公開日: 2026/09/10 (掲載号:No.685)
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社長からの無理難題の断り方・かわし方 【第9回】「日当による過度な節税」

筆者: 中尾 隼大

社長からの無理難題の
断り方・かわし方

JUN税会ロゴ
第9回
日当による過度な節税
〈JUN税会〉 税理士 中尾 隼大

 

Question

【遭遇率 ★★★★☆】

先生、知り合いの社長から「会社から日当をもらうことにすれば所得税がかからない。だから工夫次第でいくらでも手取りが増える。」って聞いたので、当社もそれを真似してみたよ。

この日当節税スキームをうまく導入できたので、自分の高い所得税が節税できて、手取りが増えて嬉しいんだ。

Answer

ちょっと待ってください! 日当名目でありさえすれば、いつでもいくらでも支給していいわけではありません。

適切な旅費規程を整備した上で、同業類似法人と同水準の日当を支給することが肝要です。何より、日当の根底には出張による実費弁済の考え方がありますので、「日当をもらって得をする」という現象が起きるのであれば、いったん立ち止まって考えましょう。

《確認すべき事項》

・旅費規程の有無と日当の水準

・日当が支給される基準

・業務日報や精算書等、出張の事実を明らかにする証憑

* * 解 説 * *

1 事実関係の把握

社長へのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました。

【会社の状況】

  • A県B市に本店がある。
  • 取引先はA県C市及びD県内等に多い。

【社長出張の頻度と日当額】

  • 月1回程度、A県C市。月2回程度、D県内。
  • 1回当たり5万円を日当として支給。

【役員報酬額の設定】

  • 月に3回程度、5万円の日当を支給することを念頭に、当期の改定時期から役員報酬の額を15万円減額している。

【その他】

  • 役員報酬の減額相当額に、出張による日当支給回数が到達しなかった場合、「カラ出張」と指摘されることを避けるため、A県B市内の本店から近い同業他社への挨拶回りを出張扱いにしている。

 

2 法的論点の整理

(1) 所得税法上の取扱い

本稿の根幹となる部分であるため、根拠となる条文や通達を抜粋して記載します。

【所得税法9条1項】

次に掲げる所得については、所得税を課さない。

四 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし・・・た場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの

【所得税基本通達9-3】

・・・非課税とされる金品は、・・・旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。

(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。

(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

(2) 法人税法上の取扱い

法人税を計算するための所得計算は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額となります(法法22①)。そして、その損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価等、販売費、一般管理費その他の費用の額とするとされています(同条③)。つまり、損金の額に算入することができる支出は、その法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければなりません。裏を返せば、支出した金額のうちその使途の確認ができなかったり、業務との関連性の有無が明らかではなかったりするものについては、損金の額に算入することができません。

また、海外出張を前提としたものではありますが、旅費に関する通達として法人税基本通達9-7-6があります。これは、「当該法人の業務の遂行上必要なものであり、かつ、当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限り、旅費としての法人の経理を認める。」とするものです。

(3) 消費税法上の取扱い

事業者が役員や従業員に支給する出張旅費、宿泊費や日当等のうち、その旅行に「通常必要であると認められる部分」については、課税仕入れに該当するものとされます。その上で、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることとなります(消法30⑦、消令49①一二、消規15の4二、消基通11-6―4)。つまり、出張に伴う日当を役員や従業員に支給する場合、その日当に関してはインボイスが不要で仕入税額控除が可能です。

なお、この「通常必要であると認められる部分」は、上記の所得税基本通達9-3に基づいて判断することとなります(国税庁HP 質疑応答事例「出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件」)。

これらの所得税法や消費税法、そして法人税法の規定や通達からは、出張が所得税法9条1項4号の「旅行」に該当し、かつ「通常必要であると認められるもの」といえるのであれば、法人がそれに伴って役員や従業員に支出したものには所得税が課されないばかりか、仕入税額控除が可能となります。そして、法人税における所得計算においても、損金算入が可能です。このような取扱いとなるのは、出張者が、出張しなければ支出せずに済んだ食事代等を支出するわけであり、それに対する手当が日当であるために、実費弁済の性質があるためです。

 

