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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第83回】東邦金属株式会社「特別調査委員会調査報告書(平成30年11月9日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第83回】 東邦金属株式会社 「特別調査委員会調査報告書(平成30年11月9日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【特別調査委員会の概要】   【東邦金属株式会社の概要】 東邦金属株式会社(以下「東邦金属」と略称する)は、1918(大正7)年11月創業、1950(昭和25)年2月設立。創業時より、タングステン、モリブデン及び高融点金属製品の製造販売を主な事業とする。資本金2,531百万円、売上高3,669百万円、経常利益60百万円、従業員数134名(数字はいずれも平成30年12月期)。太陽鉱工株式会社(神戸市中央区、以下「太陽鉱工」」と略称する)が議決権の31.2%を保有する。本社所在地は大阪市中央区。東京証券取引所2部上場。   【調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 東邦金属特別調査委員会(以下「委員会」と略称する)による調査報告書(以下「報告書」と略称する)から、東邦金属が委員会を設置するまでの過程を時系列に沿ってまとめる。 東邦金属が、外部有識者と社外監査役からなる特別調査委員会設置に踏み切ったのは、報告書に明文の記述はないものの、W社を被告とする訴訟の過程で、W社が「当初より商品が存在しない取引であることを自白」したことが契機となったようである。 なお、委員会による調査期間中である2018年10月において、同訴訟手続きの中で、東邦金属は、民事訴訟法第186条に基づき、W社の取引先であるI社及びM社に対して、取引の有無について調査を嘱託したところ、I社からは購入実績なし、M社からは調査不能という回答を得ている。 2 委員会による取引実態の把握 委員会は、三津田浩取締役相談役(前代表取締役社長。報告書では「A氏」、以下「三津田取締役」と略称する)、法福英志常務取締役(2013年10月当時は常勤監査役。報告書では「B氏」、以下「法福常務」と略称する)、森本隆雄取締役総務部長(2013年10月当時は社外監査役。報告書では「C氏」、以下「森本取締役」と略称する)及び藤原常務から、ヒアリングを行い。コンピューターフォレンジック調査やアンケートなどの手法も交えて、事実関係を把握している。 (1) W社との取引開始の経緯 2013年4月、販売不振からそれまで2期連続の当期純損失計上を余儀なくされていた東邦金属の事業を立て直すために、太陽鉱工から藤原常務が顧問として入社し、同年6月から取締役営業本部長に就任する。 同氏は、太陽鉱工時代からの取引先であったW社のZ社長が、太陽光発電のシリコンソーラーパネル切断用商材である炭化ケイ素を中国から輸入して、大手電機会社であるI社に販売しているという情報を入手したため、Z社長に対し、既存の商流に東邦金属を加えてもらえるよう打診をした。 取引開始にあたり、当時代表取締役社長であった三津田取締役は、委員会によるヒアリングに対して、取引を開始した理由を、「太陽鉱工とW社は長きに亘る取引先であり、営業の第一線で活躍する藤原常務が太陽鉱工から招聘した役員であるという信用が一番大きかった」と説明している。 東邦金属は、W’社が中国から輸入した炭化ケイ素を仕入れ、これをW社に転売することにより取引に参加。報告書では、こうした取引について、以下のように評している(報告書9ページ)。 そして、こうした取引が可能であった理由として、W社とW’社が、所在地も代表者も同一であって、事実上の同一会社であったことを挙げている。 (2) 売掛金残高の急増時の対応 W社との取引開始時は社外監査役であった森本取締役は、2014年6月に取締役経理部長に就任した後、取引金額の急増による資金面の課題から、他の取締役に取引金額の縮小や取引中止の検討を提言した。 また、2014年10月において、監査役の間で、本件取引がどのような経緯で開始されたのか、決裁権・権限明細や与信リスク等について確認すべきとの意見があり、取引開始時から常勤監査役の職にあった法福常務が、その旨経営陣に伝えるとともに、監査役として経営陣に対して取引金額減少の検討や取引実態を確認するよう提言した。 その後、東邦金属とW社の間で2015年3月に契約の見直しが行われ、取引金額は縮小する。 (3) 監査法人による指摘に対する対応 W社との取引の急増を受けて、東邦金属は、監査法人から、本件取引はW社の資金繰り支援のための商社金融取引であり、手数料収入として処理すべきであるとの指摘を受けることとなり、2014年7月以降、売上高及び売上原価を全額計上するグロス表示から、手数料のみを売上計上するネット表示に変更している。 また、2015年6月には、東邦金属は、監査法人から、本件取引の実在性を確認するため①内部統制の整備、②商材の入港地に行き、コンテナ等の確認を行うこと、③I社へ販売する際の送り状を確認するよう要求された。上記要請について藤原常務からZ社長の見解とした回答では、②、③についてはI社との取引関係に支障が出る可能性があるなどとして要求を拒んでいた。 さらに、東邦金属は、現物を確認する手段として船荷証券、パッキングリストを要求し、入手しているが、入手した書類は、数量、内容物等、黒塗りされている箇所が多かったということである。 (4) 委員会による結論 委員会は、関係者に対するヒアリング、コンピューターフォレンジック調査、アンケートなどによる調査に基づく事実認定から、「東邦金属関係者のいずれもが本件取引の具体的対象商品を確認できたことはなく、客観的にもその実在性を確認できる資料はなかった」こと、さらに、「相手方であるZ社長は、当初より対象商品の存在しない取引であることを、裁判手続きにおいて自白している」ことから、本件取引について、「対象商品が存在せず架空であり、資金のやりとりのみが存在する資金循環取引であったと認めざるを得ない」と結論づけている。 3 原因分析 委員会は、東邦金属が資金循環取引に参画した「原因分析」として、次の5項目を挙げている。 (1)から(3)として掲げられた項目を総合的にみると、2期連続での売上高の減少、純損失計上という事業環境下における業績の立て直しへのプレッシャーのもと、大株主である太陽鉱工から、再建のために送り込まれた藤原常務が業績回復のために持ち込んだ本件取引は、藤原常務に対する信頼、W社が太陽鉱工の既存の取引先であったこと、取引額に応じた一定の安定収入が見込まれることなどを理由として、取引自体の実在性に対する疑義、既存のスキームに当社が介在することの合理性や意義などは考慮されなかったようである。 また、製造業者である東邦金属は、不慣れな商事取引に関わることとなったが、商品確保・流通・クレーム対応などの取引管理ができておらず、例えば、弁護士によって契約書のリーガルチェックを受けていれば、仕入先と販売先の代表者が同一人物で、本店所在地が同じであるという特異な契約であること、契約の態様がいわゆる「介入取引」といわれる資金循環に陥りやすい危険性のある取引であり、十分に慎重な対応を要すべき案件であることの指摘を受けたはずであり、取引の危険性やその後の与信管理に配慮できたと指摘している。 4 再発防止策 委員会による再発防止策の提言を受けて、東邦金属が2018年12月13日に公表した再発防止策は、次のとおり5項目であった。 再発防止策のうち、「商社的取引」に関する項目の中で、東邦金属が決定したリスク把握の徹底策は以下のとおりである。   【調査報告書の特徴】 東邦金属特別調査委員会調査報告書は全文で20ページ余りのコンパクトなものであるが、業績不振に陥った老舗製造業者が、安易に「商社的取引」に加わってしまった結果、1億2,000万円を超える債権が回収できない事態となるだけではなく、過年度決算修正を余儀なくされ、さらには、東京証券取引所による「公表措置及び改善報告書の徴求」、証券取引等監視委員会から「有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告」を受けるという結果を招いてしまった過程、経営陣の心情などがよく分かる内容となっている。 1 「再発防止策」について 委員会が提言した「再発防止策」には、本件取引のような商社的取引・介入取引について、特段のコメントはなく、一般的な「契約書の適法性・妥当性などを判断できる体制の整備」というものにとどまっていた。これを受けて、東邦金属が公表した「再発防止策」でも、本件取引のような商社的取引・介入取引を禁止するのではなく、「商社的取引時のリスク把握の徹底及びその商流の確認」をすることによって、今後も、商社的取引・介入取引を継続することを容認したものであるかのようである。 同項目における再発防止策は上述のとおりであり、掲げられた施策について異論はないが、むしろ、本業に回帰して、商社的取引・介入取引は行わないことを原則とし、やむを得ない場合にはどのような債権保全策を取るのかという視点から、再発防止策を検討すべきではなかったかと、違和感を抱いた次第である。 2 関係者の処分 東邦金属は、再発防止策の公表と同時に、経営責任などを明確にするために、4ヶ月間、当社常勤取締役の報酬減額を取締役会で決議し、本件取引開始の端緒となった藤原常務については、代表取締役の減額(30%)よりも厳しい、報酬減額40%とすること、三津田取締役が2018年12月13日付で取締役相談役を辞任したことを公表した。 3 東京証券取引所による「公表措置及び改善報告書の徴求」処分 2018年12月21日、東京証券取引所は、東邦金属に対し、「公表措置及び改善報告書の徴求について」というリリースを公表した。その理由として、以下のように述べている。 これを受けて、東邦金属は、2019年1月17日付で、改善報告書を東京証券取引所に提出している。 4 証券取引等監視委員会による課徴金納付命令勧告 2019年1月18日、証券取引等監視委員会は、「東邦金属株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について」というリリースにより、東邦金属が提出した平成25年12月第3四半期四半期報告書から平成27年3月期有価証券報告書までの有価証券報告書等について、「重要な事項につき虚偽の記載」があったことを理由に、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、1,200万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告を行ったことを公表した。 「重要な事項につき虚偽の記載」の内容については、 が挙げられている。 なお、東邦金属は、1月31日において、「課徴金についての審判手続き開始決定に対する答弁書の提出について」というリリースにより、金融庁長官から受領した「審判手続き開始決定通知書」に基づく、「重要な事項につき虚偽の記載」の事実及び納付すべき課徴金の額を認める旨の答弁書を金融庁審判官に提出することを、取締役会で決議したことを公表した。 5 ATT事件との関連性 架空循環取引の発覚時期(2017年6月)、既存の商流に加わる商社的取引であること、取引が中国市場に関係していることなど、東邦金属が巻き込まれた資金循環取引は、取扱商品こそ異なるものの、本連載【第65回】、【第66回】で取り上げたATT事件との関連性をうかがわせる要素がいくつか存在する。 本稿執筆時点では、W社について特定することはできなかったが、本来であれば、2017年10月、東邦金属がW社を被告として、売掛金請求訴訟を提起した際に、適時開示を行うべきであったと考える次第である。 (了)

