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《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第13回】「どんなとき役立つ? 生命保険の2つの役割」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第13回】 「どんなとき役立つ? 生命保険の2つの役割」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇保険に加入する意味 生命保険文化センターの2022年度「生活保障に関する調査」によると、日本人の約8割は生命保険に加入しているということです。この8割という数字は30歳代以降ずっと変わらず、70歳代以降においても、男性で72.5%、女性で78.8%と高い数字が維持されています。 よく日本人は保険好きと言われますが、そもそも保険とはなんのために加入するのでしょうか。おそらく多くの方は、口をそろえて「リスクに備えるためだよ」とおっしゃるでしょう。しかし、保険で備えるべきリスクとは、一体なんなのでしょうか。 保険会社のCMなどでは、「今は2人に1人ががんになる時代」といった言葉を聞くことがあります。「だから、がん保険で備えましょう」ということですが、保険に加入したからといって、がんにならないというわけではありません。「保険はお守り」などと言う方もいますが、保険で健康は守られません。 では、保険は実際にはどのような場面で役に立つのでしょうか。生命保険には、主に2つの役割があります。   〇経済的損失をカバーできる 生命保険の1つ目の役割は、経済的な損失をカバーすることです。例えば、がんの治療のために、しばらく会社を休職するとしましょう。多くの場合給与の支払いはなくなりますが、その代わり健康保険から傷病手当金が給付されます。金額は給与の3分の2で、最長1年半働けない期間をサポートします。 傷病手当金はありがたい制度ですが、それでも収入は減少します。そのうえで、医療費は高額療養費制度によって自己負担上限額があるとはいえ、一定額までの支払いが発生します。 つまり、病気になっても家族にはできるだけ普段通りの生活をさせてあげたいと思えば、収入の減額と支出の増額における経済的な損失を、保険で合理的にカバーする必要があります。これが保険の役割です。 「年を取ると病気になるリスクが高まりますよね」といって高齢者に保険を勧めるというのも、実は保険の役割から考えると合理的ではありません。なぜなら、年金生活者が病気になっても年金額は減額されませんし、医療費の自己負担割合も低いですから、支出が大幅に増えることもありません。つまり、経済的損失が小さいので、保険の必要性は低いのです。 経済的損失で考えると、子どもが小さい時に家計を支える親が亡くなるリスクはとても大きいと言えます。したがって、生命保険は万が一の時に遺族が安心して暮らせるように、大きな保険金額で契約するのが一般的です。 一方、子どもが成人し経済的に支える必要がなくなった場合、もはや生命保険の役割は終わったと言えるので、生命保険を解約する方も多いです。   〇相続対策に活用できる 生命保険の2つ目の役割は、相続対策です。生命保険を活用すれば、相続税を圧縮することや、指定した人に確実に財産を渡すことができます。 相続税には基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)がありますが、生命保険金については、基礎控除とは別に、一定額が非課税とされています。生命保険金の非課税限度額は、「500万円 × 法定相続人の数」という計算式で求めます。 生命保険金の非課税枠をうまく活用することで、相続税の負担を軽減することができます。以下の具体例で確認してみましょう。 〈相続税のかかる財産が1億円で、法定相続人が3人のケース〉 (※) 分かりやすくするため、数値を単純化しています。 当然ながら、課税対象が5,200万円になるのか、3,700万になるのかの違いは大きく、相続対策として保険は有効であることがご理解いただけると思います。 また、生命保険の保険金は、予め受取人を指定することができますから、被保険者死亡時には、その指定受取人に保険金が支払われます。これは受取人の固有の財産となりますので、スムーズにお金を渡せるというメリットがあります。 *  *  * 保険は身近な金融商品であり、経済的損失をカバーするという機能においては非常に優れた仕組みです。しかし、身近な存在だからこそ、その役割を理解せず、なんでもかんでも保険で対処しようという風潮があるのは否めません。ぜひ正しい知識を身に付け、保険を効果的に活用しましょう。 (了)

#No. 574(掲載号)
#山中 伸枝
2024/06/20

《速報解説》 「グループ監査における特別な考慮事項」の公表に伴い、会計士協会が「監査ツール(実務ガイダンス)」を見直す改正

《速報解説》 「グループ監査における特別な考慮事項」の公表に伴い、 会計士協会が「監査ツール(実務ガイダンス)」を見直す改正   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年6月13日付けで(ホームページ掲載日は2024年6月17日)、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正」を公表した。 これにより、2024年3月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 これは、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日改正)を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 「《3.グループ監査における特別な考慮事項》」について、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」を受けた記載に改正されている。 次の様式についても大きく変更されている。 (了)

#阿部 光成
2024/06/18

《速報解説》 金融庁、「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表~GM課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱いを受けて規定~

《速報解説》 金融庁、「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表 ~GM課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱いを受けて規定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年6月14日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)を受けたものである。 意見募集期間は2024年7月16日までである。   Ⅱ 主な改正内容 財務諸表等規則について次のように改正する(連結財務諸表規則も基本的に同様に改正する)。 財務諸表等規則ガイドライン及び連結財務諸表規則ガイドラインも改正する。   Ⅲ 施行日等 公布の日から施行する予定である(経過措置に注意)。 (了)

