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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第26回】「合法性の原則の内在的制約」-スコッチライト事件・大阪高判昭和44年9月30日判時606号19頁の新たな読み方-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第26回】 「合法性の原則の内在的制約」 -スコッチライト事件・大阪高判昭和44年9月30日判時606号19頁の新たな読み方-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 本連載は、基本的には、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)で参照している判例の中から、同書における叙述の順に従って判例を取り上げ検討してきたが(第1回1参照)、今回と次回で同書第1編(税法の基礎理論)の参照判例の検討は一先ず終えることにする。その前に今回と次回は、合法性の原則の制約について、租税平等主義と信義則に関する判例を取り上げることにする。 今回は、古い裁判例ではあるが、スコッチライト事件・大阪高判昭和44年9月30日判時606号19頁(以下「本判決」という)を取り上げ、租税平等主義との関係で合法性の原則の制約を検討しながら、本判決の「新たな読み方」を提示することにしたい。まず、その検討に関連する本判決の判示を以下に引用しておこう(下線・傍点筆者)。   Ⅱ 伝統的・通説的な読み方-対立思考と合法性の原則の外在的制約- 本判決は、当初から、税法の執行の場面における租税法律主義(税法における法律による行政の原理すなわち合法性の原則)と租税平等主義ないし租税公平主義との対立ないし抵触の問題を後者の優先により解決した判決として、理解されてきたように思われる。本判決に関する評釈は多くはないが最初のものと思われる判例評釈では次の理解が示されていた(吉良実「判批」シュトイエル94号(1970年)9頁、15-16頁。下線筆者。なお、吉良教授は本判決の結論に反対の立場である)。 本判決に関する評釈は、その結論に賛成か反対かはともかく(賛成の立場に立つものとして大林正平「判批」愛知大学法経論集法律篇84号(1977年)107頁、119頁、反対の立場に立つものとして吉良・前掲「判批」16頁、市原昌三郎ほか編『ワークブック行政法』(有斐閣・1976年)8頁[市原執筆]参照)、本判決が解決すべき問題を税法の執行における租税法律主義と租税平等主義との対立として捉えている点では、共通していたように思われる(以下ではそのような問題の捉え方を「対立思考」という)。 対立思考に基づき本判決を理解しようとする見解は、今日でも、税法及び行政法の学説にも広くみられるところである。例えば、清永敬次教授は「税法の執行上の原則としての租税平等主義」について、次のとおり述べて(同『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)33-34頁。下線筆者)、その第2文及び第3文で財産評価を取り上げ対立思考に基づく解説をし、その第4文及び第5文で、本判決を念頭に置いたものと解される解説をしておられる(その文末に【重要判例】として本判決を掲載しておられる。金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)96-97頁も参照)。 行政法の分野でも、例えば、宇賀克也教授は、「行政法の一般原則」の1つとして「平等原則」を説明する旨を述べ(同『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣・2020年)49頁、65頁参照)、その上で、対立思考に基づき「法律による行政の原理と平等原則とが抵触する場合にいずれを優先させるかは困難な問題である」(同65頁)と述べつつも、本判決が「租税平等原則が租税法律主義に優先する場合があることを明言した」(同67頁)との理解を示しておられる(同「判批」租税判例百選〔第3版・1992年〕18頁、19頁~同〔第6版・2016年〕21頁、22頁も同旨。同様の理解を示すものとして大橋洋一『行政法Ⅰ 現代行政過程論〔第4版〕』(有斐閣・2019年)50-51頁等のほか、巽智彦「判批」租税判例百選〔第7版・2021年〕21頁、22頁も参照)。 以上でみたように、対立思考は、税法の執行上の原則としての租税平等主義を租税法律主義の外部にある要請として捉え、この外在的要請による租税法律主義の制約によって両者の対立を解消しようとするものであることから、その制約は租税法律主義の妥当範囲について外在的制約を構成するといってよかろう(以下「合法性の原則の外在的制約」という)。   Ⅲ 新たな読み方-調和思考と合法性の原則の内在的制約- ところで、対立思考に基づき本判決を合法性の原則の外在的制約を認めた裁判例として理解してきた伝統的・通説的な読み方に対して、近時、本判決を租税法律主義(合法性の原則)と租税平等主義・租税公平主義とのいわば「調和」の中で理解しようとする新たな読み方が登場してきた。そのような理解の仕方を「調和思考」と呼ぶとすれば、それには以下のとおり「合法性の原則『出自』見直し説」と「『合法課税』適用違憲説」ともいうべき2通りの考え方があるように思われる。 1 合法性の原則「出自」見直し説 まず、筆者が「合法性の原則『出自』見直し説」と呼ぶ考え方を説かれるのは、佐藤英明教授である。佐藤教授は本判決について次の理解を示しておられる(同「租税法律主義と租税公平主義」金子宏編『租税法の基本問題』(有斐閣・2007年)55頁、63-64頁。下線筆者。同『スタンダード所得税法〔第3版〕』(弘文堂・2022年)491頁も参照)。なお、佐藤教授の見解を肯定的に捉えるものとして巽・前掲「判批」22頁、中里実ほか編『租税法概説〔第4版〕』(有斐閣・2021年)23-24頁[藤谷武史執筆]参照)。 佐藤教授は、本判決に関する上記の理解から、「裁判例において合法性の原則が租税法律主義と租税公平主義とを結ぶものとして重視されていることをどのように評価すべきか」(同・前掲論文64頁)という問題を検討課題として導き出された上で、合法性の原則の位置づけに関する検討結果として次のとおり述べておられる(同・前掲論文69頁。下線筆者)。 佐藤教授は、このように、実質的な面での合法性の原則の「出自」を租税公平主義に認め、その「出自」をもって租税法律主義と租税公平主義とを結びつけ(筆者の表現によれば「調和」させ)、さらには「合法性の原則を租税法律主義の内容から除外し」(同・前掲論文69頁)た上で、そのような調和思考に基づき本判決の理解を試みておられるものと解される。 佐藤教授のこのような考え方は、確かに、論理的には十分成り立ち得るものである。しかし、わが国における租税法律主義が明治憲法下で法律による行政の原理とりわけ侵害留保原理として出発し、佐藤教授が租税法律主義の「中核」に据えておられる課税要件法定主義(同・前掲論文64頁参照)は、現行憲法下で財政民主主義(83条)を具体化するものとして租税法律主義の内容に追加されたもの(租税法律主義の民主主義的再構成)であるという沿革からすると、歴史的には成り立たないように思われる(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)45-46頁[初出・2020年]のほか8-14頁[同]参照)。 そうすると、佐藤教授は上記のような沿革から離れて合法性の原則の「出自」を見直されたものと解されるが(このような理解に基づき筆者は佐藤教授の考え方を「合法性の原則『出自』見直し説」と呼ぶのである)、その見直しの際援用された「この説明」(前記引用文)は、金子宏教授による下記の説明(同ほか編『租税法講座―第1巻 租税法基礎理論―』(帝国地方行政学会・1974年)231頁[同『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣・2010年)61-62頁収録]。下線筆者)である。 金子教授はこの説明を、当初は次のような表現で行っておられた(同「租税法律主義について」税経通信20巻5号(1965年)21頁、22頁。下線筆者)。 ここで述べられている「考え方」は、金子教授が「租税法規の特色」の1つとして「強行性」について次のとおり述べておられる考え方(同・前掲『租税法』31頁。下線筆者)であると解される。 このようにみてくると、佐藤教授が合法性の原則の「出自」を見直すに当たって援用された金子教授の考え方は、税負担の公平の維持を租税公平主義の観点からではなく租税法規の強行性の観点から説くものであると解されるので、合法性の原則の「出自」を租税法律主義ではなく租税公平主義にあるものとして見直すための根拠としては、適切でないように思われる そうすると、合法性の原則「出自」見直し説は、本判決の読み方としても妥当でないように思われるが、だからといって、調和思考も妥当でないとはいえないように思われる。この点については、合法性の原則「出自」見直し説のように合法性の原則を租税公平主義と結びつけその枠内に「包摂」(佐藤・前掲論文70頁)するのではなく、以下で述べる「『合法課税』適用違憲説」とでもいうことができる考え方によって、合法性の原則の内部に租税平等主義による制約(合法性の原則の内在的制約)を設定するという論理構成をもって、合法性の原則と租税平等主義との調和を図るのが相当であると考えるところである。 