3 本件事例への当てはめ

(1) 日当の妥当性の検討

1回当たり5万円が、所得税が非課税となる「旅行」に対する実費弁済として認められるかどうかを検討する必要があります。仮に実費弁済ではなく実質的な給与であると判断された場合、所得税の非課税及び消費税の仕入税額控除が認められなくなり、さらに法人税法における役員給与の3要件(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)に該当しないとして、損金不算入となる可能性が高いです。

(2) 同県同市内の近場への出張

実務感覚的には、日当が高額なのは、海外出張⇒県外遠方出張⇒近場への出張の順です。本件の前提では、県外に行っても同市内の近場に行っても同額の5万円が支給されるため、この5万円が実費弁済として適切であると主張できるかどうかを検討することとなります。

(3) 役員報酬額の減額

役員報酬を月15万円減額し、その補填として月3回程度の日当支給を予定している点は、日当が実費弁済ではなく役員報酬の代替として機能している疑いを生じさせます。本件においては、日当支給額と役員報酬減額額が概ね一致しているため、役員報酬を日当に振り替えたものと評価される余地があります。

また、同業他社の一般的な日当水準と比較して著しく高額である場合には、その超過部分が実質的な給与と認定される可能性があります。

 

4 実務上の留意点

(1) 日当節税スキームの課題

上記2の規定等により、役員や従業員へ日当を支給すると、会社にとっては損金算入及び仕入税額控除が可能となり、かつ受け取る側にとっては所得税が非課税となることになります。これは、納税者の立場としては非常に有効な節税方法に見えるでしょう。現に、日当が万能な節税方法であるかのように喧伝するものも見聞きしますが、日当の支給を万能な節税方法だと安易に考えることは危険だといえます。

というのは、実務上において頭を抱える問題として、所得税基本通達9-3における「その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品」をどのように判断すべきかという点があるからです。この判断について、法令や通達、裁判例等で明らかにされていません。同通達では、(2)において同業類似法人に照らして判断する旨が示されていますが、役員給与の過大性判定(法法34②)と同じく、それを事前に納税者としてリサーチすることは難しい側面があるでしょう。

(2) 納税者として参考にすべき情報

そのため、納税者にとって参考となり得るのは、以下の財務省や民間シンクタンクなどが公表している統計データです。例えば、財務省によって、「旅費等実態調査(民間企業の旅費規程等に関する実態調査)」というデータが公表されています。

これによれば、日当支給の判断自体について、距離や宿泊の有無、所要時間等によって判断しているとする会社が多いことに加え、対象者の役職によって2以上の区分を設けている割合が7割弱あるとされています(14頁)。そして、国内出張で最も高額な日当は、「『5,000~9,999円』15.0%」とされていることから(15頁)、役員を対象とする日当は、この程度の水準であれば是認される可能性が高いと考えます。あまりに突出した金額を日当として設定することが危険だということです。

日当の金額について問題となるというよりも、上記の支給判断データや所得税法9条1項4号が「旅行」と表現していることに鑑みると、本社等の拠点から極めて近いところに出張をした場合にも日当を支給することが問題だといえるでしょう。また、カラ出張が問題であることは明白です。

(3) 実務上の運用

さらに、実際に遠方へ出張に出向く場合でも、この日当の税務的取扱いを念頭において、役員報酬の額を再設定することには賛成できません。換言すれば、日当の支給を受けることを前提に、本来想定する水準よりも低額の役員報酬額を設定し、対象役員の役員報酬額の補填として出張の度に日当を支給することはすべきではありません。

日当は実費弁済の性質があるために所得税が非課税となるのです。つまり、事実上、役員報酬の不足分に対する補填だとみなされた場合は、法人税において定期同額給与等の役員給与としての損金算入が可能かどうかで判断され、所得税において給与課税される可能性もあり得るといえます。

なお、税務調査を実施する側の国税調査官における状況を確認すると、令和7年4月1日、「国家公務員等の旅費に関する法律施行令」が改正され、宿泊手当として見直されました。具体的には、宿泊を伴う出張のみを対象とし、食事に対応する費用のみが支給されることと改められています。これを受けて同時に見直された「国家公務員等の旅費支給規程」14条及び別表第三では、国内の宿泊出張の場合、最大2,400円とする旨が示されています。改正前は日帰り出張の日当も存在していたことからは、上記民間側と国税側において、日当を受け取る当事者としての感覚には乖離があるといえるかもしれません。

