《速報解説》 東証より「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」が公表される ~「資本コストを意識した経営」や「取締役会の機能発揮」等に係る 好開示例と評価ポイントを紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年11月29日、東京証券取引所は、「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」を公表した。 これは、資本コストを意識した経営や取締役会の機能発揮等に係るコーポレートガバナンス・コードの各原則に関して、充実した取組が行われ、その内容が投資者に対し分かりやすく提供されていると考えられる開示例をまとめたものである。 なお、同日、金融庁から「記述情報の開示の好事例集」の更新(役員の報酬等)及び「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 表紙を含め、56ページに及ぶものであり、企業の具体的な記載も紹介されている。 以下では、東京証券取引所が好事例として評価したポイントを中心に解説する。 1 資本コストを意識した経営 【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】に関連する。 エーザイ、三和ホールディングスなどについて、次のような好事例として評価したポイントが記載されている。 2 取締役会の実効性の分析・評価 【補充原則4-11③】に関連する。 三井物産、アサヒグループホールディングスなどについて、次のような好事例として評価したポイントが記載されている。 3 取締役・監査役のトレーニング 【原則4-14.取締役・監査役のトレーニング】に関連する。 みずほフィナンシャルグループ、コニカミノルタについて、次のような好事例として評価したポイントが記載されている。 4 任意の指名・報酬委員会の活動状況 【補充原則4-10①】に関連する。 T&Dホールディングス、第一三共について、次のような好事例として評価したポイントが記載されている。 5 取締役会の実効性確保のための前提条件 【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】に関連する。 三菱ケミカルホールディングス、日立製作所などについて、次のような好事例として評価したポイントが記載されている。 6 政策保有株式の縮減 【原則1-4.政策保有株式】に関連する。 三菱UFJフィナンシャル・グループ、澁谷工業などについて、次のような好事例として評価したポイントが記載されている。 7 アセットオーナーの機能発揮 【原則2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】に関連する。 パナソニック、セブン&アイ・ホールディングスなどについて、次のような好事例として評価したポイントが記載されている。 (了)
《速報解説》 金融庁、記述情報の開示の好事例集に「役員の報酬等」の開示の好事例を追加 ~投資家が期待する政策保有株式に関する好開示のポイントも示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年11月29日、金融庁は、「記述情報の開示の好事例集」の更新(役員の報酬等)及び「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」を公表した。 2019年3月19日に、金融庁は、「記述情報の開示の好事例集」を公表しているが、今回、「役員の報酬等」の開示例を追加するものである。 また、政策保有株式の開示については、好事例集の公表に代えて、投資家が期待する好開示のポイントを例示として公表するものである。 なお、東京証券取引所において、コーポレート・ガバナンス報告書における記載の好事例を取りまとめた「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」も、同日に公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 「役員の報酬等」の開示例 好事例の企業として、アステラス製薬、三菱商事、三菱UFJフィナンシャル・グループなどが紹介されている。 例えば、アステラス製薬の「役員の報酬等」の開示に関して、好事例として着目したポイントについて、次のように記載している。 2 政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント 政策保有株式の開示については、投資家が好開示と考える開示と現状の開示の乖離が大きいとの意見が聞かれているとのことである。 今後、企業において当該好開示のポイントを参考に、政策保有株式に関してより良い開示に向けた検討が行われることを期待しているとのことである。 コムシード、三菱UFJフィナンシャル・グループ、小松製作所の事例が紹介されている。 好開示のポイントとして、次のことが記載されている。 【政策保有株式全体】 【個別銘柄】 (了)
