これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第3回】 「「役員改選の登記手続」が定期メンテナンスの役割を果たす」 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 はじめに 前回は登記管理を怠るリスクについて解説した。今回は、役員の任期満了に伴う登記手続が、登記管理を怠るリスクを回避する役割を果たすという点に着目してみたい。 役員改選の登記手続=定期メンテナンスの役割 まず、役員の任期満了に伴う登記手続(以下、「役員改選の登記手続」という)は、連載【第1回】で解説した、会社の履歴書の更新であるとイメージしていただきたい。 以下で述べるように、役員改選の登記手続は、一定の期間で更新する必要があることから、その他の事項も含めた、会社の履歴書の定期メンテナンスを行うきっかけとなる。 この更新の頻度は、定款に定められた取締役や監査役の任期の規定による。 そこでまずは、役員の任期規定について整理していこう。 役員の任期規定 取締役の任期は、原則として2年である(会社法第332条第1項)。詳しく言えば、選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時までである(以下、任期に関する表記については「〇年」と省略して表記する)。 監査役の任期は、原則として4年である(会社法第336条第1項)。 平成18年の会社法施行後は、株式の全部に譲渡制限が付されている株式会社(以下、「非公開会社」という)では、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除いて、定款で定めることにより、取締役、監査役の任期を最長10年まで伸長できるようになった(会社法第332条第2項・同法336条第2項)。 なお、非公開会社では、登記記録に以下の記載がある。 【非公開会社の登記記録の例】 (※) 機関設計によっては、「株主総会」や「代表取締役」といった承認機関となる。 非公開会社では、取締役の任期を1年から10年の間で定めることができる。監査役の任期は、取締役と異なり、監査の地位保障の観点から、原則の4年より短縮することができない。 一方、公開会社では、株主の変動が多く、取締役の選任につき株主の信任を頻繁に問う必要があることから、取締役の任期を2年より伸張することができない。監査役の任期は4年であり、任期の伸長や短縮はできない。 非公開会社・公開会社における取締役と監査役の任期をまとめると、次のとおりである。 【取締役・監査役の任期の定め】 (青色のアミカケ部分は、任期で定めることができる範囲を示す) 取締役や監査役の任期は、会社設立時は発起人により決定され、定款に記載される。会社設立後は株主総会の決議によって、定款に定められた任期を変更することができる。 役員の任期と定期メンテナンスにかかる労力 取締役の任期が1年、2年、4年、10年のケースについて、登記手続(=定期メンテナンス)のタイミングとそれぞれの特徴をまとめると、下図のようになる。 【取締役の任期】 ※非公開会社の場合 (青色の丸が登記手続(=定期メンテナンス)のタイミングを示す) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 次に、「任期1年の場合」と「任期10年の場合」における、メンテナンスのイメージ図である。 三角形の大きさが「メンテナンスを必要とする部分」を表す。これは「メンテナンスにかかる労力」ともいえる。また、矢印の数が「メンテナンスの頻度」を表す。これは「役員改選の登記手続の費用を要する場面」ともいえる。 【メンテナンスの労力・費用のイメージ図】 このように、任期が1年であれば毎年メンテナンス費用等がかかり、一方で任期が10年であればメンテナンスに多くの労力等を要し、さらにはメンテナンスの機会自体を逸するリスクも増大する。 そこで、「監査役の任期が最短4年である」という点に着目して、非公開会社では、取締役と監査役の任期を4年に統一し、取締役、監査役ともに同一の時期に改選すれば、登録免許税等の費用負担を減らすことができる。定期メンテナンスのしやすさや費用負担の観点から、任期を4年とするのも一案だろう。 なお、登記管理の場合、メンテナンスには役員や株主による意思決定が必要となる。一定の同意が得られないと、「会社の履歴書」は更新されないままとなる。このため、役員や株主の意思決定が不備なく反映される視点でメンテナンスを実施するのが望ましい。 定期メンテナンスで確認すべき項目 では実際に、役員改選の登記手続時に行う定期メンテナンスにおいて、どのような事項を確認すべきか、その「メンテナンス項目」について解説していく。 以下は、役員改選の登記手続時に検討すべきメンテナンス項目の例である。項目が多数にわたるが、主に「登記記録」「役員構成」「株主構成」に着目している。 【メンテナンス項目の例】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 なお、これまで述べた役員の改選登記の時期に限らず、例えば役員や株主構成に変動があれば、その都度登記手続や株主名簿の名義書換を行う必要がある点には留意されたい。 また、会社が個別に対応する機会を逸してしまったとしても、司法書士等の専門家が役員改選の登記手続に携わるなかで、会社が把握、対応しきれていない点につき、対策を講じることができる場合がある。 * * * 定期メンテナンスの機会を漏れなく設けるためには、入り口として、役員改選の登記手続の時期を的確に特定する必要がある。 そこで次回は、役員改選の登記手続の時期を特定する方法について解説していく。また、次回以降メンテナンス項目についても随時解説していく。 (了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第7回】 「「農地の集約化」のための法制度(農業経営基盤強化促進法等)」 税理士 島田 晃一 連載【第1回】で紹介したように、我が国の農業については、高齢化、後継者不足及び輸入農産物との競争など岐路に立たされている。 これら問題点の解決策の一つとして、農地を集約し大規模に行うことによる経営の合理化が挙げられる。 今回は農地の集約化に関する法制度について見ることにする。 1 農業経営基盤強化促進法 農業経営基盤強化促進法とは、効率的かつ安定的な農業経営を育成するために設けられた法律で、市町村は次の事業(農業経営基盤強化促進事業)を行う。ただし、市街化区域にある農地については農業経営基盤強化促進事業の対象外である。 (1) 利用権設定等促進事業 利用権設定等促進事業は、農地について利用権の設定、所有権の移転を促進する事業である。 手順は、まず農地所有者及び農業者から「農地の権利設定・移転」について農業委員会に申出を行い、その申出を受け農業委員会が市町村に「農地の権利設定・移転」を盛り込んだ計画(農地利用集積計画)の作成を要請する。その際、認定農業者・認定就農者からの申出については、他の申出に優先して農業委員会が調整にあたる。 また、農地利用円滑化団体(市町村、農業公社、農協など)や農用地利用改善団体などが権利関係の調整を行いその内容を申し出たときは、その内容を勘案して農地利用集積計画が作成される。最終的には農業委員会の決定を受け市町村が農地利用集積計画の公告を行う。 市町村が「農用地利用集積計画の公告」を行った場合、農地法の特例として、農地法3条の許可(【第2回】参照)を受けなくても権利設定・農地移転を行うことができる(農地法第3条第1項第7号)。また、賃貸借の法定更新も適用されない(農地法第17条後段)。つまり、契約期間が満了すれば、離作料の支払をしなくても元の所有者に農地が返ってくる(再契約も可)。 なお、「認定農業者」とは経営の改善に取り組む農業者で、5年後の経営改善目標等を規定した経営改善計画を策定し、その計画について市町村の認定を受けた者をいう。一方、「認定就農者」とは18歳から45歳までの新たに農業を始める者で、就農後数年後の経営目標を定めた青年等就農計画を策定し、その計画について市町村の認定を受けた者をいう。 認定農業者又は認定就農者になった場合、前述したように利用権設定等促進事業について農業委員会の調整を受けることができる。また、日本政策金融公庫からの資金の貸し付けにあたって配慮を受けることができる。 (2) 農地利用集積円滑化事業 農地利用集積円滑化事業は、農地利用円滑化団体が実施主体になり、①権利設定・農地移転による農地集積を図る事業(農地所有者代理事業)、②農地所有者から農地を購入し他の農業者にその農地を売却する事業(農地売買等事業)、及び、③農地売買等事業により一時的に所有している農地を利用した新規就農希望者に対する農業技術等の実地研修を行う事業(研修等事業)からなる。 このうち農地所有者代理事業や農地売買等事業については、(1)の利用権設定等促進事業を活用し、農地法の制約を受けない形で行う場合もある。 (3) 農用地利用改善事業 農用地利用改善事業は、農用地利用改善団体など一定規模の集落内の農業者団体が、その構成員の合意のもとに、作付の集団化、農作業の効率化、農地等の利用関係の改善を促進する事業である。 2 農地中間管理機構(農地バンク) 農地中間管理機構(農地バンク)とは、地域内の分散・錯綜した農地利用を農業の担い手ごとにまとまった形に集約し、農業の効率化を図ることを目的とした組織で、平成25年度まで農地保有合理化法人(都道府県農業公社)が実地していた事業を引き継ぐ形で平成26年度に創設された組織である。農地中間管理機構は都道府県毎に1つ設けられており、その運営等は「農地中間管理事業の推進に関する法律」に定められている。ただし、市街化区域にある農地については事業対象外である。 農地中間管理機構は、農地所有者からの委任により借り受けた農地を、公募した希望者に貸し付ける(農地中間管理事業)。つまり、農地所有者は公的機関である農地中間管理機構に農地を貸し、農地を借りる者は農地中間管理機構から借りることになる。そのため、農地を借りる者は農地所有者と直接交渉することなく農地を借りることができるというメリットがある。 一方、農地所有者にとっても、自ら農地の借り手を探すことなく農地を貸すことができる。さらに、貸し付けの際には、農地中間管理機構が基盤整備等の条件整備を行い作業の効率化を図れる面積や形状に区分するとともに、すぐに借り手が見つからないときは当該農地の維持管理も行う。また、賃料は農地中間管理機構から支払われるので未収の心配もない。 民法上は借地権を貸主の承諾なしで第三者に転貸できないが、農地中間管理機構が設定した農地に係る権利(農地中間管理権)については、民法の例外として貸主の承諾を得なくても第三者に転貸でき、契約期間が満了すれば自動更新されず農地は所有者に返ってくる。さらに、農地中間管理権設定の際には、農地法の特例として農地法第3条の許可は不要である(農地法第3条第1項第7号の2)。 農地中間管理事業は、公募であることなどを除き、その内容について前述した農地所有者代理事業と多くの共通点がある。そのため、機構の創設以降、相当数の農地所有者代理事業が農地中間管理事業に移行している。 【参考図】 (※) 農林水産省ホームページより 3 農地に係る相続税の納税猶予 農地に係る相続税の納税猶予の適用にあたっては、原則として第三者に貸し付けている農地は適用対象外である。また、納税猶予期間中に対象農地を第三者に貸し付けたときは納税猶予が打ち切られ、猶予されていた税額及び利子税を納める必要がある。 ただし、「特定貸付け」といい「農地中間管理事業」、「農業経営基盤強化促進法による農地利用集積円滑化事業」などに基づく貸し付けを行ったときは、納税猶予の打ち切りの対象外になる。また、既に被相続人の死亡前に特定貸付けを行っている農地や相続発生に伴い新たに特定貸付けを行った農地については、相続税の納税猶予の適用対象になる。 