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〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第19回】「建設工事における出来高検収書の取扱い」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第19回】 「建設工事における出来高検収書の取扱い」   税理士 石川 幸恵   【Q】 当社は、建設工事を請け負っており、その建設工事の一部を下請業者に請け負わせています。下請業者への支払いは、当社が出来高検収書を作成して下請業者に確認をもらい、それに基づいて行っています。 これまでは、出来高検収書の確認を受けた日に課税仕入れを行ったものとして、仕入税額控除をしてきました(消基通11-6-6)。インボイス制度導入で取扱いは変わりますか。 〔ポイント〕 (1) 出来高検収書の取扱い(消基通11-6-6)はインボイス制度導入後も変わりません。 (2) 下請業者が工期の途中で適格請求書発行事業者でなくなった場合には、すでに行った仕入税額控除の額を工事完了日の属する課税期間において、減額しなければなりません。 *  *  * 【A】 インボイス制度導入後も、元請業者が作成する出来高検収書を下請業者が確認することによって仕入税額控除が可能です。 下請業者が工期の途中で適格請求書発行事業者でなくなった場合は、すでに行った仕入税額控除の額を減額しなければなりません。   (1) 令和4年8月31日に国税庁「お問い合わせの多いご質問」に追加 令和4年8月31日に国税庁の「お問い合わせの多いご質問」が更新され、出来高検収書に関する問が新たに設けられました。   (2) 消費税法基本通達11-6-6の内容 ① 出来高検収書とは? 出来高検収書とは、元請業者が下請業者の行った工事等の出来高について検収を行い、その検収の内容及び出来高に応じた金額等を記載した書類をいいます。 ② 出来高検収書の保存により仕入税額控除が認められる 出来高検収書が次の要件を充たしていれば、出来高検収書は仕入税額控除の要件である書類保存の「書類」として認められます。 ③ 出来高の検収による課税仕入れの時期 下請業者に出来高検収書の確認を受けた日に課税仕入れをしたものとして仕入税額控除が受けられます。 ④ 建設工事の一部を下請業者に請け負わせた場合の原則的な取扱い 上記③は特例的な取扱いであり、原則的には、請負による資産の譲渡等の時期は、目的物の全部を完成して引き渡した日とされています(消基通9-1-5)。   (3) インボイス制度での出来高検収書の取扱い 出来高検収書が仕入明細書等の記載事項を満たしており、下請業者の確認を受ければ、消費税法基本通達11-6-6の取扱いは変わりません。 なお、仕入明細書としての記載事項は次のとおりです(インボイスQ&A問85)。 上記②で下請業者の登録番号の記載が必要ですので、あらかじめ確認しておく必要があります。 また、上記⑤は「支払対価の額」とされていますので、税込金額を記載することが原則ですが、税抜金額でも認められます(インボイスQ&A問87)。   (4) 下請業者が工事完了までに適格請求書発行事業者でなくなった場合 工期が下請業者の課税期間をまたぐような場合には、工事の期間中の検収時には適格請求書発行事業者であった下請業者が工事完了時に適格請求書発行事業者でなくなっているというケースも考えられます(下図参照)。 このようなケースでは、出来高検収書により仕入税額控除の対象とした金額(図の出来高検収書①と②)を、下請業者の行う建設工事の完了日(6/10)の属する課税期間における課税仕入れに係る支払対価の額から控除します。 出来高検収時に適格請求書発行事業者であった者が、工事完了時に適格請求書発行事業者でなくなった場合には、請け負わせた工事全体の課税仕入れの時期について、請負による資産の譲渡等の時期の原則(消基通9-1-5)に戻り、完成引渡し時に適格請求書発行事業者か否かで仕入税額控除の可否が判断される点に注意してください。 (了)

