平成29年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 (最終回) 「誤りやすい事項Q&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 最終回は、確定申告実務の留意点について、平成29年分から改正となる医療費控除及び過去に取り上げていない事項についてQ&A方式で解説することとする。取り上げるのは次の6項目である。 〈医療費通知の添付①〉 【Q1】 居住しているA市には、中学生以下の子供に対する医療費助成制度があり、窓口負担額は1日あたり500円である。「医療費のお知らせ」に記載されている自己負担額欄には助成された分が反映されておらず、実際の負担額とは異なる金額が記載されている。 この「医療費のお知らせ」を「医療費通知」として確定申告書に添付できるか。 【A1】 「医療費のお知らせ」に医療費負担の減免がある旨を付記することにより、「医療費通知」として確定申告書に添付できる。 -解説- 本連載の【第1回】で解説したとおり、平成29年分の確定申告から、申告書に医療費の領収書を添付する必要がなくなり、代わりに「医療費控除の明細書」を添付することとなった(所法120④一、所規47の2⑧⑨)。 さらに、「医療費通知」(「医療費のお知らせ」等)を申告書に添付する場合には、「医療費控除の明細書」の記載を簡略化することができ、医療費の領収書の保存も不要となる(所法120④二・⑤、所規47の2⑨)。 「医療費通知」は医療保険者が発行するもので、次に掲げる所定の6項目すべてが記載されていなければならない。 しかし、「医療費のお知らせ」には、公費負担医療制度(指定難病の治療の場合等に適用される)や本ケースのような市区町村による医療費助成等が反映されていない場合がある。この場合には、医療費を補填する金額がある旨や医療費負担の減免がある旨を付記・追記すれば、「医療費のお知らせ」を「医療費通知」として確定申告書に添付することができる(国税庁「医療費控除に関する手続について(Q&A)」、(以下「医療費Q&A」という)8、9)。 〈記載例Ⅰ:「医療費のお知らせ」〉 ① 医療費を補填する金額がある場合(例:公費負担医療制度による給付) ② 医療機関の窓口において医療費負担の減免がある場合(例:市区町村による医療費の助成) (※) 医療費Q&A9より一部筆者変更。 〈記載例Ⅱ:「医療費控除の明細書」〉 ① 医療費を補填する金額がある場合(記載例Ⅰ①のケース) 〈医療費通知の添付②〉 【Q2】 「医療費のお知らせ」を確認したところ、自己負担額の記載がなく、医療費総額のみ記載されている。 この「医療費のお知らせ」を確定申告書に添付できるか。 【A2】 自己負担額を「医療費のお知らせ」に補完記入すれば、確定申告書に添付できる。ただし、自己負担額を補完記入して確定申告書に添付した場合には、記入内容について確認を受けることができるよう医療費の領収書を確定申告期限から5年間保存する必要がある。 -解説- 上述した「医療費通知」に記載が必要とされる6項目(①~⑥)のうち「⑤ 被保険者又はその被扶養者が支払った医療費の額」が記載されていない場合には、次の2つの方法のいずれかにより「医療費控除の明細書」を作成する(医療費Q&A11)。 なお、いずれの方法によっても、医療費の領収書を確定申告期限の翌日から起算して5年間保存する必要がある(所法120⑤)。 〈ふるさと納税と確定申告〉 【Q3】 甲の所得は、B社からの給与所得(年末調整済)のみである。甲は、医療費控除の適用を受けるため、平成29年分の確定申告を行う予定である。 甲は、平成29年中に3つの自治体に対してふるさと納税をしており、「ワンストップ特例制度」を利用できるよう「寄附金税額控除に係る申告特例申請書」を各自治体に提出している。 この場合、甲は、確定申告にふるさと納税の金額を含める必要はあるか。 【A3】 確定申告を行う場合には、「ワンストップ特例制度」の手続をしたふるさと納税についても、その金額を寄附金控除額の計算に含める必要がある。 -解説- 平成27年4月1日以降に行うふるさと納税については、確定申告を行わなくても税の軽減を受けることができる「ワンストップ特例制度」を利用することができる。 「ワンストップ特例制度」の適用を受けるには、次の要件をすべて満たす必要がある(地法附7)。 ふるさと納税を行う際、各自治体に「寄附金税額控除に係る申告特例申請書」を提出していたとしても、最終的に適用要件を満たさなくなった場合(甲の場合、①を満たさない)には、ふるさと納税の金額を寄附金控除額の計算に含めて確定申告を行わなければならない。 〈同族会社の役員の確定申告〉 【Q4】 C社(同族会社)の代表取締役乙の平成29年分の所得は、次のとおりである。 乙は、確定申告を行う必要があるか。 【A4】 乙は、同族会社C社の役員であるため、C社から支払を受けた貸付金の利子(20万円以下)についても確定申告を行う必要がある。 -解説- 1箇所から年末調整済の給与の支払を受け、かつ、給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下であるときは、確定申告を要しないとされている(所法121①一)。 しかし、同族会社の役員が、その同族会社から次の支払を受けている場合には、当該支払による所得金額が20万円以下であっても、確定申告を行う必要がある(所令262の2)。 〈妻の連れ子を扶養親族にすることの可否〉 【Q5】 妻の連れ子(17歳の高校生、所得なし)とは同居し生活を共にしているが、養子縁組はしていない。 この連れ子を控除対象扶養親族として確定申告できるか。 【A5】 養子縁組をしていない配偶者の連れ子は、1親等の姻族に該当する。本ケースの連れ子は、生計を一にする16歳以上の親族であり所得もないことから、控除対象扶養親族として確定申告することができる。 -解説- 配偶者の連れ子は、養子縁組をしていない場合は1親等の姻族となり、養子縁組をしている場合は1親等の血族となる(民法725、726、727)。 居住者と生計を一にする親族で、合計所得金額38万円以下の者は扶養親族に該当し、扶養親族のうち年齢16歳以上の者は、控除対象扶養親族に該当する(所法2①三十四・三十四の二)。 