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組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q15】「承継される事業に主として従事する者とは」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q15】 承継される事業に主として従事する者とは   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 会社分割において「承継される事業に主として従事する者」とは、原則として、分割契約の締結日又は分割計画の作成日時点で承継される事業に主として従事している者をいう。 ただし、分割契約の締結日又は分割計画の作成日時点で、承継される事業に主として従事する者か否かを判断するのが適当でない場合は、例外の取扱いとなる。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。 会社分割においては、「承継される事業に主として従事する者」にあたるか否かにより、労働契約の承継の考え方や必要な手続きが異なるため、当該者にあたるか否かを踏まえた対応が必要となる。   労働契約承継法施行規則第2条 労働契約承継法施行規則第2条では、労働契約承継法第2条第1項第1号の「承継される事業に主として従事する者」の範囲について次の通り規定している。   判断される時点 承継される事業に主として従事する者にあたるか否かは、原則として、分割契約の締結日又は分割計画の作成日時点で、承継される事業に主として従事しているか否かにより判断される。ただし、分割契約の締結日又は分割計画の作成日時点で、承継される事業に主として従事する者か否かを判断するのが適当でない場合は、例外の取扱いとなる。 例外については、「会社分割・事業譲渡・合併における労働者保護のための手続に関するQ&A」(厚生労働省、平成28年12月)(以下、Q&A)のA27で次の通り説明している。 例えば、A部の事業を吸収分割で承継する場合に、A部に所属しているものの、承継される事業以外のB部の業務が繁忙となったため、臨時でA部からB部へ応援勤務をさせ、B部の業務が落ち着いたらA部に戻す予定の場合は、分割契約の締結日時点では、承継される事業以外のB部の業務に従事していたとしても、承継される事業に主として従事する者として取り扱う。 また、A部の事業に従事するために採用した内定者については、分割契約の締結日時点では入社していなくても、承継される事業に主として従事する者として取り扱う。 なお、分割会社又は承継会社から排除することを目的に、分割契約の締結日又は分割計画の作成日前に配置転換等を意図的に行った場合には、上記によらず、当該過去の勤務の実態に基づき判断すべきものとされている。   間接部門の場合 間接部門などにおいては、承継される事業だけでなく、承継される事業以外の事業にも従事していることがある。この場合は、それぞれの事業に従事する時間や、それぞれの事業における当該者の果たしている役割等を総合的に判断し、承継される事業のために専ら従事している場合は、承継される事業に主として従事する者とするものとされている。 なお、上記によっても、承継される事業に主として従事しているか否かを判断することができない場合は、特段の事情がなければ、当該判断することができない者を除いた分割会社の雇用する労働者の過半数の労働者に係る労働契約が承継会社に承継される場合は、当該労働者を承継される事業に主として従事する者とするとされている。 Q&AのQ29では下記の通り、その考え方が例示されている。 (了)