#No. 490(掲載号)
#石川 幸恵
2022/10/13

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第55回】「敷地所有権者の相続に係る特定事業用宅地等の特例の適用(配偶者居住権設定後に二次相続があった場合)」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第55回】 「敷地所有権者の相続に係る特定事業用宅地等の特例の適用 (配偶者居住権設定後に二次相続があった場合)」   税理士 柴田 健次   [Q] 甲の相続(一次相続)では、下記のとおり甲の建物持分について配偶者居住権が設定され、甲の配偶者である乙が配偶者居住権及び敷地利用権を取得し、甲の建物所有権の持分、敷地所有権及び土地所有権は、長男である丙が取得しました。甲の相続後は、乙がしばらくの間、居住の用に供していましたが、乙が老人ホームに入所するのを契機として、丙が飲食店の事業の用に供することになりました。乙は配偶者居住権を放棄しないまま丙に使用させています。丙が飲食店の事業開始後、3年経過後に丙に相続が発生しました。 丙の遺言書には、土地及び建物については丁に相続させる旨が記載されています。丁は相続後、丙の事業を承継し、丙の相続税の申告期限まで引き続き事業の用に供し、土地を所有しています。この場合に丁が適用できる小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 なお、丙は乙から何らの土地の賃料も受け取っておらず、乙も丙から建物の賃料を受け取っていません。 【相続関係図】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【丙の相続時における土地に係る相続税評価額】 [A] 丁は取得した敷地所有権・土地所有権に係る145㎡(200㎡ × 58,000,000円/80,000,000円)について小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権等が及ぶ範囲 配偶者居住権が設定された場合には、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することになります(民法1028)。居住建物の全部というのは、配偶者が相続開始の時に居住していた建物の全部という意味ですが、被相続人が土地又は建物の持分を共有で有している場合には、配偶者居住権は被相続人の建物の持分に対して設定し、敷地利用権は、被相続人の土地の持分と建物の持分のいずれか低い方の持分に対して設定することになります(相法23の2①一かっこ書・③かっこ書、相令5の7)。 したがって、本問の場合には、甲の相続時において甲の建物持分である1/2部分に対して配偶者居住権及び敷地利用権が設定されます。 老人ホームに入所して居住の用に供しなくなった場合においても、下記の配偶者居住権の消滅事由に該当しなければ、配偶者居住権は存続することになります。仮に第三者に居住建物の使用をさせるときは、居住建物の所有者の承諾を得る必要があります(民法1032)。本問の場合には、乙は配偶者居住権を放棄せず、居住建物の所有者である丙に使用貸借させたにすぎませんので、配偶者居住権はそのまま存続することになります。 なお、配偶者居住権の消滅事由の例としては、下記のものがあります。   2 二次相続に係る配偶者居住権及び敷地利用権の相続税評価額 配偶者居住権の設定後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得した配偶者居住権の目的となっている建物及び敷地所有権の相続税評価額については、相続税法23条の2の規定に準じて計算することになります(相基通23の2-6)。 具体的には、二次相続発生時において配偶者居住権の設定があったものとして計算しますので、二次相続開始時における乙の平均余命年数等を使用することになります。当然ですが、乙の平均余命年数は、一時相続時よりも二次相続時の方が短くなっていますので、敷地利用権の相続税評価額は、路線価や利用状況に変更がない場合には、二次相続時の方が低くなります。   3 被相続人等の事業の用に供されていた宅地等の範囲 特定事業用宅地等は、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていた親族(以下「被相続人等」という)の事業(貸付事業を除く)の⽤に供されていた宅地等であることが要件の1つとなっています。したがって、その宅地等が「誰の」、そして何の「用途」に供されていたかが重要となります。 租税特別措置法関係通達69-4-4の2(宅地等が配偶者居住権の目的となっている建物等の敷地である場合の被相続人等の事業の用に供されていた宅地等の範囲)では、下記のとおり定められています。 上記通達の事業の用に供されていた宅地等は、特定事業用宅地等に限らず、貸付事業用宅地等に該当するものもその範囲に含まれていますので、下記のとおり注意が必要となります。 〔上記(1)について〕 被相続人の有する宅地等の上に被相続人以外の者が建物を有する場合に相当の対価で貸し付けを行っているときは、被相続人の貸付事業の用に供されていたものとして取り扱います。特定事業用宅地等については、貸付事業を除きますので、上記(1)は、貸付事業用宅地等の特例対象に該当する可能性があっても、特定事業用宅地等には該当しないことになります。 〔上記(2)について〕 上記(1)に掲げる宅地等が除かれていますので、被相続人の有する宅地等の上に被相続人以外の者が建物を有する場合には、使用貸借であることが前提となります。土地が賃貸借である場合には、被相続人の貸付事業の用に供されていることになりますので、上記の(1)に該当することになります。 基本的な考え方は、被相続人等の事業の用に供されていた宅地等の範囲(租税特別措置法関係通達69-4-4)と同様になりますが、配偶者居住権の設定の有無で建物の使用・収益をする権利者が下記のとおり異なることになります。 ◆配偶者居住権の設定の有無における建物の使用・収益の権利者の違い したがって、配偶者居住権が設定されていない場合において、建物所有者が被相続人以外であるときは、建物所有者から被相続人等が無償で建物を借り受けていることが必要となるのに対して、配偶者居住権が設定されている場合には、配偶者居住権者から被相続人等が無償で建物を借り受けていることが必要となります。 配偶者居住権が設定されている場合において、建物所有者が被相続人以外である場合の要件をまとめると下記のとおりとなります。   4 本問の場合の特例適用の可否 本問の場合には、建物は被相続人(丙)及び被相続人である親族(乙)が所有し、かつ、土地は使用貸借であり被相続人が無償で乙から借り受け、丙の事業の用に供していますので、被相続人の事業の用に供している宅地等に該当することになります。特定事業用宅地等の意義は、本連載【第11回】で解説していますが、丁は被相続人の事業を承継し、相続税の申告期限まで引き続き宅地等を有し、かつ、事業を営んでいますので特例の対象者となります。   5 相続税評価額の算定と面積の計算 敷地利用権及び敷地所有権に区分し、相続税評価額と面積を計算します。 ・敷地利用権の相続税評価額: ・敷地所有権・土地所有権の相続税評価額: ・敷地利用権の面積: ・敷地所有権・土地所有権の面積: なお、敷地利用権は乙に属する財産となりますので、丙の相続時において丙の相続財産に計上する必要がありません。また、乙の相続時においては、民法の規定により配偶者居住権は消滅し、相続を原因とする財産の移転もないため、配偶者居住権及び敷地利用権の価額を乙の相続財産に計上する必要はありません。   6 本問の場合の選択特例対象宅地等の面積 丁が取得した敷地所有権・土地所有権の面積145㎡となります。   ★実務上のポイント★ 一次相続発生時にどの部分に対して配偶者居住権が設定されているのか、配偶者居住権設定後に配偶者居住権の用途変更があったか否かを確認することが必要となります。配偶者居住権の用途変更があった場合でも配偶者居住権の消滅事由が発生していない限り、配偶者居住権は存続することになります。   (了)

