顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第33回】 「予算管理のKPI (計画統制プロセス確立)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、「予算管理」に関連するKPIを取り上げる。 予算管理は、記帳対象となる取引が始まらない時点で、判然としない会社の将来の絵をあらかじめ数値という形式で表現するという未来志向の作業が中核である点において、これまで紹介してきた他の業務プロセスとの間にそれらと同列に扱われることを拒む性質上の懸隔(けんかく)を持つ。 そのような性質によるのか、経理財務部門が予算管理に関与するあり方は、経営者が経理財務部門にどのような役割を期待しているのかが反映されるため、その広さや深さが会社によって大きく異なるように見受けられる。 そこで、経理財務部門が予算管理に関与するあり方に対するスコアリングモデルが想定する基本的な立ち位地を示すため、予算管理の入り口で、会社全体の計画統制プロセスの確立と経理財務部門の関係を提示するKPIを取り上げる。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードでは、スコアリングモデルの予算管理に対応するのは、「中長期計画管理」と「年度予算管理」という2個の業務プロセスである。 「中長期計画管理」において、会社が担う一般的な機能を、「マネジメント計画策定支援」と「部門計画管理」に分けている。 「年度予算管理」においても、会社が担う一般的な機能を、「マネジメント計画策定支援」と「部門計画管理」に分けており、鳥瞰的な経営計画の策定と個別部門の計画の策定に区分する点において「中長期計画管理」と平仄を合わせている。 今回解説するKPIは、「中長期計画管理」の「マネジメント策定支援」、「年度予算管理」の「マネジメント計画策定支援」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:中長期計画管理で会社が担う機能〉 〈経済産業省スタンダード:年度予算管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、「中長期計画管理」と「年度予算管理」に共通する「マネジメント計画策定支援」に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:12.1.1参考データ提供〉 〈経済産業省スタンダード:12.1.2部門別計画方針示達〉 〈経済産業省スタンダード:13.1.1参考データ提供〉 〈経済産業省スタンダード:13.1.2部門別予算方針示達〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 中長期計画管理は、3年間から5年間程度の将来目標の設定と管理である。その業務を具体的に突き動かす組織上の原動力は、中長期的な観点を持った経営層が定める経営理念や経営方針に求められる。このようなマネジメント方針策定の結果、部門別計画方針を示達し、さらに部門別計画の確定に連綿とつながるため、経営層の将来目標を下位部門が分かりすい数値目標に落とし込むため、過去の財務実績データ、外部市場データ等が活用される。 年度予算管理は、確定した中長期の利益計画を達成するため、1年間の部門別の業務予算を設定しそれを管理する。部門別予算の策定は、既に確定した中長期の利益計画を実現することに主眼が置かれるため、経営層が1年間の全体予算方針を策定し、それを下位部門に示達するというマネジメント予算策定が、中長期計画管理と同様、年度予算管理においても業務を突き動かす原動力となる。そして、目標を数値化する要請は、中長期計画管理に比べて格段に強くなり、1年間の業務目標を具体的な財務指標に落とし込むため、部門別過去実績データ、外部市場データだけでなく、投資計画、販売計画、生産計画等のデータ等、より多くの精緻な情報が活用される。 重要なのは、中長期計画管理と年度予算管理は、経営層と下位部門が密接な連携を取りながら、目標として設定した数値指標を通じて、あたかも一体のごとき体系を備えて突き進める計画統制プロセスであるという点である。 