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法人税における当初申告要件等と平成29年度税制改正 【第3回】

法人税における当初申告要件等と 平成29年度税制改正 【第3回】   税理士 谷口 勝司   3 平成29年度税制改正 当初申告要件等については、平成29年税制改正において、注目すべき改正が行われている。 平成28年12月22日付の「平成29年度税制改正の大綱」では納税環境整備の一項目として、 と閣議決定されている。 改正規定を踏まえ、29年度の改正内容を説明したい。 (1) 研究開発税制等 今回改正された制度の1つが、措置法における試験研究費の特別税額控除制度(措置法42の4)である。 この制度の当初申告要件の規定が、29年度税制改正で と改正された(平29改正後の措置法42の4⑩、アンダーライン部分が改正箇所)。 この改正によって、増額更正の場合に連動的に税額控除額を増加できることとしたものである(前回まで説明してきた改正前の規定と比較しても、正直なところその改正内容は分かりにくいところがある)。 以下、具体例で説明しよう。 前回の解説の一部をここで再掲し、設例2に関する記述をあらためて確認したい。 法人税額の増額に伴う税額控除額5の増額は、上記の通り、修正申告の場合は明細書を記載・添付することによって税額控除額を増額できるが、平成29年改正前の取扱いでは、増額更正が行われる場合には明細書の記載・添付がないことから、控除額5の増額はできなかったのである。 このため、税務調査で売上計上漏れが指摘され法人税額が増加するような場合、法人側で修正申告を行わず(売上計上漏れに納得しない等)に更正処理となるときは、法人税額に連動する税額控除額はこれを増額しないところで増額更正が行われ、その後、法人側から更正の請求があってから、改めて税額控除額を増額した減額更正を行う、という二段階処理が実務上行われていたのである。 この取扱いは、改正前の規定は、「確定申告書等、修正申告書又は更正請求書」と並列的に規定されており、そこに「更正」は含まれていないこと等がその理由と考えられる。 しかし前述のような二段階処理は、法人側・課税当局側のいずれにとっても二度手間で煩雑であるから、税制改正を含めた弾力的な対応が必要との声が高かったところ、今回このような声に応えて、増額更正の際に連動して税額控除額が増加できるよう改正されている。 また、措置法上の他の特別税額控除制度(注)についても、いずれも法人税額の一定割合を控除限度額とするものであることから、上記試験研究費の特別税額控除と同様、今回、増額更正の場合に連動的に税額控除額を増額することができるよう改正されている。 (注) 試験研究費の特別税額控除以外にも、次の制度について、同様の改正が行われている。 (イ) エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別税額控除(措置法42の5) (ロ) 中小企業者等が機械等を取得した場合の特別税額控除(措置法42の6) (ハ) 沖縄の特定地域において工業用機械等を取得した場合の特別税額控除(措置法42の9) (ニ) 国家戦略特別区域において機械等を取得した場合の特別税額控除(措置法42の10) (ホ) 国際戦略総合特別区域において機械等を取得した場合の特別税額控除(措置法42の11) (ヘ) 地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別税額控除(措置法42の11の2) (ト) 地方活力向上地域において特定建物等を取得した場合の特別税額控除(措置法42の11の3) (チ) 特定の地域において雇用者の数が増加した場合の特別税額控除(措置法42の12) (リ) 認定地方公共団体の寄附活用事業に関連する寄附をした場合の特別税額控除(措置法42の12の2) (ヌ) 特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別税額控除(措置法42の12の3) (ル) 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別税額控除(措置法42の12の4) (ヲ) 雇用者給与等支給額が増加した場合の特別税額控除(所得拡大促進税制。措置法42の12の5) (ワ) 法人税の額から控除される特別控除額の特例(措置法42の13) ただし、前回の設例1で示したように、修正申告又は更正の請求において対象となる試験研究費の額を増額することや、確定申告で制度を適用せずに修正申告又は更正の請求で新たに制度の適用を受けることは、平成29年度改正後においても不可であることは同じである。 この点、改正後の規定では「確定申告書等に添付された書類に記載された試験研究費の額又は特別試験研究費の額を限度とする。」と、更に明確化されている。 なお、税制改正大綱にある「納税者の立証すべき事項」とは、制度の内容に応じて、試験研究費の額、対象資産の取得価額、雇用者給与等支給増加額などが規定されており、当初申告である確定申告書等に記載されたこれらの金額を限度として税額控除額を計算することになる。 措置法における当初申告要件は存続されていることに留意しておきたい。 (2) 外国税額控除制度 改正されたもう1つの制度が、外国税額控除制度(法69)である。 外国税額控除制度は、控除対象外国法人税の額について、次の算式で計算した控除限度額の範囲内で控除するものであり、控除対象外国法人税の額、法人税額、所得金額(分母)、調整国外所得金額(分子)、といった各計算項目の金額の増減によって、税額控除額も増減する仕組みとなっている。 また、外国税額控除制度は、控除対象外国法人税の額や調整国外所得金額等の判定、計算等が複雑であって、誤りが多いものとなっている。 法人税法上の外国税額控除制度については、既に述べたとおり、平成23年12月改正で当初申告要件の廃止及び適用額の制限の見直しが行われたが、平成23年12月改正後においても、課税当局側の適用要件確認や立証責任等の観点から、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に、明細書の記載・添付が必要とされ、また、控除額は、これらの明細書に記載された金額が限度とされていた。 したがって、平成23年12月改正後は、当初申告(確定申告書)で制度の適用を受けていなかった場合でも、明細書を記載・添付して修正申告書又は更正請求書を提出すれば新たに制度の適用を受けることができ、また、修正申告書又は更正請求書に添付した明細書に記載された(増額後の)控除額で控除を受けることができるようになった。 しかし、修正申告ではなく、増額更正が行われる場合には、明細書の記載・添付がないこと等から、上記(1)の試験研究費の特別税額控除と同様、控除税額の増額は行われず、増額更正後に行われる更正請求により減額更正する、という二段階処理が行われていた。 そこで、29年度税制改正では、納税者の立証すべき事項を「控除対象外国法人税の額」に限定することを明確化し、法人税額や調整国外所得金額の増加等に伴い反射的に控除限度額が増加した場合は、増額更正のときであっても税額控除額を増額できるよう改正されている。 今回の改正によって、海外進出している法人や連結納税法人等で外国税額控除の適用を受ける法人のほか、課税当局にとっても、煩雑な計算や処理が少なくなると思われる。 実務では、税務調査による否認事項については修正申告書が提出されることが多いが、特に大法人にあっては、否認事項に不服申立て等をしない場合であっても、課税当局の否認理由(更正理由附記)を明確にしておきたい等の事情から、法人側が更正処理を希望するといったケースも時々見受けられる。 今回の改正は、実務的には大きなものといえよう。 (了)