〈連帯債務の借換えと住宅借入金等特別控除〉 【Q6】 夫婦の連帯債務として借り入れていた住宅ローン(負担割合1/2ずつ)を借り換え、夫単独名義の住宅ローンとした。 借換え後は、借入金残高のすべてが夫の住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除)の対象となるのか。 【A6】 借換え後の住宅ローンのうち2分の1は、妻が負担すべき金額を返済するためのものとされ、その部分は夫の住宅借入金等特別控除の対象とはならない。 -解説- 住宅借入金等特別控除の対象となるのは、家屋を取得等するための借入金である(措法41)。借換え後の住宅ローンは、当初の住宅ローンを消滅させるための借入金であり、原則として住宅借入金等特別控除の対象とはならない。 しかし、次の要件を満たす場合には、借換え後も引き続き住宅借入金等特別控除を受けることができる(措通41-16)。 本ケースにおいて、借換え後の住宅ローンの2分の1は、連帯債務の住宅ローンのうち妻が負担すべき部分を返済するためのものであり(※)、家屋を取得等するための借入金には該当しない。 (※) 妻が負担すべき部分を返済するための金額については、夫から妻への贈与として贈与税がかかることがある。 (連載了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第28回】 「「住宅借入金等特別控除」との適用関係」 -相続空き家の特例と他の特例との重複適用関係- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、父親が相続開始の日まで単独で居住の用に供していた家屋(昭和56年5月31日以前に建築)及びその敷地(以下「A家屋等」という)を、昨年7月に父親の相続により取得し、その家屋の耐震リフォームを行い、相続後は空き家の状態のままで、同年10月にA家屋等を4,200万円で譲渡しました。 また、Xは、昨年2月に自己の居住用家屋及びその敷地(以下「B家屋等」という)を取得し入居していますが、B家屋等に係る住宅借入金を有しています。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」と「住宅借入金等特別控除(措法41)」の適用関係はどのようになるのでしょうか。 A 「相続空き家の特例」は、「住宅借入金等特別控除」との重複適用が可能です。 ●○●○解説○●○● 「住宅借入金等特別控除(措法41)」(いわゆる住宅ローン控除)は、入居した年とその前後の2年ずつの5年間にその家屋(その家屋の敷地等を含む)以外の資産(従前の住宅及びその敷地の譲渡に限る)を譲渡した場合において、その資産の譲渡につき、次に掲げるいずれかの特例を受けるときは、その入居した年以後10年間の各年分について、その適用を受けることができないこととなっています(措法41⑮⑯)。 (イ) 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31の3①) (ロ) 居住用財産の譲渡所得の特別控除(措法35①)(同条第3項の規定により適用する場合を除く。) (ハ) 特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法36の2) (ニ) 特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法36の5) (ホ) 既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例(措法37の5) したがって、上記下線部分のとおり、「相続空き家の特例(措法35③)」は重複適用できない規定から除かれていることから、本事例の場合、Xは、A家屋等については「相続空き家の特例」を、B家屋等については「住宅借入金等特別控除」を重複して適用できることとなります。 また、「相続空き家の特例」は、住宅取得関係に係る特例に関しては、この「住宅借入金等特別控除」のほか、「認定住宅の新築等をした場合の所得税額の特別控除(措法41の19の4)」も重複適用が可能とされています。 (了)
相続税の実務問答 【第19回】 「相続税の申告期限前に相続人が死亡した場合の 申告書の提出(第二次相続人が複数の場合)」 税理士 梶野 研二 [答] お姉様が負担すべきであった相続税は、2人のお子様が、法定相続分である2分の1ずつを承継することとなります。 お姉様の相続人であるお姉様のお子様2名が、この2分の1相当の相続税について、それぞれお姉様の相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告し、納付することとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続があった場合の国税の納付義務の承継 前回説明したように、相続の開始があった場合、相続人(包括受遺者を含みます)は、被相続人に課されるべき又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税を納める義務を承継することとされています(通法5①)。 この場合、相続人が2名以上いるときには、それぞれの相続人が承継することとなる税額は、被相続人の納付すべき税額を、民法第900条(法定相続分)、第901条(代襲相続人の相続分)及び第902条(遺言による相続分の指定)の規定による相続分の割合により按分計算することとなります(通法5②)。 (注) 国税通則法において、相続によって得た財産(積極財産)の価額が、民法第900条から第902条までの規定による相続分の割合によって按分計算して求めた税額を上回る相続人については、その上回る金額を限度として、他の相続人が承継する国税を納付する責任がある旨が定められていますが(通法5③)、相続税法においては、同一の被相続人から相続により財産を取得した者は、その被相続人に係る相続税については、その相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付義務があると定められています(相法34②)。 