今回のKPIは、中長期経営計画と年度予算管理の一体的な管理を可能にする要素の1つが数値指標の設定であり、そのために経理財務部門が情報提供を通じて貢献することができるという可能性に着目し、中長期計画の経営数値目標と年度予算編成項目の数値目標の整合性を問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「中長期計画」とは、3年間から5年間程度の将来目標と目標達成に必要な行動を明記したものをさす。すなわち、経営者の明確な経営理念と経営方針に基づき、中長期的な会社の方向性を示す経営ビジョンという定性的な目標に加えて、経営ビジョンを達成するため定量的な経営数値目標を設定した、個別事業計画を明記したものである。 「年度予算」とは、1年間の業務計画に基づく経営資源の配分と業績目標を数値で明記したものをさす。すなわち、中長期計画の達成のため主管部門が当年度管理すべき業務別数値目標を明記したものである。通常、売上高予算、販売費予算、製造費用予算、購買予算、在庫予算、経費予算、設備投資予算、資金予算、営業外損益予算として表される。 「中長期計画の経営数値目標」と「年度予算編成項目の数値目標」の「整合」とは、中長期計画で設定した定量的な経営数値目標と、年度予算編成で設定した数値目標が、数値の項目において相互に一方から他方を導出できる関係を持っているだけでなく、具体的に設定した数値の水準において相互に一方から他方を算出できる関係を持っていることをさす。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルでこのKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、中長期計画の達成状況を、年度予算の執行過程で適正に把握することができる計画統制プロセスを整備することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 予算管理を構成する中長期計画管理と年度予算管理は、いずれも会社の将来像を決めて、それを日常業務の積み重ねを通じて実現するという未来志向の作業であるから、中長期計画に正確性を求めるとすれば、それは達成可能性の高さと言い換えることができる。 それでは、現実の実務で、3年から5年という期間にわたる中長期計画の達成可能性を、どのように日常業務の遂行という目先の活動に依存させることができるのだろうか。異動の激しい従業員が、長期的展望を持ち続けていることは稀である。株主、債権者、顧客、仕入先、同業他社等が、その会社に対して持っている関係の時間軸は、もっと短いかもしれない。 そのような現実を踏まえると、中長期計画を日常業務の積み重ねで達成するというのは、そのままでは極めて覚束ない関係であり、その関係を確立する仕掛けが必要となる。つまり、中長期計画を各主管部門が管理しやすい1年単位の年度予算に分解して年度目標を明確化し、中長期計画の達成状況を把握できるような計画統制プロセスの体系が必要と考えられる。 その仕掛けの中核をなすのは、利害関係者にとって分かりやすく、経営者にとって管理しやすいと思われる数値であろう。そして、経理財務部門に戦略性をも期待するスコアリングモデルでは、会社の中でその数値情報を提供する能力を持つはずである経理財務部門がそれを担うべきと考えるのである。 このようなKPIを設定した価値判断が共有されず、計画統制プロセスにおいて経理財務部門が数値情報の提供を適切に行わない会社では、中長期計画と年度予算の整合性が失われ、中長期計画は年度予算に裏付けられない抽象的なものになるし、日常業務を担う主管部門の目標は本来の姿から乖離する。その結果、日常業務が経営ビジョンと乖離し、中長期計画の達成状況を把握しにくくなるだけでなく、中長期計画の修正が必要な場合に目標値を適正レベルに修正するローリングプランが機能しにくくなり、中長期計画の達成が覚束なくなる。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、中長期計画と年度予算の整合性を図る計画統制プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、中長期計画とそれに対応する複数年度予算を閲覧し、中長期計画にROEの数値目標がある場合、その数値目標が対応する年度予算で各主管部門が目標とする売上、購買費、製造費、在庫高、経費、資金調達に分解できることを確認いただきたい。 さて、読者の顧問先において、中長期計画の経営数値目標と年度予算編成項目の数値目標を整合させていたであろうか。 * * * 次回から、「個別決算業務」のKPIを取り上げる。 「個別決算業務」を構成する複数のKPIのうち、まず「決算準備」に関連する業務プロセスを評価するKPIから取り上げる。 (了)
