金融・投資商品の税務Q&A 【Q28】 「個人が任意組合契約に基づき利益の分配を受ける場合の所得認識の時期」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 任意組合とは 任意組合とは、民法第667条に定める、各当事者が出資をなして共同の事業を営むことを約する合意によって成立する団体です。任意組合には、法人格はなく、各組合員の出資その他の組合財産は総組合員の共有に属します。 2 任意組合の税務上の取扱い 日本の税務上、任意組合自体に法人税が課税されることはありません。法人税法上、「人格のない社団等」は法人とみなされ、法人税法の規定が適用されますが、民法第667条に規定される任意組合は、人格のない社団等には含まれないとされています。 所得税基本通達及び法人税基本通達では、任意組合等(任意組合、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合をいいます。以下同様)において営まれる事業に係る利益や損失については、分配割合に応じて、各組合員に直接帰属することが規定され、任意組合等については構成員課税(パススルー課税)が適用されることが明らかにされています(ただし、分配割合が組合員の出資の状況、組合事業への寄与の状況などからみて経済的合理性を有していないと認められる場合にはこの限りではないとされています)。 3 任意組合員の所得認識の時期 所得税基本通達によれば、任意組合の組合員(個人)の組合事業に係る利益又は損失は、その年分の各種所得の金額の計算上、総収入金額又は必要経費として算入する、とされています。ただし、組合事業に係る損益を毎年1回以上一定の時期に計算し、かつ、組合員への個々の損益の帰属が当該損益発生後1年以内である場合は、任意組合の計算期間を基として計算し、当該計算期間終了の日の属する年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費として算入することとされています。 すなわち、暦年による所得計算を行うことが原則とされているものの、一定の要件(組合事業に係る損益を毎年1回以上一定の時期に計算し、かつ、各組合員への個々の損益の帰属が損益発生後1年以内である場合)を満たす場合は、任意組合の計算期間に合わせて組合事業に係る利益の額又は損失の額の計算を行い、各計算期間の終了する日の属する年分の組合員の各種所得の金額として認識することになります。 なお、具体的な利益等の額の計算及び所得分類については次回の【Q29】において解説します。 4 本件へのあてはめ 本件の任意組合の計算期間は4月1日から3月31日で、組合は組合事業に係る損益を毎年1回以上一定の時期において計算しています。また、本任意組合は直接不動産に投資しており、個々の組合員への損益の帰属も損益発生後1年以内となると認められることから、任意組合の計算期間終了の日である3月31日の属する年の組合員の所得として、組合からの利益を所得認識する必要があるものと考えられます。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第31回】 「租税回避と実務上の問題点②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、①株式譲渡損益とみなし配当、②税制適格要件について検討を行った。本稿では、①欠損等法人、②適格合併による繰越欠損金の利用、③損失の二重利用について解説を行う。 4 欠損等法人 包括否認本(拙著『組織再編における包括的租税回避防止規定(中央経済社、平成21年)』)の第4章では、欠損等法人について解説を行った。当時、想定していたスキームは、法人税法57条の2の適用から除外するために、複数の者で欠損等法人を買収するというものであった。しかし、繰越欠損金の繰越期限が10年にまで伸びてしまうと、買収してから事業を開始するまで、5年間待つというスキームの方が現実的であろう。 これを否認するための手法として、同族会社等の行為計算の否認が考えられるが、欠損等法人の買収は、欠損等法人の行為ではないため、課税減免規定の限定解釈の方が現実的である。当時は、清水一夫教授が本則的規定と解しているのに対し(※1)、政策目的規定と解する余地があるのではないかと考えた。 (※1) 清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」税大論叢59号345頁 しかし、ヤフー・IDCF事件では、政策目的規定とは考えにくい組織再編税制に対して、制度の濫用により否認していることから、政策目的規定ではなくても、課税減免規定の限定解釈(【第29回】参照)が適用される余地はあると思われる。 ただし、ヤフー事件の第一審において、 と判示されている。 これを根拠とするわけではないが、「5年待つ」という単純な行為に対して租税回避行為と認定し難いのも事実であり、やや否認のハードルは高いという印象を受ける。 5 適格合併による繰越欠損金の利用 包括否認本の第5章では、適格合併による繰越欠損金の利用について解説を行った。具体的には、①特定資本関係(支配関係)が生じてから5年を経過するまで待つ場合、②みなし共同事業要件を形式的に充足させる場合、③繰越欠損金を利用するための適格合併、④繰越欠損金を利用するための企業買収と適格合併、⑤100%子会社化後の適格合併、⑥繰越欠損金飛ばしスキームについて解説を行った。 グループ法人税制後の動きは、①繰越欠損金の繰越期限が10年に延びたこと、②100%子会社を清算した場合に繰越欠損金を引き継ぐことができるようになったことと、③ヤフー・IDCF事件があったことの3つである。 このうち、①については、欠損等法人のところで解説したように、5年間待つという租税回避が行われやすいため、立法論的解決が図られるべきであろう。そして、②については、100%子会社であるペーパー会社を清算することにより繰越欠損金を引き継ぐことができるようになったため、100%子会社であるペーパー会社との合併のような事案において経済合理性の説明をしなければならないことはほとんどないと思われる。 さらに、③ヤフー・IDCF事件の影響であるが、前回解説した税制適格要件と同様に、迂回取引を行ったり、個別の要件に無理矢理当てはめたりすることにより、みなし共同事業要件を満たすような行為については、包括的租税回避防止規定が適用されやすくなったということが言える。 税制適格要件と同様に、やや安易に要件を満たそうとする行為が見受けられる箇所であるため、慎重な対応が必要になる。 6 損失の二重利用 包括否認本の第6章では、損失の二重利用について解説を行った。当時と異なり、グループ法人税制が導入されたことから、例えば、グループ内で子会社株式を譲渡したとしても、その段階では子会社株式の譲渡損が実現しないという問題があるが、その後、当該子会社を被合併法人とする吸収合併を行えば、株式譲渡損が実現できるため、当時の議論とほとんど変わらないと思われる。 