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〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第13回】「平成29年度税制改正で排除された来料加工についての合算課税リスク」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第13回】 「平成29年度税制改正で排除された来料加工についての合算課税リスク」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 平成29年度の税制改正で、来料加工については合算課税のリスクはなくなったと聞きましたが詳細を教えてください。 〔A〕 外国関係会社のうち、本店所在地国において製造における「重要な業務を通じて製造に主体的に関与していると認められる」ものは、所在地国基準を満たすという規定に改正されましたので、従来型の来料加工については合算課税のリスクは排除されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 来料加工とは 東京地裁平成21年5月28日判決(※1)は、来料加工について、「『三来一補』(外国投資者が、中国に直接投資して外商投資企業を設立する代わりに、中国国内の企業に加工・生産を委託する、いわば間接投資の方法により生産を行わせる方法)の1つであり、一般に、委託加工の注文者が、自己の所有に属する原材料を注文先(下請工場)に支給して製品を作らせ、製品の全部の引渡しを受け、これを自己の名称で卸売りすることに加えて、原材料のほかに生産施設を無償で提供し、技術者を無償で派遣して加工業務を稼働できるようにし、一定の高い品質の製品を納品できるようにすることに特色があ〔る〕」と述べている。 (※1) 平成18年(行ウ)第322号・TAINSコード:Z259-11217。日本電産ニッシン事件として知られ、来料加工について初めて裁判所の判断が示された事例である。 来料加工は、日本企業が中国企業に直接投資することなく中国の安価な労働力が利用でき、かつ中国及び香港における税負担が軽減できるというメリットがあり1990年代半ばから多くの日本企業に利用されてきた。しかし、我が国と比して香港の実効税率が相対的に低かったことから、外国子会社合算税制が適用されることが多く、複数の裁判所で争われてきた。   2 過去の裁判例の主たる争点と裁判所の結論 来料加工に関する多くの裁判例で争われたのは、当時の適用除外基準(平成29年度税制改正前の租税特別措置法66条の6第3項)(※2)であり、特に①来料加工事業を行う香港子会社の主たる事業は製造業か、あるいは卸売業か、②主たる事業が製造業であるとして、本店の所在する香港においてこれを行っていると認められるか、の2点であった。裁判所は、全てのケースにおいて、①については、香港子会社の主たる事業は製造業であると認定し、②については、製造は主として工場が所在する中国本土で行われているため、香港子会社は所在地国基準を満たさないと判示し、各事案において、外国子会社合算税制の適用を適法と判断した。 (※2) (i)事業基準、(ⅱ)実体基準、(ⅲ)管理支配基準及び(ⅳ)非関連者基準又は所在地国基準の4つの基準から成り、このすべてを満たさない限り、外国子会社合算税制の適用は除外されない。平成29年度税制改正により、この基準は「経済活動基準」と名を変え、外国子会社合算税制における適用場面にも変更が加えられたが、基準の中身そのものはそのまま維持されている。   3 平成29年度税制改正の内容 平成29年度税制改正前の適用除外基準該当性の判定では、外国子会社が事業基準、実体基準及び管理支配基準を満たす場合、非関連者基準又は所在地国基準の内のどちらかを満たさなければならないという構造となっており、その振分けは業種ごとに行われることとされていた(卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業又は航空運送業については前者、その他の事業は後者)。 この規定に係る裁判所の判断については、従前より、「非関連者基準か所在地国基準かという適用除外基準の『機械的で二者択一的なアプローチ』が、現在の企業の活動実態に必ずしも合致しているものとはいえず、実際には、所在地国基準に関しては、来料加工取引に対する課税事案のように、制度的に租税回避防止であると捉えることが困難にもかかわらず課税がなされている」(※3)という批判があった。 (※3) 「経済産業省委託調査報告書-平成27年度内外一体の経済成長戦略構築に係る国際経済調査事業(BEPSを踏まえた我が国のCFC税制の在り方に関する調査)」59頁参照。 上記批判への対応や(より本源的には)BEPSプロジェクトと我が国制度との整合性を図るという観点から、平成29年度税制改正において外国子会社合算税制の抜本的な見直しが行われ、その一環として、製造業を主たる事業とする外国関係会社のうち、本店所在地国において製造における「重要な業務を通じて製造に主体的に関与していると認められる」ものは、所在地国基準を満たすこととされた(改正後措法66の6②三ハ(2)、改正後措令39の14の3㉜三)(※4)。 (※4) 藤枝純=角田伸広『タックス・ヘイブン対策税制の実務詳解』(中央経済社・2017年)205頁は、「今回の改正がもっと早い時期に行われていたならば、来料加工事業に関する紛争数は相当少なくなっていたように思われます」と述べている。 ここでいう「製造に主体的に関与」の意義については、その後の改正もあり、現在では租税特別措置法施行規則22条の11第19項に規定され、外国関係会社がその本店所在地において行う次に掲げる業務(同項1号~7号)を通じて製品の製造に主体的に関与していると認められる場合とされている。   4 過去の裁判例が示したその他の判断 上記のとおり、現在では、従来型の来料加工スキームが外国子会社合算税制の対象とされることはないと思われるが、過去の裁判例では、その他いくつかの興味深い判断枠組みが示されており、今日的意義も認められるので、以下引用する。 (1) 日本標準産業分類の規範性 (注1) 東京地裁平成24年7月20日判決(平成22年(行ウ)第745号・TAINSコード:Z262-12009)。小山浩「租税判例百選[第6版]」(有斐閣・2016年)139頁は、「本判決は、一連の裁判例において争われた論点を網羅しており、かつ、一連の裁判例の示した判断枠組みを踏襲している点で、同種の事例に関する集大成ともいえる裁判例である」と述べる。 (2) 主たる事業の判定基準 (注2) 東京高裁平成23年8月30日判決(平成21年(行コ)第236号・TAINSコード:Z261-11739。日本電産ニッシン事件の控訴審判決)。同様のものとして、名古屋地裁平成23年9月29日判決(平成20年(行ウ)第2号・TAINSコード:Z261-11774)。 (3) 所在地国基準の充足の有無に関し、改正前租税特別措置法66条の6第1項が「国」に加えて「地域」を規定した趣旨 (注3) 東京地裁平成21年5月28日判決(前掲(※1)参照)。 (4) 適用除外基準を満たさなくても適用除外が認められる場合はあるか (注4) 前掲(注3)判決。もっとも、本裁判例における納税者の主張の排斥理由からすると、納税者の主張は裁判所に必ずしも正確に理解されていないのではないかという批判がある。北村導人「来料加工とタックス・ヘイブン対策税制-近時の裁判例の検討と課題-」(T&A master No.436(2012.1.30))27頁は、外国税額控除余裕枠事件最高裁判決や金子宏教授・中里実教授の見解を引用し、「一定の政策目的を実現させるための規定に形式的には該当する行為や取引であっても、その本来の政策目的の実現とは無縁であるという場合には、(中略)政策税制に係る規定の解釈にあたり当該税制の趣旨・目的を勘案してその規定の射程範囲を限定すると主張しているところであり、上記排斥理由のように適用除外の範囲拡大や要件の『付加』を主張するものではない」と述べる。 (5) 外国子会社合算税制と移転価格税制の関係 (注5) 大阪地裁平成23年6月24日判決(平成18年(行ウ)第191号・TAINSコード:Z261-11703。船井電機事件)。   (了)

