公開日: 2018/04/12 (掲載号:No.264)
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税理士のための〈リスクを回避する〉顧問契約・委託契約Q&A 【第8回】「顧問先の取締役を兼任する場合の善管注意義務の範囲」

筆者: 米倉 裕樹、元氏 成保、橋森 正樹

税理士のための

〈リスクを回避する〉
顧問契約委託契約

【第8回】

「顧問先の取締役を兼任する場合の善管注意義務の範囲」

 

弁護士・税理士
米倉 裕樹
弁護士・ 関西大学法科大学院教授
元氏 成保
弁護士・税理士
橋森 正樹

 

Aは、個人で「A工務店」の屋号で建設事業を、「A商事」の屋号で不動産賃貸業を営んでいた。Aは、平成20年に、これらの事業について法人成りしようと考え、有限会社B及び株式会社Cを設立した上で自らが両社の代表取締役に就任し、爾後、有限会社Bにおいて建設事業を、株式会社Cにおいて不動産賃貸業を営むこととし、その組織化を図った。

Y税理士は、法人成りの前からAの顧問税理士であったが、法人成りの際、改めて有限会社B及び株式会社Cとの間で税務顧問契約を締結し、両社の顧問税理士に就任した。

AのY税理士に対する信頼は厚く、平成22年頃、AはY税理士に対し、有限会社B及び株式会社Cの取締役への就任を打診した。Y税理士は、当初は多忙であることを理由に断っていたが、Aから「実際の業務をお願いするわけではなく、税務面のみならず経営面でも大所高所からのアドバイスが欲しいので、名義だけ使わせるという程度の気持ちで就任してほしい」と懇願され、結局、平成23年4月に有限会社Bの、平成25年4月に株式会社Cの取締役に就任した。

ただし、取締役といっても、Y税理士は両社に常駐するわけではなく、月に数回程度両社の事務所(同一の場所に設けられている)に赴き、Aとの間で両社の運営に関する種々の打ち合わせをする程度の事務を行うのみであった。また、Y税理士は、顧問税理士としての月額顧問料とは別に、両社からそれぞれ月額5万円の取締役報酬を受け取ることとされた。

ところで、Y税理士が取締役に就任する頃から株式会社Cの業績は思わしくなく、度々資金繰りに窮することがあった。一方で、有限会社Bの業績は低調ではあるものの堅実に推移していたことから、株式会社Cの支払いが滞りそうになった際には、有限会社Bの資金によってその支払いを行っていた。

有限会社Bの資金で株式会社Cの支払いをすることについては、A単独の判断によるものであり、Y税理士に対する相談はなされなかったが、Y税理士は、顧問業務の一環として記帳代行を行う際にこれを把握し、経理処理上は、有限会社Bの株式会社Cに対する短期貸付金として処理していた。

平成28年頃から、有限会社Bの業績も悪化し始め、平成29年には株式会社Cと同様に資金繰りに窮するようになった。AとY税理士は協議の上、やむを得ず、平成29年12月、両社について破産を申し立てることとした。

このようなケースで、仮に、有限会社Bの債権者であるX社が、有限会社Bから株式会社Cへの資金援助に関してY税理士の責任を追及した場合、Y税理士はX社に対して何らかの責任を負うか。

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税理士のための

〈リスクを回避する〉
顧問契約委託契約

【第8回】

「顧問先の取締役を兼任する場合の善管注意義務の範囲」

 

弁護士・税理士
米倉 裕樹
弁護士・ 関西大学法科大学院教授
元氏 成保
弁護士・税理士
橋森 正樹

 

Aは、個人で「A工務店」の屋号で建設事業を、「A商事」の屋号で不動産賃貸業を営んでいた。Aは、平成20年に、これらの事業について法人成りしようと考え、有限会社B及び株式会社Cを設立した上で自らが両社の代表取締役に就任し、爾後、有限会社Bにおいて建設事業を、株式会社Cにおいて不動産賃貸業を営むこととし、その組織化を図った。

Y税理士は、法人成りの前からAの顧問税理士であったが、法人成りの際、改めて有限会社B及び株式会社Cとの間で税務顧問契約を締結し、両社の顧問税理士に就任した。

AのY税理士に対する信頼は厚く、平成22年頃、AはY税理士に対し、有限会社B及び株式会社Cの取締役への就任を打診した。Y税理士は、当初は多忙であることを理由に断っていたが、Aから「実際の業務をお願いするわけではなく、税務面のみならず経営面でも大所高所からのアドバイスが欲しいので、名義だけ使わせるという程度の気持ちで就任してほしい」と懇願され、結局、平成23年4月に有限会社Bの、平成25年4月に株式会社Cの取締役に就任した。