#No. 306(掲載号)
#米澤 勝
2019/02/14

税務争訟に必要な法曹マインドと裁判の常識 【第3回】「税務訴訟における裁判所の役割」

税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第3回】 「税務訴訟における裁判所の役割」   弁護士 下尾 裕   税務訴訟における裁判所の役割は何であろうか。これに一言で答えるとすれば、裁判所の役割は、「課税庁と納税者間の争いに対する最終的な判断を行うこと」である。 本連載は、税務争訟に必要な法曹マインドを解説するものであるが、この法曹マインドを理解する上で最も重要なのは、最終権者たる裁判所(裁判官)の考え方を理解することにあると言っても過言ではない。 そこで、【第3回】以降は、法曹の中でも特に裁判所に焦点を当て、税務訴訟における裁判所の役割、価値判断、さらには事実認定や法律解釈の傾向等を順次分析してみたい。   1 裁判所は税務訴訟において何を判断するのか まず、最初に、裁判所は税務訴訟(特に課税処分等の取消訴訟)において何を判断するのであろうか。 大まかに言えば、課税庁と納税者間の争いの白黒、具体的には課税処分の当否を判断するのであるが、正確には「課税処分の違法性一般」を判断すると整理されている。 非常に分かりにくい表現だが、ポイントは「一般」という文言が付いていることにある。 その意味するところは、裁判所においては、直接には課税処分における「増差税額」の範囲が適正であるかどうかを判断するものであり、課税庁が処分段階で述べていた課税の理由が正しいかどうかを判断するのではないということである。特定の理由に縛られないという意味で、「一般」という文言が付いていると理解していただいて差し支えない。 このことは、裁判所が、税務訴訟において、納税者に予測困難な場合を除き、課税処分の理由の差替え等を許容するという理屈につながってくるものであり、税務訴訟に携わる場合の予備知識として頭の片隅に置いていただきたい。 【イメージ図】   2 裁判官は税務の専門家ではない 裁判官は、税務訴訟の最終判断権者であるが、税務の専門家であるかというと必ずしもそうではない。 もちろん、税務訴訟は、第一審については各裁判所で行政訴訟を集中的に扱う部に配属されることになっているし、特に近年では東京地方裁判所には国を被告とする訴訟について広く管轄が認められることとの関係で、東京地方裁判所の行政部には全国の税務訴訟が集まる傾向があることから、行政部において税務訴訟を扱う裁判官は税務知識を一定程度集積していると思われる。ただし、裁判官は多くの場合、2年から3年で転勤があり、課税庁職員のように恒常的に税務に関与するわけではないことから、一定の限界があることは否定できない。 こうした状況を踏まえ、ご存知の方もいらっしゃるかと思うが、地方裁判所においては、昭和41年の裁判所法改正以降、課税庁(国税)からの出向者を裁判所調査官(いわゆる租税調査官)として配置した上、裁判所の判断の前提となる租税法令等の調査等に従事させてきている。この度、平成31年7月以降は税理士資格者が新たに裁判所調査官として従事する予定となっているが、いずれにしても裁判所が税務の専門家の支援を要する状況にあることは変わりない。 裁判所も当然、税務訴訟の判決にあたっては、相当の調査等を尽くして判断を行っていると思われるが、それでも上記のように日常的に税務を取り扱っている専門家ではない以上、その判断にあたっては、(その是非は横に置くとして)税理士としての感覚よりは、むしろ法曹としての感覚に従い判断を行っている可能性があると思われる。   3 裁判所はあくまで個別の紛争解決等手段の場である 裁判所は、時に税法の解釈適用に関して先例的に判断を示し、当該判断が租税実務を変えていく場合があることはご存知のとおりである。最近では、いわゆる一連の「外れ馬券訴訟」もこうした先例的判断の一例であろう。 ご存知の通り、外れ馬券訴訟とは、馬券の払戻金が雑所得又は一時所得のいずれに該当するのか、また雑所得であるとして、外れ馬券の購入費用を必要経費として所得から控除できるか否かが争われていた一連の裁判である。 具体的には、まず、馬券を自動的に購入するソフトを用いていた事例につき、所得税法違反の刑事事件で上記争点が争われ、その後同様の争点を巡って、複数の課税処分取消訴訟が提起されるに至った。 最高裁判所は、上記刑事事件に関する最高裁平成27年3月10日判決及びその後提起された課税処分取消訴訟における最高裁平成29年12月15日判決において、それぞれ当該事案の下では馬券の払戻金が雑所得に該当するものとして、その期間の外れ馬券の購入代金をすべて必要経費として認める判断を示したという流れになる。 この点に関し、国税庁は、従前、所得税法基本通達34-1において、「馬券の払戻金」を一時所得の例として挙げて、当該当選金に対応する馬券の購入代金のみが経費に算入できるという見解を示していたが、上記最高裁判決の都度、一部改正を余儀なくされ、本稿執筆現在では以下のとおり一定の場合には雑所得に該当することが明記されている。 こうした事例だけを見ると、あたかも裁判所には、積極的に租税実務の在り方を決める役割があるかのような印象を受ける。 しかしながら、実際には裁判所はあくまで紛争ないし事件の解決手段であり、税法の解釈適用に関してもあくまで個別の紛争等の解決に必要な限度で行われるにすぎない。 裁判所の判決を多く読まれた経験がある読者はお分かりかもしれないが、裁判所は、判決において結論を出すのに必要のない争点を判断することは基本的にないし、ましてや課税実務の在り方に関する見解を述べることもほとんどない。 租税実務に携わる読者としては、ついつい税務訴訟において、課税実務全体を考慮した裁判所の先例的判断・積極性を要求したくなるところであるが、あくまでも裁判所が個別の紛争等を解決する役割を有しているものであることは頭の片隅に置いておく必要がある。 以上において、裁判所の役割を概括的に説明したところで、次回は税務訴訟における裁判所の価値判断について検討してみたい。 (了)

