パワーハラスメントの実態と対策 【第2回】 「パワハラ行為の線引き」 特定社会保険労務士 大東 恵子 前回話した通り、パワーハラスメント(パワハラ)は、会社にとって大きな問題となっている。 しかし、その性質上、どの行為がパワハラにあたるのか、指導・叱責との境界はどこなのか、その判断はとても難しく、ケースバイケースで考えるほかない。そのため、対策も立てづらく、扱いづらい問題となっている。 そもそも「パワハラ」とはどのような行為をいうのか、上記で述べた通り、その判断はなかなか難しいが、以下では4つの判断基準に分けて考察してみる。 ① 行為について 身体的な暴力や言葉の暴力はもちろんのこと、無視や仲間はずれ、過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)、過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない)、私的なことに過度に立ち入るなどもパワハラにあたる。 これらは、刑法違反に該当するものはもちろんのこと、労働基準法などの労働法規違反に該当するものも含め、パワハラとなるのである。 ② 時間的経緯について 例えば、「バカヤロー」という言葉を1回言ったのみでは、必ずしもパワハラとは言えない。身体的暴力は別として、継続して何度も暴言を吐いたり、それが徐々にエスカレートしていく場合に、パワハラに該当する可能性が出てくる。 つまり、初めは注意の意味でたまたま言ったものが、何度も繰り返されるうちにパワハラへ発展してしまうということだ。 パワハラは4段階で発展するといわれている。 第1段階は、ちょっとしたミスの注意や指摘・コミュニケーションのズレから始まる。この段階では日常的な業務の中で起こることであり、パワハラには該当しない。指摘を受けた側にも反省がある場合が多く、理由や改善法を説明すれば受け入れられることも多くある。 第2段階では、ミスなどが繰り返されていくと、苛立ちから叱責の内容が、「お前の態度がなっていないからだ」などと、業務上の注意からだんだんと逸脱していく。例えば、言われた部下は、どんどん萎縮してしまい、仕事の効率は落ちていき、再びミスを犯すという悪循環になっていく。 第3段階では、上司は、ますます言動が激しくなり、部下は標的となり、孤立していく。職場全体への雰囲気も悪くなり、いじめのメカニズムが出来上がる。 そして第4段階では、被害者である部下の精神的ダメージは増大し、ついに精神的な病気に発展してしまう。会社への不信感や忠誠心の低下が著しくなり、労災認定や裁判へと発展する。 ここまでくると、加害者を含めた職場環境はもちろんのこと、会社そのものの評判も落ち、その影響は測り知れない。 ③ 心理面について 同じ行為であっても、悪意がなかったり、強迫的ではなかったり、腹いせで攻撃的な感情を投げつけるわけではなく、行為者に自らを省みる姿勢がある場合、必ずしもパワハラにならない可能性もある。 普段からコミュニケーションがとれていたり、良い職場環境にあると、一見パワハラと思わる言葉でも、そう受け取られないこともある。厚生労働省の調査でも、パワハラが起きやすい職場として、「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」という結果が出ている。 パワハラ防止のためにも、普段からのコミュニケーションの大切さが感じ取れる。 ④ 状況要因について 力関係の差が大きいところでは、葛藤や人間関係のトラブルからパワハラに発展しやすい。 また、例えば、加害者である上司がより強い権力を持っている場合、被害者である部下は何もできず、泣き寝入りするしかないという状況もある。 しかし、そこに周囲のサポートがあった場合、例えば、いくら横暴な上司がいたとしても、部下が一丸となって立ち向かうような状況では、パワハラへの発展を防ぐことができる。また、被害者の心理的な支えとなることもできる。逆に、被害者が孤独になればなるほど、問題は大きくなり、被害者自身もどんどん追いつめられていく。 「周囲のサポート」は、パワハラ防止のキーポイントになる。 * * * 上記4つの判断基準は、すべてがそろっていないとパワハラに該当しないというものではない。 さまざまな角度から考える指針としていただきたい。 また、行為そのものがパワハラかどうかという一元的な判断基準としてだけでなく、「パワハラは誰にでも起こるもの」という観点から、いかに防ぐかというヒントとしてこの基準を考える必要がある。 次回は、実際に起きたパワハラの実例から法的判断について考えていく。 (了)