2 第二次相続が発生した場合の第一次相続に係る相続税の申告 相続又は遺贈により財産を取得し、相続税の申告書を提出しなければならない者(第一次相続人)が、相続税の申告書を提出せずに亡くなった場合には、その者の相続人(包括受遺者を含みます)(第二次相続人)が、第一次相続に係る第一次相続人の申告及び納付の義務を承継することとなり、その相続税の申告書は、第二次相続人が第一次相続人について相続(第二次相続)の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に提出し(相法27②)、申告書に記載した相続税額を納付することとされています(相法33)。 この場合、第二次相続人が複数いるときには、それぞれの相続人は、第一次相続人に相続(第二次相続)の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、各相続人が承継した相続税額その他所定の事項を記載した相続税の申告書を提出するとともに(相法27②)、その相続税額を納付することとなります(相法33)。各相続人が承継することとなる相続税額は、上記1により按分計算をして求めた金額となります。 3 ご質問の場合 (1) 第一次相続に係る相続税の申告 ご質問の場合、昨年3月25日に亡くなったお兄様の遺産に係る相続税の申告の準備中にその相続人であるお姉様がお亡くなりになったということですので、お姉様が行うべきであった相続税の申告は、お姉様の相続人であるお姉様のお子様2名それぞれが、お姉様の相続開始を知った日(昨年12月10日)の翌日から10ヶ月以内、すなわち10月10日までに行い、その申告書に記載した各相続人が承継した相続税額を納付することとなります。 お姉様の相続人は、お姉様のお子様2名ですので、この2人が、お姉様が負担するはずだった相続税額の2分の1(法定相続分)をそれぞれ承継することになります。 (2) 第二次相続に係る相続税の申告 お姉様の遺産についての相続税の申告は、お姉様の相続人であるお姉様のお子様2名それぞれが、お姉様の相続開始を知った日(昨年12月10日)の翌日から10ヶ月以内、すなわち10月10日までに行い、申告書に記載したそれぞれの相続税額を納付します。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第68回】 「2017年における調査委員会設置状況」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 本連載では、個別の調査報告書について、その内容を検討することを主眼としてきたが、本稿では、少し視点を変えて、第三者委員会ドットコムが公開している情報をもとに、各社の適時開示情報を参照しながら、2017年において設置が公表された調査委員会について、調査の対象となった不祥事を分類するとともに、調査委員会の構成、調査報告書の内容などを概観し、その特徴を検討したい。 第三者委員会ドットコムが公開しているデータを集計したところ、2017年において、調査委員会の設置を公表した会社は41社であった。本連載【第62回】で取り上げた株式会社郷鉄工所は2度、第三者委員会を設置しているが、同じ事象に関する調査であることから1社としてカウントしている。 なお、本連載【第66回】で取り上げたKISCO株式会社特別調査委員会については、同社が非上場であるため、以下の数字には含まれていないことをお断りしておく。 41社のうち3社については、本稿執筆時点において、まだ調査報告書(その概要を含む)を公表していない。 【市場別分類】 市場別分類では、東証1部上場会社が26社と約63%を占めたが、そのうち15社については、連結子会社における不祥事の発生に伴う調査委員会の設置であった。それぞれの市場における上場会社数との比較では、各市場とも1%程度となっており、大きな差は見られなかった(上場会社数は2017年12月31日現在)。 【会計監査人別分類】 会計監査人別の分類では、いわゆる大手4大監査法人の監査を受けていた上場会社が28社、中堅以下の監査法人の監査を受けていた社が13社となったが、大手監査法人が上場会社の監査で圧倒的なシェアを誇っていることから考えれば、特異な数字とはいえないだろう。 なお、中堅以下の監査法人で唯一複数のクライアントが調査委員会を設置したのは、監査法人アリア(株式会社郷鉄工所、株式会社ウェッジホールディングス)のみであった。 【調査委員会の構成による分類】 日本弁護士連合会が2010年に公表した「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠していると明言している調査委員会及び明言はしないまでもその趣旨に沿って委員を選定していると認められる調査委員会は21社と、過半数を少し上回る水準であった。 また、社内調査委員会と分類されている2社は、株式会社神栄と藤倉化成株式会社の設置した調査委員会であるが、どちらも、弁護士又は公認会計士の資格を有する社外取締役又は社外監査役が調査委員として加わっている。上記の表では、調査委員ではなく、補助者として外部有識者が調査に加わっている委員会についても、「+外部有識者」としてカウントしている。 こうした調査委員会の構成については、日本取引所自主規制法人が2016年2月に公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」における、以下の規定の趣旨が生かされているものと考えられる。本規定は、「第三者委員会」を設置する場合についての留意点となっているが、「第三者委員会」ではない調査委員会であっても、「独立性・中立性・専門性」が要求されることには変わりはないということであろう。 【調査委員会を設置することとなった不祥事の分類】 調査対象となった不祥事別にこれを分類すると次表のとおりとなる。なお、分類上、経営者や従業員の不正であっても、決算修正等、公表している決算報告書に影響のあるものについては、「会計不正」としている。 本連載で取り上げる対象となる「会計不正」は合計29件であった。上記の分類上、「経営者不正」は代表取締役(元職を含む)を意味し、取締役(子会社取締役を含む)については「従業員不正」としてカウントしている。 上場会社本体における不祥事が減少傾向にある中で、海外子会社を含む子会社における不正が「法律違反」「品質偽装」も合わせると過半数を超えている(23件)。 