法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例20】 「売上原価と棚卸資産の評価方法」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、北関東において中古車販売業を営む株式会社Aで経理を担当しております。近年、わが国においては若年層の自動車離れが顕著であり、そもそも運転免許すら取得しない若者も都市部においては珍しくないと聞きます。幸いなことに、北関東は東京都内と比較すると公共交通機関が未発達で、自動車なしでは事実上生活が成り立たないため、一家に一台どころか大人は一人一台というのが標準的であり、自動車離れの影響は今のところ軽微といえます。しかし、そうはいってもやはり新車は高額であるため、当地においては私どものような中古車販売業の役割は大きいと言えます。 中古車販売業において重要なのは、棚卸資産である中古車の価格を適正に見積もることであると考えられます。そのため、弊社においては、社員は原則として全員、一般財団法人日本自動車査定協会(以下「査定協会」といいます)が実施する試験に合格することで得られる中古自動車査定士の資格を取るように奨励し、実際に大部分の社員が取得しております。また、弊社における自動車の買取りや譲渡時の価格も、査定協会が定める中古自動車査定基準に則って決定しております。それにより、お客様に対して適正な中古車価額をお示しできるだけでなく、財務諸表上、常に棚卸資産の公正な価格を表示することができるものと考えております。 このような考え方に基づき、弊社においては法人税の申告についても、棚卸資産の期末評価は中古自動車査定基準に則った手法、すなわち加減点基準により行っております。ところが、先日受けた税務調査で所轄税務署の調査官は、弊社は税務署長宛てに棚卸資産の評価方法に関して特に届け出ていないことから、法人税法施行令第31条第1項により、最終仕入原価法により評価すべきこととなるため、期末棚卸資産の評価額が過少(売上原価が過大)であるとして、修正申告の勧奨を受けました。 弊社は「適正な中古車価格とは何か」を長年追求してきておりますが、その結論として、査定協会が定める中古自動車査定基準に則って査定した金額こそがそれにあたるとしてきたものであり、当該価格は恣意的に決定されたものではなく、極めて公正な価格であると自信をもって言えます。したがって、それに反するような課税庁の判断にはおおよそ根拠がないと考えるところでありますが、弊社の考え方は税法に照らして誤りといえるのでしょうか、教えてください。 なお、査定協会が定める中古自動車査定基準に則った査定額は、棚卸資産の評価方法を定めた法人税法施行令第28条第1項のいずれにも該当しないこととなります。 【A】 確かに、業界の定めた基準に基づく査定額を棚卸資産の評価額とすることには一定の根拠があるといえるかもしれませんが、法人税法には棚卸資産の評価基準があり、それに基づいて評価すると、A社の場合、棚卸資産評価方法について税務署長に届け出ていないことから、法定評価方法である最終仕入原価法により評価すべきこととなります。 その結果、課税庁が当該評価方法に基づき行った期末棚卸資産の評価額がA社の評価額より高い場合には、期末棚卸資産の評価額が過少(売上原価が過大)ということになるため、課税庁の行った修正申告の勧奨は妥当な判断であると考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 法人税法上の棚卸資産の評価額 棚卸資産の販売により収益を得ている企業にとって、法人税の課税所得の計算上、最も重要な費用の項目は売上原価となる。売上原価の計算方法は、一般に、期首(商品)棚卸高に当期仕入額を加算し、期末(商品)棚卸高を控除するものとされている。期首棚卸高は前期末における商品等の棚卸高であり、期中の仕入れ額も帳簿の確認により比較的容易に算定・評価可能であることから、売上原価の算定に当たり特に重要なのは、期末棚卸高の評価額ということになる。 そのため、期末棚卸資産の評価方法は合理的であることが求められるが、法人税法においては、当該期末棚卸資産の評価方法について以下のような選択可能な方法が限定列挙されており(法令28①)、また、当該評価方法のうち、原則として納税者が事業の種類及び棚卸資産の区分ごとに選択した方法を使用することと、当該選択した方法(※1)を所轄税務署長に届け出ることが規定されている(法法29①、法令29②)。 (※1) ①~⑥の原価法に加え、さらに「(洗替え)低価法」が認められている(法令28①二)。なお、「切放し低価法」は過度に保守的な会計処理であるとして、平成23年度の税制改正で廃止されている。 (※2) 「後入先出法(LIFO)」もこれまで広く使用されてきた棚卸資産の評価方法であったが、国際会計基準(国際財務報告基準)等の会計基準によって認められていないといった理由により、平成21年度の税制改正で廃止されている。 また、上記以外の評価方法を用いた方が合理的と考えられる場合には、所轄税務署長の承認を条件に、他の評価方法を使用することも認められている(法令28の2①)。さらに、評価方法を変更しようとする場合には、所轄税務署長の承認を受けなければならない(法令30①)。 仮に、納税者が棚卸資産に関し評価方法を選定しなかった場合や、選定した評価方法により評価しなかった場合には、最終仕入原価法により評価するものとされており、このようなときに当該最終仕入原価法により評価することを「法定評価方法(※3)」という(法法29①、法令31①)。 (※3) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)380-381頁。ただし、企業会計上、最終仕入原価法は棚卸資産の標準的な評価方法ではないが、先入先出法の簡便法としての性格を有することから、これを法人税法上の法定評価方法としても大きな問題はないといえるかもしれない。