4 農地の譲渡に伴う税制の特例 農地を譲渡したときは、譲渡所得(分離課税)の対象になり、所得税・復興特別所得税・住民税が課税される。 ただし、次の場合、特別控除の適用を受けることができる。 また、認定農業者又は認定就農者が「①市街化区域又は既成市街地等内の農地から市街化区域外の農地へ買い換えた場合」又は「②農用地区域内において買い換えた場合」については、事業用資産の買換え特例の適用がある(旧措法37①二・七)。 ①の場合は譲渡面積の10倍までが特例の適用対象になる。一方、②の場合は「取得農地の面積>譲渡農地の面積」又は「取得農地が自らの所有農地の隣接地であること」のいずれか1つの要件を満たすことが必要であり、譲渡面積の5倍までが特例の適用対象になる。 なお、平成29年度の税制改正により、これらの買換えの特例については原則として平成29年12月31日においてその適用が打ち切りになるので注意されたい。ただし、経過措置により、平成29年12月31日までに農業経営基盤強化促進法の規定に基づき農業委員会に農地売買の申出を行ったときは、平成31年12月31日まで特例の適用期限が延長される。 (了)
家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第12回】 「家族信託への金融機関の関与」 弁護士 荒木 俊和 今回は家族信託の組成、運営をめぐり、金融機関がどのように関与するかについて解説する。 1 家族信託と金融機関のつながり 前回まで解説したとおり、家族信託は原則的に家族内で行われる資産管理の手段であり、信託銀行等を受託者としなければならないものではない。 しかし、家族信託において信託財産とされるものは、不動産や金銭(委託者の預金を解約して信託財産とする場合を含む)であることが多い。 不動産については取得資金の借入れのために金融機関によって(根)抵当権が設定されている場合があり、また金銭については受託者が金融機関に預け入れるときに固有財産ではなく信託財産であることを明示する口座の開設が必要である。 また、やや複雑なスキームとしては、不動産等を信託した上で受益権を不動産の取得資金としての借入債務とともに新たに設立した法人へ移したり、相続税対策のために親が持っている土地を子に信託した上で信託内借入れを行い建物を建設するといったスキームも行われている。 このように、家族信託と金融機関は密接なつながりを持っていることから、家族信託の設定にあたっては金融機関への対応が重要となる場面も多い。 以下では、家族信託と金融機関の接点となる、①信託口口座の開設、②担保権の設定された不動産の信託、③信託内借入れの各場面における留意点を順に述べる。 2 信託口口座の開設 (1) 信託口口座の必要性 家族信託において金銭を信託した場合、受託者はかかる金銭と自己の固有財産としての金銭を分別して管理しなければならず、法律上は「その計算を明らかにする方法」で管理しなければならないとされる(信託法第34条第1項第2号ロ)。 法律上は、受託者は必ずしも信託財産専用の口座を開設しなければならないわけではないが、実務上、固有財産の口座において信託財産を管理するとなると計算が煩雑になり、混同をきたす恐れが大きい。 また、固有財産の口座において信託財産を管理していると、受託者が差押えを受けたり破産したような場合に、信託財産が凍結されたり、取り立てられるなどの問題が発生しうる。 そのため、信託の機能の一つである倒産隔離機能の実効性を担保するため、信託財産専用の銀行口座である「信託口口座」を開設し、信託された金銭を分別管理することが望ましい。 (2) 信託口口座への金融機関の対応状況 しかしながら、実質的な意味で信託口口座に完全に対応している金融機関はごく一部に過ぎず、形式的には信託口口座の開設には応じてもらえるが、倒産時や相続時等において十分な体制が整っていない金融機関、全く応じてもらえない金融機関も多数存在するものと思われる。 また、対応のレベルもまちまちであり、例えば信託口口座の名義ひとつを取ってみても「委託者〇〇 受託者××」と表記する金融機関もあれば「受益者〇〇 受託者××」と表記する金融機関もあり、統一的な対応が図られている状況とは言えない。 現在のところ家族信託を設定した案件において、相続や倒産等に関連して大きなトラブルがあったという例は耳にしていないが、十分な対応方針が確立していない金融機関においては、信託口口座の取扱いを巡ってのトラブルということも考えられる。 このため利用者側としては、信託口口座の開設を考えている金融機関の実績や担当者の説明に十分に注意し、後にトラブルになることがないかを吟味する必要があるといえる。 3 担保権の設定された不動産の信託 (1) 担保権の設定された不動産を信託する場面 アパート等の収益不動産を多数所有する高齢者が、認知症対策等の目的で、受託者に対して不動産を信託する場合がある。 この場合、ローンを組んで購入した物件の場合であれば、金融機関から(根)抵当権が設定されていることが大半である。そして、この委託者と金融機関の間では(根)抵当権設定契約が締結されており、その契約に基づき、不動産の処分については金融機関の承諾が必要とされていることが通常である。 委託者としては借入れを繰上返済することが可能な場合もあるが、そうすると余計な相続税額が発生することもあるため、安易な繰上返済はできない。 そのため委託者としては、金融機関にスキームを説明し、金融機関から家族信託を行うことについての承諾を得る必要がある。 (2) 信託設定時の対応 単に現所有者を委託者兼受益者とした信託を設定する場合、実質的な財産状況に変化はないため、金融機関としても経済的には大きなリスクが存在しないとの判断を行い、すぐに承諾が得られるケースが多いと思われる。 ただし、家族信託の経験がない金融機関等の場合は、承諾が得られるまでに時間を要することもある。 