当時の議論に加え、大きく変わったと言えば、パチンコ店約40グループが適格現物出資を繰り返した行為について租税回避行為として否認された事例(※2)(「Sスキーム事件」ともいう)が公表されたことである。 (※2) 平成24年2月12日、読売新聞報道 本事例は、例えば、X社が保有する帳簿価額10億円、時価が1億円であるような土地を適格現物出資により新しく設立したY社に移転させた後、当該Y社株式を適格現物出資により新しく設立したZ社に移転させるなど、上記の含み損を無限増殖させようとした事案である。このような含み損を作り出すこと以外に何ら目的がない行為については租税回避行為として認定されやすいのは事実である。 さらに、上記の事案では、含み損を実現させるためのY社株式、Z社株式の譲渡を自然人に対して行うことも想定される。グループ法人税制は、内国法人間の取引であることから、自然人に対する株式譲渡は対象から除外される。すなわち、含み損を増殖させた後に自然人に対して売却するという租税回避行為は、現行法人税法でも可能であり、類似の行為を行った場合には、包括的租税回避防止規定が適用される可能性は否めない。 さらに、上記の事例では、適格現物出資の段階で、土地を取得したY社では土地の含み損を9億抱え、株式を取得したX社ではY社株式の含み損を9億抱えというように、適格現物出資、適格分社型分割及び株式移転により含み損を増殖させることができるという、組織再編税制の法体系の問題がある。 本来であれば、立法論的解決が図られるべき箇所であるが、実務上は、このような含み損の増殖が可能であり、それを逆手に取った節税対策に対しては、包括的租税回避防止規定が適用される可能性があるという点に留意が必要である。 次回では、清算所得課税とその他の論点について解説したうえで、実務上の留意事項についての解説を行う予定である。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第54回】 株式会社デジタルデザイン 「第三者委員会調査報告書(平成28年8月31日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【第三者委員会の概要】 【株式会社デジタルデザインの概要】 株式会社デジタルデザイン(以下「デジタルデザイン」と略称する)は、1996(平成8)年設立の情報サービス事業会社。資本金約9億8,000万円。連結売上高155百万円、連結経常利益5,706千円。従業員数13名(数字はいずれも平成28年1月期)。本店所在地は大阪市北区。東京証券取引所JASDAQ上場。 【調査委員会報告書の概要】 1 発覚の経緯 当初、デジタルデザインの公表した不適切な経費利用が発覚した経緯は、以下のようなものであった(太字、下線は、10月14日付けリリースによる)。 ところが、この文章の冒頭部分は、調査報告書公表後の10月14日になって、次のように訂正される。 デジタルデザインの会計監査人であるひびき監査法人が指摘したとの説明から、デジタルデザインの管理部門が不審に思い、ひびき監査法人に相談した結果、当時の代表取締役社長であり、44%以上の株を所有する寺井和彦氏(以下「寺井元社長」と略称する)の経費利用に不適切な処理があったというように訂正されたものだが、なぜ、こうした訂正がなされるに至ったかについては、リリースでは、「一部事実と異なり、より具体的な説明が必要であるとの判断」に基づいて訂正したと説明するのみであり、詳細は開示されていない。 2 調査結果の概要 (1) 第三者委員会による区分 第三者委員会は、寺井元社長の立替経費の精算について、経費処理の判断基準を、勘定科目ごとに定める申請要件を満たすもの又は申請要件を形式的には充足していないものであっても客観的かつ明白に申請要件を充足するものについては「適正」とし、それ以外のものについては、内容を確認したうえで、申請要件を満たしていないものを「不備」、申請内容に不合理性や虚偽性が疑われるものを「不当」とする判断を行った。 (2) 調査結果の概要 第三者委員会の設置に先だって社内調査では、平成26年1月期から、平成29年1月第1四半期までの期間について行われているが、第三者委員会による調査報告書では、このうち、平成28年1月期までの3年間について、修正すべき件数と金額を公表している。 【図表】 第三者委員会により「不備・不当」と判断された件数と金額 (3) 「不備」と「不当」 第三者委員会は、3年間における寺井元社長による立替経費の申請は、1,458件約920万円であり、そのうち、1,092件約440万円が「不備」、42件約27万円が「不当」と判断した。 このうち、「不当」とは、「申請内容に不合理性や虚偽性が疑われるもの」というのがその定義であるから、この42件27万円の経費精算については、寺井元社長が、本来会社に請求すべきでない経費を請求し、いわば私的に費消したということで、寺井元社長の責任が問われることは言うまでもない。 一方、「不備」とされた精算にそこまで責任を問えるのかどうか。第三者委員会は、「不備」とは、「申請要件を満たしていないもの」と定義しているので、以下、個別に申請要件を確認してみたい。「不備」と認定された件数、金額ともに最も多い「会議費」の申請要件については、以下のように記述されている(報告書p.3以下)。 ここから読みとれる「不備」の理由としては、以下の3点が考えられよう。 いずれも、経費精算においては、よく見られる事象であり、本来であれば。経費精算担当者が不備を指摘したうえで、是正を求めていれば、問題になることはなかったのではないかと思われる。 (4) 会計処理の修正 第三者委員会は、こうした「不備」及び「不当」については、過大に計上された「販管費」であり、これらはすべて、寺井元社長に対する「短期貸付金」として会計処理されるべきであるとして、有価証券報告書及び決算短信等の訂正を進言している。 これは、法人税における考え方からも妥当な修正であるものと思料する。 3 発生原因と看過原因(報告書p.3以下) 発生原因について、第三者委員会は、寺井元社長自らが、「立替経費精算書」に明細を記入し、同氏のみが捺印し、経理部に提出することにより、経費精算手続きがされていた事実を挙げる。同時に、デジタルデザインには、「社長活動費用」という予算項目が存在、毎月20万円強が計上されていることから、寺井元社長は、その20万円強を真実は経費ではない場合であっても経費申請をしていたことが認められたと断定している。 また、デジタルデザインにおいては、寺井元社長以外の役員及び従業員は、経費精算ルールを遵守していたにもかかわらず、寺井元社長のみが、経費精算規定に定める承認手続きを無視していたとして、寺井元社長による不適切な処理が看過された理由を、同氏によるルールの無視にあるとしている。 寺井元社長がルールを無視できた背景については、寺井元社長は、「当社の創立者であり大株主(44%)であることから、事実上のオーナーであり、経理部による実質的チェック機能が働いていなかった」と断定している(報告書p.12)。 