武田隆二『平成15年版 法人税法精説』(森山書店・2003年)259頁参照。 ただし、このような場合であっても、法定評価方法(最終仕入原価法)以外の方法によって評価したときに、適正な課税所得の計算が可能ということであれば、選定可能な評価方法のうちから、最終仕入原価法以外の方法を用いる余地は残されている(法令31②)。 (2) 棚卸資産を予め選定した方法により評価しなかった場合 上記の通り、納税者が棚卸資産に関し評価方法を選定しなかった場合や、選定した評価方法により評価しなかった場合には、法定評価方法である最終仕入原価法により評価するものとされているが、この点について争われた裁判例(東京地裁平成5年1月26日判決・税資194号20頁、TAINSコード:Z194-7058、確定)があるので、以下で確認しておきたい。 ① 事案の概要 原告は、中古自動車の販売を業とする有限会社である。原告は、昭和49年12月25日付けで、自社の棚卸資産の評価方法として「最終仕入原価法」を選定した旨を届け出ていた(なお、原告代表者らは、原告の棚卸資産の評価方法として最終仕入原価法を選定した旨を届け出ていることを知らなかった旨主張している)。 ところが、原告は、法人税の申告において、本件事業年度の期末棚卸資産のうち当該年度中の仕入れに係る中古車両のうち、中古車両202台について、届け出ていた最終仕入原価法の方法によらないで、その期末の評価額を合計3,929万9,186円と評価していた。 その理由について原告は、以下のとおり説明している。すなわち、法人税法施行令第28条第1項第1号イの個別法により算出した取得価額による原価法により評価した価額と、事業年度終了時におけるその取得のために通常要する価額とのいずれか低い価額をもってその評価額とする低価法(同項2号)によって、本件棚卸資産の評価を行ったところである。 具体的には、原告は、中古自動車を仕入れる都度、その年式、グレード、装備内容、仕入価額、業販価額等の21の項目及びその車の特徴を記載したチェックリストを作成し、その後車に何らかの変化が存したときにその内容を当該リストに記入しておき、更に期末には、当該リストの記載を基に各車を点検し、査定協会の定めた加減点法に基づいて、その価額を査定するという方法をとっている。このような方法による期末の査定額を上記規定による「事業年度終了時におけるその取得のために通常要する価額」とし、これと取得価額とを比較し、低い方の価額で評価するという低価法を適用して、本件棚卸資産の評価を行っているのである。 これに対し、被告・税務署長は、本件棚卸資産を最終仕入原価法によって評価し、その評価額が合計額8,761万1,056円となり、この金額と「原告の期末棚卸評価額」の合計3,929万9,186円との差額である4,831万1,870円だけ申告の売上原価が減少し、営業利益が増加するものであるとした。 ② 事案の争点 納税者の行った棚卸資産の期末評価額に関する評価方法の適否。 ③ 裁判所の判断 ④ 本判決から学ぶこと 前述の通り、納税者が棚卸資産に関し評価方法を選定しなかった場合や、選定した評価方法により評価しなかった場合には、法定評価方法である最終仕入原価法により評価するものとされているが、本件は納税者が最終仕入原価法を選定しながら、別の評価方法を用いて申告することの是非が問われている。 このような場合であっても、法定評価方法(最終仕入原価法)以外の方法によって評価したときに、適正な課税所得の計算が可能であるのであれば、選定可能な評価方法のうちから、最終仕入原価法以外の方法を用いる余地は残されている(法令31②)。 本件の場合、法定評価方法以外の方法によって評価したときに、適正な課税所得の計算が可能であるかどうかについて、裁判所は、納税者の評価方法が「いかなる客観性と普遍性とを備えた算出過程を経て算定されるものかは明らかではなく、結局のところ右の評価点と同様に担当者の経験と勘に従って決定されているにすぎないことがうかがわれる」と認定し、「「その評価方法によっても所得の金額の計算を適正に行うことができると認められること」との要件を充たしているということは到底困難なものといわざるを得」ないと判断し、納税者の主張を斥けている。売上原価の算定に関し重要な構成要素となる棚卸資産の評価方法は、客観的な妥当性が求められるのであり、担当者の経験や勘のような主観的・恣意的な要素に左右されるような手法では、「適正な課税所得の計算が可能である」とは到底言えないということになるのであろう。 ただし、本件の場合、仮に納税者の用いた棚卸資産の評価方法により「適正な課税所得の計算が可能である」と認定された場合であっても、法人税法施行令第31条第2項の要件である、「その内国法人が行った評価方法が第28条第1項に規定する評価方法のうちいずれかの方法に該当し」を満たすのかどうかが問題となると考えられる。業界団体の定めた「独自の」評価方法が適正であるとした場合、法人税法施行令第28条第1項に規定する評価方法のいずれに該当するのか、納税者が主張するように個別法に該当するのか、なかなか判断に苦しむところである。仮に、そのような評価方法が存在するのであれば、「法人税法施行令第28条第1項に規定する評価方法」という要件につき、立法(法改正)によって解決するよりほかないのではないだろうか。 (3) 本件への当てはめ 中古車販売に係る業界の定めた基準に基づく査定額を棚卸資産の評価額とすることには、一定の根拠や合理性があるといえるかもしれない。しかし、法人税法には棚卸資産の評価基準があり、それに基づいて評価すると、A社の場合、棚卸資産の評価方法について税務署長に届け出ていないことから、法定評価方法である最終仕入原価法により評価すべきこととなる。その結果、課税庁が当該評価方法に基づき行った期末棚卸資産の評価額がA社の評価額より高い場合には、期末棚卸資産の評価額が過少(売上原価が過大)であることとなるため、課税庁の行った修正申告の勧奨は妥当な判断であると考えられる。 なお、査定協会が定める中古自動車査定基準に則った査定額は、棚卸資産の評価方法を定めた法人税法施行令第28条第1項の(個別法を含め)いずれにも該当しないことから、仮に当該評価方法が法人税法施行令第31条第2項の「各事業年度の所得の金額の計算を適正に行うことができる」と認められる場合であっても、所轄税務署長の承認(法令28の2①)を受けることなく法定評価方法である最終仕入原価法に代えて使用することはできないものと考えられる。 (了)
