《速報解説》 燃費性能に応じた車体課税の見直し・延長 ~令和3年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 菊地 弘 令和2年12月10日に令和3年度税制改正大綱(与党大綱)が公表された。 自動車の車体課税等に関する主な改正事項等をまとめると、次のとおりである。 1 車体課税等の見直し (1) 自動車重量税(国税) 「自動車重量税のエコカー減税」(排出ガス性能及び燃費性能の優れた環境負荷の小さい自動車に係る自動車重量税の免税等の特例措置)について、次の見直しを行った上、その適用期限を2年延長する。 〇乗用自動車(軽油自動車を除く) ① 燃費性能に関する要件の見直し ② 新車に係る新規検査後に受ける最初の継続検査等における免除対象自動車となる要件 〇乗用自動車(軽油自動車に限る) 〇バス(車両総重量が3.5t以下の揮発油自動車及び軽油自動車に限る) ① 本措置の対象となる自動車と軽減の内容(その1) ② 本措置の対象となる自動車と軽減の内容(その2) (2) 自動車税環境性能割(地方税) 適用区分について、次の見直しを行う。 〇自家用乗用車 イ 燃費性能に関する要件の見直し ロ 軽油自動車に係る非課税の適用を受けるための要件を加える。 ハ 軽油自動車の環境性能割1%の税率適用を受ける区分に、次の自動車を加える。 ニ 軽油自動車の環境性能割2%の税率適用を受ける区分に、次の自動車を加える。 ホ ロからニまでに掲げる軽油自動車以外の軽油自動車に係る環境性能割の税率を当分の間、3%とする。 〇営業用乗用車 イ 燃費性能に関する要件の見直し ロ 軽油自動車に係る非課税の適用を受けるための要件を加える。 ハ 軽油自動車の環境性能割0.5%の税率適用を受ける区分に、次の自動車を加える。 ニ 軽油自動車の環境性能割1%の税率適用を受ける区分に、次の自動車を加える。 ホ ロからニまでに掲げる軽油自動車以外の軽油自動車に係る環境性能割の税率を当分の間、2%とする。 〇バス(車両総重量が2.5t以下のもの) ▷燃費性能に関する要件の見直し(自:自家用、営:営業用) (注) バス(車両総重量2.5tを超え3.5t以下のもの)についても、燃費性能に関する要件の見直しあり。 〇トラック(車両総重量2.5t以下のもの) ▷燃費性能に関する要件の見直し(自:自家用、営:営業用) (注) トラック(車両総重量2.5tを超え3.5t以下のもの)についても、燃費性能に関する要件見直しあり。 〇バス・トラック(車両総重量が3.5tを超えるもの) 軽油自動車で平成21年排出ガス規制に適合するもの(平成28年排出ガス規制に適合する自動車及び平成21年排出ガス規制に適合 + 平成21年排出ガス基準値より10%以上窒素酸化物等の排出量が少ない自動車を除く)を非課税又は1%若しくは2%の税率(営業用自動車は、非課税、0.5%、1%の税率)の適用を受ける区分から除外する。 〇軽油自動車(平成30年排出ガス規制又は平成21年排出ガス規制に適合するもの)で次表に掲げるものに係る環境性能割を非課税とする措置を講ずる。 〇令和元年10月1日から令和3年3月31日までの間に取得した自家用乗用車に係る環境性能割について、次のとおり税率1%分を軽減する特例措置(環境性能割の臨時的軽減)の適用期限を9月延長する(令和3年12月31日までに取得したものを対象とする)。また、この措置による減収については、全額国費で補填する。 (3) 自動車税種別割(地方税) 「種別割のグリーン化特例」(種別割において講じている燃費性能等の優れた自動車の税率を軽減し、一定年数を経過した自動車の税率を重くする特例措置)について、次のとおり適用期限を2年延長する。 (4) 軽自動車税環境性能割(地方税) 適用区分について、次の見直しを行う。 〇自家用乗用車:燃費性能に関する要件の見直し 〇営業用乗用車:燃費性能に関する要件の見直し 〇トラック(車両総重量が2.5t以下のもの):燃費性能に関する要件の見直し 自動車税環境性能割における要件と同様の見直しがある。 〇令和元年10月1日から令和3年3月31日までの間に取得した自家用乗用車に係る環境性能割について、次のとおり税率1%分を軽減する特例措置(環境性能割の臨時的軽減)の適用期限を9月延長する(令和3年12月31日までに取得したものを対象とする)。また、この措置による減収については、全額国費で補填する。 (5) 軽自動車税種別割(地方税) 「種別割のグリーン化特例(軽課)」について、次のとおり適用期限を2年延長する。 2 租税特別措置等 ▷国税(延長・拡充等) 〔自動車重量税〕 ▷地方税(延長・拡充等) 〔自動車税環境性能割〕 (了)
《速報解説》 監査役協会から「企業の健全なリスクテイクに対する 監査等委員会の関与の在り方」についての報告書が公表される ~SDGs・ESGを意識した経営への取組みは約半数が未対応との回答~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年12月16日、日本監査役協会 監査等委員会実務研究会は、「企業の健全なリスクテイクに対する監査等委員会の関与の在り方」を公表した。 これは、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上という目的達成に向けた経営上の意思決定に対して、監査等委員会が監督機能を果たすためにどのような検討を行うべきかについて、次の論点を検討したものである。 報告書は表紙を含めて51ページあり、以下では主な内容について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 中期経営計画等を含む経営基本戦略 次のアンケート結果が記載されている。 