M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 ←(前回) | (次回)→ 第8節 税務関連項目の調査 【第21回】 「税務関連項目の調査」 〔分析の対象となる主な勘定科目〕 ▷税務関連項目の調査の目的 対象会社の潜在的な税務リスクを事前に分析し対策を講じることは、M&A後の経済的損失を避けるために重要である。税務関連項目の調査により、買収時及び買収後に重要な影響を与える税務リスクの洗出し、及び予定しているM&Aスキームへの影響を評価することになる。 前者は、一般的に対象会社の過去の税務処理(申告書の記載内容、届出の漏れ等)の内容に誤謬など修正事項があり、その誤謬がM&A後に顕在化して経済的損失を被るリスクを評価することである。 一方、後者は、株式譲渡や事業譲渡等のそれぞれのM&Aのスキームに従い、税務リスクを承継するかどうか(買収前の税務リスクを買い手が引き継ぐことになるか否か)の評価及びM&A取引自体の税務リスクの評価を意味している。なお、特に重要なものは、下記のとおりである。 検出した税務リスクや対象会社の税務ポジションに応じ、買収価額の調整や表明保証条項での手当て、M&Aスキームの見直しといった税務リスクの軽減策を検討する必要がある。 対象会社である中小企業においては、経営者自体が当該リスクを把握していることは必ずしも多くなく、対象会社が応じてくれれば顧問税理士にインタビューを実施することを、強くおすすめする。 ▷過去の確定申告書の記載内容の分析 税務関連項目の調査において、まず入手すべき資料は過去の税務申告書(修正申告)と税務上の届出書類一式である。 法人税申告書の申告調整の推移をレビューし、加算・減算の内容等を把握する。例えば、株式評価損、固定資産除却損、貸倒損失や資産評価損等のうち、申告調整(加算・否認されていない)がある場合は、損金性の検証を行う必要がある。また、交際費や寄附金等の額の異常な増減があった場合、その税務処理の妥当性について検討する必要がある。なお、青色繰越欠損金が存在する場合、その金額の発生原因について分析を行い、上述したとおり当該欠損金と買収後における将来の課税所得とが相殺可能かどうかを検討する必要がある。 また、M&A後の経営管理資料等の作成の必要性に応じ、対象会社の経理能力、顧問税理士等の決算報告書作成の関与度合い、及び内部統制の運用状況を確認しておく必要がある。経理能力が低いと判断された場合は、M&A後に必要な人員を確保できないと、グループ全体で適時に経営判断が行えないということになる。特に、毎期欠損を計上してきたような業績不振の対象会社においては、税金は発生しないからという思い込みから、税務処理がずさんになっているケースが多い。 過去の確定申告書の記載内容の分析における主な手続は、下記のとおりである。 ▷過去の税務調査の状況の把握 直近の税務調査がいつ入ったかという情報は、最初に入手する必要がある。同年度に対して税務調査を再度受けることは極めて稀であり、税務調査を受けていない期間についてのリスクにデューデリジェンスの焦点をあてる必要がある。 税務調査における指摘事項の内容及び発生要因、更正税目・内容、追徴課税額、重加算税の有無、及び更正の根拠等を把握し、対象会社の税務法令遵守状況の評価や内部統制の運用状況を検討する。また、当該指摘事項に対する現在の改善状況を確認する必要がある。 ▷過去の関連当事者間の取引内容の検討 役務提供、資産売買、賃貸借取引等の関連当事者取引に係る取引価額が時価と乖離している場合、寄附金等の認定を受ける税務リスクが存在する。また、税務申告書に記載のない寄附金の有無も調査する必要がある。 ▷過去の組織再編の検討 組織再編税制は、改正が頻繁に行われる分野である。過去に組織再編行為があった場合、適格要件の判定や、繰越欠損金・特定資産譲渡等損失の損金算入制限の検討のための情報を入手し、処理の妥当性を分析する必要がある。 (了)
改めて確認したいJ-SOX 【第2回】 「「内部統制」を構成する6つの基本的要素」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 内部統制報告制度(以下、「J-SOX」という)の基準である「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下、「実施基準」という)では、内部統制は次のように定義されています。 筆者は、会計士試験の受験勉強をしていた当時、この定義を何度も読みましたが、何度読んでも「内部統制って何なのだろう?」とまったく把握しきれませんでした。 読者の中にも、同じような思いを抱えている方がいるのではないかと思います。 そこで今回は、J-SOXの概要を説明する前に「内部統制の概要」を説明し、内部統制とはいったい何なのかを明白にしておきます。 1 内部統制とは何なのか (1) 個人商店の場合 例えば、読者のあなたが個人商店を営んでいたとしましょう。あなたは社長であり、お店はあなた1人で切り盛りしているという設定です。 この場合、お店の行動と社長の行動が一致し、お店を社長が自在に操れるということになります。 ではもし、これが個人商店ではなく、大企業だったらどうでしょうか。いろいろな人がいるため、社長の意思に沿わない人もいるでしょう。また、社長が意図したとおりに動いてくれるとも限りません。 そのため、会社の行動と社長の行動が一致することはほとんどなく、会社を操りたければ社長は何らかの策を講じなければならないでしょう。 そこで、会社を社長の意のままにコントロールできるようにするため、従業員の行動に制限をかけるルールを作ります。 (2) どんなルールを作るか では、具体的にどんなルールを作ればよいのか、以下で噛み砕いて説明していきます。 (3) 改めて内部統制とは このようにして作られた“一連のルール”が内部統制だといえます。つまり「内部統制とは、『会社の行動=社長の行動』となるようにするための仕組みである」と表せます。 実施基準で示された「内部統制」の定義は、次のように紐づけることができるでしょう。 2 基本的要素とは何なのか 実施基準の内部統制の定義を見てみると、次のような文章があります。 この定義の中に「基本的要素」という文言がありますが、これについても実施基準上に定義が書かれています。 さらに実施基準上では、「組織において内部統制の目的が達成されるためには、6つの基本的要素がすべて適切に整備及び運用されることが重要である。」と書かれています。 「基本的要素」とは何なのか、なぜ目的達成のために基本的要素が重要なのか、という疑問がわくかもしれません。 