#No. 311(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2019/03/20

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第11回】「株式等投資の種類と税制上の取扱い」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第11回】 「株式等投資の種類と税制上の取扱い」   税理士法人トゥモローズ   中小企業経営者の老後資金の収入源として、資産運用による収入は大きな収入源となる。今回は分散投資の中でも不動産投資と同じく、老後資金の大きな収入源となりうる「株式等投資」について確認をする。 株式等投資と一言にいっても、デイトレードのような毎日複数回のトレードを繰り返すことによりキャピタルゲインを目的とする投資から、企業の将来性に期待しインカムゲインとしての配当などを得る中長期的な投資など多様なスタイルがある。事業承継前に老後における収入源を確保する観点からは、前者の投機的なデイトレードよりも後者の堅実で中長期的な投資の方が向いているといえる。 そこで今回は、この中長期的な投資を中心として、その大枠を確認していくこととする。   1 株式等投資の種類 中長期的な保有により、安定的に配当金や債券利息などのインカムゲインを得ることを中心とする株式等投資の種類としては、以下のようなものが想定される。 ① 上場株式 投資の中でも最もメジャーなのが、この上場株式への投資であろう。投資の目的として、キャピタルゲインを狙ったものである場合には、景気や投資先の業績に左右されるためハイリスクハイリターンになりがちではある。一方で、インカムゲインとしての安定的な配当が期待される企業に投資することで、老後の安定的な収入源として期待できる。   ② 個人向け国債 安定的な投資を対象とする場合の代表的な投資対象としては、元本保証をしながら利息を受け取れる個人向け国債が挙げられる。 個人向け国債は、10年変動金利、3年、5年固定金利の3種類があり、定期預金よりは金利が高く、かつ、国が破綻しない限りは元本保証がされているので初心者が安心して投資できる対象といえる。発効後の1年間は中途解約をしてしまうと利息を受け取ることができないため、短期的な換金性は低くなる。 一方で満期まで保有するのであれば、定期預金に預けているよりもメリットが受けられる投資といえよう。   ③ 地方債 地方債は、都道府県や地方自治体が発行する債券であり、公共事業のための資金調達のために発行される。地方債は、国が発行する国債よりも金利が高く、かつ、法人が発行する社債よりも安全性が高い投資対象である。また、地方債は市場で売買されることもあり、売買価格の傾向によっては満期前に売却することにより満期までの利息よりも多くの利益を得られる可能性もある。   ④ 社債 企業が発行する債券であり、発行法人によって利率や期間、購入単位、発行タイミングなど様々であるため、上記の国債や地方債に比べ投資先の選択が難しい一面がある。また、基本的には満期まで保有し続けることによって利息享受のメリットを受けられるが、発行主体が一般企業であることから償還期間までは経営不振や倒産などの信用リスクを抱えながら保有し続けなければならない。   ⑤ 投資信託 投資信託は、一定のテーマごとに銘柄を組み合わせたファンドに対して資金を投資し、その集まった資金の運用を運用会社に任せることによって償還金や分配金を得る金融商品である。ファンドごとに組み入れている株式や債券などの商品が異なるが、それぞれの時価評価額をもとに基準価額が毎日公表され、この基準価額の変動によってキャピタルゲインを得ることになる。また、ファンド運用の結果得られた収益は、出資に応じた分配金として獲得できる。 なお、詳細は下記2の④で解説するが、税制上で非課税の特典が設けられているNISA口座(非課税口座)は、投資信託を行う上で活用すべき制度である。   ⑥ 上場投資信託(ETF) ETFとは、投資信託自体が上場し商品として市場で取引をされているものであり、上場株式のように市場価格で売買が行われるものである。したがって、投資信託のように運用会社に任せるというものではなく、自身で売買を行っていくこととなる。日経平均株価などの株価指数に連動するため、その指数に連動した銘柄すべてに分散投資している状態であり、投資の中でも分散投資を行う際には効果的である。   ⑦ 個人型確定拠出年金(iDeCo) 個人が毎月一定額を一定の投資信託などの金融商品に拠出することで、年金として積み立てていく制度である。60歳までが加入期間となっており、60歳になるまでは引き出すことができないというデメリットがある一方、税制上の非課税や所得控除のメリットが大きいため、活用すべき制度である。   2 税制上の取扱い 株式等投資においては「配当所得」「利子所得」「譲渡所得・雑所得・事業所得」について確定申告を検討する必要がある。 所得税については、総所得金額に対して超過累進税率(5%~45%)を適用する総合所得課税を原則としている。 一方で、措置法において、租税政策的な観点から一定の所得については申告分離課税及び源泉分離課税が設けられている。 なお、多くの投資家は源泉徴収ありの特定口座により証券口座を開設しており、この場合、証券会社の方で源泉徴収されていることから、損失の繰越や口座間の損益通算を受ける場合、配当控除により総合課税を行う場合などを除き、確定申告不要を選択しているケースが多く見受けられる。 住民税においては、平成29年度税制改正により、配当等に関して所得税とは異なる課税方式が選択できるようになった。例えば、所得税においては申告を選択し、住民税においては申告不要を選択することができる。この際には、住民税の所得金額が社会保険料に与える影響を考慮しつつ、配当所得や譲渡所得以外の所得状況も加味して申告の要不要を検討する必要があるので注意が必要となる。 ① 配当所得 株式に係る配当金や剰余金の分配、投資信託等の収益の分配については配当所得に該当し、当該所得に対して15.315%(他に住民税5%)の所得税及び復興特別所得税が源泉徴収される。上述のとおり特定口座による源泉徴収ありの場合には、確定申告不要を選択でき、源泉分離課税で課税関係を終わらせることができる。 ただし、総合課税を選択することにより、一定の配当等については配当控除を受けることも可能である。 また、総合課税に代えて、分離課税を選択することもでき、この場合には上場株式等の譲渡損失と損益通算が可能となり、当該通算後の所得に対して上記のとおり15.315%(他に住民税5%)の所得税及び復興特別所得税が課せられる。なお、分離課税を選択した場合には、配当控除の適用はない。 (※) 国税庁ホームページより   ② 利子所得 公社債や公社債投資信託の分配金や売却益、償還益については利子所得とされるが、2016年からの金融所得課税の一本化により、その取扱いは上記①「配当所得」と同様となり、申告分離による確定申告を行うことができることとなった。したがって、上記①「配当所得」や下記③「譲渡所得」との損益通算も可能となった。 しかし、利子所得については、総合課税を選択することはできず、配当控除の対象とはならない。   ③ 譲渡所得・雑所得・事業所得 上場株式等の譲渡等に係る所得は、原則、譲渡所得として全額が申告分離課税とされ、当該所得に対して15.315%(他に住民税5%)の所得税及び復興特別所得税が課される。同一の特定口座内で行われた譲渡損益については口座内で通算されるが、他の特定口座や一般口座との損益は確定申告により損益通算されることとなる。 また、譲渡損益の通算を行っても通算しきれない損失が生じている場合には、申告分離を選択した配当所得と損益通算を行うことや、損失を翌年以降最大3年間繰り越して、繰り越した年の譲渡益や配当所得から控除することが可能である。 なお、例外的ではあるが、営利目的で継続した譲渡の場合には「事業所得」に、事業としない取引規模の場合には「雑所得」として判断するケースもある。   ④ NISA NISAとは、少額投資に対する非課税制度であり、NISA口座の中で購入した金融商品に係る配当金や譲渡益等が5年間、120万円の範囲内で非課税となる制度である。5年の非課税期間経過後には、新たな非課税への移管が可能であり、つまり最大で「120万円×5年間=600万円」までは無税で配当や譲渡益として投資できることとなる。ただし、他の所得との損益通算を行うことはできない。 (※) 金融庁ホームページより   ⑤ iDeCo iDeCoに対して拠出された掛け金は、その全額が所得控除の対象となる。また、60歳までの運用期間中に生じた運用益についても非課税として再投資が可能となっている。さらに、60歳以降の年金受取時には、一時金として受け取った場合には退職所得として退職所得控除が受けられ、年金として受け取る場合には公的年金等控除を受けることができる。 (了)

