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組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q2】「合併とはどういうものか」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q2】 合併とはどういうものか   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 合併とは、2つ以上の会社が1つの会社になることをいい、消滅会社の権利義務は、存続会社又は新設会社に包括的に承継される。    合併の種類 合併とは、2つ以上の会社が合併契約により1つの会社になることをいい、吸収合併と新設合併の2種類がある。 吸収合併とは、合併する会社のうち1つの会社を存続させ、その存続する会社(存続会社)に他の会社(消滅会社)の権利義務を承継させるものをいう。 【吸収合併のイメージ】 A社(存続会社)とB社(消滅会社)の合併 新設合併とは、新しく会社を設立し、その新設した会社(新設会社)に合併するすべての会社(消滅会社)の権利義務を承継させるものをいう。 【新設合併のイメージ】 A社とB社を合併して新設会社C社を設立    合併による権利義務 合併の場合は、契約により権利義務は包括的に承継される(会社法第750条第1項等)。よって、吸収合併の場合は存続会社に、新設合併の場合は新設会社に、消滅会社のすべての権利義務が、合併契約の効力発生日に自動的に承継されることとなる。 (了)

#No. 222(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2017/06/15

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第11回】「死後に婚姻・養子縁組の無効が争われるケース(その1)」

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第11回】 「死後に婚姻・養子縁組の無効が争われるケース(その1)」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   [設問11] 先月、自宅近くの介護付き有料老人ホームに長年入居していた私の父が、95歳で亡くなりました。父には私を含めて3人の娘がおります。父の妻、つまり私の母親は既に10年前に亡くなっています。 父は、資産家である名門の一族に生まれた長男でしたから、実家の土地建物以外にも都内に多くの不動産を所有し、預貯金もそれなりの金額がありました。これらすべてが父の遺産ということになります。 四十九日が過ぎてから父の遺品を整理しましたが、遺言書は特に見つかりませんでした。そのため、私たち姉妹3人で遺産分割の協議をしようと思っていた矢先、予想もしなかった連絡が入ったのです。 ◆  ◆  ◆ その連絡は、父がお世話になっていた老人ホームで父の担当をしてくれていた50代の女性Aさんからのものでした。Aさんいわく、父が亡くなる1ヶ月前に、父のたっての希望ということで、父と入籍したというのです。しかも、離婚歴のあるAさんには既に成人している2人の子供がいるそうですが、入籍と同時に、この2人の子供が父と養子縁組をしたというのです。 Aさんは、自分と子供たちも法定相続人となるため、遺産分割協議に加わりたいという申し入れをしてきました。 Aさんのことは、私も何度か老人ホームでお会いしています。そのときは私たち家族に対しても感じが良く、父の面倒もよく見てくれていて大変ありがたく感じていたのですが、裏でこのようなことになっていたとは全く知りませんでした。もちろん、父からも入籍のことを聞いたことはありません。 ◆  ◆  ◆ 入籍した頃の父の様子と言えば、周囲の人と会話が全くできないわけではありませんでしたが、それでも相当身体も判断能力も弱っていて、短い会話をするのがやっとという状態でした。このような状態の父が、Aさんとの入籍やAさんのお子さん方との養子縁組を了解したとは到底思えません。 私たち3人姉妹としては、Aさんとお子さん方が相続人であることについて強く争いたいのですが、どのように進めていけば良いのでしょうか。   1 遺産分割調停は「ロードマップ(手順)」が決まっている 【設問11】のような事例は昔から度々あるもので、特に芸能人や財界人が当事者となるケースなどは、週刊誌等でも取り上げられ話題になることも多い。 さて、相談者としては、今後、A及びその子供たちとどのような手続で、どのように争っていけば良いであろうか。 これを検討する際には、遺産分割調停が通常どのような手順を踏んで進められていくかを知っておく必要がある。 遺産分割は、被相続人が生きている頃からの長年にわたる様々な出来事や諍い(いさかい)を背景とし、積もり積もったものが激しい感情的対立を伴って一気に噴出する場でもある。 そこで、家庭裁判所は、このような複雑かつ感情的な対立に振り回されることなく公平かつ円滑に遺産分割調停を進めることができるよう、遺産分割調停の進め方についての“統一的なロードマップ”を作成し、公開している。 これが、次に示す「遺産分割調停の進め方(チャート)」と呼ばれるものである。 (※) 東京家庭裁判所ホームページより 本稿では、チャートの内容を逐一説明することは割愛するが、これは国内のいずれの裁判所においても使われている標準的なロードマップであり、遺産分割調停に携わる者にとっては必ず押さえておかなければならない必須知識である。   2 「相続人であることについての争い」は、調停では扱えない 【設問11】における争いは、①Aと相談者の父との間の婚姻が無効であると主張する点と、②Aの子供たちと相談者の父との養子縁組が無効であると主張する点の2つを含むものである。そして、この2点が認められるか否かで、各人の法定相続分は大きく変わってしまう。 すなわち、【婚姻・養子縁組の双方が有効】となれば、各自の法定相続分は、Aは2分の1、相談者の3姉妹とAの2人の子供は各自10分の1ずつとなる。他方で、【上記のいずれも無効】となれば、Aと子供たちは法定相続人とはならず、相談者の3姉妹だけが各自3分の1ずつの法定相続分を有することになる。 上記2点の争いは、前記チャートでいう一番目のテーマ、すなわち「① 相続人の範囲」に関する争いである。 【設問11】では、この点に関していわゆる「前提問題」の争いが存在するということであり、設問の状況や利益状況に照らしても、話し合いで一定の結論をもってこの争点について合意できる可能性は極めて低い。 そのため、前提問題については遺産分割調停では取り扱うことができず、別途、訴訟において争い、裁判所で確定した後、改めて遺産分割調停を進めるということになる。 この手順を誤り、いきなり遺産分割調停を申し立てたとしても、早晩調停は先に進まなくなり、裁判所から調停申立ての取下げを指導されることになる。 このように【設問11】のようなケースにおいては、いきなり遺産分割調停を申し立てたとしても、時間と労力が無駄になる可能性が高い。   3 婚姻無効の訴え/養子縁組無効の訴えを起こす側の争い方 【設問11】における相談者、すなわち、婚姻の無効及び養子縁組の無効を主張する側としては、家庭裁判所に対し、人事訴訟としての「婚姻無効確認の訴え」及び「養子縁組無効確認の訴え」を原告として提起し、その裁判手続の中で争っていくことになる。 そして、設問のように、婚姻・養子縁組の届出当時の判断能力の低下が争点となる場合、原告としては、下記の事由に基づき無効を主張していくことになる。 以上のように、仮に届出当時、相談者の父が認知症により判断能力が低下しており、内容を理解・承諾しないまま婚姻及び養子縁組の届出書の作成と届出がなされたという場合には、婚姻・縁組意思も婚姻・縁組届出意思も存在せず、婚姻・養子縁組は無効となる。 以上のような婚姻意思・養子縁組意思に加え、この種の訴訟においては、「婚姻や養子縁組に至った経緯がどのようなものであったのか」という事実経過が極めて重要となる。 原告側としては、「婚姻や養子縁組に至った流れが不自然であること」を強調していくことになる。 次回(6/29公開)も引き続き、今回のケースについて解説を続けることとする。 (了)