4 今後の措置と対応(報告書p.12以下) 第三者委員会による今後の措置と対応は、以下の2項目である。ただし、これらの措置については、すべてすでに実行されており、結果的に、第三者委員会はデジタルデザインが行った再発防止策を追認した格好になっている。 第三者委員会は、社長活動費について、寺井元社長が恣意的判断に基づき、経費申請を行っていたと認定して廃止を提言しているが、実際には、平成28年6月から予算項目としては廃止されている。 また、社長による経費精算プロセスも、同時期に、以下のように変更されて運用されている。 【調査報告書の特徴】 全文13ページで、そのうち8ページを調査結果の申請件数と金額の数字だけを列挙した内容が占める調査報告書を一読したとき、筆者は、「創業者であり、大株主でもある寺井元社長と他の取締役との間における経営権を巡る争い」に、第三者委員会がお墨付きを与える形で関わることになったのではないかと考え、本事例をこの連載で検証するべきものであるとまでは認識していなかった。 ところが、後述するとおり、第三委員会による調査報告書公表後、現経営陣と寺井元社長との間で争いが生じていることが次々と表面化したため、あらためて、報告書の内容とその後の展開を検討することとした次第である。 1 第三者委員会による調査の特徴 本事例でも、第三者委員会の設置に先立って、社内調査が実施され、第三者委員会の調査はこの社内調査に依拠しながら進められたことがうかがえる。その一方、当事者である寺井元社長に弁明の機会を与えたのかどうかは必ずしも明確ではなく(一切コメントがない)、また、寺井元社長をはじめとする取締役を監視すべき立場にあった監査等委員である社外取締役2名を含む監査等委員会が機能していなかった――寺井元社長によるルールの無視を看過していたことからすれば、機能していなかったという表現は過言ではないものと思料する――理由についても、報告書上に何らコメントがない。 しかも、完全に「不適切な処理」と言えるのは、第三者委員会が「不当」と判断した42件約27万円の経費精算に過ぎない。 こうしたことから、先に述べたように、筆者の中では、本報告書は、現経営陣が、寺井元社長の恣意的で、かつ、社内規定に違反した経費精算を発見したことを奇貨として、創業者であり、大株主でもある寺井元社長を経営から外すために利用したのではないかという憶測につながったわけだが、ともあれ、本報告書の公表を受けて、10月12日、寺井元社長は代表取締役の職を辞任するとともに、4ヶ月間にわたる役員報酬の50%減俸という処分を受け入れたことがリリースされた。 2 調査報告書公表後のデジタルデザインのリリース その後、デジタルデザインと寺井元社長との間では、経営権を巡る争いが次々と生じている。以下、時系列に沿って、まとめておきたい。 なお、本件は現在進行形であり、先行きを予想することは本稿の目的ではないことから、あくまで、デジタルデザインのリリースをもとに事態の推移をまとめたものであることをお断りしておく。 (1) 寺井元社長による取締役辞任届の提出(2016年11月8日) 「当社前代表取締役社長の取締役辞任申し出について及び当社株式の譲渡取引に関するお知らせ」 寺井元社長は、10月27日付の取締役辞任届をデジタルデザインに提出するが、デジタルデザインは、「役員規程」第7条第1項「役員は、辞任しようとするときは、辞任理由のいかんにかかわらず、6か月前までに会社に届け出なければならない」という定めにより、直ちに認められるものではないとして、これを返送した。 同時に、寺井元社長が、同氏の保有するデジタルデザイン株について、停止条件付株式譲渡契約を締結したことが判明したことから、同契約は、取締役会の許可を得ずに締結したものであり、監査等委員によって、大阪地方裁判所に違法行為差止仮処分を申し立てる予定であること、インサイダー取引に該当する懸念があるため、証券取引等監視委員会へ通報したことを公表した。 (2) 寺井元社長による臨時株主総会招集請求(2016年11月14日) 「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」 寺井元社長は、上記(1)の取締役辞任届の提出と同時に、デジタルデザインに対し、臨時株主総会の招集請求を行った。請求内容は以下のとおり。 これに対し、デジタルデザインは、同月16日、「株主による臨時株主総会招集請求に関する当社の意見」を公表し、「請求理由に困惑」しているとしながらも、平成29年4月開催の定時株主総会における会社提案の取締役選任議案に株主による提案を可及的に含めることとし、臨時株主総会を開催しない姿勢を示した。 「株主による臨時株主総会の招集請求に対する当社の意見」 ところが、同日のリリースでは、寺井元社長の申立てに基づき、大阪地方裁判所から「株主総会招集許可申立書」の送達を受けたことを公表した。 「株主総会招集許可申立書の送達に関するお知らせ」 これを受けて、デジタルデザインは、「臨時株主総会開催に関するお知らせ」を12月6日にリリース、2017年1月31日(その後、2月10日に変更)に、臨時株主総会を開催する旨を公表した。 「臨時株主総会開催に関するお知らせ」 (3) デジタルデザインによる資本業務提携及び第三者割当(2016年12月21日) 「資本業務提携並びに第三者割当により発行される新株式及び新株予約権の募集及び主要株主の異動に関するお知らせ」 12月21日、デジタルデザインは、「資本業務提携並びに第三者割当により発行される新株式及び新株予約権の募集及び主要株主の異動に関するお知らせ」を公表して、株式会社リゾーム及び株式会社ステラリンクとの資本業務提携を公表し、普通株式67,175株を1株につき950円で発行すること、新株予約権605,475個を1個につき30.02円で発行することをリリースした。 これらの第三者割当により調達する資金は626百万円を超え、新株予約権が行使された場合における寺井元社長の持株比率は44.44%から35.56%まで低下する。 (4) 寺井元社長による新株式の発行差止仮処分の申立てと決定(2016年12月28日) 「新株式等発行差止仮処分の決定に関するお知らせ」 2017年1月6日を払込期日とする上記(3)の資金調達に関し、寺井元社長は、新株及び新株予約権の発行差止の仮処分を申し立てた。デジタルデザインのリリースによれば、申立てに至った経緯は次のとおりである。 12月27日、大阪地方裁判所は、新株及び新株予約権の発行を仮に差し止める内容の決定を行った。 これに対し、デジタルデザインは、年が明けた2017年1月4日、大阪地方裁判所に対して、保全異議の申立てを行ったが、翌5日の審尋を経た結果、デジタルデザインの主張は認められず、1月6日、大阪地方裁判所は、仮処分決定を認可した。判断理由の概要をデジタルデザインのリリースから引用する。 「仮処分決定の認可に関するお知らせ」 (5) 臨時株主総会の開催日変更(2017年1月6日、10日) 「臨時株主総会招集のための基準日設定に関するお知らせ」 大阪地方裁判所により、新株及び新株予約権の発行差止仮処分の認可を受けたデジタルデザインは、同日、寺井元社長により招集請求がされ、2017年2月10日に開催予定であった臨時株主総会の期日を2月28日とすることを公表した。 本稿執筆時点において、臨時株主総会における会社提案の内容が明らかになってはいないため、今後の現経営陣と寺井元社長との間の争いの帰趨については判断がつきかねるところであるが、これまでのところ、寺井元社長の方が優勢である感は否めないようである。今後のリリースを注視したい。 (了)
