検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10495 件 / 6481 ~ 6490 件目を表示

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第58回】昭光通商株式会社「特別調査委員会調査報告書(平成29年4月17日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第58回】 昭光通商株式会社 「特別調査委員会調査報告書(平成29年4月17日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【調査委員会の概要】   【昭光通商株式会社の概要】 昭光通商株式会社(以下「昭光通商」と略称する)は、1947(昭和22)年5月設立。化学品、合成樹脂、金属などの製造及び販売を主たる事業とする。資本金約80億円。売上高122,240百万円、経常利益2,120百万円(数字は、いずれも平成28年12月期)。従業員数550名。本店所在地は東京都港区。東京証券取引所1部上場。 今回、特別調査委員会が「資金循環取引」と判断した取引が判明した、株式会社ビー・インターナショナル(以下「ビー社」と略称する)は、化学品及び関連商品の輸入販売を業務内容とし、2014年1月、昭光通商が株式の100%を取得して連結子会社化した。資本金5,000万円、本店所在地は東京都港区。   【特別調査委員会調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 昭光通商は、平成28年第3四半期の決算概況説明会以降、会計監査人である有限責任あずさ監査法人(以下「監査法人」と略称する)より、連結子会社であるビー社の取引について、仕入先及び販売先になっているA社及びB社の代表取締役が同一人物であることから、商流の適正性・合理性等について、注意喚起及び調査依頼を受けた。 そこで、昭光通商監査役は、11月25日付でビー社への往査を実施するとともに、引き続き、関連部門を中心に本件取引の関係書類等の精査を行ったところ、受領していた船荷証券の写しに偽造又は変造を疑わせる痕跡が発見されたため、外部専門家をメンバ-とする特別調査委員会を設置して、調査を行ったものである。   2 調査結果の概要 (1) 本件取引の概要(調査報告書p.7以下) ビー社が行った資金循環取引には、B社を仕入先とし、A社を販売先とする「取引A」と、A社を仕入先としてB社を販売先とする「取引B」との2つの類型があった。 【図1:取引Aの商流】 取引Aでは、中国メーカーが製造した工業品を上海所在のG社が輸入し、最終顧客であるC社工場などに直接納品されることとなっていたため、ビー社においては、納品確認等は行っていなかった。 なお、取引開始当初は、ビー社とA社の間にE社が介在していたが、2013年7月ころから、E社は取引から外れ、昭光通商がビー社を子会社化したときには、上記【図1】の商流による取引となっていた。 【図2:取引Bの商流】 取引Bでは、ビー社の販売先・仕入先が真逆になっているだけで、A社とB社の間にビー社が入るという商流自体は変わらない。また、取引Aとは異なり、輸入を担当する商社名や最終顧客名などは、ビー社に明らかにされていなかった。 (2) 取引実績 年度別の取引実績は、【表1】のとおりである、取引Aについては2011年4月から2017年2月までの間、月1回、累計で160億円を超える取引があり、取引Bについては、2015年3月から2017年1月までの間、こちらも月1回、累計約15億円の取引があった。 昭光通商がビー社を買収した2014年12月期決算以降に限っていえば、取引A及び取引Bを除く売上実績は、一貫して減少傾向にあったことがわかる。また、2016年12月期決算においては、売上高の70%超が、資金循環取引(実体のない売上計上)である取引A及び取引Bによって構成されていた。 【表1:株式会社ビー・インターナショナル売上実績】 (3) 取引による効果 取引Aにおいては、ビー社は仕入代金を仕入れ月に決済してB社に支払う一方、売上代金がA社から入金されるのは3ヶ月後であったため、A社にとっては3ヶ月間の資金融資を受けているのと同様の効果が生じていた。 報告基準日現在において、2016年12月売上に係る代金の決済は未了であり(決済期限を過ぎている)、2017年1月及び2月売上代金の決済は到来していない。 一方、取引Bについては、仕入代金、売上代金の決済期限はともに納品書受領後3ヶ月とされていたため、金融機能があったわけではない。   3 資金循環取引と判断した理由(調査報告書p.11以下) 特別調査委員会が、取引A及び取引Bを資金循環取引であると判断した理由は、以下の4つであるが、昭光通商又はビー社の役員及び従業員において、本件取引が、対象物品のない資金循環取引であることを認識していたと認められる者はいない、としている。 (1) A社が提出した船荷証券の写しは、本来異なるはずのVoyage Numberがすべて同一であり、船名と運航ルートの照合により、存在しない運航ルートの記載があったことから、船積関連書類の写しについて、偽造又は変造の可能性が疑われること (2) 預金通帳の写しについて、A社代表者は、その真正性について説明を拒んでおり、偽造又は変造の可能性が疑われること (3) 取引Aの最終需要家であると説明されているC社に確認したところ、A社又はB社との間で数億円単位の取引が存在しない旨の供述を得られたこと (4) 中国側の輸出者であるはずのG社について、船積関連書類に記載された住所にはG社が存在せず、G社の実在を確認できなかったこと   4 原因分析(調査報告書p.26以下) 特別調査委員会による原因分析は、大きく、(1)ビー社買収時の検討不足、(2)ビー社における経営管理、(3)昭光通商による管理体制の3つのカテゴリーにより、検討されている。 (1) ビー社買収時の検討不足 昭光通商においては、ビー社買収検討時に、財務デュー・ディリジェンス及び法務デュー・ディリジェンスを行っているが、双方のレポート間の不整合が看過され、取締役会・経営会議においても、ビー社の管理方針について具体的に議論された形跡がないまま、ビー社株式のすべてを6億300万円で譲り受けることを決議しており、こうした一連の検討不足が、本件取引の実態が長く認識されなかった原因の一つである、としている。 (2) ビー社における経営管理 ビー社における経営管理の問題点としては、①介入取引に伴うリスクに対する感度及び理解の不足、②親会社派遣役員による監査・監督の機能の不足の2点を挙げている。 (3) 昭光通商による管理体制 昭光通商による管理体制の不備としては、①介入取引に伴うリスクに対する感度及び理解の不足、②ビー社に対する監査・管理体制の機能の不足、③派遣役員の機能の不足、④昭光上海に関する調査結果に基づく再発防止策の不徹底、⑤与信管理体制における不備の5点を挙げている。 このうち、④「再発防止策の不徹底」については、項目を改めて検討するとして、②「ビー社に対する監査・管理体制の機能の不足」として特別調査委員会が指摘しているのが、昭光通商内部監査部門の人員不足である。 昭光通商の内部監査規程では、子会社の内部監査を年1回行うこととされているが、当時の内部監査の専従者は1名しかおらず、十分な子会社監査ができていなかったことが挙げられている。 また、⑤「与信管理体制の不備」としては、ビー社のA社に対する与信額は昭光通商取締役会における決議事項となり、2015年3月以降、債権額の圧縮策や債権保全策が審議されてきたにもかかわらず、具体的な解決方法が示されるわけではなく、本件取引の実態が発覚直前の取締役会でも、当時の代表取締役社長による以下の発言により、現状追認の方向性が示され、出席取締役全員一致で与信枠が承認されている点を指摘する。 【平成28年(2016年)11月開催の取締役会における、当時の代表取締役社長による提案】(調査報告書p.24) この発言の問題点は2点。ひとつめは、昭光通商におけるA社の格付けは「E」で、これは、「常時警戒を有する債権とされており、取引継続が許容され得る中では最もリスクの高い与信先としての分類」である(調査報告書p.23)にもかかわらず、13億円を超える与信額を認めたことであり、もうひとつは、この時点では、すでに監査法人から、商流の適正性・合理性等について、注意喚起及び調査依頼を受けていたにもかかわらず、現状を追認する経営判断を行ったことにある。   5 再発防止策の提言 特別調査委員会は、再発防止策について、総論として、「昭光通商としての取組の検討・実施・検証・公表」として、経営陣の意識改革を求め、再発防止策の実施計画のみならず、実施状況も含め、ステークホルダーへの開示を求めている。そのうえで、具体的な提言(各論)として、以下の3項目を挙げている。 1.昭光通商の管理・牽制体制及び昭光通商による子会社の管理・牽制体制の高度化 2.管理の実効的な実施(特に与信管理) 3.M&Aによる子会社化に関する目的設定・調査・管理   【調査報告書の特徴】 調査報告書の中で何度となく言及されているのが、「中国子会社問題」である。これは、昭光通商の連結子会社である昭光通商(上海)有限公司(以下「昭光上海」と略称する)において、2015年5月に発覚した売掛債権の回収不能事件を指している。 昭光通商は、回収不能に伴う貸倒引当金繰入額128億円を特別損失として計上することとなった結果、2015年12月期決算で135億円を超える損失を発生させ、その後、特別調査委員会による調査と再発防止策の提言を公表した事件である。   1 「中国子会社問題」を受けた昭光通商の取組み 昭光通商による、2015(平成27)年7月30日付リリース「特別調査委員会の調査結果について」では、以下の6項目が列挙されている。 1.相互監視機能の強化 2.与信管理規程の見直し 3.与信決裁過程の整備 4.海外法人に対する与信審査の厳格化 5.リスク管理意識の向上 6.債権審議委員会の機動的な運営   2 「中国子会社問題」再発防止策の履行状況 特別調査委員会が再発防止策の冒頭に総論として挙げたのが、「当社としての取組の検討・実施・検証・公表」という項目であった。そこでは、昭光通商の取組みについて、次のような批判が語られている(調査報告書p.35)。 昭光上海における売掛金の回収不能という事態は、当時、「チャイナ・リスク」として説明されており、あくまで、中国企業相手の取引における特別な事案と考えられていたようであるが、「中国子会社問題」特別調査委員会が提言した、「取引実態の把握」や「与信管理手続」といった内容を履践していれば、本件取引についても、もっと早く実態が明らかになり、大幅な決算修正を行う必要はなかったかもしれない。   3 「中国子会社問題」特別調査委員会調査報告書を公表しなかった理由は何か 「中国子会社問題」においては、特別調査委員会の調査報告書は、昭光通商により作成されたと思われる「概要」が公表されたのみであり(A4にして約4ページ)、全文は公表されていない。また、調査対象も昭光通商と昭光上海における中国取引を中心に、両社に限定されており、連結子会社すべてを調査対象としていれば、本件取引の実態も1年以上前に明らかになった可能性がある。 今回の特別調査委員会報告書でも、「中国子会社問題」調査報告書が公表されなかった理由については言及がないが、ステークホルダーに対する説明責任の回避、事件を過少に見せようとする一種の隠蔽体質があったのではないか、それが、本件取引の実態解明を先送りしてきたのではないかという印象を与えてしまうことは否めないだろう。   4 特別調査委員会の人選について 今回の特別調査委員会にも、「中国子会社問題」特別調査委員会と同じく、常勤の社外監査役である酒井仁和氏(昭和電工出身)が委員として加わっている。このところ、会計不正事件の調査を日弁連ルールに依拠した第三者委員会ではなく、社外取締役・社外監査役を委員長又は委員とし、第三者である有識者(弁護士・公認会計士)とともに調査にあたらせる事例が増加している傾向にある。 前回の事例でも指摘したように、常勤監査役を委員に加えることで、社内の情報収集や関係者へのヒアリングがスムースに進むなどのメリットが期待できることは否定しないが、常勤監査役として「中国子会社問題」再発防止策の取組状況を監視・監督する立場にあった酒井氏が、「全社的なリスク評価を行っておらず、組織的な実施及びその評価、並びに、更なる施策の検討といったPDCAサイクルの実施が十分でなかった」とする調査報告書をまとめていることに違和感を抱かざるを得ない。 なお、酒井氏をめぐっては、昨年12月5日付「役員の異動のお知らせ」において、平成29年3月下旬開催の定時株主総会で退任の予定が伝えられたものの、3月6日付「役員の異動のお知らせ」において、「平成28年度決算発表が再延期となり、平成29年2月13日に設置した特別調査委員会の委員であることを鑑み、監査役辞任を見送る」という、異例の役員人事となっている。 (了)