#No. 222(掲載号)
#栗田 祐太郎
2017/06/15

役員インセンティブ報酬の分析 【第4回】「中長期連動金銭報酬等①」-平成28年度の状況-

役員インセンティブ報酬の分析 【第4回】 「中長期連動金銭報酬等①」 -平成28年度の状況-   弁護士・公認会計士 中野 竹司   1 役員報酬のための中長期連動金銭報酬の概要 (1) 全体像 役員インセンティブ報酬には大きく分けて、報酬の交付物が「金銭」か「エクイティ」かに分けることができる。今回は、役員インセンティブ報酬のうち、金銭報酬について取り上げる。 なお、平成29年度税制改正により、インセンティブ報酬の法人税法上の損金算入の可能性が高まったことから、今後多様なインセンティブ報酬プランが設計されてくると考えられるが、今回は平成29年度税制改正前のプランについて検討する。 役員インセンティブ報酬の中の金銭報酬のタイプは、大きく分けて「業績連動型」と「株価連動型」がある。 このうち、業績連動型金銭報酬の例としては、年次業績連動型賞与やパフォーマンス・キャッシュといったタイプがある。 また、株価連動型金銭報酬の例としては、ファントム・ストック(Phantom Stock)やストック・アプリシエーション・ライト(Stock Appreciation Rights:SAR)などがある。 これらの概要は、次の表のようなものである。 (2) 年次業績連動型賞与及びパフォーマンス・キャッシュの導入例 オムロン株式会社は、取締役の報酬等のガバナンス体系を、①基本報酬、②単年度業績連動賞与、③中期業績連動賞与及び持株連動報酬並びに業績達成条件新株予約権を採用しており、上表の年次業績連動型賞与及びパフォーマンス・キャッシュのいずれも導入している。 そして、②単年度業績連動賞与の算定方法は、役位ごとの基準額を基本に、税引前当期純利益、投下資本利益率(ROIC)、株主に帰属する当期純利益及び1株あたりの配当を賞与の評価指標として、評価指標の達成率、伸び率に応じて決定するとしている。 また、③中期業績連動賞与については、中期経営目標の達成度に連動していると開示している。 (3) ファントム・ストックの導入例 野村ホールディングス株式会社は、ファントム・ストックプランを導入している。 同社は、変動報酬を「現金賞与」と「繰延報酬」に分けて設計し、繰延報酬の中にファントム・ストックを組み込んでいる。ただし、同社の報酬制度の概要の開示では、役員及び従業員の報酬制度を開示しており、また、必ずしも日本居住者の報酬でない場合がある点に留意が必要である。 (4) SARの導入例 日産自動車株式会社は、会社の持続的な利益をもたらす成長に対する取締役の意欲を一層高めることを目的とし、SAR型のインセンティブ報酬として、株価連動型インセンティブ受領権を導入している。 これは、権利行使日の前普通取引日における会社普通株式1株当たりの市場終値が下記行使価額を上回っている場合に、その差額を受領する権利として設計され、年間付与総数の上限、行使価額、権利行使可能期間(各権利付与日から 10 年を経過する日までの範囲内で、取締役会が定める)、行使条件及び適用期間及び権利付与日といった条件を株主総会決議に基づき取締役会が詳細な条件を決定する設定となっている。 また、各取締役が株価連動型インセンティブ受領権を実際に行使できる数は、被付与者に付与された権利の数を上限として、被付与者毎に設定される業績目標の達成度等の条件に応じて計算される。   2 ガバナンス面から見たメリット・デメリット インセンティブ報酬の交付物が金銭の場合は、支給のために現預金を用意しておかなければならないという面があるが、株式報酬の場合と異なり、株式の希釈化は生じない。 また、インセンティブ報酬としての金銭報酬のうち、株価連動型の場合は、役員と株主の利害が直接的に関連付けられるといえるが、株式市場や業界全体の状況といった個別の企業にとって外的要因といえる経済変動の影響を受けたり、個社の株式需給の歪みが生じた場合にその影響を受けたりするという側面がある。 一方、業績連動型の場合は、役員と株主の利害の関連付けが間接的になるという面があるが、個社にとってコントロール不能な上記外的要件や株式需給の歪みの影響を受けないという側面がある。   3 会社法上の視点 業績連動型金銭報酬及び株価連動型金銭報酬は、いずれも会社法上の報酬等(361条1項)に該当するため、定款に定めがある場合又は指名委員会等設置会社である場合を除き、株主総会の決議によって定める必要がある。 株主総会の決議方法としては、報酬の最高限度額を定める方法(361条1項1号)と報酬の算定方法を定める方法(361条1項2号)がある。   4 税法上の視点 平成29年度税制改正前は、中長期業績連動型賞与及び株価連動型役員報酬はいずれも損金算入要件を満たすことが困難であった。 しかし、平成29年度税制改正により活用が広がる可能性が出てきている。改正では、損金算入の対象となる業績連動給与の要件が緩和され、大幅に設計しやすくなった。 この平成29年度税制改正が実務にどのように影響を与えたかについては、今後の連載において具体的に触れる予定である。   5 会計上の視点 業績連動型の役員報酬については、「役員賞与に関する会計基準」において定めがある。すわなち、役員報酬は、確定報酬として支給される場合と業績連動型報酬として支給される場合があるが、職務執行の対価として支給されることに変わりはなく、会計上は、いずれも費用として処理される。 役員賞与は、経済的実態としては費用として処理される業績連動型報酬と同様の性格であると考えられるため、費用として処理することが適当であるとされる(「役員賞与に関する会計基準」12(1))。 また、当事業年度の職務に係る役員賞与を期末後に開催される株主総会の決議事項とする場合には、当該支給は株主総会の決議が前提となるので、当該決議事項とする額又はその見込額(当事業年度の職務に係る額に限るものとする)を、原則として、引当金に計上する(「役員賞与に関する会計基準」13)。 もっとも、中長期の目標を設定し、その達成度に応じて報酬額を決めるという設計の場合は、どの時点で会計上引当計上しなければならないかは、必ずしも明確ではない。 (了)

#No. 222(掲載号)
#中野 竹司
2017/06/15

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第4回】「ダイバーシティ2.0行動ガイドラインについて」