税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第14回】 「ネットの世界の取組みで ホームページへの訪問者を増やす(その2)」 ~あなたの事務所の“キーワード”は何ですか? データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥 今回から2回にわたり、ホームページのアクセス数を上げるためのSEO(エス・イー・オー)について、具体的な方法をお話します(SEOの意味と大切さについては、前回の記事をご覧ください)。 SEOは、「内部SEO」と呼ばれる方法と「外部SEO」と呼ばれる方法に大きく分けられます。 そこで今回は「内部SEO」について、次回は「外部SEO」についてお話します。 内部SEOには「効果が出るまでに時間がかかる」が「一度効果が出ると持続しやすい」という特徴があります。 ◆ ◆ ◆ 前回「相続 税理士 東京」というキーワードで検索する例を見ましたね。 このように、検索はキーワードによって行われますので、SEOでは、まず、「対策を実施するキーワード」を選ばなくてはいけません。 そして、選んだキーワードで検索された時に検索結果の1ページ目に表示されるための対策を実施するのです。 そこで、自分の事務所のホームページの訪問者を増やすためには、 必要があります。 あるキーワードが月間何回くらい検索されているかは、Google AdWords(グーグル・アドワーズ(くわしくは次回ご説明します))というサービスを使って無料で調べることができますので、興味のある人はネットで検索して試してみてください。 自分で調べるのは面倒という人は、ホームページ管理会社に相談してみるとよいでしょう。 月間の検索数が非常に多いキーワードを『ビッグワード』と呼びます。一般に、ビッグワードであればあるほどライバルのページも多くなり、検索結果の1ページ目に表示させることは難しくなります。 キーワードを選ぶ際に注意しなければならないのは、 ということです。 どういうことか、お分かりでしょうか。 例えば、単に「税理士」というキーワードで検索している人の中には、税理士を探している人のほかにも、「税理士試験」について調べている人や、「税理士の求人」について調べている人が含まれているはずです。 このような「潜在顧客ではない人たち」は、たとえあなたの事務所ホームページを訪れたとしても、顧客になってくれることはありません。 そこで、 キーワードを推理(!)しなければいけません。 一般的には、複数の単語の組み合わせにして、対象を潜在顧客に絞り込みつつ、ある程度の検索数があるキーワードを探していくことになります。 このように複数の単語の組み合わせにしたキーワードは「ロングテール・キーワード」と呼ばれ、近年のSEOでは非常に多く採用されています。 税理士の場合、一般に地域密着型の営業になりますので、 などとして、地域で絞込みをかける組み合わせにすることが考えられます。 ◆ ◆ ◆ 組み合わせるキーワードを増やせば増やすほど、同じ組み合わせによる検索数は減りますが、潜在顧客が含まれる比率は多くなると考えられます。 また、検索数が減ることで通常はライバル数も減りますので、検索結果の1ページ目に表示させることも容易になっていきます。 しかし、あまりにも少ない検索数のキーワードにしてしまっては、検索結果の1ページ目に表示されるとしても、ほとんど見る人がいないということになってしまい、「ホームページの訪問者を増やす」という最終的な目的から外れてしまいます。 そのサジ加減については、ホームページ制作会社と相談した方が良いでしょう。 ◆ ◆ ◆ こうして対策するキーワードが決まったら、あなたの事務所ホームページを「決めたキーワードに対して有用なページだ」とクローラー(検索サイトの自動登録システム【前回参照】)に判断されるようなページに書き換えていきましょう。 クローラーはホームページ上のテキスト(文字情報)を解析して、上記の有用性を判断していると考えられています。 そこで基本的には、文章として不自然でない範囲で、テキストの中にキーワードを多く含めていくことから始めます。 ちなみに、あるページについて、キーワード中の単語がどれくらい含まれているのかという比率を「キーワード出現率」といいます。 