#No. 219(掲載号)
#米澤 勝
2017/05/25

相続(民法等)をめぐる注目判例紹介 【第1回】「法定相続分の預金返還等請求事件」-最高裁平成29年4月6日判決-

相続(民法等)をめぐる注目判例紹介 【第1回】 「法定相続分の預金返還等請求事件」 -最高裁平成29年4月6日判決-   弁護士 阪本 敬幸   1 事案の概要 最高裁平成29年4月6日判決(以下、「本件判決」という)は、信用金庫に債権(普通預金債権、定期預金債権及び定期積金債権)を有していた被相続人の共同相続人の一部が、信用金庫を相手方として、法定相続分相当額の支払いを求めたという事案である。 原審(大阪高裁平成27年11月28日判決)は、従前の裁判所の判例に従い、預金債権は相続と同時に当然分割されるとして、相続人の請求を一部認容したため、信用金庫側が上告。   2 判決要旨 (1) 結論 「共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない」として、相続人(被上告人)の請求を棄却(原審破棄・自判)。 なお、普通預金債権については、既に最高裁平成28年12月19日決定(以下、「平成28年最決」という)(注)において、「相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」旨判示されたため、平成28年最決を引用して相続人の請求を棄却。 (注) 平成28年最決については本誌掲載の下記拙稿を参照されたい。 (2) 理由 以下の通り、平成28年最決の定期貯金債権における判断と同様に、契約上、払い戻し制限がある(解約しない限り払い戻しを受けられない)ことを理由としている。 補足しておくと、相続により債権は準共有状態となり、その解約権の行使は準共有債権の処分にあたるため、共同相続人全員でなければできないということを前提とするものと思われる。   3 本件判決の意義 本件判決は、定期預金債権及び定期積金債権について、共同相続の場合に当然分割されることはないと判断された点に意義がある。 平成28年最決においては、普通預金債権並びにゆうちょ銀行の通常貯金債権及び定期貯金債権について、共同相続の場合に当然分割されることはないとの判断がなされていたが、定期預金債権及び定期積金債権についての判断はなされていなかった。 本件判決においては、定期預金債権及び定期積金債権についても共同相続の場合に当然分割されることがないと確認されたといえる。   4 本件判決の実務への影響 平成28年最決により、定期預金債権・定期積金債権についても当然分割されることはないと考えられていたものであり、実務上の影響は大きくはないと思われる。 金融機関・遺言作成者・遺言執行者等においては、預貯金債権(及びこれに類似する債権)は全て当然分割されることはないと認識して対応しなければならない。 (了)

#No. 219(掲載号)
#阪本 敬幸
2017/05/25

家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第13回】「家族信託におけるリスク・デメリット」

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第13回】 「家族信託におけるリスク・デメリット」   弁護士 荒木 俊和   今回はこれまでの内容を踏まえ、家族信託を組成し、相続・資産承継対策を行うことについて、どのようなリスクやデメリットがあるのかについて解説する。   1 リスクを回避する柔軟な方法としての家族信託 家族信託は、相続・資産承継における様々なリスクを避けるために用いられる制度であることから、何ら相続・資産承継対策を行っていない場合に比べ、通常は相続・資産承継においてトラブルが発生するリスクを低減させるものである。 また、遺言や成年後見制度に比べても、遺言よりも受益者連続型信託(財産の元々の保有者である委託者兼当初受益者が死亡した後も信託を存続させ、二次受益者、三次受益者と受益権を承継させることによって遺贈と同様の効果を発生させるもの)のほうが二次相続、三次相続において柔軟に対応できるし、成年後見制度よりも不動産の売却や財産の積極的な活用の面で優れている部分があるといえる。 このように、家族信託はその内容の作り込みによって相当程度に柔軟に規定ができるため、リスクとなる事柄が予見できるのであれば、それを回避する形で設計することができる。 このため、家族信託を的確に活用できるとすれば、大きなリスクは回避できるといえる。   2 税務面でのメリットの不存在 一方で、基本的には家族信託の利用により、直接的な税務上のメリットは生じないという側面がある。 これ自体はデメリットとまではいえないが、家族信託の組成に関して一定の費用を要することを考慮すれば、コスト面での負担が生じることは避けがたいといえる。 また、税務についての十分な検討を行わずに家族信託のスキームを策定してしまった場合、思わぬところで課税が発生してしまう恐れがあるため、注意が必要である。   3 スキーム、信託契約の規定の作り込みの破綻 家族信託は事案に応じた柔軟な利用が可能である反面、事案に見合ったスキームの検討が不十分であると、信託の継続が破綻してしまう恐れがある。 例えば、「親が子に信託することが通常である」というセオリーを鵜呑みにして家族信託を設計した結果、病弱な子が受託者となり、親より先に子が死亡してしまうようなケースもありうる。 このような場合、子に万が一のことがあった場合のバックアップをどうするかを予め決め、信託契約に盛り込んでおかなければ、思った通りの相続・資産承継対策が実現できないばかりか、かえって混乱を生むだけの結果となってしまいかねない。 また、家族信託で用いられる信託契約はオーダーメイドのものであることから、信託法やその土台となる民法の知識が不十分な者が信託契約を作ってしまうと、信託契約が思った法律効果を生じない恐れがある。 例えば、譲渡が禁止されている預金(預金債権)を委託者から直接受託者に対して移すことにより信託財産としようとしたり、農地法の規制対象である田や畑を農業委員会との折衝もなしに信託の対象にしようとしたりするなど、ある程度の知識と経験があればできることができておらず、信託の組成が失敗するようなこともある。 このため、このようなリスクを回避するためには、家族信託に関する十分な知識と経験がある者に関与させなければならないものといえる。   4 受託者に対する監督 家族信託は、家族に財産を「信じて」「託す」仕組みである以上、受託者は基本的に委託者から見て信頼に足る者でなければならない。 そうであるとすると、委託者が吟味して受託者を選んだのであれば、そうそう受託者の資質や行動によって問題は生じないかのように思われる。 しかし、現実には成年後見制度において親族後見人による被後見人の財産の横領が多発したため、裁判所が親族後見人を選任する事案を限定し、専門家後見人の選任を主とする方針転換を行ったようなことからも、身近な親族であっても常に誠実に任務を全うするとは限らない。 また、受託者が積極的に横領行為を行う意思がなくとも、信託財産と自らの固有財産の分別管理義務を果たしていないがためにこれらの財産が混同してしまい、結果として信託財産が受託者の個人財産として費消されてしまうこともある。 このため、受益者は自らの財産を保護するために、信託法上、損害填補請求権(第40条第1項)や差止請求権(第44条)を行使するなど、受託者に対する種々の監督制度を利用することができる。 しかし、家族信託において基本的に想定されているのは、認知症対策等として財産を保有していた者が委託者兼当初受益者となるパターンである。 そうだとすると、この当初受益者が認知症になってしまう可能性は十分に存在するのであり、そうなってしまうと受託者の監督は十分に行えなくなってしまう。 このような場合には信託監督人を予め選任しておき、監督機能が低減してしまわないように仕組みを作っておくことが重要となる。   5 信託に対する関係者の認知度 家族信託は制度として一般市民まで完全に浸透しているものではないため、正当な内容の家族信託であったとしても、当事者の理解が及んでいなければうまくワークしないこともある。 例えば、他の家族に説明を行わず、父が長男に対して収益不動産を信託し、父が当初受益者となる場合、登記上の名義は長男のものとなるが、この登記を見た次男が、収益不動産が長男に(実質的な意味で)譲渡されたと誤信し、長男に対して悪感情を持つようなことがありうる。 また、信託を悪用して財産を隠したり、帳簿上の財産を消したりするようなことを企てるという例もありうるが、これも信託の本質的な意味を理解していないがために生じる問題であるといえる。 筆者個人としては、本来的には、財産を信託するということは何もやましいことではなく、家族全員に説明をしたうえで、オープンに行うことがベターなやり方ではないかと思う。 (了)

