経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第125回】 金融商品会計⑬ 「金利スワップの特例処理」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 素村 康一 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) 〔X1年4月1日 借入れ及びスワップ契約締結時〕 〔X2年3月31日 決算日及び利払日〕 (※1) 借入金利息:100,000×0.5%=500 (※2) スワップ契約純受払額:100,000×(2.0%-0.5%)=1,500 (※3) 特例処理では金利スワップを時価評価しない。 〔X3年3月31日 決算日及び利払日〕 (※4) 借入金利息:100,000×0.8%=800 (※5) スワップ契約純受払額:100,000×(2.0%-0.8%)=1,200 〔X4年3月31日 決算日、利払日及び返済日〕 (※6) 借入金利息:100,000×1.2%=1,200 (※7) スワップ契約純受払額:100,000×(2.0%-1.2%)=800 〈会計処理の解説〉 ヘッジ会計の要件を満たす金利スワップは、時価評価したうえで評価差額を貸借対照表に計上します(金融商品に関する会計基準(以下、「金融商品会計基準」とします)第32項)。 ただし、金利スワップの想定元本、利息の受払条件(利率、利息の受払日等)及び契約期間が当該資産又は負債とほぼ同一である場合には、金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を当該資産又は負債に係る利息に加減して処理することも認められます(金融商品会計基準注14)。 実務上はこの特例処理を採用しているケースが多いと考えられます。 ここで、金利スワップの想定元本、利息の受払条件及び契約期間がほぼ同一である場合とは、以下の条件をすべて満たすことをいいます(金融商品会計に関する実務指針第178項)。 【金利スワップの会計処理まとめ】 ※11月はESOPの会計処理を取り上げます。 (了)
「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第11回】 (最終回) 「まとめ」 弁護士 鈴木 郁子 1 はじめに これまで10回にわたり、会社が従業員を解雇する場合の実務とそのリスクや対応策について解説してきたが、解雇の要件は、従業員側に原因のある普通解雇(【第4回】~【第8回】)、懲戒解雇(【第9回】)、会社側の経営状態を理由とする整理解雇(【第10回】)によってそれぞれ異なるものの、一般に思われているよりも遥かに難しいものであることがご理解いただけたと思う。 雇用契約はそもそも当事者の合意に基づくものであるところ、解雇は会社側による雇用契約の一方的な意思表示であり、これにより従業員は生活の基盤となる収入を失うことになる。したがって、解雇が有効とされるためには極めて厳しい条件が課されるのである。 とはいえ、当該従業員に辞めてもらわなければ他の従業員の士気が低下する等、企業活動に支障が生じるケースがあるのも確かである。 この連載の最終回である本稿では、解雇の難しさを前提に、これまで論じたところと一部重複する部分はあるものの、辞めてもらいたい従業員にする会社側の対応策について、時系列により網羅的に論じてみたい。 2 採用・雇用契約締結段階の工夫 (1) 雇用契約書と誓約書 まず大前提として、一度雇用契約を締結してしまったら、当該従業員を解雇により一方的に辞めさせるのは非常に困難である。いったん採用したら、一方的に辞めさせることはできないという覚悟を持つことが必要である。 そのために、まずは提出書類の記載に虚偽がないか、面接の受け答えに問題・不自然な点がないか等、慎重に確認してほしい。 また昨今、入社直後にメンタルヘルス等の問題が発生するケースも多く見られるが、確認してみると、実は前職でも休職の事実があったことが発覚することがある。このようなことにならないよう、職歴や既往症の有無、前職での休職の有無については、雇用契約締結時に誓約書等の形で申告させておいた方がよい(その際は、事実と異なる場合には採用取消ないし解雇することがあるとの条項を加えておく)。 これにより、誓約書の内容に虚偽があった場合に直ちに解雇できるわけではないものの、実務上、合意退職が成立しやすくなる(【第8回】2を参照)。 また、特に中途採用の場合には、一定の能力や経歴があることを期待して採用することも多いが、能力不足や適格性欠如を理由として解雇するには、雇用契約の内容として、その地位・職務・職種に期待されている事項が特定されている必要がある(【第5回】を参照)。 したがって、雇用契約書には、当該従業員の採用の前提となった職務経験、採用後に想定される職務内容や期待値、それらが給与・処遇等に結びついていることを明示すべきである。 (2) 試用期間の活用 採用は慎重に行わなければならないとしても、面接だけでは、当該従業員が会社に相応しい従業員か否か、判断できないことも多い。したがって、何かしら採用に不安のある従業員である場合は当然のこと、そうでない場合にも、必ず試用期間を設けるようにしたい。 試用期間があることをもって内定を断る者は通常いないだろう。そして、試用期間中の就業状況をみて問題があるのであれば、正社員としての採用を拒否した方がよい。正社員としての採用拒否も解雇の一種であり、解雇権濫用法理は適用されるが、正社員登用後より適用は緩やかである。また、本人自身も試用期間中であれば退職につき納得を得られやすく、解雇を争わず、また、退職勧奨にも応じやすい。 それでも正社員として登用するのであれば、繰り返し述べてきたように、その直後に解雇することはできないと覚悟すべきである。また、少なくとも、正社員登用時に本人の問題行動の解消等を雇用継続の条件等とする等の雇用契約書を締結し直しておいた方がよいだろう(【第6回】参照)。 (3) 期間の定めのある雇用契約の活用 また、期間の定めのある雇用契約を活用する方法もある(【第1回】参照)。つまり採用に不安の残る場合には、期間の定めのある雇用契約を締結し様子を見るというものである。 期間の定めのある雇用契約の場合、契約期間中は、会社が一方的に雇用契約を終了することはできないが(期間の定めのない場合より厳しい)、期間が終了しさえすれば、原則として雇用契約を終了させることができる。 期間の定めのある場合であっても雇止めの問題はあるが、雇止めと期間の定めのない場合の解雇とでは、雇用契約の終了のしやすさが全くといっていいほど異なる。 3 雇用契約締結後の工夫 ~従業員の問題行動等の証拠化と告知 解雇が有効であることの立証責任は会社にある。解雇の種類・理由によって細かい要件・考慮要素は異なるが、結局のところ、当該従業員に会社を辞めてもらわなければならない理由があること、それが重いものであること、会社として解雇を回避するために従業員に問題性を指摘し、改善の機会等を与えるなどの努力をしてきたこと等を、会社が証拠をもって立証する必要がある。 したがって、まずは、会社は、逐次、従業員の問題行動・就業状況等についての証拠化に努める必要がある。そして、適宜本人にフィードバックして伝え、本人の言い分を確認する。必要があれば懲戒処分を行い、これに至らずとも、注意等を行い、本人の問題性を自覚させ、このようなことが続くようであれば解雇がありうることを告げる。注意や告知した事実自体も記録する(詳細は【第6回】4を参照)。 人事評価制度がある場合には、本人の問題行動や就業状況等については必ず評価に反映させ、評価結果の本人に対するフィードバックの際にそのことを告げるべきである。 また、本人に改善の機会を付与するために配置換えを行った場合には、そのことを告げることも忘れないようにしたい。解雇が争いとなった場合に「改善の機会を付与した」と主張するには、本人に改善の機会が付与されたことの認識が必要だからである。 横領行為などの不正がある場合は別として、解雇は、これらの対応の積み重ねによって初めて実現可能なものとなる。 4 退職勧奨の検討 (1) 解雇リスクの検討 実際に会社が解雇に踏み切る前には、解雇を行うことのリスクを十分に検討していただきたい。 裁判での争いとなった場合、解雇の判断は裁判官により異なる可能性もあり、万一その解雇の無効が確定すると、それまでの間のバックペイ及び遅延損害金が発生する上に、最終的には復職を認めざるを得なくなる。 また、解雇の有効が確実視される事案であっても、残業代やパワハラ等、他の労働問題もあわせて争われたり、弁護士費用等・手続的負担のリスクがある。 これらリスクの詳細については、【第2回】及び【第3回】を参照されたい。 (2) 退職勧奨の検討 さらに、退職勧奨による合意退職の余地がないのか、という点も検討が必要である。退職勧奨をしてみても合意退職が成立しない場合に、解雇の検討を行えばよい。 また、解雇の有効性が微妙な事案であればなおさら、解決金の支払による合意退職の成立を検討してほしい。これが争いとなった場合の敗訴リスク、他の問題が顕在化するリスク、弁護士費用・手続的負担、いつまでも解決未了のままとなるリスク等を考えれば、一定の解決金を支払ってでも合意退職の形で解決した方が、会社にとって全体的な見地からは好ましい事案も少なからずあるはずである。 なお、退職勧奨は許されないと考えている会社関係者がいるが、これは誤解である。退職勧奨は、従業員に対して退職を促すための事実上の行為でしかなく、退職するか否かの決定権は従業員に残されており、退職勧奨自体で何らかの法的な効力が発生するわけではない。したがって、使用者による退職勧奨は原則として自由である。 もっとも、退職勧奨が社会的に相当な手段・方法によって行われ、強要に当たってはならないので、その実行には十分な注意が必要である。