#No. 235(掲載号)
#谷口 勝司
2017/09/14

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第4回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第4回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第1章》 平成13年度税制改正前の議論) (2) 資産等を移転した法人の課税 ① 移転資産の譲渡損益の取扱い (ⅰ) 概要 「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」の「第二 資産等を移転した法人の課税」では、移転資産の譲渡損益の取扱いとして、以下のように記載されている。 このうち、1つ目と2つ目のパラグラフについては、前回の解説の通り、原則として、時価で資産及び負債を譲渡すべきであるが、一定の要件を満たすものについて、適格組織再編成として、簿価で資産及び負債を移転することが想定されていた。そして、適格組織再編成の要件を満たすものとして、企業グループ内の組織再編成、共同事業を営むための組織再編成が挙げられている。 なお、共同事業を営むための組織再編成に対して、「移転の対価として取得した株式の継続保有等の要件を満たす限り」と強調されている点が興味深い。株式継続保有要件については、平成29年度税制改正で大幅な改正がなされていることから、本連載のどこかで、平成13年度に導入された株式継続保有要件の制度趣旨が、現行税制でも十分に機能しているかどうかを分析する予定である。 そして、3つ目のパラグラフであるが、金銭等不交付要件について明示されている。この点につき、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』26頁(日本租税研究協会、平成13年)では、「金銭等の交付があった場合には、その金銭等の交付部分に対応する部分だけでなく、全体について課税特例の適用が無いということになる」「交付される金銭等の金額が非常に少ない場合には、大勢に影響は無いとも考えられるわけですが、資料に書かれている理由に加え、合併の例からすると税制上の合併交付金に該当するものの受払が行われるものは現実にはほとんど無いと想定されることから、今回、課税特例の要件として、金銭等の受払が無いことという要件が設けられています。」と解説されている。 この講演が行われた平成12年当時では、会社法が施行されておらず、当時の商法では、合併等対価の柔軟化が導入されていなかったという点に留意が必要である。すなわち、一部金銭交付型の組織再編成に対応する税制を整備する必要がなかったことから、割り切りとして、一部でも金銭を交付した場合には、非適格組織再編成として処理するという制度にしたという点は、本講演録からも読み取れる(※1)。それが故に、合併等対価の柔軟化が解禁された後には、一部でも金銭を交付した場合に非適格組織再編成に該当してしまうという取扱いでは、実務での弊害が強くなってしまった。 (※1) 阿部泰久(発言)阿部泰久・山本守之「企業組織再編税制の考え方と実務検討」税務弘報49巻6号29頁(平成13年)でも、「実際にニーズの確認をいたしましたけれども、まあなくても差し支えないというのが大勢でございました」と指摘されている。 その結果、平成29年度税制改正により、合併法人又は株式交換完全親法人が、被合併法人又は株式交換完全子法人の発行済株式の3分の2以上を有している場合には、金銭等不交付要件が不要となったということ言えるし、そうであっても、平成13年当時の制度趣旨と矛盾しないということが言えよう。この点についても、本連載のどこかで触れていきたい。 (ⅱ) 企業グループ内の組織再編成 さらに、「第二 資産等を移転した法人の課税」では、企業グループ内の組織再編成として、以下のように記載されている。 まず、企業グループ内の組織再編成として、「完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成」を挙げたうえで、「商法上の親子会社のような関係にある法人間で行う組織再編成」にもその対象を広げたという点に留意が必要である。この点は、当時の経済団体連合会経済本部税制グループ長の阿部泰久氏が、組織再編税制の立法経緯として、まず、100%グループを対象としたうえで、50%超100%未満グループ、共同事業再編とその範囲を広げていったという立法経緯を説明していたことからも明らかである(※2)。 (※2) 阿部泰久「改正の経緯と残された問題」江頭憲治郎ほか編『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』83頁(商事法務、平成14年)。 そして、具体的な企業グループの範囲につき、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』27頁では、移転価格税制における国外関連者の範囲の考え方と同様に考えるものとしながらも、持分割合を50%超とし、実質支配という考え方は採るべきではないとしている。 しかし、平成17年改正前商法211条の2では、議決権の過半数を保有されている会社を子会社としていたのに対し、現行会社法2条4号では、「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」としてその範囲を拡充している。このような会社法の改正がありながらも、組織再編税制では、実質支配という考え方を採らないという立場を崩さなかった。 この点につき、佐々木浩氏は、絶対的多数を有している場合を企業グループ内の組織再編と位置付けていると説明されている(※3)。それに加え、50%超ではなく、50%以上へ改正して欲しいという実務家からの要望に対しても、思想的に難しいことも指摘されている(※4)。40%であっても、絶対的多数を有している場合はあり得るとは思われるが、制度の簡便化、明確化を考えれば、実質支配という概念を導入せずに、絶対的多数という概念で整理するというのは、立法論としては理解しやすい。 (※3) 佐々木浩(発言)仲谷修ほか『企業組織再編税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』37頁(大蔵財務協会、平成24年)。 (※4) 佐々木前掲(※3)39頁。 そして、2つ目のパラグラフであるが、個別の資産の売買取引と区別するために、事業単位の移転という概念を導入したという点は注目に値する。これにより、主要資産等引継要件、従業者引継要件及び事業継続要件が導入されたからである。そのため、事業単位の移転のために設けられた制度であるということを意識しながら、これらの条文を解釈していく必要がある。さらに、「完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成については、これらの要件を緩和することも考えられる」としており、100%グループ内の組織再編成では、主要資産等引継要件、従業者引継要件及び事業継続要件がそれぞれ要求されていない理由となっている。 平成13年当時で意識していたかどうかは不明であるが、結果だけを見てみると、平成22年度税制改正で導入されたグループ法人税制と整合性のある制度となっている。100%グループ内の資産の売買については、事業単位の移転に該当しない場合であっても、原則として、譲渡損益を認識しないこととされているからである。 こうしてみると、組織再編税制、連結納税制度及びグループ法人税制は、そもそも100%グループを想定した規定であり、組織再編税制だけが、50%超100%未満グループにその範囲を広げていかなければ、かなり整合性の取れた制度になっていたということが言える(共同事業再編については、連結納税制度、グループ法人税制との整合性について配慮する必要性はないと思われる)。 この矛盾により生じる弊害として、①発行済株式総数の50%超を取得してから適格株式交換を行うことにより、時価評価課税の対象になることなく連結納税制度に加入することができることや、②支配関係が生じてから5年を経過している場合に、株式を追加取得し、50%超100%未満グループの状態から100%グループの状態に変えることにより、従業者引継要件及び事業継続要件を免れながらも、支配関係が生じてから5年を経過していることを理由として繰越欠損金の引継制限、使用制限をも免れることができることが挙げられる。 前者については、50%超100%未満グループが適格組織再編成の対象から除外されていれば、非適格株式交換として処理される事案であるし、50%超100%未満グループについても連結納税制度の対象に含めるという制度であれば、株式交換を行う前に時価評価課税の対象になる。そして、後者については、50%超100%未満グループが適格組織再編成の対象から除外されていれば、完全支配関係が生じてから5年を経過していない場合に繰越欠損金の引継制限、使用制限が課されないという制度になっていたことが予想されるし、50%超100%未満グループについても連結納税制度、グループ法人税制の対象に含めるという制度であれば、そもそも50%超100%未満グループ内の合併において、従業者引継要件、事業継続要件が要求されず、このような議論は生じなかったからである。 *   *   * 次回では、共同事業を行うための組織再編成、資本金の部の金額の取扱いについて解説を行う予定である。 (了)

