収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第31回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (2) 法人税法22条の2第2項を通じた益金算入 法人税法22条の2第3項は、申告調整により、資産の販売等に係る資産の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の益金の額に算入することを当該規定単独で認めるものではない。 近接日基準による益金算入を認める直接の規定は、あくまで2項である(2項については本連載第第19回から第29回参照)。本項は、近接日の属する事業年度の確定した決算における収益経理という2項の1つの要件を満たす効果をもたらすものにすぎない。 すなわち、法人税法22条の2第2項は、一定の要件を満たした場合には、法人税法22条の2第1項の規定によらずに(引渡・役務提供基準によらずに)、目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入することを規定している。 ここでいう「一定の要件」とは、次のとおりである(本連載第19回参照)。 法人税法22条の2第3項は、2項の要件を満たさない場合でも、一定の場合に「当該事業年度の確定した決算において収益として経理したものとみなして」2項の適用があるとするものである。 その文面を素直に読む限り、3項は、2項の適用に当たり、上記③の➋確定決算収益経理要件を満たす効果を発揮するにすぎない。よって、法人税法22条の2第3項の適用がある場合でも、2項の他の要件、すなわち上記②公正処理基準準拠要件、③の➊(益金算入に係る)近接日要件及び④の別段の定め不存在要件を同時に満たさない限り、申告調整により、資産の販売等に係る資産の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の益金の額に算入することは認められないと解される(上記①の要件については、基本的には2項と3項に共通するものである)。 この点に関して、『平成30年度 税制改正の解説』275頁は次のように解説している。 もっとも、法人税法22条の2第3項を経由して2項を適用する場合には、3項を経由せずに2項を直接適用する場合に求められるはずの上記②の公正処理基準準拠要件を満たす必要はないと解する見解も示されており(長島弘「収益認識基準対応としての法人税法22条の2の問題点」会計・監査ジャーナル30巻12号114頁参照)、議論の余地がある。 また、酒井克彦教授は、次のとおり、無償取引の場合にも近接日基準の適用があるという見解を示されており、注目される(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』257頁(中央経済社2019))。 かかる見解の背後には、法人税法22条の2第3項を経由して2項を適用する場合には、3項を経由せずに2項を直接適用する場合に求められるはずの上記②の公正処理基準準拠要件を満たす必要はないという理解があるのかもしれない。ただし、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」と「益金経理要件」とを分けて記述された上で、「必ずしも益金経理要件を必要とせず」と続けていることからすると、やや判然としない。 なお、法人税法22条の2第3項は2項の「別段の定め」であるかという論点がある。もっとも、資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って2項に規定する近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、3項は適用されないことが明定されている。 また、3項は、2項の要件を満たさない場合でも、一定の場合に「当該事業年度の確定した決算において収益として経理したものとみなして」2項の適用があるとする。 そうすると、2項の適用要件を満たす場合には2項が適用されることは明らかであって、2項と3項は競合する関係にはないから、法人税法22条の2第3項をもって2項の「別段の定め」であるとはいい難いという見解も視界に入ってくる。 しかしながら、22条の2第3項こそが2項の「別段の定め」に該当するという見解も示されており(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』256頁(中央経済社2019)参照)、議論は続くようである。 (了)
値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第3回】 「損益分岐点を意識して値上げする」 ~朱に交われば・・・高くなる?~ 公認会計士 石王丸 香菜子 登場人物 * * * 見慣れないモノや内容のよくわからないモノに出会ったとき、私たちはそのモノにどれくらいの価値があるのか、ぼんやりとしかイメージできないものです。モノの妥当な価格を推測するのが、意外なほど難しいこともあります。 現在のアラスカ州は19世紀にロシアがアメリカに売却したものですが、その売却価格は1エーカー当たり何と2セント(!)という破格の値段でした。その後、アラスカの金鉱や豊富な地下資源に大きな価値があることが明らかになった経緯は、よく知られています。 * * * * * * 商品のコストは、変動費(販売量に比例して発生するコスト)と固定費(販売量に関係なく常に一定額が生じるコスト)からなります。園芸用品の変動費は、仕入値だけとしましょう。