検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10495 件 / 6251 ~ 6260 件目を表示

これからの国際税務 【第3回】「ガイダンス文書からみた帰属主義適用の精緻化」

これからの国際税務 【第3回】 「ガイダンス文書からみた帰属主義適用の精緻化」   早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二   1 帰属主義適用ガイダンスの必要性 前回紹介したように、恒久的施設(PE)の実態が関連者間取引の複雑化や取引のデジタル化の下で変質すると、事業所得の算定方法であるPEへの帰属主義の適用も不安定にならざるを得ない。 「PEが存在する場合は、外国法人の所得のうちPEに帰属する所得を源泉地国は課税できる」とするOECDモデル条約の帰属主義の適用ガイダンスについて、更新が求められる所以である。 支店、営業所、工場など業務内容が営業、販売、製造等に明確に区分できるいわゆる「物理的PE」については、OECDは帰属主義の適用事例を長期間にわたり集積してきた。これらのPEでは、通常、業務内容をカバーする収支のネットベース会計データに依存することができた。すなわち、当該データに基づき帰属主義適用のための機能・リスク分析が行えたのである。 一方、コミッショネア(本人のための契約役務提供者)形態の拡大により注目されることとなった「代理人PE(機能的PE)」においては、会計データはコミッショネアの契約上の権利義務の範囲内のもの、すなわち役務収益とそのためのコストのみであり、帰属主義が頼りとする「PEが現実に果たす機能・引き受けるリスク」の分析をサポートするデータは不十分な場合が多い。 BEPS最終報告で新たにPE認定対象となった関連者間のコミッショネア取極については、帰属主義がどのように適用されるべきかを事例ベースで検討するガイダンス文書が、目下パブリックコメントに付されている。 以下では、その概要を紹介し、新しい帰属主義の適用ガイダンスの課題をコメントする。   2 BEPSプロジェクトにおける検討事例の概要 ガイダンス文書では、販売関連会社がコミッショネアの場合で、在庫リスクや顧客の与信リスクの支配管理状況が異なる3つの場合を設定している。 すなわち、消費者向け商品の製造・販売業者(本人法人)が、消費地国に現地コミッショネアを有していて、このコミッショネアが販売に関する役務提供を行う関連法人という設定(下図参照)である。   3 帰属主義の適用順序 (1) 移転価格と帰属主義 コミッショネア取極では、代理人機能にかかる帰属所得の算定(モデル条約7条)の前に、取極上約定され支払われる役務提供対価の独立企業原則に基づく検証(モデル条約9条)が行われるべきことが、まず確認されている。 第1段階で対価の独立企業間価格を確認し、次の段階で当該修正対価を前提としたPE帰属利得の算定を行うという2段階方式である。 移転価格課税と代理人PE課税の関係については、前者の検証が適正に行われれば、後者の検証は不要と主張する「シングルエンティティ・アプローチ」を取らないことをOECDは再確認した(ダブルエンティティ・アプローチに基づく代理人PEの帰属所得認定は、従来コメンタリーベースでOECDモデル条約が言及)。 (2) 計算過程 契約どおり本人法人が在庫・クレジットの両リスクを支配・管理している事例1では、あらゆるリスク管理機能に伴う損益は本人に帰属すると判断されるので、現地コミッショネアに契約通りの役務提供対価が独立企業間フィーで支払われる限り、本人のため重要な人的機能を果たしているとは言えないコミッショネアの活動を通じたPE帰属所得は存在しないと結論付けている(契約書どおりの所得認定)。 これに対して事例2及び事例3のコミッショネアでは、いずれも本人法人のため重要な人的機能を分担しているので、独立企業対価の算定後に、さらにPE帰属利得の検証が求められることになる。 例えば事例2では、在庫・クレジットリスクの管理に伴い本人法人に発生する超過利得うちのコミッショネアの果たす機能・引き受けるリスクに相当する部分が、9条での適正対価の算定で反映されていない範囲内で、PE帰属所得として計算されることになる(契約書ベースを離れた所得認定)。 なお、ガイダンス文書の計算数値を見ると、従来一般的に指摘されてきたとおり、仮に代理人PEが認定されたとしても、その機能に応じ帰属主義の適用によりPEに帰属する売買収益は、取引の全体利得の中でさほど大きなものとは認定されていない。   4 今後の課題 BEPS最終報告に基づくPE概念の拡大は、途上国がその拡大を活用しつつPE帰属所得の計算にあたってはOECD基準の帰属主義を超えて源泉地国帰属所得を算出するのではないかとの懸念を引き起こした。今回のガイダンス文書は、これに対して一定の安心材料を提供したものと評価できよう。 ただし、計算結果については、事例1のようにPE帰属所得が算定されない場合は、そもそもPE認定をすること自体が不適切ではないかとの指摘や、9条と7条はいずれも独立企業原則に沿った機能・リスク分析を行う点で手法に共通性があり、統一的適用によりシングルエンティティ・アプローチでの解決を工夫することも可能ではないかとの批判も提出されている。 (了)

