海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第8回】 「赴任先で楽しむ旅行とスポーツ、実は会社にも恩恵アリ?」 中小企業診断士 西田 純 海外勤務者にとっての楽しみの1つが、赴任先の国や周辺国に旅行できる機会が増えることではないかと思います。 インターネットの時代になっても、外国の文物を直接見聞する機会に恵まれるのはとても価値があることです。旅行先での写真をフェイスブックやインスタグラムで知り合いと共有するという人は少なくないと思いますが、社内にも面白い土産話を持ち帰ってくれるなど、その国で事業をしていることについて社内で肯定的に共感するというプラスの効果が期待できます。 また、海外製造拠点など政治的・経済的に安定した国に派遣される場合の多くでスポーツをする機会に恵まれるのも、海外勤務者にとってメリットとなる点ではないかと思います。 今回は、海外勤務者の生活にとって赴任先での旅行とスポーツがどのような役割を果たすのか、また、派遣元の会社側がどのような点に気をつけるべきかについてお伝えします。 1 海外勤務先での旅行 (1) 余暇として 海外勤務の場合、やり方次第ではありますが、余暇に使える時間をかなり大胆に工夫できる可能性がある、という点をメリットとして挙げたいと思います。 すなわち、その気になれば日本の休日と現地の休日の二通りを「休日候補日」として調整できるので、本社勤めをしている同僚たちに比べて、かなり柔軟な休暇の設定と取得ができるのです。 例えばキリスト教国では、クリスマス前になるとなかなか仕事が進まなかったりしますし、復活祭などの時期も現地での仕事はペースダウンせざるを得ないでしょう。また、本社とのやり取りについては、年末年始の御用納めから御用始めまで、あるいはゴールデンウィーク中なども、いつもよりゆっくり進めざるを得なくなるのではないでしょうか。 むろん、その反対もあるわけで、多くの国では1月2日から通常勤務がスタートしますので、上手く調整しないといずれの休日も出勤せざるを得なくなったりする点は要注意ですが、日本に居るときに比べて長めの休暇を取り、近隣諸国へ観光旅行に出かけるという人は少なくありません。 (2) 出張のための旅行手配 また、営業部門の海外赴任では、赴任先及び周辺数ヶ国をまとめて担当するというケースも多く、休暇ばかりではなく仕事でも近隣諸国をめぐる機会が多いという人は少なくないと思います。 実際に海外勤務では、上で述べた余暇の予定も含めると、かなりの頻度でローカル線の飛行機に乗ったり、運転手付きのクルマを借り上げたり、ホテルからホテルへ移動したりする日々が続くことがあります。 最近ではエクスペディア(Expedia)やトリバゴ(trivago)などいつでも簡単に旅行手配ができますし、知らない土地でもウーバー(Uber)などのサービスが使えれば移動はスムースで、出張に出るのがごく簡単になってきました。 結果として「勤務先は雲の上」、という言い古された笑えないネタは、スカイプが発達した21世紀の世の中でもあまり変わっていない気がします。 (3) 会社側が気をつけること ただしこのように頻繁に飛行機を使う暮らしを続けていると、精神的にも身体的にもかなり疲労が蓄積されてしまいます。 会社としては、海外勤務者自身が旅行などの手配がしやすいように、現地レベルで①周辺国を含めたカレンダー(祝日など)の把握、②旅行代理店やホテルなどについての情報共有、③コーポレート・レートなど割引制度の積極的活用などを進めるのが良いでしょう。 また、特に本社の管理部門としては、まずは社員の安全・健康管理に気を配っていただきたいと思います。 次に、海外勤務者が不在の時でも仕事がまわるように、短期間でも事業継続のためのマニュアル、すなわち担当者が不在でもローカルスタッフに任せて通常の営業を継続するか、あるいは担当者が旅行先から戻り仕事に復帰するまでの間、一時的に仕事を止めるのかなど、約束事をしっかり整備してクライアントに迷惑のかからないようにすることが求められるでしょう(このあたりについては現場の自由裁量度を重んじつつ、現場任せにして手抜かりにならないよう、目配りだけはしっかりと行ってください)。 また、不測の事態に備えて海外旅行者傷害保険の斡旋や、緊急時の移送サービス、あるいは帰国費用などを手当てする保険の手配も検討し、万一の場合に備えておくことが望ましいです。 さらに会社として最も気をつけなくてはいけないのが、「海外派遣」の場合は出張と違い、労災保険の適用を受けるためには特別加入手続きが必要になるという点です(詳しくは次の厚生労働省HPを参照ください)。 本社としては、これらの注意点をしっかりクリアして、海外勤務者が後顧の憂いなく仕事に打ち込めるよう配慮してください。 2 海外勤務先でのスポーツ (1) 余暇として 欧米先進国は言うに及ばず、アフリカなどかつてその植民地だった国々には、欧米人たちが作り上げた保養地やスポーツ施設などのインフラが行き届いているところが多く、海外勤務地がそのような国になると、日本に居るよりも手軽に本格的なスポーツを楽しむことができます。また、途上国の多くは観光開発に力を注いでいるので、そのような国々でもスポーツを楽しむ機会は多くなるでしょう。 旧英連邦の国々ではゴルフやテニス、乗馬などが、あるいは太平洋の島嶼国だとマリンスポーツやダイビングなども一般的に楽しめます。現地のクラブに入会して、週末は日本よりも安い料金で長時間スポーツに親しむことができるというのも、海外勤務ならではのメリットでしょう。