2 「合法課税」適用違憲説 租税平等主義ないし租税公平主義は「租税の領域にあらわれた平等原則」(清永・前掲書32頁)であるが、憲法14条1項の定める平等原則については、その意義をめぐる議論が法適用平等説(立法者非拘束説)から法内容平等説(立法者拘束説)へと展開されてきたところである(差し当たり長谷部恭男編『注釈日本国憲法(2) 国民の権利及び義務(1) §§10~24』(有斐閣・2017年)169頁[川岸令和執筆]参照)。 今日の通説・判例というべき法内容平等説は、「正確にいえば法内容・適用平等説」(内野正幸『憲法解釈の論点〔第4版〕』(日本評論社・2005年)49頁)であるが、ただ、「法令違憲の場面に関心を集中させてきた憲法学」(原田大樹「平等原則と比例原則」法律時報90巻8号(2018年)16頁、21頁)においては平等原則のうち「法内容平等」の側面が重視されてきたのに対して、行政法学においては行政法の一般原則としての平等原則(前記Ⅱ参照)について「法適用平等」の側面が重視されてきたように思われる。 このような学問状況の中で、税法学は租税平等主義について「法内容平等」及び「法適用平等」の両方の側面を重視してきたが(例えば、清永・前掲書32-34頁、金子・前掲『租税法』90-97頁参照)、このことは税法学の特色といってもよかろう(この点について、宍戸常寿「租税立法の合憲性審査の基準」日税研論集77号(2020年)221-222頁も参照)。とはいえ、税法学は、租税平等主義の上記の両方の側面を重視してきたものの、それらの側面の相互関係やその意味内容を明らかにはしてこなかったように思われる。 もっとも、この点については、「法内容平等」と「法適用平等」とを媒介する論理が暗黙ないし当然の前提として措定されてきたと考えることができるように思われる。その媒介論理は、「法内容平等」の要請を満たす法律規定においてはその内容を当該規定の実際の適用上も平等に実現するための措置が講じられているはずであり、講じられていなければならない、というような考え方である。そのような措置は、何よりもまず、「法内容平等」を実現するのに必要かつ十分な規律密度・明確性を確保した形で当該規定を定めることであるが、これも「法内容平等」の一環としてあるいはその延長線上において当該規定に内在する立法の問題である。 このような媒介論理を措定する可能性・必要性を示唆してくれたのは、ドイツ連邦憲法裁判所2014年12月17日判決の次の要旨及び判示である(BVerfG v. 17.12.2014 - 1 BvL 21/12, BVerfGE 138, 136, Ls.5, Rz.254. 下線筆者。この判決については前掲拙著『税法創造論』284-285頁[初出・2017年]も参照)。 この判決は事業承継税制に関する相続税の課税減免規定を平等権侵害で違憲(法令違憲)としたが、その意味するところは、租税基本法42条という一般的否認規定によって否認されないが望ましくはない(課税上の不平等取扱いをもたらす)租税上の形成を、当該課税減免規定が「相当な範囲で」許容する場合には(勿論、その許容が非典型的な個別事例にとどまる場合は格別)、当該課税減免規定それ自体には、そのような租税回避の試みを阻止し課税の公平を確保するのに必要かつ十分な規律密度・明確性が欠如しているとみて、その結果「相当な範囲で」課税の不平等が生じ得ることを理由に、当該課税減免規定を違憲と判断したものであると解されるのである。 さて、本判決は、前記Ⅰ引用部分の第1段落の後半部分において「租税法律主義ないし課・徴税平等の原則」を援用して、「法定の課税標準、税率に従つた課・徴税処分」につき「実定法に反する処分」、「違法処分」という、一見すると相矛盾する表現で判断を示しており、そうであるが故に、伝統的・通説的には対立思考に基づく読み方がされてきたのであろうが、しかし、以上の検討を前提にして本判決を改めて読み直してみると、上記の部分に「したがって」で続けて述べられている次の判示(下線筆者)が注目される。 ここで注目されるのは、①他の箇所では「課・徴税平等の原則」という言葉を用いながら「課税平等の原則」という言葉を用いていることと、②同原則が「みぎ法定の課税標準ないし税率による課・徴税処分を、でき得る限り、軽減された全国通用の課税標準および税率による課・徴税処分に一致するように訂正し、これによつて両者間の平等をもたらすように処置することを要請しているもの」と解していることである。 まず上記の①について、「課・徴税平等の原則」は「課税」と「徴税」の両面について平等取扱いを要請するものであるが、そのうち「徴税」の面での平等取扱いは専ら税法の執行における法適用平等を意味するのに対して、「課税」の面での平等取扱いは、「徴税」と対比される「課税」が納税義務の確定を意味するものと解される以上、確定の対象となる成立した納税義務の内容における法内容平等とその納税義務の確認における法適用平等の両方を含むものと解される。 そうすると、「課税平等の原則」は、納税義務の内容を定める税法(課税要件法。本件では関税定率法)に関する法内容平等を、その適用上も実現するための措置を要請するものと解されるが、本判決はその措置を前記②すなわち「みぎ法定の課税標準ないし税率による課・徴税処分を、でき得る限り、軽減された全国通用の課税標準および税率による課・徴税処分に一致するように訂正し、これによつて両者間の平等をもたらすように処置すること」として捉えていると解される。 そして、前記②にいう「訂正」は、本件における「法定の課税標準ないし税率による課・徴税処分」のうち「軽減された全国通用の課税標準および税率」を超える部分を違憲(関税定率法の適用違憲)とする措置を意味するものと解される。そうすると、本件においてはその超過部分について課・徴税処分の根拠となる関税定率法の規定が存在しないこととなるので、本判決は前記Ⅰ引用部分の末尾で「神戸税関の課・徴税処分は、結局のところ、超過した10%の限度において法律に基づかない違法な課・徴税処分に当ると言うことができる。」(下線筆者)と判示したものと解されるのである。 なお、前記のドイツ連邦憲法裁判所判決は相続税の課税減免規定を平等権侵害で法令違憲と判断したが、本判決は本件物品に係る関税定率法の規定の内容それ自体を不平等と判断したのではなく、その規定に関する神戸税関長の解釈適用が関税定率法上正しいと判断しつつ、「できる限り」(前記②)法定の課税標準ないし税率による課・徴税処分を、軽減された全国通用の課税標準および税率による課・徴税処分に一致するように訂正するために、適用違憲という判断手法を用いたものと解される。このような理解によれば、昭和38年10月14日に示された大蔵省関税局長の通達は、本件物品に係る関税定率法の規定の適用違憲を回避する限りにおいて、その規定の規律密度・明確性の不足を補完するものと評価することができよう。 以上を要するに、本判決は、税法の不平等な適用による課・徴税処分を租税平等主義により「法律に基づかない」課・徴税処分とみて合法性の原則の枠外に位置づけたものと解される。その位置づけに当たって、法内容平等の観点からは問題のない規定に基づく「合法課税」を、その規定に適合しない課税が広範に行われ法適用平等が阻害されている場合には、租税平等主義により適用違憲とする判断手法を用いたものと解される(「合法課税」適用違憲説)。 「合法課税」適用違憲説は、租税平等主義を法内容平等それ自体の要請として問題とするのではないが、法内容平等を実現するのに必要かつ十分な規律密度・明確性の確保の観点から適用違憲の根拠として援用するものである。したがって、この説で租税平等主義は、執行上の原則としての租税平等主義ではなく、税法の執行をも視野に入れた立法上の原則としての租税平等主義であるといってもよかろう。 このような意味での租税平等主義によれば、税法の不平等な適用は、その限りにおいて適用違憲の故に法律に基づかない課税として、合法性の原則の内在的制約を構成すると考えられる。この意味において、合法性の原則と租税平等主義とは調和すると考えられるのである(調和思考)。   Ⅳ おわりに 今回は、本判決について、対立思考に基づき執行上の原則としての租税平等主義を合法性の原則の外在的制約として捉える伝統的・通説的な読み方を確認し、さらに、調和思考に基づく新たな読み方として合法性の原則「出自」見直し説を検討した後、平等原則を法内容・適用平等説(通説・判例)の暗黙・当然の前提にまで立ち返って検討した上で、「合法課税」適用違憲説により別の調和思考に基づく新たな読み方を提示した。この読み方は、筆者がこれまで示してきた読み方(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第2回Ⅳ、前掲拙著『税法基本講義』【81】、同『税法創造論』46頁注(134)[初出・2020年]参照)を補足・補正するものである。 今回の検討は、筆者が実質的租税法律主義(基本的人権保障に抵触する租税立法の禁止。前掲拙著『税法基本講義』【11】参照)の内容の1つとして租税平等主義を論ずる場合に前提とする公平観(含み公平観)を、合法性の原則と租税平等主義との関係を検討する場面で、展開しようとするものでもある。 含み公平観は、租税負担の公平は租税法律の中で考慮され租税法律を通じて実現されなければならず、租税法律を離れて実現されてはならない、要するに租税法律に含まれている、という考え方であるが(前掲拙著『税法基本講義』【21】参照)、今回、本判決の新たな読み方を提示するに当たって前提にした調和思考も、税法の適用の場面における含み公平観に基づくものである(同【81】参照)。 (了)

