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Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第35回】「同族株主である個人が株式を個人又は法人に売却する場合の課税関係と時価算定の留意点」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第35回】 「同族株主である個人が株式を個人又は法人に売却する場合の 課税関係と時価算定の留意点」   税理士 柴田 健次   Q 甲は昭和40年にA社を設立し建設業を営んでいましたが、令和5年に代表取締役を辞任し、甲の甥である乙が新たに代表取締役に就任しました。甲はA社の株式を100%保有しており、乙に株式の承継を検討していますが、その方法として下記のいずれかの方法を考えています。 上記のそれぞれの場合において、相続税法7条又は9条のみなし贈与の課税問題、所得税法59条1項のみなし譲渡の課税問題及び法人税の受贈益の課税問題が発生しないように売却を検討していますが、1株いくらで売却すればいいでしょうか。 所得税及び法人税の時価の算定にあたっては、財産評価基本通達を準用するものとします。 A社の発行済株式総数は10,000株であり、1株につき1議決権を有しているものとします。A社株式は、創業以来、売買されたことはなく、A社と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額もありません。 A株式の1株当たりの類似業種比準価額と純資産価額は、次の通りとなります。 なお、A社の会社の規模区分は大会社に該当し、A社は特定の評価会社には該当しません。 A 買主が個人であるか法人であるかによって、下記の通りとなります。 (1) 甲が乙に株式を売却した場合 1株14,000円で売却することにより、相続税法7条のみなし贈与課税はされないことになります。 (2) 甲がB社に株式を売却した場合 1株42,000円(14,000円×50%+70,000円×50%)で売却することにより、所得税法59条1項のみなし譲渡課税、B社における法人税の受贈益の課税、B社株主である乙の相続税法9条のみなし贈与課税はされないことになります。  ◆  ◆  ◆ ① 個人から個人に売却する場合の課税関係 (1) 売主の課税関係 個人から個人に非上場株式を売却した場合には、売買価額が資産の譲渡対価として取り扱われ、譲渡所得の課税対象となります。著しく低い価額で譲渡した場合(時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合)には、みなし譲渡(所法59①)の適用はありませんので、売買価額が資産の譲渡対価として取り扱われますが、譲渡損が発生した場合には、その譲渡損はなかったものとみなされます(所法59②、所令169)。 (2) 買主の課税関係 買主である個人は、著しく低い価額で譲り受けた場合には、時価と対価との差額に対して贈与税の課税がなされます(相法7)。みなし贈与課税の場合の「時価」は、原則として、財産評価基本通達を基にその算定がなされます。これは、個人間の売買においては、所得税法59条1項の適用がなく、相続税法22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価による旨を定め、財産評価基本通達1項(2)(時価の意義)では、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(中略)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」とされているため、相続税法7条の時価も、原則として、財産評価基本通達に基づき算定されることになります。 ただし、土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)のうち、負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価することとされています(個別通達「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について(平成元年3月29日付直評5・直資2-204、[改正]平成3年12月18日付課資2-49(例規)・課評2-5・徴管5-20)」、以下「負担付贈与通達」という)。したがって、土地等及び家屋等を著しく低い価額で譲り受けた場合には、「通常の取引価額に相当する金額」と対価との差額に対して贈与税が課税されることになります。 なお、相続税法7条は、「著しく低い価額」で譲り受けた場合には、贈与税課税されることになりますが、「著しく低い価額」でない場合には、贈与税課税はされないことになります。ただし、時価のどれぐらいの割合までが「著しく低い価額」に該当するかついては、明確になっていませんので、注意する必要があります。 平成19年8月23日の東京地裁判決(TAINSコード:Z257-10763)は、土地を親族間において財産評価基本通達により評価した金額で売買したことについて、相続税法7条の「著しく低い価額」の対価による譲渡に該当するか否かが争点となった事案ですが、東京地裁は、下記の通り判示しています。 上記の東京地裁は、不動産取引の事例であり、非上場株式の事例ではありませんので、そのまま80%という基準を非上場株式に当てはめることは不適切であると考えられます。すなわち、路線価は公示価格の8割になるように設定されていますので、相続税評価額は土地を取引する上での重要な指標になりますが、非上場株式の場合には、「取引としての時価」と「相続税評価額」の関係性は不動産取引に比べて希薄となり、80%基準をそのまま採用することはできません。 他の基準を考察すると有利発行有価証券の取扱いが参考になります。有利発行とは新株を発行する場合において、払込金額が新株の引受人にとって通常要する価額に比して有利な金額で株式等を発行することをいいます。有利発行により新株を取得した場合には、「所得税又は法人税における株式等の時価」と払込金額との差額に対して所得税又は法人税が課税されることになります(所法36②、所令84③、法法22②、法令119①四)。有利発行有価証券に該当するか否かについては、「所得税又は法人税における株式等の時価」と払込金額との差額がおおむね10%相当以上かどうかで判断するとされています(所基通23~35共-7、法基通2-3-7)ので、「所得税又は法人税における株式等の時価」の90%超の払込金額であれば有利発行有価証券に該当しないことになります。 上記の90%基準については、所得税と法人税における取扱いとなりますので、あくまでも参考となりますが、1つの指標になるとは考えられます。   ② 個人から個人に売却する場合の税務上の時価算定 個人から個人に非上場株式を売却した場合において、課税上問題となるのは買主のみなし贈与課税となります。売主にとっては、売買価額が譲渡対価とされるため、課税上問題になることはありませんので、個人から個人に非上場株式を売却する場合には、買主の立場で売買価額を考えることになります。