日本よりも進んだ指導を、日本よりも安い価格で受けられたりする場合もあるので、趣味の合う方にはぜひスポーツに親しんでいただきたいと思います。 (2) 人的ネットワークの広がり 特にテニスやゴルフなどでは、日本人会など日本人同士の付き合いもさることながら、現地のキーパーソン、あるいは世界の同業他社から現地に赴任している人たちと知り合いになれる機会もあります。 私事で恐縮ですが、私の家内はかつて(1992~1995年)ケニアに駐在していた折に、現地で知り合ったイギリス人の女性とペアを組んで「ケニアオープン」というテニスの大会に出場し、女子ダブルスでベスト8にまで勝ち進んだことがありました(1994年大会でした)。 当時はその他にも、現地の日本人会とドイツ人会の間で親善テニス大会があったり、試合の後は懇親会でワインをご馳走になったりと、なかなか日本では味わえない体験をさせていただきました。 (3) 接待行事 打って変わってこちらはとても日本的なお話だと思いますが、休日に本社からの出張者やクライアント関係者などとゴルフやテニスをするという機会も、海外勤務には付いてまわります。 ふだんからクラブでの居住まいに気をつけていれば、そのようなときにもゲストに対してクラブ側に「お客様」としての扱いをしてもらえるものです。せっかくの機会ということでゲストに気持ち良くプレーしてもらえるようにするのも、海外勤務者の仕事のうちかもしれません。 (4) 会社側が気をつけること 現地レベルでは、歴代の海外勤務者間で引き継がれるような形になろうかと思いますが、現地のスポーツクラブや施設などとの関係づくりが重要な要素になると思います(メンバーシップの維持や、持ち回りの役員など)。 このあたりは、言ってみればノウハウ化のような側面がありますので、新しい派遣先ができるような場合には、初代の海外勤務者に対して本社側から積極的にそのような機会を活用するよう働きかけてください。 テニスクラブのコーチやゴルフクラブのキャディは、やがて馴染みになると必ずその人が付いてくれるようになるのは洋の東西を問わないようです。そうなったらしめたもの、海外勤務者の生活にも、新しい土地で根が生え始めることになります。 本社の管理部門においては、旅行に比べればリスクは大きくないかもしれませんが、余暇についても万一の時に備えて保険が手当てされていることは確認しておいた方が良いでしょう。海外勤務者がどのような趣味を持ち、どこのクラブでどんなスポーツをしているのか、また、家族帯同の場合は家族についても情報として把握するようにしてください。 休日に自宅からスポーツクラブへ行くための交通手段が自家用車となる場合には、運転手の確保がどうなっているかについても把握しておくべきです。特に海外勤務者自身、あるいは家族が自分で運転する場合などについては、保険の手当てに加えてロードサービスの有無や事故の際の対応手順などを確認しておくに越したことはありません。 3 候補選定上のポイント 海外勤務者の能力あるいは資格要件として旅行好き、あるいはスポーツ好きであることを求めるものではありませんが、現地で頻繁な出張をこなすためには、ある程度旅行を苦にしないことが、また現地での生活を実りあるものとして過ごすためには、ある程度スポーツ好きであることが、長い目で見ると大きなアドバンテージになってくるものです。 ふだんからよく観察していれば、そのような人材は本社に勤務している段階でも目にとまるのではないでしょうか。 海外出張があっても仕事のペースを乱されないとか、ゴルフの話題が豊富だとか、いつも社内のスポーツ大会ではケガなく活躍しているなどの例は、候補者選定に直結するわけではありませんが、人事的には気に留めておくべき個性だと言えます。 4 まとめ 海外勤務者は、海外生活者でもあるわけで、生活の中には余暇の過ごし方が大きな比重を占めます。楽しい生活の思い出は、海外勤務体験そのものを成功体験にまで押し上げてくれます。 とはいえ、日本に居ればそこはプライバシーの領域になりますから、会社としてはどのようにケアすればよいのかというノウハウが溜まりにくい部分ではないでしょうか。 今回はその中で代表的な旅行とスポーツを取り上げましたが、出張や接待とも裏表で関係する部分でもあるので、①保険などの事故対策、②現地事情の把握とノウハウ化に加え、③勤務者及び家族についての情報把握について、本社側でも目配りを欠かさないようにして、海外勤務者が生活者としても成功できるよう配慮することをお薦めします。 (了)
《速報解説》 年金総額保証付後厚終身年金特約に基づき支払われる年金額(雑所得)の必要経費の計算方法に関し、東京局より文書回答事例が公表される 税理士 内山 隆一 東京国税局は平成29年9月22日付け(ホームページ公表は10月25日)ホームページにおいて、文書回答事例「年金総額保証付後厚終身年金特約に基づき支払われる年金に係る雑所得の金額の計算上、必要経費に算入する金額(所得税法施行令第183条に基づき計算する場合)について」を公表した。 1 年金に係る雑所得の必要経費の計算について 生命保険契約等に基づく年金で、年金の支払開始日において年金の支給総額が確定していないものの雑所得に係る必要経費は、下記算式のとおり、年金年額に年金支払総額の見込額に占める払込保険料の額の割合を乗じて計算することとされている。 終身年金に係る年金支払総額の見込額は、次の区分に応じ、それぞれに定める額とされている。 (1) 終身年金で、受給権者の生存中支給する(余命年数を支給見込年数とする)ほか、保証期間内に死亡した場合には、死亡後においても保証期間中は年金を支給するもの (2) 上記(1)の②の場合で、受給権者の生存中の年金年額と受給権者の死亡後の年金年額が異なるもの (3) 年金の支給条件が上記(1)及び(2)と異なるもの ⇒その支給の条件に応じ、その年額、受給権者等に係る余命年数及び保証期間を基礎として(1)及び(2)に準じて計算する。 2 本件事前照会の内容 (1) 年金に係る雑所得の必要経費の計算について 本件事前照会の保険契約では、保証期間中に被保険者が死亡した場合には、死亡後においても指定の受取人に年金が支払われるため上記1(1)に該当するが、上記1(2)のように受給権者の死亡前後で年金年額が異なるのではなく、契約者が任意に決定した年金額変更日の前後で年金年額が異なるものであるため上記1(2)には該当しない。 そこで、上記1(3)に基づいて、下記のとおり取り扱って差し支えないか照会されたものである。 ① [余命年数<保証期間]の場合 (イ) 保証期間<前期年金支払期間 前期年金支払期間に支給される年金年額 × 保証期間年数 (ロ) 保証期間>前期年金支払期間 ② [余命年数>保証期間]の場合 (イ) 余命年数<前期年金支払期間 前期年金支払期間に支給される年金年額 × 余命年数 (ロ) 保証期間>前期年金支払期間 (2) 一時金に係る雑所得の必要経費の計算について 保証期間付終身年金契約において、年金受取人による一括支払請求により支払われる一時金が雑所得に該当する場合の必要経費についても、上記(1)により計算して差し支えないか照会されたものである。 3 本件事前照会に対する結論 上記2(1)(2)とも、年金支給総額の見込額の計算方法として合理的な基準であると考えられるため、照会のとおりで取り扱って差し支えないと回答されている。 (了)
《速報解説》 セルフメディケーション税制、 平成29年分の確定申告期を前にポイントを確認 ~明細書の添付義務化、領収書の保存にも留意~ Profession Journal編集部 平成28年度税制改正により創設され、平成29年1月1日から施行された「セルフメディケーション税制」。適用初年となる本特例制度の最新情報について、平成29年分の確定申告の時期を迎える前に、改めて確認しておきたい。 ◆対象となるスイッチOTC医薬品は厚労省HPで確認可 セルフメディケーション税制は平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間に購入した「スイッチOTC医薬品」を対象として、その年中に支払った対価の額が1万2,000円を超えた部分(8万8,000円を上限)について、その年分の総所得金額から控除するという医療費控除の特例制度だ。 【セルフメディケーション税制概要について】 (※) 厚生労働省ホームページより この「スイッチOTC医薬品」とは「要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品」とされているが、どの製品がそれに該当するのか素人目には判別が難しい。 そこで、下記の厚生労働省ホームページでは、本特例制度の概要等とともにスイッチOTC医薬品に該当する製品を「対象品目一覧」として掲載しているので、すでに本年1月以降に購入した医薬品が該当するか否かは、こちらで確認することができる。 なお、スイッチOTC医薬品に該当する製品の多くには次の共通識別マークが入っているので、パッケージ等にこのマークが記載されている場合は本制度の対象になる(購入時期に注意)。 〈セルフメディケーション税制の対象製品パッケージに表示される共通識別マーク〉 (※) 日本OTC医薬品協会ホームページより ◆医療費控除との重複適用は不可 セルフメディケーション税制は従来の医療費控除制度と併用することができないため、より控除額が大きい方を選択する際には両者の控除額を計算し、比較・検討する必要がある。 下記の日本一般医薬品連合会の特設ページでは必要情報を打ち込むことで具体的な控除額の算定ができ、両制度の比較も簡単に行うことができる。 ◆平成29年度税制改正による添付書類の変更に注意 平成29年度税制改正により、医療費控除を適用する場合には確定申告書の提出の際に、医療費の領収書の添付又は提示に代えて「医療費控除の明細書」の添付が義務化された。 同様に、セルフメディケーション税制を適用する場合には確定申告書の提出の際に、スイッチOTC医薬品の領収書の添付又は提示に代えて「セルフメディケーション税制の明細書」の添付が義務化されているので注意が必要だ。 なお、各明細書の様式と記載要領については下記の国税庁ホームページで確認できる。 このように、医療費及びスイッチOTC医薬品の領収書の添付又は提示は、確定申告書の提出の際には必要ない。ただし、税務署長は確定申告期限から5年間は、その適用に係る領収書の提示又は提出を納税者に求めることができるため、その期間中においては領収書の保存が必要となるので、紛失等には気をつけたい。 ◆厚労省のQ&Aは最新のものを 厚労省は昨年からセルフメディケーション税制に関するよくある質問と回答をまとめたQ&Aを特設ページ上で公表している。本年9月1日にも更新が行われ、適用要件となる「一定の取組」に関する質問が10問追加されている。 クライアントに周知する際には最新のQ&Aを確認するようにしたい。 (了)
