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《速報解説》 会計士協会、2度の意見募集を経て「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」を確定~現時点で考え得る作成上の留意点及び文例を取りまとめる~

《速報解説》 会計士協会、2度の意見募集を経て「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」を確定 ~現時点で考え得る作成上の留意点及び文例を取りまとめる~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年8月19日付けで(ホームページ掲載日は2021年8月26日)、日本公認会計士協会は、監査・保証実務委員会研究報告第35号「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」を公表した。 これにより、2021年1月18日から2月1日までの間及び同年6月8日から6月29日の間に意見募集されていた公開草案が確定することになる。 公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 適用範囲 研究報告は、金融商品取引法及び会社法に基づく監査において、一体書類として作成された「有価証券報告書兼事業報告書」に含まれる財務諸表及び連結財務諸表(以下「財務諸表」という)に対する監査報告書に関して、現時点で考えられる作成上の留意点及び文例を取りまとめたものである(1項)。 研究報告は、有価証券報告書と事業報告等を一体の書類として同時に開示する「一体書類」としての有価証券報告書兼事業報告書に含まれる財務諸表に対する監査報告書を対象としている(3項)。 2 財務報告の枠組み 一体書類に含まれる財務諸表に対して監査を行う場合、財務報告の枠組みの組合せについて、次の2つの解釈があると考えられる(7項)。 研究報告は、新たな実務として、これらの方法のうち、金融商品取引法及び会社法それぞれの財務報告の枠組みに関して別個の監査報告書を発行せず、単一の監査報告書を発行する場合の監査報告書の文例を提供している(7項。付録文例1から文例4)。 研究報告においては、一体書類に「適用される財務報告の枠組み」は、金融商品取引法の財務報告の枠組み(金融商品取引法193条)及び会社法の財務報告の枠組み(会社法431条)の両方が「同時に」又は「組み合わせて」適用されるという考え方によっており、会計処理に関する基準は金融商品取引法及び会社法に共通であるものの、表示及び開示に関する規則は異なるものである(18項)。 3 適用される財務報告の枠組みの考え方(特に、キャッシュ・フロー計算書の会社法上の取扱い)について 研究報告が対象としている一体書類に含まれる財務諸表に対する監査報告書については、適用される財務報告の枠組みをどう考えるか、また、会社法に基づく監査の対象をどう考えるかによって、様々な考え方があり、いまだ確立した考え方がないと考えられている(17項)。 様々な考え方があることから、研究報告は、次の両方の考え方による監査報告書の文例を示している(17項)。 文例1及び文例2は、2つの財務報告の枠組みが同時に適用されている場合、並びに金融商品取引法及び会社法の枠組みを組み合わせた単一の財務報告の枠組みが適用されている場合の両方に適用可能であるのに対して、文例3及び文例4は、前者の場合にのみ適用可能であり、適用される財務報告の枠組みを問わず汎用可能な点において、実務上は、文例1及び文例2の利用が好適であると考えられる。 実務上の汎用性にかかわらず、会社法に基づく監査において、キャッシュ・フロー計算書を対象外とすることを監査報告書の文面において明らかにしたいと考える場合には、文例3及び文例4を利用することが考えられる。 4 キャッシュ・フロー計算書 キャッシュ・フロー計算書については、次の2つの考え方がある(8項)。 なお、詳しくは「財務報告の枠組みの考え方と監査報告の関係の整理」の図表をご確認いただきたい。 5 一体書類に含まれる財務諸表に対する監査報告書と内部統制監査報告書の一体作成 有価証券報告書提出会社が金融商品取引法及び会社法に基づき一体書類を作成する場合であっても、財務諸表監査に係る監査報告書と内部統制監査報告書を一体として作成することを妨げる重要な理由が見当たらないことから、研究報告においては一体として作成することとしている(22項)。 (了)

#No. 433(掲載号)
#阿部 光成
2021/08/30

《速報解説》 会計士協会が電子化等の促進に向け「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」及び「監査報告書の文例」を改正~連結計算書類に対する監査報告書(文例14)を除き適用は原則本年9月1日~

《速報解説》 会計士協会が電子化等の促進に向け「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」及び「監査報告書の文例」を改正 ~連結計算書類に対する監査報告書(文例14)を除き適用は原則本年9月1日~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年8月19日付けで(ホームページ掲載日は2021年8月26日)、日本公認会計士協会は、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」における公認会計士法の改正等を受けて、次のものを公表した。これにより、2021年7月26日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 これは、2021年5月19日に公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」における公認会計士法の改正並びに2021年8月4日に公布された「公認会計士法施行規則」、「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」及び「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令」の改正を受けたものである。 これらの法令の改正により、監査報告書等(監査報告書、中間監査報告書又は四半期レビュー報告書)への自署、押印を求めている規定は署名のみに変更され、さらに監査報告書等の交付を署名された書面に代えて、電磁的方法、すなわち電子化された監査報告書等によって行うことができることとなる。 公認会計士法の改正は2021年9月1日から施行される。 適合修正の対象となる監査基準委員会報告書についても示されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 監査基準委員会報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」 主に次の事項が改正されている。 改正後の監査基準委員会報告書700は、2021年9月1日から適用する。   Ⅲ 「監査報告書の文例」(監査・保証実務委員会実務指針第85号) 主に次の事項が改正されている。 改正後の監査・保証実務委員会実務指針第85号は、2021年9月1日以後に提出する監査報告書から適用する。 文例14 の連結計算書類(会社計算規則第120条第1項後段の規定により指定国際会計基準又は同規則第120条の2第3項において準用する同規則第120条第1項後段の規定により修正国際基準で求められる開示項目の一部を省略して連結計算書類が作成されている場合)に対する監査報告書については、2021年12月31日以後終了する連結会計年度に係る監査報告書から適用する。 (了)

