《速報解説》 教育資金の一括贈与に係る 贈与税の非課税措置について ─平成25年度税制改正大綱─ ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典 はじめに 平成25年1月29日付で平成25年度税制改正大綱(以下「大綱」という)が閣議決定された。 本稿では、大綱で盛り込まれた資産課税に関する項目のうち、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置(以下「本制度」という)について解説する。 1 本制度創設の背景 本制度は、祖父母世代から孫世代への世代間における資産移転を促進させ、将来必要となる子供の教育資金の早期確保を図る目的で創設される予定である。 その背景には、およそ1,500兆円といわれている我が国の個人金融資産の多くが60歳以上の高齢者層に偏っているという現状と、一方で、消費の多いといわれる30代、40代の子育て世代が、消費を抑え将来の子供の養育費のために貯蓄にまわしている傾向が見られる点にある。 そこで、本制度には、高齢者層に偏った金融資産を子育て世代へ早期に移転させることにより、養育費負担を軽減させ、より家計の支出を消費にまわしてもらうことを税制面からサポートする目的があると考えられる。 2 本制度の概要 (1) 概要 30歳未満の子や孫(以下「受贈者」という)の教育資金に充てるために、その受贈者の直系尊属(例えば、祖父母や父母)が金銭等を拠出して、信託銀行や銀行等の一定の金融機関に信託等をした場合には、信託受益権の価額又は拠出された金銭等の額のうち受贈者1人につき1,500万円(学校等以外の者に支払われる金銭等については、500万円を限度とする)までは、平成25年4月1日~平成27年12月31日に拠出されるものに限り、贈与税は課さないこととしている。 大綱では、教育資金の定義を以下のように述べている。 なお、大綱では、学校等とそれ以外の者に支払う金銭等によって異なる非課税枠を設けているが、学校等の定義が明確となっていない。 一般に、我が国の学校には、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学及び高等専門学校、専修学校などあるが、学校等以外の者とは何か、海外の学校は対象に含まれるのかなど、今後税制改正の動向が注目される。 また、教育資金の金銭等の範囲や、贈与した資金使途を教育資金に限定させるため、その要件としている信託等の具体的な範囲についても、明確にされることが望まれる。 (2) 教育資金拠出時の申告要件 受贈者は、本特例の適用を受けようとする旨等を記載した「教育資金非課税申告書(仮称)」を、金融機関を経由し受贈者の納税地の所轄税務署長に提出する必要がある。 (3) 資金使途の確認 受贈者は、払い出した金銭を教育資金の支払いに充当したことを証する書類を金融機関に提出する必要がある。 一方、金融機関は、提出された書類に関して一定の保存義務が課せられている。 (4) 本制度適用終了時の手続き 受贈者が30歳に達した場合には、金融機関は、本特例の適用を受け信託等がされた金銭等の合計金額(以下「非課税拠出額」という)及び契約期間中に教育資金として払い出した金額の合計金額(以下「教育資金支出額」という)その他の事項を記載した調書を受贈者の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。 一方、受贈者は、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額(つまり、贈与資金のうち教育資金に充てられなかった部分の金額)について、受贈者が30 歳に達した日に贈与があったものとして贈与税が課税される。 なお、受贈者が30歳に達する前に死亡した場合には、金融機関は、その旨を記載した調書を受贈者の納税地の所轄税務署長に提出する必要があるが、受贈者は非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額について贈与税は課税されない。 (了)
《速報解説》 小規模宅地等の課税特例の拡充について ─平成25年度税制改正大綱─ 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 平成25年1月24日に、与党から平成25年度税制改正大綱が公表された。 本稿では、平成25年度税制改正大綱に含まれる相続税関連の改正事項のうち、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(租税特別措置法69条の4)に係る改正について、その内容を概観し、改正の影響を検討していく。 1 平成25年度税制改正の内容 (1) 適用対象面積 特定居住用宅地等の適用対象面積が、改正により、240㎡から330㎡へ拡大される。 また、特定事業用等宅地等と特定居住用宅地等は、基本的にどちらか一方の適用対象面積までしか適用されないが、改正により、特定事業用等宅地等と特定居住用宅地等がそれぞれ適用対象面積まで適用可能となる。 つまり、特定事業用等宅地等を400㎡適用し、特定居住用宅地等を330㎡適用することが可能となる。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続・遺贈により取得する財産に係る相続税について適用される。 (2) 特定居住用宅地等の適用要件 特定居住用宅地等の小規模宅地特例を適用する場合に、二世帯住宅で、いわゆる完全分離型のものであるケースでは、内部で行き来ができる構造でない場合には同居として判断されていないが、改正により、内部で行き来ができない構造であっても同居として判断されると思われる。 また、民間老人ホームへの入居については終身利用権の問題もあり、現状では自宅土地について居住の用に供していたものと判断されていないケースが多いと思われるが、改正後は、終身利用権に係らず、介護の必要性、貸付等用途の非供用、のみで判断される。 