〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第11回】 「『現預金』の取扱い」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 今回は相続財産のうち、現預金について学ぶこととする。 〔現預金の評価方法〕 現金は他界した日の現金残高、預貯金は他界した日の預貯金残高となる。 ただし厳密には、預貯金は、預貯金残高に、他界日に解約した場合に支払われる既経過利子の額を加え、かつ、その既経過利子につき源泉徴収されるべき所得税の額を控除した金額で評価することになっている(財産評価基本通達203)ため、利率の高い定期預金などは特に留意が必要である(*1)(*2)。 〔相続発生前の入出金の調査〕 相続税申告書を税務署へ提出すると、税務署では、他界した人の預貯金取引などから、現預金の相続税申告書への申告漏れがないか、必ず調べられると認識する必要がある。 したがって、他界した人の預貯金については、その預貯金通帳から、他界する前5年程度の入出金を調べ、相続税申告書に計上すべきものがないか、相続税を申告する前に調べておく必要がある(*3)。 いわゆる名義預金とよばれるもの(*4)や、親族への資金移動(*5)、他界直前における引出し(*6)については、特に注意が必要である。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第10問】 「住民票の住所と実際の住所が異なる場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは7年前に、G市にある中古住宅Bを購入し、それ以来Bに住んでいましたが、今回このBを売却して、H市の新居Cへ転居しました。 Xは、Bを購入する3年ほど前から同じG市の借家Aで生活をしており、7年前に同市内のBに転居したのですが、住民票を異動せずにそのままにしておいたので、今回のCへの転居にあたっては、従前の借家A時代の住民票上の住所から直接C(H市)への転居という形をとりました。 このため、譲渡した居住用家屋の所在地と確定申告書に添付する住民票(除票)の住所とが一致しません。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A 「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 「3,000万円特別控除(措法35)」は、居住用財産を譲渡した日の属する年分の確定申告書の「特例適用条文」欄に「措法35条」と記載するとともに、次に掲げる書類の添付がある場合に限って適用される(措法35②、措規18の2)。 ところで、住民票の異動状況はその判定あたって重要な要素となり得るところ、居住用家屋の範囲については措通31の3-2(居住用家屋の範囲)に基づいて判定されており、住民票上の住所のみで判定するものではなく、その者が現実に居住していたかどうかという事実や状況等を総合勘案して判定することとなっている。 したがって、居住用家屋の所在地と住民票(除票)の住所とが一致しない場合であっても、電気・ガス・水道等の公共料金の支払状況や郵便物の受領状況及び勤務先等への自宅住所届出状況等からみて、その者がその家屋を現実の居住の用に供していたと認められる場合には、その家屋は、その者の居住用家屋に該当する。 (了)
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第22話】 「建設会社の税務調査(その1)」 ─ 不 審 ─ 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 渕崎統括官は少し苛々しながら、壁に掛かっている時計を見た。 午後6時を少しまわっている。 「遅いなあ・・・」 椅子に座りながら、呟く。 田村上席と山口調査官は、税務調査からまだ帰ってこない。 今日は2人で、河内税務署管内にある内藤建設の調査に出かけている。 内藤建設は、大手ゼネコンの下請けで、道路工事などの土木が中心の株式会社である。 河内税務署管内では比較的規模の大きい会社で、田村上席だけでは時間的に十分調べられないということで、山口調査官が同行している。 河内税務署では、毎週水曜日は職員が早く帰るように勧められている「早帰の曜日」となっている。 このため他の職員はすでに帰宅しており、法人課税第三部門は渕崎統括官しかいない。 すると、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。 ドアが開くと、少し息を切らせながら、田村上席と山口調査官が姿を見せる。 「・・・すみません・・・遅くなって・・・」 田村上席は、机にドンと鞄を置きながら、渕崎統括官に頭を下げる。 「おつかれさん・・・調査が手間取ったのかい?」 渕崎統括官が尋ねる。 「ええ・・・帰る間際に、少し、おかしな資料を発見したので・・・」 山口調査官は、鞄から書類を取り出す。 「これ、会社が受注した請負契約書のコピーですが・・・契約の日時では既に完了している工事なんです。それが、今期の売上に計上されていない・・・」 渕崎統括官は、その書類を手に取り、じっと見る。 「・・・それで、会社はどう説明しているんだい?」 渕崎統括官が尋ねる。 「それが・・・途中で工事がキャンセルになったとか・・・。でも、それに関する資料もなくて、それに、その工事の前受金2億円はそのまま帳簿に残っているんですよ」 今度は、山口調査官が答える。 「請負金額は、5億円で・・・」 田村上席は少し興奮した声で、渕崎統括官に伝える。 「そうすると、当然、その中止になった工事の内容を調べなければ・・・その工事はどこから受注したんだい?」 