《速報解説》 国税庁、「インボイス制度に関して多く寄せられるご質問」を更新、 クレジットカード決済のタクシーチケットについては 回収特例を適用可との見解を示す Profession Journal編集部 国税庁は3月18日付けで、先月29日に続き「インボイス制度に関して多く寄せられるご質問」を更新、新たに下記2問を追加した。 【令和6年3月18日公表分】 新設された問㉕では、クレジットカード会社が発行しているタクシーチケットについて、「タクシー事業者等が発行しているものとは異なり、クレジットカード利用明細書しか送られてこず、また、タクシーチケット自体、取引先等に手交していることから、タクシーを利用した際に交付を受ける適格簡易請求書の保存をすることもできない」との質問に対し、「クレジットカード会社が発行しているタクシーチケットについては原則としてタクシー事業者から受領した適格簡易請求書の保存が必要となる」としつつ、「タクシーチケットは取引先等に手交されることも多いことを踏まえれば、適格簡易請求書の保存が困難といった事情があると考えられる」ことから、使用の際に回収される入場券等と同様の取扱い(いわゆる「回収特例」(消令49①一ロ))が適用できるとの見解を示した。 具体的には、受領したクレジットカード利用明細書及び以下の資料に記載された内容等に基づき、利用されたタクシー事業者が適格請求書発行事業者であることが確認できる場合には、適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている証票が使用の際に回収される取引として、帳簿のみの保存により仕入税額控除の適用を受けることができるとしている。 また問㉖では、毎月末に使用料等を受領し領収書を発行している免税事業者(資産の貸付けの他、棚卸資産の譲渡及び役務の提供を行っている)が、月の途中に適格請求書発行事業者の登録を受けた場合で、上記の3つの取引の態様ごとに、適格請求書の交付義務の有無について解説している。 なお同日には「銀行振込手数料のインボイス対応」についての動画もアップされており、「ETC対応」「立替金精算」と合わせ3つの動画が国税庁動画チャンネル(YouTube)で公開されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
令和4年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和4年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2024年3月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.560を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第129回】 「消費税法上の実質行為者課税の原則(その2)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅱ 実質所得者課税の原則 1 形式と実質 消費税法13条《資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定》1項は、「法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、この法律の規定を適用する。」と規定する。 所得税法や法人税法においては「実質所得者課税の原則」という表現が採られているが、この点、金子宏東京大学名誉教授は消費税法13条については、「実質行為者課税の原則」と表現されている(※1)。 (※1) 金子宏『租税法〔第24版〕』830頁(弘文堂2021)。 金子教授は、「消費税においても、課税物件の帰属、すなわち、資産の譲渡等をしたのは誰か、特定仕入れをしたのは誰か、または外国貨物を保税地域から引き取ったのは誰かについて疑義が生ずることが少なくない。」ため、この点について、「消費税法13条1項は、所得税法12条、法人税法11条等の例にならい」実質行為者課税の原則を規定しているとされる(※2)。また、この規定は、「資産の譲渡等または特定仕入れの帰属について、名義と実体、形式と実質が一致しない場合の判定基準として、いわゆる実質行為者課税の原則を定めたものである。この規定の意義についても、法律的帰属説と経済的帰属説とがありうるが、法律的帰属説が妥当である。」と説明される(※3)。 (※2) 金子・前掲(※1)、830頁。 (※3) 金子・前掲(※1)、830頁。 ここでは、誰が実質的な行為者かを判断する基準としての意味が消費税法13条にあると述べられるのであろう。ここにいう「行為者」とは、消費税法に特有の意味を有すると思われるところ、「資産の譲渡等を行った者」としての意味が付与されていると解される。この点が、所得税法や法人税法とは建付けが異なる点である。 すなわち、所得税法や法人税法は、行為をした者(行為者)に着目するのではなく、何らかの原因に基づいて結果的に利益を享受した者に課税をするという法律構成を採用しているのに対し、消費税法は、資産の譲渡等を行った者(行為者)に対して課税をするという点で、その構成を異にしているのである。 2 原因・結果アプローチ 所得税法12条と法人税法11条は、それぞれ次のとおり規定する。 これらの条文は「実質所得者課税の原則」と呼ばれているが、かかる規定の解釈について、原因と結果に分けて考えてみたい(原因・結果アプローチ)。 所得税法や法人税法における実質所得者課税の原則では、長い間、経済的帰属説と法律的帰属説の対立があった。 すなわち、課税物件の法律上(私法上)の帰属と経済上の帰属が相違している場合に、経済上の帰属に即して課税物件の帰属を判定すべきと解する立場が「経済的帰属説」と呼ばれるものである(金子・前掲(※1)、182頁)。これに対して、課税物件の法律上(私法上)の帰属につき、その形式と実質とが相違している場合に、実質に即して帰属を判定すべきであるという趣旨として実質所得者課税の原則を理解する考え方を「法律的帰属説」と呼ぶ(同182頁)。