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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第56回】「税制調査会答申から租税法条文を読み解く(その2)」

筆者:酒井 克彦

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酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第56回】

「税制調査会答申から租税法条文を読み解く(その2)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

《(その1)はこちら

はじめに

Ⅰ 税制調査会とは

Ⅱ 代表者と社会との同質性

Ⅲ 事例検討1―遡及課税問題―

1 事案の概要

 

2 判決の要旨

(1) 第一審東京地裁平成20年2月14日判決(訟月56巻2号197頁)

本件事案において、東京地裁平成20年2月14日判決は次のように述べ、本件改正附則27条1項の違憲性を否定した。

事実によれば、・・・遅くとも、自由民主党の決定した平成16年度税制改正大綱がG新聞に掲載された平成15年12月18日には、その周知の程度は完全ではないにしても、平成16年分所得税から土地等又は建物等の長期譲渡所得について損益通算制度が適用されなくなることを納税者において予測することができる状態になったということができる。したがって、確かにかなり切迫した時点ではあったにせよ、平成16年1月1日以降の土地等又は建物等の譲渡について損益通算ができなくなることを納税者においてあらかじめ予測できる可能性がなかったとまではいえない。

このように、東京地裁は、「周知の程度は完全ではないにしても」との前置きをしつつも、遅くとも平成15年12月18日時点では「納税者において予測することができる状態になった」ということができるとし、以下のように続けるのである。

本件改正附則27条1項により改正措置法31条1項後段の規定を平成16年1月1日から同年3月31日までの間に行われた土地等又は建物等の譲渡について適用することは、その個々の譲渡についてみれば納税者が一定の不利益を受けうることは否定できないものの、納税者の平成16年分所得税の納税義務の内容自体を不利益に変更するものではなく、遡及適用をすることに合理的な必要性が認められ、かつ、納税者においても、既に平成15年12月の時点においてその適用を予測できる可能性がなかったとまではいえないのであるから、これらの事情を総合的に勘案すると、当該変更は合理的なものとして容認されるべきものである。したがって、本件改正附則27条1項が租税法律主義に反するということはできない。

結局において、東京地裁は、「納税者が一定の不利益を受けうることは否定できない」ものの、遡及適用をすることの合理的必要性と、上記の平成15年12月時点における一応の予測可能性を総合的に勘案した結果、本件改正附則27条1項の違憲性を否定している。

(2) 控訴審東京高裁平成21年3月11日判決(訟月56巻2号176頁)

上記東京地裁判決を不服とし、Xらは控訴した。

Xらは、本件の改正内容については、自由民主党の税制改正大綱が全国紙の一部にわずかに報道されただけで、事前の予告が不十分で、周知されていなかったにもかかわらず、国民に不利益な損益通算の廃止措置を遡及適用させたものであるから租税法律主義に反する、すなわち、予測可能性の観点から本件立法の違憲性を主張した。

これに対して、東京高裁は次のように説示し、Xらのかかる主張を排斥している。

納税者個人の予測可能性に反することのみをもって直ちに不利益遡及立法に該当するものと解し、租税効果に対する予測可能性を保障しようとすると、およそ不利益な内容を含む租税法規の改正はできないこととなる。また、納税者の予測が各個人によってまちまちで、どのような場合に予測可能性があるかを判定することが困難であることからすると、納税者個人の予測を完全に保護することが、かえって法的安定性を害する結果になることも否定できないところである。そうすると、租税法規の改正に当たっては、納税者個人の予測可能性を完全に充足することまでは要求されていないものと解される。

予測可能性が担保されていなかった旨のXらの上記主張に対し、東京高裁は、本件において予測可能性が担保されていなかったか否かについては判断することなく、予測可能性に反することのみをもって直ちに不利益遡及立法に該当するとはいえないと判示した。

(3) 上告審最高裁平成23年9月30日第二小法廷判決(集民237号519頁)