#No. 433(掲載号)
#阿部 光成
2021/08/30

《速報解説》 経産省、「デジタル経済下における国際課税研究会」による中間報告書を公表~G20大枠合意に伴う課題等への検討を行い、今後の対応の方向性を示す~

《速報解説》 経産省、「デジタル経済下における国際課税研究会」による中間報告書を公表 ~G20大枠合意に伴う課題等への検討を行い、今後の対応の方向性を示す~   公認会計士・税理士 霞 晴久   経済産業省は、経済のデジタル化が加速する中、我が国が「投資立国」として持続的に成長を続けるため、国際的な議論を踏まえつつ、内外市場における公平な競争環境を整備し、日本企業の競争力強化及び経済活性化に資する公正な国際課税の在り方を検討することを目的として、本年3月、「デジタル経済下における国際課税研究会」を設置し、6回の議論を重ね、8月19日に中間報告書(以下「報告書」という)を公表した。 報告書ではまず、本年7月9、10日のG20財務大臣・中央銀行総裁会議において、2015年のBEPS最終報告以降検討課題となっていた「経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応」について、デジタル企業等多国籍企業から市場国に新たな課税権を配分する措置(ピラー1)(※1)及び居住地国から軽課税国への資産・事業の移転を防止し、各国間の法人税の引下げ競争を防止する措置(ピラー2)(※2)が、一体のものとして大筋合意に至った(最終合意は本年10月の予定)とし、その上で、この間の米国及び欧州の独自の動向について詳述している。 (※1) 200億ユーロ超の全世界売上高及び10%の税引前利益率を有する多国籍企業の利益について、売上の10%を超える残余利潤の20%~30%を市場国に配分する制度。 (※2) 自国の多国籍企業に対し15%の最低税率で追加課税する制度。導入は各国で任意。課税標準から一定額の控除を認める適用除外措置(カーブアウト)がある。 次に報告書は、デジタル企業が市場国にPE等を必要とせず、創出した付加価値に応じた法人税を市場国に納税していない状況は我が国にも妥当するとし、上記国際合意(ピラー1)の早期発効に期待すると述べる。なお、早期に発効した段階においては、ピラー1と目的が類似する諸外国におけるデジタルサービス税等は、速やかに廃止されることが、二重課税の排除を通じた国際投資の活性化等の観点から重要であるとしている。ただし、我が国に残された課題として、外国企業による越境取引(オンラインゲーム等)に対する消費税の適正化や、外国企業の日本子会社等による租税回避対策(利子以外の損金算入支払を制限する措置等)も検討する必要があるとし、万が一、ピラー1の発効が遅れた場合、国際的な合意が実現するまでの過渡的な措置として、日本としての具体的対応について検討を深めていく必要があるとも述べている。 ピラー2の最低税率課税については、収益源たるデータなど無形資産の軽課税国への移転の可否といった事業の特質によってグローバルな税負担格差が生じており、このような状況を是正し、グローバルに公正な競争環境を構築する観点から、各国がグループ企業の最終親会社に対してグローバルに共通する最低限の税負担を課すピラー2は、価値ある取組みであると述べる。ただし、今後の最終合意や国内法化に当たっては、①導入時期については我が国企業の競争相手国である欧米、中韓等との関係を考慮すべき、②現地に実体ある経済活動を有する事業(製造業)の税負担への配慮、③既存のCFC税制(海外子会社合算税制)との関係整理及びその簡略化、④国内における無形資産の形成及び利用を促進する税制の在り方について検討が必要としている。 最後に報告書は、中長期的な観点で国際課税の難局に対応する解決策として、国境税調整(輸出免税、輸入課税)の導入を通じて、創造された価値を消費地で課税する税制に移行する考え方を提案する。具体的には、米国で議論されている仕向地主義キャッシュフロー税(DBCFT:Destination Based Cash Flow Tax)である。DBCFTは、価値創造地の特定や各国間の価値の配分を求めない点で、現状の国際課税が抱える諸問題を一部抜本的に解決することに繋がる可能性があると結んでいる。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 433(掲載号)
#霞 晴久
2021/08/26

プロフェッションジャーナル No.433が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年8月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.433を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/08/26