《速報解説》 国税庁、配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しに関するFAQを公表 ~年の途中で「源泉控除対象配偶者」に該当することとなった場合の対応等を紹介~ Profession Journal編集部 昨日(2017/11/9)公開の本誌No.243でも下記記事において解説を行ったとおり、配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しに伴い、平成30年1月の支払給与に係る源泉徴収等の実務より、本改正への対応が求められることになる。 29年分の年末調整時期を前に、本改正に関する情報はすでに国税庁の特設ページ(「配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しについて」)において順次公表されているが、このほど新たに、本改正に関する全15問のFAQが公表された。 FAQでは本改正の適用時期や新たな概念である「源泉控除対象配偶者」・「同一生計配偶者」の定義に関する基本的な説明のほか、「平成30年分の「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出するに当たり、配偶者が源泉控除対象配偶者に該当するかどうかは、どの時点で判断するのか」(問5)という問いに対し、「平成 30 年分の「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出する日の現況により判定する」とした上で、「判定の要素となる合計所得金額の見積額については、例えば、直近の源泉徴収票や給与明細書を参考にして見積もった平成30年中の合計所得金額により判定することとなる」としている。 また、「年の中途で、給与所得者又は配偶者の合計所得金額の見積額に異動があり、源泉控除対象配偶者に該当することになった場合(又は該当しないこととなった場合)」の対応(問6・7)については、「給与所得者は、給与所得者又は配偶者の合計所得金額の見積額に異動があった日以後最初に給与の支払を受ける日の前日までに「給与所得者の扶養控除等異動申告書」を給与の支払者へ提出する」としている。 (注) 既に源泉徴収を行った月分の源泉徴収税額については遡って修正することはできないため、年末調整により精算される。 その他、源泉控除対象配偶者に該当しない配偶者が控除対象配偶者に該当する場合に、年末調整において配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるために提出が必要となる、平成30年分の「給与所得者の配偶者控除等申告書」の記載事項に関する問答も掲載されている(問13他)。 今後このFAQが追加等される可能性もあるが、実際に本改正の影響を受けるか否かに関わらず、従業員からは様式の記載方法等の問い合わせが増えることが十分予想される。これらに対応するためにも、上記国税庁の特設ページ内に公表される各種情報については今後も注視しておきたい。 (了)
2017年11月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.243を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第58回】 「日本税理士会連合会の建議から租税法条文を読み解く(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 日本税理士会連合会等は、毎年、税制改正に関する建議書を関係官庁へ提出している。 この建議書を契機として税制改正がなされることもあり得ると思われるところ、そうであるとすれば、租税法の条文解釈に当たって、かかる条文の制定や改正の経緯を知り得る有力な情報がそこに隠されているのかもしれない。 今回は、日本税理士会連合会等の行う「建議書」なるものの法的性質を明らかにした上で、かかる建議が税制改正に及ぼす影響について概観したい。 そして、その先にある租税法の解釈にいかなる示唆を得ることができるのかについて考えることとしよう。 Ⅰ 国民から政府への意見提出権 1 請願権 日本国憲法16条は次のとおり請願権を保障する。 このように、憲法は、何人も、すなわち国民が等しく請願権を有していることを保障している。 これを受けて、請願法(昭和22年法律第13号)が日本国憲法施行の日から施行されており(請願法附則)、請願については、基本的にこの請願法の定めるところによることとされている(請願法1)。 すなわち、請願書は、請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならず、天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない(請願法3①)。 仮に、請願の事項を所管する官公署が明らかでないときは、請願書は、これを内閣に提出すればよく(請願法3②)、また、請願書が誤って本来提出すべき官公署以外の官公署に提出されたときには、その官公署は、請願者に正当な官公署を指示し、又は正当な官公署にその請願書を送付しなければならないとされている(請願法4)。 なお、官公署は、単に請願を受理するだけではなく、「これを受理し誠実に処理しなければならない」とされ(請願法5)、何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けないことが保障されているのである(憲法16、請願法6)。 2 嘆願書や請願書と応答義務 このように、請願法は、請願書を受理した官公署に対して、「誠実に処理」をすることを義務付けているのであるが、いわゆる「嘆願書」が提出された場合はどうであろうか。 