このような状況の中で、上記のリスクを回避するためには、日当を支給することにつき、少なくとも「お手盛り」ではないと説明できるように備えることが肝要です。そのためには、職位毎の日当の支給水準について法人内でバランスが取れる形で旅費規程を整え、移動の事実を示す証憑を具備し、こまめな精算を行うことが必要となります。実際に出張していたとしても、出張の事実、支給額及び業務関連性を客観的な資料によって説明できる体制を整えておく必要があります。国税不服審判所平成26年2月21日裁決においても、辞令、旅費精算書、帳簿書類及び関係者の答述等を踏まえ、出張の事実、業務関連性及び支給額が不当に多額でないことが個別に認定されています。そのため、適正な旅費規程を整備するとともに、これに準拠した運用と証拠資料の保存が重要となります。

税理士からのコメント

日当を活用した節税は、適切に運用する限り効果の高いものです。しかし、どの水準の日当であれば適切かという点については、明確な答えがありません。だからこそ、常識的な運用が求められると考えます。日当の本来の趣旨は実費弁済であるため、実費弁済である旨が説明できるような準備をしておくべきでしょう。

少なくとも、近場への(「旅行」といえない程度の)出張に対して日当を支給したり、そのための役員報酬を抑える行為があったりするような場合には、危険性が高まるといえるでしょう。

【参考(関連条文等)】

    • 所得税法9条1項(非課税所得)
    • 所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)
    • 法人税法22条
    • 法人税法34条(役員給与の損金不算入)
    • 法人税基本通達9-7-6(海外渡航費)
    • 消費税法30条(仕入れに係る消費税額の控除)
    • 消費税法施行令49条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
    • 消費税法施行規則15条の4(請求書等の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れ)
    • 消費税法基本通達11-6-4(通常必要であると認められる出張旅費、宿泊費、日当等)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

社長からの無理難題の
断り方・かわし方

JUN税会ロゴ
第9回
日当による過度な節税
〈JUN税会〉 税理士 中尾 隼大

 

Question

【遭遇率 ★★★★☆】

先生、知り合いの社長から「会社から日当をもらうことにすれば所得税がかからない。だから工夫次第でいくらでも手取りが増える。」って聞いたので、当社もそれを真似してみたよ。

この日当節税スキームをうまく導入できたので、自分の高い所得税が節税できて、手取りが増えて嬉しいんだ。

Answer

ちょっと待ってください! 日当名目でありさえすれば、いつでもいくらでも支給していいわけではありません。

適切な旅費規程を整備した上で、同業類似法人と同水準の日当を支給することが肝要です。何より、日当の根底には出張による実費弁済の考え方がありますので、「日当をもらって得をする」という現象が起きるのであれば、いったん立ち止まって考えましょう。

《確認すべき事項》

・旅費規程の有無と日当の水準

・日当が支給される基準

・業務日報や精算書等、出張の事実を明らかにする証憑

* * 解 説 * *

1 事実関係の把握

社長へのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました。

【会社の状況】

  • A県B市に本店がある。
  • 取引先はA県C市及びD県内等に多い。

【社長出張の頻度と日当額】

  • 月1回程度、A県C市。月2回程度、D県内。
  • 1回当たり5万円を日当として支給。

【役員報酬額の設定】

  • 月に3回程度、5万円の日当を支給することを念頭に、当期の改定時期から役員報酬の額を15万円減額している。

【その他】

  • 役員報酬の減額相当額に、出張による日当支給回数が到達しなかった場合、「カラ出張」と指摘されることを避けるため、A県B市内の本店から近い同業他社への挨拶回りを出張扱いにしている。

 

2 法的論点の整理

(1) 所得税法上の取扱い

本稿の根幹となる部分であるため、根拠となる条文や通達を抜粋して記載します。

【所得税法9条1項】

次に掲げる所得については、所得税を課さない。

四 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし・・・た場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの

【所得税基本通達9-3】

・・・非課税とされる金品は、・・・旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。

(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。

(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

(2) 法人税法上の取扱い

法人税を計算するための所得計算は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額となります(法法22①)。そして、その損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価等、販売費、一般管理費その他の費用の額とするとされています(同条③)。つまり、損金の額に算入することができる支出は、その法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければなりません。裏を返せば、支出した金額のうちその使途の確認ができなかったり、業務との関連性の有無が明らかではなかったりするものについては、損金の額に算入することができません。