#No. 490(掲載号)
#柴田 健次
2022/10/13

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第46回】「相続税の税務調査の流れと最近の動向」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第46回】 「相続税の税務調査の流れと最近の動向」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 西田 尚子   相談内容 私は父が設立したX社の社長のAです。昨年、父が急逝し、相続人である母、妹、私が父の財産債務を相続しました。X社のことについては私が把握していましたが、父が生前に所有していた個人財産については、内容や所在、取得や売却の状況など詳しいことは誰も知らされていなかったため、残された通帳や契約書などの書類から推測して財産債務を特定し、税理士に依頼してなんとか相続税の申告を期限内に行い、相続税を納付しました。 しかし、把握できていない財産債務があるかもしれず、税理士から相続税の税務調査の可能性もあると聞き心配しています。最近の相続税の税務調査の動向と、実際の税務調査はどのようにして行われるかについて教えてください。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 相続税の税務調査の動向 (1) 調査の状況 相続税の税務調査には実際に税務職員が相続人の自宅等を訪問して行う実地調査と、文書や電話などで申告漏れや計算誤りを指摘するなどの簡易な接触による調査があります。 国税庁から発表されている「令和2事務年度における相続税の調査等の状況」によると、令和2年度においては新型コロナ感染症の影響により実地調査件数は大幅に減少していますが、簡易な接触による調査が増加しており、両方を合わせると18,740件(うち無申告事案に対する実地調査462件)の調査が実施されています。 相続税の税務調査は申告書を提出してから1~2年後に行われることが多いため、平成30年分の相続税の申告件数149,481件(国税庁「平成30年分における相続税の申告事績の概要」より)との割合で考えると、申告書を提出すると1割以上の確率で調査が実施されることになります。 また、令和2年度では相続税の実地調査のうち87%で申告漏れ等が見つかっており、そのうち16%が重加算税の対象とされています。実地調査が行われた場合には、高い確率で申告漏れ等が指摘されていることがわかります。 〈相続税の実地調査事績〉 (出典:国税庁「令和2事務年度における相続税の調査等の状況」(令和3年12月)) 〈相続税の簡易な接触の事績〉 (出典:国税庁「令和2事務年度における相続税の調査等の状況」(令和3年12月)) (2) 実地調査の選定 実地調査は、件数は減少しているものの、課税価格が高額な富裕層や海外資産を多額に保有しているケース、悪質な不正が見込まれる事案に対して優先的に行われているようです。 ① 富裕層PT 全国の国税局には富裕層プロジェクトチームが設置されており、管理が強化されているため、富裕層に対しては相続税の調査が行われる可能性が高くなります。 ② 海外資産 租税条約等に基づく情報交換制度や共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)に基づく非居住者金融口座情報などを活用して、税務当局は海外取引や海外資産の保有状況を収集しています。海外資産の場合、相続人が存在を把握していないことが多く、申告漏れになるケースがあります。 A氏の場合、悪質とは言えませんが、相続財産の把握が十分でないことから、申告漏れとなっている財産があれば、実地調査先として選定される可能性があります。   [2] 税務調査の流れ (1) 税務調査の連絡 通常の実地調査の場合、事前に調査の電話連絡があります。税理士に税務調査の立会を依頼する場合、税務代理権限証書に調査の通知を税理士に対して行うことの同意を記載して提出しておけば、まずは税理士に連絡があり、A氏や他の相続人に直接連絡が行われることはありません。連絡を受けて、日程や調査実施場所を調整したうえで調査が行われます。 調査場所は被相続人の生前の自宅で行われるケースが多いですが、他の場所を指定することも可能です。悪質な不正申告による脱税が疑われ、裁判所の令状を得て行われる強制調査では、事前連絡なく実地調査が行われますが、大半の調査の場合には事前通知が行われます。 (2) 事前調査 税務当局は事前調査として、被相続人名義の金融資産・不動産の所有状況の履歴、生命保険金の加入有無などの情報を収集し、相続税申告書のほか過去の贈与税申告書、所得税申告書、財産債務調書、国外財産調書などの申告内容と齟齬がないかどうかを確認します。 預貯金や証券口座については、過去数年分及び相続開始後の入出金のデータを入手し、入出金の相手先を確認して申告漏れになっている財産や、他人名義になっているものの実質的には被相続人のものと考えられる財産(名義財産)がないかどうか、申告されていない所得がないかなどを調査します。この場合、調査の対象となるのは被相続人名義の財産だけとは限らず、相続人や親族などの名義の財産についても確認されます。 事前調査の結果、追徴の可能性がある先に対して税務調査が行われることになります。 (3) 実地調査 実地調査では、通常は2人以上の調査官が、事前に調整した日時・場所を訪れます。まずは世間話から始まり、被相続人の人物像を理解するために、生い立ち、家族関係、転居の履歴、財産管理の方法、仕事や趣味など生前の生活の様子の聞き取りが行われます。 次に、事前調査した内容のうち、確認すべき事項についての質問や証拠資料の提出が求められます。通帳や印鑑の保管場所や不動産など財産の現物視察が行われることも多いです。相続財産債務の根拠とした請求書や領収書などの証票書類や、財産評価の計算根拠資料は申告書と共に保管し、すぐに提示できるように準備しておくとよいでしょう。 相続税の税務調査では贈与税の調査も併せて行われます。過去の贈与と考えられる財産移転があった場合には、契約書や通帳コピーなど何年も前の資料を要求されることがあります。特に、名義財産の可能性については必ず確認されます。被相続人が子供や孫名義の預金口座に入金をして贈与したつもりでも、受けた側にその事実の認識が無く、被相続人が通帳と印鑑を管理していた場合などは贈与とは認められず、名義財産として相続税の課税対象になります。 〈実地調査で主に確認されること〉 (4) 税務調査の終了 税務調査の終了時には、原則として口頭で調査結果の内容説明が行われます。調査の結果、申告漏れや計上額の誤りなどがあった場合には、修正申告書を提出又は更正決定を受けることになります。修正申告等を行った場合には、増加した財産に対する相続税に加えて、延滞税と過少申告加算税(仮装隠蔽による場合は重加算税)が課されます。 なお、相続発生前に被相続人に財産債務調書又は国外財産調書の提出義務があった場合には、これらの調書の記載によって、過少申告加算税の軽減又は加重措置が設けられています。   [3] 結論 相続税の実地調査が行われる前には、税務当局は被相続人の財産状況について事前調査を行い、申告漏れになっている財産や他人名義の財産をある程度特定しています。相続人は税務調査で指摘されて初めてその財産の存在を知ることもあるかもしれません。相続財産を十分に把握できていないケースでは、税務調査によって財産の存在を教えてもらえると考えることもできます。 親族などに対して贈与を行う場合には、受贈者に贈与を受けたことを認識してもらい、贈与財産は受贈者が管理し、贈与の証拠を残しておくことにより名義財産として取り扱われないように準備しておくことが必要です。 A氏の場合、被相続人が生前に個人財産について、妻や子供たちに詳しい内容や所在場所を説明していなかったため、相続財産の把握に大変苦労しました。相続人に迷惑をかけないためにも、所有財産の一覧を作成しておき、その保管場所を家族に伝えておくなど、相続に対する備えは早めに行っておくことが肝心です。 実際の相続税の申告や遺産分割については、顧問の税理士や弁護士にご相談ください。   (了)