ハナダ店長は、園芸用品の定価を付ける際、定価の80%相当が仕入値になるようにしています。 また、園芸用品をまとめて輸入する際、運賃として固定費60,000円がかかります。横軸を売上高、縦軸をコストとし、変動費と固定費をグラフで表すと、このようになります。 総コストのグラフに、売上高のグラフを重ねてみます。横軸にも縦軸にも売上高を取ると考えてください(当然ながら、傾き1のグラフになります)。 総コストのグラフと売上高のグラフの交点では、『総コスト=売上高』になっているのですから、損でも得でもない、いわゆる「損益トントン」の状態になっています。このターニング・ポイントを「損益分岐点」と呼びます。 これよりも売上高が小さい場合には、『総コスト>売上高』なので損失です。反対に、これよりも売上高が大きい場合には、『総コスト<売上高』なので利益が計上されます。 * * * * * * 私たちはモノの価格を推測する時、無意識に手がかりを探そうとします。手がかりの1つは、そのモノが、「他の多くのモノの中でどのような位置づけにあるか」というポジショニングです。 例えば、ハンドクリームを家事用品というカテゴリーで販売し、安価なゴム手袋や洗剤を競合製品としてみます。ハンドクリームの妥当な価格はいくらだと思いますか? 次に、リラックスアイテムというカテゴリーで、高価なアロマオイルやネイルケアグッズを競合製品としてみるとどうでしょうか? リラックスアイテムとして、他の高価なアイテムと並べた場合のほうが、買い手はハンドクリームの価格を高く見積りそうですね。 「どのようなカテゴリーに分類するか」、「どのようなアイテムを競合製品として想定するか」というポジショニング次第で、そのモノにとって妥当と感じられる価格は大きく異なります。「朱に交われば赤くなる」という言葉がありますが、これは価格にも当てはまるようです。 * * * (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第6回】 「不動産鑑定評価基準には直接登場しない公租公課倍率法」 ~世間的な地代の目安~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 いわゆる公租公課倍率法とは 税理士の皆様も、地代に関し顧客からの相談を受けることが少なからずあろうかと思います。その際、「公租公課倍率法」という方法を適用して新規貸しの地代を試算する方もおられれば、地代改定に当たり改定後の地代の目安を推し測る目的でこの方法を活用する方もおられるのではないでしょうか。 ところで、土地の貸主のなかには公租公課倍率法に馴染みの深い方が多く、税理士の方が地代の相談を受けた際に、まずはこの方法によって地代の試算をしてみようという気持ちになるのも一理あるという気がします。 それでは、公租公課倍率法とはどのような方式を意味するのでしょうか。 この呼び方は通称であり、正式な用語として定義付けられているわけではありませんが、筆者なりにその意味を捉えれば、公租公課倍率法とは『対象地に課税されている固定資産税及び都市計画税の合計額に一定の倍率を乗じた金額をもって地代とする方法』であるといえます。 例えば、対象地の固定資産税及び都市計画税の合計額が1㎡当たり月額200円で、その3倍をもって地代を取り決めるとすれば、 ということになります。 このように、公租公課倍率法は簡潔明瞭な地代決定の方法であり、計算の基になる固定資産税及び都市計画税の金額が分かれば、他に判断の介入する余地はなく機械的に地代が求められる点に特徴(あるいはメリット)があります。 2 公租公課倍率法が一般に用いられてきた理由 それでは、公租公課倍率法が一般に用いられてきた理由は、どのような点に見い出せるのでしょうか。 上記1で述べた内容と一部重複するところもありますが、これをまとめれば以下のとおりです。 そのため、例えば「将来、経済諸事情の変動により地代改定が必要となった場合には、改定時の固定資産税及び都市計画税の合計額の〇倍をもって改定後の地代とする」旨の取り決めをしているケースも見受けられます。 しかし、そうはいってもすべてこのような形で物事が解決するというわけではありません。なかには、契約当初に公租公課の一定倍率を地代として取り決めた場合でも、その後の公租公課の大幅な増額に伴い、同じ計算式を用いても結果としての金額が借主にとって負担の大きいものとなってしまう事態も生じ得ることでしょう。 このようなことを考えると、公租公課倍率法が分かりやすい方法であるとはいっても、この方法で地代を取り決めておけば問題は生じないと考えるわけにはいきません。 3 公租公課倍率法に用いられる倍率 (1) 巷に言われる公租公課の“3倍”とは 先ほどの計算例にも掲げましたが、公租公課に乗ずる倍率としては「3倍」という数値が一般的によく用いられてきました。しかし、公租公課の3倍相当額が適正地代であるという規定が存在するわけではなく、このレベルの地代を授受することが法的に義務づけられているというものでもありません。 それでは何を根拠に「3倍」という倍率が巷で用いられてきたのでしょうか。 その根拠を筆者が推測するに、宗教法人(お寺)の地代に関する税務上の取扱いに端を発しているものと思われます。 すなわち、宗教法人(公益法人)に関しては法人税法施行規則第4条で、地代の額が住宅用土地に課される固定資産税及び都市計画税の合計額の3倍以下であれば住宅用土地の貸付業で収益事業に該当しないと扱われていることから、お寺が決める地代は公租公課の3倍以下とするであろうことが読み取れるからです(これを考えると、公租公課の3倍相当額が適正地代であると割り切ってしまうことには、再考の余地がありそうです)。 