これらのうち、法律的帰属説が判例・通説の採用するところであるといえよう。 この両者の対立を考えてみると、通説である法律的帰属説は、例えば資産性所得などの場合には、資産の所有者を判定した上で、資産から生じる果実であれば法律的にはかかる資産の所有者にこそ果実の収受権があるとして所得の帰属を考えるのであるから、いわば原因(行為)側に着眼をする考え方であるということができる。 また、勤労性所得などの場合には、何らかの経済的行為によって所得が発生することになる。例えば、給与所得は労務提供の対価であるから、その所得の発生原因は労働力の提供にある。されば、法律的には労働力の提供を行った者にこそ対価の収受権があると考えられるから、原則として、原因行為を行った者を認定することによって所得の帰属を考えることができよう。 これに対して、経済的帰属説を採用する立場からすれば、それが資産性所得であるとしても、その資産の所有者が誰であるかが問題となるのではなく、所得税法12条や法人税法11条が規定するとおり、「享受」をした者が誰なのかにこそ関心を寄せるべきことになる。つまり、資産の所有者に拘泥する必要はなく、実際の収益の享受者にこそ所得が帰属したものと解すべきであるという考え方である。これは、法律的帰属説が原因(行為)に着目するのに対して、収益の発生、さらにその先にあるかかる収益の享受という結果に着目した考え方であるということができよう。 このような観察方法が妥当するとした場合、これを消費税法上の実質行為者課税の原則になぞらえて考えると、同法における実質性は原因(行為)の方に着眼した原則であるとみることができるのではなかろうか。 すなわち、消費税法は、所得課税法よりも、さらに原因ないし「行為」という点に重きを置いていることは、課税対象を「課税資産の譲渡等」としていることからも判然としよう。かような意味において、金子教授が消費税法上の実質帰属の問題を「実質行為者課税の原則」と銘打っているのは、この点を明確に表す表現であるとみることができよう。 (続く)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第24回】 「国税通則法68条(69条)」 -附帯税(3) 重加算税の「隠蔽・仮装要件」- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法68条(重加算税) 1 重加算税の意義と趣旨 重加算税(税通68条)は、過少申告加算税(同65条)、無申告加算税(同66条)及び不納付加算税(同67条)の各賦課要件に該当する場合(自発的修正申告、自発的期限後申告又は自発的納付の場合を除く。前回4(1)参照)において、納税者が「その額の計算の基礎となる税額の属する税目の国税」(同69条)の課税標準等又は税額等(同19条1項柱書参照)の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を「隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき」(以下「隠蔽・仮装要件」という)納税申告書を提出し、法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定納期限までに租税を納付しなかったときは、これらの加算税に「代え」より大きな賦課割合で課される金銭的負担であり、それぞれの場合に応じて過少申告重加算税ないし重過少申告加算税、無申告重加算税ないし重無申告加算税、不納付重加算税ないし重不納付加算税と呼ばれる。 重加算税の趣旨については、判例上、一方で、刑罰との区別の観点から次の理解(最判昭和45年9月11日刑集24巻10号1033頁。下線筆者)が確立されている(谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第32回Ⅲ参照)。 他方で、過少申告加算税の趣旨に関する確立された次の判示(最判平成18年4月20日民集60巻4号1611頁。以下「平成18年最判」という。下線筆者。前回2参照)の中で、「主観的責任の追及という意味での制裁的な要素」に着目した理解が示されている。 これらの理解によれば、国税通則法68条に規定する重加算税は、「違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科せられる刑罰」ではなく、「同法65条ないし67条に規定する各種加算税を課すべき納税義務違反」に対する行政上の制裁として課される行政罰であるが、ただ、上記の「主観的責任の追及という意味での制裁的な要素」は同法65条ないし67条に規定する各種加算税に比して多いものである、といってよかろう。 このような理解の系として、重加算税は、「故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁」ではなく、これの賦課には、「納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない」と解されている(最判昭和62年5月8日訟月34巻1号149頁)。 この点において、逋脱犯(狭義の脱税犯)の構成要件(所税238条1項・239条1項、法税159条1項、相税68条1項、消税64条1項等)に規定する「偽りその他不正の行為」が、「逋脱の意図をもつて、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行なうこと」(最大判昭和42年11月8日刑集21巻9号1197頁)をいうのとは明確に異なる。 なお、平成28年度税制改正により、納税者が過去5年間という短期間に無申告又は隠蔽・仮装を繰り返した場合には、重加算税の賦課割合が10%加重されることとされたが(税通68条4項。前回3(3)参照)、この加重措置は、重加算税の「主観的責任の追及という意味での制裁的な要素」をより多く盛り込んだものであり、累犯加重(刑法57条・59条)的発想に基づく「厳罰化」の一環として位置づけられるべきものである。 