また、退職勧奨の結果、退職合意が成立した場合には、事後的に合意の効力を争われることを避けるために、必ず、これを合意書の形にする必要がある(本稿の論点から外れるのでここでは論じないが、退職勧奨については、筆者ホームページの「会社目線の労働コラム」で論じているので参考にされたい)。 5 それでも解雇の選択をする場合 上記の検討を行ったうえで、それでも解雇を選択するときには、解雇予告(解雇予告手当の支払)、解雇理由書の交付等を含め、解雇手続を正しく履践しなければならない(詳細は【第4回】を参照)。 その結果、裁判で争わることになったとしても、訴訟の判決が確定するに至るまで、いつでも従業員側との話し合いにより、何らかの形で解雇紛争を決着させることは可能である。 交渉→労働審判→訴訟と、時が経過し、手続が進行すればするほど、合意の成立は困難となるし、解決金の支払が必要な場合の解決金の金額は一般に多額となる。とりわけ、交渉段階で本当に労働審判・訴訟になってしまってよい事案か否か、十分な検討が求められる(詳細は【第3回】を参照)。 (連載了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第2回】 「農地法と農業委員会(その1)」 税理士 島田 晃一 今回から2回にわたり、農地法及び農業委員会について見ていきたい。 「農地法」とは、農地や採草放牧地の取扱いを定めた法律である。 1 農地の定義(農地法第2条) 農地の定義については、農地法第2条において、 とされている。 このなかで、「耕作」とは、土地に労費を加え肥培管理(作物の成育を助ける農作業一般のこと)を行って作物を栽培することをいい、耕作の目的に供される土地は現に耕作の用に供されている土地の他、現在は耕作されていなくても耕作しようとすればいつでも耕作できる状態の土地を含むとされている。 税務上における農地の定義は、この農地法第2条に即している。例えば、農地の納税猶予の対象になる農地・採草放牧地は、原則として農地法第2条に規定する農地・採草放牧地と定められている。 農地法における農地の定義は前述したように「耕作の目的に供される土地」である。したがって、ビニールハウスや温室のように土地に直接栽培していれば農地として認められる。逆に、コンクリートやアスファルトで固めた部分や農機具庫や貯蔵倉庫の敷地は農地とは認められない。 また、農地であるか否かは、不動産登記における地目ではなく、その土地の状態により客観的に判定される。固定資産税の課税においては登記地目が「田」や「畑」となっていても、市町村が該当地の実施調査を行い宅地と判断されれば宅地として課税される。 なお、最近の一部報道では、農地法を改正し、野菜生産工場の敷地も農地とするよう検討がされていると伝えている。仮にこのように農地法が改正されたならば、農地の財産評価や納税猶予の適用についても見直しがなされると考えられる。 2 農地の売却に伴う許可(農地法第3条における許可) 宅地を売却する際に行政庁から許可を得る必要はないが、農地を売却したり有償又は無償で賃貸する場合には、農地法に基づいて行政庁の許可や届出が必要になる。これは、投機目的の農地の売買を禁止し、より効率的な農業経営を行う者に農地取得を誘導するために設けられている規定である。 具体的には、農地法において次のように定められている。 この第3条の許可(3条許可)は、農地等を他の用途に転用せずそのまま農地等として所有権移転や賃借権の設定を行う場合に受けなければならないものである。3条許可を受けないで行った行為は無効となる。むろん所有権移転登記もできない。 3条許可を受けるためには、次のすべての要件を満たす必要がある。 取得者が新規就農者であるときは、農業委員会に「新規就農承認願」及び「就農計画書」を提出しなければならない。また、(3)の一定の面積は原則として5,000㎡以上である必要があるが、各市町村の農業委員会が別段の面積を定め公示したときは、その面積が下限になる(実際に下限面積を3,000㎡としている自治体もある)。 許可申請の手続きは、許可申請書に土地の全部事項証明書や公図、見取り図など一定の書類を添付し、その農地の所在する農業委員会に提出する。 相続・遺贈により相続人等が農地を取得した場合には、許可を受ける必要ないが、農地法第3条の3第1項の規定により、農業委員会にその旨を届け出なければならない(贈与の場合には届出ではなく許可が必要)。届出書には、農地を譲渡・取得等した者の氏名や農地の所在地、農業委員会の第三者へのあっせんの必要の有無等を記載する。 この規定は平成21年12月の農地法改正により新たに設けられた規定であり、それ以前は必要なかったので、届出制度を知らないクライアントも多いと思われる。 農地の相続を担当するときには必要な知識になるので、是非覚えておきたい。 