ちなみに、法人税法施行規則第4条及びそのなかに登場する法人税法施行令第5条第1項第5号の規定は以下のとおりです(下線部は筆者によります)。 (2) 日税不動産鑑定士協会の調査では 日税不動産鑑定士会(税理士と不動産鑑定士の両方の資格を有する者が組織している会)の調査によれば、平成30年1月から同年4月現在での東京都23区における継続地代(支払ベース)の公租公課に対する倍率は次のとおりです。 ここで、住宅地系の倍率が高い理由として、住宅用地の減額特例により、住宅用地の課税標準額が商業地(非住宅用地)のそれよりも低い水準に抑えられていることが指摘されています。 ちなみに、平成27年1月1日時点の調査では以下の結果が報告されています(ただし、調査地点は平成30年とすべて同一でなく、対象となった事例数にも相違があります)。 また、上記の調査結果は東京都23区における1つの傾向を示すものであり、これが全国の土地にもそのまま当てはまるというわけでもありません(商業地系では上記割合よりもかなり高い傾向を示す地域もあるようです)。 (3) 公租公課倍率法適用上の留意点 今まで述べてきたことを踏まえれば、公租公課倍率法の適用に当たっては以下の点に留意が必要です。 〈公租公課倍率法適用に当たっての留意点〉 4 不動産鑑定評価基準には直接登場しない公租公課倍率法 (1) 不動産鑑定評価基準における賃料評価の考え方 不動産鑑定評価基準の考え方は以下のとおりですが、地代に関する評価手法のなかに、公租公課倍率法という言葉は直接登場しません。 ここで、「積算法」とは賃貸借等に供される不動産の経済価値に着目して、「賃貸事例比較法」とは不動産の賃貸借等の事例に着目して、「収益分析法」とは一般の企業経営に着目して不動産の賃料を求める手法です。 また、継続賃料を求める上記手法は、新規賃料を求める3手法の考え方を活用したものです。 すなわち、「差額配分法」は、対象不動産の経済価値に即応した適正な賃料と実際の賃料との間に発生している差額について、貸主・借主間の適正な配分という視点に立って改定後の賃料にアプローチするものです。また、「利回り法」は、賃料を改定しようとする時点での不動産の価格(基礎価格)に、現行賃料を直近で合意した時点(以下、「直近合意時点」といいます)における利回り(=継続賃料利回り)を乗じた金額をベースとするものであり、「スライド法」とは直近合意時点における純賃料(公租公課を除く部分)にその後の諸指標の変動率を乗じた金額をベースとするものです。さらに、継続賃料を求める際の「賃貸事例比較法」は、新規貸しの事例ではなく、契約継続中の賃貸事例を前提としています。 このように、不動産鑑定評価基準の規定からは公租公課倍率法という手法の存在が読み取れませんが、筆者の推測によれば、「賃貸事例比較法等・」の「等」のなかに包含されているのではないかと思われます(ただし、不動産鑑定評価基準の解説書を読んでも、このあたりの事情を記述したものは見当たりません)。 (2) 公租公課倍率法の鑑定評価上の意義 筆者は、公租公課倍率法は不動産鑑定評価基準に基づいて求められた鑑定評価額の検証手段として意義を有するものと考えています。 その理由は、特に継続賃料の場合、鑑定評価の各手法を適用して試算した結果に相当の乖離が生ずることも多く、そのなかでどの手法による結果が最も説得力を有するかの判断をするに当たり、公租公課倍率法の考え方が常識的な目線(ヒント)を提供することがしばしばあるからです。 特に、継続賃料の鑑定評価においては、「直近合意時点」からの諸事情の変動をいかにして賃料に的確に反映させるか(最高裁判例の傾向)がキーポイントとなりますが、「直近合意時点」の捉え方によっては鑑定評価額にも大きな影響を与えます。 筆者は、鑑定評価という作業がいくつもの判断の集積から成り立っていることを踏まえると、その結果の検証手段として公租公課倍率法の存在意義を見い出すことができると考えています。 (了)
〈Q&A〉 消費税転嫁対策特措法・下請法のポイント 【第3回】 「法規制が及ぶ範囲の異同」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 福塚 侑也 【Q】 当社では、下請法遵守のため、下請法の対象となる取引先を選別し、一目で判別できるような取引先コードを付して徹底した管理を行っています。 そこで、下請法の対象となる取引先について、下請法遵守のための取組みに加えて消費税転嫁対策特別措置法遵守のための取組みを行うことを考えていますが、このような方法で問題ないでしょうか。 【A】 消費税転嫁対策特別措置法の適用範囲は、下請法の適用範囲よりも大幅に広くなっています。消費税転嫁対策特別措置法の適用に当たっては、資本金による適用範囲の制限が限定的であり、また、下請法における取引内容要件に対応する要件はありません。 したがって、事務所や店舗の家賃、自社利用のためのサービスの委託など、下請法が適用されない取引も含めて、消費税転嫁対策特別措置法の対象となる取引を洗い出し、同法遵守の体制を構築することが必要です。 はじめに 第3回は、消費税転嫁対策特別措置法と下請法のそれぞれについて、法規制が及ぶ範囲の異同を解説する。 消費税転嫁対策特別措置法と下請法は、「買いたたき」や「減額」など名称の重なり合う規制を持つが、法規制が及ぶ範囲は大きく異なり、その適用対象取引は消費税転嫁対策特別措置法の方が圧倒的に幅広い。したがって、いかに下請法遵守に努めている企業であっても、思わぬところで消費税転嫁対策特別措置法に足下をすくわれる場合があるため、注意する必要がある。 以下では、まず、下請法の適用範囲について概説した上で、下請法との異同に言及しつつ消費税転嫁対策特別措置法の適用範囲について概説し、最後に、具体的な事例における両法律の適用の有無を対比することとする。 