#No. 233(掲載号)
#青山 慶二
2017/08/31

法人税における当初申告要件等と平成29年度税制改正【第1回】

法人税における当初申告要件等と 平成29年度税制改正 【第1回】   税理士 谷口 勝司     1 当初申告要件等の概要-平成23年12月改正- 当初申告要件等については、平成23年12月に抜本的な改正が行われ、その基本的な枠組みや考え方等はこの平成23年12月改正に基づいている。 そこでまず、平成23年12月改正の内容等を紹介するとともに、平成29年度税制改正前の取扱いを説明したい。 (1) 法人税法 平成23年12月改正前の法人税法では、確定申告書等(確定申告書及び仮決算をした場合の中間申告書をいう。以下同じ)にその適用を受けるべき金額など一定の事項を記載した場合又は一定の書類を添付した場合に限り適用し、確定申告書等において制度の適用を受けていない場合には、修正申告や更正の請求によって新たに制度の適用を受けることができないという「当初申告要件」が設けられている制度があった。 これらの制度のうち次の①②のいずれにも該当しないものについては、平成23年12月改正において当初申告要件が廃止され、更正の請求範囲が拡大(請求期間も5年に延長)された。 当初申告要件が廃止された代表的な制度としては、受取配当等の益金不算入、所得税額控除、外国税額控除等が挙げられる(注1)(注2)。 (注1) 平成23年12月改正では、次の(イ)~(ヲ)の12の制度について廃止され、また、その後の税制改正により、(ワ)~(ヨ)といった制度についても当初申告要件は設けられていない。 (イ) 受取配当等の益金不算入(法23⑦) (ロ) 外国子会社から受ける配当等の益金不算入(法23の2③) (ハ) 国等に対する寄附金、指定寄附金及び特定公益増進法人に対する寄附金の損金算入(法37⑨) (ニ) 会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入(法59④) (ホ) 協同組合等の事業分量配当等の損金算入(法60の2) (ヘ) 所得税額控除(法68③) (ト) 外国税額控除(法69⑩⑪) (チ) 公益社団法人又は公益財団法人の寄附金の損金算入限度額の特例(令73の2②) (リ) 引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例(令113②⑥) (ヌ) 特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の制限の5倍要件の判定の特例(令113の2⑭) (ル) 特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入の対象外となる資産の特例(令123の8③五) (ヲ) 特定資産に係る譲渡等損失額の計算の特例(令123の9②⑧) (ワ) 青色申告書を提出した事業年度の欠損金繰越しにおける更生手続や再生手続開始の決定等があった場合の特例(法57⑫) (カ) 青色申告書を提出しなかった事業年度の災害損失金の繰越し(法58②⑤⑦) (ヨ) 適格合併等による欠損金の引継ぎにおける譲渡等損失額の損金不算入の対象外となる資産の特例(令112⑥三ロ) (注2) 前記①②のいずれかに該当する制度については、当初申告要件は存続されていることに留意する必要がある。代表的なものとして、国庫補助金等、保険差益、交換等の圧縮記帳、貸倒引当金・返品調整引当金などがある。 上記により当初申告要件が廃止された制度であっても、課税当局側での制度の適用要件確認のため、確定申告書等、修正申告書(注3)又は更正請求書に、所要の事項の記載をした書類又は所要の書類の添付が必要とされた。 (注3) 修正申告時に新たに制度の適用を受けることにより課税標準又は税額が減少する一方、他項目の所得加算等により最終的には課税標準又は税額が増加する場合があることから、ここに修正申告書が掲げられている。 しかし、当初申告である確定申告書で制度の適用を受けていない場合であっても、その後、修正申告書や更正請求書に記載・添付等をすることによって新たに制度の適用を受けることができるという点で、改正前までの記載・添付等とはその意味合いは異なるものであり、平成23年12月改正はそれまでの取扱いを大きく変更するものであった。 また、当初申告要件が設けられている制度の中には、その制度の適用を受ける金額(控除等の金額)について、確定申告書等に記載された金額を限度とするという「適用額の制限」が設けられている制度があった。 例えば、平成23年12月改正前の所得税額控除では、控除をされるべき金額は確定申告書に控除を受けるべき金額として記載された金額を限度とする、と規定されていたことから(平23.12改正前の法68③)、確定申告書に記載した控除金額がいわば絶対的な上限額として取り扱われていた。 このため、確定申告後に控除漏れの所得税額が判明したとしても、確定申告書等に記載された金額を超えて控除金額を増額させることは一切できなかったが、この点についても平成23年12月で改正(見直し)が行われた。 すなわち、所得税額控除、受取配当等の益金不算入といった制度については、確定申告書等だけでなく、修正申告書又は更正請求書に添付された書類に適用を受ける金額として記載された金額を限度とする、と改正され、修正申告書や更正請求書に記載・添付等をすることによって適用額(控除等の金額)を増額させることができるようになった(注4)。 (注4) 平成23年12月改正で「適用額の制限」の見直しが行われたのは、次の制度である。 (イ) 受取配当等の益金不算入(法23⑦) (ロ) 外国子会社から受ける配当等の益金不算入(法23の2③) (ハ) 国等に対する寄附金、指定寄附金及び特定公益増進法人に対する寄附金の損金算入(法37⑨) (ニ) 所得税額控除(法68③) (ホ) 外国税額控除(法69⑩⑪) なお、適用額(控除等の金額)の記載を一切不要としなかったのは、課税当局側に金額の立証責任が転換しないようにするためと趣旨説明がされている(財務省HP「平成24年度税制改正の解説」163頁参照)。 以上のとおり、平成23年12月の法人税法の改正は、それまで厳格に取り扱われていた当初申告要件や適用額の制限について、多くの制度についてこれを緩和するという大きな改正であった。 なお、その後の税制改正においても、平成23年12月改正の枠組みや考え方等は維持されている。 (2) 租税特別措置法 平成23年12月では、租税特別措置法(以下「措置法」という)についても改正が行われた。 平成23年12月改正前の試験研究費の特別税額控除制度や中小企業者等が機械等を取得した場合の特別税額控除制度等については、確定申告書等にその控除を受ける金額の申告の記載があり、かつ、その控除を受ける金額の計算に関する明細書の添付がある場合に限り適用することとされていた。 このため、確定申告書等において制度の適用を受けていない場合には、修正申告や更正の請求によって新たに制度の適用を受けることはできないこととされていた。これを「措置法における当初申告要件」という。 また、措置法における当初申告要件が設けられている制度の中には、その適用額(控除等の金額)について、確定申告書等に記載された事項を基礎として計算する場合に控除を受けることができる正当額を限度とするものがあった。例えば試験研究費の特別税額控除により控除される金額は、試験研究費の額や法人税額など確定申告書等に記載された全ての事項を基礎として計算された税額控除額(正当額)が適用限度額とされていた。 このため、確定申告書等に記載されたこれらの金額(例えば試験研究費の額や法人税額)が変動する場合であっても、修正申告や更正の請求によって、確定申告書等に記載された金額を是正して適用額(控除等の金額)を増加させることはできなかった。これを「措置法における適用額の制限」という。 平成23年12月改正では、措置法における適用額の制限の見直しが行われ、控除を受けることができる正当額を計算するに当たって基礎とする事項が、確定申告書等に記載された全ての事項から、確定申告書等に添付された書類に記載された特定の事項(試験研究費の額、資産の取得価額等)と改正された。換言すれば、確定申告書等に記載された試験研究費の額(又は資産の取得価額等)だけを基礎として(固定して)適用額(控除等の金額)を計算することになった。 このため、確定申告書等に記載された特定の事項以外の事項として記載された金額(例えば法人税額)に変動がある場合には、修正申告や更正の請求によってその金額を是正して適用額(控除等の金額)を増額できることとなった。 他方、措置法における当初申告要件は、確定申告書等に添付される書類に特定の事項(試験研究費の額、資産の取得価額等)を記載する必要があることされ、法人税法における当初申告要件とは異なり、引き続き存続することとされた。 当初申告要件の存続理由としては、措置法における特別税額控除制度等は、元々、研究開発促進、投資促進といった政策目的によるインセンティブ措置であることが考慮されたものと考えられる。 *  *  * 以上のとおり、平成23年12月では、法人税法、措置法のいずれも改正されたが、両者では異なる改正内容であったことに留意しておきたい。 (了)

#No. 233(掲載号)
#谷口 勝司
2017/08/31

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第2回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第2回】   公認会計士 佐藤 信祐   《第1章》 平成13年度税制改正前の議論 1 平成13年度税制改正前の状況 平成12年10月に政府税制調査会法人課税小委員会から「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」が公表された。この報告書では、同年5月に、会社分割法制を創設する商法改正が行われていることがきっかけであったと記載されている。 組織再編税制が導入される前の合併に対する税制には、明確なものが存在せず、実務上の解釈により対応していたように思われる。そして、現物出資に対する税制も圧縮記帳のみが認められており、基本的には時価取引であったと思われる。 実際に、第7回法人課税小委員会(平成12年6月2日)に提出された資料を見てみると、以下のように記載されている。 このような平成13年度税制改正前の状況は、現行法人税基本通達にもその痕跡が見受けられる。具体的には、同通達12の2-1-1(注1)では「適格合併又は適格分割に係る被合併法人又は分割法人に繰越欠損金がある場合において、合併法人又は分割承継法人がその繰越欠損金の全部又は一部に相当する金額を営業権として受け入れているときであっても、当該営業権については移転がなかったことになるのであるから留意する」とされている。 すなわち、「被合併法人において過去に損失が生じたことなどにより合併時に欠損金(利益積立金のマイナス)がある場合には、合併により受入資産の評価益を計上しても、その欠損金の額に達するまでの金額について課税が行われないことになる。」ことを懸念した通達であると言えよう。 これは、当時の商法において、時価以下主義による資産の受入れが可能であったことが原因である(※1)。現行企業結合会計では考えられない処理ではあるが、同通達が制定された平成14年2月15日では、このような会計処理が行われる可能性があったということが言える。 (※1) 現行税法であっても、事業譲渡を行った後に、事業譲渡法人を清算した場合には、法人税法59条3項に規定する欠損金額(「特例欠損金」「期限切れ欠損金」と称される)の範囲内であれば、含み益に対する課税がされないが、時価以下主義ではなく、時価取引であることから、同項の制度趣旨に反していない限り、問題視されるべきものではないと考えられる。 また、現物出資の制度も、会社を設立する場合の圧縮記帳のみが認められており、企業が組織再編成を円滑に行うための阻害要因になっていたことは容易に想像ができる。会社分割法制が導入されたことからも、租税法上も、適格組織再編成の制度を導入していく必要があったということが言える。なお、現行地方税法73条の7第2号の2、同施行令37条の14の2に定められている不動産取得税の特例(※2)では、類似の制度が残されており、会社分割の制度が整備された現在では、使いにくい内容となっている。 (※2) 被現物出資法人の設立時に、次に掲げる要件が充足される場合に不動産取得税が課されないこととされている。 ① 現物出資法人が、被現物法人の発行済株式総数の100分の90以上を所有していること。 ② 被現物出資法人が、現物出資法人の事業の一部の譲渡を受け、当該譲渡に係る事業を継続して行うことを目的としていること。 ③ 被現物出資法人の取締役の1人以上が、現物出資法人の取締役又は監査役であること。 このように、企業が組織再編成を円滑に行えるようにする必要がある一方で、法人課税小委員会の指摘からは、圧縮記帳のような恩典として組織再編税制を位置づけるのではなく、あるべき制度として位置づけようとしていたことが読み取れる。そのため、かつてないほどの詳細な税制が設けられることになり、組織再編税制が難解税制のひとつとして挙げられるようになったと言える。 *   *   * 次回では、「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」の内容について触れていきたい。 (了)