ネットで検索すれば、キーワード出現率の解析ツールがすぐに見つかりますので、試しにご自分の事務所ホームページページを調べてみるのもよいでしょう。ご自分が対策したいキーワード出現率が高いのなら合格です。 このキーワード対策をするにあたり注意しなければいけないのは、画像ファイルです。 例えば、「相続税のことならお任せ!」なんてキャッチフレーズを、ガッツポーズをしたあなたの写真に組み合わせたバナー(第7回参照)を制作したとします。 次のようなものですね。 このバナーは画像ファイルですので、その中にキーワード(例えば「相続税」)が表示されていても、テキスト(文字情報)ではありません。 このためクローラーには認識されず、「相続税」の検索結果には反映されないことになります。 このように、画像ファイルはキーワード対策にはなりませんので、画像だらけでテキストの少ないホームページは、どんなに見栄えが良くとも、内部SEOとしては弱くなるのです。 逆に、キーワード対策として有効なのは、テキスト(文字情報)を確実に積み重ねることができる「ブログ」です。 ホームページ内にブログページを開設して、例えば「相続 税理士 東京」をテーマにした記事を書いていくことで、このキーワードの組み合わせで検索すると、あなたの事務所ホームページが上位に表示されやすくなります。 このように、選択したキーワードに関連する記事を書いていくことは、継続的にご自分で内部SEOを充実させていることになるのです。 ◆ ◆ ◆ 次回はもう1つのSEOである「外部SEO」についてお話します。 (了)
カウンターの真ん中あたりに銀色のネックのビールサーバーがある。 「生ください」 「あ、これやってないんですよ」 「じゃあ、ビールは何がありますか」 「普通っぽいのがよかったらハイネケンですかね」 「じゃ、それで」 コルクのコースターを置き、バックバーの冷蔵庫から冷えたグラスを出し、ビールは奥にある家庭用の冷蔵庫から持ってくる。 生ビールは、客が少ないこともあるが、ここではめったに注文されない。飲まないと古くなってしまうのでやめた。 もうひとつ理由がある。一杯出しただけでもサーバーに水を通して掃除しなければならない。掃除は面倒で、ほとんど一杯分のビールも掃除の過程で捨てることになる。 それでも「銀色ネック」はバーっぽさを演出するオブジェではある。 「カウンター、一枚板ですね、これすごいなあ」 「ありがとうございます」 そのオブジェが乗っかっているカウンターはとてもバーっぽい。 カウンター天板は厚みのある赤っぽいカリン材の一枚板で、客席側に白い部分が不規則にある。新木場の銘木屋で見た第一印象は「ベーコンに似ている」だった。 ちょっと演出過剰に思え、おねえさんがいる店に似合いそうで躊躇したが、他の銘木屋を3軒廻っても適当なものがなかったのでこれにした。 なかなかいいものを見つけたが、長さも幅もあるものを、どうやって中に入れるかが問題だった。地下への階段は途中で曲っている。入らないからといってカリン材は硬く、現場では切れない。 入るかどうか心配で天板と同じ大きさの木枠を作り実験をした。直立させたり、斜めにしたりでなんとか入るのを確かめ、原物を3人で持って入れようとしたら最後にまだ問題があった。とても重く、たぶん200キロはある。なんとか入ったが、一番下で支えた大工さんは死にそうな悲鳴をあげた。 カウンター天板の裏面には松に鷹が止まった図柄が粗い仕上げで彫刻してある。施工材料としてよりも工芸品で輸入すると関税が安いかららしい。見たいという客には懐中電灯を渡して見てもらう。 「酒ビンが綺麗に光ってますね」 「ええ、ちょっと不思議でしょ」 ほとんどの客がバックバーに目を奪われる。 照明を暗く落とした、天井も壁も床までも真っ黒の空間に、酒ビンや中身の液体が宝石のように輝いている。2段に2列ずつ酒ビンを並べた後ろにLEDのテープライトが仕込んである。これはなかなかいいアイデアだった。 「あの、その後ろに隠れてる、あ、そう、それストレートで下さい」 バックバーの下段は向かって右側にスコッチ、左側はバーボンがそれぞれ2列に並んでいる。客の目線を追って下段後列から持ち上げたのはラフロイグ。アイラ島産のシングルモルトで、スモーキーだがスッキリとした酒だ。 「ストレートだとぬる燗になりますけど、いい? 」 「え、なんでですか」 「ここにあるLEDの熱でぬる燗になっちゃうんです」 (了)