本件は上告されたが、最高裁においても、前記Ⅲ1(3)の具体的事実が認められるとした上で、次のとおり本件改正附則27条1項の違憲性が否定された。

本件損益通算廃止に係る改正後措置法の規定の暦年当初からの適用が具体的な公益上の要請に基づくものである一方で、これによる変更の対象となるのは上記のような性格等を有する地位〔筆者注:納税者の納税義務それ自体ではなく、特定の譲渡に係る損失により暦年終了時に損益通算をして租税負担の軽減を図ることを納税者が期待し得る地位〕にとどまるところ、本件改正附則は、平成16年4月1日に施行された改正法による本件損益通算廃止に係る改正後措置法の規定を同年1月1から同年3月31日までの間に行われた長期譲渡について適用するというものであって、暦年の初日から改正法の施行日の前日までの期間をその適用対象に含めることにより暦年の全体を通じた公平が図られる面があり、また、その期間も暦年当初の3か月間に限られている。納税者においては、これによって損益通算による租税負担の軽減に係る期待に沿った結果を得ることができなくなるものの、それ以上に一旦成立した納税義務を加重されるなどの不利益を受けるものではない。

なお、千葉勝美裁判官は、「本件改正附則が憲法84条の趣旨に反するものでないとする法廷意見に賛成するものであるが、税制改正との関係で、次の点を補足しておきたい。」として、次のように補足意見を述べられる。

本件損益通算廃止を平成16年1月1日から適用するという政策決定は、その間の駆け込み売却により不動産価格の下落に拍車をかけ、我が国の不動産市況や経済の安定等に悪影響を与えるという事態を避けるためのものである。そうであれば、このような政策決定がされることについては、事前に周知させる必要があり、そうでなければ駆け込み売却の防止策としては意味のないことになろう。ところが、本件損益通算廃止は、平成15年12月18日の新聞による与党の平成16年度税制改正大綱についての報道記事の一部で紹介され、そのうちの一紙が、当該廃止に係る定めは平成16年分以後の所得税等について適用する趣旨が小さく報じられたのが最初であるが、その内容等からして、事前の周知としては甚だ不完全なものである。〔下線筆者〕

千葉裁判官は、まず、本件損益通算廃止のような政策決定については事前の周知が必要であるにもかかわらず、平成15年12月時点の報道等の内容をもってしては、その周知は「甚だ不完全なもの」であったとされる。

次に、同年1月16日に上記大綱の方針に沿った政府の同年度税制改正の要綱が閣議決定され、これに基づいて本件政策決定を盛り込んだ所得税等の一部を改正する法律案が国会に提出されたのは、同年2月3日である。納税者に対し本件損益通算廃止とそれが同年1月1日から適用になる旨を周知させ、そのような法改正が行われる蓋然性を踏まえて長期譲渡を行うべきか否かを検討するための十分な機会を与えたといえるのは、早くても2月3日の法案提出によってであろう。そうすると、1月1日から2月2日までの間の長期譲渡は、本件損益通算がされることを想定してされたもので上記の駆け込み売却には当たらない可能性があり得るところであり、そのような場合にまで本件損益通算廃止を適用することには、合理性、必要性に疑義が生じないではない。〔下線筆者〕

そして、平成15年12月時点では「甚だ不完全なもの」であった事前の周知について、納税者に対象となる資産の譲渡を行うか否かの検討の機会が与えられることとなったのは、「早くても2月3日の法案提出」時点であると述べられ、平成16年1月1日から2月2日までの間の長期譲渡について本件損益通算廃止を適用することには疑義が生じ得ることを否定できないとされるのである。

千葉裁判官は、結論こそ法廷意見に同意されているものの、税制改正とその周知の観点においては問題があった可能性に言及している。かかる見解は参考となろう。

3 小括

本件を参考にすれば、税制調査会の答申に盛り込まれていないような改正で、それが遡及適用と解する余地のあるものであったとしても、かような取扱いについての違憲性は肯定されておらず、税制調査会の答申については、予測可能性や法的安定性の観点から改正後の規定適用の合理性・必要性に疑問が投げられる程度の問題としてしか扱われていないのかもしれない。