コーポレート・ガバナンス・システムに関する 実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第4回】 「ダイバーシティ2.0行動ガイドラインについて」   PwCあらた有限責任監査法人 シニアアソシエイト 河合 巧   本シリーズでは、2017年3月31日に経済産業省から公表された「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を取り上げている。CGSガイドラインは、2015年6月から適用が開始された「コーポレートガバナンス・コード」(以下、CGコード)の内容を補完し、企業価値向上のための具体的な行動を示す目的で取りまとめられたものである。 今回は、CGSガイドラインから、CGSガイドラインの別添「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を取り上げ、その概要を解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予めお断りする。   〔ダイバーシティ2.0行動ガイドラインの背景〕 これまで、安倍政権は発足時から働き方改革を重点施策に位置付け、この文脈でダイバーシティ推進の取組が関係省庁によって進められてきた。その中で、経済産業省は企業経営の視点からのダイバーシティに注目し、企業の競争力強化のため、性別、国籍、障がい等の属性を含め、個人が能力を発揮して企業価値創造に参画する「ダイバーシティ経営」を推進してきた。 徐々に企業の認知も進み、ダイバーシティ経営に取り組む企業こそ増えたが、実態は企業価値と直結しない段階にとどまるケースが少なくない。 そのような中、経済産業省は、平成28年に「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ 2.0)の在り方に関する検討会」(座長:北川哲雄 青山学院大学大学院 教授)を立ち上げ、あるべきダイバーシティ経営の考え方、ボトルネック、必要なアクションについて、企業、投資家、有識者等による議論を行い、その成果物として、報告書とともに、ダイバーシティ2.0行動ガイドライン(以下、本ガイドライン)を世に発信した。 本ガイドラインは、日本政府の強い問題意識の提示に始まり、ダイバーシティの効果、企業に求められる考え方やアクション、また、取組事例を整理した、ダイバーシティ経営の「指南書」といえる内容となっている。   〔ダイバーシティ2.0とは〕 ソフトウェアのバージョンの新旧になぞらえ、従来型の取組を「ダイバーシティ1.0」とし、それに対峙する概念として、経営戦略に紐付き、中長期の企業価値の創出に資する将来型の取組を「ダイバーシティ2.0」と定義している。 (出典:経済産業省「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」p3より)   〔コーポレートガバナンスにおけるダイバーシティ〕 そもそもダイバーシティは、ガバナンスとどのような関係があるのだろうか。 コーポレートガバナンス・コードに目を向けると、「多様性」という表現で、「女性活躍推進を含む社内の多様性の確保(原則2-4)」、及び「取締役会・監査役会の実効性確保ための前提条件(原則4-11)」が定められ、上場企業にとっては既に考慮すべきテーマの1つとなっている。 このコーポレートガバナンス・コードに呼応する形で、CGSガイドラインは取締役会の多様性のあり方について、以下のように示している(CGSガイドラインp27、p56)。   〔ダイバーシティ2.0実践のための7つのアクション〕 CGSガイドラインはガバナンスの観点からダイバーシティの有用性に触れたが、本ガイドラインは経営陣の取組、現場の取組、及び外部コミュニケーションまで広範な領域に焦点を当てている。 大上段に構えた内容に映るが、企業毎の状況に合わせてカスタマイズできる余地を残しつつ、ダイバーシティ経営の在り方を見直す際、土台となる視点を提示している点に意義がある。 (経済産業省「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン 」p1を基に筆者作成) また、全社的に各取組の関連性を以下の図でまとめている。ともすれば、ダイバーシティの取組は特定の部門・部署に閉ざされている企業も多いが、本来は企業内部のみならず、外部ステークホルダーを考慮することが重要である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」 p4より) 上述の7つのアクションのうち、アクション③ガバナンスの改革の具体的な取組として、取締役会の監督機能の向上、及び、取締役会におけるダイバーシティの取組の監督と推進が示されている。これは、CGSガイドラインにも反映されている。 (出典:経済産業省「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」 p10 より) ダイバーシティ2.0行動ガイドラインでは、具体的な取組事例も紹介されているので参考にされたい。 (出典:経済産業省「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」 p10 より)   〔おわりに〕 「働き方改革」の名の下で劇的かつ刻一刻と労働・雇用環境が変わる中、企業側の制約・負担が増えている。ダイバーシティは、このような様々な制約や負担に適応・対応していくためにも有効となる視点であり、手段でもある。 今回紹介した本ガイドラインを起点として、この目まぐるしい労働・雇用環境の変化の中、ダイバーシティ経営の視点を織り込みながら、自社の経営・実務の舵取りをどのように行っていくのか検討・実践していくことが、企業にとって有効だろう。 本解説シリーズの最終回となる次号(第5回)では、シリーズのまとめとして、その他の提言(取締役会機能の強化、役員人事(報酬)などを取り上げる予定である。 なお、CGSガイドラインの全容については、時系列的な経緯とあわせて本解説シリーズの【第1回】でご紹介しているので、ぜひ参照されたい。 (了)

#No. 222(掲載号)
#河合 巧
2017/06/15

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第3回】「本当に求められる「コミュニケーション能力」とは」

