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〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《キャッシュ・フロー計算書》編 【第1回】「キャッシュ・フロー計算書における精算表の作成過程」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《キャッシュ・フロー計算書》編 【第1回】 「キャッシュ・フロー計算書における精算表の作成過程」   公認会計士・税理士 前原 啓二     はじめに キャッシュ・フロー計算書は、金融商品取引法に基づくディスクローズ制度において開示が義務付けられているため、その作成義務対象は上場企業等に限られており、中小企業には作成が義務付けされていません。しかし、中小企業会計指針では、キャッシュ・フロー計算書を作成することが望ましいとされています。 そこで、上場企業等に強制適用されている「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」等を参考に、個別キャッシュ・フロー計算書が作成できるように比較的簡単な間接法について、本連載で2回にわたって取り上げます。今回は、キャッシュ・フロー計算書作成のための精算表の作成過程を中心にご紹介します。 【設例1】 当社の当期(X5年4月1日~X6年3月31日)の損益計算書及び前期末と当期末の貸借対照表は、下記のとおりです。 (単位:省略) X5年5月の株主総会において、配当金10の支払が承認されました。 個別キャッシュ・フロー計算書(間接法)を〔別紙1〕の精算表を通して作成します。 〔別紙1〕 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 作成手順は以下《1》~《3》のとおりです。 《1》 精算表の左側2列に当期末と前期末における貸借対照表の各残高を記入し、その差額(前期末残高-当期末残高)を3列目に記入します。 《2》 各項目ごとに、次の修正を精算表に記入します。この設例では、キャッシュ・フロー計算書の科目には、「C/F」を追記し、それが借方の場合は資金マイナス科目、貸方の場合には資金プラス科目となります。 これらは、損益計算書の当期純利益からスタートして、そのうち資金の変動を伴わない費用(取り除くために資金プラスとします)・収益(取り除くために資金マイナスとします)を取り除き、損益計算書の費用・収益以外で資金の増(資金プラスとして追加反映します)・減(資金マイナスとして追加反映します)が生じる項目を追加反映するものであり、損益計算書の当期純利益から当期の資金変動額を導き出すための修正項目です。 〈繰越利益剰余金:税引前当期純利益の表示と配当金支払額の追加反映〉 これは、キャッシュ・フロー計算書が税引前当期純利益100からスタートするためです。また、配当金の支払額10は、損益計算書の費用項目ではないため資金マイナスとして追加反映します。 〈固定資産取得:有形固定資産の取得の追加反映〉 固定資産の取得支出108は、損益計算書の費用項目ではないため資金マイナスとして追加反映します。なお、この設例では車両運搬具の期首・期末残高は、前期末簿価30+当期取得108-当期減価償却費23-当期売却簿価5=期末簿価110という関係にあるものとします。 〈減価償却・除売却:資金変動を伴わない減価償却費の取り除きとしての資金プラス修正と固定資産売却額の追加反映〉 減価償却費40(=器具備品17+車両運搬具23)は資金変動を伴わない費用として取り除くために資金プラスとします。固定資産除却損3も同様です。固定資産売却益25を売却金額30へ修正して資金プラスとして追加反映します。なお、備品の期首・期末残高は、前期末簿価100-当期減価償却費17-当期除却簿価3=期末簿価80という関係にあることを把握しておきます。 〈引当金:資金変動を伴わない引当金の資金プラス修正〉 引当金繰入額は資金変動を伴わない費用として取り除くために資金プラスとし、退職金や賞与の支給額としての引当金の取崩額は、損益計算書の費用項目ではないため資金マイナスとして追加反映します。 退職給付引当金の期首・期末残高は、この設例では、前期末残高34+当期繰入15-当期支給取崩4=期末残高45という関係とすると、当期繰入15は資金変動を伴わない費用として取り除くために資金プラスとし、当期支給額としての取崩4は、損益計算書の費用項目ではないため資金マイナスとして追加反映し、まとめて両者の差額11(=15-4)を資金プラスとして追加反映します。この11は引当金の前期末残高から期末残高への増加額11と同じです。また、その他の引当金も同様です。 〈受取利息、支払利息:単なるキャッシュ・フロー計算書上の科目名への変更〉 〈法人税等:法人税等支払額の反映〉 キャッシュ・フロー計算書は法人税等を差し引きする前の税引前当期純利益からスタートするため、当期における法人税等の実際支払額20を資金マイナスとして追加反映します。なお、この設例では、未払法人税の期首・期末残高は、前期末残高20-当期納付20+当期未払法人税計上30=期末残高30という関係とします。 〈長期借入金:借入金の借入額と返済額の反映〉 借入金の借入額と返済額は損益計算書の収益と費用項目ではないため、資金プラスとマイナスとして追加反映します。 〈資産負債増減-売掛債権増加による資金マイナス修正〉 売上債権の期首・期末残高は、この設例では、前期末残高730+当期掛売上高5,000-当期入金額4,980=期末残高750という関係とすると、前期末より当期末の売上債権が20だけ増加すると、損益計算書の当期掛売上計上金額5,000よりも実際の当期入金額4,980の方が少ないため、その差額20(売上債権増加額20と同じ)を資金マイナスとして追加反映します。 〈資産負債増減-棚卸資産増加による資金マイナス修正〉 前期末より当期末の棚卸資産が増加するのは、資産の増加なので上記の売上債権と同様、資金マイナスとして追加反映します。 〈資産負債増減-仕入債務増加による資金プラス修正〉 仕入債務の期首・期末残高は、この設例では、前期末残高530+当期掛仕入高4,000-当期支払金額3,990=期末残高540という関係とすると、前期末より当期末の仕入債務が10だけ増加すると、当期掛仕入計上金額4,000よりも実際の当期支払額3,990の方が少ないため、その差額10(仕入債務増加額10と同じ)を資金プラスとして追加反映します。 〈資産負債増減-その他資産、その他負債〉 前期末より当期末その他資産が増加するのは、上記の売上債権と同様とみなすと資産の増加なので、資金マイナスとして追加反映します。前期末より当期末その他負債が増加すると、上記の仕入債務と同様とみなすと負債の増加なので、資金プラスとして追加反映します。 《3》 上記《1》、《2》を精算表〔別紙1〕にすべて記入し、一番右端の列に各行の合計を集計すると、キャッシュ・フロー計算書に記載する数字が算出されます。   (次回に続く)