1 下請法の適用範囲 (1) 概要 下請法は、発注者である「親事業者」に4つの義務を課すと共に、「親事業者」が受注者である「下請事業者」に11の行為を行うことを禁止している(詳細は【第1回】参照)。 「親事業者」及び「下請事業者」に該当するとして下請法が適用されるのは、①資本金要件、②取引内容要件という2つの要件を共に充たす場合に限られるため、以下、上記各要件について概説する。 (2) 資本金要件 資本金要件とは、親事業者と下請事業者の資本金額を見比べ、所定のチャートに機械的に当てはめて判断するというものである。チャートは2種類あり、委託する内容によって用いるチャートが異なるため、注意する必要がある。 まず、委託内容が製造委託など以下のいずれかに該当する場合は、その下の3億円基準が適用される。 《委託内容》 《3億円基準》 例えば、資本金5億円の自動車メーカーが、資本金1億円の部品メーカーに自動車部品の製造を委託する場合には、発注者である自動車メーカーの資本金額が3億円超であるため、上記の表のうち上段が適用される。そして、受注者である部品メーカーの資本金が3億円以下であるため、資本金要件を充たすということになる。 また、資本金1億円の自動車メーカーが、資本金3,000万円の部品メーカーに自動車部品の製造を委託する場合には、発注者である自動車メーカーの資本金が1,000万円超3億円以下であるため、上記の表のうち下段が適用される。しかし、受注者である部品メーカーの資本金が1,000万円を超えているため、資本金要件を充たさないということになる。 他方、委託内容がプログラムの作成を除く情報成果物作成委託など以下のいずれかに該当する場合は、その下の5,000万円基準が適用される。 《委託内容》 《5,000万円基準》 基準となる数値が3億円ではなく5,000万円となる点が異なるものの、考え方は上記3億円基準と全く同じである。 (3) 取引内容要件 取引内容要件とは、発注内容に着目した要件である。 すなわち、下請法が適用されるのは、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」及び「役務提供委託」のいずれかの要件を充たす一定の委託取引に限られる。それぞれの委託取引については、次のとおりである。 「委託取引」とは、自社が業として行う物品の製造、修理、情報成果物の作成、役務の提供等の全部又は一部を他の事業者に委託する場合をいう。典型的には、自動車メーカーが部品メーカーに仕様を指定した自動車部品の製造を委託したり、テレビ局が番組製作会社に番組の制作を委託したり、運送事業者が他の運送事業者に顧客から受託した運送の一部を再委託したりするような場合である。 他方、カタログ品の購入、自社で使用する物品の製造の委託(自社で製造していない場合に限る)、自己利用するための役務提供の委託などは、下請法にいう委託取引に該当せず、下請法は適用されない。 2 消費税転嫁対策特別措置法の適用範囲 消費税転嫁対策特別措置法は、買い手側である「特定事業者」が、売り手側である「特定供給事業者」に対し、買いたたき等の消費税転嫁拒否等の行為を行うことを禁止している。 特定事業者及び特定供給事業者の範囲は、以下のとおり、買い手側企業が大規模小売事業者(※)であるか否かによって異なる。 (※) 「大規模小売事業者」については、売上額及び店舗面積に係る基準が定められている。詳細は、公取委「消費税の転嫁を拒否する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」参照。 上記適用範囲は、下請法の適用対象よりも大幅に広範なものである。下請法との比較においては、以下の点に留意する必要がある。 3 具体例にみる適用範囲の異同 上記1及び2で述べた適用範囲の異同を具体例で見ると、以下のとおりである。下請法が適用されないにもかかわらず、消費税転嫁対策特措法の規制対象となる領域が、いかに広いかがお分かりいただけるのではないだろうか。 ※「〇」は適用、「✕」は非適用を示す。 ※資本金に関する要件を充足することを前提としている。 ※一覧性を確保するため、例外的場面は捨象していることにご留意いただきたい。 (了)
中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第26回】 「争族対策と老後資金の関係」 税理士法人トゥモローズ 中小企業の経営者に、後継者となる子以外にも子がいる場合、その相続が“争族”となって、遺産分割が長期化することがあり得る。 親である経営者が事前に対策をしていれば、争いを防ぐことができたケースも多々あるため、今回は中小企業経営者の争族対策について解説を行っていきたい。 1 主な争族対策 (1) 遺言書の作成 争族対策の基本は、遺言書の作成である。すなわち遺言書に、後継者である相続人に経営者が保有する自社株式(非上場株式)を相続させる旨の記載をし、後継者以外の相続人には、それ以外の財産で遺留分を確保するような遺言書を作成する。非上場株式が財産の大半を締め、他に遺留分を確保できるような適当な財産がない場合には、次の(2)以降で紹介する対策を検討することとなる。 なお、遺留分を確保できるような他の適当な財産がない場合であっても、遺言書の作成は必要である。仮に遺言書を作成していなかった場合には、遺留分の倍である法定相続分を後継者以外の相続人に分割しなければならず、その割合を半減させるという意味もある。 また、このような法的効果以外にも、親が遺言書に記載されたような思いがあったことを子に知ってもらい、後継者以外の子にも納得感を持ってもらうという意味でも、遺言書の作成は重要な争族対策となるであろう。 (2) 遺留分の放棄 相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けた場合に限り、その効力が生じる。これは、親からの強要による遺留分放棄を認めないために、家庭裁判所の許可をその要件としたのである。 相続開始前における遺留分放棄の手続について、概要を示すと以下の通りである。 なお、相続開始前の遺留分の放棄は、申立ての前提となった事情が変化したような場合には、再度家庭裁判所の許可を受ければ取り消すこともできるため、絶対的なものではない。そのような事情もあることから、次の(3)に紹介する民法の特例制度が創設された。 また、相続開始後の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可は不要である。ただし、相続開始後に遺留分権利者が放棄してくれるかどうかは分からないため、生前の争族対策としては有効ではない。 (3) 遺留分に関する民法の特例(固定合意・除外合意) 事業承継における遺留分の問題を解消するために、経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)には、遺留分に関する民法の特例の規定がある。 この特例には、①除外合意と②固定合意という2つの方策が用意されている。 ① 除外合意 除外合意とは、生前贈与等により後継者に移った非上場株式について、遺留分を算定するための基礎財産の価額に算入すべき価額に、その非上場株式の価額を算入しないとすることができる制度である。 (※) 中小企業庁パンフレットより ② 固定合意 固定合意とは、生前贈与等により後継者に移った非上場株式について、遺留分を算定するための基礎財産の価額に算入すべき価額を、相続時の価額ではなく、贈与時の価額とすることができる制度である。 (※) 中小企業庁パンフレットより (4) 生命保険の活用 前回でも解説した通り、遺留分相当額を保険金額とする生命保険契約に加入し、その受取人を後継者とすれば、その保険金を原資として、後継者以外の相続人に代償金を支払うことができ、遺産分割の長期的な争いを回避することができる。 2 争族対策と老後資金 ここまで事業承継における遺留分の問題を解説してきたが、そもそも遺留分の問題が生じないよう後継者に非上場株式を移転できればよいのである。 その方法は、本連載【第16回】で紹介した「譲渡による株式の移転」である。 譲渡による株式の移転の場合には、適切な対価で譲渡されている限り、将来の相続で後継者以外の相続人から遺留分侵害額の請求はされない。また、その譲渡対価が先代経営者の老後資金を潤すことにもつながるのである。 後継者による譲渡対価の捻出等の課題もあるが、争族対策と老後資金を共に解決する手法としては、譲渡による株式の移転が最適であろう。 (了)
《速報解説》 改正された「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等が公布と同時に施行 ~重要な会計方針の注記に係る規定の改正、収益認識に関する注記等に係る留意事項が規定される~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年6月12日、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第46号)等が公布された。これにより、2020年4月10日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、2020年3月31日に公表された「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(改正企業会計基準第24号)、「収益認識に関する会計基準」(改正企業会計基準第29号)及び「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号)等を踏まえ、財務諸表等規則などを改正するものである。 なお、公開草案に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方も公表されており、改正後の財務諸表等規則などの理解に資するものと思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部改正」、「四半期財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部改正」、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部改正」などのほか、「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(財務諸表等規則ガイドライン)の一部改正」などが公表されている。 以下では、主に財務諸表等規則に関する改正について解説する。 1 重要な会計方針の注記(財規8条の2関係) 「重要な会計方針の注記」(財規8条の2)では、従来、有価証券の評価基準及び評価方法、棚卸資産の評価基準及び評価方法など10項目を注記しなければならないとしていた。 改正財務諸表等規則は、会計方針については、財務諸表作成のための基礎となる事項であって、投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならないとし(重要性の乏しいものについては注記を省略することができる)、現行の10項目の会計方針の記載を削除している。 