2019年11月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.346を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第65回】 「東京地裁令和元年6月27日判決を考える」 税理士 山本 守之 1 法規定の内容 法人税法132条の「同族会社等の行為又は計算の否認」は次のように規定されています。 この規定は包括的否認規定として、組織再編成や、連結納税等にも適用されるものですが、この法132条の趣旨を裁判では次のように示しています。 (昭和55年9月29日福岡高裁) この場合に否認規定を適用すべきときとは次のような説明があります。 (平成9年4月25日東京地裁) 上記の東京地裁判決は、①少数株主等によって支配される同族会社等でなければ通常行われないものであり、②税が減少する場合には特段の事情がなければ、法132条を適用するというのです。 2 「不当に減少」の考え方 この法132条は、国税当局にとってはいきなり振りかざす「ダンビラ」と考えられていましたが、「不当に」の要件は少々異なります。 不当に法人税の負担を減少させる結果になると認められる場合に適用されるのですから、その行為計算を行った法人に脱税の意思があったか否かを問わないのです。 昭和22年の改正では税を不当に免れる場合に限って適用されていましたが、昭和25年以降は結果として税負担を不当に減少させる結果になると認められる場合に適用され、その行為や計算を行った法人や個人に脱税又は租税回避の意思があったか否かは問わないことになっています。 つまり、法人税を免れる意思によって行ったためにその行為や計算を否認するのではなく、すでに述べた同族会社等の性格からその行為や計算によって法人税の負担を不当に減少させると認められる場合が考えられますが、これを容認すれば租税の公平を実現することが不可能となるために置かれた規定と考えられます。 3 「伝家の宝刀」と税逃れ 2019年6月末に大手レコード会社ユニバーサルミュージック合同会社に対して、東京国税局は法人税法132条を適用して約181億円の申告漏れを指摘し、約58億円を追徴課税しました。これに対して、東京地裁は以上の更正処分を取り消しました(TAINSコード:Z888-2250)。 これまでの考え方では、法人税の負担を減少させる結果になるときは法132条により課税されていました。 しかし、今回の訴訟で東京地裁は、「グループ会社でなければなし得ないような取引を行ったとしても直ちに税負担の公平が害されることとはならない」とした上で、「法人税の負担が減少するという利益しかない場合に同規定が適用される」というのです。 ある意味では、少しでも事実上の理由があれば法132条は適用されないということであり、この考え方によれば、「伝家の宝刀」は限定された課税要件を満たさなければ適用されないというのです。 現に、東京地裁の清水知恵子裁判長は、ユニバーサル社の処理は「経済合理性があり、法人税の負担を不当に減少させたとは認められない」として処分を取り消しました。 地裁判決では東京国税局の「税逃れが目的である」という判断が否定されたのです。 高裁段階の判決がどうなるのか興味があります。 つまり、法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)は「法人税の負担を不当に減少させる結果となるとき」に適用されます。しかし、法人の経済的合理性があれば「不当」とは言えないので適用されないというわけです。 法132条についても「課税要件」があることを認識すべきです。 4 東京地裁の判決文における考え方 (1) 考え方 判決文では、 としています。 (2) 行為計算の解釈 本件組織再編取引は、ヴィヴェンディ・グループが全世界で買収を重ねた結果錯綜したグループ内の関連会社の関係を整理して事業を効率化するとともに税務上の利益を図るために実施されたものであり、次のようなオランダ法人の負債軽減(目的①)、日本法人の経営の合理化(目的②、③、⑥、⑦及び⑧)及び日本法人の財務の合理化(目的④及び⑤)という3つの柱を同時に達成するために行われたものです。 (3) 経済的合理性 本件8つの目的を本件組織再編取引等により達成したことは、ヴィヴェンディ・グループ全体にとってだけでなく原告にとっても経済的利益をもたらすものであったといえる一方、本件借入れは原告に不当な不利益をもたらすものとはいえませんから、これらが原告にとって経済的合理性を欠くものであったと認めることはできず、これに該当することを前提としてされた本件各更正処分等は違法となりますので、原告の請求はいずれも理由があり認容すべきものと判断します。 以上のように地裁の清水知恵子裁判長の判決は見事です(約58億円の課税処分の取消し)。 経済的合理性がある場合に法132条を適用できないという考え方は学ぶべきです。 (4) 課税要件 同族会社等の行為又は計算の否認については、「同族会社でなければ、そのような行為や計算をできない」という手法で納付税額を減額した場合に適用されるもので、公平のために行われる伝家の宝刀とされてきました。 しかし、法人の行った行為に経済的合理性があれば、法132条を安易に適用すべきではないというのが新しい解釈です。法132条の課税要件を正しく受け止めるべきです。 (5) まとめ 東京地裁の判決は、原処分庁の解釈は法人税法132条1項の明文に反すると指摘した上で、借入れは、専ら経済的、実質的見地から、純粋経済人として不自然、不合理なものとはいえず、経済的合理性を欠くとも認められないと判断しました。結局、法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるものに該当するということはできないことから、その主張に沿った各更正処分等はいずれも違法であると判示して、法人側の請求を認容しました。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第24回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -租税回避の法的評価- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 課税要件アプローチによる租税回避の包括的定義、すなわち、「課税要件の充足を避け納税義務の成立を阻止することによる、租税負担の適法だが不当な軽減または排除」(第21回Ⅲ1、【66】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号[以下同じ])という定義は、租税回避の概念を、「適法」及び「不当」という法的評価を要素(の一部)として構成するものである。 