また、金融機関から「受託者を連帯保証人にしてほしい」といった要求が出る場合もあるが、経済的状況が変化していないことに鑑みると、過剰な要求であると考えられる。 金融機関の承諾が得られれば、信託契約を締結し、不動産の所有権移転登記及び信託登記を行い、信託の設定完了となる。 4 信託内借入れ (1) 信託内借入れが求められるようになった背景 近時、家族信託における信託内借入れの可否が論点になる案件が増加しているものと見受けられる。 まず前提として、信託内借入れとは、受託者が信託契約に定める借入権限に基づいて、信託財産のために借入れをする場合をいい、法律的には信託財産責任負担債務として受託者が信託財産から返済すべき債務となる(信託法第21条第1項第5号)。 このような信託内借入れが行われるようになった背景には、相続税対策における認知症リスクが取り沙汰されるようになったとの事情がある。 すなわち、これまでは財産を保有している本人が金融機関から借入れを行い、アパート等の収益物件を取得又は建設することが行われてきたが、取得や建設の途中において本人が認知症になってしまうと、その時点でプロジェクトがストップしてしまうという問題が指摘されるようになった。 このため、本人が所有する土地を子らに信託し、子らが受託者の立場で相続税対策として信託内借入れを行い、収益物件の取得又は建設を行うスキームが採られるようになった。 (2) 信託内借入れの融資審査 信託内借入れを行う場合の融資審査については(金融機関により異なるものであり、公表されているものではないが)、通常の借入れの融資審査と異なる部分があるように考えられる。 すなわち、信託内借入れの場合、委託者の信託されていない個人財産は引当てにならず、信託財産及び受託者の固有財産が引当てとなる(責任財産限定特約がない限り、信託財産責任負担債務は受託者の個人的責任かつ無限責任となる(信託法第21条第2項の反対解釈))。 また、実際に収益物件の取得又は建設、管理及び運営を行うのは、委託者ではなく受託者である。 このことから、金融機関としては、①信託財産の評価、②受託者の固有財産の評価、③受託者の能力及び意欲、④事業計画等を中心に融資審査が行われるものと思われる。 この際、金融機関に融資を不安視する向きがあれば、委託者に対しても連帯保証を求める等の担保提供の要求も考えられる。 このため、財産を保有している本人としては、このスキームを採る場合には、単に子らに後のことを委ねるというだけでは足りず、このような融資審査を踏まえて検討する必要がある。 具体的には、融資審査に不安が残るのであれば信託財産を土地とするだけではなく、一定の金銭を担保の意味で信託財産に加えておくような対応も考えられる。 (了)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第20話】 「共有持分と措置法35条」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「田中統括官・・・納税者からの質問なのですが・・・」 谷垣調査官は、少し遠慮した様子で尋ねる。 昼食後で、田中統括官は爪楊枝をくわえながら、新聞を読んでいる。 「・・・質問?」 田中統括官は、眠そうな顔をして振り返る。 「父の相続で、配偶者(甲)、長男(乙)、次男(丙)が自宅を取得したのですが・・・次のような持分で、それぞれ取得しているのです・・・」 と言いながら、谷垣調査官は、自分で描いた図を見せた。 「なるほど、ややこしいな・・・」 田中統括官は腕を組みながら、机に置かれた図を覗く。 「家屋と土地の持分が、それぞれ異なるのか・・・」 「電話によると、この自宅を売却するということなのですが・・・各人の措置法35条による3,000万円控除の適用範囲を訊いてきたのです・・・」 谷垣調査官が説明する。 「・・・君は資産課税部門に何年勤めているんだ?」 説明を聞いた田中統括官は、憮然とした表情で尋ねる。 「ええ・・・今年の7月で、8年になります。」 谷垣調査官は俯いたまま応える。 「8年間も資産税の仕事をしていたら、わざわざ僕に尋ねなくても、こんな質問は簡単に答えられるだろう?」 そう言うと、田中統括官の表情はさらに険しくなる。 「はい・・・何となく答えはわかるのですが・・・自信がなかったので・・・統括官に確認していただきたいと・・・」 谷垣調査官はバツの悪そうな顔をする。 「このケースでは、3人(甲・乙・丙)が家屋と土地について異なる持分を持っているのですが・・・この3人の措置法35条の適用はどうなるのですか・・・」 谷垣調査官は、そう言いながら、言葉を続ける。 「具体的な数字として・・・家屋のキャピタルゲインが600万円で、土地のキャピタルゲインが6,000万円だとしたら・・・どうなりますか?」 谷垣調査官は、生徒に質問するような先生の口調になる。 田中統括官は、谷垣調査官の言葉に頷きながら、素直に考える。 「・・・まず、甲(配偶者)は家屋について3分の2の持分を持っているから、措置法35条の適用は400万円になる。」 そう言いながら、罫紙の上に計算式を書いた。 「・・・ということは、甲は400万円の控除を受けられるから、譲渡所得は発生しないということですね。」 谷垣調査官が確認する。 「そうだね。次に、乙(長男)は家屋を3分の1、土地を3分の1の持分をそれぞれ持っているから、措置法35条の適用金額は、次のようになる。」 「そうすると、乙の上記2,200万円の金額は、措置法35条の3,000万円控除の範囲内ですから、乙も譲渡所得は発生しない・・・」 谷垣調査官の発言に対して、田中統括官は黙って頷く。 「最後に・・・丙(次男)なんですけど・・・丙は家屋を持っていませんが、居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用を受けることができるのですか?」 谷垣調査官が尋ねる。 「君は・・・通達を知らないのか?」 田中統括官は再び不機嫌になる。 谷垣調査官は慌てて傍らにある租税特別措置法通達を手に取った。 「・・・ということは、今回の質問の場合はこの①から③の要件をすべて満たしているから、丙は、甲と乙の特別控除額の控除不足額を使うことができるということですね。」 田中統括官は大きく頷く。 「甲と乙の控除不足額は3,400万円(2,600万円+800万円)で、丙の土地のキャピタルゲインが4,000万円(6,000万円×2/3)なので、措置法の特別控除額は3,000万円となり、丙に1,000万円の譲渡所得が発生することになる。」 そう言うと、田中統括官は再び罫紙に計算式を書いた。 「なるほど・・・」 谷垣調査官は納得した表情で罫紙を見つめた。 (つづく)