それでは、税制調査会の答申は条文解釈に当たって何らの指針ともなり得ないのであろうか。

そのようなことでは決してないことを裏付ける事例として、商品先物取引に係る和解金の非課税所得該当性が争点となった事例を参照してみよう。

 

Ⅳ 事例検討2-先物取引に係る損害賠償金は非課税か?-

商品先物取引に関し商品取引員から不法行為に基づく損害賠償金として受け取った和解金が、所得税法9条1項16号(平成22年法律第6号による改正前のもの)、所得税法施行令30条2号(平成22年政令第50号による改正前のもの)の非課税所得に当たるとされた事例として、名古屋地裁平成21年9月30日判決(判時2100号28頁)がある。

1 事案の概要

X(原告・被控訴人)は、商品取引員であるA商事に委託して行った商品先物取引に関し、A商事から受け取った和解金(以下「本件和解金」という。)を所得に計上せずに平成15年分の所得税の確定申告を行った。これに対して、処分行政庁は、本件和解金を雑所得として計上することなどを内容とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。

本件は、Xが国Y(被告・控訴人)を相手取って、本件更正処分のうち納付すべき税額を超える部分及び本件賦課決定処分の取消しを求めた事案である。

訴訟では、本件和解金が所得税法9条1項16号(現行17号)の適用を受けて非課税とされるか否かが争点とされた。

所得税法9条《非課税所得》

次に掲げる所得については、所得税を課さない。

十七 保険業法・・・第2条第4項《定義》に規定する損害保険会社又は同条第9項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの〔下線筆者〕

上記にいう「その他の政令で定めるもの」を受けて、所得税法施行令30条は次のように規定する。

所得税法施行令30条《非課税とされる保険金、損害賠償金等》

法第9条第1項第17号《非課税所得》に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの・・・とする。

一 損害保険契約・・・に基づく保険金、生命保険契約・・・に基づく給付金及び損害保険契約又は生命保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかったことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。)

二  損害保険契約に基づく保険金及び損害保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金・・・で資産の損害に基因して支払を受けるもの並びに不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(これらのうち第94条《事業所得の収入金額とされる保険金等》の規定に該当するものを除く。)

三 心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金(第94条の規定に該当するものその他役務の対価たる性質を有するものを除く。)

本件において、Yは、所得税法9条1項16号を受けて定められた同法施行令30条各号の規定は、損害賠償金を損害を加えられた対象が心身であるか資産であるかによって大きく2つに分け、被害対象が心身の場合には、計上される必要経費の賠償金を除き、ほとんど全面的に非課税所得としているのに対し、被害対象が資産の場合には、「不法行為その他突発的な事故によるもの」だけに限定した上、計上される必要経費の賠償金はもちろん、所得税法施行令94条に該当するものも除くとして、非課税所得の範囲を大きく限定していることからすると、被害対象が資産の場合、不法行為に基づく損害賠償金が非課税所得に該当するか否かは、当該損害賠償金が「突発事故、つまり相手の合意をえない予想されない災害」による損害と同視できる事情に基因して得られたものか否かを基準として判断するのが相当であると主張した。

そして、その理由として、このことは、補償金、損害賠償金等に関する税制改正がされた昭和37年12月7日付け税制調査会答申において、「課税所得を構成するか、あるいは非課税所得とすべきかという点の判断の基準は、その損害の発生が不可抗力ないし不可避的なものであったかどうかということよりも、むしろそれが突発事故、つまり相手の合意をえない予想されない災害であったかどうかというところに基準を置くほうが、常識的に妥当と思われる。」という方針が示されていたことに照らしても明らかである旨主張したのである。

そうであるとすれば、所得税法施行令30条2号が「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害」と規定する「不法行為」とは、「突発的な事故」と同様の不法行為、すなわち、相手方との合意に基づかない突発的で予想することができない不法行為を意味するものと解するのが相当であるとするのがYの主張の骨子である。

これに対して、Xは、「〔Yは〕税制調査会答申の内容を・・・主張の理由としているが、税制調査会答申の内容は、損害賠償金を非課税とする不法行為の範囲を限定する趣旨のものではない。」と反論した。