#No. 447(掲載号)
#霞 晴久
2021/12/02

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第67回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第67回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (2) 部分完成の事実がある場合の収益の計上の単位(法人税基本通達2-1-1の4) ア 概要 収益認識会計基準は履行義務単位で収益を認識することを原則とするが、一定の場合には契約単位で認識することを認めている。他方、法人税基本通達2-1-1は、法人税法における収益計上単位の原則は契約単位であることを明らかにしつつ、複数の契約を結合して単一の履行義務として収益計上することや、1つの契約に複数の履行義務が含まれている場合に各履行義務に係る資産の販売等をそれぞれ収益計上の単位とすることを認めている。 本通達は、上記通達2-1-1の別段の定めとして、部分完成の事実がある場合の収益の計上の単位について定めている。 建設請負(工事進行基準の適用を受ける工事の請負を除く)に係る収益の計上時期については、法人税法上、完成引渡基準により計上することが原則であると考えられている(法法22の2①、法基通2-1-21の7)が、法人税基本通達2-1-1の4は、次のとおり、部分完成基準の適用を認めている。 本通達の取扱いを図表で示すと次のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 本通達(1)又は(2)の事実がある場合の収益の計上については、その事業年度において引き渡した建設工事等の量又は完成した部分に対応する工事代金の額をその事業年度の益金の額に算入することとされている(法基通2-1-21の7(注)2)。 なお、仮に、収益認識会計基準における履行義務の識別のルールに則して、本通達(1)の同種で多量の建設工事等(一連の別個の財又はサービスの移転となり得るもの)又は本通達(2)の1個の建設工事等が単一の履行義務となる場合において、それが一定の期間にわたり充足される履行義務に該当するときは、その履行義務の進捗度に応じた収益を計上することとなる。 その進捗度の見積方法として、例えば、引渡単位数を指標とするアウトプット法(指針17)を適用するケースでは、収益の計上時期や計上額は基本的に本通達の部分完成基準によった場合と同様のものとなることが想定されている(趣旨説明13頁)。 法人税基本通達2-1-21の7(注)2では、本通達の部分完成の事実があってその完成した部分を収益の認識の単位とする取扱いの適用を受ける場合には、その事業年度において引き渡した建設工事等の量又は完成した部分に対応する工事代金の額をその事業年度の益金の額に算入することが明らかにされている。 イ 本通達の趣旨 本通達の趣旨は、要旨次のとおりである(趣旨説明12~13頁)。 本通達は、収益認識会計基準の導入前の公正な会計慣行を踏まえた旧通達2-1-9の取扱いを実質的に存続させるものであり、その内容自体については一定の合理性を認めることができよう。ただし、本通達の根拠規定として法人税法22条4項を持ち出すことができるかどうかという点は議論の余地がある。この点については本連載第66回の(1)オ参照。 また、収益計上の単位を収益の計上時期や計上額の問題と捉えることができる場面があるとするならば、そこでは、法人税法22条の2という22条4項の別段の定めが存在することになり、やはり22条4項を持ち出すことは難しくなる。 資産の販売等に係る収益の額は、「その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度」に収益計上するという、法人税法22条の2第1項から、確定的に本通達のような取扱いを導くことができるか、という問題が出てくる。 このように考えてみると、法人税法22条の2は、規定の重要性の割には、内容が簡易にすぎないかという不安が惹起される。法令の規定内容の不十分さを通達で補う構図が見えてくるが、租税法律主義の精神を尊重し、やはり法律にもう少し詳しい、具体的な規定を設けるべきではなかったか。 さらにいえば、本通達は、第2章第1節の第3款「役務の提供に係る収益」に格納されている。このことを前提として、法人税法22条の2第1項の「役務の提供」の意義について場面によって引渡しを包蔵するような解釈論を展開するというのであれば(本通達及び法基通2-1-21の7参照)、いわば引渡しや役務の提供を包摂する上位概念になりうる原理原則のようなルールを法に明定すべきではなかったか、という議論も検討の対象になりえよう(泉絢也「法人税法と収益認識会計基準(1)-収益の計上時期を決する諸原則(引渡基準と権利確定主義・無条件請求権説・実現主義・管理支配基準)-」千葉商大論叢58巻3号19頁以下参照)。 ウ 強制適用する趣旨 本通達は、法人税基本通達2-1-1ただし書の場合と異なり、法人が選択適用することを認めるものではなく、強制適用されるものである。 これは、本通達(1)又は(2)の事実がある場合には、収益認識会計基準を適用していれば通常は各部分を別々の履行義務としてそれぞれの履行義務の充足の時に収益計上するべきであり、同基準を適用していなくても部分完成基準により収益計上されるべきであることから、本通達の取扱いは旧通達2-1-9の取扱いと同様に、任意ではなく、強制的に適用するという趣旨である(趣旨説明13頁)。 法人が収益認識会計基準を適用しているか否かにかかわらず、法人税法上の収益の計上時期の原則は法人税法22条の2第1項が定める引渡・役務提供基準である。本通達が定める部分完成基準がこの引渡・役務提供基準の範疇に含まれるとするならば、強制適用は当然であろう。ただし、国税庁は、強制適用の根拠を22条4項に求めているのかもしれない。   (了)

#No. 447(掲載号)
#泉 絢也
2021/12/02

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第21回】「事業承継等事前調査チェックシートを活用しよう(中編)」