そして、非上場株式の場合には、負担付贈与通達の適用はありませんので、時価は原則として、財産評価基本通達の価額となります。したがって、非上場株式の場合には、財産評価基本通達の178から189-7までの定めより時価を算定することになります。   ③ 個人から法人に売却する場合の課税関係 (1) 売主の課税関係 個人から法人に著しく低い価額で譲渡した場合(時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合)には、みなし譲渡の適用がありますので、時価が資産の譲渡対価として取り扱われることになり、時価と取得価額等の差額に対して譲渡所得の課税がされることになります(所法59①、所令169)。 時価の1/2以上の対価で譲渡した場合には、通常の売買と同様に譲渡対価と取得価額等の差額が譲渡損益として課税されます。ただし、法人に対する譲渡が所得税法157条の同族会社の行為又は計算の否認等の規定に該当する場合には、時価で譲渡したものとみなされます(所基通59-3)。 上記の時価は、所得税法の時価となりますので、所得税基本通達59-6に基づき算定することになります。 (2) 買主の課税関係 法人における取得価額は、その時における価額となりますので、時価と対価との差額については、受贈益として法人税が課税されることになります(法法22②)。この場合における時価は、あくまでも法人税法上の時価となりますので、法人税基本通達9-1-13及び9-1-14に基づき算定することになります。 (3) 法人株主の課税関係 著しく低い価額で法人に資産を譲渡したことにより、その法人の株式の価値が増額することから、譲渡をした者からその法人の株主に対して贈与税が課税されることになります(相法9、相基通9-2)。この場合における著しく低い価額についても相続税法7条と同様に明確な基準がありませんので、注意する必要があります。明確な基準ではありませんが、上記①で解説した有利発行有価証券の90%基準は、1つの指標になるかと思います。 なお、「著しく低い価額」ではなく、単に「低い価額」として相続税法9条のみなし贈与課税を免れたとしても、上記(2)の法人税の受贈益の課税はされる点については、注意が必要となります。 昭和53年5月11日の大阪地裁判決(TAINSコード:Z101-4190)は、A会社がB会社の株主からB会社株式を時価よりも低い価額で譲り受けた場合において、A社の受贈益課税とA社株主の贈与税課税が問題となった事案となります。 大阪地裁は、法人税と贈与税の課税について下記の通り判示しています。 したがって、時価よりも単に「低い価額」で取引をした場合においては、贈与税の課税問題はありませんが、法人税の受贈益課税の問題はありますので、課税実務においては、法人税における時価で取引を行う必要があります。 なお、上記の大阪地裁は、贈与税課税における「著しく低い価額」とは、時価の75%未満の額を指すと解するのが相当であると判示しています。ただし、この事例は昭和40年、41年及び42年当時の株式の時価が問題となっており、その当時、法人税の時価算定方法が定まっておらず、鑑定等を利用した特殊な時価算定により大阪地裁が時価を算出していますので、75%基準は他の事例でそのまま当てはめることはできないかと考えられます。   ④ 個人から法人に売却する場合の税務上の時価算定 個人から法人に売却した場合には、所得税におけるみなし譲渡課税の問題や法人税における受贈益課税の問題もありますので、所得税及び法人税における時価をそれぞれ算定する必要があります。 (1) 所得税における時価 個人から法人に売却する場合の所得税における時価は、下記の所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)により算定することになります。 所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」) (下線部は筆者による) 上記の通達の定めによれば、「その時における価額」は、所得税基本通達23~35共-9に準じて算定した価額とされており、非上場株式の「その時における価額」は、次の手順で算定することになります。 (2) 法人税における時価 法人税における時価については、法人税基本通達9-1-13及び9-1-14に基づき算定することになります。 時価算定の手順は、上記に記載した所得税における時価の求め方と同様になりますので、売買事例もなく、事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額がない場合には、純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額により求めることになります(法基通9-1-13)。実務的には、時価純資産価額又は一定の条件により財産評価基本通達を準用して算定した価額を使用することになります。 一定の条件については、下記の法人税基本通達9-1-14の(1)から(3)の通りとなります。所得税基本通達59-6の定めとほぼ同様ですが、株主判定が異なりますので注意が必要です。所得税基本通達59-6は、譲渡前の議決権数に基づきその判定を行うことになりますが、法人税基本通達9-1-14については、その定めがありません。法人税では、その取扱いが明確になっていませんが、株式の取得価額が問題となる場合には、譲渡後の議決権数に基づきその判定を行います。これは、所得税は譲渡所得課税で資産の値上がりにより売主に帰属する増加益を所得していることから、売主の会社への支配力の程度に応じて評価をするべきであるのに対して、法人税では、取得側の法人の受贈益課税が問題になっていることから、購入後の買主法人の会社への支配力の程度に応じて評価をするべきとする考え方によるものです。 法人税基本通達9-1-14(市場有価証券等以外の株式の価額の特例) ■B社への売買価額 本問の場合には、所得税の時価と法人税の時価が同額であるため、B社は420,000,000円(42,000円×10,000株)で株式を購入した場合には、所得税法59条1項のみなし譲渡の課税問題及び法人税の受贈益の課税問題は発生しないことになります。 なお、時価純資産価額である700,000,000円(70,000円×10,000株)も所得税及び法人税の時価となりますので、その価額で取引しても同様に課税上の問題は発生しませんが、本問の場合には、財産評価基本通達を準用して所得税及び法人税の時価を求めることとしていますので、420,000,000円を採用しています。 法人税法上の時価で取引をしていれば、当然、相続税法9条のみなし贈与課税の問題も発生しませんので、420,000,000円での取引はみなし贈与課税の観点からも問題がない価額となります。   ☆実務上のポイント☆ 非上場株式の売買価額の算定においては、相続税法7条又は9条のみなし贈与の課税問題、所得税法59条1項のみなし譲渡の課税問題及び法人税の受贈益の課税問題が発生しないように検討する必要があります。個人に売却する場合と法人に売却する場合で税務上の時価が異なることは、納税者には理解し難い点となりますので、時価算定と課税関係については、十分に説明する必要があります。 (了)

