酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第63回】 「条文の『見出し』から租税法条文を読み解く(その3)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅲ 租税条約の解釈と見出し 法律の解釈に当たって、見出しが1つの参考情報になり得ることは上記のとおりである。 裁判所の判断や、訴訟における当事者の主張の中でもそうした点が散見される。 次に、租税条約の解釈に見出しが与える影響について、東京地裁平成22年12月3日判決(訟月57巻6号1972頁)を基に確認しておこう。 本件は、原告が、米国法人であるB社に対して平成16年7月23日に支払った同年1月ないし5月分の特許等使用料について、支払の際に所得税の源泉徴収義務があるとして、処分行政庁から源泉所得税に係る納税告知処分等を受けたことに対し、本件特許等使用料については「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」(平成16年条約第2号。同年3月20日発効。以下「新日米租税条約」という。)12条1項が適用され、原告は源泉徴収義務を負わないにもかかわらず本件各処分がされたのは違法であるとして、その取消しを求める事案である。 ここで、前提として、簡潔に当時の日米租税条約の要約を確認しておきたい。 本件の争点は、新日米租税条約30条2項(以下「本件規定」という。)にいう「7月1日以後に租税を課される額」の意義である。 かかる意義について、課税庁側は、外国法人の課税要件が充足される時点、すなわち、所得税法178条《外国法人に係る所得税の課税標準》の「支払を受けるべき」時点が7月1日以後である金額をいうと主張したのに対し、原告は、「現実の支払時」が7月1日以後である金額をいうと反論した。 これら両者の主張について、東京地裁は次のように述べ、原告の主張を排斥し、本件各処分を適法なものと判断した。 つまり、東京地裁は、本件規定の「租税を課される」とは、源泉徴収義務を負担することではなく、所得税の納税義務を負担させられることを意味するものというべきとし、「7月1日以後に租税を課される額」の意義について次のように示す。 要するに、東京地裁は、実際の特許権等使用料の支払時を基準にして、「7月1日以後に租税を課される額」を判断するのは妥当でないとして、納税者の主張を排斥したのである。 ところで、このような原告の主張の根拠は、所得税法212条《源泉徴収義務》が、非居住者又は外国法人に対し国内源泉所得の支払をする者に対し、その「支払の際」に、源泉徴収義務を課しているところにある。 これに対して、課税庁側の主張の根拠は、所得税法178条が、外国法人に対して課する所得税の課税標準について、その外国法人が「支払を受けるべき」国内源泉所得の金額としているところにある。 この両者の主張の対立について、東京地裁は次のように述べている。 このように、被告が主張の根拠とする所得税法178条の「外国法人に係る所得税の課税標準」という見出しや、原告主張の根拠である同法212条の置かれた章が「非居住者及び外国法人の所得に係る源泉徴収」であることなども勘案し判断が下されていることに着目しておきたい。 Ⅳ 通達の解釈と通達見出し 続いて、法律の見出しではないが、通達の見出しも確認しておこう。 東京地裁平成29年1月19日判決(裁判所ウェブサイト)は、通達の見出しに関心を寄せている。 債権放棄の寄附金該当性が争点とされた同事件において、東京地裁は、法人税基本通達9-4-1《子会社等を整理する場合の損失負担等》について、次のように説示している。 本件の判断結果の妥当性についてはひとまず措くとして、本件東京地裁が、法人税基本通達9-4-1及び9-4-2を法律のごとく扱っているように見受けられる点については議論のあるところであろう(例えば、東京地裁は、「本件債権放棄額については、基本通達9-4-1の適用を受けるものではなく、同通達9-4-1所定の基準により又はこれに準じて法人税法37条1項所定の寄附金の額に該当しないものとして損金算入を認めることはできないというべきである。〔下線筆者〕」などとしているが、本来、法律に準ずるのが通達であることに鑑みれば、どこかその位置付けが逆転しているように見えなくもない。)。 東京地裁は、法人税基本通達9-4-1がその見出しで「整理」としており、同9-4-2の見出しが「再建」としていることに着目し、既に解散し整理された本件子会社については、法人税基本通達9-4-2の対象たり得ないとする。 このような通達の見出しに着目した判断は果たして妥当といえるであろうか。 最後に、それに対する答えとして法人税基本通達前文「法人税基本通達の制定について」を引用しておきたい。 結びに代えて 条文見出しは、単なる「インデックス」であろうか。 条文見出しの改正も国会審議の対象とされている点を踏まえれば、条文見出しを軽視することは到底できないように思われる。 また、実質所得者課税の原則の改正経緯に照らして検討したように、法律が採用している考え方を端的に表しているものこそ条文見出しであるともいい得るのであって、条文見出しが租税法条文の解釈に与える影響は無視できないものであろう。 それを裏付けるように、多くの裁判例において、判断の1つの材料として条文見出しが用いられていることも本稿で確認したとおりであり、条文見出しを単なる便宜にすぎないインデックスと位置付けることは誤りであるといえよう。 ところで、金子宏教授がその著書の中で、「著者は、本書の古い版では、ストック・オプションの行使益は雑所得にあたる旨を述べたことがあるが、租特第2章第3節のタイトルにかんがみ、現在は給与所得にあたると考えている。」と説明される箇所がある(金子『租税法〔第22版〕』237頁(弘文堂2017))。 ここにいう租税特別措置法第2章第3節の見出しは「給与所得及び退職所得」であるが、金子教授は、こうした見出しなどから、「法の考え方」を探られているのかもしれない。 もっとも、条文見出しを法解釈に利用するに当たって気を付けなければならない点として、その見出しが「正式な見出し」であるか否かの確認が必要なことを最後に指摘しておこう。 六法全書では、利用者の立場や便宜を考えて、正式には見出しの付いていない法令にも出版社(編集者)の方で見出しを付けている例がある。一番分かりやすい例が憲法である(憲法の条文に見出しは無い。)。 条文の解釈においては、このような見出しと、本来法令に付されている見出しとを混同しないようにしなければならない(林修三『法令用語の常識〔第3版〕』157頁(日本評論社2007))。 以下は、憲法第7章「財政」に関する各六法全書の出版社別の見出しの例である(平野敏彦「憲法の条文見出し」広島法科大学院論集10号92頁)。 なお、憲法30条はすべての六法全書において「納税の義務」とされている(平野・前掲稿82頁)。 さて、編集者が条文見出しをすべての収録法令に付け、そのことを当該六法の特色として主張した最初は、有斐閣『六法全書』昭和23年版といわれている(平野・前掲稿71頁)。この六法は戦後初の六法であるが、編集責任者である我妻栄博士らの「はしがき」によると、ここでは検索の便宜が意識されていたという(平野・前掲稿71頁)。 最後に余談ではあるが、有斐閣が現在発行する六法の凡例によると、正式な条文見出しは「(〇〇〇)」とされ、編集者が便宜上付けたものは「【〇〇〇】」で表記されている旨が説明されている。 法令を調べるときには、「正式な条文見出し」と「便宜上の条文見出し」を混同しないように気を付けなければならないが、正式な条文見出は、法令の解釈に当たって重要な参考情報と位置付けるべきであろう。 (了)
