Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第34回】 「〔第5表〕課税時期前3年以内に取得した土地等及び 建築中の家屋がある場合の取扱い」 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲(令和5年8月1日相続開始)が100%保有している甲株式会社を長男が相続していますが、甲株式会社の資産の中に令和4年7月15日に取得しているA土地(取得価額200,000千円)があります。A土地の上に賃貸用建物であるAアパートを建築中でしたが、引渡しを受ける前に相続が発生しています。 甲株式会社は3月決算で直前期末は令和5年3月31日となり、時系列及び詳細は、下記の通りとなります。 この場合に、甲の相続税の甲株式会社の株式価額の算定上、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上するA土地及び建築中の家屋等の相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになりますか。 なお、令和4年から令和5年までA土地の路線価に変動はないものとします。 また、純資産価額の計算においては、仮決算方式(課税時期の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 上記のとおり、課税時期時点における工事進捗割合は80%となります。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する「3年以内取得土地等(A土地)」及び「建築中の家屋等(建設仮勘定)」の内訳は、下記の通りとなります。 (※) ① 建築中の家屋の評価:100,000千円 × 80% × 70% = 56,000千円 ② 未払金:100,000千円 × 80%-60,000千円 = 20,000千円 ③ ①-② = 36,000千円 ◆ ◆ ◆ ① 3年以内取得土地等及び3年以内取得家屋等の計上金額 評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。 この場合において、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとするとされています(評価通達185括弧書)。 帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合として、買い急ぎや関連会社からの有利な価額による取得など適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における地価の急騰や資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合が考えられます。 ② 建築中の家屋は課税時期前3年以内に該当するか否か 本連載の【第32回】において、旧租税特別措置法(以下「旧措置法」という)69条の4について解説をしていますが、旧措置法69条の4の規定と評価通達185括弧書の取扱いは、いずれも「課税時期前3年以内に取得又は新築をした土地等及び家屋等」を対象としていますので、旧措置法69の4の取扱いは参考になります。旧租税特別措置法関係通達69の4-3は、「取得等の日」について、下記のとおり規定しています。 ※注意書き省略 上記に記載のとおり、他に請け負わせて建設した建物等については、当該建物等の引渡しを受けた日を建物等の取得の日としていますので、本問の場合には、課税時期時点において、まだ建物の取得等はしていないことになります。したがって、建築中の家屋は3年以内取得家屋等に該当せず、通常通り財産評価を行うことになります。 ③ 建築中の家屋の評価 建築中の家屋は、下記の通り評価することになります(評基通89、91)。 費用現価の額とは、相続開始日までにその家屋に投下された建築費用の額を、課税時期の価額に引き直した額の合計額のことをいいます。実務的には、工事請負金額に工事進捗率を乗じて計算することになりますので、課税時期における工事進捗率を建築会社に確認することになります。 本問の場合には、費用現価の額は、80,000千円(100,000千円 × 80%(工事進捗率))となりますので、建築中の家屋の評価は、56,000千円(80,000千円 × 70%)となります。 ④ 工事請負金額に係る債権債務 上記③で計算した費用現価の額は、工事完了金額を意味しますので、その工事完了金額に対して既に支払っている金額が大きい場合には、その超過部分については前渡金として資産となり、反対にその工事完了金額に対して既に支払っている金額が少ない場合には、その不足部分については未払金として負債となります。 本問の場合には、20,000千円(100,000千円 × 80% -(30,000千円 + 30,000千円))が未払金となります。 ⑤ 借家権控除の適用の可否 借家権の減額の趣旨は、利用について制約を受け、借家権を消滅させるためには立退料の支払いが必要になるためとされていますので、相続開始時点において、建物の賃貸借契約が開始されていない場合には、原則として、借家権控除の適用はありません。 本問の場合には、まだ建物自体が完成しておらず、相続開始時点において借家権は発生していませんので、借家権控除を適用することはできません。 ⑥ 本問の場合の当てはめ ■A土地 A土地は3年以内取得土地等に該当し、購入時と課税時期の路線価も同一となりますので、取得価額(帳簿価額)が通常の取引価額となります。したがって、200,000千円が相続税評価額となります。 ■建築中の家屋等 建築中の家屋等の評価は、建築中の家屋の評価に工事完了金額と支払金額との差額の債権債務を加減した金額が相続税評価額となります。 建築中の家屋の評価は、③で計算した56,000千円であり、工事完了金額と支払金額との差額は④で計算した未払金20,000千円となりますので、36,000千円(56,000千円-20,000千円)が相続税評価額となります。 建築中の家屋の評価(56,000千円)と未払金(20,000千円)を、別々に資産の部と負債の部に表示する方法もありますが、あくまでも建設仮勘定60,000千円の財産評価が36,000千円(56,000千円-20,000千円)になりますので、建設仮勘定に対応する相続税評価額として表示した方が分かりやすいと思います。 すなわち、帳簿価額である建設仮勘定60,000千円は、工事完了金額80,000千円と工事完了金額に対する未払金20,000千円に分解することができ、その工事完了金額80,000千円について財産評価を行い、未払金を控除したということになります。 仮に未払金20,000千円を負債の部に計上する場合には、3年以内取得土地等(A土地)及び建築中の家屋等の資産及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額は、下記の通りとなります。 最終的に第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」において計算される「相続税評価額による純資産価額」及び「帳簿価額による純資産価額」は、どちらで表示しても同じとなります。したがって、未払金を負債の部に計上しても問題はありませんが、あくまでも建設仮勘定60,000千円に対応する相続税評価額が36,000千円(56,000千円-20,000千円)となりますので、上記の記載をする場合には、未払金の帳簿価額欄に20,000千円を計上しないように注意する必要があります。 ☆実務上のポイント☆ 建築中の家屋の評価は、3年以内取得家屋等には該当しませんが、建築中の家屋の評価を行うとともに工事完了金額と支払金額との差額としての債権債務の計上も忘れないように注意する必要があります。 (了)