中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第3回】 「老齢基礎年金を受給するための要件」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 国民年金から支給され老齢基礎年金は、受給に必要な期間(受給資格期間)を満たしたときに65歳から支給される。 1 受給資格期間 老齢基礎年金を受給するためには、公的年金(国民年金、厚生年金保険、共済年金)の被保険者期間(※)が25年以上必要である。これを「受給資格期間」という。 (※) 「被保険者期間」とは加入期間のことをいい、月単位で、その年金制度に加入した月から加入しなくなった月の前月までの期間である。例えば、厚生年金保険の場合は、入社した月から退職した日の翌日が属する月の前月までが被保険者期間になる。 老齢基礎年金の受給資格期間は、下記のとおり様々な期間が合算される。 2 公的年金の加入期間 次の期間を合算したものである。 ① 保険料納付済期間 第1号被保険者として保険料を納付した期間のほか、厚生年金保険の被保険者期間である第2号被保険者期間(20歳以上60歳未満の期間)や第3号被保険者期間も含まれる。 (※) 第1号被保険者等については【第1回】参照。 ② 保険料免除期間(第1号被保険者のみ) 障害基礎年金・障害厚生年金等の受給権者や生活保護法による生活扶助を受けている人(法定免除)及び、低所得等により保険料の納付を免除されている人(申請免除)の加入期間である。申請免除の場合は、その人の所得により「全額免除期間」「4分の3免除期間」「半額免除期間」「4分の1免除期間」の4種類がある。 なお、第2号被保険者(厚生年金保険・共済年金の加入者)及び第3号被保険者は、個々に保険料の負担をしていないので、保険料免除期間は生じない。 ③ 合算対象期間(カラ期間) 年金額には反映されないが、受給資格期間には算入されるものをいう。 厚生年金保険の昭和36年4月以降の被保険者期間のうち20歳前や60歳以後の期間、サラリーマンの配偶者で昭和36年4月1日から昭和61年3月31日まで任意加入期間中に任意加入しなかった期間(20歳以上60歳未満の期間)等がある。 3 受給資格期間の特例(厚生年金保険・共済年金の被保険者期間の特例) 厚生年金保険に加入している人は、保険料の滞納がない。被保険者期間がそのまま受給資格期間になる。したがって、厚生年金保険に25年加入すれば受給資格期間を満たすことができる。 昭和31年4月1日以前に生まれた人は、共済年金及び厚生年金保険の年金の被保険者期間が20年から24年以上(単独、合算いずれも可)あれば、公的年金の被保険者期間が25年以上なくても、受給資格期間を満たすことができる。 4 受給資格期間の改正(平成29年4月1日施行予定) 老齢基礎年金の受給資格期間が、平成29年4月1日以降、現在の25年から10年に短縮される予定である。 《おさらいQ&A》 (了)
《速報解説》 会社法及びコーポレートガバナンス・コードを踏まえた「監査役監査基準」及び「内部統制システムに係る監査の実施基準」の改定案が公表 ~「監査報告のひな型」の対応及び改定スケジュールも明らかに~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月28日付で、日本監査役協会は「監査役監査基準」及び「内部統制システムに係る監査の実施基準」の改定案を公表し、意見募集を行っている。 これは、コーポレートガバナンス・コード原案の公表、会社法及び法務省令の改正などを踏まえたものである。 意見募集期間は、平成27年5月20日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 監査役監査基準の改定案 改定案は、コーポレートガバナンス・コード(原案)への対応、改正会社法及び法務省令への対応に大きく分かれている。 また、各規定の語尾について、法定事項は、原則として、「ねばならない」、「できない」に統一するなどとしている。 1 コーポレートガバナンス・コード(原案)への対応 2 改正会社法及び法務省令への対応 Ⅲ 内部統制システムに係る監査の実施基準の改定案 Ⅳ 今後の改定スケジュール ①「監査役監査基準等の今後の改定スケジュールについて」と②「監査報告のひな型改定予定等について」が公表されており、現在のところ、次のスケジュールが予定されている。 改正会社法の施行が目前の5月1日であることから、「監査報告のひな型改定予定等について」は、ぜひ、原文をお読みいただきたい。 (了)