平成30年度税制改正における 『組織再編税制・M&A税制』改正事項の確認 公認会計士 佐藤 信祐 1 概要 昨年(平成29年)12月14日に公表された与党税制改正大綱で示された組織再編税制及びM&A税制の改正概要は以下の通りである。 税制改正大綱のみから読み取れる内容については、既に本誌掲載の下記拙稿において解説を行った。本稿では、改正後の法律、政令から読み取れる内容を確認したうえで、実務上の留意事項について解説を行う。なお、上記のうち(1)(3)については、税制改正大綱に記載されている以上の情報はなかったため、本稿では、(2)について解説を行うこととする。 また、平成29年度税制改正における組織再編税制の改正事項については、下記拙稿を参照されたい。 2 税制適格要件の見直し 与党税制改正大綱75頁では、組織再編税制の見直しとして、以下のものが列挙されている。 このうち、①については、平成29年度税制改正により、単独新設分社型分割又は単独新設現物出資後に、分割承継法人株式又は被現物出資法人株式の適格株式分配を行うことが見込まれている場合には、完全支配関係継続要件を当該適格株式分配の直前までとする改正が行われていたが、平成30年度税制改正では、完全支配関係がある法人間で行われる組織再編成の後に適格株式分配を行うことが見込まれている場合についても、特例が定められた。 例えば、同一の者による完全支配関係がある法人間の合併に対しては、合併後に合併法人株式を対象とする適格現物分配が行われた場合の取扱いが定められている(法令4の3②二)。しかしながら、スピンオフ税制の適用はかなり限定的であり、実務上、利用される事案はほとんどないと思われる。 次に、②については、50%超100%未満グループ内の組織再編成、共同事業を営むための組織再編成を行った場合において、合併法人等に移転した従業者、事業を当該合併法人等の100%グループ内の法人に移転したとしても、従業者引継要件、事業継続要件を満たすこととされた。さらに、改正法人税法、同法施行令を見ていると、二段階組織再編成により合併法人に移転した従業者、事業を当該合併法人の100%グループ内の法人に移転した場合についても同様に取り扱われている。 そして、③については、現行法上、無対価組織再編成は、原則として非適格組織再編成として位置付けながらも、対価の交付を省略した場合として、法人税法施行令に列挙されたもののみを適格組織再編成として認めている。しかしながら、法人税法施行令に列挙されたものは、対価の交付を省略した場合のすべてを想定したものとは言い難く、株式交付型組織再編成を選択しないと非適格組織再編成に該当してしまうものも少なくない。 そのため、合併を例に挙げると、被合併法人の株主と合併法人の株主が等しい場合には、適格合併として認める改正が行われている(法令4の3②二)。なお、法人税法施行令4条の3第2項2号ハ及びニに規定されていた「合併法人及び当該合併法人の発行済株式等の全部を保有する者が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係」「被合併法人及び当該被合併法人の発行済株式等の全部を保有する者が合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係」はそれぞれ文言が削除されたため、適格合併の対象から除外されているようにも思える。しかしながら、同号ロにおける被合併法人の株主と合併法人の株主が等しいかどうかの判定上、被合併法人及び合併法人を除外して判定することとされており、結果的に、上記の2つを包括した内容となっているため、今まで認められていた無対価組織再編成が認められなくなったという不都合はない。 なお、実務上、適用される場面は稀であると思われるが、被合併法人の株主と合併法人の株主が等しい場合において、グループ内の適格合併の要件を満たさないときであっても、事業関連性要件やその他の要件を満たせば、共同事業を営むための適格合併の要件を満たすことができるように改正がなされている(法令4の3④柱書)。 そのほか、対価の交付を省略したと認められる非適格の無対価組織再編成についても、その取扱いが明確化された。以下では、合併を例に挙げたうえで改正事項を列挙することとする。 このように、無対価の非適格組織再編成の計算では、第三者による資産評定に委ねられる部分が多く、やや奇異な印象を受ける。資産評定の結果、株式を交付する非適格組織再編成と異なる数値になり得るからである。この点については、夏頃に公表される『改正税法のすべて』を確認する必要があると思われる。 そのほか、④に記載されている通り、上記以外にも、全部取得条項付種類株式又は株式併合によるスクイーズアウトについて、1株未満の端数の代り金として交付した金銭について、金銭等不交付要件に抵触しないことが明確化されている(法法2十二の十七)。 3 むすび 今回の組織再編税制の改正は、単なる平成29年度税制改正の追加的な修正に留まらず、今までの実務で問題とされていたことを、なるべく解決しようとする財務省主税局の意図が感じられる。 しかし、依然として、現行組織再編税制は問題が多く、修正すべき点も少なくない。そのため、今後も、組織再編税制の見直しが行われることが予想される。例えば、省略型以外の無対価組織再編成についても適格組織再編成として位置付ける余地はあり得るし、二段階組織再編成についても、さらなる整備が必要であると思われる。 本稿が、組織再編税制に携わる方々のお役に立つことができれば幸いである。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第33回】 公認会計士 佐藤 信祐 《第5章》 平成18年度税制改正 1 概要 平成18年度税制改正では、①会社法の制定に伴う整備、②株式交換等に係る税制、③新株予約権を対価とする費用等、④欠損等法人、⑤資産調整勘定が、組織再編・資本等取引に関する税制の主要な改正事項として挙げられる。さらに、会社法改正における合併等対価の柔軟化の施行が1年遅れたため、平成19年度税制改正において、合併等対価の柔軟化に対応した改正がなされている。 後述するように、平成18年度税制改正は、組織再編税制を大きく変えた改正であったということが言える。その後、組織再編税制を大きく変えた改正は、グループ法人税制が導入された平成22年度税制改正である。そのため、本連載では以後、①平成18年度税制改正から平成21年度税制改正、②平成18年度から平成21年度までに公表された財務省及び国税庁の解説、③平成18年度から平成21年度までに公表された実務家の解説という順番で解説を行うこととする。 2 会社法の制定に伴う整備 (1) 資本の部の整備 ① 資本の部の構成 平成18年度から施行された会社法に対応し、平成18年度税制改正では、組織再編・資本等取引について大幅な改正がなされている。 まず、資本の部の取扱いについて、資本金等の額は法人が株主等から出資を受けた金額と、利益積立金額は法人の所得の金額で留保している金額と法律でそれぞれ概念が明確化されるとともに、資本金等の額及び利益積立金額の細目について、政令に委任されることになった(※1)。そして、「資本等の金額」という表現が「資本金等の額」に改められている。 (※1) 『平成18年版改正税法のすべて』241頁。 これに対し、企業会計では、「資本の部」に代え、「純資産の部」と表現するとともに、新株予約権、繰延ヘッジ損益等が含まれるようになったが、法人税法では、新株予約権も繰延ヘッジ損益も、資産又は負債の帳簿価額に含まれることになった(※2)。 (※2) 前掲(※1)245-246頁。 ② 自己株式 平成18年度税制改正では、自己株式の取得等をした段階で、資産には計上せずに、資本金等の額及び利益積立金額の減算要因として処理することになった。