《速報解説》 「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」が確定 ~プロフィットシェアリング条項への対応等、PFI事業に係る会計処理等を整備~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年5月2日、企業会計基準委員会は、「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第35号)を公表した。これにより、平成28年12月22日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、平成23年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(平成11年法律第117号)(以下「民間資金法」という)が改正され、公共施設等運営権制度が新たに導入されたことによるものである。 「PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法である。 公開草案に対するコメントへの対応として、「実務対応報告公開草案第48号「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」の主なコメントの概要とそれらに対する対応」も公表されている。 公開草案に対するコメントでは、公開草案を支持する意見も寄せられているが、一方で、公共施設等運営権の取得はリース取引に該当するのではないか、更新投資の会計処理に関してまだ取得も事業の用にも供していない資産(資本的支出)を無条件に減価償却して費用に計上しても、適正意見が出せるのか日本公認会計士協会にも文書で確認すべきである、更新投資に係る資産が何を意味する資産なのかなど、多くの意見が寄せられているので、実務対応報告を理解する際の参考になるものと思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 公共施設等運営権制度について 管理者等(民間資金法2条3項に規定する公共施設等の管理者である各省各庁の長等をいう)が所有権を有する公共施設等(民間資金法2条1項に規定する道路、空港、水道等の公共施設、庁舎等の公用施設、教育文化施設等の公益的施設等をいう)について、公共施設等運営権(民間資金法2条7項)を民間事業者に設定する制度が新たに導入された。 運営権者が実施する公共施設等運営事業とは、特定事業であって、公共施設等運営権の設定を受けて、管理者等が所有権を有する公共施設等について運営等を行い、利用料金を自らの収入として収受するものである(実務対応報告26項。民間資金法2条6項)。 2 公共施設等運営権の取得時の会計処理 公共施設等運営権の取得は「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)の適用範囲には含めず、運営権者は、公共施設等運営権を取得した時に、公共施設等運営権の対価(運営権対価)について、合理的に見積られた支出額の総額を無形固定資産として計上する(実務対応報告3項、7項)。 運営権対価を分割で支払う場合、資産及び負債の計上額は、運営権対価の支出額の総額の現在価値によることし、割引率には運営権者の契約不履行に係るリスク(運営権者の信用リスク)を反映させる(実務対応報告4項、5項)。 運営権対価の支出額の総額とその現在価値との差額については、運営権設定期間(民間資金法17条3号に規定する公共施設等運営権の存続期間をいう)にわたり利息法により配分する(実務対応報告5項)。 3 減価償却の方法及び耐用年数 無形固定資産に計上した公共施設等運営権は、原則として、運営権設定期間を耐用年数として、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分する(実務対応報告8項)。 4 減損会計の適用 公共施設等運営権は「固定資産の減損に係る会計基準」の対象となる。 適用に際して、減損損失の認識の判定及び測定において行われる資産のグルーピングは、原則として、実施契約に定められた公共施設等運営権の単位で行う(実務対応報告10項)。 5 プロフィットシェアリング条項 実施契約において、運営権対価とは別に、各期の収益があらかじめ定められた基準値を上回ったときに運営権者から管理者等に一定の金銭を支払う条項(プロフィットシェアリング条項)が設けられる場合、当該条項に基づき各期に算定された支出額を、算定された期の費用として処理する(実務対応報告11項)。 6 更新投資に関する会計処理 更新投資に係る資産及び負債の計上に関する取扱いは、次のとおりである(実務対応報告12項。13項~15項にも注意)。 7 開示 Ⅲ 適用時期等 実務対応報告は、平成29年5月31日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用する(実務対応報告21項)。 なお、公共施設等運営権制度の実際の運用の開始から間もないことを踏まえ、特定の経過的な取扱いを定めずに、実務対応報告を過去の期間のすべてに遡及適用する(実務対応報告61項)。 (了)