#No. 520(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/05/25

〈判例評釈〉ムゲン・ADW事件が残したもの~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第3回】

〈判例評釈〉 ムゲン・ADW事件が残したもの ~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第3回】   公認会計士・税理士 霞 晴久     Ⅲ 争点②通則法65条4項にいう正当な理由は認められるか 1 ムゲン事件第一審判決 (1) 原告の主張 ムゲン事件第一審において、原告は、「国税庁は、平成7年に、分譲マンション購入費用事例(※24)において、取得目的が将来的に分譲することにあれば、『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に該当するとして差支えない旨回答し、また、国税庁作成による『消費税一問一答(平成6年版)』には、『販売用の目的で取得し、一時的に自社の資材置き場として使用しているときは、最終的な使用目的が販売用であるので非課税用となる』と記載されていたことからすれば、国税庁は、従前、個別対応方式における用途区分については、事業者の課税仕入れの最終的な目的により判定することを明らかにしていた」と主張し、さらに、「賃貸中マンション購入費用事例(※25)や、国税庁が、従前、『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』の意義について、『直接、間接を問わず、また、現実に譲渡を行った時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等をいう』との解釈を明らかにしていたところ、当該解釈に従うと、販売目的で建物を購入するに当たり、販売するまでの間、これを住宅用として賃貸する予定があったとしても、当該建物の購入はその対価の額が最終的に課税資産の譲渡等である販売のコストに入るような課税仕入れに当たることなどからすると、個別対応方式における用途区分の判定を事業者の課税仕入れの最終的な目的により行う取扱いは、従前、税務当局の課税実務において広く認められていた」とし、本件更正処分は適法であるとしても、原告の過少申告は、税務当局による取扱いの変更から生じたという点で、真に原告の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らして、原告に過少申告加算税を賦課することは不当ないし酷であると主張した。 (※24) 国税庁のウェブサイトに掲載された照会事例で、譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除について、「購入物件は分譲することを目的として取得したマンションであり、課税仕入れの時点では『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に該当することは明らかであることから、仮に一時的に賃貸用に供されるとしても、継続して棚卸資産として処理し(中略)、将来的には全て分譲することとしているものについては、消費税法第30条第2項第1号イの課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない。」と回答している。 (※25) 平成9年頃、東京国税局に照会された事例をいい、「転売目的のマンションを居抜きで買い取った場合の仕入税額控除の適用について」という照会に対し、「マンションを転売目的で取得したことが明らかであることから、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当し、仕入税額控除が認められる〔なお、国税庁消費税課の意見の要約として、「『課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ』かどうかの判定は、課税仕入れを行った日等の状況で行うが、これは、課税仕入れが結果として何の売上げに貢献したかではなく、何の売上げに貢献される目的で行ったかを課税仕入れの時点で判断すべきであることを意味している。マンションを購入した際に賃貸収入(非課税売上げ)が生じているが、これはあくまで居抜きで購入したために副次的に得た対価である」と記載されている。〕。」と回答している。 (2) 裁判所の判断 上記主張を受け、東京地裁は、提出された証拠を検討し、「税務当局においては、平成元年当時、土地購入仲介手数料事例(※26)と同様の事例につき、『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』として取り扱うことを記載した文献が存在していたほか、土地造成費等事例(※27)について、土地を販売の目的で取得し、一時的に自社の資材置場等として使用しているときは、最終的な使用目的に従って、非課税売上げにのみ必要な課税仕入れとして取り扱うことを記載した文献も存在していたのであって、これらによると、税務当局は、個別対応方式における用途区分において、主たる目的又は最終的な使用目的を考慮して用途区分を判定していたとも理解され得るのであり、平成9年頃の賃貸中マンション購入費用事例も、このような取扱いと整合するものとみることもできる。」と判示し、消費税導入直後の平成元年から平成9年頃までは、最終的な使用目的に従う用途区分が認められていたと判断している(※28)。しかしながら、東京地裁は続けて、「このうち土地購入仲介手数料事例と同様の事例については、平成10年3月発行一問一答では共通課税仕入れに区分する旨に変更されている」とし、税務当局の解釈変更があったことを認めている。 (※26) 国税庁のウェブサイトに掲載された事例で、土地購入仲介手数料について、副次的に収受する土地の賃料を考慮せず、土地の販売及び建物の販売という事業者の最終的な目的のみから用途区分の判定をする取扱いをいう。 (※27) 平成元年8月発行の「建設業、不動産売買・仲介業、不動産賃貸業、テナント これが一番新しい消費税Q&A」(財団法人大蔵財務協会発行)に掲載された事例をいい、そこには、「個別対応方式で造成費の取り扱いは?」という設問がある。 (※28) 原告が指摘する分譲マンション購入費用事例を始めとする過去事例は、「最終的な目的によって判断すべき」との原告の主張の根拠とされており、かつ、「税務当局は、納税者に対する事前の周知等の是正措置を講じることもなく、突如として、これまで容認してきた本件課税仕入れの用途区分に関する消費税法の解釈又は適用を変更(中略)することは、租税平等主義に反する。」という主張の根拠ともなっている。 その上で、東京地裁は、本件課税仕入れについて共通課税仕入れに区分されることを示す複数の裁判例・裁決例(東京地判平成24年9月7日判決(以下「平成24年判決」という)、さいたま地判平成25年6月26日(以下「平成25年判決」という)、名古屋地判平成26年10月23日(以下「平成26年判決」という)や国税不服審判所平成17年11月10日裁決(以下「平成17年裁決」という)、同平成22年11月8日裁決(以下「平成22年裁決」という)、同平成24年裁決(以下「平成24年裁決」という))を挙げ、「文献又は雑誌の記事においても、本件課税仕入れについて共通課税仕入れに当たることを示すものが存していたことが認められる」と認定した上で、「これらの事情を考慮すると、(中略)、原告が、本件各課税仕入れを『課税資産の譲渡等に要するもの』に区分した上で控除対象仕入税額の計算をしたことについては、真に原告の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお原告に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になるとまではいえない。」と判示した。すなわち、東京地裁は、本件課税期間の当時、税務当局の解釈変更については、複数の裁判例や裁決例で容易に知りえたので、原告による申告額が過少であったことにつき、通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとはいえないと結論付けたのである。 2 ムゲン事件控訴審判決 (1) 認定事実と結論 ムゲン事件控訴審では、一転、以下のように判示し、控訴人(ムゲン)の主張を認め、通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとして、賦課決定処分は違法であるとした。 (2) 検討 上記のとおり、国側は、平成9年頃には、本件課税仕入れを課税資産の譲渡にのみ要する課税仕入れと扱っていないという主張をしていた。これに対し、東京高裁は、「(賃貸中マンション購入費用事例)の記載内容は相当詳細かつ具体的である上、当時の税務当局職員の説明も存在すること、本件課税仕入れを共通課税仕入れであることを示唆する公的機関が作成した文書の存在も平成17年まで指摘できないことを踏まえると、平成9年頃、税務当局が、本件課税仕入れを課税資産の譲渡にのみ要する課税仕入れと扱っていた可能性は否定でき(ない)」と判示し、さらに、賃貸中マンション購入費用事例についての国側の「誤った一事例の回答に過ぎない」との反論に対しては、「仮に、誤った一事例に過ぎないとすれば、その後、これを改めた正しい照会回答が複数存在するものと考えられるが、そのような証拠は見当たらない」として国側主張を排斥している。 このように、東京高裁が一転、原審の判断を覆した理由は定かではないが、第一審で原告がいうように、「税務当局が、原告以外の一部の納税者との関係では、本件課税仕入れにつき『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に該当するとの処理を容認していたことは明らか」であるとか、「本件課税仕入れについて税務当局が共通課税仕入れに該当すると判定したのは、平成24年裁決が初めて(※29)であると思料され、その後、本件課税仕入れを『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に区分することについて、税務当局の税務調査での対応は区々になっている」という状態が引き起こされていたことからすれば、課税実務における混乱状態を招いた税務当局の責任についても考慮し、かつ、内容的にムゲン・ADWの事件に近い賃貸中マンション購入費用事例の照会内容を重視したものではないかと思われる。 (※29) これはあくまで原告の主張であり、裁判所は、「本件と争点を同一にする平成17年裁決、平成22年裁決、平成24年裁決」と判示しているので、遅くとも平成17年頃には解釈変更があったと裁判所は認定している。 3 ADW事件控訴審 (1) 裁判所の判断 ADW事件控訴審では、先祖返りともいうべきか、裁判所の判断は再度逆転し、通則法65条4項にいう「正当な理由」は認められないとされた。 