一方、改正財務諸表等規則ガイドライン8の2において、次の規定を新設している。 2 重要な会計上の見積りに関する注記(財規8条の2の2関係) 「重要な会計上の見積りに関する注記」(財規8条の2の2)において、当事業年度の財務諸表の作成に当たって行った会計上の見積り(この規則の規定により注記すべき事項の記載に当たって行った会計上の見積りを含む)のうち、当該会計上の見積りが当事業年度の翌事業年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるもの(「重要な会計上の見積り」という)を識別した場合には、次に掲げる事項であって、投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならない。 当該財務諸表等規則の規定に対応して、財務諸表等規則ガイドライン8の2の2において、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が適用される場合の注記に関する留意事項を規定する。 3 未適用の会計基準等に関する注記(財規8条の3の3関係) 改正財務諸表等規則8条の3の3第1項3号に掲げる事項は、当該会計基準等が専ら表示方法及び注記事項を定めた会計基準等である場合には、記載することを要しない。 4 収益認識に関する注記(財規8条の32関係) 顧客との契約から生じる収益については、次に掲げる事項であって、投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならない(重要性の乏しいものについては注記を省略することができる)。 当該財務諸表等規則の規定に対応して、財務諸表等規則ガイドライン8の32において、「収益認識に関する会計基準」が適用される場合の注記に関する留意事項を規定する。 5 表示科目等(財規15条、39条、47条、93条等関係) 次のように表示科目等について改正する。 6 棚卸資産及び工事損失引当金の表示(財規54条の4関係) 同一の工事契約に係る棚卸資産及び工事損失引当金がある場合に、所要の注記を行う(重要性の乏しいものについては注記を省略することができる)。 7 売上高の表示方法(財規72条関係) 売上高については、顧客との契約から生じる収益及びそれ以外の収益に区分して記載するものとする。 この場合において、当該記載は、顧客との契約から生じる収益の金額の注記をもって代えることができる。 ただし、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成しているときは、当該記載及び当該注記を省略することができる。 売上高の記載に際しては、各企業の実態に応じ、売上高、売上収益、営業収益等適切な名称を付すことに留意し、また、顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合には、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)を損益計算書において区分して表示することに留意する(財務諸表等規則ガイドライン72-1、72-2)。 Ⅲ 適用時期等 公布の日(2020年6月12日)から施行する。 経過措置が詳細に規定されているので、実際の適用に際して注意が必要である。 (了)
《速報解説》 会計士協会からCOVID-19により変化し続ける環境下での監査報告(翻訳情報)が公表される ~注記事項の重要性、KAM、期中財務情報に対するレビュー報告書等に言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により変化し続ける環境下での監査報告」(2020年5月22日、IAASBスタッフ文書)を公表した。 これは、2020年4月29日、5月14日に続くものであり、国際監査基準(ISA)及び国際レビュー業務基準(ISRE)に基づく監査報告に関連するものである。 この文書は、監査人の監査実務の動向を理解するうえで参考になる部分があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 注記事項の重要性 現在の状況では、注記事項の重要性はますます高まっていると述べている。 利用者は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的流行の重要な影響について開示を通じて透明性が高まることを期待している。 注記事項によって、特に、金融市場の不安定性、信用リスク又は流動性リスクの悪化、政府による介入(政府補助金等)、並びに生産量の削減やリストラクチャリング等から生じる変化の影響に対処することができる。 国際監査基準(ISA)において、十分かつ適切な監査証拠を入手することは、注記事項に対しても同様に適用される。 次のことに留意する。 Ⅲ 継続企業の前提に関する重要な不確実性 次のことに留意する。 Ⅳ 監査上の主要な検討事項(KAM) ISA701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」が適用される場合、COVID-19の世界的流行により生じた状況の変化や課題によって、監査報告書において報告される監査上の主要な検討事項の決定に、さらに焦点を置く可能性がある。 監査人が特に注意を払った事項についての監査人の決定に影響する事項として、次のものを例示している。 Ⅴ 期中財務情報に対するレビュー報告書 経営者は、期中財務諸表を作成及び発行する際にも、COVID-19の世界的流行の影響について考慮する必要がある。 監査人も、ISRE2410「企業の独立監査人が実施する期中財務情報のレビュー」に従った、企業の期中財務情報のレビューを行う際に、当該影響を考慮することになる。 (了)
