類について理解しよう(その2)」~戸籍謄本・住民票等、登記されていないことの証明書、親族関係図について~

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第33回】 「申立て書類について理解しよう(その2)」 ~戸籍謄本・住民票等、登記されていないことの証明書、親族関係図について~   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 前回の解説で「本人情報シート」や「医師の診断書」についてのポイントは理解できました。 その他の書類についてもポイントを教えてもらえますか。 【A】 家庭裁判所への後見開始の審判の申立てに必要になる書類等については前回も解説しましたが、円滑に申立てを進めるために知っておいた方がよいポイントが他にもいくつかあります。 今回は、本人や候補者の「戸籍謄本・住民票等」や、「本人の成年後見人等の登記がされていないことの証明書」、「親族関係図」について解説をします。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 戸籍謄本・住民票等 後見開始の審判申立てには、本人の戸籍謄本や住民票、成年後見人候補者の住民票等の公的書類が必要になりますが、住民票についてはマイナンバー表示のないものを取得する必要があります。また、期限が定められており、申立前から3か月以内のものである必要があります。期限については、「成年後見人等の登記がされていないことの証明書」などにも設けられているため、個別にチェックが必要になります。 一般的に前回解説をした「本人情報シート」や「医師の診断書」の発行には時間がかかるところ、発行を待っている間に先に取得した戸籍謄本等の期限が経過してしまい、取り直しが必要になるということがあります。なかなか診断書等が発行されず、ヤキモキしてしまうこともありますが、どのような順番で必要書類を取得していくべきかを整理しておくとよいでしょう。   2 本人の成年後見人等の登記がされていないことの証明書 「本人の成年後見人等の登記がされていないことの証明書」については、各地の法務局の本局に出向いて取得するか、東京法務局に郵送して取得することになります。 申立書の書式は以下の通りですが、「証明事項」の欄についていずれにチェックすべきかが間違えやすいため注意が必要です。「成年被後見人、被保佐人、被補助人、任意後見契約の本人とする記録がない。」にチェックを入れる必要があります。 代理人が取得をする場合には委任状が必要になりますが、委任事項としては「登記されていないことの証明書〇通の申請及び受領に関する一切の権限」というように記載をします。 (※) 東京法務局ホームページより転載(筆者において一部加工) 発行される「登記されていないことの証明書」のひな形は以下のとおりです。 (※) 東京法務局ホームページより転載   3 親族関係図 本人の親族関係を説明するために「親族関係図」を作成することになります。書式は裁判所の所定のものが用意されており、記載例も紹介されています。親族関係図には、本人、申立人、後見人候補者について記載をするほか、推定相続人やその他の親族についてもわかる範囲で記載をしていくことになります。 後見開始の申立てには親族の意見書も添付する必要がありますが、この親族関係図が意見書を取り付けるべき親族の参考となります。もし連絡が取れないことがわかっている親族や健康状態により意見書の取り付けができない親族がいる場合には、その旨を記載しておくとスムーズでしょう。 (了)