#No. 233(掲載号)
#佐藤 信祐
2017/08/31

平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第8回】「[設備種別]適用税制の選択ポイント④(建物附属設備)」

平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第8回】 「[設備種別]適用税制の選択ポイント④(建物附属設備)」   アースタックス税理士法人 代表社員  税理士 島添 浩  シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志   【第5回】から【第10回】にわたっては、青色申告法人(連結法人を除く)における設備種別の適用税制(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制)の選択ポイント及び具体的な申告実務上の留意事項を確認する。 なお、各税制の概要や適用手続き等については、【第1回】から【第3回】までを参照願いたい。 それでは今回【第8回】は、建物附属設備について紹介する。   1 選択ポイント 中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制の主なポイントは下記のとおりである。 【建物附属設備における適用税制一覧表】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 上記税制以外に、【第4回】で確認した「地域中核企業向け設備投資促進税制(地域未来投資促進税制)」が平成29年7月31日から適用開始されている。  承認地域経済牽引事業に係る承認地域経済牽引事業計画に従って、特定地域経済牽引事業施設等の新設又は増設をするような場合には、当該税制の検討も要する。 建物附属設備においては、中小企業投資促進税制は対象外となるため、商業・サービス業・農林水産業活性化税制と中小企業経営強化税制の選択となる。 商業・サービス業・農林水産業活性化税制及び中小企業経営強化税制は、原則として建物附属設備を取得する前に一定の手続きを要するため、事前準備を行う必要があるが、商業・サービス業・農林水産業活性化税制より手続きが複雑な中小企業経営強化税制が特別償却、税額控除ともに有利な制度になっている。 なお、これらの税制については、事業の用に供されたことのないもの(つまり、新品)を取得することが要件となっている。新品の建物附属設備については、建物建設時や大規模改修時に付随して取得するケースが考えられることから、建設計画段階等でこれらの税制を検討する必要がある。 さらに、建物竣工等に伴い、建物、建物附属設備及び器具備品等を同時に取得することになるが、これらの資産種類を明確に区分しなければ、適切にこれらの税制の適用を受けることが難しくなるため、資産種類の区分別の根拠資料(工事明細書、工事完了報告書等)の準備等も必要と思われる。   2 具体例(特別償却準備金、税額控除) 今回は、以下の2点について確認する。 - 前 提 - 倉庫業を営む青色申告法人である内国法人甲社(資本金3,000万円、発行済株式の総数1,000株、従業員の数30人、大規模法人に株式を所有されていない)は、当期(平成29年4月1日から平成30年3月31日)において、空調設備(冷暖房・通風・ボイラー設備/その他)を取得し、事業の用に供した。 なお、償却方法については、税務上の法定償却方法である定額法を採用している。 また、翌期の事業年度は、平成30年4月1日から平成31年3月31日までである。 【建物附属設備(空調設備)の詳細】 取得価額:30,000,000円 法定耐用年数:15年(定額法償却率:0.067) 取得日:平成30年2月16日 事業供用日:平成30年3月1日 普通償却費:167,500円 普通償却限度額:167,500円 (1) 当期に特別償却準備金を選択し、翌期に特別償却準備金を取り崩す場合 ① 中小企業投資促進税制 建物附属設備については、適用できない。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 (イ) 当期末において剰余金の処分により特別償却準備金9,000,000円を積み立てている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (ロ) 翌期末において特別償却準備金1,285,714円を取り崩している。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ③ 中小企業経営強化税制 (イ) 当期末において剰余金の処分により特別償却準備金29,832,500円を積み立てている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (ロ) 翌期末において特別償却準備金4,261,785円を取り崩している。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (2) 当期に税額控除を選択し、翌期に繰越税額控除限度超過額の税額控除を受ける場合 ① 中小企業投資促進税制 建物附属設備については、適用できない。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 (イ) 当期の調整前法人税額は6,450,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (ロ) 翌期の調整前法人税額は6,405,100円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ③ 中小企業経営強化税制 (イ) 当期の調整前法人税額は6,450,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (ロ) 翌期の調整前法人税額は6,405,100円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ④ 税額控除選択適用時の留意事項 上記具体例において税額控除を選択適用した際は、税額控除限度額が税額基準額(調整前法人税額×20%)を超えるため、当期において税額控除限度額の全部を控除しきれないが、この控除しきれなかった金額(繰越税額控除限度超過額)については、1年間の繰越しが認められている。 よって、商業・サービス業・農林水産業活性化税制の場合の繰越税額控除限度超過額810,000円(2,100,000円-1,290,000円)、中小企業経営強化税制の場合の繰越税額控除限度超過額1,710,000円(3,000,000円-1,290,000円)は、翌期において税額控除をすることができる。 ただし、繰越し可能な期間は1年間であるため、繰越税額控除限度超過額が翌期の税額基準額(調整前法人税額×20%)を超える場合には、その超える部分の金額は控除することができなくなる。本問の場合には、中小企業経営強化税制において428,980円(1,710,000円-1,281,020円)が控除することができなくなる金額である。 このような事態に陥ることがないよう事前の事業計画において、税額控除により控除しきれるかどうかも検討しておく必要がある。   3 中小企業経営強化税制の適用にあたっての固定資産税の特例措置(課税標準の特例)の留意点 「2 具体例」では(注2)において、中小企業経営強化税制の適用を受けるにあたっての事前手続きが、収益力強化設備(つまり、B類型の設備)を前提としている。 【第3回】で確認した通り、B類型としての中小企業経営強化税制による固定資産税の特例措置(課税標準の特例)を受ける場合には、工業会等から生産性向上設備(つまり、A類型の設備)である旨の証明書を入手しなければならないため、注意が必要である。 また、【第7回】で確認した器具備品の固定資産税の特例措置(課税標準の特例)と同じく、地域と業種によって適用を受けることができるか否かが決定されることから、こちらも注意が必要である。 なお、今回の具体例では、空調設備を平成30年2月16日に取得していることから、仮に空調設備が固定資産税(償却資産税)の対象資産である場合には、平成31年度より固定資産税(償却資産税)が賦課されるとともに、固定資産税の特例措置(課税標準の特例)を受けられることに留意する。 *  *  * 次回【第9回】では、車両についての選択ポイント及びその具体例を確認していく。 (了)

#No. 233(掲載号)
#アースタックス税理士法人
2017/08/31

相続空き家の特例 [一問一答] 【第9回】「母屋と離れ等の複数の建築物がある場合の計算例①(共有相続の場合)」-相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第9回】 「母屋と離れ等の複数の建築物がある場合の計算例① (共有相続の場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-   税理士 大久保 昭佳   Q XとYは、昨年1月に死亡した父親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得しました。 相続の開始の直前において、父親は一人暮らしをし、父親が所有していたA土地(200㎡)は、用途上不可分の関係にある2以上の建築物(父親が所有していた母屋:140㎡、離れ:40㎡、倉庫:20㎡)のある一団の土地でした。 A土地及びこれらの建築物については、Xが4分の3を、Yが4分の1を共有で相続し、母屋を耐震リフォームした上で、XとYが共に売却しました。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用にあたって、XとYのそれぞれにおける被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積はいくらでしょうか。 (1) Xが4分の3を相続(200㎡×3/4=150㎡) (2) Yが4分の1を相続(200㎡×1/4= 50㎡) A 被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積は、Xが105㎡、Yが35㎡となります。 ●○●○解説○●○● 措通35-13(被相続人居住用家屋の敷地等の判定等)の〔設例1〕に基づき計算すると、次のようになります((算式)は【第8回】の解説を参照)。 (1) Xが譲渡した土地(200㎡×3/4=150㎡)のうち、被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積 (2) Yが譲渡した土地(200㎡×1/4=50㎡)のうち、被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積 (了)

#No. 233(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/08/31

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第18回】「別表10(5) 収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」〈その1〉

