公開日: 2016/10/13 (掲載号:No.189)
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裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価 【第17回】「租税法上の評価①」

筆者: 佐藤 信祐

裁判例・裁決例からみた

非上場株式の評価

【第17回】

「租税法上の評価①」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

連載の目次はこちら

前回までは、会社法の観点からの非上場株式の評価について裁判例を紹介した。

本稿以降では、租税法上の観点から非上場株式の評価についての裁判例・裁決例について解説を行う。

 

1 大阪高裁昭和62年6月16日判決・TAINSコード:Z158-5926

(1) 事実の概要

本事件は、原告らが、粟井機鋼株式会社(以下「訴外会社」という)の株式を従業員等から譲り受けた事件である。

課税庁は、譲り受けた訴外会社株式の譲受価額が、財産評価基本通達に定める中心的な同族株主に該当し、かつ、大会社に該当するとした場合の評価額に比べて著しく低いことから、贈与税の対象とした。

これに対し、原告らは、

訴外会社は従業員持株制度を採用しているため、昭和52年証券会社に発行株式の売買適正価額の評価を委託する一方、従業員等を含む株主全員に対し売買希望額についてのアンケートを求めたところ、額面の3倍程度の価額が妥当であるとの意見が過半数であったことから、それ以降はおおむね額面の3倍の価額をもって、退社に伴い株式売却を希望する従業員とその取得希望者との仲介の労をとり現在に至っている。本件株式の譲受価額は売買当事者が対等で自由な立場に立ち、主張すべきところを主張し、双方の合意によって決定されたもので正常な売買に基づく適正な価額であるから、相続税法7条の著しく低い価額に該当しない。なお、有償取引行為を対象とする規定である同法7条の時価は、無償による財産の移転を前提とする同法22条の時価とその意義を異にするから、前者の評価は評価通達によるべきではなく、具体的事例に即し社会通念に従い、同法7条の目的に照らしてなされるべきである。

と主張して、課税処分の取消しを求めた。

なお、上告審(最高裁昭和63年7月7日判決・TAINSコード:Z165-6134)では、棄却されている。

(2) 第一審(大阪地裁昭和61年10月30日判決・TAINSコード:Z154-5816)

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裁判例・裁決例からみた

非上場株式の評価

【第17回】

「租税法上の評価①」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

連載の目次はこちら

前回までは、会社法の観点からの非上場株式の評価について裁判例を紹介した。

本稿以降では、租税法上の観点から非上場株式の評価についての裁判例・裁決例について解説を行う。

 

1 大阪高裁昭和62年6月16日判決・TAINSコード:Z158-5926

(1) 事実の概要

本事件は、原告らが、粟井機鋼株式会社(以下「訴外会社」という)の株式を従業員等から譲り受けた事件である。

課税庁は、譲り受けた訴外会社株式の譲受価額が、財産評価基本通達に定める中心的な同族株主に該当し、かつ、大会社に該当するとした場合の評価額に比べて著しく低いことから、贈与税の対象とした。

これに対し、原告らは、

訴外会社は従業員持株制度を採用しているため、昭和52年証券会社に発行株式の売買適正価額の評価を委託する一方、従業員等を含む株主全員に対し売買希望額についてのアンケートを求めたところ、額面の3倍程度の価額が妥当であるとの意見が過半数であったことから、それ以降はおおむね額面の3倍の価額をもって、退社に伴い株式売却を希望する従業員とその取得希望者との仲介の労をとり現在に至っている。本件株式の譲受価額は売買当事者が対等で自由な立場に立ち、主張すべきところを主張し、双方の合意によって決定されたもので正常な売買に基づく適正な価額であるから、相続税法7条の著しく低い価額に該当しない。なお、有償取引行為を対象とする規定である同法7条の時価は、無償による財産の移転を前提とする同法22条の時価とその意義を異にするから、前者の評価は評価通達によるべきではなく、具体的事例に即し社会通念に従い、同法7条の目的に照らしてなされるべきである。

と主張して、課税処分の取消しを求めた。

なお、上告審(最高裁昭和63年7月7日判決・TAINSコード:Z165-6134)では、棄却されている。

(2) 第一審(大阪地裁昭和61年10月30日判決・TAINSコード:Z154-5816)

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連載目次

「裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価」(全26回)

【第1回】 論点分析

1 論点分析

(1) 会社法の観点からの分析

(2) 租税法の観点からの分析

(3) 本稿の目的

【第2回】 募集株式の発行等①

1 大阪地裁昭和47年4月19日判決・判時691号74頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第3回】 募集株式の発行等②

2 大阪地裁昭和48年11月29日判決・判時731号85頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第4回】 募集株式の発行等③

3 大阪高裁昭和51年4月27日決定・判時836号107頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

4 佐賀地裁昭和51年4月30日判決・判時827号107頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第5回】 募集株式の発行等④

5 神戸地裁昭和51年6月18日判決・判時843号107頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第6回】 募集株式の発行等⑤

6 東京地裁昭和52年8月30日判決・金判533号22頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

7 東京地裁昭和56年6月12日判決・判時1023号116頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第7回】 募集株式の発行等⑥

8 大阪地裁平成2年2月28日判決・判時1365号130頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

9 京都地裁平成4年8月5日判決・判時1440号129頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第8回】 募集株式の発行等⑦