#No. 545(掲載号)
#柴田 健次
2023/11/22

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例128(法人税)】 「保育園事業を開始するに当たり、一般社団法人の非営利型で設立すれば法人税等が課税されないところ、営利型で設立したため、法人税等が課税されてしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例128(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆一般社団法人 一般社団法人とは「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づき設立される法人であり、構成員として社員を必要とする。社員は出資者ではなく、単なる決議機関であり、一般社団法人に属する財産が社員に配当されることや、払戻しされることは想定されていない。ただし、目的には制限がなく、一般法人のように営利事業を行うこともできる。一般社団法人には営利型と非営利型があり、非営利型にはさらに完全非営利型と共益型の2種類がある。 ◆営利型法人 営利型の一般社団法人は普通法人に該当し、全ての所得に対して法人税が課税され、適用される法人税率も一般法人と同様である。 ◆非営利型法人(法2九の二) 非営利型の一般社団法人には、特定の者に利益を与えない完全非営利型と、会員共通の利益を図る活動を行う共益型の2種類があり、限定列挙された34種類の事業のみ法人税が課税される。 ◆完全非営利型法人(法令3) 完全非営利型法人は、次の要件の全てを満たした法人をいう。 ◆収益事業の範囲(法令5) 収益事業とは次に掲げる34種類の事業(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む)とする。       (了)

#No. 545(掲載号)
#齋藤 和助
2023/11/22

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第32回】「土地・建物一括譲渡の場合における対価の区分について鑑定評価額に基づく按分が認められた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第32回】 「土地・建物一括譲渡の場合における対価の区分について 鑑定評価額に基づく按分が認められた事例」   税理士 菅野 真美   ▷土地・建物一括譲渡の場合における対価の区分 土地・建物一括譲渡の場合において、そのうち土地部分・建物部分の価額が明確でないケースもあるため、何らかの基準で按分する必要がある。 【第24回】で解説した大阪地方裁判所令和2年3月12日判決においては、契約で定められた建物と借地権の価額について課税庁が否認し、固定資産税評価額に基づく按分に基づいて更正処分を行った。この処分に不服な納税者が訴訟を起こしたが、裁判においても課税庁の主張が支持された。これは、土地・建物の買手である法人が、築年数のかなり経過した建物について、固定資産税評価額の約42.86倍の価額(借地権は約1.35倍の価額)を売買価額としており、おそらく消費税の節税のための極端事例であったことが、裁判所の判断の根底にあると考える。 それでは、土地と建物の価額の按分比率について、固定資産税評価額に基づく場合と鑑定評価額に基づく場合で、大きく異なる場合はどのように判断されるのか。 今回は、土地・建物一括譲渡の場合における対価の区分について、課税庁が主張する固定資産税評価額に基づく按分比率ではなく、鑑定評価額に基づく按分比率に基づく価額が認められた事例を検討する。   ▷どのような事案か 不動産貸付業を営む納税者が、平成28年8月19日、土地売買契約により土地・建物を合計1,005,000,000円(消費税等相当額含む)で売却した。所有権移転は同月31日に行われた。なお、土地・建物にかかる消費税額は記載されておらず、この建物の各区画は事務所・店舗として賃貸されていた。 平成29年3月15日、納税者は消費税の確定申告をしたが、代金総額に占める土地の価額と建物の価額は次のとおりである。 これに対して課税庁は更正処分をしたが、その場合の土地の価額と建物の価額は次のようになる。 課税庁側の根拠は、平成28年度の固定資産税評価額(土地246,027,000円、建物197,186,000円)の合計額に占める各々の固定資産税評価額の割合で算定したものとなる(比率は、土地:建物 = 55.51:44.49)。 この処分に不服な納税者が審査請求をしたが、棄却されたため裁判所に提訴した。なお、納税者は裁判においては鑑定を申し出て、裁判所が採用し、これにより取消しを求める金額が減額されている。 鑑定評価額は原価法(価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、これに原価修正を行って対象不動産の積算価格を試算する方法)と収益還元法(直接還元法。対象不動産に係る一定期間の純収益を求め、この純収益に対応した還元利回りによって、対象不動産の収益価格を求める方法)に基づき、算定結果は以下の通りである。 争点は、建物の譲渡に係る消費税の課税標準は、固定資産税評価額の比率に基づくか、鑑定評価額の比率に基づくかである。   ▷地裁の判断は 地裁は、次のように述べて課税処分の一部を取り消し、課税庁の主張する固定資産税評価額比率による按分法ではなく、鑑定評価額比率による按分法を援用するのが相当と判断した。 *   *   * このように、本事案では、課税庁の主張する固定資産税評価額比率による按分が否定された。裁判所が納税者の申出により鑑定したものだから、裁判所としても否定はできない面もあると考えられる。しかし、裁判所に鑑定を申し出れば、鑑定評価額比率に基づく按分が常に税務上認められるとなると実務に与える影響が大きい。本件は鑑定評価額比率による按分が認められるべき特殊なケースであったのかどうか。この事案は確定しているが、今後の裁判等の動向を注視したい。 (了)

