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Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第34回】「〔第5表〕課税時期前3年以内に取得した土地等及び建築中の家屋がある場合の取扱い」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第34回】 「〔第5表〕課税時期前3年以内に取得した土地等及び 建築中の家屋がある場合の取扱い」   税理士 柴田 健次   Q 経営者甲(令和5年8月1日相続開始)が100%保有している甲株式会社を長男が相続していますが、甲株式会社の資産の中に令和4年7月15日に取得しているA土地(取得価額200,000千円)があります。A土地の上に賃貸用建物であるAアパートを建築中でしたが、引渡しを受ける前に相続が発生しています。 甲株式会社は3月決算で直前期末は令和5年3月31日となり、時系列及び詳細は、下記の通りとなります。 この場合に、甲の相続税の甲株式会社の株式価額の算定上、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上するA土地及び建築中の家屋等の相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになりますか。 なお、令和4年から令和5年までA土地の路線価に変動はないものとします。 また、純資産価額の計算においては、仮決算方式(課税時期の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 上記のとおり、課税時期時点における工事進捗割合は80%となります。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する「3年以内取得土地等(A土地)」及び「建築中の家屋等(建設仮勘定)」の内訳は、下記の通りとなります。 (※) ① 建築中の家屋の評価:100,000千円 × 80% × 70% = 56,000千円 ② 未払金:100,000千円 × 80%-60,000千円 = 20,000千円 ③ ①-② = 36,000千円  ◆  ◆  ◆ ① 3年以内取得土地等及び3年以内取得家屋等の計上金額 評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。 この場合において、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとするとされています(評価通達185括弧書)。 帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合として、買い急ぎや関連会社からの有利な価額による取得など適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における地価の急騰や資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合が考えられます。   ② 建築中の家屋は課税時期前3年以内に該当するか否か 本連載の【第32回】において、旧租税特別措置法(以下「旧措置法」という)69条の4について解説をしていますが、旧措置法69条の4の規定と評価通達185括弧書の取扱いは、いずれも「課税時期前3年以内に取得又は新築をした土地等及び家屋等」を対象としていますので、旧措置法69の4の取扱いは参考になります。旧租税特別措置法関係通達69の4-3は、「取得等の日」について、下記のとおり規定しています。 ※注意書き省略 上記に記載のとおり、他に請け負わせて建設した建物等については、当該建物等の引渡しを受けた日を建物等の取得の日としていますので、本問の場合には、課税時期時点において、まだ建物の取得等はしていないことになります。したがって、建築中の家屋は3年以内取得家屋等に該当せず、通常通り財産評価を行うことになります。   ③ 建築中の家屋の評価 建築中の家屋は、下記の通り評価することになります(評基通89、91)。 費用現価の額とは、相続開始日までにその家屋に投下された建築費用の額を、課税時期の価額に引き直した額の合計額のことをいいます。実務的には、工事請負金額に工事進捗率を乗じて計算することになりますので、課税時期における工事進捗率を建築会社に確認することになります。 本問の場合には、費用現価の額は、80,000千円(100,000千円 × 80%(工事進捗率))となりますので、建築中の家屋の評価は、56,000千円(80,000千円 × 70%)となります。   ④ 工事請負金額に係る債権債務 上記③で計算した費用現価の額は、工事完了金額を意味しますので、その工事完了金額に対して既に支払っている金額が大きい場合には、その超過部分については前渡金として資産となり、反対にその工事完了金額に対して既に支払っている金額が少ない場合には、その不足部分については未払金として負債となります。 本問の場合には、20,000千円(100,000千円 × 80% -(30,000千円 + 30,000千円))が未払金となります。   ⑤ 借家権控除の適用の可否 借家権の減額の趣旨は、利用について制約を受け、借家権を消滅させるためには立退料の支払いが必要になるためとされていますので、相続開始時点において、建物の賃貸借契約が開始されていない場合には、原則として、借家権控除の適用はありません。 本問の場合には、まだ建物自体が完成しておらず、相続開始時点において借家権は発生していませんので、借家権控除を適用することはできません。   ⑥ 本問の場合の当てはめ ■A土地 A土地は3年以内取得土地等に該当し、購入時と課税時期の路線価も同一となりますので、取得価額(帳簿価額)が通常の取引価額となります。したがって、200,000千円が相続税評価額となります。 ■建築中の家屋等 建築中の家屋等の評価は、建築中の家屋の評価に工事完了金額と支払金額との差額の債権債務を加減した金額が相続税評価額となります。 建築中の家屋の評価は、③で計算した56,000千円であり、工事完了金額と支払金額との差額は④で計算した未払金20,000千円となりますので、36,000千円(56,000千円-20,000千円)が相続税評価額となります。 建築中の家屋の評価(56,000千円)と未払金(20,000千円)を、別々に資産の部と負債の部に表示する方法もありますが、あくまでも建設仮勘定60,000千円の財産評価が36,000千円(56,000千円-20,000千円)になりますので、建設仮勘定に対応する相続税評価額として表示した方が分かりやすいと思います。 すなわち、帳簿価額である建設仮勘定60,000千円は、工事完了金額80,000千円と工事完了金額に対する未払金20,000千円に分解することができ、その工事完了金額80,000千円について財産評価を行い、未払金を控除したということになります。 仮に未払金20,000千円を負債の部に計上する場合には、3年以内取得土地等(A土地)及び建築中の家屋等の資産及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額は、下記の通りとなります。 最終的に第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」において計算される「相続税評価額による純資産価額」及び「帳簿価額による純資産価額」は、どちらで表示しても同じとなります。したがって、未払金を負債の部に計上しても問題はありませんが、あくまでも建設仮勘定60,000千円に対応する相続税評価額が36,000千円(56,000千円-20,000千円)となりますので、上記の記載をする場合には、未払金の帳簿価額欄に20,000千円を計上しないように注意する必要があります。   ☆実務上のポイント☆ 建築中の家屋の評価は、3年以内取得家屋等には該当しませんが、建築中の家屋の評価を行うとともに工事完了金額と支払金額との差額としての債権債務の計上も忘れないように注意する必要があります。 (了)