#No. 219(掲載号)
#荒木 俊和
2017/05/25

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第1回】「CGSガイドラインの概要」

コーポレート・ガバナンス・システムに関する 実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第1回】 「CGSガイドラインの概要」   PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー 公認会計士 北尾 聡子   〔CGSガイドラインの策定〕 経済産業省が、2017年3月31日に、「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を公表した。これは、2017年3月10日に公表された「CGS研究会報告書-実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引-」(CGSレポート)を踏まえたものであり、2015年6月から適用が開始された「コーポレートガバナンス・コード」(以下、CGコード)の内容を補完し、企業価値向上のための具体的な行動を取りまとめたものである。CGSガイドラインの別添として「経営人材育成ガイドライン」及び「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」も策定されており、これらを合わせると膨大な情報量となっている。 日本企業における中長期的な企業価値と「稼ぐ力」の向上を図ることを目標としてCGコードの策定など様々なコーポレートガバナンス改革が推し進められてきたものの、企業の立場からは、具体的に何をすれば有益なのか、実務上の参考となるガイダンスが必要であるという声が多く聞かれた。CGSガイドラインは、そのような企業側のニーズに応えるべく、上場企業に対するアンケート調査、ヒアリングの結果や、上場企業の経営経験者あるいは社外取締役の知見を得て取りまとめられたCGSレポートを踏まえて策定されたものであり、4つの項目に係る提言内容は、コーポレートガバナンス強化を目指す企業にとって参考になる事項が多いと考えられる。 本解説シリーズでは、CGSガイドライン策定に至るこれまでの取り組み、提言の主な内容、別添の「企業価値向上に向けての経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」及び「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」の概要、並びに今後の取り組み・課題などを全5回シリーズにて解説する。 CGSガイドライン策定に至るまでには、関係省庁が様々な取り組みを実施してきた。本稿では、はじめにその様々な取り組みについて説明する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。   〔コーポレートガバナンス改革に向けた様々な取り組み〕 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (PwCあらた有限責任監査法人作成) ▷CGSガイドライン策定の背景 <1> 経済産業省は、2008年12月、「企業統治研究会」を立ち上げた。経営層・機関投資家・学識者・金融庁・法務省の代表者が参集し、6回にわたる審議を重ね、「企業統治研究会報告書」が取りまとめられた。当報告書では、社外役員(取締役・監査役)の独立性や社外役員の導入についての考え方に関する提言などが盛り込まれた。 <2> 企業統治に関連する問題発生により、我が国のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方について内外から批判を受けたことを受け、2012年3月、経済産業省は、「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」を立ち上げた。2015年7月24日、研究会報告書「コーポレートガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」が公表された。   <3> 経済産業省での取り組みが進められる中、2014年6月に閣議決定された『日本再興戦略』改訂2014において、CGコードの策定が施策として盛り込まれた。これを受け、金融庁と東京証券取引所を共同事務局とする「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」が設置され、全9回審議を経て、2015年3月、「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」を確定、公表した。その後、各証券取引所が、関連する上場規則等の改正を行い、このコード原案をその内容とする「CGコード」が2015年6月1日より国内すべての上場会社に適用されている。 CGコードの適用前は、2004年3月に東証によって公表された「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」(2009年12月改訂)において、「~することが期待されている。」といった尊重規定が定められ、上場会社に対し、一定のコーポレートガバナンスの維持が期待されていた。 一方、2015年6月から適用されている「CGコード」は、上場会社に対して、「~すべきである。」とし、法的拘束力を有する規範ではないものの、いわゆる『コンプライ・オア・エクスプレイン』(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法を採用することにより、従前の尊重規定から一歩前進している。 <4> 「CGコード」が2015年6月1日より適用された後、金融庁は、2015年9月、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」を設置し、両コードの普及と定着状況をフォローアップしている。