#No. 235(掲載号)
#佐藤 信祐
2017/09/14

平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第10回】「[設備種別]適用税制の選択ポイント⑥(建物・構築物)」

平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第10回】 「[設備種別]適用税制の選択ポイント⑥(建物・構築物)」   アースタックス税理士法人 代表社員  税理士 島添 浩  シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志   【第5回】から【第10回】にわたっては、青色申告法人(連結法人を除く)における設備種別の適用税制(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制)の選択ポイント及び具体的な申告実務上の留意事項を確認する。 なお、各税制の概要や適用手続き等については、【第1回】から【第3回】までを参照願いたい。 それでは今回【第10回】は、建物・構築物について紹介する。   1 選択ポイント 中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制の主なポイントは下記のとおりである。 【建物・構築物における適用税制一覧表】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 建物・構築物においては、中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制及び中小企業経営強化税制のすべてが対象外となる。 したがって、【第4回】で確認した「地域中核企業向け設備投資促進税制(地域未来投資促進税制)」が平成29年7月31日から適用開始されていることから、承認地域経済牽引事業に係る承認地域経済牽引事業計画に従って、特定地域経済牽引事業施設等(建物・構築物)の新設又は増設をするような場合には、当該税制の検討を要することとなる。   2 中小企業等経営強化法に規定する経営力向上計画の認定を受けた建物に関する支援措置 上記1で確認した通り、建物・構築物については中小企業経営強化税制の適用を受けることはできないが、中小企業等経営強化法による経営力向上計画の認定を受けることのできる資産には「建物」が含まれている(※1)。 つまり、建物については、中小企業経営強化税制の適用を受けることはできないが、中小企業等経営強化法による経営力向上計画の認定による金融支援が受けられることに留意されたい(※2)。 なお、具体的な金融支援の内容は、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫による低利融資等があり、詳細については次回【第11回】をご参照願いたい。 (※1) 中小企業等経営強化法による経営力向上計画の認定を受けることのできる建物の要件は、次のとおりである。なお、「構築物」については、中小企業等経営強化法による経営力向上計画の認定を受けることのできる資産に含まれていないことに留意する。 (※2) 【第5回】から【第9回】までに確認した中小企業経営強化税制の適用対象資産(機械装置、ソフトウェア、器具備品及び建物附属設備)についても、当然に経営力向上計画の認定による金融支援が受けられることとなる。   3 設備種別の適用税制の選択ポイントのまとめ 【第5回】から【第10回】にわたって、設備種別の適用税制(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制)の選択ポイントを確認してきたが、設備種別ごとのまとめは下記のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 「機械装置」及び「ソフトウェア」については、中小企業投資促進税制又は中小企業経営強化税制の適用を考えることとなる。 なお、不動産業及び物品賃貸業については、中小企業投資促進税制の適用対象事業(指定事業)ではないが、中小企業経営強化税制の適用対象事業(指定事業)であることから、特に不動産業を行う法人は注意が必要である。 また、「器具備品」及び「建物附属設備」については、商業・サービス業・農林水産業活性化税制又は中小企業経営強化税制の適用を考えることとなる。 中小企業経営強化税制は、原則として適用対象資産(機械装置、ソフトウェア、器具備品及び建物附属設備)を取得する前に一定の手続きを要するため、事前準備を行う必要があるが、中小企業投資促進税制及び商業・サービス業・農林水産業活性化税制に比べ特別償却、税額控除ともに有利な制度になっている。 したがって、事務手続きの煩雑さや税額控除のメリットを最大限に受けられるか等を総合的に勘案して、どの税制を選択するかを検討していただきたい。 また、特別償却の損金算入方法としては、どの税制を適用しても損金経理方式及び特別償却準備金方式を選択できることに留意されたい。 *  *  * 本連載の最終回となる次回【第11回】では、設備投資減税と金融支援について解説していく。 (了)

#No. 235(掲載号)
#アースタックス税理士法人
2017/09/14

相続空き家の特例 [一問一答] 【第11回】「母屋と離れ等の複数の建築物がある場合の計算例③(相続開始直前においてその敷地等に相続人の所有分がある場合)」-相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第11回】 「母屋と離れ等の複数の建築物がある場合の計算例③ (相続開始直前においてその敷地等に相続人の所有分がある場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年3月に死亡した母親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得しました。 相続の開始の直前において、母親は一人暮らしをし、母親が所有していたA土地(80㎡)とXが所有していたB土地(120㎡)は、用途上不可分の関係にある2以上の建築物(母親とXが共有(それぞれ2分の1)で所有していた母屋:140㎡、離れ:40㎡、倉庫:20㎡)のある一団の土地でした。 Xが全てを相続し、更地とした上、A土地及びB土地を売却しました。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用にあたって、被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積はいくらでしょうか。 A 被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積は、A土地のうちの56㎡となります。B土地については、被相続人から相続又は遺贈により取得したものでないため、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 措通35-13(被相続人居住用家屋の敷地等の判定等)の〔設例3〕に基づき計算すると、次のようになります((算式)は【第8回】解説を参照)。 (1) Xが譲渡したA土地(80㎡)及びB土地(120㎡)のうち、被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積 (2) Xが譲渡した、B土地(120㎡)につては、母親からの相続又は遺贈により取得したものではないため、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 (了)

