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租税争訟レポート 【第66回】「第三者を利用した仮装行為と重加算税(国税不服審判所令和元年10月24日裁決)」

租税争訟レポート 【第66回】 「第三者を利用した仮装行為と重加算税 (国税不服審判所令和元年10月24日裁決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【裁決の概要】   【事案の概要】 本件は、司法書士業を営む審査請求人(以下「請求人」という)の所得税及び消費税等について、原処分庁が総勘定元帳の売上金額の減額による隠蔽・仮装の行為があったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該隠蔽・仮装の行為は税理士事務所職員が行ったものであり、請求人に隠蔽・仮装の行為をした事実はないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。   【国税不服審判所による裁決の概要】 1 争点 2 争点に対する請求人と原処分庁の主張 (1) 本件各修正申告は、本件調査の手続の違法により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点1〕 ① 請求人の主張 税務代理人に対して調査結果の内容の説明を行う場合は、納税者の同意が必要であるにもかかわらず、調査担当職員は、請求人に同意の意思を確認することなく、税理士事務所職員に対して調査結果説明を行っているから、税務調査の手続に瑕疵がある。したがって、請求人による修正申告は、税務調査手続の違法により無効となるため、原処分を取り消すべきである。 ② 原処分庁の主張 調査結果説明を税理士事務所職員に対して行うことについて、調査担当職員が、請求人に同意の意思を確認した事実又は請求人から同意の事実を確認できる書面の提出を受けた事実は認められないものの、調査担当職員は、税理士事務所職員に調査結果説明を行うことを請求人が委任していることを関与税理士に確認した上で、調査結果説明を行ったものである。 また、本件調査には、国税不服審判所が平成27年5月26日裁決において説示する、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反して又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなど重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける事実はない。したがって、たとえ本件調査の手続に瑕疵があったとしても、原処分の効力に影響を及ぼさず、原処分を取り消すべきこととはならない。 (2) 本件各修正申告は、錯誤により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点2〕 ① 請求人の主張 原処分庁は、税務に無知な請求人に対して、通常では考えられないような約2年に及ぶ調査を継続したものであり、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」がないにもかかわらず、原処分庁が修正申告の勧奨を行ったことで、請求人の判断を誤らせ錯誤に陥れたものであり、当該事実は客観的かつ重大であると認められる。 したがって、請求人による修正申告は、錯誤により無効となるため、原処分を取り消すべきである。 ② 原処分庁の主張 請求人の提出した各修正申告書の「氏名」欄の末尾にある印影は、審査請求に係る審査請求書の「氏名」欄の末尾にある印影と同一であり、請求人は自らの意思で各修正申告書を提出したものと認められることからすれば、請求人の行った各修正申告書の提出について、客観的に明白かつ重大な錯誤が存在したとは認められない。また、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったといえるから、請求人が各修正申告書を提出したことについて、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法に定めた方法以外にその是正を許さないならば、請求人の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるとは認められない。 したがって、各修正申告は無効とならないから、原処分を取り消すべきこととはならない。 (3) 請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か〔争点3〕 ① 請求人の主張 請求人は、本件各年分の売上金額について、税理士事務所主任職員に対して、集計違算などがないか見直しを依頼したにもかかわらず、主任職員が単純に平成23年分及び平成24年分の売上高について総勘定元帳から減額したのであり、請求人が意図的に隠蔽し、又は仮装したものではないことから、原処分庁が各年分の減額前の総勘定元帳の記帳内容を検証することなく正確なものと断定し、主任職員が概算で売上金額の減額をしたことをもって、隠蔽又は仮装行為があったとして重加算税を課したことは違法である。 したがって、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとはいえない。 ② 原処分庁の主張 請求人は、税理士事務所主任職員から、各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額の説明を受けた後、主任職員に対し、納付すべき税額が多いので、本件各年分の売上金額を減額するよう指示をし、これに基づき、主任職員は各年分の総勘定元帳の「売上高」勘定から減額した。このことは、平成12年7月3日付課所4-15ほか3課共同「申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて」(事務運営指針)の第1の1の(2)に定める帳簿書類の虚偽記載により仮装を行っている場合に該当し、また、平成12年7月3日付課消2-17ほか5課共同「消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて」(事務運営指針)の第2のⅣの2に定める場合にも該当する。 したがって、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったといえる。 (4) 請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か〔争点4〕 ① 請求人の主張 上記(3)①の主張のとおり、請求人は、各年分の売上金額について、税理士事務所主任職員に対して、集計違算などがないか見直しを依頼したにもかかわらず、主任職員が単純に売上金額を減額したものである。 したがって、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったとはいえない。 ② 原処分庁の主張 上記(3)②の主張のとおり、請求人は、税額を免れる意図をもって、税理士事務所主任職員に指示をし、これに基づき、主任職員が各年分の総勘定元帳の「売上高」勘定に虚偽記載をすることで、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の全部若しくは一部の税額を免れていたものと認められる。 したがって、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったといえる。 3 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、それぞれの争点について、以下のような判断を示した。 (1) 本件各修正申告は、本件調査の手続の違法により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点1〕 国税不服審判所は、修正申告の法令解釈について、修正申告は、税務調査の有無にかかわらず、納税者が自己の意思により行うものであって、調査が要件になっているものではないことから、修正申告が税務調査を受けてなされた場合であっても、調査の手続上の違法があることのみを理由に、その申告が無効になることはなく、当該申告に基づき行われた過少申告加算税の賦課決定処分が取り消されることもないと解すべきであるとの判断を示した。 そのうえで、請求人の主張について、審判所の調査の結果によっても、調査担当職員が税理士事務所職員に対し、調査結果説明を行うことについて、請求人が同意をした事実は認められないものの、請求人は、各修正申告書を提出しているところ、通則法第74条の11第5項に規定する同意がなかったことのみで各修正申告が無効となるものではないから、請求人の主張には理由がないとして、その主張を斥けた。 (2) 本件各修正申告は、錯誤により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点2〕 国税不服審判所は、修正申告等の錯誤無効の主張は、単に納税者が錯誤に基づき申告したにとどまらず、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法に定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限り許されると解するのが相当であるとの判断を示した。 