この定義は、租税回避を「課税要件の充足を避けることによる租税負担の不当な軽減又は排除」とする清永敬次教授の定義(同『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)42頁)をベースとするものである。ただ、清永教授の定義には「不当」という法的評価しか盛り込まれていないが、同教授がその定義の後「租税回避行為」の項目の最後の「なお書」(同・前掲書44頁。下線筆者)で次のとおり述べておられることからすると、清永教授も租税回避を「適法」と評価しておられると解することができる。 今回は、租税回避に対する「適法」という法的評価と「不当」という法的評価について、それぞれがどのような意味をもつか検討することにしたい。 なお、今回も、第21回と同じく、拙稿「租税回避の法的意義・評価とその否認」税法学577号(2017年)245頁をベースにして、その後の研究の成果も取り入れながら、租税回避の法的評価について検討することにする。 Ⅱ 租税回避の適法性 1 課税要件アプローチからの論理的帰結 課税要件は納税義務の成立要件であることからすると、租税回避は、課税要件の充足回避によって成立する以上、納税義務の不成立要件といってよかろう。その意味で、課税要件と租税回避とは、納税義務の成否に関する、「表裏一体」をなす法律要件である。勿論、それらはいずれも実定税法が定める法律要件ではなく、実定税法の基礎にある基礎理論上の法律要件である(第21回Ⅲ1参照)。 そうすると、課税要件に基づく課税が適法である以上、課税要件の充足回避によって成立する租税回避も適法であるといえるのである。このことは、課税要件アプローチからの論理的帰結であり、前回のⅢの最後で示した、課税要件法の解釈適用と租税回避の成否との関係図(【67】の最後の【図】)からも、明らかである。租税回避の適法性を理解する上でも重要な図であるから、以下にもう一度掲げておこう。 【図】 課税要件法の解釈適用と租税回避の成否 2 リベラルな租税回避観 前記の図の中で示した「可動限界」は、課税要件法の許される解釈適用の限界に関する解釈適用者(申告納税制度の下では納税者・税務官庁・裁判官)の立場により移動し得る、租税回避の「成否」の限界を意味する(前回Ⅲ参照)。 その「可動限界」を前記の図の中で最も右端に移動させるような「類推課税」を認める極端な立場は、かつての国庫主義的な経済的観察法や経済的実質主義(【42】、第6回Ⅱ2・Ⅲ2、第20回Ⅲ参照)の下でならともかく、今日ではみられない。ただ、租税回避が租税正義の要請である租税負担の公平の要請(ドイツ語でSteuergerechtigkeitは文脈により「租税正義」とも「租税負担の公平」とも訳し得る。第7回Ⅲ参照)に反することは否めない以上、租税回避の試みの態様如何によっては、解釈適用者(特に税務官庁や裁判官)の「気持ち」が、租税負担の公平の見地から、課税要件法の緩やかな「解釈適用」(拡張解釈、縮小解釈、類推等の、「目的論的価値判断」に基づく「解釈適用」。第7回以降検討した、税法の目的論的解釈の過形成及び税法上の目的論的事実認定の過形成も参照)によって、租税回避の試みを阻止しよう(失敗させよう)とする方向に動いたとしても、そのことの許容性は別として、そのこと自体は理解できないわけではない(【67】)。 しかしながら、租税負担の公平の実現は、第一次的には、租税立法者の任務である。租税平等主義の下では、立法者は課税要件を定めるに当たって「等しきものは等しく、等しからざるものは等しからざるように取り扱え」という形式的正義の要請に従わなければならない(【22】)。ただ、立法者といえども、あらゆる事態や可能性を想定して、この要請を実現することは、実際は不可能であるから、課税要件法に欠缺(法規の文言と趣旨・目的との不一致・ズレ)が生じるのもやむを得ないことではある(第2回Ⅲ1参照)。課税要件法の欠缺は「充足すべき課税要件(に基づく租税負担)の不存在」を意味するが、その欠缺を突こうとすることこそが租税回避の試み(前回Ⅲ参照)であり、それが成功すれば租税回避が成立するのである(この点については後のⅢ2で敷衍する)。 しかし、だからといって、課税要件法の欠缺という立法の不備や不完全さを補うために、租税法律主義(形式的租税法律主義)の内容を構成する合法性の原則(【37】、第1回Ⅲ1参照)や、それによって保護される納税者の権利利益、を犠牲にしてまで、課税要件法の緩やかな「解釈適用」によって、国家の利益(税収確保)や立法者の立場を、租税回避による侵害から、保護する必要はないと考えられる。合法性の原則の下では、やはり厳格な解釈適用が強く要請されるべきである(【41】)。 したがって、課税要件法の厳格な解釈適用の結果、成立する租税回避の範囲が、それに対応して広くなったとしても、解釈適用者はそのことを甘受しなければならない。殊に裁判官は、三権分立制の下では、むしろそうすることによって、立法者に立法の不備や不完全さを認知させるべきである。「租税負担の公平・租税正義の実現」という大義名分でもって、後述する租税回避の不当性に対する非難の矛先を納税者に向けるべきではない。 以上のような考え方は、租税回避の適法性を重視するリベラルな租税回避観に立脚するものである。今回の冒頭に掲げた租税回避の包括的定義が「適法」という法的評価をその要素としているのは、リベラルな租税回避観に基づくものである(【68】)。 リベラルな租税回避観は裁判所においても言及されることがある。いわゆる武富士事件・最判平成23年2月18日訟月59巻3号864頁において、法廷意見の次の判示(①。下線筆者)もそうであるが、須藤正彦裁判官の補足意見(②。下線筆者)は、リベラルな租税回避観の考え方をより一層明確に前面に押し出しているように思われる。 3 経済的自由主義の尊重と租税回避の適法性 ところで、リベラルな租税回避観は、租税債務関係説における課税要件の捉え方(第3回Ⅲ参照)に依拠するものである。 