公開日: 2016/10/06 (掲載号:No.188)
文字サイズ

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第50回】株式会社東芝「改善状況報告書(2016年8月18日付)」 「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」(前編)

筆者: 米澤 勝

〔会計不正調査報告書を読む〕

【第50回】

株式会社東芝

「改善状況報告書(2016年8月18日付)」
「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」
(前編)

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【報告書の概要】

〔適時開示〕

 

【はじめに】

株式会社東芝(以下「東芝」と略称する)は、2015年9月15日において、東京証券取引所(以下「東証」と略称する)より特設注意市場銘柄に指定されるとともに、上場契約違約金を徴求された。このリリースでは、東芝が、第三者委員会報告書をはじめとする各種のリリースで「不適切な会計処理」と強調し、多くのマスコミもこれに追従していたところ、東証は、「不正会計」と断じ、「上場廃止に準ずる措置」である特設注意市場銘柄指定という厳しい処分を発動したものである。

この結果、東芝は、指定から1年経過後速やかに、「内部管理体制確認書」を提出することが義務づけられるとともに、東証による審査を受け、内部管理体制等に問題があると認められない場合には、特設注意市場銘柄指定が解除されることになるが、改善がなされなかったと東証が認めた場合には、上場が廃止される可能性もある。

そうした状況の中、東芝は、2016年3月15日において、「『改善計画・状況報告書』の公表について」というリリースを出した。これは、2016年9月15日以降速やかに東証への提出が義務づけられている「内部管理体制確認書」の提出に先立ち、日本取引所自主規制法人が公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」を参照に情報開示を行ったものである。

そして、去る8月18日、再発防止策の進捗状況について、「改善状況報告書」を公表するに至る。リリースのなかで、東芝は、内部管理体制確認書を、「特設注意銘柄指定から1年経過後の本年9月15日に提出予定」であることを明言していたところ、実際に9月15日に提出が行われたため、東証が、確認書をどのように評価するのか、早期の指定解除が叶うのかが注目されている。

本稿では今週と来週の2週にわたり、東芝が2016年3月期決算に先だって公表した「改善計画・状況報告書」における再発防止策の内容を検証するとともに、その進捗状況を報告した「改善状況報告書」により、進捗状況を確認することを目的に、論考を進めたい。

なお、本件に関するこれまでの経緯等については、下記拙稿を参照されたい。

 

【「改善計画・状況報告書(原因の総括と再発防止策の進捗状況)」の概要】

冒頭でも記したように、2016年3月15日に東芝が公表した「改善計画・状況報告書(以下、「改善報告書」と略称する)」は、「内部管理体制確認書」の提出に先立ち、日本取引所自主規制法人が公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル 」を参照に情報開示を行ったものである。

特に、「原因分析」に関しては、全体の半分程度のボリュームとなっており、これまでの調査報告書よりも踏み込んだ内容になっている点、注目される。

 

1  原因分析

「改善報告書」は全53ページに及ぶが、そのうち25ページを占めるのが「過年度決算訂正が生じた原因に関する分析」である。具体的には、以下の6項目について、原因分析が行われている。

(1) 経営環境を背景とした歴代社長による達成困難な損益改善要求

(2) 達成困難な損益改善要求の背景としてのカンパニーの業績評価・予算統制

(3) 業務執行部門における牽制機能の不全

(4) 内部監査部門等における牽制機能の不全

(5) 取締役会、指名委員会及び監査委員会における牽制機能不全

(6) 業務プロセス

特徴的な改善報告書の記述を引用しながら、東芝の原因分析を検証したい。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

〔会計不正調査報告書を読む〕

【第50回】

株式会社東芝

「改善状況報告書(2016年8月18日付)」
「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」
(前編)

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【報告書の概要】

〔適時開示〕

 

【はじめに】

株式会社東芝(以下「東芝」と略称する)は、2015年9月15日において、東京証券取引所(以下「東証」と略称する)より特設注意市場銘柄に指定されるとともに、上場契約違約金を徴求された。このリリースでは、東芝が、第三者委員会報告書をはじめとする各種のリリースで「不適切な会計処理」と強調し、多くのマスコミもこれに追従していたところ、東証は、「不正会計」と断じ、「上場廃止に準ずる措置」である特設注意市場銘柄指定という厳しい処分を発動したものである。