ただし、取締役といっても、Y税理士は両社に常駐するわけではなく、月に数回程度両社の事務所(同一の場所に設けられている)に赴き、Aとの間で両社の運営に関する種々の打ち合わせをする程度の事務を行うのみであった。また、Y税理士は、顧問税理士としての月額顧問料とは別に、両社からそれぞれ月額5万円の取締役報酬を受け取ることとされた。

ところで、Y税理士が取締役に就任する頃から株式会社Cの業績は思わしくなく、度々資金繰りに窮することがあった。一方で、有限会社Bの業績は低調ではあるものの堅実に推移していたことから、株式会社Cの支払いが滞りそうになった際には、有限会社Bの資金によってその支払いを行っていた。

有限会社Bの資金で株式会社Cの支払いをすることについては、A単独の判断によるものであり、Y税理士に対する相談はなされなかったが、Y税理士は、顧問業務の一環として記帳代行を行う際にこれを把握し、経理処理上は、有限会社Bの株式会社Cに対する短期貸付金として処理していた。

平成28年頃から、有限会社Bの業績も悪化し始め、平成29年には株式会社Cと同様に資金繰りに窮するようになった。AとY税理士は協議の上、やむを得ず、平成29年12月、両社について破産を申し立てることとした。

このようなケースで、仮に、有限会社Bの債権者であるX社が、有限会社Bから株式会社Cへの資金援助に関してY税理士の責任を追及した場合、Y税理士はX社に対して何らかの責任を負うか。

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連載目次

筆者紹介

米倉 裕樹

(よねくら・ひろき)

弁護士・税理士

【経歴等】
立命館大学法学部卒
1999年大阪弁護士会登録(第51期)
弁護士法人北浜法律事務所 パートナー弁護士
近畿弁護士会連合会税務委員会委員長(平成27年5月~同29年4月)

【著書・論文等】
相続税 税務調査[指摘事項]対応マニュアル」(清文社2018年出版)共著
弁護士と税理士の相互質疑応答集」(清文社2017年出版)編者・共著
税理士が実際に悩んだ相続問題の法務と税務」(清文社2014年出版)
有利な心証を勝ち取る民事訴訟遂行」(清文社2015年出版)
「弁護士は民事裁判をどう見ているか(調査結果の分析)」(日本弁護士連合会「自由と正義」共著、2013年8月号)
「Doing Business in Japan」(53版改訂版以降、執筆担当Consumption Tax(消費税)共著、LexisNexis社、2013年~)
そこが危ない!消費増税をめぐる契約実務Q&A」(清文社2013年出版)等

  
 


元氏 成保

(もとうじ・しげほ)

弁護士・関西大学法科大学院教授

【経歴等】
2001年3月  京都大学法学部卒
2002年10月 大阪弁護士会登録(第55期)
共栄法律事務所 パートナー弁護士
関西大学法科大学院教授(租税法、行政法)
近畿弁護士会連合会税務委員会 副委員長

【著書・論文等】
相続税 税務調査[指摘事項]対応マニュアル」(清文社2018年出版)共著
弁護士と税理士の相互質疑応答集」(清文社2017年出版)編者・共著
「固定資産税の台帳課税主義とその限界」(滝井繁男先生追悼論集 日本評論社2017年出版)
「新実務家のための税務相談 民法編」(有斐閣2017年出版)共著
「租税法判例実務解説」(信山社2011年出版)共著
「職務発明に関して従業者等が使用者等から受け取る金員の所得区分」(水野武夫先生古稀記念論文集 法律文化社2011年出版)

  


橋森 正樹

(はしもり・まさき)

弁護士・税理士

【経歴等】
早稲田大学法学部卒
2002年大阪弁護士会登録(第55期)
橋森・幡野法律会計事務所 所長
近畿弁護士会連合会税務委員会 委員長(平成29年5月~)

【著書・論文等】
相続税 税務調査[指摘事項]対応マニュアル」(清文社2018年出版)共著
「企業税務講座」(労働調査会発行2011年から連載)
弁護士と税理士の相互質疑応答集」(清文社2017年出版)編者・共著
「Q&A高齢者施設・事業所の法律相談-介護現場の76問-」(日本加除出版2015年出版)共著
「事例解説 教育対象暴力-教育現場でのクレーム対応-」(ぎょうせい2015年出版)編者・共著
「事例にみる遺言の効力」(新日本法規2011年出版)共著等

  

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