ファーストステップ 管理会計 【第7回】 「損益分岐分析の基礎」 ~ケーキを何個食べたら元が取れるか~ 〔利益管理編①〕 公認会計士 石王丸 香菜子 今回から〔利益管理編〕がスタートします。 企業は、利益を生み出すために活動しています。大ざっぱに考えると、 です。 前回までの〔原価管理編〕では『原価』に焦点を当てましたが、〔利益管理編〕では、売上高と原価の差額である『利益』に注目し、その管理の在り方を考えていきます。 ◆バイキングで食べる時、まず考えることは? 皆さん、バイキング形式のケーキやランチを食べることがありますよね。 その時に考えるのは、ズバリ、 ということではないでしょうか(重要な問題です・・・)。 バイキングでは、少なくとも料金に相当する分を食べなければ、元を取れずに損をしてしまいます。 できれば料金相当分よりもたくさん食べて、得をしたいですね! 企業の利益も、これと同じ発想で管理や分析をすることができます。 身近な例で考えてみましょう。 ◆何個食べれば元が取れるか-① 固定料金の場合 皆さんが、テレビで見たお店のケーキをどうしても食べたくて、そのお店に行ったとしましょう。 この店では、ケーキの定価は1個300円です。ただし、バイキング料金として一律1,200円を払えば、店内でケーキが食べ放題になるとします。 この場合、かかる費用は以下のようになります。 仮にケーキを1個しか食べないならば、バイキング料金1,200円の元が取れませんので、定価で購入するほうが得です。一方、バイキング料金相当よりもケーキをたくさん食べるならば、バイキングのほうが得です。 1,200円÷@300円=4個ですので、4個食べる場合には、定価で購入してもバイキングでもかかる費用は同じで、5個以上食べる場合には、バイキングのほうが得になります。 皆さんここまでは、普段から無意識に考えていますよね。 ◆何個食べれば元が取れるか-② 固定料金と変動料金がかかる場合 このケーキ店が人気になり、2号店を出店しました。 気になった皆さんは、さっそく2号店へ・・・(笑) 2号店でも、ケーキの定価は1個300円です。ただし、こちらはバイキング形式ではなく、イートインのためのスペースを設けてあります。 2号店では、ケーキをイートインする場合は一律800円の席料がかかりますが、ケーキを特別価格の100円で注文できる形式です。 この場合、どのように考えればよいでしょうか。 それぞれにかかる費用は、以下のようになります。 定価で購入する場合とイートインの場合の、ケーキ1個当たりの値段の差額は、@300円-@100円=@200円です。つまり、ケーキを1個食べるごとに、イートインのほうが200円ずつ得をしていくことになります。 イートインのためには席料800円が固定的に発生するので、@200円×個数が、席料800円を上回れば、イートインのほうが得です。 800円÷@200円=4個ですので、4個食べる場合には、定価で購入してもイートインにしてもかかる費用は同じで、5個以上食べる場合には、イートインのほうが得になります。 ◆「元が取れる個数」が「損益分岐点」 2つの事例でのケーキ『4個』は、固定的に発生する費用(バイキング料金や席料)の『元が取れる』個数です。損も得もしていない、いわば損益トントンの状態です。 企業の利益管理では、こうした『元が取れる』個数や売上高を、「損益分岐点」といい、このように損益をシミュレーションすることを「損益分岐分析」と呼びます。 ◆図を使って損益分岐点を考える 固定料金と変動料金がかかるケース(ケーキの事例の2号店のケース)の場合、図を使うと分析しやすくなります。 下図では、ケーキの個数が横軸、かかる費用が縦軸です。青の線は、定価@300円でケーキを購入する場合、赤の線は、イートインのための固定料金800円を払ったうえで@100円でケーキを食べる場合を示しています。 青の線と赤の線の交点は、どちらを選んでもケーキの個数とかかる費用が同じになる、つまり、損も得もしない「損益分岐点」です。 ケーキの個数が損益分岐点未満(下図の水色のエリア)では、イートインの場合の費用が定価で購入する場合の費用を上回るので、イートインにすると損になります。逆に、ケーキの個数が損益分岐点超(下図の黄色のエリア)では、イートインの場合の費用が定価で購入する場合の費用を下回るので、イートインにすると得になります。 ◆図を使うと損益をシミュレーションしやすい 図を使うと、ケーキの個数に応じた損益のシミュレーションもしやすくなります。 例えば、ケーキを6個食べる場合には、損益分岐点4個を上回っているので、イートインのほうが得です。ケーキを1個食べるごとに、イートインのほうが200円ずつ得をしていきますが、この@200円は、赤の線と青の線の傾きの差で表されます。 ケーキを6個食べる場合、イートインにして得する金額は、@200円×(6個-4個)=400円であることが、視覚的に把握できますね。 ◆企業の利益管理も同じ これと同じ発想で、企業の損益分岐分析も行うことができます(原価(Cost)と販売量(Volume)、利益(Profit)の関係を分析するので、「CVP分析」と呼ばれることもあります)。 企業の売上高は、売上数量に比例して発生しますので、ケーキの事例での定価で購入する場合と同じように考えることができます。 一方、企業の原価は、固定的に発生する固定費と、売上数量に比例して発生する変動費からなるのが一般的です。つまり、ケーキの事例での、固定料金と変動料金がかかるイートインの場合と同じであると言えます。 ケーキの事例と同じように、図を使って考えてみましょう。 あるベーカリーでは、食パンを1個300円で販売しているとします。食パン1個を作るには、1個当たり100円の変動費と、固定費800,000円がかかるとします。 下図では、青の線が売上高を、赤の線が原価を表しています。 青の線と赤の線の交点が、元が取れる、すなわち、損も得もしない「損益分岐点」になるのでしたね。損益分岐点での売上数量をx個とすると、損益分岐点では、 300円 × x = 100円 × x + 800,000円 が成り立ちます。これを解いて、x=4,000個と求められます。 つまり、このベーカリーの損益分岐点は4,000個で、4,000個超販売すると利益が出ることがわかります。 逆に、4,000個未満しか販売できなければ、固定費800,000円を回収しきれずに、損失が生じてしまうことになります。 ◆限界利益とは? 次に、ベーカリーで食パン6,000個を売り上げる場合の利益をシミュレーションしてみましょう。 6,000個は損益分岐点4,000個を上回っているので、利益が生じます。