《速報解説》 「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」に関する措置法通達が新設 ~被相続人居住用家屋の敷地等の判定について取扱いを示す~ 税理士 内山 隆一 平成28年7月29日付けで、租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)通達の一部が改正され(ホームページ公表は8月2日)、被相続人の居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除についての取扱いが公表された。 本稿では今回の通達改正の中で特に留意すべき事項について、関係図を交えて解説していく。 なお本制度の適用要件等については、本誌6月掲載の下記拙稿を参照されたい。 ▷措通35-7(同一年中に自己の居住用財産と被相続人の居住用財産の譲渡があった場合の3,000万円特別控除の適用関係) (内容) 同一年中に自己の居住用財産と被相続人の居住用財産の譲渡があり、そのいずれについても3,000万円特別控除の適用を受ける場合の控除順序は下表のとおりである。 なお、特別控除額は全体で3,000万円を限度とする。 (※) 納税者の選択により、これと異なる順序で控除することもできる。 ▷措通35-8(相続税額の取得費加算との関係) (内容) 被相続人の居住用財産の譲渡につき、相続税額の取得費加算の適用を受ける場合には、その譲渡については3,000万円特別控除の適用はないが、譲渡した資産が居住用部分と非居住用部分とからなる被相続人居住用家屋又はその敷地等である場合において、その非居住用部分についてのみ相続税額の取得費加算の特例を受けるときは、居住用部分については他の要件を満たせば3,000万円特別控除の適用が受けられる。 【図1】 ▷措通35-9(被相続人居住用家屋のみ又はその敷地のみを相続等により取得した場合) (内容) 被相続人の居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除は、相続等により、被相続人居住用家屋とその敷地等の両方を取得した個人のみ適用でき、いずれか一方のみを相続等により取得した場合には適用できない。 【図2】 ▷措通35-13(被相続人居住用家屋の敷地等の判定等) (内容) 譲渡した土地等が、被相続人居住用家屋の敷地等に該当するかどうかは、社会通念に従い、その土地等が相続開始直前において被相続人居住用家屋と一体として利用されていた土地等であったかどうかにより判定する。 この場合、その相続開始直前において、その土地が用途上不可分の関係にある2以上の建築物のある一団の土地であった場合には、次により計算した面積に係る土地の部分に限られる。 なお、これらの建築物について、相続等後に増築や取壊し等があった場合であっても、算式中のB、Cの家屋の床面積は、相続開始直前の現況による。 ▷措通35-15(被相続人居住用家屋が店舗兼住宅であった場合の居住用部分の計算) (内容) 被相続人居住用家屋が店舗兼住宅であった場合には、その相続開始直前の利用状況に基づき、次により被相続人の居住用部分を計算する。 したがって、譲渡した被相続人居住用家屋の床面積が相続後の増築等により増減した場合であっても、その相続開始直前の床面積を基に行う。 なお、上記により計算した被相続人の居住用部分の面積が全体の90%以上となるときは、その全てを居住用部分として取り扱うことができる。 【図6】 (1) 家屋のうち被相続人の居住の用に供されていた部分〔D〕の計算 (2) 土地等のうち被相続人の居住の用に供されていた部分〔D’〕の計算 ▷措通35-16(相続時から譲渡時までの利用制限) (内容) 被相続人の居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除は、相続時から譲渡時まで「事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」を要件としているが、この要件の判定に当たっては、たとえ一時的な利用であっても、「事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていた」こととなる。 また、「貸付けの用」には、無償による貸付けも含まれる。 ▷措通35-17(被相続人居住用家屋の敷地等の一部の譲渡) (内容) 相続等により取得した被相続人居住用家屋の敷地等の一部を区分して譲渡した場合には、次のように取り扱う。 ▷措通35-18(対象譲渡について特別控除を適用しないで申告した場合) (内容) 対象譲渡をした場合において、被相続人の居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除を適用しないで確定申告書を提出したときは、その後更正の請求をし、又は修正申告書を提出する場合であっても、特別控除を適用することはできない。 ▷措通35-20(譲渡対価の額が1億円を超えるかどうかの判定) (内容) 譲渡対価の額が1億円を超えるかどうかの判定は、次により行う。 ▷措通35-21(居住用家屋取得相続人の範囲) (内容) 「居住用家屋取得相続人」には、被相続人の居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除の適用を受ける個人のほか、その相続等により被相続人居住用家屋のみ又はその敷地等のみの取得をした相続人も含まれる。 したがって、例えば、被相続人居住用家屋の敷地等のみを相続等により取得した者が、その相続時から特別控除の適用を受ける者の対象譲渡をした日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに行ったその敷地等のみの譲渡も適用前譲渡又は適用後譲渡に該当する。 ▷措通35-23(適用後譲渡の判定) (内容) 居住用家屋取得相続人が行った譲渡が適用後譲渡に該当するかどうかの判定をする場合において、被相続人の居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除の適用を受ける個人が複数いるときは、各人の対象譲渡ごとに行う。 ▷措通35-25(適用前譲渡又は適用後譲渡をした旨の通知がなかった場合) (内容) 被相続人の居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除の適用を受けようとする者から対象譲渡をした旨の通知を受けた居住用家屋取得相続人で適用前譲渡をしている者又は適用後譲渡をした者から、その対象譲渡をした者に対する通知がなかったとしても、その適用前譲渡に係る対価の額又は適用後譲渡に係る対価の額を含めた譲渡対価の総額が1億円を超えることとなったときは、特別控除の適用は受けられない。 (了) ↓お薦め連載記事↓