#No. 570(掲載号)
#前原 啓二
2024/05/23

〔重要ポイント解説〕サステナビリティ開示基準案 【第2回】「IFRS S1号及びS2号との関係性と「サステナビリティ開示基準の適用(案)」の概要」

〔重要ポイント解説〕 サステナビリティ開示基準案 【第2回】 「IFRS S1号及びS2号との関係性と 「サステナビリティ開示基準の適用(案)」の概要」   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   2024年3月29日にSSBJより以下のサステナビリティ開示基準案が公表された。 今回は、サステナビリティ開示基準案とIFRS S1号及びS2号の関係性、そしてサステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案「サステナビリティ開示基準の適用(案)」の概要について解説する。   1 サステナビリティ開示基準案とIFRS S1号及びS2号の関係性 サステナビリティ開示基準案は、原則、ISSBから公表されているIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及びS2号「気候関連開示」の事項がすべて反映されている。ただし、一部の項目については、IFRS S1号及びS2号の要求事項に代えて日本独自の取扱いを選択することを認め、IFRS S1号及びS2号に追加して要求事項を定めているものもある。 IFRS S1号は、全般的要求事項について規定しており、IFRS S2号は、気候関連について規定している。ここで、IFRS S1号及びS2号とサステナビリティ開示基準案の関係性を説明すると、IFRS S1号のうち基本的な事項の部分は、「サステナビリティ開示基準の適用(案)」(以下、「開示基準案」という)で規定され、IFRS S1号のコア・コンテンツ部分(※1)は、「一般開示基準(案)」で規定されている。また、IFRS S2号は、「気候関連開示基準(案)」で規定されている。 (※1) コア・コンテンツ部分とは、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の部分をいう。   2 開示基準案の概要 開示基準案では、サステナビリティ関連財務開示に関する具体的な内容ではなく、開示する上での基本となる事項を定めている。主な内容は、以下のとおりである。 (1) 目的 開示基準案の目的は、サステナビリティ開示基準に準拠したサステナビリティ関連財務開示を作成し、報告する場合において、基本となる事項を示すことである(開示基準案1)。 (2) 範囲 開示基準案は、サステナビリティ開示基準に従ってサステナビリティ関連財務開示を作成及び報告する際に、適用する(開示基準案2)。 (3) 報告企業 サステナビリティ関連財務開示を報告する企業又は連結グループは、関連する財務諸表を報告する企業又は連結グループと同じである(開示基準案4(1)、7)。 (4) サステナビリティ関連財務開示 サステナビリティ関連財務開示とは、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込まれる報告企業のサステナビリティ関連のリスク及び機会(※2)に関する情報(リスク及び機会に関連する企業のガバナンス、戦略及びリスク管理並びに関連する指標及び目標に関する情報を含む)を提供する開示をいう。サステナビリティ関連財務開示は、一般目的財務報告書の特定の一様式として提供される(開示基準案4(4))。 (※2) 「企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会」とは、短期、中期又は長期にわたり、企業のキャッシュ・フロー、当該企業のファイナンスへのアクセス又は資本コストに影響を与えると合理的に見込まれるすべてのサステナビリティ関連のリスク及び機会をあわせたものをいう(開示基準案4(5))。 (5) 報告期間及びタイミング ① 報告期間 サステナビリティ関連財務開示は、関連する財務諸表と同じ報告期間を対象とする(開示基準案70)。 ② 報告のタイミング サステナビリティ関連財務開示は、原則として、関連する財務諸表と同時に報告する(開示基準案69)。 (6) 情報の記載場所 サステナビリティ関連財務開示は、関連する財務諸表にあわせて開示する(開示基準案64)。 (7) 他の情報との関係 サステナビリティ関連財務開示は一般目的財務報告書に含まれる他の情報によって不明瞭にならないように、明瞭で識別可能なものとする(開示基準案65)。 (8) リスク及び機会の識別の開示 サステナビリティ関連財務開示は、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込まれるサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する重要性がある(※3)情報を開示する(開示基準案22、36、50)。情報に重要性があるかどうかを評価するにあたり、定量的及び定性的要因(例えば、サステナビリティ関連のリスク及び機会の規模及び性質)の両方を考慮する(開示基準案59)。 (※3) 「重要性がある」とは、サステナビリティ関連財務開示において、情報の省略、誤表示、不明瞭があった場合に、財務諸表及びサステナビリティ関連財務開示を含む一般目的財務報告書の主要な利用者が行う意思決定に影響を与えると合理的に見込まれることをいう(開示基準案4(6))。 (9) 表示の単位 サステナビリティ関連財務開示における数値について、単位(CO2相当のメートル・トン(mt(e))、グラム(g)、ジュール(J)等)を開示する(開示基準案11)。 (10) つながりのある情報 サステナビリティ関連財務開示は、以下について、つながりを理解できるように情報を開示する(開示基準案31)。 つまり、サステナビリティ関連財務開示と関連する財務諸表のつながりなどを理解できるように情報を開示するということである。 また、サステナビリティ関連財務開示の作成に用いるデータ及び仮定は、財務諸表作成において準拠した会計基準を考慮したうえで、可能な限り、関連する財務諸表の作成に用いるデータ及び仮定と整合させる(開示基準案32)。 (11) 後発事象 報告期間末日後、サステナビリティ関連財務開示の公表承認日(下記(13)参照)までに報告期間の末日現在で存在していた状況について情報を入手した場合、新規の情報に照らして、当該状況に関連する開示を更新する(開示基準案74)。 報告期間末日後、サステナビリティ関連財務開示の公表承認日までに発生する取引、その他の事象及び状況に関する情報について、当該情報を開示しないことにより、主要な利用者の意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合には、当該情報を開示する(開示基準案75)。 (12) 比較情報 当報告期間に開示されるすべての数値について、前報告期間に係る比較情報を開示する。また、説明的及び記述的なサステナビリティ関連財務情報についても、当報告期間におけるサステナビリティ関連財務開示の理解のために有用な場合、比較情報を開示する。 ただし、上記のいずれも、以下のどちらかに該当する場合、前報告期間に係る比較情報を開示しないことができる(開示基準案76)。 (13) 公表承認日 サステナビリティ関連財務開示の公表承認日(※4)及び承認した機関又は個人の名称を開示する(開示基準案73)。 (※4) 「サステナビリティ関連財務開示の公表承認日」とは、サステナビリティ関連財務開示を公表することを社内の機関又は個人が承認した日をいう(開示基準案4(13))。 (14) 法令との関係 法令に基づきサステナビリティ開示基準に従った開示を行う場合、当該法令の名称を開示する。法令に基づきではなく企業が任意で、サステナビリティ開示基準に従った開示を行う場合、その旨を開示する(開示基準案81)。 サステナビリティ開示基準で要求する情報が、法令によって開示することが禁止されている場合、これを開示する必要はない。法令によって開示が禁止されているため重要性がある情報を開示しない場合は、開示しない情報の種類及び開示しない根拠となる法令の名称を開示する(開示基準案13)。 法令によって開示しないことが容認される情報であっても、重要性があるサステナビリティ関連財務情報については開示する(開示基準案14)。 (15) 商業上の機密 以下のすべての要件を満たす場合で、かつ、その場合に限り、サステナビリティ関連の機会に関する情報が、商業上の機密であると企業が判断したときには、当該情報がサステナビリティ開示基準で要求される情報であり、また、重要性がある場合でも、開示しないことができる(開示基準案15)。 (16) 経過措置 開示基準案を適用する最初の年次報告期間において、比較情報を開示しないことができる。また、最初の年次報告期間において、「気候関連開示基準(案)」に準拠して気候関連のリスク及び機会のみについての情報を開示することができる(※5)。これらの経過措置を適用する場合、その旨を開示する(開示基準案96、97)。 (※5) 最初の年度は気候関連のリスク及び機会のみ開示し、2年目からは気候関連だけでなく、すべてのサステナビリティ関連のリスクと機会について開示する。 (了)