《速報解説》 国税庁、「グループ通算制度に関するQ&A」を公表 ~欠損金の通算の計算方法等が示される~ 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 令和2年6月3日に国税庁から「グループ通算制度に関するQ&A」が公表された。 この「グループ通算制度に関するQ&A」は、通算制度に係る税務上の取扱いをQ&A形式で取りまとめたものであり、図表や計算例を使って解説している。 以下ではQ&Aで取り上げられた主な項目について紹介したい。 なおグループ通算制度については、下記拙稿を合わせて参照されたい。 1 適用対象法人等(問1~6) 通算完全支配関係の範囲を含めた通算親法人又は通算子法人の範囲が解説されている。また、「問6 連結法人の通算制度への移行に関する手続」では、連結法人は通算制度に自動的に移行すること、移行日前に届出書を提出すれば単体納税に戻れること、ただし、5年間の適用制限が課されることが記載されている。 2 通算制度の承認(問7~11) 通算制度の適用を開始したい場合、3ヶ月前までに申請書を提出する必要があること、設立事業年度又は設立事業年度の翌事業年度(申請特例年度)から通算制度を適用したい場合、申請期限の特例を設けていることが記載されている。 3 申告・納付(問12~15) 申告・納付については、個別申告方式を前提とした取扱いである点を除くと、確定申告書の提出期限(問12)、納付期限の延長(問14)、連帯納付責任(問15)は、連結納税と同様の取扱いとなっている。 4 青色申告(問16~18) 通算制度では、連結納税と異なり、通算制度の承認を受けた場合は、同時に青色申告の承認を受けたことになることが記載されている。 5 事業年度(問19~25) 通算制度でも、連結納税と同様に、通算親法人の事業年度を税務上の事業年度として損益通算等を適用することになる。 また、加入法人又は離脱法人の事業年度の設定について、加入時期の特例に会計期間の末日の翌日が追加されたこと及び離脱する際に通算親法人の事業年度に合わせた事業年度とする必要はないことを除いて連結納税と同様の取扱いとなることも確認できる。 6 開始・加入の時価評価(問26~28) 開始・加入の時価評価については、問26及び問27で「開始・加入に伴う時価評価を要しない法人」の範囲が解説されているが、共同事業要件などは政令で定められることなるため、今回のQ&Aで詳しい解説はされていない。 7 損益通算(問31~33) 損益通算については、今まで、国税庁及び財務省から計算例は示されていなかったが、問31において計算例が示されている。 また、「問32 損益通算の対象とはならない欠損金額等」について、図表を使って解説が行われている。 さらに、損益通算の修更正時の遮断措置について、問33において、計算例が示されている。 8 欠損金額(問34~39) 通算制度の欠損金額の取扱いについては、まず、問34において、時価評価を要する法人、時価評価を要しない法人それぞれにおいて欠損金額が切り捨てられる場合が図示されている。 次に、「問35 過年度の欠損金額を通算制度適用後に損金算入することの可否」において通算制度に持ち込んだ開始前の過年度の欠損金額は、通算制度開始後に特定欠損金額として損金算入することができることが記載されている。 また、通算制度の欠損金の通算(遮断措置を含む)については、今まで、国税庁及び財務省から計算例は示されていなかったが、「問36 通算法人の過年度の欠損金額の当初申告における損金算入額の計算方法」及び「問37 修正申告等があった場合の通算法人の過年度の欠損金額の損金算入額の計算方法」において、当初申告の計算例と修更正時の計算例が示されている。 この欠損金の通算(遮断措置を含む)の計算方法は、通算制度の中でも最も難解な取扱いの1つであるといえるため、このような形で計算例が示されることは実務家にとって大変、有意義なものであると思われる。 9 法人税(税率)(問42) 通算制度は、①個別申告方式となり、各通算法人の税率が適用されること、②軽減税率の対象となる所得の限度額800万円を各通算法人に配分する必要があること、③その配分計算に遮断措置を設けていること、が特別な取扱いとなっているが、今回のQ&Aでは、②・③の具体的な計算例が示されている。 ▷終わりに 今回公表されたQ&Aにおいて、通算制度に係る政省令等が公布された際には、随時、記載内容等について改訂を行っていく予定であることが記載されている。 そのため、今後、政省令が公表されることで、「連結納税制度Q&A(平成29年3月)」(国税庁)で取り上げられている項目(投資簿価修正、受取配当金、寄附金、外国子会社配当金、外国税額控除など)が取り上げられるだろうし、時価評価についても詳細が解説されるだろう。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2020年6月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.373を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第89回】 「附帯決議から読み解く租税法(その2)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅱ 附帯決議が論点となった訴訟 1 国税通則法70条4項 国税通則法70条《国税の更正、決定等の期間制限》4項(当時5項)の除斥期間につき、従前の5年から7年に延長する内容を含む「脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律案」について、昭和56年5月15日に開かれた参議院大蔵委員会において、次のような附帯決議がなされた。 