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第18回】 「別表10(5) 収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」 〈その1〉   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 前回は「別表13(4) 収用換地等に伴い取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書」を採り上げたが、今回は同じ収用換地等の場合において、圧縮記帳の特例ではなく、譲渡益について特別控除を選択する場合に作成する「別表10(5) 収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」を採り上げる。   Ⅱ 概要 この別表のうち、「Ⅰ 収用換地等の場合の所得の特別控除に関する明細書」の部分は、法人が、措置法第65条の2(収用換地等の場合の所得の特別控除)の規定の適用を受ける場合に記載する。 本制度は、法人の有する資産(棚卸資産を除く)が収用換地等に該当することとなった場合において、代替資産の圧縮記帳等の特例(措置法第64条及び第65条1項1号・2号)の適用に代えて、譲渡益と5,000万円とのいずれか低い金額まで、所得金額の計算上特別に損金の額に算入することができるというものである。 そもそも法人が所有する土地等の資産の譲渡益があった場合には、その収益は課税所得となるのが原則である。しかし、土地収用法等に基づき法人の有する資産が強制的に収用される場合などは、いわゆる公権力による買取りであって、この利益までをも課税対象とすると、企業は退去させられた設備の代替資産の取得が困難となり、事業継続に支障をきたす恐れがでてきてしまう。このため前回解説したように圧縮記帳の特例が認められているが、交付を受けた補償金等についてはその全部又は一部が必ずしも代替資産の取得に充てられるとは限らない。 そこで公共事業の施行を円滑に進めることができるように、代替資産の圧縮記帳等の特例に代えて、一定の要件のもと譲渡益について特別控除の制度が設けられたのである。 特別控除の対象となる譲渡益の計算方法は次のとおり。 ▼ 注意!▼ 「譲渡経費の額」は、譲渡資産に係る斡旋手数料、謝礼、譲渡資産の借地人又は借家人等に対して支払った立退料、資産の取壊し又は除去費用、資産の譲渡に伴って支出する建物等の移設費用などの額の合計額から、譲渡経費に充てるために交付を受けた金額(経費補償金)を控除して算出する。 なお、収用換地等の場合以外でも、特定の事業のために土地等が買い取られた場合には、以下のような特別控除がある。 これらの特別控除については、本別表の「Ⅱ 特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」の欄に記載されることになるが、当該記載例は次回解説する。 ▼ 注意!▼ これらの特別控除が同一暦年中に2つ以上適用される場合には、特別控除の合計額は5,000万円が限度とされる。この限度額の計算は、事業年度単位ではなく、あくまで暦年単位で判定することになる。   Ⅲ 「別表10(5)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成29年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 Ⅰ 収用換地等の場合の所得の特別控除に関する明細書 「譲渡資産の明細」 「譲渡経費の額の計算」 「特別控除額の計算」 (了)

#No. 233(掲載号)
#菊地 康夫
2017/08/31

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第30回】「有価証券評価損」~有価証券評価損の計上が認められないと判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第30回】 「有価証券評価損」 ~有価証券評価損の計上が認められないと判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して行われた「有価証券評価損の損金算入の否認」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁平成元年9月25日判決(行集40巻9号1205頁。以下「本判決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した(この判断は、控訴審である東京高裁平成3年6月26日判決・行集42巻6=7号1033頁でも維持されている)。   4 検討 (1) 関係法令等の確認 内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されないのが原則であり(法法33①)、例外的に特定の事実が生じた場合にのみ評価損の損金算入が認められる。 本件で問題となったような上場有価証券以外の有価証券については、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したことなどの要件を満たした場合に評価損の損金算入が認められる(法法33②、法令68①二)。 法人税基本通達は、この場合の「著しく低下した」というためには、①当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、②近い将来その価額の回復が見込まれないことという2つの基準をクリアする必要がある旨定めている(法人税基本通達9-1-7、9-1-11)。 また、本件との関係では法人税基本通達9-1-12を確認しておく必要がある。同通達は、増資払込み後において有価証券の評価損を計上する場合には、原則として、その損金算入が認められる「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと」という事実はないものと取り扱い、その増資から相当の期間を経過した後においてあらためて当該事実が生じたと認められる場合にはそのような取扱いは適用しない旨定めている。 この通達の取扱いは、増資払込みをする以上は、当面その業績の回復を期待するものであることを考慮して、事実認定における一種の形式基準ないし目安として、増資払込み直後における株式の評価減を認めないものであると解される。 なお、有価証券の評価損に係る関係法令等については、本連載【第10回】も参照。 (2) 求められる理由付記の程度 本件における帳簿書類の記載内容は必ずしも明らかではないが、X社においては、本件株式につき法人税法施行令68条1項2号ロの規定に定める事実が生じたとして本件評価損の計上をしたことを前提とすると、本件更正処分は、本件評価損計上に関するX社の帳簿書類の記載自体を否認せず、その帳簿書類の記載をそのまま受け入れた上で本件評価損の損金算入を否認するものであり、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当すると考える。 したがって、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記は、①本件株式の発行法人に対する増資が×1年6月30日に行われているという事実及び②評価損計上日(X2年5月20日)は上記増資払込日(×1年6月30日)から11ヶ月しか経過していないという事実を摘示した上で、③増資による新株を引受けて払込みをした後、相当の期間を経過しているとは認められないという評価を記載し、このことから、根拠条文である法人税法33条2項、施行令68条1項2号ロに掲げられている評価損の計上ができる特定の事実に該当するものとは認められないため、有価証券評価損を損金に算入することはできないと判断したことを記載している。 そうであれば、本件理由付記は、法令上の根拠及び法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるから、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 (4) 更なる議論 ~立証責任の所在が理由付記の議論に与える影響~ 本件訴訟において、X社は、評価損の損金算入要件に係る各事実につき、回復の見込みがあることが評価損の損金算入を認めない障害要件となるので、評価損の損金算入を否定する課税庁が回復の見込みがあることについて主張立証責任を負うと主張した。 これに対して、本判決は、資産の評価損の損金算入は例外的に認められるものであることを理由として、資産の評価損を損金に算入しようとする者(本件ではX社)が、その評価損を損金に算入し得る特定事実の存在、すなわち①有価証券の発行法人の資産状態が著しく悪化したこと及び②有価証券の価額が著しく低下したこと、さらには、③回復の見込みがない状態にあることについて、主張立証責任を負うことになる旨判示した。 納税者が立証責任を負う論点に関する理由付記については、その記載の程度が常に軽減されるか否かは議論のあるところであるが、少なくとも、納税者の主張や立証の程度に応じて、求められる理由付記の記載の程度が変化すると解する余地はあろう。納税者が、その立証責任を負う論点に関して、具体的な主張や立証を行っていない場合には、課税庁としてはこの点に関して、具体的な理由を付記することが困難となる場合が通例であると考えるからである。 *  *  * 次回は、「諸会費として処理しているゴルフクラブ入会金の損金算入の否認」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 233(掲載号)
#泉 絢也
2017/08/31

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第2回】「基本となる原則」

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第2回】 「基本となる原則」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)は、会計処理を行うに際して、「基本となる原則」を規定している。 今回は、この「基本となる原則」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 基本となる原則 収益認識会計基準(案)が規定する「基本となる原則」とは、約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益の認識を行うことである(13項、106項)。 1 収益認識のための5つのステップ 「基本となる原則」に従って収益を認識するために、後述する5つのステップを適用する(14項、106項)。 履行義務の充足による収益の認識については、次のことに注意する(32項~34項)。 収益認識会計基準(案)のポイントの1つは、この5つのステップを理解することにあると考えられる。 収益認識会計基準(案)の定め(「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」91項から102項に定める重要性等に関する代替的な取扱いを含む)は、顧客との個々の契約を対象として適用するが、複数の特性の類似した契約又は履行義務から構成されるグループ全体を対象として適用することができるケースについて規定している(15項、107項、「[設例11] 返品権付きの販売」の前提条件(2)参照)。 2 設例 「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」は、収益を認識するための5つのステップを理解するために、次の設例を示している。 (出所:「「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」の設例」P41、42) (了)