#No. 311(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2019/03/20

老コンサルタントが出会った『問題の多い相続』のお話 【第3回】「高齢者独居老人の悩み」~受遺者が海外在住。誰が遺産の後始末を?~

老コンサルタントが出会った 『問題の多い相続』のお話 【第3回】 「高齢者独居老人の悩み」 ~受遺者が海外在住。誰が遺産の後始末を?~   財務コンサルタント 木山 順三   高齢化社会に伴い、当コンサルタント事務所にも高齢者の方から「今後の生き方・整理の仕方」についてのご相談が増えています。 特に昨今は身内に海外勤務者のみならず、国籍まで変えられる方もおられます。 これからご紹介するのは、それらのほんの一例です。   〔話の背景〕 A子さんは若い時から大手銀行に勤務し、いつしか結婚のご縁もなく現在80歳を迎え、一人暮らしの生活を送っておられます。既に両親も亡くなり親戚も妹一人だけで、その妹も77歳と高齢のため、これからの自分の行く末に不安を感じておられます。 すなわち、「相続をどうするのか」「自分の残した諸々の財産の処分を誰に託すのか」「万一認知症になったらどうするのか」等々、考えたら夜も眠れないとのことです。 本来は、お元気なうちに「介護付き老人ホーム」等へ入居するのが最適なのですが、自分だけは絶対にいつまでも「元気印」であると過信されるお年寄りが多く、ご多分に漏れずA子さんもそのような方でした。 ただ、そんなA子さんも生前の整理を心がけつつあり、現に「お墓」については某所で「樹木葬」の申し込みを済ませておられました。また、その「樹木葬」の契約内容の中には「死後事務契約」もあり、死後サポートが依頼できるとのことでした。 そこでA子さんは、残るは遺産を誰に相続させるのかという「遺言書」を作成するため、私のところへ相談に来られたのです。   〔A子さんの希望と問題〕 A子さんの希望する「遺言書」の内容は、妹の長男である甥にすべて遺贈するというものでした。前述のように唯一の身内である妹も高齢で、場合によればA子さんより先に亡くなる恐れもあり、甥に遺贈したいとのことです。 ただしここで問題が・・・。実は、甥はスペイン人と結婚し子供も設けており、その子も大学院生で将来もスペインにとどまる模様というのです。 したがって、まずは知り合いのB弁護士を紹介し、「公正証書遺言書」による遺贈遺言書を作成しました。また遺言執行者には同弁護士を指定しました。さらに甥の一時帰国の機会をとらえてB弁護士事務所に往訪してもらい、関係者の面会の運びとなりました。   〔残る不安・・・〕 ここまでで一応、相続の手続きは心配なくなりました。問題はA子さんの亡くなった後の諸々の整理作業です。 そこで、前述の「樹木葬の死後事務契約」に基づき、その会社に再確認しました。その会社は東京・大阪に拠点を構え、担当者も各々の拠点に張り付いていたのですが、問い合わせたところ、大阪の担当者が退職し、そのような事態にはわざわざ東京から一人派遣するとのことでした。 私の今までの経験上、体制的にも時間的にも、とても満足な対応ができるとは思われません。 やはり死後の事務サポートは、「樹木葬契約」を獲得するための付属項目だったのかもしれません。そこで当該B弁護士に相談したところ、後輩のC弁護士がサポートするとのことで、A子さんと面談することになりました。 ところが、A子さんによると、C弁護士に対し不信感があり、後見人契約等を含む契約を見合わせたいとの返事がありました。どうやらC弁護士は若く、物事を割り切りがちで、年配者の対応がうまくいかなかった模様です。 A子さんは、「木山さんが受けてくれたら安心するのだが・・・」と言っていますが、男女の平均余命を考えれば、私の方が早く亡くなる可能性大です。 今のところ、とりあえず体力ある限り、私が面倒をみることになっています・・・。   〔老コンサルタントのつぶやき〕 ご案内のように、世の中のグローバル化と少子化によって、今回ご紹介したような事例も散見されるようになってまいりました。 この場合、おおよそのところは弁護士・税理士・司法書士・社労士・信託銀行等の専門家に任せることができます。 今の世の中は少子化に伴い係累も少なくなり、専門家に頼まざるを得ないケースが増えてきました。ただし、この場合は報酬等の金銭面、依頼事案の時間的制約、仕事の達成具合の満足度、引受人と依頼者の年齢差による思惑面の相違等が左右し、なかなか満足のいくように事がはかどりません。 別途、人一人が生きてきたあかしとして、単に事務的に処理できないさまざまな事柄があります。いわゆる「隙間的事項」なのです。 これらは本来、その人の家族や知り合い等の支援により処理されるわけですが、前述のように頼むべき身内の人がいないケースが多いのです。 そこで手前味噌になりますが、私のような財務コンサルタントが適役となります。 すなわち、 等々の人が適役と思います。 事務所開設以来、このような条件がクライアント主体のコンサルができる基となり、顧客(特に高齢者)の信頼を受けているものと自負いたしております。 すなわち、医者で言えばセカンドオピニオンとしての役割です。 そして、ありがたいことに私個人の一番のメリットは、私自身のボケ防止に大いに役立っておることです。 ただし、かつて拙著出版にご尽力いただいた著名な公認会計士の先生からは、私が銀行出身者で「コンサルは原則サービスである」との概念が抜けきれないところから、次のようなアドバイスをいただきました。 今でもこのことは忘れませんが、どうも請求しにくい事案が多くて・・・。 (了)

#No. 311(掲載号)
#木山 順三
2019/03/20

プロフェッションジャーナル No.310が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年3月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.310を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/03/14

