公開日: 2023/08/17 (掲載号:No.531)
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さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第89回】「りそな外国税額控除否認事件」~最判平成17年12月19日(民集59巻10号2964頁)~

筆者: 菊田 雅裕

さっと読める!

実務必須の

[重要税務判例]

【第89回】

「りそな外国税額控除否認事件」

~最判平成17年12月19日(民集59巻10号2964頁)~

 

弁護士 菊田 雅裕

 

-本連載の趣旨-

本連載は、税務分野の重要判例の要旨を、できるだけ簡単な形でご紹介するものである。

税務争訟は、請求内容や主張立証等が細かく煩雑となりやすい類型の争訟であり、事件の正確な理解のためには、処分経過の把握や判決文の十分な読み込み等が必要となってくるが、若手税理士をはじめとする多忙な読者諸氏が、日常業務をこなしつつ判例研究の時間を確保することは、容易なことではないであろう。他方、これから税務重要判例を知識として蓄積していこうとする者にとっては、要点の把握すら困難な事件も数多い。

本連載では、解説のポイントを絞り、時には大胆な要約や言い換え等も行って、上記のような読者の方に、重要判例の概要を素早く把握していただこうと考えている。

このような企画趣旨から、本連載における解説は、自ずと必要最低限のものとなり、基礎知識の説明、判例の繊細なニュアンスの紹介、多角的な分析、主要な争点以外の判断事項の紹介等を省略することも多くなると思われるが、ご容赦をいただきたい。

なお、より深い内容については、できるだけ論末において他稿をご紹介するので、そちらをご参照いただきたい。

▷今回の題材

りそな外国税額控除否認事件

最判平成17年12月19日(民集59巻10号2964頁)

《概要》

ニュージーランド法人A社は、投資家から集めた資金をクック諸島に持ち込んで運用するに当たり、

(1) 運用益への法人税課税を軽減するため、クック諸島において100%子会社B社を設立し、

(2) 投資家からの投資に対して源泉税が課されないクック諸島の法人C社(A社がその株式の28%を保有)にいったん投資資金を取得させ、その後B社が当該資金を取得する

という形を採ることにした。

しかし、C社がB社に直接資金を貸し付ける場合、クック諸島の税制によれば、これに対する利息に対し15%の源泉税が課されてしまう。そこで、B社・C社・X銀行は、X銀行の外国税額控除の余裕枠を利用して上記源泉税の負担を軽減する目的で、次のような取引を行った。

(1) X銀行は、B社に対し、年利10.85%で金員を貸し付ける。その際、貸付金利息から、クック諸島で課される15%の割合の源泉税額を控除する。

(2) C社は、X銀行に対し、X銀行がB社へ供与する資金全額に相当する金員を、預金として預け入れる。X銀行がB社から貸付金利息(年利10.50%)を受領した場合には、源泉税控除前の貸付金利息の金額から、X銀行の手数料を控除した金額を、預金利息としてC社に対して支払う。

X銀行は、B社から支払われる貸付金利息についての源泉税をクック諸島において納付したとして、外国税額の控除をした上で法人税の申告をした。これに対し、Y税務署長は、外国税額の控除は認められないとして、更正処分を行った。そこで、X銀行が当該処分の取消しを求めて訴訟提起したのが本件である。

最高裁は、X銀行の主張を認めなかった。

《関係図》

▷争点

我が国の銀行が、本来は外国法人が負担すべき外国法人税について対価を得て引き受ける取引を行ったが、当該外国法人税の額が上記対価を上回り、当該取引自体によっては損失を生ずるものの、自己の外国税額控除の余裕枠を利用することで当該外国法人税の負担を事実上免れ、最終的に利益を得ようとする目的で当該取引を行ったという事情の下で、当該外国法人税を法人税法69条(当時)の定める外国税額控除の対象とすることができるか。

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【第89回】

「りそな外国税額控除否認事件」

~最判平成17年12月19日(民集59巻10号2964頁)~

 