そのため、自己株式の交付を行った場合には、新株を発行した場合と同様に、資本金等の額の増加として処理されることになる。 なお、自己株式の交付をした場合には、法人税法施行令8条1項1号の適用を受けることになるが、例外事由がいくつか設けられている。これは、(ⅰ)増加資本金等の額の規定が別に設けられていることを理由とするものと、(ⅱ)増加資本金等の額を零とすることを理由とするものに分けられる(※3)。 (※3) 前掲(※1)247頁。 前者には、(イ)新株予約権の行使によりその行使をした者に自己の株式を交付した場合、(ロ)取得条項付新株予約権又は取得条項付新株予約権が付された新株予約権付社債の取得の対価として自己の株式を交付した場合(譲渡損益が計上されない場合に限る)、(ハ)合併、分割、適格現物出資、株式交換又は株式移転により被合併法人の株主等、分割法人(又は分割法人の株主等)、現物出資法人、株式交換完全子法人の株主又は株式移転完全子法人の株主に自己の株式を交付した場合、(ニ)適格現物出資に該当しない現物出資(法人税法62条の8の適用を受けるものに限る)により現物出資法人に自己の株式を交付した場合が挙げられる。 そして、後者には、(ホ)適格分社型分割又は適格現物出資により分割承継法人又は被現物出資法人に自己が有していた自己の株式を移転した場合、(ヘ)株式交換又は株式移転により自己が有していた自己の株式を株式交換完全親法人又は株式移転完全親法人に取得された場合(金銭等が交付されないものに限る)、(ト)組織変更により株式を発行した場合、(チ)取得請求権付株式、取得条項付株式又は全部取得条項付種類株式の請求権の行使、取得事由の発生又は取得決議による取得の対価として自己の株式を交付した場合(譲渡損益が計上されない場合に限る)、(リ)株主等に対して新たに金銭の払込み又は金銭以外の資産の給付をさせないで自己の株式を交付した場合(ex.株式分割又は株式無償割当て)が挙げられる。 これに対し、前述のように、自己株式の取得等をした場合には、資本金等の額及び利益積立金額の減算要因として処理することになった。この改正により、自己株式の取得のために要した付随費用は、損金の額に算入されることになった(※4)。しかしながら、自己株式の存在自体が否定されるものではないため、「発行済株式」という文言は、自己株式を除く旨の規定がない場合には、自己株式を含めた概念となる(※5)。 (※4) 前掲(※1)248頁。 (※5) 前掲(※1)248-249頁。 なお、減少する資本金等の額の計算方法であるが、以下のように行うことになる。 (a) みなし配当が生じる場合 株主サイドでは、自己株式の取得により金銭及び金銭以外の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が発行法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった自己株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額については、みなし配当として取り扱われることになった。 すなわち、資本金等の額が50,000千円の内国法人が10%の自己株式の取得をした場合には、当該自己株式に対応する資本金等の額は5,000千円(=50,000千円×10%)であるため、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が200,000千円であるときは、195,000千円がみなし配当として取り扱われる。その結果、発行法人サイドでも、5,000千円が減少資本金等の額として取り扱われ、195,000千円が減少利益積立金額として取り扱われることになる(平成18年法令8①二十、9①七)。 (b) みなし配当が生じない場合 例えば、金融商品取引所が開設する市場内で自己株式を取得した場合には、みなし配当が生じないこととされている(法令23③一)。このような場合には、取得の対価として交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額がそのまま資本金等の額の減算要因として取り扱われることになる(平成18年法令8①二十一柱書)。 (c) その他 そのほか、法人税法施行令8条1項21号では、(ⅰ)適格合併、適格分割又は適格現物出資による被合併法人、分割法人又は現物出資法人からの移転、(ⅱ)剰余金の配当若しくは利益の配当若しくは剰余金の分配、解散による残余財産の分配又は合併による合併法人からの交付、(ⅲ)合併法人が合併の直前に有していた被合併法人株式又は合併により被合併法人から移転を受けた資産に含まれていた被合併法人又は他の被合併法人の株式、(ⅳ)分割承継法人が分割型分割の直前に有していた分割法人の株式又は分割型分割により分割法人から移転を受けた資産に含まれていた分割法人若しくは他の分割法人の株式、(ⅴ)組織変更により当該組織変更をした法人の株式に代えて自己の株式の交付を受けた場合についてそれぞれ規定された。 このうち、(ⅱ)については、対価性のない行為であることから、みなし配当の額が生じないため、平成22年度税制改正により導入された適格現物分配に該当する場合を除き、その取得の時の価額が資本金等の額の減算要因として処理されることになる(※6)。 (※6) 前掲(※1)249-250頁。 * * * 次回では、引き続き資本の部の改正について解説を行う予定である。 (了)
〔平成30年4月1日から適用〕 改正外国子会社合算税制の要点解説 【第5回】 「経済活動基準①」 -事業基準・実体基準・管理支配基準- 税理士 長谷川 太郎 1 押さえておきたいポイント 2 概要 経済活動基準は、ペーパー・カンパニー等の特定外国関係会社以外の外国関係会社で、租税負担割合が20%未満の場合に、会社単位の合算課税が適用されるか、部分合算課税が適用されるかどうかを判断する際の基準となっている。 条文上の構成は、経済活動基準 ⇒ 租税負担割合という順に規定されているが、租税負担割合 ⇒ 経済活動基準の順で判断を行った方が、事務負担が軽減されるケースが多いので、おそらく実務上はそのような順序で対応をすることになると考えられる。 また、条文上、経済活動基準の規定は、対象外国関係会社の定義の中で規定されており、経済活動基準のいずれかに該当しない外国関係会社(特定外国関係会社に該当するものを除く)が、対象外国関係会社と定義されている(措法66の6②三)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 経済活動基準は、改正前の適用除外基準と基本的に同様の構成(①事業基準、②実体基準、③管理支配基準、④非関連者基準または所在地国基準)となっている。各基準の改正の概要は以下の通りである。 なお、経済活動基準は改正前と同様に、外国関係会社の事業年度末ではなく、事業年度を通じた状況で総合的に判断を行うことになる。 【経済活動基準の基準ごとの改正の概要】 上記の各基準の改正の他、決算書については改正前と同様に確定申告書への添付が必要となるが、別表添付要件は廃止され、ペーパー・カンパニーと同様に推定規定が設けられている(次回参照)。 3 事業基準 事業基準は、外国関係会社で事業を行うことについて積極的な経済合理性を見出すことが困難とされる業種を限定列挙し、事業基準を充足しない事業として規定しているものである。 今回の改正により、航空機の貸付けを主たる事業とする外国関係会社のうち、以下の要件を満たすものは事業基準を充足する(措法66の6②三イ、措令39の14の3⑪)とされている。 