#阿部 光成
2024/06/18

《速報解説》 国税庁、令和6年分の予定納税減額申請書に関し、定額減税の追加のみを理由とする申請書の簡易的な記載方法を示す

 《速報解説》 国税庁、令和6年分の予定納税減額申請書に関し、 定額減税の追加のみを理由とする申請書の簡易的な記載方法を示す   Profession Journal 編集部   国税庁は6月11日に「令和6年分所得税及び復興特別所得税の予定納税額の7月(11月)減額申請書」及び「令和6年分所得税の予定納税における定額減税の取扱いについて」を公表した。 予定納税の対象となる事業所得者や不動産所得者等の個人事業主(予定納税基準額15万円以上)は、既報のとおり定額減税によって、令和6年分の予定納税額は、第1期分から本人分の定額減税の控除額(3万円)が差し引かれる。 また、同一生計配偶者や扶養親族1人につき3万円の定額減税の控除額を予定納税額から差し引く場合は、所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続を行う必要がある(令和6年分の合計所得金額の見積額が1,805万円以下の居住者に限る)。 この際、定額減税の追加のみを理由とする減額申請については、簡易的な記載が認められており、今回公表された国税庁リーフレット「令和6年分所得税の予定納税における定額減税の取扱いについて」では、簡易的な記載方法とした減額申請書の記載例が下記のとおり示されている。 (※) 国税庁ホームページ「令和6年分所得税の予定納税における定額減税の取扱いについて」から抜粋 なお、7月の減額申請については、基準日を令和6年6月30日とし、申請書の提出期間は同年7月1日(月)から7月31日(水)まで、11月の減額申請については、基準日を令和6年10月31日とし、申請書の提出期間は同年11月1日(金)から11月15日(金)とされている。 (了)

#Profession Journal 編集部
2024/06/17

《速報解説》 令和6年能登半島地震に係る国税の申告・納付等の延長期限は一部地域を除き、令和6年7月31日

 《速報解説》 令和6年能登半島地震に係る国税の申告・納付等の延長期限は 一部地域を除き、令和6年7月31日   Profession Journal編集部   既報のとおり、国税庁は、令和6年能登半島地震の発生を受け、石川県及び富山県に納税地のある個人・法人を対象とした令和6年1月1日以降に到来する国税の申告・納付等の期限を延長する措置を公表していた。 具体的な延長期限については被災者の状況に十分配慮しつつ検討するとしていたところ、本日付の官報(令和6年6月14日(本紙第1243号))にて次に掲げる地域(指定地域のうち石川県七尾市、輪島市、珠洲市、羽咋郡志賀町、鳳珠郡穴水町及び鳳珠郡能登町を除いた地域)に納税地がある個人・法人については、令和6年7月31日を期限とする旨が告示された。 ただし、令和6年能登半島地震の影響により期日までに申告・納付等ができない場合には、所轄税務署長に申請して承認を受けることにより、引き続き期限延長措置を受けることは可能とされ、また、申告は可能であっても、令和6年能登半島地震により財産に相当な損失を受けた場合や、国税を一時に納付することが困難な場合、所轄税務署長に申請することにより、原則として1年以内の範囲で、納税の猶予を受けることができるとされている。 なお、上記のとおり今回対象とならなかった地域(石川県七尾市、輪島市、珠洲市、羽咋郡志賀町、鳳珠郡穴水町又は鳳珠郡能登町)に納税地がある個人・法人の申告・納付等の延長期限は、今後、被災者の状況にも十分配慮して検討するとしている。 (了)

#Profession Journal 編集部
2024/06/14

プロフェッションジャーナル No.573が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年6月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.573を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2024/06/13

