2020年4月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.364を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第87回】 「政策目的からみる租税法(その3)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅲ 自動車重量税法の沿革と趣旨 1 法の解釈姿勢 租税法の解釈を考えるに当たって、かかる法の趣旨目的を探ることは非常に重要である。法の趣旨目的から逸脱したところで法解釈がなされることは、租税法律主義の観点から問題があることはいうまでもない。 そして、法の趣旨目的を探るには、その法の立法経緯をはじめとする沿革に目を向ける必要がある。 創設当初の議論が直接参考になることもあれば、他方で、経済社会の進展を受けて法の趣旨目的に変容が認められる場合もあり得よう。 以下では、簡潔に自動車重量税法の沿革を確認し、改めてその趣旨を探ってみたい。 2 沿革 ここまで繰り返し確認してきたとおり、自動車重量税は、車検を受けることで自動車が走行可能になるという法的地位を得ることに対して課される一種の権利創設税と解されている。本件判決はこの立場に立っている。 かような自動車重量税の沿革を時系列に沿って確認しておくこととしよう(以下は、佐藤良「車体課税をめぐる経緯及び論点」調査と情報935号(2017)を基に、筆者が時系列として再整理したものである。なお、平成27年以下については、国土交通省の税制改正要望などを参考にしている。)。 3 法の趣旨の変容 上記のとおり、自動車重量税は昭和46年に創設されたものであるが、自動車に係る社会的費用を確保するとともに、第6次道路整備5か年計画(昭和45~49年度)における財源不足に対応することを目的としていたものである(佐藤・前掲稿、7頁)。 その後、自動車重量税は、昭和49年以降、平成20年に、同30年4月末までの10年間の適用期限が設けられるまで、累次、暫定税率の適用期間が延長されてきたわけであるが、同税を含む自動車関連税は、「急増する道路整備需要を賄う財源を求めるとともに、燃料間の税負担格差、地方の道路整備財源の確保等の見地」から、税率の引上げが繰り返されてきたのである(古川浩太郎「自動車関連税制の現状と課題―道路特定財源としての側面を中心に―」レファレンス57巻8号80頁(2007))。 このように、自動車重量税は、(その運営上、一般財源とされてきたのか、特定財源であったのかは一先ず置いておくとして)道路整備を主目的として運用されてきた税であるといってよいであろう。 しかし、その方向性は、平成20年代になって導入されたいわゆる「エコカー減税」を契機に大きく変わったもののように解される。 すなわち、かかる減税が、環境性能に優れた自動車に対する時限的な減免措置であるとおり、自動車重量税の減免というインセンティブを設けることによって、環境に配慮した自動車の普及促進が図られるようになったのである。 なお、自動車重量税法は、「13年経過車」や「18年経過車」といった基準を設け、新規登録から13年以上の車に対しては税率が上がる仕組みを採用している。加えて、18年以上となると更に税率が高くなるのであるが、これは、新規登録から13年以上経過したガソリン車などは、環境にかける負荷が大きいことから重課されるようになったものと解される。 このように、環境に対する負荷の観点から、自動車重量税の税率には差異が設けられており、これは、自動車重量税法の主たる目的が、道路整備から環境配慮に移行していることの証左といってもよいであろう。 なお、近時、「エコカー減税縮小」といった報道等がなされることがあり(日本経済新聞電子版2018年12月4日「車検時のエコカー減税縮小 免税枠はEV・PHVなど」参照)、その点のみを切り取ると、上記とは逆のベクトルに進んでいるようにも見受けられるところではあるが、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車など、特に環境についての配慮性が高い車を重点的に免税とすることで、それらの普及促進を図るものであると捉えれば、昨今の自動車重量税法は、より一層の環境配慮を目的としているものと整理することもできそうである。 また、本稿では詳しく取り上げてこなかったが、自動車関連税の1つであった自動車取得税は、平成31年10月の消費税率10%への引上げに伴い廃止されている。その一方で、自動車の取得時において、その環境性能に応じて課税する「環境性能割」が導入されており、自動車関連税全体が、環境配慮の目的に向かっていることも指摘しておきたい。 結びに代えて このように当初は、道路財源の確保という意味合いの強かった自動車重量税であるが、その後、同税を取り巻く環境にも変化があり、今日において、自動車重量税の法的性質はグリーン化促進のためのものという意味合いが強くなってきているといえよう。 そうであるとするならば、単なる「権利」の創設に関心を寄せ、所有権が公証等されているか否かという点についてのみ自動車重量税の趣旨を見出して課税をすることには限界があるというべきなのではなかろうか。 結論を端的にいえば、自動車重量税の法的性質や趣旨は既に変容してきているといってもよく、その趣旨に応じた課税上の取扱いが解釈論として展開されることも検討されるべきではなかろうか。 なお、平成28年1月、多くの大学生を乗せたスキーバスが軽井沢で転落したという痛ましい事故が起こったが、それ以前から、平成24年4月に関越自動車道で高速バスの大事故が起こるなどしており、バスやトラックについて、衝突被害軽減ブレーキ等のASV装置の備付けが喫緊の課題とされてきた。 そうした装置設備を促進するため、自動車重量税法は、かかる装置を搭載した場合の特例措置を講じ、平成25年、27年、29年、31年と、かかる措置の拡大と延期が続けられている。 このように、自動車重量税法は、当初は道路整備に関する5か年計画にみる経済成長に資するために設けられ、その後、近年では、環境への負荷を基準とした税率が採用されている。そして、高速バスツアーの大事故を防ぐべく装置取付けを促進することで、交通事故の減少も目的としているのである。 このように見てくると、自動車重量税法はその時々の政策目的を色濃く反映している税制であるといってよいであろう。それは、まるで、優良な住宅普及を促進するために設けられている、住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除。措法41)のようにである。 同控除の適用を巡って争われた事例に、東京高裁平成14年2月28日判決(訟月48巻12号3016頁)(第16回~18回「建替え建築は『新築』か『改築』か?」参照)があるが、そこでは、「本件特別控除は、住宅政策の一環として、持家取得の促進と良質な住宅ストックの形成を図るとともに、住宅投資の活発化を通じた景気刺激策として、所得税額から一定額を控除する制度である。」