令和2年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第6回】 「所得金額及び法人税額の計算(その3:個別計算を行う項目、税率、中小法人等の判定)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 (4) 個別計算を行う項目 寄附金の損金不算入制度、所得税額控除、特定同族会社の留保金課税等は個別計算を行うことになる(法法23の2、37①④、52⑨二、67③④⑤、68、法令22の4①、73①、77の2①、139の8①②③⑤⑥⑦、139の9、140、140の2④⑤)。 (5) 税率 通算法人の各事業年度の所得の金額に対する法人税の税率は、各通算法人の区分に応じた税率が適用される。 したがって、原則として、普通法人である通算法人は23.2%、協同組合等である通算法人は19%の税率が適用される(法法66①)。 また、中小通算法人の各事業年度の所得の金額のうち軽減対象所得金額以下の金額については、19%(現行、適用除外事業者以外は15%)の軽減税率が適用される(法法66①⑥)。 各中小通算法人の軽減対象所得金額は、年800万円を通算グループ内の所得法人の所得の金額の比で配分した金額とする(法法66⑦⑪)。 (6) 中小法人等の判定 連結納税制度では、連結親法人が中小法人又は中小企業者(※1)に該当する場合に中小法人の優遇措置又は中小企業者向けの租税特別措置が適用できる(※2、3)。 (※1) 中小企業者に該当する連結親法人及びその連結子法人(資本金1億円以下のものに限る)を中小連結法人という。 (※2) 連結子法人における貸倒引当金の損金算入制度については、連結親法人及びその連結子法人の両方が中小法人に該当する場合に適用できる。 (※3) 連結子法人における設備投資促進税制は、その連結子法人が中小連結法人に該当する場合に適用できる。 つまり、連結親法人が中小法人又は中小企業者に該当すれば、連結子法人が該当しなくても中小法人の優遇措置又は中小企業者向けの租税特別措置を適用できることになる。 一方、グループ通算制度では、いずれかの通算法人が中小法人に該当しない場合には、全ての通算法人が中小法人に該当しないことになる(法法66⑥)。 ここで、中小法人に該当する通算法人を「中小通算法人」、中小法人に該当しない通算法人を「大通算法人」という(法法66⑥)。 また、グループ通算制度では、いずれかの通算法人が中小企業者に該当しない場合には、全ての通算法人が中小企業者に該当しないことになる(措法42の4④⑲七、42の6①、措令27の4⑰、27の6①)。 さらに、適用除外事業者に該当する場合、中小企業者向けの租税特別措置は適用できないが、連結納税制度における適用除外事業者とは、当連結事業年度開始日前3年以内に終了した各連結事業年度の連結所得の金額の年平均額(平均連結所得金額)が15億円を超える連結親法人及び連結子法人をいう。 一方、グループ通算制度では、中小企業技術基盤強化税制において、いずれかの通算法人の平均所得金額(前3事業年度の所得の金額の平均)が年15億円を超える場合には、全ての通算法人が適用除外事業者に該当することになる(措法42の4④⑲八、措令27の4⑱⑲)。 (※1) これらの措置は、グループ通算制度の適用が開始する令和4年4月1日以後に開始する事業年度よりも前に、適用期限が到来するため、現時点でグループ通算制度における取扱いは決まっていない。 (了)
租税争訟レポート 【第50回】 「準確定申告における無申告加算税の正当な理由 (国税不服審判所2019(平成31)年2月1日裁決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【裁決の概要】 【事案の概要】 本件は、審査請求人が、貨物の運送業務を請け負う個人事業者であった父(被相続人)が平成29年に死亡したことに伴って、同年分の所得税等の確定申告書をその死亡の日の翌日から4ヶ月を経過した後に提出したため、原処分庁が、無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、①未成年者である請求人が相続の開始を知った日は、未成年後見人が選任された日であるから、選任された日の翌日から4ヶ月以内に提出された確定申告書は期限後申告書に該当しないとして、また、②仮に提出した確定申告書が期限後申告書に該当するとしても、確定申告書を法定申告期限までに提出しなかったことについて正当な理由があるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 【準確定申告書を提出するまでの経緯】 審査請求人が、死亡した父の準確定申告書を提出し、審査請求するまでの経緯を、裁決をもとにまとめておきたい。 (注) 公開された裁決書では、被相続人の死亡の日がマスキングされていて確定できないが、被相続人の生前の関与税理士が、被相続人の確定申告の依頼を行った未成年後見人である弁護士から、「平成29年1月分から同年8月分までの収支表」を受け取ったという記述があることから、死亡の日は8月以降、おそらくは9月であると考えられる。 【裁決の概要】 1 争点 本件の争点は、次のとおりである。 2 審査請求人の主張 (1) 本件準確定申告書は、期限後申告書に該当するか否か(争点1) 審査請求人は、準確定申告における所得税法第125条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日」は、未成年後見人が選任された平成29年11月14日であるから、その翌日から4ヶ月を経過した日の前日までに提出された本件準確定申告書は期限後申告書に該当しないと主張した。 