2017年に大きな話題となった品質偽装問題に関しては、本稿執筆時点で調査報告書を公表しているのは3社(日産自動車株式会社、東レ株式会社、三菱マテリアル株式会社)であり、株式会社神戸製鋼所は、2017年10月26日付けで設置した外部調査委員会の調査完了時期を2018年2月上旬とするリリースを出している。 【会計不正の態様】 次いで、「会計不正」に分類された29件について、それぞれの不正の態様を見ておきたい。 「会計不正」と分類できる内容で調査委員会を設置した29社の一覧は、次のとおりである(赤字は本連載で取り上げた報告書)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 架空売上の計上をはじめとする不正な売上計上が最も多くて9件、棚卸資産の過大計上や減損未実施、原価の付替えなど、原価処理における不正7件(一部重複)などが目立つ結果となっている。 【2度目の調査委員会設置】 2017年において設置された調査委員会の特徴の1つが、2度目の委員会設置を行った会社が4社あったことであろう。 1 株式会社アサツー・ディ・ケイ 株式会社アサツー・ディ・ケイによる社内調査委員会は、2016年9月に買収して子会社化した株式会社ゴンゾの不適切な会計処理をめぐって、同年において設置した外部有識者による特別調査委員会での調査報告をもとに、特別調査委員会での調査過程で判明した事実の確認や子会社役員の動機などを調査するために、社内のメンバーが中心となって組成されたものであった。 調査の結果、不適切な会計処理は、資金繰りに窮して行った不正をさらに隠蔽するための行われていたことが判明している。 2 昭光通商株式会社 本連載【第58回】でも取り上げたとおり、昭光通商株式会社は、2015年7月に中国子会社における売掛債権の回収不能事件が発生して、特別調査委員会を設置し、調査を行っている。しかし、このときは、調査報告書の要約版を公表したのみであり、開示には消極的な印象であった。 今回は、2014年1月に買収して子会社化した株式会社ビー・インターナショナルが、またしても中国企業を相手に不正な売上計上を行ったことが判明して、再び、特別調査委員会を設置することとなった。 3 株式会社テクノメディカ 株式会社テクノメディカは、2016年4月、監査法人からの指摘を受けて、売上計上の適正性・妥当性を判断するための第三者委員会を設置して調査を行った(詳細は本連載【第48回】をご参照ください)。その時の報告書では、第三者委員会から、次のようなコメントを突きつけられていた。 これは、第三者委員会との連絡役に、不正の首謀者(当時の常務取締役経営管理部長)が選任されていたことやヒアリング対象者が虚偽の説明を行っていたことなどに起因する評価であった。 その後、2017年3月になって、元取締役経営管理部長であり、取締役退任後もTMCの経理部顧問として第三者委員会のヒアリングに虚偽の説明を行っていた村元和夫元取締役が、在任中に、給与の出金手続きに際してこれを水増しして着服していたことが判明し、調査の結果、約155百万円を着服していたことが確認された。 今回の調査に関しては、調査報告書自体は公表されず、3ページのリリースのみが公表されているが、村元元取締役による不正の動機や不正発覚の経緯などの説明はなされていない。 なお、テクノメディカ社の2016年の調査報告書については、「優れた第三者委員会報告書」として、表彰がされていることを附記しておきたい。 4 株式会社郷鉄工所 2017年に調査委員会を設置した41社中、唯一、経営破綻したのが株式会社郷鉄工所であった。 経営破綻に至る経緯については、本連載【第62回】で解説したとおりであるが、第三者委員会の委員選定に時日を要し、最初の第三者委員会による調査では全容が解明できなかったために、2度目の第三者委員会による調査を、資金不足から借入金によって行うという迷走状態であった。 郷鉄工所は、監査法人アリアによる会計監査が終了しないままに有価証券報告書の提出期限を迎えて上場廃止になり、その後、2度の不渡事故が発生して銀行取引停止処分を受けた後、自己破産を申請することになった。負債総額は約55億円と見られている。 【新たなチャイナ・リスク】 2017年のもう1つの特徴が、新たなチャイナ・リスクとも呼ぶべき、中国企業を絡めた架空売上(循環取引)などの不正が続いていることであろう。 チャイナ・リスクが言われるようになったのは、江守グループホールディングス株式会社が突然経営破綻した2015年4月頃からであったが、2017年も、ATT株式会社による架空循環取引が発生して複数の化学材料を取り扱う商社が巻き込まれるなど、依然として、沈静化はしていないようである。 本連載【第65回】、【第66回】でも指摘したように、中国企業独特の商慣習や国営企業の持つ信用などを逆手にとって、架空循環取引へと誘う手口は巧妙になっているとはいえ、与信管理体制を整え、経営陣が適切にリスクを評価することにより、回避できるリスクであろうと考える。 中国企業との新規取引や急激な取引拡大にあたっては、こうした事例を他人事とするのではなく、他山の石として、自社の取引に置き換え、慎重に対処する必要があることは言うまでもない。 (了)
連結会計を学ぶ 【第10回】 「投資と資本の相殺消去・非支配株主持分」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 連結貸借対照表は、親会社及び子会社の個別貸借対照表における資産、負債及び純資産の金額を基礎とし、子会社の資産及び負債の評価、連結会社相互間の投資と資本及び債権と債務の相殺消去等の処理を行って作成する(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)18項)。 今回は、投資と資本の相殺消去及び非支配株主持分について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 投資と資本の相殺消去 資本連結とは、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本を相殺消去し、消去差額が生じた場合には当該差額をのれん又は負ののれんとして計上するとともに、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分を非支配株主持分に振り替える一連の処理をいう(連結会計基準59項)。 