山本守之の法人税“一刀両断” 【第10回】「「違法支出金」をどう考えるか」
筆者:山本 守之
文字サイズ
- 中
- 大
- 特
山本守之の
法人税 “一刀両断”
【第10回】
「「違法支出金」をどう考えるか」
税理士 山本 守之
税務会計を専攻する多くの学者が「違法支出金は必要経費(損金)に算入できない」としている論文が多く、税務の第一線でもこのような執行をしている例を見受けますが、この処理は正しいのでしょうか。
最近の国税不服審判所の裁決例(平成25年6月6日、非公開裁決、情報公開法第9条第1項により情報公開事例)で考えてみることにしましょう。
- 事 例 -
生命保険外務員であった請求人(甲)が、生命保険契約者である法人の理事長に対して支払った現金を販売促進費として必要経費に算入し、所得税及び消費税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該販売促進費には支払の事実が認められないだけでなく、違法支出金であるから必要経費とならないとして、更正処分をした。
この事例で学者や課税庁が「違法支出金は必要経費(損金)にならない」としたのは、平成18年度税制改正において、公務員への賄賂の税控除を認めてはならないとする腐敗防止国連条約の国内法制の担保措置として法人税法及び所得税法が整備され、法人税法第55条(不正行為等に係る費用等の損金不算入)及び所得税法第45条第2項(公務員に対する賄賂)が整備され、所得税法においても賄賂については必要経費に算入されない旨が明文化されたからでしょう。
念のため、所得税法第45条第2項及び法人税法第55条第1項と第5項を示してみると次のようになっています。
所得税法第45条
第2項 居住者が供与をする刑法第198条(贈賄)に規定する賄賂又は不正競争防止法に規定する金銭その他の利益に当たるべき金銭の額及び金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
法人税法第55条
第1項 内国法人が、その所得の金額若しくは欠損金額又は法人税の額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装すること(以下この項及び次項において「隠ぺい仮装行為」という。)によりその法人税の負担を減少させ、又は減少させようとする場合には、当該隠ぺい仮装行為に要する費用の額又は当該隠ぺい仮装行為により生ずる損失の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
第5項 内国法人が供与をする刑法第198条(贈賄)に規定する賄賂又は不正競争防止法第18条第1項(外国公務員等に対する不正の利益の供与等の禁止)に規定する金銭その他の利益に当たるべき金銭の額及び金銭以外の資産の価額並びに経済的な利益の額の合計額に相当する費用又は損失の額(その供与に要する費用の額又はその供与により生ずる損失の額を含む。)は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
注意したいのは、法人税法第55条と所得税法第45条の範囲が異なる点です。これは、法人税法は損金の範囲が広くなっているのに対して、所得税法では必要経費を収入を得るために直接要したものと規定した第37条の規定から家事関連費を必要経費から除外する規定(第45条)があるからです。
国税不服審判所における国と納税者の争点は次のとおりです。
○記事全文をご覧いただくには、プレミアム会員としてのログインが必要です。
○プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

○プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。
○一般会員の方は、下記ボタンよりプレミアム会員への移行手続きができます。
○非会員の皆さまにも、期間限定で閲覧していただける記事がございます(ログイン不要です)。
こちらからご覧ください。
連載目次
山本守之の法人税“一刀両断”
▷2018年(第43回~54回)
▷2017年(第31回~42回)
▷2016年(第18回~30回)
- 【第18回】 実効税率はどのような経過で引き下げられたか
- 【第19回】 消費税の軽減税率を検証する
- 【第20回】 寄附金の課税要件を考える
- 【第21回】 土地と共に取得してから1年以内に取り壊した建物
- 【第22回】 訴訟のわかれ道~認知症と損益通算
- 【第23回】 税執行における洒落
- 【第24回】 租税法の解釈①-租税法律主義とその問題点-
- 【第25回】 租税法の解釈②-通達の読み方とその問題点(貸倒損失を事例として)-
- 【第26回】 租税法の解釈③-税務形式基準と事実認定-
- 【第27回】 課税要件法定主義を考える
- 【第28回】 売り上げの計上時期はどうなっているか
- 【第29回】 取引別にみた収益の認識基準①
- 【第30回】 取引別にみた収益の認識基準②
▷2015年(第7回~17回)
筆者紹介
山本 守之
(やまもと・もりゆき)
税理士。現在、日本税務会計学会顧問、租税訴訟学会副会長(研究・提言担当)、税務会計研究学会理事、日本租税理論学会理事を務め、全国各地において講演活動を行うとともに、千葉商科大学大学院(政策研究科、博士課程)でプロジェクト・アドバイザー(専門分野の高度な学術研究、高度な実務経験を持つ有識者)として租税政策論の教鞭をとっている。研究のためOECD、EU、海外諸国の財務省、国税庁等を約30年にわたり歴訪。2020年11月29日、逝去。
【著書】
・『時事税談-人間の感性から税をみつめる』(清文社)
・『役員給与税制の問題点-規定・判例・執行面からの検討』(中央経済社)
・『検証 税法上の不確定概念 (新版)』(中央経済社)
・『裁決事例(全部取消)による役員給与・寄附金・交際費・貸倒れ・資本的支出と修繕費』(財経詳報社)
・『法人税申告の実務全書』監修(日本実業出版社)
・『法人税の理論と実務』(中央経済社)
・『体系法人税法』(税務経理協会)
・『税金力-時代とともに「税」を読む』(中央経済社)
・『租税法の基礎理論』(税務経理協会)
他、多数
Profession Journal関連記事
関連書籍
-
新版
有利な心証を勝ち取る 民事訴訟遂行
弁護士法人 北浜法律事務所 編
定価:2,420円(税込)
会員価格:2,178円(税込)
-
実務に対応する 税務弁護の手引き
弁護士・税理士 坂田真吾 著
定価:4,400円(税込)
会員価格:3,960円(税込)
-
税務調査における
質問応答記録書の実務対応
税理士 鴻秀明 著
定価:2,750円(税込)
会員価格:2,475円(税込)
-
実務家必読
判決・裁決に学ぶ税務通達の読み方
税理士 近藤雅人、税理士 川口昌紀、税理士 松田昭久、 税理士 田中俊男、税理士 佐々木栄美子 共著
定価:2,750円(税込)
会員価格:2,475円(税込)
-
裁判例・裁決例から読み解く
後発的事由をめぐる税務
和田倉門法律事務所 編著
定価:3,080円(税込)
会員価格:2,772円(税込)
-
第6版
事例からみる重加算税の研究
八ッ尾 順一 著
定価:3,300円(税込)
会員価格:2,970円(税込)
-
Q&A 実務に役立つ法人税の裁決事例選
税理士 佐藤善恵 著 税理士 上西左大信 監修
定価:3,300円(税込)
会員価格:2,970円(税込)
-
弁護士と税理士の相互質疑応答集
近畿弁護士会連合会税務委員会、近畿税理士会調査研究部 編著
定価:2,420円(税込)
会員価格:2,178円(税込)
-
納税者の権利を守るための
税理士が使いこなす 改正国税通則法
東京税理士会 調査研究部 監修 税理士・弁護士 石井 亮、税理士 加藤 悦子、税理士 菅納 敏恭、税理士・弁護士 坂田 真吾、税理士 清水 鏡雄、税理士 朴木 直子、税理士 松沼 謙一 著
定価:2,860円(税込)
会員価格:2,574円(税込)
-
会計プロフェッショナルの税務事案奮闘記
深井 和巳 監修、日本公認会計士協会京滋会 編著
定価:2,860円(税込)
会員価格:2,574円(税込)