食パンを1個売り上げると、売価@300円-変動費@100円=@200円ずつ利益が生じていきます。 これは、赤の線と青の線の傾きの差で表されますので、食パンを6,000個販売すると、@200円×(6,000個-4,000個)=400,000円の利益となります。 売価から変動費を引いた差額(@200円)を、管理会計では「限界利益」と呼びます。 (『おなかの限界までケーキを食べる』・・・という意味ではありません!!) この限界利益によって、固定費をちょうど回収した状態が、損益分岐点です。 ◆図の横軸は数量でも売上高でもOK ここまでの説明では、図の横軸を売上数量としましたが、図の横軸を売上高としても同様に分析することができます。 図の縦軸(y軸)は売上高ですので、図の横軸(x軸)も売上高とした場合には、売上高を表す青の線は、当然にy=xとなります。原価を表す赤の線は、売上高に対する変動費の割合(変動費率)をa、固定費をbとして、y=ax+bとなります。 個々の製品の分析をする場合は、数量を変数とするほうがわかりやすいでしょう。一方、企業全体や部門など、大きなくくりで分析をしたい場合は、数量を変数とすることができませんので、売上高を変数として、売上高に対しての損益を分析することになります。 ◆固定・変動分解をするには ここまで、原価の固定費と変動費の内訳が明らかであることを前提としましたが、実際には、損益分岐分析を行う前段階として、原価を固定費と変動費とに分解する必要があります。【第4回】で紹介した「最小自乗法」や「費目別精査法」を利用すれば、売上数量や売上高に比例して変動する部分と、固定的に生じる部分とに分解することができます。 最小自乗法などの方法は、管理会計の中のいろいろな場面で登場するので、使えるようになっておくと便利です。 次回は、損益分岐分析を活用し、利益管理に役立てる方法について見ていきます。 (了)
ストック・オプション会計を学ぶ 【第7回】 「条件変更の会計処理①」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回と次回にわたり、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号。以下「ストック・オプション会計基準」という)及び「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第11号。以下「ストック・オプション適用指針」という)にしたがって、ストック・オプションに係る条件変更の会計処理について解説する。 Ⅱ ストック・オプションに係る条件変更 ストック・オプションを一度付与したとしても、例えば、その後に株価の著しい下落が生じ、ストック・オプションを権利行使する可能性が減少してしまい、当初期待していたインセンティブ効果が大幅に失われるということがありうる。 そこで、ストック・オプションを付与した効果を回復するために、行使価格を引き下げるなど、当初の条件を事後的に変更することがある。 ストック・オプションに係る「条件変更」とは、付与したストック・オプションに係る条件を事後的に変更し、ストック・オプションの公正な評価単価、ストック・オプション数又は合理的な費用の計上期間のいずれか1つ以上を意図して変動させることをいう(ストック・オプション会計基準2項(15))。 今回と次回にわたり、次の条件変更について述べる。 Ⅲ 公正な評価単価を変動させる条件変更 ストック・オプションに関する権利確定日以前の会計処理については、次のように規定されている。 1 会計処理 ストック・オプションについて、行使価格を変更する等の条件変更により、公正な評価単価を変動させた場合には、次のように会計処理する(ストック・オプション会計基準10項)。 2 考え方 上記(1)の条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価が、付与日における公正な評価単価を上回る場合の会計処理は、条件変更の効果に着目し、条件変更日後の将来の会計期間にわたり追加的な労働サービスが従業員等から提供されることが期待されることから、将来にわたり配分するという考え方に基づいている(財務会計基準機構監修、企業会計基準委員会編『企業会計基準完全詳解 改訂増補版』(税務経理協会、平成21年8月)186ページ)。 上記(2)の条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価が付与日における公正な評価単価を下回る場合について、もし、上記(1)と同様の会計処理を行おうとすると、条件変更により費用を減額させることになると考えられるが、これでは、ストック・オプションの条件を従業員等にとってより価値あるものとすることにより、かえって費用を減額させるというパラドックスをもたらすことになる(ストック・オプション会計基準56項)。 そこで、このパラドックスを回避するために、ストック・オプションの条件変更日における公正な評価単価が付与日における公正な評価単価以下となる場合には、条件変更後においても、付与日における公正な評価単価に基づくストック・オプションの公正な評価額により費用計上を行う、条件変更前からの会計処理を継続することとされた(ストック・オプション会計基準56項)。 また、上記のパラドックスを回避するための上記(2)の会計処理を行うという処理も、条件変更前のストック・オプションをいったん取り消したうえで、新規の条件によるストック・オプションを付与することにより、費用計上額を削減できるのではないかという意見がある(前掲書186ページ)。 これに対しては、新たな条件のストック・オプションの付与と引換えに、当初付与したストック・オプションを取り消す場合には、実質的に当初付与したストック・オプションの条件変更と同じ経済実態を有すると考えられる限り、ストック・オプションの条件変更とみなして会計処理を行うという対応が取られている(ストック・オプション会計基準10項(2)なお書き)。 3 数値例 ストック・オプション適用指針の[設例3-1]では、次の数値例をもって公正な評価単価に影響を及ぼす条件変更の会計処理が示されている。 (了)