2016年8月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.182を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第26回】 「租税法の解釈③」 -税務形式基準と事実認定- 税理士 山本 守之 1 税務形式基準の問題点 税務にはさまざまな形式基準が存在します。いわく、「交際費等とならない昼食の程度は1人当り5,000円まで」「適正な役員の退職給与は功績倍率3まで」「従業員の慰安旅行は3泊4日まで」「相当の地代は相続税評価額の6%程度」等々数え上げればきりがないほどです。 形式基準は実務や調査担当者にとってはまことに便利なもので、「この基準に従ってさえいれば税務調査において否認がされることはない」と受け取られています。また、このような基準が存在することが税務執行の公正を維持することに役立っていると説く者もいます。 しかし、これらの基準はいずれも法令によって定められたものではなく、一方的に通達に書かれたものや、内部通達で決められていて一般には公表されていないものもあります。さらに、通達にも書かれていないで、何となく税務執行の基準となっているものさえあるのです。 形式基準によって画一的に律することは、便利さとある意味での公平には役立つことかもしれませんが、反面、企業の実情を無視したり、特殊性を排除したりすることによって、かえって課税の公平をそこなうことにもなりかねません。 さらに大きな問題点は、大多数の納税者の法令解釈権を奪って限られた人たちによって作られていることです。公平な課税は納税者と税務当局との信頼のうえで成り立つもので、法令解釈も両者の対話のなかから生まれたものでなければならないはずです。 このような思いから、税務形式基準に対して理論と実務面からメスを入れてみることにしました。 (1) 法令上別段の定めとして置かれているもの 担税力に応じた課税標準の算出を指向する税務においても、さまざまな形式基準が存在しますが、その内容を区分してみると次のようになります。 これらのうち①は、法規約解釈として置かれているもので、もっとも有権的なものですから、法令自体を変えない限り反論の余地はありません。論評しようとすれば、立法論となってしまうわけですから、税務調査において納税者が不合理な規定であると主張するわけにはいかないのです。 (2) 通達に示されている形式基準 ②の通達上の形式基準とは、法令上の規定に対して課税庁が解釈に関する一般的基準として発遣した通達に示されているものです。 例えば、法人税法施行令第137条では、借地権等を設定して他人に土地を使用させた場合に、通常収受すべき権利金を収受しないときでも、「土地の価額に照らして当該使用の対価として相当の地代を収受しているときは、当該土地の使用に係る取引は正常な取引条件でされたものとして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算するものとする」と規定しているだけで、相当の地代はどのような要素によって計算するかを具体的に示していないのです。 (注) 土地の価額が相当の地代の要素になることは条文上も明らかですが、その「価額」が売買等の取引に関して付される価額であるのか、使用収益される場合に資本価値として計算される価額なのかの問題が残るでしょう。 この条文を受けて法人税基本通達13-1-2では「使用対価としての相当の地代」を定めていますが、ここでは「・・・当該土地の更地価額のおおむね年6%程度」としています。これが通達上で示された形式基準です。 (注) 上記における「更地価額」は、取引時価のほか課税上弊害がない限りは、地価公示価格から合理的に算定した価額又は相続税評価額又は相続税評価額の過去3年平均額でもよいこととされています。 ただ、この通達では「・・・おおむね年6%程度のものであるときは・・・相当の地代に該当するものとする」としているので、相当の地代の具体的定義や計算方法を示しているのではなく、どのような方法によって計算した金額であろうと、それが更地価額のおおむね年6%程度のものであったときは、施行令第137条に規定する相当の地代としてその取引が合理的なものと認めなさいと下級官庁に命令しているのです。 つまり、収受地代が更地価額のおおむね年6%程度であるときは、施行令第137条に規定する相当の地代の1つと考えようとしているに過ぎず、これだけが相当の地代の判定基準というわけではないのです。 (3) 税務執行上の形式基準 ③の税務執行上の形式基準は、成文化されていないものでありますが、現実の税務調査において税務職員から示されるものや実務家の間で何となく「ここまでの金額は大丈夫」といった視点からささやかれているものであり、法令上の規定や通達上の表現に対する作られた形式基準といえます。 法令上の規定に関する形式基準の例として、過大役員退職金があります。法人税法第36条では損金経理によって支給した役員退職給与のうち「不相当高額」な部分は損金の額に算入しないことを明らかにしています。 