なお、上記①の「通常必要業務従事基準」における「通常必要と認められる業務の全てに従事している」ことについては、今回の改正により新設された通達(措通66の6-16)において、業務委託(補助業務以外の業務の委託にあっては、外国関係会社が仕様書等を作成し、又は指揮命令している場合に限る)をしている場合も含まれることが明らかにされている。 また、本年1月に国税庁より公表されている「平成29年度改正に係る外国子会社合算税制に関するQ&A」のQ9「事業基準から除外される航空機リース会社における「通常必要と認められる業務」の範囲」及びQ10「通常必要と認められる業務の全てに従事しているかどうかの判定」も併せて参照されたい。 4 実体基準及び管理支配基準 「実体基準」は、独立した企業としての活動の実体を有しているかどうかを判断するための基準であり、その本店所在地国においてその主たる事業を行うに必要と認められる事務所等の固定施設を有していることが求められている。また、「管理支配基準」は、会社の機能面から独立した企業としての実体があるかを判定する基準であり、その本店所在地国において、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていることが求められている。 【第3回】で解説をしている特定外国関係会社の1つであるペーパー・カンパニーについては、「実体基準」及び「管理支配基準」のいずれも充足しない場合に該当するとされている(措法66の6②イ)。ペーパー・カンパニーの判定における「実体基準」及び「管理支配基準」は経済活動基準における「実体基準」及び「管理支配基準」と基本的に同じ内容となっているが、ペーパー・カンパニーの判定における「実体基準」については、固定施設の所在地が本店所在地国に限定されていないことに留意されたい。 ① 実体基準 実体基準の改正については、保険業の特例規定(「③保険業に係る特例」参照)があるが、その他に通達に「主たる事業を行うに必要と認められる事務所等の意義(措通66の6-6)」が新設されている。その中で、「実体基準の判定におけるその主たる事業を行うに必要と認められる事務所等を有していること」とは、「外国関係会社がその主たる事業に係る活動を行うために必要となる固定施設を有していることをいい、実体基準の適用に当たっては、次のことに留意する」と規定されている。 また、「平成29年度改正に係る外国子会社合算税制に関するQ&A」において、実体基準に関連して以下のQ&Aが公表されているため、併せて参照されたい。 上記通達及びQ&Aを踏まえると、事務所等は「主たる事業」を行うに必要な固定施設を有しているかどうかで判断され、必要となる固定施設は各外国関係会社の主たる事業の内容によって個別に判断をされることになる。また、固定施設は関係会社の一室を賃借していても、それが「主たる事業」の内容等に照らして十分な固定施設であれば認められる一方で、「主たる事業」が本来は固定施設を要しないような事業であれば、形式的に事務所等を賃借していたり、従たる事業の目的で事務所を賃借していたとしても実体基準は充足しないこととなる。 ② 管理支配基準 実体基準と同様に管理支配基準の改正については、保険業の特例規定(「③保険業に係る特例」)があるが、その他に、通達に「自ら事業の管理、支配等を行っていることの意義(措通66の6-7)」が新設されている。 その中で、管理支配基準の判定における「その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること」とは、「外国関係会社が事業計画の策定等を行い、その事業計画等に従い裁量をもって事業を執行することであり、これらの行為に係る結果及び責任がその外国関係会社に帰属していることをいうが、次の事実があるとしてもそのことだけでこの要件(管理支配基準)を満たさないことにはならない」としている。 また、「平成29年度改正に係る外国子会社合算税制に関するQ&A」において、管理支配基準に関連して以下のQ&Aが公表されているため、併せて参照されたい。 上記通達及びQ&Aを踏まえると、以下のように整理される。 ③ 保険業に係る特例 保険業を営む一定の外国関係会社(特定保険外国子会社等または特定保険委託者)の実体基準及び管理支配基準の判定について、その保険委託者の保険業に関する業務を受託する者で一定の要件を満たすもの(特定保険協議者または特定保険受託者)が実体基準及び管理支配基準を満たしている場合には、当該保険業を営む一定の外国関係会社は、実体基準及び管理支配基準を満たすこととされた。 改正前は、英国ロイズ市場において保険引受子会社と管理運営会社を別会社とした上で、これらを一体として保険業を営む場合には、一体として判断を行うこととされていたが(旧措令39の17⑤⑥)、今回の改正により適用範囲が拡大され、英国ロイズ市場以外でも同様の事業実体であれば、同様の判断をするとされている(措令39の14の3⑫⑬)。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第35回】 「専ら相続税節税の目的でなされた養子縁組事件」 ~最判平成29年1月31日(民集71巻1号48頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第56回】 「記載金額1万円未満の第1号又は第2号文書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 次のような記載の契約書(注文請書)は、非課税文書に該当しますか。 上記の事例は、加工委託を請け負った際に作成する注文請書で、前月売上分の加工代金を受領した旨も記載されているため、第2号文書と第17号文書に該当するが、通則3イの規定により、第2号文書に該当する。ただし、第2号文書と第17号文書について記載金額がともに非課税金額のため、非課税文書に該当することとなる。 [検討1] 所属の決定 第2号文書と第17号文書に該当した場合、通則3イの規定を図示すると以下のとおり。 事例の場合は、第2号文書に該当する。 [検討2] 課税物件表の第1号及び第2号の非課税 第1号及び第2号文書は、記載金額が1万円未満であっても通則3の規定が適用され、第1号又は第2号に所属が決定されたものは非課税とならないとされている。ただし、以下の場合は非課税となる。 [検討3] 非課税に該当しない例 [検討2]を踏まえ、例えば本事例において、第2号文書の加工請負が9,000円、第17号の1文書の受取金額が6万円とすると、第2号文書に該当し、第2号文書としての記載金額が1万円未満であるものの、非課税規定は適用されない。 ▷まとめ 第1号文書及び第2号文書は通則3の規定が適用され、第1号又は第2号に所属が決定されたものは非課税とはならないとされているが、記載金額1万円未満の非課税規定は、零細な取引に関しての文書は課税対象としないという趣旨から設けられたものであり、非課税であることが相当であるという取扱いがなされている。 (了)