この改正は、平成26年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用される。 2 平成25年度税制改正の影響 平成25年度税制改正では、相続税の基礎控除が引き下げられるため、相続税の対象者は大幅に増加すると思われる。ただし、上記の小規模宅地特例(主に特定居住用宅地等)の改正によって、増税の影響が緩和される。 特定居住用宅地等については適用対象面積が330㎡に拡大するため、自宅土地が広く、かつ東京のように地価の高い地域である場合には、相続税額に大きな影響がある。 また、自宅土地が330㎡未満であっても、適用限度面積に達しない面積は、一定の調整計算の上で、貸付事業用宅地等などとして別に適用できる可能性があるため、賃貸アパートなどの所有者の相続税にも少なからず影響が生じる。 これらの影響を考慮して、今後は相続税対策を行うべきといえる。 また、特定居住用宅地等の適用要件につき、民間老人ホームへ入居した場合の終身利用権の問題、二世帯住宅(完全分離型で、内部で行き来ができない構造のもの)の同居判定問題については、上記のように要件が緩和される方向で手当てされており、この点で小規模宅地特例の適用可能性は高まると考えられる。 (了)
《速報解説》 国内設備投資を促進するための 税制措置の創設について ─平成25年度税制改正大綱─ マネーコンシェルジュ税理士法人 税理士 今村 京子 平成25年度税制改正大綱において、「生産等設備投資促進税制」の創設が明記された。 ● 生産等設備投資促進税制の創設趣旨 「成長と富の創出の好循環」を実現し、わが国経済を再生していくためには、製造業を中心とする投資に対する慎重な姿勢を反転させ、設備投資の拡大によって経済の底上げを図るとともに、生産設備の更新を通じて産業競争力の強化を図る必要がある。 このため、国内における設備投資へのインセンティブを広く付与する生産等設備投資促進税制を創設し、生産等設備への投資額を一定以上増加させた場合に、新たに取得等した機械・装置について30%の特償却又は3%の税額控除を認めるというものである。 ●適用要件 青色申告書を提出する法人の平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度(設立事業年度を除く)において取得等した国内の事業の用に供する生産等設備で、その事業年度終了の日において有するものの取得価額の合計額が次の①及び②の金額を超える場合において、その生産等設備を構成する資産のうち機械装置をその法人の国内にある事業の用に供したときは、その取得価額の30%の特別償却とその取得価額の3%の税額控除との選択適用ができる。 ただし、税額控除における控除税額は、当期の法人税額の20%を上限とする(所得税においても同様)。なお、控除限度超過額については、繰越しはできない。 ここで生産等設備とは、その法人の製造業その他の事業の用に直接供される減価償却資産(無形固定資産及び生物を除く)で構成されているものをいう。 なお、本店、寄宿舎等の建物、事務用器具備品、乗用自動車、福利厚生施設等は該当しない。 また、中小企業者等については、法人税の特別償却又は税額控除が法人住民税及び法人事業税においても適用される。 これまでの投資減税の場合1台当たりの取得価額などに要件があったが、今回の制度はそれらの要件がないため、幅広く活用できる可能性がある。 また、平成25年4月1日以降開始する事業年度から適用できるため、3月決算法人の翌期事業計画を策定するに当たっては事前検討が必要となろう。 (了)
《速報解説》 交際費課税の特例拡充について ─平成25年度税制改正大綱─ 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成25年1月29日、平成25年度税制改正大綱が閣議決定された。 この中で、景気回復を図るため中小企業の交際費課税の特例を拡充することが明記されている。 ここではその内容について解説する。 1 改正前の交際費課税 *資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く) 【改正前の中小企業の特例のイメージ】 2 平成25年改正後の交際費課税(平成25年度末まで) *資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く) 【改正後の中小企業の特例のイメージ】 仮に交際費の合計額が800万円であった場合、 このように交際費の損金不算入額が減少するので、法人税の減税効果が期待できる。 特に、年間の交際費が600万円を超えていた中小企業にとっては、損金不算入額が大幅に減少することになるので、減税効果は大きい。また、企業の交際費支出が増加することにより、景気を刺激する側面もあると考えられる。 しかし、昨今の景気低迷により各企業は経費削減の努力をし、交際費も大きく削っている。 この状況において、税制改正により損金算入枠が拡大されたからといって、交際費支出が増えるかどうかは疑問のあるところである。 (了)