実はこれらの答えは、すでに1の(2)で解説しています。 つまり、内部統制とは単なるチェック行為ではなく、ルールを作る前提部分から、ルールを作った後のフォローまでを含めた“一連の”仕組みのことをいうため、内部統制はプロセスであり、基本的要素から構成されます。また、基本的要素がすべて適切に組み込まれた内部統制は「有効」といえる、そういったことを実施基準では言っているのです。 それでは、基本的要素のそれぞれの要素について、1の(2)で説明したことに当てはめながら解説していきましょう。 (1) 統制環境 《実施基準上の定義》 統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基礎をいう。 1の(2)の説明のうち、「① ルールを作る前にやらないといけないこと」が「統制環境」に対応します。 統制環境は、定義だけ読むとイメージがわきづらいですが、どのようなものが統制環境に含まれるかという以下のような例を見ていくと、イメージがわきやすくなると思います。 (2) リスクの評価と対応 《実施基準上の定義》 ● リスクへの評価とは、組織目標の達成に影響を与える事象について、組織目標の達成を阻害する要因をリスクとして識別、分析及び評価するプロセスをいう。 ● リスクへの対応とは、リスクの評価を受けた、当該リスクへの適切な対応を選択するプロセスをいう。 リスクへの対応に当たっては、評価されたリスクについて、その回避、低減、移転又は受容等、適切な対応を選択する。 1の(2)の説明のうち、「② 経営理念の次にやること」が「リスクの評価と対応」に対応します。 組織の目標達成にとってリスク(弊害)となるものを見つけ(=識別)、それが何から発生するものなのか・どういった影響がありそうかなどを検討し(=分析)、組織にとって重要かそうでないかを採点します(=評価)。 そして、組織にとって重要かどうかによって、回避、低減、移転又は受容等、どれを選択するかを検討します。回避、低減、移転又は受容は、それぞれの次のようなものです。 例えば、リスクに対して「低減」という対応を選んだ場合、新たなルール・体制を作って、処理・チェックをしていくことになります。 (3) 統制活動 《実施基準上の定義》 統制活動とは、経営者の命令及び指示が適切に実行されることを確保するために定める方針及び手続をいう。 統制活動には、権限及び職責の付与、職務の分掌等の広範な方針及び手続が含まれる。このような方針及び手続は、業務のプロセスに組み込まれるべきものがあり、組織内のすべての者において遂行されることにより機能するものである。 1の(2)の説明では明確に書いていませんが、「統制活動=チェック行為」というイメージで大きな問題はありません。 また、支払担当者と記帳担当者を分けるように、仕事内容を分ける(職務の分掌)、牽制機能を働かせるというものも統制活動に入ってきます。 (4) 情報と伝達 《実施基準上の定義》 情報と伝達とは、必要な情報が識別、把握及び処理され、組織内外及び関係者相互に正しく伝えられることを確保することをいう。組織内のすべての者が各々の職務の遂行に必要とする情報は、適時かつ適切に、識別、把握、処理及び伝達されなければならない。また、必要な情報が伝達されるだけでなく、それが受け手に正しく理解され、その情報を必要とする組織内のすべての者に共有されることが重要である。 1の(2)の説明のうち、「③ ルールを作ったらやらないといけないこと」が「情報と伝達」に対応します。 リスクを低減するための処理・チェックを行うために、必要な情報をキャッチし、早く・正確に伝えなければならず、これが担保されるような仕組みを作らなければなりません。 (5) モニタリング 《実施基準上の定義》 モニタリングとは、内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセスをいう。モニタリングにより、内部統制は常に監視、評価及び是正されることになる。モニタリングには、業務に組み込まれて行われる日常的モニタリング及び業務から独立した視点から実施される独立的評価がある。両者は個別に又は組み合わせて行われる場合がある。 1の(2)の説明のうち、「④ ルールができても守られていなければ意味がない」が「モニタリング」に対応します。 日常的なモニタリングとしては、部長が自部門の処理・チェック状況を定期的に確かめるという業務が身近でわかりやすいと思います。 独立的評価としては、内部監査がイメージしやすいのではないでしょうか。ルールが意図したとおりに守られていなかったり、ルールそのものが意味のないものとなっていたりすると、「会社の行動=社長の行動」とならないおそれがあるため、そうなっていないかを内部監査で確かめます。そのため、内部監査室は社長の直属として設置されることが多いです。 (6) IT(情報技術)への対応 《実施基準上の定義》 ● ITへの対応とは、組織目標を達成するために予め適切な方針及び手続を定め、それを踏まえて、業務の実施において組織の内外のITに対して適切に対応することをいう。 ITへの対応は、内部統制の他の基本的要素と必ずしも独立に存在するものではないが、組織の業務内容がITに大きく依存している場合や組織の情報システムがITを高度に取り入れている場合等には、内部統制の目的を達成するために不可欠の要素として、内部統制の有効性に係る判断の規準となる。 ITへの対応は、IT環境への対応とITの利用及び統制からなる。 ● IT環境とは、組織が活動する上での必然的に関わる内外のITの利用状況のことであり、社会及び市場におけるITの浸透度、組織が行う取引等におけるITの利用状況、及び組織が選択的に依拠している一連の情報システムの状況等をいう。 ● ITの利用及び統制とは、組織内において、内部統制の他の基本的要素の有効性を確保するためにITを有効かつ効率的に利用すること、並びに組織内において業務に体系的に組み込まれてさまざまな形で利用されているITに対して、組織目標を達成するために、予め適切な方針及び手続を定め、内部統制の他の基本的要素をより有効に機能させることをいう。 1の(2)では説明していませんが、今やITなしで業務を進めることはほぼ不可能といえます。そのため、ITを疎かにしていては「会社の行動=社長の行動」とならない可能性があるため、基本的要素の1つに位置付けられています。 (7) 基本的要素の必要性 内部統制における6つの基本的要素の概要は上述のとおりです。これらは1つでも欠けてしまうと、組織としての目標を達成できなくなってしまいます。 