また、酒税等の間接国税(消費税を除く)については、平成29年度税制改正前は、申告納税方式(税通16条1項1号)が適用される国税であるにもかかわらず、通告処分の対象とされ、重加算税は適用しないこととされていたが(同改正前税通68条5項)、同改正により、国税犯則取締法の廃止及び国税通則法(第11章)への編入に伴い、通告処分の対象外とされ(税通157条1項。同156条1項柱書括弧書参照)、重加算税が適用されることとなった(同68条1項・2項・4項)。この改正について財務省「平成29年度税制改正の解説」1027-1028頁は次のとおり解説している。 2 隠蔽・仮装要件その1-事実の隠蔽・仮装の意義 隠蔽・仮装要件にいう事実の隠蔽・仮装という不正手段の意義については、「事実の隠蔽は、二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入若しくは架空経費の計上、たな卸資産の一部除外等によるものをその典型的なものとする。事実の仮装は、取引上の他人名義の使用、虚偽答弁等をその典型的なものとする」(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)833頁。金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)914頁も参照)と解説されているが、一般論としては、「法68条1項の隠ぺい行為等とは、納税者の取引状況などの所得を基礎づける事実を隠ぺい又は仮装するなど申告納税主義の趣旨を没却する行為をいうと解するのが相当である。」(神戸地判平成5年3月29日民集49巻4号1261頁)といってよかろう。 ただし、上掲神戸地判の上告審・最判平成7年4月28日民集49巻4号1193頁(以下「平成7年最判」という)は、重加算税制度の趣旨に鑑み、下記のとおり判示し(下線筆者)、隠蔽・仮装につき「架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為」までは要件でない旨を説示している。 なお、課税実務では、「申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて」(平成12年7月3日課所4-15ほか3課共同)、「法人税の重加算税の取扱いについて」(平成12年7月3日課法2-8ほか3課共同)など税目ごとに重加算税の取扱いに関する事務運営指針の中で、仮装・隠蔽に該当する事実(「不正事実」)が例示されている(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)3637の2頁以下参照)。 3 隠蔽・仮装要件その2-隠蔽・仮装行為主体 隠蔽・仮装の行為主体は、国税通則法68条の規定上は「納税者」と定められているが、納税者以外の者が隠蔽・仮装を行った場合においても納税者本人に対する重加算税の賦課が認められるかどうかという問題(隠蔽・仮装の行為主体問題)が以前から議論されてきた(その問題に関する筆者の検討について詳しくは谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第33回参照)。その問題に関するリーディング・ケースである大阪地判昭和36年8月10日行集12巻8号1608頁がこれを肯定して以来、下級審で数多くの判断が示され学説でも様々な議論がされてきたが、判例の立場は、平成18年最判の下記の判示(下線筆者)で確立された。 ここでは、納税者以外の者の行為を納税者本人の行為と「同視」することができるという考え方を重加算税制度の趣旨・目的から導き出しているが、平成18年最判は、これに引き続き、「納税者が税理士に納税申告の手続を委任した場合についていえば」として、「同視」することができる場合とできない場合を次のとおり判示している(下線筆者)。 4 隠蔽・仮装要件その3-つまみ申告・殊更の過少申告 隠蔽・仮装要件は、文理上は、①納税者が事実の隠蔽・仮装をすることだけでなく②「その隠蔽し、又は仮装したところに基づき」納税申告書を提出することをも定めているが、上記の①と②との関係をめぐっていわゆるつまみ申告の隠蔽・仮装要件該当性が問題とされてきた(その問題に関する筆者の検討について詳しくは谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第32回参照)。つまみ申告とは、「主に課税実務で用いられている言葉で、納税者が自己の所得の一部を抽出して(つまんで)、税額を過少に申告すること」をいい(小貫芳信「判批」法務省訟務局内行政判例研究会編『平成6年行政関係判例解説』(ぎょうせい・1995年)110頁、112頁)、「殊更の過少申告」と呼ばれることもある(川神裕「判解」最判解民事篇(平成6年度)586頁、589-590頁等参照)。 つまみ申告の隠蔽・仮装要件該当性については、同要件の文理を重視し前記の①と②とを別個の要件とみてこれを否定する消極説も説かれることがあったが、課税実務や判例はこれを肯定する積極説の立場を採ってきた(この議論については差し当たり川神・前掲「判解」594-597頁参照)。そのような状況の下で、大阪高判平成5年4月27日訟月40巻4号856頁が、消極説の立場から次のとおり判示し(下線筆者)、「大きな話題」(岩橋健定「判批」法学協会雑誌114巻4号(1997年)462頁、467頁)となった。 この判断を受けて、最高裁はこの問題にいわば本腰を入れ、最判昭和52年1月25日訟月23巻3号563頁や最判昭和63年10月23日税資166号370頁のような単なる原審判断是認のいわゆる例文判決ではなく、最判平成6年11月22日民集48巻7号1379頁(以下「平成6年最判」という)で当該事案の事実関係の下で「真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図」に着目して積極説の立場に立つ判断を示した。 