租税債務関係説によれば、課税要件は、租税権力関係説による場合とは異なり、私人と国家との間における租税債権債務関係の創設を税務官庁に授権することを前提にして定められた権限行使要件(内容的には租税命令要件)としてではなく、租税債権債務関係の創設を租税法律それ自体に係らしめること、すなわち、租税債務を法定債務として構成することを前提にして定められた租税債務の成立要件として、捉えられている(【54】【88】参照)。しかも内容的には、充足義務も充足回避の禁止も含まない、専ら租税請求のためだけの法律要件(租税請求要件)として、捉えられている。 課税要件を、充足義務や充足回避禁止を含む租税命令要件として、構成することも、立法論としては可能であろうが、しかし、そのような構成は、私有財産制に基礎を置く私人の自由な経済活動を前提として成立する租税国家における課税権行使のあり方(【2】【24】参照)としては、妥当ではない。このことは、租税国家の存立基盤としての経済的自由主義の尊重からの帰結である。 したがって、課税要件は、定立の前提に関する違い(法定債務か約定債務か)を別にすれば、私的自治の原則が支配する私法における典型契約と同じ性格及び構造(法的思考に関する包摂モデルないし要件・効果モデルに適合する裁判規範的な性格及び構造)をもつ法律要件であると考えられる(【54】参照)。 それゆえ、非典型契約が私法の領域で適法と評価されるのとパラレルに考えて、租税回避は、課税要件の充足回避を基本的要素とする以上、税法(課税要件法)の領域で「適法」と評価されるべきものである。 Ⅲ 租税回避の不当性 1 租税回避の不当性と租税負担の不公平 以上で述べてきたように、租税回避は「適法」と評価されるべきものである。しかしながら、税収の確保や租税負担の公平の実現というような、租税立法者が一般に配慮すべき見地からすれば、租税回避が好ましくないことは、確かである。租税負担の「不当な」軽減・排除という表現で、租税回避に対する「不当」という法的評価が、租税回避(Ⅰの冒頭に掲げた租税回避の包括的定義)の概念要素とされるのは、そのためである。 租税回避については、下記のような、何となく落ち着きあるいは据わりが悪い見方(①=増井良啓『租税法入門〔第2版〕』(有斐閣・2018年)51頁、②=宮崎裕子「一般的租税回避否認規定-実務家の視点から(国際的租税回避への法的対応における選択肢を納税者の視点から考える)」ジュリスト1496号(2016年)37頁、42頁)がされることがあるが、そのような見方には、租税回避に対する「不当」という法的評価が影響を与えているように思われる。 租税回避の不当性の意味を検討するに当たっては、行為態様アプローチが着眼する租税回避の「手段」の観点が、重要かつ有用である(第22回Ⅰ参照)。租税回避の「手段」(税法上の課税減免規定の濫用による租税回避については「間接的手段」)は、私法上の形成可能性ないし選択可能性であるが(第22回ⅡⅢ参照)、私人(納税者)がこれを行使して①「通常の」行為を形成・選択した場合と、②「異常な」行為を形成・選択した場合との間で、租税負担の較差が生じることは明らかである。というのも、①の場合には、課税要件が充足され納税義務が成立し、それに対応して租税負担が発生するのに対して、②の場合には、課税要件の充足が回避され納税義務の成立が一部又は全部阻止され、それに対応して租税負担が軽減又は排除されるからである。 とはいえ、上記の①の場合にも②の場合にも、私法上の形成可能性(選択可能性)の行使によって、基本的には同一の経済的成果が達成される。そうすると、①の場合と基本的には同一の経済的成果が達成されるにもかかわらず、租税負担の点では、②の場合の方が有利に取り扱われる、という結果が生ずることになる。この結果は、私法の観点からすれば、私的自治の原則・契約自由の原則の下で行為の形成可能性(選択可能性)を行使した結果であり、問題とされることはないのに対して、税法の観点からは、税収の減少及び租税負担の不公平を意味し、税収の確保及び租税負担の公平の実現の要請に反し「不当」と評価されるべきものである。関連して付言すると、その場合における私法上の形成可能性(選択可能性)の行使は、税法の観点からは、「濫用」と評価されるのである。 なお、租税回避が租税負担の不公平をもたらすことは、「常に」といってよいほど強調されるが、税収の減少をもたらすことは、国際的租税回避の場面を別にすれば、あまり強調されることがないように思われる。租税回避の不当性を論ずる際に税収確保の要請を前面に押し出することがあまりないように思われるのは、この要請が租税に関する議論について一般的に妥当し「当然の前提」とされているからかもしれないが、租税回避に対するかつての国庫主義的な経済的実質主義の立場(第20回Ⅲ参照)を彷彿とさせることを懸念してのことかもしれない。いずれにせよ、租税負担の公平と税収の確保とは「対概念」(コインの表裏)であることに留意すべきである(【18】参照)。 2 租税回避の不当性と租税利益の横領 租税回避の不当性の意味は、前述のとおり、税収の確保及び租税負担の公平の実現の要請に反することである。ただ、租税回避の類型のうち、とりわけ税法上の課税減免規定の濫用による租税回避については、その不当性に更に別の意味が付加されているように思われる。以下では、その意味を、租税回避が課税要件法の欠缺の利用によるものであるという観点から、明らかにしてみよう。 Ⅱの2では、課税要件法の欠缺を「充足すべき課税要件(に基づく租税負担)の不存在」の意味において租税回避の原因として問題にしたが、このことを租税回避の類型(第22回)に応じて敷衍すると、一方で、①私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避については、課税要件のうち納税義務の成立を根拠づける課税要件(積極的課税要件。課税要件と通常いわれるのはこれである)を定める規定である課税根拠規定の欠缺が、その原因となる。他方で、②税法上の課税減免規定の濫用による租税回避については、積極的課税要件の適用を排除し租税負担を軽減・排除する課税要件(消極的課税要件)を定める規定である課税減免規定に係る適用除外規定の欠缺が、その原因となる。 