#No. 306(掲載号)
#下尾 裕
2019/02/14

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第11回】「情報漏えいの原因・傾向から見た対策の要点」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第11回】 「情報漏えいの原因・傾向から見た対策の要点」   弁護士 影島 広泰   -Question- 自社でも顧客情報の漏えいを防ぐ施策を検討していますが、他社で発生した様々な漏えい事故を調べるにつれて、何から始めればよいか分からず、途方にくれてしまいます。漏えい防止の取組みにあたってポイントとなる事項を教えていただけますか。 -Answer- ①紛失・置き忘れ、誤操作、管理ミスなどの「うっかり」ミスの防止と、②サイバー・セキュリティの両輪で対策を進めていくことが必要です。 情報漏えい対策を検討する際には、これまでどのような原因で情報が漏えいしているのかを理解し、その原因を塞ぐように措置を講じていくのが合理的である。今回は、情報漏えいに関する統計を紹介し、情報漏えい対策の全体像を考える。   1 情報漏えいの原因 個人情報は、どのような原因で漏えいしているのであろうか。日本ネットワークセキュリティ協会の調査によれば、2007年と2017年における漏えいの原因は以下のとおりである。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【左図】参考:NPO法人日本ネットワークセキュリティ協会「2007年情報セキュリティインシデントに関する調査報告書」 【右図】参考:NPO法人日本ネットワークセキュリティ協会「2017年情報セキュリティインシデントに関する調査報告書【速報版】」 この調査結果から分かることが大きく2つある。それは、①うっかりミスが大きな割合を占めていることと、②不正アクセスが増えていることである。 ① 情報漏えい原因の大きな割合を占める「うっかりミス」 2017年の漏えい原因を見ると、1番多いのが「誤操作」(25%)、2番目が「紛失・置忘れ」(22%)、4番目が「管理ミス」(13%)である。 「誤操作」とは、電子メールでBCCに入れるべきアドレスをTOに入れてしまったという誤操作によりメールアドレスが漏えいしてしまったケースや、ファックス番号の入力ミスによる誤送信などが典型である。「紛失・置忘れ」とは、スマホを居酒屋に置き忘れてきた、PCが入ったカバンを電車に置いてきてしまったなどが典型である。「管理ミス」とは、オフィスで書類が入ったダンボールを開けたところ書類がないというときに、紛失したのか廃棄したのかが分からない、といった事例が典型である。 このような「誤操作」、「紛失・置忘れ」及び「管理ミス」といういわゆる「うっかりミス」だけで、漏えい原因の60%を占めている。情報セキュリティというとサイバー・セキュリティを思い浮かべる方も多いと思うが、実は、うっかりミスを原因としたものの方が圧倒的に数が多く、このうっかりミスをどう根絶するかが情報セキュリティにとって重要ということが分かる。 ② 急増する不正アクセス もう1つのポイントは、2017年の漏えい原因の3位を占めている「不正アクセス」(17%)である。2007年の漏えい原因では、不正アクセスはわずか1%に過ぎなかったことから、この10年間で急激に増えているといえるであろう。すなわちサイバー・セキュリティの重要性も、近時、急激に高まっているのである。 また、不正アクセスなどによるシステムからの情報漏えいの大きな特徴として、漏えいするデータの数が膨大なものになるという点があげられる。例えば、2015年の日本年金機構からの情報漏えい(標的型攻撃メールによるもの)は125万件、2016年に発生した大手旅行会社の子会社からの情報漏えい(標的型攻撃メールによるもの)は678万件、2019年に発生したITサービス企業からの情報漏えいは480万件以上が漏えいしている。 前記①のうっかりミスによる漏えいは、例えば、スマホを居酒屋に置き忘れてきたために電話帳に登録されていた取引先の担当者の氏名と電話番号100件が漏えいしたといったレベルの漏えい件数であることが多いが、②不正アクセスでは何百万件もの情報が漏えいすることがあるのである。 その意味で、情報セキュリティは、 の両輪を考えなければならないのである。   2 情報漏えいの件数 しかも、情報漏えいは非常に多く発生している。前回も紹介したとおり、個人情報保護委員会の平成29年度の年次報告によれば、個人データの漏えい等のインシデントは、個人情報保護委員会などに報告があったものだけでも1年間に3,338件が発生している。また、日本では個人情報保護委員会への報告は努力義務であるが、EU(EEA加盟国)ではGDPR(一般データ保護規則)の下で報告が義務となっており、ドイツでは2018年に20,881件(※)の漏えい等(Data breach)が報告される事態に至っている。日本でも、実際にはこの程度の漏えい等が発生していると考えるのが合理的であろう。 (※) なお、漏えい原因では、電子メールの誤送信が63%を占めるとのことである。 情報漏えいのインシデントがマスメディアで報道されるのは年に数件程度ではないかと思われるが、実はそれは氷山の一角に過ぎず、毎日ほぼ10件(ドイツの報告を基準とすれば毎日57件)の情報漏えいが発生し続けていると考えられる。個人情報の漏えいは、どの企業でも発生しうる身近な事件であるとお分かりいただけるであろう。 (了)