東京高裁は、「本件と同様に販売目的による居住用の建物の取得費について課税仕入れの区分が争点となった事案につき、公刊物に掲載された平成17年、平成22年及び平成24年の各裁決例並びに平成25年の裁判例において、当該各事案の所轄行政庁及び控訴人が、当該各課税仕入れが共通対応課税仕入れに当たるとする本件処分と同旨の主張をし、その主張が採用されていたこと(中略)などに照らすと、これらの文献や事例等に表れた平成17年以降の課税庁の取扱いは、被控訴人が本件各確定申告を行った当時、被控訴人と同様に中古マンション等を購入してこれを転売する事業を行う業者の間において相当程度周知されていたものということができ(る)(下線筆者)」とし、「平成9年賃貸マンション事例(筆者注:賃貸中マンション購入費用事例を指すと思われる)の存在を踏まえても、その内容がその後において個々の事案における個別の事例判断の範囲を超えた一般的通用性を有する規範として課税庁において是認され一般に周知されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない以上、被控訴人の主張に係る平成17年の前後における課税庁の取扱いの差異の有無については、本件全証拠によっても明らかではないといわざるを得ない。」と判示して、ムゲン事件控訴審判決とは真逆の結論を導いた(※30)。しかしながら、ADW事件控訴審の判示には、ムゲン事件控訴審判決を覆すような新たな事実や証拠は何ら示されておらず、紋切り型に「周知されていた」「的確な証拠はない」「明らかではない」と述べているに過ぎないように思われる。ムゲン事件控訴審判決で重視したと思われる賃貸中マンション購入費用事例については、本件課税期間当時には、何故一般的通用性はなかったのか、平成17年裁決その他の方が相当程度周知されていたというのがどの程度の確実性を持っていえる事象なのか、判決文では述べられていない。 (※30) 田中・前掲(※20)28頁は、「判決において、このような対照的な結論がなぜ生じたのかは、裁判官の心証の違いによるものかもしれないが、必ずしも明確ではない。とはいえ、本件納税者については、係争の年度における課税庁の取扱いが、過去の年度におけるそれから大きく変化したという事実があるようであり、そうだとすれば、課税庁は、本件納納税者に対して、その明確な理由や法的根拠を示す必要がある。また、課税庁において、事実として、その変更が税務行政上広く行われたのであれば、その法的正当性は何かを明示する必要がある。そのような丁寧な対応なくして、あるときから課税関係を一気に変えることは、租税法律主義に反する、信義則に反するなどの批判を免れないであろう。」と述べ、厳しく批判している。 (2) 検討 課税庁の対応について、ムゲン事件第一審で原告は、「近時の税務調査(※31)において、担当調査官は共通課税仕入れとして処理されていないことを理由に否認の対象となる旨指摘したものの、その上司の調査官がその必要はないとして否認されなかった事案があることなどからも認められる。」と述べ、さらに、税務当局が、原告以外の課税仕入れにつき課税対応の処理を容認していたことは明らかなため、「本件各課税仕入れが共通課税仕入れに該当すると判定して本件各更正処分をすることは、租税平等主義に反する。」とまで主張していた。 (※31) ムゲン・ADWが、課税庁による更正処分が不服であると考えることの根本には、過去の税務調査時に問題として指摘されてこなかったことが大きいと思われる。この点につき、ムゲン事件第一審判決では、「原告は、平成23年4月に日本橋税務署による税務調査を受け、このとき消費税等については、その還付が多額であることなどを理由に過去3期分が対象とされ、個別対応方式における用途区分についても調査されたが、指摘されたのは本件とは無関係の用途区分の誤りだけであり、本件課税仕入れの用途区分についての指摘はされなかった。」と主張している。 後述する、国税不服審判所に対する平成の終わりから令和にかけての審査請求の状況、あるいは、他の納税者について課税庁は、本件課税仕入れについて課税売上対応課税仕入れとする処理を容認していたという主張を踏まえても、平成17年以降の課税庁の取扱いが、中古マンション等を購入してこれを転売する事業を行う業者に対して統一的に適用されていたとは考えられず、同様に、同業者の間においても周知の事実だったと認定することは困難である。むしろ、ムゲン・ADWが問題とされた課税期間の前後の期間において、突然当局が見解を変更したと納税者が考えるような税務調査が頻発したと見るべきであり、その混乱ぶりに配慮するという意味からも、判決の「落としどころ」としては、ムゲン事件控訴審判決の方がより納税者の納得の得られる結論となっているのではないかと思われる。 4 ムゲン事件最高裁判決 (1) 裁判所の判示 最高裁(※32)は、原審の判示を採用せず、「税務当局は、遅くとも平成17年以降、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを、当該建物が住宅として賃貸されること(その他の資産の譲渡等に対応すること)に着目して共通対応課税仕入れに区分すべきであるとの見解を採っており、そのことは、本件各申告当時、税務当局の職員が執筆した公刊物や、公表されている国税不服審判所の裁決例及び下級審の裁判例を通じて、一般の納税者も知り得たものということができる。他方、それ以前に税務当局が作成した部内資料や税務当局関係者が編者である公刊物及び平成7年頃の関係機関からの照会に対する回答には、事業者の目的に着目して用途区分を判定していたとも理解され得る記載等があるものの、これらは、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れに直接言及するものでなく、その趣旨や前提となる事実関係が明らかでないなど、必ずしも上記見解と矛盾するものとはいえない。また、税務当局は、平成9年頃、関係機関からの照会に対し、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分すべき旨の回答をしているが、このことから、直ちに、税務当局が一般的に当該課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分する取扱いをしていたものということはできないし、上記回答が公表されるなどしたとの事情もうかがわれない。そうすると、平成17年以降、税務当局が、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを当該建物が住宅として賃貸されることに着目して共通対応課税仕入れに区分する取扱いを周知するなどの積極的な措置を講じていないとしても、事業者としては、上記取扱いがされる可能性を認識してしかるべきであったということができる。」と判示し、納税者側の全面敗訴が確定した。 (※32) 最判一小令和5年3月6日(令和3年(行ヒ)第260号)、TAINSコード:Z888-2481。 (2) 検討 ADW事件控訴審判決から、ムゲン・ADW事件最高裁判決までに約1年7ヶ月(ムゲン控訴審判決からは約1年10ヶ月)を要しており、比較的長い時間をかけた(※33)にもかかわらず、最高裁判決は課税庁側に有利な過去の裁判の判示を単に要約したかのような内容となっている。最高裁は、本件課税期間当時の税務調査の現場の混乱を招いた税務当局の責任について特に考慮することなく、結果的に納税者の納得の得られない最終結論となった。 (※33) 判決に先立つ本年2月9日には、最高裁において、両事件の口頭弁論が開催された。「最高裁が初めて考え方を示す可能性もある。」(2023年2月9日付日本経済新聞電子版)という見方もあったが、結果は、本稿で見たように、直前のADW事件控訴審判決の焼き直しであった。 5 税務調査における更正処分の実態-「手のひら返し」はあったか (1) 問題の所在 ムゲン事件第一審で原告が「本件各更正処分は、税務当局が従前認めていた上記取扱い(筆者注:分譲マンション購入費用事例において課税売上対応課税仕入れを認めてきたこと)を突如として変更して行ったものであり、近年になって本件と同様の事案で更正処分を受けた者が原告以外にも多数存在することは、税務当局が従前認めていた上記取扱いを近年になって変更したことの証左である。」と述べていること、あるいはADW事件第一審で原告が「税務当局は、転売用マンションに係る課税仕入れの用途区分について、従前は課税対応課税仕入れに区分するとの取扱いをしていたが、平成17年に突然これを変更し、共通対応課税仕入れに区分するとの取扱いをするようになった。」と述べている事実は存在したのか、特にムゲン事件の前後において、税務当局の対応はどうであったか、1つの試みとして、国税不服審判所に対する審査請求の件数から、その実態について検証してみたい。 (2) 検討結果 国税不服審判所に対し審査請求のあった事案のうち、裁決までに至ったものについては、そのホームページで税目別・争点別に検索が可能(※34)なので、同検索システムを用い、税目消費税及び争点「6税額控除/1仕入税額控除/5課税仕入れ等の経費区分(※35)」から、平成23年以降令和4年末までの裁決事例を検索すると、下記【表2】のとおり、課税仕入れ等の経費区分が争点とされた事案は全部で30件あり、そのうち販売目的で取得した居住用賃貸建物に係る課税仕入れの個別対応方式における区分が争点となったものが全部で15件抽出された(令和5年5月15日検索時点)。ちなみに、平成30年の3件のうち1件はムゲン事件となっており(※36)、この辺りを境に、特に令和2年以降、同様の事案が急増しているのが分かる。 (※34) 国税不服審判所「裁決要旨検索システム」。 (※35) 国税不服審判所の裁決要旨検索システムでは、争点番号「500601050」に該当する。 (※36) ADW事件において、納税者は、平成30年9月13日付で国税不服審判所に審査請求したが、同日の翌日から3ヶ月を経過しても裁決がされなかったため、審査請求を取り下げ、東京地裁に提訴した。したがって、【表2】にはADW事件は含まれていない。 【表2】 したがって、特にムゲン事件の前後において、税務調査における「手のひら返しはあった」と見るべきであり、筆者の仄聞するところでは、共通対応課税仕入れを主張する税務当局はその根拠として、平成24年裁決や平成24年判決を提示していたとのことである。 以上のような経緯があったとすれば、「従来の見解を変更したことを納税者に周知するなど、これが定着するよう必要な措置を講じるのが相当であったと解されるにもかかわらず、そのような措置を講じているとは認められない」というムゲン事件控訴審判決がいう課税庁側の責任は免れ得ないであろう。このような態度・姿勢を継続するとすれば、納税者の課税庁に対する信頼を損ねることに他ならないことを肝に銘じるべきである。   (続く)