平成6年最判については、「本判決は、一般論を示しておらず、消極説を採用しなかったことは明らかであるが、・・・・・・、少なくとも、本判決が、外形的、客観的に隠ぺいの意図の表れと明らかに認められる行動を挙示した上、これらの行動からすれば、当初から真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図をもって作為的な虚偽申告をし、事後的にもその意図を貫こうとする行動をとっているという評価がされざるを得ないことを重視して、重加算税の賦課要件を満たすと判断していることは明らかである。」(川神・前掲「判解」604-605頁。下線筆者)と解説されている。 しかし、平成6年最判に対しては、「事実関係から総合判断されるのは、実質的には、隠ぺい行為ではなく、隠ぺいの意図なのである。」(岡村忠生「判批」民商法雑誌113巻1号(1995年)96頁、109頁)、「この『確定的な意図』を『総合判断』する過程では、過少申告行為の背後にある主観的状況が間接事実として無限定に取り込まれ、最終的には、税法の遵守意識、税務行政への不信感や反感、公徳心や租税倫理といった納税者の人格までが射程に入り得るであろう。」(同頁)などを筆頭に、重加算税賦課判断の「主観化」が厳しく批判された。 ただ、平成6年最判は「本件事案に応じた事例判断」(川神・前掲「判解」605頁)すなわち事例判決と解すべきものである。その後、平成7年最判は前記2の引用判示の中で、「重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、右の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされるものと解すべきである。」(下線筆者)という「一般論」(近藤崇晴「判解」最判解民事篇(平成7年度)471頁、481頁)を示したが、この「一般論」とりわけ下線部の判示によって重加算税賦課判断の「主観化」に対して一定の歯止めをかけようとしたものと解される。 最後に、平成7年最判に関する調査官解説で従来の最高裁判例を総合して示された「判例理論」を以下に引用しておこう(近藤・前掲「判解」480頁。下線原文。判例①=最判昭和45年9月11日刑集24巻10号1333頁、判例②=最判昭和58年10月27日民集37巻8号1196頁、判例③=最判昭和62年5月8日裁判集民151号35頁、判例④=平成6年最判、判例⑤=最判昭和48年3月20日刑集27巻2号138頁)。 この「判例理論」では平成7年最判が考慮されていないが、これを「判例⑥」として、「納税者が、・・・・・・ような場合には、殊更の過少申告として重加算税の賦課要件が満たされる〔判例④⑤〕。そして、どのような場合に殊更の過少申告として重加算税の賦課要件が満たされるかについては、」の部分を、「納税者が、・・・・・・ような場合には、重加算税の賦課要件が満たされる〔判例④⑤〕。ただし、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合に限る〔判例⑥〕。そして、それが具体的にはどのような場合であるかについては、」と加筆修正することによって、平成7年最判が重加算税賦課判断の「主観化」に一定の歯止めをかけたことを明示すべきであろう。 (了)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第36回】 「インボイス制度に関して法人が決算に向けて対応しておくべき事項」 税理士 石川 幸恵 【Q】 当社は、インボイス制度開始と同時に適格請求書発行事業者となった3月決算の法人です。インボイス制度について決算に向けて対応しておくべきことを教えてください。 〔ポイント〕 自社の申告書の計算方法が、2割特例・簡易課税・一般課税、一般課税の中でも少額特例の適用が可能か否かで対応すべき範囲が異なります。 「課税仕入れの相手が適格請求書発行事業者であることさえ確認すれば、インボイスの交付を受けていなくても仕入税額控除できる」などの思い違いがしばしば見受けられますが、「インボイスの保存」が必須ですので、確認をお願いします。 * * * 【A】 次に列挙するチェック項目の確認をしてください。 (1) 適格請求書発行事業者の登録を受けたことにより課税事業者となった事業者 適格請求書発行事業者の登録を受けたことにより課税事業者となった事業者は、次のチェックを行ってください。 適格請求書発行事業者の登録を受けたことにより課税事業者となった事業者で2割特例又は簡易課税を選択する場合、以降のチェックは不要です。2割特例又は簡易課税にせず、一般課税を選択する場合は、(3)に進んでください。 (2) インボイス制度開始前より課税事業者で、簡易課税の適用を受ける事業者 インボイス制度開始前より課税事業者で、簡易課税の適用を受ける事業者は上記(1)の No.3 と No.4(※)のチェックを行ってください。 (※) この2つの項目では、適格請求書発行事業者の登録を受けたことを前提としていますが、適格請求書発行事業者の登録を受けていない場合、売上税額の計算は割戻し計算のみです。 簡易課税の適用を受ける事業者が、決算に向けてチェックすべきことは以上です。 (3) インボイス制度開始前より課税事業者で、一般課税により計算をする事業者 インボイス制度開始前より課税事業者で、一般課税により計算をする事業者は次のチェックを行ってください。 ただし、少額特例の適用が可能な事業者(インボイスQ&A問111)は、税込み1万円未満の課税仕入れはインボイスの保存なしで仕入税額控除ができますので、チェックの対象を税込み1万円以上の取引に限定しても問題ありません。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第40回】 「土地を同族会社である法人に遺贈した場合の 非上場株式の価額計算における留意点」 税理士 柴田 健次 Q 甲は昭和40年にA社を設立し、パンの製造業を営んでいましたが、令和2年に代表取締役を辞任し、甲の甥である乙が新たに代表取締役に就任しました。