とした上で、同控除の趣旨目的に即した解釈が展開されている。 このように、政策目的が強い租税法の解釈においては、かかる政策目的を念頭に置いた解釈がなされるべきであると解される。 そうであるとすれば、やはり、自動車重量税法の適用に当たって、単なる「権利」の創設に関心を寄せて法解釈を行うことには疑問を挟む余地もあり、いわば、もう運転できない車に対しての自動車重量税の課税のあり方については再考すべき時期が来ているように思われるのである。 もっとも、そうであるとはいっても、そこには「文理解釈」という租税法解釈において最優先されるべき解釈論が存在することを忘れてはならないし、また、そうした文理解釈を否定するものでは決してないことを付言しておきたい。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第33回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -個別的否認規定と一般的否認規定との関係- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前々回、前回と2回にわたって、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避を素材として、個別的否認規定と個別分野別の一般的否認規定との関係について検討してきたが、今回は、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避だけでなく、私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避も含めて、租税回避一般について個別的否認規定と一般的否認規定との関係を検討する。 わが国には、分野を特定・限定せずすべての分野を包括するタイプの一般的否認規定は存在しないが(租税回避否認規定の類型については第30回参照)、ドイツには、そのような一般的否認規定として租税基本法(Abgabenordnung. 以下「AO」という)42条が存在し、この規定の適用をめぐって個別的否認規定との関係が議論されてきたところである。今回は、その議論を紹介することにする。 Ⅱ AO42条の現行(新)法文と旧法文 議論の紹介に入る前に、AO42条について現行規定(2008年度改正税法(Jahressteuergesetz [JStG] 2008. 2008年1月1日施行)による新法文)を邦訳しておこう(下線筆者)。 また、議論の中では前記改正前のAO42条にも言及されることがあるので、その法文(旧法文)についても邦訳を以下に記しておくことにする(下線筆者)。 AO42条と個別的否認規定との適用関係については、新法文ではAO42条1項第3文が、旧法文ではAO42条2項が重要である。なお、旧法文のAO42条2項の規定は2001年度改正税法で追加されたものであるが、同条1項の租税回避否認規定は1977年AO42条以来、更に遡れば1919年ライヒAO(Reichsabagbenordnung)5条以来、基本的には同じ内容である。 Ⅲ 個別的否認規定と一般的否認規定との関係をめぐる議論 AO42条と個別的否認規定との関係をめぐる議論については、60年近い歴史と定評のあるティプケ=クルーゼのAOの加除式コンメンタール(Tipke/Kruse, Abgabenordnung, Finanzgerichtsordnung, Kommentar, Loseblatt)において的確でよくまとまった注釈がされているので、関連する欄外番号(Textziffer [Tz])の箇所(Drüen , Vor § 42, TK Lfg. 145 Juni 2016, Tz 13 ff.)を以下に邦訳しておくことにする(訳文中の太字の部分は原文でも太字。ただし、原文中の括弧書は原則として省略することにする)。その箇所の見出しは、「要件が充足されていない個別租税法律上の租税回避否認規定の保護効果(Abschirmwirkung)?」となっている。 以上の注釈のうち、まず、【欄外番号13】で述べられている、2001年度改正税法によるAO42条2項の追加及び2008年度改正税法による同条1項第3文の挿入については、それぞれの背景事情や立法理由を含め、かつて、拙稿「ドイツにおける租税回避の一般的否認規定の最近の展開」『税務大学校論叢40周年記念論文集』(2008年)237頁、243頁以下(拙著『租税回避論』(清文社・2014年)243頁以下)で検討した。そこでは、連邦財政裁判所のAO42条関係判例に対する不満・怒りを露わにする税務行政当局と、「特別法は一般法に優先する」という原則を遵守し、その原則に対する例外を正当化する明確な立法理由の欠如を問題にする学説やこれに従う判例との「確執」がみられたところである。 次に、【欄外番号13a】で述べられている見解は、学説においてライヒAO5条の時代から広く支持されてきた見解に従うものである。ヘンゼルは、ドイツにおける租税回避論の基礎を構築したと考えられるが(第21回Ⅱ2、第25回Ⅱ1等も参照)、AO5条と特別規定との関係について以下のとおり述べていた(Hensel, Zur Dogmatik des Begriffs "Steuerumgehung", in Bonner Festgabe für Zitelmann, 1923, 217, 273f. 以下の訳文中のイタリック体部分の原文は活字間の間隔が広い強調部分)。 【欄外番号13a】で述べられている見解は、今日においても広く支持されており、1973年の初版以来定評のあるティプケ=ラングの基本書(Tipke/Lang, Steuerrecht, 23. Aufl. 2018)における以下の邦訳部分(Englisch, § 5 Rz. 124. 訳文中の太字とイタリック体の部分は原文でも太字とイタリック体。下線筆者)中の下線部に係る脚注でも、参照されている。 最後に、【欄外番号14】で述べられている見解は、【欄外番号13a】で述べられている原則に対する例外を述べるものである(ヘンゼルは、前記引用の末尾でも述べられているように、例外を認めてはいなかったが)。その例外のうちとりわけ「個別租税法律(特別法)上の濫用否認規定の濫用」については、上記の基本書の邦訳部分(Englisch, § 5 Rz. 124.)の末尾でも「特別規定の要件要素の回避」として述べられているように、AO42条の適用を認める見解が有力である。ドイツ税法学会(Deutsche Steuerjuristische Gesellschaft)第34回年次総会(2009年)において示された次の見解(Hey, Spezialgesetzgebung und Typologie zum Gestaltungsmissbrauch, DStJG 33 (2010), 139, 146. 