例えば、どれだけ真面目な社風で、すばらしい内部統制が整備されていたとしても、ITに関するメンテナンスがまったく行われておらず、セキュリティソフトも更新されていないといった会社は、いずれIT面から崩れていくでしょう。また、モニタリングが形式的になってしまっていると、ルールが実態に合っていないことに気づかず、ずっと意味のないチェックを行い、重大な問題を見落としてしまうこともあるでしょう。 そのため、実施基準上で「組織において内部統制の目的が達成されるためには、6つの基本的要素がすべて適切に整備及び運用されることが重要である。」と書かれているのです。 もちろん、一切ITを使わない環境であれば、たとえITへの対応が欠けていても問題ないため、「6つの基本的要素がすべて適切に整備及び運用されることが重要」と書かれており、「6つの基本的要素がすべて適切に整備及び運用されることが必要」とまでは言われていません。 * * * 以上、内部統制の概要について説明してきましたが、「内部統制」とはどんなものなのか、イメージできたでしょうか。 次回以降では、J-SOXの概要について説明していきます。連載第3回目となる次回は、内部統制の評価範囲について説明します。 (了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《棚卸資産》編 【第3回】 (最終回) 「棚卸資産の評価方法(3)~売価還元法」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 前回は棚卸資産の評価方法のうち「個別法」、「先入先出法」、「最終仕入原価法」について算定方法等を示しました。 《棚卸資産》編の最終回となる今回は、「売価還元法」による具体的な棚卸資産の算定方法をご紹介します。 【設例3】 A社(12月31日決算)は、様々な商品を仕入して販売する会社です。その様々な取扱商品のうち通常の差益の率がおおむね同じである「商品群B」の当期(×1年1月1日~×1年12月31日)の仕入状況と売上状況は、試算表・管理資料から次のとおりです。 当期仕入高(仕入値引・割戻を控除済):627,000円 ⇒ 仕入時に仕入計上し、仕入値引・割戻時に仕入マイナス計上しています。 当期仕入返品高:7,000円 ⇒ 仕入返品時に仕入返品計上しています。 当期売上高(売上値引・割戻を控除済):810,000円 ⇒ 売上時に売上計上し、売上値引・割戻時に売上マイナス計上しています。 当期売上返品高:10,000円 ⇒ 売上返品時に売上返品計上しています。 「商品群B」の前期末棚卸高、当期末棚卸高は、下記のとおりです。 前期末棚卸高(×0年12月31日):前期に売価還元法により算定した原価80,000円。 当期末棚卸高(×1年12月31日):販売価額にて200,000円(当期中の売上値引・割戻等を考慮していない通常の販売価額により集計しています)。 1 決算整理仕訳 A社の「商品群B」に係る決算整理仕訳は、次のとおりです。 〈×1年12月31日〉 前回に引き続き、中小企業会計指針において原則とされるいわゆる「原価法」での評価方法を、ご紹介します。 ◎ 売価還元法 売価還元法は、期末棚卸資産をその種類等又は通常の差益の率の異なるごとに区別し、その種類等又は通常の差益の率の同じものについて、その事業年度終了の時における種類等又は通常の差益の率を同じくする棚卸資産の通常の販売価額の総額に原価の率を乗じて計算した金額をその取得価額とする方法です(法令28①一ヘ)。 連続意見書第四に定める売価還元平均原価法及び売価還元低価法の原価率は、下記のとおりです。 この設例では、A社が、当期受入原価総額に対する原始値入額、値上額、値上取消額、値下額、値下取消額の詳細把握をしていないものと仮定して、下記の法人税法の原価率により期末棚卸資産の評価額を算定することとします。 なお、ここでの「期末棚卸資産の通常の販売価額の総額」は、期末に残っている棚卸資産を翌期以降に販売する場合の通常の売価合計であるため、当期中に販売した棚卸資産について値引・割戻等を行って売上金額から控除している場合であっても、値引・割戻等を考慮しないところの販売価額の総額によることとされています(法基通5-2-7)。 また、「当期中に販売した棚卸資産の対価の総額」は、一般的に行われる値引販売について通常値引額が明らかでなく、むしろ値引後の販売価額がその棚卸資産の販売価額とみられるため、値引を控除した実際の販売価額の合計額によりますが、一定期間、特定の者に対する販売について値引を行っている場合、その者に対する販売状況が個別に管理されており、その値引額が明らかにされているときには、その値引額をその販売価額に加算して計算する(原価率が低くなる)こともできるとされています(法基通5-2-6)。 この設例では、特定の者に対する売上値引を個別に管理しておらず、「商品群B」の値引額の集計も困難なものと仮定して、「当期中に販売した棚卸資産の対価の総額」は、値引を控除した実際の販売価額の合計額によることとしました。 2 決算書 決算書の金額のうち「商品群B」に係る部分は、次のとおりです。 【×1年12月31日決算期】 3 上場企業等が適用する「棚卸資産の評価に関する会計基準」の取扱い 法人税法上では、「原価法」の場合、原価率が100%を超える場合でも、その率により期末棚卸資産の評価額を計算することとされています(法基通5-2-8。もちろん、「低価法」を採用している場合には、原価割れ棚卸資産の期末時価による評価になります)。 一方、いわゆる「低価法」が強制される上場企業等に対して適用する「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、連続意見書第四に定める売価還元平均原価法を採用する場合、期末における正味売却価額(売価合計額から見積販売直接経費を控除した金額)が帳簿価額よりも下落しているときは、その正味売却価額をもって貸借対照表価額とする必要があります。また、連続意見書第四に定める売価還元低価法を採用する場合、値下額等が売価合計額に適切に反映されていれば、それによる期末棚卸資産の帳簿価額は、収益性の低下に基づく簿価切下額を反映したものとみなすことができるとされています。 (《棚卸資産》編 終了)