#No. 306(掲載号)
#影島 広泰
2019/02/14

《速報解説》 公取委、消費税転嫁対策特措法ガイドラインの改正案をパブコメに~軽減税率導入及び価格設定ガイドライン公表等に伴い違反事例を追加~

 《速報解説》 公取委、消費税転嫁対策特措法ガイドラインの改正案をパブコメに ~軽減税率導入及び価格設定ガイドライン公表等に伴い違反事例を追加~   Profession Journal 編集部   公正取引委員会は2月1日付けで「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」の改正(案)を公表、パブリックコメントに付した(意見・情報受付締切日は2019年3月4日)。 今回の改正案は10月の消費税率引上げに向けて、消費税転嫁対策特別措置法上の考え方の一層の明確化を図るためとしており、特措法自体を改正するものではない。具体的には以下3点による見直し案が織り込まれている。 1点目は既報のとおり、昨年11月に政府から公表された「消費税率の引上げに伴う価格設定について(ガイドライン)」を受けたもの。この価格設定ガイドラインでは、「消費税還元セール」など消費税と直接関連した形での宣伝・広告は認められないものの、「10月1日以降〇%値下げ」や「10月1日以降〇%ポイント付与」など、事業者の価格設定のタイミングや値引きセールなどの宣伝・広告自体を規制するものではないことを明らかにしている。 今回の改正案では、このような「10月1日以降〇%値下げ」や「10月1日以降〇%ポイント付与」等を表示したセールの実施に当たり、自社の利益を確保するため、取引先にその原資を負担させる行為(値引きや協賛金の提供、セール実施における従業員の派遣要請等)は消費税転嫁対策特措法上の違反行為に当たるとした。 2点目は軽減税率の導入に伴う考え方の明確化によるもので、標準税率が適用される商品の対価を、平成31年10月1日以後、軽減税率が適用された場合の対価まで減額する場合や平成31年10月1日前の対価に据え置く場合、標準税率が適用される商品を納入する取引先に対して、自己の供給する商品が軽減税率の対象品目であることを理由として、消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定める場合を違反行為としている。 3点目はこれまで公取委が行ってきた勧告・指導の蓄積から、事業者が問題ないと認識しやすい違反行為として例示されたもので、消費税率引上げ前に税込価格で対価を定めている場合(いわゆる内税取引の場合)に、 ① そのことを理由に、消費税率引上げ後も引上げ前の対価を据え置く行為 ② 取引先から対価引上げの要請や価格交渉の申出がないことを理由として、消費税率引上げ後も引上げ前の対価を据え置く行為 が追加されている。 消費税率の引上げに伴う対応としては、与党大綱においても価格設定の柔軟化を図りつつ効果的な転嫁対策を強力に進めるとしており、公取委も2月に入り「消費税転嫁対策特設ページ」を開設するなど周知を強化している。調査対象となりうる大規模小売事業者等は上記取扱いを踏まえた取引先との折衝等、細やかな対応が求められよう。 (了)

#No. 305(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2019/02/07

プロフェッションジャーナル No.305が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年2月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.305を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/02/07