#No. 681(掲載号)
#北詰 健太郎
2026/08/13

書く論 【第8回】「文才は天才か」

〈執筆:編集X〉 書く論 第8回 「文才は天才か」 法律をもとにした難しい内容とはいえ、実務の解説に書かれている文章にも「分かりやすいもの」と「分かりづらいもの」があります。 著者の先生からいただいた原稿を読ませていただき、その流れるような解説にうっとりすることもあれば、「あぁ・・・(これはなかなか大変そうだ)・・・」と、これからの道のりに心を曇らせることもあります。 特に、ほとんど初めて実務の原稿を書いたという方の文章が分かりやすいものだったら、編集者としてはそれだけで「長くお付き合いしたい」(いろんなテーマをご提案したい)とすら考えてしまいます。 原稿を依頼するとき、その人の文章が上手いかどうかは、編集者は、正確には分かりません。過去に著作のある方であったとしても、分かりづらい箇所などは出版に際し手直しされますので、その方の本来の文章(原稿)がそのまま掲載されないケースもあります。このため、発刊された書籍を読ませていただき、その名文に惚れ込んで原稿を依頼した人から、なかなかに読みづらい原稿をいただいたとき、その奥にいる、その書籍の編集者の存在に思いをはせたりします(遠い目・・・)。 また、人前で話すのを得意とされ、数多くのセミナー講師をされている方が、筆力も高いとは限りません。逆に普段から口頭で内容を補足することに慣れておられるせいか、原稿全体がレジュメのように見出しと大きな図で構成されており、文章による解説が圧倒的に不足しているケースもよく見られます。ジャンルに限らず良書とは、ある意味「挫折せず最後まで読み終えることのできる本」とも言えますので、1つ1つの解説を階段とした場合に、その段差が大きい(または階段自体がない)ものは、読者をゴールまで導くのは大変難しい。 ちなみに、これは文章力とは異なりますが、かつて本を出したい(原稿を書きたい)という方の一定数が「普段からブログ(今でいうnote)を書いているので、原稿を書く自信はあります」とおっしゃる方でした。ただ、行間も広くコンテンツごとの内容・分量もシンプルな当時のWeb媒体に比べ、一般的な実務書に求められる文字数の多さと緻密さに、途中で筆が止まることも多かったです。書き上げる「胆力」とでもいうのでしょうか、そういう力も文章力と言えるのかもしれません。 このように文章力は人によって異なるのですが、「努力すれば何とかなる」かというと、これもまた、意外と難しいのです。 真面目で、でも、どうしても分かりづらい文章を書いてしまう方が、何とか目の前にあるご自身の原稿と格闘し、分かりやすくしようとしても、逆にどんどんよく分からない内容に陥ってしまうケースを、何度も目の当たりにしてきました。僭越ながら参考にしてもらえるよう、編集Xが少し手直しさせていただいたとしても、改善される様子は見られず、原稿完成まで長い道のりを歩むこともしばしば。 「・・・。文才って実は、天からの授かりものなのか?」 そういう考えが頭をよぎったこともあります。ただ、それは誤りでした。 あるとき、『○○税理士法人を卒業された税理士さんは、皆さんけっこうな確率で(生まれながらのような?)文章力がある』と気づきました。 そして、複数の方にそれとなく「なぜ先生は、そんなに文章がお上手なのですか」と伺ったところ、「その税理士法人に所属しているときに、『書く』業務を割り当てられ、かつ、文章について先輩から厳しく指導されまして・・・」とのご返事が。 やはり、鍛錬が必要なのだなと、実感した瞬間でした。 じゃあどのようにすれば、文章力が身につくのでしょうか。 おそらくそれは、「自分には文章を書く力が、思ったほどない」と自覚し、法律を学ぶように、「文章の書き方を学ぶ」のを意識することから始めると、よいのではないでしょうか。 なんでもSNSの時代、誰もが手軽に、『著者』になれます。ただし、「自身の書いた文章を公にできる=自分には文章力がある」わけではないのは、意図が伝わらず誤解を与える表現のまま投稿し、燃えてしまうニュースが後を絶たないことから、明らかだと思います。 普段から、実務の解説をよく(×10)読み、その肌感覚を身に付けたうえで、この連載でお伝えしたような などを意識し、アウトプットを続けていくことが必要なのかもしれません。 最後に、編集X自身も若かりし頃、文章を書くことにコンプレックスがあり、いろいろ修行を重ねていたところ、新聞社の編集委員をされていたSさんにお会いしました。Sさんの「文章には悲しみが必要」という言葉には学ぶべきことが多く、故人となられた今も師と仰いでいます。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)