#No. 570(掲載号)
#西田 友洋
2024/05/23

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第23回】「開示対象特別目的会社に関する注記」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第23回】 「開示対象特別目的会社に関する注記」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における開示対象特別目的会社に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 開示対象特別目的会社がある場合、当該会社の概要、当該会社との取引の概要及び取引金額等を注記する必要があります。 なお、連結計算書類を作成する株式会社は、個別注記表における当該注記は不要ですが、連結計算書類を作成する株式会社以外の会社では、個別注記表において注記する必要があります。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、個別注記表においては開示対象特別目的会社に関する注記の記載例はなく、連結注記表のみ次のような注記例が記載されています。 【連結注記表】   2 注記事項の解説 (1) 開示対象特別目的会社に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき開示対象特別目的会社に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第111条第1項第2号)。 (※1) 連結計算書類を作成する株式会社は、個別注記表における注記を要しません。 前回(第22回)の関連会社がある場合に持分法を適用したケースの投資の金額等の注記では、重要性の乏しい関連会社を注記対象から除外できる定めが会社計算規則第111条第1項本文にありましたが、開示対象特別目的会社の場合には、会社計算規則上、そのような重要性に関する定めがない点に注意が必要です。 (2) 注記事項の解説 開示対象特別目的会社とは、「連結財務諸表に関する会計基準」第7-2項により、子会社に該当しないものと推定された特別目的会社のことをいいます。 開示対象特別目的会社は子会社に該当しないと推定されるため、当然、連結子会社にも該当しません。そのため、当該特別目的会社の財務情報が連結財務諸表上に表れないため、その概要や取引金額等を開示して、企業集団の状況に関する情報を利害関係者に提供する趣旨で注記が求められています。 (参考)「連結財務諸表に関する会計基準」第7-2項 なお、開示対象特別目的会社に関する注記は、連結財務諸表を作成していない会社であっても、開示対象特別目的会社が存在する場合には、個別財務諸表において必要となります。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [鹿島建設株式会社 2023年3月期 連結注記表] ※鹿島建設株式会社「第126期定時株主総会 その他の電子提供措置事項(交付書面省略事項)」13頁より抜粋。 [株式会社大和証券グループ本社 2023年3月期 連結注記表] ※株式会社大和証券グループ本社「第86回定時株主総会招集ご通知(第86回定時株主総会招集ご通知に際しての電子提供措置事項)」11頁より抜粋。 *  *  * 次回の第24回は、「その他の注記(退職給付に関する注記)」をテーマに解説します。   (了)