課税要件法の欠缺は「充足すべき課税要件(に基づく租税負担)の不存在」を意味するが、納税者はその欠缺を突くことによって「課税されない」という利益(租税利益)を享受することができる。ただ、その租税利益の意味は、租税回避の類型、したがって課税要件法の欠缺の類型によって、次のとおり異なる。 前記の①の場合には、納税者が私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用によって形成(選択)した「異常な」行為について立法者が課税根拠規定を定めていなかったがために「課税されない」という租税利益、換言すれば、立法者の不作為の「反射的利益」として納税者が享受するいわば消極的租税利益であるのに対して、②の場合には、立法者が課税減免規定を定めたがために「課税されない」という租税利益、換言すれば、立法者が一定の意図(趣旨・目的)に基づき租税負担減免立法によって納税者に与えたいわば積極的租税利益のうち、納税者が私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用によって当該課税減免規定の要件(消極的課税要件)を「文言上は」充足させるが、しかし、当該課税減免規定の「趣旨・目的には反して」享受するところの租税利益である。 ドイツでは、前記の②の場合の租税回避は、租税利益の横領(Erschleichung von Steuervorteilen)と呼ばれることがあるが、この言葉には、立法者が一定の意図に基づいて納税者に与えた租税利益をその意図に反して「不当に」領得する、というニュアンスが色濃く込められているように思われる。 税法上の課税減免規定の濫用による租税回避は、私法上の形成可能性(選択可能性)を「間接的手段」とするものであるが、その「直接的手段」は課税減免規定であることは既に述べた(第22回Ⅲ参照)。このことを前提にすると、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避には、「間接的手段」に関しては、既に1で述べたとおり、租税負担の不公平という意味での「不当」という法的評価が加えられ、「直接的手段」に関しては、租税利益の横領という意味での「不当」という法的評価が加えられるといってよかろう。 なお、課税減免規定に基づく積極的租税利益には、ⓐ担税力に応じた公平な課税の原則によって要請される経費控除等の、個々の税(法)の基本構造を構成する措置(構造的措置)に基づく租税利益だけでなく、ⓑ同原則には反するが経済政策・社会政策等の各種政策目的の見地から定められた特別な措置(租税優遇措置)に基づく租税利益も、含まれる。ⓐとⓑとの区別は絶対的なものではないが、租税利益の横領という意味での不当性の程度は、相対的には、ⓐについてよりもⓑについての方が高いといえよう。 Ⅳ おわりに 以上、今回は、租税回避の法的評価について、「適法」という法的評価と「不当」という法的評価とに分けて検討してきたが、この異なる法的評価は、順序は前後するものの、第20回以降の連載の主題「租税法律主義と租税回避との相克と調和」にいう「相克」(敵対性)と「調和」(同質性)との対比(第20回Ⅳ参照)に対応するものである。 「適法」という法的評価は、課税要件アプローチからの論理的帰結であり、リベラルな租税回避観に基づき経済的自由主義を尊重しようとするものである。このような「適法」という法的評価の点では、租税回避は、同じく自由主義原理に基づく租税法律主義と「調和」するといえよう。 これに対して、「不当」という法的評価は、税収の確保及び租税負担の公平の実現の要請に反することを意味するものである。租税法律主義の下ではこの要請に対して第一次的には立法者が応えるべきであり、立法者としては、租税回避の存在を認知したときには、可及的速やかにその否認のための措置を講じるべきである(租税回避の否認については第27回以下参照)。このような「不当」という法的評価の点では、租税回避は、税収の確保及び租税負担の公平の実現の要請を内包する租税法律主義(「含み公平観」については第2回参照)と「相克」するといえよう。 (了)
-お知らせ- 「〈令和2年分〉おさえておきたい年末調整のポイント」も現在連載中です。 〈令和元年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第3回】 (最終回) 「「令和2年分 扶養控除等(異動)申告書」受領時の注意点」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成30年度税制改正では、「働き方改革」を後押しする観点から、特定の収入にのみ適用される給与所得控除と公的年金等控除の控除額が引き下げられ、所得の種類に関わらず適用される基礎控除の控除額が引き上げられた。これらの改正は、令和2年分の所得税から適用される。 この改正に伴い、令和2年分の所得税から、源泉控除対象配偶者や控除対象配偶者等の所得金額要件に見直しが行われている。 連載第3回(最終回)は、改正事項が令和2年分の扶養控除等申告書に及ぼす影響と、扶養控除等申告書受領時の注意点について解説する。 なお、令和2年分の扶養控除等申告書の様式には、新たに「単身児童扶養者」欄が追加されている。その内容についても最後に触れることとする。 【1】 給与所得控除、公的年金等控除、基礎控除の改正の概要 給与所得控除、公的年金等控除、基礎控除の改正の概要は、次のとおりである。 (1) 給与所得控除の改正(所法28②③) (2) 公的年金等控除の改正(所法35④) (3) 基礎控除の改正(所法86①) なお、改正の詳細については、以下の拙稿等をご参照いただきたい。 【2】 扶養控除等申告書受領時の注意点①:配偶者や親族の所得金額 給与所得控除と公的年金等控除の控除額の引下げに伴い、控除対象配偶者や扶養親族等の所得金額要件に見直し(調整)が行われた。