更正の請求期間を経過した後などに、納税者から自己に有利に税額等を変更すべきことなどを求めて課税庁に対して提出されるものを、実務上「嘆願書」などと呼んでいるが、納税者から嘆願書が提出された場合、課税庁側に「応答義務」があるのであろうか。 仮に、かかる「嘆願書」が、憲法の保障する「請願書」に当たるとすれば、嘆願すなわち請願に対する応答義務があるとみるべきなのかとの疑問が生じ得る。 この点について、東京地裁平成24年7月20日判決(税資262号順号12008)が参考になろう。 本件は、原告である納税者が、国税通則法(以下「改正通則法」という)23条1項の更正の請求期間を経過した後に、有価証券の評価損の誤加算による過大申告を理由として「更正の嘆願」を行ったものの、これに応じた更正がされなかったことから、被告国に対し、所轄税務署長が減額更正処分を行うことの義務付けを求めるなどした事案である。 この事案において、被告国側は、「更正の嘆願は、税法上に規定があるものではなく、納税者の税務署長に対して要望ないし陳情を述べるものであり、嘆願は、税務署長の職権発動を促すにすぎないものと解され、かかる嘆願に基づき、税務署長において何らかの処分をすべき法令上の規定は存在しない。」と主張した。 これに対して、原告は、「更正の嘆願は、請願法1条にいう『請願』に該当するものと考えられるから、請願法5条に基づき、請願を受けた税務署長等には、請願を受理し誠実に処理する義務を生じる。」と反論した。 これら両当事者の主張に対し、東京地裁は次のように判示し、原告の主張を排斥している。 このように、東京地裁は、まず期間制限を伴う更生の請求の趣旨を論じた上で、原告主張に対し次のように述べる。 すなわち、東京地裁は、請願法は「誠実に処理しなければならない」としているものの、「応答義務」を課すことまでを規定しているものでないとの立場から、仮に、嘆願書が請願書に該当するとしても、そこに応答義務があるとはいえないとの判断を示したのである。 このような判断は、他にも新潟地裁平成18年2月23日判決(税資256号順号10326)及びその控訴審東京高裁平成18年7月31日判決(税資256号順号10486)においても示されている(最高裁平成18年12月22日第二小法廷決定(税資256号順号10607)は上告不受理)。 また、過去にも、「憲法16条及び請願法で認められる請願とは、国又は地方公共団体の機関に対し、その職務に関する事項について希望を述べるものにすぎず、請願を受けたものがそれに対して応答する義務を負うものではない」と示されてきたところである(東京地裁平成元年6月14日判決・税資175号1頁)。 このような裁判例をみると、裁判所は、請願書について、請願法に「誠実に処理しなければならない」と規定されてはいるものの、そのことをもって応答義務があるとまでは解し得ないとの立場にあるから、これらの判断を前提とすれば、嘆願書についてもその応答が義務付けられているものとは理解されていないことが判然とする。 すなわち、国等に応答義務がない以上、請願権は国民から政府等への「意見提出権」と位置付けられることになりそうである。 Ⅱ 税理士会等の建議権 ところで、税理士、弁護士、公認会計士及び弁理士等の職業専門家には国民一般に認められている上記の請願権とは別に、建議権というものが保障されている。すなわち、税理士には請願権に加えて、建議権なるものも重畳的に認められているのである。 では、この建議権とは如何なる権利をいうのであろうか。 大日本帝国憲法40条は、「両議院ハ法律又ハ其ノ他ノ事件ニ付各々其ノ意見ヲ政府ニ建議スルコトヲ得」と規定しており、明治憲法下では、議院がその意思又は希望を政府に申し述べることを建議としていたが、今日的に建議とは、議院に限らず、公的に意見を申し述べることを意味している。 税理士は、その職業上専門とする租税法分野について専門的知見を有していることから、その職業法たる税理士法に建議に関する規定が置かれているのである。 このような規定は、税理士法に限ったものではない。弁護士法なども確認しておこう。 これらはいずれも、職業専門家の団体に、その専門分野における専門家としての意見を官公署に対して建議し、又は官公署からの諮問に対して答申を行う権利を認めた規定である。 すなわち、職業専門家団体がその専門分野に関する法案の立案過程において、専門家としての意見を述べ、その所管官庁がこれら意見を尊重することにより国民の負託に応えていくことが期待されているのである。 (続く)
〈平成29年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「『平成30年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』を受け取る際の留意点」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成29年度税制改正により配偶者控除制度及び配偶者特別控除制度の見直しが行われ、平成30年分の所得税(住民税は平成31年分)から適用される。 本改正に伴い、平成30年分の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(以下、扶養控除等申告書という)」の記載内容が変更されている。 平成30年分の扶養控除等申告書は、平成29年分の年末調整の時期に受け取ることが多いと考えられる。そこで【第2回】は、本改正の概要と、扶養控除等申告書の記載内容の変更点について解説を行う。 