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第74回】「国語辞典から読み解く租税法(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第74回】 「国語辞典から読み解く租税法(その2)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   3 長崎地裁への疑問 長崎地裁の判断枠組みに疑問を挟む余地はなかろうか。 長崎地裁は、租税法中に用いられている用語につき、定義がないなどの場合には、まずは一般概念として理解し、通常、かかる用語(概念)がどのように使われているかを検討するという。そして、ここで、いくつかの辞書や辞典を紐解いて、それらを比べた場合に統一的な意味を確定できないとすれば、次に、法律の趣旨に合致した解釈を展開するという手順であった。 これに対して、租税法中に用いられている用語(概念)の解釈論においては、まず、固有概念か否かを検討し、そうでないとすれば、次に借用概念か否かを検討し、そして、借用概念でもない場合に、はじめてその用語(概念)を一般概念と理解した上で、通常の用語の例に従って解釈をするという手順もあるが、法が用いる固有概念の存在を重視する観点からは、かかる手順によるべきであると考える。 長崎地裁のような用語(概念)の理解手順によると、上述のとおり、例えば、所得税法上の「所得」という用語(概念)には定義がないことから、まず一般概念たる用語として辞書や辞典を紐解くことになる。 仮に、そこに統一的な理解を見出せることになれば、その解釈を優先することになるのであろうが、例えば、『広辞苑〔第7版〕』1475頁では、「所得」とは、「①得るところのもの。得て、自分の所有となるもの。②収入。利益。③何らかの形で生産活動に参加した生産要素に対して支払われる報酬。俸給・賃金・地代・家賃・利子・利潤など。」と定義されており、これは、収入概念との違いを意識していないし、生産活動以外からも所得は観念し得ることからすれば、租税法の通説に明らかに反する。 学説において、所得税法上の「所得」とは、同法固有の概念であると理解している。少なくとも、通説は、上記のような辞書や辞典に示されている理解によるべきとする見解を採用していない。 こうしたことからも明らかなとおり、長崎地裁は固有概念の存在を軽視している点において、疑問が残るといわざるを得ない。 加えて、同地裁について指摘し得る問題点はほかにもある。それは、辞書や辞典を紐解いて用語(概念)を理解するという手法に内在する本質的問題点である。具体的にいえば、次の3つの本質的な問題がそこには所在する。 第一に、こうした理解が租税法律主義に反することになりはしないかという点である(4において検討)。 次に、そのような辞書や辞典に頼った解釈は法律の趣旨を無視することになりはしないかという点での問題である(5において検討)。 最後に、そもそも、辞書や辞典などに示されている用語の意義に統一的な意味を期待し得るのかという点である(6において検討)。 以下では、これらの問題点を順を追って確認していくことにしよう。   4 租税法律主義の観点からの検討―社会通念― 租税法律主義は国民の代表者によって規定されたルールに従ってのみ、すなわち、国民が自己同意をした範囲内においてのみ納税義務を負うとする憲法原理である(憲84)。 当然のことであるが、辞書や辞典の執筆者は国民の代表者ではないし、そこで用語の意味が確定される過程に国民は一切関与していない上、その同意を求められることもない。いわば、営利を追求する民間企業である出版社が当該出版社の編集方針に基づいて、編纂者を選び、編集をしているものである(編集方針等については後述する。)。 そうであるとすると、そこに何らの法的性質は認められないということにもなりそうである。 しかしながら、他方で、国語辞典の作成においては、一般的に徹底的な用例採集が行われており、あくまでも編纂者の独自の判断で用語が定義されているわけでもない。ここに用例採集とは、いろいろな言葉の実例を集めることをいう。 ※ 余談ではあるが、映画『舟を編む』(監督:石井裕也/原作:三浦しをん『舟を編む』(光文社刊))における、用例採集の場面は注目されるべきシーンである。 国語辞典の編纂者は、社会一般における用語(概念)の意味を、新聞や書籍、ポスターや看板、はたまたテレビや街での人々の会話などの中から採集したサンプルを素材として確定しているのである(飯間浩明『辞書を編む』64頁(光文社2013))。 つまり、個々の編纂者の独自の理解ではなく、対象となる用語が、一般市民間においてどのように使われているかを検討した上で凝縮されたものといってもよいのではなかろうか。 そうであるとすれば、国語辞典に示されている用語の意味は、いわば、社会で一般的に理解されている用語の意味であるといってもよいように思われる。そういう意味では、社会通念によって理解されている言葉であるといえよう。 社会通念が国民が作り上げてきた観念であることからすれば、そこに一定の自己同意に近似したものを発見し得るのと同様の構成で考えれば、そのことと親和性を有するということもできなくはない(社会通念の形成に一種の自己同意的性格を認めることができるとする見解については、前回のテーマを参照されたい。)。 また、例えば、大型辞典では、専門家に執筆を委託するシステムが採用されている(飯間・前掲書150頁参照)。 広辞苑の初版(1955年版)では、今西錦司(人類学)、駒井卓(遺伝学)、坂田昌一(物理学)、末永雅雄(考古学)、高木貞二(心理学)、都留重人(経済学)、朝永振一郎(物理学)、中村幸彦(国文学)、日高敏隆(動物学)、湯川秀樹(物理学)・・・といった学者の参画がある(そのうち、ノーベル賞学者が2名)。 このように考えると、いわば、法解釈学において学説を参照するのと同様の意味さえも見出すことができるのであって、そこには学説的裏付けも垣間見えるのである。そうであるとすれば、辞書や辞典を参考にすることに、それらが民間出版社によるものであるとして商業性のみを強調して批判を展開することは必ずしも正しい批判とも思えないのである。   5 法の趣旨目的の観点からの検討―文字解釈― それでは、次に、法の趣旨目的の観点から眺めてみる。長崎地裁の考え方は、あまりにも法の趣旨や目的を軽視しすぎているきらいがあるのではなかろうか。 当然ながら、法には法の趣旨や目的があるのであって、かかる趣旨や目的との関わりを無視して、用語の意味だけを独立させて解釈することには大きな問題があると思われる。 元内閣法制局長官の林修三氏は、その著書の中で次のように述べられる(同『法令解釈の常識〔第2版〕』190頁(日本評論社1999))。 ここに論じられている文理解釈とは、法令の規定をその規定の文字や文章の意味するところに即して解釈することである。 文理解釈について、法令が使用する文字の単なる個々の意味を解釈する「文字解釈」という意味にとどまるとする見方もあるが、むしろ、文理解釈とは、法令の規定の文章の意味を文法的に解釈することであるというべきであろう。 成文法の解釈においては、忠実にその文字をたどってその文字の意味するところを明らかにすることが大事ではあるが、その文章を忠実に文法的にたどって意味を明らかにするようにしなければならないことはいうまでもない(林・前掲書92頁)。 このように考えると、長崎地裁の判断は「文字解釈」に拘泥しているのではないかとの疑問も生じるのである。   6 辞書間における統一的意義 (1) 東京高裁平成14年2月28日判決 長崎地裁は、「サービス業」ないし「サービス産業」という用語について、辞書間における統一的な意味を見出すことができないという結論を導出している。すなわち、「日本語の通常の用語例として、『サービス業』の外縁が明確にされているということはできない。」とするのである。 このような検討手法の妥当性を考える必要があるように思われる。 そこで、この点を考える素材として、東京高裁平成14年2月28日判決(訟月48巻12号3016頁)の事例を取り上げてみたい。 同事件は、所有地上の建物を取り壊して新たに建物を建築した納税者X(原告・控訴人)が、平成9年分の所得税について、かかる建物が租税特別措置法(平成10年法律第23号により改正前のもの)41条にいう「改築」に該当し、同条が規定する住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除(いわゆる住宅ローン控除。以下「本件特別控除」という。)の適用があるものと考え、その適用を前提に納付すべき税額を計算して確定申告したところ、税務署長Y(被告・被控訴人)から、本件特別控除の適用を受けることはできないとして、同年分の所得税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定を受けたため、その取消しを求めた事案である。 すなわち、建物を取り壊して新たに建物を建築したXの行為が、租税特別措置法41条の「改築」に当たると本件特別控除の適用をし得るところ、「改築」についての定義が同法上に示されていないことが争いの出発点である。 Yは、「改築」の意義について建築基準法のそれに従うべきであり、そうであるとすると、用途、規模、構造が著しく異なるような建物の建築は同法上「改築」には該当しないことから、本件特別控除の適用はないと主張した。 第一審静岡地裁平成13年4月27日判決(税資250号順号8892)は、Yの主張を採用し、建築基準法の理解に合致させるべきであるとして、更正処分等を適法なものと判断した。 本件は、これに対してXが控訴を提起したものである。 Yは、控訴審において概ね次のような主張を展開した。 このように、Yの主張は、租税法上の概念は一義的に明確なものとして理解される必要があるところ、仮に「改築」を社会通念上の用法に従って解釈するとしても、辞書や辞典によってその定義は異なることから、解釈の揺らぎのない建築基準法上の用語の理解に合わせて解釈をすべきというものである。 換言すれば、租税特別措置法41条にいう「改築」について、建築基準法からの借用概念であるとした上で、統一説に立ち、同法の理解に合致させるよう「改築」の意義を捉えるべきと主張するのである。 これに対して、本件東京高裁は、次のように判示し、Xの控訴を認容した。 このように、Yの主張を排斥した上で、東京高裁は次のように続ける。 この控訴審におけるYの上記主張は、まさに前述の長崎地裁平成28年5月10日判決の考え方と同様であると思われる。すなわち、同地裁の判断は、多くの辞書や辞典を紐解いたところ、一般的な用語の用例がばらばらであって、その意味を確定できないという文脈であった。 このロジックは、ここでのYの主張と同様である。 (続く)