#No. 570(掲載号)
#竹本 泰明
2024/05/23

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例93】ウエルシアホールディングス株式会社「代表取締役及び取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」(2024.4.17)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例93】 ウエルシアホールディングス株式会社 「代表取締役及び取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」 (2024.4.17)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、ウエルシアホールディングス株式会社(以下「ウエルシアホールディングス」という)が2024年4月17日に開示した「代表取締役及び取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」である。同社代表取締役社長の松本忠久氏(以下「松本氏」という)が代表取締役だけでなく取締役も辞任するという内容だが、主文は次のとおりである(下線は筆者による)。 自主的に辞任するのではなく、同社が辞任を勧告したとのことだが、「異動(辞任)の理由」は次のように記載されているだけである。 この開示をみただけでは、いったい何があって、同社がどのような判断を行ったのか、よくわからない。   2 不適正な行為? 松本氏はウエルシアホールディングスの親会社であるイオン株式会社(以下「イオン」という)の執行役も務めていたが、そちらは解任されている。イオンも、今回の開示と同じ2024年4月17日に「執行役の解任について」を開示しているのだが、その開示も次のように記載されているだけである。 「一身上の都合」により自主的に辞任するのであれば、それは個人的な事情であるため、会社があえて説明する必要はないだろう。しかし、会社の判断により辞任を勧告したり、解任したりする場合、その理由はきちんと説明すべきである。それとも、「私生活」におけることであるため、会社が説明する必要はないと考えているのだろうか。もしもそうだとしたら、そもそも辞任を勧告したり、解任したりする必要があるのだろうか。   3 調査は? 松本氏による私生活における不適正あるいは不適切な行為とは、おそらく「週刊新潮」で報道された行為かと思われる。記事に記載されていた松本氏の行為は以下のとおりである。 このうち②は可能性にとどまるが、事実であれば、3つの中で最も重大であるように思われる。第三者委員会による調査を実施してもいい事案かと思われるが、調査実施についての言及はない。ウエルシアホールディングスとしては、可能性はゼロで調査は不要と考えているのだろうか。そうだとすると、辞任勧告の理由とされる松本氏の行為は①と③なのだろうか。   4 何を防止するのか? 今回の開示の最後には次のような記載がある。 ①と③のような行為の再発をコンプライアンス体制の強化により防止するというのだろうか。③のような行為ならば、わかる。会社経費の私的利用など、経営者による公私混同はたびたび問題になるが、それは体制整備によりある程度は防止可能だろう。 しかし、①のような行為、すなわち配偶者以外の者との交際、いわゆる不倫は、会社のコンプライアンス体制の強化により再発を防止できるものなのだろうか。率直にいって、「不倫は駄目ですよ」といえば行わなくなるものとは思われないし、あくまで「私生活」におけることであるため、監督のしようがない。それとも、定期的に興信所に依頼して調査するとでもいうのだろうか。   5 信用を傷つけた? ということは、辞任勧告の理由とされる松本氏の行為は③なのだろうか。しかし、「異動(辞任)の理由」には「弊社の信用を傷つけるものであると判断した」と記載されている。会社の巨額の資金を私的に使ったというわけではなく、あくまで会社が費用負担しているマンションに他者を泊まらせただけである。それで会社の信用を傷つけたと判断するのだろうか。 今回の開示は極めて不明瞭でわかりにくいのだが、おそらく辞任勧告の理由とされる松本氏の行為は①なのだろう。①について週刊誌で取り上げられたことが、会社の信用を傷つけたというのだろう。しかし、それが辞任勧告の理由となることについては賛否が分かれるのではないだろうか。 もちろん不倫を推奨するつもりも肯定するつもりも毛頭ないが、犯罪やハラスメントなどと異なり、不適切であるとするのが難しい場合もあり得る。夫婦生活が破綻しているものの、配偶者が離婚に同意しないなか、他者と交際したような場合も非難されるものなのだろうか。 また、これも犯罪やハラスメントなどと異なるが、不倫はその有無を外部から証明するのが困難であり、最終的には当事者が認めるか否かで有無が決まるといえる。同じ部屋に泊まったという事実があったとしても、「何もなかった」といわれれば、それまでである。当事者が正直者の場合だけ存在することになってしまう。不倫を一律に経営者の辞任理由とするのは慎重であるべきではないだろうか。 今回の開示は、具体的な説明がなされたうえで「取引先に便宜を図っていた」や「公私混同が認められた」が辞任勧告の理由とされていれば、わかりやすかったのだが、ただ会社のイメージにマイナスなものは早く切り捨てて終わりにしたいというだけにみえてしまい、残念である。 (了)