【1】 改正の概要 本改正のポイントは、次の3点である。 改正後の配偶者控除額と配偶者特別控除額は、以下のとおりとなる。 〈改正後の配偶者控除額及び配偶者特別控除額の一覧表〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (注) 合計所得金額が1,000万円を超える居住者は、配偶者控除及び配偶者特別控除の適用を受けることはできません。 (※) 国税庁ホームページより 【2】 平成30年分の扶養控除等申告書を受け取るときの留意点 (1) 記載内容の変更箇所 平成30年1月以後、毎月の給与又は賞与の源泉徴収において、扶養親族等の数に反映する配偶者は、源泉控除対象配偶者と障害者に該当する同一生計配偶者となる(所法185①一、186①一イ、187)。 これに伴い、扶養控除等申告書の記載も「控除対象配偶者」から「源泉控除対象配偶者」及び「同一生計配偶者」に変更される。 〈平成30年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 源泉控除対象配偶者と同一生計配偶者 「源泉控除対象配偶者」及び「同一生計配偶者」とは、次の配偶者をいう。 ① 源泉控除対象配偶者(所法2①三十三の四) (控除額(配偶者控除額又は配偶者特別控除額)が38万円となる配偶者) 《定義》 納税者(合計所得金額900万円以下に限る)と生計を一にする配偶者で、合計所得金額が85万円以下の人 ② 同一生計配偶者(所法2①三十三) (障害者控除の対象となる配偶者) 《定義》 納税者と生計を一にする配偶者で、合計所得金額が38万円以下の人(改正前の控除対象配偶者に該当) 改正前の控除対象配偶者と源泉控除対象配偶者は定義が異なる。よって、扶養控除等申告書のA欄に記載される配偶者の範囲も、平成29年分と平成30年分では異なることとなる。 一方、同一生計配偶者は改正前の控除対象配偶者に該当するため、C欄に記載される配偶者の範囲は実質的に変わっていない。 (3) A欄に記載される配偶者の範囲 A欄に記載される配偶者の範囲を平成29年分と平成30年分で比較すると、次のとおりである。 以上より、平成30年分のA欄に記載する配偶者は、「納税者本人の合計所得金額」と「配偶者の合計所得金額」の2段階で判定することになる。 なお、国税庁ホームページには、平成30年分の扶養控除等申告書の記載例が公開されているので参考にされたい。 〈平成30年分 給与所得者の扶養控除等申告書の記載例〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 国税庁ホームページより (4) 納税者本人の合計所得金額が900万円を超える場合 配偶者の合計所得金額が85万円以下であれば、納税者本人の合計所得金額が900万円超1,000万円以下にある場合にも、配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けることができる。 しかし、(3)で解説したとおり、源泉徴収において配偶者を扶養親族等の数に含めるのは、配偶者が源泉控除対象配偶者に該当するケースか、障害者であり同一生計配偶者に該当するケースである。したがって、納税者本人の合計所得金額が900万円を超えていると、源泉徴収で配偶者控除と配偶者特別控除は考慮されない(障害者控除は考慮される)。 平成30年以後、年末調整で配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるには、年末調整に際し「給与所得者の配偶者控除等申告書(以下、配偶者控除等申告書という)」を給与支払者に提出することが必要となる。 納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であれば、源泉徴収で考慮されなかった配偶者控除と配偶者特別控除は、この「配偶者控除等申告書」を給与支払者に提出することにより、平成30年分の年末調整において適用を受けることができる(所法190二ニ)。 なお、「配偶者控除等申告書」の様式について、国税庁ホームページにおいて、本稿執筆現在は「未定稿版」とされているが、下記の様式が公表されている(平成29年12月頃に確定版が掲載予定とのこと)。※論末の〔編集部追記〕を参照 〈平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書(未定稿版)〉 (※) 国税庁ホームページより 今回解説した内容については、国税庁の下記ページも参照されたい。 * * * 連載最終回となる【第3回】は、年末調整における実務上の取扱いをQ&A形式で解説する予定である。 (了)
平成30年分源泉徴収税額表の留意点 ~扶養親族等の数の算定方法の変更~ 税理士・社会保険労務士 上前 剛 平成30年分の源泉徴収税額表については、税額表自体は平成29年分から変更はないが、配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しにより、扶養親族等の数の算定方法が変更となった。このため、甲欄を適用して源泉徴収する場合には留意が必要である。 1 扶養親族等の数の算定方法の変更 (1) 配偶者が源泉控除対象配偶者に該当する場合 配偶者が「源泉控除対象配偶者」に該当する場合、扶養親族等の数に1人を加えて計算することとされた。 源泉控除対象配偶者とは、合計所得金額が900万円(年収1,120万円)以下である給与所得者と生計を一にする合計所得金額が85万円(年収150万円)以下の配偶者をいう。