そのうえで、請求人による「原処分庁が、税務に無知な請求人に対して、通常では考えられないような約2年に及ぶ調査を継続」し、また、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」がないにもかかわらず、原処分庁が修正申告の勧奨を行ったことで、請求人の判断を誤らせ錯誤に陥れたという主張に対して、請求人の主張する錯誤は、各修正申告書の記載内容に係るものではないこと、審判所の調査の結果によっても、調査又は調査担当職員による修正申告の勧奨を原因として、請求人が判断を誤って本件各修正申告をした事実は認められないことから、各修正申告に客観的に明白かつ重大な錯誤があったとはいえないとして請求人の主張を斥けた。 (3) 請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か〔争点3〕 国税不服審判所は、重加算税の賦課要件について、制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合を挙げるとともに、その趣旨及び目的に照らせば、納税者以外の第三者が隠蔽仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができる場合には、納税者に対する重加算税の賦課要件を満たすと解釈を示した。 そのうえで、税理士事務所職員及び請求人による答述内容の信用性を検討したうえで、税理士事務所職員が、請求人の指示による売上金額の減額行為が平成14年頃からされており、毎年の注意にもかかわらず、請求人が一向に是正しなかったため、当該行為の責任は請求人にあることを説明してきたという経緯があったという答述内容は、自然かつ合理的であると判断した一方で、請求人が、税理士事務所職員に対し、売上金額や必要経費の額など確定申告に係る全ての金額について、再計算やチェックをしてほしいと頼んだという答述については、曖昧かつ不自然であるうえ、再計算やチェックをした後の申告書や総勘定元帳について、その計算の過程や方法、計算間違いの原因について尋ねることもなく、再発防止に向けたチェックに関する相談もしていないとする点でも答述が不自然かつ不合理であることから、請求人の答述は信用できないという判断を示した。 こうした調査の結果に基づいて、国税不服審判所は、請求人は、過少申告を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき、所得税及び消費税等の過少申告をしたものであって、税理士事務所職員をして隠蔽仮装行為をさせることによって自らの意図を実現したものと認められることから、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められるとして請求人の主張を斥けた。 (4) 請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か〔争点4〕 国税不服審判所は、「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解すべきであり、納税者が真実の課税標準を秘匿し、それが課税の対象となることを回避する意思の下に、課税標準を殊更に過少にした内容虚偽の確定申告書を提出することにより、納付すべき税額を過少にして、本来納付すべき税額との差額を免れようとするような態様の過少申告行為も、単なる不申告にとどまらず、偽りの工作的不正行為ということができ、「偽りその他不正の行為」に該当するものというべきであるとともに、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるというべきであるという法令解釈を示した。 そのうえで、請求人が税理士事務所職員を利用してした過少申告行為は、所得税及び消費税等の真実の課税標準を秘匿し、それらが課税の対象となることを回避する意思の下に、所得税及び消費税等の課税標準を殊更に過少にした内容虚偽の確定申告書を提出することによりなされたものであって、納付すべき税額を過少にして、本来納付すべき税額との差額を免れようとする態様のものと認められるから、通則法第70条第4項第1号にいう「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったと認められるという判断を示して、請求人の主張を斥けた。 (5) 結論 結論として、国税不服審判所は、請求人は、通則法第70条第4項第1号に規定する偽りその他不正の行為により一部の税額を免れるとともに、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為が認められると締め括ったうえで、各賦課決定処分については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において重加算税の額を計算すると、原処分の額と同額となるから、各賦課決定処分はいずれも適法であるとし、このため審査請求は理由がないから、これを棄却するという結論を示した。   【解説】 裁決書によれば、請求人に対する税務調査は平成28年9月15日に開始され、調査担当職員が請求人の税理士事務所職員に調査結果を説明したのは平成30年6月28日、賦課決定処分が7月31日付ということで、実に2年近い時日を要したことになる。なぜ、調査がこれほど長引いたのか、その経緯については、裁決書には説明はない。 本件では、納税者である司法書士が、「税務代理を依頼した税理士の事務所職員が勝手に売上の減額を行った」旨の主張をしていることから、こうした悪意ある主張に、税理士側がどのように対抗するかも含めて検討したい。 1 責任を転嫁する納税者とその対策 請求人は、国税不服審判所による調査に対して、次のように答述している。 一方の税理士事務所職員による答述は、主に次のとおりである。 こうした答述内容に基づいて、国税不服審判所は、請求人の答述内容を否定し、請求人による隠蔽又は仮装を認定して重加算税の賦課決定処分を是認した。 裁決書には、審査請求の争点ではないため指摘はないのだが、結果的には、この税理士事務所の所長である税理士は、税理士法違反(※)に問われかねない事案であったのではないかと思料する。本来であれば、こうした納税者による隠蔽仮装行為の要求に対しては、毅然とした態度で拒否をするべきではないだろうか。 (※) 税理士法第36条(脱税相談等の禁止) また、裁決書には、税理士事務所職員の答述を裏付ける証拠等があったかどうかについては記述がないものの、実務上は、納税者による隠蔽仮装行為の要求に対して、どのように対応したかについての経緯を詳細に記録しておくことにより、税理士自身の責任がないことを立証する必要があることは言うまでもない。税理士事務所としては、担当職員だけが問題を抱え込んでしまわないような体制を整備しておくことも必要であろう。 2 国税不服審判所「裁決要旨検索システム」における裁決要旨 国税不服審判所が公開している「裁決要旨検索システム」では、本件の4つの争点についても要旨が公開されているので、見ておきたい。 (1) 本件各修正申告は、本件調査の手続の違法により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点1〕 修正申告は自己の意思により行うものであるところ、請求人は修正申告書を提出しているから、通則法第74条の11第5項に規定する請求人の同意がなかったことのみで各修正申告が無効となるものではなく、請求人の主張には理由がない。 (2) 本件各修正申告は、錯誤により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点2〕 請求人の主張する錯誤は、各修正申告に係る申告書の記載内容に係るものではなく、また、調査又は調査担当職員による修正申告の勧奨を原因として、請求人が判断を誤って修正申告をした事実も認められず、各修正申告に客観的に明白かつ重大な錯誤があったとはいえないから、請求人の主張には理由がない。 (3) 請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か〔争点3〕 税理士事務所職員がした売上金額を減額する処理は、請求人が前年並みの総所得金額にするため依頼したものであり、かかる減額の記載は減額原因のない虚偽のものであることが認められるから、通則法第68条に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。 (4) 請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か〔争点4〕 税理士事務所職員がした売上金額を減額する処理は、請求人が前年並みの総所得金額にするため依頼したものであり、かかる減額の記載は減額原因のない虚偽のものであり、納付すべき税額を過少にして、納付すべき税額との差額を免れようとする態様のものと認められるから、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他の不正の行為」に該当する事実があったと認められる。   (了)