「大手ゼネコンからです・・・」 山口調査官が間髪いれず答える。 「それじゃあ、その大手ゼネコンからの資料を調べれば、工事内容がわかるだろう」 渕崎統括官は、壁に掛かっている時計を見る。 時計の針は、すでに7時をまわっている。 「もう遅いから、明日にしないか?」 渕崎統括官は、机の上で資料を整理している田村上席に声をかける。 「はい、これを整理してから帰りますから、統括官は先にお帰りください」 田村上席は、コピーをした資料を整理しながら応える。 立ち上がっていた渕崎統括官は、渋い顔をして、再び椅子に座る。 「この外注費も・・・おかしいですよね」 山口調査官は、外注先からの請求書のコピーを田村上席に見せる。 「今まで、この会社で使ったことのない外注先なんですよ・・・」 田村上席は、手を止めて、山口調査官の資料をみる。 丸井工務店という外注先の名称とともに、外注費として3,500万円が記載されている。 「経理の担当者によると・・・確かこの工務店は、1年前に倒産しているとか・・・」 山口調査官が説明する。 渕崎統括官は、内藤建設の税歴表を右手で持ちながら眺める。 「内藤建設って・・・相当利益が出ている会社だな」 渕崎統括官は、過去の売上と課税所得の推移をみながらいう。 過去5年間の売上金額と課税所得の数字は、確実に右上がりになっている。 「そうなんですよ・・・この会社は、けっこう儲かっているんです。だから、何らかの利益操作をしているのではと思うのですが・・・もっとも、社長は、人手不足で人件費が高騰しているとか、鋼材、セメントなどの建設資材のコストアップで、それほど儲かってはいないとしきりに説明していましたけど・・・」 田村上席は、少しうわずった声で、渕崎統括官に応える。 「他に、何か見つけたものは?」 渕崎統括官は、留置によって預かってきた書類を整理している山口調査官に尋ねる。 「ええ、印紙の貼っていない契約書を見つけました。もっとも、これは、会社と社長の間の金銭消費貸借契約書なんですが、それぞれ二通作成していて、一通は印紙が貼ってあるのですが・・・もう一通は貼っていなかったのです。・・・これって、わざわざ二通も作らずに、印紙税の貼ってある契約書をコピーすれば良かったのに」 山口調査官は、苦笑いしながら応える。 「そう・・・印紙税は文書課税だからね」 渕崎統括官は、そう呟きながら、再び、壁時計をチラッとみる。 時計の針は、8時を過ぎたところを指している。 田村上席の机上は、ようやくきれいに整理され、山口調査官も整理された留置の書類をキャビネットに入れている。 渕崎統括官は、その様子を見ながら、立ち上がった。 「じゃあ、そろそろ帰ろうか・・・よかったら、近くの居酒屋で・・・」 渕崎統括官は、笑いながら、田村上席と山口調査官を誘う。 「そうですね、お腹も減っているし。まだ、統括官に話すべき調査の報告も残っていますから、飲みながら話しましょうか・・・」 田村上席は、鞄を持って、既に立ち上がっている山口調査官の肩をたたきながら、渕崎統括官に大きく頷いた。 (つづく)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第7回】 「子会社支援のための無償取引③」 公認会計士 佐藤 信祐 第6回では、清水惣事件にかかわる第1審判決についての解説を行った。第7回目である本号においては、控訴審判決について解説を行う。 (2) 控訴審・大阪高裁昭和53年3月30日判決(高裁民集31巻1号63頁、訟月24巻6号1360頁、判時925号51頁、金法856号30頁、金判546号33頁、税資97号1160頁) ① 判決の概要 控訴審においては、第1審判決と大きく変わり、無利息貸付けを行った場合には、法人税法第22条第2項により通常ありうべき利率による金銭相当額の経済的利益について益金の額に算入され、当該経済的利益が無償で借主に提供されたと考えられることから、法人税法第37条第5項括弧書(現在の法人税法第37条第7項)に該当しない限り、寄附金として処理されることになるとして、原判決を取り消して更正処分を適法とした。 本判決の内容は、第1審判決に比べて違和感が少なく、無利息貸付けに係る法人税法の取扱いを理解するのに重要な判決であると言える。 ② 控訴人側の主張 控訴審における控訴人(近江八幡税務署長)の主張をまとめると以下の通りである。 ③ 被控訴人側の主張 ④ 裁判所の判断 ⑤ 総括 このように、控訴審においては、法人税法第132条に規定する同族会社等の行為計算の否認が主張されているという特殊性はあるものの、現在における税実務とそれほど変わらない判断がなされたと考えられる。 本判決においては、法人税法第22条第2項の取扱い、寄附金に該当するか否かの判断など、課税実務に与える影響が大きい判決であったと言われている。次回以降においては、さらなる詳細な分析を行い、無利息貸付けに係る法人税法上の取扱いについて明らかにしていきたい。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載47〕 社会医療法人の収益事業課税の範囲 公認会計士・税理士 濱田 康宏 Q 社会医療法人は、法人税法上、公益法人等として収益事業課税されるそうですが、収益事業課税の範囲について教えてください。 A 本来業務は非課税となり、附帯業務・収益業務は収益事業課税される。付随業務については、内容によって34業種の収益事業に該当すれば課税される。 どの業務に該当するかは、医療法人自身も正しく理解していないことが多いため、十分な検討が必要である。 解 説 《1》 医療法人の業務範囲 医療法人の行為能力については、株式会社と異なり、定款に定められた範囲を必要以上に拡張して考えることはできないと解されており、医療法人の業務範囲は、次の通りとされている。 [1] 本来業務 医療法人は病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設の開設(医療法39①)を目的として設立される法人であることから、これらの業務を本来業務と称している。 [2] 附帯業務 医療法人は、その開設する病院、診療所又は介護老人保健施設の業務に支障のない限り、定款又は寄附行為の定めるところにより、別途掲記された業務の全部又は一部を行うことができる(医療法42一~八)こととされており、これらを附帯業務と呼ぶ。附帯業務と呼ばれるのは、あくまでも本来業務を行うことが前提だからである。 例えば、老人福祉法(昭和38年法律第133号)29条1項に規定する有料老人ホームの設置など定款記載業務である。居宅介護支援事業所や訪問看護ステーションの経営を行う場合がこれに該当する。定款に定めることが必要で、都道府県知事による認可を得なければ行うことができない。 [3] 付随業務 前述[1]本来業務や[2]附帯業務に付随して行う業務であり、病院内の売店や病院敷地内の患者用駐車場経営などである。 下記の[4]収益業務と異なり、定款認可は不要だが、本来業務や附帯業務の延長線上にある業務であることが必要と解されている。 [4] 収益業務 社会医療法人が開設する病院、診療所又は介護老人保健施設の経営にその収益を充てることを目的として、厚生労働大臣が定める業務(医療法42の2①)で都道府県知事の定款変更認可を受けたものである。不動産賃貸業などを行って得た利益を本来業務や附帯業務の経営に回すことを可能としている。ここで注意すべきは、これが認められるのは、あくまでも社会医療法人のみであることと、都道府県知事の認可が必要なことと、定款記載が必要であることである。 医療法人の業務範囲は、株式会社のように広く営業付随行為が認められているわけではなく、あくまでも限られた範囲でのみ行為能力があるものと解されている。したがって、所有土地がたまたま空き地だから貸してくれと言われても、株式会社のように貸して賃料収入を得ることはできないので、注意が必要になる。 《2》 社会医療法人の税法上の収益事業の範囲 1) 収益事業非課税とされる社会医療法人の医療保険業の範囲 法人税法施行令第5条では、税法上の収益事業になる範囲を列挙しているが、1項29号チでは、次のように規定している。 この規定は若干わかりにくいのだが、 と読むことができる。 つまり、次のような理解になる。 例外の1つめが、医療法42条で規定する、いわば医療法人の本来業務以外に、どの医療法人であっても、都道府県知事の認可を得れば、定款に定めることで実施される、いわゆる附帯業務である。 そして、例外の2つめが、社会医療法人のみが可能であり、都道府県知事の認可を得た上で、定款に定めることで実施される、いわゆる収益業務である。 ということは、下記のように理解できることになる。 ただし、[1]本来業務が非収益事業に入るのは間違いないのだが、[3]付随業務は、[1][2][4]のいずれにもなり得るため、上記の整理だけでは、医療法人の業務範囲との対応関係が整理しきれていないことになる。 2) 医療保険業とその他の業務 法人税法における医療保険業の範囲だが、医療業は医師等が患者に提供するものであり、保険業は保険サービスに基づいて提供するものであり、両者を併せて医療保険業としているとの考え方が採られていると考えられている。 ここで注意すべきは、[1]本来業務と医療保険業との関係である。 [1]本来業務であれば、医療保険業に該当することは問題ないのだが、本来業務の[3]付随業務については、必ずしも、医療保険業になるとは限らない、ということである。医療保険業以外にその他の収益事業33業種に該当すれば、法人税法上は収益事業課税の範囲に取り込まれることになる。 この点、法人税法上の収益事業については、収益事業課税の対象として、その事業の付随行為までを含むこととされている(法令5①柱書における括弧書)。よって、[1]本来業務あるいは[2]附帯業務の[3]付随業務については、収益事業の付随行為として法人税法の収益事業に取り込まれ得る。[4]収益業務も同様である。 まとめると、社会医療法人の業務範囲は下記のように整理できる。 言い換えれば、次のようになる。 ここで注意すべきは、この[1]~[4]の判定が非常に難しく、医療法人自身も判断を誤っていることがあり得ることである。 法人税法上の収益事業課税かどうかの判定が[1]から[4]の区分に依拠する以上、十分に検討することが必要である。 3) 社会医療法人が医療保険業に付随して行う行為(法基通15-1-58) 以上より、[3]付随業務として、法人税法における収益事業となるものと非収益事業となるものの区別が実務上の問題となることが分かる。 この点、法人税基本通達15-1-58(病院における給食事業)では、医療法人が医療保険業に付随して行う行為として、収益事業課税の対象になるものを説明している。 これらは、[1]本来業務の[3]付随業務であり、34業種のうち医療保険業に該当すれば非課税、その他33業種に該当すれば収益事業課税との整理がなされていることが確認できる。 《3》 具体的な調査問題事項の検討 法令及び現在課税庁が公表している資料による理解は、上記《1》《2》のようになる。しかし、実際の税務調査では、これらの理解だけでは足りず、具体的な問題が生じている。 以下では、実際の調査事例を元に、内容を検討していくこととする。 1) 収益事業における所得計上すべきとされるもの (1) 訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所・通所リハビリテーション 医療法42条1項[2]附帯業務の6号(保険衛生に関する業務)に該当する。 