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第132回】「消費税法上の実質行為者課税の原則(その5)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第132回】 「消費税法上の実質行為者課税の原則(その5)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦     Ⅳ 所得課税法における実質課税の原則との径庭(承前) 4 本件判決(承前) これまで見てきたとおり、所得税法や法人税法における実質所得者課税の原則の建付けは、原則を法律的帰属説により捉え、例外的に、信託税制を経済的帰属説によって説明するという構図であった。 これらの法律において、所得税法12条と13条、法人税法11条と12条は、いずれも「第4章 所得の帰属に関する通則」と位置付けられているのである。 そして、所得税法12条及び法人税法11条が法律的帰属説を採用し、所得税法13条及び法人税法12条がその例外として経済的帰属説を採用する関係にあると解されてきた。 これに対して、消費税法はどのような整理であろうか。消費税法13条と14条は何らかの同一の章として括られているわけではないのである。所得税法や法人税法が「所得の帰属に関する通則」と位置付けていたのとは異なる整理といえよう。 このことからも、消費税法13条と同法14条を同じ実質行為者課税の原則と一括りにすること自体に躊躇を覚えるところであり、同法13条が実質的な譲渡等を行う行為者を認定する規定であるのに対して、同法14条は実質的に譲渡等を行う行為者の規定ではなく、単なる「みなし規定」であると整理すべきであるように思われるのである。すなわち、実質行為者の規定としての消費税法13条は自己完結的な規定であるというべきではなかろうか。 そして、そのことは一般的な法律の適用における実質性重視の考え方と幾分も異なるところがないのであるから、法律的帰属説における創設規定説を採用する余地はないというべきであろう。したがって、本件判決は、確認規定説に立ちながらも、消費税法13条の要件を重視する考え方を採用しているとみるべきであると思われるところ、確認規定説においてはダイレクトに文理解釈を重視するべきという結論は当然の事理ではないと思われるのである。   Ⅴ 問屋と相手方との間の法律効果 本件判決は、「問屋と相手方との間の売買契約に係る経済的利益は問屋ではなく委託者に帰属するものであり、XがA場において行っている牛枝肉取引においても、Xがこれにより得る経済的利益はXが委託者(出荷者)から収受する委託手数料(卸売金額の100分の3.5)であって、当該売買契約に係る売買代金のうち、かかる委託手数料や諸費用等を控除した金額(せり売等に係る価格に数量を乗じて得た額の合計額に100分の105を乗じて得た額から委託手数料及び委託者の負担となる費用の額を控除した金額)は、売買仕切金として、Xから委託者(出荷者)に支払われる」とし、「このことからすれば、A場においてXが問屋として行う牛枝肉取引による牛枝肉の譲渡に係る対価を享受するのはXではなく委託者(出荷者)であるといえそうであるが、・・・資産の譲渡等を行った者の実質判定はその法的実質によるべきものであるところ、・・・牛枝肉取引の法的実質として、法律上資産(牛枝肉)の譲渡等を行ったとみられる者すなわち問屋であるXが、単なる名義人にすぎず、当該資産(牛枝肉)の譲渡等を行ったものではないということはできないものと解するのが相当である。」とする。 実質的に名義人であるか否かということが重要なのではなく、Xと委託者のいずれが法律的な意味での経済的利益の享受者かということを明らかにすることが求められるのではなかろうか。 ここでは、経済的利益の享受者を判定するに当たって、法律的に経済的利益を享受する権利を有する者が誰かという点に関心を置く必要があるのではなかろうか。 けだし、経済的帰属説とは経済的利益を享受した人が誰であるのかという現実的な観点から実質的な行為者を観察するのに対して、法律的帰属説とは、経済的利益を享受する権利を有する人が誰であるのかというあるべき姿を模索する観点から実質的な行為者を観察する規定であるからである。 そもそも、消費税法13条は確認的規定であるのであるから、同条が「法律上の名義人」という表現を採用しているからといって、そこにいう「名義人」という概念に縛られる必要などないのではなかろうか。ことさらに「名義人」該当性を論じる意味はなく、実質的に経済的利益を享受する権利を有する者を法律的に眺めればよいはずである。 本件判決が示すとおり、問屋は、問屋自身が権利義務の主体となって、経済的利益を他人に帰属させて物品の販売又は買入を行うことを業とするものであって、当該物品の販売ないし買入という売買契約に係る問屋と相手方との関係(外部関係)は、問屋が当該売買契約の当事者、すなわち権利義務の主体となるものであり、一方、問屋と委託者との関係(内部関係)は、委託関係となる。 そして、問屋と相手方(外部の取引先)との間の売買契約に係る経済的利益は、法的にみれば、問屋ではなく委託者に帰属すると解されるのではなかろうか。 すなわち、別言すれば、法律効果の帰属を考えると、売買契約などの外部関係における法律効果はそのまま委託者に帰属するとする立論もあり得るのではなかろうか。 もっとも、委託者と受託者である問屋との委託契約内容の本旨から離れた行為をした場合の当該法律効果は委託者には及ばないことも事実であるから、本件事案における法律効果が権限踰越等のために委託者に帰属しないものであるという例外的な場合を除けば委託者の譲渡行為とみるべきであったようにも思われるのである。 (了)