訳文中のイタリック体の部分は原文でもイタリック体)も、その1つである。 このような見解は、近時、下級審レベルではあるが財政裁判所によっても支持されるようになってきている(Drüen , Grundlagen und Grenzen administrativer Missbrauchsabwehr im gewaltengegliederten Verfassungsstaat, SteuW 2020, 3, 9)。 Ⅳ おわりに 以上において、租税回避の個別的否認規定と一般的否認規定の関係をめぐるドイツの議論を概観した。ドイツでは、AO42条の「強化」を意図する税務行政当局の強い意向とそれを受けた2回の法改正(2001年度改正税法、2008年度改正税法)にもかかわらず、「特別法は一般法を破る」という原則を打破しようとする試みは、同原則を遵守する学説及び判例によって、阻止されているように見受けられる。ただ、とりわけ「個別租税法律(特別法)上の濫用否認規定の濫用」については、AO42条の適用を認める見解が学説上有力であり、財政裁判所によっても採用されるようになってきている。 わが国には、AO42条のようなすべての分野を包括するタイプの一般的否認規定は存在しないが、それでも、前々回及び前回に検討したように、個別分野別の一般的否認規定は存在するので、それらについては個別的否認規定との関係が問題になる。しかし、個別分野別の一般的否認規定において、ドイツの2001年度改正税法のAO42条2項や2008年度改正税法のAO42条1項第2文・第3文のような、個別的否認規定との関係を定める明文の規定は、定められていない。 そのような法状態の下では、「特別法は一般法を破る」という原則を遵守すべきであり、そうすることによって、納税者の予測可能性・法的安定性が確保され、もってこの問題に関して租税法律主義の実現が図られることになると考えるところである。もっとも、ドイツで「個別租税法律(特別法)上の濫用否認規定の濫用」について上記の原則に対する例外が認められているが、わが国でもそのような例外を認めてよいように思われる。ヤフー事件最判が認めた法人税法132条の2の「重畳的」適用(第31回Ⅱ3参照)は、そのような例外に該当すると考えられる。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第16回】 「筆頭株主の譲渡等により原則的評価となる株主への対応」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳 相談内容 私Eは、製造業を営むF社で代表取締役社長を務めています。当社は創業メンバーの3名(A・B・C)が脱サラして設立した製造業で、ABCの3名が均等に株式を保有したまま順調に規模を拡大してきました。 私は当社の創業メンバー3名(A・B・C)と親族関係にはありませんが、設立直後から創業メンバーの3名を支えてきた功績が認められ、F社の経営を託されることになりました。 当社は、先述のとおり、創業メンバー3名が均等に株式を保有していた関係で、創業メンバーそれぞれの退任に合わせて資本政策の見直しを迫られてきました。 最初に創業メンバーCが当社を退任した際には、Cが保有する株式を後任の取締役に就任した私Eが5%、それ以外の28%を当社の従業員持株会が譲り受けました。 創業メンバーBは、当社の経営に関与していないBの子D氏に全株を相続させ、将来にわたってD氏が配当収入を得られることを望んでいましたが、顧問税理士が議決権割合を30%未満に引き下げれば配当還元価額による相続が可能となることを提案してくれたおかげで、私Eが5%分の株式をBから引き取り、Bの議決権割合を3分の1未満に引き下げ、その後Bは亡くなりました。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 そして、まもなく最後の創業メンバーAの退任時期が近づいています。Aは当社の株式に固執することなく、当社が安定経営できるように経営陣や従業員持株会に株式を譲渡しても構わないと考えてくれているようです。 現在の筆頭株主であるAが株式を手放した場合、当社は30%以上の株式を保有する同族株主のいない会社となり、筆頭株主となるD氏が同族株主と同じ原則的評価になってしまうと顧問税理士から説明を受けました。D氏は、筆頭株主といっても議決権の28%しか株式を保有しておらず、会社に経営権を主張したりできる株数ではありません。このような場合でも、D氏が同族株主と同じ評価方法になってしまうのでしょうか。 D氏はBからの相続時に配当還元価額により株式を相続しています。突然、株式の相続税評価額が高くなることについて、どのように説明すればよいでしょうか。 また、D氏が原則的評価となることを回避するために、D氏に対して当社から提案できることが何かあるでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 同族株主のいる会社 現在のF社は、創業メンバーAが30%以上の議決権割合を保有しています。議決権の30%以上の株式を保有する「同族株主」が存在する場合、議決権割合が30%未満の株主は、財産評価基本通達に規定する「同族株主以外の株主等」となるため、D氏は比較的評価額が低くなる配当還元価額と呼ばれる評価方式により、株式の承継(相続・贈与)を行うことが可能です(財基通188-2)。 〈F社の株主構成〉 同族株主のいる会社の株式の評価方式は次のとおりです。 〈同族株主のいる会社の評価方式〉 (※) 財産評価基本通達188(1)(2)を元に筆者作成。 [2] 同族株主のいない会社 Aが退任にあたって保有株式のすべてを複数の役員に譲渡した場合、F社には議決権の30%以上の株式を保有する「同族株主」が存在しなくなります。 この場合、議決権割合が15%以上の株主は、財産評価基本通達に規定する「中心的な株主」となるため、D氏が株式の承継(相続・贈与)を行う場合は配当還元価額ではなく、原則的評価と呼ばれる同族株主等と同じ評価方式によることになります(財基通178)。 〈F社の株主構成〉 (※) 従業員持株会については、構成員である各従業員の議決権割合が5%未満と小さいこと。「同一の内容の議決権を行使することに同意している者」(財基通188(1)に引用する法令4⑥)に該当しないように留意した会員規約に基づく運営が行われている前提で「中心的な株主」に該当しないものと取り扱っています。 同族株主のいない会社の株式の評価方式は次のとおりです。 〈同族株主のいない会社の評価方式〉 (※) 財産評価基本通達188(3)(4)を元に筆者作成。 [3] D氏に提案可能な資本政策の一例 (1) 株式の譲渡 同族株主のいない会社において、すべての株主の議決権割合が15%未満である場合には、株主全員が配当還元価額によることが可能となります。したがって、D氏の議決権割合が15%未満となるように他の株主への譲渡を提案することが現実的です。 