#No. 545(掲載号)
#菅野 真美
2023/11/22

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第30回】「武田薬品工業事件-無形資産の形成による移転価格税制の影響-(大裁平25.3.18)(その2)」~租税特別措置法66条の4第1項、第2項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第30回】 「武田薬品工業事件-無形資産の形成による移転価格税制の影響-(大裁平25.3.18)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4第1項、第2項~   税理士 中野 亘     3 争点 ◎ 臨床試験費用のうち請求人が負担した費用の取扱いについて ① 無形資産の法的所有関係について ◆原処分庁の主張 ※本件裁決書は一部マスキング処理がされているため、■部分の後の括弧書きは筆者が文脈から予測して追記している(以下同様)。 ◆請求人の主張 (※5) 納税者の100%外国子会社は、著しく低い価額による第三者割当を納税者の関係会社に対して行った。納税者の有する外国子会社の資産価値の減少部分は、納税者が外国子会社に対する寄附金課税と認められたが、外国子会社が有する非上場株式の評価額について持分比率や課税上の弊害について審理判断することなく、時価純資産価額方式(法人税額等相当額控除前)により評価すべきという結論を導いていることを問題視し、更に各論点の審理を尽くすべきとして原判決(高裁判決)を破棄差し戻しし、一部取消し確定となった(オウブンシャホールディング事件)。 ② 意思決定、費用負担及びリスク管理の主体について ◆原処分庁の主張 (※6) 事務運営要領2-11は、「無形資産の使用許諾取引等について調査を行う場合には、当該無形資産の法的な所有関係のみならず、当該無形資産を形成し、維持、発展させるに当たり法人又は国外関連者の行った貢献の程度も勘案するにことに留意する。」とし、この内容を補足する現行の事務運営要領2-12のなお書きは、「なお、無形資産の形成等への貢献の程度を判断するに当たっては、当該無形資産の形成等のための意思決定、役務の提供、費用の負担及びリスクの管理において法人又は国外関連者が果たした機能等を総合的に勘案する。」と定めている(事務運営要領は平成25年3月18日時点のもの。現在は3-13)。 ◆請求人の主張 ((その3)へ続く)

#No. 545(掲載号)
#中野 亘
2023/11/22

リース会計基準(案)を学ぶ 【第10回】「表示及び注記」

リース会計基準(案)を学ぶ 【第10回】 (最終回) 「表示及び注記」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 最終回(第10回)では、リースに関する財務諸表の表示と注記について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 借手のリースの表示 1 貸借対照表の表示(使用権資産) 使用権資産について、次のいずれかの方法により、貸借対照表において表示する(リース会計基準(案)47項)。 2 貸借対照表の表示(リース負債) リース負債は、貸借対照表において区分して表示する又はリース負債が含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準(案)48項)。 貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するリース負債は流動負債に属する。 貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するリース負債は固定負債に属する。 3 損益計算書の表示(リース負債に係る利息費用) リース負債に係る利息費用は、損益計算書において区分して表示する又はリース負債に係る利息費用が含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準(案)49項)。   Ⅲ 貸手のリースの表示 1 貸借対照表の表示 リース適用指針(案)は、所有権移転外ファイナンス・リースを基本として会計処理を示しており、基本的に、所有権移転ファイナンス・リースの会計処理は所有権移転外ファイナンス・リースと同様とされている(リース適用指針(案)67項、68項、74項)。 所有権移転ファイナンス・リースの会計処理では、「リース投資資産」は「リース債権」と読み替えて適用する(リース適用指針(案)74項)。 リース債権及びリース投資資産のそれぞれについて、貸借対照表において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準(案)50項)。 ただし、リース債権の期末残高が、当該期末残高及びリース投資資産の期末残高の合計額に占める割合に重要性が乏しい場合、リース債権及びリース投資資産を合算して表示又は注記することができる(リース会計基準(案)50項)。 リース債権及びリース投資資産は、次のように表示する(リース会計基準(案)50項)。 2 損益計算書の表示 損益計算書において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準(案)51項)。   Ⅳ 借手の注記 借手は次の事項を注記する(リース会計基準(案)53項)。 リース会計基準(案)52項の開示目的を達成するために必要な情報は、リースの類型等により異なるものであるため、注記する情報は、リース会計基準(案)53項に掲げる注記事項に限定することを意図していない(リース適用指針(案)90項)。 このため、リース会計基準(案)53項に掲げる注記事項以外であっても、リース会計基準(案)52項の開示目的を達成するために必要な情報は、リース特有の取引に関する情報として注記することになる(リース適用指針(案)90項、91項)。 借手が注記する情報には、例えば、次のようなものがある(リース適用指針(案)91項)。 このほかにも、リース適用指針(案)では注記に関する規定が詳細に設けられている。   Ⅴ 貸手の注記 貸手は次の事項を注記する(リース会計基準(案)53項)。 前述の「Ⅳ 借手の注記」と同様に、リース会計基準(案)53項に掲げる注記事項以外であっても、リース会計基準(案)52項の開示目的を達成するために必要な情報は、リース特有の取引に関する情報として注記することになる(リース適用指針(案)90項、92項)。 貸手が注記する情報には、例えば、次のようなものがある(リース適用指針(案)92項)。 このほかにも、リース適用指針(案)では注記に関する規定が詳細に設けられている。   Ⅵ 終わりに 「リース会計基準(案)を学ぶ」は、今回の【第10回】で終了することとなる。 本シリーズでは、リース会計基準(案)等に関する基本的な会計処理について解説してきた。このため、例えば、サブリース取引、セール・アンド・リースバック取引などの会計処理については触れていない。また、リース会計基準(案)等の適用に際しては、多くの経過措置が設けられているところである。今後、リース会計基準(案)がリース会計基準として確定し、実務に適用する際には、これらに関する会計処理についても理解する必要がある。 現在、企業会計基準委員会では、リース会計基準(案)等に寄せられたコメントへの対応を行っているところであり、公開草案から変更される可能性も考えられる。 今後、リース会計基準の確定に注意し、実務の適用に際しては十分な検討が期待されるところである。 本「リース会計基準(案)を学ぶ」が少しでも実務に役立てば幸いである。 (連載了)