2 判決の要旨-名古屋地裁平成21年9月30日判決-

これら両者の主張に対し、名古屋地裁はYの主張を次のとおり排斥している。

Yは、施行令30条2号にいう「不法行為」をYが主張するように限定的に解すべき根拠として、法9条1項16号及び施行令30条が現行の規定のように定められるにつきその基礎となった税制調査会答申において、「課税所得を構成するか、あるいは非課税所得とすべきかという点の判断の基準は、その損害の発生が不可抗力ないし不可避的なものであったかどうかということよりも、むしろそれが突発事故、つまり相手の合意をえない予想されない災害であったかどうかというところに基準を置くほうが、常識的に妥当と思われる。」という方針が示されたことを挙げている。

しかしながら、税制調査会答申の上記のY引用部分については、非課税所得に関する当時の規定に関し、「たとえば、現在の技術水準のもとでは防止しえない事由による汚水の流出や鉱害の発生等によって、他人の財産に損害を与えたような場合も、この規定に該当し、その賠償金が課税の対象となるものと解釈されうるが、このような事故が突発的に起った場合でも、それが企業として不可抗力のものであったという理由で課税することができるかどうかについては、社会常識的に疑問がある。」との記述に引き続いて、「このような場合、それが課税所得を構成するか、あるいは非課税所得とすべきかという点の判断の基準は、その損害の発生が不可抗力ないし不可避的なものであったかどうかということよりも、むしろそれが突発事故、つまり相手の合意をえない予想されない災害であったかどうかというところに基準を置くほうが、常識的に妥当と思われる。」と述べられたものである(上記のうち「このような場合、それが」を除いた部分がY引用部分である。)。すなわち、Y引用部分は、一定の類型に属する事故を前提として、その場合に非課税所得とすべきであるかどうかのあるべき判断基準を述べたにすぎないのである。

このように、まず名古屋地裁は、Yが引用する税制調査会答申の該当箇所について確認した上で、次のように同答申の内容を検討している。

むしろ、税制調査会答申は、その結論として、「物的損害に対する補償については、それが不法行為その他突発事故による損失であるか、それ以外の損失、すなわち契約、収用等による資産の移転ないし消滅に基づく損失であるかによって区分するとともに、さらに、その対象となる資産が生活用資産であるか、又はそれ以外の資産であるかどうかによって区別してその取扱いを定めるのが適当である。」と述べているのであって、そこでは「不法行為その他突発事故による損失」と「契約、収用等による資産の移転ないし消滅に基づく損失」とを区分しているものの、不法行為を、突発的な事故ないしそれと同様の態様によるものかそれ以外の態様によるものかで区分する考え方は何ら示されていないのである。

したがって、税制調査会答申は、施行令30条2号にいう「不法行為」をYが主張するように限定的に解すべき根拠にはならないというべきである。

つまり、名古屋地裁は、税制調査会答申のY引用箇所は、一定の類型に属する事故を前提とした場合の判断基準を述べたにすぎないとした上で、同答申では「不法行為を、突発的な事故ないしそれと同様の態様によるものかそれ以外の態様によるものかで区分する考え方は何ら示されていない」のであるから、Yの主張するような限定的な解釈を裏付ける根拠とはなり得ないとした。

その上で、同地裁は、「施行令30条2号にいう『不法行為』は、突発的な事故ないしそれと同様の態様によるものに限られると解することはできない。これと異なるYの主張は、採用することができない。」とし、「本件和解金がA商事のXに対する不法行為に基づく損害賠償金に当たるものであることは、前述のとおりであるから、本件和解金は、施行令30条2号にいう『不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金』に当たるというべきである。」と結論付けたのである。