#No. 310(掲載号)
#酒井 克彦
2019/03/14

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第3回】「社団法人を活用した事業承継対策と留意点」-平成30年度税制改正を踏まえて-

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第3回】 「社団法人を活用した事業承継対策と留意点」 -平成30年度税制改正を踏まえて-   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) マネジャー 税理士 髙田 泰輔   相談内容 私A(非上場会社経営者)は事業承継対策の一環として、個人で保有する収益不動産を新たに設立する社団法人へ移転し、当該法人が保有し続けることで私の息子B・C以降の世代にも当該不動産を維持してほしいと考えています。 このような場合、どのような手法で当該法人へ財産を移転させれば良いでしょうか。また、留意点はありますか。 ■ □ ■ □  解 説  □ ■ □ ■ [1] 社団法人への財産の移転の検討 個人が社団法人に金銭以外の財産を移転させる手法には「贈与」と「譲渡」がありますが、一般的には譲渡が望ましいとされています。個人から社団法人に対する贈与については、財産の移転時に贈与をした個人(所得税)と譲り受けた法人(法人税)の両者に課税が生じるためです。 (1) 不動産を「譲渡」により移転した場合の課税関係 適正な時価での譲渡であれば、譲渡をした個人において、収入金額が取得費等を上回る部分について譲渡所得税が課税されますが、法人において課税関係は生じません。 (2) 不動産を「贈与」により移転した場合の課税関係 ① 個人側の課税関係 個人から法人への贈与については、その時における時価により資産の譲渡があったものとみなして、時価が取得費等を上回る部分について譲渡所得税が課税されます(所法59①)。 ② 法人側の課税関係 社団法人が個人から贈与を受けた場合、まず法人の受贈益課税の対象となります。さらに、贈与をした者の親族等の特別の関係がある者の相続税又は贈与税が不当に減少すると認められるときは、その法人を個人とみなして贈与税が課税されます(相法66④。ただし、法人の受贈益について課税された法人税等に相当する金額は控除します(相法66⑤))。 どのような場合に「不当に減少すると認められる」かの判定についての詳細は、本稿においては割愛しますが、親族等による私的支配を意図するものは「不当に減少すると認められる」と考えられます。   [2] スキームの概要と特定一般社団法人等に対する相続税課税制度 社団法人には持分がないため、従来は一度財産を移転させれば、子や後継者が当該法人の理事・社員に就任することで、相続税が課税されることなく法人の私的支配による実質的な資産の承継が可能でした。 しかし、平成30年度税制改正により上記スキームに対応する規定が創設されたため、新たに承継対策で社団法人を利用する場合には、同改正の内容を理解したうえで検討する必要があります。 (1) 特定一般社団法人等に対する相続税課税制度(平成30年度税制改正) 「一般社団法人等」の理事である者(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む)が死亡した場合に、その法人が「特定一般社団法人等」に該当するときは、一定の方法により計算した額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、その特定一般社団法人等に相続税を課税する制度が創設されました(相法66の2、相令34)。 (2) スキームの概要 (1)の規定は、一般社団法人等の理事である者が死亡した場合の規定であるため、そもそもAが当該法人の理事でなければ、Aに相続が発生したとしても同規定の適用はありません。 したがって、設立時から子B・Cを理事とし、Aからの財産の移転の方法を適正な時価による譲渡とすることで、Aの代での税コストは譲渡時の譲渡所得税のみで完結します。譲渡対価はAの相続財産を構成しますが、今後の生活費等での費消や生前贈与対策などにより相続財産を圧縮することが可能になります。 譲渡の場合には法人において財産を取得するための資金を調達する必要があり、金融機関から借入れを行う場合には利息の支払いと元本の返済計画を立てなければなりません。本件不動産の収益力でそれらの支払いや、それらを考慮しても役員に対する報酬の支払いが可能かどうかも、事前に検討する必要があります。 〈イメージ図〉   [3] 適切な機関設計・人選の検討 社団法人は社員2人(設立後は1人で可)、理事1人での設立が可能ですが、既述のとおり、社団法人に相続税が課税されないようにするためには、同族外の理事を2分の1以上とする必要があります。設立時の理事は子B・Cのみでも差し支えありませんが、将来的にはB・C以外に、少なくとも同族外の理事を2名就任させる必要があります。 同族外の理事として考えられるのは、同族理事に該当しない3親等より遠い親族や、親族外の信頼できる第三者が挙げられます。これらの者の利益にも配慮しつつ、慎重な運営が求められることになります。 機関設計や人選を誤ったことによるトラブルの例として、①法人の資産を売却するなどの法人資産の流用、②知らぬ間に社員を増やすことによる法人の乗っ取り、などが考えられます。   [4] まとめ ご質問のような社団法人を利用した事業承継対策を行う場合には、少なくとも事前に次の①~③を検討する必要があります。 ① 設立時 長期にわたって安定的に社団法人を運営(支配)していくためのガバナンスや適切な人選の検討 ② 資産移転時 (ⅰ) Aが社団法人へ土地を譲渡する際の譲渡所得税のシミュレーション (ⅱ) 社団法人の不動産購入時の買取資金の工面 ③ 法人の運営時 (ⅰ) 借入金・利息の返済計画や報酬の支払いなどの資金繰りシミュレーション (ⅱ) 社団法人に相続税が課税される場合は、その納税対策のシミュレーション なお、持分の定めのない法人に対する相続税課税制度は今後も厳格化してくことが予想されますので、今後の税制改正の動向にも注意が必要です。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)