配偶者控除38万円、配偶者特別控除38万円を受けられる配偶者が源泉控除対象配偶者である(【図表1】参照)。 【図表1】 配偶者控除及び配偶者特別控除の控除額 (※) 国税庁ホームページより (2) 同一生計配偶者が障害者に該当する場合 「同一生計配偶者」が障害者に該当する場合、扶養親族等の数に1人を加えて計算することとされた。 同一生計配偶者とは、給与所得者(年収制限なし)と生計を一にする合計所得金額が38万円(年収103万円)以下の配偶者をいう(【図表2】参照)。 【図表2】 配偶者に係る扶養親族等の数の算定方法(概要) (※) 国税庁ホームページより 2 事例 上記を踏まえて、ケースごとに扶養親族等の数を判定すると次のようになる。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第19回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定① (「居住用家屋取得相続人の範囲」と 「適用前譲渡」「適用後譲渡」)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q X(兄)は、昨年8月に死亡した父親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)を単独で相続し、その敷地300㎡については、Y(弟)と共有(各持分1/2)で相続しました。 Xは、その家屋を取り壊し更地にした上で、本年9月に、その敷地をYと共に1億2,000万円で売却しました。 なお、相続の開始の直前まで父親は一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 この場合、Xの譲渡は、「相続空き家の特例(措法35③)」の譲渡価額要件(1億円以下)を満たすこととなるのでしょうか。 A Yは「居住用家屋取得相続人」の判定範囲に含まれ、「適用前譲渡」と「対象譲渡」との対価の合計額が1億円を超えることから、譲渡価額要件を満たさず、Xは「相続空き家の特例」を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価の額が1億円以下であることが、その適用要件の1つとされています(措法35③)。 そして、その被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を取得した相続人(以下「居住用家屋取得相続人」という)が、その相続の時から本特例(措法35③)の規定の適用を受ける者が対象譲渡をした日の属する年の12月31日までの間に、その対象譲渡した資産とその相続の開始の直前において一体としてその被相続人の居住の用に供されていた家屋又はその敷地等(以下「対象譲渡資産一体家屋等」という)の譲渡(以下「適用前譲渡」という)をしている場合において、その適用前譲渡に係る対価の額とその対象譲渡に係る対価の額との合計額が1億円を超えることとなるときは、適用しないとされています(措法35⑤)。 この「居住用家屋取得相続人」には、本特例(措法35③)の規定の適用を受ける個人を含むほか、その相続又は遺贈により被相続人居住用家屋のみ又は被相続人居住用家屋の敷地等のみを取得した相続人も含まれるとされています(措通35-21(居住用家屋取得相続人の範囲))。 また、「居住用家屋取得相続人」が、本特例(措法35③)の規定の適用を受ける者の対象譲渡をした日の属する年の翌年1月1日からその対象譲渡をした日以後3年を経過する年の12月31日までの間に、「対象譲渡資産一体家屋等」の譲渡(以下「適用後譲渡」という)をした場合において、その適用後譲渡に係る対価の額(適用前譲渡がある場合には、その合計額)との合計額が1億円を超えることとなったときは、適用しないとされています(措法35⑥)。 「適用前譲渡」+「対象譲渡」+「適用後譲渡」 > 1億円 ⇒ 譲渡価額要件を満たさず特例不適用 おって、この譲渡価額要件の規定に係る措通35-20(その譲渡の対価の額が1億円を超えるかどうかの判定)(1)の譲渡資産が共有である場合の注書で、「当該譲渡資産に係る他の共有持分のうち居住用家屋取得相続人の共有持分については、適用前譲渡に係る対価の額となることに留意する。」と、その取扱いが示されています。 したがって、本事例の場合、Yは被相続人居住用家屋の敷地等のみを取得していますが「居住用家屋取得相続人」に含まれ、Yの「適用前譲渡」とXの「対象譲渡」との対価の合計額が1億円を超えることから、譲渡価額要件を満たさず、Xは「相続空き家の特例」を受けることができません。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第12回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第2章》 平成13年度税制改正) ② 適格分割 (ⅰ) 分割型分割と分社型分割 会社分割には、分割型分割と分社型分割があり、平成13年度税制改正直後の法人税法では、以下のように規定されていた。 さらに、法人税法62条の6第1項では、分割承継法人株式その他の資産を分割法人及び分割法人の株主等のいずれにも交付する分割が行われたときは、分割型分割と分社型分割の双方が行われたものとみなして、法人税法の規定を適用することが規定された。