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第21回】 「事業承継等事前調査チェックシートを活用しよう(中編)」   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの売り手に対して有効な財務・法務面の見方のヒントを得る。 売り手企業 ⇒M&Aに備えて財務・法務面のどこに着目したらよいかを知る。 支援機関(第三者) ⇒売り手に対する財務・法務面の見方のポイントを知りM&Aの助言や支援に活かす。 その他の対象者 ⇒売り手に対する視点を通じて対象企業の見方・見られ方のポイントをつかむ。 前回は、「事業承継等事前調査チェックシート(Excel版)」の【財務DD・税務DD】と【法務DD】の主な構成を紹介しました。今回から、もう少し踏み込んで各シートに対応する際のポイントを確認していきます。 このうち、今回は【財務DD・税務DD】についてです。小項目数の多い「中項目 1.貸借対照表」を中心に、調査項目への対応を行う際のポイントについて確認していきます。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出典) 中小企業庁「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の活用について」   1 エビデンスの必要性と重要性 【財務DD・税務DD】中項目「1.貸借対照表」を見ると、調査にあたっての小項目として17項目が掲げてありますが、どの項目にも共通して言えるのは、調査を受ける側、つまり売り手が提供する「エビデンス」の必要性と重要性です。エビデンスは根拠資料や証憑(しょうひょう)などと呼ばれるケースもありますが、試算表などの会計帳簿に計上する数値の根拠を示すための証拠資料を指します。「その計上は、この資料に書いてある日付、相手先、金額などに基づいて行いました」と相手に主張できる文書などが該当します。 例を挙げると、小項目①の現預金には、一般的な調査項目例として、「残高、預貯金の引き出し制限等、現金管理状況、資金繰り等」と記載されています。 現預金に関してこれらの調査に応えるためには、一例ですが、次のようなエビデンスを準備する必要があります。 ◆残高 金種表(10,000円が何枚、1円が何枚など、日々の現金有高を記録、チェックするための文書)、預貯金通帳、当座照合表など ◆預貯金の引き出し制限等 預り証・預け証(預金通帳などを担保として差し出した代わりに受け取る証書類)など ◆現金管理状況 現金出納帳、小切手帳など。ちなみに預金関係であれば、預金通帳の記帳状況、長期間未使用口座の有無など ◆資金繰り等 資金繰り表など 加えて、調査機関が監査法人などの場合には、調査時点で預貯金の金融機関別の残高が正しく記録されているかどうかを確かめるために、「残高確認状」という文書を介して、監査法人が直接金融機関に対して売り手の預貯金等の残高確認をする調査手法がとられる場合もあります。 調査は基本的に現金などの現物を確認しながら進めるため、現預金の場合であれば、現金や通帳を用意するだけで、「あとはどうぞ好きに調べてください」という姿勢でも構わないと言えばそうなのかもしれません。しかし、買い手が調査対象の相手(売り手)を見たときに、「管理できていません」「組織としての体制が整っていません」といった状況であれば、少なくとも信用力という点では買い手にマイナスの印象を与えます。なぜならば、1つがいい加減であるならば、全体がいい加減である可能性が高く、ミスや不正を引き起こす隙が生まれやすいと容易に想像できるからです。 「事業承継等事前調査チェックシート(Excel版)」をご覧になって、1つ1つの項目に関するエビデンスが無い、不足している、紛失したといった場合には、仕組みを作るか、元々あった仕組みを再開できるように準備します。些細なことですが、いつ調査に来られても対応できるように文書を捨てずに残しておく(さかのぼれる)のも管理能力の1つです。   2 ヒアリング 管理状況の全体像を知りたい場合のように、そもそもエビデンスが馴染まないもの、売上の計上基準や取引先との取引条件などのように、会計方針や取引条件については、「ヒアリング」という手法で買い手や調査機関が売り手に尋ねます。いわゆる質問・インタビューのことで、実務上のルールや手順の確認のため、取引の流れや仕組み全体の理解を深めるため、状況確認のため、といったようにヒアリングの目的に応じて売り手は様々な質問を受けます。 「事業承継等事前調査チェックシート(Excel版)」に掲げられているほぼすべての項目について、何らかのヒアリングがあると思うべきで、一般的な調査項目例に書かれている1つ1つの内容について尋ねられたとしても、大体の回答ができるようならヒアリング対応としてばっちりです。 計上の理由について尋ねる場合であれば「なぜ、このタイミングで、この金額を計上するのか」、相手先との取引の合理性を尋ねる場合には「いつから、どうして、この取引先と、このような取引をしているのか」といった具合に、「ある」「なし」のような単純な内容ではなく、実務上は「なぜ」「どうして」と納得できるまで理由の説明を求めるケースが多いように思います。   3 主要な資産には視察が行われる 重要な棚卸資産の視察、重要な固定資産の視察、といった項目に現れる「視察」は、買い手や調査機関から「在庫を見せてください」「設備を見たいのですが」などと依頼され、売り手立会のもと現地で現物状況を見極めます。保管状態・状況の確認や、評価額を見積もる際の参考にするケースが多く、なかには、帳簿上は計上しているのに現物が無い、帳簿上は計上していないのに現物が有る、といった過大・過小計上、架空計上、簿外の疑いを発見するために行う場合もあります。 DD(デューデリジェンス)では、評価額の算定が極めて重要な要素の1つですから、主要な資産の保管状況には日頃から気を付けたいものです。   4 調査結果が評価(額)や価値に影響する 一般的な調査項目例を見ると、回収可能性、評価の妥当性、といった言葉が時折使われています。時価の算定が可能な項目については、簿価と時価の差額を明らかにするのもDDの主な目的の1つですから、特に、不明残高の有無や、資金回収が長期間に及ぶ相手先などについては、普段の業務でも気にしておく、可能ならそうした状況を解消ないしは改善しておくのが賢明です。 *  *  * 次回も続けて「事業承継等事前調査チェックシート(Excel版)」の内容をもう少し踏み込んで確認していきましょう。 (了)

#No. 447(掲載号)
#荻窪 輝明
2021/12/02

収益認識会計基準を学ぶ 【第18回】「返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払とライセンスの供与」

