経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第110回】 圧縮記帳② 「保険差益」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 1 直接減額方式 ① 保険金の受領時(X1年8月) ② 機械装置の取得時(X1年10月) ③-1 決算時(X2年3月末) (圧縮損の計上) (※1) 圧縮限度額=保険差益3,500,000(※3)×代替資産の取得に充てた金額6,000,000/改定保険金の額7,500,000(※2)=2,800,000 (※2) 改定保険金の額=保険金の額8,000,000-滅失経費の額500,000=7,500,000 (※3) 保険差益=改定保険金の額7,500,000(※2)-滅失資産の帳簿価額4,000,000=3,500,000 (減価償却費の計上) (※4) (取得価額6,000,000-圧縮限度額2,800,000)×0.333×6ヶ月/12ヶ月=532,800 2 剰余金処分方式 (①及び②は、直接減額方式を適用した場合と同じ。) ③-2 決算時(X2年3月末) (圧縮積立金の積立) (※5) 税効果の額=圧縮限度額2,800,000×35%=980,000 (※6) 圧縮積立金=圧縮限度額2,800,000-税効果の額980,000(※5)=1,820,000 (減価償却費の計上) (※7) 取得価額6,000,000×0.333×6ヶ月/12ヶ月=999,000 (圧縮積立金の取崩) (※8) 圧縮積立金の取崩額(税効果考慮前)=圧縮限度額2,800,000×0.333×6ヶ月/12ヶ月=466,200 (※9) 税効果の額(取崩)=圧縮積立金の取崩額(税効果考慮前)466,200(※8)×実効税率35%=163,170 (※10) 圧縮積立金(取崩)=圧縮積立金の取崩額(税効果考慮前)466,200(※8)-税効果の額(取崩)163,170=303,030 〈会計処理の解説〉 固定資産に係る国庫補助金、保険差益、交換差益等は、原則として益金となり課税所得を構成しますが、これを原則どおりに課税すると様々な弊害が生じます。 例えば、火災等により法人の保有する資産が滅失または毀損したため、取得した保険金をもって被害を受けた資産に代わる同一種類の資産を取得しようとしたときに、その差益部分(保険差益)に対して課税すると、代替資産の取得ができなくなり、災害からの復旧が困難になるおそれがあります。 このような事態を防ぐために、法人税法等では、圧縮記帳という制度が設けられています。 本事例で取り扱っている保険差益については、火災等による固定資産の滅失または損壊により保険金等の支払を受け、その保険金等をもって被害資産と同一種類の固定資産を取得または改良した場合に、取得または改良に充てられた部分について圧縮記帳の適用が認められます。 損金算入できる圧縮限度額は、保険金が支払われた事業年度末までに代替資産を取得している場合、以下の算定式により計算されます(法人税法第47条第1項、法人税法施行令第85条)。 保険差益の圧縮記帳の方法としては、 があります。 (なお、直接減額方式により取得価額を直接圧縮することは、取得原価主義に基づく費用の適切な期間配分の観点から適切ではないため、会計上は剰余金処分方式が望ましいと考えられます。) 本事例において、当社はX1年8月に保険金の支払いを受け、その保険金をもって同年10月に滅失資産と同一種類の代替資産(機械装置)を取得しています。そこで、保険金の支払いを受けたX1年8月に雑収入8,000,000円を、代替資産を取得した同年10月に機械装置6,000,000円をそれぞれ計上します(①及び②の仕訳)。 また、本事例では、保険金が支払われた事業年度末までに代替資産を取得しているため、圧縮限度額は以下の算定式で求めます。 決算時における処理は、1 直接減額方式及び2 剰余金処分方式ともに、国庫補助金の圧縮記帳の決算時の処理と同様の会計処理となります(前回を参照)。 * * * 次回は、圧縮記帳の会計処理のうち、交換について解説します。