連結会計を学ぶ 【第16回】 「子会社株式の追加取得」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに ある会社の発行する株式を取得して支配を獲得し連結子会社としたのち、さらに当該連結子会社の株式を追加取得することがある。 今回は、子会社株式の追加取得に関する会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 子会社株式の追加取得 1 基本的な会計処理 子会社株式を追加取得した場合には、追加取得した株式に対応する持分を非支配株主持分から減額し、追加取得により増加した親会社の持分(以下「追加取得持分」という)を追加投資額と相殺消去する(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)28項、「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)37項)。 この際、追加取得持分と追加投資額との間に生じた差額は、資本剰余金として処理する(連結会計基準28項)。 子会社株式を追加取得し、持分が変動する場合、非支配株主持分にも評価差額が計上されていて、支配獲得後は時価による評価替えを行わないため、追加取得前の非支配株主持分のうち追加取得持分に相当する額をそのまま非支配株主持分から親会社持分へ振り替えることになる(資本連結実務指針39項)。 この場合、増額する追加取得に係る親会社持分額及び減額する非支配株主持分額は等しいため、減額する非支配株主持分額(=増額する親会社持分額)と追加投資額との差額が資本剰余金となる(資本連結実務指針39項)。 2 考え方 平成20年12月に公表された「連結財務諸表に関する会計基準」では、子会社株式を追加取得した場合に、投資と資本の相殺消去の結果、借方に差額が生じたときは、当該差額はのれんとして処理すると規定していた。 平成25年に改正された連結会計基準では、子会社株式を追加取得した場合の親会社の持分変動による差額は、資本剰余金として処理することとされた(連結会計基準53-2項(1))。 これは、それまでの会計処理方法の問題点を最も簡潔に対応する方法が、損益を計上する取引の範囲を狭めることであるとも考えられたことによる(連結会計基準51-2項)。 3 投資と資本の相殺消去(非支配株主持分のあるケース) 設例を用いて、子会社株式の追加取得に関する会計処理を説明すると次のようになる。 親会社と子会社の個別貸借対照表は次のとおりとする。 ① 連結財務諸表における投資と資本の相殺消去 子会社株式を取得した時(80%の株式を購入:持分比率80%)、子会社の資産及び負債の簿価と時価は一致していたものとする。 連結財務諸表の作成に際して、投資と資本の相殺消去を行う。 (※) 非支配株主持分100=子会社の資本(純資産額)500(=資本金400+利益剰余金100)×非支配株主の持分比率20% ② 子会社株式の追加取得 子会社株式10%を70千円で追加取得した(既取得分80%と追加取得分10%の合計により持分比率は90%)。 (※1) 子会社株式10%を70千円で追加取得 (※2) 追加取得前の非支配株主持分残高100=子会社の資本(純資産額)500(=資本金400+利益剰余金100)×非支配株主の持分比率20% 減額する非支配株主持分50=追加取得前の非支配株主持分残高100×追加取得持分比率10%÷追加取得前の非支配株主持分比率20% Ⅲ 資本剰余金が負の値となる場合 1 会計処理 資本剰余金は、連結貸借対照表の純資産の部に表示されるので、通常、貸方に発生するものである。 ところが、支配獲得後の親会社の持分変動による差額は資本剰余金とするとされたことに伴い、資本剰余金の期末残高が負の値になる場合があり得る。 上記の設例では、子会社株式の追加取得により、資本剰余金20千円が借方に発生している。 資本剰余金が負の値となる場合、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(企業会計基準第1号)40項と同様に、連結会計年度末において、資本剰余金を零とし、当該負の値を利益剰余金から減額すると規定されている(連結会計基準30-2項、67-2項、資本連結実務指針39-2項)。 なお、連結財務諸表においては、資本剰余金の内訳を区分表示しないことから、当該取扱いは、資本剰余金全体が負の値となる場合であることに留意する(連結会計基準67-2項、資本連結実務指針39-2項)。 2 注記に関する留意点 平成29年3月31日に、金融庁が公表した「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(平成29年度)」の「別紙1」の「平成28年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」において、次の事項が記載されているので、注意が必要である。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第71回】 福井コンピュータホールディングス株式会社 「第三者委員会調査報告書(要約版)(平成29年11月1日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【第三者委員会の概要】 【福井コンピュータホールディングス株式会社の概要】 福井コンピュータホールディングス株式会社(以下「福井社」と略称する)は、コンピュータソフトウエアの開発及び販売を目的として昭和54(1979)年に設立された福井コンピューター販売株式会社が、平成24(2012)年に持株会社に移行し、商号変更を行ったものである。 連結子会社として、福井コンピュータアーキテクト株式会社(以下「アーキテクト社」と略称する)、福井コンピュータ株式会社(以下「コンピュータ社」と略称する)、福井コンピュータスマート株式会社、福井コンピュータシステム株式会社及び福井コンピュータドットコム株式会社の5社を有している。連結売上高9,970百万円、経常利益3,153百万円、従業員数453名(数字はいずれも平成29年3月期)。本店所在地は福井県福井市。東京証券取引所1部上場。 【調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 平成29年9月25日、福井社監査役会は、各取締役に宛てて、株式会社ダイテック(以下「株式会社ダイテックホールディング」及び「株式会社ダイテック」との商号であった時期も含めて、「ダイテック」と略称する(※))との業務提携事業及びそれに関連する取引を対象として調査を実施するための第三者委員会の設置を勧告した。 (※) 株式会社ダイテック、株式会社ダイテックホールディングともに、事業再編や商号変更により、同一の商号で新旧2社が存在し、また、類似の商号を使用していた時期もあるが、本稿ではすべてを総称して「ダイテック」と略称している。 この勧告を受けて、同月29日、福井社は、福井社、アーキテクト社及びコンピュータ社とダイテックとの間の取引(以下「本件取引」という)に係る、内部統制、コンプライアンス及びコーポレート・ガバナンス上の問題の有無についての調査の実施を目的として、日本弁護士連合会の企業等不祥事における第三者委員会ガイドラインに準拠するものとして、本委員会を設置した。 2 福井社の主要株主 福井社の有価証券報告書(平成29年3月期)によれば、筆頭株主は株式会社アセットマネジメント(名古屋市東区、以下「アセット」と略称する)で持株比率42.37%、次いで、株式会社LIXIL(以下「LIXIL」と略称する)が27.77%を所有している。 ダイテックの親会社であるダイテックホールディングとアセットについては、福井社取締役会長である堀誠氏(以下「堀会長」と略称する)が代表取締役の職にあるとともに、堀会長及びその親族が議決権の69.67%を保有している(報告書p.4)。また、堀会長の長男である福井社取締役の堀誠一郎氏も、ダイテックホールディングとアセットの両社で取締役に就任している。 3 福井社グループによる関連当事者取引 福井社が締結し、アーキテクト社が承継した第2位の株主であるLIXILとの間の業務提携契約、LIXILの子会社である甲社との協業と、アーキテクト社と筆頭株主の支配権を有する堀会長が代表取締役を務めるダイテックとの間の業務連携及び福井社とダイテックとの間の不動産賃貸借契約が、第三者委員会による調査の対象となった。 (1) LIXILグループとの協業 もともと、福井社とLIXIL社との間で業務提携契約を締結していたところ、その後、福井社の新設分割により設立されたアーキテクト社がこの契約を承継し、平成26年9月には、LIXILの連結子会社である甲社による甲社協議会にアーキテクト社が参加することが発表された。 福井社代表取締役社長蕗野勝(以下「蕗野社長」と略称する)が本営業協力について堀会長と面談した。面談後、蕗野社長は、関係取締役らに、「ダイテックグループから、ダイテックグループが開発・販売するサービスの販売に協力すること、甲社協議会には参加しないことが求められていること」を伝えた。しかし、顧問弁護士との協議において「営業協力休止は損害賠償も対象となり得る」との見解を得たことから、10月上旬、再度、堀会長と面談を行った結果、堀会長は大枠では甲社への営業協力に反対しなかったため、アーキテクト社は、甲社システムの開発などの業務を受託している。 (2) ダイテックとの間の協業 上記(1)の10月初旬の蕗野社長と堀会長の面談において、ダイテック・サービスに関する事業をダイテックとアーキテクト社が提携して進めていくことが確認され、アーキテクト社取締役会でも、ダイテックが開発したダイテック・サービスに関して業務提携を行うことが承認可決されている。 その後、平成27年6月1日、アーキテクト社とダイテックとの間で、ダイテック・サービスの販売に係る業務提携についての覚書が締結され、同覚書については、平成27年9月28日の福井社取締役会においても承認決議がされている。 (3) ダイテックとの間の不動産賃貸借取引その他 福井社はダイテックが所有し又は賃借している複数の建物を賃借又は転借しているほか、ダイテックのサーバを利用するためのホスティング契約を締結している。また、コンピュータ社は、ダイテックから購入したソフトウエアを販売する取引を、平成24年5月に行っていたことが判明している。 (4) 第三者委員会の認定 第三者委員会は、ダイテックグループ及びLIXILグループのどちらもが、福井社の関連当事者に該当すると認定したうえで、関連当事者取引に関して、以下の3点を検討した。 まず、ダイテックとの取引については、 などから、アーキテクト社取締役の判断の過程が著しく不合理であるともいえないとして、アーキテクト社取締役及び福井社取締役に善管注意義務は認められないと認定した。また、ダイテックとのその他の取引についても、福井社が不当な不利益や損害を被ったとの事実も認められないから、同契約の締結について同社役員の法的責任は認められないことから、福井社取締役に法的責任は認められないとした。 一方、LIXILグループとの取引については、コーポレート・ガバナンス報告書に関連当事者との取引として開示しなかったことは、有価証券上場規程の趣旨に反するものであることは否定できないと批判をしながらも、 として、取引自体が不当なものではなかったと結論づけた。 4 第三者委員会によるその他の問題点の指摘(調査報告書p.20以下) (1) 企業統治の適法性に関わる問題点 第三者委員会は、調査の過程で、福井社及びアーキテクト社の取締役会議事録が、蕗野社長が作成したうえで、出席役員の確認を得ることなく、社長室に保管してある各役員の印鑑を押印し、取締役会議事録として完成させていたことを発見する。 親族経営の中小企業ならともかく、上場会社でこのような運用が行われていることに驚くばかりであるが、蕗野社長をはじめとする取締役が、会社法第369条の規定を知らなかったとすれば、上場会社の取締役として、「法令遵守の欠如」を指弾されても仕方のないことであろう。 (2) 大株主による少数株主の利益を犠牲にする恐れのある状況 第三者委員会は、調査を必要とされることとなった関連当事者取引について、「大株主の意向に沿って少数株主の利益を犠牲にしようとしていたとの疑いを招くものであり、将来的に大株主の意向に沿って少数株主の利益を犠牲にする決定がなされかねない兆候」であるとしたうえで、福井社とそのグループにおいて、「堀会長の主観的意図に関わりなく、取締役が堀会長の意向を忖度して、少数株主の利益を犠牲にする意思決定をする類型的兆候があることは否定できない」と警鐘を鳴らしている。 (3) 基本的な法令遵守の欠如 また、上記(1)の取締役会議事録への捺印だけでなく、関連当事者との取引に関する取締役会規程がないことなどについて、第三者委員会は、福井社とそのグループでは、法令遵守の外観(コーポレート・ガバナンス報告書の提出の外形・取締役会議事録の外形)を整えればよいという意識により、会社運営を行ってきたことから、組織的に、法令遵守できる体制を構築しようとしなかったため、組織として法令についての知識が不足し、益々法令の趣旨を理解し、これを遵守するという意識も乏しくなったことが要因であると厳しく指摘している。 5 第三者委員会による提言 第三者委員会による改善策は、大きく2点である。1点目は、「大株主による少数株主の利益を犠牲にする危険」を回避するための監視システムの構築であり、2点目は法令遵守体制の整備である。 (1) 独立した取締役等による監視システムの構築 第三者委員会は、少数株主の利益が害される事態を防止するための具体的な施策として「独立性の高い社外役員のみで構成する委員会を設置し、その委員会において、主要株主との取引の状況について定期的な状況報告を受けるなどして監視するとともに、重要な意思決定については、その委員会の意見具申を求める」ことを提言している。 とはいえ、社外取締役が堀会長父子のみで、社外監査役である非常勤監査役2名のうち1名はダイテックホールディングの監査役も兼務しているという状況(平成30年4月1日現在)で、「独立性の高い社外役員のみで構成する委員会の設置」が果たして可能なのか、大いに疑問である。 (2) 法令の趣旨の実現を重視する法令遵守体制の組織的整備 また、法令遵守意識の欠如に対する施策として、「代表取締役が中心となって、内部統制システム全体が実質的に機能し、法令違反等を防止することができる仕組みになっているか否かという観点から組織的に検証し、改めて実質的に機能する仕組みを構築していくことが望ましい」としているが、具体的にどうするかまで踏み込んではいない。 【調査報告書の特徴】 第三者委員会調査報告書の開示に際して、福井社は、株式会社ダイテックとの関連当事者取引におけるコンプライアンス違反の疑義について、独立した外部の複数の弁護士等にて構成される第三者委員会を設置し、調査した結果、受領した調査報告書に違法性の指摘はなく、コンプライアンス違反には当たらないことを言明している。 確かに、上述のとおり、第三者委員会は調査報告書の結論において、「善管注意義務違反は認められない」、「法的責任は認められない」、「開示義務違反はない」としており、内部統制、コンプライアンス及びコーポレート・ガバナンス上の問題点がまったくないとは言えないまでも、関連当事者取引に関して違法性を認めなかった。 であれば、蕗野社長は何の責任を取って辞任を決めたのか。こうした疑惑に対して、残念ながら、調査報告書にはまったく言及がなかった。まさか、取締役会議事録を他の取締役の承認がないまま作成し、保管していた認印を押印していたことが辞任理由ではないだろうと思うのだが。 1 株主による臨時株主総会の招集請求 本事件の発端は、平成29年9月4日付「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」で明らかになった、筆頭株主のアセットによる代表取締役社長蕗野勝氏の解任及び新たに3名の取締役の選任を求める臨時株主総会の招集請求であったと思われる。