monthly TAX views -No.1- 「アベノミクス税制改正の評価」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 平成25年度税制改正が決着した。 内容を見ると、経済再生を掲げるアベノミクスを後押しする様々な租税特別措置のオンパレードとなっている印象を受けるが、本筋の改正はきちんと評価すべきである。それは、所得税・相続税の負担増を3党合意にそって誠実に実行しているところである。 万人に負担増となる消費税率の引上げの際には、所得・資産について余裕のある者に負担増を求めることは重要なことだ。「所得再分配がきちんと行われ格差の少ない国ほど経済成長率が高い」ということが、IMFなどの実証研究の結果示されている。 今回わが国も、経済成長一本やりの税制改正ではなく、きちんと所得再分配も行っていくという意思表示を示せたことは筋を通したともいえる。 中でも筆者が評価するのは、いわゆる証券優遇税制の廃止だ。 上場株式についての配当と株式譲渡益に10%の優遇税率を課していたが、これを2014年から本則の20%に戻すことを決定した。あわせて、公共債などの利子所得を金融所得一体課税し損益通算の対象とすることと、日本版ISAの創設も決定された。 わが国の個人金融資産1,500兆円を念頭に、個人がリスクテイクを取る環境が整いつつあるといってもよい。 もっとも、疑問もある。 消費税率負担増を緩和するための新規住宅取得や自動車購入者への負担軽減策、資産の孫への移転促進、人件費増加企業への減税など、税の理屈や効果をきちんと検証したうえでの改正なのだろうか、という点である。 とりわけ筆者が気になるのは、住宅取得者への現金給付である。 住宅ローン控除は税額控除なので、所得の比較的少ない人には控除の枠が余ることになる。それを現金給付する方向で検討する(夏までに姿を示す)というのが今回の決定である。これは、逆進性対策として民主党が主張してきた「給付付き税額控除」と極めて似た制度である。 民主党は、所得の捕捉を確実にする番号(マイナンバー)とセットでの導入としていたのだが、自民党ではその点は無視されており、とにかく消費税の負担増分を返すことを最優先している。所得税減税、住民税減税、現金給付という3層構造なのだが、はたして番号なくして適切な執行ができるのだろうか。 このように、極めて多彩な平成25年度税制改正だが、苦言を呈したいのは、議論の透明性の欠如である。 自民党のホームページを開いてみたが、どこにも自民党税調の議事録・議事概要・提出資料などは掲載されていない。わずかに、幹事長の記者会見で言及されるのみである。 われわれ国民は、新聞・テレビの報道を通じてしか議論の中身は知らされなかった。自民党という一政党内部の話だということだろうが、自民党税調は事実上の決定機関である。 昨年末に選挙があって、すぐ税制改正議論に入ったので、政府の方で税制調査会を開催して議論する時間がなかったことも、この不透明性に輪をかけている。 民主党政権下では、連日開かれた政府税制調査会の模様が、インターネット中継され、資料もほぼ即日入手できたことに比べると、このような透明性の欠如は問題だ。来年からは、連日の資料の公表と責任者によるブリーフを公表すべきではないか。 (了)
「平成25年度税制改正」はこう読む 【第2回】 一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 3 一体改革の残された課題 昨年6月15日の「社会保障・税一体改革」に関する民主・自民・公明の3党協議の結果、政府提出の税制抜本改革法案(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案)から所得税の最高税率引上げ、資産課税の見直しの規定が削除され、これらについては「平成24年度中に必要な法制上の措置を講ずる」(附則20条、21条)とされ、平成25年度改正の課題とされていた。 また、消費税率引上げに伴う低所得者対策、住宅取得への影響緩和、車体課税の見直しなどについても「速やかに必要な措置を講じなければならない」ものとされていた。 これを受けて、平成25年度税制改正では、前回述べたように3党協議が重要な場となり、特に所得税の最高税率引上げ、資産課税の見直しについては民主党の意向が最大限反映された結論となっている。 (1) 所得税の最高税率引上げ 昨年の3党協議では、所得税の最高税率引上げをめぐり課税所得5,000万円超について45%とする政府・民主党案に対し、公明党は3,000万円超45%さらに5,000万円超50%の2段階の引上げを主張して合意に至らなかった。自民党は具体的な主張をしておらず、むしろ消極的であったとされる。 今回、まず自民・公明の与党間で最高税率を45%に引き上げることを合意し、適用所得は3,000万円超から5,000万円超の間で民主党に決定を委ねるという奇策に出た。 結果、その中間点の4,000万円超となったが、この最高税率が適用される所得階層は事業所得者等を含め全体で5万人程度、増収見込額も590億円(平年度ベース)であることから、消費税率引上げの傍ら高額所得者にはさらなる負担を求めるという象徴的な意味でしかないと言われている。 しかし、24年度税制改正では給与所得控除の上限設定・役員等の減額がなされており、今回の最高税率引上げを加えて、該当者にとっては、かなりの負担増となる。 (2) 資産課税の見直し 相続税については、昨年の3党合意では「バブル後の地価の大幅下落等に対応して基礎控除の水準を引き下げる等としている旧政府案を踏まえつつ検討を進める」とされており、抜本改革法においても「格差の固定化の防止、老後における扶養の社会化の進展への対処等の観点」(抜本改革法附則21条)からの見直しが明記されていた。 総選挙公約では、民主党は所得再分配機能などを高める方向で相続税の改正を行うことを、公明党も基礎控除の引下げや最高税率の引上げを明記していた一方、自民党は24年度中に必要な法制上の措置を講じるとするのみで具体的な主張をしておらず、課税強化には消極的とも見られていた。 ところが、実際の3党協議では、自民党も基礎控除引下げ、税率構造の見直し等には異論を示さず、死亡保険金の非課税措置の対象範囲縮小が見送られていることを除き、旧政府案通りに3党で合意された。贈与税も、税率構造の見直し、相続時精算課税制度の対象者を孫までに拡大するなど、旧政府案通りに決着している。 