この場合の不相当高額の判定基準は同法施行令第72条で「当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給状況等に照らし・・・」としているだけで、具体的な計算方法を示しているわけではありません。 このため、実務家の間で従来から比較的適用の多い功績倍率方式を適用し、功績倍率は3.0が適正といった形式基準がささやかれています。これは、裁判例、裁決例等を参考にしていることも事実でありますが、現実の税務調査で「功績倍率3.0を超える部分を修正してほしい」という指摘があることも否定できません。 (4) 税務形式基準の持つ問題点 税務上の形式基準には利点と欠点があります。利点は、一定の形式基準によって判断すれば、多くの納税者を公平に扱うことができますし、税務申告をする側においても、これを調査する側においても簡便に処理することができるということです。 しかし、逆に、法令によらない形式基準は、納税者の個別的な事情を配慮しないままに、法解釈の限界を超えて、実質的に「法律」を作り上げてしまうという結果にもなりかねません。形式基準の限度内に収まる納税者にとって便利なものであるかもしれませんが、個別的事情を異にする納税者の権利を犯すことにもなるものです。 形式基準がなければ税務執行ができないというのであれば、新たに適正な手続きによって法律を制定すればよいのです。 2 役員給与・退職給与の高額判定 【問題点】 国側の主張は、比較法人の抽出について給与の最高額を抽出しさらにこれを平均額をもって計算すべきであるというものです。 納税者の主張は、比較法人の抽出が相当でないので、その最高額を超える分が不相当高額とはいえないというのです。 他法人との比較では、職務の内容からみて、最高額比較法と平均額比較法がありますが、納税者は最高額でも適正でないものがあるというのです。これは抽出された者が比較当事者よりも給与が低い者があるからです。 ②の納税者主張の「また」書きについては、次のような法人税法第34条2項は死文化しているというのが納税者の意見です。 「不相当に高額なもの」には実質基準と形式基準があり、そのいずれにも該当する場合には、そのうちいずれか多い額が損金不算入となります(令70①一)。 【検 討】 〈役員給与〉 裁判所では納税者の役員らの職務の内容は、酒類の製造及び販売等を目的とする一般的な法人の役員において想定される職務内容を超えているとは認められません。 つまり、納税者は比較法人の抽出額よりも高額である法人を参考とすべきとしましたが、裁判所は「一般的役員の職務内容を超えていない」と判断したのです。 さらに「本件事業年度では、その前に比して売上総利益、営業利益、経常利益はいずれも減少し、使用人に対する給与の状況に変化はないのに、役員給与総額のみが上昇している。そして、処分行政庁において抽出した類似法人の役員給与等の状況等にも照らすと、類似法人の役員給与の最高額を超える部分は、不相当に高額であるというべきである。」として更正処分を是としたのです。 〈退職給与〉 一方、退職給与については、「不相当高額」なものはないとして納税者が勝訴しました。 筆者としては、「不相当高額」について、比較法人の功績倍率法など用いること自体に問題があると思います。 また、他法人と比較して算術的方法により「不相当高額」を算定する方法にも問題があると思います。この場合、課税庁が算術的手法を用いてよいかを租税法の解釈として問題視したいです。 退職給与の適正額を計算する際に裁判所で適用する方法は「平均額法」と「最高額法」があります。 しかし、本件の場合は、 として、この部分は納税者勝訴を言い渡しています。 つまり、退職給与の適正額や不適正額を功績倍率法等で検討する以前に、職役員の会社に対する貢献度からみて不適正分を比較すること自体を否定したのです。 【結 論】 役員給与が高額か否かを考える際に「裁判所」では、平均額法と最高額法がありますが、一般的に平均額法を適用されることが多いです。しかし、平均額法は、比較金額が多いものは全て損金の額に算入されないので、納税者が判決に不満を持つことが多いのです。 本件では最高額法を選んでいますが、比較法人の抽出に問題があり、更正処分を維持したことに不満があります。 従来の訴訟では、課税庁が「役員給与や退職給与が不相当高額」であるとして更正し、判決で不相当高額であるか否かを検討していました。しかし、ここで取り上げた事例では、役員給与が不相当高額か否かを最高額を適用して更正処分を容認し、退職給与については「不相当高額」を検討すること自体を否認して納税者の申告を認めたのです。 3 建物の一部除却の場合の計算 【問題点】 法人がマンション等を取得する場合の取得価額には、建物全体、給排水、ガス、衛生設備、空調設備等は見積書で区分している場合と、していない場合があります。筆者の事務所(東京都港区ニュー新橋ビル)の場合は東京都が建設し、分譲したものですので、次のように東京都に取得価額を照会し区分しています。 例えば、区分所有の取得価額5,000万円の消火設備については、次のように計算できます。 事例の場合は建築主が営利法人ではなく、地方公共団体である東京都であったため、上記の通り取得価額を区分することができたのです。 合理的に区分するには、類似建物の1㎡当りの部分別単価積算表によることもできます。 【検 討】 事例の場合は建物のうち、調理場部分と浴室部分をリニューアルしたということですが、その際に両部分の除却部分の帳簿価額が明らかではありません。 このような場合は法人税基本通達7-8-3で個別耐用年数を基礎とする未償却残額等を認めるとしていますが、除却部分の取得価額が明らかでなければこれは使えません。 そこで、税務部門では次の方式による除却を認める等が伝えられています。 しかし、この手法による資本的支出が再取得の割合と同じ前提になければ成立しません。 例えば、旧調理場の割合が建物の10%となると、資本的支出額を10で除したのが新しい調理場の取得価額割合と同じであるという前提です。