#No. 514(掲載号)
#米澤 勝
2023/04/06

内部統制報告制度改訂案のポイントを読み解く 【第2回】「新たに示された「内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理」」~“3つのディフェンスライン”から“3線モデル”へ~

内部統制報告制度改訂案のポイントを読み解く 【第2回】 「新たに示された「内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理」」 ~“3つのディフェンスライン"から“3線モデル"へ~   米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   前回に続き、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(公開草案)」で示された、内部統制の基本的枠組みに関する改訂におけるポイントを、本稿では読み解いていく。   Ⅰ 内部統制の基本的な枠組みに係る改訂点 内部統制の基本的な枠組みにおいて示された改訂点のうち、新たに言及された①「内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理」と、サイバーテロの頻繁化によりますます重要になる②「内部統制の基本的要素(情報システムに係るセキュリティの確保)」について分析する。   Ⅱ 内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理 今回の改訂案は、内部統制、ガバナンスや組織全体に関わるリスク管理体制について、それぞれ次のように定義し、相互の関係性について初めて言及した。 内部統制とガバナンスに関する説明は、やや倫理的な戒めのようにも聞こえるが、健全な経営を行う管理体制がガバナンスであり、リスクを見極め、コンプライアンス体制を支える1つの仕組みが内部統制であると考えてよい。なかでも全組織的なリスク管理に関し、リスク回避に要するコストとベネフィットの関係性を踏まえ、経営戦略を構築すべきとする説明は、的確にその本質を捉えている。 さらに、これら「内部統制、ガバナンス及び全組織的なリスク管理に係る体制整備の考え方には、例えば、3線モデルが挙げられる。」とし、体制を一体的に整備、運用する具体的な形態として3線モデル(スリーラインモデル)を挙げた。   Ⅲ 3つのディフェンスラインから3線モデル(スリーラインモデル)へ 「3つのディフェンスライン」と「3線モデル(スリーラインモデル)」の2つの考え方は、いずれも組織内のリスクを適切に管理するための考え方という点で共通するが、お互いに次のような歴史的な経緯を持つ。 1 3つのディフェンスライン リスクを適切に管理するために組織の中を、①日常業務のリスク管理を行う事業部門、②リスクの監視機能を担うリスク管理部門、③独立してリスクの検証機能を持つ内部監査部門、の3つのグループに分ける。そして各々が役割を分担してリスクに対抗する防衛線を築くという考え方を「3つのディフェンスライン」という。この考え方は、長年にわたり多くの組織マネジメントに影響をもたらした。 2019年に内部監査人協会(IIA)は、この考え方を最新の実務や国際的諸課題を反映した内容とするため、公開意見募集を行い、2020年に新たなモデルとして更新されたのが、今回言及された「3線モデル(スリーラインモデル)」である。 2 3線モデル(スリーラインモデル)とは何か 3線モデルは、リスクを単に3つのディフェンスラインによって防衛するという守りのリスクマネジメントから大きく脱皮し、企業目的の達成、価値の創造と保護という積極的で、攻めの目的を掲げている。組織のガバナンスを担う統治機関の下、現場の各ラインの役割を次の3つに分け、上位の統治機関から指示、監督を受けて報告を行うリスク管理と統制活動を行うという構成をとっている。 企業がこのモデルをどのような形で実現させるかは、今後の各社の組織風土や体制に関わるが、内部統制上のリスク管理に関して開示すべき重要な不備が発生し、その解消と再発防止に取り組む場面では、これを下敷きにした制度の改善が求められることが想定できる。なお、3線モデルの詳細については日本内部監査協会(IIA)のホームページで紹介しているため、そちらをご参照いただきたい。   Ⅳ 内部統制の基本的要素(情報システムに係るセキュリティの確保) 内部統制報告制度は、米国を範として構築された仕組みだが、早くから内部統制の基本的要素としてIT(情報技術)への対応を挙げ、その重要性を認識してきた。しかし、コロナ禍によるテレワークの飛躍的な浸透やロシアによるウクライナ侵攻を受けたサイバーテロの脅威といったリスクの劇的な変容までを予測できていたわけでは、決してない。 「大量の情報を扱い、業務が高度に自動化されたシステムに依存している状況では、情報の信頼性が重要である。」との認識の下、誤った判断を避け、「情報の信頼性を確保するためには、情報の処理プロセスにおいてシステムが有効に機能していることが求められる。」と改訂案はつけ加えている。その上で有効性を確保するために、次の留意点を挙げている。 1 IT業務の外部委託 多くの企業が、「情報システムの開発・運用・保守などITに関する業務の全て又は一部を、外部組織に委託するケースもあり、かかるITの委託業務に係る統制の重要性が増している」ため、外部委託された情報の信頼性を確保し、情報の漏洩を防ぐには、具体的に次の統制を用意しておく必要がある。いずれもIT全般統制において整備すべき統制上の要点となり得る。 2 情報システムに係るセキュリティの確保 「さらに、クラウドやリモートアクセス等の様々な技術を活用するに当たっては、サイバーリスクの高まり等を踏まえ、情報システムに係るセキュリティの確保が重要である。」と、改訂案は述べている。コロナ禍で、個人が会社のPCを自宅に保管、あるいは常に持ち歩くというリモートワークが定着し、サイバーテロの被害が増大したため、こうした改訂により情報セキュリティに対する強い懸念を表明したものと解釈できる。全社的な内部統制(IT(情報技術)への対応)及びIT全般統制の中に、次の項目を加えて情報セキュリティを確保したい。 (了)