監査等委員会の中期経営計画等への関与の在り方としては、取締役会に先立って、監査等委員会の場での情報共有や議論を行うことは有効であると考えられるとのことである。 また、中期経営計画等の検討プロセスそのものだけでなく、監査の機会を通じて横断的に収集した情報を活用しながら、その是非について独立的・中立的目線で検討することが望まれるとのことである。 Ⅲ リスク投資 リスク投資として、例えば、設備投資、システム投資、子会社貸付/出資、不動産開発投資、M&Aをあげている。 これらは、企業の中長期的な成長のために重要であるとともに、投資判断の誤りによって経営危機に陥る可能性のある経営上の重要な判断事項である。 監査等委員会のリスク投資への関与の在り方としては、プロセス面の適切性の確認と、内容面の妥当性の判断とに分かれるとのことである。 Ⅳ SDGs・ESGを意識した経営への取組み 「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のことであり、2030年までに達成すべき17の国際目標である。 「ESG」とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス:企業統治)のことである。 企業が中長期的に企業活動を継続するためには、SDGs・ESGを意識した経営が重要となってきている。 監査等委員会のSDGs・ESGを意識した経営への取組みへの関与の在り方としては、担当役員から直接の情報収集を行うことや、報告書作成部門等から直接意見を聞くなどの機会の設定は、いずれも20%未満にとどまっており、最も多いのは、「特に対応していない」(48.5%)であった。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会、「監査役等と内部監査部門との連携について」の フォローアップ調査の結果を公表 ~アンケート結果をもとに各社の取組みについて分析等を行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年12月16日、日本監査役協会 監査法規委員会は、「『監査役等と内部監査部門との連携について』のフォローアップ調査について」を公表した。 これは、2017年1月の「監査役等と内部監査部門との連携について」の公表から、2020年1月で3年が経過しており、現時点における監査役等と内部監査部門との連携について調査したものである。 報告書は表紙を含めて48ページあり、また、「アンケート回答結果」も別添資料として公表されている。 以下では主な内容について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 対象会社の内部監査体制 ①監査役会設置会社、②指名委員会等設置会社、③監査等委員会設置会社について、内部監査部門はどの機関の支配下にあるか、内部監査部門の要員は何名かなどのアンケート結果が記載されている。 Ⅲ 対象会社の取組み 次の4つの提言ごとに、「2017 年提言の内容」、「アンケートの回答内容の主な設問ごとの抜粋」、「回答内容に関する当委員会のコメント」を記載している。 1 内部監査部門から監査役等への報告 アンケート結果について、次のコメントが記載されている。 2 内部監査部門への監査役等の指示・承認 アンケート結果について、次のコメントが記載されている。 3 内部監査部門長の人事への監査役等の関与 アンケート結果から、内部監査部門長の人事への関与については、様々な考え方が見られた。 4 内部監査部門と監査役等との協力・協働 アンケート結果から、監査計画や監査結果の共有、合同監査の実施など、対象会社ではいずれも何らかの取組みが行われており、連携・協働が図られている。 (了)
《速報解説》 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置の延長・見直し ~令和3年度税制改正大綱~ 太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 1 はじめに 令和2年12月10日に公表された令和3年度税制改正大綱(自由民主党及び公明党)において、教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置が、一部見直しのうえ、延長された。今回の見直しは、以前より指摘されてきたところである相続税の節税を封じる改正となっている。 2 改正の概要 (1) 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置(以下、教育資金の一括贈与の非課税措置) 平成25年に創設された教育資金の一括贈与の非課税措置は、令和元年度税制改正で受贈者の合計所得金額要件や教育資金の範囲等一部見直しのうえ2年延長されたが、令和3年度税制改正において、主に下記2点の見直しを加えたうえで、令和5年3月31日まで再度2年延長されることになった。 上記①及び②の改正は、令和3年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権等について適用される。 (2) 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置(以下、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置) 平成27年に創設された結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置は、令和元年度税制改正で受贈者の合計所得金額要件等一部見直しのうえ2年延長されたが、令和3年度税制改正において、主に以下の2点の見直しを加えたうえで、令和5年3月31日まで再度2年延長されることになった。 