#No. 681(掲載号)
#編集X
2026/08/13

PJ Bookmark-August 2026- 「退職金の支給、見落としはありませんか?」

B PJ Bookmark ── August 2026 ── ◇ 退職金の支給、 見落としはありませんか? 夏季賞与の支給を終え、それを区切りに職場を去る人が増えてくる時期になりました。 退職金は、制度をどう設計するか、いくら支給するか、どう会計処理するか、そして退職時の手続をどう処理するか・・・関わる分野が税務・会計・労務・経営と広く、それぞれに見落としやすい論点が潜んでいるテーマではないでしょうか。 今回は「退職金」をめぐる実務を、制度・税務・会計・手続の各場面から5本の記事でたどってみます。   〇 退職金、それぞれの場面で何を見落とさないか   退職金の実務は、まず「どんな制度にするか」という設計から始まります。基本給連動型・定額型・ポイント型など方式ごとに性格が異なり、選び方が後々の運用を左右します →1本目。 経営 退職金制度の作り方 【第2回】「退職金制度の種類」 執筆:なりさわ社会保険労務士事務所 代表/特定社会保険労務士 成澤 紀美 退職金制度といっても、その仕組みは一通りではありません。本記事は、基本給連動型・定額型・ポイント型・別メニュー型という4つの方式を、それぞれの長所と短所を対比させながら整理しています。たとえばポイント型は貢献度を反映しやすい一方、ポイント単価の引下げが不利益変更の問題につながりうるなど、方式選びが後の運用にどう響くかが見えてくる内容です。制度設計の入口で全体像をつかんでおきたいときに参考になりそうです。 この記事を読む 制度が決まれば、次は支給時の課税です。従業員の退職所得は退職所得控除と1/2課税が基本ですが、勤続年数が短い場合には近年の改正で扱いが変わっています →2本目。役員の場合はさらに論点が増え、過大役員退職給与や分掌変更といった、否認リスクと隣り合わせの判断が求められます→3本目。 税務 〔令和3年度税制改正における〕退職所得課税の適正化 【第1回】「退職所得課税の基本と『短期退職手当等』の取扱い」 執筆:公認会計士・税理士 新名 貴則 退職所得は、退職所得控除を差し引いた残額に1/2を乗じるのが基本ですが、勤続年数が短いケースではこの1/2が制限される点に注意が必要です。本記事は、平成24年度改正の「特定役員退職手当等」に続いて導入された「短期退職手当等」を取り上げ、勤続5年以下の従業員について、控除後の残額のうち300万円を超える部分には1/2を適用しない仕組みを、改正前後の計算例を並べて解説しています。数字で効果を追えるので、従業員の退職所得を計算する場面で押さえておきたい内容です。 この記事を読む 税務 中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第12回】「役員退職金をめぐる税務の基本と使い途」 執筆:税理士法人トゥモローズ 役員退職金は、従業員の退職所得とは別の論点を抱えています。本記事は、過大役員退職給与の判定で実務上一般的な功績倍率法、分掌変更による退職給与の取扱い(給与のおおむね50%以上の減少が一つの目安とされる点)、死亡退職金のみなし相続財産と非課税枠まで、法人税・所得税・相続税の三面から基本を押さえています。あわせて、相続資金や株価対策といった「使い途」にも触れられており、オーナー経営者への助言を念頭に読んでおきたい一本ではないでしょうか。 この記事を読む 支給額が固まれば、今度は会計処理です。中小企業では簡便法による退職給付引当金の計上が選択肢になりますが、適用できる範囲や算定方法にいくつかの分岐があります →4本目。 会計 フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第25回】「退職給付引当金(簡便法)」 執筆:仰星監査法人/公認会計士 西田 友洋 退職給付引当金は原則として数理計算によりますが、中小企業では簡便法が選択肢になります。本記事は、簡便法を採用できるか(原則として従業員300人未満)の判断から、退職一時金制度・企業年金制度・併用の場合それぞれの退職給付債務の算定方法、引当金・費用の計算、注記までを、フロー・チャートに沿って順を追って示しています。どの分岐をたどればよいかが図で確認できるので、自社やクライアントがどの方法に当てはまるかを整理するのに役立ちそうです。 この記事を読む そして見落とされがちなのが、退職時の社会保険料の処理です。退職日が月末か月末でないかによって、控除すべき保険料の月数が変わってきます →5本目。 労務 誤りやすい[給与計算]事例解説 【第4回】「退職時の社会保険料控除」 執筆:税理士・社会保険労務士 安田 大 退職金の支給と同じタイミングで処理が必要になるのが、最後の給与からの社会保険料控除です。本記事は、月末退職の場合に資格喪失日が翌月1日となり、退職月分まで保険料の負担が生じる仕組みを、誤りやすい事例として取り上げています。締め日と支給日の関係で退職月に給与支給がないと、最後の給与から2ヶ月分を控除する必要が出てくるケースなど、退職日が月末か否かで結論が分かれる点が具体的に整理されています。退職処理の最後で取りこぼしを防ぐために確認しておきたい内容です。 この記事を読む Afterword 今回は「退職金」を切り口に5本の記事をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。制度の設計から、従業員・役員それぞれの課税、会計処理、そして退職時の手続まで、一つのテーマでも関わる分野は驚くほど広く、それぞれに確認しておきたい論点があることが見えてきたように思います。 4本目にご紹介した西田友洋公認会計士の連載「フロー・チャートを使って学ぶ会計実務」は、2026年7月に書籍化されました。膨大な会計基準のうち主要な論点に絞って、実務での件順序がわかるようフローチャートを示して重点的に解説されています。もしご興味があればぜひ手に取って見てください。 Profession Journal (了)