解任理由については、「蕗野勝氏が代表取締役として、従業員の管理監督が出来ておらず経営を担う適格性を欠くこと」が挙げられていたが、詳細については、「従業員のプライバシーを侵害するおそれがある」ことから、「臨時株主総会招集通知に記載」することと説明していた。 その後、福井社は、9月29日付で、第三者委員会の設置を公表するとともに、「株主による臨時株主総会の招集請求の議案の一部取下げ及び変更に関するお知らせ」により、アセットが、代表取締役蕗野勝氏の解任議案を取り下げたことを公表した。以下、その理由を引用する。 調査報告書の中で触れられている堀会長による福井社とLIXILとの協業に対して「否定的な考え」の表明があったのは平成26年9月のことであり、それから3年を過ぎて、筆頭株主を支配する堀会長と蕗野社長の間にどのような確執があったのか、調査報告書をはじめとする公表資料からは明らかになっていない。 なお、蕗野社長は、11月7日をもって、「一身上の都合により」代表取締役社長及び取締役を辞任している。蕗野社長と同時に、取締役片岡克之氏(業務部長)の辞任が公表された。理由は同じく「一身上の都合」である。 2 相次ぐ取締役の辞任 福井社は、11月8日の臨時株主総会において、アセットの提案どおり、新たに2名の取締役を選任したものの、その後も、取締役の辞任が相次いだ。まず、11月30日をもって社外取締役の青木三郎氏が「一身上の都合により」辞任を表明し、平成30年1月31日には、取締役生田晴来氏(経理部長)が、こちらも「一身上の都合により」辞任する事態となっている。 平成29年3月期有価証券報告書提出時に7名いた取締役のうち、4名が任期途中で辞任し、臨時株主総会で2名の新任取締役を選任するという事態は、傍目では「お家騒動」「筆頭株主による会社支配の強化」といった印象を抱いてしまうわけだが、実際のところはまったく不明である。 3 LIXIL持株の一部を自己株式化 平成30年3月20日、福井社は「その他の関係会社の異動に関するお知らせ」というリリースにより、自己株式立会外買付取引により、LIXILから230万株を取得して、自己株式としたことを公表した。この取得により、LIXILの議決権所有割合は19.77%となり、福井社の「その他の関係会社」には該当しないこととなった。 福井社は、その前日公表した「自己株式の取得及び自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による自己株式の買付けに関するお知らせ」の中で、「自己株式の取得を行う理由」として、「資本効率の向上を図り、経営環境の変化に応じた機動的な資本政策の遂行及び株主還元のため」としているが、第三者委員会の言う「法令遵守の外観を整えればよいという意識」が福井社経営陣にあるのだとすれば、LIXILを開示対象である関連当事者から外すことが目的であったのではないかという、うがった見方をしてみたくもなる。 福井社の適時開示によれば、LIXILは、福井社の株式230万株を54億円あまりで売却したこととなっているが、売却による利益がどのくらいであったか、LIXILは開示していない。ただ、3月26日における、親会社の株式会社LIXILグループ「連結業績予想の修正に関するお知らせ」というリリースでは、「第4四半期に完了した資産の整理などから売却益などが認識された結果、親会社の所有者に帰属する当期利益が2017年8月21日に公表の当社グループ通期連結業績見込を上回る」という説明のもと、当期利益が470億円から570億円に増加する見込みとなったことが公表されている。このうち、どの程度の利益が福井社の株式売却によるものかは不明である。 (了)
〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第1回】 「転職した従業員が自社の情報を持ち出した場合」 弁護士 影島 広泰 -Question- 転職した従業員が、①自社の顧客リストを持ち出した場合と、②自社の事業計画を持ち出した場合で、会社が問われる責任は変わりますか? -Answer- ①は個人情報保護法の義務を果たしていたかが問われることになり、場合によっては個人情報保護委員会からの勧告・命令の対象となります。 これに対して、②の場合は、会社が義務違反を問われることは通常はありません。 1 個人情報と不正競争防止法とは? 会社が管理すべき情報には、大きく分類すると「」と「」の2種類がある。個人情報は「個人情報保護法」がこれを保護しており、営業秘密は「不正競争防止法」がこれを保護している。 まず、個人情報保護法(正式名称:個人情報の保護に関する法律)は、「個人情報」(※1)に該当する情報について、安全管理措置を講じる義務を課している。すなわち、個人情報保護法に従って安全管理措置を講じないと、個人情報保護法に違反することになってしまう。 (※1) 厳密には「個人情報」ではなく「個人データ」である。両者の違いについては後述する。 これに対し、不正競争防止法は、「営業秘密」に該当する情報について、万が一盗まれたり不正に利用されたりしている場合に、漏えい先に対して差止請求や損害賠償請求をすることができる権利を与えている法律である。 つまり、個人情報保護法は企業にであるのに対し、不正競争防止法は企業にであるという点で、方向性が真逆の法律なのである。 したがって、個人情報保護法に関して個人情報保護委員会(以下「委員会」という)が公表しているガイドラインに従って安全管理措置を講じていなければ、委員会からの勧告や命令の対象になり、命令に違反した場合などには罰則が課せられることになる。 これに対し、不正競争防止法に関して経済産業省が公表している「営業秘密管理指針」や「秘密情報の保護ハンドブック」は、これらに従って情報管理しなかったからといって罰せられたりするものではない。これらに従っておけば、万が一自社の情報が盗まれてライバル会社で不正に使用されるような事態が発生した場合に、当該ライバル会社に対して削除や損害賠償請求などができる権利が確保できるものなのである。 この権利は、裁判所の判決や命令によって確保されることになるから、経済産業省の上記の資料は、単なる参考資料に過ぎず、最終的には裁判所の判断を仰ぐことになる。 2 個人情報保護法が定める「安全管理措置」とは? (1) 規制の対象となる「個人情報」とは何か 個人情報保護法が規制の対象としている「個人情報」とは、概要以下のとおり定義されている(個人情報保護法2条1項1号(※2))。 (※2) なお、このほかに「個人識別符号」と呼ばれる生体認証の情報や役所が発行している各種の符号(免許証番号、パスポート番号、マイナンバー等)も個人情報に含まれる。 つまり、「特定の個人を識別することができる情報」が個人情報である。しばしば、氏名や生年月日が個人情報であると誤解されているが、氏名や生年月日は例示に過ぎない。氏名や生年月日が分からなくても、特定の個人を識別することができる情報であれば、それは個人情報に当たることになるのである。 例えば、筆者がコンビニに入店して防犯カメラに顔が写っているケースを考える。その映像を見た人は、筆者のことを知らなければ、そこに写っている人物が「影島広泰」という名前であるということは分からない。しかし、顔が写っている以上は「特定の個人を識別することができる」。したがって、防犯カメラの映像は個人情報なのである。 なお、若干細かい話になるが、個人情報を、(容易に)検索できるように体系的に構成したものを「個人情報データベース等」といい、個人情報データベース等を構成している個人情報のことを「個人データ」という。 例えば、取引先で名刺交換をして名刺を1枚オフィスに持って帰ってくると、その状態の名刺が「個人情報」である。