また、青色申告特別控除等の金額にも見直し(調整)が行われている。 扶養控除等申告書に記載される源泉控除対象配偶者、扶養親族、同一生計配偶者の合計所得金額を判定する際、注意が必要である。 (1) 合計所得金額要件の見直し(配偶者、親族) (※) 控除額判定の基礎となる配偶者の合計所得金額の区分も10万円ずつ引き上げられる。 令和元年分以前と令和2年分以後では、合計所得金額要件が10万円ずつ引き上げられている。これは、給与所得控除及び公的年金等控除の控除額が一律10万円引き下げられたことに伴う調整措置である。上表のとおり、給与又は公的年金等の収入ベースでみると、見直しの前後で変わりはない。 よって、配偶者や親族が給与所得者又は公的年金等の受給者である場合には、令和元年分以前と令和2年分以後において、源泉控除対象配偶者、控除対象配偶者、扶養親族、同一生計配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者の範囲は、実質的に変わらない。 (2) 青色申告特別控除等の見直し (※) 申告期限内に電子申告する等の要件を満たす場合には、控除額が65万円になる(措法25の2④)。10万円の青色申告特別控除は見直しされていない(措法25の2①)。 令和元年分以前と令和2年分以後では、各金額が10万円ずつ引き下げられている。これは、基礎控除の額が一律10万円引き上げられたことに伴う調整措置である。基礎控除との合計額でみると、見直しの前後で変わりはない。 例えば、配偶者が個人事業主(青色申告)である場合には、青色申告特別控除の控除額が65万円から55万円に引き下げられた結果、他の条件が同一であれば、配偶者の合計所得金額は令和元年分よりも令和2年分の方が10万円増加することとなる。しかし、(1)で確認したとおり、源泉控除対象配偶者等の合計所得金額要件が10万円ずつ引き上げられているため、個人事業主である配偶者が源泉控除対象配偶者等に該当するか否かの判定に影響はない。 以上のとおり、配偶者や親族が青色申告特別控除や家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例の適用を受けている場合も、令和元年分以前と令和2年分以後において、源泉控除対象配偶者、控除対象配偶者、扶養親族、同一生計配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者の範囲は、実質的に変わらない。 【3】 扶養控除等申告書受領時の注意点②:所得者本人の所得金額 所得者本人の合計所得金額が要件とされている制度についても、今回の改正は影響を及ぼす。 勤労学生控除の合計所得金額要件は、改正により65万円から75万円へ10万円引き上げられた。一方、源泉控除対象配偶者と寡婦(寡夫)控除に係る所得者本人の合計所得金額要件は見直しされていない。各所得金額要件を給与の収入金額でみると、次のとおりとなる。 〈合計所得金額要件の見直し(所得者本人)〉 (※) 令和2年分の所得税から所得金額調整控除が導入されることから、子育て・介護世帯の場合には給与収入1,110万円以下となる(措法41の3の3①)。 {給与収入1,110万円-給与所得控除195万円-所得金額調整控除(1,000万円-850万円)×10%} =給与所得900万円 〈参考〉 所得金額調整控除の詳細については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 【4】 扶養控除等申告書受領時の注意点③:「単身児童扶養者」欄の追加 地方税法の改正により、児童扶養手当の支給を受けているひとり親(単身児童扶養者)で、前年の合計所得金額が135万円以下である場合には、個人住民税が非課税となる措置が創設された(地法23①十二の二)。この改正は、令和3年度の住民税から適用される。 この改正に伴い、扶養控除等申告書を提出する者が単身児童扶養者に該当する場合には、「住民税に関する事項」に新しく設けられた「単身児童扶養者」欄に、必要事項を記入することとされた。 なお「単身児童扶養者」とは、次の①から③すべての要件を満たす者をいう(地法23①十二の二、地令7の3)。 〈令和2年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書〉(一部抜粋) なお、この改正は地方税に係るものであることから、所得税の源泉徴収及び年末調整には影響しない。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 (連載了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第40回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定⑧ (贈与をしている場合)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年1月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地の全てを相続により取得し、その後、相続時精算課税制度を用いて、その家屋と敷地の持分4分の1(相続税評価額2,100万円、時価額2,625万円)ずつを、本年2月に長男及び長女へ贈与しました。 その贈与後にA社から予期せぬ買い申込みがあり、家屋を取り壊して更地にし、本年11月に、同社に対し共有物件として合計額1億500万円(Xは5,250万円、長男及び長女は2,625万円)で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、父親が一人で暮らし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 「相続空き家の特例(措法35③)」を受けるXの持分2分の1に係る売買金額は5,250万円です。