#No. 233(掲載号)
#阿部 光成
2017/08/31

〔判決からみた〕会計不正事件における当事者の損害賠償責任 【第6回】「コーポレートガバナンスと社外取締役・社外監査役」~まとめに代えて~

〔判決からみた〕 会計不正事件における当事者の損害賠償責任 【第6回】 (最終回) 「コーポレートガバナンスと社外取締役・社外監査役」 ~まとめに代えて~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     社外取締役・社外監査役への期待 ここ数年、上場企業のコーポレートガバナンス強化策として最も注目されてきたのは、社外取締役・社外監査役の導入であろう。当初は、親会社などの大株主や取引先などのステークホルダーの中から社外取締役・社外監査役を選任することが多かったが、現在では、より独立性が高く、単なる「社外」にとどまらない、一般株主との利益相反がない「独立役員」の選任が要請されている。 1 コーポレートガバナンス・コード 2015年5月から適用されているコーポレートガバナンス・コードは、「第4章 取締役会の責務」のなかで、独立社外取締役について、2つの原則を掲げている。 本コードは上場企業に適用され、法的拘束力はないものの、「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」の精神のもと、原則を実施するか、さもなければ実施しない理由を説明するかを求めている。 独立社外取締役について、本コードの「背景説明」には、次のような記述がある。 2 独立役員の確保 コーポレートガバナンス・コードの策定を受け、東京証券取引所は上場制度を一部見直し、2015年6月から適用している。従来からあるコーポレートガバナンス報告書に本コードの実施に関する情報開示を義務付け、実施しない場合はその理由の明記が必要となった。 東京証券取引所ホームページには、「独立役員の確保」として、次のような説明がある。 3 期待と現実のギャップ 企業が社外取締役・社外監査役を選任することによって期待されることは、上記のコーポレートガバナンス・コード【原則4-7】に記載されたほかにも、 などが挙げられるが、実際には次のような理由から、機能していないとの批判も絶えない。 金融庁・証券取引所は、こうした批判を受けて、独立役員制度の実効性の向上を目指しているが、まだ道半ばといったところであろうか。 たとえば、去る8月18日に「当社経理部門責任者の不正行為に関するお知らせ」を公表したJASDAQ上場の貴金属アクセサリーの製造販売会社株式会社光彩工芸の取締役構成は、4名の取締役のうち2名が社外取締役、監査等委員である取締役3名はいずれも弁護士(そのうち1名は公認会計士でもある)であり、コーポレートガバナンス・コードや東京証券取引所規則にいう「独立社外取締役」「独立役員」であり、コーポレートガバナンス上は、優等生ともいえる取締役構成であった。 ところが、結果的には、社外取締役主体の取締役会は、経理部門責任者による不正リスクを十分には認識できていなかったようである。また本件は、会計監査人である優成監査法人から無限定適正意見が出されていることから、会計監査人の監査手続きに遺漏がなかったかどうかも問題となろう。 詳細な調査報告が開示されていないなかで断言は難しいものの、制度の導入だけでは実効性が上がらないという、社外取締役の限界をうかがわせた事件であるという印象を持った。   会計監査人の交代 東芝の巨額粉飾決算事件で、一躍注目を集めたのは、長く同じ会計監査人による監査を受けることによる監査法人と被監査会社との間の「癒着構造」であった。 平成26年の会社法改正により、監査役設置会社における会計監査人の選任及び解任に関する議案は、監査役が決定することとされた(会社法第344条第1項)ことから、会計監査人による会計監査の厳格化、監査役との連携の強化、監査役による適正性を欠く会計監査人の解任提案など、会計監査の面からコーポレートガバナンスがより一層強化されることが期待されているが、残念ながら、十分に機能しているとはいえないのが現状である。 その理由は、大手監査法人の寡占化により、「会計監査人の変更の余地が少ないこと」及び「会計監査人のローテーション制度の導入が進まないこと」の2つに起因している。 以下、順を追って現状を確認したい。 1 進む4大監査法人による寡占化 東洋経済ONLINEが2017年4月29日に公開した、「独自集計!「監査法人の売上高」ランキング―東芝問題で注目が集まるプロ集団の業界地図」と題された金融ジャーナリスト伊藤歩氏の記事では、4大監査法人の市場占有率が88%に達していること、準大手を含む上位10事務所の市場占有率が93%であることなどが、直近のデータをもとに明らかにされている。 以下に、上記記事をもとに筆者が作成した上位10事務所の名前と売上高、提携している海外の監査法人をまとめたものを掲げておく。 4大監査法人と言われながら、事件を受けて東芝の会計監査人に就任したPwCあらた監査法人は、3位のあずさ監査法人の4割程度の売上規模であること、5位以下の準大手監査法人に至っては、大手監査法人の10分の1以下の売上規模でしかないことが明らかにされている。 〈監査法人売上高ランキング〉(単位:百万円) 大手監査法人による寡占化の問題点は複数あるが、一番の問題点は、「大規模な上場会社の会計監査人に就任できるのは、大手監査法人に限られる=選択肢がない」ということである。 大規模な上場企業の会計監査にかかる人的リソースの問題、海外に拠点を数有する上場企業であれば、海外の有力監査法人との提携の問題、非監査業務における契約関係の有無などから、選択肢は自ずと限られる。 その結果は、後述する会計監査人のローテーションが制度化できないという論点にも繋がっていく。 2 平成28年における会計監査人の交代実績 実際に、どの程度の上場会社が会計監査人を交代させているのか。平成28年において、会計監査人を交代させた上場会社について、その概要を見ておきたい。 以下の記述と分析は、T&A master 2017年1月30日号(No.676)「平成28年中における会計監査人の交代企業一覧」という記事から、筆者が集計したものをベースにしている。記事によれば、会計監査人が交代した企業数は143社(※)であった。 (※)  当該記事では144社とカウントされているが、異動情報の詳細を確認したところ、1社が重複してカウントされていることが判明したため、本稿では143社として記載した。 東京証券取引所によれば、2016年末における上場会社数は3,539社であり、約4%の上場会社が、この1年間で会計監査人を交代させたことになる。 (1) 交代により就任した監査法人と退任した監査法人のクライアント数 平成28年には、明治監査法人、アーク監査法人、聖橋監査法人が合併したため、合併に伴い会計監査人を異動した企業が22社、それ以外の事由による異動が1社と、計23社が新たに明治アーク監査法人を会計監査人とすることとなった。 一方、退任した監査法人のトップは、金融庁による行政処分を受けた新日本監査法人で、その数は42社であった。 〈就任監査法人上位5法人〉 〈退任監査法人上位5法人〉 (2) 新日本監査法人から異動した先の監査法人とクライアント数 新日本監査法人から会計監査人を交代させた上場会社の受け皿としては、他の大手監査法人が合計で28社、準大手監査法人が6社、その他8社となっている。 〈新日本監査法人から交代〉 (3) 異動理由 会計監査人の異動理由については、約6割の上場会社が「契約任期満了」と開示している。