monthly TAX views -No.73-「今年の税制議論を占う」

monthly TAX views -No.73- 「今年の税制議論を占う」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   昨年の税制改正議論は極めて低調だった。消費増税を控え、それへの対応にエネルギーが注がれたということであろう。元号の変わる今年こそは、わが国経済社会の課題に挑戦する抜本的な税制改革議論の始まりにしたいものである。 そこで、今年、税制の議論となる事項を平成31年度与党税制改正大綱(党大綱)及び政府税制調査会(政府税調)の動向の双方から占ってみたい。 *  *  * まず個人所得課税の見直しについてである。党大綱は見直しの課題として、①経済社会構造への対応や所得再分配機能の回復の見地からの所得控除の見直しと、②老後の生活等に備える資産形成を支援する公平な制度のあり方を挙げている。 ①は働き方改革を踏まえた税制改正で、給与所得控除の縮減・基礎控除への付け替えという平成30年度改正で行われた方向をさらに進めていこうというものである。 ②は、「人生100年時代」を見据えて、多様なライフコースにおける資産形成を税制で支援するもので、NISAや金融所得税制の見直しが議論となる。 昨年政府税調には、iDeCoなどの私的年金制度、NISAなどの非課税投資制度を一覧にした資料が提出されており、税制支援の在り方をEET型とTEE型の2つに集約・充実させていく方向で議論が進んでいくのであろうか。 金融所得税制については党大綱において「所得階層別の所得税負担率の状況も踏まえ、税負担の垂直的な公平性等を確保する観点から・・・市場への影響も踏まえつつ、総合的に検討する」と記述されており、株式相場をにらみながらの議論となるのだろうか。 *  *  * 注目されるのは、相続税・贈与税のあり方である。党大綱には、「資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討」として、「資産移転の時期の選択に中立的な制度を構築する方向で検討を進める」としている。 現在、子育て、教育、住宅の3分野で租税特別措置として導入されている贈与税の非課税措置が、家族内の非課税での資産承継を対象としていることから、「格差の固定化」につながりかねず、また「老老相続」が進む中、資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税、つまり早い段階での資産承継に対する税のあり方について検討していきたいというものであろう。 この点については昨年10月の政府税制調査会の資料で、「シャウプ勧告に基づく制度」として、生涯にわたる累積贈与額と相続財産の額に対して、相続税を一体的に課税する「累積課税制度」が紹介されており、今後の大きな議論が予想される。 *  *  * わが国の経済社会はめまぐるしく変化をしている。その変化に翻弄されることのないような税・社会保障の議論が望まれる。 (了)

#No. 305(掲載号)
#森信 茂樹
2019/02/07

〔平成31年3月期〕決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第1回】「所得拡大促進税制の見直し(改組)」

〔平成31年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第1回】 「所得拡大促進税制の見直し(改組)」   公認会計士・税理士 新名 貴則   平成30年度税制改正における改正事項を中心として、平成31年3月期の法人税申告においては、いくつか注意が必要なポイントがある。その中の主なものの概要を、4回に分けて解説する。 【第1回】は、大企業及び中小企業者等それぞれの「所得拡大促進税制の見直し(改組)」について、平成31年3月期決算において留意すべき点を解説する。   1 所得拡大促進税制の見直し(大企業) 所得拡大促進税制とは、青色申告書を提出している法人が給与等支給額を一定以上増加させた場合に、その増加額の一定割合について税額控除が認められる制度である。ただし、当期の法人税額に一定の割合を乗じた金額が、控除限度額となる。 平成30年度税制改正において、この所得拡大促進税制の見直し(改組)が行われた。対象を中小企業者等とそれ以外(大企業)に区分し、それぞれ見直しを行っている。大企業に対しては設備投資の要件を追加し、「賃上げ・投資促進税制」(中小企業者等も選択適用可能)として改組しているので、まずはこちらを解説する。 ① 要件の見直し 次のように要件の見直しが行われている。 給与等支給額 給与等支給額が、基準事業年度と比較して一定率以上増加していなければならないとする要件は廃止。 継続雇用者に対する給与等支給額が、前事業年度と比較して3%以上増加していることが必要。 設備投資額 新たに設備投資額の要件を設定。当事業年度の国内設備投資額が、減価償却費総額の90%以上であることが必要。 ② 控除税額の見直し 次のように控除税額の見直しが行われている。 控除率 給与等支給額の増加額(前事業年度との比較)に15%を乗じた金額を、法人税額から控除。 控除限度額 当事業年度の法人税額の20%(改正前10%)に引上げ。 この改正は平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるため、平成31年3月期決算申告には適用されることになる。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※1) 3月決算法人の場合は平成25年3月期が該当する。 (※2) 継続雇用者の範囲が改正され、「当事業年度と前事業年度のすべての月の給与等の支給を受けた国内雇用者」とされた。 (※3) 教育訓練費の額 ≧ 比較教育訓練費(前期及び前々期の教育訓練費の年平均額)× 120%   2 所得拡大促進税制の見直し(中小企業者等) 平成30年度税制改正における所得拡大促進税制の見直しの中でも、中小企業者等を対象とした見直しについて解説する。 なお、中小企業者等であっても、「1 所得拡大促進税制の見直し(大企業)」で解説した「賃上げ・投資促進税制」の方を選択して適用することも可能である。 ① 要件の見直し 次のように要件の見直しが行われている。 給与等支給額 給与等支給額が、基準事業年度と比較して一定率以上増加していなければならないとする要件は廃止。 継続雇用者に対する給与等支給額が、前事業年度と比較して1.5%以上増加していることが必要。 設備投資額 大企業とは異なり、設備投資に関する要件はなし。 ② 控除税額の見直し 次のように控除税額の見直しが行われている。 控除率 給与等支給額の増加額(前事業年度との比較)に15%を乗じた金額を、法人税額から控除。 控除限度額 当事業年度の法人税額の20%から変更なし。 この改正は平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるため、平成31年3月期決算申告には適用されることになる。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※1) 3月決算法人の場合は平成25年3月期が該当する。 (※2) 継続雇用者の範囲が改正され、「当事業年度と前事業年度のすべての月の給与等の支給を受けた国内雇用者」とされた。 (※3) 上乗せ要件を満たす場合のみ。 (了)