3 農地の転用・売却に伴う許可(農地法第5条における許可) 農地法第5条の許可(5条許可)は、農地等を宅地等に転用するため売却したり賃借権の設定を行う場合に受けなければならないものである。 具体的な条文は次のとおりである。 条文を見ると、5条許可は都道府県知事が行うことになっているが、実務上は農業委員会を経由して都道府県知事等に申請書を提出する形になる。 許可の基準には「立地基準」と「一般基準」がある。立地基準とはその農地が所在している場所が許可の可否基準になるものである。例えば、その農地が農用地区域内など農地として維持することが必須である地区内にあるときは原則として許可がおりない。 また、都市計画法における市街化区域に所在する農地については許可は不要であり、農業委員会へ届出を行えば売却・転用を行うことができる。 詳しくは次回において述べる。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 【第7回】 「『判断能力』に問題ある場合/ 問題が発生しそうな場合の具体的対処法(その2)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 前回に続き、今回は、判断能力の低下が本格的に問題となる【第2ステージ】以降の対応につき説明する。 3 第2ステージ:判断能力について、生活上の支障が生じてきた段階 ▷想定する状況 一般的には、この段階に至って初めて、本人の財産管理や将来の生活に対する手当ての必要性を実感し、動き始めるケースが多いと思われる。 そのため、税理士等の士業としても、この段階での相談対応には特に習熟しておく必要がある。 ▷第2ステージで取りうる財産管理等の手法 ▷補足説明 ひとくちに第2ステージという括りを設けても、そこに含まれるケースは千差万別である。 つまり、本人の状態や対象となる法律行為毎に、その時点での判断能力をもって有効に進められるかどうかも変わり得る。 よって、このステージにおいては、①本人の心身・判断能力の状態、②財産管理等を必要とする具体的問題の内容把握と現時点での状況確認、③検討中の契約・取引が本人に及ぼすメリット・デメリットの比較検討、④本人に代わって財産管理を実施し、あるいは支援する者の負担等の様々な事情を慎重に検討し、進めていく必要がある。 この点、弁護士の目から見て、第2ステージに関連する紛争で一番多いのは、「契約当時に判断能力が無かったとして、後日に有効性を争われるケース」である。 これは、いまだ本人が存命中に問題とされる場合もあるし、時には、契約締結から10年以上も経過し、本人が亡くなった後に遺産分割等を契機として問題が表面化するケースもある。 第2ステージにおいて各種の対策を取る場合は、以上のような紛争が起こり得ることを想定し、契約当時において判断能力に問題はないとする証拠を予め確保しておくことがポイントである(そのための具体的な内容は、【第5回】を参考にしていただきたい)。 その点も含め、第2ステージにおいて士業が相談を受けた場合には、慎重な取扱いが要請される。 3 第3ステージ:判断能力を(ほぼ常時)失っている段階 ▷想定する状況 典型例では、数年前から既に第3ステージに挙げる状態には至っていたものの、これまで厳密な財産管理や財産処分等の必要性は特段生じておらず、そのままの状態にしていたが、今般、施設入居の費用捻出等のため、本人の所有不動産を直ちに売却する必要が生じたとして、士業に相談が持ち込まれるケースである。 しかし、もはや第3ステージにまで至っていると、以下のような限定的な手法しか取れないという実情がある。 ▷第3ステージで取りうる財産管理等の手法 ▷補足説明 第3ステージに至り、本人は既に判断能力を失っているにもかかわらず、特に成年後見等の申立てはせず、親族が本人名義のキャッシュカードを用いたり、本人名義で各種公共料金を支払う等の対応をしているケースは多々ある(「事実上の後見人」と呼ばれる)。 正式な成年後見を開始することで得られるメリットと、成年後見人の事務負担等のデメリットという費用対効果を考えあわせれば、やむを得ないケースもあろう。 ただし、本人がこのような状態にあるにもかかわらず、事実上の後見人が本人に代わって財産処分に関する法的契約を締結しようとしている場合には、士業がこのような状況を知りながら当該契約の締結を進めることに積極的に関与することは大きなリスクがある。後日に懲戒申立てや損害賠償請求の形で、専門家としての責任を問われかねないからである。 そのため、特に第3ステージにおける相談対応は、相談者に対して「法律上可能であるもの」と「困難であるもの」とをはっきり区別して明確に示していく必要がある。 第3ステージに至った場合の財産管理は、上記に示したように、取りうる手段も非常に限定されてしまう。 そうであるからこそ、このような状況となって袋小路に入り込む前に、第1ステージ・第2ステージという早期の段階から対応を検討していくべきなのである。 (了)
〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第7回】 「F/Sの結果を総合的に判断するには」 中小企業診断士 西田 純 前回は、外部環境の変化に備えることと、F/Sの目的を再確認することの重要性についてお話しました。今回は、ある程度検証された仮説に基づくF/Sの結果を判断するうえで、総合性が重要な視点になることをお伝えしたいと思います。 ▷ 総合性とは何か F/Sが導き出した結論に対して、「結局は財務分析の白黒ではないか」という声を聴くことがあります。もちろん、財務的に成り立たないプロジェクト案は最終的には棄却されることになるので、それが重要であることに議論の余地はありません、ただし、実際にプロジェクトを進めていく上では、想定されるさまざまなリスクや変化に対応することが求められるため、F/S段階で把握されていた外部条件や事業を取り巻く環境・事実関係について、全体感を持って把握しておくことが大変重要になります。 財務分析についても、単に収益性だけではなく、安全性や環境の変化に対する耐性などを合わせて検討しておくことが望ましいと言えます。事実関係と財務分析の両方について、全体感すなわち「総合性」を持って網羅的に把握することが重要です。 ▷ まずは条件整備を 連載【第3回】の「検証しやすい仮説はこう作る!」でもお話しましたが、F/Sで取り扱われる仮説は、極力数字に落とし込まれていると検証しやすくなります。 現地調査で原材料の市況単価などを調べるとき、汎用品や店売り資材の価格などについてはカタログ情報などで間に合わせるということがよくあります。他方で、例えば現場作業員の労務費などはヒアリングに頼ることが多く、そうすると本来多様な職種・経験によって異なる単価を「平均労務費」といった1つの単価で間に合わせてしまうことがあります。 カタログ情報などは、ベンダーの都合に合わせて仕様ごとにかなり細かい単価設定になっていることも少なくありませんので、「F/S段階ではそこまで細かい情報は要らないのに」と思いつつも、信頼できる情報だからという理由で持ち帰れる情報は細大漏らさず持ち帰ることになったりします。 これらの情報について、最終的には1つの財務モデルに落とし込まれていくわけですから、一部分だけ詳しすぎる情報があっても、全体感を見極める上ではその情報だけが非常に有用になるというわけではありません。 モデル作りをするうえで、どのくらいの精度や粗さの情報があれば良いのかについては、総合性を優先させるためにあらかじめ基準を決めておくことをお勧めします。 具体的には、数字の新しさ(鮮度:2年前より古いデータは使わない、など)、信頼性(確度:確かなソースが判っているデータのみを使う)、そして精度と粗さ(粒度:計算単位がトンなのかキロなのか、情報の細かさやバラツキの許容範囲を決める)という3点について、考え方をすり合わせておく必要があります。 ▷ 多面的評価の重要性 上でも触れたように、財務分析では収益性のみならず、安全性や変化への耐性なども慎重に検討されるべき要素となります。以下に、一般的なF/S財務計算の評価手順を述べます。 ① 検討対象期間の資金繰り見通し プロジェクトの発足から想定される実施期間の最後まで、資金繰り面で破たんする懸念がないことを確認しておきます。資金繰りの見通しはプロジェクトの継続を考えるうえで最低限の条件となるため、複数のシナリオについて検討する場合には、資金繰り見通しを漏れなく確認しておくべきでしょう。 ② 事業の安全性 予想貸借対照表における固定資本投資の安定性や短期の資金繰りバランスに加え、損益計算レベルでも十分な固定費回収(売上総利益)が望めることを検証してください。このため、F/S段階の損益計算書については固定費・変動費の別を基準に作成する直接原価計算方式を採用するのがベターです。このデータから損益分岐点分析を行い、想定される損益分岐点を把握しておくのが良いでしょう。 ③ 事業の収益性 想定されるキャッシュフローから、事業の収益性を計算します。投下資本を何年で回収できるか(回収期間法)、キャッシュフローを投下資本に対するリターンとして考え、時間価値を加味するとどのくらいの儲けになるか(DCF法)等の評価方法があります。キャッシュフローは「税引き後営業利益」という概念的な数字(営業利益に「1-税率」を掛ける)に減価償却を加算し、さらに運転資本投資の増減と、大規模修繕など追加的な固定資本投資の発生を加味して算出します。 ④ 感度分析(環境変化への耐性チェック) 前回説明したシナリオ・プランニングとも関係する話ですが、外部環境の変化によって想定される事業モデルが影響を受けることは多くの場合不可避です。そこで以下のような変数について感度分析を実施し、予想収益がどの程度の影響を受けるのかについて検討しておくと良いでしょう。 ①売上高の増減(案件にもよりますが、5%~10%の増加および減少について見通しておきます)、②初期投資金額の増減(同上)、③変動費の増減(同上)くらいについて評価できれば、さしあたりの環境変化について目配りができたことになると思います。また、特に海外案件の場合は④為替の変動、⑤インフレについても留意する必要が出てくるので注意してください。 * * * 以上、今回は「F/Sの結果を総合的に判断するには」についてお伝えしました。次回は「陥りがちなF/Sのワナについて」ということで、実施および評価段階で気をつけるべきポイントについてお話します。 (了)