#No. 681(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2026/08/13

《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正(確定)を公表~「監査業務編」を新設し収益認識の不正リスクに係る着眼点を明示~

《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正(確定)を公表 ~「監査業務編」を新設し収益認識の不正リスクに係る着眼点を明示~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年8月6日、日本公認会計士協会は、「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正を公表した。これにより、2026年6月15日から意見募集されていた公開草案(会員及び準会員向け)が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 このガイドラインは、レビューチームが、適格性の確認のために品質管理レビューを行うに当たり、登録申請者又は登録上場会社等監査人が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制を備えているかどうかを判断するに当たっての着眼点及び判断基準を示すことを目的としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 ガイドラインの判断基準において示されている不備の程度は、あくまでも一つの目安であり、【重要な不備事項】とされる状況も、監査事務所の状況によりその不備の程度が重大であると捉えられる場合には、【極めて重要な不備事項】として判断することもあるとのことである。   Ⅲ 適用時期等 2026年8月6日改正のガイドラインは、2026年8月6日以後現場作業を開始する品質管理レビューから適用する。 上記以外の適用時期について詳細に規定されている。 (了)

#阿部 光成
2026/08/10

プロフェッションジャーナル No.680が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年8月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.680を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2026/08/06

monthly TAX views -No.162-「評価されないリフレ派の「骨太の方針2026」」

monthly TAX views -No.162- 「評価されないリフレ派の「骨太の方針2026」」   東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹   7月21日、「経済財政運営と改革の基本方針2026」(以下、骨太)が閣議決定された。内容は、国が音頭をとって民間の投資を引き出し強い経済を目指すという国家資本主義思想の下、官民投資370兆円を柱とするバラ色の経済を描くもので、今後の高市政権のマクロ経済政策の柱となるものだ。 驚かされたのは、エコノミスト、経済学者、マスメディアの評価が極めて低いことだ。大方の評価は、政府が投資分野を選別することへの批判、財政規律の弛緩が引き起こす金利上昇によるクラウディングアウト(民間投資の減少)などを指摘するものだ。 閣議決定前にひと騒ぎがあった。6月30日に原案が公表されたが、日銀の金融政策へのけん制や「財政健全化」という文言の削除などの内容となっており、長期金利を2.8%と30年ぶりの高水準に押し上げ、「骨太ショック」と言われ、文面の修正を余儀なくされた。 