#No. 543(掲載号)
#柴田 健次
2023/11/09

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第59回】「親族外事業承継と役員選任権付株式」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第59回】 「親族外事業承継と役員選任権付株式」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳   相談内容 私は、自動車部品製造業を営む非上場会社S社の創業者Nです。 親族の中にS社の経営を任せることができる者が見当たらないため、社内の役員・従業員の中から後継者を決めて事業承継を行うことにしました。すでに、50代のA氏を代表取締役社長に就任させており、私は代表取締役会長としてA社長への経営承継を進めているところです。 私が保有しているS社の株式については、家族に相続税の負担がかかることがないように、A社長を中心とする経営陣、従業員持株会に低廉な金額で譲渡することを検討しています。 S社株式をA社長らに譲渡するタイミングで代表権を返上し、経営の第一線から退くつもりです。ただし、ライフワークである研究開発やモノ作りは続けたいと考えており、株式を譲った後も非常勤役員として会社に残りたいと考えています。 少し心配なのは、今まではS社株式の全部を保有している私が取締役人事を取り仕切ってきましたが、株式譲渡後は私が他の株主に選んでもらう立場になってしまうということです。創業者である私が追い出されるようなことはないと思いたいですが、私がS社株式を譲った後も、取締役としての身分を保証してもらえるような仕組みがあれば、提案していただけないでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 役員選任権付株式 役員選任権付株式とは、役員選任権付株式を保有する株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任することを定めた株式をいいます(会108①九)。 役員選任権付株式を保有する株主を構成員とする種類株主総会においてすべての取締役を選任し、普通株式など他の種類株主は保有株式数・議決権数にかかわらず1人も選任することができない設計とすることも可能ですし、株式の種類ごとに選任できる取締役・監査役の数を定めることも可能です。 〈役員選任権付株式による役員選任と定款記載事項〉 したがって、N会長の保有株式のうち1株を役員選任権付株式に変更して引き続きN会長が保有し、残りの株式をA社長ら経営陣、従業員持株会に譲渡すれば、N会長が引き続き役員人事に関与することが可能となります。 〈N会長保有株式の処遇〉 N会長は代表取締役退任後も役員選任権を掌握することで院政を敷くことも可能ですが、株式を取得したA社長ら経営陣が役員人事にいつまでも関与できないような種類株式設計にしてしまうと、安定的な経営を行っていくことが難しくなりますので、N会長が自らの役員選任を確実とする程度の種類株式設計に留めることをお勧めします。   [2] 取得条項付株式 役員選任権付株式は取締役や監査役の選任という非常に強い権限を有しているため、経営陣の意に沿わない株主の手に渡ってしまうことがないように注意する必要があります。事業承継対策として拒否権付株式を発行する場合などと同様、株主に相続が発生するなど一定の事由が生じた場合に、発行会社が株主の同意なく買い戻すことができる取得条項を付帯させるべきでしょう(会2十九、108①六)。 種類株式に付帯させる取得条項の一例については、【第44回】「親族外事業承継と拒否権付株式」を参照ください。   [3] 結論 親族外事業承継において役員・従業員承継を選択するオーナー経営者、特に製造業のオーナー経営者の中には、経営の第一線から退いた後も自らのライフワークとして研究開発やモノ作りに携わり続けるため、役員として会社に残りたいと考えるオーナーが多いようです。 自らが信頼して経営を託した役員・従業員とはいえ、すべての株式を譲渡した後も役員としての身分が保証されるのか不安を感じることもあると思いますが、本事例のように役員選任権付株式を保有していれば、自らを取締役に選任するなど役員人事に関与し続けることが可能です。 オーナー経営者が保有する株式を役員選任権付株式に変更するには全株主の同意が必要となります。オーナー経営者がすべての株式を保有している場合は問題ありませんが、オーナー経営者以外にも株主が存在し、全株主の同意が得られない場合は役員選任権付株式を導入することはできません。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 543(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2023/11/09