A社の株主は甲のみで甲は発行済株式数200株を所有していましたが、同年に乙に株式を売却するとともに下記の遺言書を作成しています。 ■遺言書の内容 令和5年12月31日、甲に相続が発生し、相続開始時における財産は下記の通りです。また、甲の相続人は長男のみです。 ■甲の相続財産 甲の相続に伴い、甲、A社及び乙のそれぞれの課税関係はどのようになりますか。 A社の会社の規模区分は中会社の大に該当し、A社は特定の評価会社には該当しません。また、A社は9月決算であり、純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 遺贈前の令和5年12月31日時点における取引相場のない株式(出資)の評価明細書の第4表「類似業種比準価額等の計算明細書」及び第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、それぞれ下記の通りです。 遺贈前におけるA社株式の1株当たりの価額及び乙が所有している株式の価額は、下記の通りです。 A ■甲の課税関係 土地の譲渡所得95,000,000円(100,000,000円 - 100,000,000円 × 5%)として所得税が課税され、甲の相続人である長男が納税義務を負います。 ■A社の課税関係 土地受贈益100,000,000円が益金に算入され法人税等が課税されます。 ■乙の課税関係 遺贈によりA社株式の価値が増加していますので、その価値増価部分に対して、甲から乙に遺贈があったものとして相続税が課税されます。 A社株式の相続税評価額は、遺贈後で計算を行うことになり、遺贈後における1株当たりの相続税評価額は、582,680円(540,200円 × 90% + 965,000円 × 10%)となります。 したがって、乙が所有していた200株についての価値増価部分の相続税評価額は、下記のとおり24,550,000円となり、相続税が課税されます。 〈200株の価値増価部分の計算〉 ◆ ◆ ◆ ① 法人に遺贈を行った場合の課税関係 (1) 被相続人の課税関係 譲渡所得の起因となる資産を法人へ遺贈した場合には、被相続人が相続開始時の価額でその資産を法人に譲渡したものとみなされ、被相続人の譲渡所得の課税対象とされます(所法59①)。 本問の場合には、土地の相続開始時の価額は100,000,000円となりますので、その価額で法人に譲渡したものとみなされます。取得費が不明である場合には、5%の概算取得費が認められますので、甲の譲渡所得は95,000,000円(100,000,000円 - 100,000,000円 × 5%)となります。 なお、甲は令和6年1月1日時点に存命ではありませんので、譲渡所得に対する住民税は発生しません。したがって、土地の譲渡に係る税金は所得税のみで甲の相続人である長男が納税義務を負うことになります。 (2) 法人の課税関係 法人における取得価額は、その時における価額となりますので、時価と対価との差額については、受贈益として課税されます(法法22②)。本問の場合には対価はありませんので、土地の取得については100,000,000円が受贈益として益金に算入されます。 (3) 乙の課税関係 乙は被相続人から遺贈を受けたことにより株式の価値が増加しますので、その価値増加部分について被相続人からその株主に対して相続税が課税されます(相法9)。本問の場合には、甲から乙に対して遺贈がされたものとされ、相続税が課税されます。 乙は直接甲から利益を受けたわけではなく、A社が土地の遺贈を受けたことに伴い乙が所有していた株式の価値が増加したに過ぎません。したがって、利益を受けた金額は、土地受贈益ではなく、遺贈を受けた後の乙所有のA社株式の相続税評価額と遺贈を受ける前の乙所有のA社株式の相続税評価額の差額となります。なお、課税時期は相続開始時です。遺贈を受けた後のA社株式の相続税評価額の計算は、下記の点に留意する必要があります。 ■遺贈後におけるA社株式の相続税評価額の算定上の留意点 実際の遺贈後における取引相場のない株式(出資)の評価明細書第4表「類似業種比準価額等の計算明細書」及び第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、それぞれ下記の通りとなります。 1株当たりの価値増価部分の計算は、遺贈後における1株当たりの価額から遺贈前における1株当たりの価額を控除した金額となり、200株の価値増価部分は、下記の通り24,550,000円となります。 〈200株の価値増価部分の計算〉 ② 遺贈を受けた土地の時価説と相続税評価説の整理 (1) 評価通達185括弧書きの定め 評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。 この場合において、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとするとされています(評価通達185括弧書き)。 帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合として、買い急ぎや関連会社からの有利な価額による取得など適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における地価の急騰や資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合が考えられます。 (2) 評価通達185括弧書きの趣旨 上記通達括弧書きの趣旨は、課税時期の直前に取得し、取得価額が明らかになっている土地等及び家屋等については、取得価額等により通常の取引価額の金額を認識できるため、その金額で計算を行うことが合理的であると考えられることによるものです。 (3) 時価説と相続税評価説の考え方の比較 本問の場合に第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」における土地の相続税評価額に記載する金額については、時価説(100,000,000円)と相続税評価説(80,000,000円)があります。評価通達の趣旨、通達の文理解釈から両者を比較整理すると下記の通りとなります。 (4) 資産税審理研修資料における比較 東京国税局の資産税審理研修資料において、下記の通り時価説と相続税評価説の両説が示されています。 【時価説】 ◆平成16年12月作成「資産税審理研修資料」(東京国税局 課税第一部 資産課税課 資産評価官)(TAINSにて「評価事例708047」をTAINSコード欄に入力のうえ検索すると閲覧可能) (下線部は筆者による) 【相続税評価説】 ◆平成18年7月作成「資産税審理研修資料」(東京国税局 課税第一部 資産課税課 資産評価官)(TAINSにて「評価事例708060」をTAINSコード欄に入力のうえ検索すると閲覧可能) 上記のように東京国税局の資産税審理研修資料において異なる見解が記載されており、時価説と相続税評価説のいずれによるかについて明確にされてはいませんが、研修資料の作成された日付が時価説は平成16年12月であるのに対して、相続税評価説は平成18年7月となっていますので、筆者としては、相続税評価説によるべきと考えています。 (5) 国税不服審判所平成20年5月30日裁決との関係性からの整理 国税不服審判所平成20年5月30日裁決(TAINSコード:F0-3-220)は、同族会社が被相続人から借地権の無償設定を受けたことにより相続税法9条のみなし贈与課税の適用を受ける場合の出資の評価上、その借地権の取得が課税時期前3年以内の取得に係る規定が適用されるか否かが争点となりました。 課税庁は、取得した借地権が、評価通達185の括弧書きにおける課税時期前3年以内に取得した土地等に該当するとして、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する旨を主張しましたが、不服審判所は、同通達185の括弧書きの射程範囲外として下記の通り判断しています。 裁決事例では、下記の3点から評価通達185の括弧書きの適用はされないとしています。 【本問への当てはめ】 ◎「❶ 評価通達の趣旨からの射程範囲」について 裁決事例ではみなし贈与であり、本問の場合にはみなし遺贈で取得原因は異なるものの課税論拠は下記の相続税法9条で同じです。また無償で法人が取得している点についても同様となり、無償取得については評価通達185括弧書きの適用を予定していないため、相続税評価説が肯定されます。 ◆相続税法第9条 (下線部は筆者による) ◎「❷ 文理解釈」について 裁決事例にそのまま当てはめることが可能です。「課税時期前3年以内に取得」の範囲に課税時期における取得が含まれないことは、文理上、明らかですので、相続税評価説が肯定されます。 ◎「❸ 個人が土地を取得した場合との課税の公平性」について 裁決事例では贈与で贈与税課税の問題であり、本問の場合には遺贈で相続税課税の問題ですが、乙が土地を取得した場合(乙が土地を遺贈により取得した場合)と乙が土地を間接的に取得した場合(A社が土地を取得した場合)のいずれの場合でも土地は路線価等に基づく相続税評価額によるべきとする裁決事例の考え方はそのまま当てはめることができます。 すなわち、個人取得の場合には路線価等に基づく相続税評価額で相続税の課税がされるため、法人取得におけるみなし遺贈の株主課税の場合にも路線価等に基づく相続税評価で相続税の課税がされるべきとする考え方は同じとなりますので、相続税評価説が肯定されます。 もっとも、裁決事例と本問の場合には、法人税の課税の取扱いで時価は認識されますので、時価が明らかになっているものについては、その時価で評価をするべきとする時価説の考え方もあるかと思います。 ただし、そもそもこの評価通達185括弧書きの制定時においては、射程範囲にみなし贈与やみなし遺贈は含まれていなかったと思料されます。評価通達185括弧書きの制定の背景を紐解くと、課税時期前3年以内取得の取扱いは、旧租税特別措置法69条の4(相続開始前3年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例)が発端となっており、同条は昭和63年12月に創設され、平成8年3月の税制改正において廃止されたものとなりますが、この規定は、昭和末期のバブル期において相続開始前の土地等及び家屋等を取得することによる相続税対策が横行したことを背景として、個人が相続開始前3年以内に取得又は新築をした土地等及び家屋等について取得価額で課税するといった内容でした。 同条は、あくまでも個人の取得に限られていましたが、法人においても同様の租税回避行為があったため、取引相場のない株式においても平成2年8月の財産評価基本通達の改正で課税時期前3年以内の取得の取扱いが定められました。以上の通達制定の背景を踏まえると相続開始直前の不動産取得が問題視され、みなし贈与やみなし遺贈については射程範囲とは想定していなかったと思料されます。 そして、評価通達の規定が「課税時期前3年以内」とされているため、少なくとも、現在の評価通達において、みなし贈与やみなし遺贈について時価課税を行うことは、納税者の信頼、予見可能性を損なうことになるため、認められるべきではないと考えられます。 したがって、本問における筆者の結論としては、相続税評価説によるべきと考えます。ただし、実務上、明確な見解があるわけではありませんので、納税者に時価説もあることを説明しておく必要があります。 ☆実務上のポイント☆ 法人に対する遺贈は、被相続人の相続人にとって予期せぬ所得税の負担となり、法人の株主も予期せぬ相続税の負担となり得ますので、そのような遺言書を作成される場合には、課税関係をよく説明しておく必要があります。