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第2回】 「メーカーであれば「大規模小売事業者」に当たらないか?」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 「大規模小売事業者」に当たるか否かで生じる差異 本連載第1回で解説したように、消費税転嫁拒否等の行為が禁止される特定事業者には、①「大規模小売事業者」と、②それ以外の法人事業者という2つの類型がある。 そして、上記②の特定事業者については、継続して商品・役務の供給を受ける取引先のうち資本金3億円以下の法人事業者等のみが特定供給事業者に当たり、これらの者に対して消費税転嫁拒否等の行為を行うことが禁止されるのに対し、上記①の「大規模小売業者」については、取引先(売手)の資本金額にかかわらず、継続して商品・役務の供給を受けるすべての取引先が特定供給事業者に当たり、これらの者すべてに対して消費税転嫁拒否等の行為を行うことが禁止される。 つまり、「大規模小売事業者」に当たるか否かによって、消費税転嫁拒否等の行為を行わないようにしなければならない取引先(売手)の範囲が変わってくるため、まずは、自社が「大規模小売事業者」に当たるか否かを確認することが必要になる。 2 「大規模小売事業者」とは 「大規模小売事業者」とは、一般消費者が日常使用する商品の小売業を行う者(特定連鎖化事業を行う者を含む)であって、その規模が大きいものとして公正取引委員会規則で定めるものをいう(消費税転嫁対策特別措置法2条1項1号)。 そして、「その規模が大きいものとして公正取引委員会規則で定めるもの」とは、以下の事業者をいう(「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法第2条第1項第1号の大規模小売事業者を定める規則」〔平成25年公正取引委員会規則第3号〕)。 (※1) 特定連鎖化事業(フランチャイズ等)を行う者にあっては、当該特定連鎖化事業に加盟する者の売上高を含む。 3 製造業・サービス業等と小売業の両方を行っている場合の考え方 「大規模小売業者」という日本語からは、大手スーパー、百貨店、ホームセンター、ドラッグストア、家電量販店などの大規模な小売業者を思い浮かべる読者が多いであろう。 しかし、消費税転嫁対策特別措置法にいう「大規模小売事業者」には、これらの小売業者に限らず、インターネット直販を行うメーカー、サービスに関連するグッズ等の販売を行うサービス業者など、「大規模小売事業者」という日本語からはイメージしづらい事業者も含まれる場合があることにご注意いただきたい。 すなわち、上記アの年間売上高(100億円)は、小売業としての売上高に限らず、法人としての当該企業全体として計算される。その考え方は、具体的には以下のとおりである。 (※2) 公正取引委員会「消費税の転嫁拒否等の行為に関するよくある質問」Q1-1 設問の事例では、個別事情によるものの、卸売業者や小売業者に対する売上が年間90億円であるのに対し、インターネット直販(小売業)の売上が年間40億円と相当のボリュームを有しており、「大規模小売事業者」に該当すると判断される可能性が高いといえる。 4 まとめ 消費税転嫁対策特別措置法にいう「大規模小売事業者」の意義は、一般的な日本語の語感からイメージされるものよりも幅が広く、メーカーやサービス業者であっても該当する場合がある。 したがって、自社が「大規模小売事業者」に当たることはないと安易に判断し、資本金額3億円を超える取引先(売手)に対する買いたたき等の予防を怠っていると、知らず知らずのうちに消費税転嫁対策特別措置法に違反してしまう可能性がある。 (了)
常識としてのビジネス法律 【第10回】 「印紙に関する法律知識」 弁護士 矢野 千秋 印紙税は日常取引で作成される契約書や領収書などに課税される税金であり、印紙税法別表第1の課税物件表に掲げられている20種類の文書が課税文書に該当する。 文書に課税されるものであるから、文書が作成されない場合は、取引が行われたとしても課税されない。課税文書は限定列挙されているため、その該当性(該当しない文書を「不課税文書」という)の判断が重要となる。 1 印紙を貼る文書 印紙税は、商取引などにおいて作成される契約書、領収証、約束手形等に課税される税金で、契約内容や契約金額、領収金額、手形金額などにより印紙税額が定められている。 (1) 課税文書 「課税文書」とは印紙を貼る必要のある文書のことであり、印紙税法別表第1(以下「課税物件表」という)に掲げられている文書のうち、非課税文書に該当しない文書をいう(印紙税法1条)。 (2) 非課税文書 非課税文書とは、課税物件表に掲げられている文書中、下記のいずれかに該当する文書をいう(印紙税法5条)。 (3) 課税文書への該当性の判断 課税文書への該当性の判断は、文書を全体として判断するのみならず、文書に記載されている個々の内容についても判断する。したがって、課税文書に該当しない金銭借用の申込書であっても、その文書に保証人が記名捺印しているような場合は、第13号文書の債務の保証に関する契約書として課税対象となる。 また該当性の判断は、文書の表題などの形式的な記載文言によるのではなく、記載文言の実質的な意味内容によって判断する。