また、海外出張を前提としたものではありますが、旅費に関する通達として法人税基本通達9-7-6があります。これは、「当該法人の業務の遂行上必要なものであり、かつ、当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限り、旅費としての法人の経理を認める。」とするものです。

(3) 消費税法上の取扱い

事業者が役員や従業員に支給する出張旅費、宿泊費や日当等のうち、その旅行に「通常必要であると認められる部分」については、課税仕入れに該当するものとされます。その上で、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることとなります(消法30⑦、消令49①一二、消規15の4二、消基通11-6―4)。つまり、出張に伴う日当を役員や従業員に支給する場合、その日当に関してはインボイスが不要で仕入税額控除が可能です。

なお、この「通常必要であると認められる部分」は、上記の所得税基本通達9-3に基づいて判断することとなります(国税庁HP 質疑応答事例「出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件」)。

これらの所得税法や消費税法、そして法人税法の規定や通達からは、出張が所得税法9条1項4号の「旅行」に該当し、かつ「通常必要であると認められるもの」といえるのであれば、法人がそれに伴って役員や従業員に支出したものには所得税が課されないばかりか、仕入税額控除が可能となります。そして、法人税における所得計算においても、損金算入が可能です。このような取扱いとなるのは、出張者が、出張しなければ支出せずに済んだ食事代等を支出するわけであり、それに対する手当が日当であるために、実費弁済の性質があるためです。

 

3 本件事例への当てはめ

(1) 日当の妥当性の検討

1回当たり5万円が、所得税が非課税となる「旅行」に対する実費弁済として認められるかどうかを検討する必要があります。仮に実費弁済ではなく実質的な給与であると判断された場合、所得税の非課税及び消費税の仕入税額控除が認められなくなり、さらに法人税法における役員給与の3要件(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)に該当しないとして、損金不算入となる可能性が高いです。

(2) 同県同市内の近場への出張

実務感覚的には、日当が高額なのは、海外出張⇒県外遠方出張⇒近場への出張の順です。本件の前提では、県外に行っても同市内の近場に行っても同額の5万円が支給されるため、この5万円が実費弁済として適切であると主張できるかどうかを検討することとなります。

(3) 役員報酬額の減額

役員報酬を月15万円減額し、その補填として月3回程度の日当支給を予定している点は、日当が実費弁済ではなく役員報酬の代替として機能している疑いを生じさせます。本件においては、日当支給額と役員報酬減額額が概ね一致しているため、役員報酬を日当に振り替えたものと評価される余地があります。

また、同業他社の一般的な日当水準と比較して著しく高額である場合には、その超過部分が実質的な給与と認定される可能性があります。

 

4 実務上の留意点

(1) 日当節税スキームの課題

上記2の規定等により、役員や従業員へ日当を支給すると、会社にとっては損金算入及び仕入税額控除が可能となり、かつ受け取る側にとっては所得税が非課税となることになります。これは、納税者の立場としては非常に有効な節税方法に見えるでしょう。現に、日当が万能な節税方法であるかのように喧伝するものも見聞きしますが、日当の支給を万能な節税方法だと安易に考えることは危険だといえます。

というのは、実務上において頭を抱える問題として、所得税基本通達9-3における「その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品」をどのように判断すべきかという点があるからです。この判断について、法令や通達、裁判例等で明らかにされていません。同通達では、(2)において同業類似法人に照らして判断する旨が示されていますが、役員給与の過大性判定(法法34②)と同じく、それを事前に納税者としてリサーチすることは難しい側面があるでしょう。

(2) 納税者として参考にすべき情報

そのため、納税者にとって参考となり得るのは、以下の財務省や民間シンクタンクなどが公表している統計データです。例えば、財務省によって、「旅費等実態調査(民間企業の旅費規程等に関する実態調査)」というデータが公表されています。

これによれば、日当支給の判断自体について、距離や宿泊の有無、所要時間等によって判断しているとする会社が多いことに加え、対象者の役職によって2以上の区分を設けている割合が7割弱あるとされています(14頁)。そして、国内出張で最も高額な日当は、「『5,000~9,999円』15.0%」とされていることから(15頁)、役員を対象とする日当は、この程度の水準であれば是認される可能性が高いと考えます。あまりに突出した金額を日当として設定することが危険だということです。

