公開日: 2013/04/25 (掲載号:No.16)
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林總の管理会計[超]入門講座 【第1回】「管理会計と原価計算」

筆者: 林 總

林總の

管理会計[超]入門講座

 

公認会計士 林 總

 

[連載にあたって]

会計は大きく財務会計と管理会計に分類されます。
財務会計は会社の実態を外部に報告するための会計、管理会計は経営(マネジメント)を上手に行って、会社の業績を良くするための会計です。
したがって、会社にとって、管理会計の方が財務会計よりも大切です。

ところが現実は、管理会計がうまく機能している会社は少なく、また、苦手意識を持つ実務家や受験生は意外に多いようです。
このような事態を引き起こしている原因は何かというと、どうやら管理会計教育に課題がありそうです。

実を言えば、私自身、経験が浅い頃は、不安を抱えながら管理会計システム構築の仕事をしたものです。そしていつも、自分で設計した原価計算システムは、会社の役に立っているのか、正しいのか、確信が持てなかった。

その後、経験を重ねるたびに、さまざまな疑問に遭遇し、ひとつひとつ丹念に解決してきました。

本連載は、昔の私()が抱いた疑問を、今の私()に質問し答える形になっています。必ずや、学生諸君と実務家の皆さんの力になるものと、確信しています。

では、始めましょう。

 

【第1回】

「管理会計と原価計算」

 原価計算と管理会計は同じですか?

 君たちが学んでいる原価計算は、1900年代の初頭にアメリカの自動車会社GM(ゼネラルモーターズ)が作ったものなんだ。

当時、自動車を作るのには膨大な設備と多くの作業者が必要だった。ほとんどの会社の原価は工場の中で生じていて、しかも工場の生産性は低かった。そのため、自動車一台の原価はものすごく高く、庶民には高嶺の花だった。

したがって、経営者にとっての最大の関心事は、設備投資を行い、労働生産性を高め、自動車の原価を下げることだった。つまり、原価計算そのものが管理会計だったんだ。

 今は違うんですか?

 もちろん違う。
スーパーマーケットや銀行には工場はないし、あのアップルはメーカーなのに工場は持っていない。トヨタが生み出す価値のすべては工場で作ったものだろうか。 もちろん違うね。

研究開発部、営業部、物流部、経理部、それから総務部の人たちは「自動車」という価値を生み出すために活動している。つまり、会社は全体として成果をもたらすために活動しているわけだから、伝統的な原価計算は管理会計の一部にすぎないんだよ。

 「伝統的な原価計算」ってことは、「新しい原価計算」もあるのですか。

 その通り。会社のビジネスプロセスは材料購入、製造、物流、販売、管理、代金回収までの一連の活動のことで、材料はビジネスプロセスを通過して価値が付与され製品に変わる。ところが伝統的原価計算は、価値を作り出す場所は工場だけと考えているんだ。

つまり、新しい原価計算は、工場だけでなく、ビジネスプロセス全体を対象にしているんだよ。

 頭が痛くなりそうですね。

 君が学ぶべき範囲は広い。でもね、なんといっても伝統的原価計算が管理会計の基本なんだ。

 分かりました。レクチャーが始まる前に、質問してもいいですか?

 もちろんだよ。

 僕たちは、なぜ理論を学ぶ必要があるんですか。理論なんか無視して、好きなように原価を計算すればいいんじゃないかって、思うんですけど・・・。

 極端な意見だけど、いい質問だね。ひとことで言えば、「自己流」は実務では使えないんだ。

 「自己流」って、ダメなんですか。

 「自己流」では全体が見渡せない。原価計算という仕組みは、理論の裏付けがなくてはならないんだ。

 どうしてでしょうか。

 君は古代ギリシャ劇場は知っているね。すり鉢を半分にしたような形で、底の部分には舞台、斜面の部分に観客席が階段状に作られている。
これは「セアトロン」と呼ばれて、「シアター(theater)」の語源だ。
理論(theory)の語源は、この「シアター(theater)」なんだよ。

 客は観客席から劇を見降ろして鑑賞する・・・。

 その通り。高い位置から舞台を見降ろすから、劇の全体が見える。誰がどこにいて何をしているかが分かる。見落としがない。
同様に、理論を知っているからこそ、大きくつかむことができる。袋小路に入ってしまっても、理論に立ち返って全体を俯瞰することで、どこに迷い込んでしまったかが分かる。

ところが、自己流の仕組みではそうはいかない。今起きていることがつかめない。これから起きるかもしれないことを予測できない。

 理論を学べば、道に迷うことはなくなるんですね。

 学んだだけではダメだね。理論は、使えなくては本当に理解したとはいえない。
理論を実務に生かせるようになって、はじめて身に付いたといえるんだ。

 何となく分かってきました。「自己流」に走るのではなく、まず理論を理解して、その上で理論を仕事に使えるようにするってことですね。

 その通り。さっそく本題に入ることにしよう。

(了)

「林總の管理会計[超]入門講座」は、隔週の掲載となります。

林總の

管理会計[超]入門講座

 

公認会計士 林 總

 

[連載にあたって]