《速報解説》 「社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び 監査報告書の文例」が確定 ~会計監査人非設置法人に向けた内部統制支援業務の留意事項も同日公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年4月27日、日本公認会計士協会は、「社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(非営利法人委員会実務指針第40号)を公表した。これにより、平成29年1月30日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、平成28年3月の社会福祉法の改正により、一定規模を超える社会福祉法人について会計監査人による監査が義務付けられたことに対応するものである。 公開草案に対するコメントへの対応として、「非営利法人委員会実務指針「社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)に対するコメントの概要及び対応について」も公表されている。 医療法人の計算書類に関しては、平成29年3月28日、「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(非営利法人委員会実務指針第39号)が公表されている。 上記のほか、日本公認会計士協会は、「非営利組織の会計枠組み構築に向けて」(非営利法人委員会研究報告第25号。平成25年7月2日)や、医療法人及び社会福祉法人に焦点を当てて非営利組織に関するガバナンスについて研究したものである「持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスの在り方に関する検討」(非営利法人委員会研究報告第31号、平成29年1月25日)も公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 対象となる社会福祉法人 平成28年3月31日に社会福祉法が改正され(平成28年法律第21号)、経営組織のガバナンスの強化、経営の透明性の確保、財務規律の向上等を目的とする社会福祉法人制度改革の一環として、平成29年4月1日に開始する会計年度から会計監査人制度が導入されることとなり、さらに、事業の規模が一定の基準を超える社会福祉法人に対しては会計監査人の設置が義務付けられることとなるとともに、今後段階的な当該基準の改定により、会計監査人の設置を義務付ける社会福祉法人の対象を拡大することが予定されている(実務指針4項)。 会計監査人設置社会福祉法人とは、定款の定めによって会計監査人を置く法人(社会福祉法36条2項)及び「事業の規模が政令で定める基準」を超えることにより会計監査人を置かなければならない社会福祉法人(社会福祉法37条)をいう(実務指針11項)。 「事業の規模が政令で定める基準」とは、前年度決算において収益(最終会計年度に係る経常的な収益の額として法人単位事業活動計算書のサービス活動収益計の項目に計上した額)30億円又は負債(最終会計年度に係る法人単位貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額)60億円を超える法人(社会福祉法施行令13条の3第1号及び第2号、社会福祉法施行規則2条の6)である。 2 会計監査人非設置の社会福祉法人 前述のように、一定規模を超える社会福祉法人は、会計監査人を設置し、公認会計士又は監査法人による監査を受けることが義務付けられたが、その一方で、社会福祉法人は社会福祉事業の主たる担い手であり、会計監査人の設置が義務付けられないとしても、自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図ることが求められている。 そこで、日本公認会計士協会は、平成29年4月27日、「会計監査人非設置の社会福祉法人における財務会計に関する内部統制の向上に対する支援業務」(非営利法人委員会研究報告第32号)を公表し、公認会計士又は監査法人が会計監査人を設置していない社会福祉法人に対して、内部統制の向上に対する支援業務を行う際に留意すべき事項等について取りまとめている。 非営利法人委員会研究報告第32号の付録には、「財務会計に関する内部統制の向上に対する支援業務実施報告書」、「財務会計に関する内部統制に対する支援項目リスト」が示されている。 3 適用する会計基準 社会福祉法人の会計は、厚生労働省令で定める基準に従い、会計処理を行わなければならない(社会福祉法45条の23)。 「厚生労働省令で定める基準」として、「社会福祉法人会計基準」(平成28年厚生労働省令第79号(最終改正平成28年11月11日))が定められている。 社会福祉法人は、社会福祉法人会計基準で定めるもののほか、一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行を斟酌しなければならないとされており、「一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行」の中には「運用上の取り扱い」や「運用上の留意事項」が含まれるものと解されている(実務指針7項。「運用上の取り扱い」及び「運用上の留意事項」については実務指針6項(2)(3)を参照)。 社会福祉法人会計基準に規定する計算書類は、一般目的として受入可能であり、また、社会福祉法人会計基準は監基報200第12項(13)に規定する適正表示の枠組みの要件を満たしていると考えられるため、一般目的の財務報告の枠組みであり、適正表示の枠組みであると考えられている(実務指針9項)。 4 監査上の留意事項 実務指針の《Ⅲ 監査上の留意事項》において、法人単位の計算書類に対する意見表明に当たっての留意点などのほかに、組織管理体制並びに会計業務体制を始め関連する内部統制の整備・運用の改善に向けた助言、指導的機能の発揮についても述べられている。 5 独立監査人の監査報告書の文例 独立監査人の監査報告書の文例として、次のものが示されている(実務指針の付録1)。 実務指針では、《付録2 社会福祉法人における財務会計に関する内部統制の項目(例示)》も示されている。 Ⅲ 適用時期等 実務指針は、平成29年4月1日以後開始する会計年度に係る監査から適用する(実務指針33項)。 (了)