よく指摘されることではあるが、ほとんどの上場会社が監査契約を単年度で締結しているため、監査報告書を受領した後は自動的に「契約任期満了」となっているわけであり、この異動理由が実態を表していないことは言うまでもない。 後述する「会計監査人のローテーション制度」に繋がるような趣旨での交代は3社にとどまっており、同じ会計監査人が長く監査を続けることをリスクであると認識している上場会社が少ないことが数値に表れていると言えそうである。 〈会計監査人の異動理由〉 3 会計監査人のローテーション制度 一定期間継続して会計監査を行った監査法人を強制的に交代させる「会計監査人ローテーション制度」については、オリンパスの損失隠しが判明した時期に、一度導入が検討されたものの、こうした制度を導入している国はないことから「時期尚早」として見送られた経緯があった。 その後、今回の東芝事件を契機に制度導入論が高まりを見せ、金融庁が検討を行うこととなると同時に、EUでは2016年6月から、監査法人の強制ローテーション制度を含む監査法人の強固な独立性を補強するための諸制度が導入されている。 日本における制度導入に向けた動きの現状を見ておきたい。 (1) 会計監査の在り方に関する懇談会による提言 東芝事件を契機として、会計監査の信頼性が問われている現状を踏まえて、「会計監査の信頼性を確保するために必要な取り組みについて、幅広く議論を」行うために、金融庁は、「会計監査の在り方に関する懇談会」を設置、平成28年3月8日にその提言が公表された。 提言の中では、東芝事件を想起させる次のような記述がある。 そのうえで、「監査法人の独立性の確保」という観点から、監査法人のローテーション制度について、メリットとデメリットが併記され、「金融庁において、深度ある調査・分析がなされるべきである」との結論が導き出されている。 なお、懇談会による提言の中で明示された、監査法人のローテーション制度についてのデメリットは以下のとおりである。 (2) 監査法人のローテーション制度に関する第一次調査報告 こうした提言を受けて、金融庁は、平成29年7月20日、「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」を公表し、第一次報告では、過去の不正会計事案において、パートナーローテーション制度では抑止効果を発揮できなかったことが検証され、企業と同一監査法人との監査契約の固定化が顕著であり、企業による自主的な監査法人の交代が進んでいない現状が報告された。 もっとも、これらの検証は、第一報告を待たずとも、本報告書も依拠している、青山学院大学大学院教授町田祥弘氏による「監査規制をめぐる新たな動向と課題-監査事務所の強制的交代の問題を中心として-」(会計・監査ジャーナル2015年12月号)という論考でもすでに明らかになっていたことであり、提言から1年4ヶ月余りを経た時点での、しかも第一次報告というのはいささか遅きに失した感が否めない。 そして、第一次報告の結論としては、次のとおり要旨にまとめられている。 4 社外取締役・社外監査役の役割 会計監査人の交代については、会計監査人の監査方法に疑義があったり、明らかに信頼に値しないと判断できたりする場合はともかく、それ以外のどの上場会社の経営陣、経理部門及び内部統制部門は反対する立場をとるものと思われる。その理由としては、 といったことが挙げられようが、こうした反対意見に正面から反論し、会計監査人の交代の要否を検討させるのも、社外取締役・社外監査役の果たすべき役割であろう。 その理由としては、本項目の冒頭でも述べたように、会計監査人の選任・解任は、監査役により議案が決定されること、社外取締役・監査役には、会計監査を含む幅広い知見のある者が起用されることが期待されていることから、長期間、同一の会計監査人による会計監査を受けていることのデメリットと交代に伴う煩瑣な手続等を比較考量しながら、より会社にふさわしい会計監査人の選任について、経営陣をリードすることが可能ではないかということなどである。   ガバナンス改革の方向性 日本銀行金融機構局金融高度化センターが2017年7月に公表した「金融機関のガバナンス改革:論点整理(以下「論点整理」と略称する)」は、日本独自のガバナンスについての問題提起をした資料として、たいへん示唆に富んだ内容となっている。 表題のとおり、金融機関向けと銘打ってはいるが、内容的には一般の事業会社に共通する部分も多く、また、本稿のテーマ「コーポレートガバナンスと社外取締役・社外監査役」とも密接に関わりを有する内容であるため、論点を紹介したい。 1 日本独自のガバナンスは監査機能に限界がある(論点整理p.18) 論点整理では、日本独自のガバナンスについて、監査機能の限界を指摘し、具体的には、次のような事例を挙げている(下線は原文のまま)。 2 日本独自のガバナンスの特徴・問題点(論点整理p.40) 次いで、論点整理は、日本独自のガバナンスの特徴と問題点について、以下のとおりまとめている。本稿で取り上げている社外取締役・社外監査役の機能が十分に活かされていない現況、その理由が明らかになっていると言えるだろう。 3 正しい「3線」モデルと誤った「3線」モデル 論点整理では「3線」モデルと表現されているが、内部監査用語である3ラインディフェンス又は3つのディフェンスライン(※)と呼ばれるガバナンス体制についても、日本独自のガバナンスについて、論点整理は批判的である。 (※) 「3ライン・ディフェンス」の詳しい解説については、PwCあらた監査法人のホームページにある「3つのディフェンスライン」という記事がわかりやすくまとめられているので、そちらを参照いただきたい。 以下に、論点整理5ページ、6ページに記載されている「3線」モデルを引用する。 図1:日本独自のガバナンス:誤った「3線」モデル(論点整理p.5) 図2:国際標準のガバナンス:正しい「3線」モデル(論点整理p.6) 論点整理が、上記「日本独自のガバナンスの特徴・問題点」で指摘している⑤から⑧の問題点を解決するための仕組みが、「正しい3線モデル」ということになる。これまでの日本独自の監査役制度を真っ向から批判するものではあるが、筆者が確認した範囲では、公益社団法人日本監査役協会などから、表立った反論は出ていないようである。 4 変わる内部監査部門の位置づけ 実務上は、内部監査部門を監査委員会(監査役会)の指揮命令下に置くという動きは、日本銀行による論点整理を待たずに、一部の上場会社が先導する形で、進行している。 端緒となったのは、東芝であった。東芝が2016年3月15日に公表した「改善計画・状況報告書」には、内部監査部の独立性の担保として、以下のように記述されている(p.40)。 その後、上場会社の一部に、これに追従するような動きが見られている。株式会社カプコンの「平成27年3月期有価証券報告書」(34ページ)、ステラケミファ株式会社の「コーポレートガバナンス体制」など、いずれも監査等委員会の指揮下に内部監査部門が置かれた体制図となっている。 日本銀行による「論点整理」はあくまで金融機関のための論考という形をとっているが、徐々に監査等委員会設置会社を中心に、内部監査部門の位置づけが「社長・経営者の直轄型」から「監査等委員会直轄型」への移行が進んでいると言えそうである。 *   *  * 以上、6回にわたって連載してきた「〔判決からみた〕会計不正事件における当事者の損害賠償責任」については、ここでひとまず完了とさせていただくことにする。今後も新しい判決が公表される機会があれば、さらに論考を深めていきたいと考えている次第である。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 (連載了)