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第92回】「家屋の評価誤りと除斥期間事件」~最判令和2年3月24日(民集74巻3号292頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第92回】 「家屋の評価誤りと除斥期間事件」 ~最判令和2年3月24日(民集74巻3号292頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 543(掲載号)
#菊田 雅裕
2023/11/09

リース会計基準(案)を学ぶ 【第9回】「貸手のリースの会計処理②」

リース会計基準(案)を学ぶ 【第9回】 「貸手のリースの会計処理②」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 前回(第8回)に引き続き、貸手のリースの会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リース ファイナンス・リースと判定されたもののうち、次の(1)から(3)のいずれかに該当する場合、「所有権移転ファイナンス・リース」に分類し、いずれにも該当しない場合、「所有権移転外ファイナンス・リース」に分類する(リース適用指針(案)66項、BC96項)。   Ⅲ 貸手のファイナンス・リースの会計処理 貸手は、ファイナンス・リースについて、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行う(リース会計基準(案)43項)。 企業会計基準適用指針第16号では、ファイナンス・リース取引の会計処理について、次の3つの方法を定めている(リース適用指針(案)BC98項)。 リース適用指針(案)は、上記の(2)の方法について、収益認識会計基準において割賦基準が認められなくなったこととの整合性から廃止するとし(リース適用指針(案)BC100項、収益認識会計基準104-3項)、以下で述べる会計処理を提案している。   Ⅳ 所有権移転外ファイナンス・リースの会計処理 1 製品又は商品を販売することを主たる事業としている企業が、同時に貸手として同一の製品又は商品を原資産としている場合 製品又は商品を販売することを主たる事業としている企業が、同時に貸手として同一の製品又は商品を原資産としている場合で、貸手として行ったリースが所有権移転外ファイナンス・リースと判定されるとき、貸手は、次の会計処理を行う(リース適用指針(案)67項、BC99項)。 2 貸手が原資産と同一の製品又は商品を販売することを主たる事業としていない場合 貸手が原資産と同一の製品又は商品を販売することを主たる事業としていない場合で、貸手として行ったリースが所有権移転外ファイナンス・リースと判定されるとき、貸手は、次の会計処理を行う(リース適用指針(案)68項、BC101項)。 3 利息相当額の各期への配分 貸手における利息相当額の総額は、貸手のリース料及び見積残存価額(貸手のリース期間終了時に見積られる残存価額で残価保証額以外の額)の合計額から、これに対応する原資産の取得価額を控除することによって算定する(リース会計基準(案)45項)。 利息相当額の総額を貸手のリース期間中の各期に配分する方法は、原則として、利息法による(リース会計基準(案)45項、リース会計基準(案)69項~71項)。 この場合に用いる利率は、リース適用指針(案)62項の貸手の計算利子率とする(リース適用指針(案)69項)。   Ⅴ 所有権移転ファイナンス・リースの会計処理 所有権移転ファイナンス・リースの会計処理については、基本的に、所有権移転外ファイナンス・リースと同様である(リース適用指針(案)74項、75項、BC102項)。 所有権移転ファイナンス・リースでは、リース適用指針(案)67項及び68項にある「リース投資資産」は「リース債権」と読み替えて適用することになる(リース適用指針(案)74項)。   Ⅵ オペレーティング・リースの会計処理 「オペレーティング・リース」とは、ファイナンス・リース以外のリースをいう(リース会計基準(案)13項)。 貸手のオペレーティング・リースについては、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行う(リース会計基準(案)46項)。 貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上する(リース適用指針(案)78項)。 フリーレント(契約開始当初数か月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)がある場合、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することに注意が必要と考えられる(リース適用指針(案)BC104項)。 (了)