#No. 545(掲載号)
#阿部 光成
2023/11/22

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第17回】「税効果会計に関する注記」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第17回】 「税効果会計に関する注記」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における税効果会計に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 会社計算規則上、連結注記表では税効果会計に関する注記を表示する必要はなく、個別注記表においてのみ繰延税金資産・負債の発生の主な原因を記載する必要があります。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表においては税効果会計に関する注記の記載例はなく、個別注記表のみ次のような注記例が記載されています。 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) 税効果会計に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき税効果会計に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第107条)。 (※1) 会社計算規則第98条第2項第4号において、連結注記表では、税効果会計に関する注記を表示することを要しないと規定されています。 (2) 注記事項の解説 会社計算規則上、連結注記表における注記が求められていないことから、税効果会計に関する注記は連結注記表に記載されないことが多いです。 しかし、上場会社の場合、追加情報として連結注記表に税効果会計に関する注記を記載しているケースもあります。 また、経団連のひな型では、上記の注記例の他に、次のような発生の原因別の内訳を記載する注記例も示しており、上場会社はこのように注記しているほうが多い印象があります。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [南海電気鉄道株式会社 2023年3月期 個別注記表] ※南海電気鉄道株式会社「第106期定時株主総会招集ご通知交付書面への記載を省略した事項」25頁より抜粋。 [東映株式会社 2023年3月期 個別注記表] ※東映株式会社「第100期定時株主総会の招集に際しての電子提供措置事項」19頁より抜粋。 [株式会社カナデン 2023年3月期 個別注記表] ※株式会社カナデン「第173回定時株主総会資料(電子提供措置事項のうち、法令及び定款に基づく書面交付請求による交付書面への記載を省略した事項)」19頁より抜粋。 *  *  * 次回の第18回は、「賃貸等不動産に関する注記」をテーマに解説します。   (了)

#No. 545(掲載号)
#竹本 泰明
2023/11/22

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例89】ルーデン・ホールディングス株式会社「第三者委員会の委員の退任について」(2023.10.30)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例89】 ルーデン・ホールディングス株式会社 「第三者委員会の委員の退任について」 (2023.10.30)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、ルーデン・ホールディングス株式会社(以下「ルーデン・ホールディングス」という)が2023年10月30日に開示した「第三者委員会の委員の退任について」である。 同社は、2023年1月27日付で東京証券取引所(以下「東証」という)から特設注意市場銘柄に指定されたことを受けて(2023年1月30日開示「特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求に関するお知らせ」)、同年3月31日、「十分な改善計画を作成するための前提となる事実の確認と原因分析等」、そして、「十分な再発防止策を提言戴く」ため、第三者委員会を設置していた(2023年3月31日開示「第三者委員会設置に関するお知らせ」)。 しかし、今回の開示によると、以下の理由により、その第三者委員会の委員全員に退任されてしまったというのである。   2 ルーデンコイン? 特設注意市場銘柄指定のそもそもの原因となったのは、「ルーデンコイン」なるものであった。ルーデン・ホールディングスは、2018年5月22日に「(開示事項の経過)電子トークン『ルーデンコイン』の発行決議及び『ルーデンコイン』の発行業務委託契約の締結のお知らせ」を開示して、電子トークンであるルーデンコインを発行して資金を調達するとしていた。 そして、同年12月20日「(開示事項の経過)当社子会社 ICO による資金調達の結果及び資金使途の変更に関するお知らせ」を開示して、ルーデンコインの発行により1,700ビットコインと40万米ドルを調達したとしていた。それらは、当時の日本円に換算すると、約7.6億円であった。 しかし、その後、本当に調達することができたのか、怪しくなったため(2022年2月10日開示「特別損失(非連結子会社への貸付債権にかかる貸倒引当金繰入額)の計上のお知らせ」、同年3月28日開示「(開示事項の経過)当社非連結子会社のルーデンコイン及びBitcoinの状況に関してのお知らせ」)、外部調査委員会を設置し、調査を受けたところ、1,700ビットコインは調達できておらず、40万米ドルもルーデンコイン発行により調達したとは言い難いことが判明した(2022年5月2日開示「外部調査委員会設置に関するお知らせ」、同年11月30日開示「外部調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」)。 同社は、ルーデンコインの発行により1,700ビットコインと40万米ドルを調達したことを前提とした開示や、それを前提とした記載を行っていた開示を訂正したほか、ルーデンコインの発行に関連した取締役会決議が実際は行われていなかったことも判明したため、取締役会で決議した旨を記載していた開示も訂正することになったのである(2023年1月17日開示「過年度決算短信等の一部訂正に関するお知らせ」、同日開示「過年度の適時開示の訂正等に関するお知らせ」)。   3 誰も把握しないまま 外部調査委員会の報告書によると、ルーデンコインの発行は、当時の取締役会長の西岡進氏(以下「西岡氏」という)の独断で進められていたとのことである。西岡氏は、代表取締役でないものの、強大な発言力を持ち、誰も彼に逆らうことができなかったという。前述のとおりルーデンコインの発行は取締役会決議を経ずに進められ、他の取締役はほとんど関知していなかった。 また、監査役監査、内部監査、内部統制報告の評価範囲に入ったことがなく、「内部統制の空白地帯化」が発生していたとされている。ルーデン・ホールディングスは、会社としてルーデンコインの発行について何も把握せず、事実と異なる開示を垂れ流していたのである。 同社の2018年12月期の売上高は29億円(利益は営業損失が生じている状態)、総資産は31億円、純資産は27億円である(2019年2月13日開示「平成30年12月期決算短信〔日本基準〕(連結)」)。約7.6億円の調達が同社に与える影響は小さくないはずである。 当時、同社の取締役と監査役の中には弁護士の方がいた(第19期~第22期有価証券報告書「役員の状況」参照)。それにもかかわらず、そうした状況が生じていたのである。 なお、会社としてはもとより西岡氏自身も、ルーデンコインなるものを正確に理解し、コントロールできていたのか疑わしい。同社の当時の主な既存事業は、ハウスケア事業、ビル総合管理事業、総合不動産事業であった(第19期有価証券報告書「事業の内容」参照)。そして、2017年12月期と2018年12月期は業績が極めて悪化し、営業損失が生じている状態であった。そうした中で突然登場したルーデンコインには、かなり危うい印象を持たざるを得ない。 しかも、ホワイトペーパー(有価証券発行時における目論見書のようなもの)の発行を2度にわたり延期しており(2018年9月14日開示「(開示事項の経過)ホワイトペーパー発表予定日延期に関するお知らせ」、同年10月1日開示「(開示事項の経過)ホワイトペーパー発表予定日再延期に関するお知らせ」)、まったくの見切り発車であった。   4 上場廃止を免れても 東証は、今回の開示を受けて、それと同日の2023年10月30日、ルーデン・ホールディングスを監理銘柄に指定した(2023年10月31日開示「当社株式の監理銘柄(審査中)の指定に関するお知らせ」)。東証の審査により、内部管理体制等について改善の見込みがないと認められれば、同社は上場廃止になる。 「必要な事実認定、原因分析、再発防止策の提言が出来ない」と第三者委員会の委員全員に言われて、退任されてしまう状態であり、上場廃止となる可能性は高いと言えるかもしれない。同社は、第三者委員会による提言を得られぬまま、監理銘柄指定の翌々日に「改善計画・改善状況報告書」を開示しているが(2023年11月1日開示「改善計画・状況報告書の公表に関するお知らせ」)、それにはまったく説得力がない。 なお、可能性は高くないが、仮に東証が内部管理体制等について改善の見込みがあると認めて、上場廃止を免れたとしても、同社は結局上場廃止になってしまうだろう。同社は2022年12月末時点でグロース市場の上場維持基準に適合していないのである。時価総額の上場維持基準が40億円であるのに対して、同社の時価総額は半分にも満たない14.5億円である(2023年3月31日開示「上場維持基準の適合に向けた計画」)。 2024年12月末までに上場維持基準に適合しなければ、上場廃止になってしまうのだが、2022年12月期も営業損失が生じている状態であり(2023年2月14日開示「2022年12月期決算短信〔日本基準〕(連結)」)、適合は困難だろう。結局上場廃止になることがわかっているのであれば、早めに上場廃止となって、そのうえで会社の再建に取り組んだ方がいいのかもしれない。 (了)