#No. 235(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/09/14

税理士業務に必要な『農地』の知識 【第11回】「農地等に係る納税猶予制度」

税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第11回】 「農地等に係る納税猶予制度」   税理士 島田 晃一   今回は農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予について述べていく。これまで説明してきた各法律については農地の納税猶予の適用に絡んだ部分も多い。ここでは、復習も兼ねて改めて見ていきたい。   1 農地等に係る納税猶予制度の概要 農地等を相続した相続人が農業を継続する場合、通常の農地等の評価額のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税については、一定の要件のもとに、納税猶予期限までその納税が猶予される。 そして、納税が猶予された相続税は、原則として猶予期限において免除される。場所にもよるが、農業投資価格は通常の評価方法による金額よりかなり低くなっているため、農地に係る相続税の大部分が猶予及び免除されることになる。これを「農地等に係る相続税の納税猶予」という。 猶予期限は次のうちいずれか早い日となる。 ただし、三大都市圏の特定市以外の市街化区域農地等について納税猶予を受けたとき、又は、市街化区域農地以外の農地等について平成21年12月14日以前から納税猶予を受けているときは、申告期限から20年経過した時点で猶予税額が免除される。 一方、農業を営む者(贈与者)が農業の用に供している農地等を農業後継者(推定相続人の1人)に一括贈与した場合、農地等に係る贈与税の納税を猶予され、贈与者又は農業後継者が死亡した際に猶予されていた贈与税が免除される。これを「農地等に係る贈与税の納税猶予」という。 贈与税の納税猶予の適用を受けた農地等は贈与者の相続財産になるが、この際、受贈者である相続人等は相続税の納税猶予を選択できる。 ただし、贈与税の納税猶予を受けていない農地等でも相続税の納税猶予を受けることができるし、逆に贈与税の納税猶予の適用を受けていた農地等について相続税の納税猶予を適用しないことも可能である。   2 納税猶予の対象になる農地等 納税猶予の対象になる農地等は、被相続人又は贈与者が農業等に使用していた農地、採草放牧地又は農用地区域内の準農地(採草放牧地とともに取得したもの)である。 ただし、平成3年1月1日現在における三大都市圏の特定市の市街化区域にある農地等(特定市街化区域農地等)については、生産緑地に該当する農地等に限り納税猶予の対象になる。 また、第三者に貸し付けられている農地等は原則として納税猶予の対象にならないが、「特定貸付け」といい、農業経営基盤強化促進法に定められた農地利用集積円滑化事業もしくは農用地利用集積計画に基づいた貸付け、または、農地中間管理機構へ貸し付けられた農地については納税猶予の対象になる(【第7回】参照)。   3 相続税の納税猶予の手続き 相続税の納税猶予については、期限内申告の期限までに特例を受ける農地等について遺産分割協議等により取得者が決まっていなければ適用を受けることができない。 相続税の納税猶予の適用を受けるためには、相続税の申告書に次の書類を添付する必要がある。 (1)の遺産分割協議書には相続人全員の自署・実印の押印が必要である。相続人の名前が印刷され押印したものでは特例を受けられない。 (2)の相続税の納税猶予に関する適格者証明書は各市町村の農業委員会に発行してもらう。ただし、発行申請にあたっては遺言書の写し又は遺産分割協議書の写しが必要になること、承認のための農業委員会の会合が月1回である市町村が多いことから、納税猶予を受ける農地等に関しては、申告期限から2ヶ月程度の余裕を持って遺産分割を終えておく必要がある。 さらに、納税猶予を受けた後も、3年ごとに農地等の現況やその農地に作付けている作物、出荷量等を記入した「納税猶予の継続届出書」を所轄税務署に提出する必要がある。   4 納税猶予の打ち切りと代替農地の取得による納税猶予の継続 納税猶予を受けている農地等の全部又は一部を譲渡もしくは他の用途に転用した場合などについては、納税猶予の全部又は一部が打ち切られ、譲渡等を行った日から2ヶ月以内に、猶予されていた税額を、当初の納期限から打ち切りによる納税までの期間の利子税とともに納める必要がある。 この場合、譲渡や転用を行った農地の面積が、納税猶予対象農地全体の20%を超えた場合(過去に売却・転用された面積を含む)、猶予されていた税額の全部が打ち切りとなる。ただし、収用等により譲渡された部分については20%の計算に含まれない。 また、収用等のために平成26年4月1日から平成33年3月31日までに農地を譲渡し、納税猶予が打ち切られたときは、当初の納期限から打ち切りによる納税までの期間に係る利子税の全額が免除される。 相続税の納税猶予の適用を受けている農地等に区分地上権が設定された場合や、高圧線の下に地役権が設定された場合は、納税猶予の打ち切りの対象にならない。「区分地上権」とは、土地の地上に橋梁や道路を築造するため又は地下にトンネルを通すために、その土地に設定される権利をいう。 なお、納税猶予を受けていた農地等を譲渡した場合、前述したように通常は納税猶予の打ち切りの対象になるが、譲渡の日から1年以内にその譲渡代金をもって代替の農地等を取得する見込みであるときは、譲渡の日から1ヶ月以内に「代替農地等の取得等に関する承認申請書」を所轄税務署長に提出し税務署長の承認を受けたときは(承認申請書の提出から1ヶ月以内に税務署長から承認又は却下の処分がないときは、承認があったものとみなされる)、譲渡がなかったものとして納税猶予が継続される。   5 特定貸付け及び営農困難時貸付けの特例 農地を第三者に貸し付けた場合、他の用途に転用したとみなされ、納税猶予打ち切りの対象になる。ただし、特定貸付けを行った場合については、特定貸付けを行った日から2ヶ月以内に、税務署長に「納税猶予の特定貸付けに関する届出書」を提出することで、納税猶予の継続が認められる。 営農困難時貸付けの特例とは、納税猶予期間中に精神障害(障害等級が1級であるものに限る)、身体障害(障害等級が1級又は2級である場合に限る)もしくは要介護状態になったことにより農業を継続することが困難になった場合、納税猶予の適用を受けている農地等を第三者に貸付し、貸付けを行った日から2ヶ月以内に一定の事項を記載した届出書を所轄税務署長に提出することで、納税猶予の継続が認められるという規定である。 ただし、この特例の適用は、農地等が市街化区域内にある場合など農業経営基盤強化促進法の適用が及ばない地域での農地の貸付けや、農業経営基盤強化促進法に基づく貸付けを行った日後1年を経過する日までに貸付けを行うことができなかった場合に限り認められる。 *  *  * 以上、農地の納税猶予について簡単に解説してきた。 【第1回】の中で農業従事者の高齢化及び後継者不足について触れたが、家族単位で農業を営んでいる小規模農家については、近い将来において農業従事者が農業を行えなくなってしまい、かつ、後継者もいないという事態が多く発生すると見込まれる。ただし、現状では農地を相続した者が自ら農業を営むことが納税猶予適用の前提になっており、第三者に農地を貸し付けた場合、「特定貸付け」又は「営農困難時貸付け」に該当しなければ納税猶予を継続することができない。 そのため、「特定貸付け」や「営農困難時貸付け」を受けられなくても、地方公共団体や第三者に農地を賃貸した際に納税猶予の継続ができるような措置が望まれる。 来年度以降の税制改正においてこのような措置が手当てされるかどうか注視していきたい。 (了)