その理由として、次の2点を挙げている。 (※) 審査請求人の年齢について、公開された裁決文では不開示となっているため、本稿でも同様としている。なお、不開示の理由について後述の【解説】において検討している。 (2) 法定申告期限までに提出しなかったことについて、「正当な理由」があるか否か(争点2) 争点2について、審査請求人は、仮に、本件準確定申告における「相続の開始があったことを知った日」が、相続開始日であったとしても、次の2つの理由から、請求人が本件準確定申告書を法定申告期限までに提出しなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると主張した。 3 国税不服審判所の判断 (1) 本件準確定申告書は、期限後申告書に該当するか否か(争点1) 国税不服審判所は、争点1について、次のように判示して、請求人の主張を斥けた。 請求人は、被相続人が死亡するまで同居していたのであるから、相続開始日に、被相続人の死亡という事実を知ったとみるのが相当であり、「相続の開始があったことを知った日」は、本件相続間始日であることから、本件準確定申告書の提出期限は、本件相続開始日の翌日から4月を経過した日の前日となるところ、請求人は、準確定申告書を平成30年2月28日に提出しているから、本件準確定申告書は期限後申告書に該当する。 請求人の主張する最高裁判決は、本件とは、前提となる事実を異にするものであるというべきであり、請求人は、本件相続開始日において■■という年齢であったものの、意思能力を欠いていたと認めるに足る証拠はないことから、また、請求人には、「被相続人の財産に関する一切の権利又は義務の承継について認識することができる能力はなかった」という主張については、「相続の開始があったことを知った日」とは、被相続人の死亡という事実を知った日であり、未成年後見人が選任された日が「相続の開始があったことを知った日」に該当するという主張についても、「理由がない」として斥けたものである。 (2) 法定申告期限までに提出しなかったことについて、「正当な理由」があるか否か(争点2) 続いて、国税通則法第66条第1項に規定する「正当な理由」の有無について、国税不服審判所は、次のとおり、請求人の主張を斥ける判断を示した。 所得税法第125条第1項の規定によれば、被相続人について同法第120条第1項の規定による申告書を提出しなければならない場合に該当するときは、その相続人に当該申告書の提出義務が発生し、同法第125条第1項に規定する提出期限までに当該申告書を税務署長に提出しなければならないのであり、同条の適用は、相続人が未成年者であるか否かに関わらないから、請求人が主張する各事情は、期限内申告がなかったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情であるとはいえない。 また、請求人は、準確定申告における「正当な理由」の有無の判断において、民法第158条の規定やその法意等をしんしゃくすべきである旨主張するが、同規定は未成年者や成年被後見人についての時効の停止に関する規定であるから、準確定申告における「正当な理由」の有無の判断において、同条やその法意等をしんしゃくすべきものとはいえない。 【解説】 相続開始時に未成年者であり、単独で法律行為をすることができない場合において、未成年後見人の選任手続きに時日を要したことが、被相続人の準確定申告書をその申告期限までに提出することができないことの正当な理由として認められるか否かが争われた審判で、国税不服審判所は、未成年である審査請求人の主張を斥け、相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に準確定申告書の提出がなかったことを理由に、原処分庁による無申告加算税の賦課決定処分を適法であると判断した。 個人的には、国税不服審判所の判断はいささか杓子定規に過ぎていて、未成年後見人の選定から4ヶ月以内であれば、「正当な理由」があるとして無申告加算税の賦課決定処分を取消す判断をすべきではないかと思料するところもあるので、そのあたりを検討したい。 1 審査請求人の年齢を不開示とした理由 すでに見てきたとおり、情報開示請求によって開示された裁決文では、相続人である審査請求人の年齢が不開示となっている。TAINSに所収されている「開示対象行政文書の各不開示部分の不開示理由」を読むと、「審査請求人の年齢」を不開示としたことについて、直接の言及はない。該当する可能性がある不開示理由としては、第1項に、 とあり、「特定個人の生年月日」を不開示とするとしていることから、審査請求人の年齢も不開示としているのかもしれない。また。第5項では、 と説明されており、審査請求人の年齢を開示することが「国税不服審判所の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」につながるという判断がなされたのかもしれない。 しかし、本裁決が妥当性を有するかどうかの判断には、相続人である審査請求人の年齢が何歳であったのかは、大きな比重を占めていると思料する。同じ未成年であっても、請求人が小学生であるのと高校生であるのとでは、「父の死」とそれに伴う「相続」という法的手続きに対する認識には大きな差があるだろう。請求人の主張である、「請求人は、被相続人の死亡という事実は認識していたが、被相続人の財産に関する一切の権利又は義務の承継について認識することができる能力はなかった」ことが事実であったかどうかは、請求人の年齢不開示という判断により、検証ができなくなったと言えるのではないだろうか。 2 未成年後見人の選任がさらに遅れていた場合にはどういう裁決となるのか さらに、本件のように相続人が未成年者で親権者がいなかった場合において、未成年後見人の選定手続きが進まないまま、準確定申告書の提出期限を徒過することも考えられる。 