#No. 545(掲載号)
#鈴木 広樹
2023/11/22

《速報解説》 JICPA、「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」を確定~会計処理実施の前提となる事項や関連法令等の理解など検討すべき事項及び留意事項をまとめる~

《速報解説》 JICPA、「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」を確定 ~会計処理実施の前提となる事項や関連法令等の理解など検討すべき事項及び留意事項をまとめる~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年11月20日、日本公認会計士協会は、「Web3.0 関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」(業種別委員会研究資料第2号)を公表した。公開草案に寄せられたコメントの概要及び対応も公表されている。これにより、2023年9月6日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 暗号資産やNFT(Non-Fungible Token)などのトークン(電子的な記録・記号)を活用するWeb3.0ビジネスが広がっているなか、Web3.0ビジネスのような新しいビジネス領域に係る監査の受嘱に関しては、会計処理を実施するための前提となる事項や関連法令等の理解などの検討すべき事項は多岐にわたるものと考えられる。 そこで、日本公認会計士協会(業種別委員会)は、Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題について研究し、研究資料として公表するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 上記のほか、付録として、国際財務報告基準(IFRS)における取扱い、米国会計基準における取扱い、用語集が記載されている。   Ⅲ 監査受嘱上の留意事項及びトークン発行に係る監査上の課題 1 監査受嘱に際しての留意事項 監査人は、通常、 Web3.0ビジネス企業の財務諸表監査の契約の締結又は更新に当たり、当該企業によるビジネスの特性を踏まえて、業務を実施するための時間、適性及び適切な能力を有する者を関与させることができるかを検討することとなる。 また、次の留意事項についても詳細に記載している。 2 トークン発行に係る監査上の課題 図表を用いて、我が国における法律上の定義との関係に基づいて、トークンの類型を整理している。 電子記録移転有価証券表示権利に該当するICOトークンの発行及び保有に関する会計処理については、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第43号)があるが、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)及びSAFT(Simple Agreement for Future Token:将来発行されるトークンに対する保有者の権利を表章する合意)の保有及び発行に関する会計処理は定めがないため、監査上の対応も明らかでない部分があるとしている。 Web3.0企業の監査受嘱を難しくしている理由の1つに、トークン発行に係る会計処理の判断の困難さが挙げられるとしている。 企業会計基準委員会の「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」(2022年3月15日)が公表されている。 研究資料は、当該論点整理に基づいて論点を記載し、当該論点整理のいずれの考え方を採用した場合であっても、発行者と保有者との間の権利及び義務を特定し、会計処理を行うことは財務諸表作成者である企業に求められるとしている。 監査人は、経営者からの説明に対して、識別された権利及び義務が、ホワイトペーパーや法律専門家による見解書などによって裏付けられることや、識別された権利及び義務に基づく会計判断が適切であることを検討するとしている。 また、取引段階から会計処理に必要な権利義務関係を明確にすることを可能とする内部管理体制の整備及び内部統制の構築がなされていることを確認するとのことである。   Ⅳ その他の監査上の課題 1 トークン保有に係る監査上の課題 資金決済法上の暗号資産の保有者の会計処理及び開示については、「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告第38号)に規定されている。 しかしながら、自己の発行した暗号資産の保有や資金決済法上の暗号資産以外のトークン(実務対応報告第43号に定める電子記録移転有価証券表示権利等及び改正資金決済法上の電子決済手段を除く)については、会計基準等の定めが明らかでなく、経済的実態等に応じて既存の会計基準等を参考に、企業が会計処理を決定することになる。 研究資料は、次の事項に関して、実際に監査現場で検討されている事例を集め取りまとめたものに加えて、監査手続のうち特徴的な項目としてトークン発行・保有の前提となるブロックチェーンの理解について記載している。 2 NFT 現時点ではNFTに関する固有の法規制はなく、トークンがそれぞれ固有の権利を表章し非代替的な性質を持ち、金融商品取引法や資金決済法等の既存の金融規制に該当しないトークンが一般的にNFTと認識されているとのことである。 明確な定義や法規制がなく、会計基準等上の明確な定めはないことから、既存の会計基準等に照らした検討を実施する。 デジタルコンテンツの流通のために利用される事例が多く見られ、デジタルアートの閲覧権をトークンとして表章する事例、メタバースと呼ばれる仮想空間上に構築された土地を利用する権利をトークンとして表章する事例が代表的である。 3 SAFT 諸外国では、トークン発行前に一部の投資家に対して将来トークンをディスカウント購入できる権利であるSAFT(Simple Agreement for Future Tokens)、将来トークンのディスカウント購入又は発行体株式への転換を選択できる権利であるSAFTE(Simple Agreement for Future Tokens or Equity)等の様々な形式を通じた発行者による資金調達が行われているとのことである。 国内においては、SAFTを利用した資金調達事例は公表されていないとのことであるが、例えば、連結子会社が海外でSAFTを利用した資金調達を実施し、連結財務諸表の作成における検討が生じる場合も想定されるとのことである。 4 その他実務の検討 次の事項について記載している。 (了)