これらは収益事業に該当することについて、特に疑義はないものと思われる。 (2) メディカルフィットネス メディカルフィットネスは、医療法42条第1項[2]附帯業務の4号・5号に該当する。 よって、当然に収益事業課税の対象となり、他に考えようがないように思える。しかし、調査の現場では、運営の実態によっては、非収益事業となり得るとの見解があった。 つまり、医師の診断に基づくトレーニングについては、医療保険業だから収益事業課税の対象になるが、それ以外の一般人が飛び込みで利用する場合は医師がノータッチであるから、医療保険業の範囲外であり、その他33業種にも該当しないことから、収益事業課税に該当しないというのである。 この案件では、メディカルフィットネス事業が赤字だったために、収益事業における損益の通算を認めたくない方向で否認が検討されたからだと考えられる。本件では、最終的には収益事業としての処理でよいこととされたこともあり、黒字の場合に医師がノータッチだから収益事業課税の対象外としても問題ないのかは、不透明である。 (3) 治験 これは非常に大きな問題である。というのは、この治験収入については、裁判例があり、収益事業課税の対象とすべきだとされているからである(控訴審(確定)東京高裁平成16年3月30日判決・原審東京地裁平成15年5月15日判決)。 判決中では、 としている。 納税者敗訴の裁判例が出ているのではあるが、2つほど問題がある。 「週刊税務通信」(2011年7月25日号)では、「社会医療法人の行う「治験」は原則非収益事業 研究所等で実施される場合は収益事業に該当も」との見出しで、「当局見解」を伝えている。 内容としては、 というものである。税務通信の見解に従えば、定款で[2]附帯業務としていない限り、[1]本来業務であるから、収益事業課税の対象にならないことになる。 しかし、筆者が個別に確認したところ、厚生労働省から国税庁に質疑応答が上がっているとの事実はなく、記事は厚労省取材のみに基づく回答であり、国税庁は関与していないものと思われる。 むしろ、国税庁としては、前述の通り、判決中にある医療保険業の考え方に基づいて、治験行為は製薬業者から委託を受けているものであり、患者から委託されたものではないので、[1]本来業務ではなく、その[3]付随業務であることから、医療保険業ではなく請負業としての判断が可能との考え方を採用しているものと思われる。 治験の組織における位置づけ・規模や内容によっても判断が変わる可能性があるが、現時点ではこれが当局見解と考えられる。 なお、治験収入に対応する費用の額をどう算出するかとの問題があるが、この裁判例では、薬品費等の医療業務のみに係る部分を除いた病院の総費用に、病院収入のうち治験収入の割合を乗じることで算出している。 (4) 団体保険事務手数料 団体保険事務手数料については、[1]本来業務の[3]付随業務と考えられるが、医療保険業と言えず、請負業に該当すると判断される。この場合の対応原価の合理的計算については、(3)の方法の準用でよいと現場では判断された。 (5) 面談料 面談料についても、調査の現場では、当初、請負業として収益事業課税の対象とすべきではないかとの話があった。この面談料は、患者から収受するのではなく、別途製薬会社などから収受しているケースがあり、これについては[1]本来業務の[3]付随業務であるものの、医療保険業ではなく、請負業とされる可能性もありそうである。 2) 収益事業から除外すべきとされたもの 収益事業として申告していても、赤字になっている場合、収益事業から除外すべきものではないかとのチェックが行われる。 〇給食料収入・社宅収入 内容として、[1]本来業務の[3]付随業務になるのは明らかである。この場合、従業員の福利厚生としての位置付けであり、当初からこれだけを取り出して採算性を考えるべきものではないので、医療保険業の一環とすべきと判断された。収益事業の付随行為は収益事業であるという論理の逆で、非収益事業の付随行為は、非収益事業であるとの考え方である。 《4》 最後に 以上のように、社会医療法人として収益事業課税となるべき業務範囲は、相当複雑なものとなっている。 ただ、株式会社と異なり、医療法人の場合、定款における行為能力の制限が厳しいことから、なんでも付随的に法人の所得に取り込むことはできず、それが法人のどの業務範囲に該当するかという検討から始まることは間違いない。 最低限、関与先における業務範囲の位置付けを再度検討しなおし、税務調査における説明スタンスを協議しておくことが必要であろう。 なお、その意味で、可能な限り、常に最新の定款と組織図をもらえるように依頼しておき、業務の位置付けを確認しておくことが重要と考えられる。 (了)
会計リレーエッセイ 【第12回】 「M&A会計からみた日本の姿」 GCAサヴィアン株式会社 代表取締役 渡辺 章博 私は1982年に日本の監査の世界を飛び出し、会計士のメジャーリーグである米国に単身、渡りました。 そこで“Substance Over Form”という、会計の本質に出会ったのです。 その後帰国して、経営者として上場とM&Aの経験を通じて感じたことを、少し長くなりますが、お話したいと思います。 〈米国流会計の衝撃〉 始まりは、日本企業の米国子会社の監査をしていた時の話です。 その子会社は経営不振で親会社から補助(いわゆるミルク補給)を受けて利益を計上していました。 財務諸表が出来上がり(注:米国では監査意見を添付する決算書を会計士が作成します)、レビューを担当していた米国人パートナーに提出しました。 その時のレビューパートナーの言葉が忘れられません。 「お前、この決算書は実態を表していると思うか?」と言われたのです。 