[平成29年1月1日施行] 改正育児介護休業法のポイントと実務対応 【第2回】 「介護関係の改正ポイント②」 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 今回は、前回より確認している介護関係の改正項目のうち残りの3つについてみていく。 1 介護休暇の半日単位取得 (1) 取得単位 介護休暇とは、対象家族の介護その他の世話をするため1年に5日(対象家族が2人以上いる場合は年に10日)まで取得が可能な休暇をいうが、改正前は、1日単位で取得する制度となっていた。 しかし、介護等のため丸一日休暇を取得する必要がない場面も想定されることから、改正後は柔軟性を高めて半日単位でも取得が可能となっている。 (2) 半日とは 上記でいう半日とは、1日の所定労働時間の2分の1をいい、例えば、1日の所定労働時間が8時間の場合の半日は4時間となる。なお、1日の所定労働時間に1時間に満たない端数がある場合は1時間に切り上げて取り扱うため、例えば、1日の所定労働時間が7.5時間の場合の半日も4時間となる。また、日によって所定労働時間が異なる場合は、1年間における1日平均所定労働時間を1日の所定労働時間として取り扱う。 (3) 半日の例外 1日の所定労働時間の2分の1以外の時間数を半日とすることも可能となっている。例えば、始業9:00~終業18時(休憩12時~13時)の会社で午前3時間と午後5時間をそれぞれ半日として取り扱う場合等である。ただし、この場合には労使協定の締結が必要となり、当該協定で以下の事項を定める必要がある。 (4) 半日単位での取得対象から除外可能な者 半日単位での取得対象から除外可能な者は、以下のいずれかに該当する者となる。ただし、②の場合は、労使協定の締結が必要となる。 「② 業務の性質又は業務の実施体制に照らして、半日単位で介護休暇を取得することが困難と認められる業務」については指針で次の通り例示されているが、半日単位で介護休暇を取得することが客観的にみて困難と認められる業務に従事する者でなければ除外できないため、労使協定を締結する際には注意が必要となる。 (例) 国際路線等に就航する航空機において従事する客室乗務員等の業務等であって、所定労働時間の途中まで又は途中から介護休暇を取得させることが困難な業務 (例) 長時間の移動を要する遠隔地で行う業務であって、半日単位の介護休暇を取得した後の勤務時間又は取得する前の勤務時間では処理することが困難な業務 (例) 流れ作業方式や交替制勤務による業務であって、半日単位で介護休暇を取得する者を勤務体制に組み込むことによって業務を遂行することが困難な業務 (5) 賃金の取り扱い 改正前から同様の考え方となるが、介護休暇を有給とするか、無給とするかは会社の任意となっている。しかし、改正後は半日単位での取得が可能となるため、無給とする場合は、賃金計算時に注意が必要となる。なぜなら、半日単位での無給の介護休暇を取得した場合は、介護休暇の取得により就業しなかった時間数を超えて賃金を差し引くことはできないからである。 例えば、半日単位を午前3時間、午後5時間として労使協定で定めている場合で、午前の半日単位の介護休暇を2回取得した場合は、介護休暇としては1日分を取得したことになるが、賃金は6時間(午前3時間×2回)分を差し引くことはできるものの、1日分として8時間分の賃金を差し引くことはできない。 2 選択的措置の期間延長等 (1) 期間・回数 改正前より、働きながら家族を介護することができるようにするため、以下のいずれかの措置(選択的措置)を1つ以上導入することが義務づけられていた。 改正前は、選択的措置の期間は介護休業と合わせて対象家族1人につき通算93日以内とされていたが、改正後は、日常的な介護のニーズに対応するため、介護休業とは独立した別の期間とし、対象家族1人につき選択的措置の利用開始から連続する3年の間で2回以上の利用が可能となっている。ただし、④については回数の制限は設けられていないため、1回のみ利用が可能な制度とすることもできる。 (2) 起算日 3年の起算日は、選択的措置の利用を開始する日として当該従業員が申し出た日となる。なお、改正前の期間は通算されないため、改正前にすでに選択的措置の利用実績がある場合でも、平成29 年1月1日以降初めて選択的措置の利用を開始する日として当該従業員が申し出た日が3年の起算日となる。 3 所定外労働の制限(新設) (1) 所定外労働の制限 育児には既に導入されている制度だが、フルタイムで働きながら日常的な介護に対応するため所定外労働の制限が新設され、従業員が請求した場合は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、いわゆる“残業”である所定外労働をさせることはできなくなっている。この制度は、要介護状態にある対象家族について介護の必要がなくなるまで利用可能であるため、利用する期間や回数に制限を設けることはできない。 (2) 所定外労働の制限の利用対象から除外可能な者 所定外労働の制限の利用対象から除外可能な者は以下のいずれかに該当する者となり、①を除き、労使協定の締結が必要となる。 * * * 以上、2回にわたり、介護関係について法改正によって変更になる主な点についてまとめてご紹介した。次回は育児関係について確認していきたい。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第1回】 「認知症の疑いが生じた場合の対応」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 本連載では昨年9月から10月にかけて、認知症患者が増加を続ける現在において、相続の実務に携わる税理士が知っておくべき法令等の知識について、〔解説編〕として全8回の解説を行った。 これらの解説を踏まえ、今回より連載後半として、「認知症と相続問題」に関連する様々な場面について具体的な事例を元に解説を行う〔Q&A編〕を開始する。 [設問01] 私には今年85歳になる父がおり、長男である我々夫婦と3人で同居しています。父は、妻(私の母)に先立たれてからも、元気で暮らしてきました。 父は、先代から引き継いだ賃貸アパートを複数所有しており、今も20人前後の借主がおります。元々事務仕事が嫌いではないため、本人いわく“ボケ防止”を兼ねて賃料の入金について帳簿を付け、滞納している入居者には支払いを督促するといった賃貸管理の事務を一人で行っています。 しかし、ここ数年、日常生活のふとしたことでの物忘れや記憶違い等も増え、老いを感じさせる場面が非常に多くなりました。 先日も、アパートの補修箇所について修繕を頼んだ業者との間で、工事代金の金額や支払時期等をめぐり多少のトラブルが生じました。 これからこういう事態も増えてくると予想され、私も借主さんも心配しています。 家族である私としては、今後どのようなことに注意し、必要な準備をしていったらよいでしょうか。 なお、私たち家族には詳しいことは教えてくれませんが、退職金で購入した株式や金融商品もいくつか保有しているようです。 1 家族によるケアと財産管理サポートの必要性 本連載前半の〔解説編〕【第6回】・【第7回】では、認知症の問題を感じ始めた段階から現実に判断能力を失う状態に至った段階までを3つのステージに分け、それぞれの対応を解説した。 そのうち、今回の[設問01]は、第1ステージの典型例といえる。 この段階では、父本人はさしたる障害を感じずに日常生活を送っており、自分の老後の生活について、自分なりの考えを有しているのが普通である。 仮に、父自身においても老いの自覚があり、今後の適切な財産管理のあり方につき問題意識を有し、今後の対策の必要性について家族と問題意識を共有したいと考えている場合であれば、本人の協力の下、家族一丸となって対策を進めやすい。 