#No. 490(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2022/10/13

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第18回】「争点の確認表をチェックする場合の勘所」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第18回】 「争点の確認表をチェックする場合の勘所」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 争点の確認表 (1) 目的 国税不服審判所は、以下を目的として、審査請求人及び原処分庁に対して「争点の確認表」を交付する運用を行っている。 「争点の確認表」は、担当審判官が、審査請求人及び原処分庁の主張を的確に把握し、主張を整理して、最終的に裁決書に記載すべき課税等要件に基づき争点を明確にし、適正かつ迅速な裁決に資するために作成するものとされている。 (2) 訴訟との違い 裁判においては、当事者から提示された書証・準備書面に基づいて関係者全員で議論をして争点を整理するという方法で審理が進められるが、国税不服審判所においては、担当審判官が主体になって、当事者に釈明を求めるなどの方法により争点を確定していくものであり、担当審判官は、確定した争点の確認手続のために、審理のために争点を当事者に示して主張立証を促すべき場合もあることから、「争点の確認表」の交付は有効な施策であるとされている。 また、当事者の主張及び争点は、審査請求書や答弁書等の主張に関する書面が提出された場合や、請求人面談等を実施した場合など、審理手続の進行状況に応じて作成していくことから、その内容も調査及び審理の進行状況によって、追加、変更していく性質がある。 (3) 裁決書の前段部分を構成する この点、「争点の確認表」は、審理手続の各段階で作成・交付し、適時、審査請求人及び原処分庁に確認を受けていくことを想定しているが、実務的には、審理手続の終結の前段階で実施されることが多く、最終的にはこの時点の「争点の確認表」により整理された争点等が裁決書の前段部分(後段部分に国税不服審判所としての判断が記載される)に反映されることになる。 なお、送付した「争点の確認表」について、当事者から加除等訂正の指摘があった場合は、担当審判官は主体的に整理(採否を判断)し、争点の明確化、確定に努めることが求められる。   2 争点の確認書の様式 あくまで、担当審判官が主張整理した交付時点のものであり、審査請求人としては、自らが重要と考えるものが記載されていない、又は、記載されているが正確ではないというような場合には、担当審判官にその旨を連絡し、主張が正確に伝わっているか否かを確認しておくことが求められる。 また、確認範囲としては、どうしても自らの主張、すなわち「審査請求人」の「主張」のみを確認して了を伝達してしまう傾向があるが、以下の理由から、記載されている「事実関係」や相手方である「原処分庁の主張」を含めて、全体内容を確認しておく必要がある。   3 見る人が見れば趨勢がわかる (1) 必ずしも主張の要約ではない 担当審判官は、審査請求人からの審査請求書、原処分庁からの答弁書をそのまま引き写して「争点の確認表」を作成しているのではない。 また、審理関係人双方に「争点の確認表」の確認を受けてから、まっさらの状態でいずれに軍配を挙げるかについての判断を行うものでもない。 つまり、「争点の確認表」は、その作成時点において、担当審判官としてはいずれに軍配を挙げるかについての心証が既に形成されていることが多く、「争点の確認表」の記載内容を裁決書の前段部分に落とし込んだ場合に、その後段部分で国税不服審判所が判断しやすいように加工されて作成されているという側面が否定できない。 (2) 負けさせようとしている側の主張の排斥を意識する 担当審判官としては、勝たせようとしている側の主張については、負けさせようとしている側に比してさほど気を遣わないものである。 なぜなら、裁決書上は勝たせようとしている側の主張をわざわざ取り上げて吟味する機会が乏しいからであり、むしろ、法規審査担当者から「審理不尽」と指摘されないために、負けさせようとしている側の主張が認容されないことについての説示に相当程度気を遣うことになる。 そういった点で、担当審判官は、負けさせようとしている側の主張の排斥が裁決書においてしやすいように取りまとめたいという動機が働くことがある。 (3) 負けさせようとしている側の主張整理の特徴 そうすると、「争点の確認表」に記載されている審理関係人双方の主張について、その出典(審査請求書・答弁書・反論書・意見書・求釈明事項回答書等)を確認した場合に、 といったときには、その加工されている側の主張については、裁決書において負けさせようとしている側の主張を排斥しやすいような環境設定をしている可能性がある。 そういった点で、見る人が見れば、審理手続終結前とはいえども、国税不服審判所がいずれを勝たせたいか(負けさせたいか)について察しがつくことがある。 (4) 「自己を負けさせようとしている」と察した場合 仮に、「自己(審査請求人)を負けさせようとしている」と察した場合には、主張の補充・変更等を検討しなければならないだろう。 このように、「争点の確認表」は、審査請求書の提出から裁決書謄本の発送までの一連の審理手続の一里塚であるといえども、その判断の趨勢を見極める重要な機会となるのである。 (了)

#No. 490(掲載号)
#大橋 誠一
2022/10/13

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第80回】「タキゲン事件」~最判令和2年3月24日(集民263号63頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第80回】 「タキゲン事件」 ~最判令和2年3月24日(集民263号63頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 490(掲載号)
#菊田 雅裕
2022/10/13