その場合でも、国税不服審判所は、所得税法第125条第1項の適用は、相続人が単独で法律行為をすることができない未成年者であるか否かに関わらないことを理由に、期限内申告がなかったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情であるとはいえないとして、無申告加算税の賦課決定処分を適法だと判断するのであろうか。 その場合、民法第5条の規定をどう解釈して、無申告加算税賦課決定処分を適法と判断するのか、疑問に感じるところである。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第34回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (4) 法人税法22条の2第3項の適用対象となる額 法人が資産の販売等を行った場合において、法人税法22条の2第3項の適用があると、その資産の販売等に係る収益の額について、「その額につき当該事業年度の確定した決算において収益として経理したものとみなして」2項の規定が適用されることになる。 「その額」とは、直前の「当該資産の販売等に係る収益の額」を指す。 「その額」を申告書に記載した額と(限定して)読むならば、例えば、処理を誤って同一取引に係る収益の額の一部のみを当初申告において近接日の属する事業年度の確定申告書に収益の額として記載した場合には、その一部のみが法人税法22条の2第3項の適用対象として取り扱われることになろうか。 あるいは、同一取引に係る収益の額の一部のみを当初申告において近接日の属する事業年度の確定申告書に収益の額として記載した場合であっても、近接する日の属する事業年度の確定申告書に「当該資産の販売等に係る収益の額」の益金算入に関する申告の記載があることには変わりはないから、一部ではなくその同一取引に係る収益の額の全額が、法人税法22条の2第3項の適用対象として取り扱われることになろうか。 法人が、誤って、同一取引に係る収益の額の一部のみを当初申告で近接日の属する事業年度の確定申告書に収益の額として記載している場合において、修正申告や課税処分が行われる際に、上記のような問題に直面することになろう。 (了)
〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第5回】 「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」 ~その2:第三者の視点で支えるウィズコロナ・アフターコロナの世界~ 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 1 第三者の視点がコロナ後の世界を支えるカギとなる 支援機関をはじめとするM&Aに携わる第三者は、これまでも中小企業経営者の高年齢化、事業承継型M&Aといった中小企業M&Aに特有の様々な事象と向き合ってきました。 加えて起きた新型コロナウイルスの感染拡大による影響は、中小企業経営を取り巻く環境を一変させました。これからのウィズコロナ、アフターコロナの時代を見据え、すでに動き出しつつあるM&Aの買い手・売り手もありますが、多くは現状への対応に追われ、それどころではないのが現実です。 しかし、企業は生き物ですから、やがて必ず、時代の流れに応じた新たなM&Aの形が見えてくるはずです。その時に備えて、あるいは、現状窮境にある中小企業に対して、どのようにM&Aを活用すれば、再び中小企業や地域経済の活性化を迎えることができるのか、今のうちに考えておくことは有益です。 コロナ禍で間違いなくM&Aの支援機関など第三者の役割と重要性が増しています。資金や予算上の制約から、中小企業M&Aに対する戦略の見直しを迫られた支援機関などもありますが、このような時こそ、M&Aの買い手、売り手の状況を冷静に見極められる第三者の力量に期待がかかります。 この環境下で期待される第三者が、中小企業M&Aに新たな“視点”で臨み、M&Aの買い手・売り手に対して効果的な助言をすることで、中小企業や地域経済の地盤沈下を防ぐ契機となり、その第三者の視点はコロナ後の世界を支えるカギとなります。 2 買い手・売り手・マーケット別にみる第三者の視点 第三者の視点といっても、M&Aの対象者ごとに対する視点と、中小企業M&Aのマーケット全体を眺めたときの視点とでは多少異なるはずです。 そこで、以下では①中小企業M&Aマーケット全体の視点②買い手に対する視点③売り手に対する視点という、3つの形態で第三者の視点を考えます。 今回は、①から③のうち、①中小企業M&Aマーケット全体の視点に着目し、中小企業M&Aの第三者が、M&A支援を行うにあたって、マーケット全体をとらえた上で、どのような視点をもって臨めばよいかを紹介します。 3 中小企業M&Aマーケット全体の視点 第三者による中小企業M&Aマーケット全体の視点を考える上では、次に示すように、中小企業M&Aで登場する各プレイヤー別に望まれる視点を紹介します。 コロナ禍を機に、中小企業M&Aの流れが完全にストップしてしまうのは、今後の地域経済の活性化を考える上で避けなければなりません。買い手・売り手がM&Aをどう考えればよいか迷う今こそ、主導する第三者の腕に期待がかかります。 M&A当事者の1社1社の姿勢が今後の中小企業を取り巻く環境にも大きく影響します。マーケットの将来を考えた上で行われるべきM&Aが確実に履行されるよう、第三者の視点を存分に活かしてM&Aに臨むことが、各プレイヤーに期待されているところです。 * * * 次回も引き続き第三者の視点を取り上げますが、なかでも買い手・売り手への直接の助言に活かす視点を中心に解説します。