#No. 235(掲載号)
#島田 晃一
2017/09/14

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第31回】「ゴルフクラブ入会金(諸会費)」~ゴルフクラブ入会金の損金算入が認められないと判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第31回】 「ゴルフクラブ入会金(諸会費)」 ~ゴルフクラブ入会金の損金算入が認められないと判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して行われた「諸会費として処理しているゴルフクラブ入会金の損金算入の否認」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁昭和57年5月20日判決(訟月28巻8号1675頁。以下「本判決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、本件理由付記に不備はないと判断した(かかる判断は、控訴審である東京高裁昭和57年2月18日判決・税資122号316頁でも維持されている)。   4 検討 (1) 関係法令等の確認 ゴルフクラブ入会金の課税上の取扱いについては、法人税基本通達9-7-11が次のとおり定めている。 (2) 求められる理由付記の程度 本件理由付記によれば、本件更正処分は、ゴルフクラブ入会金として支払った50万円について、その支払内容、金額及び時期に関するX社の帳簿書類の記載事項をそのまま認めた上で、法人税法上、損金に算入することは認められないとするものであるため、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当する。 したがって、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記は、本件更正処分の根拠となる事実として、X社が、ゴルフクラブの法人会員の取得に際し、入会金として50万円を支払い損金経理していることを示した上で、ゴルフ入会金は損金とならないと記載している。簡単な記載ではあるが、かかる記載から、本件更正処分は、ゴルフクラブの入会金に係る支出はその取得時の損金の額に算入することはできないという解釈を前提としていることを読み取ることができる。 そうであれば、本件理由付記は、法令上の根拠及び法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるから、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 (4) 更なる議論 ~ゴルフプレー費用に係る理由付記の十分性~ 本件訴訟では、X社が交際費科目に計上しているゴルフプレー費用を代表取締役Tに対する賞与と認定して所得金額に加算する法人税の更正処分に係る理由付記の十分性も争われている。 この点に関して、更正通知書には、次のような更正の理由が記載されていた。 (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 一般に、総勘定元帳の交際費勘定に係る摘要欄等において、「〇〇クラブ プレー費用」と記載するのみで参加者の氏名・肩書き等を記載していない場合には、当該プレー費用と会社の業務との関連性は判然としない。本件理由付記の背後にはこのような理解があると善解するとしても、「使用利益を享受したと認められる代表取締役Tに対する賞与と認定」することにより損金不算入とすることとの関係では検討すべき点がある。本件理由付記に「X社代表取締役T名義」という記載があることを考慮しても、少なくとも、代表取締役Tがプレーに参加したことやX社がその負担額相当額の金員をTから受領していないことなど、代表取締役Tが「使用利益を享受した」と認められる根拠資料を理由付記において示す必要があるように思われる。 これに対して、本判決は、次のとおり判示して、理由付記に不備はないと判断している。 なお、プレー費用等の課税上の取扱いについて、法人税基本通達9-7-13は、次のとおり定めている。 *  *  * 次回は、「事前確定届出給与に係る役員賞与引当金繰入額の損金算入の否認」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 235(掲載号)
#泉 絢也
2017/09/14