配偶者控除・配偶者特別控除の見直しによる 総務実務の留意点 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成29年度税制改正において、配偶者控除及び配偶者特別控除について見直しが行われた。見直しの具体的な内容については、下記の拙稿をご参照いただきたい。 今回の改正では、控除の対象となる配偶者の所得の上限が引き上げられただけでなく、控除を受ける納税者に所得要件が設けられている。 この改正は、平成30年分以後の所得税(及び平成31年度分以後の個人住民税)について適用される。 上記のポイントを踏まえ、総務実務における留意点を以下にまとめることとする。 【1】 給与・賞与からの源泉徴収 今回の改正後、配偶者関連の定義及び源泉徴収の方法に変更がある。したがって、平成30年以後、扶養控除等申告書における配偶者の取扱いと源泉徴収を行う際の扶養親族等の数の捉え方が変わることになる。 〈給与・賞与からの源泉徴収における配偶者の取扱い〉 ⇒平成30年以後 源泉徴収について平成29年以前と取扱いが変わるのは一部の納税者であるため、納税者本人も会社の給与計算担当者も、扶養控除等申告書の提出時を逃すと平成30年分の年末調整を行うまで、今回の改正について特に意識する機会はないということになる。 【2】 平成30年分の年末調整では 源泉徴収に加え平成30年分の年末調整ではさらに本改正の影響が表面化する。給与所得やその他の所得控除が平成29年と同額であっても、平成30年分の年末調整で還付(又は徴収)される税額が変わるケースがある。 以下、平成29年と平成30年で、合計所得金額と配偶者控除及び配偶者特別控除以外の所得控除が同額である前提で解説を行う。 (1) 配偶者控除の改正による影響 ◆改正の影響を受ける納税者:控除対象配偶者のいる合計所得金額900万円超の納税者 ◆改正の影響:配偶者控除の減額 控除対象配偶者のいる合計所得金額が900万円を超える納税者の場合、配偶者控除が減額されることにより、平成29年と比べ年末調整による徴収額が増加(又は還付額が減少)するケースがある。 (2) 配偶者特別控除の改正による影響 ◆改正の影響を受ける納税者と改正の影響 ① 配偶者の合計所得金額が76万円以上で、合計所得金額が1,000万円以下の納税者 ⇒(影響) 配偶者特別控除の適用可(改正前は適用不可) ② 配偶者の合計所得金額が38万円超76万円未満で、合計所得金額900万円超1,000万円以下の納税者 ⇒(影響) 配偶者特別控除が増額となるケースと減額となるケースがある 配偶者特別控除の改正点は、次の2点である。 以上から、配偶者特別控除に係る改正は、年末調整による徴収額(又は還付額)に次のように影響するケースがある。 【3】 まとめ 平成30年以後の源泉徴収に注意が必要であると同時に、【2】の計算例から分かる通り、今回の改正によって、平成29年と平成30年では年末調整の結果が大きく変わる納税者が存在する。平成29年までは還付となっていた人が、平成30年からは不足額を徴収されるケースもあり得る。 また、配偶者特別控除の対象となる配偶者の所得要件の引上げにより、平成30年からは配偶者特別控除の適用を受ける人が増加すると見込まれる(配偶者特別控除申告書(※)を提出する人が増える)。 (※) 平成30年以後は配偶者控除の適用を年末調整で受ける納税者(合計所得金額900万円超1,000万円以下)もあることから、「給与所得者の配偶者控除等申告書」となる。 わが国においては、源泉徴収と年末調整がセットで適用されている結果、企業に勤務する納税者は所得税の計算過程を意識することが少ない。平成30年分の源泉徴収と年末調整については、改正の影響を受ける納税者から質問を受けたり、説明を求められることも想定される。 そのときになって慌てないよう、改正の内容を十分に理解しておくとともに、早い段階から改正の影響を周知しておくことが望ましいと考える。 (了)
《速報解説》 経産省、法人税の申告期限延長特例の適用について留意点を公表 ~定款等における「事業年度終了の日から3ヶ月以内に 定時株主総会が招集されない常況」を例示~ 公認会計士・税理士 石川 理一 平成29年4月18日に経済産業省(経済産業政策局企業会計室)は「法人税の申告期限延長の特例の適用を受けるに当たっての留意点」(以下、留意点という)を公表した。 本誌掲載の拙稿のとおり、平成29年度税制改正において、企業が決算日から3ヶ月を越えて定時総会を招集する場合、総会後に法人税の確定申告を行うことを可能とする措置が講じられた。 留意点は、定時総会における議決権行使基準日を決算日とは異なる日に設定し、定時総会の開催日を変更することを検討している企業が法人税の申告期限の延長の特例の適用を受ける際の参考となるよう、改正後の法人税法第75条の2第1項第1号(以下、本特例という)の解釈等について、整理・公表されたものである。 本特例の適用を受けるためには、会計監査人設置法人であり、かつ、定款、寄付行為、規則、規約その他これらに準ずるもの(以下、定款等という)の定めにより事業年度終了の日から3ヶ月以内に定時株主総会が招集されない常況にあることが必要である。 留意点では、決算日が3月末日である法人を前提に、定款等における定時総会の招集時期の定め方について、以下の4つのケースを挙げて説明している。 なお、会社法上、定時株主総会は議決権行使基準日から3ヶ月以内に開催する必要がある(会社法124条第2項)。 ケースA 定時株主総会の招集時期を「特定の月」と定めている場合 ケースB 定時株主総会の招集時期を「2ヶ月以上の期間」により定めている場合 ケースBではさらに以下の2つにケース分けしている。 