当フォローアップ会議からは、現在までに意見書(1)・(2)・(3)が公表されている。   <5> 各企業によるコーポレートガバナンス改革が進められる中、『日本再興戦略2016-第四次産業革命に向けて-』において、「攻めの経営」の促進に向けた具体的施策の一つとして、“実効的なコーポレートガバナンス改革による企業価値の向上”が掲げられ、「取締役会の役割・運用方法、CEOの選解任・後継者計画やインセンティブ報酬の導入、任意のものを含む指名・報酬委員会の実務等に関する指針や具体的な事例集を、本年度内を目途に策定する」こととされた。なお、コーポレートガバナンス改革は、過去20年以上におよぶ企業価値の低迷という現状から脱却し、企業の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を図ることのできる経済システムの構築を目指すものであるとされている。 日本再興戦略2016を受け、経済産業省は、2016年7月から、法務省及び金融庁からオブザーバーとしての参加を得て「CGS(コーポレート・ガバナンス・システム)研究会」(座長:神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)を立ち上げた。CGS研究会は、全9回にわたり開催され、2017年3月10日、「CGS研究会報告書-実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引-」(CGSレポート)を公表した。 さらに、経済産業省は、CGS研究会での検討結果を踏まえ、2017年3月31日、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針として、「CGSガイドライン」を策定、公表した。また、本指針の別添として産業人材政策室より「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成のガイドライン」、経済社会政策室より「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」が策定された。本解説シリーズは、これらのガイドラインも解説に含める予定である。   〔CGSガイドラインの概要〕 CGSガイドライン策定の背景からもわかる通り、CGコードの適用により、上場会社のコーポレートガバナンス改革は、形式面の整備がほぼ完了したと言える。この改革を「形式」から「実質」へと深化させるためには、問題を先送りせず、現状を改革する果断な経営判断を行えるように我が国企業の伝統的な経営システムを変化させていくことが求められている。 このような問題意識の下で策定されたCGSガイドラインは、CGコードによって示された実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を企業が実践するに当たり検討すべき内容を補完するとともに、「稼ぐ力」を強化するために有意義と考えられる具体的な行動を取りまとめたものである。企業が各社に適したコーポレートガバナンスの在り方を検討する際に、CGSガイドラインで示された検討事項を考慮して議論することが期待されている。 したがって、CGSガイドラインは、その中で提示した内容を各社が取り入れることを期待しているというよりは、各社が自社に適したガバナンスについて議論する際の参考情報として活用することを想定したものである。各社の置かれた状況に応じてCGSガイドラインの活用方法は異なるものの、CGSガイドラインの内容を企業に押し付けるものではないことが強調されている。 ▷CGSガイドラインの構成 CGSガイドラインで示された提言は以下の4項目であり、各企業がそれぞれの項目について検討することが促されている。 取締役会への付議事項の見直しなどを行うことで、経営戦略に関する議論や監督機能に関する議論を充実させる必要がある 社外取締役への情報提供や意見交換を行うための工夫を行う コーポレートガバナンス対応を一元的に統括する部署・担当者の配置を検討する 取締役会の実効性評価に際して、第三者的な視点を取り入れながら取締役会の在り方について議論することが必要 社外取締役に期待する役割・機能を明確にし、役割・機能に合致する資質・背景を検討する 求める資質・背景を有する社外取締役候補者の適格性、就任条件について検討する 就任した社外取締役が実効的に活動できるようにサポートする 社外取締役の活躍の状況に関する対外的な情報発信の充実を検討する 社外取締役の評価を踏まえて、社外取締役の再任・解任等を検討する 経営陣の選解任や評価、報酬に関する基準及びプロセスの明確化 社外者中心の指名・報酬委員会の設置・活用(社長・CEOの選解任、後継者計画及び報酬について、指名委員会や報酬委員会の諮問対象に含めるなど) 役員候補者の育成・選抜プログラムの作成と実施 退任社長・CEOが相談役・顧問に就任する際の役割・処遇(報酬等)の明確化 退任社長・CEOの就任慣行(人数、役割、処遇等)について積極的に情報開示 取締役会長の権限・肩書(代表権の付与等)を検討する CGコードが施行されて1年以上が経過し、各社の取り組みが注目されている。コーポレートガバナンス改革を推し進めることが、本当に企業価値の向上につながるのか、半信半疑で取り組んでいる人も少なからずいるだろう。 これらの取り組みは、本来、短期的な効果を期待するというよりも、中長期的な視点で行われるべきものであろう。企業が、持続的な企業価値向上のため、試行錯誤しながら積極的にガバナンス改革を進めること、また外部情報発信について前向きに取り込むことが望まれていると考えられる。 先進的な事例や成功事例が開示されることで、他社がそれを参考にし、切磋琢磨することで、日本企業のコーポレートガバナンス全体の質的向上が期待される。企業の積極的な開示により、プラスの連鎖が広がり、我が国企業全体の「稼ぐ力」が向上することを期待したい。 なお、CGSガイドラインの各提言内容については、本シリーズの次号以降において詳しくご説明する。次号(第2回)では、「提言2:社外取締役の活用」について、ご説明する。 (了)