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第131回】東京産業株式会社「特別調査委員会調査報告書(2022年7月28日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第131回】 東京産業株式会社 「特別調査委員会調査報告書(2022年7月28日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【東京産業株式会社特別調査委員会の概要】   【東京産業株式会社の概要】 東京産業株式会社(以下「東京産業」と略称する)は、1942年4月設立(設立時の社名は大和機械株式会社)。東京建材工業株式会社への商号変更を経て、1947年7月、三菱商事株式会社機械部有志が経営権を譲り受ける形で東京産業株式会社に商号を変更し、同年10月に一般産業機械及び器具類の国内販売、輸出入を業とする機械専門商社として新発足。各種機械・プラント・資材・工具・薬品などの国内販売及び貿易取引を主たる事業内容とする。売上高58,872百万円、経常利益2,625百万円、資本金3,443百万円。従業員数312名(2022年3月期実績)。三菱重工業株式会社が発行済株式の14.85%を所有する筆頭株主である。本店所在地は東京都千代田区。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人は有限責任あずさ監査法人東京事務所(以下「あずさ監査法人」と略称する)。   【特別調査委員会調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 東京産業は、2022年1月17日から開始した東京国税局による税務調査の過程において、営業第三本部プラントインフラ機器部国際インフラ課所属(当時)のX氏が関与する一部取引について、4月下旬に、取引の実体に疑義のある売上等が存在する(本件架空取引疑義)との指摘を受け、社内調査を実施したところ、販売取引の一部において計上根拠の確認できない取引があったほか、一部の仕入先に対して実体の伴わない送金を行っていたことが判明した。 これに伴い、東京産業は、2022年3月期決算において、実体が伴わないと考えられる売上高及び売上原価についてはこれを取り消すとともに、支払済の金額528百万円については回収可能性が現時点では見込まれないことからその全額について貸倒引当金を計上し、貸倒引当金繰入額を特別損失として処理した上で、同年5月13日付でこれを適時開示した。 また、X氏から提示を受けた通帳履歴データを調査したところ、多額の現金による入出金 が判明し、X氏による横領の可能性を含んだ資金流出の疑義(本件資金流出疑義)が認識された。 こうした、不適切な売上処理及び資金流出の疑義(本件疑義)に対し、東京産業は、これらの事実経緯及び会計上の影響額等の正確な把握には、より広範かつ深度ある調査が必要な状況にあると判断し、特別調査委員会を設置して、本件架空取引疑義、本件資金流出疑義及びこれらに類似する事象の有無の調査並びに東京産業の財務諸表への影響額の算定、原因究明及び判明した事実を踏まえた再発防止策の検討のため、調査を委嘱した。 2 特別調査委員会の調査により判明した不正の概要 特別調査委員会は、X氏による不正行為を「架空取引疑義」と「資金流出疑義」とに分けて調査を行っている。「架空取引疑義」の多くは、海外インフラ事業を仮装した架空循環取引で、架空循環取引における資金の一部がX氏及びX氏の配偶者個人名義の預金口座に入金されているというのが「資金流出疑義」である。 (1) 架空取引疑義の概要 特別調査委員会は、架空取引疑義の概要を次のように説明している。 調査対象期間にX氏が起票した売買約報告書に対する悉皆調査を行った結果、実体のない資金移動が実行され、架空の売上高及び売上原価が計上されていた。これらは、案件ごとの利益確保のために行われた原価の付替や他社への立替払いの依頼を発端として、その清算のために架空取引が創出され、その偽装のため、多数の実体のない資金移動が行われたものである。 こうした行為はいずれも基本的にX氏個人により考案、実行されており、東京産業の組織的関与を示す証拠は発見されなかったものの、X氏の同僚であったA氏は、架空取引のための書類の作成や入出金の依頼などにおいて、深く関与していることが認められた。しかし、A氏の架空取引等への関与は、自ら積極的・能動的に行ったものではなく、X氏の指示どおり作業を行ったものにすぎず、消極的・受動的なものであった。 なお、特別調査委員会がまとめた、X氏による架空取引等が売上高、売上原価及び売上総利益に与える影響額については、次のとおりである。 〈架空取引等の金額的影響〉 (2) 資金流出疑義の概要 次いで、特別調査委員会は、資金流出疑義の概要を次のように説明している。 調査の結果、東京産業から支出された資金の一部について、X氏が個人的に関係を持つ不詳先に対する資金流出が行われていたことが判明し、その一部がX氏個人に還流していた可能性が極めて高いという結論となった。 これらは、上記の架空取引等において架空仕入代金として支払われた資金について、X氏の指示により、別の一ないし複数の架空取引を通じて資金流出先に資金を移動させることによって実行されたものである。 特別調査委員会は、東京産業から流出した資金約6億6千万円のうち、X氏及びX氏の配偶者の口座への現金入金額約3億円が、複数の会社を通してX氏に還流した資金である可能性について否定できないものと思料するとまとめている。 (3) 損益に対する影響額 東京産業は、5月13日、2022年3月期決算短信の公表と同時に「特別損失の発生に関するお知らせ」をリリースしており、一部の仕入先に対して実体の伴わない送金を行っていたこと、送金済の金額については回収可能性が現時点では見込まれないことから、特別損失に貸倒引当金繰入額528百万円を計上したことを公表している。 3 原因分析(調査報告書52ページ以下) 特別調査委員会は、原因分析にあたって、「本件架空取引等については、基本的にはX氏個人により単独で考案、実行されたものである」と結論を述べたうえで、その動機について、X氏本人又はその周辺への資金流出を行うためであった可能性が高い一方で、取引の赤字を隠して案件を成功裏に進める、取引先との関係を良好にして更なる案件獲得につなげる、ひいてはX氏が開拓した新事業であるワ事業を当社の主力事業として根付かせるといった側面があったことは否定できないとしている。 そのうえで、本件架空取引等が行われ得た背景としての社内の原因について、次の6項目を列挙している。 ここでは、特別調査委員会が指摘している「X氏の立場の特殊性」と「ひとり商人文化の負の側面」について、分析を確認しておきたい。 