この事件は控訴されたものの、控訴審名古屋高裁平成22年6月24日判決(税資260号順号11460)において、上記結論は維持されている。

このように、所得税法9条1項17号及び同法施行令30条の解釈を税制調査会答申から導出しようとする議論は上記事案にとどまるところではない。

3 類似事例

類似事件の大分地裁平成21年7月6日判決(税資259号順号11239)においても、上記名古屋事件に近接した判断が展開されているので、参考までにみてみよう。

この事件でも国(被告)は、上記の名古屋事件と同様、税制調査会答申の記載等を根拠に非課税規定には突発的な事故のみが該当する旨主張したが、大分地裁は「所得税法9条1項16号及び法施行令30条2号は、以下の結論を記載した昭和36年12月7日付け税制調査会答申の考え方に基づき制定されたことが認められる。」と認定した上で、次のように判示し、国側の主張を排斥している。

税制調査会答申の考え方に照らし、また、所得税法9条1項16号並びに法施行令30条2号及び94条の文言に照らせば、不法行為により資産に加えられた損害に基因して取得する損害賠償金で、収益補償に当たらないものは、本来課税されるべきでない実損害を補てんする性質を有するものであるとの立法趣旨の下に、所得税法9条1項16号は、「突発的な事故」の中に「不法行為」が含まれることを前提として、突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得する損害賠償金など政令で定めるものを非課税とする旨規定して、その定めを政令に委任し、これを受けた法施行令30条2号が、収益補償に当たる法施行令94条の規定に該当するものを除いた、不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金が非課税となることを定めたものと解するのが相当である。〔下線筆者〕

下線部分のとおり、大分地裁は、立法趣旨を考慮する際に税制調査会答申の考え方を参考にしている。そして、本件和解金については次のように述べる。

本件和解金の実質は不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金であるところ、・・・上記損害賠償金は、本件先物取引の売買差損等により原告の生活用資産である金銭等の資産に加えられた損害に基因して取得した損害賠償金であり、収益補償ではないと認められるから、所得税法9条1項16号、法施行令30条2号が規定する非課税所得に該当し、法施行令30条2号括弧書、94条1項柱書、同項2号が規定する非課税所得の除外規定に該当しないといえる。

税制調査会答申は、「不法行為その他突発事故(飛行機の墜落、近隣の火薬庫の爆発等)に基づく資産の損失に対する損害賠償は、一時所得に属し非課税とされている。」との基本的な考え方に立った上で、被告が引用する「非課税所得とすべきかという点の判断基準は、それが突発事故、つまり相手の合意をえない予想されない災害であったかどうかというところに基準を置くほうが、常識的に妥当と思われる。」との記載をするとともに、結論として、前記認定のとおり、「物的損害に対する補償については、それが不法行為その他突発事故による損失であるか、それ以外の損失、すなわち契約、収用等による資産の移転ないし消滅に基づく損失であるかによって区分する」と記載しており、「突発的な事故」の中に「不法行為」が含まれることを前提として、被告の引用する記載をしていることが認められるから、所得税法9条1項16号の「突発的な事故」の中には「不法行為」が含まれており、法施行令30条2号はそのことを確認的に規定したにすぎず、所得税法9条1項16号の「その他の政令で定めるもの」との定めによって「突発的な事故」以外のものとして定められたものではない。〔下線筆者〕

このように、大分地裁は、税制調査会答申が前提としているところを確認した上で、所得税法9条1項16号の解釈の一つの指針としているのである。

なお、控訴審福岡高裁平成22年10月12日判決(税資260号順号11530)は控訴棄却と判断している。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

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筆者紹介

  • 酒井 克彦

    (さかい・かつひこ)

    法学博士(中央大学)。
    国税庁等での勤務を経て、現在、中央大学商学部教授として、学部のほか大学院やロースクール等でも教鞭をとる。
    一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。

    一般社団法人ファルクラム http://fulcrumtax.net/
    一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

    【著書】
    「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
    「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
    『スタートアップ租税法〔第3版〕』(2015年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
    『裁判例からみる所得税法』(2016年、大蔵財務協会)
    『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(2017年、大蔵財務協会)
    『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
    『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕』(2018年、中央経済社)
    『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -所得税裁判事例精選20』(2018年、第一法規)
    『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年、ぎょうせい)
    その他書籍・論文多数

     

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