問題は、本人にとってその自覚がなく、または自覚を有しながらもそれを正面から認めたくないという気持ちから、財産管理について家族や第三者が介入してくることに非協力的・消極的な態度を示す場合である。 このような場合に、現時点では未だ第1ステージの段階にとどまっているものの、今後、本人の判断能力の減弱が次第に進み、トラブルが顕在化する可能性は非常に高い。 よって、家族としては、「本人が嫌がっているので、そのままにしておく」という安易な態度を取るべきではない。問題を放置しておいては、将来的に本人の生前・没後を通じて、家族もまた法的トラブルに巻き込まれかねないのである。 2 家族として、具体的に何をしていくべきか (1) 専門医の診断を受けさせる まず何よりも、現時点での本人の認知能力を正確に把握することが必要である。 そのためには、本人に専門医の診断を受ける/受けさせる必要がある。 ただし、父本人が受診に消極的な態度を取っている場合には、本人の人格を傷つけないよう細心の注意を払いながら、手を変え品を変え、粘り強く説得していく必要があろう。 (2) 資産状況を把握する 今後の財産管理の方法を本格的に検討する際、出発点となるのは「所有資産の状況・内容」である。 設問では、相談者は父が有する財産の詳細につきよく知らない状態にある。 そのため、まず始めに、「父がどのような財産を所有しているのか」をできる限り正確に把握することが不可欠となる。 主な財産と調査方法を挙げれば、以下のとおりである。 この点、前述した専門医を受診するに際してと同様、父本人が自己の所有資産の詳細を家族に明らかにすることを嫌がる場合も少なくない。 その場合には、相談者が父の遺産を“狙っている”ということは毛頭なく、むしろ今後の適切な財産管理という父本人の利益確保のためには、本人の所有資産の状況を正確に把握することが不可欠であること、ここがおろそかになれば今後無用なトラブルに巻き込まれ、かえって家庭内に大きな混乱を生じさせる可能性も高いこと等を、粘り強く説得していく他ないであろう。 加えて、本人が消極的な態度を取っている場合でも、家族の方でできる限りの資料を入手した上で所有資産のあらましを把握し、今後起こり得る最悪のケースをシミュレーションし、その内容を踏まえて本人を再度説得するということも一方法かもしれない。 (3) 財産管理契約締結の検討等、具体的対策を検討する ここから先は、〔解説編〕【第6回】にて説明したことが当てはまる。 すなわち、必要に応じて、①財産管理契約や任意後見契約、民事信託の利用といった各種の財産管理手法の必要性を検討し、②生前における相続税対策や遺言書の作成を進めるということになる。 この点、対応する時期が早ければ早いほど、対応策の選択肢も増え、本人の意思も尊重した財産管理体制が構築できる。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔法務面のアドバイス〕 【第1回】 「災害に関する主な法律」 弁護士 岨中 良太 わが国では災害時において、非常時の対応を行うために、様々な法律が制定されている。 法務面のアドバイスにおける【第1回】は、それらのうち主要なものについて、その概要を紹介したい。 1 災害対策基本法 災害対策基本法は、我が国の災害対策関係法律の一般法である。 災害対策基本法は、防災に関する責務の明確化、総合的防災行政・計画的防災行政の整備、災害対策の推進、激甚災害に対処する財政援助等、災害緊急事態に対する措置等の災害対策に関する基本的事項を定めている。 2 激甚災害法(激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律) 激甚災害法は、激甚災害が発生した場合に地方公共団体及び被災者に対する復興支援のために国が通常を超える特別の財政援助や助成措置を行うことを定めている。 国によって激甚災害に指定されると、特別措置として、道路、河川、被災者住宅等の復旧・建設事業や農地等の復旧事業への財政援助、中小企業者等に対する融資等が行われることになる。 3 特定非常災害特別措置法(特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律) 特定非常災害特別措置法は、特定非常災害が発生した場合に比較的定型的に立法措置が必要となることが予想される特別措置について、あらかじめ制度化している。 国によって特定非常災害に指定されると、避難等のために運転免許証の更新等ができない被災者が特別措置により救済される。 具体的には、次に掲げるもののうち、政令によって指定された措置が適用されることになる。 4 大規模災害復興法(大規模災害からの復興に関する法律) 大規模災害復興法は、特定大規模災害が発生した場合に国と地方公共団体とが適切な役割分担の下に被災地域における生活の再建及び経済の復興を図ることを基本理念として制定された。 国によって特定大規模災害に指定されると、内閣総理大臣を本部長とする復興対策本部を置くことができるほか、政府に復興基本方針の策定を義務付け、道路か先頭の災害復旧事業について国が地方公共団体を代行することができることになる。 5 「激甚災害」「特定非常災害」「特定大規模災害」の違い 上記で紹介した「激甚災害」「特定非常災害」「特定大規模災害」は、いずれも発生した災害について国が指定する点は共通しているが、指定の目的はそれぞれが根拠とする法律の目的により異なっているため、定義や指定基準は次のとおり異なる。 「激甚災害」指定の目的は、復興支援のために国が通常を超える財政援助や助成措置を行うというものであり、①全国的に大きな被害をもたらした場合(本激)と②局地的に多額の復旧費用が必要となった場合(局激)とがある。いずれも災害復旧事業費による指定基準が設けられている。 「特定非常災害」指定の目的は、避難等のために行政手続等をとることができない被災者を救済するというものであり、「著しく異常かつ激甚な非常災害」と定義されている。具体的には①死者・行方不明者、負傷者、避難者等の多数発生、②住宅の倒壊等の多数発生、③交通やライフラインの広範囲にわたる途絶、④地域全体の日常業務や業務環境の破壊、といった要因が総合的に勘案される。 「特定大規模災害」指定の目的は、自治体単独で対応できない大規模な災害からの復興に関する組織、復興計画の作成・実施に国が関与するというものであり、「著しく異常かつ激甚な非常災害」であり、「緊急災害対策本部が設置されたもの」と定義されている。緊急災害対策本部は極めてまれに見る災害が発生し、政府が一体となって災害応急対策を推進する必要がある場合に設置される。 (了)