《速報解説》 改正「中小企業の会計に関する指針」が関係4団体より公表 ~退職給付会計基準等の改正に対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月21日(ホームページ掲載日は4月27日)、「中小企業の会計に関する指針」(以下「中小会計指針」という)の改正が行われ、関係4団体(日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会)より公表された。これにより、平成27年1月14日付で意見募集されていた公開草案が確定することとなる。 今回の改正は、「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)などの企業会計基準の改正等に対応するものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 固定資産の減価償却 従来、減価償却計算に適用した耐用年数又は残存価額の修正を行う場合、過年度における減価償却累計額を修正し、その修正額を特別損失に計上するとしていた。 今回の改正により、中小会計指針では、資産の陳腐化その他一定の事由により使用可能期間が従来の耐用年数に比して著しく短くなった場合は、未経過使用可能期間(使用可能期間のうちいまだ経過していない期間)にわたり減価償却を行うこととされた。 2 退職給付債務・退職給付引当金 今回の改正により、確定給付制度、退職給付債務、確定拠出制度の用語を用いた表現に改正されている。 3 組織再編の会計 今回の改正により、「少数株主」から「非支配株主」の用語へ改正されている。 (了) ↓お薦め連載記事↓
プロフェッションネットワーク主催の税理士 笹岡 宏保氏による【1日で理解する】セミナーシリーズ。 6月17日(水)開催のお申込み受付を開始しました! 相続財産の評価のなかでも特に難解とされる【取引相場のない株式評価】において、さらに理解が難しいのが『純資産価額方式』です。 今回は、この純資産価額方式に論点を絞り、計算方法をはじめ、計算方法が争点とされた判例・裁決事例の検証までを深堀りし、理解を目指します。 前回に続き、笹岡氏の著書『平成27年3月改訂 これだけはおさえておきたい 相続税の実務Q&A』が特別割引でご購入いただけるお得なセットお申込みプランがございます! ★セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。
《速報解説》 経済産業省が「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」報告書を公表 ~企業情報開示や監査、株主総会の日程や付議事項などを総合的に検討~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月23日付で、経済産業省は、「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」報告書を公表した。 「日本再興戦略」改訂2014では、「持続的な企業価値の創造に向けた企業と投資家との対話の促進」を取り組むべき施策として掲げられている。 「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」は、平成26年9月に設置され、さらに研究会の下に「企業情報開示検討分科会」と「株主総会のあり方検討分科会」が設置されている。 研究会は、次のものとの関連を明確に意識し、報告書にも反映しているとのことである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 報告書の概要 報告書は、企業と投資家(株主を含む)が対話を通じて相互理解を深め、持続的成長あるいは中長期的な企業価値の向上という目的を達成するために、国際的に見ても質の高い対話環境を目指すべきと述べている。 このため、対話環境を形づくる様々な要素、例えば、企業情報開示や監査、株主総会の日程や付議事項、電子化の促進等を総合的に検討し、全体最適を図るための方策について述べている。 1 一体的・統合的な企業情報開示 現在、企業内容等の開示に関する規制としては、金融商品取引法、会社法、証券取引所の上場規則に基づく開示があり、開示内容によって類似する部分も見られるが、規制の種類により、異なる開示が行われている。また、アニュアルレポート等の任意開示を行う企業もある。 報告書は、投資家にとって有用な情報をより効果的かつ効率的に提供するため、一体的・統合的な企業情報開示を行うものとして、「モジュール型開示システム」という考え方を示している。 これは、開示すべき情報の全体像(一体的・統合的な企業報告の全体)を認識した上で、そこから投資家にとって必要な情報の「モジュール(まとまった構成要素)」を切り出し、適切なタイミングで提供するという考え方である。 