#No. 520(掲載号)
#霞 晴久
2023/05/25

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例122(消費税)】 「賃貸ビル売却計画を事前に聞いていたため、「課税期間特例選択届出書」で課税期間を区切り、売却する課税期間からの「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、有利な簡易課税を選択できたにもかかわらず、これを怠ったため、不利な原則課税での申告となってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例122(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆簡易課税制度(消法37、消令57) その課税期間の基準期間における課税売上高が5,000万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出している事業者は、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行う簡易課税制度の適用を受けることができる。この制度は、仕入控除税額を課税売上高に対する税額の一定割合とするもので、この一定割合をみなし仕入率といい、売上げを次の6つに区分し、それぞれの区分ごとに定められたみなし仕入率を乗じて計算する。 簡易課税制度を適用するときの事業区分及びみなし仕入率は次のとおりである。 ◆固定資産等の売却収入の事業区分(消基通13-2-9) 事業者が自己において使用していた固定資産等の譲渡を行う事業は、第4種事業に該当する。 ◆特例の計算(消令57③) 2種類以上の事業を営む事業者で、1種類の事業の課税売上高が全体の課税売上高の75%以上を占める場合には、その事業のみなし仕入率を全体の課税売上げに対して適用することができる。       (了)

#No. 520(掲載号)
#齋藤 和助
2023/05/25

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第27回】「固定資産の課税仕入れの時期について契約日基準が認められなかった事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第27回】 「固定資産の課税仕入れの時期について契約日基準が認められなかった事例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産の譲渡損益の認識日と課税仕入れの時期 固定資産を売却した場合、売却した時期がいつになるかで、譲渡損益を認識する年度や事業年度が異なる場合がある。 譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則としては、資産の引渡しがあった日であるが、納税者の選択により、譲渡に関する契約の効力発生日に総収入金額に算入して申告する場合が認められており、これは、所得税、法人税共通である(所基通36-12、法基通2-1-14)。固定資産の取得日について、これに準じて判定することが、所得税においては通達で認められている(所基通33-9)。 それでは、消費税はどうなっているかというと、国内において事業者が行った資産の譲渡等について消費税を課する(消法4①)ものとした上で、消費税法基本通達9-1-13において、次のとおりとしている。 所得税や法人税が譲渡損益の認識日について、納税者に契約日での選択を認めているのに対し、消費税については、例外として契約日も認めているとしているが、契約日であれば必ず認められるとは限らないと、下記の消費税法基本通達9-1-2からも読みとれる。 今回は、不動産の取得について契約日を課税仕入れとした申告について争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か この事案を時系列で並べると、次のようになる。   ▷争点は この事案における争点は次の3つであったが、本稿においては①を検討する。 甲社と課税庁の①に関する主張をまとめると、以下のようになる。   ▷裁判所の判断は 裁判所は、次のように述べて甲社の請求を棄却した。 このように述べて納税者の請求は棄却された。消費税は、法人税や所得税と異なり、課税仕入れを行った日は、対価として収受すべき権利が確定した日で、それは、通常は引渡しの日となると判断した。なお、この判決においては、納税者の行った行為が消費税の還付スキームかどうかについては論じられていない。 *   *   * 不動産の取引について、引渡し基準ではなく、契約基準で行うことはレアケースであるが、このようなケースに当たった場合は、法人税、所得税と消費税では課税時期が異なることを失念すると税理士の責任とされることから注意したい。   (了)

#No. 520(掲載号)
#菅野 真美
2023/05/25

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第18回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第18回】 「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ詳解⑨」   東洋大学法学部准教授 泉 絢也     問11 NFT取引に係る消費税の取扱い①(デジタルアートの制作者) 個人事業者であるNFTクリエイターなどがNFTを販売する一次流通のケースである。   【電気通信利用役務の提供該当性と内外判定】 FAQの解説では、「本取引は、事業として対価を得て行われるものであり、かつ、電気通信回線を介して行われる著作物(著作権法第2条第1項第1号に規定する著作物)の利用の許諾に係る取引」と認められるとした上で、電気通信利用役務の提供に該当するとしている。 電気通信利用役務の提供とは、資産の譲渡等のうち、電気通信回線を介して行われる著作物(著作権法2①一)の提供(その著作物の利用の許諾に係る取引を含む)その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供をいう(消法2①八の三)。 ただし、この場合の役務の提供からは、電話、電信その他の通信設備を用いて他人の通信を媒介する役務の提供や、他の資産の譲渡等の結果の通知その他の他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供が除かれている。なお、消費税法上の資産の貸付けには、資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為が含まれる一方、その行為のうち、電気通信利用役務の提供に該当するものは除かれる(消法2①八の三、2②)。 例えば、インターネット等を通じて行われる電子書籍・電子新聞・音楽・映像・ソフトウェア(ゲームなどの様々なアプリケーションを含む)の配信などが電気通信利用役務の提供に該当する(消基通5-8-3)。 消費税の免税事業者以外の事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等で一定のものなどについて、消費税を納める義務があり(消法2①八、九、4、5等)、資産の譲渡等が国内において行われたかどうかという内外判定を求められる。 電気通信利用役務の提供の場合は、その電気通信利用役務の提供を受ける者の住所又は居所(現在まで引き続いて1年以上居住する場所)、あるいは本店又は主たる事務所の所在地が国内にあるかどうかで判定する。ただし、上記の場所がないときは、当該資産の譲渡等は国内以外の地域で行われたものとなる(消法4③三)。 以上から、FAQの解説では、事業者が日本の消費者にNFTを有償譲渡している本取引は、国内において事業者が事業として対価を得て行う電気通信利用役務の提供として、その役務の提供を行った者(デジタルアートの利用の許諾を行った質問者)に消費税が課されることになるとしている。 また、解説では、「当該役務提供を受ける者の住所等が国外の場合には消費税の課税対象外(不課税)となります」としている。 そもそも、NFT取引において、実務上、相手方の住所等が国内にあるのか、国外にあるのかを把握することは難しいという問題がある。氏名や住所等の情報を登録ないし開示することなく取引できることに魅力を感じている者が多く取引をしているし、取引の仕組み上、これらの情報の提供がなくともスムーズに取引が行われるようになっている。 この点について、消費税法基本通達5-7-15の2は「電気通信利用役務の提供を受ける者の住所等が国内にあるかどうかについては、電気通信利用役務の提供を行う事業者が、客観的かつ合理的な基準に基づいて判定している場合にはこれを認める。」としている。 実際の税務調査では、相手方のSNSのプロフィール等を参考として国内外判定が行われたり、これを端緒として反面調査が実施されたりする可能性がある。課税実務の動向を注視しておく必要があろう。   【リバースチャージ方式】 電気通信利用役務の提供の場合、上記のような内外判定のみならず、納税義務者の判定にも注意が必要である。 国外事業者が国内事業者に事業者向け電気通信利用役務を提供する場合、役務の提供を受けた国内事業者が消費税の納税義務を負う(リバースチャージ方式)。事業者向け電気通信利用役務の提供とは、国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、その役務の性質又は取引条件等からその役務の提供を受ける者が通常事業者に限られるものをいう(消法2①八の四、4等)。 他方、国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち事業者向け電気通信利用役務の提供以外のものについては、通常どおり、その国外事業者が消費税を納税する義務を負う(国外事業者申告納税方式)。 国外事業者とは、所得税法2条1項5号に規定する非居住者である個人事業者及び法人税法2条4号に規定する外国法人をいう。例えば、これらの事業者が、国内に電気通信利用役務の提供を行う事務所等を有していたとしても国外事業者に該当する(消法2①四の二、消基通1-6-1)。 FAQの解説では、次のとおり、本事例はリバースチャージ方式に該当しない旨説明されている。   (了)