#No. 310(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2019/03/14

会計検査院「平成29年度決算検査報告」で特定検査対象となった税制上の論点整理 【後編】「競馬等の払戻金に係る所得に対する課税状況について」

会計検査院「平成29年度決算検査報告」で特定検査対象となった 税制上の論点整理 【後編】 「競馬等の払戻金に係る所得に対する課税状況について」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 検査報告の概要 (1) 検査の着眼点 会計検査院は、検査の着眼点として、競馬等においては、単一のレースの1着から3着までを着順どおり的中した場合に払戻金が支払われる投票法(3連単)の人気が高くなっていること、また、競馬等のうちモーターボート競走以外においては、複数のレースの1着をすべて的中した場合に払戻金が支払われる指定重勝式投票法が導入されるなどして、払戻金が高額になることがある種類の投票法による投票が普及しているにもかかわらず、競馬等の払戻金の支払については、これまで所得税法において、支払調書や源泉徴収の対象とされてきていない現状を踏まえたうえで、合規性、有効性等の観点から、競馬等の高額な払戻金に係る所得について、一時所得又は雑所得として適正な申告が行われているか、税務署等の税務調査等による所得の捕捉が有効なものとなっているかなどについて、検査を行った。 (2) 検査方法 会計検査院は、全国の524税務署管内の27年分の所得税の申告のうち、一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額と特別控除額50万円とを控除した金額(一時所得の金額)が1,000万円以上のすべての申告及び雑所得に係る収入金額が1,050万円以上のすべての申告それぞれ10,567件及び7,645件、計延べ18,212件(同一の納税者が一時所得と雑所得の申告を行ったものが84件含まれている)に係る確定申告書等の関係書類の提出を受け、納税者の一時所得又は雑所得について、収入金額の内訳、収入金の支払者、必要経費等を分析するなどして検査を行い、また国税庁及び税務署において、上記の関係書類により、競馬等の払戻金に係る所得の捕捉状況等について説明を聴取したり、財務省において、競馬等の払戻金に係る所得に対する課税の在り方等について説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行った。 (3) 検査結果 会計検査院による検査結果は次のとおりである。 ① 検査対象とした申告延べ18,212件のうち、収入金額に払戻金以外の金額のみが計上されていたり、収入金額に計上された払戻金が1,050万円未満であったりして、一時所得又は雑所得の収入金額に高額単位払戻金が計上されていないことが確認できた申告は延べ17,925件(同一の納税者が一時所得と雑所得の申告を行ったものが84件含まれている)であり、全体の98.4%を占めていた。 ② 一時所得又は雑所得の収入金額に高額単位払戻金が計上されている又は計上されている可能性があると認められた申告は69件であった。 ③ 一時所得又は雑所得の収入金額に払戻金が計上されているかどうかを確認できなかった申告は218件であった。これは、収入金額のうちの内容が把握できない部分の総額が1,050万円以上であるが、これがそもそも払戻金であるかどうか確認できないことから、払戻金が計上されていないと断定できない申告を集計したものである。 ④ 上記②の高額払戻金申告69件のうち、税務調査等によって申告を行っていたものは10件、税務調査等によらずに申告を行っていたものは59件であった。 ⑤ 税務調査等によって申告を行っていた10件について、税務調査等の内容を確認したところ、競馬等の払戻金以外の事項に関して疑義があったため税務調査を行い、結果的に競馬等の払戻金に係る所得の申告漏れが判明したもの9件及び所得の計算方法に関して疑義があったため行政指導を行ったもの1件であり、当初から競馬等の払戻金に係る所得の申告漏れに着目して税務調査等が行われていたものはなかった。 (4) 会計検査院による所見 会計検査院は、払戻金の支払の際における本人確認に関しては現行の法令において規定が設けられておらず、高額な払戻金であっても、払戻金の支払の際に本人確認を行う仕組みは整備されていないことを挙げ、検査結果として、所得税においては申告納税制度の下、納税者が自主的に所得等を申告することとされているため、一定の申告漏れが生じ得ることを踏まえても、なお多額の競馬等の払戻金に係る所得が申告されていないと認められる状況となっていたと指摘した。 また、税務調査によって申告等が行われた10件についても、当初から競馬等の払戻金に係る所得の申告漏れに着目して税務調査等が行われていたものはなく、競馬等の高額な払戻金を得た納税者が、自主的に申告を行わない場合には、税務調査等において、競馬等の払戻金の支払があったことを十分に捕捉することなどが困難な状況となっていると認められ、その原因として、税務署等において、個々の競馬等の高額な払戻金に関して支払調書等により確実な情報を入手することとなっていないことから生じたものと思料されるとしている。 そのうえで、会計検査院の検査結果によって明らかになった状況を踏まえて、今後、国税庁において、納税者に適正な申告を促す広報を充実させるとともに、財務省において、競馬等の払戻金に係る所得に対し、適正な課税の確保に資する所得の捕捉等に関する様々な制度の在り方について、関係する省庁等との議論を踏まえ検討していくことが必要であると所見をまとめている。   2 競馬の馬券等の払戻金に対する課税 (1) 所得区分をめぐる過去の判決 的中馬券に対する課税(所得区分と必要経費の範囲)をめぐっては、本誌に連載中の「租税争訟レポート」でもたびたび取り上げてきたように、最高裁判所平成27年3月10日判決が、馬券の払戻金に係る所得区分を雑所得として認めるとともに、外れ馬券の購入代金を必要経費として認める判断をした。その後、最高裁判所平成29年12月15日判決でも、納税者である被上告人の馬券購入方法が、先の最高裁判決とは異なっていたにもかかわらず、同様の判断をしている。 (2) 所得税基本通達の変更 国税庁は、最高裁判決が出るたびに、一時所得の所得区分を例示した所得税基本通達を改正している。 まず、改正前の所得税基本通達34-1は以下のとおりであった。 平成27年の最高裁判決を受けた改正内容は次のとおりである(下線部が改正部分)。 これがさらに平成29年最高裁判決を受けて、次のように改正された(下線部が改正部分)。 (3) 会計検査院が認定した馬券等の払戻金に係る所得区分 検査報告の中で、上記の通達について、会計検査院がまとめた内容の記述がある。通達の理解につながるものであり、引用しておきたい(下線は引用者による)。   3 解説 1つのレースの1着から3着までを順番どおりに的中させる3連勝単式や、複数レースの1着をすべて当てる指定重勝式など、いったん的中すれば、かつては考えられなかったような倍率で払戻金が支払われる馬券等が登場し、インターネットを使った馬券等の購入が一般化すると同時に、馬券購入ソフトによって大量の馬券を反復的に購入できるようになるなど、平成の30年間に、競馬などの公営ギャンブルをめぐる状況は激変している。 そうした状況の変化にもかかわらず、的中馬券等の払戻しに際して、本人確認が行われることはなく、ましてや支払調書が作成されることもないことから、税務署が、馬券等の高額払戻金を取得した者を捕捉して、適正な課税を行うことは極めて困難である状況が続いている。 インターネットを通じて購入した馬券等に係る払戻金であれば、購入者の銀行預金の入出金履歴を確認すれば判明するのだが、そもそも、高額払戻金を取得している者を特定することが困難であるうえ、偶然、そうした口座を見つけたことをきっかけに脱税事件に問われた裁判でさえ、いわゆる「横目調査」の違法性が争われている(大阪地方裁判所平成30年5月9日判決)。 ギャンブルで得た収入に対する課税という点では、パチンコ業界ではいわゆる「三店方式」により、獲得したパチンコ玉を景品と交換し、その景品を買い取ってもらうことによって現金化するという手法が、違法性の問題を指摘されながらも、長きにわたって続いている。また、IR実施法の可決成立に基づいて、今後、新たに設けられるカジノで獲得した収入に対する課税方法についても、検討が進んでいるとは言い難い。 会計検査院が「馬券等の高額払戻金」だけに着眼して検査を続けることに異議を挟むものではないが、他のギャンブルも含め、一時所得とする区分が適正なのか、納税者の良識に委ねてしまっている格好の現行税制を正す必要がないのかを含め、より突っ込んだ提言につながるよう、期待したい。 (連載了)