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第5回】「遡及立法禁止原則と財産権の「制約」」-「損益通算廃止」年度内遡及[千葉]事件・最判平成23年9月22日民集65巻6号2756頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第5回】 「遡及立法禁止原則と財産権の「制約」」 -「損益通算廃止」年度内遡及[千葉]事件・最判平成23年9月22日民集65巻6号2756頁-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 今回は、租税法律主義(形式的租税法律主義)の要請のうち遡及立法禁止原則ないし租税法律不遡及の原則(拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)【35】参照)に関して「損益通算廃止」年度内遡及[千葉]事件・最判平成23年9月22日民集65巻6号2756頁(以下「本判決」という)を取り上げる。本件は、平成16年度税制改正における土地建物等の譲渡損失に係る損益通算制度の廃止措置のいわゆる年度内遡及の合憲性が争われたものである。 遡及課税(遡及立法に基づく課税)は、憲法が明文の規定で禁止する遡及処罰(39条前段)とは異なり、憲法上禁止されてはいない。もっとも、そもそも租税法律主義の目的が納税者に不当な不利益をもたらす課税の阻止にあることを考慮すると、遡及立法のうち納税者に不利益な遡及適用を認めるものは、原則として許容されないという遡及立法禁止原則は、成り立つであろう。租税法律主義はその「趣旨」を含んでいるといってもよかろう(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)121頁参照)。 問題は、遡及立法禁止原則に対する例外の許容性である。その許容性の判断に当たっては、遡及立法における租税法律主義の根拠(課税の民主的正統性)と機能(課税の予測可能性・法的安定性)との抵触に鑑み、両者の比較衡量、すなわち、民主的正統性をもつ立法によって遡及課税を定める必要性と予測可能性・法的安定性に反する遡及課税によって損なわれる利益との比較衡量によって、遡及立法の許容性を判断する枠組みを採用するのが相当である(前掲拙著【36】参照)。筆者は以前からそのような判断枠組みを説いてきたが(拙稿「滑り込みセーフ!?」佐藤英明編著『租税法演習ノート〔初版〕租税法を楽しむ21問』(弘文堂・2005年)286頁、292頁参照)、「損益通算廃止」年度内遡及[福岡]事件・福岡高判平成20年10月21日判時2035号20頁も次のとおり同様の判断枠組みを判示したところである(下線筆者)。 ただ、この判示を読んだ当初は、上記引用文中の末尾の括弧書で国有農地売払特措法事件に関する昭和53年最高裁大法廷判決(以下「昭和53年最大判」という)が「参照」されていること(「損益通算廃止」年度内遡及[東京等]事件・東京地判平成20年2月14日判タ1301号210頁も同じ)がさほど重要な意味をもつとは考えていなかった。昭和53年最大判も一種の遡及立法(「財産権の遡及的制約」)の事案について、次のとおり判示して(下線筆者)比較衡量の判断枠組みを示したものであることから、前掲福岡高判も、「総合的に勘案」する事情(以下「総合勘案事情」という)は異なるものの、同じく比較衡量の判断枠組みを示したものとして「参照」したにすぎないのではないかと考えていたのである。   Ⅱ 本判決における昭和53年最大判の「参照」の意味 ところが、本判決は、次のとおり判示して(下線筆者)、比較衡量の判断枠組みだけでなく総合勘案事情をも含めて昭和53年最大判を「参照」して、損益通算廃止の年度内遡及の合憲性について判断した。 本判決を初めて読んだとき、昭和53年最大判の「参照」の意味が前掲福岡高判を読んだときに考えていた意味と異なるように思われ、同時に、次のような疑問も生じた。すなわち、参照されている平成18年最高裁大法廷判決(第1回参照)は憲法84条の規定内容につき同じ説示を行っているが、本判決のこれに続く説示すなわち「これにより課税関係における法的安定が保たれるべき趣旨を含むものと解するのが相当である。」という説示は少なくとも明示的には行っていないところ、このような説示は租税法律主義から当然導出されることであるから平成18年最高裁大法廷判決は敢えて明示的に説示しなかっただけであると解するにしても、本判決はなぜ「課税関係における法的安定」のみに言及し、通常これと抱合して租税法律主義の「趣旨」(機能)として説かれる予測可能性には言及しなかったのか。 この点については、本判決は、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能(前掲拙著【11】)のうち予測可能性という主観的側面を敢えて前面に出さず、その客観的側面としての「課税関係における法的安定」にのみ言及し、もって総合勘案事情から(前掲福岡高判の③のような)主観的要素を排除することによって、比較衡量の判断枠組みを客観化しようとしたものと理解した(前掲拙著【36】参照)。 加えて、比較衡量の判断枠組みの客観化は、本判決が「課税関係における法的安定」を「納税者の租税法規上の地位」と結びつけ、しかも「暦年途中の租税法規の変更及びその暦年当初からの適用」が「最終的には国民の財産上の利害に帰着する」ことを考慮することによって、「納税者の租税法規上の地位」を「法律で一旦定められた財産権」に準じて「実体的権利」として構成する、という論理操作を通じても、図られているように思われる。この意味では、本判決は損益通算廃止の年度内遡及に関する合憲性審査について法的基準による客観的審査を行ったものといってもよかろう。 上記の論理操作は、「納税者の租税法規上の地位」について「いわば既得の利益」(「損益通算廃止」年度内遡及[東京等]事件・最判平成23年9月30日判時2132号39頁の千葉勝美裁判官補足意見)を認めるものであると考えられることからすると、論理的には、成り立ち得るものである。というのも、憲法29条の財産権保障について、「本条1項は、私有財産制ないし法制度を保障することに加えて、本条2項に基づき[財産権の]内容を形成する法律により私人が現に保有している個別的・具体的な財産上の権利を、保障する」(長谷部恭男編『注釈日本国憲法(3)』(有斐閣・2020年)125-126頁[宍戸常寿]。下線筆者)とされ、「この[後者の]『現存保障』が真に問題となるのは、既に財産権の内容を定めた法律(A)が後に法律(B)に変更されたという事例」であり、とりわけ「法律(A)の下で成立した権利(a)が、法律(B)によってその内容を(b)に変更させられる、といった事後法の事例」(昭和53年最大判はこれに該当する)であるとされるが(宍戸常寿「財産権の憲法的保障」法学セミナー653号(2009年)58頁、59頁)、そのような事例では「事後法の禁止」という「既得権益を保護する考え方」(小山剛=駒村圭吾編『論点探究 憲法〔第2版〕』(弘文堂・2013年)226頁[石川健治]。246頁[同]も参照)が妥当し得るからである。 もっとも、前記の論理操作が論理的には成り立ち得るとしても、憲法の解釈論上も成り立つかどうかは別問題である。この問題を検討するに当たっては、租税法規が、憲法29条1項の「現存保障」に関して「本条2項に基づき[財産権の]内容を形成する法律」(前記引用の下線部)に含まれるかどうかを明らかにしなければならないが、より根本的には、租税と財産権保障との関係を明らかにしなければならないと考えられる。   Ⅲ 財産権保障に関する「忘れ去られた先決問題」 憲法29条2項は財産権につき法律による内容形成を認めているが、これを財産権規制という観点からみれば、法律による制約を認めているということでもある。