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第3回】 「本当に求められる「コミュニケーション能力」とは」   中小企業診断士 西田 純   連載【第3回】となる今回は、 ◆そもそもコミュニケーション能力とは何なのか? ◆言語能力(英語力)はどの程度重要と考えるべきなのか? についてお話したいと思います。   1 外国人との業務コミュニケーションと言語力の意外なギャップ 専門家の間では半ば常識ですが、『英語ができること』と『仕事上で外国人とのコミュニケーションが上手くできること』は、必ずしも一致しません。 私がこれまでに仕事を通じて出会った事例では、専門学校卒、高校時代は英語が全く不得意、今でもサバイバル英語に自信がない、でも海外のお客さんとはすぐに打ち解け、海外出張に行けばその先々で友だちを作ってしまう、という営業マンがいました(Aさんとします)。 必ずしも小さくない会社の中堅社員だったのですが、一時期は会社の海外事業全体の実務総括を任されていました。さすがに言語的なハンディへの対策が必要だったということなのでしょう、彼の下には英語と日本語が堪能な中国籍の女子社員(Bさんとします)がいて、日常的なコミュニケーションをサポートしていました。 ここで根源的な問題を提起します。 なぜ英語のできないAさんが海外事業を任されていたのか? ということについて。 実は、Aさんの特質は、単に人懐っこいだけではありませんでした。 まず、専門学校以来職場で培った専門性や現場力が高く、何が問題なのか説明する能力に長けていました。 また、中堅社員なのに会社の財務状況を常に意識しており、自分が臨んでいる商談の成否が自社損益にどの程度影響するのかを常に把握しているなど、意思決定面で上司からの信頼を得ていたのです。 そして、人懐っこいだけに外交的で、日本語であればかなり巧みな話術を有していたことも見逃せないと思います。   2 企業が求めるコミュニケーション能力とは? ここで「企業が社員に求めるコミュニケーション能力」について考えてみたいと思います。 一言で言えば、顧客に信頼され、業者と円滑な交渉ができ、社内の労務管理や連絡調整を正確にこなす力、ということになると思います。上で参照した事例の場合、顧客との関係づくりはAさんが、顧客・業者を含む英語による連絡調整などはBさんが担当していたわけですが、現場における実際の問題認識と意思決定、Bさんに対する日本語での業務指示などは、Aさんが極めて円滑にこなしていたという事実があります。 そこまで見ると、企業=組織体としてのコミュニケーション能力を担保するために求められるのは、何も会話能力など表面的なコミュニケーションに関わる能力だけではなく、もう少し一般的な、業務能力に関わる部分が重要であることがわかると思います。 さらに海外勤務者の場合、これに加えて、現地スタッフを含む社内の連絡調整などをどうこなすか、という課題が見えてきます。 企業によっては海外拠点における管理方式を日本と同じにしていたり、極端な例では職場の共通言語を日本語にしているという事例もありますので、そういう場合は必ずしも英語でなくても構わない、ということになりますが、最低限やはり基礎的な連絡などは英語でこなす力が求められる場合がほとんどでしょう。   3 みておくべき点 ここまでお話してきたことを踏まえて、海外勤務者に求められるコミュニケーション力について、簡単に整理してみましょう。 (1) 伝わるコミュニケーションとは 普段、私たちは人の話を聞くとき、いくつかの要素を瞬時に判断します。それは、①誰が、②何を、③なぜ、④どこで・いつ(どんな場面で)、そして⑤どんなふうに言っているか、という5W1Hの視点から構成されています。 伝わるコミュニケーションは、これらの要素を過不足なく、遅滞なく提供してくれます。逆にこれらの要素がなかなか伝わってこず、質問しても明快に確認できないようだと、聞き手にとってストレスの元となります。 かつて、言語としての英語はとても上手な中東出身の方と仕事をしたことがあるのですが、いつまで聞いていてもこの視点(特に②何を、と③なぜ、の説明が終わらない)が明快にならず、ただ延々としゃべり続けるだけの英語に、ほとほと疲れ切ったことがありました(中東出身の方のすべてがそうだというわけではありませんので念のため)。 (2) 日本語能力が高い 私はこれまで長く英語に携わってきた中で、高校時代の恩師から言われた 本当に英語が上手い人は日本語も上手いのだ という言葉が強く印象に残っています。 確かに、上で述べた伝わるコミュニケーションのためのポイントを的確に表現する力、いわば論理構成力が優れた人であれば、使う言葉が英語と日本語のどちらであっても(注:十分な基礎的英語力があれば、という条件付きですが)おそらく伝えるべきことをしっかりと相手に伝えられるはずです。 候補者の人選においても、的確な語彙と簡潔な表現による日本語能力の確認は、外せない項目です。 (3) 一貫した視点を持つ 今、自分が見ていることが自分の仕事にとって是であるか非であるか、また自分が取り組んでいる仕事について会社はそれを是とすべきか否か。常にそのような視点を持って動けるようになるまでには、早い人で入社後数年の時間がかかるのが普通ではないかと思います。 その後さらに経験を積み、定点観測的に自らの取組みを評価できるようになると、その人の発言や行動には一貫性が伴うようになります。 この一貫性が、コミュニケーションでは上で述べた「①誰が」言っているのか、という要素を格段に強化してくれることになるのです。 (4) わかりやすい言い方ができる ②~⑤までの要素をどのように表現するか、というのも、コミュニケーション能力を測るうえで重要なポイントになります。 具体的に言うと、「【理由】なので【結論】である」、という論拠の提示、「AはBに比べて【分析対象】の面で【分析結果】という違いがある」、という比較分析、「Aは【調査開始時】から【調査終了時】まで【分析結果】という【結論】的な変化をした」、という変化の追跡などを簡潔に示せることは、その人の説明能力の高さを示すものです。 もしあなたの周辺に、上で述べた5W1Hの視点をストレスなく表現してくれる人がいたとすると、おそらくその人はこのような言い方を多用しているのではないでしょうか。 (5) 基礎的英語力 ここまで、候補者選びのためのコミュニケーション能力について、重要なポイントを説明してきました。審査項目としては順番が逆になるかもしれませんが、社内での簡単な連絡調整や会話など、海外勤務者にとってはイロハのイにあたるのが、基礎的英語力だと思います。 仕事を離れても、休日の買い物やオフタイムなどにおいても、大きなストレスなく日常生活を送るうえで、基礎的な英語力が求められる場面は少なくありません。 コミュニケーション能力を語るうえで忘れてはいけないポイントなので、最後に付け加えておきます。   4 人材育成上のポイント (1) 英語能力テストに囚われすぎず、馬鹿にもせず TOEICに代表される英語能力テストは、社会の隅々にまで知られるようになりました(TOEIC990点という得点のおかげで、私も営業的にはずいぶんと得をしているように思います)。 それだけ社会の中で基礎的英語力へのニーズが高いということだと思いますが、これまで述べてきたような視点を踏まえると、これら能力テストの成績ばかりを重んじるのは正しいやり方ではないことがお分かりいただけようかと思います。 むろん、社内共通語が英語で、上司であるあなたが上で述べた「語彙・表現・視点・言い方」を問題なく英語で評価できる、というような場合は別ですが、基礎的英語能力を評価するために、ある程度これらのテストを参考にするという考え方は合理的なものだと思います。 (2) 本人の意識を高めるには ぜひ今回の記事を参考資料にして、「コミュニケーション能力とは何か」「それを高めるための視点は何か」について説明してあげてください。顧客・業者そして社内に対するコミュニケーションの円滑化、それこそが海外勤務を成功させるための重要な要素であることを言い添えて。   5 意外と必要なのが絵心? 最後に1点、付け加えます。 最近感じることですが、会議などで多用されるパワーポイントなどのプレゼンテーションツールも、コミュニケーションを円滑化するためにはとても役に立ちます。 そういう意味では、イラストやフローチャートなどを見やすく加工する力、いわゆる絵心があるのも立派なコミュニケーション能力なのかな、と思います。 ビジュアルツールの効用に少しだけ触れて、今回のお話を終えたいと思います。 (了)