#No. 310(掲載号)
#米澤 勝
2019/03/14

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第45回】「オウブンシャホールディング事件」~最判平成18年1月24日(集民219号285頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第45回】 「オウブンシャホールディング事件」 ~最判平成18年1月24日(集民219号285頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 310(掲載号)
#菊田 雅裕
2019/03/14

金融・投資商品の税務Q&A 【Q44】「非永住居住者が受け取る上場外国株式の配当の課税関係」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q44】 「非永住居住者が受け取る上場外国株式の配当の課税関係」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 1 非永住者に対する課税 所得税法上、居住者のうち、日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人は、非永住者と定義されます。 所得税法上、居住者については、原則として、日本国内だけでなく国外において稼得した所得も課税対象とされますが、居住者のうち非永住者に該当する者については、以下について日本での課税が行われます。   2 株式の配当 所得税法上、株式の配当についての国内/国外源泉所得の分類は以下の通りとされています。 すなわち、株式の発行体が内国法人(日本国内に本店又は主たる事務所を有する法人)か外国法人(内国法人以外の法人)かにより、株式の配当の国内/国外源泉所得が決定されます。   3 本件へのあてはめ 本件は、非永住者が受け取る外国上場株式の配当ということですので、所得税法上、当該配当が日本国外で支払われ、かつ、国外から送金されない限り、日本での課税は行われません。   (了)