なお、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置については、大綱の前文において「贈与の多くが扶養義務者による生活費等の都度の贈与や基礎控除の適用により課税対象とならない水準にあること、利用件数が極めて少ないこと等を踏まえ、次の適用期限の到来時に、制度の廃止も含め、改めて検討する。」と記載されている。 (3) その他 「教育資金の一括贈与の非課税措置」及び「結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置」ともに、その範囲に「1日当たり5人以下の乳幼児を保育する認可外保育施設のうち、都道府県知事等から一定の基準を満たす旨の証明書の交付を受けたものに支払われる保育料等」が加わる(令和3年4月1日から適用)。 またこれら制度に係る申告書等について、書面に代えて電磁的方法による提出が認められることとなる。 (了)
《速報解説》 株式対価M&Aを促進するための措置の創設 ~令和3年度税制改正大綱~ 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 令和2年12月10日公表の令和3年度与党税制改正大綱において、株式を対価としたM&Aを促進するための措置が明記された。本稿ではその概要について解説を行う。 1 改正の背景 日本では、自社株式を対価とするTOBは一般的に行われてこなかったが、その理由として、次の2点が挙げられていた。 平成30年に、産業競争力強化法及び租税特別措置法が改正され、特別事業再編計画の認定を受けると、会社法上の特例として現物出資規制及び有利発行規制の適用を受けず、かつ、税務上の特例として被買収会社の株主には課税が繰り延べられる措置(措法66の2の2)が設けられた。 令和元年の会社法改正(令和3年3月1日施行)により、株式交付制度が創設され、産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けることなく、現物出資規制や有利発行規制が適用されないこととなったが、株式交付制度に対応する税務上の特例がなかったため、令和3年度税制改正要望において経済産業省から下記の要望がなされていた。 2 改正会社法における株式交付制度 「株式交付」とは、株式会社(株式交付親会社)が他の株式会社(株式交付子会社)を子会社とするために、他の株式会社(株式交付子会社)の株式を譲り受け、株式の譲渡人(株式交付子会社の株主)に対してその株式の対価として株式交付親会社の株式を交付することをいう(改正会社法2三十二の二)。 つまり、自社株式を対価とした企業買収を可能とするもので、部分的な株式交換により株式を取得する制度である。 株式交付子会社の株主に対して交付する対価には、株式交付親会社の株式を必ず含める必要があるが、株式交付親会社株式と金銭等を交付すること(混合対価)も可能である。 株式会社が、既に議決権の過半数を有している他の株式会社の株式を買い増す場合や、他の株式会社を子会社としない場合(議決権の過半数の取得に至らない場合)には、株式交付に該当しないこととなるので、留意が必要である。 【図1】 株式交付のイメージ 【図2】 現物出資規制・有利発行規制の適用関係 (出典) 経済産業省「令和3年度税制改正に関する経済産業省要望【概要】」より筆者一部加工 3 令和3年度税制改正大綱の内容 (1) 譲渡損益の繰延べ ① 法人株主の譲渡損益繰延べ 法人株主が、会社法の株式交付により、株式交付子会社株式を譲渡し、株式交付親会社株式の交付を受けた場合には、その譲渡した株式交付子会社株式の譲渡損益の計上を繰り延べることとされる。 ただし、法人株主が外国法人の場合には、外国法人の日本の恒久的施設において管理する株式に対応して株式交付親会社の株式の交付を受けた部分に限定して適用することとされている。 ② 個人株主の譲渡損益繰延べ 所得税についても同様の措置が設けられるため、個人株主の譲渡した株式交付子会社株式の譲渡損益の計上も繰り延べられることとなる。 (2) 混合対価の場合の取扱い 株式交付親会社株式以外に金銭等の交付がある場合(混合対価の場合)には、譲渡損益繰延べは、対価として交付される資産の価額のうち株式交付親会社株式の価額が80%以上のときに限定して適用され、交付資産のうち株式交付親会社株式の価額の占める割合が80%に満たない場合には適用がないので留意が必要である。 また、譲渡損益繰延べの適用がある場合でも、株式交付親会社株式に対応する部分の譲渡損益のみ計上が繰り延べられ、金銭等に対応する部分の譲渡損益は計上しなければならない。 (3) 添付書類 株式交付があった場合の株式交付親会社の法人税申告書には、貸借対照表、損益計算書等の他に、株式交付計画書及び株式交付に係る明細書を添付することが必要となる。 また、その明細書には、株式交付により交付した資産の数又は価額の算定の根拠を明らかにする事項を記載した書類も添付することとなる。 (4) 今後の留意点 令和3年度税制改正大綱では明らかとなっていない株式交付親会社側の処理として、株式交付子会社株式の取得価額、増加する資本金等の額がどのように規定されるかについて、今後の留意が必要である。 (了)