税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第4回】 「税務訴訟における裁判所の価値判断①」 弁護士 下尾 裕 本稿では、前回より法曹の中でも特に裁判所に焦点を当てて分析を行っているが、今回からは、税務訴訟における裁判所の価値判断(判断の根底にある価値基準)について考えてみたい。 1 裁判所の判断の根幹をなす「課税要件明確主義」 裁判所は、特に近年の税務訴訟において、「課税要件明確主義」を重視した判断を行う傾向が顕著である。 「課税要件明確主義」とは、租税法律主義(憲法第84条)から導かれる考え方の1つで、法律に定められるべき課税要件や租税の賦課・徴収に関する手続は、納税者等が予測可能な程度に明確であることが必要であるという考え方である。 この考え方は、課税というのは国民に義務を課すものであることから、事前の予測可能性を担保しようという発想によるものであり、その結果として、法令の解釈についても、その記載内容のみから課税の有無等を判断できるよう、できる限り文理に忠実に解釈すべきであるという価値基準が導かれるものである。 特に租税法においては、【第1回】でも触れたとおり、民法等私法上の概念をそのまま取り込んでいる場合があるが(いわゆる「借用概念」)、この課税要件明確主義の考え方を踏まえると、こうした借用概念の解釈においても、予測可能性の観点から、私法における意味内容をそのまま踏襲すべきという価値基準に傾く。 上記傾向を顕著に表す例として、ホステス報酬源泉徴収事件(最高裁平成22年3月2日判決・民集64巻2号420頁)の判示内容を見てみたい。 著名判例であるのでご存知の方も多いかと思うが、ホステス報酬源泉徴収事件とは、クラブの運営主体がホステスに支払う報酬につき源泉徴収するにあたって、その計算の前提となる「当該支払金額の計算期間の日数」(当時の所得税法施行令第322条)を一定期間のすべての日とみるのか、それとも実稼働日数でみるのかが争われた事案である。 本件につき第一審及び第二審はいずれも上記「計算期間」を実稼働日数と解釈したのに対し、最高裁は、以下のように述べて、一定期間のすべての日と解釈した。 この最高裁の判示は、課税要件明確主義の考え方に忠実に、文理解釈を基礎に置いたものであり、裁判所の価値基準を端的に示すものである。 ただ、裁判所は、上記傾向を原則としつつも、租税法の文言に現れない制度の目的等を一切解釈に持ち込まないわけではなく、一定の必要性・合理性がある場合には、文理を超えた解釈を許容するケースがあることには、注意が必要である。 例えば、消費税の仕入税額控除における帳簿保存要件が争われた渡邊林産事件(最高裁平成16年12月20日判決・判時1889号42頁)においては、消費税法第30条第7項における「事業者が(中略)帳簿及び請求書等を保存しない場合」という租税法の文言を「消費税法30条7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、消費税法62条に基づく税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存すること」と解釈している。 このような解釈は、租税法の文言だけから導くのは困難であるが、後付けで帳簿等が作成された場合などに仕入税額控除を否認できなくなるなどの課税実務上の弊害等も考慮して、裁判所も1つの限界事例としてこのような解釈を許容したものと想定される。 2 税務訴訟における裁判所は、刑事事件と比較しても租税法の文言に忠実 余談であるが、「租税法律主義」と類似した概念として「罪刑法定主義」(憲法第31条)というものがある。 「罪刑法定主義」とは、租税法律主義と同様に、国民の権利制限を伴う刑罰(犯罪成立)の要件を法定することを要求するもので、当該概念から派生して、刑罰法規を、その法規に用いられている語句の可能な意味の限界を超えて解釈し、法規に規定のない事実に対して適用することは禁止されるという考え方が導かれる(類推解釈の禁止)。 この類推解釈の禁止は、まさに租税法における課税要件明確主義と同様の考えに立つものであり、国民にとっての刑罰の重大性に鑑みれば、むしろ刑事法でこそより強く意識されるべきであるが、実際には刑事法の世界では議論されることは多くない。 その理由はいくつかあるが、1つには、刑事法の処罰要件は、例えば以下の窃盗に関する条文を見れば明らかなとおり、租税法と比較しても非常にシンプルであり、また、そこで示される犯罪該当行為は、一般国民からみても感覚的に理解しうる内容であるということが挙げられる。 つまり、(犯罪の類型にもよるものの)刑罰の要件は、あまり文言を要せずとも、どのような行為が処罰されるべきかということが一般国民にもある程度理解可能であるということが言える。また、要件を具備するかどうかが問題となる行為は一般国民からすれば非難すべき行為である場合が多く、多少の拡大解釈をしても受容される場合もあるかもしれない。 これに対し、課税要件に該当する行為は、それ自体は全く適法で当事者において日常的に行われうる行為であり、上記犯罪行為と比較すると、どのような行為が課税対象行為となるかどうかということが一般国民には把握しにくい。だからこそ、租税法においては、予測可能性を担保するために、ある程度詳細な文言を条文に定める必要があるのであるが、その結果として課税の分水嶺が議論になることから、「課税要件明確主義」の要請を強く意識せざるを得なくなるものと考えられる。 3 裁判所が重視する「租税公平主義」の要請 もう1つの傾向として、裁判所は、憲法第14条第1項から導かれる「租税公平主義」、すなわち、税負担は国民の担税力に応じて公平に配分されなければならず、租税の法律関係において国民は平等に扱われなければならないという原則を重視する傾向がある。 この考え方が裁判所において特に意識されるのは、課税庁による過去の判断誤りや誤指導の場面、すなわち、納税者が税務調査において誤った見解を示されたこと等を理由に課税の取消し等を求める場面である。 この点に関し、最高裁昭和62年10月30日判決は、以下のとおり判示し、納税者が課税庁から誤指導等を受けた場合でも、「公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情」がない限り、原則として正しい処理に沿った課税が是認されることを明らかにしている。言い換えれば、裁判所は、租税については、個別の納税者の事情よりも、国民に広く同様の課税を行うことを重視しているということである。 また、この「租税公平主義」は、租税回避等の課税逃れを捕捉し、適正な税収を確保するという価値判断につながる。その意味では、「租税公平主義」は、上記渡邊林産事件(最高裁平成16年12月20日判決・判時1889号42頁)における判断場面のように、後付けで資料を作成することによる課税逃れを防止しようという考えと親和的であるという意味において、前述の「課税要件明確主義」と相反する価値基準として働く場合があるという考え方も可能である。 * * * 次回は、今回述べた裁判所の価値判断を前提に、租税回避行為に関する裁判所の姿勢について分析してみたい。 (了)
〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第12回】 「電子メール等の誤送信による情報漏えいの防止策」 弁護士 影島 広泰 -Question- 宛先を間違えて個人情報が含まれたメールやファックスを送信するといった「誤操作」が個人情報漏えいの原因として一番多いと聞きました。そのような誤送信を防止するために、会社としてはどのような対策を講じればよいでしょうか。 -Answer- 個人情報保護委員会のガイドラインに例示されている対策としては、「メール等により個人データの含まれるファイルを送信する場合に、当該ファイルへのパスワードを設定する」方法があります。 ほかには、「送信先などについて再確認させるソフトウェアを導入する」、「メールをすぐには送信しない設定にしておく」などの対策があるとされています。 前回解説したとおり、2017年の統計によれば、個人情報漏えいの原因として一番多いのが「誤操作」である。今回は、この「誤操作」を防止するためにどのような対策をすればよいのか、また、「誤操作」により個人データが漏えいした場合の対応を考える。 1 誤操作による情報漏えいの防止策 誤操作による情報漏えいとは、典型的には、電子メールを送信する際に宛先を誤ったまま送信してしまうケースや、本来送る先とは別の番号だと気づかずにファックスを送信してしまうケースなどである。 (1) 個人情報保護法の通則ガイドライン 電子メールの誤送信を防止するため、個人情報保護委員会は、個人情報保護法で講ずべきとされている安全管理措置として、どのような措置を求めているのであろうか。 通則ガイドラインにおいては、安全管理措置の中の「技術的安全管理措置」として、以下の4つの措置を講じることが義務であるとされている(詳細は【第5回】を参照)。 このうち、メールの誤送信に直接関係するのが、「(4) 情報システムの使用に伴う漏えい等の防止」である。(4)の手法として以下が例示されている(下線筆者)。 手法の例示のうち下線を引いた部分を見ると、「移送する個人データについて、パスワード等による保護を行う」ことが手法の1つとして例示されており、中小規模事業者(従業員100人以下などの要件を満たす事業者)における手法の例示でも「メール等により個人データの含まれるファイルを送信する場合に、当該ファイルへのパスワードを設定する」とされている。 このように、電子メールで個人データを送信する際にパスワード等による保護を行うことが、ガイドラインで例示されている。中小規模事業者において唯一挙げられている手法がパスワードの設定であることから考えて、個人情報保護委員会がこの手法を重視していることが分かる。というのも、大企業と比べると情報管理にコストをかけることが難しい中小規模事業者であっても、「せめて、電子メールで送信する際にはパスワードを設定することぐらいはやってもらいたい」という意図があると考えられるからである。 そして、なぜパスワードを設定するかといえば、誤送信が発生した際に、受信者が添付ファイルなどを開封できない状態を作ることができる可能性があるからである。 メールの添付ファイルにパスワードを設定しても、パスワードもメールで送信してしまうのであれば、悪質なハッカーなどによる覗き見(盗聴)を防ぐ力は限定的である。したがって、パスワードを設定するのは、通信経路で第三者に覗き見されないことが目的というよりは、「誤って送信することを防ぐ」、あるいは「誤って送信した際に開封されることを防ぐ」ことが重要な目的であるということができるであろう。 例えば、添付ファイルを送信するとシステムにより自動的にパスワードが設定されるようになっており、その後、「〇〇@〇〇.comにパスワードを送信します」という画面を別途開いて「送信」をクリックしなければパスワードを送信しない設定になっていれば、その画面において、もう一度送信先のアドレスを確認するチャンスがある。ここで誤送信に気づくことができれば、パスワードを送ることはないので、受信者が添付ファイルを開けず、結果として個人情報を第三者に閲覧されない状態が確保できることになる。 (2) その他の対策 以上のとおり、個人情報保護法の通則ガイドラインに例示されている手法はパスワードの設定であるが、その他にも対策は考えられる。 一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の「(平成29年度)「個人情報の取扱いにおける事故報告にみる傾向と注意点」」(平成30年8月31日)によれば、メール誤送信事故のパターンは、大きく3つあるとされている。 パスワードの設定は、①(及び場合によっては②)にはそれなりに効果があると思われるが、③については効果があまりないと思われるし、そもそも誤送信そのものを減らす方策を別途考える必要がある。 上記のJIPDEC「傾向と注意点」によれば、「メール誤送信事故の防止策例としては、一般的には以下の対策が効果的と考えられる」とされている。 「(1) メール送信前確認の徹底」は、原始的な方法に思えるが有効なものであり、社内のルールとして徹底することが重要であると考えられる。これはファックスの誤送信についても同様である。 また、社外のメールアドレスにメールを送信する際にポップアップの表示(ダイアログ)が出て、「〇〇@〇〇.comに送信します。よろしいですか」と確認させるソフトウェアなどを導入することもあり得る。企業によっては、メーリングリストなどへの投稿については複数名で確認するといったことをルール化しているところもある。 「(2) メーラーの設定変更」とは、メールの送信前に内容をもう一度確認させる仕組みを導入したり、「送信」ボタンを押してもすぐには送信されず、一定時間が経過した後に送信する設定にしておくなどの対応のことである。後者の設定をしておけば、宛先の間違いに気づいた瞬間にはすでに送信されてしまっていた、というミスを減らすことができる。 「(3) 添付ファイルの暗号化」については上述した通則ガイドラインと同様のため、これに加えて、「メール送信前の確認の徹底」と「メーラーの設定変更」を積極的に検討する、というのがオーソドックスな対応ということができる。 