収益認識会計基準を学ぶ 【第18回】 「返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払とライセンスの供与」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、「返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払」と「ライセンスの供与」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払 1 返金が不要な顧客からの支払の性質 契約によっては、契約における取引開始日又はその前後に、顧客に返金が不要な支払を課す場合がある(収益認識適用指針141項)。 例えば、スポーツクラブ会員契約の入会手数料、電気通信契約の加入手数料、サービス契約のセットアップ手数料、供給契約の当初手数料等である(収益認識適用指針141項)。 返金が不要な顧客からの支払があった場合、それが履行義務に対応するものであるのかどうかの判断がポイントとなる。 収益認識適用指針は、契約における取引開始日又はその前後に、顧客から返金が不要な支払を受ける場合には、履行義務を識別するために、当該支払が約束した財又はサービスの移転を生じさせるものか、あるいは将来の財又はサービスの移転に対するものかどうかを判断すると規定している(収益認識適用指針57項)。 2 約束した財又はサービスの移転を生じさせるものでない場合 返金が不要な顧客からの支払が、約束した財又はサービスの移転を生じさせるものでない場合には、将来の財又はサービスの移転を生じさせるものとして扱う。そして、当該将来の財又はサービスを提供する時に収益を認識する(収益認識適用指針58項)。 ただし、契約更新オプションを顧客に付与する場合において、当該オプションが重要な権利を顧客に提供するもの(収益認識適用指針48項)に該当するときは、当該支払について、契約更新される期間を考慮して収益を認識する(収益認識適用指針58項)。 3 約束した財又はサービスの移転を生じさせるものである場合 返金が不要な顧客からの支払が、約束した財又はサービスの移転を生じさせるものである場合には、当該財又はサービスの移転を独立した履行義務として処理するかどうかを判断する(収益認識適用指針59項)。 4 契約締結活動又は契約管理活動 契約締結活動(例えば、契約のセットアップに関する活動)又は契約管理活動で発生するコストの一部に充当するために、返金が不要な支払を顧客に要求する場合がある(収益認識適用指針60項)。 当該活動が履行義務ではない場合、履行義務の充足に係る進捗度をコストに基づくインプット法により見積もる(収益認識適用指針22項)にあたっては、当該活動及び関連するコストの影響を除くことになる(収益認識適用指針4項、60項)。 収益認識適用指針4項は、契約を履行するための活動は、当該活動により財又はサービスが顧客に移転する場合を除いて、履行義務ではないと規定している。 返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払は、通常、企業が契約における取引開始日又はその前後において契約を履行するために行う活動に関連するが、当該活動は約束した財又はサービスを顧客に移転させるものではない(収益認識適用指針142項)。 例えば、サービスを提供する企業が契約管理活動を行う場合には、当該活動によりサービスが顧客に移転しないため、当該活動は履行義務ではない(収益認識適用指針4項)。   Ⅲ ライセンスの供与 1 ライセンス ライセンスは、企業の知的財産に対する顧客の権利を定めるものである(収益認識適用指針61項)。 知的財産のライセンスには、例えば、次のものに関するライセンスがある(収益認識適用指針143項)。 2 ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものでない場合 ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものでない場合には、ライセンスを供与する約束と当該他の財又はサービスを移転する約束の両方を一括して単一の履行義務として処理する。 そして、当該履行義務について、一定の期間にわたり充足される履行義務であるか、又は一時点で充足される履行義務であるかを判定する(収益認識適用指針61項、144項、収益認識会計基準35項~40項)。 3 ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものであり、当該約束が独立した履行義務である場合 ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものであり、当該約束が独立した履行義務である場合には、ライセンスを顧客に供与する際の企業の約束の性質が、顧客に次の(1)又は(2)のいずれを提供するものかを判定し、それぞれについて会計処理する(収益認識適用指針62項、144項~147項)。 4 企業の約束の性質の判定 前述のように、ライセンスの会計処理については、企業の約束の性質の判定がポイントとなる。 次の(1)から(3)の要件のすべてに該当する場合には、顧客が権利を有している知的財産の形態、機能性又は価値が継続的に変化しており、収益認識適用指針62項(1)に定める企業の知的財産にアクセスする権利を提供するものである(収益認識適用指針63項、149項、150項)。 上記のいずれかに該当しない場合には、ライセンスを供与する際の企業の約束の性質は、収益認識適用指針62項(2)に定める企業の知的財産を使用する権利を提供するものである(収益認識適用指針64項)。 また、収益認識適用指針62項に定めるライセンスを供与する際の企業の約束の性質を判定するにあたっては、次の(a)及び(b)の要因を考慮しない(収益認識適用指針66項、148項)。 収益認識適用指針は、売上高又は使用量に基づくロイヤルティについても、詳細に規定している(収益認識適用指針67項、68項、151項、152項)。   (了)

