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包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第24回】「私法上の法律構成による否認論①」

筆者:佐藤 信祐

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包括的租税回避防止規定

理論と解釈

【第24回】

「私法上の法律構成による否認論①」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

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本稿では、私法上の法律構成による否認論の概要について解説する。学術的には、前回までに解説した法的実質主義とは異なるため、租税法律主義に反する可能性があるという見解もあるが、真実の事実関係を捉えるという点に限定すれば、今後の実務においても生じてくる可能性のある論点である。

 

1 私法上の法律構成による否認論の概要

私法上の法律構成による否認論は、今村隆教授によって主張され、中里実教授によって展開されたと言われている(※1)

(※1) 松原圭吾「租税回避行為の否認に関する一考察」税法学553号107頁(平成17年)

私法上の法律構成による否認論とは、「課税の前提となる私法上の当事者の意思を、私法上、当事者間の合意の表面的・形式的な意味によってではなく、経済的実体を考慮した実質的なかたちにしたがって認定し、その真に意図している私法上の法律構成を前提として、課税要件のあてはめ」を行うことであるとされている(※2)

(※2) 中里実「タックス・シェルターと租税回避否認」税研14巻83号64頁(平成11年)

私法上の法律構成による否認論は、第1類型(契約が不存在と認定する場合)、第2類型(契約が虚偽表示により無効であると認定する場合)、第3類型(契約の法的性質の決定により、当事者の選択した法形式を否定して、真実の契約関係を認定する場合)の3つに分けられる(※3)。すなわち、私法上の法律構成による否認論は、契約をどのように解釈するのかという問題であるということが言える。

(※3) 今村隆『租税回避と濫用法理』60頁(大蔵財務協会、平成27年)

しかしながら、住友銀行事件(大阪高裁平成14年6月14日判決・判時1816号30頁)では、

上記の解釈は、要件事実の認定に必要な法律関係については、表面的に存在するように見える法律関係に即してではなく、真実に存在する法律関係に即して要件事実の認定がなされるべきことを意味するに止まり、真実に存在する法律関係から離れて、その経済的成果や目的に即して法律関係の存否を判断することを許容するものではない

と判示されている。さらに、金子宏教授も

納税者が行ったと主張する、税負担の免除・軽減をもたらす私法上の行為ないし取引が、私法上の真実の法律関係に立ち入って、その行為が本当に行われたか否か、行われなかったとした場合に真実にはどのような行為が行われたのかを認定しなければならないことはいうまでもない。・・・(途中省略)・・・、法理論上は、これは私法上の真実の法律関係に即した課税であって、租税回避の否認ではない。ただし、何が私法上の真実の法律関係であるかの認定は、取引当事者の効果意思に即して、きわめて慎重に行われるべきであって、『私法上の法律構成』の名のもとに、仮にも真実の法律関係から離れて、法律関係を構成しなおすようなことは許されないと考える。

とされている(※4)。このように、私法上の法律構成による否認論は、法的実質主義の範囲内に留めるようにも思われる。

(※4) 金子宏『租税法』127-128頁(弘文堂、第19版、平成26年)

この点につき、そもそも今村教授が私法上の法律構成による否認論を主張されたのは、民法の分野で契約解釈の方法が議論となっていたからである(※5)。すなわち、金子教授と同様に、真実の法律関係に即した課税であって、租税回避の否認ではないと考えられているように思われる。そのため、今村教授は、租税回避に該当する場合であっても、重要な間接事実になる要因にはなるものの、基本的には、民法上の事実認定の方法と異なるところはないと解されている(※6)

(※5) 今村隆前掲(※3)58頁

(※6) 今村隆前掲(※3)100頁

ここでいう重要な間接事実とは、租税回避の意図があれば、表面的な法律構成と真実に意図している法律構成が異なる可能性が高いという話であり、それのみをもって否認できるわけではないと解される。すなわち、現金交付型合併の代わりに、現金で株式を購入してから合併を行うという行為が考えられる。

真実に意図している法律関係は、A氏が保有するX社を買収する際に、対価として、現金3億円と買収会社株式2億円を支払う場合を想定する。この場合に、株式交換により、現金3億円と買収会社株式2億円を交付した場合には、非適格株式交換に該当するから、3億円の現金で株式を購入してから株式交換を行ったというように解されるのかもしれない。しかし、現金で株式を購入するという行為を株式交換の対価として現金を交付するという行為に認定するのは、いくらなんでも無理がある。そのため、これを否認するとすれば、包括的租税回避防止規定によらざるを得ない(※7)

(※7) 包括的租税回避防止規定が適用されるか否かは、株式交換後のA氏による株式の保有期間や経営に対する関与などを含めたうえで、総合的に検討する必要がある。

また、今村教授は、私法上の法律構成による否認論を主張された後の重要な動きとして認識されている点として、

 英国における租税回避の問題についての判例の動き

 英国における契約解釈原則についての判例の動き

 我が国の債権法改正の動き

を挙げられている(※8)。今村教授が、民法の契約解釈の問題として私法上の法律構成による否認論を打ち出されていることから、債権法改正の動きに着目されるのは当然のことと言えるが、公認会計士、税理士の立場からすると、それほど民法に詳しくないことから、どれだけ租税法に影響を与えるのかという点に違和感があるのかもしれない。

(※8) 今村隆前掲(※3)110-113頁

ただし、法学部、法学研究科にて租税法を研究すると、民法の解釈から租税法の判例を分析することは少なくなく、民法の契約解釈から租税回避の問題を検討するのはむしろ当然のことと言える。私法上の法律構成による否認論に対する批判が強いのは、租税回避に対応するために、民法上、許される契約解釈を超えている可能性があるからと推測される。