旧建物の場合は調理場の割合が低く、新調理場は新しい料理を作るので拡張していれば、その点を考慮されなければならないでしょう。 建物全体の帳簿価額は分かっていますが、その一部を抽出する場合に「建物簡易評価基準」(日本損害保険協会)を使う手もあります。 この場合の「簡易評価基準」は次の通りです。 このほか、建物の「標準建築費指数」「木造建築費指数」「損害保険における時価」「類似建物の建築費」「鑑定評価による手法」「部分単価積算法」などがあります。民間の知恵による建物の特定部分の取得価額を区分する方法は数多くありますので、それを「合理的な手法」とします。 【結 論】 具体的には建築会社に建物を再取得した場合の見積書を簡易な形で作ってもらい、例えばそれが2億円で、調理場、浴室部分をそれぞれ1,500万円、500万円で、建物全体の帳簿価額が、1億円であるとすれば、次のように計算できます。 上記の金額が除却金額です。 簡易な見積りが困難な場合は、統計上の建物区分指数等を使う手があります。 いずれにしても区分計算していない場合の各区分された帳簿価額を合理的な手法で算出すべきですので、これは民間の仕事です。 固定的な計算手法を官僚が定め、納税者に強制することは誤りです。 ちなみに大阪の国税不服審判所では次のようにしていました。 しかし、この区分手法は正しいとはいえません。 4 未使用資産の評価損 【問題点】 固定資産についても取得価額主義を採用していることに変わりはありません。 したがって、企業の貸借対照表に計上される金額は、非減価償却資産にあってはその取得価額を、減価償却資産にあっては取得価額から減価償却費として認められる一定のルールに従って計算した金額を控除した金額となっていました。 わが国旧商法においても、固定資産は取得価額主義を採用するとともに、毎期適正な償却を行うこととし、評価替えについては予測されることがなかった減損があった場合に限ってこれを認める立場をとっています(旧商法34二)。 そこで、法人税法においても、原則として評価損の計上を禁止し、減価償却資産にあっては償却のルールのなかで減価を行うこととしていますが、非減価償却資産及び減価償却資産であっても取得の時において全く予想し得なかった特定の事実が生じたときには、評価損の計上を認めることとしているのです。 【検 討】 固定資産について評価損の計上ができる特定の事実とは次のようなものであり、これは旧商法における「予測スルコト能ハザル減損」に相当するものと認められるのです(令68①三)。 法人税法施行令第68条第1項第3号では、固定資産について評価損の計上ができる事実は次のとおりとしています。 ところで、上記⑤の「準ずる特別の事実」については法人税基本通達9-1-16で次のように規定しています。 さらに、ここでいう「1年以上の遊休状態」というのは、一旦事業の用に供された固定資産が、その後何らかの事情によって長期にわたる遊休状態に陥り、減価償却が認められないような状態になっていることを意味していますが、減価償却は認められないとしても、物理的又は経済的減耗が生ずることは避けられないから、このような場合には、評価損の計上によりその損耗部分の費用を認めようというものです。 文理上から法解釈を厳しくみれば、一旦固定資産を取得しましたが、基礎工事に問題があってその固定資産を事業の用に供することができなくなり、やむを得ずそのまま放置している場合は、当該固定資産は、いまだかつて実際に事業の用に供されたことがないのですから、遊休状態にある固定資産には当たらないのです。すなわち、単に未使用の固定資産にすぎないということです。 したがって、このような場合には、形式論で見る限りは、減価償却ができないことはもちろんのこと、評価損の計上もできないということになります。 しかし、仮にやむを得ない事情により、固定資産が当初から事業の用に供されないまま放置されているとしても、物理的又は経済的減耗が生ずることは事実として否定できないところもあり、これについて全く費用化の途を閉ざしてしまうというのもはなはだ不合理です。 そこで、本通達において、事業の用に供されないまま放置している固定資産であっても、現に物理的又は経済的減耗が進行して、その価額が低下したと認められる事実がある場合には、評価損の計上が認められることが明らかにされています。 つまり、「準ずる特別の事実」は、事業の用に供されていなくても、物理的又は経済的減耗がある限り、「1年以上の遊休状態」に準ずると認められることにしたのです。 このような例は、かつて、成田国際空港の開港が遅れたため、長期にわたって放置された空港施設の事例や、ユーザーにおける脱硫装置の普及により石油精製業者におけるいわゆるローサルファプラントが不採算化し、せっかく設置した同プラントを未使用のまま放置して、ハイサルファプラントに切り換えた事例などがあります。 注意したいのは、減価償却資産について、評価損を計上する場合における期末時価については、当該資産の再取得価額(新品としての取得価額)を基礎として、その取得の時から当期末までの期間にわたって旧定率法による減価償却を行ったものと仮定した時価として計算した場合には、税務上これを認めることにしているのです。 この方法は実務界では「複成価格法」として古くから用いられていますが、再取得価額が取得価額に近いときにこの方法によるときは、評価損によって減価償却として取り戻すという効果が生じます。 未使用のため、減価償却しなかった資産を2年後に評価減した場合は次のようになります。 ここでは、評価減後のBの金額は、対象資産の取得価額を2年間定率法で減価償却したと仮定した場合の帳簿価額ですから、2年間未償却であった金額を取り戻したと同じ効果が生じます。 気になるのは、未償却資産の償却費を取り戻したい時期を選んで評価減を計上するという節税手法に利用されないかということです。 【結 論】 「未使用資産」であっても、その資産が減耗している限りは「評価損」の計上が認められます。