#No. 570(掲載号)
#鈴木 広樹
2024/05/23

わたしは税金 「ママのヘソクリが貯まったら」-税務署はヘソクリをどう扱う?-

わたしは税金 「ママのヘソクリが貯まったら」 -税務署はヘソクリをどう扱う?- 公認会計士・税理士 鈴木 基史   ◆ママのヘソクリが貯まったら 田中さんちのママは、スーパーのレジ係のパートをしています。お給料はツヨシくんの塾・お稽古ごと代や家計費に回しているので、自分がやりくりできるお金はそんなにありません。そうかといって、お仕事の合間に行う、近所の奥さん方との喫茶店でのおしゃべりや、友達との外食の費用などを家計簿につけるのは気がひけます。 そこでパパにはないしょで、ときどき、パパのお給料の振込み口座から引き出した、毎月の生活費のうち余った分を自分の財布へ・・・。そんなお金が少し貯まってきました。どうしようかしら。このヘソクリが、ツヨシくんの大学受験とともに、目下、ママの心配の種です。   ◆ヘソクリは贈与ではない “ヘソクリ”を法律的にどうとらえるか、これは結構難しいテーマだと思います。まず、贈与なのかといえば、そうではなさそうです。 贈与は法律上の契約・・ですから、「あげます」「もらいます」と両者の息があって初めて成立します。あげたくても相手が受け取ってくれなければ贈与にならないし、また、ヘソクリのように、あげてもいないものを勝手にもらってしまっても、それは贈与ではありません。 ご主人があげるといったら、それはヘソクリではないんだし・・・まあ、ヘソクリに贈与税の出番はない、と考えていいでしょう。   ◆窃盗でもない? それじゃヘソクリは窃盗なのか――ドキッとさせるようなことをいってしまいましたが、これもなんだか変ですね。ご主人が奥さんを窃盗罪で告訴しただなんて、そんな話は聞いたこともありません。 それもそのはず、法律というのは常識的な感覚で書かれています。「刑法」をひもとけば、親子や夫婦の間で窃盗があっても、それは刑罰の対象としないことになっています。 ついでに申せば、兄弟の場合は、お互いに独立して生計を営んでいる間柄だと罰せられることもある、ということらしいですから油断は禁物・・・。   ◆ヘソクリは共有財産 話があらぬ方向に飛びましたが、税金上の取扱いとしては結局、ヘソクリのようないずれの持ち物かはっきりしないものは、夫婦共有と考えることになります。 奥さん名義で不動産を買ったとか、明らかな贈与があれば、そこで贈与税が問題となるでしょう。でも、ヘソクリのお金を税務署が探し出して税金をとるだなんて、まず考えられません。そんなことをすれば家庭争議のもと・・・われわれ“税金”は、そこまで野暮ではありません。   ◆相続時に共有財産を整理 結局、ご夫婦間の問題ですから、お二人がご存命の間はあまりとやかくいいません。だけど相続の折には、そこのところをきちんと整理してもらう。つまり、夫婦共有で残ったものは相続税の洗礼を受ける、というのがわれわれの基本的な考え方です。 でも、まあ田中さん、ご安心ください。相続税には結構大きな基礎控除がもうけられています。田中さんのお宅なら、相続人は奥さんとツヨシくんの2人ですから基礎控除が4,200万円。つまり、ヘソクリも加えて相続財産が4,200万円以下なら、相続税の心配はいりません。 「だけどうちは、4,500万円の自宅を買いましたけど・・・」 いえ奥さん、ご安心ください。相続税を計算する際の不動産の評価は、土地が路線価、建物は固定資産税評価額と、実勢時価よりかなり低い評価です。さらに自宅の敷地は、奥さんが相続する際には80%評価減という、魔法のような特例を用意しています。だからマンション敷地に対する田中さんの持ち分が、路線価評価で2,000万円だとしても、20%の400万円で評価できます。 年間110万円の贈与税非課税枠も設けています。ささやかな蓄えに対してまで、根こそぎ課税するだなんて、われわれは考えていません。税務署も、ありったけ出せ式の悪代官のような所業には及びますまい・・・そのように信じたい気持ちです。   ◆相続税の申告の際どう説明するか ただし、年間110万円の基礎控除を上回る場合で、奥さん名義の預金が数百万円と、まとまった金額で出てきたときは要注意。これは私がヘソクリで貯めたお金だから申告しない、という言い分はちょっと通らないでしょうね。 たとえ、ご主人からもらった(贈与された)と言い張っても、それでは、いつ、どのようにしてもらったものか説明せよといわれ、そこで返答に窮したらちょっと勝ち目はないとお考えください。   ◆やり玉にあがるのは名義預金 相続税の調査で一番問題になるのは、奥さん名義をはじめ、子ども・孫など家族の“名義預金”です。 相続税の申告があれば、税務署は銀行や証券会社へ、本人とその家族名義の預金等の残高照会をかけます。申告書に登場する先はもとより、自宅近く、あるいは通勤経路上の、これはと思う金融機関に軒並み照会状を送りつけ、そこで浮かびあがった名義預金をとことん調べます。 以前に贈与を受けた、などと主張してもなかなか聞く耳もたず。年間110万円の非課税枠以内で贈与したものと、はっきり判別可能なものはともかく、贈与税の申告なしで数百万円の預金名義が切り替えられていたとなると、税務署としてはそのまま見過ごすわけにはいきません。   ◆名義預金は相続財産に追加 いずれにせよ、相続税の申告の折には、奥さんの手持ち財産も税務署の目にさらされることになります。そのとき、ご自身にかつて収入があった、あるいは親から相続を受けたといった、しかるべき事情があれば問題ありません。 ところが世の中、専業主婦でこれまでまとまったお金の入る機会がなかった、にもかかわらず大きな預金がある、というケースがときどきあります。 そうした場合、税務署がその名義預金を見つけ出し、それに対して遺族は、ああだこうだと抗弁するものの聞き入れられず、結局は相続財産に追加されて修正申告、という結末を迎えるケースがほとんどのようです。   ◆被相続人が管理していたお金は親族名義でも相続財産 ここで「名義預金」のことを、少し詳しくレクチャーしておきましょう。 名義預金はヘソクリに限らず、亡くなった被相続人の名義ではないのに、被相続人の財産とみなされる預金のことです。税務調査では、口座に預けられたお金の出どころや、名義人がその口座の存在を知っていたかなどの実態をもとに、預金が誰の財産であるかを判定します。 次のいずれかに該当すれば、おそらく名義預金とみなされます。   ◆明確に立証できないものは当初申告で加えるのが賢明 税務署には、預金口座のお金の流れを調べるための強い権限があります。相続税の調査では、亡くなった被相続人だけでなく、相続人の預金口座の過去の入出金も、相当な期間遡って調べられます。特に預金通帳で100万円以上の金額の入出金があれば目を付けられやすく、その先で名義預金が見つかる可能性が高いと考えた方がいいでしょうね。 税務調査で家族名義の預金が名義預金と判定されると、その預金は相続税の申告からもれていたことになります。その際、相続税が追徴課税されるだけでなく、過少申告加算税、延滞税などのペナルティーが、結構な金額で課されます。悪質な脱税と認定されて重加算税がかかるとなると、とんでもない事態になります。 上記①~⑤に該当するときは、名義預金ではない(自分が稼いだ、あるいは親から相続を受けた)と、十分な証拠と共に主張できる場合はともかく、そうでないときは最初から相続税の申告に含めておくのが賢明かと、わたしは思います。 (了) 人生にまつわる税金ものがたり、 もっとたくさんのお話を読みたい方へ送る一冊。