報告書は、監査の実質的な一元化や四半期開示の一本化等についても述べている。 2 中長期的な企業価値評価・分析のための情報の充実 情報開示については、企業のビジョンや経営方針、戦略やガバナンス等が、企業の成果や財政状況、持続的な価値創造といかに結びつくのかを統合的に理解できるようにすることが重要であると考えられている。 報告書は、企業と投資家等が集まる場において、中長期的な企業価値向上に関する対話を促進するための情報開示として、中期経営計画やESG(環境・社会・ガバナンス)情報の開示、統合報告のあり方等について述べている。 3 対話型の株主総会プロセスへの転換 報告書では、株主総会に至るプロセス全体を企業と投資家の対話の一環として捉え、次のような見直しについて述べている。 (1) 株主の議案検討と対話のための適切な日程設定と情報提供 日本の株主総会は、諸外国に比して決算後早いタイミングで行われており、かつ6月下旬に集中していることから、株主の実質的な議案検討や企業との対話を行うための期間が十分ではないと認識されているとのことである。また、株主が必要とする情報が早く利用しやすい形で提供されることが求められているとのことである。 報告書は、株主総会に向けて、株主が議案検討や企業との対話を通じて理解を深めるために十分な期間の確保と適時かつ充実した情報を入手するための方策として、「対話型株主総会プロセス」を実現するための必要条件(期間や情報提供のあり方等)、総会日程やその前提となる議決権の基準日の設定を見直す際の考え方や方法などについて述べている。 (2) 電子化の促進 報告書は、株主の議案検討や対話期間を確保し、プロセス全体を効率化するとともに、統合的な情報開示を実現する観点から、株主総会プロセスにおける電子化の促進について述べている。 具体的には、①議案や招集通知に添付する書類(招集通知関係書類)の情報の早期(発送前)Web開示、②招集通知関係書類の電子化、③議決権行使の電子化の促進である。 (3) 株主の参加の円滑化等、意義ある株主総会に向けた環境整備 報告書は、機関投資家や個人株主が株主総会に参加しやすくするための方策等について述べている。 例えば、「名義株主以外の機関投資家等」が株主総会に参加する場合のガイダンスの策定、議決権行使比率の向上も含む個人株主を意識した総会運営、それ以外の機会も含む対話や情報開示の検討である。 4 企業と投資家の意識と行動、対話支援産業の役割 報告書は、企業と投資家が対話に向けた共通認識を醸成し、双方の見識・実力を高めることの重要性について述べている。 企業経営者や投資家が対話を深めるための懸念や問題等を把握し、それぞれの根拠等について検証し、明確化を積み重ねていくべきこと、また、信託銀行や証券代行、弁護士、コンサルタント、アナリスト等が、企業と投資家の対話全般を支援する「対話支援産業」としてそれぞれの役割を一層強化することへの期待が述べられている。 (了)
《速報解説》 大阪国税局より(文書回答事例)「相続があった年に遺産分割協議が行われた場合における共同相続人の消費税の納税義務の判定について」が公表 ~被相続人の基準期間の課税売上高への遡及は不要と判断~ 税理士 齋藤 和助 大阪国税局に対して「相続があった年に遺産分割協議が行われた場合における共同相続人の消費税の納税義務の判定について」事前照会があり、平成27年3月24日付で文書回答がなされ、その内容が国税庁ホームページに掲載された(掲載日:4月16日)。 1 事前照会に係る取引等の事実関係 2 照会の内容 その年において相続があった場合において、その年の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である相続人が、当該基準期間における課税売上高が1,000万円を超える被相続人の事業を承継したときは、当該相続のあった日の翌日から納税義務を免除しないとされている(消法10①)。 この場合において、2以上の相続人があるときには、相続財産の分割が実行されるまでの間は、各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱うこととされており、各相続人のその課税期間に係る基準期間における課税売上高は、当該被相続人の基準期間における課税売上高に法定相続分等の割合を乗じた金額とされている(消基通1-5-5)。 これに基づき、納税義務の判定を行うと①のようになる。 しかし、民法第909条の規定によれば、遺産の分割は相続開始の時に遡ってその効力を生ずるとされていることから、平成26年中に行った遺産の分割により、照会者は相続開始時に被相続人から3分の2の財産を相続により承継したこととなり、これに基づき、納税義務の判定を行うと②のようになる。 