すなわち、記載されている文言を基礎として、関係法律の規定、当事者間の明示黙示の了解、基本契約、慣習等を勘案して、総合的に判断することになる。 (4) 他の文書を引用している文書 ある文書が他の文書を引用している場合は、引用文書の内容が記載されているものとして、その文書の内容を判断する。契約金額は、1号、2号、17号文書に限って引用される。例えば「請負代金は基本契約書第〇条の定めによる」などとあれば、基本契約書の金額が引用されることになる。 なお、契約期間は、その文書に記載されている期間のみに基づいて判断する。 (5) 文書の通数 印紙税は、文書ごとに1通または1冊を単位として課税される。1通の文書中に、課税物件表の複数の号にまたがる内容が記載されている文書は、そのうちのいずれか1つの号の文書として課税される。 しかし1冊の文書であっても、その記載証明される部分の作成日が異なる場合は、後から作成される部分については新たな課税文書を作成したものとされる。 (6) 契約書の写し、副本、謄本等 「契約書」とは、契約の成立、変更、補充等の事実を証明する文書であり、念書などのように当事者の一方が作成するものも含む。また、当事者の全部または一部の署名を欠くような場合でも、当事者間の了解や商慣習により、契約の成立を証明できるものも含む。 1個の契約について、複数の契約書が作成される場合は、各契約書が課税文書とされる。 契約書の単なるコピー(写し)は課税文書ではないが、コピーに当事者の署名や押印があったり、原本と相違ないことの証明があったり、写し・副本・謄本であることの証明のあるものは、課税文書である契約書に該当するので注意が必要である。 申込書や発注書は原則として契約書にならないが、その申込書や発注書により自動的に契約が成立することを基本契約や当事者の合意などで定めていれば、申込書や発注書も契約書になる。また、申込書等に契約当事者双方の署名または捺印があれば、やはり契約書とされる。 (7) 契約当事者以外の者に提出する文書 例えば銀行や監督官庁など、契約当事者以外の者に提出する文書は、契約書に提出先が書いてあるものや、内容からして当事者以外に提出することが明らかなものは、課税文書ではない。 (8) 同一法人内で作成する文書 内部の担当者間、本支店間など、同一法人内で事務整理のために作成される文書は、課税事項を証明するために作成された文書に当たらないので、課税文書ではない。 2 文書の所属 文書中に複数の号に該当する記載のある文書の所属であるが、まずそれぞれの事項が課税物件表のどの号に該当するかを決定し、次の区分により所属を決定する。 (以下、第〇号に掲げる文書に該当する文書を〇号文書という。) 3 記載金額 「記載金額」とは、契約金額、額面額等、その文書により証明される事項に関する金額として、その文書に記載されている金額をいう。なお、消費税の額が具体的な金額で区分して記載された1号、2号および17号文書については、その消費税の金額は文書の記載金額に含めない。 4 納税義務者 印紙税の納税義務は課税文書を作成したときに発生し、課税文書の作成者が納税義務を負担する(印紙税法3条)。 「作成」とは、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これをその文書の目的に従って行使することをいう。 「作成者」とは、原則としてその文書に記載された作成名義人であるが、法人等の役員や従業員がその法人の業務または財産に関して作成したものについては、役員または従業員が作成名義人となっていても、その法人等が作成者となる。 契約書を2通作成する場合のように複数人が作成者であるときは契約当事者が連帯して納税義務を負担するが、内部的な負担割合に関して印紙税法は特段の定めをしていない。そこで、契約中で負担者を定めることになる。定めがない場合は均等割の慣習があるが、こちらが契約上強い立場にあるときは相手方に2通分を負担させることも問題ない。 契約書1通のみの場合も、契約当事者が連帯して納税義務を負担する。 5 納付方法 印紙税を納付する場合には、原則として課税文書に印紙を貼り付け、その課税文書と印紙の彩絞とにかけて明瞭に印紙を消す必要がある(印紙税法8条)。 通常文書作成に用いた印鑑で消印をするが、その印紙が使用済みであることが分かればよいので、ボールペンなどで署名や書きバン(名前を手書きして丸で囲む)をしても構わない。ただし、バツ印や二本線で消すのは避けるべきである(通達では、これらは消印の仕方として認められていない)。 6 還付 課税文書に該当しない文書に印紙を貼ったときや、所定の金額を超える印紙を貼ってしまったときは所定の手続きで過誤納の還付を受けられるが、以下の通り手続がめんどうなので、事前に税理士や税務署に問い合わせて、必要額のみを貼るように心がけるべきである。 還付を受けようとする場合は、文書の種類、納付税額、過誤納税額等の所要事項を記載した「印紙税過誤納確認申請書」を、過誤納となった文書の印紙税納税地の所轄税務署長に提出し、過誤納となった事実を証明するために、印紙を貼付し納付印を押した過誤納の文書を提示して、その過誤納の事実の確認を受けることになる(印紙税法14条)。 