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第159回】 収益認識基準④ 「履行義務の識別」 仰星監査法人 公認会計士 小林 清人 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:百万円) ① X1年4月 [機械設備Zの引渡し時] ② X1年5月 [機械設備Zの据付作業完了時] 〈会計処理の解説〉 履行義務を識別するにあたっては、下記「収益認識に関する会計基準(以下「会計基準」とする)」の34項に照らして、財又はサービスが別個のものであるかどうか判定する必要があります。 上記の34項(1)を検討するうえで、下記の「収益認識に関する会計準の適用指針(以下「適用指針」とする)」の5項に留意する必要があります。 本設例においては、まず、機械設備Z(=財を顧客に移転する約束)と据付サービスの提供(=サービスを顧客に移転する約束)とに分けて検討します。 ① 機械設備Zに関する検討 上記5項の(1)に照らすと、B社は、機械設備Zを使用、あるいは廃棄における回収額より高い金額による売却(=スクラップ価値よりも高い金額で売却)をすることができ、B社が容易に利用できる他の資源(例えば、A社以外の企業から購入できる据付サービス)と組み合わせて便益を享受することができると判断できます。 ② 据付サービスに関する検討 機械設備Z(=既に取得した他の資源)に対する据付サービスから便益を享受することができると判断できます。 上記①と②の検討により、機械設備Zと据付サービスはそれぞれ会計基準第34項(1)の要件を満たしていると判断できます。 次に、会計基準34項(2)を検討します。この時、適用指針の第6項に留意する必要があります。契約に含まれた他の複数の約束が、契約の観点から別個であること、すなわち、別個に独立して履行できるものかどうかを検討する必要があります。 適用指針の第6項では、財又はサービスを顧客に移転する複数の約束が区分して識別できないことを示す要因として次の3点が示されています。 設例にあてはめた場合に、下記のように整理されます。 上記の1~3の検討により、機械設備Zを移転する約束と据付サービスを提供する約束は、会計基準第34項(2)に従って、それぞれ区分して識別できると判断されます。 したがって、機械設備Zと据付サービスは別個の履行義務として識別されます。 また、前提条件の(6)より、一定の期間に渡り充足されるものはありません。ステップ5の「履行義務の充足時点」については、別途検討が必要ですが、今回はステップ2の「履行義務の識別」がメイントピックであるため、ステップ5の回に取り上げます。 本設例においては、それぞれの履行義務は下記の一時点で充足されると判断し、収益を認識しています。 * * * 〈会計処理の補足〉 本設例のキーポイントは、前提条件の だと考えられます。これらの条件により、履行義務が機械設備Zと据付サービスに分かれることになります。 これらの条件を下記のように変えるとどうなるでしょうか。 上記の要件の場合、前述した適用指針6項の例示に該当すると考えられ、①機械設備Zと②据付サービスのそれぞれの約束を区分して識別することはできず、単一の履行義務として取り扱う可能性が高いと考えられます。 * * * (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例25】 「隣接する空き家から雨水が流入してくる場合の諸問題」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私の自宅の隣には、空き家になった2階建の民家がありますが、2階の縦といの部分が外れており、横といの部分も私の自宅側に向かって傾いているため、雨天の時には、横といと縦といとの境目から、雨水が地面に向かって直接降り注ぐような状態となっています。 小雨の時には特に問題ありませんが、大雨の時には、隣地との擁壁を越えて、私の自宅敷地内に降り注ぎ、壁や窓ガラスに当たることもあります。 このような場合、私は隣地の所有者に対し、修繕などを請求することができるでしょうか。 1 はじめに 近年、豪雨や大型台風に伴う自然災害が増加しており、これによって住環境に深刻な被害を与えている。老朽化して管理が十分に行われていないような空き家の中には、排水設備が損傷したまま放置されているものも少なからず存在し、隣地の所有者に被害を与えていることもある。 そこで、今回は、管理が十分でない空き家から雨水が流入した場合に、どのような法的な問題があるか検討することとしたい。 2 雨水に関する民法のルール 隣接する土地や建物については、一方の土地や建物の利用が、他方の利用を阻害することもあるため、民法は、隣接する土地や建物の利用を調整するために、相隣関係に関する各種の規定を設けている(民法第209条~第238条)。 土地が隣接するため、地形によって隣地からの流水が生じうるが、自然に流れてくる雨水等を遮断すると、当該隣地の排水を行うことができず、土地の利用や公衆衛生上の支障が生じることになる。そのため、土地の所有者は、隣地から自然に流れてくる雨水等の流れを妨げてはならない義務を負う(民法第214条)。同条は、土地の所有者に自然の流水を承認する消極的義務を負担させているに留まり、それ以上の義務を負担させるものではない。 そこで、民法は、隣地の所有者に、直接に雨水を注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない義務を負わせている(民法第218条)。 民法第218条にも関係するが、土地の所有者は、建物を建築する場合、境界線から50センチメートル以上距離を保たなければならない(民法第234条第1項)。ただし、建築基準法第65条所定の防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、同項の適用は排除されている(最高裁平成元年9月19日判決・民集43-8-955)。問題は、建物のどの部分から境界線までが50センチメートル以上である必要があるかである。 この点に関して、同条の趣旨は、一定の距離を確保することによって、通風や日照を良好に保つとともに、境界線付近において、建物の建築や修繕の際に必要な空間を確保することにある。