特別調査委員会による調査の結果、X氏の業務姿勢には著しい問題があったものの、X氏は問題行為を根本的に改めることはなく、社内では、こうした態度が許容されていた。その理由としては、X氏が開拓した海外インフラ事業では、X氏の営業面での貢献度に関する依存度が高く、さらに、X氏の入社時の上司がのちに上級役員となっていたことから、X氏の課内での立場が聖域化し、その結果、真正でない書類による取引申請、必要書類なしでの取引申請、直属の上司への報告の懈怠などの手段により本件架空取引等が実行しやすく、またその露見を防ぐ形になったものといえるという結論を導いている。 次いで、「ひとり商人」文化の負の側面について、特別調査委員会は、各営業担当者が自己の案件に一貫して責任を負う「ひとり商人」文化が東京産業の社風にあり、業務フローも、成約から受渡までのプロセスを一人の担当者が一気通貫で行うことを前提として設計されているとしたうえで、X氏が手掛ける海外インフラ事業は、調達業務の煩雑性が高いことによる担当者の負担の増加や、売り先・買い先とも多数の取引先と自由度の高い付き合いが発生する中で不正リスクが高まる危険性などのデメリットがあるにもかかわらず、本件架空取引等においては、組織的な管理ができておらずX氏任せにしている形跡が多くみられ、牽制機能が十分に働いていなかったことが窺えることから、既存のビジネスと性質が異なる事業において、「ひとり商人」文化の負の側面が強調され、本件不正行為等の遠因となったものと指摘している。 4 再発防止策の提言(調査報告書56ページ以下) 特別調査委員会は、上記の原因分析を踏まえて、再発防止策として次の6項目を提言している。 ここでは、特別調査委員会が、本件不正行為等の遠因となったと指摘した「ひとり商店」の文化の負の側面を軽減するために必要であるとした「組織的な統制、管理のための仕組みづくり」を見ておきたい。特別調査委員会は、具体的には、次のような提言を行っている。 さらに、特別調査委員会は、本件架空取引等の発見の遅れの原因として内部監査が軽視されていた点があったことから、現場部門では、内部監査による指摘事項の発生原因を究明し、これを考慮した形で是正を行うべきであり、一方、内部監査部門においても、指摘事項について改善状況をより深く注視していくことを求めている。そのためには、営業関連の論点に主眼が置かれている印象を受ける現在の監査から、法的リスクや会計リスク等についてもより一層深度ある監査とすべきであり、内部監査部門の人員の充実が必要不可欠であると提言を結んでいる。   【調査報告書の特徴】 三菱重工業株式会社が筆頭株主であり、電力会社をはじめとする大手の安定的な取引先を有する老舗機械商社である東京産業で、東京国税局による税務調査の過程で発覚した架空取引は、首謀者による横領事件へと拡大した。事件発覚当時、営業第三本部プラントインフラ機器部国際インフラ課に所属していたX氏は、2009年4月入社。赤字商談隠しのための原価付け替えから不正をスタートして、業績向上を仮装するための架空売上を創出し、さらには、自身の預金口座に多額の金員を出捐させるまでに至ったのか。特別調査委員会による調査結果では、X氏の動機については必ずしも詳らかにはならなかった。 1 不正関連損失の計上 東京産業が7月29日に公表した「第112期有価証券報告書」によれば、2022年3月期において、売上高1,166百万円及び売上原価1,093百万円を取り消すとともに、不正事案により生じた損失808百万円を不正関連損失として特別損失に計上しているということである。不正関連損失の明細は明らかにされてはいない。 既に記したとおり、東京産業が5月13日に公表した「2022年3月期決算短信」の段階では、特別損失として、貸倒引当金繰入額528百万円が計上されており、損失増加分は283百万円である。 2 会計監査人であるあずさ監査法人の対応 東京産業の「第112期有価証券報告書」では、会計監査人であるあずさ監査法人による無限定適正意見の附された監査報告書が添付されている。その中では、監査上の主要な検討事項として、「架空循環取引により不正に計上された売上の修正処理の適切性」が挙げられており、あずさ監査法人は、監査上の対応として、以下のように説明している。 特別調査委員会による「ヒアリング対象者一覧」にはあずさ監査法人は含まれていないが、調査状況の説明を受け、質問し、調査報告書を閲覧しているとのことであるが、会計監査手続の中で、架空循環取引が発見できなかったことに関して、特別調査委員会及びあずさ監査法人がどのように判断しているのかについては言及がない。 3 なぜ内部通報制度は機能しなかったのか 調査報告書11ページに、東京産業の「内部通報制度」に関する説明がある。 東京産業では、2022年6月の改正公益通報保護法施行前は、内部通報に係る正規の規定はなく、社内通達として「公益通報取扱内規」があり、同内規では、内部通報について「従業員等からの組織的または個人的な法令違反行為等に関する相談または通報」の受付窓口はコンプライアンス協議会事務局(総務人事部人事課長)とされていたが、過去10年間の当該内規に基づく内部通報件数はゼロであった。2022年6月1日には、改正公益通報保護法の施行に伴い、正規規定として「内部通報に関する内部規定」が制定、運用されているが、本報告書日現在までの内部通報件数はゼロであった。 さらに、特別調査委員会が6月22日に設置・運用した情報提供窓口への情報提供もゼロであった。 X氏の同僚であったA氏は、特別調査委員会によって、「架空取引のための書類の作成や入出金の依頼などにおいて、深く関与していることが認められる」と評されているのだが、調査報告書には、A氏がなぜ上司に相談したり、内部通報を行ったりといった行動に出なかったのかについての言及はない。 こうした事象からは、東京産業においては、内部通報制度が機能しづらい組織風土が存在するのではないかという推察が成り立つのではないか。そこで、特別調査委員会による再発防止策に加えて、「なぜ、内部通報窓口が機能しなかったのか」を検討したうえで、改正公益通報保護法の施行に伴って正規規定とした「内部通報に関する内部規定」の運用を実効性のあるものにすることが必要であることを附言したい。 4 役員報酬の自主返上に関するお知らせ 東京産業は、2022年8月29日、「役員報酬の自主返上に関するお知らせ」をリリースして、「この度の事態を重く受け止め、経営責任を明確化するため」に、次のとおり、役員報酬を自主返上することを公表した。 なお、同リリースでは、東京産業は、「調査報告書を踏まえた再発防止策を策定中であり、策定次第速やかに開示いたします」とのことであるが、本稿執筆現在(10月7日)、東京産業による再発防止策は開示されていない。 (了)