#No. 219(掲載号)
#北尾 聡子
2017/05/25

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例15】株式会社フュートレック「監査等委員会設置会社への移行中止に関するお知らせ」(2017.4.21)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例15】 株式会社フュートレック 「監査等委員会設置会社への移行中止に関するお知らせ」 (2017.4.21)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社フュートレック(以下「フュートレック」という)が平成29年4月21日に開示した「監査等委員会設置会社への移行中止に関するお知らせ」である。タイトルのとおり、監査等委員会設置会社への移行を中止することにしたという内容だが、その理由について、「1.中止の理由」には次のように記載されている。   2 なぜ監査役会設置会社で? 監査等委員会設置会社へ移行しようとしたが、役員が金融商品取引法違反を犯したため、監査役会設置会社でコーポレート・ガバナンス体制を再検討した方がよいと考えたとのことである。しかし、この理由はわかりにくい。 「取締役会の監査・監督機能の強化をもってコーポレート・ガバナンス体制の一層の充実と企業価値のさらなる向上を図ること」が、監査等委員会設置会社移行の目的とされている。ならば、こうした状況においてこそ、早急に監査等委員会設置会社に移行した方がよいのではないだろうか。   3 監査等委員会設置会社移行の本当の理由 中止の理由がわかりにくいのは、おそらくそれが本当ではないからだろう。つまり、本当の理由は違うのに、何とか表向きの理由を作り出そうとして、このようにわかりにくくなっているのではないだろうか。 本当でないといえば、そもそも監査等委員会設置会社への移行の理由も、おそらく本当ではないだろう(そのため、余計に中止の理由がわかりにくくなっている)。上掲の中止の理由の記載と重なるが、フュートレックが平成29年1月23日に開示した「監査等委員会設置会社への移行に関するお知らせ」の「1.移行の目的」には、次のように記載されている。 現在、多くの会社が監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しているが、その移行に関する開示に記載された目的はどれもこのように簡潔で抽象的である。おそらく本当ではないため、具体的な記載とはなり得ないのだろう。 監査等委員会設置会社への移行は、コーポレートガバナンス・コードの次の原則を踏まえたものだと思われる。 この原則を踏まえ、本当は次のように考えて、監査等委員会設置会社へ移行しているのだろう。 コーポレートガバナンス・コードで社外取締役を複数置くべきとしているが、監査役会設置会社のまま複数の社外取締役を入れるとしたら、社外監査役と合わせて最低4名以上社外から人材を調達しなければならない。それは大変だ。監査等委員会設置会社ならば、最低2名の社外取締役だけでいい。指名委員会等設置会社のように指名と報酬の委員会を置かなくてもいいし(役員の人事と報酬の決定をそれらの委員会に委ねるなんて)、場合によっては現在の社外監査役を横滑りさせればいいのでは。   4 中止の本当の理由 役員による金融商品取引法違反という事態に遭遇し、監査等委員会設置会社への移行を躊躇するとしたら、誰だろうか。フュートレックの社外監査役である。 監査等委員会設置会社へ移行している他の会社と同様に、おそらく同社においても、2名の社外監査役が社外取締役に横滑りして、監査等委員に就任する予定だったと思われる。そうなった場合、彼らは、これまで求められてきた監査機能に加えて、取締役としての監督機能も求められることとなり(適法性だけでなく妥当性も監視)、責任が重くなる。 あくまで推測だが、彼らは、役員による金融商品取引法違反という事態に遭遇し、同社の取締役に就任することにリスクを感じて、監査等委員会設置会社への移行に反対したのではないだろうか。もしもそうだとしたら、監査等委員会設置会社へ移行する前に役員による金融商品取引法違反が判明したことは、彼らにとって不幸中の幸いだったといえるだろう。 (了)

#No. 219(掲載号)
#鈴木 広樹
2017/05/25

プロフェッションジャーナル No.218が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年5月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.218を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/05/18

日本の企業税制 【第43回】「国際課税に関する今後の改正動向を探る」

日本の企業税制 【第43回】 「国際課税に関する今後の改正動向を探る」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   国際課税に関しては、平成28年度税制改正においては移転価格税制に係る文書化制度の整備(国別報告事項等)、平成29年度税制改正においては外国子会社合算税制の抜本見直しなど、連続して大きな改正が行われている。 今後、国際課税に関しどのような改正が行われる可能性があるのか、各動向から探ってみたい。   1 「BEPS包摂的枠組み」による各国の法整備の動き これらは、国際的なBEPS(税源浸食と利益移転)への取組みを背景にしたものである。本年3月17日から18日にかけて開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議声明においても、次のように述べられている。 ここで触れられている「BEPS包摂的枠組み」とは、BEPSプロジェクトを推進してきたOECD加盟国34ヶ国に加盟申請中の4ヶ国(うち2ヶ国はとりまとめ段階で参加)及びOECD非加盟のG20諸国8ヶ国を合わせた46ヶ国に加え、新たに、低所得国を含む国・地域が、既存メンバーと対等な立場でBEPS最終報告書に盛り込まれた勧告にコミットするものである。 これは、昨年6月末に京都で開催されたOECD租税委員会の際に開かれた第1回「BEPS 包摂的枠組み会合(Inclusive Framework on BEPS)」で立ち上げられ、プロジェクト参加国・地域数は合計96ヶ国・地域に及んでいる(本年4月現在)。 したがって、わが国の国内法の整備のみならず、各国の法整備の状況から目が離せない。 また、「税の透明性に関して合意された国際的基準の、満足のいく水準での実施に向けて十分な進捗が見られない法域のリスト」については、平成29年度税制改正において抜本見直しが行われた外国子会社合算税制において、上記リストに記載された国・地域にある外国関係会社は「特定外国関係会社」(措法66の6②二ハ・⑭)として、いわゆるペーパーカンパニーと同様に、そのことをもって、その所得が合算対象となることとされている。   2 与党大綱に示された「中期的に取り組むべき事項」から見えること 昨年12月8日に決定した与党の平成29年度税制改正大綱では、「補論」として、一連の国際課税の見直しの背景と今後の課題について整理している。特に、「中期的に取り組むべき課題」として、次のように記されている。 ここで挙げられている課題は、移転価格税制、過大支払利子税制、義務的開示制度の3つであるが、これらのうち、移転価格税制に関しては、特に利益分割法のガイダンスをOECDで検討途上であり、また、義務的開示制度については「制度導入の可否」とあるように、他の課題より一歩引いた取り扱いとなっていることからすれば、過大支払利子税制が、当面の課題として浮上する可能性があると見られる。 過大支払利子税制とは、所得金額に比して過大な利子を関連者間で支払うことを通じた租税回避を防止するため、関連者への純支払利子等の額のうち調整所得金額の一定割合(50%)を超える部分の金額につき当期の損金の額に算入しないこととする制度で、平成24年度税制改正で創設されたものである(措法66の5の2)。 これを見直す場合、OECDのBEPS最終報告書を踏まえれば、上記の「調整所得金額」の算定における受取配当の取扱いと、調整所得金額に乗じる「一定割合」の水準、第三者への支払利子の取扱いなどが大きな課題となろう。 (了)