#No. 222(掲載号)
#西田 純
2017/06/15

《速報解説》 「未来投資戦略2017」が閣議決定、企業による情報開示の質の向上に向けた施策を示す~四半期開示は重複開示の解消・効率化に向け来年春を目処に一定の結論を目指す~

《速報解説》 「未来投資戦略2017」が閣議決定、 企業による情報開示の質の向上に向けた施策を示す ~四半期開示は重複開示の解消・効率化に向け来年春を目処に一定の結論を目指す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年6月9日、「Society 5.0(ソサエティ5.0)」の実現を目指し、「未来投資戦略2017-Society5.0の実現に向けた改革-」が閣議決定された。 未来投資戦略では、健康・医療・介護やFinTechの推進等など多岐にわたる内容が述べられており、表紙を含めて383ページの大部なものとなっている。 本稿は、このうち、コーポレートガバナンス、会計及び監査に関連する主な事項について取り上げるものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ コーポレートガバナンス 「稼ぐ力」の強化(コーポレートガバナンス改革を形式から実質へ)に関して、実現のために必要となる主要項目として次の事項を述べている。   Ⅲ 企業の情報開示、会計・監査の質の向上 企業の情報開示、会計・監査の質の向上として、次のことが述べられている。 (了)

#No. 221(掲載号)
#阿部 光成
2017/06/14

《速報解説》 受益者が外国法人である受益者等課税信託の信託財産に属する国内不動産の貸付けによる対価の支払に係る源泉徴収義務について、東京局より文書回答事例が公表

 《速報解説》 受益者が外国法人である受益者等課税信託の信託財産に属する国内不動産の貸付けによる対価の支払に係る源泉徴収義務について、東京局より文書回答事例が公表   税理士 仲宗根 宗聡   東京国税局は、平成29年4月28日付(ホームページ公表は5月31日)で、「受益者が外国法人である受益者等課税信託の信託財産に属する国内不動産の貸付けによる対価の支払いに係る源泉徴収義務について」の事前照会に対し、回答文書を公表した。 以下では、その内容について解説する。   【 前 提 】 〈スキーム図〉 本事例のスキーム図を示すと、次の通りである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 〈契約関係〉 〈課税上の前提条件〉   【事前照会者の見解(要約)】 1 外国法人に対して国内源泉所得の支払をする者は、源泉徴収をしなければならないこととされているが、本件マスターリース料は、信託銀行(内国法人)に支払うものであるため、源泉徴収義務を負わないものと解して差し支えないか。 2 本件マスターリース料について提出する「不動産の使用料等の支払調書」について、「支払を受ける者」の欄は、信託銀行の所在地及び名称を記載して差し支えないか。   【回答の要約】 1 マスターリース料の源泉徴収義務について 受益者等課税信託の課税上の取扱いは、信託という制度を導管とみなし、受託者(信託銀行)への課税を排除し、信託財産(対象不動産)に帰せられる収益・費用は、信託財産の実質上の所有者である受益者に帰属するものとし取り扱う(パススルー課税)。 マスターリース料の支払いは、マスターリース契約上は信託銀行に対して支払うこととなるが、課税上は、受益者(外国法人)に対する支払いとして取り扱われる。 そのため、マスターリース料の支払いは、外国法人(受益者)への国内源泉所得の支払いに該当するため、マスターレッシーが源泉徴収義務を負うと解するのが相当である。 2 支払調書の記載について 上記1のとおり、パススルー課税により、外国法人に対する国内源泉所得の支払いに該当するため、「支払い受ける者」の欄には、外国法人の所在地及び名称を記載する。 (了)