#No. 490(掲載号)
#米澤 勝
2022/10/13

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2022年9月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年9月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年9月1日から9月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 企業価値関係 経済産業省の「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」が「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」と「価値協創ガイダンス2.0」を公表している。 「サステナビリティ・トランスフォーメーション」(SX)の実践の重要性及びSXの実現に向けた具体的な取組、ガイダンスについて述べている。   Ⅲ 人的資本関係 内閣官房の非財務情報可視化研究会が「人的資本可視化指針」を公表している。 指針は、特に人的資本に関する資本市場への情報開示の在り方に焦点を当てており、既存の基準やガイドラインの活用方法を含めた対応の方向性について包括的に整理した手引きである。   Ⅳ 人権尊重のためのガイドライン関係 日本政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定している。 欧米を中心に人権尊重を理由とする法規制の導入が進み、企業として取組の強化も求められていることもあり、わが国において、サプライチェーンにおける人権尊重の取組に関する業種横断的なガイドラインを作成するものである。   Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A」(非保証業務以外の項目)の仮公表(内容:非保証業務以外に関する項目を対象にして、改正倫理規則の適用上の留意点を示す) ② 倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A」(非保証業務等に関する項目)(公開草案)(内容:非保証業務等に関する項目を対象にして、改正倫理規則の適用上の留意点を示す) (了)