#No. 520(掲載号)
#泉 絢也
2023/05/25

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第17回】「ガーンジー島法人所得税の「外国法人税」該当性(地判平18.9.5、高判平19.10.25、最判平21.12.3)(その2)」~法人税法69条1項、法人税法施行令141条1項、2項、3項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第17回】 「ガーンジー島法人所得税の「外国法人税」該当性 (地判平18.9.5、高判平19.10.25、最判平21.12.3)(その2)」 ~法人税法69条1項、法人税法施行令141条1項、2項、3項~   税理士・米国公認会計士 金山 知明     5 考察 (1) 租税該当性 大島訴訟(最判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁)では、「租税は、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてでなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付」とされている。 また、旭川市国民健康保険条例事件(最判平成18年3月1日民集60巻2号587頁)では、「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たる」とされる。 ここでは「反対給付」かどうか、つまり対価性があるかどうかという要素と、「一定の要件に該当するすべての者に対して課する」という意味での強行性が要点と思われる。対価性について本件では、地裁と高裁は、ガーンジー島の税を、「タックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるというサービスを提供するための対価といい得る」とする。しかし本件において、外国税を負担するのはB社であるが、その外国税をタックス・ヘイブン対策税制の回避というサービスを受けるための対価と考えたとしても、そのサービスを受けるのはB社ではない。しかもその「サービス」はガーンジー政府が与えるものでなく、結果として日本においてXへの課税上生じるに過ぎない(※8)。そう考えると、本件外国税をサービスの対価などということは困難である。 (※8) 志賀櫻「鑑定意見書」(2007)第3部2(9)。 また、強行性について、たしかにB社には、0%近い税率を選択申請したり、免税申請をしたりする余地が与えられていることから、この点については一般的な所得課税制度でない特異な性質がある。しかし、政策上の理由で税を減免することは、さほど珍しいことでもない(特に固定資産税など)。しかも本件ではいったん申請した税率について承認を受けると、その税率について交渉することはできない。この意味では、強行性が確保されている。 OECDのHarmful Tax Competition (1998) では、たしかにガーンジー島法人所得税のように、納税者と税務当局の交渉により税率を決定するような税制について、タックス・ヘイブン対策税制(CFCルール)を回避し得る点において有害であると指摘し、制度面でこれに対処する必要性を示している。しかし、このような税について、強行性を欠くとか、租税の概念と相容れないなどとするような見解はまったくみられない。 ガーンジー島の法人所得税を租税でないと主張することは、もともと困難な道だったといえるが、本件についてタックス・ヘイブン対策税制により課税するための手段として、国税はそれを租税ではないと主張するほかなかった(※9)。しかし最高裁は、ガーンジー島法人所得税が租税であることは自明のこととして(※10)、本件の主眼を当該税が「外国法人税」に該当するかどうかに置いている。 (※9) 谷口勢津夫「課税方式・税率の選択可能な外国税の『外国法人税』該当性」判例時報2099号(2011)170頁は、本件ではガーンジー島の法人所得税を税ではないと解釈することで、事実認定による租税回避の否認をしようという税務当局の試みを、最高裁が認めなかったという点で、パラツィーナ事件(最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁)と同様の判断枠組を用いたものであると述べる。 (※10) 岡村忠生「外国法人税の意義」ジュリスト1440号(2010)208頁。 結局最高裁は、法人税法施行令141条3項の文言を尊重して、その意義を拡張してまでガーンジー島法人所得税の外国法人税該当性を否定することはできないと判断した。これは国が課税権を発動する場面においては特に、文理解釈により納税者の予測可能性を保護することの必要性を重視したものと考えられ、このような厳格な解釈は妥当と評価される(※11)。 (※11) 宮塚久「ガーンジー島事件最高裁判決の検討」国際税務32巻4号(2012)23頁。谷口前掲170頁。 (2) 租税回避行為があったか 我が国のタックス・ヘイブン対策税制は、タックス・ヘイブンに設立された被支配外国会社に本来国内で課税されるべき所得を移転する行為を規制するため、租税回避否認規定であるとされる(※12)。そこで、本件ではXがガーンジー島にB社を設立して再保険料を支払ったことが租税回避といえるかどうかも検討に値する。 (※12) 村井正編著『入門 国際租税法(改訂版)』清文社(2020)335頁。金子宏『租税法(第24版)』弘文堂(2021)646頁。 志賀櫻「鑑定意見書(キャプティブについての補論)」(2008)の第3の1では、保険会社が海外に有するキャプティブの意義について、租税回避のための道具ではなく、リスクの移転、リスクの集積、リスクの分散といったリスクマネジメントの機能を果たすものであり、XにとってB社もそのような役割を担っていたと述べる。つまり、B社は租税回避を目的に設立されたというより、リスクマネジメントの一環として、キャプティブに対するインフラの整ったガーンジー島に設立されたと考えることもできる(※13)。 (※13) 北村導人「タックスヘイブン対策税制/外国税額控除/ガーンジー島事件」『租税訴訟5』財経詳報社(2012)63頁。 タックス・ヘイブン対策税制は当初、ブラックリスト方式を採用し、軽課税国を個別指定していたが、各国の税制が刻々と変化する中、この方式では対応が難しくなった(※14)。それを受けて平成4年に導入されたのがトリガー税率方式であるが、25%超の税負担をしている子会社はタックス・ヘイブン対策税制の対象外とすると定めたのは一種の割切りであるともいえ、納税者からすると26%の税負担をすれば当該税制による課税をされないと予測するのは法の文言を忠実に解釈した結果であり、合理的であると考える。 (※14) 武田昌輔編著『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規)4985の8頁。 ガーンジー島税制による税率の選択申請可能性のある法人所得税により、トリガー税率を超える税負担となるように調整を図る行為は、タックス・ヘイブン対策税制が想定していたものではないかもしれないが、税率26%の適用申請をすることは公的にガーンジー島税法で認められた権利であり、濫用的なスキームをXが画策したのではない。そして、26%の税負担は仮装でなく実際に行われている。このようなXの行為は、タックス・ヘイブンに所得を移すことによる不当な租税回避とはいいきれない。 (3) 先行判例との比較 ここでは、課税規定の性質的な相違と、法文による文言上の解釈可能性の幅、納税者による作為の複雑性の違いという観点から、先行する2つの最高裁判例との若干の比較をしておきたい。 りそな銀行外国税額控除否認事件(最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁、以下「りそな銀行事件」という)では、内国法人が外国税額控除の余裕枠を利用して、外国税額控除規定を濫用して利益を得る行為は許されないという考えを最高裁が示したが、この判断には、外国税額控除規定が納税者に税額控除権を与える減免的性質をもつ規定であることが影響していると考え得る(※15)。 (※15) 金子前掲141頁。 これに対してタックス・ヘイブン対策税制は、外国関係会社の国外における所得を、内国法人である親会社の所得であると擬制して合算課税するという構造上、国の追加的な課税権を形成しようとする制度といえる(※16)。規定の構造や性質が、外国税額控除のような減免的制度と異なる点は、最高裁の判断に影響したのではないだろうか。 (※16) また当該税制は、所得の合算だけを規定し、損失の合算を認めない(最判平成19年9月28日税務訴訟資料第257-185順号10794)。このことも追加的な課税権の発動規定と認識できる一要素であると考える。 さらに、りそな銀行事件では、市場で考案された私法上の契約を組み合わせた作為的スキームを納税者が利用したものといえるが、本件でB社が行ったのは、外国政府の公法である税制に従った外国法人税の納付という行為に過ぎず、X又はB社が画策したスキームにより利益を得ようとしたものでもないため、これを濫用的ということはできない。 また、オウブンシャホールディング事件(最判平成18年1月24日訟月53巻10号2946頁)では、海外に設立した関係会社間での株式有利発行スキームを用いた含み益株式の移転に対して、法人税法22条2項にいう「無償による資産の譲渡(中略)その他の取引」の意義を拡張的に解釈することにより、取引当事者ではないはずの原告法人への課税がなされ、最高裁はそれを適法とした。 当該事件は、りそな銀行事件のように減免規定の変則利用を図るものではないが、外国法人の設立、当該法人への特定現物出資、第三者割当増資という多段階の作為を用いた租税回避であったということができる。さらに、税法に上記「取引」の定義規定がなく、その「取引」の解釈に幅を持たせる余地があったことも主要な判断理由の1つであろう。 これに対して本件は、Xにより複雑な租税回避スキームが実行されたわけでなく、何らかの租税減免規定を利用しようとしたものでもない。加えて、特定外国子会社等や外国法人税の定義など、法令規定の文言が比較的明確であり、解釈の幅が小さかったことも、オウブンシャホールディング事件との違いとして認識できる。このようにみると、最高裁の判断には、争点となった税法規定の性質(減免的規定か否か)、租税回避手段の人為的複雑性、法の文理の拡張解釈可能性といった要素が影響しており、本件判決はそれらがいずれも消極に解された結果下されたものと考えられる。   6 総括 タックス・ヘイブン対策税制は、租税回避否認をその趣旨とするが、外国子会社の国外所得を擬制的に内国法人の所得とみなして課税するという構造をみれば、侵害的な課税権発生規定(課税根拠規定)という性質もあると考える。そのような規定の適用上は、租税法律主義による納税者の予測可能性という意味での権利保護がより強く働くべきであり、最高裁はそれを肯定したと評価したい。 たしかに、当時のガーンジー島の税制は、投資を呼びこむ手段の1つとしての、税率の選択申請、交渉可能性という特殊な性質をもっており、これは納税者の作為により変則的法形式を用いることには当たらないが、親会社の居住地国の税務当局からすれば、そのような税制自体が有害であることは否定できない。 しかし、他の主権をもつ政府が有する税制が自国の課税権からみて有害であるからといって、否認規定を欠きながらそれを税ではないとすることを最高裁は認めなかった。特に本件のように、国家が課税権(課税根拠規定)を行使する場面においては、法の文言が明確である限りその法文に忠実に従うべきであり、解釈により要件を拡張して課税することは許されず、立法による解決が必要であることを、最高裁は本件で示したと考えられる。 (了)