自己株式による株式取得を検討する際には、議決権数が減少することにより他の株主の議決権割合が増加することになるため、他の株主が15%以上の議決権割合にならないように注意が必要です。 〈F社の株主構成〉 (2) 議決権制限株式への変更 同族株主判定は、保有株数による判定ではなく、議決権数により行われます。したがって、D氏の株式保有目的が配当の受領であるならば、D氏の保有株式を議決権制限株式(無議決権株式)に変更することもD氏に対する原則的評価を回避するための一案でしょう。 ただし、D氏の保有株式を議決権制限株式に変更した場合、他の株主の議決権割合が相対的に増加することになるため、自己株式による場合と同様、他の株主が15%以上の議決権割合にならないように注意が必要です。 〈F社の株主構成〉 [4] 結論 発行会社の経営陣としては、株主に対して意図せぬ税負担が生じることのないよう、新たに原則的評価の対象となる株主に対して、議決権割合の引下げや資本政策の見直しについて提案することが必要でしょう。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第26回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (イ) 「別段の定め」から法人税法22条4項が除かれていること 以下では、「別段の定め」そのものではなく、そこから法人税法22条4項が除かれていることに着目した考察を行ってみたい。 〔「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が関係する2箇所〕 少し考えてみると、法人税法22条の2第2項においては、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が次の2つの箇所で関係することに気がつく。 それぞれにおける「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の機能について考察しておこう。 法人税法22条の2第2項を適用して、引渡日又は役務提供日以外の日の属する事業年度に収益を計上する場合には、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って、当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理しなければならない。 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」としていることからすると、公正妥当性や基準性が求められるのであり、とりわけ、「一般に公正妥当と認められる」という部分は、基準の公正妥当性を判断ないし確保する機能を有する。 他方、法人税法22条の2第2項は、「別段の定め」があるものを除いて適用されるものであるところ、ここでいう「別段の定め」から法人税法22条4項が除かれている。法人税法22条の2第2項は、収益の額を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算することを求める22条4項に優先し、かつ、同項以外の「別段の定め」に劣後して、適用されるものと一応、整理できる。 上記①の箇所において、資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の引渡日又は役務提供日に近接する日について、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従ったものであることを要求している。 よって、法人税法22条の2第2項によって認められる近接日基準は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従ったものに限定される。すると、①の箇所における公正処理基準準拠要件は、資産の販売等に係る収益の計上時期について、原則的基準である引渡・役務提供基準とは異なる基準を採用することを制限している、あるいは原則的基準から離れることが正当化できる理由を表していると見ることもできよう。 その一方、上記②の箇所において、法人税法22条の2第2項に優先して適用される同項の「別段の定め」の範囲から、収益の額を「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算することを求める法人税法22条4項を除外していることをどのように理解すればよいであろうか。 上記②の箇所の意義は、法人税法22条の2第1項に組み込まれているものと同様に、22条4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」を根拠として、これに該当する基準(公正処理基準に該当する具体的な会計処理の基準)を22条の2第2項に優先して適用することを遮断するためにあると推察される。 いわば、規定間の交通整理の規定であり、法人税法22条の2第2項の他の適用要件を満たしている場合には、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従っていたとしても、同項によらずに(同項に優先して)法人税法22条4項を根拠として益金算入を行うことはできないことをわざわざ述べているものといえる。 そうであるとすると、ある収益計上に係る基準ないし実際の収益計上日が近接日基準を満たすか否かが問題となる場面では、上記①の箇所における公正処理基準準拠要件の方がより重要な役割を果たすことになろう。 〔「別段の定め」から除かれる法人税法22条4項・公正処理基準〕 法人税法22条の2第2項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」について、特に定義規定等を設けずに直前の22条4項のものと同一の文言を使用しているのであるから、22条4項のそれと同義に解することが自然である。 もっとも、法人税法22条4項の場合と異なり、22条の2第2項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の具体的範囲は、実際には、収益の計上時期に関する「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に限定されるであろう(本連載第20回参照)。 また、22条の2第2項は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従っていないと同項を適用できないというものであるが、22条4項における「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は、ある種、法人税法の規範の空白領域において補充的に会計規範の採用を認める働きをするものであるといえ、この点でそれぞれ趣きが異なることも指摘しておく。 