#No. 490(掲載号)
#阿部 光成
2022/10/13

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第31回】「ハラスメントの懲戒処分の勘所」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第31回】 「ハラスメントの懲戒処分の勘所」   弁護士 柳田 忍   【Question】 ハラスメント事案の行為者に対して、懲戒処分を科すべきか否か、懲戒処分を科すべきとしてどの種類の懲戒処分を科すべきかについて、判断に迷うことがよくありますが、判断のポイントなどはありますか。 【Answer】 懲戒処分を実施するべきか否かや、いかなる種類の懲戒処分を科すべきかは、非違行為が犯罪行為に該当するなど重大なものか、行為者に対して事前に注意・指導を行うなどして改善の機会を与えたか等の基準に照らして判断することがポイントになります。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 ハラスメントと懲戒処分 懲戒処分とは、企業秩序に違反した労働者に対して科される制裁罰であり、使用者が一方的に行うものである。懲戒処分の行使が認められるためには、労働契約法上の根拠が必要であり、労働協約や個別の労働契約、就業規則等に懲戒の種別及び事由を定めておく必要がある。 また、懲戒処分を行うためには、労働者の非違行為が就業規則等に定めた懲戒事由に該当し、かつ、懲戒処分が対象労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められなければならない(労働契約法15条)。 ハラスメント防止措置の一環として、ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、ハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等の文書に規定することが求められているため、多くの企業の就業規則等において、各種ハラスメントは懲戒事由として定められているものと思われる。 問題は、ハラスメント行為が懲戒事由に該当するとしても、懲戒処分に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるか否かという観点から、懲戒処分を行ってもよいものか、懲戒処分を行うとしてもどの種類の懲戒処分を行うべきか、という点である。 非違行為に照らして懲戒処分が重すぎる場合は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、懲戒処分が無効になる。一方、非違行為に照らして懲戒処分が軽い場合には、基本的にはその処分の有効性が争われることはなく、また、仮に争われたとしても、当該懲戒処分の有効性は否定されないであろうが、今後の同種事案の懲戒処分に影響を与えるおそれがある。すなわち、懲戒処分の規定は従業員に公平に適用されなければならず、同種事案には同程度の懲戒処分が科されなければならないという原則があり、同種事案に照らして不当に重い処分は無効となる可能性があるのである。 よって、下手に軽い懲戒処分を行うと、今後、同種事案の行為者に対して重い懲戒処分を科すことが困難となる可能性があるので、懲戒処分を行う際には、重すぎず、軽すぎないよう、慎重な判断が必要となる。   2 懲戒処分を実施するか否かの判断基準 まず、そもそも懲戒処分を実施するべきか否かで判断に迷うことも多いであろうが、以下の全てないし多くを満たす場合は、懲戒処分を実施しないという判断も合理的ではないかと思われる。 上記①については、ある言動がハラスメントに該当するか否かは、当事者の関係、当該言動がなされた状況、当該言動の態様等、様々な要素を考慮して判断されるものであり、ある言動がハラスメントに該当するか否かを決めることは簡単ではないことが多い。しかし、例えば、殴る、蹴る、物を投げつけるといった有形力の行使、「クビにしてやる」、「死ね」といった暴言、相手に性行為を強要する行為、女性の胸や臀部などを触る行為などは、どのような状況でなされたとしても問題になる可能性が高いであろうことに異論はないであろう。このような言動がなされたか否かが、まずは、懲戒処分を行うべきか否かの判断基準となり得る。 上記②については、事前に改善の機会が与えられた(が改善せず、再びハラスメント行為に及んだ)か否かが懲戒処分の有効性を判断する要素となり得るため、行為者が過去にハラスメント行為に及んで注意・指導等を受けたか否かも、懲戒処分を行うべきか否かの判断基準となり得る。 上記⑦については、被害者が精神疾患等を発症したか否かはあくまで結果に過ぎないことではあるし、ハラスメント(だけ)が原因で精神疾患等を発症したかも定かではない場合もある。しかし、被害者がハラスメントを受けたタイミングで精神疾患等を発症した場合、当該精神疾患等はハラスメントに起因すると推測されることが一般的であるし、精神疾患等を発症するほどのハラスメントが行われたことの推測が働くため、懲戒処分を行うべきか否かの判断基準となり得る。 上記⑧について、行為者が業務過多のストレス等によりハラスメント行為に及ぶケースがよく見られる。この場合は、ハラスメントの責任は会社側にもあると評価することも可能であり、必ずしも行為者のみを責められない場合もあろうことから、行為者を懲戒処分の対象としないという判断もあり得る。 上記⑨については、主に、被害者の勤務態度が著しく悪かったり、行為者を挑発したりしたため、行為者がかっとなってハラスメント行為に及んだ場合などが考えられる。被害者側に非があるからといって、ハラスメント行為が認められなくなるわけではないが、行為者に制裁を科すべきかという観点からは、考慮に入れる余地がある。   3 懲戒処分の種類を決める判断基準 一般に、軽い順から、譴責、減給、出勤停止、懲戒解雇といった種類の懲戒処分を規定しているケースが多いものと思われるが、懲戒処分をするべきであると判断した場合、譴責・減給といった比較的軽めの処分にするか、出勤停止といった比較的重めの処分にするか、懲戒解雇という最も厳しい処分にするかで迷うこともあろう。この場合の判断基準は以下のとおりである。 まず、懲戒解雇は労働者にとって死刑宣告に等しいとも言われる厳しい処分であるから、これを行うことができるのは限られた場合となる。例えば、非違行為が、殴る、蹴るといった暴行罪(刑法208条)・傷害罪(同204条)、脅すといった脅迫罪(同222条)、性行為を強要するといった強制性交等罪(同177条)、暴行又は脅迫を用いて体に触るといった強制わいせつ罪(同176条)等、犯罪行為に該当する場合には懲戒解雇処分とすることに客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性が認められることが多いであろう。 また、上記のとおり、事前に改善の機会が与えられた(が改善せず、再びハラスメント行為に及んだ)か否かは懲戒処分の有効性を判断する重要な要素となり得るところ、特に懲戒解雇のような重い処分については、事前に改善の機会が与えられていない場合は、無効となる可能性が高い(T大学事件(東京地判平成27年9月25日労経速2260号13頁)は、行為者と被害者が少なくとも外面的には良好な人間関係を保っており、行為者の言動により被害者が深刻な被害感情を持っていることに行為者が思い至らなかったとしてもやむを得ないこと等からすると、より軽い処分を経て改善・更生の機会を与えないまま、大きな経済的損失を伴う停職処分を科したことは社会通念上相当性を欠く旨判示し、2ヶ月の停職処分を無効とした)。 よって、基本的には、過去に注意・指導や懲戒処分を受けて改善の機会を与えられた場合でなければ、懲戒解雇を選択するべきではないということになる(もっとも、犯罪行為のような、改善の機会を与えられるまでもなく悪質であることが明らかな非違行為については、改善の機会が与えられていなくても、懲戒解雇が有効になる余地がある)。 一方、出勤停止については、出勤停止処分の期間中は無給となるため、その期間次第では労働者に大きな不利益を与えるものとなり、労働者から処分無効の主張がなされるリスクが高いものであるから、譴責・減給とするか、出勤停止とするかについても慎重な判断が必要となる。原則として、事前の注意・指導等がない非違行為については、出勤停止処分を科さないことが安全であるといえよう。 (了)

#No. 490(掲載号)
#柳田 忍
2022/10/13

《編集部レポート》 第48回日税連公開研究討論会が東京で開催~3年ぶりの会場開催、ライブ配信とのハイブリット化も実現~

《編集部レポート》 第48回日税連公開研究討論会が東京で開催 ~3年ぶりの会場開催、ライブ配信とのハイブリット化も実現~ Profession Journal 編集部   2022年10月7日(金)、日本税理士会連合会(神津信一会長)は、第48回日税連公開研究討論会を開催した。 昨年は新型コロナウイルスの影響を受けライブ配信のみでの実施となったが、本年は来場者全員に抗原検査キットを配布するなど徹底した感染対策の下、3年ぶりに会場での開催となった。また、同時にライブ配信も行うことで、遠方からも視聴可能なハイブリット化を実現した。 公開研究討論会は、税理士による研究成果の発表、討論の過程を通じて、税制・税務行政及び税理士業務の改善・進歩並びに税理士の資質の向上を図るとともに、本会が行う研修事業に資することを目的として実施する、との理念の下、毎年開催されているもの。 今回の担当は、東京税理士会が第一部テーマ「税制の歪みを糺(ただ)す」、第二部テーマ「人生100年時代における資産形成と税制のあり方」というテーマで発表を行った。 当日は全国から税理士が集い、研究発表の成果へ熱心に耳を傾け、来賓として小池百合子東京都知事が来場、冒頭に祝辞を述べられたほか、河野太郎デジタル大臣からもビデオメッセージが届いた。 当日の研究発表の模様は、後日、日税連HP(会員専用ページ)から視聴できる。 (東京会の発表の様子) (了)

#No. 490(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2022/10/13
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