#No. 520(掲載号)
#金山 知明
2023/05/25

有価証券報告書におけるサステナビリティ開示の直前確認

有価証券報告書における サステナビリティ開示の直前確認   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   金融庁は、2023年1月31日に「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」を公表し、以下の改正等を行っている。当該改正により、原則、2023年3月31日以後終了する事業年度の有価証券報告書からサステナビリティ開示が必要となり、各社、有価証券報告書の作成に今までよりも多くの時間を要することが考えられる。そこで今回は、サステナビリティ開示におけるポイントを解説する。 適用時期は、以下のとおりである。 なお、株式会社花王及び株式会社リンクアンドモチベーションが2022年12月31日の有価証券報告書において、早期適用している。 【改正のイメージ図】   1 サステナビリティ全般に関する事項(人的資本を含む)の開示 (1) 開示内容 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示内容は、以下のとおりである(開示府令 第二号様式(記載上の注意)(30-2)、第三号様式)。 (※) 有価証券報告書で記載する内容を全て、参照先に記載することはできない。参照先は、あくまでも補完情報であるため、重要な情報は、有価証券報告書に記載する必要がある(下記(6)参照)。 (2) 開示対象 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示対象は、開示府令で具体的に定められていないが、記述原則別添(注1)に、以下の例示が示されている(記述原則別添(注1)、コメント対応109)。開示府令では具体的に定められていないため、各社で以下や他社事例等を参考にし、また、経営環境や企業価値等への影響を踏まえて、何を開示することが投資家にとって有用であるかを検討する必要がある。 なお、温室効果ガス(GHG)排出量については、投資家と企業の建設的な対話に資する有効な指標となっている状況を鑑み、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、特に、Scope1(事業者自らによる直接排出)・Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)の GHG 排出量について、積極的に開示することが期待されている(記述原則別添(注2))。 (3) 開示にあたっての構成要素 「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークに合わせて、以下の4つの構成要素に基づき記載する。 「ガバナンス」と「リスク管理」の記載は必須で、「戦略」と「指標及び目標」については、重要なものについて開示する(重要性については、下記(4)参照)。 「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示を行うことが期待される(記述原則別添)。 ただし、「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しない場合における判断やその根拠は、必ず開示しなければならない事項ではない。その上で、投資家に有用な情報を提供する観点から、例えば、各企業がその事業環境や事業内容を踏まえて、どのような検討を行い、重要性がないと判断するに至ったのか、その検討過程や結論を具体的に記載することが考えられる(コメント対応No.99-100)。 一方、人的資本については、「戦略」並びに「指標及び目標」(以下、(a)(b))について、重要性に関係なく、全ての会社が開示する必要がある。 (4) 重要性の判断基準 サステナビリティ関連開示において、開示に当たっての重要性の判断基準は、開示府令で定められていない。 記述情報の開示に関する原則(以下、「記述原則」という)において、以下の考え方(記述原則2-2)が示されているため、参考にすることができる。 (5) 開示にあたっての留意事項 開示にあたっての留意事項として、以下が挙げられる。 (6) 他の書類を参照する場合の留意事項 他の書類を参照する場合の参照先の例として、以下が挙げられる(コメント対応No.234-237、238-252、257-261)。 また、記載事項を補完する情報について、公表した他の書類を参照する場合の留意事項として、以下が挙げられる。 (7) 事例 株式会社花王の有価証券報告書(2022年12月31日)の「第2【事業の状況】」の「2【サステナビリティに関する考え方及び取組】」では、以下のように開示されている。   2 多様性に関する開示 (1) 開示内容 女性活躍推進法及び育児・介護休業法(女性活躍推進法等)により「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得比率」、「男女間の賃金格差」の公表を行わなければならない会社に該当する場合は、【従業員の状況】に当該指標を開示する(開示府令 第二号様式(記載上の注意)(29))。ポイントは、女性活躍推進法及び育児・介護休業法により開示が求められるかどうかを、連結グループ内の各社ごとに判定し、開示が求められる会社は、連結グループ内の財務的重要性に限らず開示が必須ということである。 (注) 女性活躍推進法は、2022年7月8日の施行後に最初に終了する事業年度から一定の指標の公表が義務付けられている。一方。育児・介護休業法は、2023年4月1日から指標の公表が義務付けられる。詳細は、以下のとおりである。 (2) 開示にあたっての留意事項 開示にあたっての留意事項として、以下が挙げられる。 (3) 事例 株式会社花王の有価証券報告書(2022年12月31日)の「第1【企業の概況】」の「5【従業員の状況】」では、以下のように開示されている。なお、下記の「②連結会社の状況」の記載は、任意で記載している項目である。 (了)

#No. 520(掲載号)
#西田 友洋
2023/05/25

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第11回】「表示方法の変更に関する注記」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第11回】 「表示方法の変更に関する注記」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における表示方法の変更に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 表示方法を変更した場合、当該表示方法の変更の内容及びその理由を注記する必要があります。 なお、個別注記表に注記すべき事項が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合は、個別注記表にその旨を注記することで、個別注記表における詳細な注記を省略することができます。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表それぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) 表示方法の変更に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき表示方法の変更に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第102条の3第1項)。ただし、「重要性の乏しいものを除く」とされているため、重要性が乏しい場合は注記を省略することができます。 (※1) 個別注記表に注記すべき事項が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合において、個別注記表にその旨を注記するときは、個別注記表における当該事項の注記を要しません。 (2) 注記事項の解説 表示方法は、原則として、毎期継続して同じ方法を適用することが求められます。 しかし、会計基準等の改正により表示方法の変更を求められる場合や、財務諸表をより適切なものにする場合には、表示方法を変更することができます。 この場合、財務諸表の過去からの比較可能性を確保するため、どのように表示方法が変わっているのか、なぜ表示方法を変更したのかを注記する必要があります。 具体的にどのような注記が必要か、実際の注記を見ていきましょう。 [株式会社フルキャストホールディングス 2022年12月期 連結注記表] ※株式会社フルキャストホールディングス「第30期定時株主総会 その他の電子提供措置事項(交付書面省略事項)」19頁より抜粋。 [生化学工業株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※生化学工業株式会社「第76回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」12頁より抜粋。 [日野自動車株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※日野自動車株式会社「第110回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」9頁より抜粋。 *  *  * 次回の第12回は、「会計方針に関する事項(引当金の計上基準)」をテーマに解説します。   (了)

