税理士のための
〈リスクを回避する〉
顧問契約・委託契約Q&A
【第8回】
「顧問先の取締役を兼任する場合の善管注意義務の範囲」
弁護士・税理士
米倉 裕樹
弁護士・ 関西大学法科大学院教授
元氏 成保
弁護士・税理士
橋森 正樹
Q
Aは、個人で「A工務店」の屋号で建設事業を、「A商事」の屋号で不動産賃貸業を営んでいた。Aは、平成20年に、これらの事業について法人成りしようと考え、有限会社B及び株式会社Cを設立した上で自らが両社の代表取締役に就任し、爾後、有限会社Bにおいて建設事業を、株式会社Cにおいて不動産賃貸業を営むこととし、その組織化を図った。
Y税理士は、法人成りの前からAの顧問税理士であったが、法人成りの際、改めて有限会社B及び株式会社Cとの間で税務顧問契約を締結し、両社の顧問税理士に就任した。
AのY税理士に対する信頼は厚く、平成22年頃、AはY税理士に対し、有限会社B及び株式会社Cの取締役への就任を打診した。Y税理士は、当初は多忙であることを理由に断っていたが、Aから「実際の業務をお願いするわけではなく、税務面のみならず経営面でも大所高所からのアドバイスが欲しいので、名義だけ使わせるという程度の気持ちで就任してほしい」と懇願され、結局、平成23年4月に有限会社Bの、平成25年4月に株式会社Cの取締役に就任した。
ただし、取締役といっても、Y税理士は両社に常駐するわけではなく、月に数回程度両社の事務所(同一の場所に設けられている)に赴き、Aとの間で両社の運営に関する種々の打ち合わせをする程度の事務を行うのみであった。また、Y税理士は、顧問税理士としての月額顧問料とは別に、両社からそれぞれ月額5万円の取締役報酬を受け取ることとされた。
ところで、Y税理士が取締役に就任する頃から株式会社Cの業績は思わしくなく、度々資金繰りに窮することがあった。一方で、有限会社Bの業績は低調ではあるものの堅実に推移していたことから、株式会社Cの支払いが滞りそうになった際には、有限会社Bの資金によってその支払いを行っていた。
有限会社Bの資金で株式会社Cの支払いをすることについては、A単独の判断によるものであり、Y税理士に対する相談はなされなかったが、Y税理士は、顧問業務の一環として記帳代行を行う際にこれを把握し、経理処理上は、有限会社Bの株式会社Cに対する短期貸付金として処理していた。
平成28年頃から、有限会社Bの業績も悪化し始め、平成29年には株式会社Cと同様に資金繰りに窮するようになった。AとY税理士は協議の上、やむを得ず、平成29年12月、両社について破産を申し立てることとした。
このようなケースで、仮に、有限会社Bの債権者であるX社が、有限会社Bから株式会社Cへの資金援助に関してY税理士の責任を追及した場合、Y税理士はX社に対して何らかの責任を負うか。
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