日当の金額について問題となるというよりも、上記の支給判断データや所得税法9条1項4号が「旅行」と表現していることに鑑みると、本社等の拠点から極めて近いところに出張をした場合にも日当を支給することが問題だといえるでしょう。また、カラ出張が問題であることは明白です。

(3) 実務上の運用

さらに、実際に遠方へ出張に出向く場合でも、この日当の税務的取扱いを念頭において、役員報酬の額を再設定することには賛成できません。換言すれば、日当の支給を受けることを前提に、本来想定する水準よりも低額の役員報酬額を設定し、対象役員の役員報酬額の補填として出張の度に日当を支給することはすべきではありません。

日当は実費弁済の性質があるために所得税が非課税となるのです。つまり、事実上、役員報酬の不足分に対する補填だとみなされた場合は、法人税において定期同額給与等の役員給与としての損金算入が可能かどうかで判断され、所得税において給与課税される可能性もあり得るといえます。

なお、税務調査を実施する側の国税調査官における状況を確認すると、令和7年4月1日、「国家公務員等の旅費に関する法律施行令」が改正され、宿泊手当として見直されました。具体的には、宿泊を伴う出張のみを対象とし、食事に対応する費用のみが支給されることと改められています。これを受けて同時に見直された「国家公務員等の旅費支給規程」14条及び別表第三では、国内の宿泊出張の場合、最大2,400円とする旨が示されています。改正前は日帰り出張の日当も存在していたことからは、上記民間側と国税側において、日当を受け取る当事者としての感覚には乖離があるといえるかもしれません。

このような状況の中で、上記のリスクを回避するためには、日当を支給することにつき、少なくとも「お手盛り」ではないと説明できるように備えることが肝要です。そのためには、職位毎の日当の支給水準について法人内でバランスが取れる形で旅費規程を整え、移動の事実を示す証憑を具備し、こまめな精算を行うことが必要となります。実際に出張していたとしても、出張の事実、支給額及び業務関連性を客観的な資料によって説明できる体制を整えておく必要があります。国税不服審判所平成26年2月21日裁決においても、辞令、旅費精算書、帳簿書類及び関係者の答述等を踏まえ、出張の事実、業務関連性及び支給額が不当に多額でないことが個別に認定されています。そのため、適正な旅費規程を整備するとともに、これに準拠した運用と証拠資料の保存が重要となります。

税理士からのコメント

日当を活用した節税は、適切に運用する限り効果の高いものです。しかし、どの水準の日当であれば適切かという点については、明確な答えがありません。だからこそ、常識的な運用が求められると考えます。日当の本来の趣旨は実費弁済であるため、実費弁済である旨が説明できるような準備をしておくべきでしょう。

少なくとも、近場への(「旅行」といえない程度の)出張に対して日当を支給したり、そのための役員報酬を抑える行為があったりするような場合には、危険性が高まるといえるでしょう。

【参考(関連条文等)】

    • 所得税法9条1項(非課税所得)
    • 所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)
    • 法人税法22条
    • 法人税法34条(役員給与の損金不算入)
    • 法人税基本通達9-7-6(海外渡航費)
    • 消費税法30条(仕入れに係る消費税額の控除)
    • 消費税法施行令49条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
    • 消費税法施行規則15条の4(請求書等の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れ)
    • 消費税法基本通達11-6-4(通常必要であると認められる出張旅費、宿泊費、日当等)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

筆者紹介

中尾 隼大

(なかお・しゅんた)

税理士
税理士法人中尾総合事務所 所長
https://www.nakao-tax.com

中国税理士会税務研究所 研究員

平成22年 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(現:PwC税理士法人)入所
平成24年 税理士登録
平成25年 税理士法人中尾総合事務所設立 現在に至る

【著作・論文】
「一般社団法人を利用した租税回避スキームに関する試論」第40回 日税研究賞 税理士の部 入選
「これで万全!!2019年10月 消費増税・軽減税率対策 転嫁・インボイスはこう進める」共著(ぎょうせい・2019)
「個人版事業承継税制のポイントと有利判定シミュレーション」共著(日本法令・2019)
「ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務」共著(日本法令・2020)
「消費税 適用判断の原則と例外」共著(新日本法規・2021)
「精選Q&A 役員報酬の税務」(清文社・2024)

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