#No. 543(掲載号)
#阿部 光成
2023/11/09

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2023年10月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年10月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年10月1日から10月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会は次のものを公表し、意見募集を行っている(意見募集期間はいずれも2023年12月6日まで)。 これは、いわゆるパーシャルスピンオフの会計処理を取り扱うものである。 ① 企業会計基準適用指針公開草案第80号(企業会計基準適用指針第2号の改正案)「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」等の公表 ② 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正について(公開草案)   Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 「品質管理基準報告書第1号実務ガイダンス第4号「監査事務所における品質管理に関するツール(実務ガイダンス)」」の改正(公開草案)(内容:品質管理システムの評価に当たっての具体的な手順や文書等について検討したもの。意見募集期間は2023年11月16日まで)   Ⅳ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 「グループ監査における親会社監査役会の役割と責務」(内容:グループガバナンスの視点から、グループ監査における監査役の役割と責務について研究活動を行い、取りまとめたもの。日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会) (了)

#No. 543(掲載号)
#阿部 光成
2023/11/09

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第44回】「被害者が関係者ないし加害者の事情聴取に難色を示す場合の対応策」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第44回】 「被害者が関係者ないし加害者の事情聴取に難色を示す場合の対応策」   弁護士 柳田 忍   【Question】 ハラスメント窓口に、「自分を含めて複数の社員がパワハラの被害を受けている」という相談がありました。当該相談者から事情を聞いたうえで、関係者や加害者に対してヒアリングを実施して事実確認を行おうと思ったのですが、当該相談者は、「報復が怖いから自分が相談したことが加害者に絶対に知られないようにしてほしい」、「加害者と通じている可能性があるから、関係者にも自分が相談したことが知られないようにしてほしい」などと強く希望しており、関係者や加害者の事情聴取に難色を示しています。どうすればよいでしょうか。 【Answer】 まずは、相談者に対して、部署異動など、相談者と加害者との間に場所的・業務上の距離を置くよう調整を行う旨を提案し、関係者や加害者の事情聴取に同意してもらえるよう、促すのがよいと思います。それでも相談者が難色を示す場合、複数の被害者に対するハラスメントを織り交ぜて聴取を行うことにより相談者の特定を避ける旨説明したり、複数の被害者から同意を取得するから相談者にも同意してほしい旨伝えたりして同意を促すことが考えられます。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 総論 被害者からハラスメントの相談や通報を受け、会社において調査の必要性があると判断した場合、関係者や加害者の事情聴取を行うことになる。しかし、関係者や加害者に対して被害者からの相談や通報にかかる事実を確認する過程で、いかに被害者の氏名を伏せたとしても、事案によっては自ずと被害者が誰であるかが聴取対象である関係者や加害者に知れてしまうことは多い。被害者が被害を相談ないし通報したことが関係者や加害者に漏れた場合、関係者や加害者による嫌がらせや報復などのおそれが生じることなどから、関係者や加害者の事情聴取に際しては、原則として被害者の同意を得るべきである。 