#No. 218(掲載号)
#小畑 良晴
2017/05/18

平成29年度税制改正における『組織再編税制』改正事項の確認 【第5回】

平成29年度税制改正における 『組織再編税制』改正事項の確認 【第5回】 (最終回)   公認会計士 佐藤 信祐   6 2段階組織再編成の見直し T&Amaster675号15頁の「二次・三次再編の税制適格要件を見直し」では、二次再編が見込まれている場合だけでなく、三次再編が見込まれている場合についても改正法人税法施行令で規定されることが報道されていた。この点、法人税法施行令4条の3第25項を確認すると、二次再編が適格合併である場合には、「当該適格合併に係る合併法人は、当該適格合併後においては当該各号に定める法人とみなして、当該各号に規定する規定及びこの項の規定を適用する。」と規定されている。これにより、二次再編の合併法人が適格合併により解散することが見込まれている場合にも、「当該各号に定める法人」とみなされることから、一次再編を適格組織再編として取り扱うことが可能になる。 ただし、実際の条文を見てみると、すべての組織再編に対応したものとはなっていない。例えば、合併については、法人税法施行令4条の3第3項2号において、同条2項2号を読み替えることにより、実質的に同令25項が適用されるため、同一の者が適格合併により解散することが見込まれる場合の取扱いについては、50%超100%未満グループ内の合併においても対応しているように思われる。しかし、法人税法本法にはこのような規定がないことから、合併法人が適格合併により解散することが見込まれる場合における従業者引継要件、事業継続要件については、三次再編に対応していないということが言える。 これは、共同事業を行うための合併における従業者引継要件、事業継続要件についても同様である。この点については、財務省の立法担当者による「平成29年版改正税法のすべて」を確認する必要があろう。   7 資産調整勘定の償却の見直し 平成29年度与党税制改正大綱では、資産調整勘定及び差額負債調整勘定について、月割計算を行うことが記載されている。実際の条文については、法人税法62条の8第4項、7項を確認されたい。   8 繰越欠損金、特定資産譲渡等損失の見直し 平成29年度税制改正前は、特定資産譲渡等損失相当額における「特定資産」の定義が「支配関係発生日において有する資産」、特定資産譲渡等損失額の損金不算入における「特定資産」の定義が「支配関係発生日前から保有していた資産」とされていた。 そのため、例えば、3月決算法人であるA社を×1年7月1日に買収したときは、A社において、×1年4月1日から×1年6月30日までに発生した損失は、支配関係発生日(×1年7月1日)には存在しないことから、特定資産譲渡等損失相当額に該当しないと解されていた。これに対し、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の計算では、支配関係発生日前には有していることから、該当する余地があると解されていた。 この点につき、平成29年度税制改正では、「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度のうち支配関係がある法人間でみなし共同事業要件を満たさない適格合併等が行われた場合における欠損金の制限措置及び特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入制度について、支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までの間に生じた特定資産の譲渡等損失額を制限の対象に加える(平成29年度与党税制改正大綱72頁より抜粋)」こととされた。 これを条文で確認すると、法人税法62条の7第2項2号では、特定保有資産の定義について、「支配関係発生日の属する事業年度開始の日前から有していた資産」と定められた。このことにより、支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までの間に取得した資産は特定保有資産から除外されることとされ、納税者優位に解することができるようになった。 それと当時に、法人税法施行令123条の8第3項5号では、「第62条の7第2項第1号に規定する支配関係発生日(第12項において「支配関係発生日」という。)の属する事業年度開始の日以後に有することとなった資産及び同日における価額が当該同日における帳簿価額を下回っていない資産」を特定資産から除外することされた。すなわち、特定引継資産からも支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までの間に取得した資産が除外されることが明らかにされている。さらに、時価が帳簿価額を下回っていない場合に特定資産から除外することができるという特例も、その算定基準日が支配関係発生日の属する事業年度開始の日とされた。 そして、法人税法施行令112条5項1号においても、 と規定された。 このことにより、「支配関係発生日の属する事業年度開始の日前から有していた資産」が、特定資産として取り扱われることになり、支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までに損失を実現させることにより、繰越欠損金の引継制限、使用制限を回避することはできなくなった。   9 むすび このように、平成29年度税制改正では、組織再編税制の大幅な見直しがなされており、今後の実務への影響は大きいと思われる。 なお、本稿は、「平成29年版改正税法のすべて」が公表される前に校了したものであるため、その内容については触れていない。「平成29年版改正税法のすべて」を確認することにより、その制度趣旨についても理解することができると思われる。 本稿が、皆様のお役に立つことができれば幸いである。 (連載了)