#No. 447(掲載号)
#阿部 光成
2021/12/02

対面が難しい時代の相続実務 【第8回】「想定される場面(その6)」-生前の財産管理や見守り契約における対応-

対面が難しい時代の相続実務 【第8回】 「想定される場面(その6)」 -生前の財産管理や見守り契約における対応-   クレド法律事務所 弁護士 栗田 祐太郎   今回は、判断能力にはまだ問題がない所有者の財産管理等におけるオンライン対応につき取り上げる。 【想定される場面(その6) 生前の財産管理や見守り契約における対応】   1 生前における財産管理契約の関心が高まっている 財産管理の手法として、高齢者本人が判断能力をほぼ常時失うほどの状況に至っている場合には「成年後見」制度が利用される。 これとは別に、将来的に自身が判断能力を失ったときに備えて、公正証書でもって将来的に財産管理を依頼する者を指定しておく「任意後見」制度もある。これら2つの制度は、比較的メジャーであろう。 この任意後見契約に関連して、任意後見が開始する前の段階、すなわち、本人には判断能力がまだ十分にあるが、今の段階で信頼のおける第三者に自己の財産管理を委ねたいという希望が寄せられることがある。 これが、一般的に「財産管理契約」といわれるものであり、任意後見契約と同時に財産管理契約がセットで締結されることも多い。 このようなニーズが出てくる背景として、たとえば次のようなものがある。 以上の制度を含めて、本人の判断能力の程度によって、各ステージで利用することができる各種手法については、拙稿「税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題」の【第6回】、【第7回】で具体的に解説しているので、必要に応じてご参照いただきたい。 そして、これらの場合のオンライン対応は、オンライン相談での対応を解説した本連載の【第3回】、オンラインにおけるコミュニケーション充実化の工夫を説明した【第4回】、遺言書作成の対応につき解説した【第7回】の内容と重なってくるため、そちらもご覧いただきたい。   2 ホームロイヤー契約(個人向け顧問契約)におけるオンラインの利用 (1) 相談相手を求めるニーズ 以上のように、本格的な財産管理というところまではいかなくとも、日々の生活で生じる心配ごとや大小さまざまな相談ごとを、普段から付き合いがあって信頼できる弁護士や税理士にざっくばらんに相談したい、できればそのような機会を定期的に設けてもらいたいというニーズは少なからず存在する。 筆者の経験では、特にもともと会社経営をしていて今は一線を退いている元経営者や、代々相続してきた不動産を多数所有している資産家などから、このような希望を寄せられたことがある。 たとえば会社経営者の場合でいえば、自社の事業に関連した人事・後継者問題や事業承継問題、あるいはプライベートでの家族の結婚・離婚や相続、自身が所有する財産の管理、将来的な遺産相続などといったように、その時々で専門家に相談したい事項がいろいろとあり、これらをざっくばらんに相談でき、親身になって考えてくれる相談相手が欲しいということであった。 近時は、ホームドクターになぞらえて「ホームロイヤー契約」とか「個人向け顧問契約」等といわれるのがこれである。 (2) オンラインとの親和性 このような依頼があったときに、コロナ以前は、定期的に依頼者のご自宅や事務所を訪問して面談で打ち合わせをしたり、電話で話をする方式で対応することがほとんどであった。 しかし、依頼者が高齢である場合にはできるだけ物理的な移動を要しない方が好都合であるし、コロナ禍の状況もまだまだ油断できないところである。 このようなことを考えると、上記のような依頼者との打ち合わせを、Zoom等を用いてオンラインの非対面式で実施することは、非常に相性がよい。 オンラインであれば、お互いの顔を見ながらざっくばらんな話もできるし、依頼者の反応も感じ取れる。わかりにくい内容は、図解する等して説明することもできる。   3 “簡易版見守りサービス”として“つながり”を維持・促進できる可能性 (1) 見守りサービス 以上に関連して、ここ数年で目にする機会が増えたサービスの1つが、警備保障会社や大手家電メーカー等が展開している「見守りサービス」である。 これは主に単身で生活する高齢者を対象としたサービスであり、①自宅内の各所にセンサーを設置して、外部のセンターから居住者の挙動を確認できるようにする(長時間まったく人の動きがなければ、確認要員を向かわせる、予め登録した家族に連絡をする等)、②センサーやGPSを併用することで徘徊があったときに早期の対応をする、③インターネットに接続されたAIカメラを設置し、屋内の様子を確認できるようにする、④専用のコールセンターを設けて居住者や親族からの問い合わせ等に対応する、などというように、各社が工夫して多種多様なサービスを提供しているようである。 これらを参考に、士業においてもオンラインを利用することで、高齢者向けのいわば“簡易版見守りサービス”ともいうべきものを展開できると思われる。 (2) スマホやタブレットの活用 まず最低限、依頼者がこちらに連絡を取ったり、相談をしたいといったときにすぐに連絡が取れるような体制とする必要があるが、このとき、いちいちパソコンを起動して立ち上げが必要なソフト・システムを用いるのでは、即座に対応ができないし、機器の使用方法がわからないという事態が起こりうる。 そこで、高齢者でも、今はスマホやタブレットを使うことも普通になってきているので、たとえばスマホやLINEのビデオ通話機能を使うということにすれば、使用手順はそれほど複雑ではないので、はじめに使用方法を丁寧に説明しておき、日常生活でも機会があるごとに使ってもらって慣れておいてもらえば、十分対応が可能であろう。 これを前提に、たとえば、月1回程度、15~30分程度の時間をとって世間話やその時々で気になる点などを、雑談混じりでざっくばらんにビデオ通話等で意見交換する。 そして、このような機会とは別に、自宅に不審な者が訪問してきた、怪しい内容の電話がかかってきた等の緊急事態の場合には、即座に電話で連絡をしてもらって対応するというのが簡便かつ現実的でよいと思われる。 伝統的に、税理士や弁護士等の士業に相談することは敷居が高いというイメージを持たれてきたが、上記のような形で、お互いに負担が少ない形で、定期的に、安価でサービスを提供することにより、依頼者問の“つながり”を維持・促進することも可能ではないか。 オンラインの利用は、このような目的に親和性が高いと思われる。 (了)