特に、ハラスメントが公益通報者保護法の対象に該当する場合(すなわち、暴行罪、傷害罪、強制わいせつ罪、強制性交罪等の刑事罰の対象となる行為に該当する場合)、公益通報者保護法との関係が問題となる。 公益通報者保護法では、事業者において、公益通報者を保護する体制の整備として、範囲外共有(公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為)の防止に関する措置を講じることを義務づけている(法11条2項、指針第4.2(2)(※))。また、公益通報対応業務従事者(以下「従事者」という)又は従事者であった者は、正当な理由なく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないとされている(法12条)。前者の「必要最小限の範囲を超えて」共有する行為と後者の「正当な理由なく」漏らす行為は同等の行為と考えられており、例えば、通報者の同意がある場合や、調査又は是正措置を実施するにあたり、従事者の指定を受けていない者に対し、公益通報者を特定させる事項を伝えなければ調査又は是正措置を実施することができない場合などが想定されている。 (※) 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号) よって、目撃者のヒアリング実施のために目撃者に対して通報者を特定させる事項を伝えなければならない場合は範囲外共有や「正当な理由なく」漏らす行為には当たらないため、通報者の同意がなくても実施することは可能であると思われる。もっとも、通報者の同意を得られた方が望ましいことは言うまでもない。   2 被害者の同意を得る方法 関係者ないし加害者の事情聴取に難色を示す相談者からこれらの事情聴取について同意を取得する方法として、例えば以下の対応が考えられる。 (1) 相談者・通報者又は加害者の異動等を提案する 相談者・通報者が最も恐れるのは、自分が相談・通報したことが加害者に知られた挙げ句、相談・通報前と変わらず加害者と一緒に仕事を続けなければならないといった事態に陥ることである。 そこで、部署異動など、加害者と相談者・通報者との間に場所的・業務上の距離を置くよう調整を行う旨を提案し、関係者や加害者の事情聴取に同意してもらえるよう、促すことが考えられる。 (2) 複数の被害者に対してなされた行為を織り交ぜて聴取を行うことを提案する 相談者・通報者が受けたハラスメントのみを聴取の対象とすると、当該行為の被害者が相談・通報を行ったと推測されてしまう。そこで、相談者・通報者に対するハラスメントと相談者・通報者以外の被害者に対するハラスメントを織り交ぜて聴取を行うことにより、相談者・通報者が相談・通報を行ったことを相手に知られるリスクを減らすことができる旨提案して、関係者や加害者の事情聴取について相談者・通報者の同意を得ることが考えられる。 この方法をとる場合に注意すべき点は、各ハラスメントが行われた日時や具体的な行為内容などを明確にしたうえで聴取を行うと、聴取の相手方である関係者や加害者にどの被害者に対するハラスメントが調査の対象とされているかを知られてしまい、ひいては、当該ハラスメントの被害者が相談者・通報者ではないかと疑われてしまうおそれがあることである。相談者・通報者が相談者・通報者ではないかと疑われることも問題ではあるが、実際には相談者・通報者でない者が相談者・通報者ではないかと疑われてしまうことも避ける必要がある。 よって、この方法をとる場合には、被害者が特定されない程度にハラスメントの態様を抽象化したうえで聴取を行う必要があるが、抽象化しすぎるとヒアリングとしての意義をなさないことにもなりかねないため、注意が必要である。 (3) 他の被害者が関係者・加害者の事情聴取に同意している旨を伝える 加害者によるハラスメントについて複数の被害者が存在する場合、複数の被害者全員(ないし相当数)からそれぞれのハラスメントを聴取の対象とすることについての同意が得られた、又は、複数の被害者全員(ないし相当数)の同意をお願いしているところである、と伝えたうえで、あなたにもぜひ同意してほしい、と同意を促すことが考えられる。複数の被害者の同意を得たとしても、それぞれに対するハラスメントについて具体的に聴取を行えば、聴取の相手方に各ハラスメントの被害者が誰であるかが知られてしまうことになるので、嫌がらせや報復のおそれを完全に除去することはできない。しかし、他の被害者も勇気を出すのであれば、と勇気づけられる被害者も多い。また、被害者同士が連携して加害者の嫌がらせや報復行為を監視できるという利点もある。 (了)