また、当然のことながら、分割型分割と分社型分割の双方が行われたものとみなすといっても、分割型分割が適格であり、分社型分割が非適格であるということはあり得ず、会社分割全体が税制適格要件を満たすかどうかにより、後述する法人税法2条12号の11の規定を適用していくことになる(※1)。 (※1) 『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』102-103頁(日本租税研究協会、平成13年)。 (ⅱ) 金銭等不交付要件 法人税法2条12号の11、同施行令4条の2第4項から第6項(現行4条の3第5項から第8項)では、適格合併の定義が定められている。まず、平成13年度税制改正直後の法人税法2条12号の11柱書では、以下のように規定されている。 このように、法人税法2条12号の8に規定されている適格合併の規定と同様に、同号の11柱書にて、金銭等不交付要件を定めるとともに、イ~ハにて、100%グループ内の適格分割、50%超100%未満グループ内の適格分割、共同事業を営むための適格分割が定められている。ただし、分割型分割については、按分型要件も同時に課されているという点に留意が必要である。 条文が読みにくいので、分割型分割と分社型分割に分けてみよう。 このうち、分社型分割については、分割承継法人が分割法人に対して、配当見合いの金銭交付をすることはあり得ないため、ここでは規定されていない。その点を除けば、金銭等不交付要件については、適格合併と変わらないということが言える。しかし、当時の商法では、物的分割(分社型分割)、人的分割(分割型分割)というものが存在したが、会社法の施行により、人的分割の手続きは、物的分割を行った後に、分割承継法人株式を株主に対して現物配当をしたものとして処理することになった。このような会社法の変化に伴い、その後の税制改正では、金銭等不交付要件についても見直しがなされている。そのため、平成17年改正前商法時代の文献で、会社分割における金銭等不交付要件を調べる場合には、法体系の違いに留意する必要がある。 さらに、按分型要件については、分割法人株式の数の割合に応じて交付されるものとして規定されている。括弧書きで細かなことが書かれているが、当時の商法における会社分割の手続きと現行会社法における会社分割の手続きの違いによるものである。すなわち、現行法人税法では、「当該株式が交付される分割型分割にあっては、当該株式が分割法人の発行済株式等の総数又は総額のうちに占める当該分割法人の各株主等の有する当該分割法人の株式の数(出資にあっては、金額)の割合に応じて交付されるものに限る」としか規定されていない。 按分型要件が設けられた趣旨として、「株主間で利益や損失の移転が行われるおそれがあるといった問題や贈与税・相続税対策に利用されるおそれがあるといった問題があることから、課税の特例の対象とはしないこととされています。・・・(途中省略)・・・。特定の株主にだけ優先株が交付されることになったとしても、旧株が優先株であった株主に対して優先株を交付するとともに、旧株が普通株であった株主に対して普通株を交付し、これが株主を平等に扱うものとなっているような場合には、規定の趣旨に反するものではなく、ご質問の分割は、他の要件を満たす限り、適格分割型分割に該当すると考えられます。しかしながら、旧株が普通株のみである場合に、特定の株主には優先株を交付し、他の株主には普通株を交付することは、規定の趣旨に反すると言わざるを得ませんので、ご質問の分割は、適格分割型分割に該当しないということになるものと考えられます。」(※2)と解説されている。 (※2) 前掲(※1)102頁。 この解説は、平成17年改正前商法と現行会社法における違いを意識しながら読む必要がある。現行会社法454条2項2号では、剰余金の配当について内容の異なる二以上の種類の株式を発行しているときは、配当財産の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととすることが認められている。すなわち、平成17年改正前商法では想定されていなかったが、現行会社法では、普通株式1株に対して普通株式1株、優先株式1株に対して普通株式2株を交付するような分割型分割も容認されている。現行法人税法は、これに対応した規定となっていないため、このような分割型分割を行った場合には、按分型要件を満たすことができない(※3)。 (※3) 稲見誠一・佐藤信祐『組織再編・資本等取引の税務Q&A』247-248頁(中央経済社、平成24年)。 これに対し、当時、想定していたような非按分型分割は、現行会社法上、分社型分割を行った後に、全部取得条項付種類株式の取得対価として、分割承継法人株式を交付する手続きになっている(会社法758八イ、763十二イ)。そして、全部取得条項付種類株式の取得対価としての分割承継法人株式の交付は、会社分割による株式の交付ではないことから、法人税法上、分割型分割として処理せずに、分社型分割+現物分配として取り扱うべきであると解されている(※4)。そのため、分割型分割ではないことから、按分型要件を検討することはないということになる。 (※4) 稲見・佐藤前掲(※3)245-246頁。 このように、現行法人税法では、会社法制の変化により、平成13年当時の法人税法に比べると、按分型要件がかなり変容したということが言える。言い換えると、当時の制度趣旨を考えると、現行会社法下では、按分型要件を残しておく必要性が乏しいということも言える。私見ではあるが、今後の税制改正により、按分型分割の廃止を検討すべきであると考えられる。 * * * 次回では、100%グループ内の会社分割について解説を行う予定である。 (了)