#No. 447(掲載号)
#栗田 祐太郎
2021/12/02

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第51話】「債務免除とその所得区分」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第51話】 「債務免除とその所得区分」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   浅田調査官は、疲れた表情をして、中尾統括官の机の前にやって来る。 「税務調査に行ってきたのですが・・・」 中尾統括官は、パソコンのキーを叩くのを止めて、顔を上げる。 「ごくろうさん」 中尾統括官は、微笑む。 「それで・・・どうだった?」 中尾統括官が税務調査の結果を尋ねる。 「ええ、特に大きな問題はありませんでしたが・・・1つだけ・・・どうしようかと迷っていることがあります」 浅田調査官は、カバンから書類を取り出す。 「・・・これは、元帳のコピーなんですが、雑損失として300万円が計上されています・・・この損失は・・・従業員に対する貸付金を免除したというもので・・・」 浅田調査官は、元帳の「仕訳」を説明する。 「何故・・・事業主は、従業員の貸付金を免除したのだ?」 中尾統括官は、少し怒ったような声で聞く。 「それが・・・従業員の家が火災で燃えてしまったということらしいのです・・・」 浅田調査官は、事業主から聞いた話をそのまま伝える。 「それで・・・貸付金を免除したというのか・・・」 中尾統括官は、腕を組んで、思案顔になる。 「これって・・・贈与税の対象になるのでしょうか?」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を覗く。 中尾統括官は、おもむろに、税務六法を開く。 所得税法36条1項は、次のように「収入金額」を規定している。 「そして、所得税基本通達36-15で、具体的に経済的利益を例示し、その(5)において『債務免除』を挙げている」 「・・・だから、事業主は・・・従業員に対して経済的利益を与えたことになる・・・そうすると、事業主も個人であるから、その経済的利益が贈与に該当するものであれば・・・相続税法8条(債務免除)によって、受贈者である従業員に対して、贈与税が課せられるということになるだろう・・・」 中尾統括官は、ゆっくりと説明する。 「ということは、源泉所得税が課せられないということですか?」 浅田調査官は、不満そうに言う。 「従業員は、使用人の地位に基づいて・・・・・・・・・・・、事業主から債務免除という経済的利益を受けたと解すれば、それは給与所得になり、源泉徴収の対象になるのではないかと思うのですが・・・」 浅田調査官は、当該債務免除を給与所得と考えている。 「うーん、使用人の地位に基づいて、債務免除を受けたということか・・・そうすると、事業主(個人)が法人である場合は、どうなる?」 中尾統括官は、逆に尋ねる。 「使用人の地位に基づいて債務免除を受けたとするならば、当然、法人の場合も給与所得になるのでしょう・・・もっとも、それが、純粋な贈与であるならば、一時所得になりますが・・・結局は・・・この債務免除に対価性があるか否かですが・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、罫紙に図を描く。 「この対価性の有無は、使用人の地位に基づくものであるかないかで決まるの?」 中尾統括官が尋ねる。 「・・・従業員としての地位が存しているから、債務免除されると考えるならば、単純に贈与と考えることはできないと思うのです・・・すなわち、債務免除をすることによって、従業員のモチベーションは高まり、昇給するのと同じ効果を期待できると事業主は考えるのでしょう・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の話を聞きながら、「(令和2年11月改訂)所得税実務問答集」(岸本明編・納税協会連合会・清文社)を取り出す。 「この本の150頁に、『借入金の債務免除による利益』と題して、次のような設例がある」 中尾統括官は、説例を読み上げる。 「この本の答えは・・・免除した債権者は5年前まで役員をしていた法人であり、また、免除を受けた債務はマイホーム資金の借入金であることから法人からの贈与として、一時所得に該当します・・・となっている・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「・・・このケースの借入金の債務免除は、会社を退職して、5年が過ぎていますから、役員としての地位に基づいて債務免除を受けたと解しないのでは・・・」 浅田調査官は、考えながら答える。 (つづく)

#No. 447(掲載号)
#八ッ尾 順一
2021/12/02

《速報解説》 改正電帳法に係る届出書等様式が公表される~「優良な電子帳簿の要件チェックシート」も~

《速報解説》 改正電帳法に係る届出書等様式が公表される ~「優良な電子帳簿の要件チェックシート」も~   Profession Journal編集部   国税庁は11月29日付(ホームページ公表は11月30日)で、施行が来月にせまる改正電子帳簿保存法に対応した届出書等の様式を定める通達を公表した。 また、特集ページ(令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しについて)において「申請書等様式」を新設、各手続の解説ページや記載例などが掲載されている(なお特集ページではかねてより、様式関係は11月中の公表を予告しており、月末ぎりぎりの公表となった)。 今回公表された様式は次の5点。新制度下では税務署長による電子帳簿保存の事前承認制度は廃止されたものの、過少申告加算税の5%軽減措置が適用できるのは優良な電子帳簿(特例国税関係帳簿)に限られるため、適用にあたっては、適用を受けようとする国税に係る法定申告期限までに、①の届出書を所轄税務署長に提出する必要がある。 なお、①の届出手続ページには、軽減措置が適用される「優良な電子帳簿」の要件が確認できるチェックシートが登載されている。 (※) 国税庁ホームページより (了)

#No. 446(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/12/01

《速報解説》 国税庁、新たに21の質疑応答事例を公表~改正評基通により見直された電話加入権の評価方法の事例等も追加~

《速報解説》 国税庁、新たに21の質疑応答事例を公表 ~改正評基通により見直された電話加入権の評価方法の事例等も追加~   Profession Journal編集部   国税庁は11月26日付けで質疑応答事例を更新。所得税、源泉所得税、譲渡所得、財産の評価、法人税、消費税、印紙税に関し、新たに21事例を追加した。 新設の21事例は以下のとおり。 なお、本年6月22日に改正された財産評価基本通達において電話加入権の評価方法が大幅に見直されたことは既報のとおりだが、今回、財産の評価に関する事例として、電話加入権の評価方法の基本的な質疑応答が追加されている。 (了)

#No. 446(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/11/29

プロフェッションジャーナル No.446が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年11月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.446を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/11/25