「平成26年度税制改正大綱」の関連記事《リンク集》 12月12日に公表された「平成26年度税制改正大綱」(与党大綱)に関する速報解説・解説記事について、こちらにまとめました。 また、10月1日に公表された「民間投資活性化等のための税制改正大網」に関する速報解説・解説記事も下記にまとめています。
《速報解説》 監査基準委員会報告書800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」等に係るQ&A(公開草案)について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年1月27日付で、日本公認会計士協会(監査基準委員会)は、次の監査基準委員会報告書に関するQ&A(以下「Q&A」という)を公開草案として公表した。 上記①及び②は、「監査基準の改訂について(公開草案)」(平成25年11月19日、企業会計審議会)を踏まえたものであり、平成26年1月14日まで意見募集が行われていた。 Q&Aは、上記①及び②の公開草案の理解に資するため、当該監査基準委員会報告書に含まれている要求事項や適用指針の趣旨、あるいは文例の背景説明についてとりまとめたものである。 意見募集期間は平成26年2月17日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 適用される財務報告の枠組み 「監査基準の改訂について(公開草案)」では、「一般目的の財務諸表」と「特別目的の財務諸表」について述べており、また、従来の適正性に関する意見の表明の形式に加えて、準拠性に関する意見の表明の形式を監査基準に導入している。 Q&Aの「Q2 適用される財務報告の枠組み」では、財務報告の枠組みは次の2つの視点から分類されると述べられている。 財務報告の枠組みが上記のいずれに分類されるかは、監査契約の新規の締結又は更新や監査報告に影響するため重要となる。 2 特別目的の財務報告の枠組みの具体的な例 Q&Aの「Q5 特別目的の財務報告の枠組みの具体的な例」は、特別目的の財務報告の枠組みの具体的な例として、次のものを挙げている。 監査基準委員会報告書800 の付録には、以下の特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表の監査報告書の文例が示されている。 特別目的の財務報告の枠組みを理解するうえで参考になるものと考えられる。 3 財務報告の枠組みの相違と監査プロセス (1) 共通点 Q&Aの「Q11 財務報告の枠組みの相違と監査プロセス ①特別目的の財務諸表」は、財務報告の枠組みの相違にかかわらず、監査人は、財務諸表に全体として重要な虚偽表示がないかどうかの合理的な保証を得て監査意見を表明しなければならず、リスク・アプローチに基づく監査手法により監査を実施することに何ら変わるところはないと述べている。 また、Q&Aの「Q13 財務報告の枠組みの相違と監査プロセス ②準拠性の枠組み」は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して行う監査は合理的保証業務であり、財務報告の枠組みが、適正表示の枠組み又は準拠性の枠組みのいずれであるかにより、保証水準に差が生じるわけではないと述べている。 (2) 相違点 Q&AのQ13は、適正表示の枠組みと準拠性の枠組みとの相違は、監査意見の形成の際、準拠性の枠組みに準拠した財務諸表に対する監査の場合は、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項が遵守されているか否かを検討すればよく、財務諸表が適正に表示されているかどうかの評価、すなわち、財務諸表により提供される情報(例えば、事業体の財政状態や経営成績又はキャッシュ・フローの状況)を、想定利用者が財務諸表から適切に理解できるか否かといった観点に立った俯瞰的な検討を行うことは求められない点にあると述べている。 (3) 留意点 監査人は、特別目的の財務諸表の監査を実施する場合にも、監査基準、法令により準拠が求められる場合は監査における不正リスク対応基準、及び監査基準委員会報告書を含む日本公認会計士協会が公表する監査実務指針のうち個々の監査業務に関連するものはすべて遵守することが求められる。 さらに、特別目的の財務諸表の監査の場合、一般目的の財務諸表の監査と比して、特に、①監査契約の締結及び更新、②監査報告において、特別な考慮事項が必要となると述べられているので、監査契約の受嘱に際しては慎重な対応が必要になると考えられる。 * * * 上記のほか、「一般目的の財務諸表」と「特別目的の財務諸表」の考え方、「適正表示の枠組み」と「準拠性の枠組み」の考え方、会社法に基づいて作成された計算書類、「中小企業の会計に関する指針」又は「中小企業の会計に関する基本要領」の取扱いなども述べられており、監査人だけでなく、特別目的の財務諸表等の作成者や利用者にも関係するので、ぜひ、Q&Aをお読みいただきたい。 (了)