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第62回】株式会社郷鉄工所 「第三者委員会調査報告書(平成29年6月23日付)」 「追加調査に対する第三者委員会中間報告書(平成29年8月8日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第62回】 株式会社郷鉄工所 「第三者委員会調査報告書(平成29年6月23日付)」 「追加調査に対する第三者委員会中間報告書(平成29年8月8日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会(第一次)の概要】 (注) 上記調査の目的のうち、「X社案件」とは、郷鉄工所が他社から受注した太陽光発電施設工事のうち、会計監査人から不透明な取引との指摘を受けた案件をいい、「Y社案件」とは、郷鉄工所が行った不動産取引において、支払った手付金が回収不能となった案件をいう。   【第三者委員会(追加調査)の概要】   【株式会社郷鉄工所の概要】 株式会社郷鉄工所(以下「郷鉄工所」と略称する)は、昭和6(1931)年創業、昭和22(1947)年設立。破砕粉砕機などの産業用機械設備の開発、製造及び販売、インフラ整備事業などを手がける。売上高3,831百万円、経常損失751百万円、資本金約717百万円。平成28年3月期決算において、594百万円の債務超過となっている。従業員数約90名(調査報告書(第一次)の記載による)。本店所在地は岐阜県不破郡垂井町。東京証券取引所第2部、名古屋証券取引所第2部に上場。   【第三者委員会調査報告書(第一次)の概要】 1 調査に至る経緯 6月23日に公表された第三者委員会調査報告書(以下、5月31日に設置された第三者委員会を「第一次第三者委員会」、6月23日に公表された調査報告書を「第一次報告書」とそれぞれ略称する)によれば、郷鉄工所は、平成28年8月に、会計監査人である監査法人アリアから、「金融機関以外からの資金調達における不適切な手形の振出や売上の計上に関する不適切な会計処理について指摘を受けたことを契機として内部調査を開始した」ということであり、その後、「外部の公正中立かつ独立した第三者委員会に事実関係の調査等を委ねることにより、迅速に事実関係を明らかにすることが不可欠であると判断した」ため、第一次第三者委員会が設置され、「X社案件」、「Y社案件」に関する調査が実施された。 2 調査結果の概要 第一次第三者委員会は、詳細な調査の結果、122ページに及ぶ大部の第一次報告書をまとめているが、ここでは、調査対象となった2つの案件の結論部分のみ、取り上げたい。 (1) X社案件 郷鉄工所は、本業である破砕機事業の低迷が顕著であったことから、太陽光発電施設工事の新規事業に参入することを決め、平成26年6月、太陽光発電事業に詳しい石川歩を取締役(以下「石川元取締役」と略称する)として招聘し、新規事業を積極的に展開した。 ところが、思うように商談が獲得できず、不慣れな工事事業であったことから採算割れとなり、太陽光発電施設工事事業は赤字に転落する。 そこで、石川元取締役と当時の代表取締役社長であった長瀬隆雄(以下「長瀬元代表取締役」と略称する)が主導して行ったのが、架空売上の計上とX社に対する架空仕入の計上による粉飾決算であった。X社に対する買掛金の決済のために振り出した約束手形は、X社によって金融機関で割引がなされ、一部は郷鉄工所に還流し、一部はX社から郷鉄工所名義で郷鉄工所の買掛金の決済資金として振り込まれ、こうした資金還流スキームの手数料として、X社には、年利換算で50%を超える多額の手数料が支払われていた(第一次報告書p.50以下)。 (2) Y社案件 郷鉄工所経営陣は、平成27年11月頃から、平成28年3月期決算における債務超過及び営業赤字を回避する方法を模索していたところ、長瀬元代表取締役が知己を得た不動産ブローカーと思われる人物から取引案件を持ちかけられ、財務担当の専務取締役である田中桂一(以下「田中取締役」と略称する)とともに、検討を行っていた。 当初、代々木にあったビル跡地を34億円の売買代金で契約する方向で話を進めていたところ、平成28年3月末日までの契約が困難であることが判明し、急きょ、Y社が所有する兵庫県西宮市所在の土地を、郷鉄工所が4億円で購入し、Z社に13億円で転売するというスキームで話が進められた。 平成28年3月29日、郷鉄工所は、不動産の売買契約書(Y社からの買取契約、Z社への転売契約)に押印するとともに、手付金としてY社あての2,000万円の約束手形を振り出して、取引仲介者に交付した。 その後、Y社名義の土地に西宮市による差押がなされていることなどから、取引自体は実現しなかったが、郷鉄工所が支払った手付金は回収されないままとなり、会計監査人からも指摘を受けるに至っていた。 第一次第三者委員会は、この取引について、「粉飾決算目的の取引であった可能性が極めて高い」と判定した。 3 責任の所在 第一次第三者委員会は、2つの案件に積極的に関与した長瀬元代表取締役、石川元取締役及び田中取締役だけでなく、樋田英貴元代表取締役副社長、宮脇一人取締役についても、架空仕入による資金調達の事実を知りながら、臨時支払申請書の承認を行ったとしている。 その他の取締役についても、責任の所在についての厳しい指摘が並べられている。 そうした中、社外取締役である馬渕良一(以下「馬渕社外取締役」と略称する)について、取締役会において、太陽光事業に関する説明や収支状況の明確化を要請したため、次第に、「他の役員から疎まれる存在」となり、郷鉄工所の情報が共有されないようになっていた事情もあり、「同人の活動は功を奏していない」ものの、職責は果たしていたと評価している。 また、2名の社外監査役については、「企業家としての感性から、太陽光発電事業について懐疑的な印象を抱いて」いたにもかかわらず、取締役会や監査役会で積極的に発言することもなく、社外監査役の役割を自覚していなかったことから、X社案件については、「善管注意義務違反が認められる可能性は否定できない」と評価した。 4 再発防止策 第一次第三者委員会は、調査報告書の最後に、再発防止策を次のように挙げている。 「与信限度額管理」や「信用調査」、「内部監査室の設置」など、上場企業の内部統制システム上欠くことのできない機能や機関が整備されていなかったことが、経営トップによる架空売上の計上という粉飾決算につながったという見方もあるかもしれないが、本件は、「2期連続の赤字」「2期連続の債務超過」を避けて上場を維持するためには、法律違反も辞さないと判断した経営トップの資質に問題があり、「現行役員の大幅な刷新」が実現できれば、再発防止策としては、十分なのかもしれない。 なお、公表されている最後の有価証券報告書(平成28年3月期)の記載によれば、コーポレートガバナンス体制図の中に、括弧書きながら、「経営監査部」という文字があり、内部監査が実施されていることになっている。この点、「内部監査室が設置されていない」という第一次報告書の評価とは異なっているのであるが、もし、第一次第三者委員会の評価が正しいのだとすれば、平成28年3月期有価証券報告書提出後、体制が変わったのか、有価証券報告書の記載に虚偽があったのかということになろうが、第一次報告書にはそこまでの記載はない。   【追加調査に対する中間報告書】 1 追加調査に至った経緯 6月23日、第一次第三者委員会による調査報告書の受領を公表した郷鉄工所は、受領から5日後に当たる同月28日、「(経過)第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」というリリースを出して、第一次第三者委員会の調査の対象となった2つの事案以外の調査対象事案についても調査を行い、過年度決算に与える影響を明らかにすることが必要であるとして、あらためて第三者による調査を行うことを公表した。 具体的な調査対象については、次のとおりの説明があった。 一方、追加調査に対する第三者委員会による中間報告書(以下、7月31日に設置された追加調査に対する第三者委員会を「第二次第三者委員会」、8月8日公表された追加調査に対する第三者委員会による中間報告書を「中間報告書」とそれぞれ略称する)では、第二次第三者委員会の設置経緯について、郷鉄工所の会計監査人より、次の指摘を受けた旨の説明がされている(中間報告書p.1)。 2 追加調査結果の概要 (1) 限られた期間内での調査 郷鉄工所は、有価証券報告書提出期限延長承認後の提出期限である平成29年7月31日にも第86期有価証券報告書の提出ができていないため、同年8月10日までに有価証券報告書の提出ができなかった場合には、上場廃止基準に該当することになる。 第二次第三者委員会は、同日までに有価証券報告書を提出することを前提に、主に平成29年3月期の決算に直接的な影響を及ぼす可能性のある項目に限定して調査・検討を行った結果を報告することとして、事実関係の調査を実施し、会計処理上の問題点等に関する検討を行った結果について中間報告を提出することとした。 その結果、調査期間は、実質1週間というきわめて短い期間となった。 (2) 社内調査対象13件に関する評価 社内調査対象案件の多くは、郷鉄工所が有する債権について、貸倒引当金をどの時期にどれだけの割合で設定するかが問題となっていたものである。 第二次第三者委員会の調査結果の結論部分だけをまとめると、次のとおりとなる。 (3) 平成29年3月末における資産譲渡取引における特別利益の計上 郷鉄工所は、平成29年3月期決算において、調査対象となった2件のリリースによって、自社が保有している不動産や棚卸資産を帳簿価額より高値で債権者(4社+1個人)に対して譲渡することにより、10億8,200万円の借入金を相殺するとともに、多額の特別利益を計上することとしていた。 第二次第三者委員会は、こうした譲渡契約のうち、本社工場跡地の一部などの不動産を取得して、譲渡代金と貸付債権を相殺する契約を締結した二孝建設株式会社との取引については、同社の「経済的合理性はある前提で本件資産譲渡取引に応じた」という見解も踏まえたうえで、「特別利益の計上等についての有効性に疑義を挟むべき事情は認められない」と判断した。 一方、それ以外の取引については、資産譲渡取引についての契約は、真意から行われたものと認めるには難があることは否定できず、平成29年3月期の債務超過を回避するために、真意に依らずに実施されたものとして、少なくとも、特別利益の計上の有効性及び貸付債権の消滅を認識することには強い疑義があると評価した。 3 郷鉄工所における振出手形の回収 第二次第三者委員会は、中間報告書の最後に「振出手形の回収等について」という項目を置き、「手形の管理体制に不備があるのではないかというとの疑念」を表明している。その理由として、「資産譲渡取引によって貸付債権が消滅したにもかかわらず、振り出した約束手形が回収されなかったのではないかと思われる事象」が認められたということである。 もっとも、第二次第三者委員会は、「振出手形の回収状況自体は会計上の問題に直接の影響を与える事象とも言えない」として、振出手形の回収状況に関する認定を行っていない。 もちろん、第二次第三者委員会による調査は非常に短い時日でまとめられたことから、この評価自体を批判することは難しいのだが、後述のとおり、郷鉄工所における「手形の管理体制の不備」が二度にわたる不渡りの発生、銀行取引停止処分という事態を出来させてしまったことは事実である。 4 追加調査の中止 第二次第三者委員会による中間報告書がまとめられたにもかかわらず、監査法人アリアによる会計監査は終わらなかったようで、郷鉄工所は、8月10日、「平成29年3月期有価証券報告書提出未了及び上場廃止の見込みに関するお知らせ」を公表する。 その後、8月25日において、「第三者委員会による追加調査の中止に関するお知らせ」を公表し、郷鉄工所は「当社の資金事情を踏まえ」たうえで、追加調査の中止を公表した。   【調査報告書の特徴】 郷鉄工所は、8月31日及び9月1日に約束手形の不渡りが発生し、銀行取引停止処分となった。不渡りとなった約束手形は郷鉄工所が「今後の借入を目的として振出先に預けて」いたものであり、「手形を担保とした借入は実行されていないことから、取立に持ち込まないよう交渉」していたということである。 東京商工リサーチが、9月6日付で配信した記事によれば、負債総額は55億2,000万円に達している(平成28年12月末時点)。その後、東京商工リサーチが9月11日付で配信した記事及び翌12日付で帝国データバンクが配信した記事によれば、郷鉄工所は事後処理を弁護士に一任して、自己破産申請の準備に入ったということである。 郷鉄工所が資金的に行き詰まっていたことは間違いない。7月31日、第三者委員会による追加調査費用3,000万円を借入れで賄うことを公表した後、追加調査を開始した後の8月3日には、資金の借入れを行っていた相手先から、金融機関の預金口座が仮差押えされるということをリリースし、同月18日には名古屋国税局から、23日には岐阜県西濃県税事務所から、それぞれ今後発生する売掛債権が差し押さえられるという事態に至っている。 1 第一次第三者委員会による調査対象の選定(絞り込み)と追加調査 一連の郷鉄工所のリリースを時系列に眺めていくと、郷鉄工所が、上場廃止の危機をいかにして回避するかについて、相当腐心している様子が見てとれる。 そうした中、まず疑問に思ったのが、第一次第三者委員会による調査対象の選定経緯はどのようなものであったのかというものである。 第一次報告書冒頭(p.10)には、「内部調査委員会が取り纏めた事案の中から、より重要性が高いと思われる」案件として、「X案件」「Y案件」が調査対象に選定されたとの記述がある。 このとき、郷鉄工所の会計監査人である監査法人アリアは、この選定に異議を唱えなかったのであろうか。会計監査人の立場からすれば、内部調査委員会が調査対象とした事案(結果的には15件あったことが6月28日付リリースで判明している)のすべてが解明されないと適正意見が出せないのは当然のことである。また、追加調査の必要ありとされた3月30日付及び3月31日付のリリースにしても、2期連続の経常赤字、2期連続の債務超過により上場廃止の危機が迫っている会社が出したものであるという視点で見れば、上場廃止を回避するために、一部債権者と結託して債務免除益を創出したものではないかという疑義は、容易に浮かんだはずである。 監査法人アリアが、第一次第三者委員会による調査に関して、どのような考えを有していたのか、大いに疑問に感じるとともに、第一次第三者委員会で徹底した調査を行えば、それが、すなわち上場廃止へとつながるという意識が経営者にあったのではないかという更なる疑問へとつながっていく。 2 長瀬隆雄元代表取締役社長の発信メール(第一次報告書p.111) 第一次報告書では、粉飾決算当時、代表取締役社長であった長瀬隆雄氏が発信したメールが引用されている。上場廃止を免れなくなったことを実感した経営トップの心情を知るうえで、貴重なデータであると考え引用する。 長瀬氏が代表取締役を辞任したのは、平成29年2月20日付である。まだ代表取締役社長であった当時の12月19日に、財務担当専務取締役であった田中桂一氏に送ったメールにある「会社法より会社優先をお願いします」という表現は、本音には違いないが、上場会社の社長として、許される発言とは言えまい。 また、第三者委員会の設置を取締役会で決定したことを、「潮時が来た」と評していることについて、どういう心境だったのか興味があるところだ。その後に続く「会社に未練はない」という文言からは、自らの取締役辞任のことを意味しているように読みとれるのだが、同時に、支え続けた郷鉄工所が上場廃止になることを意味しているかのようにも読める表現である。 3 名門企業の破綻 郷鉄工所の経営破綻をめぐっては、インターネット上にも様々な憶測や噂が流されており、いわゆる「事件屋」と称される人物の暗躍も指摘されている。不透明な約束手形の振り出しが命取りとなったのは事実であるが、名門企業としての知名度が、裏社会の住人に食い物にされた面があるのかもしれない。 なお、中間報告書で指摘された、「資産譲渡取引によって貸付債権が消滅したにもかかわらず、振り出した約束手形が回収されなかったのではないかと思われる事象」と不渡事故との関係については、今回の不渡りとなった約束手形を持ち込んだ2社は、資産譲渡取引の相手方ではなく、無関係であると思われることを付言しておく。 (了)