実務家による実務家のための ブックガイド -No.3- 弥永真生 著 『リーガルマインド会社法』 〈評者〉 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 すべてのスタートは「会社は営利社団法人である」という一文から 会計基準、監査基準、租税法、会社法。私が業務を進めていくにあたり必要となる知識の4本柱である。程度の大小はあれ、これらの内容は相互関連性が高いため、常にキャッチアップしておかなければならない分野といえる。 ところで公認会計士試験には、「企業法」という科目が含まれている。企業法の分野には、会社法、商法(海商並びに手形及び小切手に関する部分を除く)、金融商品取引法(企業内容等の開示に関する部分に限る)及び監査を受けるべきこととされている組合その他の組織に関する法が含まれる。 とりわけ「会社法」は、企業法のなかで最も重要かつボリュームのある内容である。 私が受験生だった頃、会社法はまだ施行されておらず、昔の商法典の中に会社法が含まれていたのだが、商法の条文は漢字カタカナの文語体であり、句読点もなく、非常に苦戦していたのを思い出す。お恥ずかしい話だが、短答式試験で一度「足切り」をくらって不合格となったのも、この科目であった。 とにかく法律の学習が大の苦手だった当時、何とか克服しようと書店をさまよったなかで出会ったのが、今回ご紹介する弥永真生先生の『リーガルマインド会社法』(有斐閣)であった。現在は第14版が刊行されているが、私が最初に手に取ったのは改訂版。ボリュームも今よりだいぶ薄かったように思う。 私は本書を繰り返し読みあさり、制度趣旨や条文解釈について徹底的に書き殴り、会社法の体系を身体にたたき込んでいった。当時の改訂版はマーカーと書き込みでボロボロになり、全体的に変な色になってしまった。今思えば、気力と体力と記憶力が十分に備わっている学生だからこそできた所業であった。 私は、本書から会社法の基礎的な知識体系を得たと確信している。すべてのスタートは「会社は営利社団法人である」という一文から。これを単語ごとにぶった切っていく。「営利」「社団」「法人」。それぞれの単語ごとにどのような制度に発展していくか。どのような論点が含まれているのか。そのようなことをイメージしながら、頭の中で壮大な「地図」を作り上げていった。 制度を個別に学習するよりも、こうした「地図」を手に入れてから学習していったほうが遙かに効率が良いし、忘れにくいものである。 そして一旦マッピングできてしまえば、どのように問われても適切な解答を導き出すことができる。こうして最も苦手な科目を克服し、公認会計士第二次試験(当時)に合格することができた。 このような経緯から、会社法を学習したいと考えている読者には、是非本書をお勧めしたい。決して受験対策ということではなく、会社法をひととおり「ざっと」勉強したいという読者を念頭に、本稿を執筆した次第である。無論、受験対策としても、お勧めの書籍であるが。 2 本書の構成と特徴 本書(第14版)は11章構成である。 本書の最大の特徴は、会社法を理解するために必要な「視点」と「制度の構造」が冒頭の第1章から第3章の総論部分において図解も織り交ぜて明確に示されていることである。 この「視点」とは、会社法の世界をマッピングする際に軸となる視点であり、法の趣旨はすべてこの「視点」から語ることができる。また、「制度の構造」とは、法の趣旨を達成するために会社法が用意した様々な仕組みを「類型化」したものである。これによって、膨大な会社法の制度をコンパクトに整理することができる。特に第3章の「株式会社の前提と視点」は、株式会社の仕組みを理解する上で必要な基礎的考え方が網羅されており、しかもそれがひとつのストーリーとして展開されているのが素晴らしい。 本書には細かく項目番号が付されており、文中、他の関連する項目番号も参照されているのも特徴的である。これにより、ある論点を学習している際、別の項目との関連性についても意識的に気づかされるし、あるいは関心があれば参照先に飛んでさらに調べることもできる。これも、受験生時代は大変有り難かった。 本書は、『「視点」から導き出された「制度趣旨」を理解することが、その先の個別制度の理解につながる』という思考を私に与えてくれた。 最近これを実感する機会に恵まれた。 株式会社の機関設計の組み合わせの問題である。 