その制約について「大枠を設定する分類」として「内在的制約」と「政策的制約」が分類されることがあるが(樋口陽一ほか『注釈 日本国憲法 上巻』(青林書院新社・1984年)679頁[中村睦男])、昭和53年最大判は前者(「旧所有者の権利に内在する合理的な制約」)を憲法上是認したものと解されている(宍戸達徳「判解」最判解民事篇(昭和53年度)321頁、349頁)。 そうすると、本判決も、「納税者の租税法規上の地位」につき前記の論理操作により構成した「実体的権利」の「内在的制約」を憲法上是認したものということになりそうである。しかし、租税ないし課税については、そもそも、憲法29条の財産権保障の範囲外として捉える次の見解がある(法学協会編『註解日本国憲法 上巻』(有斐閣・1948年)290頁。下線筆者。旧漢字は改めた)。 この見解は現行憲法施行直後に公表されたものであり、その後の議論の展開により「過去のもの」となった部分もあるように思われる。すなわち、この見解における「事物自然の性質から来る制約」・「事物自然の制約」と「政策的考慮に基づく制約」・「政策的考慮から来る制約」という分類は、先にみた「内在的制約」と「政策的制約」という分類とは意味が異なることは明らかである。この見解にいう「政策的考慮から来る制約」は、「本条に関する問題」とされており、しかも「公共の福祉」に関する解説内容からすると、むしろ現在みられる「内在的制約」と「政策的制約」の両者を含むものであるように思われる。 とはいえ、今日、前記の見解を「過去のもの」として顧慮しなくてもよいとは思わない。「事物自然の制約」に関する考え方は、確かに、今日ほとんど顧みられていないように思われるが、しかし、課税と財産権保障との関係を考える上で決して忘れ去られてはならない本質的な考え方を含んでいるように思われる。それは、憲法30条に関する次の註解(法学協会編・前掲書295頁。下線筆者。旧漢字は改めた)で述べられている考え方である。 ここで述べられている考え方は、租税国家における租税と財産権保障との関係に関する本質論に関わるものである。そのような本質論について、大畑文七『租税国家論』(有斐閣・1934年)は、第1編(総論)第2章(租税国家の基礎概念)第2節(租税の概念)第1項(租税の歴史性)の1(租税と私有財産の前提)で次のとおり述べている(49-51頁。下線筆者。旧漢字は改めた)。そこでは筆者の見解(憲法30条=29条「4項」論。後述)の基礎をなす考え方が述べられているので、少し長くなるが全文を引用しておこう。 ここでは、租税の存在は国家の経済生活と私有財産制度の存在を「大前提」とするという考え方が述べられているが、そこで述べられている国家の財貨獲得方法の観点からみると、現代の資本主義国家においては租税が最も現実的な方法であることから、租税の存在が国家の経済生活と私有財産制度とを両立させるための前提となっていると考えられる。つまり、現代の資本主義国家は租税国家であることを前提として私有財産制度を保障していると考えられるのである。 このように考えてくると、「私有財産制度なければ租税なし。租税なければ私有財産制度なし。」という関係が、現行憲法における租税と財産権保障との間に成り立つと考えられるが、このことこそが、租税を財産権保障の「事物自然の制約」としその保障の範囲外の問題とすることの意味であろう。つまり、租税を財産権保障の「事物自然の制約」とするのは、租税が私有財産制度にその前提として、すなわち、その本質的・中核的内容として予め組み込まれている(内在している)、ということを意味していると考えられるのである。「事物自然の制約」はその意味においては「内在的制約」といってもよかろう。 ともかく、現代の資本主義国家すなわち租税国家における租税と財産権保障との関係は、憲法29条における財産権保障それ自体の意味内容を考える前にその前提として決定すべき「先決問題」といえるのである。ただ、それは、憲法29条の財産権保障をめぐる最近の議論状況からすると、「忘れ去られた先決問題」といってよかろう。 「忘れ去られた先決問題」という言葉は、30年ほど前のドイツ・ミュンヘン大学留学以来大変お世話になったクラウス・フォーゲル教授の「租税の正当根拠」という論文の副題(Klaus Vogel, Rechtfertigung der Steuern: Eine vergessene Vorfrage, Der Staat 1986, 481[jetzt abgedruckt in: ders., Der offene Finanz- und Steuerstaat, Heidelberg 1991, 605])を使わせていただいたものであるが、その内容と無関係に使わせていただいたものではない。フォーゲル教授のこの研究は、一番弟子のパウル・キルヒホフ(Paul Kirchhof)教授が課税と所有権(Besteuerung und Eigentum)との関係に関する研究(これについては拙稿「市場所得説と所得概念の憲法的構成-パウル・キルヒホフの所説を中心に-」碓井光明ほか編『公法学の法と政策(上巻)金子宏先生古稀祝賀』(有斐閣・2000年)465頁参照)を通じて更に展開し深化させたとみているが、筆者が次のとおり説く憲法30条=29条「4項」論(前掲拙著【24】)は、これらの研究をも基礎とするものである。   Ⅳ おわりに 現代の資本主義国家(租税国家)における租税と財産権保障との関係は、このように、憲法29条の財産権保障をめぐる最近の議論においては「忘れ去られた先決問題」であるが、それは「体制選択の問題」でもある。すなわち、租税と財産権保障との関係は、国家体制を自由主義体制ないし資本主義体制とするか又は社会主義体制とするかの選択の段階で、決定すべき問題である。 判例によれば、憲法29条は「私有財産制度を保障している」(森林法事件・最大判昭和62年4月22日民集41巻3号408頁)とされているが、憲法29条による私有財産制度の保障を「体制選択の問題」として捉えることについては、次のような有力かつ説得的な批判がある(小山=駒村編・前掲書247-248頁[石川])。 ただ、租税国家における租税と財産権保障との関係の問題は、憲法29条の財産権保障それ自体に関する問題ではなく、前述のとおり、その「先決問題」であるから、これを「体制選択の問題」として論じるのは、上記の判例における私有財産制度の保障論とは議論のレベルを異にする。 そうすると、本判決は、憲法29条による財産権保障の範囲外にある、「事物自然の制約」としての租税の問題(「体制選択の問題」としての財産権保障の問題)を、これが憲法29条による財産権の「現存保障」に対する「内在的制約」としての財産権の遡及的制約の問題とは本来は議論のレベルを異にする問題であるにもかかわらず、これと同じレベルで論じていることになるのではないかという疑問が生じてくる。 このことを踏まえて、本判決の理解として先にⅡで示した論理操作についてもう一度検討してみると、それは、租税と財産権保障との関係に関する「本質論」のレベルではなく、本件で問題とされた租税法規が法の存在形式として憲法29条2項にいう「法律」と同じである点に着目して、租税に関する事柄を「法律」で定めることから帰結される「課税関係における法的安定」に関する「機能論」のレベルで、「納税者の租税法規上の地位」を「実体的権利」として構成する、という論理操作であると考えるのが妥当であろう。このような論理操作によれば、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能が「納税者の租税法規上の地位」を実体的権利として構成する機能をもつといってもよかろう(予測可能性・法的安定性保障機能の実体的権利化機能)。 勿論、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能が実体的権利化機能をもつとしても、それによって構成される権利は権利としては未熟で「権利未満」(片桐直人「判批」憲法判例百選Ⅱ(第7版・別冊ジュリスト246号・2019年)426頁、427頁)ではあるが、昭和53年最大判が判断の対象とした権利も「立法政策によって与えられた弱い権利」(宍戸・前掲「判解」348頁等)であったことから、本判決は両者を同列に取り扱ったとも解される。 (了)