#No. 218(掲載号)
#佐藤 信祐
2017/05/18

相続税の実務問答 【第11回】「代償分割の対象となった財産の中に小規模宅地等がある場合」

相続税の実務問答 【第11回】 「代償分割の対象となった財産の中に小規模宅地等がある場合」   税理士 梶野 研二   [答] お兄様については、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「小規模宅地等の特例」といいます)を適用することにより、相続税の課税価格は算出されないこととなりますが、お兄様が、同特例を適用することによって、あなたの相続税の課税価格の計算に影響が生じることはありません。 なお、お兄様については、相続税の課税価格が算出されないとしても、小規模宅地等の特例を適用するためには、相続税の申告が必要となりますので、ご注意ください。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   ● ● ● ● ●  説 明 ● ● ● ● ● 1 小規模宅地等の特例 相続や遺贈により取得した財産のうちに、その相続開始の直前に被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で一定の要件を満たすものがある場合に、その宅地等を取得した相続人等が一定の要件を満たすときには、その宅地等を取得した相続人等全員の選択により、その宅地等のうちの一定の面積までの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額を軽減することができます。 例えば、被相続人の居住の用に供されていた宅地を取得した相続人が被相続人と同居していた者であり、その者が相続税の申告期限まで居住を継続する場合には、その宅地は、租税特別措置法第69条の4第3項第2号に定める特定居住用宅地等に該当し、相続税の課税価格に算入すべき価額は、330平方メートルまでの部分についてその宅地の相続税評価額の100分の20とされます。   2 ご質問の場合 (1) 小規模宅地等の特例を適用した場合の相続税の課税価格の計算 お母様とお兄様が居住の用に供していた建物の敷地は、お兄様が、代償分割により、単独で相続されたとのことですが、お兄様が相続したこの敷地は、特定居住用宅地等に該当するものと思われます。 この敷地の面積が330平方メートル以下であるとすると、小規模宅地等の特例を適用することにより、相続税の課税価格に算入される価額は、1,400万円(7,000万円×20/100)となります。 そうしますと、次の算式のとおり、お兄様の相続税の課税価格は、算出されないこととなります。ただし、この小規模宅地等の特例を適用する場合には、相続税の申告が必要となりますので、ご注意ください(措法69の4⑥)。 (注) ご質問の場合、代償分割の対象とされた財産が、土地及び建物であるとの前提を置くと、お兄様が支払う代償金の額(3,840万円)は、土地及び建物の価額の合計額(2,080万円)から控除し、控除しきれない額は、切捨てとなり、代償分割に関係しないその他の財産の価額500万円がお兄様の相続税の課税価格となるとの考え方もあり得ます。相続税の課税価格の計算に当たっては、代償分割の趣旨、内容、分割協議書の文言等を十分に検討する必要があると思われます。 なお、お兄様が、小規模宅地等の特例を適用したとしても、あなたの相続税の課税価格4,340万円に変動はありません。 (2) 各共同相続人の課税価格に開差が生じることについて 上記(1)のように、被相続人の居住の用に供されていた宅地を取得した相続人が小規模宅地等の特例を適用することにより、共同相続人間で遺産を平等に分割したにもかかわらず、それぞれの相続税の課税価格、したがって相続税の負担額が異なることとなります。 この差異は、この特例が、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた一定の宅地を相続等により取得した相続人等で、事業や居住の継続等の一定の要件を満たす者について、その者の相続税の課税価格に算入される金額を減額することにより、その者の事業継続又は居住継続を支援するという趣旨で設けられていることによるものです。 また、小規模宅地等の特例を適用した相続人について、同特例適用後の土地の価額及びその他の取得資産の価額の合計額から代償債務の額を控除すると、上記(1)の計算式で示したとおり控除しきれない金額が生じますが、この控除しきれない金額は切捨てとなり、他の共同相続人の課税価格から控除することは認められません。そのため、分割のしかたによって、共同相続人全員の相続税の負担額の合計額が増加することがあり得ます。 例えば、ご質問のケースで、建物とその敷地をお兄様が取得し、その他の財産を質問者が取得した場合の相続税の課税価格は次のようになり、課税価格の合計額が、相続税の基礎控除額4,200万円(3,000万円+600万円×2名)を超えませんので、相続税額は算出されないこととなります(ただし、小規模宅地等の特例を適用する場合には、相続税の申告が必要です)。 このように、遺産分割の方法や分割の内容により、税負担に差異が生じることがありますので、遺産分割に当たっては、専門家のアドバイスを受けるなど、事前に十分な検討を行う必要があるでしょう。   (了)

#No. 218(掲載号)
#梶野 研二
2017/05/18

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第14回】「買換資産を本人が居住の用に供しない場合の適用関係①(単身赴任等の場合)」-居住の用の判定-

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第14回】 「買換資産を本人が居住の用に供しない場合の適用関係① (単身赴任等の場合)」 -居住の用の判定-   税理士 大久保 昭佳   Q 譲渡資産や買換資産を、X(譲渡者本人)が単身赴任等で日常生活の用に供していないときでも、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けることができる場合があるそうですが、この場合の適用関係について説明してください。 A それぞれの態様に応じた適用関係を図解により説明しますと、次のとおりとなります。 ●○●○解説○●○● (1) 買換資産に本人と妻子が同居する場合 譲渡資産について居住用家屋の所有者(譲渡者本人)が単身赴任等で他に起居している場合には、措通36の2-23(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用)により、措通31の3-2(居住用家屋の範囲)に準じて「居住の用に供している」かどうかを判定しますから、この特例の適用を受けることができます。 (2) 買換資産に妻子のみが居住する場合 買換資産について居住用家屋の所有者(譲渡者本人)が単身赴任等で他に起居している場合には、措通36の2-17(買換資産を当該個人の居住の用に供したことの意義)により、措通31の3-2(居住用家屋の範囲)に準じて「居住の用に供している」かどうかを判定しますから、この特例の適用を受けることができます。 (了)

#No. 218(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/05/18
#