私は何のことかわからず「親会社と子会社の間には契約書があり、子会社は利益を計上できるはずです」と反論しました。 するとそのパートナーは、こう言いました。 「違う。この決算書は実態を表していない。親会社から子会社への補助は資本取引だ」 親会社からの補助を資本取引とすると、この子会社の決算書は赤字になってしまいます。 しかし、それが子会社の実態(儲かっていない)を現しているわけです。 単独決算(=税務会計)中心の日本の簿記に染まっていた私の頭は、ハンマーで殴られたような衝撃とともに、米国流会計に染まっていきました。 〈M&A専門の会計士へ〉 やがてプラザ合意をきっかけとした円高が始まったことで、日本企業はM&Aで米国に進出するようになり、私はM&A専門の会計士になりました。 そして、M&Aのやり方には株式買収と資産買収(日本でいう事業譲渡)の2つがあることを学びました。 資産買収も株式買収も、対価を払って事業を取得するという意味では、結果は同じになります。ところが法的形式(Form、まさに「法務」)の選択によって、単独決算では結果が異なります。 資産買収では、買い手企業の決算書に買収ターゲットの事業がそのまま反映されます。一方、株式買収では買収ターゲットは買い手企業の子会社になるので、買い手企業の単独決算にはそのままでは反映されません。 そこで、連結決算の登場になるわけです。 連結決算はまさにSubstance Over Formの典型例であり、連結決算はM&A会計と深く結びついていることを、そこで初めて学んだのです。 〈プーリング会計は例外処理〉 資産買収と株式買収を一致させるのですから、当然ながらいわゆるパーチェス会計が基本です。ところが、買収(Acquisition)はいいのですが、対等合併(Merger)という場合には例外処理があることを知りました。 それがプーリングだったのです。 M&Aの対価としては現金が一般的ですが、買い手企業の株式を対価とする場合があります。買い手企業の規模が大きく買収ターゲットが小さい場合には、買い手、売り手、買収ターゲットが明確になります。 その場合には株式対価買収でも買収(Acquisition)であることが明らかであり問題はないのですが、企業規模がほぼ同じでの対等合併(Merger)ということになると、話が少しややこしくなります。 この場合には、米国では例外処理としてプーリング会計が認められていました。 〈のれんの償却が負担に〉 パーチェス方式ではのれんが認識されますが、その当時の米国会計基準ではのれんは40年以内に償却しなければならなかったため、買収後の買い手企業の決算ではのれん償却が負担になっていました。 実は米国は、先進国の中では当時は珍しく資産買収でものれん償却に税法上の損金算入を認めていなかったために、米国企業のCEOやCFOにとってのれん償却は「百害あって一利なし」だったのです。 米国の上場企業は株主原理主義ですので、CEOの番頭であるCFOがあらゆる知恵を振り絞って会社の決算書を合法的によく見せようとします。 プーリング会計ではのれんは計上されず、償却負担もありません。その結果、「買収」であるにもかかわらず「対等合併」の要件を満たして無理やりプーリング会計を適用し、のれん償却を回避する企業が続出したのです。 そのうち、米国GAAPのM&A会計の論点は、プーリングの適用要件だけで膨大なものになっていきました。 そして、M&A実務家として現場を見ていて気がついたのですが、多くの企業が狩猟民族・帝国主義のDNAを持つ米国では、対等合併はほぼ皆無です。 リーダーシップの価値を尊重する米国において、リーダーであるCEOは一人であり、CEOを出した企業が買い手企業であり、買収ターゲットは買い手企業に完全に統合(Integration)されていきます。そのほうがコストシナジーを出しやすく、株主価値を向上させるからです。 リーダーシップの不明確なM&Aは、株主からもそっぽを向かれてしまいます。 Substance Over Formの原則から言えば、プーリング会計は、実は実態に合っていないケースのほうが多かったのです。 米国GAAPではその後、プーリング会計を廃止しました。 〈日本では対等合併が一般的だった〉 こうした環境の中でM&Aの実務を学んでいった私は、完全にパーチェス会計論者になりました。 M&A実務の修行を終えた私は1994年、日本に帰国しました。 そこで初めて日本企業同士の合併案件を助言しました。企業規模はほとんど同じだったのですが、一方の会社が経営不振の会社を救済合併するケースでした。 合併委員会の議長を務めた私が目の当たりにしたのは、救済合併なのに両者が合併委員会でも対等に話し合う現場でした(なんと最初の議題は、女子社員の服装をユニフォームにするか私服にするかでした)。 なぜ買い手側が買収の統合プランを作成して統合をゴリゴリ進めていかないのか、私にはとても不思議でした。 現場の士気を重視する日本企業では、M&Aにおいても相手企業を尊重し「買った」会社の現場を生かすのが日本のM&Aの特徴であることを理解するのには、その後数年かかりました。 日本では、対等合併が一般的だったのです。 また、日本ではその当時、株式を対価とするM&Aには選択肢がなく、「合併」が主流でした。国内のM&Aがまだ一般的でなかった当時は、M&A会計が整備されておらず合併でパーチェス会計を適用するという発想はありえませんでしたので、当然のようにプーリング会計が適用されていました。 株式交換・移転、会社分割、三角合併などのさまざまな株式対価型M&Aの手法が会社法で認められるのは、ずっと後のことです。 〈金融危機とM&A市場の誕生〉 そして、1997年に金融危機が訪れて民事再生法が導入され、銀行の不良債権処理が進む中で、事業再生型の倒産が増加しました。 