すなわち、「政府は、本法施行に当たり、次の事項について配慮すべきである。」とした上で、次のように決議されたのである。 (※) なお、上記のほか、「一、所得発生の時期から相当期間経過して更正・決定等が行われる場合、直ちに納税することが困難となる納税者を救済するため、納税緩和制度の弾力的運営に努めること」「一、保存期間が延長される青色申告者の帳簿書類の範囲については、中小企業者等に過重な負担とならないよう、最少限度のものとすること」の2点も決議されている。 かような附帯決議(以下「昭和56年附帯決議」という。)が行われているわけであるが、同年4月24日の衆議院大蔵委員会においても同趣旨の決議が行われている(衆議院大蔵委員会の附帯決議については後掲)。 これらを前提とすると、国税通則法70条4項にいう「偽りその他不正の行為」の認定は厳格に行われるべきということになるのであろうか。 この点について考えることとしよう。 例えば、東京地裁平成16年11月24日判決(税資254号順号9830)の事例における原告は、「本件のような過少申告加算税が賦課されたにすぎない事案において、7年に遡及して更正処分を行うことは、上記立法趣旨に反するとする意見もあり得るところである。」と主張する。 これに対して、東京地裁は、次のように判示している。 すなわち、国税通則法70条4項の趣旨から、過少申告行為自体が偽りその他不正の行為に当たる場合があるとする。 東京地裁は、上記のように被告主張につき述べたうえで、それを補強するものとして附帯決議に触れている。 (※) もっとも、結論においては、課税処分に違法はないと判断されている。すなわち、確定申告の際に源泉徴収票を提出しないなど、原告の過少申告行為を容易ならしめる客観的状況が存在し、原告がそれを認識しつつ、あえて過少申告を行ったものであるというべきであることから、このような納税者の過少申告行為は、国税通則法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」に該当するとされている(確定)。 また、東京高裁平成16年11月11日判決(税資254号順号9814)は、次のように説示する。 これまで多くの訴訟事案において、納税者側が、昭和56年附帯決議を参照して国税通則法70条4項の規定の適用による遡及課税についての違法性を訴えてきたが、ことごとくかかる主張は排斥されているのが現状である。 (※) 後掲する事案のほかにも、例えば、東京地裁平成17年9月9日判決(訟月52巻7号2349頁)、東京高裁平成16年11月30日判決(訟報51巻9号2512頁)、横浜地裁平成16年9月8日判決(税資254号順号9739)、水戸地裁平成16年8月25日判決(税資254号順号9723)、東京地裁平成16年4月19日判決(訟月51巻9号2538頁)、横浜地裁平成16年3月17日判決(税資254号順号9598)、大阪地裁平成15年12月3日判決(税資253号順号9481)における納税者側の主張などがある。 大阪高裁平成16年10月27日判決(税資254号順号9796)においても同様である。 控訴人(納税者)は、上記のような判断は、昭和56年附帯決議の内容とも齟齬するなどと主張したが、同判決は、「前記のような判断が56年附帯決議の内容に反することにならないのも明らかである。」とした。 2 政府の注意の喚起にすぎない附帯決議 名古屋地裁平成13年9月28日判決(税資251号順号8986)においても、原告は、昭和56年附帯決議を取り上げて主張をしているが、かかる附帯決議は政府に次のような配慮等を求めている。なお、これは昭和56年4月24日に採決された衆議院大蔵委員会における附帯決議である。 原告はかかる5つの附帯決議を踏まえたうえで、次のように主張する。 これに対して、名古屋地裁は、かかる主張を排斥している。 また、佐賀地裁平成26年9月19日(税資264号順号12531)は、次のように判示する。 これらの判断は、そもそも、対象となった事例が昭和56年附帯決議の内容に反するものではないという趣旨の判断ではなく、そもそも、「昭和56年附帯決議は、税務調査の方法等につき政府の注意を喚起する内容のものにすぎない」とするものであって、他の事例における納税者側の主張の排斥理由とは異なっている。 そもそも、昭和56年附帯決議は、上述のとおり、①脱税の調査に当たっては、法令の理解度、脱税の意思の程度等の相違に配慮し、納税者の立場をも十分に尊重して対処することや、②中小企業者等に無用の混乱を生ずることのないよう特段の配慮をすることといった内容によるものであって、国税通則法70条4項の解釈そのものに対する決議が展開されたわけではないことは明らかである。 ①及び②のいずれにしても、延長された更正・決定等の制限期間にかかる調査に当たっての執行上の留意事項であって、かかる執行場面において、いたずらに調査対象、範囲を拡大するなどすることのないようにすべきとの訓示的意義を有するにすぎないとみるべきであろう。 すなわち、国税通則法70条4項の解釈論において、昭和56年附帯決議が直接意味を有するとしてことさらに同決議を強調することは難しいといわざるを得ないのである。 行政執行上の留意事項が附帯決議されたという点においては、昭和45年の附帯決議が、国税不服審判所の運営につき争点主義の精神をいかし、その趣旨徹底に遺憾なきを期すべきであるとしたものと性質は類似であるといえよう(前回参照)。 (続く)