#No. 221(掲載号)
#仲宗根 宗聡
2017/06/13

《速報解説》 「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(案)」等が公表~ASBJ移管に伴い注記事項等開示関係を見直し~

《速報解説》 「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(案)」等が公表 ~ASBJ移管に伴い注記事項等開示関係を見直し~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年6月6日、企業会計基準委員会は、次の公開草案を公表した。 これは、日本公認会計士協会の税効果会計に関する実務指針について、企業会計基準委員会に移管するためのものであり、基本的にその内容を踏襲した上で、必要と考えられる見直しを行っており、主として開示に関する改正である。 意見募集期間は平成29年8月7日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 公開草案の主な内容 1 会計処理に関する改正 会計処理に関する改正は次のとおりである。 2 開示に関する改正 開示(表示及び注記)に関する改正は次のとおりである。   Ⅲ 適用時期等 原則として、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するが、早期適用できる事項もある。 改正事項によっては、表示方法の変更として取り扱うもの、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うものがあるので、実際の適用に際しては注意が必要である。 詳細は、公開草案に関する「本公開草案の概要及び質問項目」の「適用時期等」をご覧いただきたい。 (了)

#No. 221(掲載号)
#阿部 光成
2017/06/08

プロフェッションジャーナル No.221が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年6月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.221を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/06/08