「1年以上の遊休」を言語学的にみれば、一旦事業の用に供し、その後「遊休」となったことを意味し、はじめから未使用のものは含まれません。 しかし、その資産が減耗しており、評価損の計上を是とする場合は、はじめから遊休状態を含めて考えて「遊休」の意味を広く解釈してもよいと考えて法人税基本通達9-1-16を置いたのです。 5 旧建物除却と有姿除却 【問題点】 (1) 建物 木造モルタル造の建物は鉄筋コンクリート造の建物を取得するために取り壊したという視点からみれば、旧建物の帳簿価額及び取壊し損は新建物の取得価額に含めるという考えができないものでもありません。 しかし、建物の取得価額を規定した法人税法施行令54条はどのように規定しているか検討してみる必要があります。 木造モルタル造の建物を取り壊し、その跡地に新築した鉄筋コンクリート造の建物の取得価額は、次の①と②の合計額です(令54①一・二)。 「取得価額とは何か」を法令で調べることなく、大学の「税務会計」で得た知識で「木造モルタル造の建物は鉄筋コンクリート造の建物を造るために取り壊した」という理由でその帳簿価額を新建物の取得価額とする考え方をする調査官が多いのです。 (2) 有姿除却 固定資産を解撤、破砕、破棄をしなくても次の場合は有姿除却として処理することが認められています(法基通7-7-2)。 事例の場合は、①に該当するものとして差し支えないか否かの検討が必要です。 【検 討】 (1) 旧建物の帳簿価額 旧建物の帳簿価額を新建物の取得価額に含めるという考え方は法解釈を拡張すぎるもので、勝手な解釈の前に法令規定から入るべきです。 現に法人税法施行令54条の規定(取得価額を定めた)からは取壊し損や旧建物の帳簿価額を新建物の取得価額に含めると読み取ることはできません。 このため、法人税基本通達では、次のような取扱いを置いて、取り壊した建物の帳簿価額及び取壊し損を損金の額に算入することを容認しています。 (2) 有姿除却の考え方 使用を廃止していますが、解撤、廃棄、破砕を行っていない資産についても、既に固定資産としての命数や使用価値が尽きていることが明確なものについて、現状有姿のまま除却処理を認めようするのが「有姿除却」です。 電力需要に比べて供給力が過大となったため、低効率の発電設備の使用を廃止し、「有姿除却」として除却損を計上した電力会社(中部電力)に対して課税庁が除却損を否認し、更正したことについて争われていた事件ですが、物理的に廃棄されていない状態で除却損を認めるという考え方は、通達の有無にかかわらず企業経営面から経済的観察をするという法解釈のあり方を学ぶことができます。 (3) B社の場合 B社の場合は、中部電力の裁判例と同様に大型設備の有姿除却をする場合に、その設備の使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供される可能性がほとんどないことを立証しなければなりませんが、その立証方法は物理的な方法だけでなく、経済的な理由も考慮すべきです。 【結 論】 中部電力事件では、有姿除却をした固定資産について、次の経済的観察から見て再稼働の可能性がないことを立証し、納税者側が勝訴したという事例があります(東京地判平19.1.31、Z888-1215)。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第7回】 「別表6(18) 特定中小企業者等が経営改善設備を 取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、複数の書き方パターンがある様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していくことにする。 第7回目は、一般的な書籍等では解説される機会があまり多くないものの中から、「別表6(18) 特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、平成25年度税制改正において創設された、中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の30%の特別償却又は7%の税額控除(いわゆる商業・サービス業・農林水産業活性化税制)のうち、税額控除を適用する場合に記載する。 本制度の税額控除は、中小企業者等のうち資本金が3,000万円以下の法人(特定中小企業者等という)について、認定経営革新等支援機関等(※)からアドバイス(経営の改善に関する指導及び助言)を受け、そのアドバイスの中で経営の改善に資する資産であるとして指導及び助言を受けた器具及び備品又は建物附属設備を 平成29年3月31日までに取得等して、指定事業の用に供した場合に、アドバイス機関からのアドバイスを受けた旨を明らかにする書類の写しを納税申告書に添付することで、その取得価額に7%を乗じた金額を法人税額から控除できる(当期の法人税額の20%が上限)ものである。 (※) 認定経営革新等支援機関等とは、中小企業等経営強化法第21条第2項の認定経営革新等支援機関及びこれに準ずる一定の法人(商工会議所、商工会など、指導及び助言を行うことができる法人として厚生労働大臣等が財務大臣と協議して指定するもの)をいう。 指定事業は以下の通り。 適用の対象となる資産の要件は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)別表第1に規定されているもののうち、次の通りとなっている。 なお本制度の適用を受けようとする法人が、指定事業と指定事業以外の事業とを営む場合に、その取得等をした経営改善設備をこれらの事業に共通して使用しているときは、その全てを指定事業の用に供したものとして本制度の適用を受けることができる。 Ⅲ 「別表6(18)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成28年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 〔法人税額の特別控除額の計算〕 〔翌期繰越税額控除限度超過額の計算〕 なお、上述の通り、アドバイス機関からのアドバイスを受けた旨を明らかにする書類の写し(下記参照)の添付も必要となる。