#No. 233(掲載号)
#米澤 勝
2017/08/31

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第37回】「連結納税における税効果会計(回収指針対応版)」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第37回】 「連結納税における税効果会計(回収指針対応版)」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 税効果会計は大きく「個別財務諸表における税効果会計」、「連結財務諸表における税効果会計」、「連結納税における税効果会計」に分けることができる。今回は「連結納税における税効果会計」について解説する。なお、本解説では3月末決算の会社を前提に解説している。 連結納税における税効果会計は、個別財務諸表から連結財務諸表まで、以下の10のステップに分けることができる。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ◆個別財務諸表◆ ◆連結財務諸表◆ 連結納税における税効果では、法人税は連結納税主体(連結納税制度を適用する各連結納税会社を全体で1つの納税主体とした場合の当該納税主体)で計算し、地方税(住民税・事業税)は連結納税会社ごとに計算するため税効果も法人税部分、住民税部分、事業税部分に分けて検討する必要がある。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 ▷個別財務諸表 ▷連結財務諸表 連結納税における税効果においても、スタートは一時差異等の集計から始まる。詳細は、【第35回】「個別財務諸表における税効果会計(回収指針対応版)」の【STEP1】参照。 繰越欠損金については、注意が必要である。連結納税の繰越欠損金は、以下のように法人税の繰越欠損金、住民税の繰越欠損金、事業税の繰越欠損金に分けて考える必要がある。 連結納税における税効果は、法人税部分の税効果、住民税部分の税効果及び事業税部分の税効果に分けて計算するため、それぞれの法定実効税率を算定する必要がある。 東京都で超過税率適用の場合、以下のとおりとなる。 〈法人税部分〉 〈住民税部分〉 ◎将来減算一時差異及び連結欠損金個別帰属額の場合 ◎控除対象個別帰属税額及び控除対象個別帰属調整額の場合 〈事業税部分〉 また、税率は、以下の時点のものを用いる。 なお、繰延税金資産の回収可能性が法人税と事業税で異なる場合又は住民税と事業税で異なる場合で、かつ、その影響が大きい場合、上記の法定実効税率をそのまま適用することは適当ではないため、法人税と住民税の法定実効税率の分母に使用する事業税率を修正する(実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)(以下、「実報7号」という)Q5、[参考])。 【STEP1】で集計した一時差異等に【STEP2】で算定した法定実効税率をそれぞれ乗じて、法人税部分、住民税部分、事業税部分に分けて算定する。 連結納税における繰延税金資産(個別財務諸表)の回収可能性の検討は、基本的には【第35回】「個別財務諸表における税効果会計(回収指針対応版)」と同様である。しかし、単体納税における回収可能性の検討とは、以下の点で異なる(実報7号Q3)。 上記のⅠ~Ⅳを踏まえて、連結納税における繰延税金資産(個別財務諸表)の回収可能性の検討は、以下の順に行う。 (1) 企業分類の決定 連結納税における税効果では、法人税部分の繰延税金資産は、連結納税主体(連結全体)で回収可能性を検討し、地方税部分の繰延税金資産は連結納税会社(各社)ごとに回収可能性を検討する。 そのため、各連結納税会社の企業分類のみならず、連結納税主体の企業分類を決定する必要がある。連結納税主体の企業分類の決定方法も各連結納税会社の企業分類の決定方法と同様である。詳細は【第35回】「個別財務諸表における税効果会計(回収指針対応版)」の【STEP4】(1)参照。 また、連結納税における税効果では、法人税部分の将来減算一時差異・繰越欠損金の種類、地方税部分それぞれで用いる企業分類が異なるので留意が必要である。 ① 将来減算一時差異(法人税部分) 将来減算一時差異(法人税部分)は連結納税においては連結所得をベースに解消されるため、将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する場合、連結納税主体の企業分類が、連結納税会社の企業分類と同じか上位にあるときは、連結納税主体の例示区分を用いる。ただし、ここでの検討は個別財務諸表であることから、連結納税会社の企業分類が連結納税主体の企業分類の上位にあるときは、まず自己の個別所得見積額をベースに判断するため、当該連結納税会社の企業分類を用いる(実報7号Q3)。 ② 特定連結欠損金個別帰属額(法人税の繰越欠損金) 特定連結欠損金個別帰属額は、連結納税会社の個別所得を限度として、連結所得より繰越控除できる。言い換えると、連結所得の発生が少ない(しない)場合や個別所得の発生が少ない(しない)場合は、繰越控除ができない部分が発生する。したがって、連結納税主体と連結納税会社の例示区分のうち、より下位の例示区分を用いる。 ③ 非特定連結欠損金個別帰属額(法人税の繰越欠損金) 非特定連結欠損金個別帰属額は連結所得と相殺されることで解消するため、連結納税主体の企業分類を用いる。 ④ 地方税部分 連結納税においても地方税は単体納税と同様に単体のみで税額計算するため、連結納税会社の企業分類を用いる。 以上の①から④をまとめると以下のとおりとなる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 回収可能性の検討 回収可能性の検討は、法人税部分・住民税分・事業税分それぞれ別に行う。 ① 一時差異等のスケジューリング スケジューリングは、個別財務諸表における税効果と同様である。そのため、詳細は、【第35回】「個別財務諸表における税効果会計(回収指針対応版)」の【STEP4】を参照。 ただし、スケジューリングにおいて留意する点が1つある。 連結納税における税効果では、全ての企業分類が「1」又は「5(スケジューリング可能な将来加算一時差異がない場合を想定)」でない限り、必ずスケジューリングを行う必要がある(連結財務諸表でも同様)。 例えば、連結納税会社Aの企業分類が「1」で、他の連結納税会社の企業分類が「3」で、かつ、連結納税主体の企業分類が「3」であったとする。この場合、単体納税であれば、連結納税会社Aはスケジューリングに関係なく繰延税金資産を計上できるが、連結納税の場合、法人税部分の税効果は連結納税会社Aのスケジューリングが他の連結納税会社の一時差異等の解消に影響する。そのため、企業分類「1」である連結納税会社Aにおいてもスケジューリングを行う必要がある。 ② 法人税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討 法人税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討は「将来減算一時差異」、「特定連結欠損金個別帰属額」、「非特定連結欠損金個別帰属額」それぞれにおいて、以下の順に行う(実報7号Q3)。 (ⅰ) 将来減算一時差異 (ⅱ) 特定連結欠損金個別帰属額 (ⅲ) 非特定連結欠損金個別帰属額 ③ 住民税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討 住民税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討は「将来減算一時差異」、「連結欠損金個別帰属額」、「控除対象個別帰属調整額・控除対象個別帰属税額」それぞれにおいて、以下の順に行う(実報7号Q3)。 (ⅰ) 将来減算一時差異 (ⅱ) 連結欠損金個別帰属額 (ⅲ) 控除対象個別帰属調整額・控除対象個別帰属税額 ④ 事業税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討 事業税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討は「将来減算一時差異」、「繰越欠損金」それぞれにおいて、以下の順に行う(実報7号Q3)。 (ⅰ) 将来減算一時差異 (ⅱ) 繰越欠損金 なお、以上の②~④では将来減算一時差異等と将来加算一時差異との相殺について解説していないが、回収可能性の検討においては当然に考慮する(連結財務諸表でも同様)。 (3) 支払可能性の検討 将来加算一時差異は、将来の課税所得(税金)を増加させるものである。したがって、理論上は将来の税金の支払が見込まれる(支払可能性のある)将来加算一時差異に係る繰延税金負債のみを貸借対照表に計上するために、繰延税金負債について支払可能性の検討が必要である。 しかし、会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下、「個別指針」という)では、事業休止等により、会社が清算するまでに明らかに将来加算一時差異を上回る損失が発生し、課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合のみ支払可能性がないと判断することになっている(個別指針24)。そのため、事業休止等の状況でない限り、支払可能性はあるとし、会社が事業を行っている状況では支払可能性を検討せずに、(スケジューリング不能な将来加算一時差異も含む)全ての将来加算一時差異に係る繰延税金負債を貸借対照表に計上する。 【STEP5】では、税効果会計の会計処理について検討する。内容は、【第35回】「個別財務諸表における税効果会計(回収指針対応版)」の【STEP5】と同様である。 (1) 繰延税金資産及び繰延税金負債(純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないその他有価証券評価差額金等に係る税効果を除く)の計上 繰延税金資産及び繰延税金負債(純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないその他有価証券評価差額金等に係るものを除く)の増減額を「法人税等調整額」を相手勘定科目として計上する(個別指針2)。 繰延税金資産及び繰延税金負債(その他有価証券評価差額金に係るものを除く)の会計処理の例は以下のとおりである。 (※1) 当期末の繰延税金資産-前期末の繰延税金資産 (※2) 当期末の繰延税金負債-前期末の繰延税金負債 (2) 直接純資産の部に計上され、課税所得の計算に含まれないものに係る税効果- その他有価証券評価差額金の場合 その他有価証券評価差額金に係る税効果会計の会計処理(時価>取得価額の場合)は以下のとおりである。 (※) (時価-取得価額)× 法定実効税率 (3) 繰延税金資産と繰延税金負債の相殺 流動資産の繰延税金資産と流動負債の繰延税金負債は相殺して表示する。また、投資その他の資産の繰延税金資産と固定負債の繰延税金負債も相殺して表示する(個別指針30)。 財務諸表における税効果に関する注記は【STEP10】参照。 個別計算書類では、「繰延税金資産及び繰延税金負債(重要でないものを除く)の発生の主な原因」の注記が必要である。 《設例1》 A社グループは連結納税制度を当期末から採用した(承認手続の開始及び承認日は当期に属する)。