照会者は、消費税法第10条の適用に当たっては、事業者が、判定時点での適正な事実関係に基づき消費税関係法令等の規定に従って納税義務が判定されたものである場合にはその判定が認められるものと解するのが相当であるとして、上記①の判定で差し支えないかを事前照会していた。 3 大阪国税局の回答 これに対し、大阪国税局は、照会者の上記①の判定で差し支えないとしている。 つまり、相続開始年分に遺産分割協議が行われた場合には、その遺産分割の効力は、被相続人の基準期間の課税売上高にまで遡及しなくてよいということである。 これは、短期間に課税事業者となる納税者に対する配慮であると思われるが、以下の3要件を満たす必要があることから、実務における適用事例は限定的になると思われる。 (了)
《速報解説》 法人税率の引下げにより 純資産価額方式における法人税額等相当額を38%とする改正通達が公表 ~取引相場のない株式等の評価明細書様式も一部改正~ 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 小幡 修大 平成27年度の税制改正において平成27年4月1日以後開始事業年度より法人税の本則税率が23.9%に引き下げられたのに伴い、4月17日に国税庁ホームページにおいて「財産評価基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」が公表され、純資産価額方式における「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」の算定に用いる「法人税(地方法人税を含む)、事業税(地方法人特別税を含む)、道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する割合」が「40%」から「38%」に改正された(評基通186-2)。 1 従来の取扱い 取引相場のない株式等を評価する場合の純資産価額方式は、次の算式により計算することとしている。 (算式) この場合の「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」は、「相続税評価額による純資産価額」から「帳簿価額による純資産価額」を控除した残額に「法人税(地方法人税を含む)、事業税(地方法人特別税を含む)、道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する割合」として「40%」を乗じて計算した金額としていた。 2 改正通達の概要 (1) 法人税の税率の改正等 平成27年度税制改正により、法人税の本則税率が現行の25.5%から23.9%に引き下げられ、平成27年4月1日以後に開始する事業年度から適用することとされた。 (2) 通達改正の概要 上記(1)のとおり、法人税の本則税率の引下げにより、「法人税率等の合計相当割合」の根拠となる税率が変わることから、「法人税率等の合計に相当する割合」を「40%」から「38%」に改正することとなった。 (3) 評価明細書様式の改正 上記の改正に伴い、「「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」の一部改正について(法令解釈通達)」が合わせて公表され、次の評価明細書における「評価差額に対する法人税額等相当額」欄の記載が変更されている。 ◆「第5表 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」 ◆「第8表 株式保有特定会社の株式の価額の計算明細書(続)」 (4) 適用時期 平成27年4月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用されることとなった。 (了)
2015年4月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.116が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
〔巻頭対談〕 川田剛の“あの人”に聞く 「村井 正 氏(関西大学名誉教授)」 【後編】 〔語り手〕村井 正(関西大学名誉教授) (写真/右) 〔聞き手〕川田 剛(税理士) (写真/左) (次ページへ進む) (前ページへ戻る) (2015年2月27日東京都内にて収録) (了)