#No. 235(掲載号)
#米澤 勝
2017/09/14

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第4回】「収益の認識基準②」-契約の結合-

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第4回】 「収益の認識基準②」 -契約の結合-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第2回】において、「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)における収益認識のためのステップとして、次の5つがあることを解説した。 今回は、ステップ1の「顧客との契約を識別する」のうち「契約の結合」を解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 契約の結合 1 契約の識別 【第3回】で解説したように、収益認識会計基準(案)は、「契約」を基礎として収益認識の会計処理等を規定している。 「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めである(収益認識会計基準(案)4項)。 収益認識会計基準(案)の適用にあたっては、「当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること」などの5つの要件(前回参照)のすべてを満たす顧客との契約を識別することとされている(16項)。 2 契約の結合に関する意見 収益認識に関する会計処理を行うに際して、①個々の契約を単位とするのか、②関連する契約がある場合には複数の契約を結合すべきなのかについては、次のように議論が行われている(第349回企業会計基準委員会(2016年 11月 18日)の審議事項(4)-2、10項、11項、15項)。 そのほか、次の意見もある(第349回企業会計基準委員会(2016年 11月 18日)の審議事項(4)-2、13項、17項)。 3 契約の結合に関する規定 収益認識会計基準(案)は、複数の契約は、区分して処理するか単一の契約として処理するかにより収益認識の時期及び金額が異なる可能性があるため、収益認識会計基準(案)24項の要件を満たす場合には、複数の契約を結合して単一の契約として処理するとし、次の規定を設けている(24項、111項、130項)。 一方、契約書ベースの会計処理を認める場合には、財務諸表間の比較可能性という観点では、当該会計処理がIFRS第15号における独立販売価格に基づく配分による結果と乖離することへの懸念が聞かれていることを踏まえ、顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められる旨の要件に加え、顧客との個々の契約において定められている顧客に移転する財又はサービスの金額が、独立販売価格と著しく異なるとは認められない旨の要件を満たす場合には、契約書ベースの会計処理を認めることが考えられるがどうかとの意見があり(第359回企業会計基準委員会(2017年4月28日)の審議事項(4)-3、3項)、「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」において、次の規定が設けられている(100項~102項)。   Ⅲ 会計システム等への影響 会計システム等への影響として次のことが考えられる(「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(企業会計基準委員会、平成28年2月4日)28項~30項)。 このため、経理部以外の部署への影響についても検討することが考えられる。 (了)