#No. 570(掲載号)
#鈴木 基史
2024/05/23

《速報解説》 「居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A」が国税庁HPで公表される~低層・二世帯の判定や一棟所有、貸付物件の評価方法を紹介~

《速報解説》 「居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A」が国税庁HPで公表される ~低層・二世帯の判定や一棟所有、貸付物件の評価方法を紹介~   Profession Journal編集部   国税庁は5月20日、本年から適用開始された「居住用の区分所有財産の評価について」、いわゆるマンション評価通達に関するQ&A(全12問)を公表した。 本Q&Aの内容(タイトル)は以下のとおり。 本評価通達については既に昨年「趣旨説明(情報)」も公表されており、低層の集合住宅や二世帯住宅は適用対象外となることが示されているが、今回公表されたQ&Aではこの部分に関し、本評価通達内の「地階を除く階数が2以下のもの」及び「居住の用に供する専有部分一室の数が3以下であってその全てを区分所有者等の居住の用に供するもの」の判定に係るより詳細な例が示されている(問4)。 また、一棟の区分所有建物に存する各戸(室)の全てを所有している場合、すなわち、区分所有者が「一棟の区分所有建物に存する全ての専有部分」及び「一棟の区分所有建物の敷地」(全ての専有部分に係る敷地利用権)のいずれも単独で所有している場合の評価方法(問6)や、居住用の区分所有財産を貸し付けている場合における「貸家建付地」及び「貸家」の評価方法として、本評価通達により計算した価額に財産評価基本通達26《貸家建付地の評価》、93《貸家の評価》をそれぞれ適用する見解が示されている(問7)。 その他、問10から問12にかけては、具体例をもとにした評価方法が、本評価通達適用時に相続税又は贈与税申告書への添付が必要な計算明細書等の記載例とともに解説されている。 なお、評価方法の概要を説明する問1には、下記の評価方法のフローチャートも搭載されている。 〈居住用の区分所有財産の評価方法のフローチャート(概要)〉 (※) 国税庁ホームページより (了)

#Profession Journal 編集部
2024/05/21

プロフェッションジャーナル No.569が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年5月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.569を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2024/05/16

日本の企業税制 【第127回】「利益Bに関するOECD最終ガイダンス」

日本の企業税制 【第127回】 「利益Bに関するOECD最終ガイダンス」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   OECD/G20のBEPS包摂的枠組み(IF)は、本年2月に移転価格税制の簡素化のための「利益Bガイダンス」を公表した。 今回のガイダンスの内容は、OECD移転価格ガイドライン(TPG)2022年版の第4章の附属書として追加される。各国は2025年1月1日以後に開始する事業年度から、この制度の導入を選択することができることとされている。 導入に際しては、①セーフハーバー方式(適用要件を満たす場合に企業側がこの仕組みの適用を選択する)、②強制適用方式(適用要件を満たす場合にはこの仕組みの適用を義務付ける)、という2つの方法が選択可能とされている。 OECDは、経済のデジタル化から生じる課税上の課題に対処するための2本の柱による解決策の進捗状況に関して2023 年7月に成果文書(Outcome Statement)を公表していた。 今回のガイダンスは、そこで示された第1の柱「市場国への新たな課税権の配分」の利益Bに関する残された論点を踏まえたものである。 利益Bは、特にキャパシティの低い国のニーズに焦点を当てて、基礎的マーケティング及び販売活動(単純な機能を果たす販社等の取引)に対する独立企業原則(ALP)の適用の簡素化・合理化アプローチを提供するものである。これによって、移転価格の紛争やコンプライアンスコストを減らし、税務当局と納税者双方の税の安定性を高めることが期待されている。 成果文書で指摘された論点のすべてについて今回のガイダンスで結論が示されたわけではなく、第1の柱の下での利益Bと利益Aとの間の相互依存関係(interdependence)に関する検討、キャパシティの低い国のリストの検討等は残されている。 なお、第2の柱「グローバル・ミニマム課税」のうち所得合算ルール(IIR: Income Inclusion Rule)については、わが国においては、「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」として令和5年度税制改正において創設され、内国法人の本年4月1日以後に開始する対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税について適用される。 こちらの制度の適用対象は、多国籍企業グループ等のうち、各対象会計年度直前の4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度において、その総収入金額が7億5,000万ユーロを本邦通貨表示の金額に換算した金額以上であるもの及びその他これに準ずる一定の多国籍企業グループ等に限定されている。 一方、今回の利益Bについては、第2の柱のような限定はなく、海外(特にキャパシティの低い国)に拠点のある企業すべてに関係する可能性があることに注意が必要である。   〇適用範囲 今回の簡素化・合理化アプローチが、その導入を選択した国において適用されるには、グループ会社間の国外関連取引が、適格取引(qualifying transaction)に該当し、かつ、スコーピング基準(scoping criteria)を充足する必要がある。 なお、これらの要件を満たす場合においても、次の取引は適用除外とされている。   〇価格算定方法 上記の要件を満たす場合、あらかじめ定められたPricing Matrixに基づいて該当する対売上高営業利益率(return on sales(ROS))±0.5のレンジに、検証対象企業の実際の対売上高営業利益率が収まっていれば、その実績値で問題なしということとなる。 Pricing Matrixは、横軸は産業分類(分類1:生鮮食料品・食料雑貨品・家庭用消耗品・建設資材・配管用資材・金属、分類3:医療機器・産業機械・産業用工具・部品、分類2:分類1・3に含まれないもの)、縦軸は①対売上高純営業資産率(OAS)と②対売上高営業費用率(OES)の組み合わせで構成されている。 なお、Pricing Matrixを機械的に当てはめると営業利益額が、その検証対象企業の機能的貢献に比して過大あるいは過少となることを防ぐ観点から、対営業費用営業利益率による補完的な検証を行い、検証対象企業の対営業費用営業利益率が一定のレンジに収まるよう当該企業の営業利益額を調整するメカニズムが用意されている(operating expense cross-check(OECC))。 また、Pricing Matrixの基礎となったデータベースにデータが含まれていない、あるいは数が不十分で、長期ソブリン債の格付けが一定以下の国に所在する検証対象企業の利益率の算定にあたっては、当該国の長期ソブリン債の格付けに応じた調整メカニズム(data availability mechanism(DAM))も講じられている。   〇文書化・二重課税の排除 今回の簡素化・合理化アプローチを適用するにあたり、検証対象企業はそのローカルファイルに、①適格取引に関する納税者と国外関連者の機能分析、その取引概要の説明資料、②適格取引であることを証する書面契約及び補完説明資料、③適格取引に関連する売上高、費用、資産の配分・帰属の決定に関する計算資料、④財務諸表と③の情報とを紐づける資料、が含まれていることが前提となる。 また、適用初年度において、検証対象企業はこのアプローチを最低3年間適用することに同意する旨をローカルファイル等の文書に記載する必要がある。 ある国で、このアプローチが適用され課税が行われた結果、二重課税が生じた場合には、租税条約に基づく相互協議を通じた対応的調整を行う必要がある。また、このアプローチの導入前に締結された二国間APA及びMAPについては、当該合意の枠組みは対象となる適格取引に関して引き続き有効とされている。 (了)