7 過怠税 印紙税を納付するべき課税文書の作成者が、その納付すべき印紙税を課税文書の作成の時までに納付しなかった場合には、故意過失を問わず、その納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額、すなわち印紙税額の3倍の過怠税が課税される(合計300%)。 また、貼り付けた印紙を所定の方法により消印をしなかったときは、やはり故意過失を問わず消印をしなかった印紙の額と同額の過怠税が課税される(合計200%)。 この過怠税の最低額は1,000円である(印紙税法20条)。 8 印紙税法の改正 (1) 非課税文書の拡充 平成元年4月1日以後に作成する以下の文書は非課税となった。 (2) 軽減措置の延長 1号文書および2号文書中の特定の文書の印紙税額軽減措置は、平成26年3月31日まで延長され、平成26年4月1日から平成30年3月31日までは、さらに軽減割合が高められている。 (了)
〔4/15(火)開催セミナー〕 【1日で理解する借地権】 法人が介在した場合における貸借実務とその評価 株式会社プロフェッションネットワーク主催のセミナー「【1日で理解する借地権】法人が介在した場合における貸借実務とその評価」の開催が、4月15日(火)とせまってまいりました。 ※お申込みは終了しました。 昨年よりご好評をいただいております税理士 笹岡 宏保氏による【1日で理解する】セミナーシリーズ。 今回は借地権に関して、基礎的な理解から実務において不可欠とされる『借地権の権利金の慣行』、『法人が介在する使用貸借』等の解釈確認までの重要項目についてを確認します。 各回のセミナー内容は各々独立して1日単位で内容は完結しており、どの回からでもご受講いただけますので、この機会にぜひご参加ください。
《速報解説》 「国際統合報告フレームワーク (International Integrated Reporting Framework)」 日本語訳の公表 公認会計士・税理士 若松 弘之 昨年12月9日付けで、国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council、以下「IIRC」という)より、国際統合報告フレームワーク(THE INTERNATIONAL FRAMEWORK)(以下、「フレームワーク」という)の英語原文が公表され、本誌でも解説したが、今般、フレームワークの日本語訳が、IIRCウェブサイトにおいて公表された。 本日本語訳は、日本公認会計士協会が翻訳したものを、企業報告のステークホルダー(企業、投資家、学識者、取引所及び公認会計士)によって構成される翻訳レビュー作業部会が確認・承認したうえで公表されている。 昨年12月の速報解説にてフレームワークの概要とポイントを解説したが、フレームワークの概念、定義や理論背景などを英語原文で理解することは、日本企業の関係者にとってハードルになっていた。 今般の翻訳版公表によって、統合報告に対する理解の拡大とディスカッションの深まりが期待される。 統合報告に関しては、昨年12月のフレームワーク公表後、グローバルベースで統合報告への期待と実践に対する取り組みが加速しており、日本においても大手企業のディスクロージャー担当者らを中心に統合報告への関心が高まっている。 この背景には、企業価値の長期にわたる持続的成長を、財務報告と非財務報告とを関連付けて分かりやすく対外説明することによって、長期的視点で安定運用する投資家を募りたいという企業の意識も伺える。もちろん、統合報告は大企業だけのものではなく、成長力の高い新興・中堅企業においても非常に有効なディスクロージャー手段となるであろう。 なお、英語原文では、フレームワークと同時に、「結論の基礎(BASIS FOR CONCLUSIONS)」と「重要論点の要約(SUMMARY OF SIGNIFICANT ISSUES)」が公表済みであるが、今回日本語訳されたものはフレームワークのみであり、今後、他の公表物の翻訳も望まれる。 (了)
《速報解説》 成年被後見人の相続税における障害者控除の適用について (国税庁文書回答事例) 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 国税庁は、成年被後見人の相続税における障害者控除の適用についての事前照会について平成26年3月14日付で、「貴見のとおりで差し支えない」との回答を公表し、その適用を認めている。 その内容と実務上の留意点を確認する。 2 照会の趣旨 照会の趣旨は、相続税の申告に当たり、相続人の中に、成年後見制度に基づいて家庭裁判所から後見開始の審判を受けているもの(成年被後見人)がいる場合に、この被後見人に特別障害者として相続税法上の障害者控除を適用してよいかというものである。 