2 誤送信した後の対応 個人データを電子メールで誤送信してしまった場合、個人データの漏えいに当たることになる。その場合の対応は【第10回】で詳述したとおりであるが、まずは「被害の拡大防止」のため、誤って送信した宛先に対して当該メールは誤送信であることを知らせ、消去するよう依頼することを真っ先に行うべきであろう。 また、誤送信したことにいち早く気づくため、社外にメールを送信する際にはCCに必ず社内の別の人間のアドレスを含めるようルール化しておくことも考えられる。 なお、【第10回】で述べたとおり、個人情報保護委員会の「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について(平成29年個人情報保護委員会告示第1号)」によれば、メールの誤送信のうち、本文には個人データは含まれておらず、宛先のメールアドレスだけが誤った宛先に送信されてしまった(=宛先としてのメールアドレスだけが漏えいした)ケースなどは、軽微基準に該当し、委員会への報告を要しない可能性が高い。 (了)
2019年株主総会における 実務対応のポイント 三井住友信託銀行 証券代行コンサルティング部 部長(法務管掌) 斎藤 誠 いよいよ総会準備のシーズンとなってきたが、昨年に続き本年の株主総会でも大きな制度改正対応は見当たらない。しかしながら、本年2月に株主総会関係書類の電子提供を盛り込んだ会社法改正要綱が決定され、株主総会招集通知の原則ネット提供の実現が視野に入ってきた。 また、昨年改訂されたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコードという)に対応したガバナンス報告書の提出も昨年12月末までに実施されており、改訂CGコードへの対応状況などは、株主総会での説明に際して勘案しておく必要があるであろう。株主総会を株主との対話の場とする意識が高まる中、日本版スチュワードシップコードを受けて、機関投資家による議決権行使結果の個別開示による賛否への影響についても注目されている。 本年も株主総会に関する話題には事欠かない状況であり、ここでは足元の環境変化の動向も踏まえたうえで、株主総会における実務対応上の留意点を解説する。 なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断り申し上げる。 1 招集通知関係 (1) 発送前開示 CGコードでも要請されている招集通知の発送前のウェブ開示(補充原則1-2②)については、昨年6月総会で実施した会社は8割に達している。会社法改正要綱案では、招集通知のウェブ開示は3週間前が要請されていることから、今後は総会日より3週間前でのウェブ開示に対応しておくことが望ましい。 (2) 記載の工夫 株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報について、招集通知に適宜記載する取組みも年々採用する会社が増加している。 ▷CGコード対応 ① 中期経営計画の説明(原則3-1(ⅰ)、補充原則4-1②、原則5-2) 経営戦略や中期経営計画について事業報告等に記載している会社は3割程度となっている。CGコードでは、株主に対して中期経営計画の説明をすべきとされていることに加え、総会の場でも株主からは今後の業績見通しや中期経営計画の進捗状況を問う質問が増えていることに対応したものである。 改訂CGコードでは、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たって、自社の資本コストを的確に把握したうえでの、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すことなどが要請されており(原則5-2)、これを意識した開示とすることが考えられる。なお、記載の箇所としては事業報告の「対処すべき課題」に記載する事例が多いようである。 「対処すべき課題」は、今後の事業戦略等についての会社の方針・考え方を記載する部分であることから、中期経営計画の説明にはふさわしいと思われる。 ② 役員の指名・報酬に関する説明(原則3-1(ⅲ・ⅳ)、4-2、補充原則4-10①等) 役員の指名・報酬の決定に関するガバナンス強化への取組状況については、改訂CGコードで任意の指名・報酬委員会の設置が要請されたこともあり注目されている。まずは、指名・報酬の決定方針や手続に関して説明し、任意の指名・報酬委員会を設置している会社であれば、委員会の構成や活動状況などについて説明することが考えられる。 役員の指名・報酬の決定はコーポレート・ガバナンスの要諦をなすものとして、今後とも説明責任が強化されることが想定されるので、役員選任議案や役員報酬関連議案を付議する場合において、CGコードの趣旨を踏まえた説明をすることなどが考えられる。 ③ ESGへの取組みに関する説明(原則2-3、補充原則2-3①等) ESGやSDGs(持続可能な開発目標)への対応に関する取組みについて積極的にアピールする会社もみられるようになってきた。ESGへの取組み等を招集通知に記載する場合には、中期経営計画のときと同様に、事業報告の「対処すべき課題」に記載することも考えられるが、トピックスの扱いとして招集通知の末尾に記載する事例もみられる。会社の取組みをよりアピールするのであれば、招集通知に記載するだけでなく、実際の総会の場においても説明することが考えられる。 ④ その他の任意的記載事項 ガバナンス関連の記載のほか、来場者への注意を促すために補足説明的に記載される事項がある。 (3) 改元への対応について 改元に伴い新元号の公表が本年4月1日に予定されているが、和暦の場合には招集通知の内容に新旧元号が混在することが考えられる。招集通知にも西暦表示の採用が徐々に進んできており、昨年西暦表示を採用した会社は21.2%と前年から倍増している(2017年:9.1%(当社調べ))。本年においてもこの流れを受けて西暦表示を採用する会社が増加するものと考えられる。 また、配当金の支払実務において全国銀行協会に加盟する銀行及びゆうちょ銀行の配当金領収証の書式について、取扱期間又は払渡期間の終了日が本年4月1日以降となるものから西暦表示に変更されることにも留意されたい(※1)。 (※1) 全国株懇連合会理事会決定「株式配当金支払事務取扱要領(ゆうちょ銀行との協定)の改正について」(2018年10月19日) 全国株懇連合会理事会決定「株式配当金支払事務取扱要領(全銀協との協定)の改正について」(2019年2月1日) 2 機関投資家対応 機関投資家の個別の議決権行使結果の開示も今年で3年目となる。