2020年12月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.399を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第86回】 「令和3年度与党税制改正大綱の概要」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 12月10日、自民党及び公明党の両党は、「令和3年度税制改正大綱」(与党大綱)を決定した。 以下ではこの与党大綱の概要について解説する。 〇法人課税 (1) 研究開発税制 法人課税関係では、研究開発税制において、適用期限を迎える控除率の上乗せ措置等について2年延長した上、控除率が試験研究費の増加インセンティブをより高める方向で見直されるとともに、控除上限の上乗せ措置が設けられる(売上が基準年度より2%以上減少し、かつ、試験研究費が基準年度より増加している場合に、5%上乗せ(合計30%))。また、これまで税額控除の対象外であったクラウドサービスの開発等のための自社利用ソフトウエアに係る試験研究費が、税額控除対象の試験研究費に含まれることとなる。 (2) 産業競争力の強化に資する税制の創設 産業競争力強化法の改正を前提とした、事業革新に向けた3つの措置が創設される。 第1は、デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制。産業競争力強化法に基づく事業適応計画(仮称)の認定を前提に、その計画に基づくソフトウエアを新増設し、それとともに事業の用に供する機械装置・器具備品について30%の特別償却又は3%(グループ外とのデータ連携の場合は5%)の税額控除が適用される。 第2は、カーボンニュートラル投資促進税制。産業競争力強化法に基づく中長期環境適応計画(仮称)の認定を前提に、その計画に基づき生産プロセスを大幅に省エネ化・脱炭素化するための最新の設備(機械装置・器具備品・建物附属設備・構築物)を取得等した場合には50%の特別償却又は5%(経済活動炭素生産性の向上率が高い場合には10%)の税額控除、脱炭素化を加速する製品の生産に専ら使用される設備製造(機械装置)を取得した場合には50%の特別償却又は10%の税額控除が適用される。 第3は、繰越欠損金の控除上限の特例。産業競争力強化法に基づく事業適応計画(仮称)の認定を前提に、一定の要件(将来の成長に向けた投資(単純な維持・更新投資は対象外)計画を提出し、計画期間内に達成を見込む業績目標(ROA5%ポイント向上等)を定めること)を満たすものが、コロナ下で生じた(2年間)欠損金につき、黒字転換後最大5年間にわたり、計画に基づく投資額を限度に最大当期所得の100%まで損金算入が可能となる。 (3) 株式対価M&Aに係る繰延措置 会社法改正(令和3年3月1日施行)で創設されることとなった株式交付制度(自社株式を対価とした子会社化)を前提に、それに応じた被買収会社の株主について、譲渡損益が繰り延べられる。対価の80%は買収会社の株式である必要があるものの、残り20%までは現金等でも構わない(この場合、自社株式を対価とする部分の譲渡損益が繰り延べられる)。 (4) 賃上げ・生産性向上のための税制 賃上げ・生産性向上のための税制(大企業向け措置)は、今回のコロナ感染症を引き金としてかつての就職氷河期が再来することのないよう、新規採用者(新卒・中途)の給与総額の増加(2%以上)にターゲットを絞った制度(新規採用者の給与総額(ただし全従業員の給与総額の対前年度増加額が上限)の15%の税額控除)に改組される。 (5) 中小企業向け特例措置 中小企業向け特例措置は、法人税の軽減税率の特例(年800万円以下の部分について15%)や中小企業投資促進税制(商業・サービス業・農林水産業活性化税制と統合)、中小企業経営強化税制等がそれぞれ2年延長されるとともに、中小企業の経営資源の集約化に資する税制が創設される。具体的には、中小企業による買収が行われた場合に、その株式価値の低落による損失に備えるための準備金(株式の取得価額の70%以下)の積立て(積立額は損金算入し、5年後から5年で均等取崩し)を行う。 〇個人所得課税 住宅ローン控除の特例(控除期間13年)の期限が令和4年12月31日までの入居(契約は、新築の場合は令和2年10月から令和3年9月末までのもの、建売・中古・増改築の場合は令和2年12月から令和3年11月末までのもの)に延長され、床面積要件についても合計所得金額1,000万円以下の者については40平米以上とする。 退職所得に関しては、勤続年数5年以下の場合の法人役員等以外の退職所得については、控除額プラス300万円を超える部分について2分の1課税を適用しないこととなる(令和4年分以後の所得税について適用)。 この他、国又は地方自治体の行う保育その他の子育てに対する助成(ベビーシッター・認可外施設の利用料等の助成等)について所得税・住民税が非課税とされる。 〇資産課税 資産課税では、まず、土地に係る固定資産税につき、今回の評価替えにより本来は課税標準額が引き上げられることとなる全ての土地について、令和3年度に限り、令和2年度と同額に据え置かれる。 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、節税的な利用を防止する観点から、受贈者が贈与者の孫等である場合(つまり世代を飛ばした相続)の贈与者の死亡時の残高に係る相続税額の2割加算の適用等の見直しが行われた上、2年延長となった。ただし、利用者が激減している結婚・子育て資金の非課税措置に関しては、適用期限の到来時には「制度の廃止も含め」検討することとなった。また教育資金の非課税措置に関しては、贈与者死亡時の残額について死亡前3年の贈与に限定することなく、相続財産に加算されることとなる。 〇車体課税 車体課税(自動車重量税、自動車税・軽自動車税)については、100年に一度といわれる大転換期にある自動車産業の存続をかけた対応に「一定期間の猶予」を設ける観点から、燃費基準が令和12年基準に切り替わるものの、自動車重量税のエコカー減税については、全体として自動車ユーザーの負担が増えないこととされる。