#No. 514(掲載号)
#打田 昌行
2023/04/06

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第37回】「売り手が気にしたい財務状況のポイント(前編)」~ベンチマークにしたい公開情報~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第37回】 「売り手が気にしたい財務状況のポイント(前編)」 ~ベンチマークにしたい公開情報~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒売り手の財務状況や財務分析の見方を知り、良い売り手探しのヒントに役立てる。 売り手企業 ⇒売り手自身の財務状況の理解を深めて、改善とM&Aに向けたヒントを得る。 支援機関(第三者) ⇒売り手の財務状況のポイントをつかんで、M&Aの助言に役立てる。 その他の対象者 ⇒売り手の財務状況の見方とポイントを知って、実務に役立てる。   1 売り手を客観的に診断する 財務状況が過年度に比べて良いか悪いか、他社と比べて良いか悪いかを知るには、決算書を使った財務分析がよく用いられます。中小企業のM&Aでは、買い手が、売り手の財務分析を行うケースはあまり見られませんが、売り手の財務状況を客観視するには財務分析が効果的であり、売り手自身も、M&Aにあたって自社の状況を把握するのに有益です。 今回は売り手自身を客観的に診断するために有用と思われる公開情報と、その情報で掲載される主要な経営指標を中心にご紹介します。 (1) 比較対象はだれか 「売り手は・・・」というためには、売り手と比較できる相手が必要です。比較対象は数多あると思われますが、本稿では、大きな括りで捉えて「(売り手)と(売り手)」、「(売り手)と(他社)」「(売り手)と(公開情報)」の3つの視点で考えたいと思います。 ① 「(売り手)と(売り手)」 売り手自身を売り手と比較する方法であり、時系列を追う、改善状況を確認する、計画に対する進捗状況を把握するなどに役立ちます。特に経営指標を選びませんが、どちらかというと、P/L(損益計算書)の数値を推移で追う際に適しているといえます。 ② 「(売り手)と(他社)」 M&Aの段階で他社と比較するよりも、日頃から同業他社を意識して経営する中で他社と比較し、各種の経営指標より、足元の経営環境や競争上の優位性を確認するために使用される場合が多いと思われます。中小企業ではB/SよりもP/L関連指標を多く用いる印象です。 ③ 「(売り手)と(公開情報)」 顧問の税理士事務所などからもたらされる統計、調査結果、公開情報などが考えられますが、誰でも入手可能な公開情報は溢れています。売り手の業界内の位置、ポジションを知るうえで参考になり、ベンチマークとして活用できます。 これらのうち、今回は、公開情報にスポットを当ててご紹介します。 (2) 入手可能な公開情報 ① 「法人企業統計年報特集」(財務総合政策研究所) 中小企業のベンチマークとして活用しやすいのは、財務省のシンクタンクである財務総合政策研究所が公表する「財政金融統計月報『法人企業統計年報特集』」です。過去5年間の規模別の主要な経営指標、過去10年間の業種別の主要な経営指標などが掲載されています(以下に掲載する各指標は、いずれも「法人企業統計年報特集(令和3年度)」より)。 〈「規模別主要財務営業比率表」掲載の指標〉 〈「業種別主要財務営業比率表」掲載の指標〉 〈各指標の算式〉 (※) [平成19年度調査以降]付加価値額=営業純益(営業利益-支払利息等)+役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課 ② 「中小企業実態基本調査」(中小企業庁) 概況と統計表などによって構成され、各種統計表はExcelでのダウンロードが可能です。概況は、中小企業の「従業者数」「資産及び負債・純資産」「売上高及び営業費用」「設備投資とリースに関する状況」「事業承継に関する状況」「海外展開と輸出の状況」「研究開発の状況」「受託・委託の状況」「取引金融機関の状況」「経営指標」などから構成され、「法人企業統計年報特集」にはない視点での資料も含まれています。グラフや図示による視覚的な見やすさも相まって、「法人企業統計年報特集」と合わせて活用すれば効果的です。 このほかにも、政府系金融機関の1つである日本政策金融公庫が「小企業の経営指標調査」を公表しています。業種ごとに隔年実施しており、決算データをもとに各種の経営指標を掲載しています。 M&Aを検討するにあたって、自社を優良と思っていたが、各種の公開情報と見比べると、指標によってはウイークポイントがあった、と発見できる場合があります。M&A実務では、譲渡等の対価(価額)や、売り手の決算書の時価情報が優先される傾向があり、実は当事者の多くが経営指標にさほど注目していないかもしれませんが、決算書から把握可能な財務状況は立派な売り手の特徴です。売り手からすれば、少しでもM&Aの交渉を有利に進めるために、分析、評価した経営指標を活用できる余地があるかもしれません。多面的な読み方によって決算内容から自社を分析する機会につながるのを期待します。 次回は、主要な経営指標を活用しながら、売り手目線での分析や見方のポイントをご紹介します。 (了)