そのため、同条の距離制限は、建物側壁や出窓のような固定された突出部分からの距離をいうものと解されている(同旨、東京地判平成4年1月28日判タ808-205参照)。 3 受忍限度論 それでは、土地の所有者は、隣地からわずかでも人工的な雨水等の流入がある場合、隣地の所有者に対して、法的な請求を行うことができるだろうか。 上記民法の文言上は、特に制限はされていないため、隣地の建物の雨どいから雨水が注がれているような事実関係さえあれば、修繕工事や損害賠償等を請求できるようにも思われる。しかし、一般論として、隣接する土地でそれぞれが生活することからすると、一定の生活環境上の支障が生じることは当然のことであり、いかなる侵害も許されないと解するのは、社会共同生活に支障を生じさせるため、現実的でもない。そのため、受忍限度を超えた不利益が生じる場合に、所有権や占有権等の侵害(違法性)が認められると解されている。 具体的には、受忍限度を超えるような場合にはじめて、所有権に基づく物権的予防請求権等に基づいて修繕工事を要求することや、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが可能となる(同旨、前記東京地判、佐賀地判昭和32年7月29日下民集8-7-1355参照)。そして、この受忍限度を超えているかどうかは、①雨水が流入してくる頻度や量、隣地への影響の内容といった侵害される側の不利益の内容や、②雨水の流入の原因となっている排水設備の状況といった侵害する側の態様を比較衡量して判断する必要があると考えられる。 4 本件について 本件の場合、隣家の雨どいが損傷しており、雨天時には自宅敷地内や自宅に雨水が直接注がれている状況であるため、所有権や占有権等の侵害は認められる。しかし、雨水の流入は、豪雨のときに限られており、頻度も決して高くないため、受忍限度を超えていないと判断される可能性を否定できない。 上記東京地判の事案においては、雨水が雨どいから隣地に流入していることは認めつつも、その頻度等が限られていることや、当該建物の所有者が雨どいの改善工事を行っていたことを考慮して、受忍限度を超えるものではないと判断しており、実務の指針として参考になるだろう。 受忍限度を超えていない場合、受忍限度を超えているとしても修繕の請求に応じてもらえないような場合、その他空き家の所有者と連絡が取れないような場合には、事務管理として、隣家の雨どいの修繕を行い、費用償還請求を事後的に行うことも法律構成としては考えうるが、他人の建物の修繕工事を行うことは現実的ではない場合もある。 自宅敷地内において暫定的な予防措置を講じるなどして、より被害が現実的・具体的なものになった際に、再度請求を検討することになろうと思われる。 (了)
〔これなら作れる ・使える〕 中小企業の事業計画 【第5回】 「事業計画の作成手順(後編)」 税理士・中小企業診断士・ITストラテジスト 高畑 光伸 第4回は、事業計画の作成手順について、【STEP1】から【STEP2】までのポイントについて整理した。第5回では、【STEP3】から【STEP4】までのポイントについて確認する。 (3) 【STEP3】:課題と解決策を検討する ① 課題の設定 「あるべき姿」と「現状」のGap(ギャップ)を解消するため、課題を抽出する。「あるべき姿」は事業者が思い描く企業の理想像である。たとえば、現状分析によって、製品・サービス力の低下が見られる場合、従業員の人材育成・評価制度の整備⇒製品・サービス力の向上⇒収益力の向上という課題を抽出することができる。この課題を達成するための解決策では、ヒトの活動(アクションプラン)に結びつけることが重要である。 ② 「製品」×「顧客」のマトリクス 【STEP2】で検討した経営目標を達成するための具体的なアクションプランを作成する。アクションプランを作成する際に、次のようなマトリクス表(アンゾフの成長ベクトル)を利用して、事業者が採りうる方向性を検討する。縦軸に「製品・サービス」を、横軸に「顧客層」をとり、それぞれ既存と新規に区分する。 マトリクス上、事業者が採りうる方向性は、 があげられる。経営資源に限りがある中小企業では、一般的に領域A~Cの方向性を検討することになる。 さらに、各領域を詳細に分類し、誰に(ターゲット)、何を(製品・サービス)提供しているのかを具体的に把握することが重要となる。 (中小機構「小規模事業者支援ガイドブックⅠ」25pの図を元に筆者加工) ③ 課題と解決策(アクションプラン)の検討 課題として「製品・サービスの損益改善」による収益力の向上を設定した場合、製品・サービスの損益状況などを整理して、具体的なアクションプランを検討する。 《製品・サービスの損益状況》 ※[割合]の小数点第2以下は四捨五入している。 アクションプランを洗い出し、販売数量、販売単価、原価率、経費のいずれに、どのような影響があるのかを試算する。また、アクションプランを作成する際、取り組むべき重要度(優先度)を考慮することが望ましい。 《アクションプランの内容と効果》 ④ 解決策による効果の測定 課題解決による定量効果は次のようになる。 《定量効果》 《課題解決による損益状況》 ※[割合]及び[伸び率]の小数点第2以下は四捨五入している。 (4) 【STEP4】:事業計画を策定する 【STEP3】まで検討したアクションをベースに、損益計画・資金計画を作成する(場合によっては予想貸借対照表の作成を求められる)。そして、事業計画を策定した後のフォローアップとして、月次、あるいは四半期ごとに事業計画を見直す。 策定した事業計画が計画どおりに進んでいるか、定期的に進捗管理を実施する。また、事業計画を軌道修正する必要があるかどうかを、利害関係者を交え検討する。事業計画が「絵に描いた餅」にならないよう、PDCAサイクルを十分に回すことが重要である。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第35話】 「泉佐野市ふるさと納税訴訟」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「・・・やりましたね。」 