ただし、自民党税制調査会では、基礎控除の大幅引下げにより大都市部では小規模自営業者の相続までが課税対象になるとの批判が高まり、小規模宅地等についての課税価格計算特例のうち、居住用宅地の適用対象面積を240㎡から330㎡に拡大した上で、自営業者の店舗等の特定事業用宅地(400㎡まで)と合算し、最大730㎡までを80%減とすることとされ、公明、民主両党も追認している。 このほか、25年度税制改正では事業承継税制の見直し、教育資金の一括贈与の特例がなされている。いずれも相続税増税の影響緩和のための措置であることは間違いないが、3党協議でのテーマとされていなかったので、それぞれ後述する。 (3) 消費税率引上げに伴う低所得者対策=複数税率 今回の与党協議、3党協議の中で最も重要なテーマが、消費税率引上げに伴う低所得者対策としての軽減税率の扱いであった。 昨年の3党協議では、民主党が給付付き税額控除の導入を主張、公明党は軽減税率の早期導入を主張し、抜本改革法では、同法7条1号イに、「給付付き税額控除等の施策の導入について、所得の把握、資産の把握の問題、執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する。」としつつ、同号ロに「低所得者に配慮する観点から、複数税率の導入について、財源の問題、対象範囲の限定、中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する。」として両論併記の形になっている。 総選挙公約では、公明党は8%の段階から軽減税率導入を明記し、自民党も食料品等に対する複数税率の導入を検討し、関係者の理解を得た上で実施としていた。 しかし、与党税制協議会では、自民党は来年4月1日の8%引上げ時点での軽減税率導入は不可能と主張し、公明党は米、味噌、醤油、水、新聞に限って8%引上げ時点から軽減税率を導入し、10%引上げ段階でさらに対象を拡大することを提案し、取りまとめができなかった。なお、公明党が実現可能性を無視してあえて8%段階からの導入に固執したのには、軽減税率を5%に止めるとの意向があったためとされる。 結局、「消費税率10%引き上げ時に、軽減税率制度を導入することをめざす」とし、本年末の平成26年度税制改正決定時までに「関係者の理解を得た上で、結論を得る」として、与党税制協議会に軽減税率制度検討委員会を設置することで合意し、その旨を与党税制改正大綱に明記した。 公明党は、これを10%引上げ時の軽減税率導入を担保するものとしているが、自民党はあくまでも「めざす」ものでしかないとしている。また「関係者の理解」とは、軽減税率導入に反対する日本商工会議所をはじめとする中小企業団体の理解を得ることが前提との趣旨であり、そのために具体的検討課題に、「インボイス制度等の区分経理のための制度の検討」、「中小事業者等の事務負担増加、免税事業者が課税選択を余儀なくされる問題への理解」が明記されている。ここでインボイス導入に限定せずに「区分経理のための制度」とされていることは注視すべきであり、インボイスなしでの軽減税率導入が示唆されたものと考える。 なお、民主党は引き続き給付付き税額控除制度を主張しているが、前提となる番号制度が前臨時国会で法案が不成立に終わり、今国会で早期に成立しても当初想定の平成27年1月からの開始が1年遅れとなることから、少なくとも10%引上げ時点での導入は困難となっている。 (4) 住宅取得対策 住宅取得対策について昨年の3党合意では、「平成25年度以降の税制改正及び予算編成の過程で総合的に検討を行い、消費税率の8%への引上げ時及び10%への引上げ時にそれぞれ十分な対策を実施する」とされており、必ずしも平成25年度改正ですべての対策を用意することとはされていなかった。 しかし、「消費税率の引上げの前後における駆け込み需要及びその反動等による影響が大きいことを踏まえ」(抜本改革法7条1号チ)、税制措置については今回で処理することとされ、住宅取得税制(住宅ローン減税)について平成29年末まで延長し、26年4月以降は大幅に拡充することとされた。また、自己資金による住宅取得特例、住宅リフォームについても同様に26年4月以降分の拡充がなされている。 一方、中堅以下の所得層では住宅ローン減税で所得税・個人住民税から控除しきれない部分が生じる問題については、個人住民税の控除限度額引上げのみを決定し、いわゆる財政措置の具体的な内容は示されず「別途、良質な住宅ストックの形成を促す住宅政策の観点から適切な給付措置を講じ」、税制措置とあわせて「消費税負担額をかなりの程度緩和する」ことが与党大綱に明記されて終わった。 今後、26年度予算編成までに具体化するとされているが、多くの国民の住宅取得計画に影響を与える問題であり、できるだけ早期に具体案を示すべきである。 (5) 自動車課税の見直し 車体課税は、今回の税制改正で最後まで錯綜し、結論を実質的に先送りして終わった。 昨年の3党合意では、自動車取得税、自動車重量税については「抜本的見直しを行うこととし、消費税率8%への引上げ時までに結論を得る」こととされていたが、抜本改革法では「国及び地方を通じた関連税制の在り方の見直しを行い、安定的な財源を確保した上で、地方財政にも配慮しつつ、簡素化、負担の軽減及びグリーン化の観点から、見直しを行う」(抜本改革法7条1号カ)となっており、単純な廃止は想定されていなかった。 総選挙公約では、自民党は取得税及び重量税について廃止を含め負担軽減の方向で検討し8%への引上げ時までに結論を得るとし、公明党も自動車税制は簡素化、特に取得税は廃止を目指すとしていた。民主党はもともと取得税、重量税について負担の軽減、簡素化を主張していた。 今回の与党協議では、公明党は取得税の廃止及び重量税のいわゆる当分の間税率(道路財源時代の暫定税率)分の縮減を主張し、3党協議では、民主党から両税の廃止が求められた。 しかし、自民党税制調査会の中では、2,000億円を超える自動車取得税収、さらには3,000億円弱の自動車重量税の地方譲与分の代替財源の確保がない限り両税の廃止・縮減はできないとする多くの地方自治体の声に押され、さらには道路財源化復活の主張まで現れて、調整がつかない状態となった。 