10 東京地裁平成4年9月1日判決・判時1463号154頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

11 東京地裁平成6年3月28日判決・判時1496号123頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第9回】 募集株式の発行等⑧

12 東京地裁平成9年9月17日判決・判時1640号160頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

13 千葉地裁平成8年8月28日判決・判時1591号113頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

14 大阪高裁平成11年6月17日判決・判時1717号144頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第10回】 募集株式の発行等⑨

15 最高裁平成27年2月19日判決・金判1465号16頁

(1) 事実の概要

(2) 第1審の判断(金判1414号15頁)

(3) 控訴審の判断(金判1414号8頁)

(4) 上告審の判断

(5) 評釈

【第11回】 譲渡制限株式の譲渡①

1 東京高裁平成20年4月4日決定・金判1295号49頁

(1) 事実の概要

(2) 申立人の主張

(3) 相手方の主張

(4) 原決定(東京地裁平成20年1月22日判決・金判1295号55頁)

(5) 裁判所の判断

(6) 評釈

【第12回】 譲渡制限株式の譲渡②

2 福岡高裁平成21年5月15日決定・金判1320号20頁

(1) 事実の概要

(2) 申立人の主張

(3) 相手方の主張

(4) 原決定(福岡地裁平成20年4月8日決定・金判1320号27頁)

(5) 裁判所の判断

(6) 評釈

【第13回】 譲渡制限株式の譲渡③

3 大阪高裁平成元年3月28日決定・判時1324号140頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

4 広島地裁平成21年4月22日決定・金判1320号49頁

(1) 事実の概要

(2) ミカサ・ホールディングスらの主張

(3) ミカサらの主張

(4) 裁判所の判断

(5) 評釈

【第14回】 譲渡制限株式の譲渡④

5 札幌高裁平成17年4月26日決定・判タ1216号272頁

(1) 事実の概要

(2) 原決定(札幌地裁平成16年4月12日決定・判タ1216号274頁)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

6 千葉地裁平成3年9月26日決定・判時1412号140頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第15回】 反対株主の株式買取請求①

1 東京高裁平成22年5月24日決定・金判1345号12頁

(1) 事実の概要

(2) 原決定(東京地裁平成20年3月14日決定・金判1289号8頁)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 反対株主の株式買取請求②

1 東京地裁平成21年10月19日判決・金判1329号30頁

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

2 最高裁平成27年3月26決定・金判1466号8頁

(1) 事実の概要

(2) 第一審(札幌地裁平成26年6月23日金判1466号15頁)

(3) 控訴審(札幌高裁平成26年9月25日金判1466号14頁)

(4) 裁判所の判断

(5) 評釈

【第17回】 租税法上の評価①

1 大阪高裁昭和62年6月16日判決・TAINSコード:Z158-5926

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁昭和61年10月30日判決・TAINSコード:Z154-5816)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第18回】 租税法上の評価②

2 東京高裁平成12年9月28日判決・TAINSコード:Z248-8734

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁11年3月25日判決・TAINSコード:Z241-8368)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第19回】 租税法上の評価③

3 東京高裁平成17年1月19日判決・TAINSコード:Z255-09900

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成16年3月2日判決・TAINSコード:Z254-9583)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第20回】 租税法上の評価④

4 東京地裁平成17年10月12日判決・TAINSコード:Z255-10156

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第21回】 租税法上の評価⑤

5 東京地裁平成19年1月31日判決・TAINSコード:Z257-10622

(1) 事実の概要

(2) 裁判所の判断

(3) 評釈

【第22回】 租税法上の評価⑥

6 最高裁平成7年12月19日判決・TAINSコード:Z214-7633

(1) 事実の概要

(2) 第一審(宮崎地裁平成5年9月17日判決・TAINSコード:Z198-7194)

(3) 控訴審(福岡高裁平成6年2月28日判決・TAINSコード:Z200-7294)

(4) 裁判所の判断

(5) 評釈

【第23回】 租税法上の評価⑦

7 東京高裁平成22年12月15日判決・TAINSコード:Z260-11571

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成22年3月5日判決・TAINSコード:Z260-11392)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第24回】 租税法上の評価⑧

8 国税不服審判所平成11年2月8日裁決・裁決事例集57号342頁

(1) 事実の概要

(2) 審判所の判断

(3) 評釈

【第25回】 租税法上の評価⑨

9 国税不服審判所平成22年9月2日裁決・裁決事例集80号97頁

(1) 事実の概要

(2) 審判所の判断

(3) 評釈

【第26回】 まとめ

1 会社法の観点からの評価

2 租税法の観点からの評価

3 まとめ

筆者紹介

佐藤 信祐

(さとう・しんすけ)

公認会計士・税理士、法学博士
公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

【主な著書】
・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
・『これだけ!組織再編&事業承継税制』(共著、中央経済社)
・『無対価組織再編・資本等取引の税務』(中央経済社)
・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
・『組織再編税制大全』(清文社)
・『新版 サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)
・『サクサクわかる!M&Aの税務』(清文社)
・『サクサクわかる!株主対策の税務』(清文社)
・『ドリル式 組織再編成の確定申告書 別表四・五(一)徹底攻略』(清文社)
・『不動産M&Aの税務』(日本法令)
・『みなし配当の税務』(日本法令)

その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

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