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第8回】「課税減免規定の限定解釈の意義・性格と射程」-外国税額控除余裕枠利用[りそな銀行]事件・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第8回】 「課税減免規定の限定解釈の意義・性格と射程」 -外国税額控除余裕枠利用[りそな銀行]事件・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 税法の解釈について、租税法律主義の下では、文理解釈が原則であることに異論はないが(第4回Ⅰ、第6回Ⅲ1、第7回Ⅰ参照)、ただ、文理解釈の結果なお複数の解釈可能性が残る場合には、租税法律主義の下でも、租税法規の趣旨・目的を参酌して当該租税法規の意味内容を一義的に確定することが許されるし、むしろ、確定しなければならない。このような法解釈の方法は一般に目的論的解釈と呼ばれる。これは、法規の文言の通常の意味を明らかにしようとする文理解釈を補完する解釈方法である(文理解釈の補完としての目的論的解釈。これについて拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【45】参照)。 今回は、外国税額控除余裕枠利用事件における裁判所の判断を素材にして、税法の目的論的解釈に関連して課税減免規定の限定解釈の意義・性格と射程について検討する。外国税額控除余裕枠利用事件は複数の同種の事件の総称であるが、その中で特徴的な判断は、①三井住友銀行事件における大阪高判平成14年6月14日訟月49巻6号1843頁と②りそな銀行事件における最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁(以下「本判決」という)である。 前者(①)は、「租税法律主義の下でも、かかる場合[=規定の趣旨・目的に合致しない場合]に課税減免規定を限定解釈することが全く禁止されるものではないと解するのが相当である。」と判示したが、ここでいう課税減免規定の限定解釈は、「[課税減免規定の]趣旨・目的に合致しない場合を除外するとの解釈」とされている。以下では、筆者も、課税減免規定の限定解釈という語をこの意味で用いる。 これに対して、後者(②=本判決)は次のとおり判示した(下線筆者)。 両者の関係について、本判決(前記②)を前記①の延長線上において捉えようとする見解がある。その代表的な見解は次のとおり(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)141頁。今村隆『租税回避と濫用法理』(大蔵財務協会・2015年)197頁[初出・2012年]のほか、杉原則彦「判解」最判解民事篇平成17年度(下)(7月~12月分)990頁、990頁も参照)であるが、この見解は、課税減免規定の限定解釈を、租税法律主義の下で許容される目的論的解釈(文理解釈の補完としての目的論的解釈)として性格づけるものと解される。 これに対して、筆者は、そもそも、前記①の判示した「[課税減免規定の]趣旨・目的に合致しない場合を除外するとの解釈」という意味での課税減免規定の限定解釈を、文理解釈の補完としての目的論的解釈ではなく、目的論的制限(teleologische Reduktion)と呼ばれる、適用除外規定の欠缺すなわち隠れた欠缺(verdeckte Lücke)の補充による法創造に属する、課税減免規定に係る適用除外要件の定立方法として性格づけた上で、外国税額控除余裕枠利用[三井住友銀行]事件で大阪高判(前記①)が法人税法69条1項の「外国法人税(・・・・・・)を納付することとなる場合」にいう「納付」という文言について解釈的手法により限定解釈を加えたものであるのに対して、同[りそな銀行]事件では本判決(前記②)は、「我が国の外国税額控除制度をその本来の趣旨目的から著しく逸脱する態様」での同制度の利用について、「納付」という文言の解釈を問題にすることなく、端的に、、、、それを同制度の「濫用」として同制度の適用を否認したものと理解してきた(差し当たり、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第7回参照)。 そして、本判決(前記②)の判断も法創造に属するものであるが、課税減免規定の限定解釈とは異なり、解釈的手法による法創造ではなく「租税法規の趣旨・目的の法規範化」による法創造として性格づけ、「課税減免制度濫用の法理」と呼ぶことにし、租税法律主義の下では許容されないと批判してきた(前掲拙著【47】参照)。 このように、本判決(前記②)については異なる理解ないし評価がみられるが、学説の中には、一見すると、その「中間」に位置するかのように思われる見解もみられる。その見解については、項を改めて紹介し検討することにする。   Ⅱ 課税減免規定の「限定解釈(不適用)」 本判決(前記②)については、次のような理解がみられる(今村・前掲著127-129頁[初出・2009年]。下線筆者)。 この理解によれば、本判決(前記②)は、法人税法69条(の定める外国税額控除制度)の適用の「限定の方法」について、後者の手法すなわち「同条の予定しているものではないとして同条の適用自体を否定する手法」を採用したものと解されているが、このような理解を、既にみたところの、本判決(前記②)を前記①の延長線上において捉えようとする見解と、結びつける見解がみられる。それは、「筆者の立場は、まず、外税最高裁判決[=本判決]は、基本的には、課税減免規定の立法趣旨による限定解釈の延長線上にあるということである。」(清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究-外国税額控除事件を出発点として-」税務大学校論叢59号(2008年)245頁、290頁)とした上で、次のように説く見解(ⓐ同291頁、ⓑ同293-294頁。下線筆者)である。 この見解は、本判決(前記②)の判断方法を「課税減免規定の『限定解釈(不適用)』」(清水・前掲論文298頁。太字筆者。同294頁注(60)も参照)と称しているが、それは、確かに、論者の主観においては、課税減免規定の限定解釈の延長線上にあると理解したいのであろう。しかし、税法の解釈適用方法論の観点からみれば、法人税法69条の「納付」という文言の解釈を問題にしていないこと及び「条文の背後にある当然の前提としての適用要件」という不文の濫用禁止要件を創造し、その要件をもって同条の適用を否定する根拠としていることからすると、筆者のいう課税減免制度濫用の法理と実質的には同じ考え方を説くものと解さざるを得ない。したがって、課税減免規定の「限定解釈(不適用)」という考え方も、課税減免制度濫用の法理と同じく、租税法律主義の下では許容されないと考えられる。 課税減免規定の「限定解釈(不適用)」という考え方は、前述のとおり、「条文の背後にある当然の前提としての適用要件」という不文の濫用禁止要件を創造するものであるが、そうすると、税法に「税法秩序の自力防衛」原則("Bewahrung der Steuerrechtsordnung aus eigener Kraft" Grundsatz. この原則については、差し当たり、拙稿・谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第12回Ⅱ2参照)が内在することを暗黙の前提とする考え方であると解される。しかし、もし租税法律主義が、そのような暗黙の前提に基づいて不文の濫用禁止要件を創造することを承認するならば、それは租税法律主義の自己否定である。 ところが、前記の見解は、「制度全体の趣旨から当然に導かれる要件だとしても、法律の条文上、明示的に書かれていない以上、憲法84条の租税法律主義に違反するという批判はあり得よう。」(清水・前掲論文293頁)としつつ、次のような理由により租税法律主義違反という批判に対して反論し、租税法律主義に違反しない旨を説いている(同。下線筆者)。 しかし、ここで述べられている理由は、租税法律主義の「目的」と「機能」との関係(これに関する筆者の見解については前掲拙著【11】参照)を正解した上で述べられたものとはいえないように思われる。確かに、「予測可能性と法的安定性の確保という観点」は租税法律主義において重要である。