《速報解説》 使途秘匿金の支出がある場合の課税特例の適用期限撤廃 ~平成26年度税制改正大綱~ 税理士 伊村 政代 Ⅰ 制度の確認 この制度は、法人が使途秘匿金と認められる支出をした場合には、その支出をした事業年度の通常の法人税額に、その使途秘匿金の支出額の40%を加算するものである。 Ⅱ 平成26年度改正事項 上記の特例は平成6年4月1日から平成26年3月31日までの間に使途秘匿金を支出した場合において適用されるが、「平成26年度税制改正大綱」において、永続的に適用されることが明らかとなった。 Ⅲ 適用にあたっての留意点 1 適用対象となる支出 法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入されない。費途が明らかでない支出は「費途不明金」として別表4において加算調整の対象となる。 なお、上記の費途不明金のうち、相当の理由なく、相手方の氏名又は名称等をその帳簿書類に記載しなかった支出については、「使途秘匿金」としてさらに法人税の追加課税がされる。 2 追加課税額の計算 その事業年度の法人税額に加算される金額は、下記算式のとおり。 3 費途不明金と使途秘匿金 「費途不明金」と「使途秘匿金」は、その範囲に違いがあることに留意しなければならない。 費途不明金は、 として定義されている。 一方、使途秘匿金は、 とされている。 つまり、費途不明金はその費途が明らかでないものであり、使途秘匿金は取引の相手方の情報を、相当の理由なく帳簿書類に記載していないものとなっている。 その他、下記の点に留意が必要である。 (了)
《速報解説》 中小企業者等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置の適用期限延長 ~平成26年度税制改正大綱~ 税理士 伊村 政代 Ⅰ 制度の確認 この制度は、青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合(欠損事業年度)において、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度(還付所得事業年度)に繰り戻して法人税額の還付を請求することができる制度である。 ただし、次の欠損金額については、その適用が停止されている。 Ⅱ 平成26年度改正事項 上記Ⅰにおける②の不適用措置の適用期限は、平成26年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額となっているが、「平成26年度税制改正大綱」により、その期限が平成28年3月31日まで2年間延長されることとなった。 つまり、今回の改正によって、中小企業者等以外の法人にあっては、欠損金の繰戻しによる還付制度が適用できる事業年度が2年間先送りとなったのである。 Ⅲ 適用にあたっての留意点 1 適用対象となる法人 欠損金の繰戻しによる還付制度が適用できる法人は、次の各期間に終了する各事業年度によって異なる。 2 還付金額の計算 3 適用の要件 この制度の適用を受けるには、次の要件をすべて満たさなければならない。 (了)
《速報解説》 支払調書等の本店等一括提出制度の創設 ~平成26年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成25年12月24日に閣議決定された「平成26年度税制改正大綱」の中で、支払調書等の提出について見直しを行うことが明記された。 ここでは、その内容について解説する。 ■現行の支払調書等の提出 支払調書や源泉徴収票といった支払調書等は、その支払事務を取り扱う事務所や事業所等の所在地を所轄する税務署長に提出する必要がある。 【現行制度のイメージ】 ■平成26年度税制改正の概要 支払調書や源泉徴収票といった支払調書等の提出について、所轄税務署長の承認を受けた場合は、その所轄税務署長以外の税務署長に対して、以下のいずれかの方法により提出できるようにする。 つまり、支店等で扱っている支払いについても、本社がまとめて本社の所轄税務署に提出する、といったことが可能になる。 【改正のイメージ】 (*) 光ディスク等又はe‐Taxによる提出に限る。 ■適用時期 上記の改正は、平成26年4月1日以後に提出すべき調書等について適用される。 (了)