また、自動車税・軽自動車税の環境性能割の臨時的軽減措置(税率1%分軽減)は新型コロナウイルス感染症緊急経済対策で令和3年3月31日まで延長されているところ、さらに9ヶ月延長し、同年12月31日までに取得したものを対象とする。 〇税務手続の電子化 国・地方公共団体を通じたデジタルガバメントの推進による行政手続コストの削減等の観点から、納税環境のデジタル化を一挙に進める。 税務署長に提出する国税関係書類において、実印及び印鑑証明書を求めている手続(例えば、担保提供関係書類、遺産分割協議書)を除き押印義務が廃止される。 電子帳簿保存制度における手続が抜本的に簡素化される(税務署長の承認制度の廃止、訂正履歴や検索機能がなくてもダウンロード可能であれば電子データのまま保存可能)。トレーサビリティ(追跡可能性)の確保された優良な電子帳簿については、その記録され事項に関し生じた申告漏れに課される過少申告加算税の額を申告漏れに係る税額の5%分軽減する。 地方税においても、地方税共通納税システムの対象税目に、固定資産税・都市計画税・自動車税種別割・軽自動車税種別割が追加され(令和5年度分以後)、給与所得者に係る特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子的送付も可能となる(令和6年度以後の年度分の個人住民税について適用)。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第21回】 「代表取締役による横領があった場合の認定賞与該当性」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ 役員の不正があった場合の論点は【第11回】の通りであるが、役員が法人の金員を横領した場合には、役員に対する経済的利益の供与であるとする「認定賞与」とされることがある。 (1) 認定賞与と役員の横領 「認定賞与」という言葉は法で定められているものではなく、実務上使用され、定着してきた言葉である。一般的には、会計上、役員給与として損金経理されているもの以外で、事実上は役員に対する利益供与であると認定することをいう。 平成18年度税制改正により役員給与税制が大きく変化したのは周知の通りであるが、「認定賞与」という言葉は、改正前の法人税法において役員賞与が損金不算入であると定められていたこと(旧法法35①)に由来している。当該改正以降、役員賞与という概念は法人税法から失われたが、実務上、課税庁から役員に対する経済的利益の供与であるとして指摘を受けることを未だに「認定賞与」と呼んでいる実態があるといえる。 なお、当該改正を受け、「認定賞与という概念は認定役員給与という概念に衣替えしたと考えられる」と説くものがあるが(※2)、平成18年度税制改正以降にも、認定賞与という言葉が使用されている裁判例が数多くあることや、認定することで法人の損金算入性を否定し、源泉徴収義務違反を問うという実質に鑑みると、従来と同様であると考えられる。 (※2) 岩﨑政明編『税法用語辞典』(大蔵財務協会、2016)807頁。 ここで、役員自身が法人の金員を何らかの手段により横領していた場合も、認定賞与とされる可能性がある。この場合には、法人が源泉徴収義務違反となるばかりか、定期同額給与等の損金算入要件を満たさないとして損金不算入となる可能性がある。 通常、法人が横領により被害を受けた場合には、民事上、不法行為による損害賠償請求権が生じるため(民法709)、横領額を損失とするとともに、当該損害賠償請求権部分を益金とすることが基本的な処理である。これに対して、役員に対する認定賞与とされる場合は、横領金員が損害賠償請求権ではなく役員に対する経済的利益の供与とされるということである。 (2) 認定賞与とされた事例 役員が法人の金員を横領したことにつき、上告までなされた裁判例を概観する(※3)。この事例は、社会福祉法人の元理事長が法人の金員を個人口座に移すことで横領したことにつき、課税庁が役員給与であると認定したことで、源泉徴収義務が争点となった事例である。 (※3) 最高裁平成16年10月29日決定(税務訴訟資料254号順号9803、TAINS:Z254-9803)。なお、この事例は社会福祉法人であり、法人税の申告義務がないために源泉徴収義務違反のみが争点となったと推察される。また、民事上は先立って損害賠償請求権が確定しているという特徴がある。 地裁(※4)は、元理事長の行為は「法人の金員の横領行為であったもので、しかも、原告としては、支払者として、元理事長からその所得税を天引により徴収する余地はなかったもので、法が予定しているように原告という法人が元理事長から所得税を源泉徴収する余地はおよそ考えられない形態の金員の移動であったというべきである」として認定賞与に当たらないと示した。 (※4) 京都地裁平成14年9月20日判決(税務訴訟資料252号順号9198、TAINS:Z252-9198)。 これを受けて課税庁側が控訴した高裁では(※5)、元理事長の社会福祉法人における「地位、権限、実質的に有していた全面的な支配権に照らせば、本件金員の移動、すなわち、社会福祉法人の金員を社会福祉法人から元理事長の口座へ送金したことは、社会福祉法人の意思に基づくものであって、社会福祉法人が元理事長に対し、経済的な利得を与えたものとみるのが相当である(下線部筆者)」として、認定賞与とした課税庁の主張を支持した。納税者はこれを不服として最高裁へ上告したが、不受理決定がなされ確定している。 (※5) 大阪高裁平成15年8月27日判決(税務訴訟資料253号順号9416、TAINS:Z253-9416)。 (3) 認定賞与該当性の判断 上記は代表者による横領があった場合の認定賞与該当性について先駆的といえる判決であり、下線部の通り、代表者としての地位や権限に着目して認定賞与該当性を判断したものである。これを前提としてか、代表者の実弟が横領したケースにおいて、地位や権限に着目した結果、認定賞与に該当しないとした裁決例も近年になって現れている(※6)(※7)。 (※6) 国税不服審判所平成30年5月7日裁決(裁決事例集111集65頁、TAINS:J111-2-05)。 (※7) これら社会福祉法人と国税不服審判所裁決の事例について、「役員としての地位、権限」という判断要素が色濃くなってきていることを指摘し、国税不服審判所の判断を法令上想定していない新たな課税要件を創出していると批判するものとして、渡辺充「横領した金員と役員給与」税理62巻5号(2019)90頁がある。 この社会福祉法人の事例の高裁・最高裁は批判が少なくないが、例えば、実質的支配力の有無のみに着目して役員賞与か損害賠償請求権かを峻別することは法律論として妥当ではないことを指摘し、先立って民事上確定した損害賠償請求権を否定していることにつき、「税法が私法上の事実に反した認定事実を前提として課税関係を定立するという誤った結果をもたら」し、「避けなければならない課税である」とする見解がある(※8)。 (※8) 大淵博義「役員等の横領による損失を巡る課税上の諸問題(1)~(3)」税経通信62巻(2007)5号54頁、6号46頁、8号41頁。 しかし、実際に代表者による横領が発覚した場合、実務上は代表者という地位を重視された結果、認定賞与とされてしまうことが一般的な運用であるようにも思われる。この点、代表者による横領が賞与であると認定されるのは、代表者に対して損害賠償請求権が成立するという考え方ではなく、横領をした代表者と横領を受けた会社が事実上同一であるということを重視することで認定しているのではないかと考えられる。 課税庁の内部資料によると、代表者が横領したことにつき認定賞与該当性が争われた裁判例を題材とし、その判断について「金員の移転や利益の取得が、職務執行の対価に準ずる性質を有するかどうかといった事情や法人における地位に基づいて支給されたものかどうかといった点をあわせ考慮して判断する」ことがポイントであり、「法人が役員等に対して給与として支給する意思を有しているか否かにかかわらず、法人の行為により役員等に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすものは、給与とされる経済的利益に該当する」と課税庁内部に周知している行政文書も存在する(※9)。 (※9) TAINS:行政文書「調査に生かす判決情報018」 認定賞与については、多くの裁判例があることからも問題視されやすい項目であると同時に、横領の被害を受けた法人にとっても簡単に納得できるような項目ではない。したがって、税務調査で代表者による横領が認められた場合においては、最低でも、当該横領が経済的利益の供与といえるか否か、職務執行の対価という性質を有するか、横領した代表者に返済資力があるか等の事実に鑑みて反論していくべきであると考える。 (了)
組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第16回】 「通算グループ内の組織再編成」 公認会計士 佐藤 信祐 4 通算グループ内の組織再編成 (1) 繰越欠損金と特定資産譲渡等損失額 通算法人を合併法人とし、他の通算法人を被合併法人とする吸収合併を行った場合において、適格合併に該当するときは、資産及び負債を最後事業年度終了の時の帳簿価額で引き継ぐことになる(法法62の2①)。そして、支配関係が生じてから合併法人の合併事業年度開始の日までの期間が5年未満である場合において、みなし共同事業要件を満たさないときは、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の適用を受けることになる(法法62の7①)。 そして、通算法人を合併法人とし、他の通算法人を被合併法人とする適格合併を行った場合には、グループ通算制度を採用していない場合と同様に、被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引き継ぐことができる(法法57②)。そして、他の通算法人から通算法人に繰越欠損金を引き継ぐ場合には、法人税法57条3項に規定されている繰越欠損金の引継制限が課されないという特例が定められているとともに(法令112の2⑥)、通算法人が他の通算法人から適格合併により資産及び負債を受け入れた場合であっても、同条4項に規定されている繰越欠損金の使用制限が課されないという特例が定められている(法令112の2⑦)。 これは、グループ通算制度を開始又は加入する時に、原則として、通算法人の繰越欠損金が切り捨てられており、グループ通算制度を開始又は加入する前に生じた繰越欠損金のうち残っているものは、時価評価が不要な通算法人の繰越欠損金のみであることから、租税回避の恐れがないと考えたためであると思われる。 これに対し、前述のように、特定資産譲渡等損失額の損金不算入は課されている。旧連結納税制度に比べて、時価評価が不要な法人が増えたとはいえ、グループ通算制度の加入に伴う時価評価については、組織再編税制との整合性が意識されている。これに対し、グループ通算制度の開始に伴う時価評価は、完全支配関係継続要件のみが要求されていることから、時価評価課税の対象から除外することは容易である。そのため、適格合併の段階において、特定資産譲渡等損失額の損金不算入を課す必要性はあると考えられる。 (2) 繰越欠損金の引継制限、使用制限 前述のように、グループ通算制度の開始に伴う時価評価は、完全支配関係継続要件のみが課されていることから、特定欠損金として繰越欠損金をグループ通算制度に持ち込むことは容易である。そして、加入の直前に支配関係がある場合には、完全支配関係継続要件、従業者従事要件及び事業継続要件のみが課されていることから、特定欠損金として繰越欠損金をグループ通算制度に持ち込むことは容易である。 すなわち、みなし共同事業要件を満たさなかったとしても、新たに事業を開始した場合に該当しない限り、特定欠損金として繰越欠損金をグループ通算制度に持ち込むことができることから、適格合併の段階で繰越欠損金の引継制限、使用制限を課す必要はあると考えられる。 すなわち、適格合併の段階において、非特定欠損金に対しては、繰越欠損金の引継制限、使用制限を課す必要はないが、特定欠損金に対しては、繰越欠損金の引継制限、使用制限を課す必要があることから、そのような税制改正が行われることが望ましいと考えられる。 (3) グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税の問題点 第6回でまとめたように、グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税を導入すべきであると考えていた。その場合には、最初に完全支配関係のある法人が生じたことがグループ法人税制の開始ということになるため、グループ法人税制の開始に伴う時価評価とグループ法人税制の加入に伴う時価評価課税が同様の規定になると考えられる。 そうなると、グループ通算制度と異なり、グループ法人税制は親族等が保有する株式を含めて判定するという問題がある(法法2十二の七の六、法令4の2、法法61の13など)。6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族が親族に含まれることから(民法725)、会ったこともない親族等が保有する法人との間でグループ法人税制が適用されることもある。譲渡損益の繰延べであれば、それほど実害はないが、A氏がX社を買収する場合において、A氏及びA氏の親族等が別の法人を保有していないときはグループが形成されず、A氏の親族等が別の法人を保有していたときはグループが形成され、グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税が適用されるというのでは、実務の弊害が大きいように思われる。 すなわち、グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税を導入するとすれば、グループ通算制度と同様に、内国法人による完全支配関係が生じた場合に限定せざるを得なくなる。そうなると、外国法人や個人が被買収会社株式を取得する場合には課税されずに、内国法人が被買収会社株式を取得する場合に課税されるという制度になってしまい、課税の公平が保たれなくなる。 ただし、支配株主が変わったことにより、今までの課税関係を精算するために、子法人が保有していた資産に係る時価評価損益を計上させ、繰越欠損金の使用制限を課すということに合理性は認められる。さらに、株式交換、スクイーズアウト、株式交付及び相対取引による株式購入との間で整合性の取れた制度にすることができ(第4回参照)、かつ、株式譲渡方式と事業譲渡方式との間で課税の公平が保たれた制度にできる(第6回参照)という効果も期待できる。そのため、本稿では、他の者による支配関係が生じたことに伴う時価評価課税と繰越欠損金の使用制限、他の者による支配関係がなくなったことに伴う時価評価課税と帳簿価額修正について検討を行うものとする。 (4) 合併における資本金基準 第7回では、合併における事業規模要件において、資本金基準が認められているが、事業の規模を示す指標として資本金の額は適切ではなく、簿価総資産価額又は簿価純資産価額を採用すべきであると述べた。しかしながら、グループ通算制度の加入に伴う時価評価(法法64の12①三・四、法令131の16④)、時価評価除外法人に対するみなし共同事業要件(法令112の2④)が組織再編税制における適格株式交換の制度を意識して作られていることから(※)、そもそも合併における事業規模要件において、資本金基準を廃止したうえで、売上金額、従業者又はこれらに準ずるものの規模の割合により判定すべきではないかと考えるようになった。 (※) 藤田泰弘ほか『令和2年度税制改正の解説』912頁(財務省ホームページ) すなわち、合併にのみ資本金基準が認められており、分割及び現物出資に資本金基準が認められていないというのは、合併においては、被合併法人の事業のすべてが移転するのに対し、分割又は現物出資においては、分割法人又は現物出資法人の事業の一部が移転することから、分割及び現物出資において資本金基準を認めるべきではないということで説明できる。これに対し、株式交換、株式移転及びグループ通算制度においては、そのように説明することができない。 第13回で解説したように、グループ通算制度における事業規模要件及び特定役員引継要件についても見直しが必要になると思われるが、組織再編税制における事業規模要件及び特定役員引継要件もグループ通算制度との足並みを揃えた制度にすべきであると考えられる。 * * * 次回では、消費税及び不動産取得税について解説を行う予定である。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第23回】 「適格分割(独立事業)」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は共同事業を行うための適格分割の要件を確認しました。