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第95回】 「連帯納税義務事件」 ~最判平成元年7月14日(最高裁判所裁判集民事157号403頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第38回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 10 暗号資産に係る所得を分離課税にしてほしいという改正要望 暗号資産取引に係る所得は、申告分離課税で損失の繰越等も認められている株式や先物取引に係るものと異なり、総合累進課税により、他の所得と合算して高い税率が課されうること、損失の繰越も認められないことが特徴である。 そこで、一般社団法人日本暗号資産取引業協会=一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会「2024年度税制改正に関する要望書」(2022.7.31)16-17頁は、次のとおり、暗号資産取引に係る利益を分離課税とすることなどを要望している。 (※) 一般社団法人日本ブロックチェーン協会「暗号資産に関する税制改正要望(2024年度)」)(2023.7.28)1頁も、ほぼ同様の改正要望を出しており、「頻繁に海外・国内の業者間で暗号資産の移管が行われる暗号資産交換業者にとって、顧客の暗号資産の取得価格を手に入れることは困難であることから、源泉分離課税ではなく申告分離課税を要望する」としている。 上記要望書の概要資料11頁は、暗号資産の税務申告と税制改正要望に関するアンケート調査結果に基づく分析結果等を前提として、申告分離課税を導入することによる効果として次の点を挙げている。 また、自由民主党デジタル社会推進本部web3PT「web3関連税制に関する緊急提言」(2022.11.10)も、次のとおり、暗号資産取引による損益を申告分離課税の対象にすることを検討すべきであるとしている。 その後の、自由民主党デジタル社会推進本部web3PT「web3ホワイトペーパー-誰もがデジタル資産を利活用する時代へ-」(2023.4)9頁においても同様の記述がなされている。 ただし、国会でのやりとりを見ている限り、要望が通る道は険しいようである。 例えば、令和4年3月16日の参議院財政金融委員会において、住澤整財務省主税局長は、次のとおり、答弁している。 上記答弁では、少額免税についても触れられている点が注目されるが、実際にそのような制度を実行しようとすると、外国通貨やステーブルコインにも対象を広げるべきか、非課税となる金額や金額の判定単位(取引都度か、年間総額か)をどうすべきか、非課税取引についても記録作成・保存の義務を徹底させるべきかなど、議論すべきことは多い。 また、令和4年4月13日の衆議院財務金融委員会において、鈴木俊一国務大臣も次のとおり述べている。 暗号資産を発行するスタートアップの出口戦略として、暗号資産に関する税金を株式並みの取扱いにしたい、株式やFXなど他の投資商品等と同じ程度の税率や取扱いにしたい、あるいは利用者個人の税金を軽くして暗号資産を普及させてweb3を後押ししたいという声もあるかもしれないが、結局、次のような観点からの検討も含めて、今後も議論は続くであろう。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第40回】 「タックス・ヘイブン対策税制上の未処分所得の計算 -特定外国子会社等の減価償却費の修正は認められるか- (地判平29.1.31、高判平29.9.6、最判平30.6.15)(その1)」 ~租税特別措置法施行令25条の20第1項、39条の15第1項~ 神戸国際大学准教授・税理士 金山 知明 1 はじめに タックス・ヘイブン対策税制(措置法66条の6及び40条の4)は、わが国株主が軽課税国に設けた法人に所得を留保し、わが国で生ずべきであった税負担を不当に軽減する行為を規制することを目的として(※1)、昭和53年に導入された。本税制は、外国法人(子会社等)の所得を、わが国株主の所得に合算するという異色の制度であるが(※2)、同じく外国への所得移転を規制する目的で後に創設された移転価格税制(措置法66条の4)と異なる特徴の1つとして、内国法人株主のみならず、個人株主に対しても合算課税を行う点が挙げられる(※3)。 (※1) 高橋元監修『タックス・ヘイブン対策税制の解説』清文社(1979年)92頁。 (※2) 高橋前掲(※1)書93頁。 (※3) 特定外国関係会社等(現行法)に生じた所得で課税対象となるものは、わが国個人株主の雑所得に算入される(措置法40条の4第1項)。 本稿で取り上げる事件の主な争点は、その外国法人で生じた合算対象となる所得をどのように計算するか(外国法人の決算書をそのまま用いるのか、それともわが国株主側でその決算書を修正できるか)であるが、もう1つの論点として、その修正が適時になされず、遡及的に行われたと推定されることに起因する問題も生じている。その問題は、本件の原告が個人(給与所得者)であるため、所得税の確定申告を要しない場合があり得ることと関連するものである。 本件はこれまであまり注目されていない事件といえるが、タックス・ヘイブン対策税制においては、わが国と会計制度や税制が異なる外国法人の決算書や所得を「参照」(※4)して合算所得を計算するため、それら制度の差異を調整する必要があることから、実際の適用時にその合算所得の算出方法をめぐって本税制特有の争点が生じうることを示す事件である。 (※4) 渕圭吾『所得課税の国際的側面』有斐閣(2016年)375頁では「内国親会社の所得を参照するために、外国子会社の所得(として現れている額)を参照しているにすぎない」とされる。 2 本件に関連する法令・通達の定め(当時) 措置法40条の4第1項は、本店所在地国における税負担が著しく低い一定の外国関係会社(特定外国子会社等)につき居住者が一定割合以上の株式等を所有する場合において、その特定外国子会社等が未処分所得の金額を基に算出した適用対象留保金額を有するときは、その金額に一定の調整を加えた課税対象留保金額を、その居住者の雑所得に係る収入金額とみなして課税する旨を定める。 