#阿部 光成
2023/11/20

《速報解説》 ASBJが「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」を公表~適用初年度の見積りをフォローする補足文書(案)も明らかに~

《速報解説》 ASBJが「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」を公表 ~適用初年度の見積りをフォローする補足文書(案)も明らかに~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年11月17日、企業会計基準委員会は、「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第67号)等を公表し、意見募集を行っている。 公開草案の公表に際して、「〈補足文書(案)〉グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する適用初年度の見積りについて(案)」も公表されている。 これは、後述するグローバル・ミニマム課税について、法人税及び地方法人税(以下「法人税等」という)の会計処理及び開示の取扱いを示すものである。 なお、グローバル・ミニマム課税については、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(実務対応報告第44号)が公表されているところである。 意見募集期間は2024年1月9日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ グローバル・ミニマム課税の概要 2021年10月に経済協力開発機構(OECD)/主要20ヶ国・地域(G20)の「BEPS 包摂的枠組み(Inclusive Framework on Base Erosion and Profit Shifting)」において、当該枠組みの各参加国によりグローバル・ミニマム課税についての合意が行われている。 これを受けて、我が国においても国際的に合意されたグローバル・ミニマム課税のルールのうち所得合算ルール(IIR)に係る取扱いが2023年3月28日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第3号)において定められ、2024年4月1日以後開始する対象会計年度から適用することとされている。 これは、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等の国別の利益に対して最低15%の法人税を負担させることを目的とし、当該課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違する新たな税制である。 公開草案では、グローバル・ミニマム課税制度の特徴が記載されている(BC2項~BC4項)。   Ⅲ 会計処理 1 連結財務諸表及び個別財務諸表 グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り計上する(6項)。 「対象会計年度」とは、法人税法15条の2に規定する多国籍企業グループ等の最終親会社等の連結等財務諸表(法人税法82条1号)の作成に係る期間をいう(5項)。 2 見積りに関する取扱い グローバル・ミニマム課税制度の特徴を踏まえて、対象範囲の判定や個別計算所得等の金額等の算定にあたって必要な情報を適時かつ適切に入手することが困難である場合があり、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度の決算時において、これらの情報を適時に入手し、当該金額を算定することは困難である場合があるとの意見があった(BC9項)。 公開草案では、当該意見を踏まえて、財務諸表の作成時点において一部の情報の入手が困難な場合の見積りに関する考え方が示されている(BC9項~BC11項)。 3 四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表 四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表(以下「四半期財務諸表」という)においては、6項の定めにかかわらず、当面の間、当四半期連結会計期間及び当四半期会計期間を含む対象会計年度に関するグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができる(7項)。   Ⅳ 開示 1 貸借対照表における表示 グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)11 項の定めにかかわらず、連結貸借対照表及び個別貸借対照表の固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示する(8項)。 グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等については、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するか否かに基づいて、流動負債に表示するか、固定負債に表示するか区分することとし、固定負債に表示する場合には、上述のように、長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示する(BC15項)。 2 連結損益計算書における表示 連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目(「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」2項なお書き、9項)に表示する(9項、BC16項~BC19項)。 3 個別損益計算書における表示 個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、重要性が乏しい場合を除いて、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を表示した科目の次にその内容を示す科目をもって区分して表示するか、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示し当該金額を注記する(10項、BC21項)。 4 四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表における注記 前連結会計年度及び前事業年度においてグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しており、当四半期連結会計期間及び当四半期会計期間において、当連結会計年度及び当事業年度におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要であることが合理的に見込まれる場合に実務対応報告7項を適用するときは、その旨を企業(集団)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断するために重要なその他の事項(「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号)19項(21)、25項(20))として注記する(11項)。 重要であることが合理的に見込まれる場合に該当するかどうかは、前連結会計年度及び前事業年度に入手した情報並びに四半期財務諸表の作成時に入手可能な情報に基づき判断することになると考えられる(BC22項)。   Ⅴ 適用時期等 実務対応報告は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(12項)。 実務対応報告11項の四半期財務諸表における注記の定めについては、12項の定めにかかわらず、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(13項)。   Ⅵ 補足文書(案) 補足文書(案)は、企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告(以下「企業会計基準等」という)を追加又は変更するものではなく、企業会計基準等の適用にあたって参考となる文書である。 補足文書(案)では、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りについて、適用初年度において情報の入手が困難な場合に考えられる見積りの一例を示している。 これは、適用初年度については、グローバル・ミニマム課税制度の特徴を踏まえて、当該制度に係る法人税等の見積りについて、財務諸表作成者から、見積りにあたって困難さがあるため、見積りに関する具体的な指針を求める意見が聞かれたことによる。 (了)