今回は独立して事業を行うための適格分割の要件について解説します。 1 独立して事業を行うための分割(スピンオフ) 企業の機動的な事業再編を促進するため、下図のように特定事業を切り出して独立会社とすることを「スピンオフ」といいます。独立会社の株式は分割法人の株主に交付されます。 適格要件を満たす一定のスピンオフについては、移転資産の譲渡益課税及び、株主に対するみなし配当課税を繰り延べることとされています。 2 独立して事業を行うための適格分割の要件 独立して事業を行うための適格分割の要件は、次の7つです。 それぞれの要件について、以下で詳しく見ていきます。 3 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、分割法人の株主に分割承継法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十一)。 ただし、次の①から④を交付しても金銭等不交付要件に抵触しません。 (※) ①~④の詳細は本連載の【第20回】を参照。 4 従業者引継要件 「従業者引継要件」とは、分割直前の分割事業の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が分割後に分割承継法人の業務に従事することが見込まれていることをいいます(法令4の3⑨四)。 5 事業継続要件 「事業継続要件」とは、分割事業が分割後に分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑨五)。 「従業者引継要件」と「事業継続要件」は前々回解説した「支配関係がある適格要件」とおおむね同じです。 ただし、独立して事業を行うための分割については、当初の組織再編成後に他の組織再編成が行われることが見込まれている場合の要件の緩和措置がない点にご留意ください。 6 主要資産負債引継要件 「主要資産負債引継要件」とは、分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していることをいいます(法令4の3⑨三)。 分割事業に係る資産及び負債が主要なものかどうかの判定は、前々回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様です。 7 按分型要件 「按分型要件」とは、分割型分割の場合に、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式が分割法人の株主の有する分割法人株式の数の割合に応じて交付されることをいいます(法法2十二の十一)。 下図のように、分割承継法人株式(B社株式)が分割法人(A社)の株主の有する分割法人株式(A社株式)の数の割合に応じて交付されないときは、按分型要件を満たしません。 (具体例) 8 非支配要件 (1) 非支配要件とは 「非支配要件」とは、分割の直前に分割法人と他の者((2)参照)との間にその他の者による支配関係がなく、かつ、分割後に分割承継法人と他の者との間にその他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないことをいいます(法令4の3⑨一)。 (2) 他の者に含まれるものとは 「他の者に含まれるもの」とは、次のものをいいます。 9 経営参画要件 (1) 経営参画要件とは 「経営参画要件」とは、分割前の分割法人の役員等((2)参照)又は分割事業に従事する重要な使用人((3)参照)のいずれかが分割後に分割承継法人の特定役員((4)参照)となることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑨二)。 (2) 役員等とは 「役員等」とは、役員及び社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいいます。 (3) 重要な使用人とは 「重要な使用人」については、法人税法上の定義はありませんが、会社法で選解任につき取締役会の決定事項とされている重要な使用人(会社法362④)と同様とされています。会社法上の重要な使用人は、その会社の規模や組織に応じて総合的に判断することとされていますが、通常、支店長、本店部長、執行役員といった者が該当するものと考えられています。 選任について、取締役会の決定事項としている場合であっても、会社法上の重要な使用人としての実態がない場合には、「重要な使用人」に該当しないこととなりますので注意が必要です(国税庁質疑応答事例「単独新設分割型分割(スピンオフ)に係る適格要件のうち役員引継要件における「重要な使用人」について」参照)。 (4) 特定役員とは 「特定役員」とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者((5)参照)で法人の経営に従事している者をいいます。 (5) 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいいます(法基通1-4-7)。 共同事業を行うための適格分割の要件と異なり、分割法人の役員等だけでなく重要な使用人でもよいとされています。 ◆独立して事業を行うための適格分割の要件のポイント◆ スピンオフ実施後に買収が予定されている(支配関係が生じる)場合には非支配要件を満たさないこととなるため注意が必要です。 スピンオフの従業者引継要件、事業継続要件は基本的に他の分割の適格要件と同様ですが、連続再編があった場合の緩和措置がないため注意が必要です。 スピンオフ実施後に既存株主において株式の継続保有は求められていません。 (了)