最終段階には、野田毅会長と自動車議連会長をも務める額賀福志郎小委員長との間で、大綱案取りまとめ直前の深夜まで行われたが、時間切れとなり、車体課税の扱いは平成26年度改正に先送りされた。 与党大綱では、取得税については「安定的な財源を確保して、地方財政への影響に対する適切な補てん措置を講じることを前提に」2段階で引き下げ、消費税率10%の時点で廃止するが、「必要な財源は別途措置する」こととなった。 また同時に都道府県税である自動車税について、「安定的な財源確保の観点から、地域の自主性、自立性を高めつつ、環境性能に合せた課税を実施することとし、他に確保した安定的な財源と合わせて、地方財政へは影響を及ぼさない」とされている。 これは、他の財源が見い出せなければ、取得税の代替財源を自動車税の増税により補てんできるように、自動車税の税率等を各都道府県の判断により引き上げることを可能とすることを示唆しているものと思われる。 重量税についても、平成26年度改正に先送りされたが、「その税収について、道路の維持管理・更新等のための財源として位置付け、自動車ユーザーに還元されるものであることを明らかにする方向で見直しを行う」ことが明記された。 この箇所は、自民党内で税制調査会が取りまとめた大綱案を形式的に審査するはずの場であった政策審議会で問題となり、かつてのような道路特定財源化を意味しないとの理解で案文通りとされたが、平成26年度改正に大きな火種を残すこととなった。 (了)
平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第1回】 「法人税率の引下げと 復興特別法人税の開始」 アクタス税理士法人 税理士 藤田 益浩 〈はじめに〉 平成25年3月期の決算・申告の時期を迎えようとしている。 今回の決算・申告は、平成23年12月税制改正の内容と平成24年税制改正の内容が大きく反映されることになる。 特に平成23年12月改正は、税率の変更や所得計算に大きな影響を与える改正事項が多いため、注意しなければならない。 今回の決算を迎えるにあたり、主要論点を3つ挙げるとすると次のようになる。 本連載では、平成25年3月期の決算・申告にあたって、実務上ポイントとなる点を解説する。 〈法人税率の引下げと復興特別法人税の開始〉 平成24年4月1日以後開始事業年度から、法人税率が30%から25.5%に引き下がることになる。 また、中小法人等の軽減税率についても18%から15%に引下がることになる。 一方、法人税率の引下げと同時に、復興特別法人税が課税されることになる。 復興特別法人税は、平成24年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度について、その各課税事業年度の基準法人税額に10%の税率を乗じた額が復興特別法人税額となる。 平成25年3月期の申告における税率をまとめると、次のようになる。 〔普通法人〕 25.5%+2.55%(25.5%×10%)=28.05% 〔中小法人等の年800万円以下所得〕 15%+1.5%(15%×10%) =16.5% (注1) 中小法人には、一般社団法人等及び人格のない社団等を含む。 (注2) 租税特別措置法により、平成24年3月31日までの間に終了する事業年度に適用。ただし、3月決算法人以外の法人は、平成24年4月1日以降最初に終了する事業年度まで適用される。 (注3) 平成23年度税制改正により、本則:22%→19%、措置法:19%→15%(協同組合等は16%)に引き下げられる(平成27年3月31日までの間に開始する事業年度まで)。 〈法人税申告における復興特別所得税の税額控除〉 法人が平成25年1月1日以後に支払いを受ける預金利息や配当等については、所得税のほかに、復興特別所得税が源泉徴収されることになる。 この源泉徴収された所得税と復興特別所得税は、法人税と復興特別法人税の前払いであり、確定申告において税額控除の対象となる。 税額控除の際、ポイントとなるのは、源泉徴収された復興特別所得税は、復興特別法人税から税額控除され、法人税からは控除することはできない点となる。 (了)
平成26年1月から施行される 「国外財産調書制度」の実務と留意点 【第1回】 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 第1章 制度の概要 1-1 はじめに 平成24年度の税制改正で、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「送金等法」という)が改正され、「国外財産調書」制度が創設された。 これにより、毎年12月31日において5,000万円を超える国外財産を所有する居住者(非永住者※を除く)は、翌年3月15日までに、所轄税務署長に対して、保有する国外財産の内容を記載した報告書を提出する義務を負うこととなった。 ※ 非永住者とは、日本国籍を有せず、かつ過去10年以内に国内に住所又は居所を有していた期間が5年以下の個人をいう。日本に来てから5年未満の外国籍の者は、12月31日において日本に住所がなく1年以上の居所も有しない場合には、非居住者となり、非永住者とはならない。 この規定は、平成26年1月1日以降に提出すべきものから適用されるので、最初の提出としては、平成25年12月31日において要件を満たす者は、平成26年3月15日(同日は土曜日なので実際には17日)までに提出しなければならない。 なお、この調書は、所得税や相続税等の申告書提出義務がない場合であっても提出する必要がある。 税務上の法定調書は50種類以上あるが、そのほとんどが取引における対価の支払者が作成・提出する「支払調書」の形式をとる。これに対して、国外財産調書は、自己の保有する財産に関する情報を開示するものであり、両者は同じ「法定調書」であっても、性質が異なる。 