税務争訟に必要な
法曹マインドと裁判の常識
【第5回】
「税務訴訟における裁判所の価値判断②」
弁護士 下尾 裕
今回は、前回に引き続き、税務訴訟における裁判所の価値判断を取り扱うが、その中でも租税回避に対する裁判所の判断枠組みについて考察してみたい。
1 租税回避とは何か
「租税回避」とは、論者によってその定義は様々であるが、「私法上の形成可能性を異常または変則的な態様で利用すること(濫用)によって、税負担の軽減または排除を図る行為」(金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019年)第133頁~第144頁)などと定義されている。
小難しい定義であるが、要は、私法の世界では当事者間において自由に取引関係を形成できることを前提に、税負担軽減のために経済合理性のない法形式を採用すること等を租税回避として評価するということであり、課税等に関する要件の明確化を求める課税要件明確主義を逆手にとった行為であると言える。
また、【第2回】において、課税庁は、経済的実質を重視する傾向があるのではないかという問題提起を行ったが、そこでも述べた通り、その一因はこの租税回避行為の存在にあると考えられる。法律的実質を形式的にそのまま課税要件に当てはめると税負担が軽減するよう考案されているのが租税回避行為であり、課税庁においてこうした行為を捕捉しようとするケースでは、経済的実質(上記定義に沿う形でいえば「通常ないし通則的な態様」の取引)を検討せざるを得ないということである。
前回において、裁判所は、課税要件明確主義に忠実な判断を行う傾向があることに言及したが、こうした傾向を徹底すると租税回避を助長し、納税者間の公平を害することにつながることから、裁判所としても相反しうる2つの要請を踏まえた難しい判断を求められる場面である。
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