固定資産をめぐる判例・裁決例概説
【第9回】
「行政庁が間違って固定資産税を非課税として処理した過年度分について、遡って課税処分をすることは、「禁反言の法理」により違法とされるか否かが争われた判例」
税理士 菅野 真美
▷禁反言の法理
「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」(民法第1条第2項)は信義則ともいわれるが、同じような原則として「禁反言の法理」がある。これは、「人はいったんなした言動をそれが誤りである理由としてひるがえすことができない」という原則である(※)。
(※) 金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019年)143~144頁。
この禁反言の法理が問題となるケースの1つとして、課税当局が誤った表示(税の減免)をし、それを納税者が信じて課税処理をしたが、実は、当局の表示内容が間違っており、課税当局が誤りに気付いた時点で過去に遡って是正し、その結果、納税者にとっては想定外の負担を生ずるようなことが考えられる。
この場合、課税当局の表示を信頼した納税者の保護を重視すべきという考え方と、誤った表示は法的根拠がなく合法な処理に是正することを重視すべきという考え方があり、各々の考え方のいずれを選択するかによって答えが変わってくる。
今回は、行政庁が固定資産税非課税の通知をし、その後、非課税となっていたが、突然、過去に遡って固定資産税の賦課決定処分をしたことについて、納税者が不服として裁判所に訴え、禁反言の法理について、地裁と高裁で判断が異なった事例を検討する。
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