売り手がいなかったために育たなかった日本のM&A市場が、破たん処理市場の誕生とともに生まれていったのです。 企業の倒産では、M&Aの手法が用いられます。破綻企業の債権者が売り手であり、債権回収のために「やらざるをえないM&A」が行われました。 破たん処理のほとんどすべてに対価として現金が使われ、買う側と買われる側は非常に明確なものでした。 プーリング会計が付け入る隙はなく、パーチェス会計が当然ながら主流になっていきました。 〈M&A会計の議論の中で〉 その頃、会社法によるM&A手法の整備が進むにつれ、それを追いかけるようにM&A会計の整備が議論されるようになりました。 国際会計基準とのハーモナイゼーションと言うのでしょうか、議論はプーリングを残すかどうか、のれんの償却をどうするか、といった論点だったと思います。 当時の企業会計審議会に、参考意見を聞きたいということで呼ばれたことがあります。 その座長の先生から「日米のM&Aの違いを説明してほしい」ということでしたので、私は と自論を展開しました。 会議が終わった後の座長の感想は「今日の渡辺さんの証言は大変に参考になった。日本ではプーリング会計を残すべきだ。」という、私の期待とは正反対のものでした。 その後、しばらく日本の会計基準においては、プーリング会計が残ることになりました。 〈運命のM&A〉 M&Aが企業の戦略・成長手法として定着した日本において、私は多数の日本企業のM&Aを助言してきました。 それらの現場においては、プーリング会計の要件が厳しいこともあってそれに合致するM&Aが少なかったこともありますが、米国のように「なんとかしてプーリングが適用できるように知恵を出せ」と日本企業のクライアントから要求されたことは一度もありませんでした。 つまり、ほとんどの会社のM&Aにおいて、M&A会計の選択肢が意思決定に影響を及ぼすことはなかったのです。 そうしているうちに、私はエンロン事件の余波を受けて会計事務所の中でM&A助言業務ができなくなり、やむなく独立しました。 2004年にGCAというM&Aの助言会社を創業して、2006年にはM&Aの助言会社としては日本で初めて株式公開し東証マザースに上場しました。 気がついてみると、M&A専門の会計士から上場企業の経営者(兼投資銀行家)になっていました。 そして、私にとって「運命のM&A」の機会が訪れました。 2008年に、企業規模がほぼ同じである米国のサヴィアンという会社と経営統合をしたのです。 上場企業の経営者として、自らM&Aを経験することになったわけです。 このM&Aでは、新しい会社法のもとで、日本企業として初めて株式を対価として用いました。人が財産であるM&A助言会社では株主がプロフェッショナルですので、対価に現金を使うとインセンティブが働かず、人材の流出につながるからです。 そして私は、経営者としてのM&A会計に関する判断を迫られたのです。 パーチェス会計か、プーリング会計か、という選択です。 〈世界で最後のプーリング会計適用会社〉 その判断基準の基本は、やはりSubstance Over Formでした。 経営統合の当時はGCAの株価が急騰しており、IPO価格の5倍の価格をつけたこともあります。 そのままパーチェス会計を適用すると、多額ののれんと資本が計上されます。資産が100億円にも満たない会社のバランスシートは、とんでもない“水ぶくれ状態”になります。 しかも、人が財産のM&A助言業務では、買収(Acquisition)はワークしません。対等合併(Merger)でなければ、M&A効果は出ないのです。 慎重な検討と、監査法人との相談の結果、プーリング会計の適用が決まりました。 会計士でもある経営者としての私は、プーリング会計が実態を表すことに特に注意を払い、要件準拠をその後かなり厳格に行いました。 例えば取締役会は、日本人と米国人を半々としました。その結果、取締役会は英語になってしまいとんでもなく大変でしたが、米国でプーリング会計を適用しながら結局は「買収」になり、買い手企業側が買われた側を完全に支配する経営を散々目撃してきた私は、その後も対等合併を強く意識しながら経営を行ってきました。 その結果、人材流出はなく、統合効果も出て、2012年9月には東証一部に上場できました。 パーチェス会計論者であった私が経営者としてプーリング会計を選択することになったのは、皮肉としか言いようがありません。 そして、私が創業した会社が、おそらく世界で最後のプーリング会計適用会社になったのです。 〈実態に合った会計の選択〉 「米国かぶれ」で、なんでも「米国では」の「ではの守」であった私が今日、それを反省しつつ思うのは、Substance Over Formが会計の本質であるならば、実態に合った会計の選択肢は、間違いなく必要だということです。 そして、日本では企業経営の成熟度が米国と比較して20年遅れであるにもかかわらず、グローバリゼーションとともに制度の輸入が早すぎたため、経営の現場が十分な「学び」がないまま制度だけが導入され、本質を見極めないままに振り回されているのが現状です。日本の“失われた20年”の原因はそこにあるともいえます。 しかし、グローバリゼーションから背を向けることはできません。 本質を理解するには、歴史から学ぶしかないと思います。 歴史を学び、本質を見極めたホンモノの経営者だけが、グローバル競争には勝つのです。 (連載了)