支配獲得時における資本連結の手続には次のものがある(「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)3項)。 1 基本的な考え方 連結貸借対照表は、親会社及び子会社の個別貸借対照表における資産、負債及び純資産の金額を基礎にしてこれらの数値を合算し、さらに二重計上になっている部分を調整することにより作成される。 支配獲得日において算定した子会社の資本のうち親会社に帰属する部分を投資と相殺消去し、支配獲得日後に生じた子会社の利益剰余金及び評価・換算差額等のうち親会社に帰属する部分は、利益剰余金及び評価・換算差額等として処理する(連結会計基準注解(注6))。 作成のイメージは、おおむね次の図表のとおりである。 【図表:連結貸借対照表の作成プロセスのイメージ】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 連結精算表の作成 【設例1】 Ⅲ 投資と資本の相殺消去に関する留意点 1 相殺消去される子会社の資本 連結会計基準は、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本は相殺消去するものとし、相殺消去される子会社の資本は、子会社の個別貸借対照表上の純資産の部における株主資本及び評価・換算差額等と評価差額からなると規定している(連結会計基準23項)。 具体的には、資本連結手続において相殺消去の対象となる子会社の資本の額は、以下の①及び②に③の項目を加えた額となる(以下の金額はいずれも税効果会計適用後の金額である。資本連結実務指針9項)。 なお、子会社の資本の額には、新株予約権は含まれない(「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(企業会計基準適用指針第8号)5項)。 2 支配獲得日までに生じた子会社の利益剰余金 支配獲得日までに生じた子会社の利益剰余金は投資と相殺される(資本連結実務指針21項)。 一方、支配獲得日後に生じた親会社の持分に帰属する子会社の損益は、親会社株主に帰属する当期純利益として処理され、取得後利益剰余金となる。 子会社に係るその他の包括利益累計額(その他有価証券評価差額金、退職給付に係る調整累計額など)については、支配獲得日までの持分額(投資と相殺消去)とその後に生じた持分額(連結株主資本等変動計算書上のその他有価証券評価差額金、退職給付に係る調整累計額の区分等に計上)とに分けて処理されることとなる。 子会社のその他有価証券評価差額金の増減額に関する連結包括利益計算書又は連結損益及び包括利益計算書上の取扱いについては、「金融商品会計に関するQ&A」Q73が参考となる。 Ⅳ 非支配株主持分 1 非支配株主持分の概要 子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は、非支配株主持分とする(連結会計基準26項)。 支配獲得日の子会社の資本は、親会社に帰属する部分と非支配株主に帰属する部分とに分け、前者は親会社の投資と相殺消去し、後者は非支配株主持分として処理する(連結会計基準注解(注7)(1))。 支配獲得日後に生じた子会社の利益剰余金及び評価・換算差額等のうち非支配株主に帰属する部分は、非支配株主持分として処理する(連結会計基準注解(注7)(2))。 2 連結精算表の作成 設例を用いて、非支配株主持分を説明すると次のようになる。 【設例2】 3 非支配株主持分に関する留意点 非支配株主持分は、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分であり、支配獲得時に子会社の資本のうち非支配株主に帰属する部分について、議決権を有する株式の持分比率に基づいて計上する(資本連結実務指針23項)。 株式を段階的に取得している場合であっても非支配株主持分を計上するのは支配獲得時である。 支配獲得後においては、子会社の損益のうち非支配株主に帰属する部分を、持分比率に基づき算定して連結損益計算書の非支配株主に帰属する当期純利益に計上するとともに、非支配株主持分に加減する(資本連結実務指針24項)。 非支配株主持分の増減は、このほか、株式の追加取得、一部売却及び時価発行増資等による非支配株主持分比率の変動、子会社における支払配当金の発生、連結会社間の債権債務の相殺消去に伴う子会社における貸倒引当金の減額、子会社における未実現損益の消去などによっても生じる(資本連結実務指針24項)。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q9】 企業が合併した場合、合併前に学生に出した内定は合併後も有効か 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 新卒採用の学生に出す内定は、一般的には、始期付・解約権留保付労働契約が成立していると解されるため、合併により包括的に承継される権利義務の1つにあたり、合併後は存続会社又は新設会社の内定として取り扱われる。 内定とは 新卒採用の場合、「内定」とは、一般的には、卒業後の4月1日から労働契約を開始することを、10月1日等、労働契約開始の一定期間前に約束するもので、卒業できない等の一定の場合には労働契約を取り消すことがあるとする制約が付された労働契約となる。 つまり、労働契約の始期が付いており、一定の場合には解約できることから、「始期付・解約権留保付労働契約」が成立していると解されている。 合併の場合 合併の場合は、すべての権利義務が包括的に承継されるため、消滅会社のすべての従業員の労働契約は、吸収合併の場合は存続会社に、新設合併の場合は新設会社に自動的に承継される。この承継される権利義務には、学生に出した内定である「始期付・解約権留保付労働契約」も含まれるため、合併前に消滅会社が出した内定は、合併後は存続会社又は新設会社の内定として取り扱われる。 内定の取り消し 内定の取り消しは、労働契約の解除となり、解雇にあたる。解雇は、労働契約法16条により「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされているため、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合でなければ、内定を取り消すことはできないと解されている。 