《速報解説》 国税庁『消費税率引上げに伴う資産の譲渡等の適用税率に関するQ&A』の公表について アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 1月20日付け、国税庁から消費税率引上げに関するQ&Aの第2弾である『消費税率引上げに伴う資産の譲渡等の適用税率に関するQ&A』が公表された。 平成25年4月に公表された第1弾のQ&A(「平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A」)は、施行日以後に旧税率が適用される経過措置の具体的な取扱いに関するものであったが、今回の第2弾については、施行日が近づくにつれてクローズアップされてきた適用税率における実務的な取扱いに関するものである。 今回公表されたQ&Aによる事例は、施行日をまたぐ取引で収益・費用の計上基準が異なる場合の適用税率、経過措置の適用がない事務機器等の保守や管理に関する業務料金における適用税率、短期前払費用の取扱いなど、平成9年の税率改正時にも問題となった取引事例で、法令や通達等においても明確となっていないことから、様々な刊行書籍等でも意見が分かれるところであったが、今回公表された取引事例については、税務当局の方向性を明確に示すこととなり、実務的にはかなり有用なものであると考えられる。 以下では、Q&Aの取引事例のうち特に重要なものについて解説を加えることとする。 ① 【問1】事業者間で収益・費用の計上基準が異なる場合の取扱い 事業者間取引において、出荷基準を採用している事業者が施行日前に出荷した商品につき旧税率にて請求した場合において、検収基準を採用している取引先が、その商品を施行日以後に検収したときの仕入税額控除の適用税率はどうなるのかといった問題については、旧税率にて仕入税額控除を行うことが明記された。 上記のような場合には、資産の譲渡等を行った時期(売上側の計上時期)が施行日前なのか施行日以後なのかという点に着目して適用税率を判断することとなる。 ② 【問2】月ごとに役務提供が完了する保守サービスの適用税率 年間契約をしている事務機器等の保守サービス料金について、毎月作業報告書を作成し、その保守料金を請求している場合における施行日をまたぐ期間に対応する料金については、その役務提供の完了した日の税率が適用されることとなる。 例えば、平成26年3月21日から同年4月20日までの期間に係る料金は、4月20日の税率である8%が適用される。 この取扱いについては、毎月20日締めとしている1ヶ月分の計算期間が一の取引単位であると認められることから、その取引単位ごとに同一の税率が適用されることについても言及しており、これ以外の役務の提供に係る取引事例もこの取扱いが流用できるものと考えられる。 ③ 【問9】短期前払費用として処理した場合の仕入税額控除 法人税法における短期前払費用の特例(法人税基本通達2-2-14)を適用した場合の仕入税額控除の処理方法について、原則的な取扱いとしては、消費税法基本通達11-3-8の規定によりその支出した日の属する課税期間においてすべて支払った時点の税率で処理しなければならない。 しかしながら、その支払ったもののうち施行日以後に係る部分につき新税率にて支払った場合には、その支払った課税期間では仮払金として処理し、施行日以後の課税期間において新税率にて処理する方法が様々な刊行物で紹介されていたが、今回のQ&Aにより課税当局もこの処理方法で取り扱うことにつき認めることを明記した(拙稿「まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン【第2回】「前払費用の取扱いについて(その2)」」参照)。 なお、平成25年12月に、平成26年1月から12月までの1年間の保守契約を締結し、同月中に1年分の保守料金を支払った場合において、1年分の保守料金について旧税率に基づき仕入税額控除を行ったときは、翌課税期間において、新税率が適用される部分(平成26年4月分から12月分)について5%の税率による仕入対価の返還を受けたものとして処理した上で、改めて新税率の8%に基づき仕入税額控除の処理を行うことができることも公表された。 * * * なお、上記以外にも所有権移転外ファイナンス・リース取引、工事の請負、賃貸借契約などに関する以下の項目が取り上げられているが、いずれも具体的な事例を用いて示しており、施行日前に一通り確認し、その内容につき誤った処理とならないように注意されたい。 (了) 最新の連載記事はこちら↓↓