#阿部 光成
2023/11/20

《速報解説》 ASBJ、「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」を公表~電子決済手段の保有や発行に係る会計処理などについて示す~

《速報解説》 ASBJ、「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」を公表 ~電子決済手段の保有や発行に係る会計処理などについて示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年11月17日、企業会計基準委員会は、「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(実務対応報告第45号)等を公表した。 これにより、2023年5月31日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 これは、改正された「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という)上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いを示すものである。 「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第32号)では、資金決済法2条5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る)を「現金」に含めることとしている。 日本公認会計士協会から「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」(会計制度委員会報告第8号)の改正も公表されている。 会計制度委員会報告第8号の改正の公開草案に対しては、意見は寄せられなかったとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 概要 2022年6月に成立した「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第61号)により、資金決済法が改正されている。 改正された資金決済法においては、いわゆるステーブルコインのうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義されている。 本実務対応報告では、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を同一の資産項目として取り扱い、現金又は預金そのものではないが現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であることを踏まえ、会計処理及び開示を定めている(BC18項)。   Ⅲ 範囲 資金決済法2条5項に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象とする(2項)。 ただし、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段又は第3号電子決済手段のうち外国電子決済手段については、電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る(2項)。 上記にかかわらず、第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示に関しては、「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第23号)を適用する(3項)。 資金決済法の規定を用いて、第1号電子決済手段などの定義を規定している(4項)。   Ⅳ 電子決済手段の保有に係る会計処理 1 電子決済手段の取得時の会計処理 本実務対応報告の対象となる電子決済手段を取得したときは、その受渡日に当該電子決済手段の券面額に基づく価額をもって電子決済手段を資産として計上する(5項)。 当該電子決済手段の取得価額と当該券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(5項)。 2 電子決済手段の移転時又は払戻時の会計処理 本実務対応報告の対象となる電子決済手段を第三者に移転するとき又は電子決済手段の発行者から本実務対応報告の対象となる電子決済手段について金銭による払戻しを受けるときは、その受渡日に当該電子決済手段を取り崩す(6項)。 電子決済手段を第三者に移転するときに金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(6項)。 3 期末時の会計処理 本実務対応報告の対象となる電子決済手段は、期末時において、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とする(7項)。   Ⅴ 電子決済手段の発行に係る会計処理 1 電子決済手段の発行時の会計処理 本実務対応報告の対象となる電子決済手段を発行するときは、その受渡日に当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額をもって負債として計上する(8項)。 当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(8項)。 2 電子決済手段の払戻時の会計処理 本実務対応報告の対象となる電子決済手段を払い戻すときは、その受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩す(9項)。 3 期末時の会計処理 本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とする(10項)。   Ⅵ 外貨建電子決済手段に係る会計処理 期末時の会計処理について、次のように規定されている(11項、12項)。   Ⅶ 預託電子決済手段に係る取扱い 電子決済手段等取引業者又はその発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行う電子決済手段の発行者は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった本実務対応報告の対象となる電子決済手段(「預託電子決済手段」という)を資産として計上しない(13項)。 また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しない(13項)。   Ⅷ 注記事項 本実務対応報告の対象となる電子決済手段及び本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務に関する注記については、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)40-2項に定める事項を注記する(14項)。   Ⅸ 連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲 前述のとおり、「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第32号)では、資金決済法2条5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る)を「現金」に含めることとしている(2項)。 現金とは、手許現金、要求払預金及び特定の電子決済手段をいうとされている。 「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」(会計制度委員会報告第8号)の改正により、現金の定義に「特定の電子決済手段」が追加されている。 また、「特定の電子決済手段」は、実務対応報告第45号の適用対象となる第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段が該当し、「外国電子決済手段」は、これらの電子決済手段のうち電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限られる旨の記載が追加されている。   Ⅹ 公開草案に対するコメント 公開草案に対して、電子決済手段が貸借対照表上の表示において「現金及び預金」に含まれるか否かを明確化すべきとのコメントが寄せられたが、貸借対照表上の取扱いは定めないこととし、開示規則等により現金及び預金に含まれない場合には、重要性も踏まえてその性質を示す適切な科目で表示することになると考えられるとの考え方が示されている(論点の項目の12)。 また、取得価額と券面額との差額や帳簿価額と金銭の授受額との差額を損益計上する際はその性質が推察できないことから、営業外損益で良いのか判断しにくい面があるため明確化を求めるコメントも寄せられたが、現時点では電子決済手段の発行事例がないため、実際に取引が生じた場合に、当該差額の性質に基づき判断することが考えられるとの考え方が示されている(論点の項目の17)。   Ⅺ 適用時期等 公表日(2023年11月17日)以後適用する(15項)。 なお、本実務対応報告を適用するにあたっては、特段の経過的な取扱いを定めていないので、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)6項(1)に定める会計方針の変更に関する原則的な取扱いに従って、新たな会計方針を遡及適用することになる(BC46項)。 (了)

#阿部 光成
2023/11/20
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