#No. 305(掲載号)
#新名 貴則
2019/02/07

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例2】「役員に対する土地建物の現物支給」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例2】 「役員に対する土地建物の現物支給」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 わが社はある地方都市において建設業を営む株式会社(3月決算)です。わが社は創業者であるB前会長が先日退任した際に、役員退職慰労金規定に基づき、役員退職慰労金を支給しましたが、その全額につき現金を用意することができなかったため、その一部を土地及び建物(B前会長の自宅)で現物支給することとなりました。その際わが社は、土地及び建物は帳簿価額(合計3,000万円)で評価し、その金額と現金支給額(7,000万円)の合計額(1億円)を役員給与として損金経理しました。 ところが、この度受けた税務調査において、課税庁は、他の課税所得が増額となる指摘事項とともに、役員退職慰労金のうち土地及び建物はその時価相当額(合計1億5,000万円)で評価すべきことを指摘しましたが、そうなると時価と簿価との差額部分1億2,000万円相当額については追加で損金算入すべきこととなり、結果として調査による増差所得は大幅に減少することとなります。しかし課税庁は、当該差額部分については損金経理が行われていないとして、損金算入はできないと主張しています。 仮に、現物支給した土地建物部分については時価相当額で評価すべきという課税庁の指摘が正しいとしても、現金ではなく土地建物という現物そのものを全部、役員退職慰労金として支給したことには変わりがないのであり、それを損金経理したのであるから、その意思表示を尊重し、いわば時価相当額を損金経理したものとみなして処理するのが相当であるため、本件については全額の損金算入が認められるべきと考えます。わが社の場合、課税庁の指摘にどのように対処すべきでしょうか、教えてください。 〇役員退職慰労金と現物支給   【A】 法人が役員退職慰労金として現物支給した土地及び建物については、時価評価により損金に算入すべき金額を決定すべきとなりますが、損金経理した金額が時価より低い帳簿価額に過ぎない場合であっても、現行法人税法においては役員退職給与につき損金経理要件は撤廃されたことから、更正の請求により、土地建物の時価と帳簿価額との差額は「不相当に高額」でない限り損金に算入されるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 役員退職慰労金と損金算入 法人税法上、役員退職慰労金は役員給与(役員退職給与)に該当するものとされている。平成18年度の税制改正前は、役員退職給与の額のうち、損金経理しなかった金額及び損金経理した金額のうち不相当に高額な部分の金額は、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されなかったところである(旧法法36)。 しかし、平成18年度の税制改正で、役員退職給与の課税のあり方が見直され、役員の職務執行の対価としての性格を有する点で役員給与と同じであることや、会社法において利益処分による支給ができないこととされたこと等を踏まえ、従来の損金経理要件が廃止された。この点は平成18年度改正前の法人税法の規定につき、後述(2)の東京山手青果事件控訴審(東京高裁平成8年3月26日判決・税資215号1114頁)判決で、「法人税法は、法人の役員に対する退職給与について、それが報酬の後払い的性格のほかに功労報償的なもの、つまり賞与的性格をも併有する点に鑑み、損金経理により報酬の後払いであることを要件に退職金の損金控除性を認めている」と判示されている。改正前の役員退職給与は利益処分である賞与(損金不算入)としての性格をも有していたことから、損金算入を認める要件として、損金経理要件が課されていたというのである。 一方で、役員退職給与のうち、不相当に高額な部分の金額は損金不算入であるという「不相当に高額」要件は、改正後も引き続き存続している(法法34②)。ここでいう「不相当に高額」な部分の金額とは、政令で以下の通り定められている(法令70二)。 すなわち、平成18年度税制改正以降における法人税法上の役員退職給与の取扱いは、以下の図の通りである。 〇役員退職給与の法人税法上の取扱い なお、平成29年度の税制改正で、退職給与で利益その他の指標(功績倍率法によるものを除く)を基礎として算定されるもののうち、業績連動給与(旧利益連動給与)の損金算入要件(法法34①三)を満たさないものは、その全額が損金不算入とされた(法法34①)。これは、平成18年度の改正後、役員退職給与は原則全額損金算入とされたものの、近年、役員退職給与についても業績に連動した指標を基礎として支給されるものが登場し、退職を基因として支給するか否かで損金算入要件が大きく異なるのは制度として不整合といえるため、業績連動給与の損金算入要件を満たさないものは損金不算入とされたものである(※1)。 (※1) 財務省『平成29年度税制改正の解説』307頁。   (2) 現物資産による役員退職金支給と損金経理 上記(1)で見た通り、現行の法人税法においては、役員退職給与には損金経理要件はなく、「不相当に高額」な部分を除き全額損金算入される。 この点につき、平成18年度の税制改正前の法人税法に係る事案で、現物資産による役員退職金の支給と損金経理との関係が争われたものがある(東京山手青果事件)。当該事案においては、原告である法人が、その前代表者に対して退職慰労金の一部として土地建物を現物支給し、当該土地建物を帳簿価額(土地の簿価:2,500万円、建物の簿価:159万6,659円)で損金経理していたが、その後の税務調査において課税庁は、土地の評価額は簿価ではなく時価(1億6,053万4,360円)を用いるべきであるにもかかわらず、時価と簿価との差額部分は法人が損金経理を行っていなかったとして損金算入を否認したことから、法人が更正処分の取消しを求めて提訴した。 一審(東京地裁平成6年11月29日判決・税資206号449頁)において裁判所は、 と判示して、原告の主張を斥けた。当該判断については、もともと法人税法が退職金について損金経理を要求するのは、簿外資産からの支出を認めないという趣旨であり、本件のような含み益があるものの支給についての経理方法まで規制するものではない、という批判がある(※2)。 (※2) 武田昌輔「プロからの税務相談」『T&A master』115号(2005年5月23日号)参照。 また、当該事案の控訴審(東京高裁平成8年3月26日判決・税資215号1114頁)において裁判所は、 と判示して、法人の主張を再度斥けている。 なお、上記高裁の判断は最高裁においても維持されている(最高裁平成10年6月12日判決・集民188号619頁・税資232号600頁)。   (3) 平成18年度税制改正後の現物支給役員退職給与と損金経理 平成18年度税制改正後の法人税法においては、役員退職給与について損金経理要件は撤廃されている。したがって、上記(2)の裁判例の判示は本件の射程外となる。それでは、現行法人税法の下では、本件はどのように解することとなるのであろうか。 法人が役員退職慰労金として現物支給した土地及び建物については、時価評価により損金に算入すべき金額を決定すべきとなるが、当初申告において損金経理した金額が時価より低い帳簿価額に過ぎない場合であっても、現行法人税法においては役員退職給与につき損金経理要件は撤廃されたことから、更正の請求により、土地建物の時価と帳簿価額との差額は「不相当に高額」でない限り損金に算入されるものと考えられる。 現物財産の評価額は客観的に算定可能であり、内部取引とはいえず恣意性の排除(※3)も考慮する必要がないことから、損金経理の問題とはならないのは当然といえるだろう。そう考えると、改正前の規定において損金経理を要求していた理論的根拠(役員退職給与の賞与的要素?)は、必ずしも適切ではないといえる。法人税法における損金経理要件の理論的根拠については、今後も問われていくことになるであろう。 (※3) 酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅱ』(中央経済社・2016年)135頁参照。 (了)