#No. 573(掲載号)
#酒井 克彦
2024/06/13

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第27回】「国税通則法第7章の2」-質問検査総説-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第27回】 「国税通則法第7章の2」 -質問検査総説-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   1 第7章の2の条文構成 国税通則法第7章の2は、以下の各規定によって構成されている。以下では条名とその見出しのみを記しておく。   2 第7章の2の沿革と評価 国税通則法第7章の2は平成23年度[11月]税制改正における同法の改正によって創設されたが、その創設は、「昭和36年の国税通則法制定に関する答申では、質問検査権を統一的に同法に盛り込むべきとしたが、質問検査の内容や態様がかなり相違するとして見送られた経緯がある。」(日本弁護士会連合会日弁連税制委員会編『国税通則法コンメンタール 税務調査手続編』(日本法令・2023年)148頁[舘彰男執筆])といわれる、税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)の答申内容の単なる「復活」ではない。 そもそも、税制調査会・前掲答申は、「当調査会において審議の対象としてとりあげた一応の素材的な試案」(3頁)のうち「第7章 記帳義務及び調査(記帳義務、質問、検査、諮問等)」(同頁)を、「われわれが特に重点的に検討することを必要と認めた主な事項」(4頁)の1つである「第五 記帳義務及び質問検査権等」(14頁)の「二 質問、検査及び諮問」(15頁)として、「1 質問、検査及び諮問の対象となる者の範囲」(同頁)、「2 質問、検査及び諮問の権限の行使と税務官署の管轄区域との関係」(同頁)、「3 質問、検査及び諮問の方法等」(16頁)及び「4 特定職業人の守秘義務と税法に基づく質問、検査の権限の行使との関係」(同頁)の4つの事項について答申したが、税制調査会「国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)」(昭和36年7月)は、同答申における検討の「考え方」(80-81頁。下記ⓐ)及び「結論」(82頁。下記ⓑ)について以下のとおり説明していた(下線筆者)。 以上の説明からは、税務職員の質問検査権等の行使ないし規定について、「租税行政上の公平」・「課税の公平」と「納税義務者の負担」・「私生活の平穏」・「国民の基本的権利」との密接な「交錯」関係(場合によっては対立関係にもなり得ることは想定されていたと思われる)が認識されていたことを読み取ることができるが(上記ⓐ第1段落、ⓑ第1段落参照)、質問検査権等の制度の整備については、「これらの権限をどのように定めるかは、国民の納税道徳、税務職員に対する信頼の程度、社会慣習等に依存する。」(上記ⓐ第2段落)あるいは「これらの規定は可能な限り明確でかつ理解しやすいものであることが要請される。」(上記ⓑ第1段落)と述べられていたにとどまり、税法における適正手続の保障すなわち手続的保障原則(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【27】参照)の実現に向けた意識は希薄であったように思われる。 したがって、税制調査会が「現行制度を基本的に維持することが適当である」(前記ⓑ第2段落)とした以上、「[現行制度に関する規定に]かなり不備・不統一が目立つので、特定の税目に特有なものは別として、可能な限り、この制度に関する規定を整備統一して国税通則法に規定することとすべきである」(前記ⓑ第3段落)と説明しても、それは、「専ら、法律体系の整備の観点から考えられたもの」(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)29頁)にすぎなかったが故に、「実際問題として、各税法の規定をみると、果たしてこれを統一的にうまくまとめて規定できるかどうかがはなはだ疑わしいのである。というのは、まず、直接税と間接税とにおいて、前者がいわゆる人税であり、後者はいわゆる物税であることから、質問検査の内容や態様が両者間においてかなり顕著に相違しているものがある。」(同頁)等の状況に鑑みると、「これを国税通則法にまとめる必要性や実益も大してないのではないかということになるわけで、こうした考えから、政府としてはその立案を見合わせることとしたものである。」(同30頁。大蔵省主税局「国税通則法の制定について」税法学132号(1961年)27頁、28頁も参照)という結末に終わったことも、無理からぬことであったといえよう。 このような結末は、国税通則法制定前に各税法に定められていた質問検査に関する規定が基本的にそのまま維持されることになったことを意味するが、そのような法状態を前提にして所得税法の質問検査権規定の合憲性及び解釈について最高裁の判断が示された(最高裁の判断に関する以下の検討については、谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第38回参照)。 まず、川崎民商事件・最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁(以下「昭和47年最大判」という)は次の判示(下線筆者)等により憲法35条等適合性を認めた。 