そう言いながら、浅田調査官は嬉しそうに、最高裁の判決文を中尾統括官に見せる。 「この判例は、最高裁判所のホームページの新着情報から見つけたものですが・・・報道で発表された翌日に、もうインターネットで掲載されるなんて・・・早いですね。」 浅田調査官は、笑顔で言う。 中尾統括官は、浅田調査官から判決文を受け取って、ペラペラとめくる。 「これって・・・泉佐野市の事件だったか?」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「ええ・・・高裁では、泉佐野市は負けているのですが、最高裁で逆転しました。」 浅田調査官の声は、弾んでいる。 「たしかあれは・・・総務省が通知を発して・・・返礼品について、換金性の高いものや高額な又は返礼割合の高いものの送付を行わないように自治体に求めたのだけれど・・・泉佐野市はそれに従わなかった・・・という事件だったな。」 中尾統括官は、判決文を見ながら言う。 「ええ、そうです。」 浅田調査官は頷く。 「その後、平成31年3月に地方税法の改正が行われ、返礼品は寄附金の30%以下であることや地場産品であることの規定が設けられたのです。」 浅田調査官は、判決文の内容をスラスラと述べる。 「・・・地方税法37条の2第2項(市町村民税:同法314条の7第2項)は、指定の基準のうち寄附金募集の適正な実施に係る基準の策定を総務大臣に委ねているが・・・この委任に基づいて、募集適正基準の1つとして本件告示2条3号が定められている・・・そして、この告示の内容が不指定理由の1つになっています・・・」 浅田調査官は、判決文から該当の箇所を示す。 「この告示は、改正法の施行前の一定期間において同号に定める寄附金の募集及び受領をした地方団体について、一律に指定の基準に満たさないこととするものなのです。」 中尾統括官は、黙って、浅田調査官の説明を聞いている。 「すなわち・・・本件改正前における募集実績自体を理由に、指定対象期間において寄附金の募集を適正に行う見込みがあるか否かにかかわらず、指定を受けられないこととしているのです・・・」 「・・・しかし、泉佐野市は、ふるさと納税について露骨なキャンペーンを行っていたのだろう・・・」 中尾統括官は、判決文を読んでいた顔を上げる。 「ええ、泉佐野市は次のようなキャンペーンを、平成30年11月1日以降も次々に行っていました。」 浅田調査官は、判決文の中からキャンペーンの状況を紹介する。 「しかし・・・これは、少しやり過ぎだなあ・・・」 中尾統括官は、眉をひそめる。 「そうです・・・ただし法律論としては、この告示の適法性について、地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものでないということが必要なのですが、条文の文理解釈、委任の趣旨そして本件法律改正の作成の経緯等に鑑みると、最高裁は、次のように違法なものとして無効であると判示しています。」 そう言うと、浅田調査官は、判決文の中の下線をしている部分を読む。 「そうか・・・告示では、法律施行前の寄附金の募集及び受領を指定の対象とする判断基準にしており、また、法律にもそれを許すと規定していないことから、委任の範囲を逸脱していると判断している。」 中尾統括官は、浅田調査官の説明に頷く。 「それに、このような告示は、実質的に総務大臣による技術的な助言(地方自治法245条の4第1項)に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを定める側面があるとしている・・・地方自治法247条3項は、国の職員は、普通地方公共団体が国の行政機関が行った助言等に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないと規定しているのだから・・・」 浅田調査官は、ポケット六法を片手に説明する。 「・・・ところで浅田君は、この最高裁の判決について、大賛成ということか?」 中尾統括官が尋ねる。 「もちろんですよ。法律が施行される前の状況を考慮して、新しい制度の適用の有無の判断をすること自体、おかしいと思いますよ。」 浅田調査官は、自信たっぷりに、答える。 (つづく)
《速報解説》 東証、市場区分の再編に係る第一次制度改正事項として 新規上場基準等の見直し案を公表 ~年内には新市場区分の上場維持基準等、第二次制度改正事項を公表予定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年7月29日、東京証券取引所は、「資本市場を通じた資金供給機能向上のための上場制度の見直しについて(市場区分の再編に係る第一次制度改正事項)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、2022年4月に予定している市場区分の再編に係る第一次制度改正事項として、新規上場基準等の見直しや債務超過に係る上場廃止基準の見直しなどを行うものである。 既存の上場会社の新市場区分への移行に係る手続や新市場区分における上場維持基準等については、市場区分の再編に係る第二次制度改正事項として、本年内の公表を予定しているとのことである。「新市場区分への移行に向けた今後の工程とスケジュール」が公表されている。 意見募集期間は2020年9月11日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 新規上場基準等の見直し 市場区分再編を見据えて、新規上場基準等を次のように改正する。 以下は、「(参考)新規上場等に係る形式基準の改正事項」をもとに作成している。 1 本則市場・JASDAQスタンダード 〈見直し前〉 〈見直し後〉 2 市場第一部 〈見直し前〉 〈見直し後〉 3 マザーズ 〈見直し前〉 〈見直し後〉 Ⅲ 債務超過に関する上場廃止基準等の見直し (了)