#No. 235(掲載号)
#阿部 光成
2017/09/14

税理士のための〈リスクを回避する〉顧問契約・委託契約Q&A 【第1回】「顧問契約の範囲と助言義務」

税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第1回】 「顧問契約の範囲と助言義務」   弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹     Q 顧問先であるA社は、第1期(平成16年4月1日~同17年3月31日)、第2期とも消費税免税事業者であったが、第3期において、売上げに係る消費税額よりも仕入れに係る消費税額の方が多く、かつ第1期における課税売上高が1,000万円未満であったため、第2期末までに消費税課税事業者選択届出書を提出するように助言を受けていれば、約3,700万円の還付を受けることができるはずであったのに、私(税理士B)がそのような助言を怠ったとして、同額の損害賠償を請求すると言われている。 顧問契約は、概要、以下の内容にて締結している。 A社からは、今回の課税事業者選択の件に関して、特段、問い合わせを受けていないが、A社からは「問い合わせや相談を受けなくても、委嘱事務の範囲として、今回の課税事業者選択に関する制度を説明し、または注意喚起すべき義務があった」と主張されている。 実際のところ、私(税理士B)は、A社から第3期に多額の広告宣伝費を支出する可能性があることは聞いてはいたが、具体的な金額については当時、認識していなかった。 仮に、裁判となった場合、どのような判決が見込まれるのか。 また今後、類似のトラブルを回避するには、何に注意すればよいか。 A 本件では、本件顧問契約における「委嘱事務の範囲」が問題となる。 委嘱事務の範囲を確定するに当たり考慮される事情としては、①顧問契約書の文言、②契約締結に至るまでの経緯、③報酬金額の多寡、④契約締結後の実際の役務提供内容等が挙げられる。 類似の事案が問題となった東京地裁平成20年11月17日判決においても上記事情を考慮した上、以下のとおり、顧問税理士の責任を否定した。 もっとも、同裁判例では、問い合わせや相談を受けなくても、税理士が顧客に対し、本件制度について説明し、または注意喚起等を行う義務が生じる場合がありうるとし、具体的には、⑤顧客が税制を知らないことを税理士において認識している場合や容易に認識しえた場合、もしくは顧客にとって税制上有利となることを税理士が認識している場合や容易に認識しえた場合を挙げているが、同裁判例ではいずれにも該当しないと判断し、税理士の責任を否定している。 今後、類似のトラブルを回避するに当たっては、顧問契約書等において委嘱事項の範囲に明確化しておくとともに、委嘱範囲が争われる場合の上記事情を念頭に、日頃の業務経過、打ち合わせ内容等を業務日誌等において継続的に記録しておくことが重要といえる。 例えば、次のような規定を設けることで、顧問契約の範囲、助言義務の存否、顧問料の範囲内外をより明確化することができる。 ただし、このような規定を設けても、上記⑤に該当する事情が存在する場合には責任を問われることはありえるため注意が必要である。 (了)

#No. 235(掲載号)
#米倉 裕樹、元氏 成保、橋森 正樹
2017/09/14

民法(相続関係)等改正「追加試案」のポイント 【第3回】「追加試案で新たに示された改正内容(その2)」

民法(相続関係)等改正「追加試案」のポイント 【第3回】 「追加試案で新たに示された改正内容(その2)」   弁護士 阪本 敬幸   前回に引き続き、追加試案で示された改正内容及びその要点について説明する。   3 ③遺産の一部分割 解 説 (ア) 現行法上も、残余遺産について審判事件が引き続き継続する前提で、遺産の一部を分割する審判は可能である(家事事件手続法73条2項。「家庭裁判所は、家事審判事件の一部が裁判をするのに熟したときは、その一部について審判をすることができる。」)。  上記追加試案は、残余遺産については審判が継続せず、事件が終了する(すなわち全部審判)場合で、当事者が現時点で残余遺産の分割を希望していないようなときを想定している。  中間試案では、遺産の一部について先に分割の必要がある場合に、相当と認められるときには、家庭裁判所が一部分割の審判をできるとされていたが、遺産の残部については分割しない旨の審判(却下)となることが想定されていた。しかし、このような取扱いは、遺産分割の申立てをした当事者の裁判を受ける権利等との関係で問題ではないかといった意見があり、見直された結果、上記追加試案となっている。 (イ) 上記追加試案(1)について、現行民法907条1項は、共同相続人が、「その協議で、遺産の分割をすることができる」としており、一部分割については触れていないところ、一部分割できるということを明文化するものである。 (ウ) 上記追加試案(2)前段は、現行民法907条2項の「その分割を家庭裁判所に請求することができる」とされているところ、「その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる」として、一部分割できるということを明文化するものであり、(1)同様である。 (エ) 一般に、一部分割によって遺産全体の適正な分割が不可能とならない場合に、一部分割は許容されると解されている。上記追加試案(2)後段は、一部分割により最終的に適正な分割を達成できるという明確な見通しが立たない場合には、仮に当事者が同意していたとしても、一部請求自体できないということを明らかにするものである。 (オ) 上記(ア)で述べたように、本提案は当事者が現時点で残余遺産の分割を希望していないような場合、すなわち全員の同意の下で一部分割の審判が行われることを想定したものであり、現在の実務に近い。   4 ④相続開始後の共同相続人による財産処分に関する方策 解 説 (ア) 共同相続された相続財産は原則として共有となり(民法898条)、共有状態の解消のために遺産分割手続(民法907条)が定められている。そして共同相続人は、相続によって取得する遺産の共有持分を遺産分割前に処分することは禁じられていない。  このため下記の〔例〕のように、遺産分割前の共有持分の処分により、処分者の最終的な取得額が、処分がなかった場合よりも増加する場合がありえる。しかもこのような処分行為は、法的に問題はなく、他の相続人が不法行為・不当利得等の請求を行うことも困難である。  上記追加試案は、遺産分割前に遺産が逸出したとしても、このような不公平が生じないようにすることを図るものである。 (イ) 【甲案】は、遺産分割前に遺産が逸出した場合、遺産分割時点で、なお遺産が存在するものとみなすとするものである。すなわち、なお遺産が存在するものとみなした上で、遺産分割の審判をすることを予定している。 (ウ) 【乙案】は、遺産分割前に遺産が逸出した場合に、遺産が逸出したことにより減った具体的相続分について、償金請求ができるとするものである。これは、一般の民事訴訟手続により解決することを予定している。 (エ) 【甲案】は審判手続の中での不公平を是正する点で、【乙案】は訴訟手続の中で不公平を是正する点で、それぞれに問題点が指摘されている(【甲案】については、遺産の処分の有無といった事実関係に争いが生じることが想定されるのに、審判では尋問等の手続が予定されていない点や、審判に既判力がない点が問題として指摘されている。【乙案】については、遺産分割審判と訴訟の双方で具体的相続分の審理が行われ、訴訟経済・結論の統一性の点等で問題があると指摘されている)。  民法(相続関係)部会では、【乙案】については、より慎重な意見が出されているようである。 *  *  * 次回も引き続き、追加試案で示された改正内容について説明する。 (了)

#No. 235(掲載号)
#阪本 敬幸
2017/09/14
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