次に、荒川民商事件・最決昭和48年7月10日刑集27巻7号1205頁(以下「昭和48年最決」という)は、昭和47年最大判の上記判示を受けて、次のとおり判示した(以下「判旨A」という。下線筆者)。 その上で、昭和48年最決は所得税法の質問検査権規定に関する解釈を次のとおり示した(以下「判旨B」という。下線筆者)。 昭和48年最決の判示のうち判旨Aは、昭和47年最大判の前記判示を要約したものと解される。この点、最高裁の両判断は、質問検査に関する税務官庁と納税者との法律関係について、「一般的権限と一般的受忍義務という構造」(柴田孝夫「判解」最判解刑事篇(昭和48年度)99頁、103頁)に基づき「いわゆる租税権力関係説的な理解」(同頁)を示した点では、基本的に同じ立場に立つものと解されているところである(同頁参照)。そこでは、質問検査について税務官庁側が「一般的権限」を有し納税者が「一般的受忍義務」を負うという一方的な関係が「租税権力関係」といわれているものと解される。 そこでいう「権力関係」は、勿論、実力行使を伴う直接的物理的強制を要素とする「ナマの権力関係」ではなく、税法が「国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現する」(昭和47年最大判)という立法政策的考慮に基づき間接的心理的強制という法技術を用いて認めた「立法政策的・法技術的な権力関係」にとどまるものと解される。昭和48年最決に関する調査官解説も、「本決定においては、徴税方式自体はいずれかといえば一つの技術であるにとどまるとする見解が採られているということになろうか。」(柴田・前掲「判解」103頁)と述べているところである。 とはいえ、その立法政策的・法技術的な権力関係は、調査妨害犯としての処罰可能性による間接的心理的強制(前記判旨A参照)という形で現れているだけでなく、質問検査に関する税務職員の広範な裁量(前記判旨B参照。以下「調査裁量」という)という形でも現れていると考えられる。税務職員が質問検査の相手方を調査妨害犯により告発することは実際にはほとんどなく、稀に起訴され有罪とされた場合でも罰金額は少額にとどまるのが通例であること(前掲拙著【137】参照)を考えると、むしろ後者の調査裁量こそがそのような権力関係を具現するものといってよかろう。 そこで、税務官庁による調査裁量の行使が恣意にわたることのないよう「調査裁量の法的統制」が学説で議論されてきた(その議論については差し当たり曽和俊文『行政調査の法的統制』(弘文堂・2019年)325頁以下参照)。その際、昭和47年最大判、昭和48年最決及び千葉民商事件・最判昭和58年7月14日訟月30巻1号151頁について次のような評価(金子宏「税務情報の保護とプライバシー」租税法研究22号(1994年)33頁、39-40頁。下線筆者)がされていたことが注目される。 勿論、質問検査の要件、手続等については多数の裁判例が積み重ねられ(例えば所得税の分野における裁判例について詳しくは注解所得税法研究会『注解所得税法〔5訂版〕』(大蔵財務協会・2011年)第21章第2節参照)、また、課税実務においても整備・改善が図られてきた(国税庁編『国税庁五十年史』(大蔵財務協会・2000年)230頁以下、274頁以下、等参照)。 ただ、「調査裁量の法的統制」に対する本格的な立法的対応は、平成23年度[11月]税制改正まで待たなければならなかった。この税制改正に係る「平成23年度税制改正大綱」(平成22年12月16日閣議決定)は、「第2章 各主要課題の平成23年度での取組み」の「(3)税務調査手続」の見出しの下で次のとおり述べた(6頁)。 この大綱に基づく法案の作成及び修正を経て(その間の「攻防」については日弁連税制委員会編・前掲書24頁以下[三木義一執筆]参照)、「[提出前の法案の原案のうち]税務調査手続に係る規定の大部分が残り、従来は運用に委ねられていた手続の根拠規定ができた」(同38頁[同])とされるが、これによる国税通則法の改正については、特に昭和48年最決との関係で次のような肯定的評価(同152頁[舘彰男執筆])がされている。 この評価にみられるように、かつてはその実現に向けた意識が希薄であった手続的保障原則が質問検査手続において重視されることになったことの意義は大きいといえよう。このことは、質問検査手続における「納税者と課税庁との対等性」(三木義一「租税手続法の大改革」自由と正義63巻4号(2012年)35頁、42頁)の形成ひいては租税債務関係説の貫徹(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)845頁[初出・1995年]、898頁注(3)[初出・2020年]参照)に寄与し、昭和48年最決にみられた質問検査手続の「いわゆる租税権力関係説的な理解」(柴田・前掲「判解」103頁)を克服したものといえるのである。次の評価(品川芳宣『国税通則法講義―国税手続・争訟の法理と実務問題を解説―』(日本租税研究協会・2015年)79-80頁)もこのことは認めるのであろう。 また、行政調査手続一般との関係でも、次のような肯定的評価(曽和俊文「税務調査判例の展開と行政調査論」論究ジュリスト3号(2012年)47頁、55頁)がされているところである。 最後に、国税通則法第7章の2に対する総括的評価として次の評価(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)995頁)を挙げておく。 (了)