#No. 569(掲載号)
#小畑 良晴
2024/05/16

相続税の実務問答 【第95回】「相続時精算課税を選択した場合の基礎控除の適用」

相続税の実務問答 【第95回】 「相続時精算課税を選択した場合の基礎控除の適用」   税理士 梶野 研二   [答] 相続時精算課税の選択が令和5年分以前の贈与税の申告であったとしても、令和6年分以降の贈与税については、相続時精算課税に係る基礎控除を適用することができます。 相続時精算課税の課税価格からは、まず基礎控除額を控除し、控除しきれない金額については特別控除額の控除をすることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除の創設 いわゆる暦年課税制度においては、少額不追及の観点から基礎控除が設けられていましたが、相続時精算課税制度においては、贈与者から生前に贈与を受けた財産の価額を、贈与者に相続が開始した際の相続税の課税価格に含めることで、贈与と相続を通じた一体的な課税を行うことが制度の趣旨とされていることから、これまで基礎控除は設けられていませんでした。 一方で、相続時精算課税制度では、その選択をした後の贈与については、金額にかかわらず贈与税の申告をしなければならず、その手続が煩雑であるため制度の利用が進んでいないのではないかといった指摘がありました。 そこで、相続時精算課税制度の利用を促進する観点から、令和5年度の税制改正において相続時精算課税を選択した後の贈与についても、毎年110万円の基礎控除を適用できることとされ(相法21の11の2、措法70の3の2)、この基礎控除は、令和6年1月1日以降に行われた贈与から適用されることとされました(所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)附則19④)。 したがって、令和6年分以降の贈与税について相続時精算課税を選択した者については、その年に贈与を受けた相続時精算課税に係る贈与価額の合計額(課税価格)から110万円の基礎控除を適用することができますが、令和5年分以前の贈与税について相続時精算課税の適用を選択した者についても、令和6年1月1日以後にその選択に係る贈与者から贈与を受けた価額の合計額(課税価格)から基礎控除を適用することができることとなりました。 なお、相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除額は、相続税法第21条の11の2では「60万円」と定められていますが、租税特別措置法第70条の3の2第1項により、相続税法第21条の11の2に規定する「60万円」は「110万円」に読み替えられていますので、ご注意ください。   2 相続時精算課税の基礎控除と特別控除額の関係 令和5年度改正後の相続税法第21条の12第1項は、次のように定めています。 つまり、相続時精算課税に係る贈与者から受けた贈与価額の合計額(課税価格)からは、まず、相続時精算課税に係る基礎控除額を控除し、なお控除しきれない金額について、2,500万円の特別控除額(前年以前に適用を受けて控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)を上限として控除し、なお残額があるときに、その金額に相続時精算課税の贈与税率20%を乗じて贈与税額を算出することとなります。 なお、相続時精算課税に係る基礎控除額は申告の有無にかかわらず適用されますが、特別控除を適用するためには、原則として贈与税の申告が必要になります(相法21の12②③)。   3 質問の場合 あなたが、お父様からの贈与に係る贈与税について相続時精算課税の選択をしたのは、平成30年分の申告ですが、相続時精算課税に係る基礎控除は、相続時精算課税の適用を選択した年分がいずれの年分であるかにかかわらず、令和6年分以降の相続時精算課税に係る贈与税について適用することとなりますので、あなたの令和6年分の贈与税についても相続時精算課税に係る基礎控除額の適用が認められます。 また、あなたは平成30年分の贈与税について、相続時精算課税の特別控除2,500万円のうち2,400万円を使用しましたが、2,500万円から2,400万円を控除した残額の100万円については、お父様からの贈与に係る贈与税の計算において適用することができます。 令和6年中に他の人からの相続時精算課税に係る贈与を受けなければ、あなたの令和6年分の贈与税の申告は次のようになり、贈与税額は算出されません。 (了)