#No. 433(掲載号)
#谷口 勢津夫
2021/08/26

組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第1回】「特定関係子法人から受けた配当等の額に係る特例」

組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第1回】 「特定関係子法人から受けた配当等の額に係る特例」   公認会計士 佐藤 信祐   1 基本的な取扱い 内国法人が特定関係子法人から受ける配当等の額(以下、「対象配当等の額」という)及び同一事業年度内配当等の額(※1)の合計額が基準時の直前における当該特定関係子法人の株式又は出資の帳簿価額の100分の10に相当する金額を超える場合(※2)には、当該対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額のうち、受取配当等の益金不算入(法法23①)、外国子会社から受ける配当等の額の益金不算入(法法23の2①)又は適格現物分配による益金不算入(法法62の5④)の規定により益金の額に算入されない金額に相当する金額を当該基準時の直前における特定関係子法人の株式又は出資の帳簿価額から減算する必要がある(法令119の3⑦、119の4①)(※3)。これは、みなし配当(法法24)に該当したことにより、受取配当等の益金不算入又は外国子会社から受ける配当等の額の益金不算入が適用される場合であっても同様である(※4)。 (※1) 当該対象配当等の額を受ける日の属する事業年度開始の日(同日後に特定支配日が生じた場合には、当該特定支配日)からその受ける直前の時までの間に当該内国法人が当該特定関係子法人から配当等の額を受けた場合(当該配当等の額に係る決議日等において当該内国法人と当該特定関係子法人との間に特定支配関係があった場合に限る)におけるその受けた配当等の額をいう。 (※2) 2以上の種類の株式を発行している場合には、すべての種類の株式の帳簿価額の合計額により100分の10に相当する金額を超えるか否かの判定を行い、かつ、すべての種類の株式の帳簿価額から減算することになる(法基通2-3-22、瀧村晴人ほか『令和2年度税制改正の解説』476頁)。 (※3) 「減算」と規定されていることから、特定関係子法人から受けた配当等の額に係る規定の適用を受けた後の帳簿価額がマイナスになることもあり得る(瀧村晴人ほか『令和2年度税制改正の解説』476頁)。 (※4) ただし、グループ法人税制(法法61の2⑰、2十六、法令8①二十二)の適用により、株式譲渡損益に相当する金額が資本金等の額として取り扱われる場合には、株式譲渡損益が生じないことから、帳簿価額を引き下げるという本規定は適用されない(法令119の3⑦)。 このように、本規定の適用により、株式の帳簿価額の引下げを通じて、株式譲渡益が引き上げられることから、受取配当等と株式譲渡損の両建てによる租税回避を防止するための規定であるということがいえる。 しかし、内国普通法人である特定関係子法人の設立の時から特定支配日までの期間を通じて、その発行済株式又は出資の総数又は総額のうち100分の90以上の数又は金額の株式又は出資を内国普通法人若しくは協同組合等又は居住者が有している場合(以下、「内国株主割合要件」という)(※5)には、この制度の対象から除外されている(法令119の3⑦一)。その結果、外国法人、非居住者又は公益法人等が株主等になったことがない場合には、この制度は適用されない。さらに、①特定支配日から当該対象配当等の額を受ける日までの期間が10年を超えている場合(法令119の3⑦三、以下、「10年超支配要件」という)、②特定支配日以後に生じた利益剰余金の額から支払われたものと認められる場合(法令119の3⑦二)(※6)、③対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額の合計額が20百万円を超えない場合(法令119の3⑦四)にも、この制度は適用されない。 (※5) 納税者に書類保存要件が課されていることから、立証責任は納税者にあるということがいえる。 (※6) 前事業年度末の貸借対照表に計上されている利益剰余金の額と特定支配日の直前事業年度末の貸借対照表に計上されている利益剰余金の額を比較するため、期中に増加した利益剰余金を考慮することはできない。 そのため、実務上、この制度が適用されない事案のほうが多いと思われる。   2 特定関係子法人 特定関係子法人とは、対象配当等の額に係る決議日等において、当該対象配当等の額を受ける内国法人との間に特定支配関係のある他の法人のことをいう(法令119の3⑦)。そして、特定支配関係とは、以下のうち100分の50を超える数若しくは金額の株式、議決権若しくは出資を保有する関係をいい(法令119の3⑨二、法法2十二の七の五)、当該特定支配関係が生じた日を特定支配日という。 (※7) 法人税法24条1項に掲げる事由に関する決議に係る議決権を含む。   3 特定支配日以後に増加した利益剰余金の特例 前述のように、対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額のうち益金の額に算入されない金額に相当する金額を、特定関係子法人の株式又は出資の帳簿価額から減算する必要がある。ただし、確定申告書に特定支配後増加利益剰余金額超過額及びその計算に関する明細を記載した書類を添付し、かつ、財務省令で定める書類を保存している場合には、帳簿価額から減算する金額を特定支配後増加利益剰余金額超過額までとする特例が認められている(法令119の3⑧)。 