ただ、その観点は租税法律主義の「機能」の観点であり、しかもその機能(予測可能性・法的安定性保障機能)は派生的機能である。これに対して、租税法律主義の「目的」は、課税権者による恣意的・不当な課税から国民の財産及び自由を保護することであり、そこから導き出される機能は第一次的には課税の適法性保障機能であり、これこそが租税法律主義の本来的機能である。 要するに、課税の適法性が保障されて初めて予測可能性・法的安定性保障機能が意味をもつのであるから、「予測可能性と法的安定性の確保の観点」のみをもっては租税法律主義適合性の問題を判断することはできないと考えられるのである。前記の見解が租税法律主義違反を否定するために述べている理由に即していえば、納税者が課税減免規定の濫用を認識し意図していたとしても、これを否認する明文の規定が定められていない以上、当該納税者はその濫用が否認されないとも認識していたはずであるから、「予測可能性と法的安定性の確保の観点」からはそのことにも重要な意味を認めるべきであるにもかかわらず、前記の見解にはこの点に関する配慮はみられない。   Ⅲ 課税減免規定の目的論的限定適用の許容性 もっとも、課税減免規定の「限定解釈(不適用)」という考え方が、仮に、、、「条文の背後にある当然の前提としての適用要件」という不文の濫用禁止要件を創造するものではなく、法人税法69条の趣旨・目的を考慮して(すなわち目的論的に)「納付」という文言を限定解釈し、かつ、その解釈によって定立した規範を当該事案に限って適用する、いわば「目的論的限定適用」ともいうべき法適用の方法を採用するものであったとすれば、それについてはどう考えるべきであろうか。 わが国の税法判例で目的論的限定適用の方法を採用したものとしては、最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁がある(以下「延滞税最判」という。この判決に関する以下の検討については、拙稿・谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第16回参照)。この判決は次のとおり判示している(下線筆者)。 この引用部分の2つ目の文章の「上記の諸点に鑑みると」以下をみると、そこで述べられている判断構造は、前記Ⅱの冒頭で引用したように本判決(前記②)を、「同条[=法人税法69条]の予定しているものではないとして同条の適用自体を否定する手法」を採用したものとして理解した場合におけるその判断構造と、同じものであると解される。このことは、多数意見が本件における延滞税の発生を「法において想定されていないもの」と解したことについて、延滞税最判における千葉勝美裁判官の補足意見(以下「千葉補足意見」という)が次のとおり述べていること(下線筆者)からも、いえることであると考えられる。 ここで述べられている租税法規の適用方法は、租税法規が法人税法69条のような法人税の課税減免規定であるか又は国税通則法60条1項2号のような延滞税の課税根拠規定であるかの違いはあれ、租税法規の目的論的限定適用である。このことは、「延滞税の趣旨・目的と延滞税の発生を認めることによる不当な結果は、本件における減額更正、過納金の還付前の延滞税発生を否定すべき積極的理由となる。」と述べた上でその場合において「延滞税の発生要件を欠く」として延滞税の発生要件の欠缺を認める小貫芳信裁判官の意見について、千葉補足意見が「条文にはない明確な基準を示すことについては、それが解釈により不文の消極要件を作ることにもなる」(下線筆者)との的確な指摘を行っていることからも、いえるであろう。 このように考えてくると、課税減免規定の限定解釈(前記Ⅰで述べた目的論的制限)と課税減免規定の目的論的限定適用との違いが明らかになるであろう。両者は、租税法規の欠缺を補充する要件を創造するか否かの点で異なるのである。 では、課税減免規定の目的論的限定適用は、課税減免規定に係る適用除外要件の欠缺(隠れた欠缺)を補充する要件を創造することなく、どのようにして特定の事案に限って課税減免規定の適用を否定するのであろうか。延滞税最判は「課税上の衡平」の考慮により延滞税規定の目的論的限定適用を認めたが、「衡平」の観念は、「実定法の一般的な準則をそのまま個別的事例に適用すると、実質的正義の観点からみて著しく不合理な結果が生じる場合に、その法的準則の適用を制限ないし抑制する働きをする。」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)323頁。下線筆者)とされるところ、課税減免規定の目的論的限定適用についても、「課税上の衡平」の観念を援用することができるのであろうか。 この点については、「国(立法府)には法律制定権限があるが、納税者には法律制定権限はないという本質的な違い」(宮崎裕子「一般的租税回避否認規定―実務家の視点から(国際的租税回避への法的対応における選択肢を納税者の目線から考える)」ジュリスト1496号(2016年)37頁、43頁)を考慮すべきであると考えられる。つまり、延滞税事件においては、国税通則法60条1項2号をそのまま適用すると「実質的正義の観点からみて著しく不合理な結果」が生じ、法律制定権限をもたない納税者はその結果を自分自身では除去することができないのに対して、外国税額控除余裕枠利用事件においては、法人税法69条をそのまま適用すると生じる結果は、それが国にとって著しく不合理であるとすれば、国としては、予め法律制定権限を行使して除去することが可能であり、少なくとも、そのような結果を立法事実として認知した場合には迅速・機動的に対応して同様の結果の再発を阻止することが可能であることからすると、「課税上の衡平」の観念を援用することは延滞税事件においては妥当であるとしても、外国税額控除余裕枠利用事件においては、その結果が実質的正義に反するとはいえないが故に、妥当ではなかろう。憲法が基本的人権として裁判を受ける権利を保障していること(32条)からしても、そのような判断の違いは正当化されるであろう。 そうすると、外国税額控除余裕枠利用事件においては、課税減免規定の目的論的限定適用という方法も採用することはできないと考えるところである。   Ⅳ おわりに 以上において、外国税額控除余裕枠利用事件に関する本判決(前記②)を素材にして、課税減免規定の限定解釈の意義・性格や射程を検討してきたが、その際、検討の観点を租税法律主義ないしその下における税法解釈のあり方に求めてきた。 最後に、検討の観点を広げ三権分立制の下での司法の役割をも視野に入れて、今回取り上げた問題について若干の所見を述べておきたい。三権分立制の下での司法の役割について、筆者は延滞税最判に関連して「司法は、そのような役割[=個別事案の解決]に加えて、法の欠缺が存在する場合には、個別事案の判断を通じてあるいはそれに関連して、そのことを公然と指摘することによって、立法者にその欠缺の存在を認識させ、もってその欠缺を補充するための法改正等の立法的対応を促すべきであるように思われる。」(前掲・拙稿第16回Ⅲ2)と述べ、延滞税の発生要件の欠缺を認めその補充のために要件を創造した小貫裁判官の意見を肯定的に評価した。 このような考え方は、外国税額控除余裕枠利用事件においても基本的には妥当すると考えられる。三井住友銀行事件において大阪高判(前記①)は、課税減免規定の限定解釈を採用したが、これは、前記Ⅰで述べたように、法人税法69条1項の「外国法人税(・・・・・・)を納付することとなる場合」という要件について適用除外要件の欠缺(隠れた欠缺)の存在を認め、「納付」という文言を限定解釈することによって実質的には適用除外要件を定立する法創造(目的論的制限)である。これは、三権分立制の下での司法の役割の観点からは、肯定的に評価されるべきものである。 もっとも、そのような法創造を認めるとしても、それは、租税法律主義の観点をも合わせ考慮すると、租税法規の趣旨・目的が文言による表現に匹敵するほどの明確性をもって一般に認識可能であることというような厳格な要件の下でのみ、許容されるべきであると考えられる(前掲拙著【46】参照)。この点においても、立法者の説明責任(第4回参照)は極めて重要である。 (了)

#No. 446(掲載号)
#谷口 勢津夫
2021/11/25
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