3 相続税法上の特別障害者 相続税法における特別障害者は、相続税法第19条の4第2項において、「障害者のうち精神又は身体に重度の障害がある者で政令で定めるもの」と規定されている。そして、その政令(相続税法施行令第4条の4第2項第1号)には、所得税法の特別障害者(所得税法施行令第10条第2項第1号から4号まで及び第6号に掲げる者)と規定されており、その第1号に、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」が掲げられている。 したがって、所得税法における特別障害者である「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」は、相続税法においても特別障害者に該当することになる。 4 相続税の障害者控除(相続税法19の4) 相続税の障害者控除は、相続又は遺贈により財産を取得した者が、国内居住者で法定相続人であり、かつ、障害者である場合には、6万円(特別障害者は12万円)(※)にその相続開始時からその者が85歳に達するまでの年数(1年未満切上げ)を乗じて算出した金額を、その者の相続税額から控除するものである。 (※) 平成27年1月1日以降は10万円(特別障害者は20万円) 5 成年被後見人に対する相続税法の特別障害者控除の適用 所得税法においては、平成24年8月31日付名古屋国税局の文書回答事例において、成年後見制度の下、家庭裁判所が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」として後見開始の審判をした場合には、障害者控除の対象となる特別障害者に該当するとされている。 上記4のとおり、所得税法における特別障害者である「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」は、相続税法においても特別障害者に該当することから、今回の文書回答事例は「成年被後見人が所得税法上の障害者控除の対象となる特別障害者に該当するとされていることからすれば、相続税法上の障害者控除の対象となる特別障害者にも該当すると考えられる。」としている。 6 登記事項証明書で確認 後見開始の審判等の内容は、後見開始の審判がされたときに、その裁判所書記官の嘱託に基づき、後見登記が行われる。 したがって、適用にあたっては、法務局が発行する登記事項証明書により成年被後見人であることを確認することになる。 7 実務上の留意点 障害者控除の適用によって、遺産分割の内容が変わる場合もあることから、相続税申告の際には、事前にチェックリスト等で、成年被後見人は特別障害者に該当することを相続人に周知し、確認を取り、その証拠を残す必要がある。 また、成年被後見人に該当した場合には、登記事項証明書で確認をする必要があるが、登記事項証明書の交付を請求できる者は、本人、その配偶者、四親等内の親族、成年後見人など一定の者に限定されており、職権での入手もできないことから、相続人等に余裕をもって依頼するよう心がけたい。 (了)
《速報解説》 「交際費課税制度の見直し」に係る改正後の法令掲載 ~5,000円基準の継続が明らかに~ Profession Journal編集部 平成26年度税制改正においては既報のとおり、法人による消費拡大を図るため、交際費等の損金算入の特例(租税特別措置法第61条の4)について適用法人が大法人(資本金1億円超)まで拡充され、その適用期限が2年延長(平成28年3月31日まで)されることとなった。 【参考図】 ※経済産業省ホームページより 上図等の公表資料において掲載はされていたが、3月31日に公布された関係政省令により、1人当たり5,000円以下の飲食費については交際費から除かれる措置(いわゆる5,000円基準:措令37の5①)の継続など、詳細が明らかとなった。 以下では、本改正後の関係法令「法律・政令・省令」を抜粋掲載した(下線部が改正箇所)。 今後改正が予定される租税特別措置法関係通達等でより詳しい取扱いが判明するが、現時点での規定ぶりを確認しておきたい。 ※本改正前の取扱いについては下記の連載を参照。 ※上記法律部分の新旧対照表はこちら。 (了)
2014年4月3日(木)AM10:30、Profession Journal No.63 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。 Profession Journalについての詳細はこちら。 バックナンバー一覧はこちら。