会計は大きく財務会計と管理会計に分類されます。
財務会計は会社の実態を外部に報告するための会計、管理会計は経営(マネジメント)を上手に行って、会社の業績を良くするための会計です。
したがって、会社にとって、管理会計の方が財務会計よりも大切です。

ところが現実は、管理会計がうまく機能している会社は少なく、また、苦手意識を持つ実務家や受験生は意外に多いようです。
このような事態を引き起こしている原因は何かというと、どうやら管理会計教育に課題がありそうです。

実を言えば、私自身、経験が浅い頃は、不安を抱えながら管理会計システム構築の仕事をしたものです。そしていつも、自分で設計した原価計算システムは、会社の役に立っているのか、正しいのか、確信が持てなかった。

その後、経験を重ねるたびに、さまざまな疑問に遭遇し、ひとつひとつ丹念に解決してきました。

本連載は、昔の私()が抱いた疑問を、今の私()に質問し答える形になっています。必ずや、学生諸君と実務家の皆さんの力になるものと、確信しています。

では、始めましょう。

 

【第1回】

「管理会計と原価計算」

 原価計算と管理会計は同じですか?

 君たちが学んでいる原価計算は、1900年代の初頭にアメリカの自動車会社GM(ゼネラルモーターズ)が作ったものなんだ。

当時、自動車を作るのには膨大な設備と多くの作業者が必要だった。ほとんどの会社の原価は工場の中で生じていて、しかも工場の生産性は低かった。そのため、自動車一台の原価はものすごく高く、庶民には高嶺の花だった。

したがって、経営者にとっての最大の関心事は、設備投資を行い、労働生産性を高め、自動車の原価を下げることだった。つまり、原価計算そのものが管理会計だったんだ。

 今は違うんですか?

 もちろん違う。
スーパーマーケットや銀行には工場はないし、あのアップルはメーカーなのに工場は持っていない。トヨタが生み出す価値のすべては工場で作ったものだろうか。 もちろん違うね。

研究開発部、営業部、物流部、経理部、それから総務部の人たちは「自動車」という価値を生み出すために活動している。つまり、会社は全体として成果をもたらすために活動しているわけだから、伝統的な原価計算は管理会計の一部にすぎないんだよ。

 「伝統的な原価計算」ってことは、「新しい原価計算」もあるのですか。

 その通り。会社のビジネスプロセスは材料購入、製造、物流、販売、管理、代金回収までの一連の活動のことで、材料はビジネスプロセスを通過して価値が付与され製品に変わる。ところが伝統的原価計算は、価値を作り出す場所は工場だけと考えているんだ。

つまり、新しい原価計算は、工場だけでなく、ビジネスプロセス全体を対象にしているんだよ。

 頭が痛くなりそうですね。

 君が学ぶべき範囲は広い。でもね、なんといっても伝統的原価計算が管理会計の基本なんだ。

 分かりました。レクチャーが始まる前に、質問してもいいですか?

 もちろんだよ。

 僕たちは、なぜ理論を学ぶ必要があるんですか。理論なんか無視して、好きなように原価を計算すればいいんじゃないかって、思うんですけど・・・。

 極端な意見だけど、いい質問だね。ひとことで言えば、「自己流」は実務では使えないんだ。

 「自己流」って、ダメなんですか。

 「自己流」では全体が見渡せない。原価計算という仕組みは、理論の裏付けがなくてはならないんだ。

 どうしてでしょうか。

 君は古代ギリシャ劇場は知っているね。すり鉢を半分にしたような形で、底の部分には舞台、斜面の部分に観客席が階段状に作られている。
これは「セアトロン」と呼ばれて、「シアター(theater)」の語源だ。
理論(theory)の語源は、この「シアター(theater)」なんだよ。

 客は観客席から劇を見降ろして鑑賞する・・・。

 その通り。高い位置から舞台を見降ろすから、劇の全体が見える。誰がどこにいて何をしているかが分かる。見落としがない。
同様に、理論を知っているからこそ、大きくつかむことができる。袋小路に入ってしまっても、理論に立ち返って全体を俯瞰することで、どこに迷い込んでしまったかが分かる。

ところが、自己流の仕組みではそうはいかない。今起きていることがつかめない。これから起きるかもしれないことを予測できない。

 理論を学べば、道に迷うことはなくなるんですね。

 学んだだけではダメだね。理論は、使えなくては本当に理解したとはいえない。
理論を実務に生かせるようになって、はじめて身に付いたといえるんだ。

 何となく分かってきました。「自己流」に走るのではなく、まず理論を理解して、その上で理論を仕事に使えるようにするってことですね。

 その通り。さっそく本題に入ることにしよう。

(了)

「林總の管理会計[超]入門講座」は、隔週の掲載となります。

連載目次

筆者紹介

林 總

(はやし・あつむ)

公認会計士
経営コンサルタント

1974年、中央大学商学部会計科卒業。外資系会計事務所、監査法人勤務を経て独立。経営コンサルティング、大学教員、執筆、講演活動などを行っている。

主な著書は『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』、『50円のコスト削減と100円の値上げでは、どちらが儲かるか?』、『[新版]わかる!管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(中経出版)、『貯まる生活』(文藝春秋)『崖っぷち女子大生あおい、チョコレート会社で会計を学ぶ。』(清文社)ほか多数。

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