#No. 520(掲載号)
#竹本 泰明
2023/05/25

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第18回】「越境した竹木の枝の切除」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第18回】 「越境した竹木の枝の切除」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 隣地の竹木が越境した場合の取り扱いについて、どのようなルールが定められたのか教えてください。 【A】 越境された土地の所有者は、竹木の所有者に枝を切除させる必要があるという原則を維持しつつ、次のいずれかの場合には、枝を自ら切り取ることができることとされた(新民法第233条第3項)。 また、竹木が数人の共有に属する場合には、各共有者が越境した枝を切り取ることができることとされた(新民法第233条第2項)。 -《解説》- 1 改正の経緯 旧民法では、土地の所有者は、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは自らその根を切り取ることができるが、枝が境界線を越えるときはその竹木の所有者に枝を切除させる必要があるとされていた(旧民法第233条)。 しかしながら、この場合、竹木の所有者が枝を切除しないときには、訴えを提起し切除を命じる判決を得て強制執行の手続をとるほかなく、竹木の枝が越境する都度、常に訴えを提起しなければならないとするのは、救済を受けるための手続の負担が重すぎるという問題があった。 また、竹木が共有されている場合に、竹木の共有者が越境した枝を切除しようとすると、基本的には変更行為として共有者全員の同意が必要であると考えられているため、他の共有者を探してその同意を求めざるをえず、その結果相当な時間と労力を費やすこととなり、竹木の円滑な管理が阻害されるという事態が生じていた。 そこで、今回の改正では、土地の所有者による枝の切り取り及び竹木の共有者各自による枝の切除について規定が設けられることになった。   2 土地の所有者が越境した枝を切り取る場合 (1) 概要 隣地の竹木の枝が越境してきた場合、原則としては竹木の所有者に枝の切除を求めることとされているが(新民法第233条第1項)、竹木の所有者による切除が期待できない以下の3つの場合のいずれかに該当するときは、土地の所有者が自ら越境した枝を切り取ることができる(新民法第233条第3項)。 なお、本規定は私人間についてのみ適用されるものではなく、道路を所有する国や地方公共団体も、隣接地の竹木が道路に越境してきたときは、本規定によって枝を切り取ることが可能であると考えられる。 (2) 要件 ① 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき 催告の方法については条文上特に規定されていないが、後日紛争が発生することを予防する観点から、書面等の記録に残る方法により行うことが望ましいと考えられる。 また、「相当の期間」とは、竹木の所有者に枝を切除するために必要な時間的猶予を与えるためのものであり、事案にもよるが、基本的には2週間程度と考えられる。 共有物である竹木の枝を切り取るにあたっては、基本的に、竹木の共有者全員に枝を切除するよう催告する必要がある。もっとも、一部の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときには、その者との関係では要件②の場合に該当し、催告は不要と考えられる。 ② 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき 「竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」とは、事案にもよるが、基本的には、現地調査及び不動産登記簿・立木登記簿や住民票といった公的記録の確認などの方法により調査を行ったにもかかわらず、竹木の所有者又はその所在を知ることができないときをいうと考えられる。 ③ 急迫の事情があるとき 「急迫の事情があるとき」とは、例えば、台風等の災害により枝が折れて隣地に落下する危険が生じている場合などが想定される。 (3) 費用負担 土地の所有者が越境した枝を自ら切り取る場合の費用負担に関しては、条文上特に規定されていないが、枝が越境して土地所有権を侵害していることや、土地所有者が枝を切り取ることにより竹木の所有者が本来負っている枝の切除義務を免れることを踏まえると、基本的には、土地所有者は枝の切除に要した費用を竹木の所有者に請求できると考えられる(cf.民法第703条、第709条)。   3 竹木の共有者が越境した枝を切り取る場合 上記1でも述べたとおり、従前は共有されている竹木について枝を切るためには基本的に共有者全員の同意が必要となると考えられていたが、今回の改正により各共有者が越境した枝を切り取ることができるとされた(新民法第233条第2項)。 そして、竹木の各共有者が単独で枝を切り取ることができる以上、越境された土地の所有者は、竹木の共有者の1人から承諾や委託を得れば、その共有者に代わって枝を切り取ることができる。 また、越境された土地の所有者は、竹木の共有者の1人に対しその枝の切除を命じる判決を得れば、代替執行(民事執行法第171条第1項・第4項)により授権を得て強制執行をすることが可能であると考えられる。ただし、上記判決の既判力は他の共有者には及ばないため、他の共有者は越境された土地の所有者に対し、竹木の共有持分に基づく妨害予防請求訴訟を提起するなどして争う余地があると考えらえる。 (了)

#No. 520(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2023/05/25

〈知識ゼロからでもわかる〉 NFTとその利活用 【第3回】「NFTのビジネスモデルと市場」

〈知識ゼロからでもわかる〉 NFTとその利活用 【第3回】 (最終回) 「NFTのビジネスモデルと市場」   東京ハッシュ株式会社 代表取締役 段 璽 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   1 はじめに 本連載では、NFTの入門知識を整理している。【第2回】では、NFTの具体的な利用形態と方法について解説した。最終回の今回では、NFTに関わる主要かつ特徴的なビジネスモデルと市場について解説する。   2 ビジネスアクターの整理 NFT界には、作品のクリエイター、投資家、NFTプロジェクトの運営者、NFTマーケットプレイスの運営者、NFTを保有するユーザーなどが関わっている。投資家はさらに小口投資家と大口投資家(通称Whales)に分けられる。   3 ビジネスモデル (1) ロイヤリティ ロイヤリティとは、作品の売上の一部をクリエイターに還元する仕組みであり、一般的には販売額のパーセンテージで設定されている。コンテンツ作品に対する「所有権」をNFTとして販売し、ロイヤリティを受け取るビジネスモデルがある。これにより、作品の作者は、作品が再販された際にも、スマートコントラクトに埋め込まれたロジックによって、自動的にロイヤリティを得ることができる。その際、作品やコンテンツの著作権を維持することも可能である。 (2) NFTプロジェクト 典型的な「NFTプロジェクト」では、独自のNFTコレクションを構築し、理念や世界観を加えるとともに、NFTにユーティリティを設定する。そしてNFTを販売し、所有者のコミュニティを形成し、イベント開催や派生NFTプロジェクト組成等を通してコレクターや投資家からの需要に応える。 プロジェクトの収入源は、NFTの一次販売、二次流通取引のロイヤリティ、物販等である。NFTユーティリティとしては、特別な特典やアクセス権が典型的である。 NFTプロジェクトの成功例には「Bored Ape Yacht Club (BAYC)」や「Azuki」が含まれる。 (3) NFTマーケットプレイス NFTマーケットプレイスとは、アートやゲームアイテム、デジタル収集品などのNFTを販売・取引するプラットフォームである。これらのマーケットプレイスは、売買手数料やオークション手数料から利益を得る。また、広告やスポンサーシップ、NFTの取引にかかる手数料、販売手数料を含めた収益モデルを持つものもある。 一方、マーケットプレイスの競合が激しくなる中、NFTの品質管理やユーザー保護のための投資も必要となる。そのため、NFTマーケットプレイスは、成功するためには高品質のNFTを取り扱うこと、ユーザーの信頼を獲得し続けることが必要不可欠である。 NFTマーケットプレイスの代表はOpenSeaであるが、他にも国内外問わず大小のNFTマーケットプレイスがある。従来の企業形態をとる中央型と、ブロックチェーン上でほぼ全てのシステムを完結させる分散型のNFTマーケットプレイスがある。各者は手数料モデルやインセンティブ設計、対応するブロックチェーン・決済通貨・ウォレット、NFTのジャンル特化等を特色として持っている。   4 NFTの流通と取引におけるポイント 以上のビジネスアクターとビジネスモデルを踏まえると、NFTの流通と取引には次のような側面がある。 流通には一次流通と二次流通がある。一次流通は発行または発行者からの初回譲渡に相当する。二次流通はNFTマーケットプレイスを介す場合とそうでない場合がある。二次流通ではロイヤリティが発生し得る。 価格形成については、オークション形式と指定価格での取引がある。取引価格は各NFTの時価として現れる。また、NFTコレクションにおいては最低価格(Floor Price)が、コレクション同士の相対的価値を表す指標としてよく用いられる。 NFTの取引は手動でももちろん可能だが、スマートコントラクトを用いて取引ロジックを自動化することもできる。実際、自動でNFTを買い漁るボットがある。 売買取引においては、決済通貨も考慮すべきである。暗号資産はもちろん、法定通貨や独自ポイントも可能性としてある。それに伴って、NFTの取引がブロックチェーン上で完結するか(オンチェーン取引)、一旦ブロックチェーンの外で取引するか(オフチェーン取引)も、NFTマーケットプレイスにおいて重要なデザイン項目となる。 そして、NFTの法的扱いについても注意を払う必要がある。各ビジネスアクターが属する法域とクロスボーダー取引の扱いを明確にすべきである。わが国においては、NFT保有者が居住者かどうかが1つのポイントになる。   5 NFT市場の規模 Chainalysisの記事によると、2021年にNFTマーケットプレイスを介したNFTの取引高は400億米ドルを超えており、2022年は5月頭までのデータで既に370億米ドルに達している。 ブロックチェーンごとに見ると、イーサリアムは取引高ベースでNFT取引の大半を占めている(CryptoSlam参照)。   6 NFT市場の課題 以上のように、NFTを中心としたビジネスモデルが台頭してきており、NFT市場は注目に値する規模を示している。しかしながら、NFT市場は社会・ビジネス面と技術面で課題を抱えている。 社会・ビジネス面の代表的な課題は、NFTプロジェクトの詐欺(調達資金の持ち逃げ;Rug Pull)、模倣、相場操縦(NFTコレクションのNFTを買い占めて価格を吊り上げることをWash Tradeという)、資金洗浄等である。模倣は著作権とも関わる。NFTマーケットプレイスはしばしば、模倣NFTの排除を力点の1つとしている。 技術面では、例えばシステムの不具合により誤った価格での取引がNFTマーケットプレイスにおいて成立してしまう事例が過去に発生している。このようなリスクを考慮した補償体制もNFTマーケットプレイスの運営においてポイントとなる。   7 おわりに 最終回では、NFTのビジネスモデルと市場について解説した。連載全体を通して、NFTと市場の全体観をお伝えできたならば幸いである。連載でカバーした内容を前提知識として、国税庁による「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」を読んでいただくと、より実際的な知見を得ることができるだろう。   (連載了)

#No. 520(掲載号)
#段 璽、松澤 公貴
2023/05/25
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