顧客との面談が“ちょっと”苦手な 税理士のための面談術 【第1回】 「まずは知っておきましょう。税理士としての接客の重要性」 有限会社コーディアル 代表取締役 坪田 まり子 このたびめでたく税理士として一歩を踏み出された皆さん、はじめまして。 坪田まり子と申します。 2016年6月に清文社様より『士業者が身につけたい顧客をつかむ面談術』を上梓させていただきました。ありがたいことに発売早々重刷になったこの本を、少なからず評価していただき、今回、こちらの連載の機会を頂戴いたしました。 私なりに少しでも“新米税理士”の皆さんのお役に立つべく、なりたての頃には誰もが苦手意識を持つ『面談』を中心に、執筆させていただきます。 「新米」という立場はどんな業界、どんな仕事でも、まずは実務を一人前にこなせるようになるまで、大変なご苦労があるはずです。受験中は机上の理論でよかったものが、税理士事務所で働きながら勉強していた方であっても、自らがお客様の前で「税理士」として名乗り、業務と責任を遂行していくことは、慣れるまではとにもかくにも大変だろうと拝察いたします。 私のこの連載では、そんな皆さんの“側面”支援をさせていただきたいと考えています。実務面そのものを補うものではなく、接客・接遇という面談シーンを中心にスポットを当てていきます。 実際に面談をなさるのは有資格者である皆さんですもの。その重要な面談シーンの中で、皆さんに一人前の接客・接遇スキルがあれば、お客様との良好な人間関係の構築にかなり役立つはずです。 ちょっと待ってください、坪田さん。 接客とか接遇は事務所の職員さんに任せておけばよいのでは?? そんなことより、まずは実務! というお声が聞こえてきそうですが、新米のうちから接客・接遇スキルをないがしろにするようでは、皆さんのこの先が心配です。きっとこれから出逢うお客様方から「マナーがなっていない=常識のない先生」と思われてしまうはずだからです。 皆さんの同期は今年何名合格なさったのでしょうか。2017年現在、税理士として登録されている人数は約7万6,000人もいらっしゃるそうですね。これから税理士に依頼しようという新規のお客様から言わせれば、その中の「誰に依頼するか」は自由なのです。 どれほど素晴らしい成績をおさめ税理士になったとか、大手税理士法人に所属しているからなどの理由だけで選ばれるのではおそらくなく、最終的には皆さんのお人柄を含め、お客様が「この先生にずっと見てもらいたい」と決めていくのだと思います。 それでもやはり、大手税理士法人や先輩方がたくさんいらっしゃる事務所に所属できた場合には、最初は有利もしれません。所長を筆頭にその法人や事務所が、長い時間をかけて培ってきた信頼と実績から、既にたくさんの顧問客がいらっしゃるはずだからです。 そんな環境下にある新米の皆さんには、仕事が自然と“与えられる”のではないかと拝察します。でも、それはただ与えられるだけであり、自分の実力と人脈で勝ち取ったものではありません。ここを勘違いしてしまい、仕事は自動的に、そして永遠に上から与えられるものだと高をくくってしまっては、これから先が思いやられます。 実は、私、日本公認会計士協会東京会や関東信越税理士会をはじめ、個別の士業の法人様からも講演や研修の機会を少なからず頂戴しています。そんな私に、打ち合わせの席で、まず所長様方がおっしゃるお言葉には共通点があります。 ため息交じりにおっしゃることは、 こんなに士業者を抱えているのに、新しい仕事を自分の手で取ってくるのはほんの一握り。 どうすれば彼らの意識を変えられるのか、どうすればお客様から仕事を取ってくることができる士業者になれるのか。。。 というものです。 新米税理士として、いきなり独立なさる方がどれほどいらっしゃるのか、私には分かりませんが、皆さんの所属した事務所や法人の規模の大小にかかわらず、いつも 自分の力でお客様をつかむためにはどうすればよいのだろうか? という意識を持っておかれることをお勧めします。ましてや皆さんが所属する最初の事務所が、皆さんを育ててくれたご両親の下であるならなおさらです。 と、常に前向きな意識を持ってくださいませ。 この意識を持てるかどうかが、いつしかライバルと大きな差を生むことにつながるはずです。 仕事は自分でつかみとってくるものです。 どこからか自動的に与えられるものでは決してありません。 実務面はどうぞ先輩方に、積極的にお尋ねください。私は、その「実務」と、接客・接遇という「対人関係能力」は、例えるならば「車の両輪」のようなものだと位置づけています。どちらが欠けても車は動きません。皆さんのお仕事も同じでないでしょうか。 さらにいえば、実務面以上に、お客様との面談スキルは汎用性が極めて高く、これから長い人生を、皆さんが社会人として“より良く”生きるためにも、ちゃんと身に付けておいて損をすることは決してありません。 「面倒くさいなあ・・・」なんてどうぞ思わないで、素直で、かつ、前向きなお気持ちで、私の連載と向き合っていただけましたら幸いです。 * * * この初回は総論として、面談術という対人関係能力がなぜ必要なのかをお話しました。 次回からは各論として、具体的なスキルについてお話していきます。 皆さん、どうぞ最後までお付き合い下さいね。 どうぞよろしくお願い申し上げます。 (続く)
《速報解説》 非永住者の有価証券の譲渡所得について、課税範囲を見直し ~平成29年度税制改正大綱~ 税理士 佐藤 善恵 1 平成29年度税制改正の内容 平成29年度税制改正大綱によれば、非永住者(※1)の課税所得の範囲から、「所得税法に規定する有価証券(※2)」で次に掲げるものの譲渡により生ずる所得(国内において支払われ、又は国外から送金されたものを除く)が除外されることとなる(国税及び地方税)。 (※1) 非永住者とは、居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいう(所法①四)。 (※2) 過去10年以内に非永住者であった期間内に取得したもので、平成29年4月1日以後に取得したものを除く。 この改正趣旨は次に述べるように、平成26年度税制改正に対する問題点の指摘を受け、手当てを行うものとなっている。 2 趣旨 平成26年度税制改正前は、非永住者の課税所得の範囲は、 であった(旧所法7二)。 これが平成26年度税制改正において、 と改正された(所法7二)。 そのため「国外源泉所得(所法95④)」として積極的に定義されていないものが、反射的に非永住者の課税所得の範囲に含まれることとなった。具体的には、例えば、非永住者がニューヨーク証券取引所で行われている株式の譲渡をした場合、それに係る所得が課税所得の範囲に含まれることとなったものである。 しかし、上記の改正は、国際課税原則の見直し(下記【補足】を参照)に伴うものであり、非永住者の課税所得の範囲を変更するための改正ではなかった。 このように結果的に課税所得の範囲が拡大したことに対し、外国人材の呼び込みの阻害要因となっているとの指摘があり、今回見直されることになったのである。 〈留意点〉 この改正は、「平成29年4月1日以後に行う有価証券の譲渡について適用される」が、上記の平成26年度改正事項は「平成29年分以後の所得税について適用される」こととされている(H26改正法附則3③)。 したがって、平成29年1月1日から同年3月31日までに行われた有価証券の譲渡に係る所得については、上記1の(1)から(3)に該当しても、非永住者の課税所得の範囲に含まれることになる。経過措置規定がなされるか等、今後明らかとなる改正の詳細に留意が必要である。 (了)