#No. 543(掲載号)
#柳田 忍
2023/11/09

《速報解説》 金融庁、「企業内容等開示ガイドライン」の改正案を公表~譲渡制限付株式の特例に関し、取締役等の死亡などの事由の取扱いを明確化~

《速報解説》 金融庁、「企業内容等開示ガイドライン」の改正案を公表 ~譲渡制限付株式の特例に関し、取締役等の死亡などの事由の取扱いを明確化~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023(令和5)年11月6日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正(案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、株式報酬として交付される株式が譲渡制限付である場合に、有価証券届出書の提出を不要とする特例に関して、取締役等の死亡などの事由の取扱いについて明確化を図るものである。 意見募集期間は2023(令和5)年12月5日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 総額1億円以上の有価証券の募集又は売出しを行う際には、有価証券届出書の提出が必要とされている。 他方、株式報酬として交付される株式が譲渡制限付である場合(いわゆる譲渡制限付株式(RS:Restricted Stock))については、有価証券届出書の提出を不要とし、臨時報告書の提出で足りるとする特例が設けられている。 「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正(案)は、株式報酬について発行会社が定める株式報酬規程等において、次の事由が生じた際、当該株式の譲渡が禁止される旨の制限を解除する旨の定めが設けられている場合であっても、上記の特例の譲渡制限期間の要件を満たし、有価証券届出書の提出が不要であることを明確化するものである。   Ⅲ 適用日 パブリックコメント終了後、速やかに適用する予定である。 (了)

#阿部 光成
2023/11/09

プロフェッションジャーナル No.542が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年11月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.542を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/11/02

monthly TAX views -No.129-「岸田減税の問題点-給付付き税額控除の検討を」

monthly TAX views -No.129- 「岸田減税の問題点-給付付き税額控除の検討を」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   岸田総理は、「成長の成果である税収増などを国民に適切に還元する」として、所得税・住民税1人当たり4万円の減税と、住民税非課税世帯への10万円(世帯当たり、実施中の3万円を含む)の給付の具体案作りを与党に指示した。実施時期については、給付は補正予算通過後、減税は来年の通常国会での税制改正法案通過後の6月頃ということのようだ。 今回の減税は、国民からの評判が芳しくない。大手新聞の社説の見出しも、「意義も効果も疑問が拭えない」(10月25日読売新聞)、「選挙対策のばらまきか」(10月21日朝日新聞)と、さんざんな評判となっている上、自民党内からも違和感が指摘されている。 その理由を筆者なりに考えると、以下のとおりである。 *  *  * 最大の理由は、今回の所得減税の大義名分が薄いということである。デフレ対策というが世間はインフレに悩んでいる。物価対策としては時期が遅い。SNSで揶揄された「増税メガネ」のイメージを払しょくする人気取り、さらには選挙前のバラマキと受け止められている。減税の理由が、「税収増の還元」というだけでは国民に訴える力は弱い。 次に、年末には国民負担増の議論が避けられないということである。防衛財源については昨年暮れに所得税、法人税、たばこ税での1兆円の増税が決まっている。2024年度は何とかしのぐにしても、2025年度からは増税を実施しなければ、わが国の防衛が不安定な国債依存の「張り子の虎」になってしまう。 加えて異次元の少子化対策である3.5兆円の財源問題も控えている。支援金(仮称)制度の創設で対応することとされているが、その中身は社会保険料の上乗せで、1兆円(半分は企業負担)の負担増が予定されている。 総理は「実質的な国民負担は生じないようにする」と発言している。これは、負担増分は少子化対策の給付として国民に返す、ということを意味しているのであろうか。そうであれば社会保障費として全額返す消費税も、負担はないといえることになる。 国民負担増と減税という逆方向の議論が行われることは、政策の信頼性を大きく損なうことになる。 最後に、給付と減税との組み合わせで、「はざま」に落ちる人たちが数百万人存在することが判明したことだ。住民税は負担しているので給付金はもらえないが、所得税は4万円×世帯人数に満たない額しか負担していないという世帯に、10万円の給付がされる世帯と比べて不公平のないようにどう手当てするのか。 このような「はざま」を生じさせないためには、国がマイナンバーで捕捉している所得情報を給付に連携させる給付付き税額控除が有効だ。英米などでは、所得情報が社会保障給付と連携され、低所得世帯への様々な支援が行われている。先般のコロナ対策でも、この仕組みを活用して、迅速で申請なしのプッシュ型の給付が行われたことは記憶に新しい。 今回わが国でも、このような制度や仕組みを持つことの重要性・必要性が認識されたわけで、導入に向け本格的な検討を始めてほしいものだ。のど元を過ぎれば忘れてしまうということのないようにしなければならない。 *  *  * 所得税減税が国民から受け入れられない背景には、「新しい資本主義」の具体的な中身がいまだ不明ということがある。「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に記載されている実質賃金の継続的な増加のためには、勤労者のリスキリングの充実などによる人的資本の向上や生産性の上昇が必要である。そのための具体的な政策を明確に打ち出す必要がある。 (了)