#No. 514(掲載号)
#荻窪 輝明
2023/04/06

電子書類の法律実務Q&A 【第7回】「メールで業務指導をする場合の注意点とは」~最新裁判例で読み解くメールでのパワハラ防止策~

電子書類の法律実務Q&A 【第7回】 「メールで業務指導をする場合の注意点とは」 ~最新裁判例で読み解くメールでのパワハラ防止策~   弁護士法人 咲くやこの花法律事務所 弁護士 池内 康裕   〔Q〕 在宅勤務との関係で、業務上の連絡等をメールで行うことが増えてきています。メールで注意指導をする場合、口頭での注意指導と異なり、口調や表情等による細かいニュアンスを伝えるのが難しく、部下とトラブルになることが懸念されます。メールによる業務指導がパワーハラスメントにならないようにするためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。 〔A〕 メールの場合、CC、BCCの機能を使うことにより、第三者に指導の内容を共有することができますが、必要がないのに指導の内容を第三者に共有することで、指導を受けた従業員の名誉感情が害され、トラブルになるケース等が想定されます。 またメールの場合、文字でしか情報を伝えることができません。口頭での指導と比較して、言葉の選択には十分注意する必要があります。裁判等で紛争になるケースの大部分は、感情的で強い言葉を使用した場合です。仮に部下に対して不適切なメールを送ってしまったら、直ちに謝罪し撤回することも重要です。 後輩を含む全員をメールの宛先に入れて、メールで業務報告を行うよう従業員に指示することもあると思います。しかし、後輩に対しても業務報告をするように指示するのは、本人のプライドを傷つけ、トラブルになる可能性があります。報告の必要性については慎重に判断するべきです。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 そもそも「パワーハラスメント」とは 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律の改正より、パワーハラスメント(以下、「パワハラ」という)の定義が明確になった。 具体的には、パワハラとは、以下の①から③の全てを充たす言動である。メールによるパワハラに当たるかどうかについても、基本的には以下の①から③の全てを充たすかどうかを基準に判断される。   2 メールでのパワハラと口頭でのパワハラの違い メールでのパワハラが問題になるケースと、口頭でのパワハラが問題となるケースでは違いがある。 まず、口頭でのパワハラの場合、録音等がない限り客観的な証拠がなく、問題となるような発言があったかどうかが争点となるケースが多い。他方、メールでのパワハラの場合、メール自体が客観的な証拠として残っている。メールの内容自体は、当事者間で争いはないが、メールでの指導が行われた経緯等が主な争点となるケースが多い。 次に、口頭でのパワハラの場合、長時間の指導かどうか、声の大きさ等が問題となることがある。 例えば、東京地判令和元年11月7日の事案は、税理士事務所の部長が、部下に対し、言葉遣い等のビジネスマナーについて、「『コピーしておきました』はカジュアル過ぎるから『コピーしました』と言いなさい、目上の人に対して『了解しました』と言うのは不適切だから『承知しました』と言いなさい、『はい』は1回でよい」などと、部全体に聞こえる程度の大きな声で、繰り返し注意した行為について、パワハラであると判断している。この事案では声の大きさについても、パワハラかどうかの判断に影響を与えている。他方、メールでの注意指導の場合、指導の時間や声の大きさは基本的に問題とならないだろう。 メールの場合、声の大きさは問題とならないが、CC、BCCの機能を使うことにより、第三者に指導の内容を共有することができる。 例えば、必要がないのに、指導の内容を第三者に共有することで、指導を受けた従業員の名誉感情が害され、トラブルになるケースが想定される。厚生労働省の指針でも、「相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。」がパワハラの定型的なケースとされている。 以下では、最新裁判例等に基づき、メールでのパワハラが問題となる典型的なケースを紹介する。   3 指導の内容を職場の他の従業員に一斉送信 指導の内容を職場の他の従業員に一斉送信する行為についても、メールの記載内容や指導内容の共有の必要性等を考慮して、違法と判断されるケースもある。 例えば、東京高判平成17年4月20日は、成績不良の部下に対し、その地位に見合った処理件数に到達するよう叱咤督促する趣旨で「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです。」というメールを指導対象の従業員にだけでなく、職場の他の従業員も宛先に入れてメールを送信した行為について、「人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載」であり、「指導・叱咤激励の表現として許容される限度を逸脱」した違法行為と判断した。 他方、横浜地判令和2年3月24日は、部下の会議運営等について課題と問題点を指摘するために「次回に向けてのアクションについて何も決めずに、シラッと終了させてしまいましたが」、「タダの指摘事項一覧表で驚きました。」というメールを会議参加者約30名に一斉送信した行為について、違法行為に当たらないと判断した。 次回の会議にも出席することが予定される会議参加者に情報共有する必要性は一応あるし、メールの内容も上記東京地判平成16年12月1日と比較して穏当といえる。そのため、違法行為に当たらないという裁判所の結論自体は、納得できるビジネスパーソンが多いのではないだろうか。 ただしこの事案でも、裁判所は、「部下を多数人の面前で叱責することにも類し、部下に対する指導に際しての冷静さや配慮が十分でない」と指摘しているので、上司が送信したメールに何も問題がないと判断しているわけではない。問題はあるが、違法ではないという判断である。 トラブル防止のためには、特定の個人を注意する内容のメールを他の従業員に一斉送信することはできる限り避けた方がよい。業務上他の従業員にも指導内容を共有する必要がある場合でも、個別に注意する場合よりも冷静な文言で、また本人の感情を傷つけないように十分に配慮したメールを送るよう心掛けたい。   4 複数の部下に対する叱責 名古屋地判令和2年12月16日は、支店長が従業員に対して、「いちいちメールしなくても自分達でやれないか?」、「やって当たり前、いつまでも甘えない!」、「ハナクソみたいな前年実績でしたので必達は当然の当然です!」、「出るなら交番修正しろ!やらないなら出てくるな!」、「何やってんだ? 対応しなさい!」、「報告も無い人は必要ですか? 獲得なしで報告が1件の人は何ですかね?」等のメールを送った事案で、複数の従業員にも送信されていたものであり、個人を狙い撃ちにしたものではなく、業務に関して対応を求めるものであると指摘して、パワハラに当たらないと判断している。 この判決では、従業員と支店長との間で周囲からも客観的に認識されるような対立が生じていたわけではないことも指摘されている。そうすると、対立関係にある上司と部下との間でこのような強い調子のメールのやり取りがあった場合、パワハラと判断される可能性が高いといえる。 メールを送る場合、文字でしか情報を伝えることができないのだから、言葉の選択が重要となる。感情的で強い語調にならないように十分に注意が必要だろう。 将来的には、AIを活用した電子メール監査システムが普及し、ハラスメントになり得るようなメールを送信する場合、AIから注意喚起される時代が来るかもしれない。   5 違法な内容の業務指示を記載したメールを部下に一斉送信 例えば、労働基準法上の年次有給休暇の取得を禁止するようなメールを部下にメールで一斉送信する行為については、基本的にパワハラに当たる行為と考えてよい。 なお、東京地判令和4年4月27日は、「有給について以前も共有しましたが、理解されていないようなので、改めて共有指示します。」「■有給は基本売り上げが正常に戻らない限り認められません。」という電子メールをメーリングリスト宛てに送信した事案で、数日後に撤回して謝罪していることを理由に、パワハラに当たらないと判断している。 このケースでは、部下の有給取得が妨害されていないことを理由にパワハラに当たらないと判断している。 ただし、上記の事案で、裁判所は、このような内容のメールを送ったこと自体は「猛省してしかるべき」として上司の指示を批判している。これは限界的な事例であり、筆者個人としては違法と判断すべきケースのように思う。 このような違法な内容のメールを送信しないことは当然であるが、問題があると気付いたら直ちに謝罪し撤回することも重要である。   6 後輩を含む全員をメールの宛先に入れて業務報告を行うよう命じる メールそのものによるハラスメントではないが、メールでの業務報告を職場の他の従業員に一斉送信するように指示することに問題はないのだろうか。 東京地判令和4年8月22日は、業務報告を後輩を含む職場全員宛てにメールで送信して報告するよう従業員に指示した事案で、後輩に対して報告することで名誉感情が害される面があったとしても、このことのみで違法とは言えないと判断した。 このケースでは、業務報告を指示された従業員は、担当業務の進捗を報告しないことが多かった。そして当該従業員が担当していた業務が他の従業員が担当する複数の業務に関連するものなので、業務報告を共有する必要性が認められたのである。 業務報告を職場全員宛てにメールで送信するというルールが職場全体に適用されるようなケースも、特定個人を狙い撃ちにしたものではないので、違法とは判断されないだろう。 他方、比較的経験を積んだ従業員に対して、業務上の必要もないのに、新入社員が行う業務報告と同様の報告を職場全員宛てにメールで送信することを求めるような場合は、名誉毀損を意図したものとして、違法と判断される可能性がある。   (了)