なお、特定支配後増加利益剰余金額超過額とは、特定支配日から当該対象配当等の額を受ける時までの間に特定関係子法人から受ける配当等の額の合計額(当該対象配当等の額を受ける前に特定関係子法人から受けた配当等の額に係る規定の適用を受けた金額を除く)が特定支配後増加利益剰余金額を超える部分の金額に相当する金額をいい、特定支配後増加利益剰余金額とは、下記①及び②に掲げる金額から③に掲げる金額を減算した金額をいう。   4 適格合併、適格分割又は適格現物出資による特定支配日の引継ぎ 対象配当等の額を受ける内国法人が、適格合併、適格分割又は適格現物出資(以下、「適格合併等」という)により当該適格合併等に係る被合併法人、分割法人又は現物出資法人(以下、「被合併法人等」という)から特定関係子法人の株式又は出資の移転を受けた場合において、当該適格合併等の直前に当該被合併法人等と当該特定関係子法人との間に特定支配関係があり、かつ、当該適格合併等の直後に当該内国法人と当該特定関係子法人との間に特定支配関係があるときは、被合併法人等と特定関係子法人との間の特定支配日を引き継ぐこととされている(法令119の3⑩)。 ただし、当該適格合併等の直前に当該内国法人と当該特定関係子法人との間に特定支配関係があった場合において、その特定支配日が当該被合併法人等と当該特定関係子法人との間の特定支配日以前であるときは、上記の規定は適用されない。   5 合併又は分割型分割による調整計算 (1) 関係法人を被合併法人又は分割法人とする合併又は分割型分割を行った場合 特定関係子法人が、対象配当等の額を受ける内国法人との間に特定支配関係がある他の法人(以下、「関係法人」という)を被合併法人又は分割法人とする金銭等不交付合併又は金銭等不交付分割型分割を行った場合には、(イ)当該関係法人の設立の時から当該関係法人に係る特定支配日までの期間を通じて、当該関係法人の発行済株式又は出資の総数又は総額のうち100分の90以上の数又は金額の株式又は出資を内国普通法人若しくは協同組合等又は居住者が有している場合、(ロ)当該関係法人に係る特定支配日から当該対象配当等の額を受ける日までの期間が10年を超えている場合のいずれかに該当する場合を除き、合併法人又は分割承継法人が内国株主割合要件又は10年超支配要件を満たしたとしても、特定関係子法人から受けた配当等の額に係る規定を適用する必要がある(法令119の3⑪一イ)。 さらに、前述のように、特定支配日以後に増加した利益剰余金の額から支払われた配当等の額については、特定関係子法人から受けた配当等の額に係る規定が適用されないこととされているが(法令119の3⑦二)、合併又は分割型分割に対応して増加した利益剰余金の額のうち関係法人に係る特定支配日前に生じた利益剰余金の額に相当する金額を特定支配日の直前事業年度末の貸借対照表に計上されている利益剰余金の額に加算することにより、特定支配日以後に増加した利益剰余金の額から除外するという規定が設けられている(法令119の3⑪一ロ)。 ただし、合併法人又は分割承継法人が内国株主割合要件又は10年超支配要件を満たしている場合には、合併又は分割型分割の日を特定支配日とし、特定支配日の直前事業年度末の貸借対照表に計上されている利益剰余金の額を0円とすることが認められている(法令119の3⑪一ハ)。 (2) 関係法人を分割承継法人とする分割型分割を行った場合 特定関係子法人が関係法人を分割承継法人とする分割型分割を行った場合には、分割型分割に対応して減少した利益剰余金の額のうち特定関係子法人に係る特定支配日前に生じた利益剰余金の額に相当する金額を特定支配日の直前事業年度末の貸借対照表に計上されている利益剰余金の額から減算するという特例が設けられている(法令119の3⑫一)。 ただし、非適格分割型分割を行った場合には、分割型分割に対応して減少した利益剰余金の額はないものとして取り扱われる(法令119の3⑫二)。   6 関係法人からの配当 関係法人を被合併法人又は分割法人とする合併又は分割型分割を行った場合と同様に、特定関係子法人が関係法人から配当等の額を受けた場合についても同様の特例が設けられている(法令119の3⑪二)(※8)。 (※8) 合併又は分割型分割の日を特定支配日とする特例と同様に、「当該特定関係子法人が当該関係法人から特定支配日等以後最初に配当等の額を受けた日」を特定支配日とする特例が設けられている。なお、「特定支配日等」とは、以下のうち最も遅い日をいう。 ・特定関係子法人に係る特定支配日 ・特定関係子法人から配当等の額を受ける内国法人が(イ)関係法人又は(ロ)関係法人が発行済株式又は出資を直接又は間接に保有する他の関係法人との間に特定支配日が生じた日のうち最も早い日 ただし、上記の特例の適用は、以下の要件を満たす場合に限定されている。 (※9) 「前事業年度の貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額」は会計上の帳簿価額により計算し、「当該特定関係子法人が有する当該関係法人の株式又は出資の帳簿価額」は税務上の帳簿価額により計算することになる(瀧村晴人ほか『令和2年度税制改正の解説』491頁)。   7 基準時事業年度後に対象配当等の額を受ける場合 対象配当等の額に係る基準時の属する事業年度(以下、「基準時事業年度」という)終了の日後に対象配当等の額を受ける場合には、その受ける対象配当等の額に基づき当該基準時事業年度に遡って特定関係子法人の株式又は出資の帳簿価額から減算する必要がある。 ただし、当該対象配当等の額を受けることが確実であると認められる場合には、その受けることが確実であると認められる対象配当等の額に基づき当該基準時事業年度の確定申告において特定関係子法人の株式又は出資の帳簿価額から減算することも認められている(法基通2-3-22の5)。 (了)