#No. 310(掲載号)
#箱田 晶子
2019/03/14

2019年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】

2019年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   Ⅱ 税制改正 平成31年度税制改正大綱のうち、会計処理等において留意すべき改正点としては、以下が挙げられる。 (注) なお、本解説では、平成31年税制改正大綱のうち、会計処理等において留意すべき改正点のみを解説しているため、全てを解説しているわけではない。 1 税率の変更 地方法人課税の偏在是正のために、現行制度では「地方法人税」及び「地方法人特別税」がある。「地方法人特別税」は、2019年10月1日以後開始する事業年度より廃止される。 そして、平成31年度税制改正では、法人事業税の一部を分離して「特別法人事業税」が創設され、その分、法人事業税の税率が変更される予定である。詳細は、(1)から(3)のとおりである。 適用は、2019年10月1日以後に開始する事業年度からである。 (1) 資本金の額1億円超で、年800万円超の所得の場合 また、資本金1億円超の普通法人の所得割の制限税率は、標準税率の1.2倍から1.7倍に引き上げられる予定である。 (2) 資本金の額1億円以下で、年800万円超の所得の場合 (3) 特別法人事業税 特別法人事業税は国税であるが、申告納付は法人事業税と併せて行う。また、特別法人事業税の課税標準は法人事業税額(標準税率により計算された所得割額)である。 ◆ ◇ 会計上の論点 ◇ ◆ 地方法人課税の偏在是正のための改正であるため、法定実効税率に変更はない(注)。 具体的な税率は、下記の設例①②を参照されたい。 (注) なお、今後、各地方公共団体で超過税率が改正された場合、法定実効税率が変わる可能性がある。 設例① 当社は、東京都に本社があり、外形標準課税適用法人である。 また、税率は以下のとおりである。 (※) ここでは、標準税率1.0%+改正前の超過税率と標準税率の差分0.18%(=3.78%-3.6%)=1.18%で計算している(企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」48(2)②イ、49(1)参照)。 設例② 当社は、東京都に本社があり、外形標準課税適用外法人である。 また、税率は以下のとおりである。 (※) ここでは、標準税率7.0%+改正前の超過税率と標準税率の差分0.48%(=10.08%-9.6%)=7.48%で計算している(企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」48(2)②イ、49(1)参照)。   2 組織再編税制 平成31年度税制改正において、以下の組織再編税制の改正がある。 (1) 株式交換等後の逆さ合併における適格要件の見直し 現行制度では、株式交換等の適格要件には、「完全支配関係継続要件」、「支配関係継続要件」、「親子関係継続要件」がある。しかし、株式交換等の後に、逆さ合併が見込まれる場合、上記要件を満たさず、非適格となってしまう。 平成31年度税制改正では、株式交換等の後に逆さ合併を続けて行う場合における完全子会社化のための組織再編についても適格組織再編の対象となる。 なお、適用時期については、平成31年度税制改正大綱に記載はない。 (出所:経済産業省「平成31年度税制改正について」P.45) (2) 合併等の適格要件等のうち対価に関する要件の見直し 現行制度では、合併、株式交換、会社分割等の組織再編を行う場合において、親会社の株式を対価とする場合、適格組織再編要件を満たすためには、直接完全支配関係にある親会社の株式に限定されている。 平成31年度税制改正では、間接保有の完全親会社の株式を組織再編の対価として交付する場合についても適格組織再編の対象となる。 なお、適用時期については、平成31年度税制改正大綱に記載はない。 (出所:経済産業省「平成31年度税制改正について」P.46) ◆ ◇ 会計上の論点 ◇ ◆ 当該改正により、適格組織再編の範囲が変更となる。そのため、適格か非適格かにより一時差異の金額が変わる可能性があるため、税効果に影響する可能性がある。   3 租税特別措置法における「みなし大企業」の範囲の改正 (1) 現行制度の租税特別措置法における「みなし大企業」 現行の租税特別措置法における中小企業者とは、以下の①又は②の法人である(租税特別措置法42の4⑧六、租税措置法施行令27の4⑫)。 上記のうち、①(ⅰ)及び(ⅱ)が「みなし大企業」に該当する。 (2) 「みなし大企業」範囲の改正 平成31年税制改正において、「みなし大企業」の対象が以下のように2つ増えている。 (注) 「大法人」とは、資本金の額もしくは出資金の額が5億円以上である法人、相互会社もしくは外国相互会社(常時使用従業員数が1,000人超のものに限る)又は受託法人をいう。 また、大規模法人の判定にあたっての自己株式の取扱いも改正されている。 なお、適用時期については、平成31年度税制改正大綱に記載はない。   Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正 金融庁より、2019年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正が公表された。改正内容は、以下のとおりである。 1 財務情報及び記述情報の充実 財務情報及び記載情報の充実のため、有価証券報告書において以下の記載が求められる。 (1) 経営方針・経営戦略等について、市場の状況、競争優位性、主要製品・サービス、顧客基盤等に関する経営者の認識の説明を含めた記載 有価証券報告書の第一部【企業情報】第2【事業の状況】の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の記載が以下のように改正されている(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式 記載上の注意(30)、第三号様式 記載上の注意(10)等)。 (注) 下線部分が主要な改正点である。 (2) 事業等のリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の説明 有価証券報告書の第一部【企業情報】第2【事業の状況】の「事業等のリスク」の記載が以下のように改正されている(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式 記載上の注意(31)、第三号様式 記載上の注意(11)等)。 (注) 下線部分が主要な改正点である。 (3) 会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、不確実性の内容やその変動により経営成績に生じる影響等に関する経営者の認識の記載 有価証券報告書の第一部【企業情報】第2【事業の状況】の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の記載が以下のように改正されている(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式 記載上の注意(32)、第三号様式 記載上の注意(12)等)。 (注) 下線部分が主要な改正点である。   2 建設的な対話の促進に向けた情報の提供 投資家との建設的な対話の促進のため、有価証券報告書において以下の記載が求められる。 (1) 役員の報酬について、報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、プログラムに基づく報酬実績等の記載 有価証券報告書の第一部【企業情報】第4【提出会社の状況】の「コーポレート・ガバナンスの状況等」の「役員の報酬等」の記載が以下のように改正されている(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式 記載上の注意(57)、第三号様式 記載上の注意(38)等)。 (注) 下線部分が主要な改正点である。 (2) 政策保有株式について、保有の合理性の検証方法等の開示及び個別開示の対象となる銘柄数を現状の30銘柄から60銘柄に拡大 有価証券報告書の第一部【企業情報】第4【提出会社の状況】の「コーポレート・ガバナンスの状況等」の「株式の保有状況」の記載が以下のように改正されている(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式 記載上の注意(58)、第三号様式 記載上の注意(39)等)。 (注) 下線部分が主要な改正点である。 (注) 下線部分が主要な改正点である。 (注) 下線部分が主要な改正点である。   3 情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組 情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組として、有価証券報告書において以下の記載が求められる。 (1) 監査役会等の活動状況の開示 有価証券報告書の第一部【企業情報】第4【提出会社の状況】の「コーポレート・ガバナンスの状況等」の「監査の状況」の記載が以下のように改正されている(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式 記載上の注意(56)、第三号様式 記載上の注意(37)等)。 (注) 下線部分が主要な改正点である。 (2) 監査法人による継続監査期間、ネットワークファームに対する監査報酬等の開示 有価証券報告書の第一部【企業情報】第4【提出会社の状況】の「コーポレート・ガバナンスの状況等」の「監査の状況」の記載が以下のように改正されている(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式 記載上の注意(56)、第三号様式 記載上の注意(37)等)。 (注) 下線部分が主要な改正点である。 (注) 下線部分が主要な改正点である。   4 その他 上記以外にも、有価証券報告書において以下の記載が求められる。 具体的には、有価証券報告書の第一部第一部【企業情報】 第1【企業の概況】1【主要な経営指標等の推移】の記載が以下のように改正されている(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式 記載上の注意(25)、第三号様式 記載上の注意(5)等)。 (注) 下線部分が主要な改正点である。   5 適用時期 適用時期は、以下のとおりである。 (了)

#No. 310(掲載号)
#西田 友洋
2019/03/14
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