会社法の施行に伴い、実現可能な機関設計の組み合わせが大幅に増加し、個別に組み合わせを覚えようとしてもなかなか難しくなった(40通りくらい?ある)。しかも、会社法の条文にはパズルのような規定しか書かれていない(会社法326条~328条)。 このようなとき、やみくもに実現可能な組み合わせを覚えるよりも、それぞれの機関(株主総会、取締役、取締役会、監査役、監査役会、会計監査人、会計参与/指名委員会等設置会社/監査等委員会設置会社)の設置の趣旨を理解すれば、おのずと組み合わせについても理解できるのである。この理解に達したときは、素直に嬉しく思った。 以上要するに、会社法を学習するうえでは、個別の制度を場当たり的に調べることは効率的ではなく、少し遠回りかもしれないが、会社法を貫くいくつかの「視点」を学習し、その延長線として個別の制度を学習すべきだと思うのである。 「視点」を理解し、「制度趣旨」を導出し、その先にある個別制度の理解に達したときの知的興奮を、ぜひ読者の皆様にも味わっていただきたい。 (了) 〔書籍情報〕 リーガルマインド会社法 第14版 弥永 真生 有斐閣、2015年3月 ISBN:978-4641137059 Amazonで詳しく見る
《速報解説》 日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会、 「会計不祥事の防止に向けた実効性のある監査」をテーマとした 調査報告書を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年8月5日付(ホームページ掲載は9月29日)で、公益社団法人 日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会は「監査役の会計監査と監査役スタッフの役割~会計不祥事の防止に向けた実効性のある監査とは~」を公表した。 これは、会計不祥事の防止に向けた実効性のある監査をテーマとして、近年発生した会計不祥事の事例等も交え、監査役として会計監査人とどのように連携すべきか、また、監査役自ら実施すべき監査の範囲、方法はどうあるべきかについて調査、研究を行ったものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 報告書では、監査役や会計監査人の役割などについて述べているが、以下では、近年発生した会計不祥事に関して取り上げる。 なお、報告書には、監査役協会関西支部登録会社を対象としたアンケートの実施結果も記載されているので、実務の参考になるものと思われる。 1 傾向 『東京商工リサーチ』の調査を用いて、2014年度の不適切会計のうち、発生当事者が「子会社・関係会社」であるケースは16 社(38%)と最多であることを述べている。 2015 年度も「不適切な会計・経理を開示した上場企業」は58件と前年を16件上回り過去最多を更新し、発生当事者別のうち「子会社・関係会社」も26件(44.8%)とさらに増加しているとのことである。 2 事例 具体的な会社名などは伏せられているが、次のように不正の手口などを紹介している。 (了)
《速報解説》 国税庁、平成28年分以後の特定支出控除の特例に関する情報を公表 ~特定の給付金の適用除外に係る税制改正を反映、「様式編」の追加も~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 このたび9月26日付で、国税庁より、特定支出控除の特例の概要についてまとめられた次の情報が公表された。 今年度の税制改正により、平成28年分以後の所得税においては、特定支出控除の対象から除外されるものとして、特定の給付金が支給される部分が追加されている。今回公表された情報は、平成25年分以後の取扱いについてまとめられた従前の情報に、この改正事項を反映させた内容となっている。 【1】 「給与所得者の特定支出の控除の特例」の概要 給与所得者が、特定支出をした場合において、その年中の特定支出の額の合計額が、給与所得控除額の2分の1相当額を超えるときには、その年分の給与所得の金額は次の算式で求めた金額とすることができる(所法57の2①)。 【特定支出控除のイメージ】 (※) 国税庁ホームページより 特定支出の種類や具体的な内容等については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 【2】 特定支出控除の対象から除外される部分 (1) 改正前の取扱い(平成27年分以前) 支出した金額のうち給与等の支払者から補填される部分があり、その部分について所得税が課されない場合には、その補填部分は、特定支出に含まれないこととされていた(所法57の2②)。 これは、補填された部分に所得税が課されていない場合、その補填された部分については、給与所得者は実質的に負担をしていないことになるためである。 (2) 改正後の取扱い(平成28年分以後) 上記(1)の取扱いに加え、平成28年分以後の所得税については、給与所得者が支出した教育訓練のための費用のうち「雇用保険法の教育訓練給付金」及び「母子及び父子並びに寡婦福祉法の自立支援教育訓練給付金」が支給される部分についても、特定支出に含まれないこととされた(所法57の2②)。 これら2つの給付金にも所得税は課されないため(雇用保険法12、母子及び父子並びに寡婦福祉法31の4、31の10)、給付金が支給される部分についても、給与所得者は実質的に負担をしていないと認められるからである。 〈特定支出控除の対象から除外される部分〉 上記改正については「第2 質疑応答編」の「2 特定支出となる支出から除かれる部分」を参照されたい。 なお、今回公表された情報には、特定支出控除の適用に際して、確定申告書に添付する様式が「様式編」として掲載されている。改正内容が反映された部分もあるため、あわせて確認していただきたい。 (了)
2016年10月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.188を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.45- 「タックスヘイブン対策税制(CFC税制)見直しの行方」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 来年度改正の焦点の1つであるタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制、以下CFC税制)の見直し議論が進んでいる。 平成28年度与党税制改正大綱では と詳細な記述がなされている。 では、BEPS最終報告書の基本的な考え方というのは何を意味するのか。 * * * BEPS報告書行動3では、「軽課税国等に設立された相対的に税負担の軽い外国子会社を使ったBEPSを有効に防止するため、適切な外国子会社合算税制(以下CFC税制)の設計について検討の構築を求める」として、「経済活動又は価値創造の場で課税する」という大きな課税原則の方向の中で、適用除外など6項目の論点に分けて詳細な記述をしている。 ただしこの勧告内容は、「ベスト・プラクティス」とされており、ミニマム・スタンダードに比べて各国の裁量が大きくなっている。その理由は、先進諸国のこの税制の位置づけが異なるという事情からであり、決して手を抜いたわけではない。 米国のように外国子会社配当益金不算入を採用せず全世界所得課税原則を採る国は、この税制を「繰延防止措置」と位置づけている。一方で、わが国を含む多くの主要国は、CFC税制を「租税回避防止措置」と位置づけている。このような異なる思想の制度は共通化が困難であるという判断から、ミニマム・スタンダード化は見送られた。 * * * 与党税制改正大綱に従って論点を整理すると、次のようになる。 まずは、オーバーインクルージョンの問題で、航空機リース事業の取扱いが、適用除外基準の問題として議論となる。これはきちんと手当てがなされるのではないか。 次は、アンダーインクルージョンの問題である。多国籍企業の租税回避を厳しく見直すことは、わが国企業の競争条件の公平化を図るという観点からは有益なことだ。 次に、日本の産業競争力や経済への影響にも配慮すべき、と大綱には書いてある。 実際、経済産業省の来年度改正要望には、「外国子会社合算税制等の見直しにあたっては・・・日本企業の過度な負担により国際競争力の低下を招くことがないよう、合理的で簡素な制度を目指すこと」と記されている。経団連の意見も同様である。 そしてその理由として、 としている。 この問題は、具体的には、「最初にトリガー税率でスクリーニングする現行方式を維持する」のか、「トリガー税率を廃止し、能動的所得と受動的所得の区分を重視する」のかということで、議論の焦点でもある。 配当や利子など法形式に基づき分類された所得を用いて判断するカテゴリーアプローチと、CFCの実質活動を見る実質アプローチ、わが国のようなハイブリッド型もある中で、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら検討が進められてく。 * * * わが国企業にとっての懸念は、租税回避防止措置が複雑になり、コンプライアンスコストが過大となることであろう。 一方、課税当局としては、BEPSを受けて企業行動にも大きな網がかぶせられたわけで、コンプライアンスの重要性の高まる中、日本型コーポレートガバナンスとしても、外国子会社の活動把握の必要性は高まっており、事務負担の増加ということは見直し反対の正当性にはならない、という考え方であろう。 その背景には、09年度に導入された外国子会社配当益金不算入制度により、(結果として)海外の子会社に利益が移転されているのではないかという懸念がある。 バランスの取れた結論を望む。 (了)