公開日: 2021/05/13 (掲載号:No.419)
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〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第2回】「免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする場合の経過措置」

筆者: 石川 幸恵

〔疑問点を紐解く〕

インボイス制度

【第2回】

「免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする場合の経過措置」

 

税理士 石川 幸恵

 

【Q】

私は開業以来ずっと免税事業者である個人事業者です。インボイス制度によって「免税事業者である」ことが取引先に明らかになると、価格交渉が難しくなりそうなので、適格請求書発行事業者の登録をしようと考えています。申請はどうしたらよいですか。

このQuestionでは、質問者は個人事業者、課税期間は暦年として解説を進めますが、法人でも同じです。

〔ポイント〕

(1) 経過措置があるので、インボイス制度が開始する令和5年については、令和5年10月1日~12月31日の期間のみ課税事業者になることが可能。

(2) 課税事業者選択届出書や課税期間特例選択・変更届出書は不要。

(3) 適格請求書発行事業者の登録申請書は令和3年10月1日に受付開始されるが、経過措置の適用についての記載欄は、令和5年の納税義務が明らかになってからでなければ書けない。

*  *  *

【A】

令和5年10月1日に登録を受けるためには、令和3年10月1日から令和5年3月31日(困難な事情がある場合は令和5年9月30日)までの間に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出します。令和5年が免税事業者である場合には、課税期間の中途から課税事業者になる経過措置を受けられますので、経過措置の適用を受ける旨を記載してください。

(1) 経過措置とは

免税事業者が適格請求書発行事業者になるためには、原則として、課税事業者選択届出書を提出し、課税事業者となる必要があります。

ただし、免税事業者が令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受けることとなった場合には、登録を受けた日から課税事業者となる経過措置が設けられています(インボイスQ&A問8インボイス通達5-1、28年改正法附則44④)。

※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。

申請書提出受付開始 令和3年10月1日 インボイス制度開始 令和5年10月1日 令和3年1月1日 令和4年1月1日 令和5年1月1日 令和6年1月1日 令和3年 基準期間 令和4年 特定期間 令和5年 課税期間 令和6年 課税売上高 1,000万円超 1,000万円以下 課税売上高(又は給与等支払額) 期首から課税事業者 免税 課税 経過措置を受ける必要はなく、期首から課税事業者。令和5年10月1日から適格請求書発行事業者 経過措置の適用により令和5年10月1日から課税事業者であり適格請求書発行事業者

(※1) 令和4年までは免税事業者であるものとします。

(※2) 相続が発生した場合はこの限りではありません。

 

(2) 課税期間特例選択・変更届出書や課税事業者選択届出書は不要

課税期間の途中から課税事業者となるためには、課税期間の短縮を検討しますが、上記(1)の経過措置を受けるにあたっては、課税期間の短縮は必要ありません。

令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受ける場合に限り、課税事業者選択届出書の提出も必要ありません。

課税事業者届出書の提出要否については明記されていませんが、適格請求書発行事業者の登録申請書に個人番号や法人の事業年度、資本金の記載欄が設けられており、これらは課税事業者届出書と同様の内容なので、登録申請書が課税事業者届出書を兼用するものと考えられます。

 

(3) 申請書の提出は令和5年の納税義務の有無が明らかになってから

① いつから提出可能なのか

適格請求書発行事業者の登録申請書の受付は、令和3年10月1日から始まりますが、経過措置の適用に関しては、令和5年の納税義務がないことが明らかになってからでなければ記載できません。令和5年の納税義務の有無がわかるのは、(1)の図に示したように、令和4年の特定期間(令和4年6月30日)を過ぎてからです。

② 経過措置を受ける場合の申請書の書き方

免税事業者が令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になる場合の選択のチェック方法は、下図のとおりです。赤枠で囲んだ部分に課税事業者届出書と同様の項目の記載欄があります。

個人事業者の場合は、個人番号の記載がありますので、番号確認書類と身元確認書類の提示又は写しの提出をしてください。

※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。

③ 提出期限

令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になる場合の提出期限は、令和5年3月31日ですが、提出できなかったことにつき困難な事情(何を困難とするかのレベルは問わない)がある場合は、令和5年9月30日までとされています(インボイスQ&A問7)。

 

(4) 敢えて、令和5年10月1日以降に開始する課税期間から適格請求書発行事業者になることも可能

令和5年10月1日から令和6年3月31日までの間に開始(個人事業者ならば令和6年1月1日に開始)する課税期間から、適格請求書発行事業者になることも可能です。

こちらを選択する場合は、次のいずれかの届出がセットになります。

 納税義務判定で、令和6年は免税事業者・・・課税事業者選択届出書

 納税義務判定で、令和6年は課税事業者・・・課税事業者届出書

しかし、(1)の経過措置があるにもかかわらず、敢えて令和5年10月1日以降に開始する課税期間から適格請求書発行事業者になる必要性は薄いと考えられます。

(了)

「〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A」は、毎月第2週に掲載されます。

〔疑問点を紐解く〕

インボイス制度

【第2回】

「免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする場合の経過措置」

 

税理士 石川 幸恵

 

【Q】

私は開業以来ずっと免税事業者である個人事業者です。インボイス制度によって「免税事業者である」ことが取引先に明らかになると、価格交渉が難しくなりそうなので、適格請求書発行事業者の登録をしようと考えています。申請はどうしたらよいですか。

このQuestionでは、質問者は個人事業者、課税期間は暦年として解説を進めますが、法人でも同じです。

連載目次

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A

筆者紹介

石川 幸恵

(いしかわ・ゆきえ)

税理士・第一種情報処理技術者
アスエミヲ 石川幸恵税理士事務所(https://as-emiwo.com

名古屋大学大学院 生命農学研究科 博士前期課程修了。
金融系のIT企業に就職後、お金の流れや儲けの仕組みに興味を持ち、税理士業界へ転職。

平成29年 税理士登録・開業。

法人税はもちろん、個人事業者から法人までの消費税を専門的にサポートし、越境EC、非居住者へのサービスなど海外取引に関わる消費税についても相談を受ける。

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