《速報解説》 「生産性向上設備投資促進税制」に関する 申請書・確認書等、関連資料の公表について 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 平成26年度税制改正により創設された「生産性向上設備投資促進税制」の具体的な手続に必要となる確認書・申請書等の様式や説明資料について、産業競争力法の施行日である平成26年1月20日付けで、経済産業省のホームページにおいて公表された。 具体的な内容については以下の通りである。 1 「先端設備」の関連資料 (1) ご利用の手引き 生産性向上設備投資促進税制の適用を受けるまでの具体的な手続についてまとめられている。 (3)(4)で記載する通り、事業主(設備ユーザー)が設備メーカーに証明書の発行を依頼し、依頼を受けた設備メーカーが証明書及びチェックシートに必要事項を記入の上、当該設備を担当する工業会等の承認を受けるまでの具体的な手続がQ&A形式で記載されている。 (2) 工業会等リスト 先端設備の仕様等の証明を行う工業会等の団体名、連絡先が設備の種類、用途又は細目ごとに記載されている。 (3) 仕様等証明書サンプル 事業主(設備ユーザー)が設備メーカーに発行を依頼する証明書のサンプルが記載されている。記載内容はあくまでサンプルであり、実際の運用にあたっては当該設備を担当している工業会等が使用する様式を用いる必要がある。 (4) チェックシートサンプル 工業会等は、証明書の発行にあたり、必要に応じて設備メーカーから裏付けとなる資料等を取り寄せ、証明書及びチェックシートの記入内容を確認の上、設備メーカーに証明書を発行する。このチェックシートのサンプルが記載されている。 (3)と同様、記載内容はあくまでサンプルであり、実際の運用にあたっては当該設備を担当している工業会等が使用する様式を用いる必要がある。 2 「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」の関連資料 (1) ご利用の手引き 事業主(設備ユーザー)が投資計画案を立案し、公認会計士、税理士により確認を受け、経済産業局による確認を受けるまでの具体的な手続が記載されている。 (2) 設備投資計画申請書サンプル 事業主(設備ユーザー)が作成する設備投資計画申請書のサンプルが記載されている。 (3) 設備投資計画申請書の詳細別紙サンプル 設備投資計画申請書について、設備投資の内容や年平均投資利益率の適合基準を満たす計画の詳細を説明する場合のサンプルが記載されている。 (4) 公認会計士・税理士による事前確認書面サンプル 事業主(設備ユーザー)は、作成した設備投資計画申請書について公認会計士・税理士による確認を受ける必要がある。 公認会計士・税理士は、申請書が適切な根拠に基づいて作成されていることを確認したうえで、事前確認書を発行する。 この事前確認書のサンプルと具体的な確認内容について記載している。 (5) 経済産業局による確認書サンプル 事業主(設備ユーザー)は作成した設備投資企画申請書と(4)の事前確認書を経済産業局に提出し、経済産業局は申請内容が適切である場合には確認書を発行する。 その確認書のサンプルが記載されている。 (6) 実施状況報告書サンプル (5)の確認書の交付を受けた事業主(設備ユーザー)は、申請書の計画期間内について、申請書の実施状況を、確定決算後3ヶ月以内に、経済産業局に報告しなければならない。 その報告書のサンプルが記載されている。 (7) 設備投資計画変更申請書サンプル (5)の確認書の交付を受けた後、設備の取得前に、申請書に記載された投資利益率の算定にあたって、分母にあたる設備投資取得額が増える場合や分子にあたる営業利益率の減少が見込まれる場合には、変更申請書を経済産業局に提出の上、再度確認書の交付を受ける必要がある。 その設備投資計画変更申請書のサンプルが記載されている。 (8) 申請書記載例 (2)(3)の設備投資計画申請書と詳細別紙について、具体的な数字を加えたものが記載されている。 (了)