仕入税額控除制度における用途区分の再検討-ADW事件最高裁判決から考える- 【第1回】
本稿は、消費税の仕入税額控除制度における用途区分の解釈適用が争われたエー・ディー・ワークス事件の最高裁判決(最高裁令和5年3月6日判決・民集77巻3号440頁、以下「ADW事件最高裁判決」)を紹介し、同判決の内容を踏まえ、用途区分の考え方や納税者が注意すべきポイントを5回にわたって検討・整理するものである。なお、筆者は同事件の納税者代理人であったが、同事件に関する本稿の記述は全て公開情報に基づくものである。
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例74】「海外の保険業を営む子会社へ支払う地震保険再保険料の損金性」
そもそも保険というものは、将来起こり得る様々なリスクに備えるため、同じような不安を抱える方から一定の保険料を支払ってもらい、その貯まった金額から将来の支払いに充てるという機能を有するものです。当社も顧客の抱える多様なリスクに備えるため、様々な保険商品を開発し顧客の要望に応えようと努力しておりますが、近年、企業活動のグローバル化や気候変動等により、そのリスクが予想外に多額になることも珍しくなく、当社1社でその支払いに対応するというのは、極めて困難なケースもみられるところです。
そこで、当社1社では抱えきれないリスクに備えるため、従来からある再保険というスキームを活用して、そのような事態に備えようとしております。
さて、わが社の場合、ほぼ毎年税務調査を受けておりますが、今回は再保険について課税庁との間で激しい議論が交わされております。すなわち、国税局の主査は、わが社が引き受け、海外子会社に再保険に出した保険契約につき、再保険料のうち一部は海外子会社を利用した単なる「預け金」に過ぎず、租税回避目的のスキームであるため、損金性はないと主張しております。
金融・投資商品の税務Q&A 【Q93】「相続で取得した非上場株式を発行会社に譲渡する場合のみなし配当課税の特例」
私(居住者たる個人)は、相続により取得した株式を保有しています。この株式は非上場であり市場で売却することができないため、発行会社に買い取ってもらうことにしました。発行会社が自己株式を買い取る場合にはみなし配当が生じるところ、相続で取得した株式については特例があると聞きました。どのような特例ですか。
〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第52回】「外国関係会社の決算書の事後的な修正の是非」
税務調査において外国関係会社の租税負担割合の計算誤り、具体的には損金算入されない保険準備金の計上ミスを指摘された内国法人が、事後的に外国関係会社の決算書を修正して、外国子会社合算税制の適用がないと主張することは認められるでしょうか。
決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第14回】「「本人⇒代理人」の訂正がインフレ下で意味すること」
「収益認識に関する会計基準」が適用されてから、4年が経過しました。
公表された当初は“極めて難解”という印象が強かったこの会計基準も、今ではすっかり実務に定着したかのようです。
それでも、この会計基準が扱っている論点に関して、時折、誤処理が発生し、決算短信が訂正になるケースがみられます。
しかも、そうした論点のなかには、「収益認識に関する会計基準」が公表された当時においては予想されていなかった経済環境の変化により、新たな意味合いを帯びてきたものもあります。
その「経済環境の変化」とは、インフレです。
そして「新たな意味合いを帯びてきた論点」とは、本人と代理人の区別です。
リース会計基準を学ぶ 【第8回】「貸手のリースの会計処理①」
貸手の会計処理については、IFRS第16号「リース」及びTopic 842ともに抜本的な改正が行われていないため、次の点を除いて、基本的に、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)の定めを踏襲している(リース会計基準BC13項、BC53項、リース適用指針BC98項)。
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第168回】株式会社トーシンホールディングス「第三者委員会調査報告書(公開版)(2025年2月13日付)」
2024年10月6日、2024年4月期までトーシンHDの会計監査人であった東海会計社のホームページ宛てに、1年以上前から1億円以上のキャッシュバックの未払金があり、決算担当取締役がこれを知りながら意図的に隠蔽したこと等を指摘する趣旨のメールが送信された。トーシンHDは、2023年頃から、想定よりもキャリアからの入金が少ないことの原因等を継続的に調査していたが、前記メールを受け、さらに各種調査を行い、その結果、トーシンHDが想定していた以上のキャッシュバックが現場で行われていた可能性があること、キャッシュバックの一部がエンドユーザーに対して未払となっていること、これらの内容が決算上適切に反映されていない可能性を認識するに至った。
谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第48回】「所得税法56条の解釈適用に関する2つのアプローチ」-所得税法56条弁護士「夫」税理士「妻」事件に係る各審級裁判所の判断の比較検討-
今回は、所得税法56条弁護士「夫」税理士「妻」事件を取り上げ、所得税法56条の解釈適用について、同事件の第一審・東京地判平成15年7月16日判時1891号44頁(以下「平成15年東京地判」という。なお、同判決は「国破山河在」(杜甫)に擬えて「国敗れて[東京地裁民事]三部あり」といわれた藤山判決(藤山雅行裁判官)の1つである)と、控訴審・東京高判平成16年6月9日判時1891号18頁(以下「平成16年東京高判」という)及びこれを是認した上告審・最判平成17年7月5日税資255号順号10070(以下「平成17年最判」という)とを比較検討することにする。平成17年最判は、所得税法56条の解釈適用については所得税法56条弁護士「夫婦」事件・最判平成16年11月2日訟月51巻10号2615頁(以下「別件平成16年最判」という)を参照しているので、この判決も上記の比較検討において考察の対象とすることにする。
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第66回】
著名なDEXの1つであるUniswapを例に本稿で検討の対象とする取引等を確認する。
Uniswapプロトコルは、イーサリアムブロックチェーン上のERC-20(トークンの共通規格)に準拠したトークンの流動性を提供し、取引するためのオープンソースプロトコルである。
「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例145(消費税)】 「特定期間における納税義務の免除の特例により課税事業者であったにもかかわらず、インボイス制度の経過措置である「簡易課税制度選択届出書の提出期限の特例」の適用が受けられるものと誤認し、期限までに「簡易課税制度選択届出書」を提出しなかったため、不利な原則課税での申告となってしまった事例」
資本金900万円で法人成りした2期目である令和6年3月期の消費税につき、特定期間の課税売上高が1,000万円超であり、かつ、給与等支払額の合計額が1,000万円超であったため、適格請求書発行事業者の登録にかかわらず課税事業者になることから、「簡易課税制度選択届出書の提出期限の特例」の適用がないにもかかわらず、適用があるものと思い込み、本来の提出期限である令和5年3月末までに「簡易課税制度選択届出書」を提出しなかった。
これにより、不利な原則課税での申告になってしまい、有利な簡易課税と不利な原則課税との差額につき損害が発生し、賠償請求を受けた。