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例41(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆特定新規設立法人の納税義務の免除の特例(消費税法12条の3第1項) 平成26年4月1日以後に設立される資本金1,000万円未満の新規設立法人のうち、その新規設立法人のその新設開始日の属する事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高として一定の方法により計算した金額が5億円を超えるような大規模事業者(個人を含む)にその発行済株式の50%超を保有されているもの(以下、「特定新規設立法人」という)については、その基準期間がない設立1期目及び設立2期目については納税義務は免除されない。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第34回】 「外国通貨により表示された記載金額等」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は、国外の法人との取引が多く、外国通貨により契約等を結ぶ場合があります。 この場合、外国通貨により表示された契約書や受取書の記載金額はどのように算出することとなりますか。 外国通貨により表示された記載金額は、契約書等の作成時の円建てに換算した金額が記載金額となる。その際の円建てに換算する方法は、契約書等作成時における基準外国為替相場又は裁定外国為替相場を使用する。 [検討1] 記載金額とは 印紙税法上の記載金額とは契約金額、券面金額その他当該文書により証されるべき事項に係る金額として当該文書に記載された金額である(通則4)。 記載された金額が外国通貨により表示されている場合、表示された外国通貨に応じて、文書作成時の基準外国為替相場又は裁定外国為替相場により、本邦通貨に換算することとなる(通則4のヘ)。 [検討2] 基準外国為替相場及び裁定外国為替相場の入手方法 基準外国為替相場及び裁定外国為替相場については、日本銀行のホームページにおいて、毎月公示されている。 ▷ まとめ (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q8】 「外国法人が発行した外貨建利付債券を譲渡した場合の取扱い」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 税務上、公社債の譲渡に対する課税について、平成27年12月31日以前は一部の割引債類似の公社債を除き、原則として非課税とされていました。しかし平成25年度税制改正により、平成28年1月1日以後は、株式と同様、譲渡益に対して課税が行われることとなりました。 なお、発行日が平成27年12月31日以前の公社債についても、譲渡日が平成28年1月1日以後の場合は、新税制が適用されます。 1 社債の分類 上述の通り、公社債の課税方法は平成28年1月1日から変更となりましたが、公社債が税務上、「特定公社債」に該当するか「一般公社債」に該当するかにより課税関係が異なります。 2 譲渡損益についての課税 (1) 譲渡益の場合 特定公社債は上場株式等の範囲に含まれます。上場株式等の譲渡に係る所得については、他の所得と区分し、上場株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下、「上場株式等に係る譲渡所得等」)として、申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)が適用されます。証券会社等の特定口座内において証券会社等により源泉徴収がなされる場合を除き、原則として申告が必要です。 (2) 譲渡損の取扱い 特定公社債の譲渡に関し譲渡損が発生した場合、上場株式等に係る譲渡所得等の範囲内での損益通算が可能ですが、上場株式等に係る譲渡所得等の計算上生じた損失については生じなかったものとみなされます(したがって、原則として他の所得(例えば、非上場株式の譲渡益)との損益通算を行うことはできません)。 ただし、一定の上場株式等に係る譲渡損失については、3年間の繰越控除及び上場株式等の配当所得等(特定公社債の利子所得を含む)との損益通算の適用が可能です(詳細については【Q2】を参照ください)。 3 譲渡損益の計算方法 上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算に当たっては、株式等の譲渡対価の額が外貨で表示されて、当該対価の額を日本円又は外貨で支払うこととされている場合は、原則として外貨で表示されている対価の金額を約定日の為替レートで換算した日本円の金額により譲渡収入を計算することとされています。 この場合に使用する為替レートは、対価の支払をする者(本件の場合、国内証券会社)の主要取引金融機関(その支払者がTTBを公表している場合にはその支払者)の当該外貨に係るTTBにより日本円に換算した金額によります。 一方、取得価額は、取得した債券の外貨金額を取得時のTTSで円換算した金額となります。なお、利付公社債(既発債)を購入する場合に、直前の利払期からその購入の時までの期間に応じた経過利子に相当する額を売買価額に含めて譲渡者に対して支払っている場合は、当該経過利子相当額は、利付公社債の取得価額に含まれます。 4 本件へのあてはめ おたずねの場合、以下の金額が上場株式等に係る譲渡所得等の金額として取り扱われます(購入手数料や売却手数料はないものとします)。 (了)