#No. 573(掲載号)
#谷口 勢津夫
2024/06/13

国際課税レポート 【第3回】「OECD声明と米・伊財務相発言から読み解く利益Aと利益B」

国際課税レポート 【第3回】 「OECD声明と米・伊財務相発言から読み解く利益Aと利益B」   税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員   「第1の柱」多国間条約についてのOECD声明 2024年5月30日、OECD・G20 BEPS包摂的枠組み共同議長であるMarlene Nembhard-Parker氏(ジャマイカ国税庁次長)とTim Power氏(イギリス財務省企業・国際課税担当次長)は連名で声明を発表し、第1の柱を巡る議論の状況については次のように述べた。 昨年(2023年)12月にOECDが発表した新スケジュールで「利益A」(Amount A)の多国間条約の条文の確定は2024年3月末、署名式は6月末までにそれぞれ延期されてから、企業はOECDの動きを注視してきた。 利益Aの対象は売上高200億ユーロ、利益率10%を超える一握りの企業(世界で100~200社)であり、ほとんどの企業にとっては直ちに影響するものではない。しかし、多国間条約が発効しないと、デジタル売上税(DST)が各国で復活・増殖する可能性がある。一方、米国は、DSTは米国企業に差別的な税と主張し、報復関税を課すと警告している。企業が注視せざるを得ない理由は、そうなれば主要国間で貿易戦争になりかねないリスクがあるからだ。 今回の声明は、6月末の期限まで1月を切る中、127の国・地域等から400人が参加して開催された第16回包摂的枠組み総会の議論終了後に出されたものだが、条文の公表に至らず、「6月末の署名を目標に交渉が完了に近づいている」と述べるのにとどまった。ポジティブな言葉は並ぶが、肩透しと言われても仕方のない内容だ。 5月30日には、コーマンOECD事務総長も声明を出し、6月末の合意達成に向けた努力継続をわざわざ歓迎している。6月末の合意達成を期待させる2つの声明をOECDが出したのは、多国間条約の交渉が膠着状態にあることを認めるアメリカとイタリアの財務相の発言を打ち消すことにあった可能性がある。   アメリカ・イタリアの財務相が認めた多国間条約交渉の膠着 5月24日、G7財務省・中央銀行総裁会合のためにイタリア・ストレーザを訪れたアメリカ・イエレン財務長官は、ロイター通信のインタビューに応じ、「インドと中国が多国間条約の合意を妨げている」と述べたことが記事の見出しとされている(※1)。 (※1) ロイター通信「Yellen says India and China hindering 'Pillar 1' tax deal」(2024.5.25) 5月25日、G7終了後の記者会見において、イタリアのジョルジェッティ経済財務相は、利益B(Amount B)が多国間条約の前提条件となっており、インド及び中国の反対があることから、多国間条約を巡る交渉は膠着状態(stalemate in a deadlock)にある。6月末の署名は失敗(failed)するリスクをはらんでいると説明している。 ただし、共同声明ではいつもどおりにG7の政治的コミットメントを再確認している。   「膠着状態」の原因 アメリカ・イタリアの財務相の発言と、前述のOECDの2つの声明のニュアンスには隔たりがある。何が実際には起こっているのだろうか。 ジョルジェッティ経済財務相は記者会見で、利益Bが利益Aの多国間条約合意の前提条件と述べている。名指しは避けられているが、米国財務省によるこの主張がカギのようだ。米国の税専門誌は、米国財務省は、「課税の確実性を提供する強固な利益Bの枠組みを確保することが、米国が利益Aの多国間条約に署名するために満たされるべきレッドライン(譲れない一線)である」と主張していることを伝えている(※2)。 (※2) Tax Notes Federal「Amount B Tax Certainty Is a Red Line for U.S., Bello Says」(2024.1.15) 「利益A」は利益率の高い巨大多国籍企業の高利益率部分に市場国で課税できるようにするためのものであり、全世界で100~200社程度が対象になる。これは多国間条約により施行される。米国議会調査局の推計では、新たに課税対象となる多国籍企業の母国は米国(31社、シェア56%)、中国(13社、16.7%)に集中している。 「利益B」は、有形財の卸売販売業者や販売代理店(製造やデジタル製品は対象外)に関する移転価格ルールを簡素化するためのものである。2024年2月に公表されたOECD「利益Bレポート」は、①産業分類、並びに、②売上高の営業資産に対する比率(OAS)及び③売上高の営業費用に対する比率(OES)といった基準の組み合わせ「移転価格プライシング・マトリクス」で決定される1.5%から5.5%のリターン率(売上高利益率)を示している。利益BレポートはOECD移転価格ガイドラインの一部になっており、各国は任意に採用し2025年から適用できる(ただし、日本の方針は未だ明らかにされていない)。なお、インドは、定性的な基準が含まれていないことのほか、利益Bの設計全般について留保を付している(「利益Bレポート」8頁)。   「利益B」プライシング・マトリクスの損得勘定 関係者の反応は、利益Bのマトリクスが定めるリターン率についての認識(損得勘定)に依存しそうだ。1.5~5.5%という率を比較的低い穏当なものだと考えたとき、資本輸出国の立場からみれば、適用を義務的なものとした方が市場国における課税を抑え込むことができ、進出する自国企業に有利だ。米国財務省はこれを狙っていると言える。他方、対内投資を受ける国の立場からは、自国の地域固有の優位性等に基づいたより高い利益率の適用を主張できる余地を残しておきたいと考えるだろう。 こうした違いは企業レベルでも異なってくる。高利益率を得ている企業はプライシング・マトリクスの強制適用を支持するだろうし、そうでない企業は、より低いリターン率が定められている産業区分や売上高営業資産率等へマトリクス内で移動を試みるだろう。 ロケーション固有の優位性(Location Specific Advantage)や、マーケットプレミアムついては、中国が国連マニュアル等で主張していたことが知られている。利益Bを巡るインドや中国の主張の詳細は伝わってこないが、両国は世界第2位(中国は2010年から)、第5位(インドは2027年には世界第3位の経済大国になると言われている)の経済大国であり、軽視できる存在でないことは明らかである。今後長期間安定した国際課税制度とするためには、溝を埋めるための議論を丹念に行う必要がある。 条約の対象でない利益Bを多国間条約署名の前提条件とする米国財務省の主張は一方的にも思えるし、インドは「定性的基準」をマトリクスに設けることが予測可能性を損ない、企業にとって“不意打ち課税”につながるものでないことを説明するべきである。 〈利益B移転価格プライシング・マトリクスの概要(売上高利益率%)〉 (注) 関連者から有形財を仕入れ、非関連者に卸売販売等する取引が対象。サービス(デジタルサービスを含む)は含まない。 (出所) 「利益Bレポート」Inclusive Framework on BEPS「Pillar One -Amount B」Table 5.1 「Pricing Matrix (return on sales %) derived from the global dataset」を一部改変して筆者作成。   「利益B」プライシング・マトリクスが中小企業にもたらすメリット 企業にとっては、メドが示されていたほうが好ましいことには違いがない。それに合わせて行動できるようになるからだ。利益Bの適用対象は大企業に限定されていない。中小企業にとって、移転価格リスクに対応する上でのコスト削減も重要だ。利益Bのプライシング・マトリクスは、片側検証(TNMM法)が適用できる場合に利用できるとされているが、そもそも企業が移転価格税制リスクから自らを守るため、TNMM法による移転価格を検証するためには、高価なデーターベースを利用するほかはない。これは、財政基盤が弱い中小企業にとっては大きなコスト負担となる。 それに比べ、プライシング・マトリクスが示されたことにより、それを外れないように注意を払うことで移転価格リスクに対応することが可能になる可能性を秘めていそうだ。   6月末の条約署名開始より大切なこと 6月末までに時間は残されており、OECDの声明が実現することを期待したい。仮に署名開始が実現しなかった場合、落胆はある。しかし、失敗とみなすべきでない。6月末を重視して、うわべの合意達成を取り繕うとすればもっと困る。 それでは、現実のリスクとして、6月末までに合意できなかった場合にどう備えるべきか。イタリアの政府当局者はインタビューに応えて、イタリアのデジタルサービス税を維持しながら、報復関税を避けるための交渉を米国と行いたいと述べている(前掲(※1)のロイター通信参照)。 大がかりな多国間合意の例として、わが国は国内に鋭い意見対立があり、署名後わずか1年で米国が離脱するなどしたTPPを、時間をかけてまとめ上げ、発効させた経験をもつ。2つの柱による国際課税改革も大きな改正であり、紆余曲折はやむを得ないと知るべきだ。 真の失敗は、6月末に間に合わないことではなく、それを大きな失敗ととらえ、国際協調主義への意欲が後退してしまうことである。 利益Aの多国間条約の案文を巡り、米国財務省は2023年の10~12月に米国内でパブリック・コメントを行った。グローバル企業として成功しているアマゾンが提出した、国際協調の重要性を支持する次のコメントを紹介して終わりたい。 (了)