#No. 514(掲載号)
#池内 康裕
2023/04/06

空き家をめぐる法律問題 【事例49】「借地上の建物所有者が行方不明の場合に賃貸人がとり得る対応」

空き家をめぐる法律問題 【事例49】 「借地上の建物所有者が行方不明の場合に賃貸人がとり得る対応」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - Aは、Bから賃借した土地上に老朽化した建物を所有して居住していましたが、行方不明となっています。Bは、敷金額を超える未払賃料を回収するとともに、賃貸借契約を終了することや借地権を第三者に譲り受けさせることも検討しています。また、Aは、Cから借入れをしており、Cは貸付金の回収をしたいと考えています。このような場合に、BやCは、どのような請求等を行うべきでしょうか。   1 はじめに 借地上の建物の所有者が行方不明となった場合、土地の賃貸人は、賃料請求、賃貸借契約の解除、底地上の建物の取扱いについて検討することになる。もっとも、賃貸借契約終了による建物収去土地明渡請求や未払賃料請求に係る訴訟は、権利の有無を確定するに留まり、実効性のある解決を図るための方法としては必ずしも適当ではない。そこで、事例のような場合に、賃貸人がとり得る手段を検討することにしたい。   2 所有者不明建物管理人を利用した方法 (1) 所有者不明建物管理人の選任申立て 上記のとおり、賃借人が行方不明の場合でも、賃貸人は、公示送達を利用することによって、賃借人に対して、未払賃料の支払請求や賃貸借契約の解除を理由に建物収去土地明渡請求に係る訴訟を提起できる。もっとも、請求認容の判決を得ても権利の実現のためには強制執行の手続を要することになり、この間も建物の管理が行われない状態は続くことになる。 また、建物の収去を求める以外に、賃貸人が建物を取得することや、借地権を建物とともに第三者に譲り受けさせることも想定しているような場合には、訴訟による解決は適当ではない。そこで、賃貸人は、利害関係人として、所有者不明建物管理人(民法第264条の8第1項、以下、特に断りのない限り「管理人」という)の選任を申し立て、管理人に当該建物を管理させながら、管理人との間で賃貸借契約や建物の取扱いを協議することが考えられる。 (2) 建物の取壊しの可否 管理人は、保存行為又は管理不全建物の性質を変えない範囲内の利用又は改良を目的とする行為は単独で行うことができるが、建物の譲渡のように、これらを超える行為をする場合は裁判所の許可が必要となる(民法第264条の8第5項、同法第264条の3第2項)。 もっとも、所有者不明建物管理制度は、建物の適正管理を目的とするものであるから、建物の取壊しは基本的には認められず、建物の適切な管理を継続することが困難であり、建物の取壊しが必要かつ相当であることが認められる場合には、裁判所の許可を条件に取り壊すことも認められる。 なお、管理人の職務として、建物の取壊しも想定される場合には、建物を譲渡する場合と異なり、対価を得られないため、申立人は建物の取壊費用を予納金として納付することを求められる可能性があるので留意が必要である。 ところで、令和5年3月現在(本稿執筆時点)、空家等対策の推進に関する特別措置法の改正法案が審議されているところ、改正法案が成立すれば、同法が規定する特定空家等の程度に至らない管理不全空家も、同法第14条第2項に基づく勧告の対象とすることが可能となる。そのため、改正法の施行後は、固定資産税の住宅用地の特例の適用を受けられない場合が従来よりも多くなることが想定される。 土地の賃貸人として、建物取壊しまで求めるかを判断するにあたって、建物の状態等や建物の売却可能性の有無の他に、このような法改正の動向も考慮要素の1つになっていくように思われる。 (3) 所在不明者の債務の取扱い 管理人の権限は、当該建物の管理に係るものであるため、所在不明者の債務の弁済を行う権限までは含まれていない。そのため、所在不明者の債権者が債権回収を図る場合には、所在不明者に対して訴訟提起をするなどの対応が必要となる(この場合、裁判所によって、不在者財産管理人等の選任を求められる可能性もある)。 しかしながら、管理人が当該建物を管理するために賃料債務を支払うことが必要である場合には、例外的に賃料債務を弁済することも、管理人の職務権限に含まれると解される。例えば、借地権付の建物を第三者に譲渡するような場合等は、借地権を存続させる必要があるため、管理行為として賃料を支払うことが考えられる。この場合、建物を第三者に譲渡するために裁判所に許可申請をする際に、代金の取扱いについても許可を一括して取得することになるため、賃料を実際に支払う前に改めて裁判所の許可を得る必要はない。 また、賃料債務の支払は、管理費の支出になるため、所在不明者の所有する財産(当該建物に限定されない)から支出されることになる。例えば、建物を譲渡するような場合には、譲渡代金から賃貸人に対して賃料相当額を支払うことが想定される。   3 不在者財産管理人との比較 (1) 選択の基準 所有者不明建物管理人を選任できる事情があるような場合、不在者財産管理人の選任の申立ても可能であると考えられる。いずれの管理制度を利用するかは申立人の自由であるが、所在不明者の財産状況を把握しているかどうか、当該建物の管理のみを目的とするか、予納金の要否やその金額の多寡、失踪宣告の利用の可否、相続人の有無等の事情を考慮しながら選択することになると思われる。 (2) 管理人の相互関係 不在者財産管理人が選任された後に、所有者不明建物管理人の選任申立てが行われた場合、既に不在者の財産全般を管理する不在者財産管理人が存在するため、所有者不明建物管理人を選任する必要はなく、申立ては却下されることになる。 一方で、所有者不明建物管理人が選任された後に、不在者財産管理人の選任申立てが行われる場合、両管理人が併存することになる。この場合、当該建物の管理権限は所有者不明建物管理人に専属するため(民法第264条の8第5項、同法第264条の2第1項)、管理権限の及ぶ範囲について不在者財産管理人は職務権限を行使することはできない。 もっとも、不在者財産管理人の職務権限は、不在者の財産全般に及ぶため、不在者財産管理人は、利害関係人として、所有者不明建物管理人によって財産の管理を継続することが相当でなくなったことを理由に、所有者不明建物管理命令の取消しを求めることになると想定される(非訟事件手続法第90条第10項)。   4 本件について Bは、建物の収去の他に、借地上の建物を自ら取得することや、借地権を建物とともに第三者に取得させることを想定しているのであれば、所有者不明土地管理人の選任を申し立てることが考えられる。自ら建物を取得する場合は、敷金から未払賃料を控除し、不足が生じる分と代金相当額とを相殺をすればよいことになる。後者の場合は、管理人が第三者に借地権付建物を譲渡したことによって得た代金から敷金で不足する賃料相当額の支払を受けることになる。 一方、Cは、Aに対して貸金返還請求訴訟を提起し、Aの責任財産から債権を回収することが簡便であろう。もっとも、Aが行方不明であることから、不在者財産管理人の選任を求められる可能性がある。なお、両管理人の併存関係については、上記3の(2)のように処理されることになる。 (了)