そのため、次回以降では、私法上の法律構成による否認論が争われた裁判例についての検討を行いながら、私法上の法律構成による否認論の射程を見ていきたい。具体的には、アルゼ事件(※9)、公正証書贈与事件(※10)、航空機リース事件(※11)、船舶リース事件(※12)、映画フィルム事件(※13)、日蘭組合事件(※14)、投資クラブ事件(※15)をそれぞれ予定している。

(※9) 東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕

(※10) 名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号 〔順号8524〕

(※11) 名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕

(※12) 名古屋高裁平成19年3月8日判決・税資257号〔順号10647〕

(※13) 最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁

(※14) 東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕

(※15) 東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順号10811〕

(了)

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」(全35回)

【第1回】 最近の税務訴訟の動き

1 最近の租税回避訴訟の動き

【第2回】 租税回避の定義

2 租税回避の定義

【第3回】 包括的租税回避防止規定の規定内容

3 包括的租税回避防止規定の規定内容

【第4回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史①

4 同族会社等の行為計算の否認の歴史

(1) 大正12年の規定の創設

(2) 大正15年度税制改正

(3) 昭和15年度税制改正

(4) 昭和22年度税制改正

【第5回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史②

(5) 昭和25年度税制改正

(6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正

(7) 平成15年度以降の税制改正

【第6回】 国税通則法の制定に関する答申

5 国税通則法の制定に関する答申

【第7回】 創設規定と確認規定①

6 判例分析①(創設規定と確認規定)

(1) 総論

(2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035)

【第8回】 創設規定と確認規定②

(3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314)

【第9回】 創設規定と確認規定③

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

【第10回】 創設規定と確認規定④

(5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712)

【第11回】 創設規定と確認規定⑤

(6) 最高裁昭和54年9月20日判決(TAINSコード:Z106-4467)

(7) 最高裁平成16年7月20日判決(TAINSコード:Z254-9700)

【第12回】 行為計算の主体など

7 判例分析②(行為計算の主体)

(1) 東京地裁昭和45年2月20日判決(TAINSコード:Z059-2527)

(2) 評釈

8 判例分析③(行為・計算)

(1) 大阪高裁昭和35年12月6日判決(TAINSコード:Z033-0974)

【第13回】 行為・計算

(2) 最高裁昭和52年7月12日判決(TAINSコード:Z095-4019)

【第14回】 不動産関連の事案

9 不動産関連の事案

(1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286)

(2) 福岡地裁平成4年2月20日判決

(3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529)

【第15回】 不当の解釈

10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618)

(1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068)

(2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 不当の意味と課税要件明確主義

11 不当の意味と課税要件明確主義(最高裁昭和53年4月21日判決・TAINSコード:Z101-4179)

(1) 第一審(釧路地裁昭和49年4月23日判決・TAINSコード:Z075-3313)

(2) 控訴審(札幌高裁昭和51年1月13日判決・TAINSコード:Z087-3691)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第17回】 同族非同族対比基準

12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344)

(1) 事実関係

(2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第18回】 役員、従業員との取引

13 役員、従業員との取引

(1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859)

(2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556)

(3) 最高裁平成11年1月29日(TAINSコード:Z240-8327)

【第19回】 行為計算否認規定の論点

1 同族会社等の行為計算の否認の論点

2 包括的租税回避防止規定の論点

3 本連載の方向性

【第20回】 実質主義①

1 実質主義の定義

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

(3) 控訴審

(4) 上告審、差戻控訴審

(5) 評釈

【第21回】 実質主義②

3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第22回】 実質主義③

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

(3) 控訴審

(4) 評釈

5 東京高裁平成16年1月28日判決

【第23回】 実質主義④

6 実質主義の実務への適用

(1) 基本的な考え方

(2) 具体的な検討

(4) 評釈

【第24回】 私法上の法律構成による否認論①

1 私法上の法律構成による否認論の概要

【第25回】 私法上の法律構成による否認論②

2 アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成14年4月24日判決・税資252号〔順号9115〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第26回】 私法上の法律構成による否認論③

3 公正証書贈与事件(名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号〔順号8524〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成10年12月25日判決・税資239号〔順号8306〕)

(3) 控訴審・上告審

(4) 評釈

4 航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成16年10月28日判決・税資254号〔順号9800〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第27回】 私法上の法律構成による否認論④

5 映画フィルム事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁平成10年10月16日判決・税資238号715頁)

(3) 控訴審(大阪高裁平成12年1月18日判決・税資246号20頁)

(4) 上告審

(5) 評釈

【第28回】 私法上の法律構成による否認論⑤

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順合10811〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第29回】 課税減免規定の限定解釈

1 課税減免規定の限定解釈

2 制度の濫用論

3 次回以降の解説

【第30回】 租税回避と実務上の問題点①

1 はじめに

2 株式譲渡損益とみなし配当

3 税制適格要件

【第31回】 租税回避と実務上の問題点②

4 欠損等法人

5 適格合併による繰越欠損金の利用

6 損失の二重利用

【第32回】 租税回避と実務上の問題点③

7 清算所得課税

8 その他の論点

9 まとめ

【第33回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決①

1 包括的租税回避防止規定の射程

2 ヤフー事件

3 IDCF事件

【第34回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決②

1 租税回避の否認手法

2 事実認定に対する影響

3 法令解釈に対する影響

4 課税減免規定の限定解釈に対する影響

5 同族会社等の行為計算の否認に対する影響

【第35回】 租税回避の定義

1 租税回避の定義

2 立法論としての租税回避否認

3 まとめ

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筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
    ・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
    ・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

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