#No. 573(掲載号)
#岡 直樹
2024/06/13

マンション評価通達の内容と実務への影響 【第3回】

マンション評価通達の内容と実務への影響 【第3回】 (最終回)   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦     4 マンション評価通達の実務への影響と今後 (1) 評価乖離率の算定時点からの「乖離」 国税庁が示した評価乖離率算定に係る算式が妥当なものであるのかどうかは、残念ながら現状、厳密な検証はできないのであるが(※22)、仮に妥当なものであるとした場合であっても、その算定時点が問題となる。すなわち、当該算式は、平成30年中の日本全国の中古マンション取引から異常値を除去して抽出された2,478件の取引データにより導き出されているのであるが(※23)、以下の表で見る通り平成30年以降の首都圏(中でも都区部)のマンション価格は上昇傾向にあることから、令和6年1月1日以降取得等するマンションに関し、平成30年時点のデータに基づく評価乖離率では、果たして適正な評価ができるのか大いに疑問である。 (※22) 自由度調整済決定係数が0.5864に過ぎない点も、この算式の妥当性に疑問が生じるところである。国税庁「第2回 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」(令和5年6月1日)別添2資料4頁参照。 (※23) 国税庁前掲(※22)資料2頁参照。 〇 首都圏の新築マンションの平均価格の推移 (出典) (株)不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2023年のまとめ」(2024年1月25日)3頁のデータより筆者作成 この点は既に識者により指摘されている事項であるが(※24)、国税庁はパブリックコメント別紙1の5頁で、「足元のマンション市場は、建築資材価格の高騰等による影響を排除しきれない現状にあり、そうした現状において、コロナ禍等より前の時期として平成30年分の売買実例価額に基づき評価方法を定めることとしました。」として、その後のマンション価格の高騰を考慮しない旨を表明している。要するに、その後の高騰の影響は、次回の通達見直しの時期(固定資産税評価の見直しに合わせて3年後となる見込み)において行うということである。 (※24) 例えば、香取稔「マンション通達の概要と留意すべき事項等」月刊「税理」編集局編『新通達でこう変わる!! マンション節税と相続税シミュレーション』(ぎょうせい・令和5年)10頁参照。 (2) 依然として残った相続税プランニングの「余地」 上記(1)から言えることは、相続税・贈与税のプランニングの観点からすると、他の財産との比較においてマンションが引き続き有利な財産であることを意味するということである。そうなると、時価と評価額との差(時価>評価額)を利用した租税回避行為も依然として生じる余地があるが、国税庁の上記「措置(一種の不作為)」により、仮に目に余るような租税回避行為が横行するような場合には、「総則6項」により対処する(※25)ということなのであろうか(※26)。国税庁のこのような対応、すなわち租税回避行為の「温存」を許容するかのような「不作為」が適切なものといえるかどうかについては、残念ながら疑問を禁じ得ない。 (※25) 総則6項は基本通達の規定であることから、個別通達であるマンション通達には適用がないと解する余地もあるかもしれないが、マンション通達の冒頭に「標題のことについては、(中略)『財産評価基本通達(法令解釈通達)』によるほか、下記のとおり定めたから」とあるので、適用があると解するのが妥当かもしれない。いずれにせよ、訴訟になれば裁判所は最高裁令和4年4月19日判決・民集76巻4号411頁と同様に「実質的な租税負担の公平に反する」かどうかを判断することとなるであろう。 (※26) なお、国税庁前掲(※17)情報の別添問9で、本通達の適用がある場合でも総則6項の適用があり得る旨を示している。 国税庁が公表している統計によれば、「総則6項」の適用事案(マンション評価通達発遣前)は年間数件(平成24事務年度~令和3事務年度の期間の実績(計9件)で、一番多い平成29事務年度でも4件)と、多くはない(※27)。また、最高裁令和4年4月19日判決において最高裁が判示している通り、総則6項の存在の有無にかかわらず、相続税や財産評価に関する「目に余るような租税回避行為」が生じているのであれば、公平性の観点からそれを是正すべく課税庁が課税処分を行うことに違法性はないということになるだろう。 (※27) 国税庁「第1回 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」(令和5年1月30日)別添2資料8頁参照。 しかし、せっかく個別通達の発遣により評価額を時価に近づける措置を講じたにもかかわらず、課税庁があえて「穴」を残しておくような行為(不作為)をなすことに対しては、なかなか妥当性を見出しがたいように思われる。 実際のところ、個別通達(マンション評価通達)の発遣により多少相続税・贈与税のプランニングの幅は縮められたものの、例えば以下のような都心部のマンションを利用すれば、依然として相当程度相続税負担を圧縮することが可能である(※28)。 (※28) このような案件に本気で対処しようとしたら、やはり路線価そのものを大幅に引き上げないとお手上げではないだろうか。 〇 都心部のマンションに係る評価額の一例 (注) 評価率1は相続税評価額(個別通達適用前)を市場価格で除した値、評価率2は個別通達評価額を市場価格で除した値を指す。 (3) 相続税プランニングの「余地」に対する実務家の対応 それでは、上記のような相続税プランニングの「余地」が依然として残った状況下において、実務家はどのような対応が求められるのであろうか。常識的に考えれば、次回の見直しが見込まれる約3年後(2027年?)までの間において、発遣後間もない「新しい」個別通達に従って評価した区分所有財産について、総則6項等によりそれをあえて覆すような課税処分を受けるリスクは小さいということになるであろう。 仮に、その期間内に新しい個別通達ではなく総則6項が発動されるケースがあるとすれば、恐らく、個別通達で評価した金額が時価よりも相当程度低いケースに限定されるものと考えられる。