#No. 514(掲載号)
#羽柴 研吾
2023/04/06

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第67話】「先物取引の課税」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第67話】 「先物取引の課税」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   浅田調査官は、机の上に積まれている確定申告書を1つ1つ手に取って、申告書の内容を確認している。 「へ~こんな申告があったのか・・・」 浅田調査官は、確定申告書を広げて、その中にある「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」を見て、驚いている。 その明細書には、所得の区分として、「事業所得用」「譲渡所得用」そして「雑所得用」があり、同申告書では「雑所得用」に、「〇」が付けられている。 計算明細書に記載されている内容は以上で、極めて単純である。 そこに、中尾統括官がニヤニヤしながら、浅田調査官の前に現れる。 「何を真剣に見ているの?」 中尾統括官は、浅田調査官が持っている申告書を覗きながら、尋ねる。 「こんな申告書を見たことありますか?」 中尾統括官は、渡された申告書をじっと見る。 「・・・これは・・・平成15年度の税制改正で、それまであった『商品先物取引に係る雑所得等の課税の特例』の適用期限を撤廃し、そして、適用対象の範囲を拡大(有価証券先物取引等の差金等決済をした場合を適用対象とする)するとともに、税率も20%から15%に引き下げ、『先物取引に係る雑所得等の課税の特例』(措法41の14)に改められたものだ・・・」 中尾統括官は、申告書を見ながら説明する。 「・・・この特例は、何故、設けられたのですか?」 浅田調査官は、再び尋ねる。 「・・・この特例は・・・個人投資家の資産運用の場の選択にあたり、税負担の公平・中立性を確保することで、公平な価格形成及び価格変動のリスクヘッジの場としての機能を十分に発揮できる流動性に富んだ先物市場を形成することが必要であるという観点から設けられたと聞いている・・・」 中尾統括官は、特例の趣旨を伝える。 「・・・先物取引に係る雑所得等の課税の特例は、所得税の税率が15%で、これは流動性に富んだ先物市場を形成することが必要だという理由なのですが・・・それにしても税負担が軽いと思うのですが・・・」 浅田調査官は、不満そうに言う。 「・・・この私が見ている確定申告書も、家庭の主婦が先物取引を行って、差金等決済に係る利益18,561,202円を得ているものです・・・FX取引が総合課税の雑所得になるのですから、差金等決済に係る利益も、申告分離課税にしなくてもいいと思います・・・」 中尾統括官は、傍らにある「令和2年度税制改正の手引き」を手に取る。 「・・・確か、令和2年度の税制改正では、暗号資産に係るデリバティブ取引の差金等決済に係る雑所得等を申告分離課税から除外するということになったと思うが・・・」 中尾統括官は、手引きを捲りながら、確認する。 同手引きでは、暗号資産を用いたデリバティブ取引の税制上の取扱いについて、次のように述べている。 中尾統括官は、説明を続ける。 「・・・なお、暗号資産デリバティブとは、暗号資産を原資産として、暗号資産の価格や利率、これらに基づいて算出した指標(暗号資産関連金融指標)に基づきデリバティブ(金融派生商品)取引を行うことをいい、そして、デリバティブ取引とは、①先物取引、②オプション取引、そして③スワップ取引の3つの取引をいう・・・そして、暗号資産デリバティブに係る雑所得等は、次の2つの特例から除外されることになった」 中尾統括官は、そう言うと、2つの条文を机の上にある罫紙に書く。 浅田調査官は、罫紙を見ながら、頷く。 「・・・ところで、先物取引の所得区分なのですが・・・事業所得、譲渡所得そして雑所得にわざわざ区分する必要があるのでしょうか?」 浅田調査官は、素朴な質問をする。 「・・・先物取引による雑所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるとき、所得税法その他所得税に関する法令の規定の適用については、その損失の金額は生じなかったものとみなされ、その損失の金額は、先物取引による事業所得、譲渡所得又は雑所得以外との損益通算は認められないこととされています・・・そうすると、逆に、先物取引による事業所得、譲渡所得又は雑所得は、お互いに損益通算できるわけですから、わざわざ3つに所得を区分しなくてもいいように思えるのです・・・」 中尾統括官は、顎を撫でながら、聞いている。 「・・・確かに・・・先物取引について、損益通算を考えると、所得を3つに区分する実益はあまりないように思える・・・しかし、この3つの所得の金額の計算式は、次のようになっており、異なっている・・・」 「そして、譲渡所得の総収入金額については、他の所得と異なり、金融商品取引法2条1項19号に掲げる有価証券の譲渡による収入金額及びその他の収入の別(措規19の8①二イ)となっている・・・そうすると、所得金額の計算上、3つの所得区分は必要なのかも知れない」 中尾統括官は、苦笑いをしながら、答える。 (つづく)

#No. 514(掲載号)
#八ッ尾 順一
2023/04/06

《速報解説》 KAMの適用3年目に当たっての留意事項をまとめた周知文書をJICPAが公表~ボイラープレート化の防止、KAMの有用性向上の観点から言及~

《速報解説》 KAMの適用3年目に当たっての留意事項をまとめた周知文書をJICPAが公表 ~ボイラープレート化の防止、KAMの有用性向上の観点から言及~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年4月3日、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書701周知文書第2号「監査上の主要な検討事項(KAM)の適用3年目に関する周知文書」」を公表した。 これは、KAMの適用3年目の期末監査を迎えるに当たって、ボイラープレート化の防止、KAMの有用性向上という観点からの留意事項などを取りまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 ボイラープレート化の防止 次のことに留意する。 2 KAMの有用性向上 次のことに留意する。 3 参考情報 KAMについての分析結果や好事例を示す資料の名称が紹介されている。 (了)