規定の解釈・適用の細部については、今後国税庁から発遣される通達等により明らかにされるが、本稿執筆時点(平成25年1月28日現在)においては、未だ発遣されていない。 したがって、以下の説明は本稿執筆段階において明らかにされている情報によるものである点、留意が必要である。 1-2 制度のあらまし まずは以下において、本制度のあらましについてまとめることとする(制度の詳細については、第2章で改めて述べる)。 (1) 報告義務者 居住者(非永住者を除く)で、その年の12月31日において、国外保有財産の価額の合計額が5,000万円を超える者。 非永住者と非居住者には、提出義務がない。(送金等法5①)。 (2) 報告期限 翌年の3月15日(送金等法5①)。 なお、最初の期限である平成26年3月15日は土曜日であるため、3月17日が期限となる(通法10②、通令2②)。 (3) 適用開始時期 改正法は平成26年1月1日から施行されるため(平成24年3月31日改正法(法律第16号)附則1、59)、平成26年1月1日以降に提出すべき国外財産調書から適用される(同附則59)。 (4) 提出・不提出による加算税の取扱いの特例 この調書を提出した場合には、記載された国外財産に関して申告漏れがあったときであっても、加算税が5%減額される(送金等法6①)。 記載が無いか不十分である場合において、その財産について申告漏れが生じたときは、加算税が5%加重される(同6②)。 (5) 罰則 虚偽記載による提出や正当な理由なく提出期限内に提出しなかった場合は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処することとされている。 このうち期限内不提出については、情状により刑を免除することができるとされている(送金等法10)。 (6) 対象となる財産 報告義務者が有する国外財産。国外財産とは、国外にある財産をいう(送金等法2七)。 債務は報告対象ではない。財産の合計額の計算上、債務は控除しない。 所在の判定は12月31日の現況により、相続税法10条1項、2項に定めるところによる(送金等令10①②)。 (7) 財産の価額 その年の12月31日の時価(又は時価に準ずる「見積価額」)によることとされている。 外国通貨建てのものは、為替売買相場で換算する(送金等令10③④)。 (8) 報告事項 報告事項としては、国外財産を有する者の住所・氏名、国外資産の区分・種類・用途・所在地、数量、価額、その他参考になる事項が省令で定められている(送金等規則12)。 (9) 調査 国外財産調書の提出に関することは、国税職員による質問検査権の対象となる(送金等法7)。 次回より、本制度創設の背景について解説する。 (了)
定期同額給与の3ヶ月以内改定 税理士 妹尾 明宏 1 法人税法上の役員給与(定期同額給与)について 法人税法では、役員に対して支給する給与のうち、定期同額給与、事前確定給与及び利益連動給与に限り損金算入を認め、これらに該当しないものは原則損金不算入としている。 このうち、定期同額給与とは、次に掲げる給与をいう。 (1) 支給時期が1月以下の一定期間ごとである給与(定期給与)でその事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(法法34①一) (2) 定期給与で次の給与改定がされた場合には、①その事業年度開始の日から給与改定後の最初の支給時期の前日までの間の各支給時期、及び②給与改定前の最後の支給時期の翌日からその事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの(法令69①一) イ 3月経過日等(通常改定) その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日(3月経過日等)まで(継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあっては、その改定の時期)にされた定期給与の額の改定(法令69①一イ) ロ 臨時改定事由 その事業年度においてその内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(イの改定を除く)(法令69①一ロ) ハ 業績悪化改定事由 その事業年度においてその内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(業績悪化改定事由)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限り、イ及びロに掲げる改定を除く)(法令69①一ハ) (3) 継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法令69①二) 法人税法の役員給与の制度趣旨は、利益調整等の恣意性の排除にあり、(2)イの3月経過日等までの通常改定の場合、毎期同時期に行う定期的な改定を前提にしていると考えられる。 ここで、法律、政令では損金算入となる給与の範囲が必ずしも明確になっておらず、通達や質疑応答事例、「役員給与に関するQ&A」等をもとに損金算入の可否を判断するのが実務となっている。 しかし、通達等でも明らかにならないケースは多分に存在するため、最終的には個々の事情に照らし、恣意性の有無も勘案して判断することになる。 2 定期同額給与の3月経過日等までの改定 以下、役員給与が改定された場合に、定期同額給与として損金算入が認められるか否かを考える。 (1) 定時株主総会での通常改定 上記1(2)イの3月経過日等までの改定は、通常決算後3ヶ月以内に開催する定時株主総会で役員給与の支給額を改定することを想定していると思われる。 実務では定時株主総会で報酬総額のみ決議し(枠取り)、各役員への具体的支給額は取締役会へ委任することが一般的である。