「企業結合に関する会計基準」等の 改正点と実務対応 【第6回】 (最終回) 「共通支配下の取引の会計処理④」 ~子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)の 連結財務諸表上の税効果の会計処理~ 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 布施 伸章 (注)本連載記事において、文中、意見に関する部分は筆者の私見である。 1 はじめに 今回は、平成25年改正会計基準のうち、子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)の連結財務諸表上の税効果の会計処理について解説する。 改正前連結会計基準では、子会社株式を追加取得した場合や一部売却した場合のほか、子会社の時価発行増資等の場合には損益を計上する取引としていたが、改正後連結会計基準では、親会社の持分変動による差額は、資本剰余金に計上することとされた。 この結果、連結上の税効果の取扱いは、子会社株式を追加取得した場合や子会社の時価発行増資等の場合も影響を受けるが、本解説では子会社株式を一部売却した場合のみを取り上げることにする。 2 子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)の税効果の処理 改正後連結会計基準では、「子会社株式を一部売却した場合(親会社と子会社の支配関係が継続している場合に限る。)には、売却した株式に対応する持分を親会社の持分から減額し、非支配株主持分を増額する。売却による親会社の持分の減少額(以下「売却持分」という)と売却価額との間に生じた差額は、資本剰余金とする。」(連結会計基準29項)と定め、さらに「子会社株式の一部売却において、関連する法人税等(子会社への投資に係る税効果の調整を含む。)は、資本剰余金から控除する。」(連結会計基準(注9)(2))と定めている。 改正後連結会計基準では、資本剰余金から控除する税金の額は子会社株式の売却価額とそれに対応した投資の連結貸借対照表上の価額との差額に関する部分と考えられ、子会社株式の売却直前における投資の連結貸借対照表上の価額に関する一時差異の調整は、これまでと同様の税効果の会計処理を行うものと考えられる。 以下、この点を具体的な事例に基づいて解説する。 (1) 個別財務諸表の会計処理 〈子会社株式の売却年度〉 会社は100%子会社を設立し、その後、当該子会社株式の40%を譲渡し、60%子会社にしたとする。当該子会社株式の譲渡価額は500、譲渡に対応する子会社株式の簿価は100、売却益400に対して税金を120(税率40%)支払うものとする。 この場合、親会社の個別上は、以下のように、売却差額400はすべて損益に計上されるため、関連する法人税等もすべて損益に対応するものとなる。 (2) 連結財務諸表上の会計処理 〈子会社株式の売却の意思決定を行った年度〉 当該子会社は設立以来、業績は順調であり、売却持分に対応する売却直前の投資の連結貸借対照表上の価額は400となり、個別上の投資の取得原価100との間に将来加算一時差異が300生じていた。ただし、会社は、これまでは予測可能な将来の期間に子会社株式の売却を行う意思がないとして繰延税金負債を計上していなかった(連結税効果実務指針37項)。 今般、子会社株式の売却の意思決定をしたことに伴い、以下のように、繰延税金負債を認識することとした(連結税効果実務指針38項)。 改正後連結会計基準では、親会社の持分変動による差額を資本剰余金に計上するとされたが、売却時までに子会社が獲得した利益は、あくまで連結財務諸表上も(資本剰余金に振り替えることなく)当期純利益に反映させることになる。 このため、売却直前の投資の連結貸借対照表上の価額との差異である将来加算一時差異に対する税効果は、これまでと同様、法人税等調整額として損益に計上することになる。 〈子会社株式を売却した年度〉 子会社株式の売却時には、(売却直前における)投資の連結貸借対照表上の価額と個別上の投資の取得原価との差額300は、既に連結上は利益として認識済であるため、個別財務諸表で計上された子会社株式売却益から控除される。 このため、これに対応した繰延税金負債120も取り崩し、法人税等調整額として損益に計上することになる。 次に売却価額500と投資の連結貸借対照表上の価額400との差額100は、個別財務諸表上は利益に計上されているが、改正後連結会計基準では、この部分を資本剰余金に振り替えることとされ、さらに、これに対応する税金も資本剰余金から控除することとされた(改正後連結会計基準29項、(注9)(2))。 なお、資本剰余金から控除される税金は、売却価額と投資の連結貸借対照表上の価額との差額に対応するもので、一時差異に対応する税金費用ではない(税効果会計の適用によるものではない)。 以上の関係を図表で示せば、次のようになる。 【図表】 子会社株式売却に係る税効果の処理のイメージ なお、税金に関する会計処理の論点としては、以下も考えられるが、この点は、JICPAの連結税効果実務指針等で取り上げられることが考えられる。 3 設例 以下の設例では、上記の解説を税効果以外の会計処理とあわせてまとめたものである。 当該会計処理を行った後のB/S及びP/Lも示しており、当期純利益と税金費用との関係もご確認いただきたい。 このほか、上記①の論点に関連して、子会社株式を売却した年度に親会社において十分な課税所得がなく、法人税等の支払いがないケース(資本剰余金から控除する税金の額は支払税金ではなく、法定実効税率に基づいて算定した税金相当額としている)も【参考】として示している。 子会社株式の一部売却を決定した年度(X1/3/31) ●P社は過年度に250を出資して、100%子会社S社を設立した。 ●当期末(X1/3/31)において、P社は翌年度にS社株式の40%の売却を決定した。売却株式に対応するS社株式の個別上の簿価は100、連結上の簿価は400である。 ●P社は連結上、売却株式に対応する税効果の処理を行う。 ●実効税率は40%である。 ●P社及びS社のX1/3/31におけるB/Sは以下のとおりである。 子会社株式の売却を実行した年度(X2/3/31) ●P社は翌年度期首(X1/4/1)にS社株式の40%(簿価100)を500で売却し、売却益400を計上した。 ●P社は個別上、売却益に対して160の税金を支払うものとする(税率40%) ●P社のS社株式売却益を除く利益は0、S社の当期純利益も0である。 (連載了)