#No. 569(掲載号)
#梶野 研二
2024/05/16

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第61回】「死亡退任した役員に対する未払退職慰労金とみなし相続財産」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第61回】 「死亡退任した役員に対する未払退職慰労金とみなし相続財産」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 相続税法のみなし相続財産と国税通則法の更正の請求 役員の死亡退任に伴う役員退職慰労金は、それが被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合には、いわゆるみなし相続財産として相続税の課税対象となることに疑義は無い(相法3①二、相基通3-30)(※1)。このみなし相続財産の趣旨は、相続又は遺贈によって取得した財産ではないが、相続財産と実質を同じくすることが少なくないため、公平負担の見地から相続税の対象としている旨が説かれている(※2)。 (※1) 相続税法3条1項2号における「支給」の意義については、酒井克彦「相続税法3条1項2号にいう『支給』要件についての若干の検討(上)」税務事例52巻3号(2020)1頁。同じく「相続税法3条1項2号にいう『支給』要件についての若干の検討(下)」税務事例52巻5号(2020)1頁。 (※2) 金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)700頁。 ここで、質問の例のように、役員退職慰労金を分割支給するとしており、かつその中途で未払金相当額を支給しないとする合意解除をした場合には、当該みなし相続財産としての取扱いについて疑義が生じる。つまり、みなし相続財産とされた役員退職慰労金のうち、実際に支給がされない部分については、みなし相続財産ではなくなったとして更正の請求が可能かどうかという点について検討することとなる。 更正の請求については、国税通則法にて、納税申告書を提出した者が法律の規定に従っていなかった等の一定の場合に該当する場合には、その申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り更正の請求ができる旨が定められており(通法23①)、これが通常の場合の規定である。また、後発的事由に基づく場合の規定として、判決の確定や他の者に対する国税の更正や決定により計算の基礎や課税物件の帰属が異なることが確定した場合に加え(通法23②一~二)、これらに類する「やむを得ない理由」がある場合には、その理由が生じた日の翌日から2月以内に更正の請求ができる旨が示されている(通法23②三)。 ここで、この「やむを得ない理由」が合意解除に該当するかどうかについて、国税通則法施行令6条1項2号において、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたこと」と示されている。これによれば、法定解除と約定解除のいずれかに該当するかどうかを検討することとなる。 なお、納税申告書を提出した者は、国税通則法23条1項の期間の満了する日以後でなければ、後発的事由による更正の請求を行うことはできない(通法23条2項柱書)。   (2) 役員退職慰労金のうち未払となる金額につき合意解除を行った事例 ここで、実際に死亡退任した役員に対する役員退職慰労金を分割支給とした後に、当該役員退職慰労金の支給を合意解除したことを受け、相続人が更正の請求をした事例として、国税不服審判所平成31年1月24日裁決があるため(※3)、以下にその概要を紹介する。 (※3) 裁決事例集等未搭載、TAINS:F0-3-677。 本件裁決例は、国税通則法23条1項の更正の請求のできる期間内に、同条2項に規定する事由が生じた場合において、本件合意解除が国税通則法施行令6条1項2号の「やむを得ない事情」に当たるか否かについて争われた事例である。 国税不服審判所は、国税通則法23条1項と同条2項の関係について、「その趣旨は、同条第1項に規定する期間内であれば同項(筆者注:国税通則法23条2項)に基づく更正の請求が認められ、同条第2項に基づく更正の請求を認める必要がないことによるものと解され」るとし、同条1項は2項を含有するという判断を示した。 その上で、「やむを得ない理由」につき、国税通則法施行令6条1項2号に定める「契約が法定申告期限後に合意解除された場合には、当該合意解除が、法定の解除事由がある場合、事情の変更により契約の効力を維持するのが不当な場合、その他これに類する客観的理由に基づいてされた場合にのみ、これを理由とする更正の請求が認められるものと解するのが相当である」とした。 本件合意解除を上記に照らすと、本件の役員退職慰労金の全てはみなし相続財産となるという判断を示した後に、本件合意解除は、双方の合意であるために法定解除権が行使されたものではなく、「本件会社が連続して経常損失を計上するような状況において、本件会社と全取引金融機関が、本件会社の抜本的再建計画を策定するまでの期間・・・、借入金の返済を猶予することを合意した事実が認められ、本件合意解除が当該抜本的再建計画の一環として行われたとみることもできるが、本件会社の債務の切捨てが全取引金融機関からの借入金についても行われたわけではなく、本件会社の債務を消滅させる取引が本件合意解除に限られていることからすれば、飽くまでも本件合意解除は、任意に行われたものと認めるのが相当であり、本件合意解除に客観的な事情があるとまではいえない」として、約定解除、その他これに類する客観的理由に基づいてされた場合のいずれにも該当しないとしている。   (3) 本件裁決例の意義 このように、国税不服審判所は、役員退職慰労金の全てがみなし相続財産に該当するということを形式的に確認した上で、分割支給で未払となっていた部分に関して本件合意解除に基づく更正の請求は認められず、実際に相続人に役員退職慰労金の一部が支給されずとも、みなし相続財産を構成することに変わりないという結論を示した。 この点、「やむを得ない理由」について、国税不服審判所は、納税者にとって酷な判断を示したと考えられる。というのも、実務上、バンクミーティング等によって金融機関の支援を引き出そうとする場合、経営者個人が有する債権の放棄を求められることが通常であるところ、本件会社が連続して経常損失を計上し、金融機関が債権放棄をせずに返済猶予に応じたに過ぎず、本件会社の債務の消滅は相続人との合意解除のみであるという場合には、この「やむを得ない理由」に当たるとは言えない旨が示されたためである。 しかし、国税不服審判所によって本件裁決例のような事例が現れたことにより、実務上においては参考事例の1つとされることとなる。したがって、本件会社のような資金繰り面に鑑みて役員退職慰労金の分割支給を行うという判断をする前に、会社の財務内容に鑑みて無理ない範囲での役員退職慰労金の支給を検討するべきであるといえよう。   (了)

#No. 569(掲載号)
#中尾 隼大
2024/05/16
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