また、長男及び長女への贈与価額は相続税評価額で4,200万円であり、合計しても1億円以下です。 さらに、長男及び長女の持分はXの父親から相続したものではないことから、長男及び長女は1億円超に係る「居住用家屋取得相続人の範囲(措通35-21)」にも含まれません。 この場合、Xは、本特例の適用を受けることができるでしょうか。 A 被相続人居住用家屋及びその敷地等の贈与も「適用前譲渡」に該当し、その贈与の時における時価額を加算すると1億円を超えることから、「相続空き家の特例」の適用を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価の額が1億円以下であることが、その適用要件の1つとされています(措法35③)。 この1億円の判定に当たっては、「居住用家屋取得相続人」の「適用前譲渡」又は「適用後譲渡」が贈与(著しく低い価額の対価による譲渡として財務省令で定めるものを含む)によるものである場合には、その贈与の時における価額に相当する金額をもってその対価の額とする旨が規定されています(措令23⑩)。 そして、「贈与(著しく低い価額の対価による譲渡を含む)の時における価額」とは、その贈与の時又はその著しく低い価額の対価による譲渡の時における通常の取引価額をいうこととされています(措通35-24(被相続人の居住用財産の一部を贈与している場合))。 したがって、本事例の場合、「居住用家屋取得相続人」であるXから長男及び長女への4分の2に係る贈与時の時価額は5,250万円(=2,625万円×2)であることから、Xの譲渡価額5,250万円にその時価額を加算すると、「対象譲渡」及び「適用前譲渡」の合計額が1億円を超えて、譲渡価額要件を満たさず、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例80(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例(措法35③) 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に譲渡し、一定の要件に当てはまるときは、居住用財産を譲渡したものとみなして、3,000万円の特別控除の適用を受けることができる。 なお、平成31年度の税制改正により、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、被相続人居住用家屋等に該当するものとして、平成31年4月1日以後に行う譲渡から特例の適用が受けられることになった。 ◆相続財産を譲渡した場合の課税の特例(措法39) 相続により取得した土地、建物、株式などを、一定期間内に譲渡した場合には、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる。なお、上記「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」とは選択適用となっているため、既に「空き家の特例」の適用を受けていないことが要件となる。 ◆譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期(所基通36-12) 譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする。ただし、納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第44回】 「別表16(10) 資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、「別表16(10) 資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入に関する明細書」の記載の仕方を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、法人が資産に係る消費税等の経理処理につき税抜経理方式を適用している場合において、資産に係る控除対象外消費税額等について法人税法施行令第139条の4(資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入)の規定の適用を受ける場合に作成する。 すなわち、消費税等の会計処理について税抜処理方式を採用している場合においては、仮受消費税等の額と仮払消費税等の額との差額が納付又は還付の消費税額とされるが、その課税期間中の課税売上高が5億円超又は課税売上割合が95%未満であるときには、その課税期間の課税売上げに係る消費税額から控除する課税仕入れ等に係る消費税額は、仕入れ等に対する消費税額の全額ではなく、課税売上げに対応する部分の金額となる。この場合には、仕入税額控除ができない仮払消費税等の額、つまり「控除対象外消費税額等」が生じることになる。 この控除対象外消費税額等は、「資産」に係るものと「経費」に係るものとに区分したうえで、以下のように処理することになる。 Ⅲ 「別表16(10)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成31年(2019年)4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 〔当期に生じた資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入額等の明細〕欄 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第35回】 「ジョイント・テナンシーと贈与税(その2)」 -贈与の時期はいつだったのか- 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 日本居住の祖父が外国居住の孫に国外の不動産を贈与しようと考えています。