弁護士 菊田 雅裕

 

-本連載の趣旨-

本連載は、税務分野の重要判例の要旨を、できるだけ簡単な形でご紹介するものである。

税務争訟は、請求内容や主張立証等が細かく煩雑となりやすい類型の争訟であり、事件の正確な理解のためには、処分経過の把握や判決文の十分な読み込み等が必要となってくるが、若手税理士をはじめとする多忙な読者諸氏が、日常業務をこなしつつ判例研究の時間を確保することは、容易なことではないであろう。他方、これから税務重要判例を知識として蓄積していこうとする者にとっては、要点の把握すら困難な事件も数多い。

本連載では、解説のポイントを絞り、時には大胆な要約や言い換え等も行って、上記のような読者の方に、重要判例の概要を素早く把握していただこうと考えている。

このような企画趣旨から、本連載における解説は、自ずと必要最低限のものとなり、基礎知識の説明、判例の繊細なニュアンスの紹介、多角的な分析、主要な争点以外の判断事項の紹介等を省略することも多くなると思われるが、ご容赦をいただきたい。

なお、より深い内容については、できるだけ論末において他稿をご紹介するので、そちらをご参照いただきたい。

▷今回の題材

りそな外国税額控除否認事件

最判平成17年12月19日(民集59巻10号2964頁)

《概要》

ニュージーランド法人A社は、投資家から集めた資金をクック諸島に持ち込んで運用するに当たり、

(1) 運用益への法人税課税を軽減するため、クック諸島において100%子会社B社を設立し、

(2) 投資家からの投資に対して源泉税が課されないクック諸島の法人C社(A社がその株式の28%を保有)にいったん投資資金を取得させ、その後B社が当該資金を取得する

という形を採ることにした。

しかし、C社がB社に直接資金を貸し付ける場合、クック諸島の税制によれば、これに対する利息に対し15%の源泉税が課されてしまう。そこで、B社・C社・X銀行は、X銀行の外国税額控除の余裕枠を利用して上記源泉税の負担を軽減する目的で、次のような取引を行った。

(1) X銀行は、B社に対し、年利10.85%で金員を貸し付ける。その際、貸付金利息から、クック諸島で課される15%の割合の源泉税額を控除する。

(2) C社は、X銀行に対し、X銀行がB社へ供与する資金全額に相当する金員を、預金として預け入れる。X銀行がB社から貸付金利息(年利10.50%)を受領した場合には、源泉税控除前の貸付金利息の金額から、X銀行の手数料を控除した金額を、預金利息としてC社に対して支払う。

X銀行は、B社から支払われる貸付金利息についての源泉税をクック諸島において納付したとして、外国税額の控除をした上で法人税の申告をした。これに対し、Y税務署長は、外国税額の控除は認められないとして、更正処分を行った。そこで、X銀行が当該処分の取消しを求めて訴訟提起したのが本件である。

最高裁は、X銀行の主張を認めなかった。

《関係図》

▷争点

我が国の銀行が、本来は外国法人が負担すべき外国法人税について対価を得て引き受ける取引を行ったが、当該外国法人税の額が上記対価を上回り、当該取引自体によっては損失を生ずるものの、自己の外国税額控除の余裕枠を利用することで当該外国法人税の負担を事実上免れ、最終的に利益を得ようとする目的で当該取引を行ったという事情の下で、当該外国法人税を法人税法69条(当時)の定める外国税額控除の対象とすることができるか。

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連載目次

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例]

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くわしくは[こちら

第1回~第80回

第81回~

筆者紹介

菊田 雅裕

(きくた・まさひろ)

弁護士
横浜よつば法律税務事務所

【略歴】
・平成13年 東京大学法学部卒業
・平成16年 司法試験合格
・平成18年 弁護士登録
・平成23~25年 福岡国税不服審判所 国税審判官
・平成25~26年 東京国税不服審判所 国税審判官

【著書】
さっと読める!実務必須の重要税務判例70』(清文社、2021年)

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