最高裁においても、採用内定期間中の留保解約権の行使について、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。」としている。 事前の説明を 合併前に消滅会社が出した内定は、合併後は存続会社又は新設会社の内定として取り扱われることになるが、内定を通知された学生からすれば、社名等が変わる等して別の会社に就職するイメージを持つかもしれない。また、合併により内定が取り消されるかもしれない等の不安を抱くこともあるだろう。 よって、法的には包括的に承継される労働契約にあたるものの、入社前の内定を通知した学生に対しても、事前に、合併の経緯や新会社の概要等を丁寧に説明する機会を設けて積極的にコミュニケーションを図るべきだといえる。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第22回】 「認知症高齢者の刑事責任」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 【設問19】 私の父は、5年前に認知症との診断を受けました。それ以来、私の家に父を引き取り、同居して暮らしています。 昨年あたりから父の症状が悪化し、同じ話題を繰り返したり、外出した際に帰り道がわからなくなるといったことがたびたび起きていました。 そのような中で、先日、父が近所のスーパーマーケットにて、いくつかの食料品をカバンに詰め、会計せずにお店を出ていこうとしたという連絡が入りました。警備員が父を問い詰めても、要領を得ないことを話しているとのことです。 父のような認知症高齢者が罪を犯した場合、どのような刑事責任を問われるのでしょうか。 1 高齢者犯罪の増加とその特徴 高齢社会の進展とともに、高齢者による犯罪件数が年々増加している。 犯罪白書によれば、高齢者の犯罪には次のような特徴が見られるとのことである(データの数値は平成28年版による)。 【高齢者犯罪の特徴】 高齢者が犯罪行為をした場合には、捜査・公判・矯正の各過程において様々な問題が生じる。 今回は、特に高齢犯罪者が認知症であった場合の影響について説明したい。 2 判断能力の減退が刑事責任に与える影響(その1) -心神喪失 一般に、罪を犯した者に対して刑罰を課す場合には、犯罪の行為者が刑法の規範を理解しているとともに、それに適合した行為をなし得る能力を有していることが刑法上の大原則である。これを「責任能力」という。 わかりやすく言えば、責任能力が認められるためには、犯罪行為をした者において、①そもそも「この行為は、しても良いことなのか・悪いことなのか」を判断する能力(是非弁別能力)を備えており、かつ、②してはいけない行為であると認識できた場合でも、その認識に基づいて自身の行動を制御できるだけの能力(制御能力)を備えている必要がある。 このような責任能力が完全に喪失し、あるいは著しく減退している場合がある。これが刑法上、「心神喪失」(しんしんそうしつ)や「心神耗弱」(しんしんこうじゃく)と呼ばれる問題である。 ここで「心神喪失」とは、精神の障害により、上記の①または②の能力を欠いている状態をいう。 このような場合、たとえ犯罪行為をした者であっても責任無能力者として犯罪は不成立となり、処罰されない。 認知症高齢者のケースで言えば、認知症が相当深刻な程度にまで進行している場合には、責任能力を欠く状態に至っている可能性も十分考えられる。実際に、高齢者である被告人が事件当時に認知症であったことを理由として無罪を言い渡している裁判が少なからず存在する。 なお、仮に刑事責任が問われないことになったとしても、民事上の賠償責任も免責されるかは、また別個の問題である。この場合、認知症高齢者自身の賠償責任は免責される可能性も高いが、同人の監督義務者に対する責任追及の余地はある。 3 判断能力の減退が刑事責任に与える影響(その2) -心神耗弱 他方、「心神耗弱」とは、精神の障害により、上記の①または②の能力が著しく低い状態をいう。この場合、限定責任能力者として、犯罪は成立するものの、刑が減軽される。これも心神喪失と同様、認知能力の低下が相当に進んでいる者が犯罪行為をなした場合には、該当する可能性がある。 このように、高齢者の被告人が心神喪失または心神耗弱と認定されるかどうかで、刑事責任上は重大な影響がある。 そこで、その認定に際しては、法律判断の1つとして、鑑定医等の専門家による医学的所見だけではなく、病歴、犯行の動機、犯行の計画性の有無、犯行の態様、犯行時及び犯行後の言動、犯行に関する本人の認識及び記憶の程度、犯行前の日常生活での様子等といった様々な事情に基づき、裁判所が総合的に判断していくことになる。 つまり、医師による医学的な判断のみをもって判定するわけではないことに注意する必要がある。 【設問19】においても、以上の諸要素について、まずは捜査段階において起訴の要否の判断を検察官が検討することになるし、公訴提起後は、公判手続のなかでそれぞれの弁護人が争うことになり、最終的には裁判所が判断することになる。 4 判断能力の減退が刑事責任に与える影響(その3) -訴訟能力 以上とは別の観点から問題となるものに「訴訟能力」という概念がある。 これは、最高裁判例の定義によれば、「被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をすることのできる能力」のことを指す。そして、認知症の影響により意思能力≒判断能力が無ければ、通常は訴訟能力も無いものとされる。 そのため、たとえ犯行時には意思能力が認められるようなケースであっても、その間に認知症が急速に進み、公判の時点で訴訟能力を欠く状態に至っているというような場合には、訴訟能力を欠くものとして取り扱われる。 被告人が訴訟能力を欠く場合には、原則として公判手続を停止して回復を待つことになるが、その後の被告人の状態等により回復がないときは、「公訴棄却」の判決をして公判手続を打ち切ることになる。 具体的には、裁判官からの問いかけの内容を全く理解できず応答できない、精神の障害の程度が著しく、弁護人との意思疎通が全く取れない状態にある等である。 5 高齢者犯罪に対する今後の取組み 以上で取り上げた心神耗弱・心神喪失による犯罪不成立、あるいは訴訟能力を欠く場合の公判停止・打ち切りというものは、これまでは非常に限られた場合の例外的な取扱いであると認識されてきた。 