措置法40条の4第2項2号は、同条1項に規定する「未処分所得の金額」の意義について、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額を基礎として一定の調整を加えた金額をいう旨を定める。 措置法施行令25条の20第1項は、措置法40条の4第2項2号に規定する政令で定める基準により計算した金額は、同条1項に規定する特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額に係る措置法施行令39条の15第1項1号に掲げる金額を基礎として算出する旨を定める。 措置法施行令39条の15第1項1号には、当該各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、本邦法令の規定の例に準じて計算した場合に算出される所得の金額又は欠損の金額が掲げられている。 措置法施行令25条の20第2項は、措置法40条の4第1項各号に掲げる居住者は、措置法施行令25条の20第1項の規定にかかわらず、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、当該特定外国子会社等の本店所在地国の法令の規定により計算した所得の金額に当該所得の金額に係る同施行令39条の15第2項各号に規定する所定の加減をした金額をもって措置法40条の4第2項2号に規定する政令で定める基準により計算した金額とすることができる旨を定めている。 措置法通達66の6-10(現行は66の6-20)は、措置法施行令39条の15第1項1号の規定により未処分所得を法人税法及び措置法の規定の例に準じて計算する場合の取扱いを以下のように定める。 以上の法令通達を図示すると以下のとおりとなる(【図表1】)。 【図表1】 タックス・ヘイブン対策税制の未処分所得の金額に関する規定 3 事案の概要 (1) 事実関係 原告Xは、愛媛県に居住する個人であり、平成17年当時、同県内に所在し海運業を営む株式会社Aの代表取締役を務めていた。 K社は、平成10年7月、Xらにより設立されたシンガポールを本店所在地とする外国法人であり、9月30日を事業年度末としている。 Xは、平成11年3月から平成21年8月までの間、K社の総発行済株式数50万株のうち49万9999株(約99.9%)を保有していた。 K社は、平成11年4月頃から、同年に取得した油そう船を裸用船として第三者に貸し付けていたが、平成16年12月にその油そう船を売却した。 K社は、シンガポールの法令に基づき、平成11年9月期から平成17年9月期までの各決算に係る財務諸表を作成し、公認会計士の監査及び株主全員(Xら)の承認を受けた。この財務諸表の中には、K社が作成した損益計算書(以下「K社損益計算書」という)が含まれている。 K社損益計算書によれば、K社は、平成11年9月期から平成16年9月期までは税引後損益に欠損が生じていたが、平成17年9月期は、本件油そう船の売却による特別利益約251万ドル(シンガポールドル。以下同じ)が計上されたことにより、税引後損益に利益が生じた。 なお、本件油そう船の取得原価は約1,723万ドルであったところ、K社は、K社損益計算書において、各事業年度の本件油そう船の減価償却費の金額を172万2,924ドル(本件油そう船の耐用年数を10年として上記取得原価について定額法により計算したもの)とし、平成17年9月期の期首における本件油そう船の帳簿価額を約689万ドル(上記取得原価約1,723万ドルから6期分の減価償却費の累計額約1,034万ドルを控除した後の金額)としていた。 上記特別利益約251万ドルは、本件油そう船の売却による収入約940万ドルから平成17年9月期の期首における本件油そう船の帳簿価額約689万ドルを控除した後の金額である。 (2) 決定処分等の経緯 Xは、平成17年分の給与(役員報酬)に係る収入金額が1,200万円であり、上記給与の支払者である株式会社Aから所得税の源泉徴収を受けていたところ、同年分の所得税について(年末調整を受けていたため)確定申告書の提出をしなかった。 今治税務署Yは、K社が平成13年9月期から平成17年9月期までにおいて、措置法40条の4第1項に規定する特定外国子会社等に該当し、平成17年9月期において課税対象留保金額を有するため、課税対象留保金額に相当する金額をXの雑所得に係る収入金額とみなして総収入金額に算入すべきとして、平成23年3月、Xに対し、Xの平成17年分の所得税について、総所得金額を9,714万3,278円、納付すべき税額を3,191万5,600円とする旨の決定処分及び無申告加算税の額を478万6,500円とする旨の賦課決定処分をした。 Xは、平成23年4月、Yに対し、本件決定処分等を不服として異議申立てをした。Xは、同異議申立てにおいて、K社の平成11年9月期から平成17年9月期までの損益については本邦法令の規定に基づく計算が認められるべきであり、平成17年9月期の損益は46万1,195ドルの赤字となるから、本件決定処分等は取り消されるべきである旨を主張し、同年5月、Yに対し「日本法令によるK社損益計算書」と題する書類(以下「X作成損益計算書」という)を提出した(※5)。 (※5) X作成損益計算書では、平成11年9月期から平成16年9月期までの各事業年度においてK社が計上した減価償却費が減額償却されており、これにより油そう船の売却時の帳簿価額が膨らみ、平成17年9月期に売却損が計上されている。 しかしYは、平成23年6月、Xに対し、異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。 Xは、平成23年7月、国税不服審判所長に対し、本件決定処分等を不服として審査請求をしたが、平成24年6月、審査請求をいずれも棄却する旨の裁決があった。このためXは、平成24年11月、本件訴えを提起した(※6)。 (※6) 以上の事実関係に関する記述は、東京地裁判決(平成29年1月31日)の「2 前提事実」を参照のうえ作成。 ((その2)へ続く)