12 財又はサービスに対する保証
(1) 財又はサービスに対する保証
財又はサービスを販売した際に当該財又はサービスに対して保証を付ける場合がある。当該保証は、以下のとおり会計処理する。
① 財又はサービスに対する保証に当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービスが含まれているかどうかの判定
財又はサービスに対する保証に保証サービス(顧客にサービスを提供する保証)が含まれているかどうかにより会計処理が異なるため、まず、財又はサービスに対する保証に当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービス(履行義務)が含まれているかどうかを判定する(適用指針37)。
この際、例えば以下の(ⅰ)から(ⅲ)の要因を考慮する(適用指針37)。
(ⅰ) 『財又はサービスに対する保証が法律で要求されているか』
財又はサービスに対する保証が法律で要求されている場合、当該法律は、通常、欠陥のある財又はサービスを購入するリスクから顧客を保護するために存在するものであるため、当該保証は履行義務ではない。
(ⅱ) 『財又はサービスに対する保証の対象となる期間の長さ』
財又はサービスに対する保証の対象となる期間が長いほど、財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービスを顧客に提供している場合が多く、この場合には、当該保証サービスは履行義務である。
(ⅲ) 『企業が履行を約束している作業の内容』
財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証を提供するために、欠陥のある商品又は製品に係る返品の配送サービス等、特定の作業を行う必要がある場合、当該作業は、通常、履行義務ではない。
なお、上記の要因のとおり、無償の保証であるから、即、合意された仕様に従っているという保証というわけではないので注意が必要である。
② 合意された仕様に従っているという保証のみである場合の会計処理
顧客に約束した財又はサービスに対する保証が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証のみである場合、当該保証について、引当金(例えば、製品保証引当金)として会計処理する(適用指針34、企業会計原則注解(注18))。
③ 保証サービスを含む場合の会計処理
顧客に約束した財又はサービスに対する保証又はその一部が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービスを含む場合には、保証サービスは履行義務であり、取引価格を財又はサービス及び当該保証サービスに配分する(適用指針35)。具体的には、保証サービスに配分した金額は契約負債として認識し、保証サービスの提供に応じて収益を認識する。
なお、合意された仕様に従っているという保証部分の会計処理については、上記②のとおりである。
【製品の提供に加えて合意された仕様に従っているという保証と保証サービスがセットの場合】
なお、財又はサービスに対する保証が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証と保証サービスの両方を含む場合で、それぞれを合理的に区分できないときには、両方を一括して単一の履行義務として処理し、取引価格の一部を当該履行義務に配分(【STEP4】参照、基準65~73)する(適用指針36)。
【参考】
適用指針第34項から第37項(上記①から③)にかかわらず、顧客が財又はサービスに対する保証を単独で購入するオプションを有している場合(例えば、財又はサービスに対する保証が個別に価格設定される又は交渉される場合)には、当該保証は別個のサービスであり、履行義務として識別(基準第32項から第34項)し、取引価格の一部を当該履行義務に配分(基準第65項から第73項)する(適用指針38)。
【設例】
製品保証付き製品を1,000,000円で販売した。
① 合意された仕様に従っているという製品保証のみで、見積り費用は100,000円である。
② 合意された仕様に従っているという製品保証と保証サービス型の製品保証がある。合意された仕様に従っているという製品保証の見積り費用は100,000円である。一方、製品の独立販売価格は1,000,000円で、保証サービス型の製品保証の独立販売価格は100,000円である。
① 合意された仕様に従っているという製品保証のみ
② 合意された仕様に従っているという製品保証と保証サービス型の製品保証
(※1) 1,000,000×(1,000,000÷(1,000,000+100,000))=909,090
(※2) 差額
(2) 財又はサービスに対する保証(従来との相違点等)
① 従来との相違点
[収益認識基準等]
➤合意された仕様に従っているという保証の場合、引当金(製品保証引当金等)を計上する。
➤保証サービスの場合、当該保証サービスは履行義務であるため、取引価格を財又はサービス及び当該保証サービスに配分し、保証サービス部分について契約負債を認識する。保証サービスは、その提供に応じて契約負債を取り崩し、収益を認識する。
[従来]
➤合意された仕様に従っているという保証及び保証サービスも、引当金(製品保証引当金等)で会計処理していると考えられる。
② 影響がある取引(例示)
- 無償保証、有料保証、長期保証の製品保証等を行っている取引について影響がある。
③ 適用上の課題
- 合意された仕様に従っているという保証については、従来の会計処理と変わりはない。しかし、従来では、合意された仕様に従っているという保証と保証サービスを区分することが求められていない。保証サービスがある場合、当該保証を履行義務として識別し、取引価格を配分する必要がある。そのため、業務プロセスの新規追加が必要となる可能性がある。
- 従来と比較し、収益の認識時期が異なることにより、業績管理及び予算管理に影響が生じる可能性がある。この結果、人事評価にも影響する可能性がある。
④ 財務諸表への影響
- 収益認識基準等では保証サービスについて履行義務として識別するため、従来と比較し収益の認識時期が遅くなる可能性がある。
「企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表」
〔凡例〕
・ASBJ・・・企業会計基準委員会
・IASB・・・国際会計基準審議会
・FASB・・・米国財務会計基準審議会
・基準・・・企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」
・適用指針・・・企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」
・収益認識基準等・・・企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」
・設例・・・企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」設例
・対応・・・企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」等に対するコメント 5.主なコメントの概要とその対応
・意見募集・・・「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」
・工事基準・・・企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」
・工事指針・・・企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」
・ソフトウェア実務報告・・・実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」
・リース基準・・・企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」
・遡及基準・・・企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。