ケースB-a 定時株主総会の招集時期を「2ヶ月以上の特定の期間」と定めている場合 ケースB-b 議決権行使基準日を定めたうえで、「議決権行使基準日からの一定の期間」に定時株主総会を招集するように定めている場合 ケースC 議決権行使基準日を定めているが、定時株主総会の招集時期の定めがない場合 ケースD 定時株主総会の招集時期を「議決権行使基準日からの期間」により定めているが、議決権行使基準日の定めがない場合 延長月数は、法人の申請に基づいて、税務署長が指定する。このため、「申告期限の延長の特例の申請書」(以下、申請書という)に、事業年度終了の日の翌日から3ヶ月以内に定時総会が招集されない常況にあると税務署長が確認できる資料を添付する必要がある。 上記4つのケースについて、①各事業年度終了の日の翌日から3ヶ月以内に定時株主総会が招集されない常況にあると認められるか否か、及び、②申請書の添付資料をまとめると以下のとおりである。 上表における「定時株主総会の招集月が確認できる資料」とは、以下の資料をいう。 申請書は、本特例の適用を受けようとする事業年度終了の日まで(連結事業年度について申請する場合には、連結事業年度終了の日の翌日から45日以内)に納税地の所轄税務署長に提出する必要があることに注意が必要である。なお、本稿公開時点において、本特例に対応した申請書の様式は、国税庁ホームページではまだ公表されていない。 (了)
2017年4月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.216を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第34回】 「トランプ政権の税制を考える」 税理士 山本 守之 平成28年度の税制改正では、日本は先進国の法人税率を配慮して次のように法人税実効税率を引き下げました。 (出所)財務省主税局資料(平成27年12月公表) この税率引き下げの理由について、「平成28年度与党税制改正大綱」では次のように説明しています。 この場合の実効税率引き下げの財源は次のようなものです。 (出所)財務省主税局資料(平成27年12月公表) アメリカのトランプ政権では、国と地方の税率の合計が40.75%(カリフォルニア州)である法人税について、国税にあたる連邦法人税率を35%から15%~20%に段階的に引き下げる方針で、英国も2020年度に20%から17%に引き下げる予定です。主要国の法人税率は次の通りです。 こうなると日本は、法人税率の手当ては終わったとしているわけにはいきません。個人所得税とのバランスも考えなければならないでしょう。 各国が法人税率を思い切って下げられるのは、法人税率が高いと企業は安い国に拠点を移し、企業の空洞化を招くからです。個人は法人のように気軽に納税地を移すわけにはいきません。そこで、法人と個人の税率を調整することが必要となります。 日本にも影響の強い米国の税制改革の共和党案を今年の夏に議会を通過させる予定のようです。 この法案で興味があるのは「税率」と「法人税の国境調整」です。 まず、「税率」は現在の国税(法人税)35%を共和党案では20%に引き下げることにしていますが、トランプ大統領の選挙公約は15%で、いずれにしても大幅な引き下げです。日本の法人税率も影響を受けそうです。「日本の法人税率の国際調整は終わった」と呑気に控えてはいられません。 2月28日にトランプ大統領は初の議会演説で「歴史的な税制改革を進めていく」としましたが、法人税率の具体案には踏み込まなかったようです。しかし、夏までには15%~20%(改正前税率35%)の法人税の引き下げと「法人税の国境調整」が行われるのは確実です。 大きな問題は「法人税の国境調整」です。最大の焦点は、輸出には課税を免除する一方で、輸入は20%課税するというものです。 これがそのまま実施されると、日本は自動車の対米輸出が半減して国内総生産(GDP)も0.5%落ち込むという試算があります。こうなると法人税率を舞台にした「貿易戦争」に発展する可能性が強いです。 実は、法人税の国境調整は輸出補助金を禁ずる世界貿易(WTO)ルールに抵触することになります。しかし、トランプ大統領はWTOのルールに従わない姿勢を示しています。 戦後の自由貿易を主導してきた米国が国際ルールを無視すれば、世界的な貿易摩擦を招きかねません。 しかし、トランプ政権が議会に提出した通商政策の年次報告では、「米国に不利になるWTOの判断が出ても拘束力があるわけでもない」とし、さらに「トランプ政権は通商政策での米国の主権を積極的に守る」として「米国第一」を鮮明にし、それに反する場合は世界共通のルールでも無視するという考え方を打ち出しています。 「法人税の国境調整」によって税収が10年で1.2兆ドル増加するだけでなく、アメリカの巨額の貿易赤字を一気に縮小させますから、米国にとっては魅力的です。 上記の国境調整は小売業にとっては痛手であり、次のような反対意見があります。 食品やガソリン、衣服など家庭の必需品の価格を20%以上押し上げる。 税制改革に賛成だが、国境税調整は有害である。 国境税調整は実施した例がなく、流通等の雇用を減らす。 これに対して、製造業などは国境税調整賛成で、次のような意見があります。 米国企業は低税率の恩恵を受けた他国企業の後じんを拝してきた。 米国での仕事や製造、仕事に投資を促す仕組みをつくり、米経済を再調整する。 国境調整などの共和党による税制案は170万人の雇用を生み、国内総生産や資金を引き上げる。 いずれにしても、新たな税制となれば、賛成派と反対派が生じることは必然です。これを恐れて税制を選挙対策と考えると日本のようになり「なにが公平か」「なにが正義か」を考える視点を失ってしまいます。 ただ、トランプ氏のように「アメリカンファースト」という考え方だけで改革を推進するのも考えものです。事前に国民の意見を聞き、問題となる点の対策を考えることも必要でしょう。 (了)