#No. 542(掲載号)
#森信 茂樹
2023/11/02

〈令和5年度税制改正で創設された〉パーシャルスピンオフ税制のポイント 【第2回】「適用要件」

〈令和5年度税制改正で創設された〉 パーシャルスピンオフ税制のポイント 【第2回】 「適用要件」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   前回は、パーシャルスピンオフ税制創設の背景と制度概要について取り上げた。 【第2回】では、パーシャルスピンオフ税制の適用要件について確認する。   1 適用要件 パーシャルスピンオフ税制の適用要件は次の通りである。 以下でそれぞれの要件について詳しく取り上げる。 (1) 株式のみ按分交付要件 「株式のみ按分交付要件」とは、産業競争力強化法に基づく認定を受けた事業再編計画に従って行われる特定剰余金の配当であって、完全子法人株式の80%超が移転し、かつ、現物分配法人の各株主の持株数に応じて完全子法人株式のみが交付されることをいう(措法68の2の2、措令39の34の3①一)。 なお、認定株式分配実施後に現物分配法人や現物分配法人の株主に対して株式を継続保有することは求められていない。 (2) 従業者継続要件 ① 「従業者継続要件」とは 「従業者継続要件」とは、認定株式分配直前の完全子法人の従業者(下記②参照)のうち、その総数のおおむね90%以上に相当する数の者が完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれていることをいう(措令39の34の3①四)。 ② 「従業者」とは 「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、認定株式分配の直前において完全子法人の事業に現に従事する者をいう(措通68の2の2-1、法基通1-4-4)。 ただし、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者については、法人の選択により従業者の数に含めないことができる。 (3) 事業継続要件 ① 「事業継続要件」とは 「事業継続要件」とは、完全子法人の認定株式分配前に行う主要な事業(下記②参照)が完全子法人において引き続き行われることが見込まれていることをいう(措令39の34の3①五、法令4の3⑯四)。 ② 「主要な事業」とは 完全子法人の株式分配前に行う事業が2以上ある場合には、そのいずれが主要な事業に該当するかは、それぞれの事業に属する収入金額又は損益の状況、従業者の数、固定資産の状況等を総合的に勘案して判定する(措通68の2の2-1、法基通1-4-5)。 (4) 役員継続要件 ① 「役員継続要件」とは 「役員継続要件」とは、認定株式分配前の完全子法人の特定役員(下記②参照)の全てが株式分配に伴って退任するものではないことをいう(措令39の34の3①三)。 ② 「特定役員」とは 「特定役員」とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者(下記③参照)で法人の経営に従事している者をいう(措令39の34の3①三、法令4の3④二)。 ③ 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいう(法基通1-4-7)。 (5) 非支配要件 ① 非支配要件とは 「非支配要件」とは、認定株式分配の直前に現物分配法人と他の者との間にその他の者による支配関係がなく、かつ、認定株式分配後に当該認定株式分配に係る完全子法人と他の者との間にその他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないことをいう(措令39の34の3①二)。 ② 「他の者」に含まれるものとは 他の者が個人の場合には、その個人との間に特殊関係のある者(親族等)も含まれる。また、他の者には、その者が締結している民法667条1項に規定する組合契約等及び次に掲げる組合契約に係る他の組合員である者を含むこととされている(措令39の34の3①二、法令4の3⑨一)。 (6) 事業再編計画認定要件 通常の事業再編計画の認定要件に加えて、事業の成長発展が見込まれるものとして経済産業大臣が定める次のいずれかの要件を満たしていることが確認できることをいう(措令39の34の3①六、令5経済産業省告示50、事業再編実施指針四)。   2 従来の適格株式分配の要件との違い 適格株式分配に該当する認定株式分配の要件と従来の適格株式分配の要件の違いは、(1)株式のみ按分交付要件、(2)従業者継続要件、(6)事業再編計画認定要件である。 認定株式分配については、適格株式分配とするための前提として産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けることが必要なことと、従業者継続要件が従来の適格株式分配や他の組織再編のおおむね80%と比べて厳格になっている点に留意が必要である。 *  *  * 次回は、事業再編計画認定要件とその認定手続きについて詳しく解説する。   (了)

#No. 542(掲載号)
#川瀬 裕太
2023/11/02
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