しかし、認知症高齢者が今後ますます増加していく現状にあって、従前同様の限定的なスタンスを取り続けてよいのかという点には疑問が呈されている。 実際、毎日新聞の調査によれば、平成20年から29年の間の全国の刑事裁判で、被告が認知症であることを理由に無罪とされたり減刑されたケースが少なくとも29件(うち無罪は3件で、いずれも万引き)あり、近年増加傾向にあるということである(平成30年1月3日付け毎日新聞webサイトによる)。同様に、訴訟能力を欠くとして裁判を中断したり、打ち切ったりしたケースも少なくとも9件あったとのことである(同1月6日付け同webサイト)。 前述のように高齢者犯罪が増加している傾向に照らせば、心神喪失・心神耗弱を理由とする無罪や減刑、そして訴訟能力の有無が争点とされるケースはますます増加していくものと考えられる。 他方で、刑罰が持つ応報的な意味や国民の素朴な処罰感情を考えると、認知症高齢者の刑事責任を限定的にとらえていくことばかりが正義にかなうとも単純には言い難く、非常に難しい問題といえる。 最後に、犯罪白書が説く高齢者犯罪に対する根本的対策について引用し、本問の解説を終えたい。 (了)
海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第10回】 「地元からの期待を正しく理解する」 中小企業診断士 西田 純 海外赴任というと、日本企業の場合は特に、『「任期」があって、その間だけをその土地で過ごす』というイメージがついて回ります。実際に、ほとんどの場合は数年を過ごすと一度日本へ帰国する、というパターンになるものと思います。中には日本へ戻らず次の任地へと異動する場合もあるようですが、やはり稀な例だと言えるでしょう。 他方で、海外赴任者を受け入れる地元にとって、その会社が続ける事業について期限付きで受け入れるという場合は、工事などの例を除くと必ずしも多くはないでしょう。会社にとってもまた、事業の中身に関わらず地元との関係を良好かつ永続的なものとするに越したことはないはずです。 このような、海外赴任者の任期意識と地元や本社の考え方のギャップが、思わぬトラブルの素になることがあったりします。今回はそこに焦点を当てて、任期付きの海外赴任であっても地元に受け入れられる努力が重要であることについてお伝えしたいと思います。 1 地元が日本企業に期待すること (1) 雇用の創出 海外勤務の多くは、赴任先の国で何らかの事業を行っていることに伴うものであると思われます。そのために雇用されている地元の労働力は、製造業の場合、特に人数的にも一定規模以上のものとなります。 サービス業・流通小売業であっても、雇用規模は同業の地元資本が提供するものに比べて大きくなる例が多いです。そのような企業は受け入れ先の国にとっても、長期間にわたって地元経済に貢献してくれる存在であるはずです。 (2) 商品・製品の供給 雇用の創出に加え、多くの企業が進出先の国において日本ブランドあるいは日本製の優秀な商品や製品を供給する役割を果たしています。部品供給の場合でも、日本製部品がサプライチェーンの中で重要な位置を占めるという例は少なくありません。地元市場あるいはサプライチェーンも、進出している日本企業に対して安定的な貢献を期待しているのです。 (3) その他便益の創出 雇用面、供給面での貢献以外にも、進出先にはありとあらゆる側面で日本経済とのつながりへの期待があります。今日、それは日本経済のほぼすべての分野にわたると言っても過言ではないほどに広く、深いものになっています。 金融からメディア、病院など医療サービスあるいは農林水産業やさらに文化交流を通じて伝統産業に至るまで、さまざまなセクターで海外進出の事例が出てきています。その中には建設工事や技術指導など、比較的短期で決着する事例も含まれますが、工事や技術指導でも終了後のフォローアップなどを通じた地元との関係は長期間にわたって継続します。 (4) 赴任者への期待 海外赴任者の任期が数年に限られるものであったとしても、地元経済やサプライチェーンは日本あるいは進出企業との関係を長期的なものとして認識していることに留意いただく必要があります。 つまり、業者選び、スタッフの雇用、地元政府との関係など、先方の期待は2年や3年で変わるものではないということです。「ダメなら変える」というソリューションが通じる国もありますが、全てがそうだとは限らないという点を、まずは認識いただきたいと思います。 2 日本企業のスタンス (1) 地元との共存共栄 いわゆる建前の世界でいうと、日本企業にとって地元との共存共栄は、ほぼ例外なく正しい考え方とされていることと思います。特に地元政府との関係については、外国企業として後ろ指をさされることのないように、コンプライアンスを重視して対応する、というように明確な整理がなされていると思います。 (2) トラブルへの備え その反面で、地元との関係作りについてトラブルを未然に防止する、というところまで目配りができている例は必ずしも多くないのではないでしょうか。人を変えればトラブルが収まる、という程度の認識では、後々禍根を残すことになりかねません。 3 「地元に受け入れられる」ということ (1) 相互の期待と満足 地元からすると、上述したように、雇用やサプライチェーンの発展など、事業面での期待が満足されることを通じて、長期的な視点から日本企業の進出が役に立ってくれることが何よりの満足につながります。他方で日本企業としても、成長性ある市場への取り組みが実現することは、大いに期待を満足させることにつながります。 しかしながら、長期的な視点で「期待と満足」を考えたとき、それだけでは不十分なのです。 (2) トラブルを未然に予防することの意味 日常の、ちょっとした隙が原因で様々なトラブルが起きがちなのが海外事業の難しさです。仕事上のミスに起因する小さなものから、現地側の対応の不備で余計な追加コストが生じたり、果ては営業秘密の漏洩あるいは業務上横領に近い深刻なものまで、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。 現地で起きてしまったトラブルについて、日本側の責任者としては現地側にトラブルの原因や責任を求めたくなるのは分かりますが、現地側としても本来的にはそういったトラブルを歓迎しているわけでは全くありません。