連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第9回】 「移転価格文書化制度(その2)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 (2) マスターファイル(事業概況報告事項) ① 概要 特定多国籍企業グループに係る事業概況報告事項の提供義務者である法人は、多国籍企業グループに係る事業概況報告事項を、 最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax) により、税務署長に提供しなければならないこととする(措法66の4の5①)。 (*) ② 提供義務者 事業概況報告事項の提供義務者は、特定多国籍企業グループの構成会社等である内国法人又は構成会社等である恒久的施設を有する外国法人となる(措法66の4の5①)。 つまり、国別報告事項の提供義務者と同一の者となる。 なお、事業概況報告事項の提供義務者に該当する内国法人又は恒久的施設を有する外国法人が複数ある場合は、当該内国法人又は恒久的施設を有する外国法人のいずれか1法人が代表して事業概況報告事項を提供すればよい(措法66の4の5②)。 この場合、当該1法人が、次に掲げる事項を、最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax) により、所轄税務署長に提供する必要がある(措法66の4の5②、措規22の10の5③)。 (*) ③ 報告事項 事業概況報告事項は、次に掲げる事項をいう(措法66の4の5①、措規22の10の5①)。 ④ 使用言語 日本語又は英語(措規22の10の5②)。 ⑤ 提供義務の免除 直前の最終親会計年度における多国籍企業グループの連結財務諸表における総収入金額(売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額。連結財務諸表がない場合には、多国籍企業グループの財産及び損益の状況を明らかにした書類に基づいて計算した当該合計額に相当する金額)が1,000億円未満である場合における当該多国籍企業グループについては、国別報告事項の提供義務が免除される(措法66の4の4④三、措法66の4の5①、措規22の10の4⑦)。 つまり、国別報告事項の提供義務の免除と同一の要件となる。 ⑥ 提供期限 最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内(措法66の4の5①)。 つまり、国別報告事項の提供義務者と同一の期限となる。 ⑦ 適用時期 平成28年4月1日以後に開始する最終親会計年度に係る事業概況報告事項について適用する(平成28年所法等改正法附則1、98⑥)。 つまり、国別報告事項の提供義務の適用時期と同じく、連結親法人の平成29年3月期の事業概況報告事項について、平成30年3月31日までに税務署長に提供する必要がある。 ⑧ 提供義務の担保策 国別報告事項を提供期限内に税務署長に提供しない場合は、30万円以下の罰金に処する(措法66の4の5③④)。 * * * 次回はローカルファイルについて解説する。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第21回】 「実質主義②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、実質主義の定義を示すとともに、東京高裁昭和47年4月25日判決について解説を行った。本判決以降は、経済的実質主義は認められない傾向が強くなったと言われているが、その後、どのような判決が下されていったのかについて解説を行うこととする。 3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431) (1) 事実の概要 本事件は、所得税関係においては、原告及び被相続人が所有していた土地等の譲渡所得の計算における譲渡収入金額の計算が、相続税関係においては、被相続人の相続財産のうち租税特別措置法69条の4に規定する相続開始前3年以内に取得した土地等に係る評価の特例が適用される土地等の取得価額がそれぞれ争われた事件である。 本事件の内容は複雑であるが、原告らから訴外法人に対して7億3,313万円で不動産を譲渡し、同日、訴外法人から原告らに対して4億3,400万円で譲渡し、差額の2億9913万円が訴外法人から原告らに対して支払われた。この点につき、課税当局が補足金付交換契約であるとして争った事件であると理解しておけば十分であろう。そのため、相続税関係においては、時価についての争いもなされているが、本稿においてはその部分についての解説を省略するものとする。 なお、平成15年6月13日にて、最高裁から上告不受理の決定がなされている(TAINSコード:Z253-9367)。 (2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161) (3) 控訴審 (4) 評釈 このように、第一審では、経済的実質主義による補足金付交換契約であるという主張が認められたが、控訴審は認められなかった。さらに、控訴審では、 とまで認定している。 このように、税負担を軽減する意図があったとしても、経済的実質主義による修正は認められないとした点は注目に値する。無論、税負担の軽減の意図は、裁判所や課税庁に対して租税回避が行われたことを疑わせるに十分な心証を与えるものであるが、十分な証拠も無く、法形式を引き直すことは認められないというべきであろう。 これに対し、法的実質主義による法形式の引き直しは認められているという点には留意が必要である。すなわち、仮装取引、通謀虚偽表示に該当する事案であれば、課税庁の主張が認められた可能性が高いということが言える。ただし、本事件では、そのような事情が認められなかったことから、納税者の主張が認められる結果となっている。 次回では、大阪高裁平成14年10月10日判決について解説を行う予定である。 (了)