この場合の「相当程度低い」とはどの程度を指すのかにつき、それを正確に予測することは非常に困難であるが、あえて私見を示すのであれば、国税庁の以下の資料や最高裁令和4年4月19日判決の事案等を踏まえれば、評価額が時価の概ね0.3(通達が示す評価水準0.6の半分)を下回った水準(評価率ベース)がその目安(※29)となるのではないかと考えられる。 (※29) あくまでも目安で、もちろん、0.3よりも高い(例えば)0.4であれば安心などということは誰にも言えないであろう。 〇 市場価格と相続税評価額との乖離の事例 (注) 上記表中の「乖離率」とは市場価格を相続税評価額で除した割合を、「評価率」とは相続税評価額を市場価格で除した割合(乖離率の逆数)をいう。 (出典) 国税庁「第1回 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」(令和5年1月30日)別添2資料6頁を筆者一部改変 〇 最高裁令和4年4月19日判決の対象不動産 上記から、次回の見直しが見込まれる約3年後までの間において、個別通達に従って評価した区分所有財産について、総則6項等により課税処分を受けるリスクがあるケースは、以下の3要件全てにあてはまるものではないかと考えられる。 このうち②について補足すれば、相続税対策等の目的で区分所有財産を購入した場合、その購入の時期と相続ないし贈与発生の時期とが近ければ(概ね2年以内であろうか)、相続ないし贈与発生時の時価は購入対価の額とそれほど差異はないとの推定が成り立つ。そうなると、その購入対価の額が個別通達による評価額よりも優に高ければ、租税回避事案であり「実質的な租税負担の公平に反する」として課税庁が否認する可能性は高くなるものと想定される。 したがって、個別通達の発遣前からそうではあるが、例えば、被相続人が亡くなる直前にバタバタと相続税対策を開始し、その一環として時価と評価額とが乖離した区分所有財産を取得して相続税額を圧縮することを意図したスキームを実行したようなケースなどは、否認のリスクが高まるということを十分留意すべきであろう。 さらに③についてであるが、本来であれば、納税者が時価とそれよりも相当程度低い相続税評価額との差異を利用したプランニングを行えば、否認すべき租税回避事案であるといえるのであろう。 しかし、納税者の予測(予見)可能性を確保する観点で個別通達が検討され発遣されたという経緯を勘案すれば(※30)、総則6項等により否認するには上記①の要件(単に価格が低い)だけでは不十分で、最高裁令和4年4月19日判決でも言及された借入金による相続税負担の圧縮という追加的な要件がないと課税庁も動きにくいのではないだろうか。 (※30) 自民党・公明党「令和5年度税制改正大綱」(令和4年12月16日)21頁参照。 (4) 評価乖離率が零又は負数となるケース 通達(案)ではなかった項目であるが、パブリックコメントで「評価乖離率が零又は負数となった場合はどうするのか。」という指摘があり、それに応える形で、通達の2及び3において、「ただし、評価乖離率が零又は負数のものについては、評価しない。」という文言が加わっている。それでは、評価乖離率が零又は負数になる場合というのは、具体的にはどのようなケースが該当するのであろうか。 以下の評価乖離率の算式から判断するに、マイナスの値(係数がマイナス)を乗じる「区分所有建物の築年数(マイナス0.033)」及び「区分所有権等に係る敷地持分狭小度(マイナス1.195)」の2項目が注目される。 すなわち、区分所有権等に係る敷地持分狭小度は敷地利用権の面積を専有部分の面積で除した値であることから、築年数が長いマンションや、敷地利用権の面積が広いマンションは評価乖離率が小さくなり、零又は負数となる可能性があるということである。昔建てられたマンションは、近年建てられたマンションと比較すると、建物の総階数も高くなく、敷地にゆとりがあって駐車場や子供の遊び場がしっかり設けられていた物件が珍しくなかったように思われる。そのようなマンションに対して上記算式を当てはめると、評価乖離率が零又は負数となる可能性は十分にあり得るといえよう。 相続税・贈与税に関する裁決事例において争われた物件の中には、正に評価乖離率が零又は負数となるケースとはどういう場合なのかがわかる事案があるので、以下でその物件のデータを示しておきたい(国税不服審判所平成22年10月13日裁決・TAINSコード:J81-4-12)(※31)。 (※31) 笹岡宏保「マンション評価の新通達と総則6項との関係」月刊「税理」編集局編『新通達でこう変わる!! マンション節税と相続税シミュレーション』(ぎょうせい・令和5年)137-145頁参照。 ではこのような場合、どのように評価するのであろうか。このような場合、マンション評価通達は使えないため、従来通りの相続税評価を行うのであろうか(上記裁決事例は相続税評価が妥当としていた)。ケースによっては、総則6項により、鑑定評価を用いる事態も想定されるところである。今後の実務がどのように展開するのか、注目されるところである。   5 まとめ マンション評価通達(個別通達)の発遣により、これまで他の財産と比較して優遇されてきた区分所有財産の評価方法が改められ、市場価格にある程度近づけられるようになった。しかし、マンション通達発遣後も引き続き都市部のタワーマンションやヴィンテージマンションの評価率は低い水準にとどまることが想定され、それはこれからも当該区分所有財産を利用した相続税のプランニングが有効であることを意味する。そうなると、実務家としては、それを利用した相続税のプランニングに対する課税庁による総則6項等を用いた否認が懸念されるところであるが、個別通達が発遣された趣旨を踏まえれば、その適用事案は限定的ではないかと想定される。 それよりもむしろ、タワーマンションやヴィンテージマンションを用いたプランニングに気を取られるあまり、不動産業者等の甘言に乗って不当に高額な不動産の購入を余儀なくされたり、相続人にとって利用しがたい不動産が相続財産に組み込まれるような現象が生じることの方が心配である。相続税対策に取り組む実務家は、相続税の縮減ばかりに目を向けるのではなく、もっと大局的な立場から、被相続人や相続人の「真の利益」とは何であるのかという観点からアドバイスを行うよう心掛けなければならないと考える次第である。 (連載了)

#No. 573(掲載号)
#安部 和彦
2024/06/13
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