機関投資家の議決権行使の厳格化により、個別の議案においては反対票の増加した事例もみられたようである。昨年の議案において相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合には、行使結果開示から反対の理由を分析して投資家との対話(エンゲージメント)の要否について検討することが望まれる(補充原則1-1①)。 本年留意すべき議決権行使助言会社の議決権行使助言基準の変更及び国内機関投資家の議決権行使基準のポイントは以下のとおり。 (※2) ISS「2019年版 日本向け議決権行使助言基準」 (※3) グラスルイス「2019年 ガイドライン」 (※4) 三井住友トラスト・アセットマネジメント「責任ある機関投資家としての議決権行使(国内株式)の考え方」(2018年12月改定) (※5) 三菱UFJ信託銀行「受託財産運用における株式議決権行使」(2019年4月1日適用) (※6) 野村アセットマネジメント「「グローバルな議決権行使の基本方針」と「日本企業に対する議決権行使基準」」(2018年11月1日改定) (※7) アセットマネジメントOne「国内株式の議決権行使に関するガイドラインおよび議案判断基準」(2019年4月1日以降分) いずれも詳細は各機関投資家のガイドラインを参照願いたいが、それぞれ独自の基準を設けることで、個別性も強くなっているので留意が必要である。 3 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正について 昨年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告において「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に向けて、適切な制度整備を行うべきと提言がなされた。当該提言を踏まえ、有価証券報告書等の記載内容を充実させる企業内容等の開示に関する内閣府令の改正が本年1月31日に公布された。 改正内容のうち「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」に関する事項は2019年3月31日以降の事業年度に係る有価証券報告書から適用されるため、3月決算の会社においては早々に対応が必要となる。 主な項目は以下であるが、詳細かつ具体的な事項にわたっているので留意が必要である。 上記はいずれも株主の関心の高い事項でもあるので、必要に応じて想定問答も準備しておくことが望ましいであろう。 4 総会運営におけるネット活用について 本年の株主総会において、招集通知のネット提供を可能とする会社法改正に関する対応事項はないが、総会実務においてネット活用は進んでおり、今後の法整備なども見据えて対応していくことが考えられる。 すでに招集通知のネットへの掲載は定着しているところ、今やネットの閲覧はパソコンよりスマホが主流であることに対応して、スマホでも招集通知が見やすく閲覧できる仕組みを採用したり、議決権行使もスマホで簡便に行う仕組みなどが注目されている。個人株主が「より簡便」に「より身近」に議決権行使できる環境整備として検討することが考えられる。 (了)
《速報解説》 大阪国税局、Brexitを受け英国子会社がオランダ法人と行う 合併の取扱いに関し文書回答事例を公表 ~外国子会社間で外国法に準拠してなされる法律行為の国内税法上の合併への該当性を確認~ 弁護士 木村 浩之 1 文書回答事例の公表について 国税庁は、平成31年3月7日付けで、大阪国税局による「英国子会社がオランダ法人と行う合併の取扱いについて」の文書回答事例を公表した。 文書回答は、納税者から申告期限前に具体的な取引に係る税務上の取扱いに関して照会があった場合に、国税庁・国税局が文書で回答した上で、その内容を公表するという制度である。公表された回答は国税庁・国税局による公的な見解であり、これを信頼してなされた申告に反する課税処分はできないと解されることから、当該照会をした納税者のみならず、他の納税者の予測可能性の向上に資することになる。 今回の大阪国税局による文書回答は、これまで公的な見解が示されていなかった論点についての回答であり、今後の申告実務に与える影響も大きいと考えられる。 2 本件の論点と国税局の回答 本件で照会の対象となったのは、外国子会社間で外国法に準拠してなされる法律行為が日本の法人税法上の「合併」に該当し、適格要件を満たした場合には適格合併として課税の繰延べが認められるかという論点である。 これについて大阪国税局は、外国法に準拠してなされた法律行為であっても、日本の会社法上の合併に相当する法的効果を具備するものであれば、法人税法上の「合併」に該当することを認め、適格要件を満たした場合には課税の繰延べが認められる旨の回答をした。 そして、外国法に準拠してなされる法律行為がどのような場合に日本の会社法上の合併に相当すると認められるかという点については、日本の会社法上の合併の本質的要素として、次の2つの要件を満たすかどうかによって判断するものとされた。 これらの要件を満たす法律行為については、それが外国法に準拠するものであっても、日本の法人税法上の「合併」に該当し、適格要件を満たした場合には課税の繰延べが認められることになる。 3 実務における影響 従来、日本の親会社が外国法に準拠して外国子会社を組織再編する際に、その組織再編行為が日本の法人税法上どのように取り扱われるか(適格要件を満たした場合に課税の繰延べが認められるか)は必ずしも明確でなかった。本件は外国法に準拠してなされた法律行為の日本の法人税法上の「合併」該当性について判断されたものであるが、そこで示された考え方は合併に限らず、組織再編行為全般に当てはまるものと解される。 すなわち、外国法に準拠してなされた会社分割その他の組織再編行為であっても、日本の会社法上の組織再編行為と同様の法的効果を具備するものであれば法人税法上の組織再編行為に該当し、適格要件を満たした場合には課税の繰延べが認められることになると解される。 さらに、本件の回答を踏まえれば、外国子会社の株主である日本の親会社について課税の繰延べが認められることのみならず、外国子会社合算税制の適用に当たって外国子会社の所得を算定する際にも、同様に課税の繰延べが認められることになると解される。外国子会社の組織再編に当たっては、同税制が阻害要因になっていることが指摘されるところであるが、適格要件を満たすことで課税の繰延べが認められるとすれば、今後、外国における組織再編行為が促進されることになると解される。 