後述するとおり、『平成30年度 税制改正の解説』274頁においては、法人税法22条の2第2項にいう「別段の定め」から同法22条4項を除いた趣旨及び「別段の定め」の具体例は、法人税法22条の2第1項と同様であると説明されている。 法人税法22条の2第1項にいう「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨について、資産の販売等に係る収益を益金の額に算入するかどうかという点は引き続き22条2項の規定によることとし、その時期及び金額について同法22条の2で規定された。かように資産の販売等に係る収益の額について22条4項と同法22条の2の両方が適用されると、割賦基準・延払基準のようにこれらの規定が互いに抵触する場合に優先関係が不明確となるおそれがあることから、優先関係を明確にするために、収益認識の時期については法人税法22条4項が適用されないこととしたというのである(本連載第18回参照)。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q54】 「証券投資信託の収益の分配金に係る確定申告と分配時調整外国税相当額控除」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 二重課税調整の仕組みと源泉徴収税額の通知 (1) 収益の分配金を支払う際に行われる二重課税調整 日本の証券投資信託の信託財産に外国株式が含まれ、当該外国株式に係る配当等から外国所得税が源泉徴収されている場合、受益者に対して当該証券投資信託に係る収益の分配金を支払う証券会社等は、その支払いの際に二重課税調整を行います(制度の概要等は【Q53】参照)。 国内株式と外国株式の両方に投資をする証券投資信託を例にとると、具体的には、下記の調整計算がなされます(これは説明のために簡略化したもので、実際は受益者ごとに計算されます)。 例 〔国内株式と外国株式の両方に投資をする証券投資信託〕 ・外貨建資産割合:80% ・収益分配割合:100% (2) 証券会社等からの通知 上記(1)の二重課税調整を行った証券会社等は、受益者たる個人投資家に対して、証券投資信託に係る収益の分配の額のほか、源泉徴収される所得税の額、控除外国所得税相当額、外貨建資産割合等を書面にて通知することとされています。 2 個人投資家の確定申告における分配時調整外国税相当額控除 証券投資信託の収益の分配の支払いを受ける個人投資家が確定申告する場合、上記1の二重課税調整の対象となった外国所得税の額については、下記の算式により算出される金額を、一般の外国税額控除と区別して、その年分の所得税の額から控除することとされています(分配時調整外国税相当額控除)。なお、源泉徴収ありの特定口座やNISA口座にて保有する証券投資信託については、確定申告を要しません。 (※1) 証券投資信託の収益の分配に係る外国所得税控除前の所得税の額に外貨建資産割合を乗じて計算した金額が限度となります。 (※2) 証券会社等から通知される控除外国所得税相当額と一致します。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第58回】 「りんご生産組合事件」 ~最判平成13年7月13日(集民202号673頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
2020年3月期決算における会計処理の留意事項 ~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~ 【前編】 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 Ⅰ 新型コロナウイルス感染症に関連する省庁や各団体からの公表物 2020年2月以降、省庁や各団体から以下の様々な財務報告関連の情報が公表されている。 1 【金融庁】 新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について 2020年2月10日に金融庁より「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」が公表された。 有価証券報告書、内部統制報告書、四半期報告書及び半期報告書について、新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、中国子会社への監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することができる。 また、臨時報告書についても、新型コロナウイルス感染症の影響により臨時報告書の作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものとして取り扱われる。 《実務上のPOINT》 有価証券報告書を期限内に提出することができない可能性がある場合は、事前に財務(支)局長の承認が得られるか確認する必要がある。 2 【国税庁】 国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ 2020年3月に国税庁より「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」が公表された。また、その後、2020年4月6日に「確定申告期限の柔軟な取扱いについて」が公表された。 本解説では、当該内容のうち、企業の経理関係者にとって重要であると考えらえる点などに絞って解説している。 (1) 所得税等の申告 ・納付期限の延長 ① 申告・納付の期限 申告所得税(及び復興特別所得税)、贈与税及び個人事業者の消費税及び地方消費税(以下、「消費税等」という)の申告・納付の期限について、以下のように延長されている。 なお、感染拡大により外出を控えるなど期限内に申告することが困難な方は、期限を区切らずに、4月17日以降であっても柔軟に確定申告書が受け付けられる。 ② 振替納税を利用している場合 申告所得税及び個人事業者の消費税等について、「振替納税を利用している」場合の納付期限は、以下のように延長されている。 4月17日以降に申告した場合の口座からの振替日は、税務署から個別に連絡がくることになっている。 ③ その他の期限延長 上記①と同様に期限延長となるその他の手続には、例えば、以下が含まれる。 消費税等については、上記の申告・納付以外の消費税の申請、届出等の手続については、申告期限等の延長の対象となるものはない。 (2) 申告・納付等の期限の個別延長 上記(1)以外の法人税、相続税、酒税等の申告及び納付期限については、従来どおりの期限となる。 しかし、地震等の自然災害、火災等の人為的な災害、申告等をする方の重傷病など、災害その他「やむを得ない理由」により、申告・納付等を期限までに行うことが困難な事情がある方(企業)については、税務署への申請(※)により、申告期限等が個別に延長される制度がある。 (※) 申請する際には、申請者の状況、税理士の関与状況、部署の閉鎖や業務制限の状況、緊急措置の概要など、参考となる具体的な事実を申請書に記載する必要がある。 新型コロナウイルス感染症(下記、表内に限り「感染症」という)における「やむを得ない理由」には、例えば、以下の理由が挙げられる。 《実務上のPOINT》 ➤申告・納付を通常のスケジュールどおりに行えない可能性がある場合、延長申請を検討することが考えられる。 ➤法人事業税及び法人住民税についても、各地方公共団体に延長申請可能かどうかを確認する必要がある。 3 【法務省】 定時株主総会の開催について 2020年2月28日に法務省より「定時株主総会の開催について」が公表された。新型コロナウイルス感染症に関連し、当初予定した時期に定時株主総会を開催することができない場合における留意点がまとめられている。 (1) 定時株主総会の開催時期に関する定款の定め 定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合には、その定めた時期に定時株主総会を開催する必要がある。しかし、会社法上、天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで、その定款で定めた時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではない。 したがって、新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りる。この場合、上記2(2)により、法人税等の申告・納付の延長申請も行う必要がある。 なお、会社法では定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定しているが(会社法296①)、事業年度の終了後3ヶ月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではない。法人税等の申告上、3ヶ月以内に決算を確定させる必要があるため、3ヶ月以内に開催しているのである。 (2) 定時株主総会の議決権行使のための基準日に関する定款の定め 会社法上、基準日株主が行使することができる権利は、当該基準日から3ヶ月以内に行使するものに限られる(会社法124②)。 したがって、定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められている場合において、新型コロナウイルス感染症に関連し、当該基準日から3ヶ月以内に定時株主総会を開催できない場合は、新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要がある(会社法124条③本文)。 (3) 剰余金の配当の基準日に関する定款の定め 特定の日を剰余金の配当の基準日とする定款の定めがある場合でも、新型コロナウイルス感染症に関連し、その特定の日を基準日として剰余金の配当をすることができない状況が生じた場合は、定款で定めた剰余金の配当の基準日株主に対する配当はせず、その特定の日と異なる日を剰余金の配当の基準日と定め、当該基準日株主に剰余金の配当をすることもできる。 なお、剰余金の配当の基準日を改めて定める場合には、上記(2)と同様に、当該基準日の2週間前までに公告する必要がある(会社法124③本文)。 《実務上のPOINT》 ➤株主総会を今までどおり、(3月決算の場合)6月に開催することができるのか、延期する必要はないのか検討することが考えられる。 ➤株主総会を今までどおり、(3月決算の場合)6月に開催することができない場合、新たな基準日を公告する必要がある。 4-1 【経済産業省】 ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド 2020年2月26日に経済産業省から、企業が、ハイブリッド型バーチャル株主総会を実施する際の法的・実務的論点、及び具体的取扱いを明らかにする実務ガイドが公表された。 ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加・出席することができる株主総会をいう。 ハイブリッド型バーチャル株主総会は、新型コロナウイルス感染症に関連して公表されたものではないが、多くの株主を一箇所に集めて株主総会を開催できない場合に活用できるため、本稿で解説する。 ハイブリッド型バーチャル株主総会は、会社法上の出席となるか否かによって、以下の2つに分類される。 (出所:経済産業省「 「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しました」【資料1】概要資料 P.1) なお、バーチャルオンリー型株主総会は、現行の会社法の解釈上、難しいという見解がある。 (1) ハイブリッド参加型バーチャル総会 (出所:経済産業省 「「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しました」【資料1】概要資料 P.2) (2) ハイブリッド出席型バーチャル総会 (出所:経済産業省 「「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しました」【資料1】概要資料 P.3) 《実務上のPOINT》 ➤ハイブリッド型バーチャル株主総会を以前より検討していない場合、準備期間に時間を要すると考えられるため、採用可能かどうか慎重に検討する必要がある。 ➤ハイブリッド型バーチャル株主総会を以前より検討していない会社にとっては、下記4-2のような対応の方が現実的であると考えられる。 4-2 【経済産業省】 株主総会運営に係るQ&A 2020年4月2日に経済産業省より、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、株主総会の運営上想定される事項についての考え方として「株主総会運営に係るQ&A」がまとめられ、公表された。 5-1 【日本取引所グループ】 新型コロナウィルス感染症の影響を踏まえた適時開示の実務上の取扱い 2020年2月10日に日本取引所グループより、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」が公表された。 (1) 決算及び四半期決算の内容の開示 (2) 事業活動等への影響に関する開示 新型コロナウイルス感染症が上場会社各社の事業活動や経営成績に及ぼす影響について、可能となった時点で、速やかにかつ積極的に、当該影響等に係る情報開示を検討する必要がある。 (3) 業績予想に関する開示 新型コロナウイルス感染症が事業活動及び経営成績に与える影響により、業績予想の合理的な見積もりが困難となった場合や、開示済みの業績予想の前提条件に大きな変動が生じた場合などには、その旨を明らかにして、業績予想を「未定」とする内容の開示を行い、その後に合理的な見積もりが可能となった時点で、適切にアップデートを行うことなどが考えられる。 5-2 【日本取引所グループ】 新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い 2020年3月18日に日本取引所グループより、「新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い」が公表された。 この中では、新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報について、有価証券報告書等の提出前に、決算短信・四半期決算短信の添付資料等においても記載するなど、株主・投資者に対する適時、適切な開示が求められている。 《実務上のPOINT》 ➤短信の提出時期を検討する必要がある。 ➤業績予想について、見積ることができない場合は未定と開示し、見積ることができたら、すぐに開示するといった対応が必要である。 ➤新型コロナウイルス感染症が事業に及ぼす影響(リスク情報)について、社内で適時に吸い上げ、適時に開示できる体制にする必要がある。 5-3 【日本取引所グループ】 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針について 2020年3月18日に日本取引所グループより「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針について」が公表された。 5-4 【日本取引所グループ】 パブリックコメント:「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた上場制度上の対応に係る有価証券上場規程等の一部改正ついて」 2020年3月31日に日本取引所グループより、有価証券上場規程等の一部改正案が公表された。当該改正では、上記5-3を受けて有価証券上場規程等において改正が必要なものについて、以下の改正が行われている。 (※) 上記5-3の「上場会社」-【上場廃止】-「意見不表明」又は「事業活動の停止」の場合については、改正案に記載されていない。これは、以下の理由による。 ➤「意見不表明」の場合、現行の有価証券上場規程(東京証券取引上)601条第1項11項では、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると東京証券取引所が認めるときは上場廃止になる」と規程されている。 新型コロナウイルス感染症の影響による意見不表明の場合は、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかではない」と解されるため、現行の有価証券上場規程を改正する必要はないと考えられる。 ➤「事業活動の停止」の場合、現行の有価証券上場規程(東京証券取引所)601条第1項第8号及び有価証券上場規程施行規則(東京証券取引所)601条第7項第1号では、「上場会社が、その事業活動を停止した場合又はこれに準ずる状態になった場合、上場廃止となるが、天災地変等により一時的に事業活動が停止されたと東京証券取引所が認めた場合は除く」と規定されている。 新型コロナウイルス感染症の影響による事業活動の停止の場合は、「天災地変等により一時的に事業活動が停止されたと東京証券取引所が認めた場合」に該当するため、現行の有価証券上場規程等を改正する必要はないと考えられる。 5-5 【日本取引所グループ】 2020年3月期末の配当その他の権利落ちについて 2020年3月24日に日本取引所グループより、「2020年3月期末の配当その他の権利落ちについて」が公表されている。 配当その他の権利落ちとは、その期の配当を受ける権利等が権利確定日の翌営業日をもってなくなることをいう。 株主として株主名簿に記載されるためには、購入後2営業日の期間が必要である。そのため、3月31日基準日の株主になるには、3月29日時点で(まで)株式を保有している必要がある。言い換えると、権利確定日は3月29日で、権利落ち日は3月30日となる。 今回、3月期決算の上場会社が事業年度終了後3ヶ月以内に定時株主総会を開催できずに、配当金その他の権利の基準日を事業年度末日(3月31日)から変更(例えば、4月1日以降に)することとなった場合、3月29日まで株式を保有し、3月30日に売却した場合には、配当金等の権利は有していないことになる。 そのため、投資家への注意事項として、株主総会の開催日により、権利確定日及び権利落ち日が異なる旨が公表された。 6 【日本公認会計士協会】 新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その1) 2020年3月18日に日本公認会計士協会より、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その1)」が公表された。ここでは、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための対策に取り組んでいる中での監査上の留意事項が取り上げられている。 詳細な解説は割愛するが、基本的には、従前どおりに監査手続を行うことが想定される。ただし、各社の状況により、今までどおりの監査対応ができない場合も想定されるため、そのような場合が想定されている会社においては、事前に監査人と協議することが望まれる。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第157回】 収益認識基準② 「収益認識基準の基本となる原則」 仰星監査法人 公認会計士 小林 清人 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) ① X1年4月期 [商品Yにかかる売上高の計上] ② X2年3月期 [保守サービスにかかる売上高の計上] ③ X3年3月期 [保守サービスにかかる売上高の計上] 〈会計処理の解説〉 上記の設例をもとに、5つのステップにしたがって収益認識の検討を行います。 まず、【ステップ1】と【ステップ2】では、「収益認識単位」を識別します。 次に、【ステップ3】と【ステップ4】では、「収益認識額」を測定します。 最後に、【ステップ5】では、「収益認識の時期(タイミング)」を決定します。 上記のプロセスを図示すると、下記のとおりとなります。 * * * (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第1回】 「代表的なハラスメントの定義とその特徴」 弁護士 柳田 忍 1 はじめに 昨今、「ハラスメント」という言葉を聞かない日はないと言っても過言ではない。