#阿部 光成
2023/04/04

《速報解説》 国税庁、租税条約における「利得の分配に係る事業年度の終了の日」の取扱いについて公表~東京高裁判決を踏まえ、従来の取扱いを変更~

《速報解説》 国税庁、租税条約における「利得の分配に係る事業年度の終了の日」の取扱いについて公表 ~東京高裁判決を踏まえ、従来の取扱いを変更~   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   本稿では、令和5年3月30日に国税庁HP「お知らせ」において公表した「租税条約における『利得の分配に係る事業年度の終了の日』の取扱いについて」の解説を行う。 この「お知らせ」は、東京高裁令和5年2月16日判決において、日ルクセンブルク租税条約の保有期間要件における「利得の分配に係る事業年度の終了の日」の解釈について、「利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期」とする旨判示されたことを契機とするものである。   〔裁判例:東京地裁令和4年2月17日判決、東京高裁令和5年2月16日判決〕 本事案では、日ルクセンブルク租税条約の保有期間要件の「利得の分配に係る事業年度の終了の日」の解釈について問題となり、納税者側がみなし配当の場合、「利得の分配に係る事業年度の終了の日」は「事業年度の終了の日」であると主張し、課税庁側が「利得の分配に係る事業年度の終了の日」は「配当の受領者が特定される時点(分割型分割の前日)」と主張していた。 【日ルクセンブルク租税条約10条2項】(下線筆者) 第一審判決である東京地裁令和4年2月17日判決では、「本件文言は、日本の法令における当該用語の意義(ウィーン条約31条1項にいう『文脈』)としては、『利得の分配に係る会計期間の終了の日』を意味するものであり、その趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味としては、『利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期』を意味するものであるところ、前者と後者とは実質的に同義であるということができる。そうすると、本件文言の解釈については、正文に基づき検討した後者の表現に従い、『利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期』と解するのが相当である。」と判示した上で、「本件規定(a)は、配当受領法人が、利得の分配(配当)が行われる会計期間(事業年度)の終期に先立つ6か月の期間を通じて、配当支払法人の議決権のある株式の25%以上を所有することを要件とするものである。」として、納税者の請求を認容した。 控訴審判決である東京高裁令和5年2月16日判決でも、第一審の東京地裁判決は相当であるとし、国の控訴が棄却された。   〔「お知らせ」の内容〕 従来、みなし配当のうちみなし事業年度がないものについては、分割型分割を事由としたみなし配当の場合には「分割型分割の日の前日」を、自己株式の取得を事由としたみなし配当の場合には「自己株式を取得した日の前日」を「利得の分配に係る事業年度の終了の日」として保有期間要件を判定していたのを、今後は、裁判例に従い、分割型分割を事由としたみなし配当の場合には「分割型分割の日の属する事業年度の終了の日」を、自己株式の取得を事由としたみなし配当の場合には「自己株式を取得した日の属する事業年度の終了の日」を「利得の分配に係る事業年度の終了の日」として保有期間要件を判定することとされた。 この「お知らせ」によると、過去に遡って上記取扱いを適用し、租税条約の保有期間要件を再判定した結果、源泉徴収税額が過大となる場合には、還付請求を行うことができることとしている。 なお、みなし配当のうちみなし事業年度がないもの以外の配当の保有期間要件の判定については、従来の取扱いに変更はないという点と、納付があった日から5年を経過している源泉徴収税額は還付されないという点には留意されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#川瀬 裕太
2023/04/04

《速報解説》 公益社団法人リース事業協会が、インボイス制度におけるリース料に係る消費税の仕入税額控除の取扱いを示した電子パンフレットを公表

《速報解説》 公益社団法人リース事業協会が、インボイス制度におけるリース料に係る消費税の仕入税額控除の取扱いを示した電子パンフレットを公表   税理士 石川 幸恵   公益社団法人リース事業協会は、令和5年3月22日、同法人のホームページで「リース取引のインボイス(2023年3月)」という電子パンフレットを公表した。 令和5年10月1日よりインボイス制度が導入されるが、このパンフレットではリース料に係る消費税の仕入税額控除について、インボイス制度での取扱いを示している。 インボイス制度導入前に開始しているリースに関する取扱いについても、リースの種別(ファイナンス・リース、オペレーティング・リース)ごとにインボイスの保存の要否が整理されているので、リースの既契約に関する準備として参考にされたい。なお、整理の概要は次のとおりである。 ◎令和5年10月1日までに開始したリースに関するインボイスの取扱い (※) リース会社がリース譲渡につき延払基準(所法65①、法法63①)の方法により経理することとし、消費税申告においても資産の譲渡等の時期を延払基準(消法16)に拠ったときは、令和5年10月1日以降に支払いを受けるリース料について、インボイスの交付が免除されている(改正法附則50②)。このため、リースのユーザーは、令和5年10月1日以降のリース料についてインボイスの交付を求めても、受けられないものと考えられる。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#石川 幸恵
2023/04/03

《速報解説》 ASBJ、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」を公表~グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計につき特例的な取扱いを一律に適用~

《速報解説》 ASBJ、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」を公表 ~グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計につき特例的な取扱いを一律に適用~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年3月31日、企業会計基準委員会は、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(実務対応報告第44号)を公表した。これにより、2023年2月8日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税が創設され、当該税制を含む「所得税法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第3号)が2023年3月28日に成立している。 しかしながら、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用することについては、実務上困難であるとの意見があることから、必要と考えられる特例的な取扱いを示すものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 範囲 「税効果会計に係る会計基準」が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表に適用する(2項)。 実務対応報告を適用する範囲については税効果会計基準が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することとし、グローバル・ミニマム課税制度の適用が見込まれるか否かについての判断を企業に求めない(8項)。 2 会計処理 企業会計基準委員会が実務対応報告の適用を終了するまでの間、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期連結決算及び四半期決算を含む)における税効果会計の適用にあたっては、「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号)の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととする(3項)。 グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計については、「税効果会計に係る会計基準の適用指針」の定めにかかわらず、特例的な取扱いを一律に適用する(14項)。 「税効果会計に係る会計基準の適用指針」44項では、「繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法(以下、法人税等の納付税額の計算方法が規定されている我が国の法律を総称して『税法』という。)に規定されている方法に基づき第8項に定める将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算する。なお、決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいう。」としている。 3 国際会計基準審議会(IASB)の公開草案との比較 国際会計基準審議会(IASB)の公開草案「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正案)」(2023年1月公表)では、経済協力開発機構(OECD)が公表した第2の柱モデルルールの適用から生じる繰延税金資産及び繰延税金負債の会計処理に関して、国際会計基準(IAS)第12号「法人所得税」の要求事項からの一時的な例外を設け、一定の事項の開示を提案している。 しかしながら、実務対応報告は主として2023年3月期決算に向けた短期的な対応をその目的としていることから、開示については求めない(7項、16項)。   Ⅲ 適用時期等 実務対応報告は、公表日(2023年3月31日)以後適用する。 (了)

#阿部 光成
2023/04/03
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