#No. 305(掲載号)
#安部 和彦
2019/02/07

租税争訟レポート 【第41回】「太陽光発電設備の減価償却をめぐる問題(国税不服審判所平成30年3月27日裁決、同6月19日裁決)」

租税争訟レポート 【第41回】 「太陽光発電設備の減価償却をめぐる問題 (国税不服審判所平成30年3月27日裁決、同6月19日裁決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国の再生可能エネルギー転換政策への後押しもあって、一時期、太陽光発電事業への参入がブームとなっていたこともあり、近時の公表裁決事例でも、太陽光発電設備に関係した裁決が多く取り上げられている。 太陽光発電設備を設置してから、電力会社への供給を開始するためには、発電設備を商用電力系統に接続することを意味する「系統連系」が必要であり、一般的には、系統連系が実施された日である売電が可能となった日をもって、「事業の用に供した日」と判断されている。 本稿では、こうした太陽光発電設備の減価償却をめぐる問題について、2つの公表裁決事例を参考に、検討を行いたい。 〈事案その1〉   【事案の概要】 本件は、審査請求人が、太陽光発電設備等を取得した事業年度において当該設備等に係る償却費の額を損金の額に算入して法人税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該設備等は当該事業年度において事業の用に供していないから当該設備等に係る償却費の額を損金の額に算入することはできないなどとして、法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 争点のうち、国税不服審判所は、[争点2]に掲げる太陽光発電設備等を囲むフェンス等については、売電事業が行われる前であっても、事業の用に供していたとして、フェンス等に係る減価償却費の損金算入を認めたため、本稿では、この[争点2]に絞って、審判所の判断の過程を検討したい。   【フェンス等は事業年度内に事業の用に供したと認められるか否か[争点2]】 国税不服審判所の事実認定に基づいて、請求人による太陽光発電事業への参入から売電開始までを時系列でまとめておく。 以上の事実認定から、国税不服審判所は、[争点1]においては、発電システム本体に係る系統連系のための工事が完了して系統連系が行われたのは平成28年9月28日であり、減価償却費の損金算入が争点となった事業年度の末日(平成28年3月31日)において、電気事業者へ売電していなかったのであるから、発電システム本体は、当該事業年度内にその属性に従ってその本来の目的のために使用を開始したとは認められないことから、請求人の主張を斥ける判断を行っている。 それでは、発電システムを囲うフェンス等について、事業の用に供した日はいつであると認定したのか、当事者の主張及び審判所の判断を見ておきたい。 1 原処分庁の主張 フェンス等は、平成28年3月28日までに工事を完了し、請求人に引き渡されていると認められるものの、①請求人は、フェンス等を含む発電所が生産性の向上に資する設備であることの確認を受けていること、②フェンス等は、単独では生産活動等の用に直接供される減価償却資産とは認められないことから、請求人は、フェンス等を生産活動等の用に直接供される本件発電システム本体と一体として取得し、一体として事業の用に供したものとみるのが相当であることから、フェンス等は、発電システム本体の事業供用日である平成28年9月28日に事業の用に供したものであるから、平成28年3月31日に終了する事業年度内に事業の用に供したとは認められない。 2 審査請求人の主張 フェンス等は、隣地との境界を画するとともに、発電所に対する不法侵入又は動物などによる侵害を防いで発電設備の財産的価値を維持するために設置されたものであるから、引渡日から、その属性に従って本来の目的のために使用を開始したと認められるため、フェンス等は平成28年3月31日に終了する事業年度内に事業の用に供したものである。 3 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、フェンス等の構造について、最上部に有刺鉄線を有する高さ約2メートルの金属製の構築物であり、本件発電設備が設置されている敷地部分を囲む形で、本件発電所とその隣地及び道路との境界に沿って敷設されており、発電所は、田畑、雑木林及び道路に囲まれて周辺に民家等はなく、本件フェンス等以外に本件発電所内への立入りを遮蔽する構築物はないと事実認定を行った。 そのうえで、平成29年3月に資源エネルギー庁が策定した「太陽光発電に関する事業計画策定ガイドライン」を引用する形で、発電設備によって第三者が感電等により被害を受けるおそれがあることなどから、危険防止のために発電設備の周辺に柵や塀などを設置し、容易に第三者が発電設備に近づくことができないよう適切な措置を講ずる必要があること、太陽光発電所においてケーブルやその他の発電設備の一部が盗難に遭うなどの被害が報告されていることなどを挙げた。 そして、生産等設備が複数の減価償却資産によって構成され、それらの資産がそれぞれ特定生産性向上設備等に該当する場合においても、それぞれの減価償却資産ごとに、事業の用に供した日を判断すべきであるという一般論を述べたうえで、本件フェンス等は、発電システム本体から物理的に独立した構築物であり、発電、変電及び送電といった機能はなく、発電システム本体と一体となって売電のための機能を果たすものでもないこと、外部からの侵入等を防止することにより発電システム本体を保護することをその属性に従ってその目的のために設置され、使用されたことが認められることから、発電システム本体とフェンス等は、物理的にも機能的にも一体とはいえないため、別個の減価償却資産であると認定して、フェンス等は、引渡日から、その属性に従ってその本来の目的のために使用を開始されたと認めるのが相当であると判断し、原処分庁の主張を斥けた。 *  *  * 〈事案その2〉   【事案の概要】 審査請求人は、太陽光発電設備を取得した事業年度において、同設備に係る償却費の額を損金の額に算入して法人税の確定申告をした後、同設備を当該事業年度内に事業の用に供していなかったことから当該償却費の額を償却超過額として修正申告するとともに、翌事業年度に電力の供給を開始して同設備を事業の用に供したことから、当該翌事業年度の法人税について、同設備に係る償却費の額を損金の額に算入すべきであるとして更正の請求を行った。 これに対して、原処分庁が、同設備を事業の用に供した当該翌事業年度において償却費の損金経理額はないとして当該更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分及び欠損金の損金算入額が過大であるなどとして各更正処分等を行った。本件は、請求人が、当該翌事業年度において、前期から繰り越した償却超過額の認容額として損金の額に算入すべきであるとして原処分の一部の取消しを求めた事案である。   【請求人の主張する償却額は平成27年3月期の損金の額に算入できるか否か】 本事案でも、はじめに、国税不服審判所による事実認定に基づいて、請求人による、太陽光発電事業への参入から電力会社への売電開始までを、時系列に沿ってまとめておきたい。 1 審査請求人主張 審査請求人は、まず、本件発電設備は、平成27年3月期に事業の用に供したことにより、売電収入が発生しているため、請求人が主張する減価償却額(以下「請求人主張償却額」という)を損金の額に算入しないのは、費用収益対応の原則を法人税法が否定することになるから、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に反すると主張した。 また、平成26年3月期償却費計上額は、請求人が国の再生エネルギー導入拡大に資する趣旨をくみ取り、多額の設備投資を行ったことにより生じたものであることからすれば、平成26年3月期に取得した減価償却資産から生じた償却超過額と認められるべきであるから、請求人主張償却額は、平成27年3月期以後において、前期から繰り越した償却超過額の認容額として損金の額に算入することができるとして、請求人が主張する減価償却額は、平成27年3月期の損金の額に算入できると主張した。 2 原処分庁の主張 これに対して、原処分庁は、本件発電設備は、電力会社に対して電力を供給し、事業の用に供した平成27年3月期において、減価償却資産に該当することになるのであり、平成26年3月期においては減価償却資産には該当しないことから、平成26年3月期償却費計上額は、減価償却資産に該当しない資産について償却費を計上したことになり、平成26年3月期における償却超過額が存在しないことになるから、平成27年3月期において、請求人主張償却額を損金の額に算入することはできないと主張した。 また、特別償却費についても、本件発電設備を事業の用に供した日の属する事業年度に限って適用されることから、請求人は、本件発電設備を事業の用に供した平成27年3月期の確定申告時において、特別償却の適用を受けていないため、平成27年3月期の更正の請求において、請求人主張償却額を所得金額から減算することは認められないとした。 3 国税不服審判所の判断 こうした当事者の主張を受けて、国税不服審判所は、まず、発電設備について、平成26年10月3日以降に、電力会社に対する電力の供給が開始されたことから、本件発電設備を事業の用に供した日は同日以降であると認められ、平成26年3月期終了の時においては事業の用に供されていないから、本件発電設備は、平成26年3月期終了の時において有する法人税法上の減価償却資産に該当しないと認定した。 そうすると、平成26年3月期償却費計上額については、平成26年3月期において償却費として損金経理していたとしても、減価償却資産に該当しない資産に係るものであるから、減価償却資産に係る損金経理額に該当しない。また、平成26年3月期償却費計上額は、平成26年3月期において本件発電設備を事業の用に供していなかったことから、資産として計上すべきところを償却費として損金の額に算入していたため損金不算入額として平成26年3月期の所得金額に加算されたにすぎず、平成26年3月期における法人税法上の減価償却資産に係る償却超過額にも当たらない。 以上の事実認定から、国税不服審判所は、審査請求人の平成26年3月期償却費計上額は、平成27年3月期において、償却超過額には該当せず、平成27年3月期の損金経理額に含まれないことになるため、本件発電設備に係る損金経理額はないことから、請求人主張償却額は、平成27年3月期の損金の額に算入することはできないと判断して、審査請求人の主張を斥けた。   【解説】 どちらの事案も、請負工事の完了予定日が決算期末である3月31日までに設定されているように、こと事業開始初年度に関しては、太陽光発電事業による営利目的というよりは、減価償却費を損金の額に算入することによる節税効果を狙っていることは明らかである。ところが、電力会社との間の系統連系に係る工事が翌事業年度にずれ込み、太陽光発電設備を購入した事業年度では、減価償却費を損金の額に算入することが認められないこととなった。 電力会社への売電事業が始まる前の事業年度において太陽光発電設備に関する減価償却費の計上が認められないことは言うまでもないことである。しかし、その一方で、発電設備に付属する資産の属性によっては、売電事業開始前であっても事業の用に供していることが認められる場合もあること(平成30年6月19日裁決)や事業の用に供していない資産に係る減価償却費の計上は、償却超過額ではなく、資産として計上すべきところを償却費として損金の額に算入していたため損金不算入額となること(平成30年3月27日裁決)など、国税不服審判所の示した判断は、太陽光発電設備を設置してから売電事業を開始するまでの間に、事業年度終了の日が到来する場合の減価償却費の計算について、示唆に富んだものであると評価できよう。   (了)