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第24回】 (最終回) 「繰延税金資産及び繰延税金負債の表示・ 税効果会計に関する注記」 公認会計士 阿部 光成 「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号。以下「連結税効果実務指針」という)では、繰延税金資産及び繰延税金負債の表示について規定している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 繰延税金資産と繰延税金負債の表示 1 相殺 連結財務諸表規則45条では、繰延税金資産と繰延税金負債の表示に関して次のように規定している。 上記の規定は、同一納税主体に係る税金については、繰延税金資産と繰延税金負債を相殺して表示することを意味している(連結税効果実務指針42項)。 同一納税主体とは、納税申告書の作成主体をいい、通常は「法人」単位で考えることができるが、連結納税制度が採用されている国又は地域では、連結納税の範囲に含まれる連結会社群が同一納税主体となる。 2 繰延税金資産から控除した額の開示 個別税効果実務指針22項に従って、繰延税金資産の算定に当たり繰延税金資産から控除した金額がある場合には、当該金額を注記することとなる(連結税効果実務指針43項)。 当該注記は繰延税金資産及び繰延税金負債の発生の主な原因別内訳に関する注記において、評価性引当額、回収懸念額等その内容を示す適当な名称を付し控除前の繰延税金資産合計額から一括して控除する形式によることができる。 Ⅱ 税効果会計に関する注記 連結財務諸表規則15条の5は、「税効果会計に関する注記」について次のように規定している。 Ⅲ 事例 連結財務諸表における「税効果会計に関する注記」の事例として以下のものがある。いずれも金融庁のEDINETから検索したものであり、特段の意図はない。 〈エステー(株)(平成25年3月期)〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〈川崎重工業(株)(平成24年3月期)〉 Ⅳ 終わりに 本連載「税効果会計を学ぶ」は、今回の【第24回】をもって終了することとなる。 実務上、税効果会計に関する論点は多岐にわたっており、特に繰延税金資産の回収可能性の判断については悩まれることが多いと思われる。 今回の連載が、少しでも実務に役立つことを期待して、連載を終了することとする。 (連載了)
林總の 管理会計[超]入門講座 【第16回】 「経理部が行う原価計算実務の限界」 公認会計士 林 總 原価計算にまつわる『都市伝説』 伝統的原価計算が有効に機能しない (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第27回】 連結会計② 「連結会社相互間の取引等の消去」 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 ●X2年3月期に以下のような取引を行いました(分かりやすくするため、A社・B社のX2年3月期の営業取引は、以下の取引のみであったと仮定します)。 ●X2年3月期のA社・B社の貸借対照表、損益計算書及び利益剰余金勘定は以下のとおりです。 〈会計処理〉 ① 債権・債務の相殺消去 ② 取引高の相殺消去 ③ 未実現利益の消去 (*1) (A社からの仕入単価10-外部仕入先からの仕入単価8)×C商品10個=20 ④ 剰余金の配当の相殺消去 (*2) 株主資本等変動計算書の勘定科目 〈会計処理の解説〉 連結財務諸表は、企業グループの財政状態、経営成績を報告するものであるため、連結財務諸表には、企業グループ外部に対する債権・債務、取引高のみを計上しなければなりません。 したがって、企業グループ内部の取引は、連結上、内部取引としてすべて消去しなければなりません。 本事例におけるA社からB社への販売取引は、企業グループ内部の取引となるため、連結上、これを相殺消去する必要があります。 また、この取引に伴って発生した売掛金・買掛金についても、連結上、相殺消去します。 B社が期末在庫として保有しているC商品は、A社からの仕入単価10×10個=100で計上されています。 しかし、A社からB社への販売は、企業グループで見れば棚卸資産の移動に過ぎないため、A社がB社に販売したときに計上した内部利益は消去する必要があります。 A社ではC商品を8で仕入れ、10でB社に販売しています。 したがって、B社が保有するC商品には、1個当たり2の内部利益が計上されていますので、連結上、これを消去する必要があります。 B社からA社への配当は、企業グループで見れば資金の移動に過ぎません。 したがって、連結上は、A社で計上した受取配当金(収益)と、B社で計上した剰余金の配当(株主資本等変動計算書の減少科目)を相殺消去します。 結果、連結株主資本等変動計算書の剰余金の配当には、親会社から親会社の株主への配当金額のみが計上されます。 単純合算財務諸表に連結修正を反映すると、以下のようになります。 連結修正を反映することによって、連結財務諸表の各勘定科目には、企業グループ外部との取引金額のみが計上されていることが分かります。 次回は、少数株主持分について解説します。 (了)