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第53回】「国会審議から租税法条文を読み解く(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第53回】 「国会審議から租税法条文を読み解く(その2)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦     Ⅲ 雪下ろし費用の雑損控除の論拠 1 2つの解釈論的アプローチ 雪下ろし費用に係る雑損控除を認める論拠を解釈論上いかに説明するかについては、差し当たり2つの捉え方があり得ると思われる。 ① 豪雪損失説 豪雪被害による損失を考慮して雑損控除の対象とするという考え方 ② 損失拡大未然防止説 豪雪による被害をこれ以上拡大させないためになされる被害未然防止費用として雑損控除の対象とするという考え方 これらの見解について、それぞれ国会審議から確認することができるので、以下確認してみたい。 (1) 豪雪損失説 第一に、豪雪自体を雑損控除の対象として、この豪雪による損害の中に、「雪下ろし費用」を読み込むアプローチがある(豪雪損失説)。 例えば、昭和56年3月3日付け第94回国会衆議院・予算委員会第5分科会において、国税庁の冨尾一郎所得税課長(当時。後の国税庁次長)が次のように答弁している。 ここでは、「雑損控除の趣旨は、家財とか住居とかに損害を受けた場合に」とされているとおり、家財や住居に損害を被らせる雪下ろし費用について雑損控除の適用が認められるという趣旨の答弁がなされているといえよう。 (2) 損失拡大未然防止説 第二のアプローチとして、「雪下ろし費用」を豪雪による被害損失の拡大防止あるいは予防のために要した費用として、雑損控除の対象とするという構成が考えられる(損失拡大未然防止説)。 損失拡大未然防止説は、従前の枠組みの中にあって、「予防」に対する雑損控除を認める解釈論上の根拠である。 上記の豪雪損失説が、「損害を被らせる雪下ろし費用」について雑損控除を認めるものであるのに対し、損失拡大未然防止説は、「損害の予防・未然防止」についても雑損控除の適用を認めようとする点で、豪雪損失説とは大きく異なるものといえよう。 この点、所得税法及び所得税法施行令の条文を確認すると、損失拡大未然防止説のアプローチが採用されていることが判然とする。 すなわち、所得税法72条1項が雑損控除の範囲を「災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合(その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が政令で定めるやむを得ない支出をした場合を含む。)」としているところ、同条項の委任を受けた所得税法施行令206条1項3号は、「災害により住宅家財等につき現に被害が生じ、又はまさに被害が生ずるおそれがあると見込まれる場合において、当該住宅家財等に係る被害の拡大又は発生を防止するため緊急に必要な措置を講ずるための支出」と規定する。 この規定によれば、「被害が生じ・・・被害の拡大を防止するため」と「まさに被害が生ずるおそれがあると認められる場合に・・・被害の発生を防止するため」の、2つの目的でなされる「緊急に必要な措置を講ずるための支出」が雑損控除の対象となることが分かる。 すなわち、同条は、「発生した被害の拡大防止」と「発生していない被害の発生防止」を対象としているのである。 この点について、国会審議をみてみよう。 平成18年2月24日の第164回国会参議院・災害対策特別委員会において、国税庁の竹田正樹課税部長(当時)は次のように当時の経緯を説明している。 (注) ここにいう「昭和48年の秋田県の豪雪」とは、いわゆる「四八(よんぱち)豪雪」と呼ばれるもので、昭和48年11月から翌49年3月まで続いた記録的な豪雪のことである。秋田豪雪とも呼ばれる。 「雪を下ろさないと家屋が壊れてしまうというふうな状況を勘案して」と説明されているとおり、これは、まさに損失拡大未然防止説によるアプローチであるといえよう。 家屋の倒壊という被害は発生していないが、倒壊のおそれがある場合に、その発生を未然に防ぐための支出も雑損控除の対象として取り扱うこととされたわけである。 その後、昭和52年に、豪雪の場合における雪下ろし費用等が雑損控除の対象になる旨を明確にした通達が発遣されたことは前述のとおりである(前回参照。国税庁長官通達(直所3-21)「豪雪の場合における雪下ろし費用等に係る雑損控除の取扱いについて」)。 そして、昭和56年度税制改正において、雑損控除の制度が拡充され、災害関連支出に新たに5万円控除の制度が導入されたことに伴い、所得税法施行令も改正、整備され、かかる改正により雪下ろし費用が雑損控除の対象として適用されることが所得税法上明確になったことも既述のとおりである。 2 損失拡大未然防止説の問題点 (1) 範囲の不明確性 このような「予防費用」に雑損控除の適用が認められるか否かについては、その範囲を巡って議論がある。 例えば、平成18年2月24日付け第164回国会参議院・災害対策特別委員会において、井上哲士議員(当時)は、融雪住宅の維持には燃料費が非常に高くかかるという点を指摘した上で、「この融雪のための燃料費が雑損控除の対象にならない」という点を問題視し、次のように質問を行っている。 この質問に対して、国税庁の竹田正樹課税部長(当時)は以下のとおり答弁している。 損失拡大未然防止説に立脚すれば、融雪屋根の設置目的が豪雪による家屋の倒壊を未然に防止するものであることに着目し、これについても雑損控除の適用を認めるべきとの見解も一理あるところであるが、上記政府参考人の答弁のとおり、融雪屋根については雑損控除の対象とはされていない。 このように、「予防費用」に係る雑損控除の適用については、その範囲が明確でないという問題を指摘することができるであろう。 なお、昭和53年3月2日付け第84回国会衆議院・予算委員会第2分科会において、米里恕大蔵大臣官房審議官(当時)は、この制度は除雪費関係だけに適用されるものではないと答弁している。 加えて、昭和59年6月28日付け第101回国会衆議院・災害対策特別委員会において、厚生省の清水康之社会局保護課長(当時)は、雪下ろし費用は「住宅維持費」、いわば「住宅維持補修費的な考え方」を適用していると説明するなど、必ずしもその範囲が判然としているわけではないことに注意する必要があろう。 (2) 生活維持費と雑損控除 さて、ここで「住宅維持費」と説明されている点であるが、所得控除の類型を踏まえると、ここには議論の余地があろう。 例えば、金子宏教授は、所得控除を大別して次の5つの類型に整理される(金子宏『租税法〔第22版〕』199頁以下参照)。 このように、雑損控除とは、③特定の支出が担税力を弱めることへの配慮としての所得控除として設けられていると解されるところ、上記「住宅維持費」が、要するに生活維持費を意味するものであるとすれば、雑損控除に①の類型に当たる生活維持費的な性格付けをすることには議論があるものと思われる。 すなわち、雑損控除とは、そもそも最低生活費保障への配慮とは別の性質のものであると解されるため、雑損控除に生活維持費的な考え方を取り込むことについては問題もあろう。 もっとも、所得税法72条が、生活に通常必要でない資産に係る損失を雑損控除の対象範囲から除外しているという点を裏返して考えれば、このような理解がまったくの筋違いであるともいえないが、こうした理解に問題がないといい切ることはできないであろう。 この点は、昭和59年3月1日付け第101回国会衆議院・災害対策特別委員会において、大蔵省の伊藤博行主税局税制第一課長(当時。後の国税庁次長)が、雑損控除に関連して、雪寒控除、いわば豪雪地帯の地域的な事情を勘案してのそういう特別な控除を設けるべきとの水谷弘議員(当時)からの指摘に対して次のように反駁しているとおりである。 また、「住宅維持補修費的な考え方」についても、雑損控除を納税者が被った損失という担税力の減殺を目的とするものであると理解する以上、雑損控除の解釈に持ち込むことは問題がありそうである。 (続く)

#No. 221(掲載号)
#酒井 克彦
2017/06/08
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