このように、今回の文書回答が今後の実務に与える影響は大きいと考えられる。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 適用除外事業者を中小企業向け租税特別措置の適用対象外とする制度がスタート(2019.4.1以後開始事業年度から) ~賃上げ・国内設備投資へ消極的な場合はさらに3つの税額控除の対象外へ~ Profession Journal編集部 本年4月1日以後開始事業年度からは、中小企業者(措法42の4⑧六(H31改正法案では七))のうち、いわゆる適用除外事業者については、租税特別措置法上の中小企業向け特例の対象から除外されることとなる(交際費等の中小企業特例(措法61の4②)を除く)。 適用除外事業者とは前3事業年度の平均所得金額が15億円超の中小企業者をいうが(措法42の4⑧六の二(H31改正法案では八))、設立後3年未満の法人や合併等組織再編が行われた場合は、平均所得金額の算定方法が複雑となるため留意が必要だ(詳細は下記関連記事を参照)。 なお、3月決算法人の場合、適用初年度における平均所得金額は、平成29年3月期(H28.4.1~29.3.31)、平成30年3月期(H29.4.1~30.3.31)及び平成31年3月期(H30.4.1~31.3.31)における所得金額を元に算定されることとなるため、すでにある程度予測可能な時期にあるといえよう。 上記改正は平成29年度税制改正で手当てされたため、改正当時の措置法では平成31年3月31日で期限切れとされていた特例措置のうち、平成31年度税制改正でその適用期限が延長された次の制度について、新たに対象に加えられる。 また、防災・減殺設備投資に係る減税措置として今年度改正で新設される「特定事業継続力強化設備等の特別償却(措法案44の2)」も適用除外事業者は対象から外されている。 上記に加え、すでに平成29年度及び平成30年度において、適用除外事業者を対象から外す法改正が行われている制度としては、中小企業等の貸倒引当金の特例のうち法定繰入率による計算特例(措法59の9)や中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5)(※)、中小企業基盤強化税制(いわゆる中小企業版の研究開発税制)(措法42の4③(H31改正法案では④))、中小企業向け所得拡大促進税制(措法42の12の5②)等があり、適用除外事業者に該当した場合の影響は少なくない。 (※) 少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例(措法67の5)は平成28年度改正により、常時使用する従業員の数が1,000人以下の場合に限定されている(詳しくはこちら)。 さらに平成30年度税制改正では、所得が増加しているにもかかわらず賃上げや国内設備投資に消極的な大企業が、次の3つの生産性の向上に関連する税額控除の適用から除外されることとなり、こちらはすでに施行されている(平成30年4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの間に開始する各事業年度が対象)(措法42の13⑥)。 ここで注意したいのが、この大企業向けの措置についても、適用除外事業者がその対象に含まれているという点だ。すなわち、本年4月1日以後開始事業年度からは、適用除外事業者で、かつ、所得が増加しており賃上げ・国内設備投資へ消極的な法人については、中小企業向けの租税特別措置に加え上記3つの対象からも除外されることとなる。 これらに加え平成31年度改正では下記のとおり、「みなし大企業」の範囲が見直されることとされており、過年度からの複数の措置が重なり合うことで、特例措置の判定をめぐる全体像が見えづらくなりつつある。それぞれ個別の改正に該当するケースは少ないと考えられるが、組織再編が行われた場合などは、改めて慎重な判定が必要といえるだろう。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 税効果会計基準等の改正に対応した 改正「中小企業の会計に関する指針」が公表される ~収益認識基準への対応は中小企業の実態を踏まえ検討を継続~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成31年3月6日、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会は、「中小企業の会計に関する指針」の改正を公表した。これにより、平成30年10月30日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、主に「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(企業会計基準第28号、平成30年2月16日)等の公表に伴い、繰延税金資産と繰延税金負債の貸借対照表上の表示について見直しを行うものである。 なお、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号、平成30年3月30日)等が公表されているが、今回、「収益・費用の計上」の見直しは行っていない。収益認識会計基準等が上場企業等に適用された後に、その適用状況及び中小企業における収益認識の実態も踏まえ、収益認識会計基準等の考え方を中小会計指針に取り入れるか否かを検討することを考えているとのことである。 公開草案に対する「コメントの概要及びコメントに対する考え方」も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法(65項等) 従来、繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した貸借対照表上の資産・負債の分類に基づいて流動区分と固定区分とに分けて表示するなどと規定していたが、「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等に合わせて、次のように改正する。 2 その他 軽微な修正として次のものがある。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2019年3月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.309を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。