A社グループの会社は以下の2社である(前期末は単体納税である)。 また、B社及び連結納税主体の一時差異等加減算前課税所得の見積り期間は5年とする。 A社及びB社の個別財務諸表における会計処理を検討する。 (1) 法定実効税率は以下のとおりである。なお、A社及びB社とも外形標準課税対象会社である。 (2) 一時差異は以下のとおりである。 (3) 個別財務諸表における前期末及び当期末の繰延税金資産の計上額は以下のとおりである。 ※小数点以下は四捨五入(必要に応じて数値の調整あり) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (4) 会計処理及び繰延税金資産・法人税等調整額の金額は以下のとおりである。 〈A社〉 〈B社〉 連結納税における税効果の場合の連結財務諸表においても、連結財務諸表固有の一時差異の集計から始まる。詳細は、【第36回】「連結財務諸表における税効果会計(回収指針対応版)」の【STEP1】参照。 連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産及び繰延税金負債も、個別財務諸表と同様に一時差異に法定実効税率を乗じて算定する。 ただし、未実現損益の消去に係る一時差異とそれ以外の一時差異で用いる法定実効税率は異なる。そのため、それぞれで法定実効税率を算定する。 (1) 未実現損益の消去以外の一時差異における法定実効税率 連結財務諸表固有の一時差異(未実現損益の消去に係る一時差異は除く)に適用する法定実効税率は【STEP2】と同様である。 なお、連結財務諸表を作成するにあたって、連結子会社の決算日が連結決算日と異なる場合で、かつ、当該連結子会社が連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行う場合、当該連結子会社の繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、「連結決算日」における税率による。 また、連結子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行う場合、当該連結子会社の繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、「連結子会社の決算日」の税率による(税率指針9)。 (2) 未実現損益の消去に係る一時差異における法定実効税率 未実現損益の消去に係る一時差異に適用する法定実効税率の算定方法も【STEP2】と同様であるが、適用する法定実効税率の時点等が異なる。 未実現損益の消去による一時差異に適用する法定実効税率は、その取引の売却元に適用される法定実効税率が適用される。また、売却元での実際の課税関係は取引時に終了しているため、売却年度に適用された法定実効税率を用いる。そのため、連結決算日までに税率が改正されていても、改正後の法定実効税率は用いない(会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下、「連結指針」という)13)。 回収可能性考慮前・繰延税金資産及び繰延税金負債を算定する。【STEP7】で未実現損益の消去に係る一時差異とそれ以外の一時差異で別々に法定実効税率を算定したため、【STEP6】で集計した一時差異に別々の法定実効税率を用いて算定する。 連結貸借対照表に計上できる繰延税金資産を算定する。しかし、未実現損益の消去に係る一時差異については、その検討方法が異なる。 そのため、納税会社ごとに未実現利益に係る一時差異とそれ以外の一時差異に分けて回収可能性を検討する必要がある。 また、連結納税のため、法人税部分と地方税部分にも分けて検討する必要がある。 (1) 未実現利益の消去以外の一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の検討 未実現利益の消去以外の一時差異に係る繰延税金資産(法人税部分及び地方税部分)について、その全額を貸借対照表に計上できるわけではなく、将来の課税所得(税金)を減少させる部分しか連結貸借対照表に計上できない。そこで、連結貸借対照表に計上できる繰延税金資産を算定するために、未実現利益の消去以外の一時差異に係る繰延税金資産と個別財務諸表上の繰延税金資産を合算し、「繰延税金資産の回収可能性」を検討する(連結指針41)。 具体的には、以下の①~③の検討が必要である。 ① 企業分類の決定 法人税部分の将来減算一時差異及び非特定連結欠損金個別帰属額における連結財務諸表の企業分類の決定は個別財務諸表と異なる。 (ⅰ) 将来減算一時差異(法人税部分) 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する場合、連結所得で回収可能性が決まるため、連結納税主体の企業分類を用いる。 (ⅱ) 特定連結欠損金個別帰属額(法人税部分) 個別財務諸表と同様に連結納税主体と連結納税会社の例示区分のうち、より下位の例示区分を用いる。 (ⅲ) 非特定連結欠損金個別帰属額(法人税部分) 非特定連結欠損金個別帰属額も連結所得と相殺されることで解消するため、連結納税主体の企業分類を用いる。 (ⅳ) 地方税部分 個別財務諸表と同様に連結納税会社の企業分類をそのまま用いる。 以上の(ⅰ)から(ⅳ)をまとめると以下のとおりとなる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ② 回収可能性の検討 (ⅰ) 一時差異等の解消のスケジューリング 上記【STEP4】の(2)①と同様である。 (ⅱ) 法人税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討 連結財務諸表における法人税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討は、【STEP4】の(2)②と基本的に同様だが、連結財務諸表では個別所得ではなく、連結所得をベースに回収可能性を検討するため、個別財務諸表における回収可能額が連結所得に基づいた回収可能額を超える場合がある。この場合、当該超過額に相当する繰延税金資産(=当該超過額×法人税の法定実効税率を乗じた金額)を修正する必要がある。 また、将来減算一時差異(法人税部分)は、連結納税主体の企業分類を用いるため、個別財務諸表と企業分類が異なることにより繰延税金資産を修正する場合がある。例えば、連結納税会社の企業分類が「2」で連結納税主体の企業分類が「3」(一時差異等加減算前課税所得の見積り期間は5年としている)の場合、将来減算一時差異(法人税部分)は個別財務諸表ではスケジューリング可能な一時差異等は全額繰延税金資産計上可能だが、連結財務諸表では、連結ベースの一時差異等加減算前課税所得の5年分を限度にしか繰延税金資産を計上できない。そのため修正が必要となる場合がある。 なお、非特定繰越欠損金個別帰属額(法人税部分)及び特定繰越欠損金個別帰属額(法人税部分)の企業分類は、連結財務諸表と個別財務諸表で変わりはない。 (ⅲ) 地方税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討 地方税部分は、単体納税のため個別財務諸表で計上した繰延税金資産に連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産を合算して、個別財務諸表と同様に回収可能性を検討する。 ③ 支払可能性の検討 繰延税金負債の支払可能性の検討の詳細については、上記【STEP4】参照。 (2) 未実現損益の消去に係る一時差異における繰延税金資産及び繰延税金負債の検討 未実現損益の消去に係る一時差異の税効果も法人税部分と地方税部分に分けて検討する。 未実現利益の消去の場合、法人税部分は、連結ベースの課税所得を限度に繰延税金資産を計上する。地方税部分は単体納税の場合と同様に単体の課税所得を限度に繰延税金資産を計上する。 一方、未実現損失の消去の場合、未実現損失を計上する前の連結ベースの課税所得を限度に繰延税金負債を計上する。地方税部分は単体納税の場合と同様に未実現損失を計上する前の単体の課税所得を限度に繰延税金負債を計上する(実報7号Q7)。 連結財務諸表における税効果会計の会計処理について検討する。ただし、会計処理自体は上記【STEP5】の(1)及び(2)と同様である。 (1) 繰延税金資産及び繰延税金負債(純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないその他有価証券評価差額金等に係る税効果を除く)の計上又は取り崩し 繰延税金資産及び繰延税金負債(純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないその他有価証券評価差額金等に係るものを除く)の増減額を「法人税等調整額」を相手勘定科目として計上する(個別指針2)。会計処理は【STEP5】と同様である。 (2) 直接純資産の部に計上され、課税所得の計算に含まれないものに係る税効果の計上又は取り崩し- その他有価証券評価差額金の場合 会計処理は【STEP5】と同様である。 (3) 繰延税金資産と繰延税金負債の相殺 同一納税主体ごとに繰延税金資産と流動負債の繰延税金負債を相殺して表示する。(連結指針42)。 そのため、連結納税における法人税は同一の納税主体であるため、親会社及び子会社の法人税に係る繰延税金資産と繰延税金負債を、流動項目と固定項目ごとに、相殺して表示する(実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」Q17)。 一方、地方税に係る繰延税金資産と繰延税金負債は、各連結納税会社=納税主体となるため親会社と子会社、子会社間で相殺することはできない。 また、税効果会計においては、以下の注記が必要である(連結財務諸表規則15条の5)。 連結納税親会社の個別財務諸表における法人税に係る繰延税金資産の計上額が、連結財務諸表の繰延税金資産の計上額を大幅に上回る場合で、その上回る金額に重要性がある場合には、連結納税親会社の個別財務諸表に追加情報の注記が必要である(実報7号Q4)。 なお、連結計算書類では上記のような注記は必ずしも求められていない。 《設例2》 A社グループは連結納税制度を当期末から採用した(承認手続の開始及び承認日は当期に属する)。A社グループの会社は以下の2社である(前期末は単体納税である)。 また、B社及び連結納税主体の一時差異等加減算前課税所得の見積り期間は5年とする。 連結財務諸表における会計処理を検討する。 (1) 法定実効税率は以下のとおりである。 (2) 一時差異は以下のとおりである。なお、連結財務諸表固有の一時差異はない。 (3) 個別財務諸表及び連結財務諸表における繰延税金資産の計上額は以下のとおりである。 ※小数点以下は四捨五入(必要に応じて数値の調整あり) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (4) 連結修正及び繰延税金資産・法人税等調整額の金額は以下のとおりである。 〈A社〉 〈B社〉 *  *  * 以上、10のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 ▷個別財務諸表 ▷連結財務諸表 (了)

#No. 233(掲載号)
#西田 友洋
2017/08/31
#