〈適切な判断を導くための〉
消費税実務Q&A
【第14回】
「プログラム作成請負業務において納品書の日付と委託先からの実際の納入日が異なった場合の課税仕入れの時期の判断」
税理士 石川 幸恵
【Q】
コンピュータ・プログラム作成をシステム開発会社に依頼し、請負契約を結びました。この請負契約書では、プログラム等の成果物の引渡しを受け、検収後に支払いを行う旨を定めています。そのため、「課税仕入れを行った日」は目的物の引渡しの日がポイントになると思われます。
しかし、コンピュータ・プログラムの成果物は電子ファイルであるため、手渡しやトラックでの搬入といった「引渡しの瞬間」を目で確認することができません。
このような場合、「課税仕入れを行った日」はどのように判断すればよいでしょうか。
【A】
消費税基本通達11-3-1では「課税仕入れを行った日」は別に定めるものを除き、「資産の譲渡等の時期」の取扱いに準ずるものとされています。したがって、まずはその基礎となる「資産の譲渡等の時期」について確認してみましょう。
請負による資産の譲渡等の時期について、消費税基本通達9-1-5では次のように示されています。
請負による資産の譲渡等の時期は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする。
コンピュータ・プログラム作成が物の引渡しを要する請負契約に該当するか否かについては、契約書の定め方などにもよるところですが、質問のようにプログラム等の成果物の引渡しを受けて、検収後に支払いを行う旨が契約書上明記されている場合には、物(ここでは電子ファイル)の引渡しを要する請負契約と考えられます。
したがって、プログラム作成の全部を完成し、電子ファイルを相手方に引き渡した日が「課税仕入れを行った日」と判断するのが相当です。
引き渡した日について、通常、引渡しに経理担当者や税理士が立ち会うことはありませんので、納品書の日付を基に判断しがちですが、書面の記載だけで判断するのは危険です。契約書に定められた検収手続きや社内の業務フローを確認し、実際にどの時点で「引渡し」が行われたとみるのが相当かを把握する必要があります。
これらの点が曖昧だと「課税仕入れを行った日」の判断を誤る恐れがあり、場合によっては課税仕入れの「隠ぺい又は仮装」が問われる可能性もあります。
◆ ◆ 解 説 ◆ ◆
コンピュータ・プログラムの作成に関して「課税仕入れを行った日」をどのように判断するかについて、参考となる裁決事例として平成27年10月7日東京国税不服審判所裁決(非公開裁決、TAINSコード:F0-5-155)がある。
本件は、課税期間の末日を納入日とする納品書が存在する一方で、実際のプログラムのリリース日が翌課税期間にずれ込んでいたことから、課税仕入れの時期が争点となった事案である。
1 取引の概要
本件は平成25年1月1日から平成25年3月31日までの課税期間にコンピュータ・プログラムの委託に係る支払対価を課税仕入れに係る支払対価の額に含めたことについて、このプログラムの引渡しが完了していたかどうかが問題となったものである。
審査請求人である法人(以下「請求人」)が、ソフトウエア開発会社にコンピュータ・プログラムの作成を委託していた。
ソフトウエア開発会社は完成したプログラムを請求人のサーバーにリリース(配信)する方法により納品していた。
ソフトウエア開発会社は平成25年3月31日付で請求人宛に納品書兼請求書を発行した。納入日付は同日とされていた。また、同社は納品物一覧表も請求人に交付している。この一覧表には「納品物(下記機能の外部設計書・単体テスト仕様書・エビデンス)納品日:平成25年3月29日」というタイトルが付されていた。
一方で、リリース管理台帳上(裁決書では作成者は不開示だが、文脈からソフトウエア開発会社が作成したものと思われる)、8件のプログラムの最初のリリース日が平成25年4月1日から同月5日までの間の日付であった。
請求人は3月27日付で次のような会計処理をし、当該課税期間の課税仕入れにかかる支払対価の額に含めて納付すべき消費税等の額を計算した。

※金額は不開示。
2 物の引渡しを要する契約か否かの判断ポイント
まず、コンピュータ・プログラムの作成業務が物の引渡しを要する契約であるかを確認しておく必要がある。裁決では、次の契約書と注文書の記載内容に基づいて、物の引渡しを要する契約であると判断している。
〈取引基本契約書〉
第8条(検査及び引渡し)
A ■■■■は本件業務が完了したときは、遅滞なく請求人に通知し、本件情報成果物については、別途請求人の指定する方法にてこれを引き渡す。
B 請求人は、上記Aの通知又は引渡しを受けた後、速やかに本件業務の完了を確認するための検査をし、検査の結果を■■■■に通知する。
C 上記Bの検査の結果、不合格となった場合は、■■■■は改めて請求人の指定する期限までに本件業務を完成させた上、上記Bの検査を受けなければならない。
D 上記Bの検査の合格をもって本件業務の検収とする。
※下線は筆者加筆。
〈注文書〉
検収 平成25年3月31日
納入場所 別途設定
支払条件 検収翌月末日現金支払
※下線は筆者加筆。
3 書面上の納入日とリリース日付のいずれを基準とすべきか
上記の取引基本契約書の第8条(検査及び引渡し)によれば、ソフトウエア開発会社がプログラムを納品し、請求人が検収を行った時点で、目的物が完成して引渡しが完了したものとされる。
契約の定めに反して、リリース管理台帳上、8件のプログラムの納品が平成25年4月1日以後に行われたと認められることから、平成25年3月31日までに検収が行われていないことは明らかである。
このため、平成25年3月31日を納入日とする納品書が存在するものの、当該課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含まれないと審判所は判断した。
4 引渡しが完了しないとの認識があったかどうかのポイント
本裁決では、目的物の完成・引渡しに関して事実の隠ぺい又は仮装を行ったか否かも争点となったが、これは否認された。請求人の担当者が、サーバーへのリリースが課税期間末までに完了しないことを認識していたとする直接的な証拠がなく、また、目的物の引渡しに関して事実を隠ぺい又は仮装したとまでは認められないと判断されたためである。
もっとも、認定事実の記載を見ると、開発当事者が「納品」を税務上の引渡し基準ほど厳格に捉えていなかった可能性もうかがえる。実際の検収に関する答述では、この開発フェーズではソフトウエア開発会社による検証作業をもって請求人の検収としていたとのことである。こうした運用はサーバーへのリリース日が後日にずれたとしても「形式的には納品済み」と扱う意識を生みやすい。
また、同じ認定事実の中で、平成25年4月8日17時37分の電子メールに「3月末完成予定分は、■■■サイドで一部最終受入検証中」との記載があることも、開発現場では「作業が一部残っているが、開発スケジュール上、大きな問題ではない」と認識されていた可能性を示唆している。
このように、契約書上の手続と現場の運用との間に認識のずれが生じると、課税仕入れの時期判断のみならず、場合によっては故意性の有無の判断にも影響しかねない。したがって、契約書や検収手続に関する理解を社内で共有し、定期的な監査等を通じて意識の統一を図ることが望ましい。
〔凡例〕
・法法・・・法人税法
・法令・・・法人税法施行令
・法基通・・・法人税基本通達
・消法・・・消費税法
・消基通・・・消費税法基本通達
(了)
次回は12/11に公開予定です。