孫が贈与税を申告納付することは承知していますが、贈与はいつあったものとして贈与税が課税されるのですか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷ジョイント・テナンシーとは 米国では財産を夫婦で所有する形態として「ジョイント・テナンシー」という方法を利用するケースが多い。「ジョイント・テナンシー」と日本で多く利用されている「共有」とを比較して大きく異なるのは、各人がジョイント・テナンツ(ジョイント・テナンシーの持分)を他のジョイント・テナンツ保有者の同意なく売却でき、ジョイント・テナンツの保有者が亡くなった場合は、自動的に他のジョイント・テナンツの保有者に持分が移転するという点にある。 前回の続きとなるが、日本に在住の夫婦が、米国の不動産をジョイント・テナンシーという方法で取得し、その後、その不動産を米国に居住している子供夫婦に贈与した場合の課税関係について検討する(一審:静岡地方裁判所平成17年(行ウ)第7号贈与税決定処分等取消請求事件(TAINSコード:Z257-10665)、控訴審:東京高等裁判所平成19年(行コ)第142号贈与税決定処分等取消請求控訴事件(TAINSコード:Z257-10797))。 ▷どのような事案だったのか 日本に住んでいる夫婦(A、B)が、夫Aの資金でカリフォルニア州にある不動産をジョイント・テナンシーの形態で取得し、速やかに日本に居住していない子(C)とその妻(D)に贈与したことについて、国税当局がBやC、Dに対して贈与税の決定処分を行った事件である。前回はBに対する贈与税の課税関係について検討したが、今回は、この事件のうちジョイント・テナンシーの形態で取得した米国不動産を子供夫婦(C、D)に贈与した場合の受贈者の贈与税の課税関係を検討する。 事案を時系列で並べると、次のようになる。 C、Dは、A、Bからの贈与の時期が平成12年3月31日以前であることから、贈与時点で贈与税の納税義務がないとして、贈与税の申告を行わなかった。このことについて、課税庁は平成12年4月1日以後の贈与であるとして決定処分を行い、これを不服としたC、Dが課税庁を訴えた事案である。 ▷本事案取引時点の税制における贈与税の納税義務者の範囲 平成12年3月31日以前の贈与税の納税義務者の範囲は、贈与時に受贈者の住所が日本にあるか否かで課税範囲が異なり、日本に住所がある場合は国内外の全財産について課税され、日本に住所を有する場合は国内財産のみが贈与税の課税対象だった。 しかし、この制度を利用した大型の節税事件が生じたことから税制改正が行われ、平成12年4月1日以後の贈与については、受贈者が日本国籍である場合は、贈与者と贈与者のいずれもが贈与時以前5年超日本に住所を有していない場合に限り、受贈者の納税義務の範囲が国内財産に限定された。 (※) 贈与税の納税義務者の範囲については、その後の税制改正により見直しが行われている。詳しくは国税庁タックスアンサー「No.4432 受贈者が外国に居住しているとき」を参照されたい。 この事案の場合、A、Bは不動産の贈与前5年以内に日本に住所を有していたが、C、Dは日本国籍ではあるものの、平成2年3月以降、日本に住所を有していない。 米国不動産は国外財産であることから、平成12年3月31日以前の贈与の場合は、C、Dに贈与税は課されないが、平成12年4月1日以後の贈与の場合は、C、Dに贈与税が課されることになる。 ▷課税庁の主張 贈与は平成12年4月28日から5月5日までの間に行われた。平成12年3月24日の贈与証書は、実際の贈与と内容に齟齬があることから、この時点で贈与契約が成立したとは認められない。 実際の贈与と内容が一致しているのは平成12年4月28日の譲渡証書であるから、この時点で贈与が成立し、不動産の所有権が移転したのは平成12年5月5日である。 よって贈与は平成12年4月1日以後に行われ、C、Dに贈与税の納税義務が生じている。 ▷納税者の主張 贈与については3月24日の国際電話で申し込み・承諾がなされている。このためC、Dは3月28日に住宅所有者保険を締結した。 不動産の所有権移転の時期は、納税者が、複数の時点の中から選択することを認められると考え、遅くとも3月29日の登記準備書面を作成した時点で、C、Dは贈与により取得している。これが認められないとしても、3月24日の贈与証書によって書面による停止条件付贈与が行われ、Cが受諾し、3月27日の譲渡証書の作成で条件が成就しているから、同日にはC、Dに不動産の所有権が移転している。 ▷裁判所(地裁)の判断は 贈与税の納税義務は、財産の取得時に生ずる(国通法15②五)。また通達では、書面による贈与は贈与契約の発生した時、書面によらないものは履行の時とされている(平成15年改正前の相基通1・1の2共-7(現 1の3・1の4共8)。 国外財産については、その地の法令で取得の時期を判定するが(法例10(現 法の適用に関する通則法13))、カリフォルニア州法では、不動産権は原則として要件を満たした当事者等の署名入り証書によって移転できることになっている。3月31日以前に作成された贈与証書等は、不動産権の移転のために有効な要件を満たしていない。要件を満たしているのは4月28日の譲渡証書であるから、4月28日から5月5日の間に、C、Dに所有権が移転している。 この贈与が書面によらないとした場合は贈与の履行の時であり、履行の時は移転登記手続きが行われた5月5日であるから、いずれにしても3月31日以前に贈与があったとは認められない。 また、3月24日の贈与証書によって停止条件付贈与が行われ3月27日に条件が成就して所有権が移転したならば、4月28日に譲渡証書を作成する必要がないのであるから、C、Dの主張は不合理であるとして採用できない。よって、C、Dの請求は棄却された。 その後、C、Dは控訴したが、高裁でも同様に、C、Dの主張は認められず、確定となった。税制改正が行われた場合、施行日前と施行日以後では納税額に大きな影響が出ることから、贈与を行う場合は、いつまでに何をしなければならないかを税理士も正確に理解すべきである。 (了)