むしろ日本側に「もうちょっと緊張感を持ってトラブルを未然に防止してほしかった・・・」というのが本音ではないかと思います。 本当に現地に受け入れられる企業は、自律的にトラブルを未然に予防できる会社であり、そういう企業であれば、トラブルの発生確率も自然に下がるのです。 4 候補者選定のポイント (1) 丁寧な仕事ぶり トラブルへの備えがしっかりできる人間を見極めるのは簡単ではないかもしれませんが、何より仕事に隙がないことが第一です。常に丁寧な仕事ぶりが評価されている、というような人材は、トラブル遭遇の確率も低くなるはずです。 (2) 長期的視点でものを考える 安かろう悪かろうの業者を平気で選ぶ、あるいは短期的利得を優先して意思決定をする、という傾向がある人は、トラブルを自ら招きかねない要素を抱えていると言えます。地元の有力者や企業との貸借関係の管理や雇用計画など、長期的な視点でものを考えられる人材を充当できれば、この点の懸念材料は大きく軽減されます。 (3) ローカルスタッフ・地元社会とのコミュニケーション トラブルの予防には、ローカルスタッフとのコミュニケーションを円滑にすることが第一です。公私にわたってローカルスタッフと積極的なコミュニケーションをとることで、情報が日本側に上がってくるチャネルを複数担保することができ、結果的にトラブル発生を抑止することにつながります(これは絶対的に重要な点です)。 信頼して任せた仕事で汚職が発生したり、業者と結託して横領やキックバックが発生するということも、残念ながら珍しいことではありません。逆に日本人スタッフ側でも、セクハラやパワハラは言うに及ばず、プライベートのギャンブルや交通事故など、思わぬ原因でトラブルを引き起こす側になってしまうことがあります。 そういう場合の備えとして、現地に深く受け入れられていることが“目に見えない資産”となって会社を守ってくれるのです。社内外で日常のコミュニケーションを重視する姿勢こそが、地元に受け入れられて安定的な操業を継続していくうえでのカギと言えます。 5 まとめ 先月お伝えした、生活者としてのコミュニティとの関わりもさることながら、地元経済との関係作りにおいて社内外とのコミュニケーションを重視できること、そして長期的視点で仕事ができることの重要性は、海外勤務の適任者を選ぶうえで大変重要な視点となります。 海外勤務というと、とりあえず任期いっぱいを無事で勤め上げることに、本人も周りも目が行きがちですが、本当に海外事業を成功させるためには、頭を切り替えて長期の視点で仕事ができる人を選ぶようにされると良いでしょう。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「公認会計士による中小企業の事業承継支援」について 研究報告を公表 ~「従業員承継」及び「事業継続・廃業」に向けた検討事項・ツール等を紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年1月15日、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これは、中小企業の事業承継支援の重要性が増すなかで、公認会計士として相談企業の事業承継支援に資する情報(従業員承継に焦点を絞る)及び廃業支援に資する情報を提供しようとするものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 従業員承継の支援手法 主な内容は次のとおりである。 基本的に、チェックリストとその解説の形式により、検討内容が説明されている。 「Ⅲ 従業員承継に向けてのチェックリスト」では、理解すべき項目及び具体的な手法や検討方法が一覧になっており、また、活用できる公表ガイドライン、支援ツールが記載されていることから、実務に資するものと考えられる。 Ⅲ 事業継続・廃業に対する早期判断とその支援手法 1 主な内容 主な内容は次のとおりである。 支援先企業の現状分析を行う際のツールとして、(経済産業省が推進する)「ローカルベンチマーク」を活用した現状分析例が紹介されている。 事例の紹介、関連する機関のホームページの記載、「資料1-1 事業承継自己診断チェックシート」など、実務に資するものが多く記載されている。 2 廃業予定企業に対するアンケート結果を踏まえた指摘 廃業予定企業に対するアンケート結果から、次のことが指摘されている(5ページ)。 3 ローカルベンチマーク ローカルベンチマークは、企業の経営状態の把握を行うツール(道具)として、企業の経営者等や金融機関・支援機関等が企業の状態を把握し、双方が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組みである(13ページ)。 ローカルベンチマークは、事業性評価の「入口」として活用されることが期待されており、自社の業界内における位置づけ等を客観的に評価するツールである。 (了)
告知 ※本キャンペーンは終了しました。 創刊5周年記念キャンペーン・第2弾 Web情報誌プロフェッションジャーナルが 2日間限定で 読み放題!! 今年で創刊5周年を迎えた税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル(Profession Journal)は、弊社プレミアム会員(有料)専用の情報サービスですが、このたび次の日程で、すべての記事を無料開放いたします。 無料開放期間中は、最新号から過去の人気連載記事まで、本誌に掲載されたすべての記事がログインせずに閲覧できる大チャンスです! Web情報誌に興味のある方、まずはお試しで一般会員(無料)にご登録いただいている方は、この機会にぜひご利用ください!! ◆ ◆ ◆ ■バックナンバー(2012年~)は[こちら] ■2017年下半期(7月~12月)掲載の目次一覧は[こちら] ■詳細検索ページは[こちら] ■連載記事の一覧は[こちら] ※税務の連載記事一覧は[こちら] ■メールマガジンでは最新号のアクセスランキングを紹介しています ⇒最新のメルマガは[こちら]からご覧いただけます。 ◆ ◆ ◆ 税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル(Profession Journal)について詳しく知りたい方は、下記をご覧ください。