その名刺の情報を、エクセル上で表形式に作った取引先一覧に入力したり、名刺そのものを五十音順の名刺フォルダに入れると、(容易に)検索できるようになるため「個人情報データベース等」となり、そこに格納されている個人情報を「個人データ」というのである。 (2) 「安全管理措置」とは 個人情報保護法20条は、個人データの管理について、以下のとおり義務を課している。 つまり、個人データを取り扱う以上は、それが漏えいしたり、滅失したり、毀損したりしないように、「必要かつ適切な措置」を講じなければならないと義務づけられている。ここでいう「必要かつ適切な措置」を「安全管理措置」と呼ぶ。 もっとも、個人情報保護法20条は、上記のとおり「必要かつ適切な措置」と一言いうだけであり、これでは具体的に何をしたらよいのか分からない。そこで、個人情報保護委員会がガイドラインを公表し、ここでいう「必要かつ適切な措置」とは何なのかを以下のように具体的に規定しているのである。 ◆個人情報保護法のガイドラインが定める安全管理措置(概要) 3 不正競争防止法で保護される「営業秘密」とは? 不正競争防止法は、保護される「営業秘密」を以下のとおり定義している。 つまり、①秘密として管理されていること()、②有用な情報であること()、③公然と知られていないこと()の3つの要件を全て満たすものが、「営業秘密」として保護の対象となる。 営業秘密の漏えいの典型例は、退職者が、顧客リストを持ち出して転職し、転職先でそのリストを使って営業攻勢をかけるというケースである。このケースにおいて、その顧客リストが「営業秘密」に該当し、一定の要件を満たした場合には、転職先の会社に対して当該顧客リストの廃棄や損害賠償請求をすることができる。 このケースについて、裁判になった場面を考えてみると、有用性や非公知性は大きな問題とならないことはお分かりいただけるであろう。転職先の会社から反論として出てくるのは、「いや、その顧客リストは、誰でも見られるようになっていて、秘密として管理されていなかった」という主張である。つまり、営業秘密として保護されるためには、「秘密として管理されている」といえるかどうか(秘密管理性)がポイントとなるのである。 * * * 次回以降、個人情報保護法の安全管理措置や、不正競争防止法の秘密管理性を満たすためにどうすればよいか、具体的に解説していく。 (了)
税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第8回】 「顧問先の取締役を兼任する場合の善管注意義務の範囲」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹 Q Aは、個人で「A工務店」の屋号で建設事業を、「A商事」の屋号で不動産賃貸業を営んでいた。Aは、平成20年に、これらの事業について法人成りしようと考え、有限会社B及び株式会社Cを設立した上で自らが両社の代表取締役に就任し、爾後、有限会社Bにおいて建設事業を、株式会社Cにおいて不動産賃貸業を営むこととし、その組織化を図った。 Y税理士は、法人成りの前からAの顧問税理士であったが、法人成りの際、改めて有限会社B及び株式会社Cとの間で税務顧問契約を締結し、両社の顧問税理士に就任した。 AのY税理士に対する信頼は厚く、平成22年頃、AはY税理士に対し、有限会社B及び株式会社Cの取締役への就任を打診した。Y税理士は、当初は多忙であることを理由に断っていたが、Aから「実際の業務をお願いするわけではなく、税務面のみならず経営面でも大所高所からのアドバイスが欲しいので、名義だけ使わせるという程度の気持ちで就任してほしい」と懇願され、結局、平成23年4月に有限会社Bの、平成25年4月に株式会社Cの取締役に就任した。 ただし、取締役といっても、Y税理士は両社に常駐するわけではなく、月に数回程度両社の事務所(同一の場所に設けられている)に赴き、Aとの間で両社の運営に関する種々の打ち合わせをする程度の事務を行うのみであった。また、Y税理士は、顧問税理士としての月額顧問料とは別に、両社からそれぞれ月額5万円の取締役報酬を受け取ることとされた。 ところで、Y税理士が取締役に就任する頃から株式会社Cの業績は思わしくなく、度々資金繰りに窮することがあった。一方で、有限会社Bの業績は低調ではあるものの堅実に推移していたことから、株式会社Cの支払いが滞りそうになった際には、有限会社Bの資金によってその支払いを行っていた。 有限会社Bの資金で株式会社Cの支払いをすることについては、A単独の判断によるものであり、Y税理士に対する相談はなされなかったが、Y税理士は、顧問業務の一環として記帳代行を行う際にこれを把握し、経理処理上は、有限会社Bの株式会社Cに対する短期貸付金として処理していた。 平成28年頃から、有限会社Bの業績も悪化し始め、平成29年には株式会社Cと同様に資金繰りに窮するようになった。AとY税理士は協議の上、やむを得ず、平成29年12月、両社について破産を申し立てることとした。 このようなケースで、仮に、有限会社Bの債権者であるX社が、有限会社Bから株式会社Cへの資金援助に関してY税理士の責任を追及した場合、Y税理士はX社に対して何らかの責任を負うか。 A 税理士と依頼者との法律関係は、民法上の委任関係に該当し、受任者である税理士は委任者である依頼者に対し、民法上の受任者としての義務を負うことになり、その具体的内容は契約によって決せられることとなるが、税理士が取締役に就任した場合は、それとは別に、会社法上の取締役としての義務を負うことになる。 具体的には、取締役は会社に対して善管注意義務を負うのみならず、法令・定款及び株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行わなければならないといういわゆる忠実義務(会社法355条)を負い、それらの任務を懈怠することによって会社に損害を与えた場合には、それを賠償する責任を負うと共に、職務執行上、悪意・重過失による任務懈怠があったときは、第三者に対しても責任を負う。 そして、善管注意義務の水準は、その地位・状況にある者に通常期待される程度のものとされており、特に専門的能力を買われて取締役に選任された者については、期待される水準は高くなると解されている。 上記の事例は、名古屋高裁金沢支部平成9年11月12日判決(TAINSコード:Z999-0061)を題材としたものである。この事例において、判旨は、一般論として と認定し、有限会社Bから株式会社Cに対する資金援助の中止を一度も進言しなかったことについて、任務懈怠があったと評価されてもやむを得ないとした。 その上で、結論的には、Y税理士の現実の関与の態様として、税理士としての税務処理以外の業務を期待されていたとは認められない点、AがY税理士に取締役就任後倒産に至るまでその資金繰りについて相談をしたことがない点、Y税理士が取締役としての特段の報酬を得ていなかった点などが考慮され、Y税理士に「悪意又は重大なる過失」があったとまで認めることはできないとされ、また、Y税理士がAに対して資金援助の中止を進言したとしても、Aにおいてこれを素直に受け入れたとは考え難く、因果関係も認められないと認定されて、Xの請求自体は棄却された。 * * * * 顧問税理士に求められる善管注意義務と取締役に求められるそれとは、質的に全く異なる。そして、税理士が取締役に就任する場合は、特に高度な注意義務が課せられていると解されている。 近年は、取締役の損害賠償責任を認める裁判例が多く下されている傾向にあることも踏まえ(設問では、取締役報酬を受領していることからも、上記裁判例の事例と比べてY税理士の責任が認められる可能性は高いといえよう)、税務顧問をしている顧問先の取締役に就任する際は、税務処理に限らず、代表取締役をはじめとする他の取締役の業務執行の監督も適切に行う必要がある。 (了)