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第10回】 「「違法支出金」をどう考えるか」 税理士 山本 守之 税務会計を専攻する多くの学者が「違法支出金は必要経費(損金)に算入できない」としている論文が多く、税務の第一線でもこのような執行をしている例を見受けますが、この処理は正しいのでしょうか。 最近の国税不服審判所の裁決例(平成25年6月6日、非公開裁決、情報公開法第9条第1項により情報公開事例)で考えてみることにしましょう。 この事例で学者や課税庁が「違法支出金は必要経費(損金)にならない」としたのは、平成18年度税制改正において、公務員への賄賂の税控除を認めてはならないとする腐敗防止国連条約の国内法制の担保措置として法人税法及び所得税法が整備され、法人税法第55条(不正行為等に係る費用等の損金不算入)及び所得税法第45条第2項(公務員に対する賄賂)が整備され、所得税法においても賄賂については必要経費に算入されない旨が明文化されたからでしょう。 念のため、所得税法第45条第2項及び法人税法第55条第1項と第5項を示してみると次のようになっています。 注意したいのは、法人税法第55条と所得税法第45条の範囲が異なる点です。これは、法人税法は損金の範囲が広くなっているのに対して、所得税法では必要経費を収入を得るために直接要したものと規定した第37条の規定から家事関連費を必要経費から除外する規定(第45条)があるからです。 国税不服審判所における国と納税者の争点は次のとおりです。 本稿では、上記のうち【争点①】についてのみ述べることにします。 実は、納税者が保険契約者に払った「販売促進費」(保険料の割引分を納税者の報酬から保険契約者に払った分)は次の規定に違反している(違法支出金だ)というのです。 確かに、納税者が保険契約者に払った金は保険業法に違反するものですから課税庁が保険契約者に反面調査しても「そんな金はもらっていない」と答弁し、領収書も出さなかったのでしょう。 これに対して、納税者は販売促進費が次のように必要経費になると主張しました。 これに対して国税不服審判所の裁決では、このように述べています。 この事例について、筆者は税理士としての所見を述べてみましょう。 原処分庁の主張のうち「販売促進費の支払の事実は認められない」については、この費用は保険業法で禁止する違法な支出金ですから、保険契約者は「受け取っていない」とし、領収書も発行してなかったのです。 課税庁はこの事実を反面調査で取り上げて支払の事実はないとしています。 しかし、支出した甲の記録から支出の1時間前に甲の預金から引き出されていることが明らかであり、引出額が支出額と同額であることから支払の事実は容易に推認できたはずです。 また、保険料の値引分(販売促進費の支出)がなければ、保険契約をしないとしていた相手方の言動もあり、相手方はその後も保険契約を継続していたのですから、販売促進費(保険契約報酬から支払われた保険料の割引分)の支出を課税庁は推認できたはずです。 それを反面調査の契約相手方の答弁だけ取り上げ「支出の事実はない」と判断した原処分の判断は余りにも平面的であると非難されても仕方がありません。この点は原処分庁の調査能力が疑われても仕方がないでしょう。 次に、原処分庁で必要経費としない理由のひとつについて、「本件販売促進費の支払は、保険業法第300条第1項第5号で禁止されている行為であり、業務の遂行上、通常かつ一般的に必要であると客観的に認められるものではなく、業務関連性があるものとは認められない。」としています。 しかし、この販売促進費はバックリベート(保険料の割引分-生命保険の外務員が受ける報酬の中からの支払)という性格上、領収書もとれていないのです。 国税不服審判所の裁決では、「具体的かつ客観的な複数の間接証拠により支払の事実が推認され、かつ、業務関連性を有し、業務の遂行上必要であるものと認められるから、請求人の事業所得の金額の計算上、これを必要経費に算入することができるとした」事例です(平成25.6.6裁決)。 わが国の課税当局が平成18年改正を「違法支出金は必要経費とはならない」と誤解したのは、アメリカにおける「公序の理論」がわが国にも通用できると考えたからでしょう。 租税法の世界でも、アメリカでは、「通常かつ必要な経費」(both ordinary and necessary expenses)を損金の額に算入しますが、わが国ではこのような基準によらず、法人税法の損金は会計基準に委ねているだけです。 アメリカでは、支出自体が不法であるものとして支出を禁止する連邦又は州の政策が法律によって示されているものについては、公序に反する結果が生ずるので控除が認められないとしており、これを公序の理論(パブリック・ポリシー)といいます。 しかし、日本では「公序の理論」は適用されず、損金不算入とするためには法律に別段の定めをおかなければならないことになっており、平成18年度の改正は「別段の定め」です。 この点については金子宏教授も次のように述べています。 (『租税法(第19版)』274頁) (了)