〈業種別〉 会計不正の傾向と防止策 【第1回】 「自動車部品製造業」 公認会計士・税理士 中谷 敏久 どのような業種業態か? 自動車部品製造業は自動車産業の中では“サプライヤー”と呼ばれ、トヨタ、日産、ホンダなど日本を代表するメーカーに部品を供給している。 メーカーは国内外の競争に打ち勝つため徹底したコスト管理をしており、サプライヤーも当然のごとく毎年コスト削減が求められる。それに対応すべく生産設備の新規導入や生産体制の見直し改善が実施され、また、国外に安い労働力を求めて、東南アジア等に現地子会社を設立し、当該工場から現地のメーカーに部品を供給する体制を敷いているサプライヤーは多い。 ただし、このような生産効率が優先されるあまり、間接コストとしての経理事務作業は軽視され、対応が後手に回るケースが多いのも現状である。 どのような不正が起こりやすいか? メーカーから絶えず品質面及びコスト面で高いレベルを要求されるため、必然的に生産管理体制の構築は社内の優先目標のひとつとなる。また、計数管理手法として管理会計が重要視され、原価計算及び損益管理に関する会計情報には関心を持つが、逆に過去情報としての財務会計には無関心である経営者は少なくない。 そのため、業容拡大によって事務量が増加しているにもかかわらず、生産活動に支障をきたさないということでその対策を怠り、旧態依然として手作業によって会計情報を集計しているケースが見受けられる。 ここに会計不正が発生する原因がある。 不正が発生する項目は会社によってまちまちであるが、一般的に生産ラインと結びついた会計情報からは発生しにくい。なぜなら、これらの会計情報に不正情報が含まれるとすると、生産活動が混乱する可能性があるからである。 例えば、売上高、材料仕入高、外注加工費、棚卸資産といった項目は不正が発生しにくい。それに対して、固定資産の取得、移動、除却、売却に関する処理は不正リスクが高くなる。なぜなら、生産に必要な固定資産が実在し現実に稼働していれば、たとえそれらに関して不正な会計処理がなされていたとしても、生産活動には全く影響がないからである。 事例検証 平成21年3月10日に公表されたフタバ産業(株)(東証1部)の不正事例を紹介する。 社内調査委員会の調査報告書によると、下記に示すような固定資産に関する不正な会計処理が長期間にわたって行われていた。 ①については、量産開始後は国内生産用金型・設備等について建設仮勘定から本勘定へ振替すべきところ、量産開始後も建設仮勘定のまま計上し、減価償却を失念したというものである。 金型・設備等の製作については外製の場合と内製の場合とがあるが、どちらの場合においても発注段階でオーダーナンバーを設定し、そのナンバーをキーにして検収処理、建設仮勘定への計上、本勘定への振替を行うケースが実務上多い。 調査報告書によると、オーダーナンバーの付け方の要領書が難解で、誰にでも容易に間違いなく付番できるものではなかったとされている。 ②については、一見すると仕掛品の処理であり、固定資産に関するものではないように見られるが、そうではない。海外子会社に売却する金型・設備等ということで仕掛品勘定を用いただけであり、実態は金型・設備等という固定資産そのものである。 海外子会社に金型・設備等を輸出する場合、実務上は輸出手続としてパッキングリストが作成され、船積みされるまでの間、海運業者の倉庫に保管される。したがって、一般的には輸出売上に対応する売上原価の把握はそれほど難しいものではないが、調査報告書によると、仕掛品から売上原価に振り替えるために必要な作番(設備ごとの材料・部品の通し番号)の付け方の要領書が難解で、誰にでも容易に間違いなく付番できるものではなかったとされている。 ③の「据付調整費」とは、金型・設備等の性能確認・調整等の費用であり、機械装置の取得原価に加算するか、あるいは「生産能率の向上又は生産計画の変更等により、設備の大規模な配置替を行った場合等の費用」(財務諸表等規則ガイドライン36項5号)として、繰延資産である開発費に計上する。 しかし、今回のケースは、その処理を裏付ける会計証憑が保存されていないにもかかわらず、建設仮勘定に計上するという不正な会計処理がなされたものである。 * * * これらの不正会計が発生した原因として、調査報告書では、国内需要の急速な拡大、海外への急速な進出、工場改革計画の遂行による急速な投資の実行により、従来の業務フローでは対応できないほど業務量が拡大したにもかかわらず、経理部等の管理部門の効率化が思うように進まず、金型製造部門及び購買部門との連絡体制に不備が生じたためとしており、今回の不正な会計処理が意図的に行われたものではないとしている。 ただし、意図的でないにしても、総額700億円を超える不正会計が長い間修正されることなく放置されてきたことは不思議でならない。 不正の防止策 前半で述べたように、この業種では、業容拡大によって事務量が増加しているにもかかわらず、生産活動に支障をきたさないということでその対策を怠り、旧態依然として手作業によって会計情報を集計している場合に、会計不正が発生しやすい。固定資産の取得、移動、除却、売却に関する会計情報の集計には、システム化されてはいるものの、売上高等の生産ラインと結びついた会計情報のそれと比べると、手作業の感が否めないケースが少なくない。 このような手作業に起因する会計不正を防止するためには、内部統制を強化することが必要である。ただし、単にチェック人員を増加させるだけでは不十分であり、社内でどのような取引が発生しているのか、実務担当者が取引実態を正確に把握すべきであろう。 そして、その取引実態の把握に基づいて会計情報の集計手続を標準化することが求められる。 同様の不正が起こりうる業種業態は? 製造業は、製品を生産するために金型・設備等に多額の投資を必要とする。特に、需要の変化に対応するために絶えず生産体制の見直しを求められる業界にあっては、金型・設備等の動きが激しい。ある意味で固定資産が流動資産化しており、同様の不正が起こりうる可能性が高いと言える。 (了)