この結果、東芝は、指定から1年経過後速やかに、「内部管理体制確認書」を提出することが義務づけられるとともに、東証による審査を受け、内部管理体制等に問題があると認められない場合には、特設注意市場銘柄指定が解除されることになるが、改善がなされなかったと東証が認めた場合には、上場が廃止される可能性もある。

そうした状況の中、東芝は、2016年3月15日において、「『改善計画・状況報告書』の公表について」というリリースを出した。これは、2016年9月15日以降速やかに東証への提出が義務づけられている「内部管理体制確認書」の提出に先立ち、日本取引所自主規制法人が公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」を参照に情報開示を行ったものである。

そして、去る8月18日、再発防止策の進捗状況について、「改善状況報告書」を公表するに至る。リリースのなかで、東芝は、内部管理体制確認書を、「特設注意銘柄指定から1年経過後の本年9月15日に提出予定」であることを明言していたところ、実際に9月15日に提出が行われたため、東証が、確認書をどのように評価するのか、早期の指定解除が叶うのかが注目されている。

本稿では今週と来週の2週にわたり、東芝が2016年3月期決算に先だって公表した「改善計画・状況報告書」における再発防止策の内容を検証するとともに、その進捗状況を報告した「改善状況報告書」により、進捗状況を確認することを目的に、論考を進めたい。

なお、本件に関するこれまでの経緯等については、下記拙稿を参照されたい。

 

【「改善計画・状況報告書(原因の総括と再発防止策の進捗状況)」の概要】

冒頭でも記したように、2016年3月15日に東芝が公表した「改善計画・状況報告書(以下、「改善報告書」と略称する)」は、「内部管理体制確認書」の提出に先立ち、日本取引所自主規制法人が公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル 」を参照に情報開示を行ったものである。

特に、「原因分析」に関しては、全体の半分程度のボリュームとなっており、これまでの調査報告書よりも踏み込んだ内容になっている点、注目される。

 

1  原因分析

「改善報告書」は全53ページに及ぶが、そのうち25ページを占めるのが「過年度決算訂正が生じた原因に関する分析」である。具体的には、以下の6項目について、原因分析が行われている。

(1) 経営環境を背景とした歴代社長による達成困難な損益改善要求

(2) 達成困難な損益改善要求の背景としてのカンパニーの業績評価・予算統制

(3) 業務執行部門における牽制機能の不全

(4) 内部監査部門等における牽制機能の不全

(5) 取締役会、指名委員会及び監査委員会における牽制機能不全

(6) 業務プロセス

特徴的な改善報告書の記述を引用しながら、東芝の原因分析を検証したい。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第100回 ※クリックするとご覧いただけます。

第101回~

筆者紹介

米澤 勝

(よねざわ・まさる)

税理士・公認不正検査士(CFE)

1997年12月 税理士試験合格
1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

【著書】

・『新版 架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2019)

・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

【寄稿】

・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

【セミナー・講演等】

一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
「会計不正の早期発見
――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

公益財団法人日本監査役協会主催
情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

株式会社プロフェッションネットワーク主催
「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

 

関連書籍

徹底解説 課税上のグレーゾーン

辻・本郷税理士法人 監修 辻・本郷税理士法人 関西審理室 編 税理士 山本秀樹 著

不正・誤謬を見抜く実証手続と監査実務

EY新日本有限責任監査法人 編

先進事例と実践 人的資本経営と情報開示

EY新日本有限責任監査法人 編 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 編

気候変動リスクと会社経営 はじめの一歩

公認会計士 石王丸周夫 著

ドローン・ビジネスと法規制

森・濱田松本法律事務所 AI・IoTプラクティスグループ 編 弁護士 戸嶋浩二 編集代表 弁護士 林 浩美 編集代表 弁護士 岡田 淳 編集代表

法務コンプライアンス実践ガイド

弁護士・青山学院大学法学部教授 浜辺陽一郎 著

企業法務で知っておくべき税務上の問題点100

弁護士・税理士 米倉裕樹 著 弁護士・税理士 中村和洋 著 弁護士・税理士 平松亜矢子 著 弁護士 元氏成保 著 弁護士・税理士 下尾裕 著 弁護士・税理士 永井秀人 著

仮装経理の実務対応

税理士 鈴木清孝 著

不正会計リスクにどう立ち向かうか!

公認会計士・公認不正検査士 宇澤亜弓 著

記事検索

メルマガ

メールマガジン購読をご希望の方は以下に登録してください。

#
#