#No. 433(掲載号)
#佐藤 信祐
2021/08/26

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例101(消費税)】 「法人成りをしたため、個人に係る消費税の「事業廃止届出書」を提出したが、その後も個人で事業を行うこととなり、過去に提出した「簡易課税制度選択届出書」は有効であるものと思い込み、有利な簡易課税で申告してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例101(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆事業廃止届出書(消法57①三) 事業者が事業を廃止した場合には、その旨を記載した届出書を速やかに当該事業者の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。なお、事業廃止により、「消費税課税事業者選択不適用届出書(第2号様式)」、「消費税課税期間特例選択不適用届出書(第14号様式)」、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書(第25号様式) 」、「任意の中間申告書を提出することの取りやめ届出書(第26-(3)号様式)」、「消費税申告期限延長不適用届出書(第28-(15)号様式)」のいずれかの届出書に事業を廃止した旨を記載して提出した場合には、他の不適用届出書等及び事業廃止届出書の提出があったものとして取り扱われる。 また、事業廃止届出書を提出した場合には、これらの不適用届出書等の提出があったものとして取り扱われる。 ◆「事業廃止届出書」と「簡易課税制度選択不適用届出書」の関係 「事業廃止届出書」を提出した場合には、「簡易課税制度選択不適用届出書」の提出があったものとして取り扱われるため、その提出日の属する年の翌年から、「簡易課税制度選択届出書」はその効力を失う。したがって、個人事業を再開した場合で、簡易課税を選択したいときは、その再開した日の属する年の末日までに再度「簡易課税制度選択届出書」を提出しなければならない。       (了)

#No. 433(掲載号)
#齋藤 和助
2021/08/26

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第43回】「買換家屋が共有の場合」-買換家屋の床面積要件の判定-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第43回】 「買換家屋が共有の場合」 -買換家屋の床面積要件の判定-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、居住用の家屋とその土地を売却しましたが、多額の譲渡損失が出てしまい、新居購入にあたっては銀行で住宅ローンを組み、妻と共有(各持分1/2)で家屋(床面積90㎡)とその土地を購入しました。 買換家屋の床面積(50㎡以上)に係る要件以外の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 買換家屋が共有物である場合は、その家屋の全体の床面積により判定することから、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」に係る買換家屋については、一棟の家屋の床面積のうちその個人が居住の用に供する床面積が50㎡以上であるものと規定されています(措令26の7⑤一)。 そして、買換家屋が共有物である場合には、その家屋の全体の床面積(その家屋のうちその独立部分を区分所有する場合には、その独立部分の床面積)により判定するとされています(措通41の5-14(買換家屋の床面積要件の判定)(2))。 したがって、本事例の場合、共有家屋の全体の床面積により判定されることから、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができることとなります。 (了)