また、取締役会では代表者に一任することが多いと思われる。 役員の職務執行期間は、一般に定時株主総会の開催日から翌年の定時株主総会の開催日までの期間であると解され、定時株主総会における定期給与の額の改定は、その定時株主総会の開催日から開始する新たな職務執行期間に係る給与の額を定めるものであると考えられる。 この場合の定時株主総会又は取締役会、代表者の決定による定期的な給与改定は、恣意性の介入も認められないことから損金算入が認められる。 (2) 期首から増額する場合(ご質問の場合) (1)の通り、上記1(2)イは、定時株主総会で役員給与の支給額を改定することを想定していると思われるが、期中いつでも役員給与を改定することは当然に可能である。また、報酬総額の枠内であれば、改めて株主総会を経ることなく、取締役会の決議での給与改定もできる。 ご質問の場合は、役員の職務執行期間の中途における改定であるが、X年以降継続して定期的に期首より改定を行うものであり、その事業年度内の各支給時期における支給額が同額であれば、定期同額給与に該当すると考えられる。 ここで、例年は定時株主総会での改定、X年のみ期首改定を行うということであれば、定期的な改定を想定していると考えられる通常改定の趣旨に合わず、慎重な検討を要する。期首改定も臨時改定事由が必要であるとする意見もあるところだが、その事業年度内の各支給時期における支給額が同額であれば、定期同額給与に該当すると考えられる。 しかし、あくまで通常改定の想定は定時株主総会の時期での改定であり、一職務執行期間は同額とすることが望ましいことに変わりはない。 ここで、仮に臨時改定事由、業績悪化改定事由に該当しない理由により、X+1年1月支給分から役員給与を減額改定した場合には、減額前後の給与差額×9ヶ月分(X年4月からX年12月)が損金不算入になると考えられる。 (3) 3月経過日等までに2回改定する場合 (2)のように期首に役員給与を増額改定した後、6月の取締役会において6月支給分から役員給与を更に増額改定した場合はどうなるであろうか。この2回の改定は、3月経過日等までの改定である。 一事業年度に複数回の改定が行われた場合の記述として、『平成19年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)331頁、及び「役員給与に関するQ&A」Q3(複数回の改定が行われた場合の取扱い)がある。この中では複数回改定があることを前提に説明がなされており、各改定の前後で区分して同額判定することとしている。 (参考:『平成19年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)331頁) しかし、これは通常改定と臨時改定があった場合の説明であり、3月経過日等までに複数回改定(臨時改定及び業績悪化改定に該当しない改定)することは想定されておらず、恣意的な利益調整に当たるため認められないと考えられる。 つまり、3月経過日等までの改定は、複数回改定があっても改定の経緯等を勘案して1回のみ通常改定として認識して、次の①及び②の期間の各支給時期で同額判定をし、残りの改定は否定されて損金不算入額が算出されるものと思われる。 (了)
組織再編税制における不確定概念 【第1回】 「不確定概念の考え方」 公認会計士 佐藤 信祐 不確定概念とは、「見込まれる」「おおむね」「これらに準ずる」といったものであり、抽象的概念、多義的概念と評されることもある。 租税法においては、このような不確定概念が多々存在しており、組織再編税制以外においても、「不相当に高額」「不適当であると認められる」「相当の理由」「必要があるとき」「正当な理由」というものも存在する。 本連載の第1回目においては、不確定概念の基本的な考え方についての解説を行う。 1 不確定概念の概要 租税法律主義については、日本国憲法84条において、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定されている。 すなわち、租税の賦課・徴収は国家権力によって行われるものであるため、国民の財産を保護するためには、恣意的に行われるものではなく、法律又は法律の定めるところによって行われなければならないという基本原則である。 また、租税法律主義の内容として、金子宏教授は『第17版 租税法』(金子宏著、弘文堂)73頁において、「課税要件法定主義」「課税要件明確主義」「合法性原則」「手続的保障原則」の4つを挙げられているが、本稿で取り上げる「不確定概念」は「課税要件明確主義」と対立する概念である。 すなわち、金子宏教授は前掲書76頁において、「不確定概念(抽象的・多義的概念)を用いることにも十分に慎重でなければならない。」としたうえで、「もっとも、法の執行に際して具体的事情を考慮し、税負担の公平を図るためには、不確定概念を用いることは、ある程度は不可避であり、また必要でもある。」と述べられている。 実務家の立場としても、上記の論述については、同意しやすいものであり、やはり租税法の解釈として、条文に沿った形で解釈を行う必要があることから、あまりに不明確な条文構成というのは、実務上の弊害が大きいと言わざるを得ない。 その一方で、条文の文言で明確化しにくいものがあるというのも理解できるものであり、その条文が適用される時代背景や環境を考えたうえで、柔軟に解釈すべき場面が存在するというのも理解できるものである。 また、山本守之氏は、『検証 税法上の不確定概念』(日本税理士会連合会編、山本守之・守之会著、中央経済社)において、不確定概念の特徴として、抽象性、社会通念、多義性の3つを挙げられており、具体的には、「不確定概念の特徴の1つは、その文言の抽象性である。抽象的であるが故に具体的事実への適用に当たっては、その具体的事実の個別諸条件が反映され多義性をもってくる。」(前掲書27頁)「たとえば、「著しく低い価額」といっても時価に比しどの程度低いものが著しいというかは、その判断者の認めるところの社会通念とも関係してこよう。