monthly TAX views -No.15- 「包括的否認規定の議論を開始する時期が来ている」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 G20の意向を受け、OECDにおいて、米国企業を中心とする国際的租税回避への対応に向けた検討が開始された。 2013年7月に『BEPS(税源浸食と利益移転)行動計画』が公表され、現在、各国の税制当局や経済界で議論が進んでいる。 租税回避というのは、脱税でもない、節税でもない、法には反しないが、通常用いられないような法形式を選択し、税負担を減少させたり排除する行為をいう。わが国でも、経済の複雑化・多様化に伴って増加しつつある。 ◆ ◆ ◆ わが国では、法律に明文の租税回避否認規定がない場合に、どこまでの否認が許されるかということが、かねてから学界などで議論されてきた。最高裁判所の判例や学界の通説は、「租税法上の明文の規定がない限り、租税回避の否認はできない」というのが今日の立場である。 その一方で、「租税の減免規定の場合には、その立法趣旨を勘案しながら限定解釈することによって、結果として、租税回避否認と同様の効果をもたらすことは可能」ということについても、大方のコンセンサスがある。 最高裁は外国税額控除余裕枠りそな銀行事件の判決(平成17年12月19日)で、 として、立法趣旨から外れた取引は権利の濫用として否認されうることを示した。 しかしこのような手法は、何が法の趣旨目的か、それから外れた場合とは何かなどはっきりしない場合が多く、法的安定性から問題が指摘されている。 ◆ ◆ ◆ 一方、米国では、「(租税回避以外の)意図した経済目的がなく、減免規定を充足させることにより、もっぱら税負担の減少を図る」租税回避を否認する際の考え方として、1935年のグレゴリー事件で判示された「事業目的原理」や「経済実質原理」などが確立されてきたが、2011年に歳入法典(IRC§7701(o))で包括的な否認規定が立法化された。 また英国でも2013年に、包括的濫用対抗規定(General Anti Abuse Rule)が導入された。 これにより、G7国で包括的な租税回避規定を導入していない国は、わが国だけとなった。 コモンローの国と制定法主義の国とでは、根本的な成り立ちが異なるが、米国や英国における動向や制度設計は、わが国への多くの示唆を含んでいる。 租税回避問題は、伝統的な「納税者」と「税務当局」という図式ではなく、「租税法弁護士・プロモーター」対「税務当局」の知恵比べという状況に変わりつつある。 放置すると、納税道義の問題や税収の問題が生じるだけでなく、正常な取引を行う大部分の企業活動にも不利な状況を生じさせる。 OECDでBEPSが議論されるこの機会に、国内でも包括的否認規定について議論を深めることが、納税者の予見可能性を確保するという観点からも必要ではないか。 (了)
まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン 【第7回】 「経過措置の適用に係る相手方への通知義務について」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 吉田 知至(執筆) 第7回である今回は、経過措置の適用に係る相手方への通知について、以下の具体的な事例を交えて解説することとする。 改正消費税法附則では、次のとおり経過措置の適用を受ける一定の取引について、相手方に書面により通知することを義務付けている。 したがって、工事の請負等、資産の貸付け、工事進行基準についての経過措置の適用を 受ける事業者は、書面通知を失念しないよう留意されたい。 【解 説】 「平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いについて(法令解釈通達)」22では、通知義務について次のように述べている。 消費税法第30条第9項に規定する「請求書等」とは、課税資産の譲渡等を行う事業者に対して交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で一定の事項が記載されているものをいい、同条第7項に規定する仕入税額控除の適用要件として保存が義務付けられている「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等」の請求書等を指す。 請求書等を発行しない取引については、同項の記載事項から、下記の事項を記載した書面により通知をすることが考えられる。 【解 説】 「工事の請負等の税率等に関する経過措置」の適用を受ける場合の書面による通知は、法律上「・・・書面により通知するものとする。」と規定されていることから、事業者への義務を課したものであるが、実務上は適正に通知がなされないことも想定される。 しかし、この書面による通知は、その有無が経過措置の効力に影響を及ぼすものではないと解され、経過措置を任意に選択適用することは認められていない。 貴社の場合、工事の請負契約が指定日(平成25年9月30日)以前に締結されており、施行日(平成26年4月1日)以後に課税資産の譲渡等が行われていることから経過措置が適用されるため、書面による通知を受けていないことをもって新税率により処理することはできない。 なお、当該工事に経過措置が適用されることを甲社に確認するとともに、通知義務の 観点から書面を交付するよう甲社に求めることが望ましいと考えられる。 (了)