#No. 433(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/08/26

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第8回】「請求の追加的併合が行われ、後で訴訟を提起した日が出訴期限を超えた場合にその訴訟が適法なものか否かが争われた判例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第8回】 「請求の追加的併合が行われ、後で訴訟を提起した日が出訴期限を超えた場合にその訴訟が適法なものか否かが争われた判例」   税理士 菅野 真美   ▷審査請求が認められなかった場合の救済措置 第7回において、「固定資産の価格に不服がある場合は、原則的には、公示の日から納税通知書の交付を受けた日後3ヶ月を経過する日までの間に固定資産評価審査委員会への審査の申出ができる(地方税法第432条第1項)。申出を受けた日から30日以内に審査決定し(地方税法第433条第1項)、決定のあった日から10日以内に通知しなければならない(地方税法第433条第12項)。そしてこの決定に不服がある場合は、取消しの訴えを提起することができる(地方税法第434条第1項)。ただし、固定資産の価格について訴えることができるのは、固定資産評価審査委員会への審査の申出を行い、その決定の取消しの訴えによることに限定されている(地方税法第434条第2項)」と述べた。 そして、固定資産の価格について不服で固定資産評価審査委員会に審査の申出をし、その決定に不服な場合、裁判所に訴えることができる期間は、処分又は裁決があったことを知った日から6ヶ月以内である。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない(行政事件訴訟法第14条第1項)。 次に、固定資産の価格以外の問題について不服な場合、納税者は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内に審査請求ができる(地方税法第19条、行政不服審査法第18条第1項)。審査請求に基づく裁決に不服な場合は、処分又は裁決があったことを知った日から6ヶ月以内である(行政事件訴訟法第14条第1項)。 1つの事案について、同じ被告と原告の間で請求を追加して、複数の訴えが行われる場合がある。このような場合のことを原告による請求の追加的併合といい、この場合、出訴期間の遵守については、処分の取消しの訴えは、裁決の取消しの訴えを提起した時に提起されたものとみなすとされている(行政事件訴訟法第20条)。 固定資産の価格についての不服なのか、それ以外の項目についての不服なのか、判別が不透明な場合がある。このような場合、納税者の方で、自分の不服を認めてもらうための手段として、同じ問題について、固定資産評価審査委員会に審査の申出をしながら、審査請求をし、その結果を受けて訴訟をすることができるが、後で訴訟を提起した日が出訴期限を超えてしまった場合、その訴訟は適法なものか否かについて争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か この事案の経緯は以下のようになる。 (※) なお、審査請求に係る被告は東京都知事、審査申出に係る被告は東京都固定資産評価審査委員会とする。   ▷なぜ、出訴期限を過ぎて東京都固定資産評価審査委員会を相手に訴訟を起こしたのか Xは次のように主張した。 しかし、東京都固定資産評価審査委員会は、出訴期間を経過しているから違法であると主張した。   ▷審査申出(東京都固定資産評価審査委員会への申出)事項に該当するか否か 審査申出事項についての不服がある場合に該当するか否かであるが、Xは、価格そのものに対する不服の申出であるにもかかわらず審査申出を却下した決定は違法であると主張した。 対する東京都固定資産評価審査委員会は、本件審査申出による不服は課税客体が存在しないことを理由とするもので、評価に関するものではないから審査を申し出ることはできず、賦課決定処分の取消しの形で争われるべきものであり、審査申出を不適法とする決定は適法であると主張した。 他方、東京都知事は、Xの主張は見方を変えれば家屋の評価の誤りであり、登録価格に対する不服を理由として賦課決定処分の取消しを求めるものと解されるが、そうするとXは固定資産税の賦課決定処分の取消理由とすることができない本件登録価格に対する不服を本件各処分の取消理由として主張していることになるから、Xの審査請求には理由がないと主張した。 このように東京都の中でも主張が分かれ、各々が正当性を主張した。   ▷裁判所の判断 裁判所は次のように判断し、Xの請求を認めて、平成21年3月6日付の審査の申出に対する決定を取り消した。 このように判決では、納税者のとった訴訟戦術が功を奏して納税者勝訴を導いた。しかし、審査請求を行うべき事案なのか、固定資産評価審査委員会への申出を行うべき事案なのかが微妙な場合は、両者に不服を訴え、訴訟を起こさなければ解決が難しいというのは、一般の納税者にとってはあまりにもハードルが高い。 なお、この判決では、昇降機設備が家屋に含まれるか否かは判断されていない。 (了)

#No. 433(掲載号)
#菅野 真美
2021/08/26

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第60回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第60回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (4) 法人税法施行令18条の2第3項 法人税法施行令18条の2第3項は次のとおり定めている。 これは、資産の販売等に係る収益について、引渡し等事業年度の確定した決算で収益の経理又は申告調整をし、法人税法22条の2第1項又は第2項の適用により当該事業年度の益金の額に算入された場合に、事後的な事情により、当該資産の販売等に係る第4項に規定する価額又は対価の額(収益基礎額)が変動したときは、法人税法施行令18条の2第1項の適用があるときを除き、その変動により増加又は減少した収益基礎額について、その変動することが確定した事業年度の益金の額又は損金の額に算入することを定めている。 条文を整理すると次のようになる。 上記要件❶を見ると明らかなとおり、法人税法施行令18条の2第3項は、資産の販売等に係る収益について、引渡し等事業年度の確定した決算で収益の経理又は申告調整をし、法人税法22条の2第1項又は第2項の適用により当該事業年度の益金の額に算入された場合を前提とする。 かように、資産の販売等に係る収益について、当初申告において、法人税法22条の2第1項又は第2項により引渡し等事業年度の益金の額に算入されていることを要件としている点で法人税法施行令18条の2第1項と異なることに注意を要する(財務省『平成30年度 税制改正の解説』278頁)。 法人税法施行令18条の2第1項の要件③は「同条第1項又は第2項に規定する事業年度(引渡し等事業年度)後の事業年度の確定した決算において修正の経理(第5項各号に掲げる事実が生ずる可能性の変動に基づく修正の経理を除く)をした場合において」となっていた(本連載第59回参照)。 このことと比較すると、この第3項は法人による修正の経理を前提としていないことに気が付く。 そして、この第3項の上記要件❸(注)を見ると、修正の経理を行い、法人税法18条の2第1項の適用がある場合には、この第3項の適用がないことがわかる。つまり、第1項が第3項に優先して適用されるのである。法律効果部分も、修正の経理を前提としない書き振りとなっている。 法人税法施行令18条の2第1項の法律効果は「その修正の経理により増加し、又は減少した収益の額相当額は、その修正の経理をした事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する」となっていた(本連載第59回参照)。 このことと比較すると、この第3項は変動による収益の増減額を「その変動することが確定した事業年度」の益金の額又は損金の額に算入するものであることが強調される。 もちろん、上記要件❸があるから、益金又は損金の額に算入される収益の増減額は、法人税法22条の2第4項の範囲内の額ということになる。 法人税法施行令18条の2第3項に関して、立案担当者は、要旨次のとおり説明している(財務省『平成30年度 税制改正の解説』279頁。ただし図表は筆者作成)。 このように、法人税法施行令18条の2第3項は、事後的な事情により、対価の変動があった場合の益金又は損金の計上時期に関する規定であり、これも収益認識会計基準における変動対価の関係で設けられたものである。 同項は、事後的に対価の額が変動する場合は、変動による収益の増減額を変動する金額が確定したときの損益に反映させるものであり、例えば、変動する金額が確定するまでに1年以上かかってしまい、事業年度を越えてしまったような場合に、確定する前に何かの調整をしなければいけないのかというと、その必要はないということになる(髙橋正朗「平成30年度法人税基本通達等の一部改正について」租税研究832号7頁参照)。   (了)

#No. 433(掲載号)
#泉 絢也
2021/08/26
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