どの業界、どの企業もハラスメント問題とは無縁ではなく、このような状況を受けてハラスメント対策を掲げた記事やセミナーは数多く掲載・開催されているが、多くの企業において、ハラスメントに対して適切に対応できていないのが現状であるように思う。 企業において、適切なハラスメント対策ができていない理由は、ハラスメント問題が孕むリスクの把握と、リスクが現実化した場合の損失を踏まえたうえで、意思決定を行っていないことが一因であると思われる。 そこで、本連載においては、調査・紛争・事後対応(再発防止策)の各段階において、ハラスメント問題が有するリスクとこれにより引き起こされるおそれのある損失を踏まえたうえで、企業として対応すべき事項について説明する。 なお、本連載の意見等にわたる部分については筆者個人によるものであり、所属する団体等の見解を代表するものではないことを申し添える。 2 ハラスメントとは まず、職場において特に問題となることが多いパワー・ハラスメント、セクシュアル・ハラスメント及びマタニティ・ハラスメントについて、定義及び実務上の留意点について説明する。また、最近、特に問題となることが増えてきている「SOGIハラスメント」についても若干の解説を行うものとする。 (1) パワー・ハラスメント(パワハラ) 職場のパワハラは、①優越的な関係に基づいて行われること、②業務上必要かつ相当な範囲を超えて行われること、③その雇用する労働者の就業環境を害すること、の3つを満たすものと定義されている(2020年6月施行予定の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第30条の2第1項)。 そして、これら3つをすべて満たす代表的なものとして、次の6つの類型が挙げられている(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年1月15日厚労省告示第5号))。 パワハラに該当する言動はこの6類型に限られないが、特に最近は、職場における「不当」な取扱いがあれば、とりあえず「パワハラ」と整理して主張がなされることが多い。 従業員からパワハラ被害の申告を受けると動揺する企業が多いが、そのような申告の中には、パワハラと称していても実態は人事権の行使に対するクレームに過ぎないものも多く、それぞれの申告の本質を踏まえた対処を行うことが肝要である。 また、パワハラに当たるかどうかの判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準としつつ、個別の事案の判断に際しては、労働者の「心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮」すべきであるとされている(前掲指針)。 ここで言う「平均的な労働者」とは、現在の平均的な労働者を意味するものと考えられるため、「自分が若い頃はこの程度の指導は普通だった」というのは、「平均的な労働者の感じ方」には当たらないということもありうる。 (2) セクシュアル・ハラスメント(セクハラ) セクハラは「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること」(対価型)及び「当該性的な言動により当該労働者の職業環境が害されること」(環境型)と定義されている(男女雇用機会均等法第11条第1項)。 セクハラに当たるかどうかの判断に際しても、パワハラと同様、当該労働者の主観を重視しつつも、一定の客観性が必要であると考えられており、被害を受けた労働者が女性である場合は「平均的な女性労働者の感じ方」を、男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であるとされている(「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号))。したがって、「被害者が嫌だと思ったらセクハラになる」というのは必ずしも正しい理解とは限らない。 (3) マタニティ・ハラスメント(マタハラ) マタハラとは、女性労働者が妊娠・出産した場合に休業や軽易業務への転換等の制度利用を行う場合や、労働者が育児等のために休業や時短勤務等の制度利用を行う場合に、当該女性労働者や労働者に対して職場における解雇その他の不利益取扱いを行ったり、職場環境を害する行為を行ったりすることを指す。 マタハラを引き起こす原因になりうるのが、従業員が妊娠・出産・育児等により休業等の制度利用を行うことによって当該従業員の業務のいわゆる「しわ寄せ」を受ける従業員の存在であり、使用者がこれらの従業員への対処を誤ると、これらの従業員の不満の矛先が制度利用を行った労働者に向かうことになりかねないため、これらの従業員への対応も重要なポイントである。 また、女性従業員がマタハラの加害者になることも少なくなく、使用者としては「女性同士だから分かり合えるはずだ」などという安易な考えを持つべきではない。 (4) SOGIハラスメント(SOGIハラ) 「SOGI」とは、Sexual Orientation(好きになる人の性別(性的指向))とGender Identity(自分がどの性別かという認識(性自認))の頭文字をとった言葉で、SOGIハラスメントとは、性的指向や性自認に関連して行われる差別や嫌がらせ、不利益な取扱い等を指す。 SOGIハラとして特に問題となるのが、身体上の性別と自認する性が一致しない者(トランスジェンダー)による自認する性と一致したトイレや更衣室の利用の要求への対応である。 2019年12月12日に、東京地方裁判所において、経済産業省がトランスジェンダーである職員に対して女性用トイレの利用を認めない措置をとったことが違法である旨の判断がなされたが、判決文によると、当該経産省の措置は顧問弁護士のアドバイスに従ったものであったようである。 この問題に関する対応策は未だ確立したとは言えないところであり、ある時点における最適解が短期間で最適解でなくなってしまうことがありうる点に留意すべきである。 (5) その他のハラスメント 上記以外にも、カスタマー・ハラスメント(顧客や取引先による嫌がらせ・カスハラ)、スメル・ハラスメント(臭いに関する嫌がらせ・スメハラ)、就活ハラスメント(就活生に対する嫌がらせ)といった様々な「ハラスメント」が存在する。これらの中には、法的問題に発展するものもあれば、法的問題には至らない「不快な言動」に留まるものもあろう。 この点、職場におけるハラスメントの多くが優越的地位を背景に行われる差別や嫌がらせであり、上記の代表的なハラスメントの定義や判断基準等がこのような現状を踏まえて策定されていることに照らすと、これらのその他のハラスメントが職場において行われる場合は、上記のパワハラ、セクハラ等の判断基準を応用して法的問題に至っているか否かを判断できる場合が多いのではないかと思われる。また、このような問題は、個人を尊重する意識の欠如に端を発することが多いということも念頭に置くべきである。 (了)