#No. 305(掲載号)
#米澤 勝
2019/02/07

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第66回】「請負に関する契約書⑥(住宅リフォーム工事申込書)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第66回】 「請負に関する契約書⑥(住宅リフォーム工事申込書)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は住宅リフォーム工事業者です。 住宅リフォーム工事の申込みがあった場合、申込者から申込書を記入してもらいます。申込書は2枚複写で1枚目は当社用、2枚目は申込者控え用となっており、申込者控え用については契約担当者が署名・押印のうえ申込者に交付していますが、課税文書に該当しますか。 (1枚目:会社用) (2枚目:申込者控え)   1枚目の会社用は不課税文書に該当する。2枚目の申込者控えについては記載金額300万円の第2号文書(請負に関する契約書)に該当し、印紙税額は軽減税率適用の500円となる。   [検討1] 申込書は印紙税法上の契約書に該当するか 通常、契約の申込みの事実を証明する目的で作成される単なる申込書については契約書には該当しないが「申込書」等と表示されたものであっても、相手方の申込みに対する承諾の事実を証明する目的で作成されるものは、契約書に該当する。 事例の住宅リフォーム工事申込書の会社用については、住宅リフォーム約定事項第3条において、別途リフォーム工事請負契約書を作成することとされており、申込みにより自動的に契約が成立することとなっていないため、契約書には該当しない。 また、申込者控えについては会社用と同様の状態で渡すこととすれば、会社用と同様に、契約書には該当しない。しかし、事例の場合は、申込者からの申込みに対して、リフォーム会社の担当者が押印して交付しているものであり、相手方の申込みに対する承諾の事実を証明するものとなり、契約書に該当する。 [検討2] 申込金の受領について第17号文書(金銭の受取書)に該当しないか 契約書に記載された金額であっても、契約金額とは認められない内入金額などは記載金額に該当しないが、内入金額であっても、内入金額の受領事実が記載されている場合には、第17号の1文書(売上代金に係る金銭の受取書)に該当することとされている(基通第28条)。 事例の場合は、申込書中に申込着手金5万円の領収済印を押しており、受領事実が記載されていることから、第17号の1文書に該当する。 [検討3] 第2号文書と第17号文書に該当した場合の所属は 第17号文書に該当する申込着手金5万円が第2号文書の記載金額である工事予定額300万円より少ないので、通則3のイの規定により、第2号文書に該当する。 ▷まとめ 事例の申込者控えについては、申込者からの申込みに対して、受注者であるリフォーム会社の担当者が内容を確認のうえ、承諾印を押印し申込者へ交付するものであり、単なる申込書控えではなく、契約の事実を証明する目的で作成されるものと認められることから、印紙税法上の契約書に該当し、第2号文書と第17号文書に該当するが、通則3のイにより第2号文書に該当する。   (了)

#No. 305(掲載号)
#山端 美德
2019/02/07
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