そして、判断要素となる社会通念は、時と場所によって異なるものである。」(前掲書27頁)と述べられている。 すなわち、不確定概念はその抽象性が故に、複数の解釈が可能となってくるが、それは常に社会通念によるべきであり、納税者が行った取引だけでなく、事業を取り巻く環境、その時代背景などを総合的に判断する必要があると言える。 そういう意味では、答えのない分野ではあるものの、幸いにして、国税局、税務署の職員の方々と、我々、公認会計士、税理士は、同じ「会計・税務」の分野に属していることから、共通のバックグランドを有するが故の暗黙知というものが存在し、それほど大きな差異が生じることは多くない。 無論、細部における解釈の違いについては、それぞれの専門分野や経験値が異なるが故の誤解というものは存在するため、実務上は、慎重な対応が必要になってくるが、制度趣旨を正しく理解していれば、一応の判断が可能な分野であることも事実である。 組織再編税制にも、多くの不確定概念が存在する。 「見込まれる」「おおむね」「これらに準ずる」というものはその典型例であるが、その最たるものとして、法人税法第132条の2に規定する包括的租税回避防止規定が存在し、本連載の第4回目から第10回目までは包括的租税回避防止規定について解説する。 包括的租税回避防止規定については、租税回避に対応するために、「不当に減少させる」という不確定概念が設けられている。それ以外の不確定概念については、租税回避を防止するためという側面もあるが、制度趣旨に反しない限り、納税者に有利なように解釈すべき場面も存在することから、不確定概念の存在は租税回避を防ぐためだけのものとは言い難い。 例えば、第3回目でも解説するが、従業者引継要件の判定において、「おおむね百分の八十以上」と規定されているが、制度趣旨に反しないのであれば、従業者のうち100分の75を引き継いだ場合であっても、従業者引継要件を満たすものと解する余地もあるのではなかろうか。 2 不確定概念に対する実務上の対応 このように、不確定概念については、ある程度の実務家における統一見解があるものの、その性質上、実務においては、やはり専門家の間でも見解が分かれる内容があるというのもやむを得ない。納税者側に立って積極的に解釈する専門家も存在するし、リスクを防ぐために消極的(保守的)に解釈する専門家も存在する。 これは、それぞれの専門家の立ち位置であり、それを他の専門家が批評すべきものではない。 しかしながら、実務においては、クライアントに応じて、柔軟に対応する必要があるというのもまた事実である。 一般的に日本企業は保守的に解釈するクライアントが多いことから、あまり積極的に解釈する必要はないように思えるが、ほとんど問題がないような取引についても、さらにリスクを軽減するための証拠資料を作ることが求められることも少なくない。 税務調査で見られるであろう稟議書や社内検討資料を精査し、税務調査官が異なる解釈を行わないような慎重な対応というものを望むクライアントも存在すれば、コストを考えたうえで、そのような対応を望まないクライアントも存在する。 さらに、時期に応じても、柔軟に対応する必要があるというのもまた事実である。 ストラクチャーを実行する前においては、不確定概念について慎重な判断をする必要があるであろう。解釈に幅があるのであれば、なるべく否認されにくい事実関係を作っていくということもあるべき対応といえよう。 例えば、前述の従業者引継要件の判定において、たとえ、100分の75の従業者を引き継げば、「おおむね百分の八十以上」の従業者を引き継いだと解釈することができるような場面があったとしても、やはりストラクチャーの検討段階においては、100分の80以上の従業者を引き継ぐようにすべきであるし、「おおむね」と規定されていることから、100分の90の従業者を引き継いだとしても、制度趣旨に反している場合には従業者引継要件に抵触するリスクもないわけではないため、制度趣旨に反していないかどうかを慎重に検討したうえで、なるべく100分の100に近い数字に持っていくということも、実務上の対応として求められることであろう。 これに対し、ストラクチャーの実行後は、事実関係を変えることはできないことから、どうやって税務調査で勝てるのかという対応になってくる。 もちろん、勝ち目がないのであれば、税務調査が来る前に修正申告を行うべきであろうが、不確定概念の解釈によって、否認されるリスクがどれくらいあるのか、否認されないように意見書を出すことが可能であるのかどうかなどの検討を行うことになるが、あまりにも納税者に不利な解釈を採るというのは、逆に納税者にとって望ましくないことも少なくない。 さらに、税務調査の段階になってしまえば、もはや証拠資料すら作ることも難しくなってくることから、税務調査において国税当局に説明できるかどうかということになるため、若干は、積極的な解釈というものも求められるであろうが、あまりに積極的な解釈を行った場合には、税務調査における心証を害し、税務調査が長期化する恐れもあることから、積極的な解釈というものも程度問題ということもいえよう。 また、国税不服審判所、裁判所に持ち込まれた場合には、ある意味、訴訟に勝てばよいため、さらなる積極的な解釈というものも検討すべきなのかもしれない。 このように、実務においては、クライアントに応じて、また、その時期において、不確定概念に対する対応を変化させていく必要もあるであろうが、組織再編税制が導入されてから10年を超える期間が経過したことから、税務専門家の間でのある程度の統一見解というものもないわけではない。 第2回目以降においては、組織再編税制における不確定概念について検討するとともに、それぞれの解釈についての基本的な考え方と、グレーな部分についての個人的な見解について解説を行う。 なお、本連載のラインナップは、以下のようになっている。 (了)