マーケットを無視できない状況に追い込まれた中での閣議決定だが、文言を変えただけで市場の信認が取り戻せるというわけではない。わが国は今、国民生活に大きな打撃となるインフレ経済の真っただ中にいるのだが、政府の認識はいまだ「デフレへの後戻りを阻止する」というもので、近々自民党で正式決定する消費税実質ゼロもこの一環だ。 *  *  * 筆者が最も注目する点は、骨太の第3章「責任ある積極財政に基づく『中長期経済財政計画』」の以下の記述である。 「『強い経済』の実現と『財政の持続可能性』を両立する観点から、国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下を中核に位置付ける。」 「PB(プライマリーバランス)については、債務残高対GDP比の低下に向けて確認する指標とし、その安定的低下と整合するよう複数年で管理する。」 つまり、従来からの財政目標のうち、フローの目標であるPBの黒字化を落とし、ストックの基準であるGDP比債務残高の低下一本にしたことだ。なぜこれが問題か、予算編成の実務を踏まえて説明したい。 *  *  * 債務残高GDP比は、金利やインフレ率など「政府のコントロール外の要因」により左右されやすい。つまり政府のコントロール外の指標を唯一の財政目標にしたのである。 物価上昇(インフレ)により名目GDPという分母が拡大し債務残高(対GDP)は一見改善する。この改善が、実質成長が伴ったものかどうかの判断は難しい。輸入物価や円安を理由とするインフレにより名目GDPは膨らむが、物価上昇に賃金や預金金利の上昇が追い付かなければ国民の実質購買力が改善しているとは言えない。所得や金融資産の実質価値は低下しているのである。 タイムラグの問題もある。物価や賃金の上昇は時差を伴って社会保障、公共事業、人件費などの財政支出を増加させる。また金利上昇は毎年の国債の借換えごとに新たな金利で借り換えるので、後年連続的に利払費を増加させる。分母を押し上げるインフレの効果は一時的であるのに対し、歳出と利払費への波及は後からくる上、持続的・連続的である。 このように、GDP比債務残高目標一本では、財政目標として十分とは言えないのである。そこで必要となるのが毎年の予算におけるPB(当年度の歳入と当年度の歳出の差額)の黒字化という目標で、これは「政府が予算編成時にコントロール可能な指標」である。 *  *  * PBが均衡しても、過去の借金の利払費を賄う余力はないので利払費分だけ債務残高は増加していく。個人に例えれば、その年の生活費は賄えても過去のローンの利払はできない。このような状況から脱出するには、PBの黒字化を確保してその分で利払費を支払っていく必要がある。 財務省の試算では、金利が1%上がれば2年後に利払費の増加分は2.1兆円、3年後には3.4兆円と、毎年累積的に増加していく。2026年度13兆円の利払費が10年後の2035年度には36兆円程度の利払費になる(2030年度以降金利は3.6%と仮定)。地道にPB黒字を続け、利払返済に充てて債務残高GDP比を引き下げていくことが必要ということだ。 繰り返しになるが、PB黒字目標は、当年度の歳入と歳出を見計らいながら予算編成を行うという意味で、「唯一政府が管理・コントロールできる基準」で、貴重なブレーキである。そして予算編成が終わった時点で、直ちに判明する。 一方、債務残高GDP比は、前述のように政府のコントロールができないGDPや金利を反映したもので、GDPが判明するのは1年以上経過してからである。それでは検証・評価は遅れてしまう。 ブレーキのない自動車は、暴走する(インフレが抑えられなくなる)恐れがある。財源のめどなく消費税減税も行うこととなりそうだ。 骨太がきっかけで、今後高金利、インフレが進めば、「骨太ショック」が「サナエショック」になりかねない。 (了)

#No. 680(掲載号)
#森信 茂樹
2026/08/06
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